JP4781964B2 - マグネトロンスパッタ装置 - Google Patents

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本発明は、マグネトロンスパッタ装置に関し、特にターゲット表面に弧状磁場を形成する磁気回路に関するものである。
マグネトロンスパッタ装置は、電子・電気部品材料の成膜方法として広く用いられている。このスパッタ法は図2に示すように真空チャンバー内に置かれた基板21に対向する形にターゲット材22を置き、ターゲット表面付近に弧状磁場23を形成するようにターゲット背面に磁気回路24を配置し、不活性ガス雰囲気中でこれらの基板21とターゲット22間に高電圧を印加する。このとき電離した電子と不活性ガスが衝突してプラズマが形成され、プラズマ中の陽イオンによりスパッタリング25されたターゲット粒子が対向する基板に堆積して成膜されるものである。弧状磁場23は、一般的には図2中の磁気回路のようにターゲット22の面に対して垂直向きの磁化方向26を持つ磁石27を内側に置き、磁石27とは逆向きの磁化方向28をもつ磁石29を磁石27の外側におくことにより、ターゲット22表面上に形成する。
磁気回路から発生した磁場は、ターゲット表面のみならず、ターゲットから離れた空間にも到達しており、基板を含む空間にも存在している。一方、基板に成膜される種々の材料の中には軟磁性材のように磁場の影響を受けて特定の方向に配向されてしまうものがある。そのため所定の性能を出せなくなってしまう。また、基板付近にまで到達する磁場に拘束された荷電粒子が基板上の薄膜にアタックして膜質を悪化させてしまうケースがある。このように磁気回路からの漏洩磁場はターゲット付近ではプラズマ生成のために必要であるが、基板付近ではむしろ膜質を低下させる要因になっており、この基板付近の磁場を低下させることが重要になってきている。
基板上の磁場を低下させるために磁場打ち消し用の磁気回路を追加して設置することも試みられている(例えば、特許文献1を参照。)。このように別の磁気回路を設けるやり方ではコストが上昇し装置も複雑になるなどデメリットも大きい。よってもっと簡単に基板上の磁場を低下させる方法が望まれる。
特開2001−164363号公報
マグネトロンスパッタ装置において、プラズマ生成に必要なターゲット表面上の磁場を低下させることなく、基板付近に到達する漏洩磁場を低減させることが可能な磁気回路を提供する。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明に係るマグネトロンスパッタ装置用磁気回路は、第1磁石と、該第1磁石の外周に配設され、磁化方向が前記第1磁石の磁化方向と反平行の関係にある第2磁石と、前記第1磁石と第2磁石とを離間して固定するための固定具とを備えた磁気回路であって、前記第1磁石および前記第2磁石が、ほぼ同体積であるものである。
また本発明に係るマグネトロンスパッタ装置は、基板を装着可能な第1電極と、前記第1電極に対向してターゲットを装着可能な第2電極と、前記第2電極の第1電極と対向する側とは反対側に配設された前記磁気回路とを備え、前記磁気回路における第1磁石の磁化方向が、前記第2電極と第1電極との間に電圧を印加することにより生じる電場の方向と平行であるものである。
マグネトロンスパッタ装置において、本発明の磁気回路を用いることによって、従来品と比較してターゲット上の水平磁場を低下させることなく、大幅に漏洩磁場を低減することができ、漏洩磁場による基板上の薄膜形成に与える悪影響を抑えることができる。
以下に、本発明を、図面を参照して詳細に説明する。同じ部材には同じ符号を付して表した。なお、本発明は以下に説明する形態に制限されるものではない。
図2は、一般的なマグネトロンスパッタ装置の磁気回路、基板およびターゲットの配置を示した図であり、本磁気回路24は磁石27と該磁石の外周に配設された磁石29とがバックプレート210に固定されている。磁石27と磁石29の磁化方向(26、28)は互いに反平行(互いの向きは逆で平行)の関係にあり、これによりターゲット22表面上に弧状磁場23を形成することができる。図2に示したような一般的な磁気回路では、磁石27と磁石29の磁化方向の寸法を同じに保ちつつ、磁石29は磁石27の外周を取り囲むように所定の距離を保って配置されるので、磁石29の体積の方が大きくなっている。
図3は、図2のような磁気回路24がターゲット22表面上に発生する磁場強度(磁束密度)の径方向成分Brおよびz方向成分Bzのターゲットからのz方向についての距離依存性を示している。図3の横軸は図2のzであり、縦軸は磁場強度(磁束密度)であり、Brは磁場の半径方向成分、Bzは図2のz方向成分である。ターゲット上に生成されるプラズマは主にBz=0となる地点で生成し、その地点の水平磁場、つまり径方向成分Bが大きいほど安定したプラズマ生成が可能となる。つまり、Bz=0地点におけるBの値で評価される。よって、図3のようにBrが高い値となる地点付近でBz=0となるように寸法を選ぶのが一般的である。
図4は、図2の磁気回路が発生する磁場がどのように漏洩しているかを示す磁場強度の等高線である。漏洩磁場の等高線は、r、zが異なる各地点において、磁場強度の絶対値を測定したものである。図4の横軸は、図2のrであり、中心部においてr=0である。例えば、z=300mm位置で2mT(ミリテスラ)〜3mTの磁場が発生していることがわかる。本明細書において、磁束密度は、ホール素子テスラメータを用いて測定し得られた値である。
本発明の磁気回路の実施態様の一つを図1に示す。図1は一見すると図2と変わりないようにみえるが、図2とは第1磁石11とリング状第2磁石12の体積バランスが異なる。図1の磁気回路では第1磁石体積11と第2磁石体積12がほぼ1:1の関係になるように寸法が与えられている。このときのターゲット表面上の磁場分布を図5に、漏洩磁場の等高線を図6に示す。図5から分かるようにBz=0地点における水平磁場は約90mTであり、図3で示した従来品における水平磁場とほぼ同じ強度である。にもかかわらず、漏洩磁場は図6のようにz=200mmにおいてすでに1mTを下回っていることがわかる。つまりほぼ同等の水平磁場を出しているにもかかわらず、漏洩磁場を大幅に抑えることができたわけである。図5では水平磁場が極大となる位置とBz=0となる位置とのずれが大きいが、プラズマ生成に寄与するのは水平磁場の「強度」であるので、問題はない。
本発明の磁気回路の漏洩磁場が抑えられている理由については、本発明に係る磁気回路の技術的範囲を何ら制約するものではないが、以下のように考えられる。すなわち、磁場の分布は、磁気回路に近い領域では、構成している磁石形状を精細に反映して磁場分布もほぼ磁石形状どおりになるが、磁気回路から遠ざかるほど磁場の勾配は緩やかになり、やがて一様な分布となると考えられる。よって、緩やかな分布になった領域では、磁気回路を構成している磁石の極性配分が偏っているほど、漏洩磁場の強度が高くなる。つまり磁気回路から径方向に遠い位置では、N極とS極が打ち消しあって残った極性だけが磁場の寄与となる。よって、N極とS極が完全に打ち消すようにすれば漏洩磁場を抑えることができると考えることができる。
第1磁石および第2磁石は、ほぼ同体積であれば、極性の異なる磁石体積が完全に同じでなくても同様の効果が得られる。ただし漏洩磁場の低減効果は体積比が1:1から外れるほど弱くなってしまう。したがって、第1磁石と第2磁石の磁化方向の寸法を同じにしつつ、ほぼ同体積とすることが好ましい。「ほぼ同体積」とすることにより、残留磁束密度Br=1.39テスラの磁石を用いたとき、磁石表面から200mm基板方向に離れた地点における漏洩磁場の磁束密度の好ましい上限を4.5mT、より好ましい上限を2mT、さらに好ましい上限を1.2mTとすることができる。
第2磁石体積(A)に対する第1磁石体積(B)の比率(B/A)は、好ましい下限を、0.7、0.8、0.85、0.9、0.95、0.97、1とすることができ、好ましい上限を例えば、1.3、1.2、1.15、1.1、1.05、1.03とすることができる。
第1磁石および第2磁石としては、継ぎ目がない一体型磁石であってもよいし、セグメント磁石を一体化させて構成したものであってもよいが、一体型磁石であることが好ましい。第2磁石としては、円筒状磁石が好適に採用される。また第1磁石としては、円柱状磁石または円筒状磁石が好適に採用される。
また、第2磁石のリング状磁石では、該磁石幅(外径−内径)が、第1磁石として円筒状磁石を用いたときの磁石幅よりも薄くすることにより、基板に到達する漏洩磁場の調整をすることが可能となった。
磁石組成としては、特に限定されるものではなく、従来から用いられているアルニコ磁石、フェライト磁石、および希土類(Nd、Sm)系磁石からなる群より選択することができる。
第2磁石と第1磁石とでは、磁石組成が異なっていてもよいし、同一であってもよいが、同一であることが好ましい。
第2磁石と第1磁石の極性方向は、互いに反平行の関係になるようにする。磁化方向は第2磁石と第1磁石とで反平行の関係にあれば、図1の方向と逆であってもよい。
第1磁石及び第2磁石は、固定具13により所定距離離間して互いに接しないように固定される。第1磁石及び第2磁石は、同心円上に固定することが好ましい。同心円上に配設することにより、ターゲット上の磁場分布も軸対称となりプラズマも軸対称となるので、成膜に偏りが生じない。前記固定具は、前記第1磁石と第2磁石とを載置する磁性バックプレートであることが好ましい。バックプレートが磁性体であることにより、ターゲット上の表面磁場が上昇する。
このようにして得られた磁気回路は、ラジアル状に弧状磁場を形成させることができ、上述した磁石幅等の寸法や磁石の強さを適当に調整することにより、基板に付近に到達する漏洩磁場を抑えることができる。
本発明の磁気回路は、DCマグネトロン方式、RFマグネトロン方式等のプラズマ生成方式の別を問わず、真空容器内にターゲット及び基板とともに設置し、ターゲット上に弧状磁場を発生させ、基板にターゲット粒子を成膜させる各種マグネトロンスパッタ装置に採用することができる。
基板を装着可能な第1電極と、前記第1電極に対向してターゲットを装着可能な第2電極と、前記第2電極の第1電極と対向する側とは反対側に配設された請求項1ないし4のいずれかに記載の磁気回路とを備え、前記磁気回路における第1磁石の磁化方向が、前記第2電極と第1電極との間に電圧を印加することにより生じる電場の方向と平行であるマグネトロンスパッタ装置もまた、本発明の一つの態様である。本発明のマグネトロンスパッタ装置においては、例えば、第1電極をアノード、第2電極をカソードとすることができる。
[実施例1]
磁気回路の構成は図1のとおりであり、直径140mm、厚み8mmのバックプレートの上に直径76mmの第1磁石を、内径118mm外径140mmの第2磁石を配置した。使用した磁石はNd−Fe−B系焼結磁石(信越化学製N50、残留磁束密度B=1.39T )である。このときの漏洩磁場の等高線を図6に示した。Bz=0となる地点における径方向磁場Brは、90mTであり、磁気回路から200mm離れた領域で漏洩磁場1mT以下であった。
[実施例2]
磁気回路の構成は図1のとおりであり、直径140mm、厚み8mmのバックプレートの上に直径72mmの第1磁石を、内径118mm、外径140mmの第2磁石を配置した。使用した磁石はNd−Fe−B系焼結磁石(信越化学製N50、残留磁束密度B=1.39T )である。このときの漏洩磁場の等高線を図7に示した。Bz=0となる地点における径方向磁場Brは、84mTであり、磁気回路から200mm離れた領域で漏洩磁場1mT以下であった。
[比較例]
磁気回路の構成は図1と同様であり、直径180mm、厚み8mmのバックプレートの上に直径40mmの第1磁石を、内径120mm、外径180mmの第2磁石を配置した。使用した磁石はNd−Fe−B系焼結磁石(信越化学製N50、残留磁束密度B=1.39T )である。このときの漏洩磁場の等高線を図4に示した。Bz=0となる地点における径方向磁場Brは、86mTであり、磁気回路から200mm離れた領域で漏洩磁場5mT程度であった。
図1は、本発明の磁気回路の概要図である。 図2(a)は、従来のマグネトロンスパッタ装置の基板、ターゲットおよび磁気回路の位置関係を示す模式図、図2(b)は、磁気回路の断面図および平面図、ならびに、径方向およびz方向の定義である。 図3は、図2の磁石構成における径方向磁場およびz方向磁場の大きさを示すグラフである。 図4は、図2の磁石構成における漏洩磁場の等高線である。 図5は、図1の磁石構成におけるにおける径方向磁場およびz方向磁場の大きさを示すグラフである。 図6は、図1の磁石構成における漏洩磁場の等高線である。 図7は、図1の磁石構成における漏洩磁場の等高線である。
符号の説明
21 基板
22 ターゲット
23 弧状磁場
24 磁気回路
25 スパッタリング(ターゲット粒子飛散方向)
26、28 磁化方向
11、27 第1磁石
12、29 第2磁石
13、210 バックプレート(固定具)

Claims (5)

  1. 第1磁石と、
    該第1磁石の外周に配設され、磁化方向が前記第1磁石の磁化方向と反平行の関係にあり、継ぎ目がないまたはセグメント磁石を一体化させて構成した一体型磁石である第2磁石と、
    前記第1磁石と第2磁石とを離間して固定するための固定具とを備えた磁気回路であって、
    前記第1磁石および前記第2磁石が、ほぼ同体積であり、前記第1磁石と第2磁石との磁化方向の寸法が同じであり、第2磁石の体積(A)に対する第1磁石の体積(B)の比率(B/A)が、0.8〜1.3であるマグネトロンスパッタ装置用磁気回路。
  2. 前記第1磁石が、円柱状または円筒状であり、
    前記第2磁石が、円筒状であり、
    前記第1磁石と第2磁石とが同心円上に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタ装置用磁気回路。
  3. 前記固定具が、前記第1磁石と第2磁石とを載置する磁性バックプレートであることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気回路。
  4. 基板を装着可能な第1電極と、
    前記第1電極に対向してターゲットを装着可能な第2電極と、
    前記第2電極の第1電極と対向する側とは反対側に配設された請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気回路とを備え、前記磁気回路における第1磁石の磁化方向が、前記第2電極と第1電極との間に電圧を印加することにより生じる電場の方向と平行であるマグネトロンスパッタ装置。
  5. 前記第1磁石及び第2磁石表面から前記基板までの距離が200mm以上であり、かつ前記基板位置での磁場強度が2mT以下である請求項4に記載のマグネトロンスパッタ装置。
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