JP4780941B2 - シリカ処理カーボンブラックの製造方法、該方法により得られたカーボンブラックおよびそれを配合したゴム組成物 - Google Patents
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カーボンブラックは高補強性、耐摩耗性に優れるという特徴を有しており、約100年間にわたってゴム補強用充填剤としての優位性を保持してきた。しかしながら、環境に対してより影響の少ない製品への要求が高まり、タイヤにおいてもより燃料消費効率の高いものが求められてきている。
この要求に応える手段の1つとしてシリカの使用がある。このシリカはシランカップリング剤の併用により、高温(60℃)でのtanδが低く、その一方で低温(0℃)でのtanδが高い特性を有して、タイヤトレッド用充填剤に用いたときに転がり抵抗が低く、かつウエット性能に優れたタイヤが製造できるという利点がある。ところが、シリカはカーボンブラックと比較して、充填剤同士の凝集力が強く、このためゴム中への分散が困難であり、その結果として加工性、耐摩耗性で劣るという問題があった。
例えば、特許文献1には、カーボンブラックを水中に分散させ、珪酸ナトリウムを硫酸で中和することにより、カーボンブラック表面にシリカを沈積させる方法が提案されている。しかしながら、この方法は中和操作などプロセス面から連続操業は困難であり、工業化に適しているとは言い難い。
また、特許文献2には、カーボンブラック反応炉内にケイ酸金属塩を導入することによる表面処理カーボンブラックが提案されている。しかしながらこの方法では、アルカリ金属がカーボンブラック中に取り込まれ、このアルカリ金属が配合ゴム物性に悪影響を与える可能性があるという問題を含んでいる。
また、特許文献3には、揮発性のケイ素含有化合物を反応炉内に導入したケイ素処理カーボンブラック含有ゴム組成物が提案されている。しかしながらこの方法は、カーボンブラックと比較してより低い耐摩耗性を示すことが特徴であり、このためにタイヤトレッド用充填剤に適しているとは言い難い。また、揮発性ケイ素含有化合物を使用するため、シリカ処理カーボンブラックならびに配合したゴム組成物が価格の面で不利となることが予想される。
本発明の第2は、シリカゾル水溶液をエマルション化して原料油とともに反応装置内に導入することを特徴とする請求項1記載のカーボンブラックの製造方法に関する。
本発明の第3は、シリカゾル水溶液中のシリカ分を水溶性有機溶媒により抽出し、この抽出物を含む水溶性有機溶媒を原料油と混合して反応装置内に導入することを特徴とする請求項1記載のカーボンブラックの製造方法に関する。
本発明の第4は、シリカゾル水溶液中のシリカ分を水溶性有機溶媒により抽出し、この抽出物を含む水溶性有機溶媒、またはシリカゾル水溶液を反応装置の反応停止部において導入することを特徴とする請求項1記載のカーボンブラックの製造方法に関する。
本発明の第5は、ケイ酸ナトリウムをイオン交換して得られるシリカゾルを使用することを特徴とする請求項1〜4のカーボンブラックの製造方法に関する。
本発明の第6は、ケイ酸ナトリウムを酸により酸性化して得られるシリカゾルを使用することを特徴とする請求項1〜4のカーボンブラックの製造方法に関する。
本発明の第7は、請求項1〜6のいずれかに記載されたカーボンブラックの製造方法により得られたものであることを特徴とするゴム補強用カーボンブラックに関する。
本発明の第8は、請求項7に記載のカーボンブラックをゴムに配合して得られるゴム組成物に関する。
本発明において、シリカによる処理に供されるカーボンブラックとしては、タイヤ用およびその他のゴム補強用カーボンとして汎用されているファーネスブラックを用いることができ、好ましいカーボンブラックとしては半補強生ファーネス(SRF)〜超耐摩耗性ファーネス(SAF)グレードである。
これらの原料カーボンブラックを製造するには、高温燃焼ガス生成部、原料油導入部、反応部、反応停止部からなる公知のカーボンブラック反応炉を用い、高温ガス流中に高芳香族重質油を導入し、この重質油の不完全燃焼または熱分解反応により得ることができる。
本発明では、カーボンブラック反応炉内でカーボンブラックとシリカゾルを接触させる。
シリカゾルとしては、ケイ酸ナトリウムをイオン交換して得られる生成物、イオン交換後に酸を添加した生成物、イオン交換後にアンモニア等の、金属イオンを含まないアルカリ源を添加した生成物、イオン交換前後に有機酸等の水溶性有機溶媒を添加した生成物などが好適に用いられる。イオン交換法以外のシリカゾルとしては、シリカゲルの解膠によって得られる物、ケイ酸ナトリウムと酸により得られるシリカゾル中のシリカ分を水溶性有機溶媒中に塩析により抽出した生成物も使用することができる。
一例として、希釈したケイ酸ナトリウム水溶液中のナトリウムイオンを水素イオンに置換する。
この交換方法としては、ケイ酸ナトリウム水溶液に陽イオン交換樹脂を添加する方法、同水溶液をイオン交換樹脂カラムに通過させる方法、またはイオン交換膜を用いた電気透析による方法などがあげられる。このような方法により得られたシリカゾルはそのままでは不安定であるが、交換反応後比較的短時間内であれば本発明にそのまま用いることができる。
短期間保存するためにはカーボンブラック製造炉中で分解除去できる酸性添加物やイソプロピルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類を添加させることにより保存安定性を改善することができる。
これらの添加物はイオン交換前の希釈ケイ酸ナトリウム水溶液にあらかじめ溶解させておくことも可能である。さらに長期間保存するためにはイオン交換後にアンモニア等の、金属イオンを含まないアルカリを加える方法、更に加熱熟成させることによりシリカゾル一次粒子を成長させて安定化させる方法等を挙げることができる。
希釈したケイ酸ナトリウム水溶液を酸に添加して酸性にすることによりシリカゾル水溶液を作ることもできる。しかし、このシリカゾル水溶液中にはケイ酸ナトリウム由来のナトリウム塩を多く含有するため、そのままでは本発明には使用できないので、イオン交換処理等でナトリウムを除くことにより使用できる。
このシリカゾル水溶液にテトラヒドロフラン、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒を混合した後、塩化ナトリウム等の塩を加えて良く攪拌すると2層に分かれ、水溶性有機溶媒層にシリカゾル水溶液中のシリカ成分が抽出される。このような水溶性有機溶媒により抽出されたシリカゾルも本発明に用いることができる。
カーボンブラック製造炉中での加熱によるシリカゾル一次粒子同士の凝集を抑制する方法としては、シリカゾルに適宜高融点の水溶性有機化合物を溶解させておく方法が挙げられる。
この水溶性有機化合物としては、クエン酸、リンゴ酸などの有機カルボン酸が好適である。
シリカゾルの添加使用量は、カーボンブラックに対して、通常0.3〜40重量%の範囲で用いられ、より好ましくは0.5〜30重量%である。この使用量が少なすぎるとtanδの温度依存性の改良効果が少なく、逆に多すぎるとシリカ凝集塊が生成するためにゴムとの混練り時に分散性、加工性が悪化する。
本発明の方法により得られるシリカ処理カーボンブラックの特性は、特に限定されないが窒素比表面積が20〜200m2/g、DBP吸油量が50〜200cc/100gであることが好ましい。
また、本発明のゴム組成物には、シランカップリング剤を配合しても良い。この場合シランカップリング剤としては、シラノール基およびゴム成分と反応できる少なくとも2官能性構造を有するものが好ましい。具体的には、ビス−(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(代表製品、Si69、デグサ社製)、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
本発明で得られるシリカ処理カーボンブラックを配合したゴム組成物はタイヤトレッド、サイド等のタイヤ用途や一般ゴム部材に好適に提供される。
また、本発明では、従来技術のカーボンブラックとシリカを配合したゴム組成物と比較して、耐摩耗性を悪化させることなく粘弾性の温度依存性を改良したゴム組成物を提供することができた。
実施例および比較例
図1〜2に示すカーボンブラック反応装置1を用いて実施例1〜3、比較例1、2のカーボンブラックを製造した。
図1は、本発明において用いた装置の縦断正面説明図である。
図2は、図1のA−A矢視における断面図である。
可燃性流体導入室(内径450mmφ、長さ400mm)2の内部に反応装置頭部外周に備えられた酸素含有ガス導入管3を通して導入された酸素含有ガスを整流するための整流板5を有する酸素含有ガス導入用円筒(内径250mmφ、長さ300mm)4とその中心軸に燃料導入装置を備え、前記円筒の下流側は、次第に収れんする収れん室(上流端内径370mmφ、下流端内径80mmφ、収れん角度5.3°)7となり、かつ収れん室7の下流側には図2に8B平面で示したような4つの原料油噴霧口(8B−1、8B−2、8B−3、8B−4)を同一平面上に設置した4つの別個の平面を形成する原料油噴霧口(8A〜8D)を含む原料油導入室9を有し、この下流側は反応停止用急冷水圧噴霧装置(a〜y)を備えた反応継続兼冷却室(内径140mmφ、長さ2000mm)10からなる、全体が耐火物で覆われた製造炉を用いた。燃料にA重油、原料油としてエチレンボトム油を使用して、表1に示す各条件でISAF級からSAF級のカーボンブラックを製造した。
実施例1はエチレンボトム油の熱分解反応でカーボンブラックを生成させ、反応停止用の冷却水中にシリカゾルを溶解させて添加したものである。シリカゾル添加直前の炉内温度は約1600℃、シリカゾル添加後の炉内温度は約750℃であった。
実施例2は実施例1と同様の実験でシリカゾル添加後の炉内温度を約950℃としたものである。
実施例3は、シリカゾルを原料油であるエチレンボトム油中にエマルション化させ、反応炉内で熱分解反応させたものである。
一方、比較例1は実施例2の製造条件で冷却水にシリカゾルを添加しないこと以外は同一条件で製造したカーボンブラックである。
また、比較例2は実施例3のシリカゾルの代わりに揮発性ケイ素含有化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)を原料油に添加して製造した、従来技術によるシリカ処理カーボンブラックである。
これらのシリカ処理カーボンブラックおよびカーボンブラックの物理化学的特性を表1に示した。なお、各特性の測定方法は、下記の通りである。
ヨウ素吸着量(IA) JIS K6217−1:2001に記載された方法により測定され、試料1kg当たりに吸着されるヨウ素のg数で表示される。
CTAB比表面積(CTAB) JIS K6217−3:2001に記載された方法により測定され、試料1g当たりに吸着されるCTAB量から計算される比表面積(m2/g)で表示される。
灰分 JIS K6218:1997の第6項に記載された方法により測定され、原試料に対する%で表示される。
尚、比較例2における原料油TEOSとは、原料油にテトラエトキシシランを添加した場合を示す。
表2に示した配合比率でゴム組成物を調整し、145℃で30分間プレス加硫
して試験片を作製した。試験片は次の試験条件により性能評価を行った。
SBR1712・・・油展スチレン−ブタジエンゴム「商品名 JSR1712」日本合成ゴム(株)製
BR01・・・ブタジエンゴム「商品名 BR01」日本合成ゴム(株)製
IPPD・・・N−フェニル−N′−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、商品名「ノクラック810−NA」[大内新興化学工業(株)製]
シリカ(Nipsil AQ)・・・日本シリカ工業株式会社製
Si69・・ビス−(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(デグサ社製)
加硫促進剤OBS・・・N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、商品名「ノクセラ−MSA−G」[大内新興化学工業(株)製]
を示し、
シリカ処理カーボンブラックについては、実施例1〜3は、それぞれ表1における実施例1〜3により得られたシリカ処理カーボンブラックを使用した例であり、比較例1は、表1における比較例1(シリカ処理がなされていない)により得られたカーボンブラックを使用した例であり、比較例2は、表1における比較例1(シリカ処理がなされていない)により得られたカーボンブラックとシリカとを使用した例であり、比較例3におけるシリカ処理カーボンブラックは、表1における比較例2により得られたシリカ処理カーボンブラックを使用した例である。
測定条件: 周波数50Hz、動的歪み率±1%、
測定温度−60℃〜100℃(10℃毎)、
初期荷重160g重
反発弾性:JIS K6225−1996の第4項に記載
耐摩耗性:ランボーン摩耗試験機を用い、試験荷重4kg、スリップ率25%、
測定温度25℃
得られた結果は、比較例1の従来カーボンブラック対比指数で表3に示す。
表1から明らかなように、冷却水または原料油にシリカゾルを添加した場合のシリカの反応率=(灰分/計算シリカ量)×100 は92〜98%であり比較例2の揮発性ケイ素含有化合物の場合と比較してほぼ同等である。しかしながら、本発明で開示したシリカゾルは比較例2の揮発性ケイ素含有化合物と比較して廉価であることから、本発明により低価格でシリカ処理カーボンブラックを提供することが可能である。
図3に反発弾性と耐摩耗性の関係を示す。
図3から明らかなように、本発明のシリカ処理カーボンブラックを配合したゴム組成物は、従来のカーボンブラックを配合したゴム組成物(比較例1)と対比して、耐摩耗性を悪化させずに低発熱化している。一方、従来のカーボンブラックとシリカを配合したコンパウンド(比較例2)および従来技術である揮発性ケイ素化合物を添加して製造したシリカ処理カーボンブラックのゴム組成物(比較例3)の性能は、耐摩耗性の劣化が顕著である。この結果から、本発明で開示されたシリカ処理カーボンブラックを配合したゴム組成物をタイヤトレッドに用いた場合に、耐摩耗性を悪化させることなく、転がり抵抗を低減した低燃費タイヤを提供することが可能となる。
この図4から明らかなように、本発明のシリカ処理カーボンブラックは従来のカーボンブラックとシリカを同時配合したゴム組成物および従来のシリカ処理カーボンブラックを配合したゴム組成物と比較して、粘弾性特性における温度依存性を改良している。すなわち、このゴム組成物をタイヤトレッド部材に用いた場合、従来のゴム組成物と比較して、ぬれ路面での制動特性を改良し、かつ転がり抵抗を低減したタイヤを提供することができた。
2 可燃性流体導入室
3 酸素含有ガス導入管
4 酸素含有ガス導入用円筒
5 整流板
6 燃料油噴霧装置導入管
7 燃料導入手段を備えた収れん室
8A 原料油噴霧口
8B 原料油噴霧口
8C 原料油噴霧口
8D 原料油噴霧口
9 原料油導入室
10 反応継続兼冷却室
a〜y 急冷水圧入噴霧手段
Claims (8)
- 高温燃焼ガス生成部、原料油導入部、反応部および反応停止部の4つの空間からなるカーボンブラック反応装置において、前記4つの空間のいずれかにシリカゾルまたはシリカゾル水溶液を導入することを特徴とするカーボンブラックの製造方法。
- シリカゾル水溶液をエマルション化して原料油とともに反応装置内に導入することを特徴とする請求項1記載のカーボンブラックの製造方法。
- シリカゾル水溶液中のシリカ分を水溶性有機溶媒により抽出し、この抽出物を含む水溶性有機溶媒を原料油と混合して反応装置内に導入することを特徴とする請求項1記載のカーボンブラックの製造方法。
- シリカゾル水溶液中のシリカ分を水溶性有機溶媒により抽出し、この抽出物を含む水溶性有機溶媒、またはシリカゾル水溶液を反応装置の反応停止部において導入することを特徴とする請求項1記載のカーボンブラックの製造方法。
- ケイ酸ナトリウムをイオン交換して得られるシリカゾルを使用することを特徴とする請求項1〜4のカーボンブラックの製造方法。
- ケイ酸ナトリウムを酸により酸性化して得られるシリカゾルを使用することを特徴とする請求項1〜4のカーボンブラックの製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載されたカーボンブラックの製造方法により得られたものであることを特徴とするゴム補強用カーボンブラック。
- 請求項7に記載のカーボンブラックをゴムに配合して得られるゴム組成物。
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