JP4815486B2 - 運動補助装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エージェントに力を与えることによりこのエージェントの周期運動を補助する装置に関する。
下肢等の身体部分の機能が低下している人間等の動物に周期的に変化する力を与えることにより、この人間の歩行運動等の周期的な運動を補助する装置が提案されている(特許文献1および2参照)。
特許第4008464号公報 特許第4008465号公報
しかし、エージェントの運動態様に基づいて装置の動作態様を決定するための演算処理に際して複数のモデルが用いられる場合、当該演算処理時間に起因する時間遅れが生じてしまう可能性がある。その結果、エージェントの周期的な運動と、運動補助装置の周期的な動作との位相差が、エージェントの運動態様および装置の動作態様の調和の観点から不適当になる可能性がある。このような状況は特にエージェントの運動態様が急激に変化した場合に生じやすい。
その一方、当該複数のモデルのうち一部が省略された場合、演算処理負荷が軽減されるので前記のような時間遅れの影響は軽減または解消されうる。しかし、演算処理内容が簡易化された分だけ、エージェントの運動態様が、装置の動作態様との調和の観点から不適当に当該装置の動作態様に反映される可能性が高くなる。
そこで、本発明は、演算処理負荷の軽減を図りながら、人間等のエージェントの周期的な運動態様との調和を図りうる動作態様によって当該エージェントの運動を補助することができる装置を提供することを解決課題とする。
第1発明の運動補助装置は、エージェントに装着される装具と、前記装具に連結されているアクチュエータと、前記アクチュエータの出力の振幅および位相を制御する制御装置とを備え、前記装具を介して前記アクチュエータの出力が前記エージェントに伝達されることにより前記エージェントの周期運動を補助する装置であって、前記制御装置が、前記エージェントの運動に応じて周期的に変化する位相により定義される運動振動子を測定する運動状態測定要素と、前記エージェントの運動状態を表わす複数の状態変数の連立微分方程式により定義され、固有角速度に基づいて定まる前記連立微分方程式に含まれる時定数にしたがって変化する出力振動信号を入力振動信号に基づいて生成する一のモデルに、前記運動状態測定要素により測定された前記運動振動子を前記入力振動信号として入力することにより、前記出力振動信号として基礎振動子を生成する基礎振動子生成要素と、前記複数の基礎振動子に基づき、前記アクチュエータの制御基礎である補助振動子を生成する補助振動子生成要素とを備え、前記運動状態測定要素が前記エージェントの運動周期を測定し、前記基礎振動子生成要素が、前記運動状態測定要素により測定された前記エージェントの運動周期に基づき、前記モデルにおける前記固有角速度を流動的に設定することを特徴とする。
第1発明の運動補助装置によれば、アクチュエータの制御基礎としての基礎振動子を生成するための演算処理に一のモデルのみが用いられるので、当該一のモデルに加えて他のモデルが用いられる場合と比較して当該演算処理の負荷が軽減されうる。さらに、モデルからの出力振動信号である「基礎振動子」の角速度または位相の時間変化率に反映される固有角速度が、モデルへの入力振動信号である「運動振動子」により定義されるエージェントの運動周期に基づき、流動的に設定される。また、最新の固有角速度により定義されるモデルにしたがって基礎振動子が生成される。そして、基礎振動子に基づいて補助振動子が生成され、当該補助振動子に基づいてアクチュエータからエージェントに伝達される力の振幅および位相が制御される。この結果、エージェントの運動周期の長短に応じて、エージェントの運動態様および装置の動作態様の調和の観点から適当に装置の動作周期が調節されうる。このため、演算処理内容が簡易化されているにもかかわらず、エージェントの運動態様の変化に対して装置の動作態様が適当に追従して変化するように制御されうる。よって、演算処理負荷の軽減を図りながら、エージェントの周期的な運動態様との調和を図る観点から適当な動作態様により当該エージェントの運動が補助されうる。
第2発明の運動補助装置は、第1発明の運動補助装置において、前記基礎振動子生成要素が前記エージェントの運動周期を変数とする連続的または断続的な減少関数にしたがって、前記モデルにおける前記固有角速度を流動的に設定することを特徴とする。
第2発明の運動補助装置によれば、エージェントの運動周期の長短に応じて、エージェントの運動態様および装置の動作態様の調和の観点から適当に装置の動作周期が調節されうる。すなわち、エージェントの運動周期が短い状態(エージェントが比較的速いリズムで周期運動している状態)では比較的高い角速度で変化する出力によりエージェントの周期運動が補助される。また、エージェントの運動周期が長い状態(エージェントが比較的遅いリズムで運動している状態)では比較的低い角速度で変化する出力によりエージェントの周期運動が補助される。よって、演算処理負荷の軽減を図りながら、エージェントの周期的な運動態様との調和を図る観点から適当な動作態様により当該エージェントの運動が補助されうる。
第3発明の運動補助装置は、第2発明の運動補助装置において、前記エージェントの異なる2つの身体部分のそれぞれに装着される2つの前記装具のそれぞれを介して、2つの前記アクチュエータのそれぞれの出力が前記2つの身体部分のそれぞれに伝達されるように構成され、前記基礎振動子生成要素が、前記2つのアクチュエータの制御基礎となる2つの前記補助振動子のそれぞれの基礎として、一方の前記固有角速度に基づいて定まる時定数にしたがって変化する一方の基礎振動子と、他方の前記固有角速度に基づいて定まる時定数にしたがって変化する他方の基礎振動子とを生成するとともに、一方の前記固有角速度の変化に対して他方の前記固有角速度が同期してまたは追従して変化するように前記減少関数にしたがって前記2つの固有角速度を流動的に設定することを特徴とする。
第3発明の運動補助装置によれば、前記一のモデルにしたがって2つの固有角速度のそれぞれにより定まる角速度で振動する2つの基礎振動子が生成される。この際、一方の固有角速度が前記のように流動的に設定されることにより変化した場合、他方の固有角速度がこの変化に同期または追従して設定される。すなわち、一方の固有角速度が変更されたとき、これと同時にまたは当該追従特性に応じて定まる指定時間だけ遅れて他方の固有角速度が変更される。そして、当該2つの基礎振動子に基づいて2つのアクチュエータのそれぞれの出力の振幅および位相が制御され、当該出力がエージェントの異なる2つの身体部分のそれぞれに伝達されることによりエージェントの周期運動が補助される。この結果、エージェントの2つの身体部分のそれぞれの動きを補助するための装置の動作周期または角速度の過度な乖離が抑制されうる。このため、エージェントがその2つの異なる身体部分の動きの相関関係(位相関係等)を一定に維持するように運動する一方、装置がこの相関関係を崩すように動作する等、エージェントの運動態様および装置の動作態様の調和が崩れるような事態が回避されうる。よって、演算処理負荷の軽減を図りながら、エージェントの周期的な運動態様との調和を図る観点から適当な動作態様によって当該エージェントの運動が補助されうる。
第4発明の運動補助装置は、第3発明の運動補助装置において、前記エージェントの前記2つの身体部分としての左右対称な身体部分のそれぞれに、前記2つのアクチュエータのそれぞれの出力が伝達されるように構成されていることを特徴とする。
第4発明の運動補助装置によれば、エージェントの左右対称の身体部分のそれぞれの動きを補助するための装置の動作周期または角速度の乖離が抑制されうる。このため、エージェントがその左右の運動対称性を維持するように運動する一方、装置がこの対称性を崩すように動作する等、エージェントの運動態様および装置の動作態様の調和が短時間であっても過度に崩れるような事態が回避されうる。よって、演算処理負荷の軽減を図りながら、エージェントの周期的な運動態様との調和を図る観点から適当な動作態様により当該エージェントの運動が補助されうる。
第5発明の運動補助装置は、第1〜第4発明のうちいずれか1つの運動補助装置において、前記運動状態測定要素が、前記エージェントの運動振幅に基づいて定まる運動指標値を測定し、前記基礎振動子生成要素が、前記連立微分方程式に含まれる係数の値に応じて振幅が変化する出力振動信号を入力振動信号に基づいて生成する前記一のモデルに、前記運動状態測定要素により測定された前記運動振動子を前記入力振動信号として入力することにより、前記出力振動信号として前記基礎振動子を生成し、前記基礎振動子生成要素が、前記運動状態測定要素により測定された前記運動指標値がその目標値に近づくように前記係数の値を流動的に設定することを特徴とする。
第5発明の運動補助装置によれば、エージェントの運動振幅に基づいて定まる運動指標値をその目標値に近づける観点から、装置の動作スケールおよび動作リズムのうち一方または両方が適当に制御されうる。よって、演算処理負荷の軽減を図りながら、エージェントの周期的な運動態様との調和を図ることに加えて、エージェントの運動指標値をその目標値に維持する観点から適当な動作態様によって当該エージェントの運動が補助されうる。
本発明の運動補助装置の実施形態について図面を用いて説明する。以下、脚体等の左右を区別するために符号「L」および「R」を用いるが、左右を区別する必要がない場合や左右成分を有するベクトルを表現する場合には当該符号を省略する。また、脚体(具体的には大腿部)の屈曲運動(前方運動)および伸展運動(後方運動)を区別するために符号「+」および「−」を用いる。
図1に示されている運動補助装置10はエージェント(人間)Pの歩行運動を補助するための装置であり、エージェントPの腰部(第1身体部分)および大腿部(第2身体部分)のそれぞれに取り付けられる第1装具1100および第2装具1200を備えている。また、運動補助装置10は股関節角度センサ11と、アクチュエータ15と、制御装置100と、バッテリ1000とを備えている。
第1装具1100は第1リンク部材1110と、第1装着器具1120とを備えている。第1リンク部材1110は外側が硬質樹脂等の剛性素材により構成され、内側が繊維等の柔軟素材により構成され、エージェントPの腰部後側にあてがわれる。アクチュエータ15は第1リンク部材1110がエージェントPの腰部後側にあてがわれた状態で、この腰部横側付近に配置されるように第1リンク部材1110を構成する剛性部材に取り付けられている。第1装着器具1120はベルトのように腰部に巻きつけられることにより第1リンク部材1110をエージェントPの腰部後側に締め付けるための機構と、この締め付け力の強弱を調節するための機構とを有している。第2装具1200は第2リンク部材1210と、第2装着器具1220とを備えている。第2リンク部材1210は剛性素材により構成され、アクチュエータ15の出力軸に直接的または減速機構等を介して間接的に連結されている。第2装着器具1220は第2リンク部材1210に連結されており、ベルトのように大腿部に巻きつけられることにより第2装着器具1220を大腿部に締め付けるための機構と、この締め付け力を調節するための機構とを有している。なお、エージェントPの腰部および大腿部の相対運動を補助しうる範囲で、第1装具1100および第2装具1200の素材および形状、または、アクチュエータ15の位置等は任意に変更されうる。
股関節角度センサ11はエージェントPの腰部の横に配置されるロータリエンコーダにより構成され、股関節角度に応じた信号を出力する。アクチュエータ15は電動モータにより構成され、減速機およびコンプライアンス機構のうち一方または両方を適宜備えている。バッテリ1000は第1装具1100の適当な箇所に収納されており、アクチュエータ15および制御装置100等に対して電力を供給する。なお、制御装置100およびバッテリ1000のそれぞれは第2装具1200に取り付けられまたは収納されていてもよいし、運動補助装置10とは別個に設置されてもよい。
制御装置100は第1装具1100に収納されたコンピュータ(CPU,ROM,RAM等のメモリ、I/O回路およびA/D変換回路等により構成されている。)と、このコンピュータのメモリまたは記憶装置(HDDなど)に格納されているソフトウェアとにより構成されている。制御装置100はバッテリ1000からアクチュエータ15への供給電力を調節することによりアクチュエータ15の動作または出力トルクτを制御するように構成またはプログラムされている。図2に示されている制御装置100は、運動状態測定要素110と、基礎振動子生成要素140と、補助振動子生成要素150とを備えている。各要素はそれぞれ物理的に別個のハードウェア(CPUなど)により構成されていてもよく、一部または全部が物理的に共通のハードウェアにより構成されていてもよい。
運動状態測定要素110は股関節角度センサ11の出力に基づき、各股関節の角度を運動振動子φとして測定する。運動振動子φはエージェントPの周期運動に応じて周期的に変化し、その変化パターンは振幅および位相(または位相の1回時間微分である角速度)により定義される。振動子を測定するとは、この振動子の各時刻における振幅および位相を測定することを意味する。運動振動子φは、本出願人の前記特許文献1および2等の関連発明における「第2運動振動子」に相当する。運動状態測定要素110は適当なセンサの出力信号に基づき、エージェントPの運動周期Tを測定する。運動状態測定要素110は適当なセンサの出力信号に基づき、エージェントPの運動スケールおよび運動リズムのうち一方または両方に基づいて定まる運動指標値ζを測定する。
基礎振動子生成要素140は、運動状態測定要素110により測定された運動振動子φを入力振動信号としてモデルに入力することにより、出力振動信号として基礎振動子ξを生成する。振動子を生成するとは、この振動子の振幅および位相の時間変化態様を定義することを意味する。「モデル」はエージェントの運動状態を表わす複数の状態変数の連立微分方程式により定義され固有角速度ωに基づいて定まる角速度で変化する出力振動信号を入力振動信号に基づいて生成するモデルである。当該モデルは、本出願人の前記特許文献1および2等の関連発明における「第2モデル」に相当する。基礎振動子生成要素140は運動状態測定要素110により測定された運動周期Tに基づき、減少関数にしたがって固有角速度ωを流動的に設定する。基礎振動子生成要素140は運動状態測定要素110により測定された運動指標値ζに基づき、モデルを定義する連立微分方程式に含まれる係数または項の値を流動的に設定する。
補助振動子生成要素150は、基礎振動子生成要素140により生成された基礎振動子ξに基づき、運動補助装置10のアクチュエータ15により大腿部に与えられるトルクの変化パターン(または振幅、位相および角速度)を定める補助振動子ηを生成する。
前記構成の運動補助装置10によるエージェントPの歩行運動の補助方法について説明する。
まず、運動状態測定要素110が股関節角度センサ11の出力に基づき、エージェントPの左右各股関節の角度を運動振動子φ=(φL,φR)として測定する(図3/STEP002)。2次元ベクトルφの成分である左股関節角度φLおよび右股関節角度φRのそれぞれは、エージェントPの左右対称の2つの身体部分である左大腿部および右大腿部のそれぞれの腰部に対する周期的な動きに応じてほぼ逆位相で周期的に変化する運動振動子である。なお、運動振動子φとして、エージェントPの周期運動に応じて周期的に変化する任意の変数が適当なセンサを用いて測定されてもよい。たとえば、股関節、膝関節、足関節、肩関節、肘関節等の任意の関節の角度や角速度、大腿部、足平部、上腕部、手部、腰部の位置(エージェントPの重心を基準とした前後方向の位置または上下方向の位置など)、速度や加速度の変化パターンが運動振動子φとして測定されてもよい。さらに、左右の脚体の着床するときに生じる音、呼吸音、意図的な発音等、歩行運動リズムと連関したリズムで変動する種々のパラメータの変化パターンが運動振動子φとして測定されてもよい。また、大腿部のほか、下腿部、上腕部または前腕部等の周期的な動きに応じて変化する下腿部代表点位置、膝関節角度もしくは角速度、上腕部代表点位置、肩関節角度もしくは角速度、または、前腕部代表点位置、肘関節角度もしくは角速度等が、エージェントPの左右対称の身体部分の周期的な動きに応じて周期的に変化する2つの運動振動子として測定されてもよい。さらに、右大腿部および左上腕部、右大腿部および右上腕部、または、右上腕部および右前腕部等、左右対称ではない2つの身体部分の周期的な動きに応じて周期的に変化する2つの運動振動子として測定されてもよい。
また、運動状態測定要素110がエージェントPの運動周期Tを測定する(図3/STEP004)。具体的には、左右一方の股関節角度センサ11の出力信号の変化周期、または、左右両方の股関節角度センサ11のそれぞれの出力信号の変化周期の平均値により表わされるエージェントPの歩行周期が運動周期Tとして測定される。なお、各股関節角度センサ11の出力信号の変化周期が左右それぞれの大腿部の運動周期TLおよびTRとして測定される等、異なる身体部分、特に、運動振動子φの振幅、位相および角速度に直接的に反映される異なる身体部分のそれぞれの運動周期が別個に測定されてもよい。また、本出願人による関連出願発明にかかる特開2007−275282号公報または特開2007−275283号公報に開示されている手法にしたがって、エージェントPの着地を検知するセンサの出力信号に基づき、その着床周期が運動周期Tとして測定されてもよい。
さらに、運動状態測定要素110がエージェントPの運動指標値ζを測定する(図3/STEP006)。具体的には、エージェントPの歩行比が運動指標値ζとして測定される。歩行比はエージェントPの運動リズムを表わす歩行率(単位時間当たりの歩数)に対する、エージェントPの運動スケールを表わす歩幅の比であり、運動スケールおよび運動リズムの両方に基づいて定まる。なお、歩行比に代えて歩幅または歩行率が運動指標値ζとして測定されてもよい。歩行比、歩幅または歩行率は特開2007−275282号公報または特開2007−275283号公報に開示されている手法にしたがって測定されうる。
また、基礎振動子生成要素140が運動状態測定要素110により測定された運動振動子φを入力振動信号としてモデルに入力することにより、出力振動信号として基礎振動子ξ=(ξL+,ξL-,ξR+,ξR-)を生成する(図3/STEP012)。当該モデルは各脚体の屈曲方向(前方)への動きおよび伸展方向(後方)への動きを司る神経要素等、複数の第2要素の相関関係を表現するモデルであり、前記のように固有角速度ωに基づいて定まる角速度で変化する出力振動信号を入力振動信号に基づいて生成するモデルである。
このモデルはたとえば連立微分方程式(30)により定義される。
(数1)
1L+(duL+/dt)=
L+ζ0L+−uL++wL+/L-ξL-+wL+/R+ξR+−λLL++f1L)+f2L)KφL
1L-(duL-/dt)=
L-ζ0L-−uL-+wL-/L+ξL++wL-/R-ξR-−λLL-+f1L)+f2L)KφL
- τ1R+(duR+/dt)=
R+ζ0R+−uR++wR+/L+ξL++wR+/R-ξR+−λRR++f1R)+f2R)KφR
1R-(duR-/dt)=
R-ζ0R-−uR-+wR-/L-ξL-+wR-/R+ξR+−λRR-+f1R)+f2R)KφR
τ2i(dvi/dt)=−v2i+ξi (i=L+,L-,R+,R-),
ξi=H(ui−uth)=0(ui<uth)もしくはui(ui≧uth),または
ξi=fs(ui)=ui/(1+exp(−ui/D)) ‥(30)
この連立微分方程式(30)には各大腿部の屈曲方向(前方)および伸展方向(後方)のそれぞれへの挙動状態(振幅および位相により特定される。)を表現する状態変数uiと、各挙動状態の順応性を表現するための自己抑制因子viとが含まれている。また、連立微分方程式(30)には運動指標値ζの目標値ζ0に係る係数ciが含まれている。後述するように固有角速度ωは流動的に設定されうる。また、同じく後述するように第1時定数τ1i、第2時定数τ2i、運動変数ζiの目標値ζ0iに係る係数ciおよび相関係数wi/j等うち一部または全部の値が流動的に設定される。なお、前記のように測定対象となる運動振動子φの数が増やされてもよい。第2モデルに入力される運動振動子φが多くなるほど連立微分方程式における相関項は多くなるが、当該相関係数の調節によってエージェントPの身体の様々な部分の動作状態の相関関係に鑑みてエージェントPの周期運動が適切に補助されうる。
第1時定数「τ1i」は状態変数uiの変化特性を規定する時定数であり、ω依存性を有する係数t(ω)と、定数γ=(γL,γR)とを用いて関係式(31)により表現されるが、固有角速度ωに依存して変化する。
(数2)
τ1L+=τ1L-=(t(ωL)/ωL)−γL,τ1R+=τ1R-=(t(ωR)/ωR)−γR ‥(31)
第2時定数「τ2i」は自己抑制因子viの変化特性を規定する時定数である。「wi/j」はエージェントPの左右各脚体の屈曲方向および伸展方向への動きを表わす状態変数uiおよびujの相関関係を基礎振動子ξの各成分の相関関係(複数の第2要素の出力振動信号の相関関係)として表現するための負の第2相関係数である。「λL」および「λR」は慣れ係数である。「K」は運動振動子φに応じたフィードバック係数である。
第1の関数「f1」は正の係数cを用いて関係式(32)により定義される固有角速度ωの1次関数である。第2の関数「f2」は係数c0,c1およびc2を用いて関係式(33)により定義される固有角速度ωの2次関数である。
(数3)
1(ω)≡cω ‥(32)
2(ω)≡c0ω+c1ω+c2ω2 ‥(33)
基礎振動子ξiは、状態変数uiの値が閾値uth未満である場合は0、状態変数uiの値が閾値uth以上である場合はこのuiの値をとる。あるいは、基礎振動子ξiは、シグモイド関数fsによって定義されている(関係式(30)参照)。これにより、左大腿部の前側への挙動を表わす状態変数uL+が大きくなると基礎振動子ξの左/屈曲成分ξL+の振幅が左伸展側成分ξL-よりも大きくなる。また、右大腿部の前側への挙動を表わす状態変数uR+が大きくなると基礎振動子ξの右/屈曲成分ξR+の振幅が右伸展側成分ξR-の振幅よりも大きくなる。さらに、左大腿部の後側への挙動を表わす状態変数uL-が大きくなると基礎振動子ξの左伸展側成分ξL-の振幅が左/屈曲成分ξL+よりも大きくなる。また、右大腿部の後側への挙動を表わす状態変数uR-が大きくなると基礎振動子ξの右伸展側成分ξR-の振幅が右/屈曲成分ξR+の振幅よりも大きくなる。脚体(大腿部)の前方または後方への動きは、たとえば、股関節角速度の極性によって識別される。脚体(大腿部)の前方または後方への動きは、たとえば、股関節角速度の極性によって識別される。
基礎振動子ξの生成に際して基礎振動子生成要素140が運動状態測定要素110により測定されたエージェントPの運動周期Tに基づき、当該運動周期Tを変数とする減少関数にしたがって固有角速度ωを逐次または流動的に設定する(図3/STEP008)。減少関数は演算アルゴリズムまたはテーブルの形式で記憶装置に格納されており、当該記憶装置から適宜読み出されうる。減少関数の定義域は離散的であっても連続的であってもよい。たとえば、ある時刻または期間における運動周期Tに基づき、図4に実線で示されているような階段状のまたは断続的な減少関数ω0(T)、一点鎖線で示されているような2階微分値が負である連続的な減少関数ω1(T)、または、二点鎖線で示されているような2階微分値が正である連続的な減少関数ω2(T)にしたがって固有角速度ωが逐次設定される。さらに、運動周期Tにより定義される定義域の一部において減少関数である一方、定義域の他の部分において増加関数である関数等、さまざまな関数にしたがって固有角速度ωが設定されてもよい。
なお、異なる身体部分のそれぞれについて運動周期Tが測定された場合、運動周期Tごとに固有角速度ωが独立に設定されてもよい。たとえば、腰部に対する各大腿部の運動周期TLおよびTRが測定された場合、左側固有角速度ωLが左大腿部の運動周期TLに基づいて設定され、右側固有角速度ωRが右大腿部の運動周期TRに基づいて設定されてもよい。また、一方の固有角速度が変化した場合、対応する身体部分の運動周期Tによらず、この変化に同期してまたは追従して他方の固有角速度が変化するように流動的に設定されてもよい。
さらに、基礎振動子ξの生成に際して基礎振動子生成要素140が運動状態測定要素110により測定されたエージェントPの運動指標値ζがその目標値ζ0に近づくように、連立微分方程式(30)に含まれる係数または項の値を流動的に設定する(図3/STEP010)。設定対象としては第1時定数τ1i(関係式(31)参照)、第2時定数τ2=τ2i、運動変数ζiの目標値ζ0iに係る係数ci、相関係数wi/j、第1の関数f1を定義する正の係数c(関係式(32)参照)ならびに第2の関数f2を定義する係数c0〜c2(関係式(33)参照)のうち一部または全部の値が流動的に設定される。なお、エージェントPの運動指標値ζがその目標値ζ0に近づくように減少関数(図4参照)が変更または切り替えられ、これによって固有角速度ωへの依存性を有する第1時定数τ1i、第1の関数f1および第2の関数f2のうち一部または全部の値が流動的に設定されてもよい(関係式(31)〜(33)参照)。
基礎振動子ξの生成後、補助振動子生成要素150が当該基礎振動子ξに基づき、たとえば関係式(40)にしたがって補助振動子η=(ηL,ηR)を設定する(図3/STEP014)。すなわち、補助振動子ηの左成分ηLは、基礎振動子ξの左/屈曲成分ξL+および係数χL+の積と、左側伸展成分ξL-および係数−χL-の積との和として算定される。補助振動子ηの右成分ηRは、基礎振動子ξの右/屈曲成分ξR+および係数χR+の積と、右側伸展成分ξR-および係数−χR-の積との和として算定される。なお、補助振動子ηは前記特許文献1および2に開示されているように仮想的な弾性要素による弾性力、または、当該弾性力に加えて仮想的な減衰要素による減衰力のうち一方または両方を表わすように生成されてもよい。
(数4)
ηL=χL+ξL+−χL-ξL-,ηR=χR+ξR+−χR-ξR- ‥(40)
そして、制御装置100により補助振動子ηに基づいてバッテリ1000から左右のアクチュエータ15にそれぞれ供給される電流I=(IL,IR)が調節される。電流Iは補助振動子ηに基づき、たとえばI(t)=G1・η(t)(G1:比例係数)と表現される。これにより、第1装具1100および第2装具1200を介して運動補助装置10からエージェントPに与えられる、腰部(第1身体部分)に対して各大腿部(第2身体部分)を動かす力または股関節回りのトルクτ=(τL,τR)が調節される(図3/STEP016)。トルクτは電流Iに基づき、たとえばτ(t)=G2・I(t)(G2:比例係数)と表現される。以降、前述の一連の処理が繰り返し実行される。これにより第1装具1100に対して第2装具1200が動かされ、腰部(第1身体部分)に対する大腿部(第2身体部分)の周期的な動きが補助される。なお、エージェントPが歩行運動を開始した後、2〜3歩分の歩行運動を完了するまでの期間において、大腿部が腰部に対して適度に動かされるように運動補助装置10の動作が前記制御方法とは無関係に制御されてもよい。エージェントPの歩行運動はトレッドミルの上で実施されてもよい。
前記機能を発揮する運動補助装置10によれば、アクチュエータ15の動作の制御基礎としての基礎振動子ξを生成するための演算処理に一のモデルのみが用いられるので、当該一のモデルに加えて他のモデルが用いられる場合と比較して当該演算処理の負荷が軽減されうる(関係式(31)、図3/STEP012参照)。当該他のモデルとしては前記特許文献1または2等、本出願人の関連出願発明にかかる公報に開示されている「第1モデル」および「仮想モデル」が挙げられる。第1モデルは、運動振動子φとの引き込み効果により関係式(30)により定義されるモデルへの入力振動信号としての第1振動子を生成するためのモデルである。仮想モデルは第1振動子を基礎として固有角速度ωを設定するためのモデルである。さらに、モデルからの出力振動信号である基礎振動子ξの角速度または位相の時間変化率に反映される固有角速度ωが、このモデルへの入力振動信号である運動振動子φにより定義されるエージェントPの運動周期Tに基づき、連続的または断続的な減少関数にしたがって流動的に設定される(図3/STEP008,図4参照)。そして、最新の固有角速度ωにより定義されるモデルにしたがって基礎振動子ξが生成され、この基礎振動子ξに基づいてアクチュエータ15からエージェントPに伝達されるトルクτの振幅および位相が制御される(図3/STEP012〜STEP016参照)。この結果、エージェントPの運動周期Tの長短に応じて、エージェントPの運動態様および装置10の動作態様の調和の観点から適当に装置10の動作周期が調節されうる。すなわち、エージェントPの運動周期Tが短い状態(エージェントPが比較的速いリズムで周期運動している状態)では比較的高い角速度で変化する出力によりエージェントPの周期運動が補助される。また、エージェントPの運動周期Tが長い状態(エージェントPが比較的遅いリズムで運動している状態)では比較的低い角速度で変化する出力によりエージェントの周期運動が補助される。このため、演算処理内容が簡易化されているにもかかわらず、エージェントPの運動態様の変化に対して装置10の動作態様が適当に追従して変化するように制御されうる。よって、演算処理負荷の軽減を図りながら、エージェントPの周期的な運動態様との調和を図る観点から適当な動作態様により当該エージェントPの運動が補助されうる。
さらに、エージェントPの運動スケールおよび運動リズムに基づいて定まる運動指標値ζをその目標値ζ0に近づける観点から、装置10の動作スケール(または動作振幅)および動作リズム(動作角速度、または、動作角速度および位相)が適当に制御されうる(関係式(30)〜(33)、図3/STEP006,STEP010参照)。
また、2つの固有角速度ωLおよびωRのそれぞれが別個の運動周期に基づいて独立に設定される場合、一方の固有角速度が前記のように流動的に設定されることにより変化した場合、他方の固有角速度がこの変化に同期または追従して設定されうる。すなわち、一方の固有角速度が変更されたとき、これと同時にまたは当該追従特性に応じて定まる指定時間だけ遅れて他方の固有角速度が変更される。たとえば、一方の固有角速度が一の値から他の値に変化したとき、これと同時にまたはほぼ同時に、他方の固有角速度が当該他の値に一致するまたは近づくように変化する。そして、2つの基礎振動子ξLおよびξRに基づいて2つのアクチュエータ15のそれぞれの出力またはトルクτの振幅、位相および角速度が制御され、このトルクτがエージェントPの異なる身体部分のそれぞれに伝達されることによりエージェントPの周期運動が補助される。この結果、エージェントPの2つの身体部分のそれぞれの動きを補助するための装置10の動作周期または角速度の過度な乖離が抑制されうる。このため、エージェントPがその左右の運動対称性を維持するように運動する一方、装置10がこの対称性を崩すように動作する等、エージェントPの運動態様および装置の動作態様の調和が短時間であっても過度に崩れるような事態が回避されうる。
なお、前記実施形態ではエージェントPとしての人間の運動が補助されているが、他の実施形態としてエージェントとしての猿、犬、馬、牛等、人間以外の動物の歩行運動等が補助されてもよい。
前記実施形態では左右対称な2つの身体部分、すなわち、左右の大腿部の動きが補助されることによりその歩行運動が補助されるように運動補助装置10が構成されているが(図1参照)、他の実施形態として右上腕部および左前腕部、右大腿部および右上腕部等、エージェントPの左右対称ではない複数の身体部分のそれぞれの動きが補助されるように運動補助装置10が構成されてもよい。また、左右一方の大腿部、左右一方の上腕部等、エージェントPの一の身体部分の動きのみが補助されるように運動補助装置10が構成されてもよい。エージェントPの腰部および大腿部の相対運動に加えて、大腿部および下腿部の相対運動が補助されてもよい。エージェントPのさまざまな身体部分に装着されうるように装具の形状、素材または個数等が変更されうる。
前記実施形態では運動指標値ζが測定され、測定された運動指標値ζがその目標値ζ0に一致するように、連立微分方程式(30)に含まれる係数等の値が設定されたが(図3/STEP006,STEP010参照)、他の実施形態として当該処理が省略されてもよい。当該他の実施形態において、実験結果に基づいて適当に設定または選択された減少関数(図4参照)にしたがって固有角速度ωが設定されることにより、固有角速度ωへの依存性を有する第1時定数τ1i等がエージェントPの歩行比等の運動指標値ζをその目標値ζ0に一致させる観点から適当に変更されうる。
本発明の一実施形態としての運動補助装置の構成説明図 運動補助装置の制御装置の構成説明図 運動補助装置の制御方法に関する説明図 固有角速度の設定方法に関する説明図
符号の説明
1‥運動補助装置、11‥股関節角度センサ、15‥アクチュエータ150‥制御装置、110‥運動状態測定要素、140‥基礎振動子生成要素、150‥補助振動子生成要素、1000‥バッテリ、1100‥第1装具、1200‥第2装具

Claims (5)

  1. エージェントに装着される装具と、前記装具に連結されているアクチュエータと、前記アクチュエータの出力の振幅および位相を制御する制御装置とを備え、前記装具を介して前記アクチュエータの出力が前記エージェントに伝達されることにより前記エージェントの周期運動を補助する装置であって、
    前記制御装置が、
    前記エージェントの運動に応じて周期的に変化する位相により定義される運動振動子を測定する運動状態測定要素と、
    前記エージェントの運動状態を表わす複数の状態変数の連立微分方程式により定義され、固有角速度に基づいて定まる前記連立微分方程式に含まれる時定数にしたがって変化する出力振動信号を入力振動信号に基づいて生成する一のモデルに、前記運動状態測定要素により測定された前記運動振動子を前記入力振動信号として入力することにより、前記出力振動信号として基礎振動子を生成する基礎振動子生成要素と
    前記複数の基礎振動子に基づき、前記アクチュエータの制御基礎である補助振動子を生成する補助振動子生成要素とを備え、
    前記運動状態測定要素が前記エージェントの運動周期を測定し、
    前記基礎振動子生成要素が、前記運動状態測定要素により測定された前記エージェントの運動周期に基づき、前記モデルにおける前記固有角速度を流動的に設定することを特徴とする運動補助装置。
  2. 請求項1記載の運動補助装置において、
    前記基礎振動子生成要素が前記エージェントの運動周期を変数とする連続的または断続的な減少関数にしたがって、前記モデルにおける前記固有角速度を流動的に設定することを特徴とする運動補助装置。
  3. 請求項記載の運動補助装置において、
    前記エージェントの異なる2つの身体部分のそれぞれに装着される2つの前記装具のそれぞれを介して、2つの前記アクチュエータのそれぞれの出力が前記2つの身体部分のそれぞれに伝達されるように構成され、
    前記基礎振動子生成要素が、前記2つのアクチュエータの制御基礎となる2つの前記補助振動子のそれぞれの基礎として、一方の前記固有角速度に基づいて定まる時定数にしたがって変化する一方の基礎振動子と、他方の前記固有角速度に基づいて定まる時定数にしたがって変化する他方の基礎振動子とを生成するとともに、一方の前記固有角速度の変化に対して他方の前記固有角速度が同期してまたは追従して変化するように前記減少関数にしたがって前記2つの固有角速度を流動的に設定することを特徴とする運動補助装置。
  4. 請求項3記載の運動補助装置において、
    前記エージェントの前記2つの身体部分としての左右対称な身体部分のそれぞれに前記2つのアクチュエータのそれぞれの出力が伝達されるように構成されていることを特徴とする運動補助装置。
  5. 請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の運動補助装置において、
    前記運動状態測定要素が、前記エージェントの運動振幅に基づいて定まる運動指標値を測定し、
    前記基礎振動子生成要素が、前記連立微分方程式に含まれる係数の値に応じて振幅が変化する出力振動信号を入力振動信号に基づいて生成する前記一のモデルに、前記運動状態測定要素により測定された前記運動振動子を前記入力振動信号として入力することにより、前記出力振動信号として前記基礎振動子を生成し、
    前記基礎振動子生成要素が、前記運動状態測定要素により測定された前記運動指標値がその目標値に近づくように前記係数の値を流動的に設定することを特徴とする運動補助装置。
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