本発明は内燃機関に関し、特に筒内に旋回気流を生成するにあたって、吸気を筒内に好適に流入させるための特定吸気弁を備える内燃機関に関する。
従来、内燃機関においては筒内にタンブル(縦渦)やスワール(横渦)といった旋回気流を生成する技術が知られている。係る旋回気流を生成する内燃機関では、一般により強度の高い旋回気流を生成することで、内燃機関の希薄燃焼領域の拡大や出力性能の向上などを図ることができる。この点、強度の高い旋回気流を生成するにあたっては、筒内に流入する吸気の流入態様が重要な要素の一つとなっている。これに対して、筒内に流入する吸気の流入態様を改善するための技術が例えば特許文献1または2で提案されている。
特開平07−279751号公報
実開昭59−135335号公報
筒内に吸気が流入する際には、吸気が吸気弁のステムに干渉するとともに分岐される結果、意図した流れが形成されないという問題がある。この点、吸気弁が大きくリフトしているときには多量の吸気が勢いをもって筒内に流入するため、上記問題があっても強度の高い旋回気流が筒内に比較的生成され易くなる。しかしながら、吸気弁中高リフト時の吸気の流通のみでは十分な強度の旋回気流を筒内に生成することは困難であり、このため、十分な強度の旋回気流を生成するためには、吸気弁低中リフト時の吸気の流入態様を改善する必要がある。
これに対して特許文献1が提案する技術は、吸気ポート開口部を吸気弁とともに燃焼室外側に偏心させることで、燃焼室中央寄りの吸気流を多く形成するとともに、さらに吸気流を燃焼室中央寄りに集めることを可能にしている。このためこの提案技術によれば、吸気弁低中リフト時に吸気の流入態様を改善できると考えられる。しかしながら、この提案技術ではステムで分岐するとともに燃焼室中央に向かって流通しない吸気も多く存在していることから、十分な強度の旋回気流を得ることは困難であると考えられる。またこの提案技術では、吸気弁中高リフト時に燃焼室中央寄りに吸気が集まり過ぎた結果、筒内に流入した吸気が過剰に高い流速でシリンダ壁面と衝突し、生成される旋回気流の強度が却って低下してしまう虞も考えられる。
そこで本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができるとともに、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ壁面と衝突し、この結果、生成される旋回気流の強度が低下することを抑制できる内燃機関を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明は傘部と、該傘部と一端で連結されるステムとを有する吸気弁を備える内燃機関であって、前記吸気弁として、閉じた状態において前記ステムの先端がシリンダ中心軸線を含み、且つクランク軸線と略直交する平面に、前記クランク軸線と略平行な方向で前記傘部の底面の中心点よりも近づくように前記ステムが傾斜している特定吸気弁を、前記平面を挟んで一方の側および他方の側にそれぞれ備え、さらに前記一方の側および前記他方の側の前記特定吸気弁が閉じた状態において、前記ステムの前記先端が、吸気の流れ方向について前記中心点よりも排気ポート側に位置するように、前記一方の側および前記他方の側の前記特定吸気弁に係る前記ステムが傾斜していることを特徴とする。本発明によれば、このように傾斜した特定吸気弁の配置によって燃焼室中央寄りに吸気の流れをより多く集めることができ、これにより燃焼室中央に向かって筒内に流入する吸気の主流を増大させることができる。このため本発明によれば、吸気弁小中リフト時でも旋回気流の強度を向上させることができ、以って筒内に旋回気流を生成するにあたって、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができる。
また本発明によれば、特定吸気弁の傾斜配置に伴い傘部も傾斜する結果、特定吸気弁に係るステムよりも燃焼室中心側を特定吸気弁に係る傘部に沿って流通する吸気に対して、燃焼室周辺に向かって分散するような指向性を与えることができる。このため一般に吸気弁のリフトが高くなるほど吸気の主流が燃焼室中央に集まる結果、燃焼室中央寄りの吸気の流速が高まるところ、本発明によれば、吸気弁中高リフト時に筒内に流入した吸気が過剰に高い流速でシリンダ壁面と衝突することを好適に抑制でき、以って生成される旋回気流の強度が低下してしまうことを好適に抑制できる。なお、本発明記載の閉じた状態においてとは、特定吸気弁をある一つの状態で規定するために例示的に記載したものであり、この点は次に示す発明についても同様となっている。
また本発明はさらに前記一方の側および前記他方の側の前記特定吸気弁が閉じた状態において、前記ステムの前記先端が、吸気の流れ方向について前記中心点よりも排気ポート側に位置するように、前記一方の側および前記他方の側の前記特定吸気弁に係る前記ステムが傾斜していることから、傘部に沿って筒内に流入する吸気をさらにシリンダの下死点側にも分散することができる。このため本発明によれば、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ壁面と衝突し、この結果、生成される旋回気流の強度が低下することをさらに好適に抑制できる。また本発明によれば、特定吸気弁に係るステムの吸気の流れ方向についての傾斜度合いによっては、吸気の主流が燃焼室中央寄りに集まり過ぎないようにしつつ、旋回気流の強度をさらに向上させることもできる。
本発明によれば、筒内に旋回気流を生成するにあたって、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができるとともに、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ壁面と衝突し、この結果、生成される旋回気流の強度が低下することを抑制できる内燃機関を提供できる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に詳細に説明する。
図1は本実施例に係る内燃機関200の要部を一気筒につき、鉛直断面視で模式的に示す図である。内燃機関200は筒内燃料直接噴射式のガソリンエンジンであり、吸気2弁構造が適用されている。但し内燃機関200は本発明を効果的に実施できる内燃機関であれば特に限定されず、例えば所謂リーンバーンエンジンなどであってもよく、また後述するように例えば吸気3弁構造が適用されてもよい。また内燃機関200は適宜の気筒数及び気筒配列構造を有していてよい。
内燃機関200はシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン53などを有して構成されている。シリンダブロック51には略円筒状のシリンダ51aが形成されており、シリンダ51a内にはピストン53が収容されている。シリンダブロック51にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室54はシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン53によって囲われた空間として形成されている。シリンダヘッド52には吸気を燃焼室54内(以下、単に筒内とも称す)に導入するための吸気ポート10a及び10b(以下、総称するときには単に吸気ポート10と称し、他の部品についても同様とする)と、燃焼したガスを燃焼室54から排気するための排気ポート20とが夫々形成されており、さらに吸気ポート10を開閉するための吸気弁201と、排気ポート20を開閉するための排気弁55とが夫々配設されている。本実施例では吸気弁201で特定吸気弁が実現されている。
点火プラグ56は上方から燃焼室54内に電極を突出させた状態でシリンダヘッド52に配設されている。燃料噴射弁(図示省略)は吸気ポート10内に噴射孔を突出させた状態でシリンダヘッド52に配設されており、この燃料噴射弁は吸気行程でシリンダ51a内に直接燃料を噴射できるようになっている。なお、燃料噴射弁はこれに限られず、例えば燃焼室54内に噴射孔を突出させた状態で吸気ポート10よりもシリンダブロック51側の位置や、燃焼室54の上方などでシリンダヘッド52に配設されてもよい。吸気ポート10から筒内に流入した吸気は、筒内で旋回気流に生成される。この旋回気流は本実施例では具体的には図1に示すようなタンブル流Tとなっている。なお、ピストン53の頂面にはタンブル流Tを案内するためのキャビティが形成されてもよい。
図2は内燃機関200の要部を一気筒につき、水平投影視で模式的に示す図である。また図3は図2に示すB−B断面で、吸気弁201を模式的に示す図である。図2に示すように、吸気ポート10は水平投影視で燃焼室54中央に向かって吸気を流通させるように長く延伸している。これにより、吸気が燃焼室54中央に向かって流通するとともに、筒内でタンブル流Tに生成されるように流通する吸気の主流を形成する。本実施例ではこの吸気の主流は図2に示す吸気の流れ方向Fに流通する流れに形成されている。なお、吸気の流れ方向Fは、筒内で旋回気流に生成されるように流通する吸気の主流が流通する方向を示すものであり、吸気ポート10の形状次第では、例えばステムstmが介在している部分の吸気ポート10の延伸方向とすることなどもできる。
図2及び図3に示すように吸気弁201のステムstmは、吸気弁201が閉じた状態において、ステムstmの先端P11がシリンダ中心軸線P3を含み、且つクランク軸線と略平行な直線P4と略直交する(すなわちクランク軸線と略直交する)平面S2に、クランク軸線と略平行な方向で傘部ubの底面の中心点P2よりも近づくように傾斜している。なお、ステムstmの先端P11及び傘部ubの底面の中心点P2はともにステムstmの中心軸線P1上に位置している。内燃機関200では吸気弁201の係る傾斜配置により、燃焼室54中央寄りに吸気の流れをより多く集めることができ、この結果、燃焼室54中央に向かって筒内に流入する吸気の主流を増大させることができる。このため内燃機関200によれば、吸気弁小中リフト時でもタンブル流Tの強度を向上させることができる。
また内燃機関200では吸気弁201の傾斜配置に伴い、傘部ubも図3に示すように傾斜する。これにより内燃機関200では、図2に示すように燃焼室54周辺に向かって分散するような指向性をステムstmよりも燃焼室54中心側を傘部ubに沿って流通する吸気に対して与えることができる。このため内燃機関200によれば、吸気弁中高リフト時に筒内に流入した吸気が過剰に高い流速でシリンダ51a壁面と衝突し、この結果、生成されるタンブル流Tの強度が低下してしまうことを好適に抑制できる。吸気弁201の傾斜度合いは図3に示す挟み角θ2の設定によって変更でき、この挟み角θ2は吸気弁201のステムstmの中心軸線P1同士がなす角のうち、鋭角となっている。
また内燃機関200では、吸気の主流を燃焼室54中央に集めるにあたって、挟み角θ2を0(ゼロ)°に設定した場合と比較して図3に示すバルブシート間距離Lvを広く確保することもできる。すなわち内燃機関200では、バルブシート間距離Lvを小さくすることなく吸気の主流を燃焼室54中央に集めることができる。このため内燃機関200では挟み角θ2を0(ゼロ)°に設定した内燃機関と比較して、燃焼室54の強度を十分に確保しつつ吸気を燃焼室54中央に集めることができる。
図4は筒内に流入した吸気の流動態様を模式的に示す図であり、具体的には図4(a)で内燃機関200Xを、図4(b)で内燃機関200を夫々図1と同様に一気筒につき鉛直断面視で見た場合の吸気の流動態様を模式的に示している。なお、内燃機関200Xは挟み角θ2が0(ゼロ)°に設定されている点以外、内燃機関200と実質的に同一のものとなっている。図4(a)に示すように内燃機関200Xでは、吸気弁中高リフト時に吸気が過剰な流速でシリンダ51a壁面に衝突する結果、シリンダ51a壁面に沿った流れFsが顕著に発生し、これにより生成されるタンブル流Tの強度が低下してしまうことになる。一方、内燃機関200では図4(b)に示すように、吸気弁中高リフト時に吸気が適度に分散されて筒内に流入するため、シリンダ51a壁面に沿った流れFsが発生し難くなり、これにより生成されるタンブル流Tの強度低下を抑制できる。
図5はタンブル強度とバルブリフト量との関係を示す図であり、このタンブル強度はタンブル回転数で表されたものとなっている。図5では、内燃機関200Xと内燃機関200とについて、タンブル強度の比較を行った結果を示している。図5から、内燃機関200では内燃機関200Xよりも、吸気弁小中リフト時からタンブル強度が向上していることがわかる。
次に挟み角θ2について詳述する。一般的な内燃機関にあっては挟み角θ2は0(ゼロ)°に設定されている。これに対して挟み角θ2が次の数1で示す範囲内にあれば、タンブル強度を向上させることが可能になる。
(数1)
0°<θ2
一方、挟み角θ2を大きく設定するほど、吸気弁201を開閉するためのカム(図示省略)を適切に配置することが物理的に困難になってくる。したがってカムの配置を考慮すると、挟み角θ2は次の数2に示す範囲を許容範囲として、この許容範囲内にあることが好ましい。
(数2)
0°<θ2≦10°
また、挟み角θ2を設定した場合には、筒内に流入する吸気が燃焼室54周辺に向かって分散するところ、この分散が過度に発生した場合には、却ってタンブル強度が低下する虞もある。図6は筒内に流入した吸気の流動態様を模式的に示す図であり、図6では内燃機関200の挟み角θ2が6°よりも大きく、且つ10°以下に設定されている場合の吸気の流動態様を示している。また具体的には図6(a)では内燃機関200を図1と同様に1気筒につき鉛直断面視で見た場合の吸気の流動態様を、図6(b)では内燃機関200を図2に示すB−B断面と同様の断面で見た場合の吸気の流動態様を夫々模式的に示している。
挟み角θ2を6°よりも大きく、且つ10°以下に設定した場合、燃焼室54の形状などによっては、図6に示すように筒内に流入した吸気が過度に分散してしまうといった事態が発生し得る。一方、挟み角θ2を0(ゼロ)°から1°未満に設定した場合には、大きな効果を期待することができない。このため挟み角θ2は次の数3に示す範囲を推奨範囲として、この推奨範囲内にあることがさらに好適である。
(数3)
1°≦θ2≦6°
図7は燃焼室54中央での流速分布を模式的に示す図である。図7では挟み角θ2が数3に示す範囲内にある場合の内燃機関200と内燃機関200Xとについて、流速を比較した結果を示している。また具体的には図7(a)では吸気弁小中リフト時の流速分布を、図7(b)では吸気弁中高リフト時の流速分布を夫々示している。挟み角θ2が数3に示す範囲内にある場合には、吸気弁小中リフト時に図7(a)に示すように所定値α2よりも大きな流速が得られる。またこの所定値α2は内燃機関200Xの場合に得られる最大流速よりも大きなものとなっている。一方、吸気弁中高リフト時には図7(b)に示すように所定値β2以上の流速が得られる。この所定値β2は所定値α2よりも大きな流速となっており、且つ所定値γ2よりも小さな流速となっている。所定値γ2は、流速が所定値γ2よりも高くなると、シリンダ51a壁面に沿った流れFsが顕著に発生しタンブル強度が低下する流速に対応している。
また図7(b)では、比較のために挟み角θ2を6°よりも大きく、且つ10°以下に設定した内燃機関200(以下、内燃機関200−1と称す)についても流速を示している。図7(b)から、内燃機関200−1では吸気の主流が燃焼室54中央に集まり過ぎた結果、流速が過剰に増大して所定値γ2を超えていることがわかる。これに対して挟み角θ2が数3に示す範囲内にある内燃機関200では、筒内に流入した吸気を燃焼室54周辺に適度に分散させることができる。このため内燃機関200では、流速が所定値β2以上となる流速の分布幅を所定幅W2よりも大きくすることができ、このように吸気の主流を燃焼室54中央に集中させ過ぎないようにすることで、吸気弁中高リフト時に流速が所定値β2以上、且つ所定値γ2未満になるようにすることができる。以上により、筒内にタンブル流Tを生成するにあたって、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができるとともに、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ51a壁面と衝突し、この結果、生成されるタンブル流Tの強度が低下することを抑制できる内燃機関200を実現できる。
本実施例に係る内燃機関210は、さらに吸気弁201が閉じた状態において、吸気弁201に係るステムstmが、ステムstmの先端P11が、吸気の流れ方向Fについて中心点P2よりも排気ポート55側に位置するように傾斜している点以外、内燃機関200と実質的に同一のものとなっている。なお、さらにこのように傾斜した吸気弁201を以下、吸気弁211と称する。本実施例では吸気弁211で特定吸気弁が実現されている。図8は内燃機関210の要部を図2と同様に一気筒につき水平投影視で模式的に示す図である。また図9は図8で右側に配置される吸気弁211bを単体で、且つ図8と同様の向きで模式的に示す図である。
図8及び図9に示すように水平投影視で吸気の流れ方向Fに略直交するとともに中心点P2を含む直線P6と、ステムstmの中心軸線P1とがなす角のうち、鋭角を設置角度θ3とする。この設置角度θ3を設定することで、吸気の流れ方向Fについてもステムstmを傾斜させることができる。なお、設置角度θ3の正負の符号は、図9に示すようにステムstmの先端P11が吸気の流れ方向Fについて、中心点P2よりも排気ポート55側に位置しているときに正としている。
設置角度θ3が90°である場合には吸気を燃焼室54中央寄りに集めるように吸気弁211を傾斜させることが困難となり、また設置角度θ3を90°から減少させた場合でも、その度合いが小さければ大きな効果を期待できない。一方、設置角度θ3が0(ゼロ)°よりも小さい場合には、傘部ub直上で、後流側への吸気の流れをスムースに形成することが困難になる場合があると考えられる。このことから、設置角度θ3は次の数4に示す範囲を許容範囲として、この許容範囲内にあることが好ましい。
(数4)
0°≦θ≦70°
数4に示す範囲内で設置角度θ3を設定した場合には、これに伴って傘部ubがさらに傾斜する結果、ステムstmよりも燃焼室54中心側を傘部ubに沿って流通する吸気はシリンダ51aの下死点側にも分散する。これにより筒内に流入した吸気がシリンダ51a壁面に衝突した結果、シリンダ51a壁面に沿った流れFsが顕著に発生することをさらに好適に抑制できる。一方、設置角度θ3の大きさ次第では、数4に示す範囲内で係る分散をさらにタンブル流Tの生成に寄与させることや、筒内に流入する吸気の流動態様をタンブル流Tの生成にとってより好ましいものにすることもできる。この点、タンブル強度をより向上させたい場合には、設置角度θ3は次の数5に示す範囲を推奨範囲として、この推奨範囲内にあることがさらに好ましい。
(数5)
10°≦θ≦60°
図10は燃焼室54中央での流速分布を模式的に示す図である。図10では設置角度θ3が数5に示す範囲内にある場合の内燃機関210と内燃機関200Xとについて、流速を比較した結果を示している。また具体的には図10(a)では吸気弁小中リフト時の流速分布を、図10(b)では吸気弁中高リフト時の流速分布を夫々示している。なお、挟み角θ2は設置角度θ3の設定に合わせて数1に示す範囲内で適宜設定されたものとなっている。設置角度θ3が数5に示す範囲内にある場合には、吸気弁小中リフト時に図10(a)に示すように所定値α2よりも大きな流速が得られる。またこの所定値α2は内燃機関200Xの場合に得られる最大流速よりも大きなものとなっている。一方、吸気弁中高リフト時には図10(b)に示すように所定値β2´よりも大きな流速が得られる。この所定値β2´は所定値β2よりも大きな流速となっており、且つ所定値γ2よりも小さな流速となっている。
また図10(b)では、比較のために吸気の主流が燃焼室54中央に集まり過ぎた結果、流速が過剰に増大して所定値γを超えた内燃機関210(以下、内燃機関210−1と称す)についても流速を示している。これに対して内燃機関210では、筒内に流入した吸気を燃焼室54周辺及び下死点側に適度に分散させることができているため、流速が所定値β2以上となる流速の分布幅を所定幅W2よりも大きくすることができ、このように吸気の主流を燃焼室54中央に集中させ過ぎないようにすることで、吸気弁中高リフト時に流速が所定値β2´よりも大きく、且つ所定値γ2未満になるようにすることを可能にしている。この内燃機関210において、流速が所定値α2以上、且つ所定値β2未満になる場合に対応する設置角度θ3のエリアは具体的にはエリアAR11として図9のように示される。また流速が所定値β2以上になる場合に対応する設置角度θ3のエリアは具体的にはエリアAR12として図9のように示される。このため本実施例では吸気弁211の設置角度θ3はAR12内に含まれるように設定されている。
図11は内燃機関210の希薄燃焼時の燃費性能、及び高負荷運転時の出力性能を示す図である。希薄燃焼時の燃費性能は具体的には図11(a)で内燃機関210の燃料消費率と空燃比との関係で示されており、高負荷運転時の出力性能は図11(b)で軸トルクと内燃機関210の回転数との関係で示されている。また図11(b)では出力性能は全負荷性能で示されている。なお、図11(a)及び(b)では、内燃機関200Xと内燃機関210とについて比較を行った結果を示している。また、図11(c)では数2及び数3に示す挟み角θ2の範囲に対応する見込みの燃費低減率及び性能向上率と、数4及び数5に示す設定角度θ3の範囲に対応する見込みの燃費低減率及び出力性能向上率とを夫々定量的に示している。
挟み角θ2及び設置角度θ3の設定により、ステムstmを適度に傾斜させた場合には、吸気弁小中リフト時から筒内に強度の高いタンブル流Tを生成できるとともに、強い乱れを発生させることができるようになる。このため希薄燃焼時には燃焼性が向上し、結果として燃料消費率を低減できるとともに、高負荷運転時には出力性能を向上させることができる。図11(a)に示すように、内燃機関210では内燃機関200Xよりも燃料消費率が低減されるとともに、希薄燃焼領域が拡大される。また図11(b)に示すように、内燃機関210では内燃機関200Xよりも回転数全域に亘って軸トルクが向上する。また図11(b)から、回転数が低いときほど軸トルクの向上幅が大きくなっていることから、挟み角θ2及び設置角度θ3の設定により、ステムstmを傾斜させることで回転数が低いときほど高い効果が得られることがわかる。
また数2及び数3に示す範囲内で挟み角θ2を設定すれば、定量的には図11(c)に示す燃費低減率及び出力性能向上率を期待できる。また数4及び数5に示す範囲内で設定角度θ2を設定すれば、定量的には図11(c)に示す燃費低減率及び出力性能向上率を期待できる。以上により、筒内にタンブル流Tを生成するにあたって、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができるとともに、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ51a壁面と衝突し、この結果、生成されるタンブル流Tの強度が低下することを抑制できる内燃機関210を実現できる。
本実施例に係る内燃機関220は吸気3弁構造になっている点で、実施例1、2に係る内燃機関200、210とは異なるものとなっている。図12は図2と同様に内燃機関220の要部を一気筒につき水平投影視で模式的に示す図である。この内燃機関220では、挟み角θ2が両端に位置する吸気弁221a、221bに対して吸気弁201と同様に設定されている。なお、これら吸気弁221a、221bは吸気弁211と同様にさらに設置角度θ3が設定されてもよい。
内燃機関220では一気筒につき両端に位置する吸気弁221a、221bが特定吸気弁となっている。吸気3弁構造を有する内燃機関220であっても、このように特定吸気弁を備えることにより、吸気弁小中リフト時に燃焼室54中央に向かって流入する吸気の主流を増大させることができ、また吸気弁中高リフト時にはシリンダ51a壁面に沿った流れFsの発生を抑制できる。以上により、筒内にタンブル流Tを生成するにあたって、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができるとともに、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ51a壁面と衝突し、この結果、生成されるタンブル流Tの強度が低下することを抑制できる内燃機関220を実現できる。
本実施例に係る内燃機関230は、吸気ポート52内で吸気を偏流させて筒内に強度の高いタンブル流Tを生成するための気流制御弁60をさらに吸気ポート20に備えている点以外、実施例1に係る内燃機関200と実質的に同一のものとなっている。すなわち内燃機関230は、内燃機関200がさらに気流制御弁60を備えたものとなっている。なお、実施例2、3に係る内燃機関210、220さらに気流制御弁60と同様の作用効果を奏する気流制御弁を備えてよい。
図13は図2と同様に内燃機関230の要部を一気筒につき水平投影視で模式的に示す図である。気流制御弁60は一端部を弁軸61で片持ち状に軸支されており、気流制御弁60の他端部には閉弁時に吸気を燃焼室54中央に指向させるための切欠き部Kが形成されている。この切欠き部Kは吸気を燃焼室54中央に指向させるために、他端部を燃焼室54中央に対応する部分ほど大きく切欠いて、中心が拡大した形状に形成されている。気流制御弁60が全閉や半開になっているときには、吸気ポート10を流通する吸気は切欠き部Kを通過することにより燃焼室54中央に指向される。このように筒内に流入する前に予め吸気を燃焼室54中央に指向させることで、燃焼室54中央に向かって流入する吸気の主流をより増大させることができる。
図14はタンブル強度とバルブリフト量との関係を示す図である。図14では、内燃機関200Yと内燃機関230とについて、タンブル強度の比較を行った結果を示している。なお、内燃機関200Yは挟み角θ2が0(ゼロ)°に設定されている点以外、内燃機関230と実質的に同一のものとなっている。図14から、気流制御弁60を全開にしたときよりも全閉にしたときのほうが、タンブル強度が向上することがわかるが、さらに内燃機関230では内燃機関200Yよりも、気流制御弁60を全閉にしたときに吸気弁小中リフト時からタンブル強度が向上していることがわかる。以上により、筒内にタンブル流Tを生成するにあたって、吸気弁小中リフト時から吸気を筒内に好適に流入させることができるとともに、筒内に流入した吸気が過剰な流速でシリンダ51a壁面と衝突し、この結果、生成されるタンブル流Tの強度が低下することを抑制できる内燃機関230を実現できる。
上述した実施例は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
内燃機関200の要部を一気筒につき、鉛直断面視で模式的に示す図である。
内燃機関200の要部を一気筒につき、水平投影視で模式的に示す図である。
図2に示すB−B断面で、吸気弁201を模式的に示す図である。
筒内に流入した吸気の流動態様を模式的に示す図である。
タンブル強度とバルブリフト量との関係を示す図である。
筒内に流入した吸気の流動態様を模式的に示す図である。
燃焼室54中央での流速分布を模式的に示す図である。
内燃機関210の要部を図2と同様に一気筒につき水平投影視で模式的に示す図である。
吸気弁211bを単体で、且つ図8と同様の向きで模式的に示す図である。
燃焼室54中央での流速分布を模式的に示す図である。
内燃機関210の希薄燃焼時の燃費性能、及び高負荷運転時の出力性能を示す図である。
内燃機関220の要部を一気筒につき水平投影視で模式的に示す図である。
内燃機関230の要部を一気筒につき水平投影視で模式的に示す図である。
タンブル強度とバルブリフト量との関係を示す図である。
符号の説明
10 吸気ポート
51 シリンダブロック
52 シリンダヘッド
53 ピストン
54 燃焼室
55 排気弁
56 点火プラグ
60 気流制御弁
61 弁軸
200、210、220、230 内燃機関
201、211、221 吸気弁