JP4762689B2 - レーヨン繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、再生セルロースを用いたレーヨン繊維及びその製造方法に関する。
再生セルロースを用いたレーヨン繊維は、ビスコースレーヨンとして知られている。中空レーヨンについても従来から提案されており、特許文献1では、オレイン酸又はその塩を添加することで竹節状の中空レーヨンを生産している。特許文献2では、ビスコース中に気泡形成剤(発泡剤である炭酸塩や二硫化炭素)を添加し、紡糸することにより、繊維の再生時にセルロースの内部に気泡が生成させ、その気泡を繊維外へ出さないようにして、レーヨン内部に中空部分を形成させる方法を提案している。特許文献3では、活性剤としてオレイン酸の硫酸エステルを紡糸浴に使用することにより、延伸性の向上した中空率の高い(90%)以上の繊維を生産する方法を提案している。特許文献4では、ホルムアルデヒドやニッケルイオンの作用による中空糸を提案している。特許文献5では、こんにゃく成分を混合した中空糸を提案している。
特開昭53−143722号公報 特公昭28−002815号公報 特公昭40−009536号公報 特公昭46−007808号公報 特開2005−187959号公報
しかし、特許文献1〜3の中空ビスコース繊維は、再生繊維中の中空部分は大きいけれども、中空の内壁がセルロースの表面であり、しかもその表面は平滑であるために、乾燥すると内壁同士がセルロースの水素結合により閉塞するという問題があった。特許文献4に記載の方法のように、一部中空が保持されると言う手法も開示されているが、ホルムアルデヒドやニッケルイオンの作用による製造方法であり、製造上また製品での残留物の懸念もある。特許文献5には、繊維内に多数の空洞を有するレーヨン繊維が開示されているが、空洞が大きいため、空洞内壁がつぶれるという問題があり、繊維側周面に波形にうねりながら長手方向に延びる多数の条を有しており、繊維の生産上安定した生産ができないという問題があった。
本発明は、前記従来の問題を解決するため、セルロース繊維成分に他成分及び/又は空隙が微分散されており、繊維の断面形状は膨らんでいて、消臭性が高く、軽量であり、保温性、保液性があり、剛性が高くコシのあるレーヨン繊維及びその製造方法を提供する。
本発明のレーヨン繊維は、レーヨン繊維内にオレイン酸又はその塩が混合されているレーヨン繊維であって、ビスコース粘度30〜200secの範囲で紡糸することにより、前記レーヨン繊維内のセルロースとオレイン酸又はその塩とは非相溶状態で、かつ前記オレイン酸又はその塩は微分散されてオレイン酸またはその塩を含むセル状領域を形成しており、前記セル状領域は、繊維側面から見て非連続であり、繊維断面及び繊維側面から見て相分離してセル状に微分散しており、繊維断面積に対する前記セル状領域の断面積の合計の割合は2〜20%であり、前記レーヨン繊維の断面形状は、無定形でかつ膨らんでいることを特徴とする。
本発明のレーヨン繊維の製造方法は、前記のレーヨン繊維の製造方法であって、セルロースを含むビスコース原液を調製し、前記ビスコース原液に、オレイン酸又はその塩と、苛性ソーダと、ノニオン系又はアニオン系界面活性剤を含む溶液を添加し、ビスコース粘度30〜200secの範囲の添加ビスコース液とし、前記添加ビスコース液をノズルから押し出して紡糸することを特徴とする。
本発明のレーヨン繊維は、オレイン酸又はその塩が繊維内のセルロースとは非相溶状態で(相分離して)、かつ前記オレイン酸又はその塩は微分散されてオレイン酸又はその塩を含むセル状領域を形成しているので、繊維断面方向において従来の中空繊維のように潰れることなく膨らんでおり、嵩高で、剛性が高くコシのある繊維である。
また、本発明のレーヨン繊維は、繊維内のセルロースとの界面においてオレイン酸又はその塩と空間とからなるセル状領域を形成しており、その共存状態により、特に消臭性が高く、軽量であり、保温性、保液性が向上した繊維である。
本発明は、オレイン酸又はその塩をビスコースへ所定の条件で添加・紡糸し、繊維化することにより、レーヨン繊維内のセルロースとオレイン酸又はその塩とは非相溶状態で(相分離して)、かつオレイン酸又はその塩は微分散されてオレイン酸又はその塩を含むセル状領域を形成しており、レーヨン繊維の断面形状は、無定形でかつ膨らんでいる特徴を有する。また、前記オレイン酸又はその塩を含むセル状領域は、オレイン酸又はその塩と空間とからなるセル状領域を含むことが好ましい。
本発明の製造方法は、ビスコース原液にオレイン酸又はその塩を添加するが、その際に苛性ソーダ水溶液を添加してビスコース粘度を30〜200secの範囲となるように調整するか、又は苛性ソーダとノニオン系又はアニオン系界面活性剤を含む溶液を添加して添加ビスコース液とすることに特徴を有する。
以下、本発明者らの検討結果を説明する。まず、オレイン酸を特許文献1の方法で添加することを試みたが、ビスコース粘度の上昇により繊維は製造できなかった。すなわち、単にオレイン酸のみをビスコースに添加する場合、オレイン酸のビスコース中のセルロースに対する添加率が3質量%程度までは可能であることは確認できたが、そのときのビスコースの粘度は非常に高く、実生産に不適な性状であった。それ以上のオレイン酸添加では、ビスコースの粘度が紡糸不可能な粘度に上昇し実際の紡糸は不可能であった。オレイン酸単独でビスコースへ添加すると、オレイン酸がオレイン酸ナトリウムに変化しビスコース中のナトリウムあるいは一部セルロースと結合したナトリウムまで消費し、そのため粘度の上昇が起こる、ものと推定される。
そこで、オレイン酸の中和価+αの苛性ソーダで事前に反応部位を閉鎖し、その後ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン−ヤシアミンエーテル)を添加し、簡易攪拌しビスコースへ添加することにより、粘度上昇の改善された紡糸可能な添加ビスコース液とすることができることを見いだした。
本発明と特許文献1との相違は、上記の製造条件による差によりビスコースの凝固再生機構が変わり、繊維形状に差を与えたものと考えられる。
本発明では、紡糸時のビスコース粘度を30〜200secとしてその範囲にコントロールしたビスコース原液を作製した。次いで、ノズルの孔数を3000〜12000ホールとし、凝固再生浴の硫酸濃度を95〜125g/Lとし、硫酸亜鉛濃度を10〜17g/Lとしてそのビスコース原液を紡糸して凝固再生をコントロールすることにより、繊維内部にオレイン酸又はその塩を含むセル状領域を多数形成したレーヨン繊維の製造が可能である条件を見いだした。また、繊度については、ステープル繊維では汎用的な0.9〜3.3dtexとすることにより、上記レーヨン繊維を得ることができることを見いだした。
また、本発明はビスコースの粘度も重要であり、ビスコースの落下球での粘度を調整することによって、オレイン酸の添加率を高くしても安定して生産することができる。ビスコースの粘度は、30〜200secであることが好ましく、特にオレイン酸の添加率が3質量%以上の場合は、40〜90secであることがより好ましい。本発明の高添加率3〜15質量%/cellでの安定生産するためには、苛性ソーダのオレイン酸との配合比と、界面活性剤の添加条件を確立することで上記形状を有するレーヨン繊維を製造できることを見いだした。特徴的な部分は、添加比率を高めることができ、それによりオレイン酸又はその塩を含むセル状領域内に小空間の部位が多くなった。本発明のレーヨン繊維は、特許文献1のような竹節状中空ではなく、繊維側面から見た繊維幅もレギュラーレーヨンと同程度である。なお、粘度の測定方法は、落球式で測定した。落球式は、粘度管にビスコースを入れ1/8インチ鋼球が200mm落下する時間で測定した。この値はハーゲンポアズイユの式に代入し、粘度に換算することもできる。この添加ビスコース液を紡糸することで、オレイン酸又はその塩を含むセル状領域(以下、単に「セル状領域」ともいう)、すなわちオレイン酸又はその塩が充満したセル状領域、及びオレイン酸又はその塩と空間とからなるセル状領域から選ばれる少なくとも一つの領域を形成している繊維が生産できる。
この領域に形成される空間は、繊維断面から見ると小さな空隙の様に見える。繊維側面から見ると非連続であり、粒子状のものが点在して見える。この事実から、オレイン酸又はその塩はレーヨン繊維の断面方向及び長さ方向から見て、相分離してセル状に微分散していることが理解できる。
以下は、本発明のレーヨン繊維を測定した結果である。
(1)オレイン酸が有するカルボキシル基をカチオン染料で染色して側面を観察したが、レギュラー品もカチオン染料で汚染され明確な違いは確認できなかった。
(2)財団法人日本化学繊維検査協会にて販売している繊維用鑑別染色液(NDS−323)で染色を実施してみると、レギュラーレーヨンはピンク色に、オレイン酸は緑色に(アセテートの染着を示す)、本発明のレーヨン繊維は紫色に染色された。この色は鑑別染色ではどの分類にも入らない。
(3)この状態で繊維側面を見ると、全体的に紫色であるが、濃色の部分が点在していた。
(4)本発明のレーヨン繊維をメタノール浴で打撃を与えて抽出する付着油脂の迅速法で処理した綿は、ピンク色であり、一部処理が不十分だったせいか紫色がやや抜けた色になっていた。
(5)この繊維の断面を透過光により顕微鏡観察すると、微小な空間が形成されていることがわかった。
(6)本発明のレーヨン繊維における硫化水素に対する消臭性能を確認すると、レーヨン繊維のみ、あるいはオレイン酸単独では認められない硫化水素に対する吸着性能が確認された。たとえオレイン酸に消臭性能があったとしても、測定に供した試料は繊維3gであり、その繊維中のオレイン酸成分は極微量であるため、これほどの吸着性能は考えられない。
以上のことから、本発明のレーヨン繊維は、以下のa〜cのいずれかの構造を有する。
a.レーヨン繊維の繊維断面を見たとき、繊維内部においてレーヨン繊維内のセルロースとオレイン酸又はその塩とは非相溶状態で、かつ前記オレイン酸又はその塩は微分散されてそれを含むセル状領域のうち少なくとも一つは、オレイン酸又はその塩が充満したセル状領域を多数形成している。
b.前記セル状領域のうち少なくとも一つのセル状領域が、その界面においてオレイン酸又はその塩と空間とからなるセル状領域を多数形成している。
c.前記オレイン酸又はその塩は有機溶剤等により除去可能であり、オレイン酸又はその塩を溶出してレーヨン繊維の繊維断面を見たとき、繊維内部において空間からなるセル状領域を多数形成している。
このような繊維構造を採ることにより、上記セル状領域に形成される空間は乾燥した環境でも繊維の水素結合による空間の閉塞はない。特に、本発明のレーヨン繊維は、上記aのセル状領域と上記bのセル状領域が混在して形成されていることが好ましい(以下、このような構造は「オレイン酸−空間内在型レーヨン」ともいう)。
本発明のレーヨン繊維は、特許文献1の竹節状中空レーヨンの製造方法とは異なり、下記の理由から、上記構造になると推定される。
i.オレイン酸又はその塩は、繊維内部に内包される。すなわち、微小な空間とはならず非晶部分にオレイン酸又はその塩が存在している。
ii.内包されると共に、繊維内部にオレイン酸又はその塩が、ビスコース中で形成したエマルジョン状態のそのままで凝固・再生して繊維が形成され、それ以後もオレイン酸又はその塩を含むセル状領域を有している。
iii.一部のセル状領域からオレイン酸又はその塩が流出して、流出した部分が空間となってセル状領域内に存在している。
iv.繊維中に存在するオレイン酸又はその塩は、メタノールやエタノールにより容易に抽出され、後に残った領域は微小な空間からなるセル状領域として乾燥時にも容易につぶれることはない。
v.硫化水素に対する消臭性能については、硫化水素はレーヨン繊維とセル状領域との界面の間隙に物理吸着する。
本発明におけるセル状領域とは、その断面積が0.01〜0.8μm2の範囲内にあるものを指す。この範囲未満では、断面観察しても前記セル状領域は確認しにくい。一方この範囲を超えると、大きすぎてつぶれやすい傾向となる。なお、前記セル状領域よりも断面積の大きい空隙は繊維が潰れない範囲で含んでいてもよい。
前記セル状領域の平均断面積は0.05〜0.5μm2であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.4μm2である。平均断面積が0.05μm2未満であると、繊維中のセル状領域が顕微鏡でも観察しにくい。一方、0.5μm2を超えると、大きすぎて潰れやすい傾向にある。
繊維断面積に対する前記領域の断面積の合計の割合は、2〜20%であることが好ましい。より好ましくは、4〜15%である。2%未満ではそのセル状領域は単なる鬆(す)であり、20%を超えると、繊維の強度が低下する傾向になる。
前記レーヨン繊維は、繊維1本あたりに5〜70個の前記セル状領域を有することが好ましい。より好ましくは、10〜50個である。5個未満では鬆との違いはなく、70個を超えるとその領域が繋がってしまい、大きなセル状領域になったり、空間が裂ける傾向になる。
オレイン酸又はその塩の添加量は、ビスコース中のセルロースに対して1〜15質量%であることが好ましい。より好ましくは1〜10質量%である。1質量%未満では前記セル状領域が形成されにくい傾向となり、15質量%を超えるとオレイン酸又はその塩が工程外へ溶出されやすくなり、精練の発泡等工程内で扱いにくい傾向となる。
前記レーヨン繊維は、オレイン酸又はその塩を0.2〜10質量%を含むことが好ましい。より好ましくは0.4〜5質量%である。0.2質量%未満ではレギュラーレーヨン繊維の物性に近くなり、10質量%を超えると製造工程での溶出が多くなり、精練の発泡等工程内で扱いにくい傾向となる。なお、オレイン酸又はその塩の添加量がビスコース原液での添加量に比べ、得られるレーヨン繊維の添加量が低下する傾向にある。これは、レーヨン繊維製造中に一部のオレイン酸又はその塩がレーヨンの系外へ溶出するためである。
なお、本発明では、オレイン酸又はその塩以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で他の添加剤を添加してもよい。ただし、炭酸カルシウム等の気泡形成剤は、繊維内部に大孔を形成するため、添加量を抑える方がよい。
本発明のレーヨン繊維は、セルロースを含むビスコース原液に、オレイン酸又はその塩を含む溶液と、苛性ソーダ水溶液を添加してビスコース粘度が30〜200secの範囲にある添加ビスコース液に調整し、ノズルの孔数を3000〜12000ホールとし、凝固再生浴の硫酸濃度を95〜125g/Lとし、硫酸亜鉛濃度を10〜17g/Lとして、前記添加ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生することにより製造することができる。
前記ビスコース粘度が30sec未満であると、ビスコース溶液の粘性が落ち、紡糸時にトラブルが多く、安定生産が困難になることがある。ビスコース粘度が200secを超えると、ビスコースの流動性が悪く、紡糸が困難となる。
前記ノズルの孔数が3000ホール未満であると、生産性が悪く、ノズルの孔数が12000ホールを超えると、ビスコースの酸との接触が、ノズルの内と外で変わるため、均一な繊維が得られにくいことがある。
前記硫酸濃度が95g/L未満であると、再生が遅くなりすぎるので生産性が悪く、硫酸濃度が125g/Lを超えると、再生が速くなりすぎて糸切れなど紡糸性が悪くなる傾向にある。
前記硫酸亜鉛濃度が10g/L未満であると、ビスコースの表面での再生が速くなるために、セル状領域と大きい空隙ができる場合がある。硫酸亜鉛濃度が17g/Lを超えると、ビスコースの凝固が進み再生が遅くなるため、セル状領域が大きくなって繊維の膨らみが維持できないことがある。
本発明のレーヨン繊維は、別の方法でも製造することができる。本発明のレーヨン繊維は、セルロースを含むビスコース原液を調製し、前記ビスコース原液に、オレイン酸又はその塩と、苛性ソーダと、ノニオン系又はアニオン系界面活性剤を含む溶液を添加して添加ビスコース液とし、前記添加ビスコース液をノズルから押し出して紡糸することにより製造することができる。
苛性ソーダの添加量は、オレイン酸の中和価よりも15〜30質量%多い量であることが好ましい。この範囲未満では添加液は扱いやすい粘度であるが、ビスコースの粘性が上昇し、一部にゲル化が見られる。前記の範囲を超えると添加液に粘性が出て、添加液調整時に出来た気泡が消えずにトラブルが生じる傾向になる。
界面活性剤の添加量は、オレイン酸に対して又はその塩に対して20〜40質量%であることが好ましい。この範囲未満では添加液の粘度が上昇し、添加液調整時の気泡が抜けずに紡糸工程でのトラブルが生じやすくなる。前記範囲を超えると精練工程で泡が多く発生し、精練異常の原因となりやすい。
添加する界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレンブロックポリマー型、ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型等のアルカリ耐性の高い界面活性剤が挙げられる。なお、脂肪酸エステル型は、アルカリ耐性が低いため、好ましくない。
また、アニオン系でも可能であり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。特に、ノニオン系のポリオキシエチレンブロックポリマー型はビスコース添加剤としても一般的であり、特にポリオキシエチレンアミンエーテル型の界面活性剤は特にビスコースとの相溶性の点で好ましい。
本発明のレーヨン繊維は、オレイン酸又はその塩が溶出されて空間からなるセル状領域を形成していることが好ましい。オレイン酸は、例えばメタノール,エタノール等の低級アルコール、キシレン等の芳香族系有機溶剤等の溶剤を用いて溶出することができる。
オレイン酸を溶出してレーヨン繊維の繊維断面を見たとき、空間からなるセル状領域の平均断面積は、0.05〜0.5μm2であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.4μm2である。平均断面積が0.05μm2未満であると、繊維中のセル状領域が顕微鏡でも観察しにくい。一方、0.5μm2を超えると、大きすぎて潰れやすい傾向にある。
オレイン酸を溶出してレーヨン繊維の繊維断面を見たとき、繊維断面積に対する空間からなるセル状領域の断面積の合計の割合は、2〜20%であることが好ましい。より好ましくは、4〜15%である。この範囲未満では、そのセル状領域は単なる鬆であり、この範囲を超えると、繊維の強度が低下する。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例で添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
1.繊維A
[ビスコース原液条件]
オレイン酸9質量%、水酸化ナトリウム1.47質量%、ノニオン系界面活性剤(例えばベロール社商品名"ビスコ32")2.7質量%からなる水溶液を、ペラ式攪拌機で混合し添加液を調整した。その添加液を原料ビスコースへ、オレイン酸含有量がセルロースに対して10質量%となるように添加し、混合機にて攪拌混合を行った。原料ビスコースはセルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.7質量%、二硫化炭素32質量%を含むものを用いた。
[紡糸条件]
得られたビスコースを、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸倍率50%(1.5倍に延伸)で紡糸して、繊度1.7dtexの繊維を得た。第1浴(紡糸浴)の組成は、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.07mmのホールを4000個有するノズルを用いた。紡糸中、単糸切れ等の不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
このようにして得られたビスコースレーヨンの糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程は通常の方法で、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗いの順で実施した。漂白は、次亜塩素酸ソーダ水溶液(0.03質量%)を用いて実施した。酸洗い後水洗を行い、その後圧縮ローラーで余分な水分を繊維から落とした後、乾燥処理(60℃、7時間)を施して、繊維Aを得た。
2.繊維B
原料ビスコースへ繊維Aで作製した添加液をオレイン酸含有量が、セルロースに対して3質量%となる以外は繊維Aと同様にして繊維Bを得た。
3.繊維C
添加はオレイン酸のみ水溶液化せずに単独で行い、原料ビスコースへオレイン酸含有量がセルロースに対して3質量%となる以外は、繊維Aと同様にして繊維Cを得た。
4.繊維D
添加液を試薬のオレイン酸ナトリウムを水希釈した水溶液を使用し、原料ビスコースへオレイン酸含有量がセルロースに対して3質量%となる以外は、繊維Aと同様にして繊維Dを得た。
5.繊維E
添加液として炭酸ナトリウム 22質量%の水溶液を作製し、原料ビスコースへ炭酸ナトリウム含有量がセルロースに対して44質量%となる様添加混合した以外は、繊維Aと同様にして繊維Eを得た。
6.繊維F
添加液として添加液(1)として炭酸ナトリウム22質量%の水溶液と、添加液(2)として水溶液化していないオレイン酸を用意し、原料ビスコースに対して添加液(1)を原料ビスコースへ炭酸ナトリウム含有量がセルロースに対して44質量%となるように、また添加液(2)を原料ビスコースへオレイン酸含有量がセルロースに対して3質量%となる様添加混合した以外は、繊維Aと同様にして繊維Fを得た。
7.繊維G
何も添加せずに繊維Aと同様の紡糸を行ったものを繊維Gとした。
8.繊維H
繊維へオレイン酸単独で、ビスコース中のセルロース分8.7%へ希釈無くオレイン酸を単独でセルロースに対し3質量%添加したときのビスコースを作製した。
[結果]
1.繊維形状
得られたレーヨン繊維は、表1に示すような形状を有する繊維であった。
Figure 0004762689
備考* 繊維Gの比重は一般的なレーヨンの繊維比重と同じである。
以上の結果となり、オレイン酸又はその塩を添加することにより、微小なオレイン酸又はその塩を含むセル状領域を含有しており、オレイン酸−空間内在型のレーヨン繊維の生産が可能な条件が確認された。
[測定方法]
(1)繊維1本あたりのセル状領域の数(以下、セル数という)、セル状領域の平均断面積(以下、単セル断面積という)、セル状領域の全面積(以下、全セル断面積という)、繊維断面積に対する全セル断面積の割合(以下、面積比率という)については、任意の断面を10個サンプリングし、その断面を5500倍に拡大して・画像処理によりセル状領域を抽出し、各セル状領域それぞれの断面積及び面積比率を測定した。
(2)比重は、JIS L 1015 7.14比重(浮沈法)により測定した。
(3)付着油脂分は、試料をメタノールに含浸させ、プレス式抽出機にて油脂分を抽出し、その抽出分を測定した。全て無脂綿で測定した。
また、本発明の実施例の繊維A〜Cは、風合いテストによりレギュラーレーヨン繊維(繊維G)に比較して剛性が高いことが認められた。
図1に本発明の実施例における繊維Cの断面を光学顕微鏡(5000倍)で観察した写真を示す。図中白い部分はレーヨン部、繊維断面内の黒い部分はオレイン酸若しくはその塩又は空間である。
図2に本発明の実施例における繊維Cの側面を光学顕微鏡(3000倍)で観察した写真を示す。非連続なセル状領域が点在しているのが判る。
2.消臭性能
得られたレーヨン繊維の硫化水素に対する消臭性を測定した結果を表2に示す。
Figure 0004762689
レギュラーレーヨンでは見られない、硫化水素に対する消臭性能が確認された。
[試験方法]
アパレル製品等品質性能対策協議会による「消臭加工製品評価基準(介護用)」に定められている方法で財団法人日本化学繊維検査協会にて試験した。
5Lのテドラバックに試料3.0gを入れ、所定濃度に調整した測定対象ガスを3L注入し、所定時間後のガス濃度を測定した。
3.機能性評価
得られたレーヨン繊維の各種機能を測定した結果を表3に示す。
Figure 0004762689
[測定方法]
試料に用いた水流交絡不織布は、以下の方法で作製した。
条件は、セミランダムカードでカードウェブを作製し、ノズル孔径0.13mmφで1mm間隔のノズルから表面3,5MPa、裏面5MPaの水圧で水流を噴射して、100g/m2の水流交絡不織布を作製した。
(1)保温率
財団法人日本化学繊維検査協会による保温率試験に基づき評価した。上記水流交絡不織布を試料として、試験室環境を20℃、65%RHで精密迅速熱物性測定装置(KES−F7、サーモラボII型)により試験した。
(2)吸湿性、放湿性
上記水流交絡不織布を試料として、財団法人日本紡績検査協会の吸放湿性試験方法に基づき測定した。
a.吸湿性:40℃×90%RH環境下24Hr放置後絶乾重量からの増加分を%表示した。
b.放湿性:吸湿後のサンプルを20℃×65%RH環境下24Hr放置後水分率の減少分を測定した。
以上の結果から本発明の実施例のレーヨン繊維は、消臭性が高く、軽量であり、保温性、保液性があり、剛性が高くコシのあるレーヨン繊維であることが確認できた。
図1は本発明の実施例における繊維Cの断面を光学顕微鏡(5000倍)で観察した写真である。 図2は本発明の実施例における繊維Cの側面を光学顕微鏡(3000倍)で観察した写真である。

Claims (13)

  1. レーヨン繊維内にオレイン酸又はその塩が混合されているレーヨン繊維であって、
    ビスコース粘度30〜200secの範囲で紡糸することにより、
    前記レーヨン繊維内のセルロースとオレイン酸又はその塩とは非相溶状態で、かつ前記オレイン酸又はその塩は微分散されてオレイン酸またはその塩を含むセル状領域を形成しており、
    前記セル状領域は、繊維側面から見て非連続であり、繊維断面及び繊維側面から見て相分離してセル状に微分散しており、
    繊維断面積に対する前記セル状領域の断面積の合計の割合は2〜20%であり、
    前記レーヨン繊維の断面形状は、無定形でかつ膨らんでいることを特徴とするレーヨン繊維。
  2. 前記レーヨン繊維は、ビスコース原液にオレイン酸又はその塩と、前記オレイン酸の中和値と等価または中和価よりも多い苛性ソーダを添加して紡糸することにより得られる、請求項1に記載のレーヨン繊維。
  3. 前記苛性ソーダは、前記オレイン酸の中和よりも15〜30質量%多い請求項に記載のレーヨン繊維。
  4. 繊維断面における繊維1本あたりのセル状領域の数が5〜70個である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーヨン繊維。
  5. 前記レーヨン繊維は、オレイン酸又はその塩を0.2〜10質量%含む請求項1〜のいずれか1項に記載のレーヨン繊維。
  6. 前記オレイン酸又はその塩を含むセル状領域は、オレイン酸又はその塩と空間とからなるセル状領域を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のレーヨン繊維。
  7. 前記オレイン酸又はその塩を含むセル状領域の平均断面積は0.05〜0.5μm2である請求項1〜のいずれか1項に記載のレーヨン繊維。
  8. 請求項1〜のいずれか1項に記載のレーヨン繊維の製造方法であって、
    セルロースを含むビスコース原液を調製し、
    前記ビスコース原液に、オレイン酸又はその塩と、苛性ソーダと、ノニオン系又はアニオン系界面活性剤を含む溶液を添加し、
    ビスコース粘度30〜200secの範囲の添加ビスコース液とし、
    前記添加ビスコース液をノズルから押し出して紡糸することを特徴とするレーヨン繊維の製造方法。
  9. 前記ビスコース原液にはオレイン酸又はその塩の中和価と等価または中和価よりも多い苛性ソーダを加える請求項8に記載のレーヨン繊維の製造方法。
  10. 前記苛性ソーダは、前記オレイン酸の中和価よりも15〜30質量%多い請求項に記載のレーヨン繊維の製造方法。
  11. 前記オレイン酸又はその塩は、ビスコース原液中のセルロースに対して1〜15質量%添加する請求項8〜10のいずれか1項に記載のレーヨン繊維の製造方法。
  12. 前記ノニオン系界面活性剤は、ポリオキシエチレン系界面活性剤であり、オレイン酸又はその塩に対して20〜40質量%添加する請求項に記載のレーヨン繊維の製造方法。
  13. 前記レーヨン繊維を製造した後、オレイン酸又はその塩を溶出可能な溶媒に含浸する工程をさらに含む請求項8〜12のいずれか1項に記載のレーヨン繊維の製造方法。
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