JP4803696B2 - ヘモグロビンの測定方法及びヘモグロビン糖化率の測定方法 - Google Patents
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Description
本発明は、試料中のヘモグロビン(Hb)量を測定する方法に関する。
背景技術
血液中のHbは、肺から身体の各器官に酸素を運搬するという重要な役割を担っているため、例えば、白血病や貧血等の病気に関係している。このため、その量を測定することは、臨床分析の分野において非常に重要視されている。また、糖化されたHbは、生体血糖値の過去の履歴を反映し、糖尿病診断や治療等における指標となるため、その糖化率の測定も重要となっている。そして、この糖化率の測定には、Hb量の測定が不可欠である。
Hbの測定方法としては、吸光度による測定が考えられる。しかし、前記未変性Hbは、例えば、酸素と結合した状態や未結合の状態等、その態様によって吸収極大を示す波長が異なるため、単純に吸光度を測定しても、Hb量を正確に求めることは困難である。そこで、従来は、Hbを変性により安定化させ、その吸光度を測定する方法がとられている。このような方法としては、例えば、シアンメトヘモグロビン法(HiCN法)、アジドメトヘモグロビン法、ラウリルスルホン酸ナトリウム(SLS)法、アルカリヘマチン法等があげられ、この中でも、特に国際標準であるHiCN法が広く採用されている。このHiCN法は、血液にフェリシアン化カリウムおよびシアン化カリウムを含む試薬を添加することによって、Hbを安定なシアンメトヘモグロビンに変換し、所定の波長(540nm)における吸光度を測定することによってHb量を求める方法である。
発明の開示
しかしながら、前記HiCN法によると有害なシアン廃液が、前記アジドメトヘモグロビン法によるとアジ化ソーダ廃液がそれぞれ生じるため、環境面において問題があった。また、前記SLS法やアルカリヘマチン法は、タンパク質の変性剤であるSLSや強アルカリの試薬を試料に添加するため、前記試薬添加後の試料をそのまま他の項目の測定に用いると、前記試薬が、例えば、酵素等を用いる測定系に影響を与え、測定が困難になるという問題があった。このため、処理後の試料に対して、変性Hbの測定とその他の測定とを一連の操作で行うことは困難であった。
そこで、本発明の目的は、Hb量を環境上問題なく容易かつ正確に測定できるHb測定方法の提供である。
前記目的を達成するために、本発明のHbの測定方法は、試料中のヘモグロビンをテトラゾリウム化合物で変性させ、得られた変性ヘモグロビンに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定し、この光学的変化量から前記試料中のヘモグロビン量を算出する方法である。なお、本発明において、変性Hbとは、テトラゾリウム化合物により変性されたヘモグロビンをいう。
本発明の測定方法によれば、テトラゾリウム化合物で変性された変性Hbは安定であり、その態様により様々な吸収波長を有する未変性Hbとは異なり、吸収極大を示す波長が一定範囲になるため、容易にHb量を求めることができる。また、前述のようにシアン化合物や強アルカリ物質等を使用せず、環境面でも安全なため、有用な方法である。
本発明の測定方法において、前記光学的変化量としては、例えば、吸光度や反射率等があげられる。
前記テトラゾリウム化合物としては、特に制限されず、例えば、後述のものが使用できるが、特に好ましくは2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩(例えば、商品名WST−3、同仁化学研究所社製)である。
本発明の測定方法において、変性Hbの測定波長は、440〜700nmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜670nmの範囲であり、特に好ましくは540〜670nmの範囲である。
本発明の測定方法において、前記テトラゾリウム化合物の添加量は、特に制限されず、前記試料の種類等により適宜決定できる。具体的には、例えば、試料1μL当たり、前記テトラゾリウム化合物を、0.001〜100μmolの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.01〜10μmolの範囲、特に好ましくは、0.05〜5μmolの範囲である。
前記試料は、特に制限されないが、後述のように赤血球を含む試料が好ましく、例えば、全血があげられる。全血試料の場合、テトラゾリウム化合物の添加量は、前記試料1μL当たり、例えば、0.01〜30μmolの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05〜10μmolの範囲であり、特に好ましくは0.1〜5μmolの範囲である。なお、全血における血球濃度は、通常、約50重量%と推定される。
本発明の測定方法は、界面活性剤の存在下において、前記試料中のヘモグロビンをテトラゾリウム化合物で処理することが好ましい。このように、さらに界面活性剤が共存すれば、より一層Hbの変性が促進され、迅速にHb測定を行えるからである。
前記界面活性剤の添加量は、特に制限されず、例えば、前記テトラゾリウム化合物の添加量等によって適宜決定できる。具体的には、界面活性剤の添加量は、テトラゾリウム化合物1molに対し、例えば、0.01〜70molの範囲であり、好ましくは.0.05〜50molの範囲であり、より好ましくは0.1〜20molの範囲である。
本発明の測定方法において、前記試料は、特に制限されないが、全血、血漿、血清、血球等の血液試料等があげられる。好ましくは赤血球を含む試料であり、具体的には全血試料、血球試料等である。
つぎに、本発明のHb糖化率測定方法は、糖化Hbを含む試料について、前記本発明のHb測定方法によりHb量を測定し、他方、得られた前記変性Hbの糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(以下、「FAOD」という)とを反応させ、この酸化還元反応を測定することによりHbの糖化量を測定し、前記Hb量と前記糖化量とからHb糖化率を求める方法である。なお、Hb量とは、糖化されているHbおよび糖化されていないHbの双方を含む。
本発明のHb糖化率の測定方法は、前述と同様に有害廃液を生じることがなく環境面に優れるため、有用な方法である。また、前記テトラゾリウム化合物は、前記強アルカリ性試薬等とは異なり、前記酸化還元反応を用いた酵素法による糖化量測定に対して、酵素の失活等の影響を与えない。このため、テトラゾリウム化合物で処理した試料を用いて、前述のようなHb測定だけでなく、糖化量測定をも一連の操作で行うことができ、簡便である。このため、例えば、一つの測定装置を用いて、一つの反応系で本発明の測定を行うことができる。また、前記テトラゾリウム化合物を試料に添加すれば、Hbを変性できるだけでなく、さらに、前記試料中に存在する前記酸化還元反応に影響を与える還元物質の影響をも除去できるため、より高精度に糖化率を求めることができる。
本発明のHb糖化率の測定方法において、変性Hbの測定波長は、前述と同様に、440〜700nmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜670nmの範囲であり、特に好ましくは540〜670nmの範囲である。
本発明の測定方法において、前記酸化還元反応の測定は、それにより生じた発色物質の光学的変化量の測定であることが好ましい。なお、光学的変化量とは、前述と同様に、例えば、吸光度や反射率等をいう。
前述のような酵素法において、光学的変化量の測定を行う場合、通常、二波長測定が主流である。前記二波長測定では、例えば、測定する対象物(例えば、発色物質)の極大吸収を示す波長を主波長として前記対象物を測定し、さらに前記主波長と異なる波長を副波長とし、電気的ノイズ、試料の濁り、光量の変化等を校正する。したがって、副波長は、他の混在する物質が吸収を示さない波長に設定することが好ましい。前記主波長は、前記測定する対象物の吸収波長により適宜決定されるが、一般に約650nm〜800nmの範囲であり、この場合、副波長はそれよりも高い波長約800〜900nmの範囲に設定される。しかしながら、未変性のHbは、前述のように、酸素と結合している形態、非結合形態等、その形態によって様々な波長に吸収を示し不安定であるため、例えば、前述のような発色性基質等の吸光度により糖化量を測定する場合、副波長においてもHbによる吸収が見られ、正確に糖化量の測定を行うことが困難であった。しかしながら、テトラゾリウム化合物処理によって得られた変性Hbの測定波長は、前述に示す通りである。したがって、例えば、糖化量の測定における副波長を800nm〜900nmの範囲に設定しても、本発明によれば、前述のように形態に依存して不安定である未変性Hbの吸収による影響は見られない。このため、糖化量の測定を高精度で行うことができる。
前記発色物質の測定波長としては、例えば、500〜800nmの範囲であり、好ましくは540〜750nmの範囲である。
なお、前記Hb量を測定するための測定波長と、前記発色物質の測定波長を、後述のように同一の波長に設定してもよい。この場合は、測定波長を、例えば、500〜670nmの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは540〜670nmの範囲である。
本発明のHb糖化率の測定方法は、前記変性Hbの糖化部分とFAODとを反応させる前に、前記変性Hbをプロテアーゼ処理することが好ましい。前記FAODは、糖化タンパク質や糖化ペプチドよりも、糖化アミノ酸や、より短い糖化ペプチド断片に作用し易い。このため、予め前記変性Hbをプロテアーゼで分解すれば、前記FAODが糖化部分に作用し易くなり、測定精度を向上できるからである。
前述のように、本発明のHb測定方法を適用すれば、Hbを変性させた試料をそのまま、Hb糖化量の測定試料として使用できる。したがって、前記試料についてのHb量の測定およびHb糖化量の測定は、例えば、以下に示す順序で行うことができる。
第1の方法は、例えば、変性Hbに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定した後、前記変性Hbの糖化部分とFAODとを反応させる方法である。
この第1の方法においてプロテアーゼ処理を行う場合は、例えば、変性Hbに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定した後、前記変性Hbをプロテアーゼ処理し、前記変性Hb分解物の糖化部分とFAODとを反応させてもよい。また、変性Hbをプロテアーゼ処理してから、前記変性Hbに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定し、その後、前記変性Hb分解物の糖化部分とFAODとを反応させてもよい。
また、第2の方法は、例えば、変性Hbの糖化部分とFAODとを反応させた後、前記変性Hbに特異的な吸収波長における前記試料の光学的変化量の測定および前記酸化還元反応の測定を行う方法である。この方法の場合、例えば、変性Hbの測定波長と発色物質の測定波長とを、異なる波長に設定することによって、同時に両者の光学的変化量を測定することもできる。
この第2の方法においてプロテアーゼ処理を行う場合は、例えば、変性Hbの糖化部分とFAODとを反応させる前に、前記変性Hbをプロテアーゼ処理すればよい。
本発明のHb糖化率測定方法において、前記発色物質の光学的変化量は、前記変性Hbの糖化部分とFAODとを反応させることにより生成する過酸化水素量に対応することが好ましい。前記発色物質は、例えば、酸化酵素および酸化により発色する基質(以下、発色性基質という)を用い、前記過酸化水素と前記発色性基質とを、前記酸化酵素により反応させた場合の、発色した前記発色性基質であることが好ましい。
前記酸化酵素としては、特に制限されないが、PODが好ましい。前記発色性基質としては、特に制限されないが、高感度に検出可能であることから、例えば、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウム(例えば、商品名DA−64:和光純薬工業社製)が好ましい。
本発明のHb糖化率の測定方法において、前記試料は、特に制限されず、前述と同様のものがあげられる。
発明を実施するための最良の形態
本発明のHb測定方法において使用するテトラゾリウム化合物は、例えば、テトラゾール環の少なくとも2箇所に環構造置換基を有することが好ましく、より好ましくは、3箇所に環構造置換基を有する構造である。
前記テトラゾリウム化合物が、前述のように、前記テトラゾール環の少なくとも2箇所に環構造置換基を有する場合、前記置換基を、前記テトラゾール環の2位および3位に有することが好ましい。また、テトラゾリウム化合物が3箇所に環構造置換基を有する場合は、前記置換基を、前記テトラゾール環の2位、3位および5位に有することが好ましい。
また、前記テトラゾリウム化合物の少なくとも2つの環構造置換基の環構造がベンゼン環であることが好ましい。また、ベンゼン環以外の環構造置換基としては、例えば、環骨格にSまたはOを含み、かつ共鳴構造である置換基があげられ、例えば、チエニル基、チアゾイル基等である。
前記テトラゾリウム化合物は、テトラゾール環の少なくとも3箇所に環構造置換基を有し、前記環構造置換基のうち少なくとも2つの環構造置換基の環構造がベンゼン環であることが好ましい。
前記テトラゾリウム化合物の少なくとも1つの環構造置換基が官能基を有することが好ましく、前記官能基の数が多いことがより好ましい。
前記官能基としては、電子吸引性の官能基が好ましく、例えば、ハロゲン基、エーテル基、エステル基、カルボキシ基、アシル基、ニトロソ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、スルホ基等があげられる。この他にも、例えば、ヒドロペルオキシ基、オキシ基、エポキシ基、エピジオキシ基、オキソ基等の酸素を含む特性基や、メルカプト基、アルキルチオ基、メチルチオメチル基、チオキソ基、スルフィノ基、ベンゼンスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、p−トリルスルホニル基、トシル基、スルファモイル基、イソチオシアネート基等の硫黄を含む特性基等があげられる。これらの電子吸引性官能基の中でも、好ましくは、ニトロ基、スルホ基、ハロゲン基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基である。また、前記電子吸引性の官能基の他に、例えば、フェニル基(C6H5−)、スチリル基(C6H5CH=CH−)等の不飽和炭化水素基等もあげられる。なお、前記官能基は、解離によりイオン化していてもよい。
前記テトラゾリウム化合物が、テトラゾール環の2位および3位にベンゼン環を有し、前記ベンゼン環のうち少なくとも一方が、ハロゲン基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メトキシ基およびエトキシ基からなる群から選択された少なくとも1つの官能基を有することが好ましい。なお、前記両方のベンゼン環が、前記官能基を有してもよい。前記ベンゼン環において、いずれの箇所(ortho−、meta−、pra−)に前記官能基を有してもよい。また、官能基の数も特に制限されず、同じ官能基を有しても、異なる宮能基を有してもよい。
前記テトラゾリウム化合物は、例えば、前記テトラゾール環の2位、3位および5位にベンゼン環構造置換基を有する化合物として、例えば、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウム塩、3,3’−(1,1’ビフェニル−4,4’−ジル)−ビス(2,5−ジフェニル)−2H−テトラゾリウム塩、3,3’−[3,3’−ジメトキシ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジル]−ビス[2−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウム塩]、2,3−ジフェニル−5−(4−クロロフェニル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(p−ジフェニル)テトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−(p−ジフェニル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(4−スチリルフェニル)テトラゾリウム塩、2,5−ジフェニル−3−(m−トリル)テトラゾリウム塩および2,5−ジフェニル−3−(p−トリル)テトラゾリウム塩等があげられる。
また、前記テトラゾリウム化合物は、前述のような化合物には制限されず、この他に、前記テトラゾール環の2箇所にベンゼン環構造置換基および1箇所にその他の環構造置換基を有する化合物も使用でき、例えば、2,3−ジフェニル−5−(2−チエニル)テトラゾリウム塩、2−ベンゾチアゾイル−3−(4−カルボキシ−2−メトキシフェニル)−5−[4−(2−スルホエチル カルバモイル)フェニル]−2H−テトラゾリウム塩、2,2’−ジベンゾチアゾイル−5,5’−ビス[4−ジ(2−スルホエチル)カルバモイルフェニル]−3,3’−(3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレン)ジテトラゾリウム塩および3−(4,5−ジメチル−2−チアゾイル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウム塩等があげられる。
また、前記テトラゾール環の2箇所にベンゼン環構造置換基および1箇所に環構造でない置換基を有するテトラゾリウム化合物も使用でき、例えば、2,3−ジフェニル−5−シアノテトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−カルボキシテトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−メチルテトラゾリウム塩、2,3−ジフェニル−5−エチルテトラゾリウム塩等があげられる。
前述のテトラゾリウム化合物の中でも、前述のように、環構造置換基を3つ有する化合物が好ましく、より好ましくは、環構造がベンゼン環である置換基を3つ有し、かつ電子吸引性官能基を多く有するものであり、特に好ましくは、前述のように2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩である。なお、このようなテトラゾリウム化合物は、例えば、塩でもよいし、イオン化された状態等であってもよい。また、テトラゾリウム化合物は、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
本発明のHb測定方法において使用できる前記界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンエーテル等が好ましい。このポリオキシエチレンエーテル[CLHM−O−(CH2CH2O)NH]は、ポリオキシエチレン鎖と炭化水素鎖とがエーテル結合しており、前記炭化水素鎖としては、例えば、アルキル基、アルキルフェニル基等があげられる。前記ポリオキシエチレン鎖の重量平均重合度(N)は8〜23の範囲であり、他方の炭化水素鎖の炭素数(L)は8〜18の範囲であることが好ましく、より好ましくは前記重量平均重合度(N)が8〜15の範囲であり、炭化水素鎖の炭素数(L)が8〜16の範囲であり、特に好ましくは前記重量平均重合度(N)が8〜10の範囲であり、炭化水素鎖の炭素数(L)が8〜14の範囲である。また、前記炭化水素鎖は、例えば、直鎖でもよく、分岐鎖を有していてもよい。前記ポリオキシエチレンエーテルの具体例としては、例えば、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール(10)ラウリルエーテル、ポリエチレングリコール(9)ラウリルエーテル等があげられる。これらは、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
より具体的には、例えば、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニルエーテルである市販のTriton系界面活性剤等、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステルである市販のTween系界面活性剤等、ポリオキシエチレンアルキルエーテルである市販のBrij系界面活性剤等が使用できる。この他に、例えば、ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテル、商品名Nikkol BL−9EX(ポリオキシエチレンの重量平均重合度Nが9:和光純薬工業社製)等のようなポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、商品名Tergitol NPX(ポリオキシエチレンの重量平均重合度Nが約10.5:ナカライテスク社製)および商品名Tergitol NP−40(ポリオキシエチレンの重量平均重合度Nが20:ナカライテスク社製)等のようなポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等も使用できる。
本発明のHb糖化率の測定方法において使用する前記FAODとしては、下記式(1)に示す反応を触媒するFAODであることが好ましい。
前記式(1)において、R1は、水酸基もしくは糖化反応前の糖に由来する残基(糖残基)を示す。前記糖残基(R1)は、反応前の糖がアルドースの場合はアルドース残基であり、反応前の糖がケトースの場合、ケトース残基である。例えば、反応前の糖がグルコースの場合は、アマドリ転位により、反応後の構造はフルクトース構造をとるが、この場合、糖残基(R1)は、グルコース残基(アルドース残基)となる。この糖残基(R1)は、例えば、
−[CH(OH)]n−CH2OH
で示すことができ、nは、0〜6の整数である。
前記式(1)において、R2は、特に制限されないが、例えば、糖化アミノ酸、糖化ペプチドまたは糖化タンパク質の場合、α−アミノ基が糖化されている場合と、それ以外のアミノ基が糖化されている場合とで異なる。
前記式(1)において、α−アミノ基が糖化されている場合、R2は、下記式(2)で示すアミノ酸残基またはペプチド残基である。
前記式(2)において、R3はアミノ酸側鎖基を示す。また、R4は水酸基、アミノ酸残基またはペプチド残基を示し、例えば、下記式(3)で示すことができる。下記式(3)において、nは、0以上の整数であり、R3は、前述と同様にアミノ酸側鎖基を示す。
また、前記式(1)において、α−アミノ基以外のアミノ基が糖化されている(アミノ酸側鎖基が糖化されている)場合、R2は下記式(4)で示すことができる。
前記式(4)において、R5は、アミノ酸側鎖基のうち、糖化されたアミノ基以外の部分を示す。例えば、糖化されたアミノ酸がリジンの場合、R5は
−CH2−CH2−CH2−CH2−
であり、
例えば、糖化されたアミノ酸がアルギニンの場合、R5は、
−CH2−CH2−CH2−NH−CH(NH2)−
である。
また、前記式(4)において、R6は、水素、アミノ酸残基またはペプチド残基であり、例えば、下記式(5)で示すことができる。なお、下記式(5)において、nは0以上の整数であり、R3は、前述と同様にアミノ酸側鎖基を示す。
また、前記式(4)において、R7は、水酸基、アミノ酸残基またはペプチド残基であり、例えば、下記式(6)で示すことができる。なお、下記式(6)において、nは0以上の整数であり、R3は、前述と同様にアミノ酸側鎖基を示す。
本発明のHb糖化率の測定方法おいて、前記プロテアーゼとしては、特に制限されないが、例えば、セリンプロテアーゼ、チオールプロテアーゼ、メタロプロテナーゼ等が使用でき、具体的には、トリプシン、プロティナーゼK、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、ズブチリシン、エラスターゼ、アミノペプチダーゼ等が好ましい。より好ましくは、前記糖化Hbを選択的に分解するプロテアーゼであり、ブロメライン、パパイン、ブタ膵臓由来トリプシン、メタロプロテナーゼ、Bacillus subtillis由来のプロテアーゼ等が好ましい。前記Bacillus subtilis由来プロテアーゼとしては、商品名プロテアーゼN(例えば、フルカ社製)、商品名プロテアーゼN「アマノ」(天野製薬社製)等があげられる。前記メタロプロテナーゼとしては、Bacillus属由来メタロプロテナーゼ(EC3.4.24.4)(例えば、東洋紡社製:商品名トヨチーム)等があげられる。これらの中でもより好ましくはメタロプロテナーゼ、ブロメライン、パパインであり、特に好ましくはメタロプロテナーゼである。このように、糖化Hbを選択的に分解するプロテアーゼを使用すれば、糖化Hb分解物を選択的に調製できる、より一層測定精度を向上できる。
つぎに、本発明のHbの測定方法について、前記全血を試料とした例をあげて説明する。
まず、全血をそのまま溶血し、または全血から遠心分離等の常法により血球画分を分離してこれを溶血し、溶血試料を調製する。この溶血方法は、特に制限されず、例えば、界面活性剤を用いる方法、超音波による方法、浸透圧の差を利用する方法等が使用でき、この中でも前記界面活性剤を用いる方法が好ましい。
溶血用の界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェニル エーテル(Triton系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン ソルビタン アルキル エステル(Tween系界面活性剤等)、ポリオキシエチレン アルキル エーテル(Brij系界面活性剤等)等の非イオン性界面活性剤が使用でき、具体的には、例えば、商品名TritonX−100、商品名Tween−20、商品名Brij35等があげられる。前記界面活性剤による処理条件は、通常、処理溶液中の血球濃度が1〜10体積%の場合、前記処理溶液中の濃度が0.1〜1重量%になるように前記界面活性剤を添加し、室温で5秒〜1分程度攪拌すればよい。
また、前記浸透圧の差を利用する場合は、例えば、全血の体積に対し2〜100倍体積量の精製水を添加して溶血できる。
つぎに、前記溶血試料に対して前記テトラゾリウム化合物を添加し、Hbを変性させる。
前記テトラゾリウム化合物としては、前述のようなものが使用でき、例えば、前記溶血試料中の血球濃度が、0.2〜2体積%の場合、濃度0.005〜400mmol/Lの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.02〜100mmol/Lの範囲、特に好ましくは0.1〜50mmol/Lの範囲である。具体的に、前記テトラゾリウム化合物が2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム塩の場合、濃度0.004〜16mmol/Lの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.02〜10mmol/Lの範囲、特に好ましくは0.1〜5mmol/Lの範囲である。
前記テトラゾリウム化合物は、そのまま使用してもよいが、操作の簡便性や処理効率等の点から、溶媒に溶解したテトラゾリウム化合物溶液として使用することが好ましい。前記溶液の濃度は、テトラゾリウム化合物の種類(例えば、分子量等)等により適宜決定でき、例えば、0.01〜120mmol/Lの範囲であり、好ましくは0.1〜50mmol/Lの範囲、より好ましくは0.2〜20mmol/Lの範囲である。前記溶媒としては、例えば、蒸留水、生理食塩水、緩衝液等が使用でき、前記緩衝液としては、例えば、MES、MOPS、リン酸、ADA、PIPES、ACES、CHES、HEPES等の緩衝液等が使用できる。また、前記緩衝液のpHは、例えば、5.5〜10.0の範囲であることが好ましい。
前記テトラゾリウム化合物による処理条件は、特に制限されないが、例えば、温度4〜50℃の範囲、処理時間20秒〜60分の範囲であり、好ましくは、温度15〜40℃の範囲、処理時間20秒〜20分の範囲であり、より好ましくは、温度25〜37℃の範囲、処理時間30秒〜6分の範囲である。
また、このテトラゾリウム化合物処理は、前述のように界面活性剤存在下で行うことにより、さらにHbの変性を促進できる。このため、操作の簡便性等から試料の溶血時に、予めテトラゾリウム化合物を添加しておいてもよい。
界面活性剤の添加量は、特に制限されないが、例えば、前記溶血試料中の血球濃度が、0.2〜1体積%の場合、濃度0.05〜50mmol/Lの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.2〜30mmol/Lの範囲、特に好ましくは0.3〜10mmol/Lの範囲である。具体的に、前記界面活性剤が商品名TritonX−100の場合、濃度0.2〜100mmol/Lの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは1〜30mmol/Lの範囲、特に好ましくは2〜20mmol/Lの範囲である。また、商品名Brij35の場合、濃度0.1〜50mmol/Lの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.5〜20mmol/Lの範囲、特に好ましくは1〜10mmol/Lの範囲である。
また、前記界面活性剤は、前記テトラゾリウム化合物1molに対して、例えば、0.01〜70molの範囲になるように添加してもよく、好ましくは0.05〜50molの範囲、より好ましくは0.1〜20molの範囲である。
具体的に、前記界面活性剤が商品名TritonX−100の場合、テトラゾリウム化合物1mmolに対して、0.05〜15mmolの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.1〜10mmolの範囲、特に好ましくは0.2〜5mmolの範囲である。また、また、商品名Brij35の場合、テトラゾリウム化合物1mmolに対して、0.05〜10mmolの範囲になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.1〜8mmolの範囲、特に好ましくは0.2〜4mmolの範囲である。なお、界面活性剤は、試料の溶血時に、予めHb変性を促進できる十分量を添加しておいてもよい。
つぎに、前記変性Hbの吸光度測定を行う。測定波長は、前述のように、440〜700nmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜670nmの範囲であり、特に好ましくは540〜670nmの範囲である。また、前記波長を主波長として二波長測定を行う場合、副波長は、730〜900nmの範囲が好ましく、より好ましくは800〜900nmの範囲であり、特に好ましくは800〜850nmの範囲である。
そして、測定した吸光度と、予め準備した検量線とから、Hb量を求める。このように、試料中のHbをテトラゾリウム化合物で変性させれば、変性Hbとしてその量を容易かつ正確に求めることができる。
なお、前記検量線は、例えば、各種濃度のHb含有試料を、本発明のHb測定方法および公知の測定方法によって測定し、これらの測定値から作成することができる。前記公知の測定方法としては、測定精度に優れる方法であれば特に制限されないが、例えば、国際標準であるHiCN法が好ましい。また、既知濃度のHbを含む標準試料を、本発明のHb測定方法によって測定し、その測定値と前記既知濃度とから検量線を作成してもよい。
つぎに、本発明のHb糖化率測定方法について、前記全血を試料とした第1の測定方法の一例を説明する。
まず、前述と同様に、調製した溶血試料をテトラゾリウム化合物で処理して、その吸光度を測定し、Hb量を求める。
そして、前記処理済の溶血試料をプロテアーゼ処理し、変性Hbを分解する。前述のように後に添加するFAODは、糖化タンパク質や糖化ペプチドよりも、糖化アミノ酸やより短い糖化ペプチド断片に作用し易いためである。
前記プロテアーゼとしてパパインを用いて、前記溶血試料を処理する場合、通常、反応液中のプロテアーゼ濃度100〜30,000U/L、反応液中の血球濃度0.07〜12体積%または反応液中のHb濃度0.1〜10g/L、反応温度15〜60℃、反応時間10分〜40時間、pH5〜9の範囲である。また、前記緩衝液の種類も特に制限されず、例えば、トリス塩酸緩衝液、EPPS緩衝液、PIPES緩衝液、リン酸緩衝液、ADA緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液等が使用できる。
また、プロテアーゼとしてメタロプロテナーゼを用いて、前記溶血試料を処理する場合、通常、反応液中のプロテアーゼ濃度10〜10,000KU/L、反応液中の血球濃度0.07〜12体積%または反応液中のHb濃度0.1〜10g/L、反応温度15〜60℃、反応時間10分〜40時間、pH6〜9の範囲である。前記緩衝液は、前述と同様のものが使用できる。また、他のプロテアーゼも同様に使用できる。
つぎに、前記プロテアーゼ処理によって得られた変性Hb分解物を、FAODで処理する。このFAOD処理により、前記式(1)に示す反応が触媒される。
このFAOD処理は、前記プロテアーゼ処理と同様に緩衝液中で行うことが好ましい。その処理条件は、使用するFAODの種類、測定対象物である糖化Hbの濃度等により適宜決定される。
具体的には、例えば、反応液中のFAOD濃度50〜50,000U/L、反応液中の血球濃度0.01〜1体積%、反応温度15〜37℃、反応時間1〜60分、pH6〜9の範囲である。前記緩衝液の種類も特に制限されず、前記プロテアーゼ処理と同様の緩衝液が使用できる。
つぎに、PODおよび前記発色性基質を添加して、前記FAOD処理で生成した過酸化水素と前記発色性基質とをPODにより酸化還元反応させる。
前記発色性基質としては、例えば、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウム、オルトフェニレンジアミン(OPD)、トリンダー試薬と4−アミノアンチピリンとを組み合せた基質等があげられる。前記トリンダー試薬としては、例えば、フェノール、フェノール誘導体、アニリン誘導体、ナフトール、ナフトール誘導体、ナフチルアミン、ナフチルアミン誘導体等があげられる。また、前記4−アミノアンチピリンの他に、アミノアンチピリン誘導体、バニリンジアミンスルホン酸、メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、スルホン化メチルベンズチアゾリノンヒドラゾン(SMBTH)等も使用できる。このような発色性基質の中でも、特に好ましくは、前述のように、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウムである。
前記酸化還元反応は、通常、緩衝液中で行われ、その条件は、前記生成した過酸化水素の濃度等により適宜決定される。通常、反応液中のPOD濃度10〜20,000IU/L、発色性基質濃度0.0001〜1mmol/L、反応温度20〜37℃、反応時間1〜5分、pH6〜9である。また、前記緩衝液は、特に制限されず、例えば、前記プロテアーゼ処理およびFAOD処理等と同様の緩衝液等が使用できる。
そして、前記酸化還元反応により、前記発色性基質を発色させ、前記反応液の発色程度(吸光度)を分光光度計で測定する。この吸光度と検量線とから、例えば、過酸化水素の量を介して、または直接Hb糖化量を求めることができる。
前記吸光度の検出波長は、特に制限されず、前記発色基質の種類により適宜決定できるが、650〜900nmの範囲が好ましく、より好ましくは650〜800nmの範囲であり、特に好ましくは650〜760nmの範囲である。また、前記波長を主波長として二波長測定を行う場合、副波長は、730〜900nmの範囲が好ましく、より好ましくは800〜900nmの範囲であり、特に好ましくは800〜850nmの範囲である。なお、副波長は、通常、主波長よりも高く設定し、少なくとも30nm以上高く設定することが好ましく、より好ましくは50nm以上である。
具体的に、発色基質としてN−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミンナトリウムを用いた場合、測定波長は、650〜760nmの範囲が好ましく、より好ましくは690〜760nmの範囲である。また、前記波長を主波長として二波長測定を行う場合、副波長は、800〜900nmの範囲が好ましく、より好ましくは800〜850nmの範囲である。
この糖化率測定方法において、前述の変性Hbの測定波長と、発色性基質の測定波長とは、お互いが重ならない波長に設定することが好ましい。さらに、発色性基質について二波長測定を行う場合は、主波長および副波長は、変性Hbが吸収を示さない範囲に設定することが好ましい。なお、発色反応前に、発色基質の測定波長で吸光度を測定しておき、これにより発色反応後の吸光度を補正すれば、より精度を向上することができる。
一方、前述の変性Hbの測定波長と、発色性基質の測定波長とを、同じ波長に設定することもできる。この場合、Hbをテトラゾリウム化合物で変性した後に測定した吸光度を、変性Hbの吸光度とし、さらに、この吸光度によって、発色反応後に測定した吸光度を補正すればよい。つまり、発色反応後の吸光度の値から、変性Hbの吸光度の値を引けば、それが発色した基質の吸光度となるからである。
このように、前記両測定波長を同じ波長にする場合は、前記波長は、例えば、440〜700nmの範囲が好ましく、より好ましくは500〜670nmの範囲であり、特に好ましくは540〜670nmの範囲である。
そして、測定した吸光度と、予め準備した検量線とから、Hb糖化量を求め、このHb糖化量と前述のHb量とから、Hb糖化率を算出する。
前記検量線は、例えば、既知量の糖化Hbを含む標準試料について、本発明のHb糖化率測定方法に従って、発色反応後の吸光度を測定し、この吸光度と前記既知濃度とから作成できる。
なお、前記過酸化水素量は、前記POD等を用いた酵素的手法の他に、例えば、電気的手法により測定することもできる。
このように、Hbをテトラゾリウム化合物により変性させてその量を測れば、Hb量と糖化量の測定を一連の操作で行うことができるため、迅速かつ簡便に測定できる。また、試料に予めテトラゾリウム化合物を添加するため、試料中に存在する各種還元物質の酸化還元反応に対する影響が排除され、測定精度をさらに向上できる。
なお、Hb糖化率は、例えば、ヒトのHbを対象とする場合、HbA1c%と呼ばれることから、本発明のHb糖化率の測定方法は、HbA1c%の測定に有用な方法である。
つぎに、本発明のHb糖化率測定方法について、前記全血を試料とした第2の測定方法の一例を説明する。
前述と同様にして前記溶血試料中のHbをテトラゾリウム化合物によって変性させ、さらに前記試料をプロテアーゼ処理した後に、FAOD処理を行う。このFAOD処理した反応液について、変性Hbの測定と、前記反応液の発色程度(吸光度)を分光光度計で測定すればよい。
この場合、同一の反応液について、変性Hbおよび発色程度の測定を行うため、両者に対する測定波長は異なる波長に設定する必要がある。例えば、変性Hbの測定波長(A)が440〜700nmの範囲、発色程度の測定波長(B)が500〜800nmの範囲であり、好ましくは(A)が500〜670nmの範囲、(B)が540〜670nmの範囲であり、より好ましくは(A)が540〜670nmの範囲、(B)が540〜670nmの範囲である。なお、(A)と(B)は、例えば、30nm以上離れた波長に設定することが好ましい。
また、二波長測定を行う場合は、例えば、以下のように設定することができる。例えば、(A)の主波長が440〜700nmの範囲、副波長が730〜900nmの範囲、(B)の主波長が500〜800nmの範囲、副波長が800〜900nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、(A)の主波長500〜670nmの範囲、副波長730〜900nmの範囲、(B)の主波長540〜750nmの範囲、副波長800〜900nmの範囲であり、より好ましくは、(A)の主波長540〜670nmの範囲、副波長800〜850nmの範囲、(B)の主波長540〜750nmの範囲、副波長800〜850nmの範囲である。
実施例
つぎに、実施例について説明する。
(実施例1)
この実施例は、血球中のHbをテトラゾリウム化合物で変性処理してその吸光度から求めたHb濃度と、国際標準であるHiCN法によるHb濃度との相関関係を調べた例である。以下に、使用した試料、試薬および方法を示す。
(試料の調製)
採取した健常人および糖尿病患者の全血をそれぞれ遠心分離(2000G、3分間)によって、血球と血漿とに分離回収し、前記血球と血漿とを所定の割合に混合した(血球:血漿=10:0、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6)。そして、これらの混合液を、0.4重量%商品名TritonX−100(和光純薬工業社製、以下同じ)水溶液で15倍(体積)希釈したものを試料とし、合計45個の試料を調製した。
(標準液)
商品名ヘモコンN(アズウェル社製)を2.4重量%商品名TritonX−100水溶液で溶解して、Hb濃度が所定濃度(0、50、100、200、300g/L)になるように調製したものを標準液とした。
(WST−3溶液 :以下同じ)
濃度が1.66mMになるように、テトラゾリウム化合物である下記式(7)に示す2−(4−ヨードフェニル)−3−(2,4−ジニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム モノナトリウム塩(商品名 WST−3、同仁化学研究所社製、以下同じ)を精製水に溶解して調製した。
(緩衝液)
0.1mM CHES緩衝液(pH9.0)
(測定方法)
前記試料を精製水で3倍希釈した希釈液25μLに前記CHES緩衝液15μLを混合してから、前記WST−3溶液45μLを添加した。これを37℃で5分間インキュベートした後、生化学自動分析装置(商品名JCA−BM8 :日本電子社製、以下同じ)を用いて主波長596nmおよび副波長884nmの吸光度を測定した。以下、この吸光度を「WST−3法による吸光度」という。また、対照として、前記試料について、商品名ヘモグロビンテストワコー(和光純薬工業社製)を用いたHiCN法によりHb濃度を測定した。以下、この濃度を「HiCN法によるHb濃度」という。
他方、前記標準液について、前記WST−3法による吸光度の測定を行い、前記吸光度とHb濃度との関係を示す検量線を作成した。得られた検量線を下記式に示す。
y=505.1x−6.1692
y : Hb濃度(g/L)
x : WST−3法による吸光度
そして、前記試料についてのWST−3法による吸光度を前記検量線に代入し、Hb濃度を求めた。この検量線から求めたHb濃度および前記試料についてのHiCN法によるHb濃度の結果を図1のグラフに示す。
図1は、前記検量線から求めたHb濃度(g/L)とHiCN法によるHb濃度(g/L)との相関関係を示すグラフである。得られた相関式の傾きは「0.9733」であり「1」に近いことから、実施例1によれば、対照のHiCN法によるHb測定と同様に優れた精度でHb濃度を測定できることがわかった。また、その相関係数はr=0.9978であることから、安定して高精度の測定を行えることがわかった。
(実施例2)
この実施例は、本発明のHb測定方法によりHb量を測定し、対照例であるSLS法によるHb量との相関関係を調べた例である。以下に、使用した試料、試薬、測定方法等を示す。
(溶血試薬)
TAPS(同仁化学社製) 140mmol/L
グリシンアミド(ナカライテスク社製) 60mmol/L
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(ナカライテスク社製) 24g/L
(第1試薬:pH5.5)
MES(同仁化学社製) 5mmol/L
WST−3 2mmol/L
アジ化ナトリウム(ナカライテスク社製) 0.05g/L
CaCl2(ナカライテスク社製) 5mmol/L
NaCl(ナカライテスク社製) 150mmol/L
メタロプロテナーゼ(商品名トヨチーム:東洋紡社製) 3g/L
(第2試薬:pH6.9)
FAOD(アークレイ社製) 26KU/L
POD(東洋紡社製) 78KU/L
DA−64(和光純薬工業社製) 0.052mmol/L
Tris−HCl(ナカライテスク社製) 200mmol/L
(試料)
糖尿病患者および健常者合計71人の全血をそれぞれ採血し、これらを遠心分離(1000G、10分間)して、血球画分を回収した。そして血球画分10μLに、前記溶血試薬40μLを添加して、溶血試料を調製した(以下同じ)。
(測定方法)
前記溶血試料10μLに精製水10μLを添加し、さらに、前記第1試薬65μLを添加して37℃でインキュベートを行った(反応液量85μL)。そして、インキュベート開始後4.5分後に、前記反応液について、前記生化学自動分析装置により所定の波長(545nm、571nm、596nm、658nm、694nm、751nm)における吸光度を測定した。この測定値を、以下、「一回目の測定値」という。
つぎに、インキュベート開始5分後に、前記反応液に前記第2試薬45μLを添加して、37℃で3分間インキュベートを行った(反応液量130μL)。そして、この反応液について、前記装置により前記所定の波長(545nm、571nm、596nm)における吸光度を測定した。この測定値を、以下、「2回目の測定値」という。
対照例として、前述のSLS法によりHbの測定を行った。まず、前記実施例2と同じ溶血試料4μLに、精製水4μLを添加し、さらに下記SLS法試薬100μLを添加して、37℃で5分間インキュベートした。そして、インキュベーション開始から5分後に、545nmにおける吸光度を前記装置により測定した。
(SLS法試薬)
SLS 0.64g
Triton X−100 0.75g
リン酸カリウム緩衝液(pH7.2) 1.0L
全試料(71検体)について測定した、実施例の一回目および二回目の吸光度と、SLS法による対照例の吸光度をプロットし(図示せず)、対照例に対する実施例の相関係数を求めた。これらの結果を下記表1に示す。
以上のように、本発明のHb測定方法によれば、SLS法と高い相関関係を示す測定が可能である。また、第1試薬によりHbを変性させた直後に測定した場合だけでなく、前記第2試薬により発色反応を行った後でも、変性Hbを正確に測定できた。
(実施例3)
この実施例は、本発明のHb糖化率測定方法によりHbA1c%を測定し、対照例との相関関係を調べた例である。
前記実施例2と同様にして、前記溶血試料(71検体)について、一回目の吸光度測定(測定波長571nm)および二回目の吸光度測定(751nm)を行った。一方、Hb量およびHbA1c量が既知である標準試料を用いて、本発明による一回目の吸光度と既知Hb量との関係を示す検量線(Hb検量線)および本発明による二回目の吸光度と既知HbA1c量との関係を示す検量線(HbA1c検量線)を作成した。
つぎに、前記一回目の吸光度を前記Hb検量線に、二回目の吸光度を前記HbA1c検量線に代入し、それぞれHb量およびHbA1c量を求めた。そして、得られたHb量およびHbA1c量を下記式に代入してHbA1c%を求めた。HbA1c% = (HbA1c量/Hb量)×100
対照例としては、同じ溶血試料(71検体)について、前記SLS法によりHb量を、商品名ラピディアオートHbA1c(SRL社製)により、HbA1c%を測定した。そして、対照例のHb濃度およびHbA1c%に対する実施例の相関係数をそれぞれ求めた。
その結果、Hb量の相関係数は0.994、HbA1c%の相関係数は0.9841であり、本発明のHb測定方法およびHb糖化率測定方法が、非常に高精度な方法であることがわかる。
(実施例4)
この実施例は、本発明のHb糖化率の測定方法によりHbA1c%を測定し、対照例との相関関係を調べた例である。
前記実施例2と同様にして、前記溶血試料(71検体)について、一回目の吸光度測定と、二回目の吸光度測定とを行った(以下、「補正前の吸光度」ともいう)。なお、一回目の吸光度測定における測定波長は、596nm、658nm、694nm、751nmであり、この吸光度を変性Hbの吸光度とした。また、二回目の吸光度測定における測定波長は、596nm、658nm、694nmおよび791nmである。
前述のように、前記実施例3の結果によると、751nmにおいて二回目の吸光度測定を行った場合のHbA1c%は、対照例に対する相関係数が0.9841と非常に高い値であった。したがって、751nmでの吸光度測定を行った場合、HbA1c量を高精度に測定できることは証明されているといえる。このことから、751nmにおける二回目の吸光度を基準とし、これに対する各波長における二回目の吸光度の相関係数を求めた。
さらに、前記二回目の吸光度について、各波長における一回目の吸光度を用いて、下記式に基づき補正を行った(以下、「補正後の吸光度」という)。そして、751nmにおける補正後の吸光度を基準として、これに対する各波長における補正後の吸光度の相関関係を求めた。これらの結果を下記表2に示す。
補正後の吸光度=A2−(A1×85/130)
A1:一回目の吸光度
A2:二回目の吸光度
以上の結果から、各波長において、751nmの吸光度と高い相関関係がみられ、さらに補正を行うことによって、より相関係数は向上した。そして、Hb濃度に関しては、実施例2の結果から高精度で測定できることがわかっている。したがって、実施例2および本実施例4の結果から、本発明の糖化率測定方法によれば、HbA1c%を高精度で測定できることがわかる。また、このように補正を行えば、変性Hbおよび糖化Hbの吸光度測定を、おなじ測定波長で行うこともできる。同じ測定波長であれば、例えば、測定装置の条件設定等も簡単であり、さらに簡便かつ迅速な測定も可能になる。
産業上の利用の可能性
以上のように、本発明のHbの測定方法によれば、試料中のHbを環境上問題なく容易かつ正確に測定できる。また、Hbの糖化率を測定する際に、本発明のHb測定方法によりテトラゾリウム化合物で試料を処理しても、前記テトラゾリウム化合物は酸化還元反応を利用した糖化量の測定には影響しない。このため、Hb量の測定と糖化量の測定とを一連の操作で、簡便かつ高精度に行うことができる。このため、本発明のHb測定方法を利用したHb糖化率の測定方法を、例えば、臨床検査の分野等に適用すれば、糖化Hbの糖尿病診断等の指標物質としての信頼性および重要性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のHb測定方法の一実施例において、本発明の測定方法によるHb濃度と対照Hb濃度との相関関係を示したグラフである。
Claims (22)
- 試料中のヘモグロビンをpH5.5〜10.0の緩衝液に溶解したテトラゾリウム化合物で変性させ、得られた変性ヘモグロビンに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定し、この光学的変化量から前記試料中のヘモグロビン量を算出するヘモグロビンの測定方法。
- 光学的変化量が、吸光度または反射率である請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- 測定波長が、440〜700nmの範囲である請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- テトラゾリウム化合物が、テトラゾール環の少なくとも2箇所に環構造置換基を有する請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- テトラゾリウム化合物が、テトラゾール環の2位および3位にベンゼン環を有し、前記ベンゼン環のうち少なくとも一方が、ハロゲン基、カルボキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基、スルホ基、メトキシ基およびエトキシ基からなる群から選択された少なくとも一つの官能基を有する請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- テトラゾリウム化合物が、2-(4-ヨードフェニル)-3-(2,4-ジニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム塩である請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- テトラゾリウム化合物を、試料1μL当たり、0.001〜100μmolの範囲で添加する請求項1記載のヘモグロビン測定方法
- 界面活性剤の存在下において、前記試料中のヘモグロビンをテトラゾリウム化合物で処理する請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- 界面活性剤が、ポリオキシエチレンエーテルである請求項8記載のヘモグロビン測定方法。
- 界面活性剤を、テトラゾリウム化合物1molに対し、0.01〜70molの範囲で添加する請求項8記載のヘモグロビン測定方法。
- 試料が赤血球を含む請求項1記載のヘモグロビン測定方法。
- 糖化ヘモグロビンを含む試料について、請求項1記載のヘモグロビン測定方法によりヘモグロビン量を測定し、他方、得られた変性ヘモグロビンの糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとを反応させ、この酸化還元反応を測定することによりヘモグロビンの糖化量を測定し、前記ヘモグロビン量と前記糖化量とからヘモグロビン糖化率を求めるヘモグロビン糖化率の測定方法。
- 変性ヘモグロビンの糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとを反応させる前に、前記変性ヘモグロビンをプロテアーゼ処理する請求項12記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 変性ヘモグロビンに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定した後、前記変性ヘモグロビンの糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとを反応させる請求項12記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 変性ヘモグロビンに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定した後、前記変性ヘモグロビンをプロテアーゼ処理し、前記変性ヘモグロビン分解物の糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとを反応させる請求項14記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 変性ヘモグロビンをプロテアーゼ処理し、前記変性ヘモグロビンに特異的な吸収波長で、前記試料の光学的変化量を測定した後、前記変性ヘモグロビン分解物の糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとを反応させる請求項14記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 変性ヘモグロビンの糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとを反応させた後、前記変性ヘモグロビンに特異的な吸収波長における前記試料の光学的変化量の測定および前記酸化還元反応の測定を行う請求項12記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 前記酸化還元反応の測定が、それにより生じた発色物質の光学的変化量の測定である請求項12記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 前記発色物質の光学的変化量が、変性ヘモグロビンの糖化部分とフルクトシルアミノ酸オキシダーゼとの反応により生成する過酸化水素量に対応する請求項18記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 前記発色物質が、酸化酵素を用いて過酸化水素と酸化により発色する基質とを反応さることにより発色した前記基質である請求項19記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- 発色物質の測定波長が、650〜900mmである請求項18記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
- ヘモグロビン量を測定するための測定波長と、発色物質の測定波長とが、同一波長である請求項18記載のヘモグロビン糖化率測定方法。
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