JP4792535B1 - フライ用油脂 - Google Patents

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Abstract

【課題】加熱後の酸化に対する安定性が良好であり、しかも独特の硬化油の風味を有し、かつトランス異性体の可及的に少ないフライ用油脂を得ることである。
【解決手段】食用油脂に対する水素添加を60〜75℃の温度範囲内で行いヨウ素価を5以上低下させ、かつ前記水素添加によるトランス酸増加量が5%以下であるようにヨウ素価の低下量1単位当たりの油脂温度上昇率を0.2〜0.5に調整した水素添加油脂を、20質量%を超え100質量%以下含有するフライ用油脂とする。充分な水素添加が行なわれており、しかも温度を制御しながら水素添加反応を行なって硬化させた油脂を採用したことにより、酸化に対する安定性および風味が良好な状態になり、しかもトランス異性体の含有量の少ないフライ用油脂となる。
【選択図】なし

Description

この発明は、食品加工用の油脂のうち、天ぷら、フライ、空揚げ、ドーナツなどの食品の製造に用いるフライ用油脂に関するものである。
従来、わが国では家庭での天ぷらなどのフライ用油脂には、大豆油や菜種油などの液状の油が広く用いられてきたが、外食産業やフライ麺、冷凍食品などの食品工場で製造されるフライ食品には長期保存性が必要とされるようになり、水素添加して安定性を改善した油やパーム油などの固形脂が用いられるようになった。
一方、このような硬化油には、加熱調理されるときに「硬化油風味」とも呼ばれる独特の香気が発生することが知られており、例えば揚げ菓子などにはそのような風味が好まれる場合がある。
パーム油やパーム油の分別油は、酸化安定性がかなり良いものであり、フライ用油脂として用いられるが、加熱するとパーム油特有の風味が発生して需要者には好まれない場合がある。
また、最近では水素添加された油脂中に生じたトランス異性体が健康上に問題があるものと喧伝され、食品全般に水素添加油脂の使用を控える傾向が見られる。
また、トランス酸含量を低減させながら硬化油風味をも付与できる加熱調理用の油脂としては、ラード1〜20重量%、融点20〜40℃の菜種硬化油等の硬化油1〜20重量%および非硬化油からなり、トランス酸含量が3重量%以下の油脂が知られている(特許文献1)。
特開2009−5681号公報
特許文献1では、硬化油の使用量を20重量%以下にすることでトランス酸含量を低減させており、配合した油脂の総トランス酸含量は低くできるが硬化油の風味が弱く、酸化安定性が十分に改善できるとは考えにくい。
すなわち、油脂の酸化安定性を改善し、硬化油の風味を付与しながらトランス酸含量を低く抑えるというこれら3つの課題を解決したものとするのは困難である。
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を一挙に解決し、加熱調理時および加工食品そのものの酸化に対する安定性が良好であり、しかも硬化油特有の風味も保持し、かつトランス異性体の少ないフライ用油脂を得ることである。
上記の課題を解決するため、この発明においては、食用油脂に対して60〜75℃の温度下に制御して水素添加を行ない、ヨウ素価を5以上低下させ、ヨウ素価の低下量1単位当たりの油脂温度上昇率を0〜0.5に制限し、かつ前記水素添加によるトランス酸増加量が5%以下になるように水素添加反応を行って得られた油脂を、20質量%を超え100質量%以下含有するフライ用油脂としたのである。
この発明のフライ用油脂は、トランス酸の増加量を5%以下に低く抑えながらヨウ素価を5以上低下するように、低温下で水素添加を行って得られた油脂を採用したことにより、酸化に対する安定性が改善しかつ硬化油特有の風味も保持しながらトランス異性体の含有量の少ないフライ用油脂となる。
水素添加時の所定の条件とは、「60〜75℃に制御された低温下でヨウ素価の低下量1単位当たりの油脂温度上昇率を0〜0.5に制限すること」である。この条件を満たすためには、水素添加反応系に対する冷却熱量もしくは水素供給量またはそれら両方を制御することが好ましい。
この条件によれば、反応速度を抑えながら水素添加が行なえ、ヨウ素価を5以上低下させてもトランス酸の増加量を低く抑える事が可能となり、酸化安定性の改善および硬化油の風味付与をしながら水素添加が効率よく行なえる。
この発明では、上記原料油脂が、動物油脂、植物油脂またはそれらの混合油脂からなり、特に有効な油脂としては多価不飽和脂肪酸(PUFA)を30質量%以下含有する原料油脂であるが、このようにあえて活性メチレン基の少ない比較的ヨウ素価の低い物性の油脂を対象とすることにより、所期したトランス酸量の低い硬化油である油脂が効率よく得られる。
また、上記水素添加油脂は、60〜75℃の温度範囲内に制御して水素添加反応を行うことによって、ヨウ素価を1単位低下させる際のトランス酸の増加量が0.05〜0.25%となり、トランス酸の増加量が低く抑えられた油脂となる。
このような水素添加油脂を、20質量%を超え100質量%以下配合したフライ用油脂は、CDM試験(Conductometric Determination Method ;ランシマット法)により10時間以上の酸化安定性を有するものであることが、酸化安定性の優れた所定の基準にするために好ましい。
上記したCDM試験は、試料を反応容器で120℃(基準油脂分析試験法で定められた試験温度)に加熱しながら,その中に清浄空気を送り込み、試料の酸化により生成した揮発性分解物を水中に捕集して、捕集水の導電率が急激に変化する折曲点までの時間を測定する試験法である。
この発明のフライ用油脂は、上記の方法を採用することによって、加熱後の酸化に対する安定性が良好であり、しかも特有の硬化油の風味を有し、かつトランス異性体の少ないフライ用油脂となる利点がある。
水素添加油脂に配合される水素添加油以外の油脂としては特に制限されないがある程度ヨウ素価の低い、安定性のあまり悪くないものが好ましい。
この発明の実施形態としては、食用油脂に対し、60〜75℃の低温下でヨウ素価を5以上低下させ、かつ前記水素添加によるトランス酸増加量が5%以下であるように、ヨウ素価の低下量1単位当たりの油脂温度上昇率を0〜0.5に制限して水素添加を行った油脂とし、これを、20質量%を超え100質量%以下含有するフライ用油脂とする。
この発明に原料油として用いる食用油脂は、特に限定せずに周知の食用油脂を採用できるものであり、例えば牛脂、ラード、鶏脂等の動物油脂、およびパーム油、分別パーム油、大豆油、菜種油、ヒマワリ油、サフラワー油、綿実油、コーン油等の植物油脂であり、またはこれらから選ばれる2種以上の混合油脂も採用できる。
上記の食用油脂において、全脂肪酸100重量%中に多価不飽和酸を30重量%以下含有する油脂がより好ましい。代表的なものとしては、パーム油、分別パーム油、ラード、牛脂、ハイオレインの菜種油、ヒマワリ油などがあるが、これらに限定されるものではない。
また、この発明における水素添加反応に用いる触媒は、硬化油の製造に使用可能な周知なものを採用する。我国の食品衛生法で認可されている食用油脂の硬化触媒としては、ニッケル触媒があり、ニッケルのフレーク状のものや安定化ニッケルを使用できる。市販品としては、堺化学工業社製のフレーク状ニッケル触媒のSOシリーズ(SO−750、SO−450など)などが挙げられる。
水素添加油脂を含むトランス酸の少ないフライ油脂とするためには、水素添加油脂の製造を従来行われてきた水素添加よりも遙かに低い温度で、ほぼ水素添加反応だけに必要な最低の温度上昇を許容し、しかも制限された温度範囲で行うことが重要である。
すなわち、この発明の水素添加油脂を製造する際には、水素添加反応の温度を60〜75℃になるように温度制御する。その理由は、60℃未満の低温では反応速度が極端に遅くなり実用的ではなく、75℃を越える高温ではトランス異性体の増加が大きくなりすぎ、かつまた反応速度が温度に比例して速くなり、温度コントロールが困難になって所期の目的を達する事が困難になるからである。この水素添加は、敢えて反応速度を制御可能な状態に維持してトランス異性体の生成を抑制するものである。
この発明では、上記のような温度制御を厳密に行なうために、水素添加反応系に対する冷却熱量もしくは水素供給量またはそれら両方を調整することが好ましい。
冷却熱量を調整するには、具体的には反応装置の反応容器中の油温を検出し、それに対応して冷却器の水流量を制御する。冷却熱量の調整だけで温度制御が限界に近くなる場合は供給する水素を停止して反応自体を制御する。
反応装置を用いて水素供給量を調整するには、反応容器内に通じる管路の水素供給圧力、すなわち反応容器内の水素圧を0.5MPa(ゲージ圧)以下とする。
その結果、ニッケル触媒下で60〜75℃の温度範囲内で制御しながら水素添加反応を行なうことにより、ヨウ素価1単位の低下に対するトランス酸の増加が0.05〜0.25%になり、トランス酸の増加量を抑制することができる。
水素添加反応を終了した油脂は濾過タンクへと移送される。そこで濾過された水素添加油は、脱臭工程により脱臭されて後、20質量%を超え100質量%以下配合され、水素添加していない油脂は0質量%以上80質量%未満配合される。また、水素添加反応後に未水添の油脂と混合してから脱臭する工程を採用しても良い。
このようにこの発明の水素添加油脂については、上記以外の操作は従来の水素添加反応における操作と変わりなく、また反応終了後のフライ油の精製もごく普通の操作で足りる。
特に、この発明においては、その水素添加の対象となる油脂を選択することでより顕著な効果を得ることができ、すなわちトランス脂肪酸の量を制限して、しかも酸化安定性の良いフライ油を得ることができる。
こうして得られたフライ用油脂は、トランス酸の増加量が5%以内に抑えられ、CDM10時間以上の酸化安定性を有する。
[実施例1〜4]
容量2リットルの反応容器に原料油脂1kgを仕込み、フレーク状のニッケル触媒(堺化学工業株式会社製:SO−750)を対油0.5%(質量%、以下同じ。)加えて反応開始温度まで真空下で加温した。所定の温度に達した後、水素を充填し、表1中に示す反応温度範囲、温度上昇率などの反応条件を厳密に管理し水素添加反応を行なって硬化油を製造し、触媒を除去後、脱色、脱臭して水素添加油脂を得た。
得られた水素添加油脂のヨウ素価、トランス酸含量を測定し、ヨウ素価減少量、トランス酸増加量、およびトランス酸増加率、油脂温度上昇率を計算し、表1中に示した。
また、得られた水素添加油脂に対し、市販のトコフェロール製剤(エーザイフード・ケミカル社製 イーミックス50L)0.05%添加後、CDM試験を行ない、その結果を表1中に示した。
以下の実施例におけるヨウ素価は、基準油脂分析試験法2.3.4.1-1996(ウィス−シクロヘキサン法)により行なった。
脂肪酸組成測定は、基準油脂分析試験法暫15-2003(社)日本油化学会にて行ない、トランス脂肪酸含有量は、基準油脂分析法暫17-2007にて行ない、融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2.融点(上昇融点)-1996にて行い、CDM試験は、基準油脂分析試験法2.5.1.2で分析を行なった。
なお、以下の表中、トランス酸増加率は、水素添加反応で低下するヨウ素価の1単位当たりに増加するトランス酸の量を、以下の計算式[数1]により算出したものである。
Figure 0004792535
また、表中に示す油脂温度上昇率とは、ヨウ素価の1単位当りの油脂温度上昇率を示し、その計算式は、以下の[数2]の式に示される通りである。
Figure 0004792535
なお原料油としては、パーム油(ヨウ素価:50.8、トランス酸:0.2%、多価不飽和脂肪酸量:10.2%)、精製豚脂(ヨウ素価:60.5、トランス酸量:1.4%、多価不飽和脂肪酸量:9.8%)、パーム分別油(ヨウ素価:56.2,トランス酸:0.2%、多価不飽和脂肪酸量:10.3%)、ナタネ油(ヨウ素価:113.7,トランス酸:1.1%、多価不飽和脂肪酸量:27.5%)を用いた。
[比較例1〜4]
実施例1〜4と同じ原料油を通常の水添方法(反応温度170〜187℃)で反応を行なった以外は実施例1〜4と同様の操作を行い、水素添加油脂を得た。
得られた水素添加油脂について、実施例1〜4と同様に測定試験を行ない、得られた結果を表1中に併記した。
Figure 0004792535
表1の結果から明らかなように、実施例1〜4は、それぞれ対応する比較例1〜4とほぼ同等のヨウ素価まで低下させてもトランス酸含量が低く抑えられ、かつCDM値はいずれも10時間を超え安定性が増していた。
[実施例5、6]
前記実施例1で得た水素添加油脂に未水添のパーム油を50:50になるように配合し、同様に実施例2で得た水素添加油脂に未水添の精製豚脂を50:50になるように配合し、それぞれ市販のトコフェロール製剤を0.05%添加後、CDMを測定し、これらの結果を表2中に併記した。
[比較例5、6]
また前記比較例1で得た水素添加油脂に未水添パーム油を50:50になるように配合し、同様に比較例2で得た水素添加油脂に未水添の精製豚脂を50:50になるように配合し、それぞれ市販のトコフェロール製剤を0.05%添加後、CDMを測定し、これらの結果を表2中に併記した。
[比較例7、8]
実施例1および2の原料油として用いたパーム油および精製豚脂に市販のトコフェロール製剤を0.05%添加後、CDMを測定し、結果を表2中に併記した。
Figure 0004792535
表2の結果より実施例1および2で得られた水素添加油脂は未水添油と混合しても安定性が未水添油よりも高く、トランス酸含量は比較例1および2のような通常水添油を混合した比較例5および6よりも低く抑えられていた。
[フライ品の風味の官能試験]
容量3Lのステンレスビーカーに実施例1、4、6比較例7、8のフライ用油脂をそれぞれ1.5kg入れ、150〜160℃に加熱し、加熱調理する冷凍のフレンチポテト素材を50gずつ5分間フライし、これを1時間に6回、7時間に亘って行ない、使用したフライ油の官能検査を行なった。
実施例1、6とそれぞれの未水添油脂である比較例7、8および実施例4の油脂についてそれぞれ行なった結果を表3中にまとめて示した。
Figure 0004792535
表3の結果からも明らかなように、比較7、8のような未水添油ではフライ開始から3時間後には酸化によってパーム油特有のにおいや動物臭が際立って感じられた。
一方、実施例の所定条件で水素添加されたフライ油では、フライ開始から7時間後でも酸化臭は感じられず、加熱後の酸化に対する安定性が良好であり、しかも風味も良好であった。

Claims (3)

  1. 食用油脂をニッケル触媒下で60〜75℃の温度範囲内に制御して水素添加する際に、水素供給圧力を0.5MPa以下にしてヨウ素価の低下量1単位当たりの油脂温度上昇率を0〜0.5に調整することによりヨウ素価を1単位低下させる際のトランス酸の増加量を0.05〜0.25%に抑制すると共にヨウ素価を5以上低下させ、かつ前記水素添加によるトランス酸増加量が5%以下であるように反応を制御し、得られた水素添加油脂を、20質量%を超え100質量%以下配合するフライ用油脂の製造方法。
  2. 上記食用油脂が、動物油脂、植物油脂またはそれらの混合油脂からなり、多価不飽和脂肪酸を30質量%以下含有する食用油脂である請求項1に記載のフライ用油脂の製造方法。
  3. フライ用油脂が、CDM(Conductometric Determination Method)試験により10時間以上の酸化安定性を有するものである請求項1または2に記載のフライ用油脂の製造方法。
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