(第1実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るエンジンの排気ガス浄化システムの構成について説明する。ここに、図1は、エンジンの排気ガス浄化システムのシステム構成を示す一部断面図である。
図1において、エンジンの排気ガス浄化システムは、電子制御ユニット(ECU)100、エンジン200および主排気ガス浄化装置300を備える。ECUl00は,デジタルコンピュータからなり、双方向バスによって相互に接続されたROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(セントラルプロセッサユニット)、入力ポート、出力ポートなどを備え、エンジン200の動作を制御することが可能である。また、ECUl00は、ROMに格納されたプログラムを実行することによって、後述する故障診断処理を実行することが可能に構成されており、主排気ガス浄化装置300と共に本発明に係る排気ガス浄化システムの故障診断装置の一例としても機能するように構成されている。
エンジン200は、シリンダ201内において点火プラグ202により混合気を爆発させると共に、爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介してクランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成された、本発明に係る内燃機関の一例である。以下に、エンジン200の要部構成を説明する。
シリンダ201内における燃料の燃焼に際し,外部から吸入された空気は吸気管206を通過し、インジェクタ207から噴射された燃料と混合されて前述の混合気となる。インジェクタ207には、不図示の燃料タンクから燃料(ガソリン)が供給されており、インジェクタ207は、この供給される燃料をECU100の制御に従って、吸気管206内に墳射することが可能に横成されている。
シリンダ201内部と吸気管206とは、吸気バルブ208による吸気ポートの開閉によって連通状態が制御される。シリンダ201内部で燃焼した混合気は排気ガスとなり吸気バルブ208の開閉に連動して排気ポートを開閉する排気バルブ209を通過して排気管210に排気される。
吸気管206の上流には、エアクリーナ211が配設されており、外部から吸入される空気が浄化される。エアクリーナ211のシリンダ側には、エアフローメータ212が配設されている。エアフローメータ212は、例えば、ホットワイヤー式であり、吸入された空気の質量流量を直接測定することが可能に構成されている。吸気管206には更に、吸入空気の温度を検出するための吸気温センサ213が設置されている。
吸気管206におけるエアフローメータ212のシリンダ側には、シリンダ201内部への吸入空気量を調節するスロットルバルブ214が配設されている。このスロットルバルブ214には、スロットルバルブモータ217とスロットルポジションセンサ215が配設されており、電子制御式スロットルバルブを構成している。なお、本実施の形態においては、該電子制御式スロットルバルブがアイドリング時の吸入空気量を調節するアイドル制御弁を兼用している。一方、アクセルペダル223の踏込み量は、アクセルポジションセンサ216を介してECU100に入力されており、アクセルポジションセンサ216の出力に対応するスロットルバルブ開度を示す信号がECUl00からスロットルバルブモータ217に出力され、吸入空気量が制御される。
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置を検出するクランクポジションセンサ218が設置されている。クランクポジションセンサ218は、クランクシャフト205の位置を検出することが可能に構成されたセンサであり、ECU100は、クランクポジションセンサ218の出力信号に基づいてピストン203の位置およびエンジン200の回転数などを取得することが可能に構成されている。このピストン203の位置は、前述した点火プラグ202における点火時期の制御などに使用される。点火プラグ202における点火時期は、例えば、ピストン203の位置に対応付けられて予め設定される基本値に対し遅角又は進角制御される。
また、シリンダ201を収容するシリンダブロックには、エンジン200のノック強度を測定することが可能なノックセンサ219が配設されており、係るシリンダブロック内のウォータージャケット内には、エンジン200の冷却水温度を検出するための水温センサ220が配設されている。
排気管210の集合部には、比較的小容量のスタートアップ触媒222が設置されている。スタートアップ触媒222は、例えば、エンジン200から排出されるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、およびNOx(窒素酸化物)を夫々浄化することが可能な三元触媒である。排気管210におけるスタートアップ触媒222の上流側には,空燃比センサ221が配設されている。空燃比センサ221は、排気管210から排出される排気ガスから、エンジン200の空燃比を検出することが可能に構成されている。
主排気ガス浄化装置300は、排気管210における,スタートアップ触媒222の下流側に設置された触媒装置であり、ECUl00と共に、本発明に係る排気ガス浄化システムの故障診断装置の一例として機能することが可能に構成されている。主排気ガス浄化装置300とECU100とは、制御用のバスラインを介して電気的に接綾されている。
なお、ECUl00には不図示の車両の走行速度を検出可能な車速センサから車速VSを表す信号、およびシフト位置センサから選択されているレンジ信号RSが入力されるように構成されている。
次に、図2を参照して、主排気ガス浄化装置300の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、主排気ガス浄化装置300の模式断面図である。なお、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。
主排気ガス浄化装置300の外筒310の内部には内筒320がその端部に一体に形成された鍔部322を介して、外筒310と同心に且つ互いに径方向に隙間を有して設けられている。内筒320は、その上流側が外筒310の対応する端部近くまで延在され、主排気ガス浄化装置300内において開放した状態にして設置されている。また、内筒320の下流側端部は、外筒310に配置されたアンダーフロア触媒330の端面に所定の空間を介して対峙しつつ開放した状態に設置されている。また、内筒320の鍔部322には複数の通気孔324が形成されている。そして、主排気ガス浄化装置300の外筒310と内筒320との間に形成された環状空間、すなわち、後述するバイパス流路350には環状のHC吸着材340が設けられている。なお、主排気ガス浄化装置300の外筒310の上流側および下流側端部には排気管210が連結されている。
さらに、図2において、本実施形態の主排気ガス浄化装置300は、上述のアンダーフロア触媒330、HC吸着材340に加えて、切り替え制御弁370、第1および第2の温度センサ380、390および断熱層395を備えている。
アンダーフロア触媒330は、車両の床下に設置される、例えば、三元触媒であり、前段のスタートアップ触媒222((図2では不図示)を通過し、矢印A方向へ流れる排気ガスを浄化する。
バイパス流路350は、本発明に係る「第2排気ガス通路」の一例であり、内筒320の内側に形成される本発明に係る「第1排気ガス通路」(以下、被バイパス流路ないしは通常流路360と称す)をバイパスして排気ガスをアンダーフロア触媒330に導くための流路である。
HC吸着材340は、例えば、ゼオライトで形成されたフィルタであり、低温(概ね100℃未満)でHC分子を吸着(或いはトラップ)する網目状のフィルタであり、トラップされたHC分子は、高温(概ね100℃以上)では熱による運動エネルギーの増加に伴って自然に脱離を開始する。
切り替え制御弁370は、スタートアップ触媒222を通過した排気ガスの流路を、被バイパス流路360とバイパス流路350との問で選択的に切り替えることが可能に構成されている。切り替え制御弁370は、回動可能に支持された軸部372がロッド374の紙面左右方向への直線運動に伴って矢印B方向へ回動することによって、排気ガスの流路を切り替えることが可能に構成されている。このロッド374は、アクチュエータ376によって動作が制御されており、アクチュエータ376は、前述した制御用のバスラインを介してECUl00と電気的に接続されている。すなわち、主排気ガス浄化装置300は、ECUl00からの制御信号に応じて,切り替え制御弁370の開閉状熊が変化するように構成されている。
本実施の形態の第1温度センサ380は、サーミスタ素子で構成されており、主排気ガス浄化装置300におけるアンダーフロア触媒330の上流側で被バイパス流路360の温度T1を検出することが可能に配置されている。
第2温度センサ390は、同じくサーミスタ素子で構成されており、バイパス流路350におけるHC吸着材340の上流側の温度T2を検出することが可能に構成されている。なお、第1および第2の温度センサ380および390は、係る温度を、温度に応じた電圧値として検出すると共にECU100に出力しており、ECUl00によって温度T1、T2が特定される。なお、第2の温度センサ390はバイパス流路350のHC吸着材340の下流側に配置され、バイパス流路350内の温度を検出できるようにしてもよい。
断熱層395は、バイパス流路350と被バイパス流路360との間に形成された断熱体であり、バイパス流路350と被バイパス流路360との間の熱交換が抑制されている。
次に、図3および図4を参照して、切り替え制御弁370の動作に伴い形成される排気ガス流路について説明する。ここに、図3は、主排気ガス浄化装置300において切り替え制御弁370が閉じている場合の排気ガス流れの模式図であり、図4は、主排気ガス浄化装置300において切り替え制御弁370が開いている場合の排気ガス流れの模式図である。なお、これらの図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を省略することとする。
図3において、矢印A方向に流入する排気ガスは、切り替え制御弁370が閉じているために被バイパス流路360には流れず、バイパス流路350に導かれる。そして、HC吸着材340によってHCの吸着が行われた後、HC吸着材340の下流側に形成された通気孔324から矢印C方向へ流出し、アンダーフロア触媒330に流入する。
また、図4において、矢印A方向から流入する排気ガスは、切り替え制御弁370が開いているために、排気抵抗の差から被バイパス流路360に導かれる。その一方で、被バイパス流路360を通過する排気ガスの一部は、被バイパス流路360の終端部付近で図示矢印D方向に方向を変え、バイパス流路350の終端の鍔部322に形成された通気孔324を介して下流側からバイパス流路350に流入する。そしてバイパス流路350の上流側の端部において排気ガスの流れ方向(矢印A方向)へ再び向きを変えて被バイパス流路360に導かれる。すなわち、排気ガスの一部は、主排気ガス浄化装置300の内部を還流する。主排気ガス浄化装置300では,被バイパス流路360とバイパス流路350との断面積比率、バイパス流路350の終端部分を規定する鍔部322の曲率、並びに通気孔324の形状および大きさなどが、予めこのような還流現象を生じさせるように決定されている。なお、このような還流現象を生じさせることは、本発明との関連においては必須ではない。
ECUl00は、排気ガス浄化システム10の動作中に、ROMに格納されるプログラムに従って故障診断処理を実行することによって、切り替え制御弁370の故障を診断することが可能に構成されている。
ここで、図5を参照して、本発明が実施される前提としてメインルーチンで実行される故障診断処理の一例について説明する。ここに、図5は、故障診断処理のフローチャートである。なお、図5は、エンジン200の始動時に行われる処理であるとする。
図5において、ECU100は、エンジン200が始動を開始したか否かを判別する(ステップS501)。エンジン200が始動を開始していない場合には(ステップS501:NO)、本故障診断処理を一旦終了する。エンジン200が始動を開始した場合(ステップS501:YES)、エアフローメータ212、第1温度センサ350および第2温度センサ360の出力電圧から、それぞれ、吸入空気量GA、温度T1および温度T2を取得する(ステップS502)。
なお,始動時において、エンジン200は全体的に温まっていないため,スタートアップ三元触媒222およびアンダーフロア触媒330は、通常、触媒活性温度に達していない。このために、排気ガスに含まれる炭化水素HCを浄化することが難しく、ECU100は、エンジン200の冷間始動時には切り替え制御弁370を閉状態に制御し、排気ガスをバイパス流路350へ導くことによって、排気ガス中の炭化水素HCをHC吸着材340に吸着させている。そして、スタートアップ三元触媒222およびアンダーフロア触媒330が触媒活性温度に達したと見なし得る所定の暖機期間が経過した後、切り替え制御弁370を開き、排気ガスを被バイパス流路360に導いて、排気浄化能力の低下を防ぐと共に、HC吸着材340にトラップされたHCを脱離させ浄化するようにしている。
ここで、吸入空気量GAが取得されると、次にステップS503において、例えば、吸入空気量GAが所定範囲内にあるか否かに基づき、故障診断条件が成立しているか否かが判定される。故障診断条件が成立していないときは、故障診断処理ルーチンは一旦終了される。そして、故障診断条件が成立しているときは、ステップS504に進み、取得した温度Tlおよび温度T2に基づき,ECUl00は、診断指標の値(以降、適宜「診断指標値」と称する)を演算する。
ここで、図6を参照して、本実施形態に係る診断指標について説明する。ここに、図6(A)、図6(B)および図6(C)は、診断指標の一例である温度面積の模式図である。なお、温度面積とは各計測時点での検出温度を時間経過に伴い積算した値であり、同図の横軸は時間を表している。
ここで、図6(A)は、切り替え制御弁370が正常に作動する場合の温度面積を示している。すなわち、図6(A)の右側には、切り替え制御弁370の開状態(図4参照)において、第1温度センサ380により検出される温度T1の積算された温度面積T1Oと、第2温度センサ390により検出される温度T2の積算された温度面積T2Oとが示され、その左側には、切り替え制御弁370の正常動作による閉状態(図3参照)において、第1温度センサ380により検出される温度T1の積算された温度面積T1Cと、第2温度センサ390により検出される温度T2の積算された温度面積T2Cとが、それぞれ、示されている。
温度T2は、切り替え制御弁370が閉状態(バイパス流路350が選択されている状態)の方が、開状態(被バイパス流路360が選択されている状態)よりも高いから、温度面積の値は、切り替え制御弁370が閉状態(バイパス流路350が選択されている時)の方が相対的に大きくなる(T2C>T2O)。温度T1はその逆に、切り替え制御弁370が開状態(被バイパス流路360が選択されている状態)の方が、閉状態(バイパス流路350が選択されている状態)よりも高いから、温度面積の値は、切り替え制御弁370が開状態(バイパス流路350が選択されている時)の方が相対的に大きくなる(T1O>T1C)。
また、図6(B)は、切り替え制御弁370が閉固着した場合の温度面積を示している。ここで「閉固着」とは、何らかの原因で切り替え制御弁370が閉状態に維持され開作動できなくなった状態をいう。図6(B)の右側に、切り替え制御弁370に開指示が与えられた場合に、第1温度センサ380により検出される温度T1の積算された温度面積T1OEと、第2温度センサ390により検出される温度T2の積算された温度面積T2OEとが示され、その左側に、切り替え制御弁370に閉指示が与えられた場合に、第1温度センサ380により検出される温度T1の積算された温度面積T1Cと、第2温度センサ390により検出される温度T2の積算された温度面積T2Cとが、それぞれ、示されている。切り替え制御弁370に開指示が与えられた場合、それが正常に作動すれば、温度面積は図6(A)の右側に示すようになるはずであるが、閉固着の故に切り替え制御弁370は指示通りには作動せず、閉状態のままに維持される結果、温度面積T2OEが温度面積T1OEよりも大きくないしは広くなる。
さらに、図6(C)は、切り替え制御弁370が開固着した場合の温度面積を示している。ここで「開固着」とは、何らかの原因で切り替え制御弁370が開状態に維持され閉作動できなくなった状態をいう。図6(C)の右側に、切り替え制御弁370に開指示が与えられた場合に、第1温度センサ380により検出される温度T1の積算された温度面積T1Oと、第2温度センサ390により検出される温度T2の積算された温度面積T2Oとが示され、その左側に、切り替え制御弁370に閉指示が与えられた場合に、第1温度センサ380により検出される温度T1の積算された温度面積T1CEと、第2温度センサ390により検出される温度T2の積算された温度面積T2CEとが、それぞれ、示されている。切り替え制御弁370に閉指示が与えられた場合、それが正常に作動すれば、温度面積は図6(A)の左側に示すようになるはずであるが、開固着の故に切り替え制御弁370は指示通りには作動せず、開状態のままに維持される結果、温度面積T2CEが温度面積T1CEよりも小さくないしは狭くなる。
そこで、上述の温度面積を用いることにより、切り替え制御弁370が正常か否か、すなわち、故障か否かが診断される。本実施の形態では、アンダーフロア触媒330上流側の被バイパス流路360についての温度面積(温度T1に対応)とバイパス流路350についての温度面積(温度T2に対応)との差を求め、この温度面積差が診断指標として利用される。
すなわち、切り替え制御弁370の閉時において、温度面積T2C−温度面積T1C>α(ここで、αは所定の判定値であり>0)であるとき、および、切り替え制御弁370の開時において、温度面積T2O−温度面積T1O<β(ここで、βは所定の判定値であり<0)のときは、切り替え制御弁370が正常であると判定される(図6(A)参照)。一方、切り替え制御弁370の開指示時において、温度面積T2OE−温度面積T1OE>αのときは、切り替え制御弁370の閉固着故障(図6(B)参照)、切り替え制御弁370の閉指示時において、温度面積T2CE−温度面積T1CE<βのときは切り替え制御弁370の開固着故障(図6(C)参照)と判定される。これらの判定値αおよびβは、それぞれ、予めROMに格納されている診断指標値の閾値である。
ここで、図5のフローチャートに戻り、ステップS504において診断指標値である温度面積を演算すると、ECUl00は、上述の切り替え制御弁370の閉時(ないしは閉指示時)における温度面積差と予めROMに格納される診断指標値の閾値(判定値)とを比較し、切り替え制御弁370が故障しているか否かを判別する(ステップS505)。
なお,ここでは、各温度T1および温度T2の検出が、ある程度の期間にわたって実行されて温度面積としての積算値が求められ、切り替え制御弁370の故障の有無が判別されるが、これは、場合によっては、所定のタイミング(時刻)における温度T1および温度T2に直接に基づいてもよい。例えば、エンジン始動直後から切り替え制御弁370が閉じられているにも拘わらず温度T1が上昇傾向にある場合には、排気ガスがバイパス流路350に流れていないと推測されるから、切り替え制御弁370が故障していると直ちに判別されてもよい。
切り替え制御弁370が故障していると判別された場合(ステップS505:YES)、ECU100は,車両の運転者などに、診断の結果として所定のインジケータなどを介して故障を告知し(ステップS512)、故障診断処理を終了する。
一方、切り替え制御弁370が正常に動作していると判別された場合(ステップS505:NO)、ECU100は、排気ガスの流路を切り替えるべきタイミングであるか否かを判別する(ステップS506)。既に述べたように、ECUl00は、アンダーフロア触媒330が十分に温まったとみなし得るタイミングで流路を切り替える。この切り替えタイミングは、予めROMなどに格納される固定値であってもよいし、その都度決定される変動値、例えば、エンジン始動からの吸入空気量GAの累積ないしは積算値であってもよい。
切り替え制御弁370の切り替えタイミングではない場合(ステップS506:NO)、ECU100は、切り替えタイミングが訪れるまでステップS506を繰り返すと共に、切り替えタイミングが訪れた場合(ステップS506:YES)、切り替え制御弁370を開いて、排気ガスの流路をバイパス流路350から被バイパス流路360に切り替える(ステップS507)。
流路を切り替えると、ECU100は、所定のタイミングで再び吸入空気量GA、温度T1および温度T2を取得する(ステップS509)。なお、既に述べたように、流路の切り替えが実行されてから所定の期間にわたって係る温度検出が継続される。
吸入空気量GAが取得されると、次にステップS509において、吸入空気量GAが所定範囲内にあるか否かに基づき、故障診断条件が成立しているか否かが再度判定される。故障診断条件が成立していないときは、故障診断処理ルーチンは一旦終了される。そして、故障診断条件が成立しているときは、ステップS510に進み、取得した温度Tlおよび温度T2に基づき,ECUl00は、切り替え制御弁370の開時(ないしは開指示時)における温度面積差を演算する(ステップS510)と共に、予め設定された閾値と比較して切り替え制御弁370が故障しているか否かを判別する(ステップS511)。
切り替え制御弁370が故障していると判別された場合(ステップS511:YES)、ECUl00は、既に述べたように故障の告知を行って(ステップS5l2)故障診断処理を終了すると共に、切り替え制御弁370が正常に動作していると判別された場合には(ステップS511:N0)、そのまま故障診断処理を終了する。
なお、この故障診断処理が終了ないしは完了したときには、ECUl00は、その旨を、故障診断処理完了フラグをオンにして記憶する。上述の故障診断処理においては、診断指標として温度面積を用い、それらの差を予め設定された閾値(判定値)と比較して、切り替え制御弁370が故障しているか否かを判別するようにしたが、温度面積の比を求めこれを予め設定された閾値(判定値)と比較して故障診断を行うようにしてもよい。
次に、上述した故障診断処理のサブルーチンとして実行されるエンジンの運転状態を所定状態に制限制御する運転状態制限制御ルーチンの第1の形態について、図7のフローチャートを参照して説明する。この運転状態制限制御ルーチンが開始されると、ステップS701において、故障診断処理中か否かが判定される。故障診断処理中(ステップS701:YES)のときはステップS702に進みエンジン制限制御が実行され、処理中でないときはステップS703に進み通常のエンジン制御が行なわれる。
ここで、ステップS702にて実行されるエンジン制限制御につき説明するに、その第1の態様は、エンジン200の吸入空気量GAを所定範囲内に収めるように制御することである。この場合、本実施の形態では、スロットルバルブ214の開度θが所定開度範囲内(θ2>θ>θ1)となるように、ECUl00からスロットルバルブモータ217に出力されて、電子制御式スロットルバルブが制御される。同時に、この第1の態様では、車両の車速センサから入力される車速信号VS、およびシフト位置センサから入力されるレンジ信号RSに基づく、車両の状態およびレンジ位置が判定され、車両が停止中、且つ、N(ニュートラル)またはP(パーキング)レンジにあるときのみ、上述の吸入空気量GAの制限制御が行なわれるようにされている。運転者の意図に沿わないエンジン200の挙動を避けるためである。
また、ステップS702にて実行されるエンジン制限制御の第2の態様は、エンジン200の回転数NEを所定範囲内(NE2>NE>NE1)に収めるべく制御することである。この第2の態様では、エンジン200が手動変速機(MT)または自動変速機(AT)との組合せで用いられる場合には、第1の態様と同様にシフト位置がN(ニュートラル)またはP(パーキング)レンジにあるときのみ、上述の回転数NEの制限制御が行なわれるようにされている。なお、エンジン200が無段変速機(CVT)との組合せで用いられる場合には、シフト位置に拘わらず上述の回転数NEの制限制御が行なわれる。CVTの場合には、エンジン200の回転数NEを所定範囲内に収めた状態でも、CVTの変速比を無段階に変更制御することにより所望の走行が可能であるからである。
さらに、ステップS702にて実行されるエンジン制限制御の第3の態様は、エンジン200の停止を禁止すべく制御することである。すなわち、エンジン200がハイブリッド車両に搭載されたエンジンである場合には、エンジン200が停止されると、故障診断処理が実行中であった場合でも未完了のまま中止されるので、これを優先的に避けるためである。従って、エンジン200の停止禁止が担保される限りにおいて、上述の第1および第2の態様と共に実行されてもよい。
このように、上述のエンジン制限制御が実行されると、エンジン200から排出される排気ガスの温度変動も制限される。この結果、排気ガス温度が安定するので、図5のフローチャートで説明したステップS504およびS510における診断指標値である温度面積の演算が正確に行なわれ、故障診断手段は誤診断することなく排気ガス流路切替え手段の故障を精度良く診断することができるのである。
次に、上述した故障診断処理のサブルーチンとして実行されるエンジンの運転状態を所定状態に制限制御する運転状態制限制御ルーチンの第2の形態について、図8のフローチャートを参照して説明する。この運転状態制限制御ルーチンが開始されると、ステップS801において、故障診断処理中か否かが判定される。故障診断処理中(ステップS801:YES)のときはステップS802に進み、故障診断処理中でないときはステップS806に進む。
そこで、故障診断処理中でないときに進むステップS806では、通常の点火時期制御が行なわれるのに対し、故障診断処理中に進むステップS802では、故障診断処理開始時の排気ガス温度が推定されて記憶される。この排気ガス温度の推定は、故障診断処理開始直前の数秒間に亘るエンジン200の運転履歴に基づいて行なわれ、例えば、この間の吸入空気量GAおよび回転数NEの積算値に対応する予め実験等で求められているマップ値として得られる。そして、次のステップS803では、この推定された排気ガス温度記憶値と第1温度センサ380または第2温度センサ390により検出される現在の排気ガス温度T1またはT2とが比較される。現在の排気ガス温度T1またはT2のいずれが用いられるかは、切り替え制御弁370の開閉状態に依存する。比較の結果、現在の排気ガス温度が排気ガス温度記憶値よりも大きい(高い)ときにはステップS804に進み、点火時期を所定量進角すべく補正する排気ガス温度低下制御が行なわれる。また、現在の排気ガス温度が排気ガス温度記憶値よりも小さい(低い)ときにはステップS805に進み、点火時期を所定量遅角すべく補正する排気ガス温度上昇制御が行なわれる。
このように、本実施形態によれば、点火時期が所定量進角補正されることによる排気ガス温度低下制御および点火時期が所定量遅角補正されることによる排気ガス温度上昇制御が、故障診断処理開始時の推定排気ガス温度記憶値を基準として実行されるので、点火時期もほぼ所定の範囲に制御され、排気ガス温度を所定範囲内に収めて安定化させることができる。
なお、上述の点火時期を補正して排気ガス温度を所定範囲内に収める制御を実行するのに代えて、図9に簡易的に示すように、スタートアップ触媒222をバイパスする通路224を設けると共に、このバイパス通路224に通路開閉弁226を設けて、この通路開閉弁226を開閉制御するようにしてもよい。この図9において、前述の図1および図2につき説明したのと同一機能部位には同一符号を用いて重複説明を避ける。
通路開閉弁226の具体的な開閉制御の形態は、排気ガスがスタートアップ触媒222を通過することが、排気ガスの昇温または降温のいずれをもたらす状況であるかに依存する。すなわち、スタートアップ触媒222が活性化されていない状況では通路開閉弁226を開くことにより、排気ガスがバイパス通路224を流通するようにして、排気ガスの降温を防止する。スタートアップ触媒222が活性化された後は通路開閉弁226を閉じることにより、排気ガスがスタートアップ触媒222を流通するようにして、排気ガスの昇温を図る。また、スタートアップ触媒222が過剰に高温であるときは、通路開閉弁226を開くことにより、排気ガスがバイパス通路224を流通するようにして、排気ガスの過剰な昇温を防止するのである。
次に、上述した故障診断処理のサブルーチンとして実行されるエンジンの運転状態を所定状態に制限制御する運転状態制限制御ルーチンの第3の形態について、図10のフローチャートを参照して説明する。この運転状態制限制御ルーチンが開始されると、ステップS1001において、故障診断処理が未完了か否かが判定される。故障診断処理が未完了(ステップS1001:YES)のときはステップS1002に進み故障診断条件を成立させるようにエンジン制限制御が実行され、完了しているときはステップS1005に進み通常のエンジン制御が行なわれる。なお、この故障診断処理が完了しているか未完了であるかの判定は、前述のメインルーチンにおける故障診断処理完了フラグがオンであるかオフであるかにより行なわれる。
ここで、ステップS1002において実行されるエンジン運転状態制限制御は、既に説明した、第1の形態の運転状態制限制御ルーチンにおけるステップS702にて実行されるエンジン制限制御と同じであるからその説明を援用し、細部の繰り返し説明を避けつつ要点のみを列挙する。
(1)第1の態様:車両が停止中、且つ、N(ニュートラル)レンジにあるとき、エンジン200の吸入空気量GAを所定範囲内に収めるように制御する。
(2)第2の態様:エンジン200が手動変速機(MT)または自動変速機(AT)との組合せで用いられる場合、シフト位置がN(ニュートラル)またはP(パーキング)レンジにあるとき、エンジン200の回転数NEを所定範囲内に収めるべく制御する。エンジン200が無段変速機(CVT)との組合せで用いられる場合、シフト位置に拘わらず上述の回転数NEの制限制御が行なわれる。
(3)第3の態様:エンジン200がハイブリッド車両に搭載されたエンジンである場合、エンジン200の停止を禁止すべく制御する。
そして、上記態様のいずれかによるエンジン制限制御が実行された後、ステップS1003に進み故障診断条件が成立されたか否かが判定され、成立されたときはステップS1004に進み故障診断処理が実行され、未だに成立されないときはこのルーチンが終了される。
このように、運転状態制限制御ルーチンの本第3の形態によれば、運転状態制限制御手段が故障診断条件を成立させるように、エンジンの運転状態を制御するので、故障診断条件を満たし易くなり、故障診断の実行頻度が増大する。
さらに、上述した故障診断処理のサブルーチンとして実行されるエンジンの運転状態を所定状態に制限制御する運転状態制限制御ルーチンの第4の形態について、図11のフローチャートを参照して説明する。この運転状態制限制御ルーチンが開始されると、ステップS1101において、故障診断処理が未完了か否かが判定される。故障診断処理が未完了(ステップS1101:YES)のときはステップS1102に進み、完了しているときはステップS1106に進み通常のエンジン制御が行なわれる。なお、この故障診断処理が完了しているか未完了であるかの判定は、前述のメインルーチンにおける故障診断処理完了フラグがオンであるかオフであるかにより行なわれる。
そこで、故障診断処理が完了しているときに進むステップS1106では、通常の点火時期制御が行なわれるのに対し、故障診断処理が未完了であるときに進むステップS1102では、本制御開始時の排気ガス温度が推定されて記憶される。この排気ガス温度の推定は、本制御開始直前の数秒間に亘るエンジン200の運転履歴に基づいて行なわれ、例えば、この間の吸入空気量GAおよび回転数NEの積算値に対応する予め実験等で求められているマップ値として得られる。そして、次のステップS1103では、この推定された排気ガス温度記憶値と第1温度センサ380または第2温度センサ390により検出される現在の排気ガス温度T1またはT2とが比較される。現在の排気ガス温度T1またはT2のいずれが用いられるかは、切り替え制御弁370の開閉状態に依存する。比較の結果、現在の排気ガス温度が排気ガス温度記憶値よりも大きい(高い)ときにはステップS1104に進み、点火時期を所定量進角すべく補正する排気ガス温度低下制御が行なわれる。また、現在の排気ガス温度が排気ガス温度記憶値よりも小さい(低い)ときにはステップS1105に進み、点火時期を所定量遅角すべく補正する排気ガス温度上昇制御が行なわれる。
このように、本第4の形態によれば、点火時期が所定量進角補正されることによる排気ガス温度低下制御および点火時期が所定量遅角補正されることによる排気ガス温度上昇制御が、制御開始時の推定排気ガス温度記憶値を基準として実行され、排気ガス温度が所定範囲内に安定化されるので、故障診断条件が成立し易くなり、故障診断の実行頻度が増大するのである。
(第2実施形態)
上に説明した本発明の第1の実施形態では、図5のフローチャートにおけるステップS504およびステップS510における診断指標値の演算ステップにおいて、切り替え制御弁370の開状態(図4参照)と閉状態(図3参照)とのそれぞれにおいて、温度検出手段としての第1温度センサ380と第2温度センサ390とにより、それぞれ検出される温度T1と温度T2とを積算した温度面積の変化を診断指標値として演算し、そして次のステップS505およびステップS511における故障診断ステップにおいて、診断指標値と所定の判定値αまたはβとを比較して診断を行なうようにしている。
ところで、前第1の実施形態ではエンジンの運転状態を所定状態に制限制御することにより、排気ガス温度を所定範囲内に安定化させるようにしているが、エンジンの運転状態に変動がある限り排気ガス量も異なり、積算される温度面積も異なることになる。これを、図12を参照して説明する。図12(A)および(B)は、切り替え制御弁370が閉固着した場合の温度面積を示す前述の図6(B)に対応する図であり、図12(A)は排気ガス量が多目の場合、図12(B)は排気ガス量が少な目の場合を示している。
すなわち、図12(A)では、図6(B)と同様に、切り替え制御弁370の閉固着の故に、切り替え制御弁370に閉指示または開指示が与えられた場合のいずれも、第1温度センサ380により検出される温度T1が積算される温度面積T1Cおよび温度面積T1OEよりも、第2温度センサ390により検出される温度T2が積算される温度面積T2Cおよび温度面積T2OEの方がエンジンの運転状態による排気ガス量に応じて大きくないしは広くなる。
これに対し、図12(B)では、第1温度センサ380により検出される温度T1が積算される温度面積T1Cおよび温度面積T1OEは図12(A)の場合と変わらないが、第2温度センサ390により検出される温度T2が積算される温度面積T2Cおよび温度面積T2OEについては、図12(A)の場合に比べて縮小される。これは、図12(B)の場合には排気ガス量が少な目のためである。この結果、温度T1に基づく温度面積と温度T2に基づく温度面積との両者の差または比に区別が付き難く、所定の判定値との比較においても精度が低下する惧れがあるのである。
そこで、本第2の実施形態では、温度検出手段である第1温度センサ380および第2温度センサ390により検出された温度T1およびT2の変化を表す診断指標値である温度面積または判定値をエンジン運転状態に応じて補正するようにし、エンジン運転状態に応じた高精度の故障診断が可能となるようにしている。
ここで、図13を参照して、まず判定値の補正について説明する。図13において、縦軸は判定値補正係数Kα(または、Kβ)、横軸はエンジン運転状態を表すパラメータ(一例として、吸入空気量GA)である。本例では、吸入空気量GAの所定期間における平均値(以下、GA平均と称す)が大きくなるに連れて判定値補正係数Kαが大きくなるように設定されている。なお、この判定値補正係数を用いる代わりに、判定値α(または、β)のエンジン運転状態に応じて補正された具体的な値が、予め実験等により求められ、ECU100のROMにマップの形態で保管されていてもよい。
次に、図14を参照して、診断指標値である温度面積の補正について説明する。図14において、縦軸は補正係数Ka、横軸はエンジン運転状態を表すパラメータ(一例として、吸入空気量GA)である。本例では、吸入空気量GAが所定値以下のときKa=1、所定値以上のときKa=0であり、その間で吸入空気量GAが大きくなるに連れて補正係数Kaが小さくなるように設定されている。
ここで、上述した故障診断処理のサブルーチンとして実行され、診断指標値である温度面積または判定値をエンジン運転状態に応じて補正して診断する補正・診断ルーチンの第1の形態について、図15のフローチャートを参照して説明する。なお、この補正・診断ルーチンは図5のフローチャートにおけるステップS504、S505およびステップS510、S511に代わり、またはそれらの一部として実行される。
まず、補正・診断ルーチンの第1の形態が開始されると、ステップS1501において、例えば、吸入空気量GAが所定範囲内にあるか否かに基づき、故障診断条件が成立しているか否かが判定される。故障診断条件が成立していないときは、補正・診断ルーチンは一旦終了される。そして、故障診断条件が成立しているときは、ステップS1502に進み、取得した温度Tlおよび温度T2に基づき,それぞれの温度面積T1Cおよび温度T2C(または、温度面積T1Oおよび温度面積T2O)が算出される。同時に、これらの面積の算出期間における吸入空気量GAの平均値、すなわち、GA平均が算出される。そして、次のステップS1503において、ECU100は、判定のタイミングであるか否かを判別する。これは、判定に必要な情報量が既に取得されているか否かを判別するためであり、判定タイミングに至っているときはステップS1504に進む。
そして、ステップS1504においては、上で求めたGA平均に基づき、判定値補正係数Kα(または、Kβ)が求められ、判定値α(または、β)を補正する。この補正された判定値Kα・α(または、Kβ・β)を用いて、切り替え制御弁370が正常か否か、すなわち、故障か否かが診断される。すなわち、切り替え制御弁370の閉時において、温度面積T2C−温度面積T1C>Kα・αであるとき、および、切り替え制御弁370の開時において、温度面積T2O−温度面積T1O<Kβ・βのときは、切り替え制御弁370が正常であると判定される(図6(A)参照)。一方、切り替え制御弁370の開指示時において、温度面積T2OE−温度面積T1OE>Kα・αのときは、切り替え制御弁370の閉固着故障(図6(B)、図12(A)、(B)参照)、切り替え制御弁370の閉指示時において、温度面積T2CE−温度面積T1CE<Kβ・βのときは、切り替え制御弁370の開固着故障(図6(C)参照)と判定されるのである。
一方、上述した故障診断処理のサブルーチンとして実行され、診断指標値である温度面積または判定値をエンジン運転状態に応じて補正して診断する補正・診断ルーチンの第2の形態について、図16のフローチャートを参照して説明する。なお、この補正・診断ルーチンも図5のフローチャートにおけるステップS504、S505およびステップS510、S511に代わり、またはそれらの一部として実行される。
そこで、補正・診断ルーチンの第2の形態が開始されると、ステップS1601において、例えば、吸入空気量GAが所定範囲内にあるか否かに基づき、故障診断条件が成立しているか否かが判定される。故障診断条件が成立していないときは、この補正・診断ルーチンは一旦終了される。そして、故障診断条件が成立しているときは、ステップS1602に進み、取得した温度Tlおよび温度T2に基づき,それぞれの温度面積TS1および温度面積TS2が下式により算出される。なお、ここで説明する温度面積TS1は前に説明した温度面積T1Cと温度面積T1Oを含み、温度TS2は同じく温度面積T2Cおよび温度面積T2Oを含むものとする。
TS1i=T1i×Ka+TS1i−1
TS2i=T2i×Ka+TS2i−1
ここで、添字iは検出時点を表し、TS1i−1は前回の検出時点までに積算された温度面積を表す。かくて、温度Tlおよび温度T2には補正係数Kaが乗じられるので、最終的に補正された温度面積TS1および温度面積TS2が求められる。
そして、次のステップS1603において、ECU100は、判定のタイミングであるか否かを判別する。これは、判定に必要な情報量が既に取得されているか否かを判別するためであり、判定タイミングに至っているときはステップS1604に進む。
そして、ステップS1604においては、この補正された温度面積TS1および温度面積TS2と判定値α(または、β)を用いて、切り替え制御弁370が正常か否か、すなわち、故障か否かが診断される。すなわち、切り替え制御弁370の閉時において、温度面積TS2C−温度面積TS1C>αであるとき、および、切り替え制御弁370の開時において、温度面積TS2O−温度面積TS1O<βのときは、切り替え制御弁370が正常であると判定される(図6(A)参照)。一方、切り替え制御弁370の開指示時において、温度面積TS2OE−温度面積TS1OE>αのときは、切り替え制御弁370の閉固着故障(図6(B)、図12(A)、(B)参照)、切り替え制御弁370の閉指示時において、温度面積TS2CE−温度面積TS1CE<βのときは、切り替え制御弁370の開固着故障(図6(C)参照)と判定されるのである。
この第2の実施形態によれば、比較される診断指標値である温度面積または判定値がエンジン運転状態に応じて補正されるので、エンジン運転状態に応じた高精度の故障診断が可能である。
(第3実施形態)
上述した第1および第2の実施形態においては、いずれも、第1および第2排気ガス通路内の相対的温度変化を検出可能な温度検出手段として、第1温度センサ380および第2温度センサ390を設けるようにしたのに対し、本第3実施形態では、第2排気ガス通路内であって少なくともHC吸着材の上流の温度変化を検出可能な温度検出手段としての第2温度センサ390を用い、故障診断手段による故障診断時に、排気ガス流路切替え手段による流路の切替えに応じて検出される温度の影響度合が大きくなることを利用し、短時間で排気ガス流路切替え手段の故障を精度良く診断することができるようにしている。従って、本発明の第3実施形態に係るエンジンの排気ガス浄化システムの構成は、第1温度センサ380を必要としない点を除き、図1に示した構成と同じであるから、同一機能部位には同一符号を付し重複説明を避けると共に、以下の第3実施形態に関する説明では、単に、温度センサ390と称す。
以下に本第3実施形態における故障診断処理の制御ルーチンの一例について、図17のフローチャートを参照して説明する。なお、この制御ルーチンはエンジン200の始動後の運転中において所定周期で実行される。
制御が開始すると、ステップS1701において、故障診断処理条件が成立しているか否かが判定される。この第3実施形態における故障診断処理条件としては、故障診断処理が未完了であり、且つ車両停止状態でN(ニュートラル)またはP(パーキング)レンジが選択されている状態である。故障診断処理条件が成立している場合はステップS1702に進み、エンジン200の、吸入空気量GAの増大および/または点火時期の遅角制御が実行される。なお、故障診断処理条件が成立していないときはステップS1703に進み、後述する切り替え制御弁370の閉または開指示をクリアして本制御ルーチンは一旦終了される。そして、ステップS1702での吸入空気量GAの増大および/または点火時期の遅角制御が実行された後、ステップS1704では切り替え制御弁370の閉指示が行われる。
そして、ステップS1705に進み、上述の切り替え制御弁370の閉指示から所定時間x(例えば、数秒)経過したか否かが判別され、経過していないときは本制御ルーチンは一旦終了され、所定時間x経過しているときはステップS1706に進む。ステップS1706においては、第2排気ガス通路としてのバイパス流路350であってHC吸着材340の上流に配置された温度センサ390により、排気ガスの温度TCが取得される。そして、ステップS1707において切り替え制御弁370の開指示が行われる。さらに、ステップS1708に進み上述の切り替え制御弁370の開指示から所定時間y(例えば、数秒)経過したか否かが判別され、経過していないときは本制御ルーチンは一旦終了され、所定時間y経過しているときはステップS1709に進む。
そして、ステップS1709においては、上記バイパス流路350であってHC吸着材340の上流に配置された温度センサ390により、開指示から所定時間y経過後の排気ガスの温度TOが取得される。
さらに、次のステップS1710において、上述の切り替え制御弁370の閉指示から所定時間x経過後、換言すると、切り替え制御弁370の開指示時に取得された排気ガス温度TCと、切り替え制御弁370の開指示から所定時間y経過後に取得された排気ガス温度TOとの差が所定値z以上あるか否かが判定される。そして、この差が所定値z以上はないときはステップS1711に進み、切り替え制御弁370が異常、すなわち、故障していると判別される。なお、切り替え制御弁370が故障していると判別された場合には、前にも述べたが、車両の運転者などに、診断の結果として所定のインジケータなどを介して故障が告知されて、故障診断処理が終了される。なお、差が所定値z以上あるときはステップS1712に進み、正常と判別される。
上述の第3実施形態における故障診断処理の理解を促進するために、図18に示すタイムチャートを用いてさらに説明する。
今、時点t0において故障診断処理条件が成立したとすると、吸入空気量GAの増大および/または点火時期の遅角制御が実行されると共に、切り替え制御弁370の閉指示が行われる。そして、この時点t0から所定時間x経過した時点txにおいて、切り替え制御弁370の開指示が行われる。また、同時に、第2排気ガス通路としてのバイパス流路350であってHC吸着材340の上流に配置された温度センサ390により、排気ガスの温度TCが取得される。そして、この切り替え制御弁370の開指示から所定時間y経過した時点tyにおいて、温度センサ390により、開指示から所定時間y経過後の排気ガスの温度TOが取得される。
図18に示されるように、切り替え制御弁370の閉指示から所定時間x経過後の開指示時に取得された排気ガス温度TCと、切り替え制御弁370の開指示から所定時間y経過後に取得された排気ガス温度TOとの差が所定値z以上あるときは切り替え制御弁370が正常に作動していると判定されるのである。これは以下のような理由による。
すなわち、時点t0でなされた切り替え制御弁370の閉指示に対し、切り替え制御弁370が正常に作動したとすれば排気ガスは全量バイパス流路350に導かれる。そして、この排気ガスは、排気ガス温度上昇手段としての吸入空気量GAの増大および/または点火時期の遅角制御の実行により温度が上昇されており、温度センサ390により取得されるバイパス流路350内の温度も速やかに上昇することになる。従って、切り替え制御弁370の閉指示から所定時間x経過後の時点txに取得される排気ガス温度TCは、ほぼ最高の温度に近いものとなる。一方、時点txでなされた切り替え制御弁370の開指示に対し、切り替え制御弁370が正常に作動したとすれば排気ガスは被バイパス流路360に切替えられ、バイパス流路350にはほとんど流入しなくなる。従って、バイパス流路350の温度は急速に低下し始め、開指示から所定時間y(数秒)経過後に取得される排気ガスの温度TOはかなり低くなるはずである。そこで、これらの排気ガス温度TCと、排気ガス温度TOとの差が所定値z以上あるときは切り替え制御弁370が正常に作動していると判定される(図18の正常判定参照)。
ところで、例えば、時点txでなされた切り替え制御弁370の開指示に対し、切り替え制御弁370が正常に作動しなかった(閉固着状態)とすれば排気ガス流路は切替えられず、排気ガスはバイパス流路350を流れ続けることになりバイパス流路350の温度は上昇を続けるか維持されることになる。従って、排気ガス温度TCと、排気ガス温度TOとの差がほとんど生じないので、それらの差が所定値zに満たないときは切り替え制御弁370が異常であると判定される(図18の異常判定参照)。
なお、上では切り替え制御弁370が閉固着状態にある異常ないしは故障を判定する場合を説明したが、切り替え制御弁370が開固着状態にある場合にあっても、同様に判定できる。すなわち、この場合には、時点t0での切り替え制御弁370への閉指示および時点txでの切り替え制御弁370への開指示に拘らず、切り替え制御弁370は開状態に維持されることから、開指示の前後に亘り排気ガス温度TCと排気ガス温度TOとの差がほとんど生じないので、これでもって切り替え制御弁370が異常であると判定されるのである。
この第3の実施形態によれば、吸入空気量GAの増大および/または点火時期の遅角制御により排気ガスの温度が上昇され、しかも温度センサ390がバイパス流路350でHC吸着材340の上流に配置されているので、この温度センサ390により検出される温度は、切り替え制御弁370による流路の切替えによる影響度合が大きくなる。従って、故障診断を短時間で精度良く行うことができる。
なお、本発明は、上述した実施形態例に限られるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うシステムの故障診断装置もまた本発明の枝術的範囲に含まれるものである。