JP4806781B2 - 波長変換装置 - Google Patents

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Description

この発明は、非線形光学効果を利用して、入力光(被変換光)の波長とは異なる波長の出力光(変換光)を得ることができる装置に関する。特に、入力光から出力光へのエネルギー変換効率を常に安定して極大に保持できる波長変換装置の構成に関する。
非線形光学効果を利用した波長変換装置において、非線形光学効果が発現する非線形光学結晶中に被変換光を入力し、非線形光学効果によって発生する変換光を効率よく安定して出力させることが、重要な点である。
一例として、第2高調波発生(SHG: Second-Harmonic Generation)を利用する波長変換装置をとりあげて説明する。したがって、以後の説明において、入力光を基本波光、出力光を変換光あるいはSH光と呼ぶこともある。もちろん、波長変換を行なうために利用される非線形光学効果としては、SHGに限られず、差周波発生 (DFG: Differential Frequency Generation) あるいは和周波発生(SFG: Sum Frequency Generation)等、SHGと同様に2次の非線形光学効果を利用するものの他、3次以上の高次の非線形光学効果を利用するもの等がある。以下に説明するSHGを利用する波長変換装置において、変換光を効率よく発生させる原理的構成は、上述のDFGやSFGといった2次の非線形光学効果を用いる波長変換装置においてはもちろんのこと、これに限らず3次以上の非線形光学効果を利用する波長変換装置にも同様に利用できる。
上述のSHGを利用する波長変換装置では、非線形光学効果(ここではSHG)を発現させるLiNbO3(Lithium Niobate)やBBO(β-BaB2O4: Beta Barium Borate)等の結晶の結晶軸に対して位相整合条件を満たす角度で基本波光を入射させる必要がある。すなわち、上記波長変換装置では、非線形光学結晶の結晶軸に対する基本波光の伝播方向が、位相整合条件を満足する角度を形成することが必要である。非線形光学結晶の結晶軸に対して位相整合条件を満たす角度(位相整合角)で基本波光を入射させることを、以後簡単に、位相整合角を満たして入射させる、ということもある。位相整合角を満たして入射させることができれば、SHG効率、すなわち波長変換効率を極大とすることができる。
非線形光学結晶に位相整合角を満たして入射させるためには、基本波光を発生させる光源(レーザ光源)と非線形光学結晶との間に、反射鏡やプリズム、あるいはレンズ等を適宜組み合わせて配置して構成される光路調整部を設け、この光路調整部で基本波光の伝播方向を調整する。以後、基本波光を発生させる光源はレーザ光源であるとし、非線形光学結晶、反射鏡やプリズム、あるいはレンズ等を含めて、これらの配置形態を、波長変換装置の光学系ということとする。
位相整合条件は、非線形光学結晶が有する基本波光に対する屈折率楕円体の形状によって規定され、この屈折率楕円体の形状は非線形光学結晶の温度に依存する。波長変換装置の動作中に非線形光学結晶の温度は、周囲温度等の変化の影響を受け常に変動する。したがって、波長変換装置のSHG変換効率を常に極大に保つためには、基本波光の非線形光学結晶の結晶軸に対する入射角度を常に調整する必要がある。
また、波長変換装置の製造工程における、その光学系を最適に調整して完成させる作業においても、波長変換効率を極大とするために、光学系を構成する反射鏡等の配置や向き等を調整して、基本波光の光路(基本波光の伝播方向)の調整を行なう必要がある。その上、波長変換装置は、その波長変換効率を極大化されて調整されて完成された後も、その波長変換装置を稼動しその運転を終了し、そして後に再び稼動する際には、その波長変換装置の波長変換効率が極大化されたままの状態が再現されるわけではない。すなわち、組立工程においてはもちろんのこと、運転再開をする都度に波長変換装置の光学系を波長変換効率が極大となるように調整しなければならないほか、運転中においても常に光学系を調整する必要がある。
上述の光路調整部において、基本波光の光路(光軸)を調整するためには、すなわち非線形光学結晶へ入力する基本波光の伝播方向を調整するためには、反射鏡等を装填した光学微動装置、例えばギンバル微動装置を用いて、反射鏡の反射面と基本波光のこの反射鏡面への入射角度を調整する。この微動調整装置は、反射鏡の反射面に入射する基本波光に対して、反射鏡の反射面を回転させたり、平行移動を行なわせたりすることができる。平行移動は直交するx-y方向の移動のための2軸の制御が必要で、また、回転はx軸及びy軸を中心とするそれぞれの回転を行なうための2軸の制御が必要である。すなわち、合計4軸の制御が必要である。
上述の作業は、一般的にアライメント作業、あるいは調芯作業と呼ばれている。また、上述の光路調整部は、複数枚の反射鏡、あるいは複数個のプリズム等を組み合わせて構成される。したがって、アライメント作業は、複数の光学微動装置に対して実行する必要がある。複数の光学微動装置を操作して、基本波光に対する最適な光路を決定する作業は、非常に難しく、経験を積んだ作業者の手作業に頼るのが一般的である。複数の光学微動装置を操作して基本波光の光路を調整することが高度に難しい技術であるのは、光学微動装置における複数箇所の調整行為が、それぞれ独立に基本波光の光路を決定するのではなく、相互に関連しており、それぞれ独立に光路の決定に寄与するわけではないからである。
上述のアライメント作業は、既に述べたように、波長変換装置を作製する段階のみならず、波長変換装置を利用する度に必要となる。これは波長変換装置が設置された場所の環境温度の変化等により、波長変換装置の光学系の微妙な位置関係等が変化することによる。この微妙な変化にともなって、基本波光の非線形光学結晶への入射角が変動し、位相整合条件からずれることにより波長変換効率が低下する。このため、常にアライメント作業が必要となる。もちろん、常に位相整合要件を満たす条件で波長変換装置を稼動させるためにも、上述と同じ理由(波長変換装置の周囲温度の変化等)によって、アライメント作業は必要である。
そこで、波長変換装置の製造時においては、光路調整部を効率的に調整するために、また、波長変換装置の稼動中あるいは再稼動時に最大の波長変換効率を実現するために、光路調整部を設けることによって、自動制御を実現できる波長変換装置の実現が望まれる。
上述した波長変換装置に限らず、レーザ光束の位置及び伝播方向を調整するために複数の調整箇所の調整を平行して実行する場合もある。光学系を調整するために複数箇所の調整を平行して実行しなければならない場合として、例えば、半導体製造に利用される露光装置(ステッパと呼称されることもある。)に組み込まれた光学系、あるいは、原稿読取装置に組み込まれたラインイメージセンサーを含む光学系等が知られている。
半導体製造に利用される露光装置に組み込まれた光学系を自動調整する方法あるいは装置については、半導体ウェーハ上に形成されたアライメントマークに光を照射して、アライメントマークからの反射光を光電変換して得られる信号に基づいて、アライメントマークの位置を自動的に検出する方法及び装置が開示されている(例えば特許文献1および2参照)。
また、原稿読取装置に組み込まれたラインイメージセンサーを含む光学系については、結像レンズを用いて原稿の画像をラインイメージセンサーに結像させて画像を読み取る装置における焦点位置、原稿のサイドレジストレーション、スキューあるいは画像の倒れのアライメントを自動的に行う装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
いずれの発明においても、アライメントの自動化に当っては、ファジイ推論に基づく制御手法が取り入れられており、それによって簡便でかつ高精度のアライメントが実現されている。
特許第2517637号公報 特開平9-232232号公報 特許第3077303号公報
しかしながら、非線形光学結晶あるいはレーザ活性媒質となる光学結晶を構成要素に含む装置の光学系のファジイ推論に基づいて自動調整を実現できる装置は、いまだ実現していない。そこで、ファジイ推論に基づいて、光学系のアライメントを実施することによって、基本波光から変換光へのエネルギー変換効率を常に安定して極大に保持できる波長変換装置の実現が望まれている。
上述の目的を達成するため、この発明の波長変換装置は、レーザ光源と、非線形光学結晶と、光軸調整部と、光検出器と、調整値算出手段と、光軸調整部制御装置とを具える。レーザ光源は、非線形光学結晶に入射させる被変換光である基本波光を出力する。非線形光学結晶は、被変換光である基本波光を入射させることによって、基本波光の波長と異なる波長の変換光を発生させる。光軸調整部は、基本波光を非線形光学結晶に位相整合条件を満足する状態で入射させるために、基本波光の伝播方向及び基本波光の光束の位置を調整する。光検出器は、非線形光学結晶から出力される変換光の強度を検出する。調整値算出手段は、光検出器から出力される変換光の強度の値から、ファジイ推論により光軸調整部に設けられる複数の調整箇所にそれぞれ対応する調整値を算出する。光軸調整部制御装置は、調整値算出手段で算出した調整値に基づいて光軸調整部に設けられた複数の調整箇所を制御する。
この発明の波長変換装置によれば、上述のように、非線形光学結晶からの変換光の強度 という一つの情報に対して、調整値算出手段は光軸調整部が実行する複数の調整箇所にそ れぞれ対応する調整値を算出することで、変換効率の極大化を安定して実現できる構成で ある。すなわち、波長変換装置の出力部において、一箇所のみで変換光の強度を検出する ことで、複数の調整箇所にそれぞれ対応する調整値、すなわち複数の調整値を計算する。 このことは調整値算出手段を中心に据えて見た場合に、光検出器が検出した変換光の強度 という一つの入力値に対して、複数の調整箇所にそれぞれ対応する複数の調整値を出力す る、いわゆる一入力多出力系を構成していることになる。この結果、入力値を検出するた めの検出箇所を一箇所のみに設ければよい事になり、波長変換装置全体の構成を簡単にす ることができる。
また、この発明の波長変換装置によれば、その光学系の調整工程において、いわゆる原点復帰動作を必要としない。これは、詳細は後述するが、ファジイ推論に基づく制御方法を実現できる装置であることに起因する。その結果、光軸調整部制御装置からの制御信号どおりには、光軸調整部が何らかの原因(例えばバックラッシュ等)で、正しく調整されなくとも、再度光軸調整部に制御信号が送られることで、いずれは最適条件を満たすアライメントを完了できる。
また、非線形光学結晶内に結晶欠陥が発生しても、この欠陥部を避けて非線形光学効果が発現できるように、非線形光学結晶内の別の箇所に基本波光の光束を導くようにアライメントすることも可能となる。非線形光学結晶内には、基本波光の光電場によって結晶欠陥が発生することがあり、この欠陥が発生した箇所では所望の非線形光学効果を発生させることはできない。そのため、この結晶欠陥を避けて、非線形光学結晶内の別の場所で、非線形光学効果を発現させなければならない。
PID制御(Proportional, Integral and Derivative Control)によっては、上述のように臨機応変に非線形光学結晶内で非線形光学効果が発現する場所を変更することは一般的には困難である。しかし、ファジイ推論に基づくアライメントを実行すれば、非線形光学結晶内の同一箇所で非線形光学効果が再現される必要はなく、変換効率が極大となりさえすれば、非線形光学結晶内のいずれの場所でも非線形光学効果を実現できる。したがって、非線形光学結晶内に結晶欠陥が発生しても、波長変換を実現できるので、結果として波長変換装置を長寿命化することができる。
以下、図を参照して、この発明の実施の形態につき説明する。なお、各図は、この発明が理解できる程度に各構成部分の形状、大きさ及びそれらの位置関係を概略的に示してあるに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の材料及び条件等を用いることがあるが、これらの材料及び条件は好適例の一つに過ぎず、従って何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については同一の番号を付して示し、これらの機能等に関して、その重複する説明を省略することもある。以下の図において、光路(光軸)を太線で示し、電気信号の経路を細線で示してある。また、特に断らない限り、これら太線及び細線に付された番号は、それぞれ光路(光軸)を伝播する光束あるいは電気信号を意味する。
<波長変換装置の構成>
図1を参照して、SHGを利用したこの発明の波長変換装置の概略的構成を説明する。この波長変換装置は、波長λ1の基本波光をその半分の波長λ2(=λ1/2)に変換する装置である。波長がλ1の基本波光を発生させるレーザ光源10と、この基本波光を入射させて基本波光の波長λ1と異なる波長λ2の変換光を発生させる非線形光学結晶16と、この基本波光を非線形光学結晶16に位相整合条件を満足させて入射させるために基本波光の伝播方向及び基本波光の光束の位置を調整する光軸調整部30と、を具えている。
光軸調整部30は、第1反射鏡12及び第2反射鏡14を具えて構成され、第1反射鏡12には、モーターM1及びM2によって駆動される調整部を、第2反射鏡14には、モーターM3及びM4によって駆動される調整部をそれぞれ具えている。レーザ光源10から出力された基本波光11は、第1反射鏡12及び第2反射鏡14によって、非線形光学結晶16に入射する角度や、その位置を変えることができ、これによって位相整合条件を満足する角度で非線形光学結晶16に基本波光を入射させることができる。第1反射鏡12及び第2反射鏡14の反射面の向きの調整は、モーターM1乃至M4を駆動させることで実行できる。
位相整合条件が満たされる角度で非線形光学結晶16に入射するように調整された基本波光15は、非線形光学結晶16において、SHGによってSH光(変換光)を発生させる。SH光は、基本波光と同一の方向に非線形光学結晶16から出力光17として出力される。すなわち出力光17は、波長λ1の基本波光と波長λ2のSH光とが混ざった光束である。従って変換光である波長λ2のSH光のみを出力させる場合には、波長λ1の基本波光を遮断しかつ波長λ2のSH光のみを透過させる波長フィルタを用いて、波長λ2のSH光のみを選択して出力させる必要がある。図1では、このための波長フィルタを、光検出器22と半透鏡18との間に波長フィルタ20として設置してある。
非線形光学結晶16から出力される出力光17は、半透鏡18によってその一部が監視用に分割されて、この分割された光束は光電変換器である光検出器(例えばフォトダイオード)22で光電変換される。光検出器22に入射させる前に、波長フィルタ20によって、波長λ1の基本波光と波長λ2のSH光とが混ざった光束である出力光17をフィルタリングして、波長λ2のSH光のみを選択して光検出器22に入射させる構成とされている。この半透鏡18と波長フィルタ20とによって光分岐装置44を構成する。
上述の構成とすれば、非線形光学結晶16から出力される、変換光である波長λ2のSH光の強度を検出することができる。すなわち、光検出器22によって変換光である波長λ2のSH光の強度に比例する電気信号23が得られる。この電気信号23は、必要に応じて増幅器24で増幅して電気信号25として出力されて、調整値算出手段26に入力される構成とされている。電気信号23は、場合によっては非常に弱い信号であるので、後に説明するファジイ推論による光軸調整制御において、電気信号23に混入する雑音の強度が問題とされない程度に増幅することが必要となる。
調整値算出手段26においては、ファジイ推論により、光軸調整部30に設けられた複数の調整箇所である、第1反射鏡12及び第2反射鏡14の反射面の向きを調整するために必要となるモーターM1乃至M4の駆動量を計算して出力信号27として出力し、この出力信号27を光軸調整部制御装置28に入力させる。出力信号27は、図1に示すようにモーターM1乃至M4にそれぞれに対応する値(図1ではM1乃至M4と矢印の先端に表記してある4つの信号)に対応させて出力される。光軸調整部制御装置28は、出力信号27に基づいてモーターM1乃至M4に対してそれぞれ駆動信号を送る。図1中において、M1乃至M4と記された矢印は、それぞれ光軸調整部30のモーターM1乃至M4に送られる信号であることを示している。
図1を参照して説明した波長変換装置では、光軸調整部30を第1反射鏡12及び第2反射鏡14を具えて構成したが、この構成に限定されることはなく、例えば、光軸調整部30を、図2に示す構造の光軸調整部40として構成することも可能である。この図2に示す構成の光軸調整部40は、光軸調整部30を構成するために用いられる第1反射鏡12及び第2反射鏡14に代えて、4つのプリズム32、34、36及び38を直列に配列して構成される。4つのプリズム32、34、36及び38それぞれには、レーザ光源10から出力された基本波光11の伝播中心である光軸(図2中ではこの光軸を11と表記してある。)を中心としてそれぞれモーターM5乃至M8によって回転することができるように構成される。
このような構成とすれば、モーターM5乃至M8を適宜回転させることで、上述の光軸調整部30を構成する2枚の反射鏡12及び14によって、基本波光11の伝播方向を調整し得たのと同様に、光軸調整をすることができる。光軸調整部40が光軸調整部30と比較して有する利点は、次の点にある。光軸調整部40において、4つのプリズム32、34、36及び38は、基本波光の伝播中心である光軸11を中心として一回転以上回転させても、機能上支障が生じない。すなわち、回転角を0から2πの範囲に制限しても良いが、この範囲に限定しなくとも、2πから4πの範囲の回転によっても同一の効果が得られるので、何らかの原因で0から2πの範囲で設定できなくても、2πから4πの範囲でも同一の効果を得ることができる。このために、基本波光の光軸調整を行なう度に、4つのプリズム32、34、36及び38は、その回転角度の設定位置を0から2πの範囲に限定する必要がない。これは、光軸調整部を設計する際には大変便利な点である。
これに引き換え、光軸調整部30における第1反射鏡12及び第2反射鏡14の反射面の向きは、その範囲を限定しておく必要がある。第1反射鏡12及び第2反射鏡14の反射面を何回転でも可能である構造には、一般的に作製できないからである。
<波長変換装置の光軸調整機能>
図3を参照して、この発明の波長変換装置の光軸調整機能について、順を追って説明する。
(1) レーザ光源10から出力される基本波光は、光軸調整部30で非線形光学結晶16への入射角度及び入射位置が調整されることにより、入射光路(光軸)が調整される。光軸調整部30の光軸調整機能は、波長変換装置の動作をスタートする直前の第1及び第2反射鏡の設定位置からその調整がスタートすることで開始される。すなわち、光軸調整部30によって基本波光の光軸調整をスタートすることに先立って、予め、第1及び第2反射鏡の基準の設定位置に戻すことからスタートさせるのではない。
(2) 光軸調整部30によって位相整合条件を満足する条件で非線形光学結晶16に基本波光が入力されると、非線形光学結晶16中でSHGによって変換光であるSH光が発生する。従って非線形光学結晶16からは、基本波光とSH光とが出力される。
(3) 非線形光学結晶16からの出力光は、半透鏡18及び波長フィルタ20から構成される光分岐装置44によって、SH光の一部のみが分岐されて取り出されて、光検出器22に入力される。光検出器22によって分岐されて取り出されたSH光の強度に比例した電気信号に変換されて出力される。光検出器22から出力されるSH光の強度に比例した電気信号はその強度が一般には弱いので、増幅器24によって増幅されて、調整値算出手段26に入力される。
(4) 調整値算出手段26は、増幅器24によって増幅されて入力された電気信号に基づいて、ファジイ推論を利用してモーターM1乃至M4の回転量(調整値)をそれぞれについて算出する。ファジイ推論を利用してモーターM1乃至M4の回転量を算出する仕組みについては後述する。調整値算出手段26で算出されたモーターM1乃至M4の回転量は、モーターM1乃至M4を制御する光軸調整部制御装置28に送られて、M1乃至M4駆動手段により、モーターM1乃至M4が駆動される。上述のようにモーターM1乃至M4が駆動されることによって、第1及び第2反射鏡のそれぞれの反射面の向きが調整されて、基本波光の非線形光学結晶16への入射光路(光軸)が調整される。
(5) 上述の(4)で示したステップにおいて基本波光の非線形光学結晶16への入射光路(光軸)が調整された結果、光検出器22で検出されるSH波の強度が極大の大きさになるまで、上述の基本波光の非線形光学結晶16への入射光路(光軸)の調整が繰り返される。
図4は、光軸調整部30において基本波光の光軸を調整することで、変換光の強度が極大値に安定するように制御を行なった結果、その変換光の強度が時間的に変化する様子を定性的に描いたグラフである。横軸は時間、縦軸は変換光の強度をそれぞれ任意スケールで目盛ってある。
上述の(1)乃至(5)で説明したステップを実行した結果、波長変換装置の稼動開始時刻からt'後に変換光の強度が極大値に達し、その後変換光の強度変化として許容されるとして設定した許容範囲(図4中では矢印で挟んでPと表示した範囲)内で変動しているのであれば、波長変換装置に出力強度の安定化が図られたことになる。出力強度の安定化が図られ続けるように、上述の(1)乃至(5)で説明したステップを、この波長変換装置を駆動している間中、実行を続ければよいことになる。
次に、図5に示すフローチャートを参照して上述の(1)乃至(5)で説明したステップをより詳細に説明する。
ステップS-10:このステップは、制御開始ステップである。この波長変換装置の操作者あるいはパーソナルコンピュータ等からの指示によって、変換光の強度を極大値に安定化するための制御を開始する。
ステップS-12: このステップは、光検出器22からの出力を調整値算出手段26が取得するステップである。ただし、増幅器24を設けた場合には増幅器24からの出力を調整値算出手段26が取得するステップである。以後簡単のために、「光検出器22からの出力」と表記して、増幅器24を設けた場合には増幅器24からの出力を意味するものとする。このステップにおいて、基本波光の光軸の制御開始直後に光検出器22が取得した変換光の強度が測定される。
ステップS-14: このステップは、モーターM1乃至M4を順次駆動するステップである。モーターM1乃至M4のどのモーターから始めてもよいが、まずそのうちの一つを選定する。最初に選択されたモーター(ここではM1とする。)によって、第1反射鏡12の反射面の向きを変化させることにより、変換光の強度が極大になる位置に、モーターM1の回転を固定して、次のモーター(ここではM2とする。)によって同様に第1反射鏡12の反射面の向きを変化させることにより、変換光の強度が極大になる位置に、モーターM2の回転を固定する。同様に、第2反射鏡14の反射面向きをモーターM3及びM4によって変化させることによって、変換光の強度が極大となる位置に第2反射鏡14の反射面向きが固定されるように、モーターM3及びM4の回転を固定する。
上述のモーターM1乃至M4の回転による、第1及び第2反射鏡12及び14の反射面の向きを決定するためのモーターの回転量は、後述するファジイ推論に基づいて決定する。ここで用いるファジイ推論のアルゴリズムは、上述の第1及び第2反射鏡12及び14の反射面の向きを制御してモーターM1乃至M4の回転量を算出する場合であっても、図2を参照して説明した4つのプリズムを回転させることで、変換光の強度を極大値に設定する場合におけるその4つのプリズムそれぞれの回転量を算出する場合であっても、基本的に変わらない。すなわち、モーターM1乃至M4の回転量を与えるパラメータと4つのプリズムそれぞれの回転量を与えるパラメータの値に相違が生じるだけであり、アルゴリズムそのものは、いずれの場合に対しても同一のものを使うことができる。従って、図5に示すフローチャートに関する以後の説明においては、モーターM1乃至M4の回転量をパラメータとして説明する。
ステップS-16: このステップは、モーターM1乃至M4を少しだけ回転させる、試し駆動ステップである。このステップでは、モーターの回転方向を確定するために行なう。ステップS-18: このステップは、光検出器22によって、変換光の強度に比例する信号を取得するステップである。
上述のステップS-16及びS-18によって、ある方向にモーターを回転させることにより光検出器22に受光される変換光の強度が増加することが判明すれば、その回転方向は変換光の強度が極大になる方向であることを示している。逆に光検出器22に受光される変換光の強度が減少することが判明すれば、この回転方向は変換光の強度が極大になる方向とは逆の方向であることを示している。
ステップS-20: このステップは、光検出器22の出力信号の時間微分値、目標値(極大値)からのずれ量を計算するステップである。このステップでは、ファイジー推論において入力値として利用する出力信号の時間微分(差分)値を計算し、目標値(極大値)からのずれ量を計算する。光検出器22からの時刻t1における出力信号の値をs1とし、時刻t2における出力信号の大きさをs2とすれば、t1<t2であるとして、出力信号の時間差分値S'は、S'=(s2-s1)/(t2-t1)で与えられる。また目標値(極大値)をs0とした場合にΔS=(s1/s0)-1で与えられる目標値からのずれ量(目標値からのずれの割合)ΔSを計算する。S'及びΔSを用いてファジイ推論が行なわれる。
ステップS-22: このステップは、ファジイ推論によるモーターの駆動量(回転量)を計算するステップである。詳細は後述するが、このステップでは、上述のS'及びΔSの値を用いて、ファジイ推論を行い、モーターの駆動量(回転量)の絶対値Mが計算される。
ステップS-24: このステップは、モーターの駆動方向(回転方向)を求めるステップである。上述のステップS-20で求められたS'の値が負であれば、モーターの駆動方向(回転方向)を反転させる必要がある。一方、S'の値が正であれば、モーターの回転方向はそのままでよいことになる。このスッテップでは、上述したモーターの回転方向を次の手順で求める。すなわち、モーターの回転方向を決めるパラメータをαとする。αは値1または値-1を取るものとする。また、パラメータδを次のように定める。上述のステップS-20で求められたS'の値が負であれば、δ=-1とし、S'の値が正であれば、δ=1とする。そして、モーターのこの次の回転方向はα×δで与えられるものとする。すなわち、このα×δ値を次の新たなパラメータαの値と設定することで、モーターの次の回転方向を確定する。モーターの回転方向も含めて回転量を表示するとα×Mと表されることとなる。
ステップS-26: このステップは、モーターを駆動するステップであり、上述のα×Mだけモーターを回転させる。
ステップS-28: このステップは、上述のステップS-18と同様に、光検出器22によって、変換光の強度に比例する信号を取得するステップである。
ステップS-30: このステップでは、上述のステップS-28で取得された変換光の強度に比例する信号の値を基にして、これまでのステップで制御し調整したモーターの調整作業を終了して、次のモーターを制御するステップに進むか否かの判定を行なう。上述のステップS-28で取得された変換光の強度に比例する信号の値が、目標値(極大値)とみなせる大きさの範囲(図4において矢印で挟んでPと表記した値の範囲)内に収まれば、次のモーターの制御を行なうために、制御の対象となるモーターを切り替える。そして、次のステップであるステップS-32に進む。一方、ステップS-28で取得された変換光の強度に比例する信号の値が、目標値に達していないと判定されれば、ステップS-20に戻る。
ステップS-32: このステップは、光軸調整部30における調整作業を終了するか否かの判定を行なうステップである。モーターM1乃至M4に対する調整作業が全て終了していることが確かめられれば、次のステップS-34に進み、調整作業を終了させる。一方、終了させずにこのまま制御を続けるのであれば、上述のステップS-14に戻る。上述のモーターM1乃至M4に対する調整作業が全て終了していることが確かめられたとしても、経時変化に対応するために、この波長変換装置を駆動している間は、光軸調整部30における調整作業を終了させないという判断もあり得る。
ステップS-34: このステップは、光軸調整部30における調整作業を終了させるステップである。
<ファジイ推論>
図6(A1)乃至(A4)及び(B1)乃至(B4)と図7(A1)乃至(A3)及び(B1)乃至(B3)とを参照して、この光変換装置において実行されるファジイ推論で用いるメンバーシップ関数について説明する。以後、図6(A1)乃至(A4)及び(B1)乃至(B4)の全ての図を指す場合には単に図6と表記する。また、同じく図7(A1)乃至(A3)及び(B1)乃至(B3)の全ての図を指す場合にも単に図7と表記するものとする。
図6は、光検出器22が検出する出力信号の時間微分(差分)値S'に対するメンバーシップ関数を示した図である。図7は、光検出器22の出力信号値の目標出力値が最大出力値に近い場合の出力信号の値ΔSに対するメンバーシップ関数を示した図である。図6に示した (A1)乃至(A4)はファジイ推論の前件部を、(B1)乃至(B4)は、前件部(A1)乃至(A4)のそれぞれ対応する後件部を示す。また、図7においても同様に、(A1)乃至(A3)はファジイ推論の前件部を、(B1)乃至(B3)は、前件部(A1)乃至(A3)のそれぞれ対応する後件部を示している。
光軸調整部30において光軸調整が行なわれると、非線形光学結晶への基本波光の入射角度が変化するため、位相整合条件から遠ざかったり近づいたりする。そのために変換光の強度が時間的に変動する。上述したように、この強度の時間変化の様子は光検出器22によって観測される。光検出器22によって観測される強度の時間変化の様子は上述した、出力信号の時間差分値S'、すなわち、S'=(s2-s1)/(t2-t1)で表現される。
そこでファジイ推論の基礎とするメンバーシップ関数を以下のルール(以後「ファジイルール」ということもある。)に従うように定義する。
ルール11:S'が正の値をとりその値が大きいならば、モーターの回転量の絶対値は大きい。
ルール12:S'が正の値をとりその値が小さいならば、モーターの回転量の絶対値は小さい。
ルール13:S'が0の値をとるならば、モーターの回転量の絶対値は0である。
ルール14:S'が負の値をとるならば、モーターの回転量の絶対値は小さい。
図6を参照して上述のルールを視覚的に説明する。図6に示した(A1)乃至(A4)は、上述のファジイルールの、それぞれルール11乃至14の前件部を表している。図6(A1)乃至(A4)において、横軸はS'を示し、縦軸は合致度合い(0から1の値の範囲をとる。)を示している。一方、図6に示した(B1)乃至(B4)は、上述のファジイルールの、それぞれルール11乃至14の後件部を表している。横軸はモーターの駆動量(回転量)の絶対値Mを表し、縦軸は合致度合いを表している。
次に、光検出器22の出力信号値の目標出力値が、最大出力値に近い場合について、目標値(極大値)をs0とした場合の、ΔS=(s1/s0)-1で与えられるΔSに対するメンバーシップ関数について説明する。ここで、s1は、時刻t1における出力信号の値である。ΔSに対するメンバーシップ関数を利用する理由は、次の2点にある。
まず第1の点について説明する。非線形光学結晶16へ入射させる基本波光や、非線形光学結晶16から出射される変換光はガウシアンビームである。ガウシアンビームの性質上、ビームの中心近傍の強度の動径方向に対する微分値は小さい。そして、ビームの中心から十分に離れた場所での、強度の動径方向の微分値も小さい。すなわち、非線形光学結晶16への基本波光の入射角度が位相整合条件にほぼ一致している場合(アライメントがほぼ正確になされている場合)と、大きくずれている場合(アライメントが大きくずれている場合)とでは、どちらの場合も、光軸調整部30において行なわれる基本波光の光軸の調整の効果は、同程度の大きさとなりその効果は小さいものとなる。言い換えると、光軸調整部30において基本波光の光軸を調整するために変化させる反射鏡の反射面の向きの変化量、あるいはプリズムの回転角度の変化量のそれぞれの単位変化量当たりの、光検出器22で検出される変換光の強度変化の割合は同程度に小さい。
つまり、アライメントが大きくずれている場合は、モーターの回転角度の絶対値が大きくなるように設定すべきであるが、上述のルール11乃至14のみを用いてファジイ推論を行なうと、モーターの回転角度が小さく計算されてしまう。そこで、ΔSに対するメンバーシップ関数に対して新たなルールを設定することによって、モーターの回転角度の大きさを適正化することができる。ただし、この新たなルールを設定しなくとも、目的とする光学系の調整は行なえる。ただ、計算されるモーターの回転角度の値が小さいために、より最適状態に光学系が調整されるまでの時間が長く(制御のステップが多く)かかることになる。
次に第2の点について説明する。光検出器22において検出される変換光の強度に何らかの雑音が混入した場合に、上述の新たなルールを設定しておくことで、光軸調整機能が持つ雑音に対する耐性が高められる。光検出器22が検出した変換光の強度の値に雑音が混入すると、S'の値が特異的に大きな値となる。従って、仮にルール11乃至ルール14だけでこれ以外に新たなルールを設けなければ、モーターの回転角度の値が不適切に大きな値として算出されてしまった場合に、適切な制御ができなくなるという可能性がある。
そこで、以下に示す新たなルールを設定しておけば、変換光の強度の値に雑音が混入するという事態が発生しても、上述の可能性を排除することができる。
そこで、ファジイ推論の基礎とするΔSに関するメンバーシップ関数に対して、以下のファジイルール(新たなルール)に従うように定義する。
ルール21:目標値(極大値)s0よりも、光検出器が検出した強度信号が非常に小さい(ΔSの値が負の値でありその絶対値が大きい。)ならば、モーターの回転角度は大きい。
ルール22:目標値(極大値)s0に対して、光検出器が検出した強度信号がほぼ同程度(ΔSの値が負の値でありその絶対値が小さい。)ならば、モーターの回転角度は小さい。
ルール23:光検出器が検出した強度信号が、目標値(極大値)s0に達したかあるいは上回った(ΔSの値が0より大きい。)ならば、モーターの回転角度は0である。
図7を参照して上述の新たなルールを視覚的に説明する。図7に示した(A1)乃至(A3)は、上述のファジイルールの、それぞれルール21乃至23の前件部を表している。(A1)乃至(A3)において、横軸はΔSを示し、縦軸は合致度合い(0から1の値の範囲をとる。)を示している。一方、図7に示した(B1)乃至(B3)は、上述のファジイルールの、それぞれルール21乃至23の後件部を表している。横軸はモーターの駆動量(回転量)の絶対値Mを表し、縦軸は合致度合いを表している。
ファジイ推論によってモーターの駆動量(回転量)を計算する手法として、ここではmin-max合成重心法を利用する。光検出器によって、変換光の強度が検出されれば、その値に基づいてS'及びΔSが求められる。今仮にS'及びΔSの値として、S'1及びΔS1と求められたとして説明する。
図8は、ルール11乃至14に基づく統合化の工程の説明に供する図である。この図8において、ルール11乃至14に対応するメンバーシップ関数は、図6に示すメンバーシップ関数と同一のものを再録してある。
S'=S'1であるから、図8に示すルール11乃至14に対応するメンバーシップ関数の前件部を示す図において、S'を表す横軸のS'1に当る位置を縦の点線によって表示してある。この図からわかるように、上述のルール13及びルール14において、前件部の適合度が0であるから、後件部も0である。上述のルール11及びルール12においては、前件部の適合度が0ではないので、その適合度に対応させて後件部のメンバーシップ関数の頭切りを行なう。その結果、ルール11乃至14のファジイ推論が行なわれて、これらの結果として図8に統合化1として表されている後件部の論理和が求められる(統合化1)。なお、統合化1として表されている後件部の論理和を示す関数は、ルール11及びルール12の後件部の頭切りを行なったメンバーシップ関数を合成することによって求められる。
図9は、ルール21乃至23に基づく統合化の工程の説明に供する図である。この図において、ルール21乃至23に対応するメンバーシップ関数は、図7に示すメンバーシップ関数と同一のものを採録してある。
ΔS=ΔS1であるから、図9に示すルール21乃至23に対応するメンバーシップ関数の前件部を示す図において、ΔSを表す横軸のΔS1に当る位置を縦の点線によって表示してある。この図からわかるように、上述のルール21の適合度が0であるから、後件部も0である。上述のルール22及びルール23においては、前件部の適合度が0ではないので、その適合度に対応させて後件部のメンバーシップ関数の頭切りを行なう。その結果、ルール21乃至23のファジイ推論が行なわれて、これらの結果として図9に統合化2として表されている後件部の論理和が求められる(統合化2)。なお、統合化2として表されている後件部の論理和を示す関数は、上述の統合化1の場合と同様に、ルール21及びルール23の後件部の頭切りを行なったメンバーシップ関数を合成することによって求められる。
次に、ルール11乃至14(以後「第1ルール系列」ということもある。)に対してルール21乃至23(以後「第2ルール系列」ということもある。)をどれだけ重視するのか、あるいは第1及び第2系列を均等に重視するのか等の重み付けを加味した処理を行なう。上述の統合化1及び統合化2として得られた結果(図8及び図9にそれぞれ統合化1及び統合化2として表した、後件部の論理和として求められた合成メンバーシップ関数)を、それぞれr倍及び(1-r)倍することによって、それぞれの関数に対して重み付けを行い、図10(A)乃至(D)に示すように、両者を統合化する。
ここで、rは0から1の値の範囲の実数値をとる。例えば、r=1を選択するということは、第1ルール系列のみを取り入れ、第2ルール系列は無視することに対応する。また、r=0.5を選択するということは、第1ルール系列と第2ルール系列とを同等に扱うことを意味する。また、r=0を選択するということは、第2ルール系列のみを取り入れ、第1ルール系列は無視することに対応する。
図10(A)乃至(D)は、上述の図8及び図9にそれぞれ統合化1及び統合化2として表した、後件部の論理和として求められた合成メンバーシップ関数を、統合して統合化1及び統合化2のメンバーシップ関数の論理和として、統合化3を求める工程の説明に供する図である。図10(A)は、統合化1として求められた合成されたメンバーシップ関数の概略の形状であり、図10(B)は、統合化2として求められた合成されたメンバーシップ関数の概略の形状である。図10(C)は、統合化1として求められた合成されたメンバーシップ関数をr倍し、統合化2として求められた合成されたメンバーシップ関数を(1-r)倍して合成した統合化3としてのメンバーシップ関数の概略の形状である。図10(D)は、図10(C)で与えられたメンバーシップ関数の合成重心の値を求めその合成重心の値をモーターの駆動量(回転角度)として採用する手順を説明する図である。図10(D)において、横軸上にMと矢印で表示してある横軸の値は、図10(C)によって示されているメンバーシップ関数から求められた合成重心の位置であり、この位置がモーターの回転角度を示していることになる。
すなわち、上述したファジイ推論を行なうことによって、基本波光の光軸を調整するため反射鏡の反射面等の角度を変化させるために駆動するモーターの回転角度を求めることができることがわかる。
上述の説明では第1ルール系列であるルール11乃至14のそれぞれのルールあるいは、第2ルール系列であるルール21乃至23のそれぞれのルールについては均等に扱ったが、これらのルール間においても重視する度合いに軽重をつけることも可能である。この場合には、第1ルール系列であるルール11乃至14のそれぞれのルールあるいは、第2ルール系列であるルール21乃至23のそれぞれのルールに対応するメンバーシップ関数に、上述のrに相当するパラメータを掛算して、統合化を行なえばよい。
また、上述のファジイ推論においては、モーターの回転角度の値をmin-max合成重心法を用いて求めたが、この方法に限定されず、代数積-加算重心法等ファジイ推論の方法として知られた他の方法を採用することも可能である。いずれの方法を採用するかは、ファジイ推論制御の対象となる波長変換装置ごとに、経験等に基づき最も適した方法を採用すればよい。
次に、表1及び表2に、それぞれ上述のファジイ推論に用いた第1ルール系列及び第2ルール系列に対するパラメータを一覧にまとめる。表1及び表2に示されたパラメータから明らかなように、特段に複雑なファジイルールを定めてはいない。それにもかかわらず、上述のファジイ推論に基づく制御を実行すれば、波長変換装置の光学系のアライメントが、簡単に実現できることが確かめられた。
Figure 0004806781
Figure 0004806781
この表1及び表2の示す内容は、それぞれ図6及び図7に示したメンバーシップ関数が表しているものと数学的に同値の内容である。ここで、この表1及び表2に示したパラメータの示す意味は次のとおりである。LP:大きな正の値、SP:小さな正の値、ZE:0、NE:負の値、NS:負の小さな値、NL:絶対値が大きな負の値である。
以上説明したことから、この発明の波長変換装置の光学系の調整工程において、いわゆる原点復帰動作を必要としないことが分かる。これは、上述のファジイ推論の根拠として用いられる値が、光検出器の出力信号の時間差分値S'=(s2-s1)/(t2-t1)及び目標値(極大値)s0に対してΔS=(s1/s0)-1で与えられるΔSのみであるからである。すなわち、S'及びΔSの値を得るためには、何れに対してもいわゆる原点復帰動作を必要とせずに求められる値であるからである。この結果、繰り返し述べるが、光軸調整部制御装置からの制御信号どおりに光軸調整部が何らかの原因(例えばバックラッシュ等)で正しく調整されなくとも、再度光軸調整部に制御信号が送られることで、いずれは最適条件を満たすアライメントを完了できる。
また、この発明の波長変換装置の光学系の調整工程において、上述のように、光検出器によって測定される変換光の強度という一つの情報に対して、調整値算出手段は光軸調整部が実行する複数の調整箇所にそれぞれ対応する光軸調整値を算出することで、変換効率の極大化を安定して実現できる。すなわち、入力値を検出するための検出箇所を一箇所のみに設けた、簡単な構成の波長変換装置を実現できることが分かる。
また、上述のように、いわゆる原点復帰動作を必要とせずに求められるS'及びΔSの値を用いて光軸調整する構成であるので、仮に非線形光学結晶内に結晶欠陥が発生しても、この欠陥部を避けて非線形光学効果が発現できるように、非線形光学結晶内の別の箇所に基本波光の光束を導くようにアライメントすることも可能となる。すなわち、原点復帰動作によって、結晶欠陥が発生している箇所に入射光が入射するという初期条件を設定しなくて済む。
なお、ファジイ推論を利用しないで光軸制御を実現するとすれば、アライメント作業の中にエラー発生処理(ルーチン)や暴走防止処理(ルーチン)を設けることが必要となる。これらエラー発生処理や暴走防止処理を実行させるためのプログラム量は、上述のファジイ推論処理のための処理と同等かそれ以上を必要とする。そして、装置の機構設計上も、リミッタースイッチなどの暴走防止のための手段を用意する必要がある。暴走防止のための手段は、特にレーザ装置を構成する上では重要で、仮に暴走が発生すると、レーザ活性媒質である光学結晶の損傷等の重大な結果を招く。
上述の実施例において開示したファジイ推論プログラムは、非常に単純なアルゴリズムに従って作られている。単純なアルゴリズムを基にしているために、プログラムの性格上から、波長変換装置の暴走が発生しにくい構造となっている。すなわち、ファジイ推論を利用することで、プログラムを単純化することができ、ファジイ推論を使うからこそ、単純なアルゴリズムで複雑な作業を行なえることとなった。
さらに、S'とΔSとに対する二種類の判断を実行させる処理を行なうことが、上記暴走状態の発生を抑圧することに貢献している。S'あるいはΔSのいずれか一方だけの判断でアライメント作業を制御しようとすれば、制御信号に混入する雑音等を原因として、暴走状態が発現する危険が大きくなる。S'及びΔSの二種類の判断を行なっている場合には、暴走状態を発現させる要因が、S'とΔSとの両方に発生しなければ装置の暴走状態が発現しない。よって、S'とΔSとに対する二種類の判断を実行させる処理を行なうことで、暴走状態が発現する確率を格段に小さくできることになる。
また、図2に示すプリズムを用いて構成される光軸調整部を設けて波長変換装置を組み立てることによって、更に上述の暴走状態が発現する確率を小さくすることができる。プリズムは限定された領域でしか、光路(光軸)の調整を行なえない。この限定された領域を暴走状態が発生しない領域と一致するように設計すれば、たとえプログラムが暴走しても、制御システム全体としては決して暴走することがない。
以上説明したように、この発明の波長変換装置は、制御システム全体としてみた場合においても、暴走状態が起こりにくい構造となっていることが分かる。
また、上述の波長変換装置において、波長変換効率として存在し得る極大値が複数存在する場合でも、上述の実施例において開示したアルゴリズムでは、ただ1つの極大値しか探索しない。そこで、このような場合に対処するために、最初に回転させるモータの回転角度(駆動量)をランダムに設定する方法がある。つまり、初期値が異なると、異なる極大値が探し出される可能性が高くなる。このためには、図5に示したフローチャートにおいて、ステップS-16におけるモータの回転角度をランダムに設定するようにプログラムすればよい。
また、図5に示したフローチャートでは、テップS-14において順番にモータを切り替えることになっている。しかし、上述の理由で、複数の極大値が存在する場合には、ある特定の極大値に対してしか、対処することができない。そこで、駆動するモータの順番をランダムに替えることで、別の極大値にたどり着ける可能性がでてくる。つまり、上述のモータの回転角度をランダムに設定するのはその初期値を変えることで別の極大値を見つけようとするのに対して、駆動するモータの順番をランダムに替えることによって、別の極大値を見つけようとするものである。
モータの回転角度をランダムに設定し、あるいは、駆動するモータの順番をランダムに替えるといった場合、どの程度のランダム性が必要とされるのかは、波長変換装置ごとに個別にその最適値が存在する。
もちろん、複数極大値が存在する場合には、最初に見つけ出された極大値より次に見つけ出された極大値の方が、小さな値である場合も起こり得る。この場合には、再度ステップS-14のルーチンに戻るようにプログラムすればよい。また、上述のようなランダムな設定を行なった場合、ステップS-32における制御終了の判断が重要になってくる。この場合も、波長変換装置ごとに個別に妥当な判断基準を決定し、そのプログラムを作成することになる。
上述の実施例は、SHGに基づく波長変換装置に関する実施例である。ここで、ファジイ推論を用いて調整される項目は、基本波光を非線形光学結晶に入射させる入射角度の調整である。すなわち、この調整は、図1を参照して説明したように、光軸調整部において、基本波光の伝播方向を、位相整合条件が合致される方向に合致させるべくなされる調整である。上述したように、非線形光学結晶から出力される変換光(ここではSH光)の強度を検出してこの値から必要なパラメータ(ここではS'及びΔS)を求めて、このパラメータに対してファジイ推論を行なうことで、必要な光軸変更を生じるために必要なモーターの回転角度を計算できることが確かめられた。
実施例として取り上げた装置は、非線形光学結晶に入射させる被変換光は基本波光1種類であり、SHGによる波長変換を実現する装置である。しかし、この実施例に限らず、非線形光学結晶に入射させる光を1種類ではなく波長が異なる2種類以上を入射光として、これら波長の異なる複数の入射光の和周波光発生(SFG)或いは差周波光発生(DFG)といった非線形光学効果を利用して、波長変換を行なう波長変換装置も存在する。これらの複数の入射光を非線形光学結晶に入射させて、非線形光学効果を発現させるためには、やはりSHGの場合と同様に位相整合条件を満足する入射角度で非線形光学結晶に入射させる必要がある。
上述のSFG或いはDFGを利用する波長変換装置の場合には、非線形光学結晶に入射させる波長の異なる2種類の入射光(被変換光)のそれぞれに対して、ファジイ推論を利用する光軸調整を行なえばよい。この場合には、被変換光が1種類である実施例において説明した波長変換装置と比較して、その光軸調整に必要な調整箇所が2倍になる。すなわち、図1を参照して説明したように反射鏡を利用するにしても、図2を参照して説明したように複数個のプリズムを相互に回転させて調整するにしても、調整箇所は、被変換光が2種類と2倍になったことにより、その調整箇所も2倍になる。
しかしながら、非線形光学結晶に入射させる波長の異なる2種類の入射光(被変換光)のそれぞれに対して、同じようにこの発明の実施例に示した波長変換装置と同様の光軸調整を行なえばよいので、基本的にこの発明のファジイ推論に基づく光軸調整技術は、そのまま利用できることは明らかである。
また、レーザ光束をポンピング光源(励起光源)としたレーザ装置がある。例えば、Arイオンレーザから出力される光束(ポンピング光)を、Ti:サファイアレーザの活性媒質であるTi:サファイア結晶に入射させて、Ti:サファイアレーザの発振を実現する装置がある。もちろん、レーザ活性媒質としては、Ti:サファイア結晶に限らず、YAG結晶をレーザ活性媒質としたYAGレーザ等、多くの種類のレーザ装置が知られている。
上述のような、レーザ装置を作製したり、あるいは稼動させたりする場合は、ポンピング光としての入射強度に対して、発生するレーザ光の強度を極大にするためのレーザ装置の光学系に対するアライメントが必要となる。ここで行なわれるアライメントは、Ti:サファイア結晶やYAG結晶等のレーザ活性媒質を挟んで両側に凹面反射鏡を配置して構成される共振器光学系の、共振条件を満足させるための調整である。このアライメントでは、レーザ活性媒質を挟んで両側に配置される凹面反射鏡の傾きを調整することになる。すなわち、発生するレーザ光の強度を光検出器で検出して、この強度が極大となるように2枚の凹面反射鏡の傾きを調整することになる。
この2枚の凹面反射鏡の傾きの調整機構は、この発明の波長変換装置の光軸調整部を構成する2枚の反射鏡の反射面の傾きの調整機構と原理的に同一である。従って、上述のようなレーザ装置においても、この発明の波長変換装置における光軸調整と同様の方法で、ファジイ推論に基づく光軸調整機構を実現できることは明らかである。
以上説明したように、非線形光学結晶あるいはレーザ活性媒質となる光学結晶を構成要素に含む装置の光学系の自動調整を実現するために、ファジイ推論に基づく方法を適用することは、極めて有効であることが分かる。
この発明の波長変換装置の概略的構成図である。 光軸調整部の概略的構成図である。 この発明の波長変換装置の光軸調整機能の説明に供する概略的ブロック構成 図である。 変換光の強度変化の説明に供する図である。 ファジイ推論に基づく光軸調整ステップを示すフローチャートである。 S'に対するメンバーシップ関数を表す図である。 ΔSに対するメンバーシップ関数を表す図である。 ルール11乃至14に基づく統合化の工程の説明に供する図である。 ルール21乃至23に基づく統合化の工程の説明に供する図である。 統合化1及び統合化2のメンバーシップ関数の論理和として、統合化3を求める工程の説明に供する図である。
10:レーザ光源
12:第1反射鏡
14:第2反射鏡
16:非線形光学結晶
18:半透鏡
20:波長フィルタ
22:光検出器
24:増幅器
26:調整値算出手段
28:光軸調整部制御装置
30、40:光軸調整部
32、34、36、38:プリズム
44:光分岐装置

Claims (1)

  1. 基本波光を出力するレーザ光源と、
    該基本波光を入射させて該基本波光の波長と異なる波長の変換光を発生させる非線形光学結晶と、
    該基本波光を該非線形光学結晶に位相整合条件を満足させて入射させるために、該基本波光の伝播方向及び該基本波光の光束の位置を調整する光軸位置調整部と、
    前記変換光の強度を検出する光検出器と、
    該光検出器から出力される前記変換光の強度の値から、ファジイ推論により、前記光軸位置調整部に設けられる複数の調整箇所にそれぞれ対応する調整値を算出する調整値算出手段と、
    前記調整値算出手段で算出した該調整値に基づいて、前記光軸位置調整部に設けられる複数の調整箇所を制御する光軸位置調整部制御装置と
    を具えることを特徴とする波長変換装置。
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