JP4792203B2 - 導電性ito膜上への金属薄膜層の形成方法、および該方法による導電性ito膜上の金属薄膜層 - Google Patents

導電性ito膜上への金属薄膜層の形成方法、および該方法による導電性ito膜上の金属薄膜層 Download PDF

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本発明は、導電性ITO(ndium in xide)膜上、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に金属薄膜層を形成する方法、および該形成方法により作製される導電性ITO膜上、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜層に関する。特には、本発明は、導電性ITO膜の表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に高い密着性を有し、かつ導電性ITO膜と良好な導電性接触を達成する金属薄膜層を形成する方法に関する。
導電性ITO膜は、光透過性電極層として、平面ディスプレイ用の液晶表示装置などで利用されている。この導電性ITO膜で形成される透明電極・配線層を有する透光性基板の表面に、種々の電子部品を実装することで、全体のディスプレイ・システムが構成されている。従来から、透光性基板の表面への種々の電子部品の実装は、例えば、導電性ITO膜で形成される透明電極・配線層の外縁部に設ける接合端子金属パッド面と、電子部品の接合端子用金バンプとの間をACF(Asymmetric Conductive Film;異方性導電フィルム)を介して、密着させる手法が利用されている。このACFを利用する接合では、透光性基板表面の接合端子用金属パッド面と、電子部品の接合端子用金バンプとの間にACFを挟み、電子部品を圧接しつつ、加熱することで、ACFを構成する樹脂成分により、接合端子金属パッド面ならびに金バンプ表面への接着と、その加圧方向への電気導通路の形成がなされる。
この加熱・圧接工程では、一般に、ACFを構成する樹脂成分を軟化・流動化するに必要な加熱温度、例えば、180℃以上の加熱下、10秒間程度、圧接を施す操作を要している。また、ACFを利用する接合は、ACFを構成する樹脂成分の接着力によるため、樹脂成分の接着性能の経時的劣化が、その長期信頼性を支配している。接合面積が広い場合、樹脂成分の接着性能の経時的劣化が進行しても、接合面全体の導通特性の急激な低下を引き起こすことはなく、一定水準以上の長期信頼性が達成されている。一方、実装密度が増し、個々の接合端子金属パッド面の微細化が進むとともに、端子面での接合面積が狭くなる。その状態で、樹脂成分の接着性能の経時的劣化が進行すると、接合面における導通特性の急激な低下が顕著に見出されようになる。
その他、ITO透明電極・配線層を有する透光性基板は、ガラスなどの透光性絶縁材料を基板材料に用いている。従来、接合端子金属パッド面は、このガラスなどの透光性絶縁基板上に、所望のパターン形状のメッキ膜など利用して作製されている。そのため、ACFを利用する接合の際、180℃以上の加熱下、位置合わせを行うと、室温に冷却した際、ガラスなどの透光性絶縁材料と電子部品部材の熱膨張率差異に起因し、接合部に歪み応力が生成される。従って、ACFの樹脂成分による接着界面に歪み応力が印加された状態となり、樹脂成分の接着性能の経時的劣化を促進する要因ともなっている。逆に、室温付近で位置合わせを行い、その後、180℃以上に加熱して、接合を行うと、熱膨張率差異に起因して、相対的な位置ズレが引き起こされる。この相対的な位置ズレは、端子金属パッド面での接合面積が狭くなると、実際に接合されている面積の減少につながり、同じく、接合面における導通特性の長期信頼性を低下させる一因となる。
更に、ガラスなどの透光性絶縁基板上に、別途、接合端子金属パッド面を設ける代わりに、ITO透明電極・配線層の表面に直接、接合端子を設けることも検討されている。接合端子金属パッド面は、例えば、メッキ下地として、薄膜の金属膜を形成し、マスク・メッキ法により、その薄膜金属膜上に、所望の形状、膜厚の金属メッキ層を形成することで作製される。その際、ITO透明電極・配線層に対する、メッキ下地用の金属膜の親和性、密着性が不足すると、この界面において、メッキ下地用金属膜の剥離が生じ易く、接合端子金属パッド面としての利用に適しない。
加えて、液晶ディスプレイ装置では、その表示領域面積の拡大が図られており、用いるガラスなどの透光性絶縁基板のサイズも対応して大きなものとなっている。従って、微細なパターン形状の接合端子金属パッド面を作製する際、従来のマスク・メッキ法に代えて、導電性金属ペーストを用い、印刷法を応用して、目的とする微細なパターン形状の金属薄層を形成する手法の開発が望まれている。ガラスなどの透光性絶縁基板自体の表面に、導電性金属ペーストを用い、微細な配線パターンを形成する手法は、既に実用水準に達している。しかしながら、ITO透明電極・配線層の表面に、実用水準に達する密着強度、導通特性を有する接合端子金属パッド面を、導電性金属ペーストを用い、印刷法を応用して形成する手法は、現状まだ研究段階にある。特に、ACFを利用する接合に代えて、金メッキ層で形成される接合端子金属パッド面と、電子部品の接合端子用金バンプとの接合に、超音波ウエルディング法の利用が可能な導電性金属ペーストを用いた金属薄膜をITO透明電極・配線層の表面に形成する手法の研究は、漸く着手された段階にある。
電子部品の接合端子用金属バンプを、配線回路基板上の接合端子金属パッド面上に、超音波ウエルディング法を利用して接合すると、実質的な加熱を行うことなく、同種の金属間における緊密な接合の形成がなされる。その際、配線回路基板表面に接合端子金属パッドを形成する手段として、マスク・メッキ法による金属メッキ層に代えて、ナノサイズの金属微粒子(金属ナノ粒子)を含むペースト状の分散液を利用して形成される、緻密な金属微粒子焼結体層の利用が検討されている。例えば、銅箔などの金属層を利用する配線回路基板では、接合端子金属パッドは、この金属層表面に形成される。その場合には、前記金属層表面に高い密着性を示す、緻密な金属微粒子焼結体層を、金属ナノ粒子を含むペースト状の分散液を利用して形成することが可能である。一方、金属ナノ粒子を含むペースト状の分散液を利用して、緻密な金属微粒子焼結体層をITO透明電極・配線層の表面に直接形成すると、下地の導電性ITO膜と、金属微粒子焼結体層との密着性が十分でなく、この界面において、金属微粒子焼結体層の剥離が生じることも少なくない。
導電性ITO膜など、下地の酸化物と、その表面に形成される金属メッキ層との間で高い密着性を達成する手段としては、メッキ下地層として、酸化物膜に対する密着性に優れる金属材料の薄膜を酸化物膜表面に予め形成しておく手法が利用されている。このメッキ下地層用の金属薄膜は、スパッター法、蒸着法などの気相堆積法により、基板面全体を被覆するように形成した後、目的とするパターン領域を除き、エッチングにより除去する手法が利用されている。同様に、金属ナノ粒子を含むペースト状の分散液を利用して、緻密な金属微粒子焼結体層をITO透明電極・配線層の表面に直接形成する場合にも、高い密着性を達成する上では、その下地層として、ITO膜に対する密着性に優れる金属材料の薄膜を利用することが有効である。
但し、導電性ITO膜で形成される透明電極・配線層を有する透光性基板の基板サイズが増すと、下地層用の金属薄膜の形成にスパッター法、蒸着法を利用すると、大面積用のスパッター装置、蒸着装置を要するなど、作製装置上の大きな制約要因となる。従って、導電性ITO膜表面に、下地層用の金属薄膜を形成する手段として、湿式方法を利用して、所望の領域に目標の膜厚を有する下地金属薄膜を高い再現性、作業効率で形成可能な手法の開発が望まれる。仮に、この湿式方法を利用して、導電性ITO膜表面に、下地層用の金属薄膜の形成が可能となると、得られる下地金属薄膜の表面に、金属微粒子を含むペースト状の分散液を利用して、高い密着性を示す、緻密な金属微粒子焼結体層を形成することが可能となる。
本発明者らは、予備的な検討を行った結果、導電性ITO膜表面に対して、クロム、マンガン等の遷移金属は、高い密着性を示すことを確認した。下地金属薄膜として、このクロム、マンガン等の遷移金属を利用する際、湿式方法を利用して、所望の領域に目標の膜厚を有する、前記遷移金属薄膜を高い再現性、作業効率で形成可能な手法の開発が望まれる。
本発明は前記の課題を解決するもので、本発明の目的は、導電性ITO膜表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に下地層用のクロム、マンガン等の遷移金属薄膜を形成し、この遷移金属薄膜の有する高い密着性を利用することによって、導電性ITO膜表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面との密着性に優れ、同時に、導電性ITO膜との間に良好な導電性接触を達成可能な、金属微粒子焼結体層からなる金属薄膜層を形成する方法を提供することにある。特に、本発明の目的は、金属微粒子を含むペースト状の分散液を利用する、金属微粒子焼結体層の形成に加えて、下地層用のクロム、マンガン等の遷移金属薄膜の形成にも、湿式方法を利用し、下地基板とするガラス基板、ならびに透光性基板上の導電性ITO膜上に種々の印刷法を応用して、所望の微細な形状パターンを有する金属薄膜層を形成する方法を提供することにある。更には、本発明の目的には、かかる金属薄膜層の形成方法を利用して作製される、導電性ITO膜上、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜層の提供も含まれる。
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を進めた。その結果、金属ならびにITO膜の双方に対して密着性を示す遷移金属、例えば、チタン、クロム、マンガン等の遷移金属について、有機物アニオン種ならびにかかる遷移金属のカチオン種を含む、遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を導電性ITO膜表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に塗布し、加熱処理を施すと、ITO膜表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に、還元を受けて生成する遷移金属原子が緻密に積層されてなる、遷移金属薄膜層が形成されることを見出した。加えて、この遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液は、利用する有機溶媒の粘度、遷移金属化合物の溶解濃度を調整することで、種々の印刷方法を利用して、所望の微細な形状パターンを有し、所定の薄い膜厚を示す塗布層を形成が可能であることも見出した。従って、この塗布層に加熱処理を施すことで得られる、遷移金属薄膜層は、極薄い膜厚であるが、塗布された導電性ITO膜の表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面と高い密着性を示し、また、その上に形成される金属微粒子焼結体層とも、その焼結工程において、緻密で密着性の高い金属間接触を達成できることを、本発明者らは確認した。結果として、得られる金属微粒子焼結体層は、所望の微細な形状パターンで、極薄い膜厚の遷移金属薄膜層を介して、導電性ITO膜表面、あるいは導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に対して、高い密着性を示す金属薄膜として利用可能となることを確認して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明にかかる導電性ITO膜上、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜層の形成方法は、
導電性ITO膜上、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に金属薄膜層を形成する方法であって、
前記金属薄膜層は、平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される、金属微粒子相互の焼結体層からなる、良導電性の薄膜層であり、
前記導電性ITO膜表面、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に対して、前記金属微粒子相互の焼結体層は、該金属ならびに導電性ITO膜、ガラス基板表面の双方に対して密着性を示す遷移金属薄膜層を介して、形成されており、
前記導電性ITO膜表面、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に、有機物アニオン種ならびに前記遷移金属のカチオン種を含む、該遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を、所定の膜厚塗布する工程と、
前記遷移金属化合物溶液の塗布膜層に加熱処理を施し、該遷移金属の薄膜層を生成する工程と、
前記導電性ITO膜表面、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の遷移金属薄膜層表面に、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液を所定の膜厚塗布する工程と、
該金属微粒子分散液の塗布膜層に加熱処理を施し、加熱焼成によって金属微粒子相互の焼結体層を形成する工程とを含む
ことを特徴とする導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜層の形成方法である。
本発明にかかる金属薄膜層の形成方法において、前記遷移金属化合物中に含まれる遷移金属種は、チタン、バナジウム、クロム、マンガンからなる群から選択される遷移金属であることが好ましい。また、前記遷移金属化合物の塗布膜層に加熱処理を施して生成される、遷移金属薄膜層の膜厚は、0.03μm〜0.5μmの範囲に選択することが好ましい。特に、有機物アニオン種ならびに遷移金属のカチオン種を含む、前記遷移金属化合物は、有機酸由来の有機物アニオン種を含んでなる有機酸の該遷移金属塩、または、有機物アニオン種を配位子とする該遷移金属の錯化合物であることが好ましい。一方、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液に含まれる、該金属微粒子の金属種は、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される金属であることが望ましい。
また、本発明は、上記する本発明にかかる金属薄膜層の形成方法を用いることで形成可能な金属薄膜層の発明をも提供し、
すなわち、本発明にかかる導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に形成された金属薄膜層は、
導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に形成された金属薄膜層であって、
前記金属薄膜層は、平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される、金属微粒子相互の焼結体層からなる、良導電性の薄膜層であり、
前記導電性ITO膜表面、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に対して、前記金属微粒子相互の焼結体層は、該金属ならびに導電性ITO膜、ガラス基板表面の双方に対して密着性を示す遷移金属薄膜層を介して、形成されており、
該遷移金属薄膜層は、
前記導電性ITO膜表面、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に、有機物アニオン種ならびに前記遷移金属のカチオン種を含む、該遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を、所定の膜厚塗布し、
前記遷移金属化合物溶液の塗布膜層に加熱処理を施し、該遷移金属の薄膜層を生成することにより形成され、
前記金属微粒子相互の焼結体層は、
前記導電性ITO膜表面、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の遷移金属薄膜層表面に、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液を所定の膜厚塗布し、
該金属微粒子分散液の塗布膜層に加熱処理を施し、加熱焼成によって金属微粒子相互の焼結を行うことにより形成されている
ことを特徴とする導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に形成された金属薄膜層である。その際、
前記遷移金属薄膜層の形成に利用される、遷移金属化合物中に含まれる遷移金属種は、チタン、バナジウム、クロム、マンガンからなる群から選択される遷移金属であることが好ましい。また、
前記遷移金属化合物の塗布膜層に加熱処理を施して生成される、遷移金属薄膜層の膜厚は、0.03μm〜0.5μmの範囲に選択されることが望ましい。なお、前記遷移金属薄膜層の形成に利用される、前記遷移金属化合物は、有機酸由来の有機物アニオン種を含んでなる有機酸の該遷移金属塩、または、有機物アニオン種を配位子とする該遷移金属の錯化合物であると好適である。
一方、金属微粒子相互の焼結体層の形成に利用される、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液に含まれる、該金属微粒子の金属種は、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される金属であることが好ましい。
更には、本発明にかかる金属薄膜の形成方法は、ITO基板上への電子部品の実装方法へと応用でき、
例えば、本発明にかかる金属薄膜を利用する、ITO基板上への電子部品の実装方法は、
下地基板とするガラス基板表面上に形成されている、導電性ITO膜からなる透明電極層を有するITO基板上に、電子部品を導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜との導電性接合を介して実装する方法であって、
前記導電性ITO膜上、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜層への電子部品の実装は、
前記導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に形成されている金属薄膜と、前記電子部品に設ける接合用金属バンプとを超音波接合法により接合することにより行い、
前記接合に供する、導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に形成されている金属薄膜は、上述する構成を有する、本発明にかかる金属薄膜の形成方法によって作製されている
ことを特徴とするITO基板上への電子部品の実装方法とすることも可能である。
本発明にかかる導電性ITO膜上、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上の金属薄膜層の形成方法では、金属薄膜層の主体として、平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される、金属微粒子相互の焼結体層からなる、良導電性の薄膜層を利用し、この上層の金属微粒子焼結体層と下層の導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面との間に、両者に対して高い密着性を示す遷移金属薄膜層を設けることで、導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に密着性の優れた金属薄膜層の形成を可能としている。加えて、前記遷移金属薄膜層の形成工程では、有機物アニオン種ならびに遷移金属のカチオン種を含む、遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を塗布し、加熱処理を施すことで、生成する遷移金属原子を導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面上に極薄く層状に積層させており、導電性ITO膜、あるいは前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面と高い密着性を達成することが可能である。一方、金属微粒子焼結体層と比較して、この遷移金属薄膜層の体積固有電気伝導率は有意に低いが、その厚さは、極薄いため、かかる遷移金属薄膜層による接触抵抗の増加は回避されている。更には、遷移金属薄膜層の形成、ならびに、金属微粒子焼結体層の形成工程では、共に、各原料を液状として、印刷塗布する手段を利用するため、微細なパターン形状を有する金属薄膜層を、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などを利用して高い再現性と効率で簡便に作製することが可能となる。
以下に、本発明にかかる金属薄膜層の形成方法に関して、より詳しく説明する。
本発明にかかる導電性ITO膜上の金属薄膜層は、高い導電性を示す金属配線層として利用され、更に、電子部品をITO基板上に実装する際、電子部品の接合端子用金属バンプと直接、超音波接合可能な、基板面上の接合端子金属パッドとして利用される。従って、金属薄膜層自体に用いられる金属種は、好ましくは、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される金属とする。
これらの金属は、ITO膜との密着性に劣るため、本発明においては、この金属薄膜層とITO膜表面との間に、両者に対して高い密着性を示す遷移金属薄膜層を設けることで、導電性ITO膜上に密着性の優れた金属薄膜層の形成を可能としている。なかでも、高い密着性を示す遷移金属薄膜層として、チタン、バナジウム、クロム、マンガンからなる群から選択される遷移金属の薄膜層を利用することが好ましい。
ITO膜表面に露呈する酸素原子(In−O,Sn−O)に対して、これら遷移金属原子が配向する配置を達成することで、より高い密着性が達成される。スパッター法、蒸着法などの気相堆積法を利用する際には、ITO膜の最表面に堆積される遷移金属原子の配置は、必ずしも、より高い密着性を達成するに適したものとはならない。本発明の金属薄膜層の形成方法では、有機物アニオン種ならびに遷移金属のカチオン種を含む、遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を利用し、ITO膜の表面に遷移金属原子を被覆、積層する。その際、ITO膜の最表面においては、露呈する酸素原子(In−O,Sn−O)に対して、これら遷移金属原子が配向する配置を達成した状態で被覆、堆積が進む。そのため、ITO膜の最表面と、形成される遷移金属薄膜層との界面では、より高い密着性が達成されている。一方、ITO膜がその表面に形成されているガラス基板において、ITO膜が被覆していない表面は、その構成成分のSiO2に由来する酸素原子(Si−O)が露呈している。このガラス基板自体の表面でも、露呈する酸素原子(Si−O)に対して、遷移金属原子が配向する配置を達成することで、より高い密着性が達成される。結果として、ガラス基板上に形成されるITO膜、ならびにガラス基板自体の表面のいずれに対しても、本発明にかかる方法で形成される遷移金属薄膜層は高い密着性を示す。この下地のガラス基板自体、ガラス基板上に形成されるITO膜の双方に高い密着性を示す遷移金属薄膜層を介して、金属薄膜層の形成を行うことで、得られる金属薄膜層は高い密着性を獲得する。
この遷移金属の薄膜層を生成する過程では、まず、下地のガラス基板表面、ならびにITO膜表面に、有機物アニオン種ならびに遷移金属のカチオン種を含む、遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を、所定の膜厚塗布する。この遷移金属化合物に含まれる、チタン、バナジウム、クロム、マンガンなどの遷移金属は、複数存在する酸化数のうち、有機物アニオン種との塩、または、有機物アニオン種を配位子とする錯化合物を形成可能な酸化数を有する、カチオン種が利用される。例えば、チタンでは、Ti(II)2+、Ti(III)3+、バナジウムでは、V(II)2+、V(III)3+、V(IV)4+、クロムでは、Cr(II)2+、Cr(III)3+、マンガンでは、Mn(II)2+、Mn(III)3+、などの酸化数を有するカチオン種が利用される。特に、チタンでは、Ti(III)3+、バナジウムでは、V(III)3+、V(IV)4+、クロムでは、Cr(III)3+、マンガンでは、Mn(II)2+の酸化数を有するカチオン種の利用が好ましい。さらには、鉄族元素の鉄、コバルト、ニッケルも利用可能であり、鉄では、Fe(II)2+、コバルトでは、Co(II)2+、ニッケルでは、Ni(II)2+、などの酸化数を有するカチオン種が利用される。
一方、有機アニオン種としては、カルボン酸由来のカルボキシラト(−COO-)、アセチルアセトン(CH3COCH2COCH3)由来の2,4−ペンタンジオナト([CH3COCHCOCH3-)など、有機酸の遷移金属塩、または、有機物アニオン種を配位子とする遷移金属の錯化合物を形成可能なアニオン種が利用される。これらの有機酸の遷移金属塩、遷移金属の有機錯化合物は、有機溶媒中において、通常、イオン解離することなく溶解可能である。すなわち、カルボン酸由来のカルボキシラト(−COO-)、アセチルアセトン(CH3COCH2COCH3)由来の2,4−ペンタンジオナト([CH3COCHCOCH3-)は、二座配位の配位子として、中心の遷移金属カチオン種に配位している。その場合、室温近傍では、有機溶媒中において、通常、イオン解離することなく、この二座配位子複数を含む複合体化合物として溶解している。
すなわち、酸化数2の遷移金属カチオン種は、多くの場合、6配位を示し、カルボン酸由来のカルボキシラト(−COO-)、アセチルアセトン(CH3COCH2COCH3)由来の2,4−ペンタンジオナト([CH3COCHCOCH3-)などの二座配位の配位子が二つ、ならびに水分子二つが、カチオン種の周囲に配位する。また、酸化数3の遷移金属カチオン種では、前記の二座配位の配位子が三つ、カチオン種の周囲に配位する。その状態で、カルボン酸由来のカルボキシラト(−COO-)、アセチルアセトン(CH3COCH2COCH3)由来の2,4−ペンタンジオナト([CH3COCHCOCH3-)などの炭化水素鎖部分を利用して、有機溶媒中に溶解している。
本発明では、有機溶媒中に、これら遷移金属化合物を溶解する溶液の塗布液を加熱処理することで、含有される遷移金属の金属被膜層を、ITO膜表面、ならびに、周辺のガラス基板表面(SiO2表面)に高い密着性を有する被膜として形成する。
例えば、Mn(II)2+に対して、カルボン酸由来のカルボキシラト(−COO-)や2,4−ペンタンジオナト([CH3COCHCOCH3-)が二つ配位する遷移金属化合物は、加熱処理した際、二つの化合物間で酸化数の不均化を起こし、2Mn(II)2+→Mn+Mn(IV)4+ のように、金属Mnが生成される。一方、派生するMn(IV)4+ は、系内に存在する有機物を酸化することで、Mn(II)2+ に再生される。これらの反応が、加熱処理を施す間に、連鎖的に進行し、ITO膜表面に遷移金属の薄膜は形成される。特に、Mn(II)2+ は、初期には、ITO膜表面の酸素原子(In−O,Sn−O)に配位する位置において、吸着した上で、不均化反応を起こすことで、ITO膜表面には、緻密で規則的なMnの被覆層が形成される。他の遷移金属、Ti(II)2+、V(II)2+、Cr(II)2+などにおいても、同様に酸化数の不均化に伴って、遷移金属の生成が引き起こされる。
また、前記遷移金属化合物を溶解する溶液の調製に利用される有機溶媒は、カチオン種の周囲に配位している、有機物アニオン種の炭化水素鎖部分によって、所望の溶解性を達成可能なものが利用される。また、遷移金属化合物を溶解する溶液を加熱処理して、遷移金属薄膜層を生成する過程で、徐々に蒸散可能な有機溶媒を利用する。この加熱処理温度は、後に説明するように200℃〜300℃の範囲に選択するので、利用される有機溶媒の沸点も、かかる温度範囲内となるものを選択することが望ましい。テトラデカンやミネラルスピリットなどの炭化水素系高沸点溶媒が好適に利用できる。
次いで、この遷移金属薄膜上に、平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液を所定の膜厚塗布し、金属微粒子分散液の塗布膜層に加熱処理を施すことで、金属微粒子相互の焼結を行う。
その際、遷移金属薄膜層の表面に対しては、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される金属は、十分な密着性を有するので、得られる金属微粒子の焼結体層は、遷移金属薄膜層を介して、ITO膜表面に緊密に固着された状態となる。一方、ITO膜と金属微粒子の焼結体層との間の接触抵抗は、ITO膜と遷移金属薄膜層との界面、遷移金属薄膜層と金属微粒子の焼結体層との界面はいずれも緻密に密着されており、この界面での接触抵抗は小さなものとなる。但し、遷移金属薄膜層の膜厚が、過度に厚いと、利用する遷移金属の抵抗率は大きいため、不必要なシリーズ抵抗の要因となる。換言するならば、遷移金属薄膜層の膜厚は、ITO膜表面に対する密着性を維持できる範囲で、薄くすることが好ましい。従って、遷移金属薄膜層の膜厚は、0.03μm〜0.5μmの範囲に選択することが望ましい。
加えて、遷移金属薄膜層は、遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を利用し、ITO膜表面の目的とする部位に、所望の微細なパターン形状に塗布膜層を形成することで、その膜厚、パターン形状の制御を行う。遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの印刷法を利用して、ITO膜表面の表面に塗布する。用いる溶液の粘度は、印刷方法に応じて、適正な液粘度に選択する。塗布膜厚と溶液中の遷移金属化合物濃度によって、形成される遷移金属薄膜層の膜厚が決定される。その点をも考慮すると、遷移金属薄膜層の膜厚は、機能を達成できる範囲で薄くする、例えば、0.03μm〜0.2μmの範囲に選択することがより望ましい。すなわち、得られる遷移金属薄膜層の膜厚を、0.03μm〜0.5μmの範囲に選択する際、塗布される遷移金属化合物溶液の塗布膜層の膜厚は、0.5μm〜3.0μmの範囲に選択する。例えば、遷移金属薄膜層の膜厚を、0.03μm〜0.2μmの範囲に選択する場合には、塗布される遷移金属化合物溶液の塗布膜層の膜厚は、0.5μm〜2.0μmの範囲に選択する。かかる0.5μm〜2.0μmの塗布膜層の膜厚範囲は、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの印刷法を利用する上で、より好ましい範囲である。
遷移金属化合物溶液の塗布膜層に加熱処理を施し、遷移金属の薄膜層を生成する際、加熱温度は、利用している遷移金属化合物の種類、その濃度に応じて、適宜選択する。一般的には、溶液に含まれる溶媒の蒸散に伴う、濃縮と、遷移金属の生成とが均衡を図りつつ進行する温度範囲に選択することが望ましい。通常、この遷移金属の薄膜層形成工程における、加熱温度は、200℃〜300℃の範囲に選択することが好ましい。
本発明にかかる金属薄膜の形成方法においては、主体となる金属薄膜として、遷移金属薄膜層上に形成される、平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択する金属微粒子相互を焼結した層を利用している。すなわち、目的の微細なパターンに描画されている、金属微粒子を含有する分散液塗布層に対して、かかる金属微粒子相互に焼成処理を施すことで、焼結体に変換したものを利用している。その際、金属微粒子を含有する分散液中において、平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択する金属微粒子を均一な分散状態で保持するため、この金属微粒子表面には、該金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、イオウ原子のいずれかを含む基を有する化合物1種以上を被覆させた、表面被覆分子層を設けている。この表面被覆分子層を設けた状態とすることで、金属微粒子が表面を直接接触させて、融着した集合粒子塊を形成することを回避している。従って、これら表面被覆分子層を有する金属微粒子を含有する分散液塗布層において、含まれる分散溶媒の蒸散が進むと、金属微粒子は、緻密な積層構造をとり、最密充填状態に類する状態に、より確実になる。この効果に伴い、加熱処理して、表面の被覆分子層を除くと、かかる金属微粒子相互は、比較的に低温でも焼成処理を施すことができ、得られる緻密な焼結体は、優れた電気伝導性を示すものとできる。
本発明では、前記金属微粒子の焼成処理は、下地のガラス基板表面、ならびにITO膜上に予め形成された遷移金属薄膜上で実施する。具体的には、金属微粒子の焼成処理工程においては、300℃を超えない範囲に加熱温度を選択し、この加熱に伴い、金属微粒子表面を被覆している表面被覆分子層を熱的に離脱させている。離脱した表面被覆分子は、分散溶媒とともに蒸散され、その結果、金属微粒子の表面は、互いに直接接触し、表面での金属原子拡散に起因して、全体の焼結体層の形成が進行する。同時に、遷移金属薄膜と接触する金属微粒子は、この薄膜表面に露出している遷移金属との間で緻密な金属間結合を形成する。その結果、形成された金属微粒子焼結体層は、遷移金属薄膜と高い密着性で固着される状態となる。
この遷移金属薄膜の表面に、金属超微粒子を含有する分散液塗布層を目的の微細なパターンで描画する工程は、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法を利用することで、高い描画精度と再現性を達成できる。例えば、配線幅および配線間スペースが共に5〜50μmの微細な配線パターンを簡便に形成することができる。なお、この微細なパターン描画には、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法の他にも、オフセット印刷法やインプリント法を適用することも可能である。
なお、実際には、下地層の遷移金属薄膜表面に対する、金属超微粒子を含有する分散液中の分散溶媒の濡れ性が、線輪郭の滲み、歪みに影響を及ぼすので、利用している遷移金属の種類に応じて、適正な濡れ性を達成できる分散溶媒を選択することが望ましい。多くの場合、本発明で利用する分散液中の分散溶媒は、炭化水素系溶媒であり、また、比較的に沸点が高いものであるので、チタン、バナジウム、クロム、マンガンからなる群から選択される遷移金属薄膜を利用すると、適正な濡れ性を達成できる。
本発明で使用する、金属超微粒子を含有する分散液においては、前記遷移金属薄膜表面に対して、適当な濡れ性を示すとともに、表面被覆層を有する金属超微粒子に対しても、所望の分散特性を達成可能な分散溶媒が利用される。これらの要件を満足する分散溶媒として、例えば、室温付近では容易に蒸散することのない、比較的に高沸点な非極性溶剤あるいは低極性溶剤、例えば、テルピネオール、ミネラルスピリット、キシレン、トルエン、テトラデカン、ドデカンなどが好適に用いられる。
また、利用する金属微粒子を含有する分散液中において、平均粒子径を1〜100nmの範囲に選択する金属微粒子を均一な分散状態で保持するため、この金属微粒子表面には、該金属元素と配位的な結合が可能な基として、窒素、酸素、イオウ原子のいずれかを含む基を有する化合物1種以上を被覆させている。この分散性を維持する被覆分子層用の化合物としては、末端にアミノ基(−NH2)、ヒドロキシ基(−OH)、スルファニル基(−SH)を、あるいは、分子内にエーテル(−O−)、スルフィド(−S−)を有する有機化合物であり、用いる分散溶媒との親和性にも優れたものを用いることが好ましい。なお、これら分散剤は、金属微粒子表面を被覆する分子層を形成して、分散性を向上させるものの、最終的に、焼成工程において、金属微粒子相互が表面を接触させる際に、その妨げとは成らないことが好ましい。すなわち、例えば、200℃以上に加熱する際、金属微粒子表面から容易に離脱し、最終的には、蒸散・除去可能である沸点範囲のものが好ましい。
利用可能なアミノ基を有する化合物の代表として、アルキルアミンを挙げることができる。なお、かかるアルキルアミンは、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上となるものが好ましい。ただし、低温焼結処理を行う際には、速やかに、金属超微粒子表面から離脱することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を超えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、アルキルアミンとして、そのアルキル基は、C4〜C20が用いられ、さらに好ましくはC8〜C18の範囲に選択され、アルキル鎖の末端にアミノ基を有するものが用いられる。例えば、前記C8〜C18の範囲のアルキルアミンは、熱的な安定性もあり、また、その蒸気圧もさほど高くなく、室温等で保管する際、含有率を所望の範囲に維持・制御することが容易であるなど、ハンドリング性の面から好適に用いられる。一般に、かかる配位的な結合を形成する上では、第一級アミン型のものがより高い結合能を示し好ましいが、第二級アミン型、ならびに、第三級アミン型の化合物も利用可能である。また、1,2−ジアミン型、1,3−ジアミン型など、近接する二以上のアミノ基が結合に関与する化合物も利用可能である。また、ポリオキシアルキレンアミンを用いることもできる。その他、末端のアミノ基以外に、親水性の末端基、例えば、水酸基を有するヒドロキシアミン、例えば、エタノールアミンなどを利用することもできる。
また、利用可能なスルファニル基(−SH)を有する化合物の代表として、アルカンチオールを挙げることができる。なお、かかるアルカンチオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、好ましくは100℃以上となるものが好ましい。ただし、低温焼結処理を行う際には、速やかに、金属超微粒子表面から離脱することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を超えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、アルカンチオールとして、そのアルキル基は、C4〜C20が用いられ、さらに好ましくはC8〜C18の範囲に選択され、アルキル鎖の末端にスルファニル基(−SH)を有するものが用いられる。例えば、前記C8〜C18の範囲のアルカンチオールは、熱的な安定性もあり、また、その蒸気圧もさほど高くなく、室温等で保管する際、含有率を所望の範囲に維持・制御することが容易であるなど、ハンドリング性の面から好適に用いられる。一般に、第一級チオール型のものがより高い結合能を示し好ましいが、第二級チオール型、ならびに、第三級チオール型の化合物も利用可能である。また、1,2−ジチオール型などの、二以上のスルファニル基(−SH)が結合に関与するものも、利用可能である。
また、利用可能なヒドロキシ基を有する化合物の代表として、アルカンジオールを挙げることができる。なお、かかるアルカンジオールも、金属元素と配位的な結合を形成した状態で、通常の保管環境、具体的には、40℃に達しない範囲では、脱離しないものが好適であり、沸点が60℃以上の範囲、通常、100℃以下の範囲となるものが好ましい。ただし、低温焼結処理を行う際には、速やかに、金属超微粒子表面から離脱することが可能であることが必要であり、少なくとも、沸点が300℃を超えない範囲、通常、250℃以下の範囲となるものが好ましい。例えば、1,2−ジオール型などの、二以上のヒドロキシ基が結合に関与するものなどが、より好適に利用可能である。
一方、本発明が目標とする微細な配線パターンは、最小配線幅および配線間スペースが共に5〜200μmの微細なパターンであり、それを構成する緻密な金属焼結体層の膜厚は、前記最小配線幅に応じて選択される。すなわち、目標とする緻密な金属焼結体層の平均膜厚は、最小配線幅が5〜50μmの範囲では、その最小配線幅の1/10〜1/2の範囲、また、最小配線幅が50〜200μmの範囲では、その最小配線幅の1/100〜1/20の範囲を目標とする。多くの場合、目標とする緻密な金属焼結体層の平均膜厚は、1μm〜10μmの範囲に選択される。また、しかも、前記の平均膜厚において、その膜厚の高い制御性、再現性を達成する上では、利用する金属微粒子の平均粒子径は、大きくとも目標平均膜厚の1/5以下、通常、1/10以下、例えば、2〜100nmの範囲に選択する。なお、より緻密な焼結体層を形成する上では、金属微粒子の平均粒子径を、2〜10nmの範囲に選択することがより好ましい。
この本発明が目標とする微細な配線パターンにおいて、導電体層に利用される金属微粒子の焼結体において、その全体の導電性(抵抗)を主に支配するものは、金属微粒子間相互の良好な電気的接触を達成させる、各金属微粒子同士が相互に接触する面における抵抗である。一方、個々の金属微粒子自体の導電性は、副次的な要素である。そのため、平均粒子径が100nm以下であり、清浄な金属表面を露呈する金属微粒子において、そのナノサイズ効果により、緻密な融着・焼結を完成させている。すなわち、ナノサイズの微粒子表面においては、金属原子の表面拡散、移動が比較的に低温でも活発に進行する現象を利用して、低温焼結処理を施す間に、金属微粒子同士の表面で緻密な融着・焼結を完成させている。この機構を利用するため、平均粒子径が100nm以下の金属ナノ粒子、例えば、平均粒子径5〜20nmの範囲の金属ナノ粒子とした際、300℃以下の温度において、効率的に低温焼結処理が進行する限り、利用する金属元素は特に限定されるものではない。一方、作製される金属微粒子焼結体層は、ITO基板上に種々の電子部品を実装する際、その接合端子用金属パッドとして利用するため、金、銀、銅、白金、パラジウムのいずれかを選択することが好ましい。
場合によっては、単一金属元素からなる金属微粒子に代えて、二種以上の金属種を含む合金材料で構成される金属微粒子の利用も可能である。その際、かかる合金金属微粒子では、金、銀、銅、白金、パラジウムのうちから選択される二種以上の金属からなる合金型金属微粒子を用いることが可能である。
一方、利用する該金属微粒子を含有する分散液は、採用する描画手法に応じて、それぞれ適合する液粘度を有するものに、調製することが望ましい。例えば、微細配線パターンの描画にスクリーン印刷法を利用する際には、該金属微粒子を含有する分散液は、その液粘度を、50〜200Pa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。一方、インクジェット印刷法を利用する際には、液粘度を、5〜30 mPa・s(25℃)の範囲に選択することが望ましい。該金属微粒子を含有する分散液の液粘度は、用いる微粒子の平均粒子径、分散濃度、用いている分散溶媒の種類に依存して決まり、前記の三種の因子を適宜選択して、目的とする液粘度に調節することができる。
なお、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法のいずれを利用する場合であっても、描画される微細パターンの最小配線幅が5〜50μmの範囲である場合、描画される分散液塗布層の平均厚さは、最小配線幅の1/5〜1/1の範囲に選択する必要がある。従って、最終的に得られる緻密な金属微粒子焼結体層の平均膜厚は、塗布層中に含有される分散溶媒の蒸散、焼結に伴う凝集・収縮を考慮すると、5〜50μmの範囲に選択された最小配線幅に対して、その1/10〜1/2の範囲に選択することがより合理的である。
微細なパターンの緻密な金属微粒子焼結体層からなる金属薄膜を導電性ITO膜上に、簡便に、また、高い作業性、再現性で作製することが可能となる。例えば、利用可能な微細なパターンは、配線幅および配線間スペースが共に5〜200μmの微細な配線パターンとなり、その際、形成可能な、緻密な金属微粒子の焼結体層からなる金属パッドの厚さは、1μm〜20μmの範囲、好ましくは、2〜20μmの範囲に選択できる。また、その際、緻密な金属微粒子焼結体層の比抵抗値も、少なくとも、5×10-6Ω・cm以下と、低抵抗の金属薄膜層として利用可能な範囲となる。
本発明にかかる金属薄膜の形成方法を利用して、遷移金属薄膜を介して、下地のガラス基板表面、あるいは、導電性ITO膜上に形成される緻密な金属微粒子の焼結体層からなる金属パッドは、高い密着性を有する。その利点を利用することで、下地のガラス基板表面、あるいは、導電性ITO膜上に形成される金属パッドに対して、電子部品の接合端子用金属バンプと直接、超音波接合する際、下地のガラス基板表面、あるいは、導電性ITO膜上の金属微粒子の焼結体層が剥離を起こすこともない。さらには、本発明の方法によって、導電性ITO膜上に形成される金属微粒子の焼結体層は、高い密着性に加えて、導電性ITO膜と金属微粒子の焼結体層との間に介在する遷移金属薄膜自体の膜厚は薄いため、この遷移金属薄膜に由来するシリーズ抵抗は極僅かなものとなる。
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明はこれら実施例により限定を受けるものではない。
(実施例1)
マンガン(II)のアセチルアセナト錯体:
Figure 0004792203
ビス(2,4−ペンタジオナト)マンガン・2H2Oを利用して、ITO膜表面にMn薄膜層を形成する。
ビス(2,4−ペンタジオナト)マンガン・2H2O(分子量289.15;東京化成工業)1.0g、N,N−ジブチルアミノプルピルアミン(沸点231℃;広栄化学)5.0g、テトラデカン(沸点253.57℃)5.0gを混合し、50℃で30min加熱攪拌して、分散溶液とした。この分散溶液を0.2μmメンブレンフィルターで濾過して、試料溶液(マンガン溶液)を調製した。なお、得られた、試料溶液(マンガン溶液)の液粘度は、6mPa・s(20℃)であった。
ITO膜付きガラス基板上に、この試料溶液を、インクジェット印刷法を用いて塗布し、膜厚μmの均一な塗布膜とした。その後、230℃の乾燥機に投入し、30min加熱保持した。加熱処理後、ITO膜付きガラス表面上、試料溶液を塗布した領域のITO膜は、褐色を呈していた。この褐色を示す被膜層はMn薄膜層であり、その平均膜厚0.2μmであった。
この褐色を示す被膜層上に、インクジェット印刷法により、金ナノペーストを厚さ10μm塗布する。この金ナノペースト塗布膜を、250℃の乾燥機に投入し、1hr保持して、焼成処理を施した。この焼成処理によって、平均厚さ1μmの金ナノ粒子焼結体型の硬化膜が得られた。用いた金ナノペーストは、平均粒子径5nmの金ナノ粒子を、分散溶媒AF7ソルベント(日石三菱製)中に、分散濃度1.7g/mL含む。その液粘度は、8mPa・s(25℃)に調製されている。
また、得られた焼結体型硬化膜のITO膜付きガラス基板に対する密着性に関して、クロスカット試験を実施し、剥離の有無を確認したところ、界面での剥離は見出されなかった。なお、前記Mn薄膜層の介在に伴う、ITO膜と金ナノ粒子焼結体型の硬化膜との間のシリーズ抵抗は、15μΩ・cmと見積もられる。

(実施例2)
マンガン(II)のカルボン酸塩:
Figure 0004792203
2−エチルヘキサン酸マンガン(II)を利用して、ITO膜表面にMn薄膜層を形成する。
2−エチルヘキサン酸マンガン(II) ミネラルスピリット溶液(試薬:和光純薬工業)を、ITO膜付きガラス基板上にインクジェット印刷法を用いて塗布し、膜厚μmの均一な塗布膜とした。なお、前記溶液中の2−エチルヘキサン酸マンガン(II)の含有比率は、1.2g/mLであり、その液粘度は、8mPa・s(20℃)に調製されている。
その後、230℃の乾燥機に投入し、30min加熱保持した。加熱処理後、ITO膜付きガラス表面上、試料溶液を塗布した領域のITO膜は、褐色を呈していた。この褐色を示す被膜層はMn薄膜層であり、その平均膜厚0.3μmであった。
この褐色を示す被膜層上に、インクジェット印刷法により、実施例1に記載する金ナノペーストを厚さ10μm塗布する。この金ナノペースト塗布膜を、250℃の乾燥機に投入し、1hr保持して、焼成処理を施した。この焼成処理によって、平均厚さ1μmの金ナノ粒子焼結体型の硬化膜が得られた。
また、得られた焼結体型硬化膜のITO膜付きガラス基板に対する密着性に関して、クロスカット試験を実施し、剥離の有無を確認したところ、界面での剥離は見出されなかった。なお、前記Mn薄膜層の介在に伴う、ITO膜と金ナノ粒子焼結体型の硬化膜との間のシリーズ抵抗は、20μΩ・cmと見積もられる。

(実施例3)
八面体6配位のバナジウム(III)のアセチルアセナト型錯体:
Figure 0004792203
トリス(2,4−ペンタジオナト)バナジウム:V(acac)3を利用して、ITO膜表面にV薄膜層を形成する。
V(acac)3(分子量348.27、アルドリッチ社)1.0g、N,N−ジブチルアミノプルピルアミン(沸点231℃;広栄化学)5.0g、テトラデカン(沸点253.57℃)5.0gを混合し、50℃で30min加熱攪拌して、分散溶液とした。この分散溶液を0.2μmメンブレンフィルターで濾過して、試料溶液(バナジウム溶液)を調製した。なお、得られた、試料溶液(バナジウム溶液)の液粘度は、6mPa・s(25℃)であった。
ITO膜付きガラス基板上に、この試料溶液を、インクジェット印刷法を用いて塗布し、膜厚μmの均一な塗布膜とした。その後、230℃の乾燥機に投入し、30min加熱保持した。加熱処理後、ITO膜付きガラス表面上、試料溶液を塗布した領域のITO膜は、褐色を呈していた。この褐色を示す被膜層はV薄膜層であり、その平均膜厚0.2μmであった。
この褐色を示す被膜層上に、インクジェット印刷法により、実施例1に記載する金ナノペーストを厚さ10μm塗布する。この金ナノペースト塗布膜を、250℃の乾燥機に投入し、1hr保持して、焼成処理を施した。この焼成処理によって、平均厚さ1μmの金ナノ粒子焼結体型の硬化膜が得られた。
また、得られた焼結体型硬化膜のITO膜付きガラス基板に対する密着性に関して、クロスカット試験を実施し、剥離の有無を確認したところ、界面での剥離は見出されなかった。なお、前記V薄膜層の介在に伴う、ITO膜と金ナノ粒子焼結体型の硬化膜との間のシリーズ抵抗は、27μΩ・cmと見積もられる。
本発明では、印刷法を利用して、導電性ITO膜の表面、ならびに前記導電性ITO膜の下地基板とするガラス基板表面に対して、高い密着性を示す金属薄膜層を形成することが可能となり、この金属薄膜層を接合端子金属パッドとして利用することで、電子部品の接合端子用金属バンプを超音波ウエルディング法により直接接合することができ、接合点における長期信頼性の向上に寄与する。

Claims (11)

  1. 導電性ITO膜上に金属薄膜層を形成する方法であって、
    前記導電性ITO膜は、下地基板とするガラス基板表面上に形成されており、
    前記金属薄膜層は、平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される、金属微粒子相互の焼結体層からなる、良導電性の薄膜層であり、
    前記導電性ITO膜表面対して、前記金属微粒子相互の焼結体層は、該金属ならびに導電性ITO膜双方に対して密着性を示す遷移金属薄膜層を介して、形成されており、
    前記導電性ITO膜表面、有機物アニオン種ならびに前記遷移金属のカチオン種を含む、該遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を、所定の膜厚塗布する工程と、
    前記遷移金属化合物溶液の塗布膜層に加熱処理を施し、該遷移金属の薄膜層を生成する工程と、
    前記導電性ITO膜表面上の遷移金属薄膜層表面に、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液を所定の膜厚塗布する工程と、
    該金属微粒子分散液の塗布膜層に加熱処理を施し、加熱焼成によって金属微粒子相互の焼結体層を形成する工程とを含む
    ことを特徴とする導電性ITO膜上の金属薄膜層の形成方法。
  2. 前記遷移金属化合物中に含まれる遷移金属種は、チタン、バナジウム、クロム、マンガンからなる群から選択される遷移金属である
    ことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜の形成方法。
  3. 前記遷移金属化合物の塗布膜層に加熱処理を施して生成される、遷移金属薄膜層の膜厚は、0.03μm〜0.5μmの範囲に選択される
    ことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜の形成方法。
  4. 有機物アニオン種ならびに遷移金属のカチオン種を含む、前記遷移金属化合物は、有機酸由来の有機物アニオン種を含んでなる有機酸の該遷移金属塩、または、有機物アニオン種を配位子とする該遷移金属の錯化合物である
    ことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜の形成方法。
  5. 前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液に含まれる、該金属微粒子の金属種は、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される金属である
    ことを特徴とする請求項1に記載の金属薄膜の形成方法。
  6. 導電性ITO膜上に形成された金属薄膜層であって、
    前記導電性ITO膜は、下地基板とするガラス基板表面上に形成されており、
    前記金属薄膜層は、平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される、金属微粒子相互の焼結体層からなる、良導電性の薄膜層であり、
    前記導電性ITO膜表面対して、前記金属微粒子相互の焼結体層は、該金属ならびに導電性ITO膜双方に対して密着性を示す遷移金属薄膜層を介して、形成されており、
    該遷移金属薄膜層は、
    前記導電性ITO膜表面、有機物アニオン種ならびに前記遷移金属のカチオン種を含む、該遷移金属化合物を有機溶媒中に溶解した溶液を、所定の膜厚塗布し、
    前記遷移金属化合物溶液の塗布膜層に加熱処理を施し、該遷移金属の薄膜層を生成することにより形成され、
    前記金属微粒子相互の焼結体層は、
    前記導電性ITO膜表面上の遷移金属薄膜層表面に、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液を所定の膜厚塗布し、
    該金属微粒子分散液の塗布膜層に加熱処理を施し、加熱焼成によって金属微粒子相互の焼結を行うことにより形成されている
    ことを特徴とする導電性ITO膜上形成された金属薄膜層。
  7. 前記遷移金属薄膜層の形成に利用される、遷移金属化合物中に含まれる遷移金属種は、チタン、バナジウム、クロム、マンガンからなる群から選択される遷移金属である
    ことを特徴とする請求項6に記載の金属薄膜層。
  8. 前記遷移金属化合物の塗布膜層に加熱処理を施して生成される、遷移金属薄膜層の膜厚は、0.03μm〜0.5μmの範囲に選択される
    ことを特徴とする請求項6に記載の金属薄膜。
  9. 前記遷移金属薄膜層の形成に利用される、前記遷移金属化合物は、有機酸由来の有機物アニオン種を含んでなる有機酸の該遷移金属塩、または、有機物アニオン種を配位子とする該遷移金属の錯化合物である
    ことを特徴とする請求項6に記載の金属薄膜。
  10. 金属微粒子相互の焼結体層の形成に利用される、前記平均粒子径が1〜100nmの範囲に選択される金属微粒子の分散液に含まれる、該金属微粒子の金属種は、金、銀、銅、白金、パラジウムからなる群から選択される金属である
    ことを特徴とする請求項6に記載の金属薄膜。
  11. 下地基板とするガラス基板表面上に形成されている、導電性ITO膜からなる透明電極層を有するITO基板上に、電子部品を前記導電性ITO膜上の金属薄膜層との導電性接合を介して実装する方法であって、
    前記導電性ITO膜上の金属薄膜層への電子部品の実装は、
    前記導電性ITO膜上に形成されている金属薄膜層と、前記電子部品に設ける接合用金属バンプとを超音波接合法により接合することにより行い、
    前記接合に供する、導電性ITO膜上に形成されている金属薄膜は、請求項1〜5のいずれか一項に記載する金属薄膜の形成方法によって作製されている
    ことを特徴とするITO基板上への電子部品の実装方法。
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