図1は本発明の一の実施の形態に係る画像形成装置1の構成を示す図である。本実施の形態における画像形成装置1は電子写真法を用いてガラス基板上にトナーの画像を形成する印刷装置であり、トナー画像が下流の図示省略の定着装置を経由してガラス基板上に定着されることにより液晶表示装置等の平面表示装置用のカラーフィルタが製造される。なお、実際には、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色のトナーにそれぞれ対応する3つの画像形成装置1と定着装置とが一列に設けられる。
画像形成装置1は、図1中の(+Z)側の主面(上面)に透明かつ導電性の補助膜(例えば、ITO膜)が一様に形成(成膜)された透明なガラス基板9を吸引吸着にて保持するステージ21、定盤11上に設けられるとともに図1中のY方向へとステージ21を水平に移動する基板移動機構22、ステージ21上のガラス基板9の補助膜側に設けられるとともに電子写真法にて感光ドラム上にR、GまたはBの色のカラーのトナー画像を形成するプロセスユニット3、および、ガラス基板9上の補助膜に所定の電位を付与する電位付与部4を備える。例えば、ガラス基板9の厚さは0.3〜0.7ミリメートル(mm)であり、補助膜の厚さは0.5〜1マイクロメートル(μm)であり、実際には、補助膜上には格子状のブラックマトリクスが形成されている。図1ではガラス基板9上の補助膜およびブラックマトリクスを1本の太線にて表している。
プロセスユニット3は、図示省略のモータに減速機を介して接続される直径250mmの感光ドラム31を備え、感光ドラム31は図1中のX方向に平行な回転軸J1を中心に回転可能に支持される。感光ドラム31は、アルミニウム等の金属により形成されるとともに回転軸J1を中心とするドラム本体311を有し、ドラム本体311は電気的に接地される。ドラム本体311の外周面には、例えば、フタロシアニン顔料を有する単層型有機感光体(以下、単に「感光体312」という。)が一様に塗布される(または、蒸着される)。なお、感光ドラム31の直径は250mmには限定されないが、好ましくは200mm以上400mm以下とされる。また、感光体312はフタロシアニン顔料を有する単層型有機感光体以外に、例えば、アモルファスシリコン等の無機感光体により形成されてもよい。
プロセスユニット3は、感光ドラム31に対向して設けられる帯電器32をさらに有し、帯電器32はイオンを発生して感光体312を帯電させる。また、感光ドラム31の周囲には帯電器32から時計回りに、画像形成用の光を出射して感光体312に静電潜像を形成する潜像形成部33、感光体312上に形成された静電潜像に液体トナー(例えば、イソパラフィン系の絶縁性の溶媒(キャリア液)に分散している湿式トナー)を付与して現像する現像部34、感光体312の表面をクリーニングするクリーナ35、並びに、光を出射して感光体312を除電する除電器36が配置される。なお、現像部34は現像液である液体トナーを供給するトナー供給部(図示省略)に接続される。
また、ステージ21上のガラス基板9の上面は感光体312の部位の移動経路上において現像部34とクリーナ35との間にて感光体312の外周面に最も接近する。後述するように、感光体312の外周面上のトナーは感光体312とガラス基板9上の補助膜とが最も接近する位置にてガラス基板9上に転写されるため、以下の説明において、感光体312の外周面とガラス基板9上の補助膜とが最も接近する位置を転写位置と呼ぶ。転写位置はプロセスユニット3に対して相対的に固定された位置となる。
電位付与部4は、転写位置の(+Y)側および(−Y)側にそれぞれ配置される2つの電位付与ローラ41を有し、電位付与ローラ41は電極の周囲を導電性ゴム等にて覆うことにより形成される。図2は、電位付与ローラ41の配置を説明するための図であり、(+Z)側から(−Z)方向を向いて画像形成装置1を見た様子を示している。図2では感光ドラム31を除いて、プロセスユニット3の各構成の図示を省略し、さらに、ガラス基板9から内側のみを図示している。図2に示すように、(+Y)側および(−Y)側の電位付与ローラ41は感光ドラム31の(−X)側に配置されており、各電位付与ローラ41は図示省略の支持部材により感光ドラム31の回転軸J1に平行な軸を中心に回転可能に支持される。ガラス基板9上において、ブラックマトリクスは図2中の破線にて示す転写領域90(すなわち、トナー画像が転写される領域)内のみに形成されており、電位付与ローラ41はガラス基板9の上面の全体に形成される補助膜に直接当接する。実際には、ガラス基板9は図2中の(−Y)側から(+Y)方向に向かって移動するため、ガラス基板9の(+Y)側の端部が転写位置に位置する間は(−Y)側の電位付与ローラ41のみがガラス基板9上の補助膜に当接し、ガラス基板9の(−Y)側の端部が転写位置に位置する間は(+Y)側の電位付与ローラ41のみがガラス基板9上の補助膜に当接する。したがって、トナーの転写時において(+Y)側および(−Y)側の電位付与ローラ41の少なくとも一方が、ガラス基板9の補助膜に常時当接することとなる。図1に示すように、各電位付与ローラ41の電極には電圧源42が接続され、所定の電位が電位付与ローラ41を介してガラス基板9上の補助膜に付与される。
図3は基板移動機構22の構成を示す図であり、図1中の(−Y)側から(+Y)方向を向いて基板移動機構22を見た場合の様子を示している。図3に示す基板移動機構22は、定盤11上において、X方向に並んで設けられるとともにそれぞれがY方向に伸びる2つのガイドレール231を有する。ステージ21には、各ガイドレール231に対向する位置にスライダ232が設けられ、各スライダ232にエア供給部233から高圧のエアが供給されてスライダ232がガイドレール231に非接触にて係合し、ステージ21がY方向に移動可能に支持される。また、基板移動機構22はリニアモータ24をさらに有し、リニアモータ24の固定体241は定盤11上に固定され、移動体242はステージ21に取り付けられる。そして、リニアモータ24を駆動することにより、ステージ21がY方向に滑らかに移動する。
図4は、画像形成装置1がガラス基板9上にトナー画像を形成する処理の流れを示す図である。なお、図4中のステップS12〜S15は感光体312の一部に注目した処理の流れを示しており、感光体312全体に対しては実際には時間的にほぼ並行して行われる。
図1の画像形成装置1では、まず、外部の装置にて上面上に補助膜およびブラックマトリクスが予め形成されたガラス基板9がステージ21に載置されて準備される(ステップS10)。続いて、感光ドラム31が回転軸J1を中心に時計回り(図1中の矢印71が示す回転方向)に一定の回転速度にて回転を開始するとともにガラス基板9も(+Y)方向へと一定の速度にて移動を開始する(ステップS11a,S11b)。プロセスユニット3では感光ドラム31の回転により、回転軸J1を中心とする円筒ドラム状の感光体312が、周囲に配置された各周辺構成(すなわち、帯電器32、潜像形成部33、現像部34、クリーナ35および除電器36)に対して連続的に移動し、これらの周辺構成による感光体312に対する処理が開始される。
帯電器32では、対向する位置へと到達する感光体312の一部(以下、「対象部位」と呼ぶ。)に電荷が順次付与され、対象部位の表面を、例えば(+700)ボルト(V)にて一様に帯電させる(ステップS12)。帯電後の対象部位は潜像形成部33の光の照射位置へと連続的に移動する。潜像形成部33は、所定の波長の光を出射する複数の発光ダイオード(LED)が配列されたもの(LEDアレイ)を光源として有する。潜像形成部33には、カラーフィルタのパターンを示す画像から生成された各色成分の画像データのうち、このプロセスユニット3のトナーの色に対応する画像データが入力され、この画像データに応じて画像形成用の光が感光体312に向けて出射される。感光体312の対象部位において光が照射された部位は、表面に帯電した電荷が感光体312内に移動して除去される(ただし、表面電位は帯電直後における電位よりも減少するが、0Vとはならない。)。また、光が照射されない部位は帯電状態がそのまま維持されるため、感光体312の表面には電荷の分布による画像(すなわち、静電潜像)が形成される(ステップS13)。潜像形成部33の光源は、必ずしもLEDである必要はなく、例えば、半導体レーザや、ランプと液晶シャッタとを組み合わせたもの等であってもよい。
感光ドラム31において静電潜像が形成された部分(対象部位)は現像部34に対向する位置へと移動し、現像部34の現像ローラ341により液体トナー(溶媒中に分散されるとともに帯電しているトナー)が静電潜像に付与される(ステップS14)。このとき、感光体312の表面と同じ極性である正に帯電したトナーは感光体312上の対象部位において電荷が除去された部位にのみ付着して静電潜像が現像される。すなわち、感光体312の対象部位にトナー画像が形成される。なお、感光体312上の帯電した部位に帯電したトナーが付着するようにされてもよい。
その後、対象部位は、感光ドラム31の回転に同期して移動するガラス基板9の上面に最も接近する転写位置へと到達し、転写位置では対象部位は感光ドラム31の回転速度に応じた速度(すなわち、感光ドラム31の外周面の回転軸J1に垂直な断面における接線方向の速度)にて正確に(+Y)方向へと移動する。また、基板移動機構22によりガラス基板9も転写位置における対象部位と同じ速度にて、対象部位の進む方向と同じ(+Y)方向を進行方向として上面に沿って移動しており、転写位置の極近傍において対象部位に対向するガラス基板9の部位の位置が対象部位に対して相対的に固定される。このとき、ガラス基板9の補助膜には、電位付与部4の電位付与ローラ41により所定の電位が付与されており、これにより、転写位置において対象部位とガラス基板9上の補助膜との間の間隙(例えば、幅10〜20μmの微小な間隙)には転写電圧が作用して、この間隙に対象部位から補助膜へと向かう電界が発生する。その結果、感光体312の対象部位上の正のトナーがガラス基板9上の補助膜へと移動する(ステップS15)。なお、ガラス基板9上にトナーを転写する様子については、画像形成装置1における全体動作の説明後に詳述する。
対象部位は、クリーナ35の位置へと続けて移動し、クリーナ35により感光体312の対象部位に残留したトナー(すなわち、ガラス基板9に転写されなかったトナー)等の不要物が除去されて感光体312の表面がクリーニングされ、感光体312が機械的に初期状態に戻される。そして、ランプとフィルタとの組合せ、あるいは、LED等を有する除電器36により光が照射されて感光体312が除電され、電気的に初期状態に戻される。
ステップS12〜S15の処理は感光体312上の各部位に対してほぼ並行して行われ、転写位置へと順次到達する感光体312の各部位に対しても連続的に処理が行われるため、最終的には感光体312の外周面上のトナー画像全体が転写位置においてガラス基板9上に転写されることとなる。そして、ガラス基板9の全体への印刷が終了すると、感光ドラム31の回転が停止されるとともに、基板移動機構22が停止され、画像形成装置1による印刷処理が終了する(ステップS16a,S16b)。これにより、ガラス基板9の転写領域90の全体に一の色のトナー画像が形成される。
既述のように、実際には、R、G、Bの色にそれぞれ対応する3台の画像形成装置が準備され、一の色のトナー画像がガラス基板9上に形成されると、ガラス基板9が次の画像形成装置へと搬送されて次の色のトナー画像が形成される。これにより、3台の画像形成装置によりR、G、Bの色のトナー画像がガラス基板9上に形成され、最後に、定着装置にて加熱溶融されてガラス基板9に定着されることにより、カラーフィルタが完成する。
図5は画像形成装置1を用いて製造されたカラーフィルタ8を示す断面図である。図5に示すようにカラーフィルタ8は、絶縁性を有する透明なガラス基板であるフィルタ本体80、フィルタ本体80の主面上に一様に形成されるとともに導電性を有する透明な補助膜81、および、補助膜81上にカラートナーが付与されることにより形成されたカラーのフィルタ層82を備える。フィルタ層82は、R、G、Bの3つの画素要素の集合を1つの画素として、複数の画素をフィルタ本体80上に二次元に配列して有する。図5では、Rの画素要素に符号821R、Gの画素要素に符号821G、Bの画素要素に符号821Bを付している。
前述のように、補助膜81上にはフィルタ層82の各部位(すなわち、画素要素821R,821G,821B)を仕切る網目状のブラックマトリクス83が形成されており、Rの複数の画素要素821R、Gの複数の画素要素821G、および、Bの複数の画素要素821BはそれぞれR用の画像形成装置、G用の画像形成装置およびB用の画像形成装置において、感光体312上に形成された静電潜像を湿式の当該色のカラートナーにて現像した後に感光体312上のカラートナーをガラス基板9に転写し、さらに、熱を利用してガラス基板9に定着させることにより形成される。このように、画像形成装置1によるガラス基板9上への転写後のトナー画像がカラーフィルタ8のフィルタ層82(の一部)となる。また、カラーフィルタ8が液晶表示装置に用いられる際には、他の装置によりフィルタ層82およびブラックマトリクス83を全体的に覆う透明の絶縁膜(いわゆる、オーバーコート)が形成され、絶縁膜上に透明導電層(例えば、ITO)のパターンが別途形成される。
次に、画像形成装置1の転写位置近傍における等価回路モデルについて図6を参照して説明を行う。以下の説明において、図1の感光体312の外周面とガラス基板9上の補助膜との間の転写位置近傍の空間であって、エアが介在する部分をエアギャップと呼ぶ。また、上述のように、トナーはガラス基板9上のブラックマトリクスが形成されていない領域に転写されるため、ブラックマトリクスの存在は無視するものとする。
図1の画像形成装置1では、転写位置近傍において絶縁性となっている感光体312が接地されたドラム本体311に接続し、導電性の補助膜が電圧源42に接続し、感光体312と補助膜との間にはエアギャップが存在するため、転写位置近傍における等価回路モデルは、感光体312およびエアギャップをそれぞれ置き換えた2つのコンデンサ(図6中にてそれぞれ符号p1,a1を付す。)、および、電位付与部4を置き換えた電源(図6中にて符号w1を付す。)にて表すことができる。
ここで、コンデンサに蓄積される電荷量Qは、当該コンデンサの静電容量C(キャパシタンス)と当該コンデンサに作用する電圧ΔVとの積にて表され(すなわち、(Q=C×ΔV)、図6中の2つのコンデンサp1,a1に蓄積される電荷量は等しいため、コンデンサp1,a1の静電容量をそれぞれCp1,Ca1、電源w1により付与される電位をV1、コンデンサp1,a1間の位置の電位をVα1とすると、数1に示す関係が得られる。
数1を変形することにより、コンデンサp1,a1間の位置の電位Vα1は数2にて表される。
また、コンデンサa1の極板間の電界強度Ea1は、コンデンサa1の極板間の距離をda1として、電源w1により付与される電位V1、コンデンサp1,a1間の位置の電位Vα1を用いて数3にて表される。
上記数1ないし数3において、静電容量Cp1は感光体312の静電容量に、静電容量Ca1はエアギャップの静電容量に、電位V1は電位付与部4により補助膜に付与される電位に、電界強度Ea1はエアギャップに作用する電界強度に、距離da1はエアギャップの幅(すなわち、Z方向に関する感光体312と補助膜との間の距離)にそれぞれ等しい。なお、感光体312に作用する電界強度(コンデンサp1の極板間の電界強度)Ep1は、感光体312の厚さ(コンデンサp1の極板間の距離)をdp1として、コンデンサp1,a1間の位置の電位Vα1を用いて、(Ep1=Vα1/dp1)と表される。
一方で、比較例として仮に図1の画像形成装置1において電位付与部4を省略し、導電性のステージを介して所定の電源からガラス基板の下面に電位を付与する場合について考える。比較例の画像形成装置の転写位置近傍における等価回路モデルは、図7に示すように感光体、エアギャップおよびガラス基板をそれぞれ置き換えた3つのコンデンサ(図7中にてそれぞれ符号p0,a0,g0を付す。)、および、電源(図7中にて符号w0を付す。)にて表すことができる。図7の等価回路モデルにおいて、3つのコンデンサp0,a0,g0に蓄積される電荷量は等しいため、コンデンサp0,a0,g0の静電容量をそれぞれCp0,Ca0,Cg0、電源w0により付与される電位をV0、コンデンサp0,a0間の位置の電位をVα0、コンデンサa0,g0間の位置の電位をVβ0とすると、数4に示す関係が得られる。なお、静電容量Cp0は感光体の静電容量に、静電容量Ca0はエアギャップの静電容量に、静電容量Cg0はガラス基板の静電容量に、電位V0は電源からガラス基板の下面に付与される電位にそれぞれ等しい。
数4から、コンデンサp0,a0間の位置の電位Vα0およびコンデンサa0,g0間の位置の電位Vβ0は、数5として求められる。
また、比較例の画像形成装置においてエアギャップに作用する電界強度(コンデンサa0の極板間の電界強度)Ea0は、エアギャップの幅(コンデンサa0の極板間の距離)をda0として、コンデンサp0,a0間の位置の電位Vα0およびコンデンサa0,g0間の位置の電位Vβ0を用いて数6にて表される。
なお、比較例の画像形成装置において感光体に作用する電界強度(コンデンサp0の極板間の電界強度)Ep0は、感光体の厚さ(コンデンサp0の極板間の距離)をdp0としてコンデンサp0,a0間の位置の電位Vα0を用いて、(Ep0=Vα0/dp0)と表され、ガラス基板に作用する電界強度(コンデンサg0の極板間の電界強度)Eg0は、ガラス基板の厚さ(コンデンサg0の極板間の距離)をdg0として電源により付与される電位V0、コンデンサa0,g0間の位置の電位Vβ0を用いて、(Eg0=(V0−Vβ0)/dg0)と表される。
ところで、エアギャップにおいて放電が生じる境界条件を示すものとしてパッシェンカーブが知られている。図8は、画像形成装置1におけるパッシェンカーブを示す図であり、図8中の縦軸はエアギャップに作用する電界強度を示し、横軸は転写位置からのY方向の距離を示している。パッシェンカーブは、ある幅のエアギャップにおいて放電が生じる際の電界強度のしきい値を示すものであり、図8では破線にてパッシェンカーブ60を図示している。画像形成装置1では、転写位置からY方向に離れるに従ってエアギャップの幅が漸次増大し、図8中のパッシェンカーブ60が示す電界強度は転写位置からの距離に依存して小さくなっている。転写位置近傍のある位置(注目位置)に注目した場合に、転写位置から注目位置までのY方向の距離と、注目位置に実際に作用する電界強度とにより特定される図8中の位置が、パッシェンカーブ60よりも上側の領域に含まれる場合には、注目位置にてエアギャップに放電が発生する。なお、ある幅Dのエアギャップにおいて放電が生じる際のしきい値を、エアギャップに作用する電圧Aで表した場合には、本実施の形態では(A=312+6.2D)(ただし、D>10[μm])と表される。
ここで、画像形成装置1のエアギャップに作用する電界強度Ea1が、転写位置近傍のいずれの位置においてもパッシェンカーブ60の下側の領域に含まれるという条件を満足するとともに、転写位置(転写位置からの距離が0の位置)において最大の電界強度が作用するように、電位付与部4から補助膜に電位を付与した場合には、転写位置近傍のエアギャップに作用する電界強度は、数3より図8中の符号61を付す線にて示すようになる。なお、後述するように、実際には転写位置の極近傍には液体トナーのキャリア液が満たされているが、図8中の線61(並びに、後述する線62,63)の図示の際には、転写位置の極近傍においてもエアギャップが存在するものとしている。
また、転写位置において、比較例の画像形成装置のエアギャップに作用する電界強度Ea0が、画像形成装置1のエアギャップに作用する電界強度Ea1の値と一致するように、比較例の画像形成装置において、電源からガラス基板の下面に電位を付与した場合には、転写位置近傍のエアギャップに作用する電界強度は、数6より図8中の符号62を付す線にて示すようになる。
既述のように、転写位置からY方向に離れるに従ってエアギャップの幅は漸次増大するため、線61,62共に転写位置からの距離に依存して電界強度が小さくなるが、画像形成装置1と比較例の画像形成装置とではエアギャップに作用する電圧が相違するため、線61,62間で転写位置からの距離に対する電界強度の減少率が大きく異なる。具体的には、画像形成装置1ではガラス基板9上の補助膜の電位が転写位置からの距離に依存せず一定となるため、エアギャップに作用する電圧も一定となる。これに対し、比較例の画像形成装置では、感光体の外周面と電源から電位が付与されるガラス基板の下面との間に作用する電圧がエアギャップとガラス基板とに、各部位の静電容量の逆数の比にて分配されるため、転写位置からY方向に離れるに従ってエアギャップの幅が漸次増大してエアギャップの静電容量が減少することにより、エアギャップに作用する電圧は増大する。したがって、画像形成装置1では、比較例の画像形成装置よりも転写位置からの距離に対する電界強度の減少率が大きくなり、エアギャップにおいて放電が生じることが防止(抑制を含む。)される。
図8中の線62では、転写位置からの距離が0〜10mmの範囲にて電界強度がパッシェンカーブ60よりも大きくなっており、比較例の画像形成装置においてこの範囲でエアギャップに放電が発生してしまう。また、比較例の画像形成装置のエアギャップに作用する電界強度が、転写位置近傍のいずれの位置においてもパッシェンカーブ60の下側の領域に含まれるという条件を満足するとともに、転写位置において最大の電界強度が作用するように、電源からガラス基板の下面に電位を付与した場合には、転写位置近傍のエアギャップに作用する電界は、図8中の符号63を付す線にて示すようになる。この場合、転写位置近傍におけるエアギャップにて放電が生じることを防止することはできるが、転写位置における電界強度(すなわち、転写電界強度)が、線61にて示す画像形成装置1における転写電界強度よりも小さくなってしまい、トナーの転写効率が低くなってしまう。
なお、本実施の形態における画像形成装置1では、実際には転写位置からの距離が0〜約1.0mmの範囲が、液体トナーのキャリア液にて満たされているため、仮に、この範囲内において電界強度がパッシェンカーブ60が示す値よりも大きくなっていたとしても、感光体312の外周面とガラス基板9の補助膜との間にて放電が発生することはない。このような観点では、画像形成装置1では、転写位置近傍の感光体312の外周面とガラス基板9の補助膜との間においてエアギャップが存在する位置(すなわち、キャリア液が満たされない部分)に作用する電界強度がパッシェンカーブ60の下側の領域に含まれておればよい。
次に、トナーの転写時の様子について説明する。図9.Aおよび図9.Bは画像形成装置1におけるトナーの転写時の様子を説明するための図である。図9.Aではトナーの転写直前の様子を抽象的に示しており、図9.Bでは感光体312の外周面上のトナーのうち表面の極微量のトナーのみがガラス基板9の補助膜81上に転写された直後の様子を抽象的に示している。なお、図9.Aおよび図9.Bでは、内部に「+」を付す丸にてトナーの粒子を示すとともに、トナーはガラス基板9上のブラックマトリクスが形成されていない領域に転写されるため、ブラックマトリクスの存在を無視し、さらに、説明の便宜上、感光体312の外周面とガラス基板9上の補助膜81との間の間隔を大きく図示している(後述する図10.Aおよび図10.Bにおいて同様)。
図9.Aに示すトナーの転写直前では、感光体312の外周面とガラス基板9の補助膜81との間には図9.A中に符号72を付す矢印にて示す向きに電界が作用しており、このときの電界強度Ei0は、転写電圧(感光体312の外周面と補助膜81との間の電位差)をΔV0、感光体312の外周面とガラス基板9の補助膜81との間の距離をdとして、数7にて表される。
そして、感光体312の外周面上のトナーのうち表面の極微量のトナーのみがガラス基板9の補助膜81上に転写された直後では、図9.Bに示すように、ガラス基板9の補助膜81上に、トナーによる薄い層が形成されることとなる。ここで、トナーによる層が薄い絶縁層であると考えた場合に、図9.Bに示す状態において、感光体312の外周面とトナーによる絶縁層の表面との間にて、矢印72にて示す向きに感光体312上のトナー(転写前のトナー)に作用する電界強度Ei1は、転写電圧をΔV0、トナーによる絶縁層(コンデンサと捉えることができる。)に蓄積される電荷をQt、トナーによる絶縁層の静電容量をCt、感光体312の外周面とガラス基板9の補助膜81との間の距離をdとして、数8にて表される。
次に、前述した比較例の画像形成装置におけるトナーの転写時の様子について述べる。図10.Aおよび図10.Bは比較例の画像形成装置におけるトナーの転写時の様子を説明するための図である。図10.Aではトナーの転写直前の様子を抽象的に示しており、図10.Bでは感光体92の外周面上のトナーのうち表面の極微量のトナーのみがガラス基板91上に転写された直後の様子を抽象的に示している。なお、図10.Aおよび図10.Bではガラス基板91の下面に電位を付与する保持部93も図示している。
図10.Aに示すトナーの転写直前では、感光体92の外周面とガラス基板91との間には図10.A中に符号73を付す矢印にて示す向きに電界が作用しており、このときの電界強度は図9.Aの場合と同様である。そして、図9.Bの場合と同様に、感光体92の外周面上のトナーのうち表面の極微量のトナーのみがガラス基板91上に転写された直後では、図10.Bに示すように、ガラス基板91上にトナーによる薄い絶縁層が形成されることとなり、感光体92の外周面とトナーによる絶縁層の表面との間にて、矢印73にて示す向きに感光体92上のトナーに作用する電界強度Ei2は、転写電圧(感光体92の外周面とガラス基板91の表面との間の電位差)をΔV0、トナーによる絶縁層およびガラス基板91のそれぞれ(コンデンサと捉えることができる。)に蓄積される電荷をQt、トナーによる絶縁層の静電容量をCt、ガラス基板91の静電容量をCg、感光体92の外周面とガラス基板91との間の距離をdとして、数9にて表される。
ここで、数8の右辺および数9の右辺を比較すると、1/Ctが1/Caよりも小さいため、同じ転写電圧を作用させた場合に同量のトナーが転写された直後の状態において、画像形成装置1における転写位置にて感光体312上のトナーに作用する電界強度が比較例の画像形成装置よりも大きくなることが判る。例えば、ガラス基板の厚さが0.7mmである場合に、画像形成装置1および比較例の画像形成装置において、転写途上におけるトナーによる絶縁層の厚さが同じであるときには、画像形成装置1の転写位置での電界強度は、比較例の画像形成装置の約350倍となり、画像形成装置1ではトナーの転写に利用されるエネルギを極めて大きくすることが可能となる。
以上に説明したように、図1の画像形成装置1では、主面上に補助膜が形成されたガラス基板9が準備され、電位付与部4により補助膜に電位が付与されることにより、転写位置における補助膜の部位と転写位置における感光体312の外周面の部位との間に転写電圧が作用して、外周面上のトナー画像がガラス基板9に転写される。これにより、ガラス基板に補助膜を設けることなく、ガラス基板の下面から電位を付与して感光体上のトナー画像を転写する場合に比べて、転写途上におけるガラス基板上のトナー層に起因する電界強度の低下を抑制して、不必要に大きな電位を付与することなく感光体312の外周面上のトナー画像を絶縁性のガラス基板9上に効率よく転写することが実現される。
画像形成装置1では、ガラス基板9の補助膜に付与される電位が、転写位置の近傍における補助膜と感光体312の外周面との間のエアギャップに作用する電界強度を、パッシェンカーブにて示されるエアギャップの破壊電界未満とする値とされる。これにより、転写位置近傍において、感光体312とガラス基板9との間のエアギャップにて放電が生じて転写直前の感光体312の外周面上のトナー画像、または、転写直後のガラス基板9の上面上のトナー画像が乱されることを防止することができ、その結果、ガラス基板9上にトナー画像を精度よく転写することができる。なお、画像形成装置1では、転写位置において、感光体312の外周面がガラス基板9の上面と当接する場合であっても、転写位置近傍においてエアギャップに放電が生じることを防止して、ガラス基板9上にトナー画像を精度よく転写することが可能である。
また、ガラス基板9の補助膜上にブラックマトリクスが予め形成されない場合において、カラーフィルタの要求精度によっては、画像形成装置1によりブラックマトリクスを形成することも可能である。この場合、ブラックマトリクス形成用の画像形成装置が準備され、電位付与部4により補助膜に電位を付与しつつ、感光体の外周面上に形成されたKの色のトナー画像がガラス基板9上に効率よく転写され、ブラックマトリクスが容易に形成される。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
上記実施の形態では、感光体312上のトナー画像がガラス基板9に直接転写されるが、感光体312上のトナー画像は間接的にガラス基板9に転写されてもよい。図11は他の例に係る画像形成装置1aの構成を示す図である。図11の画像形成装置1aでは、中間転写体251を有する中間転写部25が設けられ、感光ドラム31上のトナー画像は中間転写体251を介してガラス基板9上に転写される。具体的には、中間転写体251は誘電材料にて形成される平ベルト状の環状部材とされ、2つのローラ252a,252bに外接して設けられる。一方のローラ252aにはモータが接続され、モータが駆動することにより中間転写体251が感光ドラム31のトナー画像が形成された部位に当接しつつ外周面に沿って循環移動する。また、他方のローラ252bには直流電源253が接続される。図11の画像形成装置1aでは、潜像形成部33や現像部34等により感光体312上に形成されたトナー画像が、ローラ252bを介して付与される電位により循環移動する中間転写体251上に転写される。そして、トナー画像が形成された中間転写体251の部位は補助膜が形成されたガラス基板9へと送られ、電位付与部4により補助膜に所定の電位が付与され、転写位置近傍における放電を防止しつつ中間転写体251上のトナー画像がガラス基板9上に効率よく転写される。なお、図11の画像形成装置1aでは画像形成時にガラス基板9は図11中の(−Y)方向へと移動する。
以上のように、画像形成装置では、感光ドラム31または中間転写部25が、外周面上にガラス基板9への転写前のトナー画像が形成される円筒ドラム状または平ベルト状の環状部材を外周面に沿って循環移動するトナー画像保持部としての動作を行うことにより、ガラス基板9への転写対象であるトナー画像が転写位置へと送られてガラス基板9上に転写される。
ガラス基板9上の補助膜に電位を付与する電位付与部4は、電位付与ローラ41以外に例えば、ブラシ等を利用して補助膜に電位を付与するものであってもよい。また、転写位置において、感光体312の外周面とガラス基板9上の補助膜との間に転写電圧が作用するのであれば、電位付与部4によりガラス基板9の補助膜に付与される電位は接地電位であってもよい。この場合、電圧源42は省略可能である。
また、基板移動機構22は、ガラス基板9を保持する保持部であるステージ21を移動するもの以外であってもよい。例えば、ステージ21に替えて複数のローラに外接する環状ベルトが設けられ、いずれかのローラにモータが接続されて環状ベルトがこれらのローラの周囲を経由して循環移動することにより、環状ベルト上に保持されるガラス基板を感光体312の外周面に最も接近する転写位置にて環状の感光体312(または、中間転写体251)の接線方向に移動する移動機構が設けられてもよい。さらに、後述するように画像形成装置における処理の対象物がフィルム状である場合には、転写位置にて感光ドラム31に対向する位置に配置されるローラ、および、このローラを回転するモータがそれぞれ保持部および移動機構として設けられ、ローラが転写位置近傍にて対象物を小さな曲率にて湾曲させてその表面に沿って移動させてもよい。この場合、転写位置における対象物の補助膜の部位が、転写位置における感光体312の外周面の部位と同じ速度にて同じ方向に移動し、感光ドラム31と対象物との間の間隙の幅が、転写位置における感光ドラム31の接線方向に沿って転写位置から離れるに従って急激に増大することにより、転写位置近傍においてエアギャップに放電が生じることがより安定して防止される。なお、画像形成装置の設計によってはガラス基板9を固定し、プロセスユニットおよび電位付与部を一体的にガラス基板9に対してY方向に移動させてガラス基板9上にトナー画像を形成することも可能である。
画像形成装置では、粉体のトナー(すなわち、キャリア液に分散することなく帯電したトナー)を用いることも可能であるが、転写位置の近傍において感光体312の外周面とガラス基板9の補助膜との間における放電の発生をより確実に防止するという観点では、画像形成装置にて形成されるトナー画像は、感光体312の外周面上の静電潜像に液体トナーを付与することにより形成されることが好ましい。
上記実施の形態では、ガラス基板9上に導電性の補助膜(例えば表面抵抗率が103Ω/□未満)が形成されるが、表面抵抗率が103Ω/□以上106Ω/□以下となる半導電性の補助膜がガラス基板上に形成されている場合であっても、電位付与部4からの電位の付与により補助膜が瞬時に一定の電位となるため、画像形成装置ではトナー画像の転写を効率よく行うことが実現される。また、ガラス基板9上にブラックマトリクスを予め形成する場合において、ブラックマトリクスがガラス基板9の上面と補助膜との間に形成されていてもよい。
画像形成装置では、トナー画像をガラス基板9上に効率よくかつ精度よく転写して、高精度なカラーフィルタを容易に製造することが実現されるが、フィルム状の透明な対象物上にトナー画像が転写されてカラーフィルタが製造されてもよい。また、画像形成装置はカラーフィルタの製造以外の用途に用いられてもよく、画像形成装置においてトナー画像が転写される対象物は、主面上に補助膜が形成されたものであるならば、ガラス基板9以外に半導体基板やプリント配線基板等の他の板状の絶縁部材や、フィルム状の絶縁部材であってもよい。この場合、処理の対象物および対象物上に形成される補助膜は必ずしも透明である必要はない。