以下、図面に基いて本発明の具体的構成を詳述すると、図1〜12はカスタードクリームや餡などの高粘度な各種食材を煮炊き調理する業務用の加熱撹拌機(M)と、これに対する電磁誘導加熱器(H)の取り付け使用状態を示しており、(1)は加熱撹拌機(M)の据付け機筐であって、一定な大きさ(例えば幅:約450mm×奥行:約600mm×高さ:約800mm)の直方体をなし、その下端角隅部にねじ込まれた接地脚座(2)により、据付け高さを調整できるようになっているが、これに代えて又は加えて、据付け場所の変更可能なブレーキ付きキャスター(3)を軸支しても良い。
このような据付け機筐(1)の上面は作業しやすい高さの水平な天板(4)として、これから円形の鍋逃し入れ口筒(5)が連続的に曲げ起されている。(6)はその鍋逃し入れ口筒(5)の開口周縁部に固定設置された鍋受け止めリング、(7)は上記鍋逃し入れ口筒(5)へ上方から抜き差し自在に差し込まれて、その鍋受け止めリング(6)により安定良く受け止め保持される食材収容用の調理鍋(ボール鍋)であり、一定な厚み(例えば約3〜6mm)の銅板から一定(例えば約11〜190リットル)の容量を有する円錐形又は半球形に作成されている。
しかも、その調理鍋(7)の底面には磁性体である鉄粉などの発熱被膜(8)が、一定の厚み(例えば約2〜4mm)だけ溶射されることによって、導電性が与えられている。但し、その導電性を有する限りでは、調理鍋(7)の材質としてフェライト系ステンレス鋼や、鉄とアルミとのクラッド材、アルミとステンレスとのクラッド材などを採用しても良く、磁性体である鉄も勿論採用することができる。
尚、図例の調理鍋(7)は約11リットルの容量を有するものとして、厚み:約3mmの銅板から直径:約335mm、深さ:約158mmの円錐形に作成されており、その発熱被膜(8)の厚みは約2mmである。
(9)は上記加熱撹拌機(M)の据付け機筐(1)を形作る左右両側壁板(10)の適当な中途高さ位置へ、その内側から溶接された複数の支持ステーであって、アングル形鋼材から成り、電磁誘導加熱器(H)の後述する水平な基台が、その支持ステー(9)の水平片(9a)へ着脱自在に取り付け固定されるようになっている。
電磁誘導加熱器(H)は図9〜12に示すような全体のユニット体として、1本物の長い電磁誘導加熱コイル(C)における巻き径が小さい中央加熱コイル部(11a)を巻き付けるボビン(B)と、同じく電磁誘導加熱コイル(C)の巻き径が大きい周辺加熱コイル部(11b)を受け持つ篭枠(F)と、ボビン(B)の中心を垂直に貫通する磁性体の芯軸(12)とから成り、これらが共通の基台(13)へ悉く取り付けられたものである。
即ち、先ずボビン(B)は耐熱性の合成樹脂やベークライトなどの電気絶縁材から、上下一対の水平な張り出しフランジ(14)(15)を備えた一定な背丈(例えば約76mm)の円筒形に作成されており、その胴面に電磁誘導加熱コイル(C)の中央加熱コイル部(11a)が巻き径(d1)の小さく巻き付け一体化されている。
その場合、図例の電磁誘導加熱器(H)では一定な太さ(直径:約8mm)の銅線(リッツ線)から成り、約1535mmの一定長さを有する電磁誘導加熱コイル(C)のうち、その中央加熱コイル部(11a)を上記ボビン(B)の胴面へ巻き径(d1):約60mm、背丈(h1):約56mmとして、連続する内外二重の積層螺旋状態に14回巻き付けることにより、その中央加熱コイル部(11a)の背丈(h1)とボビン(B)のそれを低く扁平化しているが、その背丈(h1)の高くなる一重に巻き付けてもさしつかえない。
上記ボビン(B)の上側張り出しフランジ(14)は中央加熱コイル部(11a)の巻き径(d1)とほぼ同じ外径を有しており、これよりも比較的径大な下側張り出しフランジ(15)が、全体的な放射対称分布型に垂立する非磁性体から成る複数の支持ボルト(16)とその固定ナット(17)を介して、上記基台(13)へ昇降操作自在に取り付けられている。そのため、調理鍋(7)の底面とその中央加熱コイル部(11a)との上下相互間隙を、広く又は狭く調整することができる。
但し、加熱撹拌機(M)をメーカーから出荷する際に、その調理鍋(7)と中央加熱コイル部(11a)との上下相互間隙を予じめ適度な一定寸法(例えば約15〜20mm)にセットした位置決め状態として、上記支持ボルト(16)の下端部を基台(13)へ溶接しておくことにより、ユーザーでの調整不能に固定維持しても良い。
次に、磁性体の芯軸(12)は一定な太さ(d2)を有する角柱形(例えば一辺:約30mmの正方形)又は円柱形(例えば直径:約30mm)のフェライトから成り、その背丈(身長)(h2)が上記中央加熱コイル部(11a)の背丈(h1)よりも高い(長い)一定な寸法(例えば約85mm)として、そのボビン(B)の中心を貫通する垂立状態にある。
そのため、電磁誘導加熱コイル(C)の中央加熱コイル部(11a)を流れる高周波電流によって起生される磁束(Z)が、上記芯軸(12)から図14の矢印で示す如く調理鍋(7)に浸透して、その調理鍋(7)の底面中央部を加熱することができる。
しかも、その芯軸(12)の下端部を受け持つ1本のセンターボルト(18)が、やはり上記基台(13)へ昇降操作自在に取り付けられており、調理鍋(7)の底面と芯軸(12)の頂面との上下相互間隙(s1)を、広く又は狭く調整することができ、延いては調理鍋(7)における底面中央部の加熱温度分布を、その底面周辺部(胴面との円弧コーナー部)の加熱温度分布と均等又は相違するように調整し得るようになっている。(19)はその調整状態の固定ナットであり、上記センターボルト(18)と同じくアルミなどの非磁性体から成る。
その場合、図12、14と対応する図13、15の変形実施形態に示す如く、上記芯軸(12)を断面ほぼT字形として、その上端部から径大(例えば直径:約50〜60mm)な円形又は角形のトップフランジ(20)を横向き一体的に張り出すことが好ましい。
そうすれば、その芯軸(12)における一定な厚み(例えば約5mm)の径大な張り出しトップフランジ(20)により、磁束(Z)を調理鍋(7)へますます多く集中的に浸透させて、その磁束(Z)を図15の矢印で示すように、上記中央加熱コイル部(11a)と周辺加熱コイル部(11b)との後述する内外相互間隙(X)まで波及・増幅させることができ、その調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱温度分布の調整も広範囲に行なえることとなる。図12〜15に示した調整状態の上下相互間隙(s1)は約10mmであるが、約5〜20mmの範囲において調整できるようになっている。
更に言えば、上記トップフランジ(20)を図例から示唆されるように、芯軸(12)と別個な円板形又は角板形のフェライトとして、その芯軸(12)の頂面へ接着一体化することが望ましい。
そうすれば、市販の安価な芯軸(12)を採用することができ、しかもその芯軸(12)の太さ(d2)を変えることなく、直径や厚みが異なる各種トップフランジ(20)と組み替え一体化することにより、上記調理鍋(7)に浸透する磁束(Z)の増幅作用と、延いては調理鍋(7)における底面中央部と底面周辺部との加熱温度分布を容易に調整し得るからである。
又、上記篭枠(F)は一定の太さ(例えば直径:約5〜8mm)を有する複数のステンレス鋼棒や望ましくはアルミ棒、その他の非磁性体の各種金属骨材から、調理鍋(7)の底面周辺部と対応する大きさ・形状(円錐受け皿形)の包囲篭として枠組み一体化されたものであり、上記長い電磁誘導加熱コイル(C)における巻き径の大きい周辺加熱コイル部(11b)が、図例の場合12回の一重渦巻き状態として、その篭枠(F)を形作る約上半部の円弧受け杆(21)へ、上方から固定設置されている。(w)はその渦巻き状態にある周辺加熱コイル部(11b)の帯幅を示しており、図例の場合約96mmになっている。
他方、同じく篭枠(F)の約下半部は上記円弧受け杆(21)から連続的に折り曲げ垂下された脚杆(22)として、その複数により上記中央加熱コイル部(11a)とボビン(B)を包囲する平行状態にあり、その各脚杆(22)の下端ネジ杆部(22a)が非磁性体の固定ナット(23)によって、上記基台(13)へやはり昇降操作自在に取り付けられている。
そのため、上記調理鍋(7)の底面とその周辺加熱コイル部(11b)との上下相互間隙(s2)を、広く又は狭く調整することができ、延いては調理鍋(7)における底面周辺部の加熱温度分布も調整し得るのである。
但し、上記ボビン(B)に巻き付けられた中央加熱コイル部(11a)と同じく、加熱撹拌機(M)をメーカーから出荷する際、その調理鍋(7)と周辺加熱コイル部(11b)との上下相互間隙(s2)を予じめ適度な一定寸法(例えば約8〜13mm)にセットした位置決め状態として、上記脚杆(22)の下端部を基台(13)へ溶接しておくことにより、ユーザーでの調整不能に固定してもさしつかえない。
(24)は上記篭枠(F)の円弧受け杆(21)に悉く組み付け溶接された上端周縁リング、(25)は同じく脚杆(22)の中途高さ位置に巻き付け溶接された保形リングであり、これらも非磁性体のアルミ棒やステンレス鋼棒などから成る。尚、このような金属骨材に被覆一体化されたガラス繊維などの電気絶縁チューブや、その金属骨材へ上記周辺加熱コイル部(11b)を結束した電気絶縁紐、更にその周辺加熱コイル部(11b)へ上方から貼り付け一体化されたガラス繊維や合成樹脂などの断熱材層は、図示省略してある。
更に、上記基台(13)はボビン(B)の下側張り出しフランジ(15)と一定間隙(例えば約30mm)を保つ真下位置にあり、上記芯軸(12)から下方に向かう磁束の遮蔽用として、その磁束を反射できる非磁性体のアルミ板などから成り、その正方形又は長方形の角隅部が上記据付け機筐(1)側の対応位置する支持ステー(9)へ、ボルト(26)とナット(27)を介して着脱自在に取り付け固定されている。
図例の場合、基台(13)を昇降操作することにより、上記調理鍋(7)の底面に対する電磁誘導加熱器(H)の全体的な設置高さを調整できるようになっているが、その電磁誘導加熱コイル(C)の周辺加熱コイル部(11b)による調理鍋(7)の加熱力は予じめセットされた一定不変として、その中央加熱コイル部(11a)の芯軸(12)だけを昇降操作することにより、その調理鍋(7)における底面中央部の加熱力を強弱調整し得る限りでは、上記基台(13)を昇降操作不能に取り付け固定しても良い。
何れにしても、1本物の長い電磁誘導加熱コイル(C)における巻き径の小さい中央加熱コイル部(11a)と、同じく巻き径の大きい周辺加熱コイル部(11b)とは図12、13から明白なように、一定の高低段差(Y)(例えば約30mm)を保って離隔していることにより、その互いに異なる平面上での全体的な同芯渦巻き状態に振り分け配置されているため、上記調理鍋(7)における底面中央部の加熱温度分布を同じく底面周辺部のそれと均等に保つ調整を、極力広範囲に行なえる効果がある。
しかも、上記巻き径が小さい中央加熱コイル部(11a)と巻き径が大きい周辺加熱コイル部(11b)との内外相互間には、言わば空白となる一定幅(例えば約65mm)のサークル状分離間隙(X)も確保されており、ここに両加熱コイル部(11a)(11b)同志の橋絡コイル部(11c)が1条だけ介在する状態にある。
茲に、1条の橋絡コイル部(11c)は可及的に短距離として、上記サークル状の分離間隙(X)へ配線することが好ましい。そうすれば、1本物の電磁誘導加熱コイル(C)をその篭枠(F)の金属骨材に結束して、安定良く円滑に巻回させることができ、又その分離間隙(X)と対応位置する部分も含む調理鍋(7)の底面全体を均一な温度分布に加熱すべく、その調整を行ないやすくなる。
上記電磁誘導加熱コイル(C)の切り離し両端部が各々接続端子(28)を介して、励磁用高周波電源(加熱用インバーター)(29)の出力端子と接続配線されており、その高周波電源(29)から電磁誘導加熱コイル(C)へ高周波電流を供給して、上記調理鍋(7)と鎖交する磁束(Z)を発生させれば、その調理鍋(7)の底面に渦電流が流れ、ジュール熱により調理鍋(7)の発熱被膜(8)が発熱して、その底面を加熱することができる。
茲に、電磁誘導加熱コイル(C)の励磁用高周波電源(29)は上記加熱撹拌機(M)の据付け機筐(1)に内蔵設置されており、その出力は一例として約3〜15KW、電流の周波数は同じく約20〜50KHZであり、安価な汎用品を使うことができる。
尚、図例では電磁誘導加熱コイル(C)の中央加熱コイル部(11a)をボビン(B)へ14回だけ、同じく周辺加熱コイル部(11b)を篭枠(F)へ12回だけ各々巻き付けているが、その加熱コイル(C)は予じめの一定長さを有する1本物として、巻き径が大きくなればなる程巻き回数が減り、巻き径が小さくなればなる程巻き回数が増えるため、その中央加熱コイル部(11a)と周辺加熱コイル部(11b)との相互間における巻き径や巻き回数の比率は、適当に調整し設定することができる。
図16は調理鍋(7)における底面の加熱温度分布を示すグラフであり、上記高周波電源(29)の出力を予じめ調整することによって、その一定な加熱力のもとで電磁誘導加熱すれば、誘導電流の作る磁束(Z)が電磁誘導加熱コイル(C)の中央加熱コイル部(11a)を貫通する磁性体の芯軸(12)から、調理鍋(7)に吸い寄せられ浸透して、その中央加熱コイル部(11a)から発生する磁界と周辺加熱コイル部(11b)から発生する磁界とをオーバーラップさせ、同じ高周波電流としての加算効果により、両加熱コイル部(11a)(11b)の内外相互間隙(X)を高温に平準化し、調理鍋(7)の底面全体を均一な温度分布状態に加熱することができる。
その場合、上記磁性体の芯軸(12)として、図13の変形実施形態に示した断面T字形のそれを採用するならば、その径大な張り出しトップフランジ(20)が上記磁束(Z)をますます広く波及・増幅作用するため、図16の鎖線や後述する図18のグラフで示す如く、調理鍋(7)における底面全体の加熱温度分布を高精度な均一状態に保てることとなる。
図17は先に例示した厚み:約3mmの銅板から直径:約335mm、深さ:約158mmの円錐形に作成された容量:約11リットルの導電性調理鍋(7)へ、テストのために水を約5リットルだけ収容した上、図12の実施形態に係る上記電磁誘導加熱器(H)を使用して、その電磁誘導加熱中の10秒毎にサンプリングした経時的な一定時刻における加熱温度分布を示すグラフであり、又図18はその電磁誘導加熱器(H)だけを、図13の変形実施形態に示したそれとして、同じく電磁誘導加熱中の10秒毎にサンプリングした経時的な一定時刻における加熱温度分布を示すグラフである。
その図17のグラフによれば、調理鍋(7)の測定点(イ)〜(ヘ)における加熱温度分布がその調理鍋(7)の底面全体として約15℃のバラツキ範囲にとどまっており、同じ導電性調理鍋の底面へ1本物の電磁誘導加熱コイルを全体的な渦巻き状態に臨ませ、上記磁性体の芯軸(12)を具備しない電磁誘導加熱器によって、上記と同様な加熱中に測定した従来例を示す図19のグラフと比較した場合、調理鍋(7)における底面全体のほぼ均一な温度分布状態を得られている。
又、図20は発熱被膜(8)だけを具備しない上記銅板から成る同じ容量:約11リットルの調理鍋(7)へ、やはり水を約5リットルだけ収容した上、ガスバーナーを使用して、その直火による加熱中の10秒毎にサンプリングした経時的な同じ一定時刻における加熱温度分布を示すグラフであるが、これと図17とを比較しても、図12の実施形態に示した電磁誘導加熱器(H)を使用した場合、その調理鍋(7)の底面全体をガスの直火による加熱手段と同程度として、ほぼ均一な温度分布状態に保つことができている。
殊更、図13の変形実施形態に示した電磁誘導加熱器(H)を使用した場合では、図18のグラフから明白なように、調理鍋(7)の測定点(イ)〜(ヘ)における加熱温度が、その調理鍋(7)の底面全体として約5℃のバラツキ範囲にとどまり、図20のグラフに示したガスの直火による加熱手段と比較しても、その温度分布状態の全体的な均一性が著しく向上している。
そして、図12の実施形態とその図13の変形実施形態に示した何れの電磁誘導加熱器(H)にあっても、上記磁性体の芯軸(12)を昇降操作することにより、その調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力を、底面周辺部に対するそれと意図的に相違する温度分布状態として、部分的に強弱調整することができる。
つまり、例えばカスタードクリームや餡などの高粘度な食材が焦げ付くことを防ぐために、調理鍋(7)における底面中央部の加熱力を、その底面周辺部のそれよりも弱く調整したり、又野菜炒めの調理中に発生する水分を蒸発させるために、調理鍋(7)における底面中央部の加熱力を、その底面周辺部のそれよりも逆に強く調整したり、更に食材の収容量が未だ少ない調理当初では、調理鍋(7)における底面中央部の加熱力を強め、必要な材料の追加により増量した後には、その底面中央部の加熱力を底面周辺部のそれと均等に弱め調整したりすることができるのである。
このような調整は加熱撹拌機のメーカーにおいて、ユーザーが要望する食材の種類やその調理方法、使用する調理鍋(7)の材質や厚みなどに応じ、その目標の加熱温度勾配を得られる状態として、出荷時に予じめ設定しておくこともできる。
この点、図1〜12の実施形態では上記のように、ユニット体をなす電磁誘導加熱器(H)の基台(13)が加熱撹拌機(M)の据付け機筐(1)に内蔵されており、その電磁誘導加熱コイル(C)における調理鍋(7)の中央加熱コイル部(11a)を貫通する垂立状態にある芯軸(12)の昇降操作用センターボルト(18)が、上記基台(13)に取り付けられているため、加熱撹拌機(M)のユーザーにおいて調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力の強弱調整を、上記据付け機筐(1)の外側から行なうことはできない。
つまり、加熱撹拌機(M)のメーカーにおいて、ユーザーが要望する食材の種類や調理鍋(7)の材質・厚みなどを考慮し、上記芯軸(12)を昇降操作することにより、その調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力を底面周辺部のそれと均一に定めるべく、予じめ適度に強弱調整したセット状態として、その加熱撹拌機(M)を出荷するようになっている。
但し、図21〜24の変形実施形態に示すような構成を採用することにより、加熱撹拌機(M)のユーザーがその据付け機筐(1)の外側から上記芯軸(12)を昇降操作して、各種食材の調理中でも、調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力の強弱調整を行なえるように定めることが好ましい。
この点、図21〜23の変形実施形態では上記据付け機筐(1)の前壁板(30)から差し込み支持した水平な回動軸(31)上へ、カム(32)を嵌め付け一体化して、図1〜3や図12、13の上記センターボルト(18)に代る昇降ロッド(33)の下端部を、そのカム(32)により受け持つ係合状態に保っている。
その場合、電磁誘導加熱コイル(C)の中央加熱コイル部(11a)を巻き付けたボビン(B)は、図1〜3や図12、13の上記支持ボルト(16)に代る支持枠(34)を介して、水平な基台(13)へ同様に取り付けても良い。
そして、上記回動軸(31)の張り出し先端部に取り付け一体化された手動ボリューム(35)を、据付け機筐(1)の前方から回動操作することにより、これと一体に回動するカム(32)を介して、上記昇降ロッド(33)とこれに受け持たれた芯軸(12)を昇降させ、調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力の強弱調整を行なえるようになっている。
(36)は上記据付け機筐(1)の前壁板(30)に接合固定された調整表示板であり、これに付与された目盛り(図示省略)と、上記手動ボリューム(35)の矢印マーク(図示省略)とを対応合致させることによって、上記芯軸(12)の昇降度と延いては加熱力の微細な調整度を目視確認することができる。
又、図24の別な変形実施形態ではやはり据付け機筐(1)の前壁板(30)から差し込み支持した水平な回動軸(31)上に、左ネジ(37a)と右ネジ(37b)との一対を刻成すると共に、これらと螺合締結された対応的な一対のトッグルジョイント(38a)(38b)によって、図1〜3や図12、13の上記センターボルト(18)に代る昇降板(39)を受け持ち枢支している。しかも、その昇降板(39)には上記芯軸(12)が受け持たれているほか、中央加熱コイル部(11a)のボビン(B)も非磁性体のボルト(40)と固定ナット(41)によって、取り付け一体化されている。
そして、上記回動軸(31)をやはり手動ボリューム(35)により、据付け機筐(1)の前方から回動操作し、相反方向へ一挙同時に進退移動する一対のトッグルジョイント(38a)(38b)を介して、上記昇降板(39)とこれに受け持たれた芯軸(12)を昇降させ、調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力を強弱調整できるようになっている。
その場合、ボビン(B)に巻き付け一体化されている電磁誘導加熱コイル(C)の中央加熱コイル部(11a)も、上記芯軸(12)と一緒に昇降作用することになるため、調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力の強弱調整をますます広範囲に行なえるのである。(42)は基台(13)から切り起された規制ストッパーであり、上記昇降板(39)の横振れを防止している。
尚、その他の構成は図21〜23の上記変形実施形態と実質的に同一であるため、その図24に図21〜23との対応符号を記入するにとどめるが、要する上記回動軸(31)の回動操作を芯軸(12)の昇降作用として変換できる運動機構であるならば、図21〜24に示した以外の各種構成を採用しても良く、又その運動を自動化してもさしつかえない。
念のために言えば、図1〜12の実施形態とその図13や図21〜24の変形実施形態との何れにおいても、電磁誘導加熱器(H)の電磁誘導加熱コイル(C)は先に例示した約1535mmの一定長さを有する1本物であるため、調理鍋(7)が業務用として大型になればなる程、その底面の加熱面積を増大させることに制約を伴なう。
その調理鍋(7)の大型化に応じて、1本物の電磁誘導加熱コイル(C)を荒く過大な巻き径に粗巻きすると、その隣り合う間隙での加熱力が低下するほか、高周波電源(29)の出力インピーダンスは予じめ一定に決まっているため、著しく増大する上記加熱コイル(C)のインピーダンスとの相互間において、マッチングを確保することもできなくなる。
そこで、巻き径が一定に決まっている電磁誘導加熱コイル(C)との関係上、調理鍋(7)が大型化する場合には、図25の実施形態に示すようなマッチングトランス(43)を採用して、そのトランス(43)の2次側へ上記電磁誘導加熱コイル(C)を巻き付ける一方、同じくトランス(43)の1次側へ高周波電源(29)を接続配線することにより、その加熱コイル(C)を円滑な密巻き状態に保つのである。
その場合にも、電磁誘導加熱コイル(C)における調理鍋(7)の中央加熱コイル部(11a)は上記ボビン(B)へ巻き付け一体化して、その中心へ磁性体の芯軸(12)を貫通状態に垂立させることにより、上記調理鍋(7)における底面中央部の加熱温度分布を、その底面周辺部の加熱温度分布と均等又は相違するように、強弱調整できるように定めておくことは言うまでもない。
上記加熱撹拌機(M)について更に詳述すると、(44)は平面視の正方形又は長方形をなす中空支柱用ベース盤であり、調理鍋(7)の背後に位置する関係として、上記据付け機筐(1)の天板(4)へ上方からボルト(45)によって固定一体化されている。(46)はそのベース盤(44)の上面に取り付けられた固定軸受ステー、(47)はその固定軸受ステー(46)の背後に位置しつつ、やはりベース盤(44)の上面に取り付け固定された転倒防止用ストッパーであって、中空支柱(48)が後方へ転倒しないように受け止める。
茲に、中空支柱(48)はベース盤(44)の真上位置において、上記調理鍋(7)よりも背高く起立し、その下面に付属一体化された可動軸受ステー(49)が上記ベース盤(44)側の固定軸受ステー(46)へ、左右方向に沿う水平な支点軸(50)を介して起伏的な回動自在に枢着されている。
しかも、中空支柱(48)における下面の前端部からは、上記転倒防止用ストッパー(47)と対峙する関係のネジ脚座(51)が進退自在に垂下されており、その頭部を上記ベース盤(44)の上面へ接地させることによって、中空支柱(48)の起立姿勢と延いては後述のセンター撹拌軸が調理鍋(7)の中心部へ正しく指向するように、その位置決め調整を行なえるようになっている。(52)はその調整状態の固定ナット、(θ)は上記支点軸(50)を中心とする中空支柱(48)の起伏的な回動角度であって、図例では約55度に設定されており、その中空支柱(48)を図2の鎖線で示す如く、後方へ転倒させることによって、上記天板(4)の鍋逃し入れ口筒(5)から上方へ調理鍋(7)を抜き出すことができる。
又、(53)は上記ベース盤(44)に対する中空支柱(48)の枢着部分を包囲する保護カバーであって、後向き開口する平面視のコ字形をなし、その左右両側面には下向き開口する差込みスリット(54)の一対づつが切り欠かれている。
そして、その差込みスリット(54)と対応位置するガイドボルト(55)の左右一対づつが、上記ベース盤(44)から横向き水平に張り出されており、これに上記差込みスリット(54)を落し込む如く、上方から保護カバー(53)を工具類の必要なく取り付けることができるようになっている。その結果、その保護カバー(53)を上方へ抜き出すことにより、上記中空支柱(48)の枢着部分を便利良く清掃作業できるのである。
(56)は上記中空支柱(48)の上端部から前向き一体的に張り出された水平な中空の支持アームであり、これが調理鍋(7)の真上位置まで到達する先端部には、カップリングケース(57)が図2、3のような施蓋状態に被着一体化されている。(58)はそのカップリングケース(57)の上面へ竪型に据え付け固定されたセンター撹拌軸回転用駆動モーターであって、可逆式のDCブラシレスモーターから成り、その回転速度を制御するコントローラー(制御基板)(59)が、上記中空支柱(48)に内蔵設置されている。(60)はその中空支柱(48)の背後に取り付けられた開閉カバーである。
(61)は上記カップリングケース(57)に内蔵設置された伝動カップリング(62)を介して、駆動モーター(58)の出力軸(63)と伝動連結されることにより、そのカップリングケース(57)から調理鍋(7)の中心部に向かって垂下するセンター撹拌軸、(64)はそのセンター撹拌軸(61)のほぼ上半部を抱持する固定ベアリングケースであり、上記カップリングケース(57)の下面へ押圧フランジ(65)とボルト(66)によって固定されている。
(67)はその固定ベアリングケース(64)に封入された上下一対のラジアルベアリングであり、上記センター撹拌軸(61)を回転自在に支持している。(68)は同じくセンター撹拌軸(61)のスラストベアリングを示している。尚、上記伝動カップリング(62)はその詳細を図示省略してあるが、ゴム製のスパイダーとこれを挟む一対の金属製ハブとから成り、上記駆動モーター(58)の出力軸(63)からセンター撹拌軸(61)へ回転動力を伝達するようになっている。
又、(69)は上記カップリングケース(57)と、固定ベアリングケース(64)の押圧フランジ(65)との上下相互間へ、そのボルト(66)を兼用して挟み付け一体化された径大な円形の固定カバーであり、これから連続的に垂下する周縁フランジ(70)の内周面には、インターナルギヤ(71)が刻設されている。
(72)はその固定カバー(69)の周縁フランジ(70)を下方から包囲する径大な椀状の回転ベアリングケースであり、その中心部がキー(73)やスプラインなどを介して、上記センター撹拌軸(61)と一体回転し得るように嵌合されている。(74)はその回転ベアリングケース(72)の抜け止め用ロックナットであり、センター撹拌軸(61)の下端部付近に螺合締結されている
更に、(75)はセンター撹拌軸(69)との一定間隔(L)を保つ平行状態として、上記回転ベアリングケース(72)から調理鍋(7)の偏心部に向かって垂下する互いに同じ一対の偏心撹拌軸であり、その何れも回転ベアリングケース(72)に封入された上下一対のラジアルベアリング(76)によって、その回転ベアリングケース(72)へ回転自在に軸受けされている。
しかも、上記固定カバー(69)側のインターナルギヤ(71)に内接して、これと噛み合い回転する径小なピニオンギヤ(77)が、その各偏心撹拌軸(75)の上端部に差し込み套嵌されており、上記センター撹拌軸(61)がその駆動モーター(58)によって図4の矢印方向(正方向)(f)へ回転駆動されると、そのセンター撹拌軸(61)と一体回転する回転ベアリングケース(72)を介して、一対の偏心撹拌軸(75)がセンター撹拌軸(61)の周囲を同一方向(f)へゆっくり公転運動すると同時に、そのピニオンギヤ(77)とインターナルギヤ(71)との噛み合い作用により、上記公転運動との逆方向(r)へすばやく自転運動し得るようになっている。
その場合、上記センター撹拌軸(61)と一対の偏心撹拌軸(75)はその矢印方向(f)との逆な互いに同一方向(r)へ公転運動し得るが、その偏心撹拌軸(75)とこれに套嵌されたピニオンギヤ(77)との嵌合面には、各々ワンウエイクラッチ(78)も介挿設置されており、センター撹拌軸(61)が上記矢印方向(f)との逆方向(r)へ回転駆動された時に限っては、そのワンウエイクラッチ(78)によってピニオンギヤ(77)への伝動作用が切断され、一対の偏心撹拌軸(75)が自転運動を行なえず、停止するようになっている。
上記ワンウェイクラッチ(78)の詳細は図示省略してあるが、これはハウジングとその内周面ヘ締まりばめ固定状態に圧入された咬み込み用コロ(クラツチ部)と、その両サイド部に組み込まれたラジアル荷重負荷用軸受とから成るシェル型をなし、上記コロの各個がバネにより保持されたものである。尚、(79)は上記回転ベアリングケース(72)を下方から施蓋するように、各偏心撹拌軸(75)に固定されたエンドキャップ、(80)はオイルシールである。
更に、(81)は上記センター撹拌軸(61)の下端部へ差し込まれた上、貫通ピン(82)を介して抜け止めされた細長い段付き円筒状の連結スリーブ、(83)はそのピン受け入れ長孔であって、連結スリーブ(81)の上下方向に沿って開口延在されているため、その連結スリーブ(81)が自由自在に昇降作用し得る。
そして、上記連結スリーブ(81)内の段部より約上半位置には圧縮コイルバネ(84)が封入されており、その連結スリーブ(81)を常時押し下げる方向へ弾圧付勢している。(85)は同じく連結スリーブ(81)の下端部に倒立L字型として切り欠かれたキー溝であり、ここへ下方から各種食材用撹拌子(A)のハンガー軸(86)が、抜き差し自在に差し込み係止されることとなる。
その各種食材の撹拌子(A)は図5、6に抽出して示す如く、上記連結スリーブ(81)へ差し込み可能なハンガー軸(86)と、その下端部へ挟持金具(87)を介して取り付けられた羽根板(88)とから、正面視の全体的な錨型をなしている。
即ち、その撹拌子(A)の羽根板(88)はフッソ樹脂(好ましくは商品名:テフロン(登録商標))やその他の硬質な合成樹脂から、上記調理鍋(7)の底面に対応する正面視の弓形として、且つ垂直断面の二等辺三角形(図例では正三角形)に一体成形されており、その調理鍋(7)の開口径とほぼ等しい回転直径を有している。
正・逆何れの方向(f)(r)へ回転使用されても、加熱終期に粘結固形化するカスタードクリームや餡などの各種食材を、その対称な形状の掬い上げ傾斜面(88a)が掬い上げ作用し、上記材質の表面平滑性とも相俟って、その各種食材の焦げ付きや羽根板(88)に対する各種食材の付着・堆積などを予防できるようになっているのである。
このような羽根板(88)の中心は挟持金具(87)の下端部へ、固定ボルト(89)によって取り付け一体化されているほか、その挟持金具(87)の上端部と上記ハンガー軸(86)の下端部とが枢支ボルト(90)により、そのハンガー軸(86)に対して羽根板(88)の揺動自由に取り付けられている。
そして、ハンガー軸(86)の上端部に打ち込み固定された水平なキー凸子(91)を、上記連結スリーブ(81)のキー溝(85)へ差し込み係止させることにより、その連結スリーブ(81)を介して上記センター撹拌軸(61)へ連結一本化された撹拌子(A)は、そのセンター撹拌軸(61)との一体に回転作用する。しかも、撹拌子(A)には上記圧縮コイルバネ(84)の押し下げ付勢力が働くため、その羽根板(88)のフラットな下面(88b)が上記調理鍋(7)の底面に弾圧されることとなる。
尚、上記センター撹拌軸(61)の下端部に対する撹拌子(A)の連結一本化と同様な取付方法により、例えば図7のようなカスタードクリームのダマ解消用として役立つホイッパー(E)などの別な撹拌子を、上記偏心撹拌軸(75)の下端部へ抜き差し自在に差し込み使用することもできる。
(92)は上記センター撹拌軸回転用駆動モーター(58)のコントローラー(59)や電磁誘導加熱コイル(C)の励磁用高周波電源(29)と接続配線された操作パネルであって、上記加熱撹拌機(M)の据付け機筐(1)に設置されており、上記高周波電源(29)の出力調整ボリューム(93)や上記駆動モーター(58)の正・逆回転切換スイッチなどを具備している。(94)はブレーカー付きの電源スイッチである。
図1〜25の上記実施形態では、カスタードクリームや餡、シチューなどの高粘度な各種食材を対象とする煮炊き調理用の加熱撹拌機(M)について説明したが、図26、27のような焼きそばや野菜などの各種食材を炒め調理する加熱撹拌機(M)に対しても、上記電磁誘導加熱器(H)を取り付け使用して、その調理鍋(7)における底面中央部と底面周辺部との加熱温度分布を均等に、又は相違するように調整・変化させることができる。
その電磁誘導加熱器(H)の構成は図1〜25の上記実施形態と実質的に同一であるため、これとの対応符号を図26、27に記入するにとどめ、加熱撹拌機(M)についてのみ説明すると、その炒め調理用の撹拌子(A)は調理鍋(7)の底面に沿って弯曲する円弧板状の揺動アーム(95)と、これに付属する昇降自由な円弧板状のスクレーパー(96)とから成る。(97)はその揺動アーム(95)に対するスクレーパー(96)の取付ボルトであり、これを受け入れる長孔(98)がスクレーパー(96)に切り欠かれているため、その長孔(98)に沿ってスクレーパー(96)が下降し、調理鍋(7)の底面にフィットする。
そして、上記撹拌子(A)は図外の駆動モーターにより、揺動アーム(95)の水平な回動支軸(99)を介して、調理鍋(7)の内部を往復的に円弧運動され、上記焼きそばや野菜などの食材を繰り返し掻き上げ反転し得るようになっている。
先に一言したとおり、このような各種食材の炒め調理においても、その調理鍋(7)の底面中央部に対する加熱力と、同じく底面周辺部に対する加熱力とを部分的に強弱調整することができるため、ベタ付きのない炒め物を短時間での効率良く調理し得るのである。