次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係るシリンダブロックの加工は、例えば自動車エンジン等の内燃機関(エンジン)を構成するシリンダブロックが有するシリンダボアに対して行われるものであり、シリンダボアについて所定の真円度を得るための仕上げ加工である。そして、シリンダボアに対する仕上げ加工が行われたシリンダブロックの単品状態において、シリンダボアに対して所定の変形が予め付与された状態となる。
すなわち、シリンダボアは、エンジンのクランク軸にコンロッド等を介して連結されるピストンを摺動可能に内装する円柱状の孔部である。このため、エンジンの実働時における弊害の原因となるシリンダボアにおけるフリクションの低減の観点から、シリンダボアについてはエンジンの実働時において所定の真円度が要求される。一方で、シリンダボアは、シリンダブロックにシリンダヘッドが組み付けられることや、エンジンの実働時においてシリンダブロックが熱変形すること等の影響を受けて変形する。このようなシリンダボアの変形(ボア変形)は、シリンダボアの真円度の悪化を招く。
そこで、本発明においては、シリンダブロックに対するシリンダヘッドの組付け時やエンジンの実働時において生じるボア変形が考慮されたうえで、前記のとおりシリンダボアに対して所定の変形が予め付与される。そして、シリンダボアに対して予め付与される所定の変形は、シリンダボアを形成する壁部(シリンダ部)の所定の部分が、このシリンダ部の外側に形成されるウォータジャケット内から(シリンダ部の外側から)押圧された状態で、シリンダボアに対する仕上げ加工が行われることにより得られる。
シリンダ部における所定の部分に対する押圧には、加工用治具が用いられる。シリンダ部の所定の部分が外側から押圧されることにより、シリンダ部の押圧部分について、内側(シリンダボア側)からの圧力に対する剛性が他の部分(非押圧部分)よりも高くなる作用が得られる。また、シリンダ部に対する押圧力の大きさによっては、シリンダ部の押圧部分に対応する部分が内側(シリンダボア側)に膨出変形する作用が得られる。これらの作用が得られた状態で、シリンダボアに対する仕上げ加工によってシリンダボアについて所定の真円度が得られることにより、シリンダボアに所定の変形が付与されることとなる。
すなわち、シリンダ部の押圧部分について内側からの圧力に対する剛性が高くなる作用や、シリンダ部の押圧部分に対応する部分が内側に膨出変形する作用が得られている状態で、シリンダボアに対する仕上げ加工が行われることにより、その押圧部分に対応するシリンダボアの部分が、他の部分に比べて深く(例えばミクロンオーダーで)切削されることとなる。これにより、シリンダボアに予め変形が付与された状態となる。ここで、シリンダ部について内側からの圧力に対する剛性が高められた部分が他の部分に比べて深く切削されることは、内側からの圧力に対する剛性が高められた部分は、仕上げ加工に際しての工具等からの面圧が大きくなり、この面圧に対して弾性変形によって逃げることが防止され、加工による取り代(切削量)が大きくなることに基づく。
このようにシリンダボアに対して予め付与された所定の変形は、シリンダブロックに対するシリンダヘッドの組付けによるボア変形や、エンジンの実働時における熱変形によるボア変形によって相殺される。結果として、エンジンの実働時におけるシリンダボアの真円度の悪化が抑制される。
本発明の第一実施形態について説明する。
まず、本実施形態において加工対象となるシリンダブロック1の構成について説明する。シリンダブロック1は、例えば自動車エンジン等を構成するものであり、その本体がアルミニウムを材料として構成される。
図1および図2に示すように、シリンダブロック1は、シリンダヘッド取付面(以下「ヘッド取付面」という。)3と、シリンダボア4と、ウォータジャケット6とを有する。ヘッド取付面3は、締結部材(ヘッドボルト)によってシリンダヘッド(図示略)が固定される面である。シリンダボア4は、ヘッド取付面3に開口しピストン(図示略)を摺動可能に内装する円柱状の孔部である。ウォータジャケット6は、冷却水の通路となる空間部分であり、シリンダボア4を囲む壁状部分であるシリンダ部5を介してシリンダボア4を取り囲むように形成されヘッド取付面3に開口する。
図2に示すように、本実施形態に係るシリンダブロック1は、直列四気筒のエンジンを構成するものであり、中心軸方向(筒軸方向)が平行となるように隣り合う状態で一列に配設される四個のシリンダボア4を有する。
ヘッド取付面3は、シリンダブロック1の一側において平面として形成されるシール面である。ヘッド取付面3に、ガスケットを介する等してシリンダヘッドが組み付けられる。ヘッド取付面3に対するシリンダヘッドの組付けに際しては、ヘッドボルトが用いられる。つまり、図2に示すように、ヘッドボルトが、シリンダヘッドを貫通するとともにシリンダブロック1に設けられる雌ねじ部分となるボルト穴12に螺挿されることにより、シリンダヘッドがシリンダブロック1に対して締結固定される。
このシリンダヘッドのシリンダブロック1に対する固定に用いられる締結部としてのボルト締結部10、つまりヘッドボルトが螺挿されるボルト穴12は、ヘッド取付面3においてシリンダボア4の周囲に設けられる。本実施形態では、図2に示すように、シリンダボア4の周囲において略等間隔で四個設けられる。また、隣り合うシリンダボア4間においては2個のボルト穴12が共用される。つまり、本実施形態のように直列四気筒エンジンを構成するシリンダブロック1においては、一列に並んだ状態となる四個のシリンダボアに対し、計十個のボルト穴12が設けられる。
また、シリンダブロック1におけるヘッド取付面3と反対側には、図示せぬオイルパンが取り付けられる。以下、シリンダブロック1において、シリンダヘッドが組み付けられる側(図1における上側)を「上」とし、その反対側(図1における下側)を「下」とする。
シリンダボア4は、その中心軸方向を上下方向とし、前記のとおり一列に並んだ状態で四個配設される。シリンダボア4に内装されるピストンには、ピストンリングが装着され、このピストンリングを介してピストンがシリンダボア4内を上下方向に往復摺動する。各シリンダボア4におけるピストンよりも上側の空間は、燃料および空気の混合気を燃焼するための燃焼室の一部を構成する。シリンダボア4は、前記混合気や燃焼によって生じたガスの機密を保つため、ホーニング加工等の仕上げ加工により、所定の真円度を有する円筒面に形成される。シリンダブロック1が用いられて製造されるエンジンの実働時には、前記燃焼室における混合気の爆発・燃焼によりピストンが往復摺動する。ピストンが往復摺動することにより、ピストンとコンロッド等を介して連結されるクランク軸が回転する。
シリンダボア4は、シリンダブロック1において各シリンダボア4に対応するように略筒状に形成されるシリンダ部5の内周面側に構成される。シリンダボア4は、シリンダ部5の内周面側に、鋳鉄を材料として円筒状に構成されるシリンダライナ9が、鋳ぐるみや圧入等によって内装されることで構成される。つまり、シリンダライナ9の内周面が、シリンダボア4を形成する面となり、ピストンの摺動面となる。
なお、本実施形態では、シリンダボア4は、シリンダライナ9が用いられて構成されるものであるが、これに限定されるものではない。シリンダボア4は、例えばシリンダブロックが鋳鉄等の鉄系材料で構成される場合など、シリンダブロックの構造体に対して直接形成されるものであってもよい。
ウォータジャケット6は、冷却水の通路であり、シリンダブロック1の鋳造に際して四個のシリンダボア4を取り囲むように形成される。ウォータジャケット6は、シリンダボア4に対してシリンダ部5を介して設けられる。
シリンダ部5は、シリンダボア4の周囲、つまりシリンダライナ9の周囲においてシリンダボア4を取り囲むように形成される円筒状の壁状部分である。シリンダ部5は、図2に示すように、隣り合うシリンダボア4に対しては円筒状の部分が繋がった状態となる。
すなわち、ウォータジャケット6は、その形成面として、シリンダ部5の外周面(ウォータジャケット6の内側壁面)と、これに対向するように形成される外周壁面(ウォータジャケット6の外側壁面)とを有する。ウォータジャケット6は、ヘッド取付面3側に開口するように形成される。つまり、シリンダブロック1は、ウォータジャケット6がヘッド取付面3側に開放されているオープンデッキ型の構造となっている。このウォータジャケット6により、シリンダ部5を介してシリンダボア4等が冷却される。
以上のような構成を有するシリンダブロック1に対して、シリンダボア4について所定の真円度を得るための仕上げ加工(例えばホーニング加工)が行われる。そして、シリンダボア4に対する仕上げ加工に際しては、シリンダボア4に対して予め所定の変形を付与するため、ウォータジャケット6の内側壁面を形成するシリンダ部5の外周面(以下「シリンダ部外周面」という。)15における所定の押圧部分が押圧される。このシリンダ部外周面15に対する押圧に、シリンダブロックの加工用治具(以下単に「治具」という。)20が用いられる。
本実施形態に係るシリンダブロック1の加工方法において用いられる治具20は、図1および図3に示すように、リンク機構部21と、押付力伝達部22とを備える。
リンク機構部21は、他の部分に対して相対的に回動可能に連結される四つの連結要素としてのリンク23により構成される。リンク機構部21は、ウォータジャケット6内にて、ウォータジャケット6のヘッド取付面3に対する開口部側(以下「ジャケット開口部側」という。)からの押圧作用を受けることによるリンク23の回動動作によって、ボア変形押圧が可能に構成される。ボア変形押圧とは、ウォータジャケット6の底面(以下「ジャケット底面」という。)16およびウォータジャケット6の外側壁面(以下「ジャケット外側壁面」という。)17に対する押圧をともなう、ウォータジャケット6の内側壁面を形成するシリンダ部外周面15に対する押圧である。
リンク機構部21は、四つのリンク23により、四箇所の回動関節部を有するリンク機構として構成される。具体的には、図3に示すように、リンク機構部21を構成する各リンク23は、細長板状あるいは棒状の部材であり、その両端側にて他のリンク23と連結される。つまり、四つの各リンク23が、両端側にて他のリンク23に対して端部同士で連結されることにより、四辺からなる無端形状(四角形状)に編成されるリンク機構が構成される。また、リンク23において、他のリンク23に対する連結部となる両端部は、縁端形状が円弧状となるように形成されている。
リンク23同士の連結部においては、一対のリンク23が相対的に回動可能に軸支される。ここで、リンク機構部21において四つ存在するリンク23同士の各連結部における支軸方向(回動軸方向)は、同じ方向(図3において紙面に垂直な方向)となる。したがって、リンク機構部21は、リンク23が連結部(軸支部)により相対的な回動が規制される範囲で、自由に変形可能となる。そして、リンク23同士の連結部(軸支部)が、リンク機構部21が有する回動関節部となる。なお、ここでいうリンク機構部21についての「変形」とは、リンク23同士の連結部における相対的な回動による、四つのリンク23により編成される無端形状(四角形状)についての変形である。このように構成される本実施形態のリンク機構部21においては、リンク機構部21を構成するリンク23が相対的に回動可能に連結される「他の部分」は、他のリンク23の端部となる。
押付力伝達部22は、ウォータジャケット6に対するジャケット開口部側からの挿入(以下「ジャケットに対する挿入」という。)が可能である。また、押付力伝達部22は、ジャケットに対する挿入に際しての先端側にリンク機構部21の一端部を回動可能に支持する。そして、押付力伝達部22は、ジャケットに対する挿入の方向(以下「挿入方向」という。)に押し付けられることでリンク機構部21に対してジャケット開口部側からの押圧作用を与える。
押付力伝達部22は、ジャケットに対する挿入が可能な形状・大きさを有する。本実施形態では、押付力伝達部22は、図1および図3に示すように、一端側にかけてテーパする柱状あるいは棒状の部分として構成される。そして、押付力伝達部22は、テーパする側、つまり小径側からウォータジャケット6に挿入される。したがって、押付力伝達部22においては、テーパする側(小径側)が先端側となる。以下では、押付力伝達部22における先端側の部分を挿入先端部22aとする。なお、押付力伝達部22の形状・大きさは、ジャケットに対する挿入が可能なものであれば、特に本構成に限定されるものではない。
押付力伝達部22は、ジャケットに対する挿入に際しての先端側となる挿入先端部22aに、リンク機構部21の一端部を回動可能に支持(軸支)する。つまり、押付力伝達部22の挿入先端部22aに、リンク機構部21の一端部が回動可能に連結される。リンク機構部21の押付力伝達部22に対する連結部(軸支部)における支軸方向(回動軸方向)は、リンク機構部21が有する回動関節部における支軸方向と同じ方向となる。したがって、リンク機構部21は、押付力伝達部22に対する軸支部分として、先端軸支部24を有する。そして、この先端軸支部24が、リンク機構部21が有する四つの回動関節部に含まれることとなる。このことから、リンク機構部21を構成する四つのリンク23のうち、先端軸支部24にて軸支される二つのリンク23(上側の二つのリンク23)については、リンク23が相対的に回動可能に連結される「他の部分」に、押付力伝達部22の挿入先端部22aが含まれることとなる。
言い換えると、リンク機構部21が有する四つの回動関節部のうちの一つの回動関節部が、前述した先端軸支部24として用いられる。したがって、先端軸支部24として用いられる回動関節部によってリンク機構部21が押付力伝達部22に対して軸支された状態においては、先端軸支部24として用いられる回動関節部にて二つのリンク23同士が相対回転可能に軸支されるとともに、その先端軸支部24としての回動関節部にて連結される二つのリンク23が、それぞれ押付力伝達部22に対して相対回転可能に軸支されることとなる。
以下の説明においては、便宜上、図3に示すように、リンク機構部21が有する回動関節部のうち、押付力伝達部22に対する先端軸支部24として用いられる回動関節部を「後端回動関節部25a」とし、後端回動関節部25aに対向する回動関節部、つまり図3において下側に位置する回動関節部を「先端回動関節部25b」とし、他の二つの回動関節部を「横回動関節部25c」とする。
また、押付力伝達部22は、ウォータジャケット6に挿入された状態でジャケット開口部側から挿入方向に押し付けられるための被押付面26を有する。つまり、本実施形態では、押付力伝達部22が有する被押付面26は、柱状あるいは棒状の押付力伝達部22において後端側に形成される面(後端面)となる。したがって、先端側(挿入先端部22a側)から挿入された状態で被押付面26を介して挿入方向に押し付けられる押付力伝達部22は、シリンダブロック1において下向きに押し付けられることとなる。
このように、挿入方向に押し付けられた押付力伝達部22により、リンク機構部21に対してジャケット開口部側からの押圧作用が付与される。つまり、押付力伝達部22が被押付面26を介して受けた押付力が、押付力伝達部22を介してリンク機構部21にジャケット開口部側からの押圧作用として伝達される。そして、ジャケット開口部側からの押圧作用を受けたリンク機構部21は、リンク23の回動関節部25a、25b、25cによる回動動作によって、ボア変形押圧を行う。
したがって、リンク機構部21は、シリンダブロック1のシリンダ部5に対するボア変形押圧が可能な程度の剛性を有するように構成される。具体的には、リンク機構部21は、シリンダ部5に対して与える押圧作用により、シリンダボア4の仕上げ加工に際してのシリンダボア4側からの圧力(加工工具による圧力)に対するシリンダ部5の剛性が、押圧作用を受けていないシリンダ部5における他の部分に対して高くなる程度の剛性を少なくとも有するように構成される。そして、このようなリンク機構部21によるシリンダ部5に対する押圧が、リンク機構部21によるボア変形押圧となる。
また、リンク機構部21に対してジャケット開口部側からの押圧作用を与える押付力伝達部22は、被押付面26から受ける押付力をリンク機構部21に対する押圧作用として伝達できるとともに、そのリンク機構部21に与えた押圧作用によって前述したようなボア変形押圧が可能な程度の剛性を有するように構成される。
これらのことから、治具20のリンク機構部21および押付力伝達部22を構成する材料としては、シリンダブロック1の本体を構成する材料がアルミニウムであるのに対し、例えば鉄系の材料が用いられる。これにより、リンク機構部21における各リンク23の剛性およびこれらの連結部となる回動関節部25a、25b、25cについての連結強度、ならびに押付力伝達部22の剛性が確保される。ただし、治具20において各部を構成する材料は特に限定されるものではない。
また、本実施形態の治具20において、リンク機構部21が有するリンク23の構成は、特に本構成に限定されるものではない。リンク23としては、例えば、各リンク23(一つのリンク23)が略同一形状の複数の板状あるいは棒状の部材によって構成され、リンク23同士が互いに連結される回動関節部25a、25b、25cにおいて、お互いに、あるいは一方が他方により挟み込まれるような構成であってもよい。
また、リンク機構部21の押付力伝達部22に対する連結構成としては、先端軸支部24に用いられる後端回動関節部25aにおいて連結される二つのリンク23により、押付力伝達部22の挿入先端部22aが、支軸方向両側から挟み込まれるような構成であってもよい。また、押付力伝達部22やリンク23の端部が例えばU字状に分岐され、そのU字状の間の部分に相手方の部材が挟み込まれた状態で互いに回動可能に連結される構成等であってもよい。
以上の構成を備える治具20がウォータジャケット6に対してボア変形押圧が可能な姿勢で挿入された状態で、押付力伝達部22が挿入方向に押し付けられることで、シリンダ部外周面15における所定の押圧部分に対してボア変形押圧が行われた状態で、シリンダボア4に対する仕上げ加工が行われる。
治具20のウォータジャケット6への挿入に際しての姿勢について、ボア変形押圧が可能な姿勢とは、次のような姿勢を意味する。すなわち、治具20を構成するリンク機構部21は、その先端部(先端回動関節部25b)の挿入方向(押付力伝達部22からの押付方向)への移動が規制された状態で押付力伝達部22から押圧作用を受けることにより、後端回動関節部25aと先端回動関節部25bとが近接するように変形する。かかるリンク機構部21の変形は、対向する横回動関節部25cが互いに離間するような変形に対応する。そこで、この横回動関節部25cが互いに離間する方向、言い換えるとリンク機構部21が挿入方向に対する垂直方向に広がる方向が、シリンダ部外周面15を押圧する方向を含む姿勢となるように、治具20がウォータジャケット6に挿入される。つまり、治具20についてボア変形押圧が可能な姿勢とは、リンク機構部21が押付力伝達部22から押圧作用を受けることによって横回動関節部25cが互いに離間する方向(リンク機構部21が挿入方向に対する垂直方向に広がる方向、以下、リンク機構部21について「横拡張方向」という。)が、シリンダ部外周面15を押圧する方向に含まれる姿勢となる。
したがって、治具20は、リンク機構部21の横拡張方向がシリンダボア4の径方向に沿うような姿勢で、ウォータジャケット6に挿入される。具体的には、図3に示すように、ウォータジャケット6に挿入された状態の治具20は、リンク機構部21が押付力伝達部22から押圧作用を受けることにより、一方(図3において左側)の横回動関節部25cがジャケット外側壁面17に接触するとともに、他方(図3において右側)の横回動関節部25cがシリンダ部外周面15に接触するような姿勢となる。
そして、リンク機構部21が押付力伝達部22によって後端回動関節部25a側から押し付けられることにより、先端回動関節部25bがジャケット底面16に対して押圧作用するとともに、横拡張方向へ広がる横回動関節部25cがシリンダ部外周面15およびジャケット外側壁面17に対してそれぞれ押圧作用する。
ここで、治具20によるシリンダ部外周面15に対する押圧部分について、その高さ位置(上下方向の位置)は、リンク機構部21を構成するリンク23の長さ等により定まる。つまり、治具20におけるリンク23の長さ等は、リンク機構部21による押圧部分についての高さ位置が、シリンダブロック1の形状等に応じて所望の位置となるように適宜設定される。
ただし、リンク機構部21は、ウォータジャケット6を形成する面(以下「ジャケット形成面」という。)に対する接触部に、ジャケット形成面に対する接触面積の調整のための部分(例えば板状部分)を有する部材(以下「接触部材」という。)を備える構成であってもよい。かかる接触部材は、リンク機構部21において、ジャケット形成面に対する接触部分となる回動関節部25b、25cの少なくともいずれかの箇所部分に設けられることとなる。リンク機構部21において接触部材が設けられる箇所部分においては、リンク機構部21とジャケット形成面との間に、接触部材が介在する状態となる。つまり、リンク機構部21が接触部材を備える構成においては、リンク機構部21によるジャケット形成面に対する押圧が接触部材を介して行われることとなる。このような構成においては、接触部材によるジャケット形成面に対する接触面積の調整により、治具20(リンク機構部21)によるジャケット形成面に対する押圧部分について、その面積や押圧力の大きさの調整が可能となる。
このようにして、治具20においては、リンク機構部21が、回動関節部25b、25cを介してジャケット形成面に接触した状態で、押付力伝達部22からの押圧作用を受ける。これにともない、リンク23の回動関節部25a、25b、25cによる回動動作によって、ジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に対する押圧をともなうシリンダ部外周面15に対する押圧である、ボア変形押圧が行われる。
以上のように、本実施形態に係る治具20は、リンク機構部21と押付力伝達部22とを備え、ウォータジャケット6に対してボア変形押圧が可能な姿勢で挿入された状態で、押付力伝達部22が挿入方向に押し付けられることで、シリンダ部外周面15における所定の押圧部分に対してボア変形押圧を行う。
本実施形態の治具20が用いられるシリンダブロック1の加工(シリンダボア4の仕上げ加工)に際しての加工手順は、次のとおりとなる。
まず、治具20が、ウォータジャケット6内に底付きするまで挿入される。すなわち、治具20が、リンク機構部21側からウォータジャケット6に挿入され、治具20の先端部、つまりリンク機構部21の先端回動関節部25bがジャケット底面16に接触した状態とされる。ここで、治具20のウォータジャケット6に対する挿入に際しての姿勢については、前述したように、ボア変形押圧が可能な姿勢となる。
次に、ウォータジャケット6に挿入された治具20に対して、所定の方法により、下向き(挿入方向)に所定の大きさの荷重が与えられる。すなわち、治具20の押付力伝達部22が有する被押付面26に対して、所定の大きさの下向きの力(図3矢印A1参照)が加えられることにより、押付力伝達部22が挿入方向に押し付けられる。
なお、押付力伝達部22に対して押付力を与えるための方法は、特に限定されるものではない。押付力伝達部22に対して押付力を与えるための方法としては、例えば、シリンダ機構等による被押付面26に対する機械的な押付力の付与や、被押付面26に対する重量物の載置等による加重等が考えられる。
治具20が押付力伝達部22によって下向きの荷重を受けることにより、リンク機構部21が、ジャケット底面16に接触した状態で押付力伝達部22からの押圧作用を受けることとなる。リンク機構部21が押付力伝達部22からの押圧作用を受けることにより、リンク機構部21によって、ジャケット形成面の各部が押圧されることとなる。すなわち、リンク機構部21において、先端回動関節部25bによりジャケット底面16が押圧され(図3矢印A2参照)、一方の(図3において左側の)横回動関節部25cによりジャケット外側壁面17が押圧され(図3矢印A3参照)、他方の(図3において右側の)横回動関節部25cによりシリンダ部外周面15が押圧される(図3矢印A4参照)。
ここで、リンク機構部21からのシリンダ部外周面15における所定の押圧部分に対する押圧力(図3矢印A4参照)が、シリンダ部5についてシリンダボア4側からの圧力(加工工具による圧力)に対する剛性を高めたり、シリンダボア4について予め所定の変形を付与したりする力となる。
そして、治具20により、シリンダ部5がシリンダ部外周面15からボア変形押圧を受けた状態において、シリンダボア4に対する仕上げ加工が行われる。すなわち、シリンダボア4に対して所定の真円度を得るためのホーニング加工等の真円加工が施される。
このように、治具20によってシリンダ部外周面15がボア変形押圧を受けた状態で、シリンダボア4に対する仕上げ加工が行われることにより、シリンダボア4に対して予め所定の変形が付与されることとなる。ここで、シリンダボア4に対して予め所定の変形が付与されるのは、ボア変形押圧についての押圧力の大きさ等による次の二つの作用に基づく。
一つは、治具20によりシリンダ部外周面15がボア変形押圧を受けることで、シリンダ部5のシリンダボア4側からの圧力(加工工具による圧力)に対する剛性が部分的に高められた状態となることである。つまり、シリンダ部外周面15がボア変形押圧を受けることで、そのボア変形押圧を受けた部分に対応するシリンダ部5の部分の、シリンダボア4側からの圧力に対する剛性が、他の部分に比べて高くなる。シリンダ部5においてシリンダボア4側からの圧力に対する剛性が高められた部分については、シリンダボア4の壁面が受ける加工工具からの面圧が高くなる。加工工具からの面圧が高い部分については、他の部分に比べて、加工工具からの面圧に対してシリンダ部5の弾性変形によって逃げることが抑制されることから、仕上げ加工による取り代(研削量)が他の部分よりも大きくなる。このようにシリンダボア4の仕上げ加工による取り代(研削量)が部分的に大きくなることは、シリンダボア4の変形を生じさせる。
もう一つは、治具20によりシリンダ部外周面15がボア変形押圧を受けることで、シリンダボア4が予め変形した状態となることである。つまり、シリンダ部外周面15がボア変形押圧を受けることで、そのボア変形押圧を受けた部分に対応するシリンダボア4の部分(壁面部分)が内側に膨出するような変形が生じる。そして、シリンダボア4を形成する壁面が部分的に内側に膨出するように変形した状態で、シリンダボア4について仕上げ加工によって所定の真円度が得られることにより、内側に膨出した部分が他の部分に比べて深く切削される。このようにシリンダボア4が部分的に深く切削されることは、シリンダボア4の変形を生じさせる。
以上説明した本実施形態のシリンダブロック1の加工方法および治具20によれば、シリンダボア4に対する仕上げ加工に際し、ダミーヘッド等の加工用治具を用いることで生じる加工工程の複雑化や高コスト化を招くことなく、所望のボア変形を予め生じさせることができ、エンジンの実働時におけるシリンダボア4の真円度の悪化を抑制することができる。
すなわち、本実施形態に係る治具20が用いられるに際しては、シリンダボアの仕上げ加工についての従来の加工用治具であるダミーヘッド等が用いられる場合に必要であったシリンダブロックに対するボルト締結による着脱工程等の追加が不要である。また、治具20は、シリンダブロック1のウォータジャケット6に挿入可能な程度の大きさのものであるため、ダミーヘッド等のように準備スペースの確保が特に必要となるものでもない。これらのことから、本実施形態のシリンダブロック1の加工に際しては、加工工程の簡略化や設備コストの低減化を図ることが可能となる。
また、治具20のウォータジャケット6に対する挿入場所や、押付力伝達部22に対する押付力の大きさにより、シリンダボア4についての変形位置や変形量を管理することができる。これにより、シリンダボア4に対する仕上げ加工に際し、エンジンの実働時に生じるボア変形に対応させて、所望のボア変形を高精度に再現することが可能となり、エンジンの実働時におけるシリンダボア4の真円度の悪化を抑制することができる。
また、治具20によれば、次のような効果が得られる。すなわち、治具20においては、シリンダボア4を変形させるためのボア変形押圧を行う部分が、リンク機構部21というリンク機構として構成されている。こうしたリンク機構は、形状自由度が高い。このため、シリンダブロック1を形成するための鋳造型における型摩耗などに起因する、ウォータジャケット6の内部形状のバラツキやジャケット形成面の面粗度のバラツキに対して高いロバスト性が得られる。つまり、ウォータジャケット6の内部形状に対して高い形状対応度が得られる。
また、ボア変形押圧を行う部分としてリンク機構が採用されていることから、ボア変形押圧を生じさせるための装置、つまり押付力伝達部22を押し付けるために用いられる装置についての大型化を防止することができる。具体的には、リンク機構部21においては、ウォータジャケット6の幅方向(横拡張方向)の寸法変化に対する治具20の挿入方向のストロークが小さくなる。言い換えると、治具20の挿入方向についてのわずかな位置変化で、ウォータジャケット6の幅方向の寸法変化に対応することができる。また、リンク機構部21においては、リンク23の長さや互いに連結されるリンク23同士の角度設定等により、押付力伝達部22に対する押付力を、リンク機構部21によるボア変形押圧についての押圧力として効率的に伝達することができる。つまり、リンク機構部21においては、押付力伝達部22に対する小さな押付力を、リンク機構部21によるボア変形押圧についての大きな押圧力として発生させることができる。このように、治具20の挿入方向のストロークが小さくなることや、押付力伝達部22に対する押付力を効率的に伝達することができることから、治具20を押し付けるための装置についての大型化を防止することができる。
次に、治具20によりボア変形押圧が行われるシリンダ部外周面15における所定の押圧部分、つまり治具20が挿入される位置について説明する。
治具20によるボア変形押圧が行われるシリンダ部外周面15における所定の押圧部分は、シリンダボア4の円周形状におけるヘッドボルトによる締結部であるボルト締結部10に対応する位相(以下「ボルト位相」という。)の部分であることが、好ましい態様例として挙げられる。
ここで、ボルト位相について説明する。ボルト位相とは、シリンダボア4の円周形状における(円周形状に対する)ボルト締結部10に対応する位相である。シリンダボア4の円周形状における「位相」とは、次のとおりである。すなわち、円柱状の孔部であるシリンダボア4は、その中心軸方向視で円周形状となる。このシリンダボア4の円周形状においては、中心軸の位置を中心とした円周上における角度が定まる。この角度(角度範囲)が、シリンダボア4の円周形状における「位相」となる。
したがって、ボルト位相とは、図2において一番左側のシリンダボア4について示すように、シリンダボア4が円周形状となるその中心軸方向視において、中心軸の位置C1を中心とする円周上における角度について、中心(位置C1)からボルト締結部10およびその近傍部分を含む方向の所定の角度範囲α1となる。本実施形態のように、ボルト締結部10がシリンダボア4の周囲において略等間隔で四個設けられる構成においては、前記のようなボルト締結部10に対応する位相(角度範囲α1)が、各シリンダボア4において四ヶ所存在することとなる。
このようなボルト位相の部分に対してボア変形押圧が行われることで、シリンダブロック1に対するシリンダヘッドの組付けやエンジンの実働時における熱負荷などによるエンジンの実働時におけるシリンダボア4の真円度の悪化を効果的に抑制することができる。
治具20によるボア変形押圧がシリンダ部外周面15のボルト位相の部分に対して行われることで得られる作用効果について、図5を用いて説明する。図5はシリンダボアに対するボルト締結部の配置およびボア変形を示す模式図である。図5において、(a)は単品状態(非組付状態)を示す図、(b)はシリンダヘッドの組付け時のボア変形(組付け変形)を示す図である。
前述したように、本実施形態のシリンダブロック1においては、シリンダブロック1に対するシリンダヘッドの組付けに用いられるボルト締結部10が、一つのシリンダボア4に対して、シリンダボア4の周囲において略等間隔で四箇所設けられる。各ボルト締結部10においては、シリンダブロック1に形成されるボルト穴12にヘッドボルト11が螺挿された状態となる。
図5(a)に示すように、シリンダブロック1について、ボルト穴12に螺挿されるヘッドボルト11の締付けによるシリンダヘッドの固定が行われてない状態(単品状態)では、ヘッドボルト11による締付け力(締結力)がシリンダブロック1に対して加わっていない。このため、単品状態のシリンダブロック1においては、ヘッドボルト11による締付け力が作用することによる変形が生じることはなく、シリンダボア4は変形をともなわない状態となる。
図5(b)に示すように、ヘッドボルト11が締め付けられることによりシリンダヘッドがシリンダブロック1に対して締結固定された状態である組付け時においては、ヘッドボルト11による締付け力がシリンダブロック1に作用する。このヘッドボルト11による締付け力が、シリンダブロック1に変形を生じさせ、ボア変形が生じる。
したがって、特に強く押し付けられることとなるボルト周りで変形が大きくなり、本実施形態のようにボルト締結部10がシリンダボア4の周囲において略等間隔で四箇所設けられる構成においては、シリンダボア4において、ボルト締結部10に対応する位相であるボルト位相の部分が内側に窄むような(相対的に内側に膨出するような)変形が生じる。結果として、組付け変形は、図5(b)に示すように、平面視において円形であったシリンダボア4が、十字形となるような変形となる(いわゆる四次変形)。
また、エンジンの実働時には、組付け変形により変形した状態のシリンダボア4において生じる変形は、エンジンの実働時における熱負荷により、組付け変形の十字形が強調される変形となる。そこで、前記のとおり、治具20によるボア変形押圧が行われるシリンダ部外周面15における所定の押圧部分が、ボルト位相の部分とされることにより、エンジンの実働時におけるシリンダボア4の真円度の悪化の抑制が効果的なものとなる。
すなわち、シリンダ部外周面15におけるボルト位相の部分に対してボア変形押圧が行われた状態で、シリンダボア4に対する仕上げ加工が行われることにより、シリンダ部外周面15におけるボルト位相の部分が、他の位相の部分に対して深く切削されることとなる。これにより、シリンダボア4に対する仕上げ加工によってシリンダボア4に対して予め付与される変形が、ボルト位相の部分が広がるような(相対的に外側に膨出するような)変形となる。つまりは、シリンダボア4に対して予め付与される変形が、前述したようなエンジンの実働時にシリンダボア4にて生じる十字形となるような変形に対する逆変形となる。
したがって、シリンダボア4に対して予め付与される変形のエンジンの実働時に生じるボア変形による相殺が、より実状に即したものとなり、エンジンの実働時におけるシリンダボア4の真円度の悪化が効果的に抑制される。
また、治具20については、次のような構成であってもよい。すなわち、シリンダ部外周面15において複数ある所定の押圧部分それぞれに対応する押付力伝達部22が、所定の押圧部分に対応する配置状態で連結されることにより、複数のリンク機構部21が連動操作可能となるように支持される構成である。かかる構成により、複数の押付力伝達部22が同時に挿入方向に押し付けられることで、複数のリンク機構部21が連動させられて、ボア変形押圧が行われる。
このような構成は、例えば、治具20において、複数の押付力伝達部22が備えられるとともに、これらを連結するための連結部材が備えられることにより実現される。つまり、前記連結部材は、複数の押付力伝達部22を、所定の押圧部分に対応する配置状態で連結することにより、各押付力伝達部22に対して支持される複数のリンク機構部21が連動操作可能となるように支持する機能を有する部材となる。
具体的には、例えば前述したように、シリンダ部外周面15において治具20によるボア変形押圧が行われる部分がボルト位相の部分である場合、本実施形態のシリンダブロック1においては、十箇所の部分に対してボア変形押圧が行われることとなる。この場合、各ボルト位相の部分に対して配置されるリンク機構部21を支持する十個の押付力伝達部22が、連結部材によって連結されることとなる。そして、これらの押付力伝達部22が同時に挿入方向に押し付けられることで、十個のリンク機構部21が連動操作される。
したがって、複数の押付力伝達部22について、所定の押圧部分に対応する配置状態とは、前述のようにボア変形押圧がボルト位相の部分に対して行われる場合、各押付力伝達部22が支持するリンク機構部21が、ボルト位相の部分に配置されるとともに、ボア変形押圧が可能な姿勢(リンク機構部21の横拡張方向がシリンダ部外周面15を押圧する方向に含まれる姿勢)となる状態である。
複数の押付力伝達部22を連結するための連結部材の構成としては、押付力伝達部22のジャケットに対する挿入を妨げることなく、リンク機構部21に対してボア変形押圧を行うことができる程度の大きさでジャケット開口部側からの押圧作用を与えることができる構成であれば、特に限定されるものではない。連結部材としては、例えば、シリンダブロック1において四個のシリンダボア4を取り囲むように形成されるウォータジャケット6に沿うように、各シリンダボア4に対応する円筒状部を四つ有するとともに、隣り合うシリンダボア4に対応する円筒状部同士が繋がった状態となる一つの閉じた形状を有するものが用いられる。
このように、複数の押付力伝達部22が一体に連結されることで、ウォータジャケット6の所定の位置に配置される複数のリンク機構部21および押付力伝達部22が、アッセンブリの状態とされる。これにより、シリンダボア4に対する仕上げ加工に際し、複数箇所に配置されるリンク機構部21および押付力伝達部22のウォータジャケット6に対する挿入が容易となり、シリンダボア4の仕上げ加工についての作業性の向上が期待できる。
続いて、治具20が用いられるに際してのより好ましい構成について、図4を用いて説明する。
本実施形態においては、シリンダボア4に対する仕上げ加工として、シリンダボア4について所定の真円度を得るためのホーニング加工が行われる。すなわち、本実施形態に係るシリンダブロック1の加工方法においては、シリンダボア4に対する仕上げ加工は、ホーンヘッド(「ホーニングヘッド」とも称される。)41と、ホーンガイド42とを備える構成が用いられて行われるホーニング加工である。
ホーンヘッド41は、ホーニング用の砥石43を有しシリンダボア4に対して移動することでシリンダボア4に対して砥石43を作用させるヘッド部として機能する。ホーンガイド42は、ヘッド取付面3に対して近接離間移動可能に設けられホーンヘッド41を案内するガイド部として機能する。
ホーニング加工は、ホーニング加工装置によって行われる。かかる装置には、ホーンヘッド41とホーンガイド42とを有する構成のホーニング手段が備えられる。このホーニング手段が用いられて、シリンダボア4を形成する壁面に対する研削が行われる。
ホーンヘッド41は、全体として略円柱状に構成され、その外周面部に砥石43を有する。ホーンヘッド41は、主軸44の先端部(下端部)に構成される。主軸44は、図示せぬ駆動手段によって上下方向の移動(軸方向の移動)および軸心を回転軸とする回転が可能に設けられる。つまり、ホーンヘッド41は、主軸44を介して上下運動(軸方向の運動)および回転運動が可能な状態で設けられる。
ホーンヘッド41が有する砥石43は、ホーンヘッド41の外周面部において例えば周方向に等間隔を隔てた状態で環状に配設される。砥石43は、ホーンヘッド41に設けられる移動機構により、ホーンヘッド41の径方向外側に変位可能に構成される。砥石43に対して設けられる移動機構としては、例えば、ホーンヘッド41内において構成される、主軸44と同軸に設けられるロッド部材の軸方向の移動を砥石43の径方向の移動に変換するためのテーパ面を備えるような周知の機構が用いられる。すなわち、砥石43は、シリンダボア4に対するホーニング加工に際しては、径方向外側の変位によりシリンダボア4の壁面に対して圧接した状態で、ホーンヘッド41の回転運動等にともなってシリンダボア4の壁面に対して作用する。
ホーンガイド42は、ホーンヘッド41のシリンダボア4に対する位置決め等を行うための構成である。ホーンガイド42は、主軸44を含めたホーンヘッド41の上下運動等を許容するためのガイド孔42aを有し、シリンダボア4に対するホーンヘッド41の上下運動等を案内する。ホーンガイド42は、シリンダブロック1のヘッド取付面3に対する近接離間方向、つまり上下方向に移動可能に設けられる。
そして、ホーニング加工に際しては、シリンダボア4に対して所定の位置で位置決めされた状態のホーンガイド42によってホーンヘッド41が案内され、このホーンヘッド41の回転運動等によって砥石43によりシリンダボア4の壁面が研削加工される。つまり、ホーニング加工中は、ホーンガイド42が、そのヘッド取付面3に対する近接離間方向において所定の位置に停止した状態、つまりヘッド取付面3に対して所定の距離を隔てた状態となる。かかる状態のホーンガイド42によって、ホーンヘッド41が案内される。
このようにして行われるシリンダボア4に対する仕上げ加工としてのホーニング加工において、治具20が、次のようにして用いられる。すなわち、ホーンガイド42に、押付力伝達部22が連結され、押付力伝達部22の挿入方向への押付けが、ホーンガイド42のヘッド取付面3に対する近接動作が用いられて行われる。
押付力伝達部22がホーンガイド42に連結されるための構成は、特に限定されるものではないが、例えば、図4に示すように、押付力伝達部22の上端部(被押付面26側端部)にフランジ部22bが形成され、このフランジ部22bを介して押付力伝達部22がホーンガイド42に連結される。つまりこの場合、ホーンガイド42においてシリンダブロック1のヘッド取付面3に対応する面(下側面)となるブロック側面42bに対してフランジ部22bがボルト等の締結具27が用いられて固定されることにより、押付力伝達部22がホーンガイド42に連結される。
このようにして、押付力伝達部22が、ホーンガイド42に連結され、押付力伝達部22の挿入方向への押付けが、ホーンガイド42のヘッド取付面3に対する近接動作が用いられて行われる。したがって、押付力伝達部22の上下方向の長さは、ホーンガイド42が、ホーニング加工中に停止した状態となる、ヘッド取付面3に対する近接離間方向における所定の位置にある状態で、リンク機構部21に与える押圧作用が、ボア変形押圧について所望の押圧力が得られる大きさとなるような長さに設定される。
このように、押付力伝達部22の挿入方向への押付けに、シリンダボア4に対する仕上げ加工であるホーニング加工を行うための構成であるホーンガイド42の動作を用いることにより、押付力伝達部22の挿入方向への押付けに際してホーニング加工についての既存の構成およびその動作を用いることができる。これにより、押付力伝達部22を押し付けるための構成を別途設ける必要がなくなり、治具20を用いるに際しての装置構成の簡略化や作業性の向上が図れる。また、治具20を用いたシリンダボア4に対する仕上げ加工に際して、容易に自動化に対応することができる。
本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と重複する部分については、同一の符号を用いる等して適宜説明を省略する。
図6に示すように、本実施形態に係る治具50においては、リンク機構部51が、一つのリンク53により構成されている。つまり、本実施形態の治具50のリンク機構部51は、他の部分に対して相対的に回動可能に連結される連結要素として、一つのリンク53を有する。したがって、本実施形態の治具50においては、リンク機構部51を構成するリンク53が相対的に回動可能に連結される「他の部分」は、押付力伝達部22の挿入先端部22aとなる。
すなわち、リンク53は、その一端部が、押付力伝達部22の挿入先端部22aに回動可能に支持(軸支)される。このリンク53の押付力伝達部22に対する軸支部分が、リンク機構部51の押付力伝達部22に対する先端軸支部54となる。したがって、治具50においては、先端軸支部54が、リンク機構部51と押付力伝達部22との回動関節部55となる。
そして、本実施形態の治具50においては、押付力伝達部22によってジャケット開口部側からの押圧作用を受けたリンク機構部51は、リンク53の先端軸支部54による回動動作によって、ボア変形押圧を行う。
このような構成を備える治具50がウォータジャケット6に対してボア変形押圧が可能な姿勢で挿入された状態で、押付力伝達部22が挿入方向に押し付けられることで、シリンダ部外周面15における所定の押圧部分に対してボア変形押圧が行われた状態で、シリンダボア4に対する仕上げ加工が行われる。
治具50のウォータジャケット6への挿入に際しての姿勢について、ボア変形押圧が可能な姿勢とは、次のような姿勢を意味する。すなわち、治具50を構成するリンク機構部51は、リンク53の先端部(以下「リンク先端部」という。)53aの移動が規制された状態で押付力伝達部22から押圧作用を受けることにより、リンク53の押付力伝達部22に対する回動によってボア変形押圧を行う。そして、ボア変形押圧においてシリンダ部外周面15側を押圧する部分は、リンク53における回動関節部55側(上端側)の部分となる。つまり、治具50についてボア変形押圧が可能な姿勢とは、リンク53の回動動作する面方向が、シリンダ部外周面15を押圧する方向に含まれるとともに、シリンダ部外周面15に対する押圧が、リンク53の回動動作にともなう回動関節部55の移動により行われる姿勢となる。
したがって、治具50は、リンク53の回動動作する面方向がシリンダボア4の径方向に沿うような姿勢であって、リンク53の先端側が、回動関節部55よりも外側(ジャケット外側壁面17側)となる姿勢で、ウォータジャケット6に挿入される。具体的には、図6に示すように、ウォータジャケット6に挿入された状態の治具50は、リンク機構部51が押付力伝達部22から押圧作用を受けることにより、リンク先端部53aがジャケット底面16とジャケット外側壁面17との角部分に接触するとともに、リンク53の後端部(回動関節部55)がシリンダ部外周面15に接触するような姿勢となる。
そして、リンク機構部51が押付力伝達部22によって回動関節部55側から押し付けられることにより、リンク先端部53aがジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に対して押圧作用するとともに、リンク53の後端部(回動関節部55)がシリンダ部外周面15に対して押圧作用する。
ここで、治具50によるシリンダ部外周面15に対する押圧部分について、その高さ位置(上下方向の位置)は、リンク53の長さ等により定まる。つまり、治具50におけるリンク53の長さ等は、リンク機構部51による押圧部分についての高さ位置が、シリンダブロック1の形状等に応じて所望の位置となるように適宜設定される。ただし、リンク53の長さは、少なくとも、リンク53が押付力伝達部22から受ける押圧作用がボア変形押圧として伝達されるに足りる長さとなる。つまり、リンク53は、押付力伝達部22からの押圧作用を受ける状態で、その押圧方向(図6における下方向)と垂直な方向(図6における左右方向)に対する傾斜角度θが生じる(θ>0となる)ように、ウォータジャケット6の幅方向(シリンダボア4の径方向に沿う方向、以下「ジャケット幅寸法」という。)の寸法よりも長く形成される。
このようにして、治具50においては、リンク機構部51が、リンク先端部53aおよび回動関節部55を介してジャケット形成面に接触した状態で、押付力伝達部22からの押圧作用を受ける。これにともない、リンク53の回動関節部55による回動動作によって、ジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に対する押圧をともなうシリンダ部外周面15に対する押圧である、ボア変形押圧が行われる。
以上のように、本実施形態に係る治具50は、リンク機構部51と押付力伝達部22とを備え、ウォータジャケット6に対してボア変形押圧が可能な姿勢で挿入された状態で、押付力伝達部22が挿入方向に押し付けられることで、シリンダ部外周面15における所定の押圧部分に対してボア変形押圧を行う。
本実施形態の治具50によるボア変形押圧は、次のようにして行われる。すなわち、まず、治具50が、ウォータジャケット6に対して前述したようなボア変形押圧が可能な姿勢で挿入される。治具50がウォータジャケット6に挿入された状態で、押付力伝達部22の被押付面26に対して、所定の大きさの下向きの力(図6矢印B1参照)が加えられることにより、押付力伝達部22が挿入方向に押し付けられる。これにより、リンク機構部51が、押付力伝達部22からジャケット開口部側からの押圧作用を受ける
そして、リンク機構部51が押付力伝達部22からの押圧作用を受けることにより、リンク機構部51によって、ジャケット形成面の各部が押圧されることとなる。すなわち、リンク機構部51において、リンク先端部53aによりジャケット底面16およびジャケット外側壁面17が押圧され(図6矢印B2参照)、リンク53の後端部(回動関節部55)によりシリンダ部外周面15が押圧される(図6矢印B3参照)。
本実施形態の治具50によれば、第一実施形態において得られる効果に加え、リンク機構部51が一つのリンク53により構成されることから、リンク機構部51における剛性の確保や、コストの低減や、体格の小型化が容易となる。
また、本実施形態の治具50においては、ジャケット幅寸法に対するリンク53の長さ等により定まるリンク53の傾斜角度θの設定により、ボア変形押圧によるシリンダ部外周面15に対する押圧力が調整される。つまり、リンク53の傾斜角度θが小さいほど、ボア変形押圧によるシリンダ部外周面15に対する押圧力が大きくなる。
本発明の第三実施形態について説明する。なお、前述した各実施形態と重複する部分については、同一の符号を用いる等して適宜説明を省略する。
本実施形態においては、ジャケット形成面に対するリンク機構部の接触が、ボア変形押圧にともなうリンク機構部のジャケット形成面に対する押圧部のジャケット形成面に沿う移動にともない回転するローラ部材を介して行われる。本説明においては、前記ローラ部材が、第二実施形態の治具50の構成において設けられる場合の例を、本実施形態の治具60とする。
すなわち、図7に示すように、本実施形態に係る治具60においては、リンク機構部61が、一つのリンク53により構成されるとともに、このリンク機構部61に、ローラ部材としてのローラ66が設けられる。治具60においては、ローラ66は、リンク機構部61のジャケット形成面に対する押圧部としての回動関節部55(先端軸支部54)に設けられている。つまり、治具60においては、ローラ66が設けられることとなる、ジャケット形成面に対する押圧部が、ジャケット形成面であるシリンダ部外周面15に対する押圧部となる回動関節部55に対応する。
ローラ66は、治具60における回動関節部55において回転自在に軸支される。ローラ66は、その回転する面方向を、リンク53の回動動作する面方向と同じくする。つまり、ローラ66は、その支軸方向がリンク53の押付力伝達部22に対する支軸方向と同じ方向となるように設けられる。
ローラ66は、リンク53の押付力伝達部22に対する軸支にともなって軸支される。つまり、ローラ66は、押付力伝達部22に対してリンク53と同軸配置される。そして、ローラ66の径は、治具60によるボア変形押圧に際してリンク53の後端部がシリンダ部外周面15に接触しないように設定される。言い換えると、ローラ66は、その縁端が、リンク53の後端部の縁端よりも径方向外側に位置するような大きさ(径)を有するように構成される。
なお、ローラ66は、押付力伝達部22およびリンク機構部61(リンク53)のいずれかに軸支される構成であればよい。また、ローラ66の支軸方向の位置についても、押付力伝達部22とリンク53との間の位置や、押付力伝達部22およびリンク53の外側の位置など、特に限定されるものではない。また、ローラ66は、同一の径を有する複数のローラ要素により構成され、これらのローラ要素が同軸配置される構成であってもよい。
さらに、ローラ66の軸支位置、つまりローラ66の回転中心(以下「ローラ中心」という。)の位置は、リンク53の押付力伝達部22に対する軸支位置、つまりリンク53の回転中心(以下「関節中心」という。)の位置と異なる位置であってもよい。したがって、ローラ66の径は、その軸支位置(ローラ中心の位置)によって、ボア変形押圧に際し、回動関節部55においてローラ66がリンク53に代わってシリンダ部外周面15に接触することができるように設定される。つまり、ローラ66の径および軸支位置は、ローラ66が、ボア変形押圧にともなうリンク機構部61のシリンダ部外周面15に対する押圧部(回動関節部55)のシリンダ部外周面15に沿う移動にともない回転するように設定される。
このように、リンク機構部61がローラ66を有する構成においては、回動関節部55によるシリンダ部外周面15に対する接触、つまりボア変形押圧にともなう回動関節部55によるシリンダ部外周面15に対する押圧(図6矢印B3参照)が、ローラ66を介して行われることとなる。
したがって、ローラ66は、ボア変形押圧が可能な程度の剛性を有するように構成される。このことから、ローラ66を構成する材料としては、シリンダブロック1の本体を構成する材料がアルミニウムであるのに対し、例えば鉄系の材料が用いられる。また、ローラ66を構成する材料としては、高剛性の硬質ゴム等が適宜用いられてもよい。ただし、ローラ66を構成する材料は特に限定されるものではない。
本実施形態においては、ローラ66が設けられる構成として、図7に示すような構成のほか、次のような構成例が挙げられる。
すなわち、図8に示すように、治具60において、図7に示す場合におけるローラ66に対して小径のローラ67が設けられる構成である。本例は、前述したようにローラ中心と関節中心とが異なる位置である場合の構成例である。本例においては、比較的小径のローラ67が、例えばリンク53の後端部における縁端部において、ボア変形押圧にともなう回動関節部55のシリンダ部外周面15に沿う移動にともない回転するように軸支される。
また、他の構成例としては、図示は省略するが、治具60において、リンク機構部61の回動関節部55に設けられるローラ66に加えて、リンク先端部53aにもローラが設けられる構成が挙げられる。本例では、リンク機構部61のジャケット形成面に対する押圧部としてのリンク先端部53aにローラが設けられることとなる。つまり、本例では、ローラが設けられることとなる、ジャケット形成面に対する押圧部が、ジャケット形成面であるジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に対する押圧部となるリンク先端部53aに対応する。したがって、本例においてリンク先端部53aに設けられるローラは、ボア変形押圧にともなうリンク機構部61のジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に対する押圧部(リンク先端部53a)のジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に沿う移動(回動)にともないリンク53に対して回転する。
以上のように、本実施形態の治具60においては、リンク機構部61が、ジャケット形成面に対して接触するとともに、ボア変形押圧にともなうリンク機構部61のジャケット形成面に対する押圧部のジャケット形成面に沿う移動にともない回転するローラ部材を有する。
このように、治具60においてローラ部材が設けられることにより、リンク機構部61のジャケット形成面に対する押圧部において、ボア変形押圧にともなう摩擦の影響を小さくすることができる。これにより、リンク機構部61が押付力伝達部22から受けるジャケット開口部側からの押圧作用を、リンク機構部61によるジャケット形成面に対する押圧作用として効率的に伝達することができ、ボア変形押圧における押圧力の安定化を図ることができる。また、治具60において、リンク機構部61のジャケット形成面に対する接触部の摩耗を低減することができる。
なお、本実施形態の治具60は、ローラ部材が第二実施形態の治具50の構成において設けられる場合の例であるが、ローラ部材は、第一実施形態の治具20の構成においても適用可能である。ローラ部材が、第一実施形態の治具20の構成において設けられる場合の例を治具70とすると、治具70は、例えば図9に示すような態様となる。
すなわち、図9に示すように、本例に係る治具70においては、リンク機構部71が、四つのリンク23により構成されるとともに、このリンク機構部71に、ローラ部材としてのローラ68が設けられる。治具70においては、ローラ68は、リンク機構部71のジャケット底面16に対する押圧部としての先端回動関節部25bと、シリンダ部外周面15およびジャケット外側壁面17それぞれに対する押圧部としての横回動関節部25cとの三箇所に設けられている。つまり、治具70においては、ローラ68が設けられることとなる、ジャケット形成面に対する押圧部が、ジャケット形成面であるジャケット底面16に対する押圧部となる先端回動関節部25bと、同じくジャケット形成面であるシリンダ部外周面15およびジャケット外側壁面17それぞれに対する押圧部となる横回動関節部25cとに対応する。
なお、本例の場合に限定されず、ローラ68は、リンク機構部71におけるジャケット形成面に対する押圧部となる三箇所の回動関節部25b、25cのいずれかに選択的に設けられてもよい。
本例に係る治具70のように、第一実施形態の治具20の構成においてローラ部材が設けられることによっても、前述した治具60の場合と同様の作用効果が得られる。
本発明の第四実施形態について説明する。なお、前述した各実施形態と重複する部分については、同一の符号を用いる等して適宜説明を省略する。
本実施形態においては、リンク機構部のウォータジャケット6の側壁面(以下「ジャケット側壁面」という。)に対する接触部の形状について工夫が施されている。本説明においては、リンク機構部のジャケット側壁面に対する接触部の形状についての工夫が、第二実施形態の治具50の構成において施される場合の例を、本実施形態の治具80とする。
すなわち、図10に示すように、本実施形態に係る治具80においては、リンク機構部81が、一つのリンク53により構成される。そして、リンク機構部81の、ジャケット側壁面であるシリンダ部外周面15に対する接触部の形状が、リンク53の回動動作についての回動軸方向視で、リンク機構部81のボア変形押圧を行う状態におけるジャケット幅寸法L1が拡大した場合に対応するリンク機構部81のシリンダ部外周面15に対する接触位置の変化方向に曲率半径が徐々に大きくなる形状とされている。
治具80においては、リンク機構部81のシリンダ部外周面15に対する接触部は、リンク53の後端部(回動関節部55)となる。
また、リンク53の回動動作についての回動軸方向視(以下単に「回動軸方向視」という。)とは、治具80における関節中心についての軸方向視である。言い換えると、回動軸方向視は、リンク53の回動平面視となる。したがって、回動軸方向視は、図10に示される方向視に対応する。
また、リンク機構部81のボア変形押圧を行う状態(以下「ボア変形押圧状態」という。)とは、リンク機構部81を構成するリンク53が、ジャケット形成面に接触している状態である。つまり、リンク機構部81のボア変形押圧状態とは、リンク先端部53aが、ジャケット底面16およびジャケット外側壁面17に接触するとともに、リンク53の後端部が、シリンダ部外周面15に接触している状態である。
また、ジャケット幅寸法L1が拡大した場合に対応するリンク機構部81のシリンダ部外周面15に対する接触位置の変化方向(以下「ジャケット幅拡大時接触位置変化方向」という。)について、シリンダ部外周面15に対する接触部となるリンク53の後端部の場合を例に説明する。
ボア変形押圧状態において、ジャケット幅寸法L1が拡大する場合に対応して、リンク53は、押付力伝達部22からの押圧作用を受けて傾斜角度θ小さくなる方向(図10において時計方向)に回転する。かかるリンク53の回転にともない、シリンダ部外周面15に対するリンク53の接触位置は、リンク53の後端部の縁端においてジャケット底面16側からジャケット開口部側にかけて変化する。このジャケット幅寸法L1が拡大する場合に対応するリンク53の回転にともなうシリンダ部外周面15に対する接触位置の変化する方向が、ジャケット幅拡大時接触位置変化方向となる。
これらのことから、治具80においては、リンク53の後端部の縁端形状が、リンク機構部81のボア変形押圧状態における回動軸方向視で、ジャケット幅拡大時接触位置変化方向に曲率半径が徐々に大きくなる形状となっている。つまり、リンク53の後端部の縁端部において、回動軸方向視形状について、ジャケット底面16側(図10において下側)からジャケット開口部側(図10において上側)にかけて曲率半径が徐々に大きくなる徐変R形状部分である徐変R部83bが形成されている。
徐変R部83bは、リンク53の後端部におけるシリンダ部外周面15に接触する部分、つまりリンク53の縁端形状について設けられる。したがって、徐変R部83bは、ジャケット幅寸法L1の変化等に応じて変化する、リンク53のシリンダ部外周面15に対する接触位置の範囲に対応する範囲において設けられる。
徐変R部83bは、前記のとおり回動軸方向視でボア変形押圧状態におけるジャケット幅拡大時接触位置変化方向に(ジャケット底面16側からジャケット開口部側にかけて)曲率半径が徐々に大きくなる形状を有する。つまり、徐変R部83bにおいては、回動軸方向視でのリンク53の縁端形状が、ある中心点に対する半径が徐々に変化する形状となっている。そして、その半径の変化が、リンク53のボア変形押圧状態でジャケット幅拡大時接触位置変化方向徐々に大きくなるものとなっている。
具体的には、徐変R部83bにおける回動軸方向視形状は、例えば、図10に示すように、治具80における関節中心を中心点O1した場合、曲率半径(この場合、中心点O1からリンク53の縁端までの距離となる)が、ジャケット幅拡大時接触位置変化方向手前側(ジャケット底面16側)の曲率半径R1から、ジャケット幅拡大時接触位置変化方向奥側(ジャケット開口部側)の曲率半径R3にかけて徐々に大きくなる形状となる。つまり、図10に示すように、曲率半径R1と曲率半径R3との間の部分における曲率半径R2を用いると、R1<R2<R3の関係が成り立つこととなる。言い換えると、徐変R部83bにおける回動軸方向視形状は、曲率が、ジャケット幅拡大時接触位置変化方向に徐々に小さくなる形状となる。
本実施形態における他の構成例として、治具80において、リンク53の後端部に設けられる徐変R部83bに対応する徐変R形状部分が、リンク先端部53aに設けられる構成が挙げられる。すなわち、本構成例においては、リンク機構部81の、ジャケット側壁面であるジャケット外側壁面17に対する接触部の形状が、回動軸方向視で、リンク機構部81のボア変形押圧状態におけるジャケット幅寸法L1が拡大した場合に対応するリンク機構部81のジャケット外側壁面17に対する接触位置の変化方向に、曲率半径が徐々に大きくなる形状とされる。
治具80においては、リンク機構部81のジャケット外側壁面17に対する接触部は、リンク先端部53aとなる。また、ジャケット幅寸法L1が拡大した場合に対応するリンク機構部81のジャケット外側壁面17に対する接触位置の変化方向は、前述した徐変R部83bの場合と逆方向、つまりジャケット開口部側からジャケット底面16側にかけての方向となる。
これらのことから、本構成例においては、リンク先端部53aの縁端形状が、リンク機構部81のボア変形押圧状態における回動軸方向視で、ジャケット開口部側からジャケット底面16側にかけて、曲率半径が徐々に大きくなる形状となる。
以上のように、リンク機構部81(リンク53)のシリンダ部外周面15に対する接触部の形状について工夫を施すことにより、ボア変形押圧によってシリンダボア4に付与する変形について、ウォータジャケット6の内部形状のバラツキに起因するジャケット幅寸法L1のバラツキにともなう変形量(ボア変形量)のバラツキを低減することができ、ボア変形量の安定化を図ることができる。
すなわち、ジャケット幅寸法L1のバラツキは、ボア変形押圧状態におけるリンク53の傾斜角度θのバラツキに繋がる。この傾斜角度θのバラツキは、ボア変形押圧によるリンク53からシリンダ部外周面15に対する押圧力のバラツキに繋がる。かかる押圧力のバラツキは、ボア変形量のバラツキに繋がる。
そこで、前述したように、シリンダ部外周面15に対する押圧部となるリンク53の後端部に徐変R部83bを設けることにより、この徐変R部83bの形状によって、例えばリンク53の後端部の縁端における回動軸方向視形状が、曲率半径が一定の円弧形状である場合(図6参照)と比べて、ジャケット幅寸法L1の変化量に対する傾斜角度θの変化量を少なくすることができる。言い換えると、少しの傾斜角度θの変化量で、ジャケット幅寸法L1の変化に対応することが可能となる。
これにより、ジャケット幅寸法L1のバラツキにともなって生じる、傾斜角度θのバラツキ、つまりはボア変形押圧によるシリンダ部外周面15に対する押圧力のバラツキを低減することができる。結果として、ジャケット幅寸法L1のバラツキにともなうボア変形量のバラツキを低減することができ、ボア変形量の安定化を図ることができる。
なお、本実施形態の治具80は、リンク機構部のジャケット側壁面に対する接触部の形状についての工夫が、第二実施形態の治具50の構成において施される場合の例であるが、第一実施形態の治具20の構成においても適用可能である。
すなわち、リンク機構部のジャケット側壁面に対する接触部の形状についての工夫が、第二実施形態の治具20の構成において施される場合は、リンク機構部21の、シリンダ部外周面15およびジャケット外側壁面17の少なくともいずれかに対する接触部の形状が、各リンク23の回動動作についての回動軸方向視で、リンク機構部21のボア変形押圧状態におけるジャケット幅寸法L1が拡大した場合に対応するリンク機構部21のシリンダ部外周面15またはジャケット外側壁面17に対する接触位置の変化方向に、曲率半径が徐々に大きくなる形状とされることとなる。
つまりこの場合、リンク機構部21において、シリンダ部外周面15に対する接触部となる横回動関節部25c、およびジャケット外側壁面17に対する接触部となる横回動関節部25cの少なくともいずれかについて、前述したような徐変R形状部分が、各回動関節部25cを構成するリンク23の端部に対して設けられることとなる。
このように、リンク機構部のジャケット側壁面に対する接触部の形状についての工夫が、第二実施形態の治具20の構成において適用されることによっても、前述したように治具80において徐変R形状部分が設けられる場合と同様の作用効果が得られる。