JP4792968B2 - 定着装置および画像形成装置 - Google Patents
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Description
ところが、従来の2ロール方式の定着装置は、高速で連続して送られてくる多数枚の記録紙に対しては、充分な定着処理を行うことが困難であるという問題を有している。すなわち、2ロール方式の定着装置においては、定着ロールを構成する芯金や芯金に被覆されたシリコーンゴム等からなる弾性層等が熱的抵抗体として作用する。そのため、2ロール方式の定着装置では、記録紙が定着ロールの表面から奪う熱量に対応した熱量を、定着ロールの内部に配置したヒータから即応的に、かつ充分に供給することが構造的に難しい。
その結果、2ロール方式の定着装置に高速で連続して記録紙が送られると、定着ロールの表面温度が漸次低下し、次第に定着性能が低下するという不都合が生じる。また、画像形成装置の立ち上がり時において、定着ロールの表面温度が一時的に落ち込む所謂「温度ドループ現象」が発生し易くなる。特に、記録紙として熱容量の大きい厚紙等が使用される場合には、定着ロールの表面から奪われる熱量が大きくなるので、定着性能の低下や温度ドループが大きくなり、定着不良に基づく画像品質の劣化を生じさせることとなる。
このような定着ベルトを用いた定着装置では、ニップ部に進入する前に予め張架ロール内に配設されたヒータによって定着ベルトを充分に加熱しておき、ニップ部においては加熱された定着ベルトから記録紙およびトナー像に熱を加えることでトナー像を定着している。そのため、定着ベルトが定着処理の間に記録紙によって熱を奪われても、定着ベルト自体の熱容量が小さいことから、定着ベルトは張架ロール内のヒータにより短時間で所定の定着可能温度まで回復させることが可能である。それにより、加熱部材として定着ベルトを用いた定着装置では、ニップ部内に進入する際の定着ベルトの温度を所定値に維持することが容易となり、画像形成装置が高速化されても、ニップ部に充分な熱量を供給することが可能である。
また、他の目的は、画像形成装置の高速化を図った場合においても、高い定着性能を維持することができる定着装置を提供することにある。
また、剥離部材は、剥離角度設定部材が、押圧部材の加圧部材を押圧する面よりも下流側の近傍の側面に形成された凹状部と、ベルト部材の外周面側であって凹状部に対向する位置に配置されたロール状部材とで構成されたことを特徴とすることもできる。特に、ロール状部材は、凹状部にベルト部材を介して当接する位置と凹状部から離隔された位置との間で、ベルト部材と接触した状態を維持しながら移動可能に構成されたことを特徴とすることができる。また、ロール状部材は、ベルト部材の移動方向と同一の方向に回転自在に構成されたことを特徴とすることもできる。
また、押圧部材は、定着ロールと加圧部材との圧接部の下流側端部から加圧部材と押圧部材との圧接部の下流側端部に至る領域のニップ圧が、ベルト部材の進行方向に向けて単調減少するように設定されたことを特徴とすることができる。加えて、押圧部材は、定着ロールと加圧部材との圧接部の下流側端部と押圧部材の上流側端部との間の領域のニップ圧Pnが、ベルト部材の絶対温度をTn、周辺環境の絶対温度をTo、大気圧をPoとして、Pn≧Po×(Tn/To−1)を満たすように設定することを特徴とすることもできる。また、押圧部材は、押圧部材の上流側端部が定着ロールと加圧部材とで画成されるくさび状領域内に配置されることを特徴とすることができる。
加えて、加圧部材は、定着ロールとの圧接部での凹み量が定着ロールの凹み量よりも大きいことを特徴とすることができる。
また、定着部の剥離部材は、剥離角度設定部材が、ベルト部材の内周面側であって押圧部材が加圧部材を押圧する面の最下流部領域に配置された回転部材で構成されたことを特徴とすることもできる。さらに、定着部の剥離部材は、剥離角度設定部材が、押圧部材の加圧部材を押圧する面よりも下流側の近傍の側面に形成された凹状部と、ベルト部材の外周面側であって、凹状部に対向する位置に配置された回転部材とで構成されたことを特徴とすることもできる。
加えて、定着部は、加圧部材が複数の張架ロールによってベルト部材が張架された加圧ベルトモジュールで形成されたことを特徴とすることができる。
[実施の形態1]
図1は本実施の形態が適用される画像形成装置の一例としてのデジタルカラープリンタ1を示した概略構成図である。図1に示すデジタルカラープリンタ1は、所謂タンデム型であり、各色の画像データに対応して画像形成を行なう画像形成プロセス部20、例えばパーソナルコンピュータ(PC)3や画像読取装置4に接続され、これらから受信された画像データに対して所定の画像処理を施す画像処理部(IPS:Image Processing System)22、各装置(各部)の動作を制御する制御部10を備えている。
ここで、各画像形成ユニット26Y,26M,26C,26Kは、現像器33に収納されたトナーを除いて、略同様に構成されている。そして、画像形成ユニット26Y,26M,26C,26Kは、それぞれがイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K)のトナー像を形成する。
その後、重畳トナー像が静電転写された用紙Pは、中間転写ベルト41から剥離され、搬送ベルト76,77により定着装置60まで搬送される。定着装置60に搬送された用紙P上の未定着トナー像は、定着装置60によって熱および圧力による定着処理を受けることで用紙P上に定着される。そして定着画像が形成された用紙Pは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙載置部(不図示)に搬送される。
図2は本実施の形態の定着装置60の概略構成を示す側断面図である。この定着装置60は、加熱部材の一例としての定着ベルトモジュール61と、定着ベルトモジュール61に対して圧接して配置された加圧部材の一例としての加圧ロール62とで主要部が構成されている。
定着ベルトモジュール61は、ベルト部材の一例としての定着ベルト610、定着ベルト610を張架しながら回転駆動する定着ロール611、内側から定着ベルト610を張架するテンションロール612、外側から定着ベルト610を張架する外部加熱ロール613、定着ロール611とテンションロール612との間で定着ベルト610の姿勢を矯正する姿勢矯正ロール614、定着ベルトモジュール61と加圧ロール62とが圧接される領域であるニップ部N内の下流側領域に配置され、用紙Pを定着ベルト610から剥離する剥離部材の一例としての剥離パッド64、ニップ部Nの下流側において定着ベルト610を張架するアイドラーロール615により主要部が構成されている。
また、定着ロール611の内部には、加熱源として定格900Wのハロゲンヒータ616aが配設され、定着ロール611の表面に接触するように配置された温度センサ617aの計測値に基づき、画像形成装置の制御部10(図1参照)が定着ロール611の表面温度を150℃に制御している。
また、テンションロール612の両端部には、定着ベルト610を外側に押圧するバネ部材を備えたテンション調整装置(不図示)が配設されている。それにより、テンションロール612は、定着ベルト610の張力を所定値(例えば、15kgf)に調整する機能を有している。
さらに、テンションロール612には、アイドラーロール615の近傍に配置された定着ベルト610のエッジ位置を検知するベルトエッジ位置検知機構の検知結果に応じて、定着ベルト610の軸方向における当接位置を変位させる軸変位機構(不図示)が配設されている。それにより、定着ベルト610の蛇行(ベルトウォーク)を制御するステアリングロールとしても機能する。
なお、このような定着ベルト610に対する蛇行制御は、姿勢矯正ロール614において行なうように構成することもできる。
外部加熱ロール613の内部には、加熱源としての定格1000Wのハロゲンヒータ616cが配設されており、温度センサ617cと制御部10(図1参照)とによって、表面温度が190℃に制御されている。したがって、外部加熱ロール613は、定着ベルト610を張架する機能とともに、定着ベルト610を外周面側から加熱する機能をも併せ持っている。したがって、本実施の形態では、定着ロール611とテンションロール612および外部加熱ロール613とによって定着ベルト610が加熱される構成を採用している。
このような構成を有する剥離パッド64は、定着ベルト610を介して加圧ロール62を所定の幅領域(本実施の形態では、定着ベルト610の進行方向に沿って6mmの幅)に亘って所定の荷重(例えば、剥離パッド64の長手方向の長さを380mmとして、15kgf)で均一に押圧することで、後段で述べる「剥離ニップ部N2」(後段の図3参照)を形成している。
図3は、ニップ部Nの近傍領域を表す概略断面図である。図3に示したように、定着ベルトモジュール61と加圧ロール62とが圧接されたニップ部Nには、定着ベルト610が定着ロール611にラップされたラップ領域内において、加圧ロール62が定着ベルト610の外周面に圧接するように配置されることにより、ロールニップ部(第1ニップ部)N1が形成されている。
このような定着ロール611と加圧ロール62との構成により、本実施の形態のロールニップ部N1では、加圧ロール62の弾性層622が変形することでロールニップ部N1が形成されており、加圧ロール62側がニップ(ロールニップ部N1)を形成するロール(NFPR:NIP Forming Pressure Roll)として機能している。すなわち、ロールニップ部N1では、定着ロール611には凹みが殆ど生じず、加圧ロール62表面のみが大きく凹んだ状態(加圧ロール62の凹み量>定着ロール611の凹み量)が形成されることで、定着ベルト610の進行方向に所定の幅を持ったニップ領域を作り出している。
このように、本実施の形態の定着装置60では、ロールニップ部N1において定着ベルト610がラップされている側の定着ロール611は殆ど変形せず、円筒形状が維持されている。そのため、定着ベルト610は定着ロール611表面の円周面に沿って回動し、その回動半径に変動が生じることがないので、進行速度を一定に維持しながらロールニップ部N1を通過することができる。それにより、定着ベルト610がロールニップ部N1を通過する際にも、定着ベルト610にはシワや歪みが極めて発生し難い。その結果、定着画像に画像乱れが生じることが抑制され、良質の定着画像を安定的に提供することができる。なお、本実施の形態の定着装置60では、ロールニップ部N1は定着ベルト610の進行方向に沿って15mmの幅に設定されている。
図3に示したように、剥離ニップ部N2を形成する剥離パッド64は、剥離押圧パッド641の断面が略円弧形状に形成され、ロールニップ部N1の下流側近傍にて定着ロール611の軸方向に沿って配置されている。さらに、剥離押圧パッド641の定着ベルト610の回動方向下流側領域であって、かつ加圧ロール62と対向する位置に、剥離ロール642が回転自在に配設されている。そのため、剥離ニップ部N2を通過した後の定着ベルト610は、剥離ロール642を通過する時点で進行方向が屈曲するように急激に変化し、剥離押圧パッド641の外側面から離隔するようにアイドラーロール615の方向に向けて回動する。そのため、ロールニップ部N1および剥離ニップ部N2を通過した用紙Pは、剥離ニップ部N2を出た時点で定着ベルト610の進行方向の変化に追随できなくなり、用紙Pは自身の所謂「コシ」によって定着ベルト610から剥離される。このようにして、剥離ニップ部N2の出口部において、用紙Pに対する曲率分離が安定的に行なわれる。
剥離パッド64は、上述したようにロールニップ部N1の下流側近傍に配設されている。それにより、ロールニップ部N1および剥離ニップ部N2からなるニップ部N内においては、ロールニップ部N1内でニップ圧がピークとなる位置(後段の図5参照)から剥離ニップ部N2の最下流位置に至るまでの領域で、ニップ圧が所定値以下に落ち込んだ谷間の領域が発生することが抑制され、ニップ圧が連続的に単調減少するように設定することが可能となる。そのため、本実施の形態の定着装置60では、後段で詳述する剥離パッド64の構成に基づく作用も加えて、安定的な用紙分離を実現すると同時に、画像ムラ等といった画像不良のない高品質の定着画像を提供することが可能となる。
ここでは、まず、ロールニップ部N1の下流側近傍に配設された剥離パッド64の剥離押圧パッド641により、ニップ圧が所定値以下に落ち込む谷間の領域が発生することが抑制され、ニップ部N内でニップ圧が連続的に単調減少するように設定される点について説明する。
しかし、かかる定着ベルトモジュール61を用いた定着装置60においても、用紙Pの表面にはトナー像が担持されているため、定着ベルト610の熱によってトナー像が溶融した際に、トナー像が接着剤となって用紙Pと定着ベルト610との間に付着力が働く。そのため、従来の定着装置と同様に、定着ベルト610表面から用紙Pを剥離する機構を設ける必要がある。特に画像形成装置の高速化を図った場合には、定着装置60において一旦剥離不良が生じて紙詰まり(ジャム)が生じると、その影響を受けて損傷する後続の用紙Pの枚数も多くなることから、ニップ部Nを高速で通過した用紙Pを定着ベルト610側から安定的に、かつ確実に剥離する必要がある。
そこで、本実施の形態の定着ベルトモジュール61では、ニップ部Nの下流部に定着ベルト610の進行方向を急激に変化させて、用紙Pを定着ベルト610から剥離する剥離部材、すなわち剥離パッド64を配設している。
ここで図4は、剥離パッド64をロールニップ部N1の下流側端部N1Eから所定の距離以上に離隔して配設した場合のニップ部N(ロールニップ部N1および剥離ニップ部N2)のニップ圧プロファイルの概略を示した図である。図4に示したように、この場合には、剥離ニップ部N2において、ロールニップ部N1との境界領域N2Sにニップ圧Pnが所定値Pn1以下に落ち込んだ谷間の領域が形成されている。
しかし、剥離ニップ部N2内のロールニップ部N1との境界領域N2Sにおけるニップ圧Pnが所定値Pn1以下の低い状態に形成されていると、ロールニップ部N1で抑え込まれていた気泡が境界領域N2Sにおいては抑止できずに発生することとなる。そして、気泡が発生した状態で、用紙Pが剥離パッド64の配設されたニップ圧の高い領域N2Tに進入すると、境界領域N2Sにおいて発生した気泡がその高いニップ圧によって用紙Pの表面上を動き回ることとなる。そうすると、用紙P上のトナー像は、ロールニップ部N1を通過した直後であって、溶融したトナーが未だ完全に固化されていない状態にあるため、気泡が動き回ることによってトナー像が乱される現象が生じる。その結果、定着画像にムラ等の画像不良が発生するという事態を招来することとなる。
このように、境界領域N2Sのニップ圧Pnを所定のPn1よりも高く設定できるので、境界領域N2Sにおいて気泡の発生を抑止することができる。さらには、ロールニップ部N1内でニップ圧がピークとなる位置から剥離ニップ部N2の最下流位置に至るまで、ニップ圧を連続的に単調減少するように設定することにより、ロールニップ部N1において高いニップ圧により抑え込まれていた水蒸気や熱膨張しようとする空気は、剥離ニップ部N2を通過するまでの経路で徐々に開放されることとなり、上記したような気泡が動き回る現象の発生を抑制することが可能となる。そのため、未だ完全に固化されていない状態のトナー像が乱されることが殆ど無くなり、定着画像に画像ムラ等の画像不良が発生するのを抑制することができる。
Pn≧Po×(Tn/To−1) ……(1)
すなわち、上記した境界領域N2Sでのニップ圧Pnの所定値Pn1は、
Pn1=Po×(Tn/To−1)
となる。
なお、Tnは定着ベルト610の絶対温度、Toは定着ロール611から充分に離れた位置における空気の絶対温度(環境温度)、Poは大気圧である。
PV = nRT ……(2)
なお、Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは絶対温度である。
したがって、次の(3)式および(4)式が導かれる。
(Po+Pn)×Vn = nRTn ……(3)
PoVo = nRTo ……(4)
なお、Vnは境界領域N2S内の気泡の体積、Voは大気圧下での気泡の体積である。 境界領域N2S内で気泡の発生を抑制するには、Vn≦Voなる条件を満たせばよい。そこで、(3)式および(4)式より、次の(5)式が導かれる。
Tn/(Po+Pn)≦To/Po ……(5)
さらに(5)式を変形すると、上記した式(1)が導かれる。
そして、剥離パッド64は、式(1)を満たすニップ圧Pnとなるような充分に狭い境界領域N2Sが形成されるように、ロールニップ部N1の下流側近傍位置に配設されることとなる。
図6は、剥離パッド64の構成を説明する概略断面図である。図6に示したように、本実施の形態の剥離パッド64は、ロールニップ部N1の下流側近傍にて定着ベルト610を加圧ロール62に押圧する剥離押圧パッド641と、剥離押圧パッド641の定着ベルト610の回動方向下流側領域であって、かつ加圧ロール62と対向する位置において剥離押圧パッド641に回転自在に軸支された剥離ロール642とで構成されている。そして、ニップ部Nでのニップ圧が図5に示したニップ圧プロファイルを形成するように、剥離押圧パッド641により、定着ベルト610を介して加圧ロール62を押圧している。また、用紙Pが確実かつ安定的に定着ベルト610から剥離されるように、剥離ロール642により、剥離押圧パッド641を通過した定着ベルト610の進行方向を急激に屈曲させている。
このように、本実施の形態の剥離パッド64では、図5に示したニップ圧プロファイルを形成する剥離押圧パッド641と、用紙Pを剥離する剥離ロール642とにより、それぞれ機能を分担させることで、後述する定着ベルト610の円滑な回動が確保できるので、剥離の安定性・確実性を確保しつつ高品質な定着画像の形成を図ることが可能となる。
図6に示した境界領域N2Sを極力狭く設定するためには、ロールニップ部N1(図3も参照)の下流側近傍であって、定着ロール611と加圧ロール62とで画成されたくさび状領域Qにおいて、剥離押圧パッド641が加圧ロール62表面を押圧するように配置する必要がある。そのため、剥離押圧パッド641の内側面641aの上流側端部(剥離押圧パッド641の押圧面641cの上流側端部)64pをロールニップ部N1の下流側端部N1Eの近傍、すなわち上記したくさび状領域Q内の定着ロール611に近接した位置に設置できるように、内側面641aは定着ロール611の周面に倣った湾曲面に形成されている。本実施の形態の剥離パッド64では、剥離押圧パッド641の内側面641aは曲率半径66mmの略円周面で形成している。なお、定着ロール611の周面に倣う湾曲面であれば、略円周面等の曲面に限らず、複数の平面を段階的に屈曲させて形成することも可能である。
また、剥離押圧パッド641の内側面641aの上流側端部64pをくさび状領域Q内の定着ロール611に近接した位置に設置できるようにすると同時に、上流側端部64p部分の強度および剛性を確保するために、剥離押圧パッド641を剛体で構成するとともに、内側面641aと押圧面641cとのなす角度θ1は、15〜50°に設定するのが好適である。
加えて、剥離押圧パッド641の押圧面641cには、下流側端部領域、すなわち定着ベルト610が加圧ロール62から離隔する領域(剥離領域)Rにおいて、剥離ロール642が剥離押圧パッド641にて矢印M方向に回転自在に軸支されている。
さらに、ニップ圧Pn1以上に設定されたロールニップ部N1において抑え込まれていた水蒸気や熱膨張しようとする空気を徐々に開放させるため、ロールニップ部N1内でニップ圧がピークとなる位置(ピーク位置)からニップ圧が連続的に単調減少するように(図5参照)、剥離押圧パッド641では、押圧面641cによる押圧力が下流側端部64qに向かうに従って低くなるように設定されている。
さらに、剥離ロール642は剥離押圧パッド641にて矢印M方向に回転自在に軸支されているので、剥離領域Rにおいて定着ベルト610を急激に屈曲させても、定着ベルト610はスムーズにその進行方向を変えることが可能となる。そのため、定着ベルト610の円滑な回動を促進することもできる。
図7は、押圧面641cの幅面積と剥離角との関係を比較する図である。図7では、(a)が剥離角を大きく設定した場合を示し、(b)が押圧面641cの幅面積を小さく形成した場合を示している。図7(a)に示したように、確実に用紙Pの剥離が可能となる剥離角θ2を剥離押圧パッド641のみによって形成しようとすれば、剥離押圧パッド641が定着ロール611と加圧ロール62とで画成される領域に配設される構成上の要因から、押圧面641cの幅面積をある程度広く形成する必要が生じる。この場合には、定着ベルト610と剥離押圧パッド641の押圧面641cとの接触面積が大きくなって、摺動摩擦は大きなものとなる。一方、図7(b)に示したように、押圧面641cの幅面積を小さく形成しようとすれば、確実に用紙Pの剥離が可能となる剥離角θ2を形成することが困難となる。
これに対して、本実施の形態の剥離ロール642では、加圧ロール62表面に変形(凹部)を生じさせない押圧力に設定されている。そのように設定することで、図8(剥離ロール642が加圧ロール62表面に変形(凹部)を生じさせない押圧力で設定された場合を示す図)に示したように、剥離領域Rにおいて加圧ロール62表面に変形(凹部)は生じない。そのため、剥離ニップ部N2を通過した用紙Pは、直進するか、または剥離ニップ部N2での加圧ロール62の周面に沿って若干のダウンカールが形成された方向に進行する。それにより、用紙Pの進行方向に対する定着ベルト610の進行方向の変化は相対的に大きなものとなり、用紙Pを定着ベルト610から安定して剥離することが可能となる。
また、剥離領域Rにおいて、剥離角度設定部材としての剥離ロール642を配設することにより、用紙Pの剥離性能を確実に向上させることが可能となる。それと同時に、押圧面641cの幅面積を極めて小さく形成することも可能となる。そのため、剥離ニップ部N2を通過する際の剥離押圧パッド641と定着ベルト610との摺動摩擦を低減することができる。それにより、定着ベルト610の回動を円滑に行なうことが可能となるため、定着ベルト610の移動速度のムラに起因する画像乱れの発生を抑制することができる。その結果、剥離ロール642による確実かつ安定的な剥離性能を維持しながら、安定して高品質の定着画像の形成を図ることが可能となる。
なお、比較例として、剥離パッド64を配設しない構成、すなわちニップ部Nがロールニップ部N1だけで構成された従来の定着装置を用い、同様の評価試験を行った。
その結果、本実施の形態の定着装置60では、20万枚の通紙すべてで剥離に成功し、ジャムの発生は認められなかった。これに対し、従来の定着装置においては、初期より分離不良が発生した。このように、本実施の形態の定着装置60での用紙分離性能の優位性が確認された。
なお、この構成では、剥離押圧パッド641は、定着ベルト610や定着ロール611と摺擦するので、定着ベルト610や定着ベルト610の進行をスムーズに行ない、また、定着ベルト610や定着ロール611との磨耗を低減するため、その表面に、摩擦係数が小さく、かつ耐摩耗性に優れた例えばテフロン(登録商標)等を被覆した構成とすることが好ましい。
画像形成装置の二次転写部T2(図1参照)において未定着トナー像が静電転写された用紙Pは、搬送ベルト76,77により、定着装置60のニップ部Nに向けて(図2参照:矢印F方向)搬送されてくる。そして、ニップ部Nを通過する用紙P表面の未定着トナー像は、主としてロールニップ部N1に作用する圧力と熱とにより用紙Pに定着される。
その結果、本実施の形態の定着装置60においては、連続通紙時においても定着温度を略一定に維持することが可能となる。また、高速定着動作の開始時に定着温度が落ち込む温度ドループ現象の発生を抑制することが可能となる。特に、熱容量の大きな厚紙等に対する定着においても、定着温度の維持および温度ドループの発生を抑制することができる。さらには、紙種に対応させて定着温度を途中で切り替える(定着温度のアップおよびダウンの双方を含む。)必要がある場合にも、定着ベルト610は熱容量が小さいので、ハロゲンヒータ616a、さらにはハロゲンヒータ616b、ハロゲンヒータ616cの出力調整により、所望の温度への切り替えを容易、かつ速やかに行うことも可能となる。
そのため、本実施の形態のロールニップ部N1においては、定着ベルト610がラップされている側の定着ロール611は殆ど変形しない構成が実現されている。それにより、定着ベルト610は、ロールニップ部N1を通過する際に、その進行速度を一定に維持することが可能となり、ロールニップ部N1において定着ベルト610にシワや歪みが生じることを抑制することができる。その結果、ロールニップ部N1を用紙Pが通過する際に、定着ベルト610のシワや歪みに起因するトナー像の乱れの発生が抑えられ、良質の定着画像を安定的に提供することが可能となる。
そのため、ロールニップ部N1において定着ロール611の曲率のもとで加熱加圧された用紙Pは、剥離ニップ部N2において加圧ロール62による相反する方向に向いた曲率に進行方向が変化させられる。その際に、用紙P上のトナー像と定着ベルト610表面との間で微小なマイクロスリップが生じる。それによって、トナー像と定着ベルト610との付着力が弱められ、用紙Pは定着ベルト610から剥離され易い状態が形成される。このように、剥離ニップ部N2は、最終の剥離工程で確実に剥離が行なわれるための準備工程にも位置付けられる。
さらには、剥離ロール642は回転自在に軸支されているため、急激に屈曲する剥離領域Rにおいても、定着ベルト610はスムーズにその進行方向を変えることが可能となり、定着ベルト610の円滑な回動を促進することもできる。その際に、剥離領域Rでは、剥離ロール642により加圧ロール62表面に変形(凹部)を生じさせない所定圧以下のニップ圧が設定されている。それにより、剥離パッド64による剥離性能を安定化させることが可能となり、画像形成装置の高速化を図った場合にも、ベタ画像が形成された「コシ」の弱い薄紙に対しても、安定して用紙分離を行うことができる。
実施の形態1では、画像形成装置に搭載される定着装置60において、所定のニップ圧プロファイルを形成する剥離押圧パッド641と、剥離角度設定部材としての定着ベルト610内周面側に設定された剥離ロール642とにより構成された剥離パッド64を用いる場合について説明した。実施の形態2では、所定のニップ圧プロファイルを形成する剥離押圧パッド641と、剥離角度設定部材としての定着ベルト610外周面側に設定された剥離角度調整ロール643とにより構成された剥離パッド64を用いる場合について説明する。なお、実施の形態1と同様な構成については同様な符号を用い、ここではその詳細な説明を省略する。
一方、剥離角度調整ロール643は、例えば外径が8〜10mmのステンレスからなるロール部材である。そして、剥離押圧パッド641の外側面641bに形成された湾曲部641dと対向する位置にて、剥離押圧パッド641方向(矢印Z方向)に接離自在に配設され、定着ベルト610を外周面側から剥離押圧パッド641側に押し付けるように構成されている。
さらに、剥離角度調整ロール643は矢印J方向に回転自在に軸支されているので、定着ベルト610が湾曲部641dをスムーズに進行することが可能である。そのため、定着ベルト610の円滑な回動を促進することもできる。
このように、使用される用紙Pが例えば厚紙である場合、形成される画像の先端余白部が広い場合、画像の印字比率が小さい場合等といった、比較的剥離を容易に行なうことができる場合には、剥離角度調整ロール643の配置位置を調整することにより、剥離角θ3を小さく設定することも可能である。その場合には、剥離領域Rにおいて定着ベルト610に急激な変形が生じるのを極力抑えることができるので、定着ベルト610の寿命を極力延ばすことができる。また、剥離角度調整ロール643表面の磨耗を抑え、剥離角度調整ロール643の寿命も極力延ばすことができる。そのため、定着装置60としての使用可能期間を延ばすことができるというメリットも生じる。
また、本実施の形態の剥離パッド64では、必要に応じて剥離角度調整ロール643の配置位置を制御することで、定着ベルト610等の寿命を極力延長させることができるので、定着装置60の長期に亘る使用を保証することも可能となる。
実施の形態1では、画像形成装置に搭載される定着装置60において、定着ベルトモジュール61に対して圧接して配置される加圧部材として、加圧ロール62を用いた構成について説明した。実施の形態2では、加圧部材として複数のロールにより加圧ベルト700が張架された加圧ベルトモジュール70を用いた構成について説明する。なお、実施の形態1と同様な構成については同様な符号を用い、ここではその詳細な説明を省略する。
本実施の形態に係る定着装置90では、加圧ベルト700の内側に圧力パッド704が加圧ベルト700を介して定着ロール611側に向けて付勢された状態で配置され、加圧ベルト700を定着ロール611のラップ領域に押圧している。また、ベルトニップ部N3の最下流部では、加圧ロール701が、加圧手段としての圧縮コイルスプリング(不図示)によって、加圧ベルト700および定着ベルト610を介して定着ロール611の中心軸に向けて付勢されており、定着ロール611および定着ベルト610の当接部に局所的な高圧を生じさせている。
そのため、ベルトニップ部N3を幅広く形成することができるので、用紙P上のトナー像に対するさらなる安定した定着性能を実現することが可能となる。また、加圧ロール701による局所的な高圧によって溶融したトナー像に効率的に圧力を加えるので、高い定着性を保持するとともに、トナー像表面を平滑にしてカラー画像に良好な画像光沢を付与することができる。
なお、加圧ロール701、インレットロール702および張架ロール703のいずれかのロールには、加圧ベルト700のベルトエッジ位置を検知するベルトエッジ位置検知機構と、ベルトエッジ位置検知機構の検知結果に応じて加圧ベルト700の軸方向における当接位置を変位させる軸変位機構とを配設し、加圧ベルト700の蛇行(ベルトウォーク)を制御するように構成することも可能である。
圧力パッド704の弾性体部材としては、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の耐熱性の高い弾性体や、板バネ等を用いることができる。弾性体部材上に形成された低摩擦層は、加圧ベルト700内周面と圧力パッド704との摺動抵抗を小さくするために設けられ、摩擦係数が小さく、耐摩耗性のある材質であることが望ましい。具体的には、テフロン(登録商標)を含浸させたガラス繊維シート、フッ素樹脂シート、フッ素樹脂塗膜等を用いることができる。
それにより、本実施の形態の剥離パッド64においても、確実に用紙Pの剥離が可能となる剥離角θ2を設定できる剥離ロール642により、剥離パッド64での剥離性能を向上させることが可能となり、用紙Pは剥離ニップ部N2を出た時点で定着ベルト610から確実かつ安定的に曲率分離される。また、剥離ロール642により、剥離押圧パッド641における押圧面641cの幅面積を極めて小さく形成することも可能となる。そのため、剥離ロール642による確実かつ安定的な剥離性能を維持しながら、剥離ニップ部N2を通過する際の剥離押圧パッド641と定着ベルト610との摺動摩擦を低減することができる。それにより、定着ベルト610の回動を円滑に行なうことが可能となるので、高品質な定着画像を安定して提供することができる。
Claims (17)
- 記録材に担持されたトナー像を定着する定着装置であって、
回動可能な定着ロールと、
前記定着ロールに張架されるベルト部材と、
前記ベルト部材を介して前記定着ロールを押圧する加圧部材と、
前記定着ロールと前記加圧部材との圧接部の下流側近傍にて、前記ベルト部材の外表面を前記加圧部材に押圧する剥離部材とを備え、
前記剥離部材は、前記ベルト部材の外表面を前記加圧部材に押圧する押圧部材と、当該押圧部材の下流側近傍にて当該ベルト部材が当該加圧部材から離隔する角度を設定する剥離角度設定部材とを含むことを特徴とする定着装置。 - 前記剥離部材は、前記剥離角度設定部材が、前記ベルト部材の内周面側であって前記押圧部材が前記加圧部材を押圧する面の最下流部領域に配置されたロール状部材で構成されたことを特徴とする請求項1記載の定着装置。
- 前記ロール状部材は、前記ベルト部材の移動方向と同一の方向に回転自在に構成されたことを特徴とする請求項2記載の定着装置。
- 前記剥離部材は、前記剥離角度設定部材が、前記押圧部材の前記加圧部材を押圧する面よりも下流側の近傍の側面に形成された凹状部と、前記ベルト部材の外周面側であって当該凹状部に対向する位置に配置されたロール状部材とで構成されたことを特徴とする請求項1記載の定着装置。
- 前記ロール状部材は、前記凹状部に前記ベルト部材を介して当接する位置と当該凹状部から離隔された位置との間で、当該ベルト部材と接触した状態を維持しながら移動可能に構成されたことを特徴とする請求項4記載の定着装置。
- 前記ロール状部材は、前記ベルト部材の移動方向と同一の方向に回転自在に構成されたことを特徴とする請求項4記載の定着装置。
- 記録材に担持されたトナー像を定着する定着装置であって、
回動可能な定着ロールと、
前記定着ロールに張架されるベルト部材と、
前記ベルト部材を介して前記定着ロールを押圧するように配置されてニップ部を形成する加圧部材と、
前記定着ロールと前記加圧部材との圧接部の下流側近傍にて、前記ベルト部材の外表面を当該加圧部材に押圧する押圧部材と、当該押圧部材の下流側近傍にて当該ベルト部材の進行方向を屈曲させる回転部材と
を備えたことを特徴とする定着装置。 - 前記回転部材は、前記加圧ロール表面に変形を生じさせない押圧力で当該加圧ロールを押圧することを特徴とする請求項7記載の定着装置。
- 前記押圧部材は、前記定着ロールと前記加圧部材との圧接部の下流側端部から当該加圧部材と当該押圧部材との圧接部の下流側端部に至る領域のニップ圧が、前記ベルト部材の進行方向に向けて単調減少するように設定されたことを特徴とする請求項7記載の定着装置。
- 前記押圧部材は、前記定着ロールと前記加圧部材との圧接部の下流側端部と当該押圧部材の上流側端部との間の領域のニップ圧Pnが、前記ベルト部材の絶対温度をTn、周辺環境の絶対温度をTo、大気圧をPoとして、Pn≧Po×(Tn/To−1)を満たすように設定することを特徴とする請求項7記載の定着装置。
- 前記押圧部材は、当該押圧部材の上流側端部が前記定着ロールと前記加圧部材とで画成されるくさび状領域内に配置されることを特徴とする請求項7記載の定着装置。
- 前記加圧部材は、前記定着ロールとの圧接部での凹み量が当該定着ロールの凹み量よりも大きいことを特徴とする請求項7記載の定着装置。
- トナー像を形成するトナー像形成部と、
前記トナー像形成部によって形成されたトナー像を記録材上に転写する転写部と、
前記記録材上に転写されたトナー像を当該記録材に定着する定着部とを含み、
前記定着部は、
回動可能な定着ロールと、
前記定着ロールに張架されるベルト部材と、
前記ベルト部材を介して前記定着ロールを押圧するように配置された加圧部材と、
前記定着ロールと前記加圧部材との圧接部の下流側近傍にて、前記ベルト部材の外表面を当該加圧部材に押圧する剥離部材とを備え、
前記剥離部材は、前記ベルト部材の外表面を前記加圧部材に押圧する押圧部材と、当該押圧部材の下流側近傍にて当該ベルト部材が当該加圧部材から離隔する角度を設定する剥離角度設定部材とを含むことを特徴とする画像形成装置。 - 前記定着部の前記剥離部材は、前記剥離角度設定部が前記ベルト部材の進行方向を90°以上屈曲させることを特徴とする請求項13記載の画像形成装置。
- 前記定着部の前記剥離部材は、前記剥離角度設定部材が、前記ベルト部材の内周面側であって前記押圧部材が前記加圧部材を押圧する面の最下流部領域に配置された回転部材で構成されたことを特徴とする請求項13記載の画像形成装置。
- 前記定着部の前記剥離部材は、前記剥離角度設定部材が、前記押圧部材の前記加圧部材を押圧する面よりも下流側の近傍の側面に形成された凹状部と、前記ベルト部材の外周面側であって当該凹状部に対向する位置に配置された回転部材とで構成されたことを特徴とする請求項13記載の画像形成装置。
- 前記定着部は、前記加圧部材が複数の張架ロールによってベルト部材が張架された加圧ベルトモジュールで形成されたことを特徴とする請求項13記載の画像形成装置。
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