JP4761593B2 - 誘導溶解炉及び誘導溶解方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コイルに高周波電流を通電させて被溶解金属に誘導電流を発生させ、ジュール熱により炉内の金属を溶解するようにした誘導溶解炉及び誘導溶解方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の誘導溶解炉には、通常の誘導溶解炉と、この通常の誘導溶解炉を改良したU.D.S(UNI-DIRECTIONAL-STIRRING)システムによる誘導溶解炉(以下、「U.D.S.システム誘導溶解炉」という。)が実用に供されている。
この通常の誘導溶解炉とU.D.S.システム誘導溶解炉について、以下、順次説明を行う。
【0003】
先ず、通常の誘導溶解炉について、図4及び図5を用いて説明する。
図4は、通常の誘導溶解炉50の概略構成を示す概念図、図5は、誘導溶解炉50の温度及び供給電力と、経過時間との関係を示す特性図である。
図4に示すように、通常の誘導溶解炉50の主要構成は、高周波電源52、高周波電源52により高周波電流が通電される単一のコイル54、被溶融金属を収容しておく坩堝56である。
なお、図4において、Yは溶解された金属の溶湯、Sは、溶湯Yを高周波電源52で加熱する加熱回路58のスイッチである。
また、同図では垂直方向をZ軸、半径方向をR軸とする円柱座標を用いているが、以降の説明で用いる座標系は、同様に総て円柱座標とする。
【0004】
以上の構成で、通常の誘導溶解炉50の基本動作を図4を用い、図5を参照して説明する。
コイル54に、高周波電源52により単相の高周波電流を流すと、坩堝56中の被溶解金属に誘導電流が発生し、このジュール熱により被溶解金属が溶解し、溶湯Yとなる。総ての被溶解金属を溶解した後は、溶湯Yから発生するガスを脱ガスするための脱ガスモードに切り替わる。
なお、この際、コイル54に通電するための高周波電源としては、被溶解金属の溶解効率を上げるために、通常は500Hz以上の周波数のものが用いられる。
【0005】
また、図5に示すように、時間0→t1の被溶融金属の溶解モードでは、大電力をコイル54に供給するので、誘導溶解炉50の溶解温度は、経過時間にほぼ比例して上昇する。
一方、被溶解金属の溶融が終了する時間t1以降の時間t1→t2の脱ガスモードでは、溶解温度を一定に保つために電力を制御して溶解温度を調節し、被溶解金属から発生するガスの脱ガスを行う。
なお、脱ガスモードにおいては、溶湯Yの余分な温度上昇は、冶金的な見地及び炉材に与える悪影響の点から好ましくないので、スイッチSをオンオフすることによりスポット的に電力を供給し、溶湯Yの温度をほぼ一定に保つようにしている。
【0006】
ところで、溶湯Yに発生する誘導電流をJeとし、溶湯Y中に発生する磁界をBとすると、溶湯Yには、誘導電流Jeと磁界Bによるローレンツ力F=Je×Bが働く。
このローレンツ力Fは、図4に矢印で示すように、誘導溶解炉50の中心軸方向に向かう力であり、その大きさは、コイル54の両端で最小値、コイル54の中間位置で最大値となる山形の分布となる。
そのために、溶湯Yの流動パターンは、図4の破線矢印で示すように、コイル54の中間位置において、坩堝56の周縁部から坩堝56の中心軸に向かう流れが発生し、坩堝56の中心軸では溶湯Yの流れは坩堝56の上部に向かうものと、坩堝56の下部に向かうものと2つの方向に分流する。
【0007】
一方、通常の誘導溶解炉50では、溶解の際に発生するガスの脱ガスは、溶湯Yの上面でのみ行われるために、溶湯Yの流れが坩堝56の中心軸(Z軸)近辺でこのように2方向に分かれると溶湯Yの撹拌効率が悪く、下層部の被溶融金属が坩堝56の上面に出るには長時間を要し、その結果、誘導溶解炉50の溶解性能を阻害しているという問題があった。
【0008】
この通常の誘導溶解炉の有する問題を解決するために開発されたU.D.S.システム誘導溶解炉について、図6を用い、図5を参照して説明する。
図6は、U.D.S.システム誘導溶解炉60の概略構成を示す側面図である。
【0009】
図6に示すように、U.D.S.システム誘導溶解炉60の主要構成は、高周波電源62、高周波電源62により高周波電流が通電される2つのコイル64A、64B、被溶融金属を収容しておく坩堝66である。
なお、図6において、Yは溶解された金属の溶湯、S3、S4は、溶湯Yを高周波電源62で加熱する加熱回路68のスイッチである。
なお、図6に示すように、U.D.S.システム誘導溶解炉60の特徴は、上述した通常の誘導溶解炉50とは異なりコイルを複数(図示のものでは2つ)に分割している点である。
【0010】
以上の構成で、U.D.S.システム誘導溶解炉60の基本動作を図6を用い、図5を参照して説明する。
先ず、図5に示す溶解モード区間(区間:0→t1)では、U.D.S.システム誘導溶解炉60により被溶解金属を溶解する場合は、図6に示すスイッチS3を閉じ、スイッチS4を開いたままとすることにより、コイル64Aとコイル64Bを直列に接続し、上述した通常の誘導溶解炉50と同様に、高周波電源62により単相の高周波電流を流し、2分割したコイル64A、64Bを中心に磁場を誘導し、坩堝66中の被溶解金属に誘導電流を発生させて、このジュール熱により被溶解金属が溶解し、溶湯Yとする。
【0011】
次に、図5に示す脱ガスモード区間(区間:t1→t2)では、スイッチS3を閉じたままスイッチS4を閉じ、コイル64Bを短絡する。
すると、コイル64Bでは、コイル64Aの作る磁界により電圧が誘起され、コイル64Aに流れる交流電流よりもほぼπ/2の位相遅れの交流電流が流れる。
このように、コイル64Bには、コイル64Aよりもπ/2だけ位相が遅れた電流が発生するために、溶湯Y中には進行磁界が生じ、図6に示すように溶湯Yに上向き又は下向きのローレンツ力を発生させる。
【0012】
このようにして、溶湯Yには、図6の破線に示すように、溶湯Yの周縁部では概ね上方に進行し、坩堝66の中心軸(Z軸)近辺では下向きに進行する流動パターンが生じる。
これにより、坩堝66底部近辺の溶解金属も溶湯Yの上面に出やすく撹拌効率が良くなり、脱ガス機能が高まることにより、溶解炉の溶解機能が著しく向上する。
即ち、U.D.S.システム誘導溶解炉60は、単一電源で、複数コイル64A、64Bに所定の位相差の交流電流を流して進行磁界を生成し、一方向流動パターンを作ることを特徴としている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、通常の誘導溶解炉、及び、U.D.S.システム誘導溶解炉の脱ガスモードにおいて、磁界解析シミュレーションを行った結果の磁束分布とローレンツ力分布を図7乃至図9に示す。
なお、この解析は、高周波電流の位相速度をω、時間をtとした場合、ωt=0、電流値を一定、周波数を500Hzとした条件で行っている。
【0014】
図7は、上記条件における通常の誘導溶解炉50の磁束FXの分布とローレンツ力Fの分布の解析結果を示す側面図である。
図8乃び図9は、同様に、U.D.S.システム誘導溶解炉60、60′の磁束FXの分布とローレンツ力Fの分布の解析結果の右半分を示す側面図で、図8はコイルを2分割とし、夫々コイル64A、コイル64Bとした場合のU.D.S.システム誘導溶解炉60、図9はコイルを4分割とし、夫々コイル64A、コイル64B、コイル64C、コイル64Dとした場合のU.D.S.システム誘導溶解炉60′である。
なお、図7乃至図9において、70は誘導磁場の強度を増大すると共に、外部への磁束FXの漏洩を防止するために取り付けた背面鉄心である。
【0015】
図7に示すように、通常の誘導溶解炉50では、ローレンツ力Fはコイル54の中間部で高くなる山形の分布となっており、これは上述したように、図4に示す、2方向の流動パターンの原動力となっている。
従って、磁界解析シミュレーションにより、通常の誘導溶解炉50における流動パターンが裏付けられている。
【0016】
一方、図8、図9に示すように、U.D.S.システム誘導溶解炉60、60′では、2分割コイル64A、64B、4分割コイル64A〜64Dの場合双方で、従来より説明されていたものとは異なり、上(下)方向のローレンツ力Fは、その成分が半径R方向が大半を占め、Z軸方向にはほとんど働いていないことが分かる。
即ち、高周波(500Hz)の単一電源を用い、コイルを複数分割することにより上下方向の力を発生させて一定方向の流動パターンを作るという従来からの説明には誤りがあることが、この磁界解析シミュレーション結果から分かる。
【0017】
以下、従来のU.D.S.システム誘導溶解炉で説明されていた上下方向にローレンツ力が発生するということが誤りであることを図10を用いて説明する。
図10は、U.D.S.システム誘導溶解炉60の右半分のみを示した側面図である。
図10に示すように、コイル64A、64Bに流す電流の周波数が大きいと、磁束Fは溶湯Yに発生する誘導電流Jeによるダンピング効果のために、溶湯Yの内部深くにはほとんど発生せず、溶湯Y表面に沿って多数分布する。
なお、同図においてIはコイル64A、64Bに流す位相差をπ/2としたときの交流電流であり、電流の向きはある時点での瞬間的な方向を示している。
【0018】
ここで、磁界浸透深さをδとすると、δは次の(1)式で与えられる。
なお、ρは溶湯Yの抵抗率、μは溶湯Yの透磁率、fは高周波電流の周波数である。
式(1)に示すように、磁界浸透深さδは、周波数fの1/2乗に反比例することが分かる。
即ち、溶湯Yに発生するローレンツ力Fは、溶湯Yの中心軸方向に向かう分布となり、従来のU.D.S.システム誘導溶解炉60で説明されていたように、溶湯Yの上下方向のローレンツ力Fは発生しないのが示される。
従って、従来のU.D.S.システム誘導溶解炉60も、脱ガスモードにおいて、脱ガス効率の改善が不十分であるという問題を含んでいる。
【0019】
本発明は、上記課題(問題点)を解決し、溶解時における溶解効率を低下させず、溶湯中の流動パターンを改善して脱ガス効率を改良することにより、溶解性能を向上させた誘導溶解炉及び誘導溶解方法を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明の誘導溶解炉は、上記課題を解決するために、請求項1に記載のものでは、複数の誘導コイルと、この誘導コイルに交流電流を通電する交流電源と、被溶解金属を収容する坩堝とを備え、誘導電流により発生する熱で被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属から脱ガスを行うようにした誘導溶解炉において、
前記坩堝は単一の坩堝とし、
前記複数の誘導コイルは、前記坩堝の側周囲で上下方向に配列し、前記交流電源として、前記被溶解金属の溶解時に使用する高周波電源と、被溶解金属の脱ガス時に使用する単相交流の低周波電源とを用い、被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイルを上記高周波電源に直列に接続し、被溶解金属の脱ガス時には、上記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルのみを接続すると共に、他の誘導コイルを短絡することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じる構成とした。
このように構成すると、溶解時には高周波電源を用いることにより溶解効率の低下を防止でき、また、脱ガス時では低周波電源を用いることにより溶湯中の流動パターンが改善されて脱ガス効率が改良され、溶解性能を向上させた誘導溶解炉とすることができる。さらに、脱ガス時に上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じることにより、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるため、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
【0021】
請求項2に記載の誘導溶解炉は、複数の誘導コイルと、この誘導コイルに交流電流を通電する交流電源と、被溶解金属を収容する坩堝とを備え、誘導電流により発生する熱で被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属から脱ガスを行うようにした誘導溶解炉において、前記坩堝は単一の坩堝とし、前記複数の誘導コイルは、前記坩堝の側周囲で上下方向に配列し、前記交流電源として、前記被溶解金属の溶解時に使用する高周波電源と、被溶解金属の脱ガス時に使用する単相交流の低周波電源とを用い、被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイルを上記高周波電源に直列に接続し、被溶解金属の脱ガス時には、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルを接続すると共に、他の誘導コイルには所定の静電容量のコンデンサを接続することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じる回路構成とした。
このように構成すると、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるので、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
【0022】
請求項3に記載の誘導溶解方法は、請求項1に記載の誘導溶解炉において、
被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイル及び上記高周波電源を直列に接続して被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属の脱ガス時は、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルのみを接続すると共に、他の誘導コイルを短絡することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにした。
このようにすると、溶解効率の低減を抑え、脱ガス効率を改善し、誘導溶解炉の溶解性能を向上させた誘導溶解方法とすることができる。また、脱ガス時に上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じることにより、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるため、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
【0024】
請求項4に記載の誘導溶解方法では、請求項2に記載の誘導溶解炉において、被溶解金属の溶解時は上記複数の誘導コイル及び上記高周波電源を直列に接続して被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属の脱ガス時は、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルを接続すると共に、他の誘導コイルには、所定の静電容量のコンデンサを接続することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにした。
このようにすると、溶解効率の低減を抑え、脱ガス効率を改善し、誘導溶解炉の溶解性能を向上させた誘導溶解方法とすることができる。また、脱ガス時に上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じることにより、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるため、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明の誘導溶解炉の一実施の形態を図1乃至図3を用い、図5を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の誘導溶解炉10の概略構成及び作動原理を示す、右半分を示した側面図、図2及び図3は、本実施の形態の誘導溶解炉10の磁場解析結果の右半分を示す側面図で、図2はコイルを2分割とし、夫々コイル16A、コイル16Bとした場合の誘導溶解炉10、図3はコイルを4分割とし、夫々コイル16A、コイル16B、コイル16C、コイル16Dとした場合の誘導溶解炉10′である。
【0026】
図1に示すように、本発明の誘導溶解炉10の主要構成は、高周波電源12、低周波電源14と、高周波電源12及び低周波電源14により交流電流が通電される2つのコイル16A、16B、被溶融金属を収容しておく坩堝18である。
なお、図1において、Yは溶解された金属の溶湯、S1、S2は、溶湯Yを加熱する加熱回路20のスイッチで、a、bは加熱回路20の端子である。
また、同図においてIはコイル16A、16Bに流す位相差をπ/2としたときの交流電流であり、電流の向きはある時点での瞬間的な方向を示している。
【0027】
以上の構成で、本発明の誘導溶解炉10を用いて、被溶解金属を溶解する方法について図1を用い、図5を参照して説明する。
先ず、図5に示す溶解モード区間(区間:0→t1)では、図1に示すようにスイッチS2を開放し、スイッチS1を端子a側に投入することにより、コイル16A及びコイル16Bを直列に接続し、この2つのコイル16A、16Bを高周波電源(例えば500Hz)12に接続することにより、コイル16A、16Bに高周波電流を供給する。
【0028】
このとき、図5に示すように、コイル16A、16Bには大電力が供給されるために、誘導溶解炉10の温度は経過時間に比例する形で上昇して行く。
これは上述した従来のU.D.S.システム誘導溶解炉の溶解時と同様であり、従って、高周波電流により被溶解金属を溶解することにより、従来の誘導溶解炉が備えている溶解効率を維持できる。
【0029】
一方、図5に示す脱ガスモード区間(区間:t1→t2)では、スイッチS1をb側に切り替え、スイッチS2を閉じ、コイル16Aは共に低周波電源14に接続する。
このとき、例えば低周波電源14の周波数を50Hzとすると、式(1)に示したように、磁界の浸透深さδは周波数の1/2乗に反比例するために、従来の誘導溶解炉のときのように500Hzの高周波電源を用いていたのに比べて、約3.3倍の値になり、低周波電源14で発生する磁界は溶湯深くまで浸透し、図2(或いは、コイルを4分割しコイル16A〜16Dとした場合は図3)に示すように磁束FXは溶湯Yの中心軸方向まで広く分布するようになる。
また、スイッチS2を閉ざすことにより、U.D.S.システム誘導溶解炉と同様に、コイル16Bには、コイル16Aとの位相差が最大でπ/2の交流電流が流れるようになる。
【0030】
このため、ローレンツ力Fは上述したように、誘導電流Jeと磁束Bとのベクトル積(外積)で与えられるために、溶湯Yの中心軸方向に至るまで広い範囲でローレンツ力Fが発生し、その向きも図2及び図3に示すようにZ軸方向の成分が増加する。
また、コイル16Aとコイル16Bには最大で位相差がπ/2の交流電流が流れることにより、溶湯Y中には底部から上面にかけて進行磁界が発生する。
その結果、溶湯内には溶融金属を溶湯表面に押しやる一方向の流れとなり、この結果、溶湯Y底部の溶融金属が溶湯Yの表面に浮揚しやすくなり、脱ガス効率が改善し、誘導溶解炉10の溶解性能を向上させることが可能となる。
【0031】
更に、低周波電源の周波数を単相の50Hz又は60Hzとするようにすると、工場や製鉄所等においては、商業電力をそのまま使用できるようになるので、誘導溶解炉10の構成が簡単で、製造コストを大幅に低減することができる。
【0033】
【発明の効果】
本発明の誘導溶解炉は、上述のように構成したために以下のような優れた効果を有する。
(1) 請求項1に記載したように、交流電源として、被溶解金属の溶解時に使用する高周波電源と、被溶解金属の脱ガス時に使用する低周波電源とを用いるようにすると、溶解時には高周波電源を用いることにより溶解効率の低下を防止でき、また、脱ガス時では上記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルのみを接続すると共に、他の誘導コイルを短絡することにより、
上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにしたので、溶湯中の流動パターンが改善されて脱ガス効率が改良され、溶解性能を向上させた誘導溶解炉とすることができる。
この場合、上記の複数の誘導コイルは、坩堝の側周囲で上下方向に配置するようにしたので、移動磁界が発生した際に、坩堝の底部にある溶湯が坩堝の上部に、また、坩堝上部の溶湯が坩堝の底部へと適正に攪拌されることで、溶解効率は向上する。
【0034】
(2) 請求項2に記載したように、低周波電源は単相交流電源であり、誘導溶解炉の加熱回路は、この単相交流電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルを接続すると共に、他の誘導コイルには所定の静電容量のコンデンサを接続することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じ、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるので、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
この場合も、上記の複数の誘導コイルは、坩堝の側周囲で上下方向に配置するようにしたので、移動磁界が発生した際に、坩堝の底部にある溶湯が坩堝の上部に、また、坩堝上部の溶湯が坩堝の底部へと適正に攪拌されることで、溶解効率は向上する。
【0037】
また、本発明の誘導溶解方法は、上述のように構成したために以下のような優れた効果を有する。
(3)請求項3に記載したように、被溶解金属の溶解時は複数の誘導コイル及び高周波電源を直列に接続して被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属の脱ガス時は、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルのみを接続すると共に、他の誘導コイルを短絡することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにすると、溶解効率の低減を抑え、脱ガス効率を改善し、誘導溶解炉の溶解性能を向上させた誘導溶解方法とすることができる。また、脱ガス時に上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じることにより、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるため、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
(4)請求項4に記載したように、被溶解金属の溶解時は複数の誘導コイル及び高周波電源を直列に接続して被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属の脱ガス時は、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルを接続すると共に、他の誘導コイルには所定の静電容量のコンデンサを接続することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにすると、溶解効率の低減を抑え、脱ガス効率を改善し、誘導溶解炉の溶解性能を向上させた誘導溶解方法とすることができる。また、脱ガス時に上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じることにより、溶湯中において、一方向流動パターンが生成されるため、脱ガス効率が改善され、溶解性能が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の誘導溶解炉の概略構成及び作動原理を説明するため、右半分を示した側面図である。
【図2】 コイルを2分割とした場合の、本発明の誘導溶解炉の磁場解析結の右半分を示した側面図である。
【図3】 コイルを4分割とした場合の、本発明の誘導溶解炉の磁場解析結果の右半分を示した側面図である。
【図4】 従来の通常の誘導溶解炉の概略構成を示す概念図である。
【図5】 従来の誘導溶解炉の温度及び供給電力と、経過時間との関係を示す特性図である。
【図6】 従来のU.D.S.システム誘導溶解炉の概略構成を示す概念図である。
【図7】 従来の誘導溶解炉の磁場解析結果を示す右半分を示した側面図である。
【図8】 コイルを2分割とした場合の、従来のU.D.S.システム誘導溶解炉の磁場解析結果の右半分を示した側面図である。
【図9】 コイルを4分割とした場合の、従来のU.D.S.システム誘導溶解炉の磁場解析結果の右半分を示した側面図である。
【図10】 U.D.S.システム誘導溶解炉の右半分を示した側面図である。
【符号の説明】
10、10′:誘導溶解炉
12:高周波電源
14:低周波電源
16A〜16D:コイル
18:坩堝
20:加熱回路
Y:溶湯
Je:電流
Claims (4)
- 複数の誘導コイルと、この誘導コイルに交流電流を通電する交流電源と、被溶解金属を収容する坩堝とを備え、誘導電流により発生する熱で被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属から脱ガスを行うようにした誘導溶解炉において、
前記坩堝は単一の坩堝とし、
前記複数の誘導コイルは、前記坩堝の側周囲で上下方向に配列し、
前記交流電源として、前記被溶解金属の溶解時に使用する高周波電源と、被溶解金属の脱ガス時に使用する単相交流の低周波電源とを用い、
被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイルを上記高周波電源に直列に接続し、
被溶解金属の脱ガス時には、上記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルのみを接続すると共に、他の誘導コイルを短絡することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにしたことを特徴とする誘導溶解炉。 - 複数の誘導コイルと、この誘導コイルに交流電流を通電する交流電源と、被溶解金属を収容する坩堝とを備え、誘導電流により発生する熱で被溶解金属を溶解し、溶解した被溶解金属から脱ガスを行うようにした誘導溶解炉において、
前記坩堝は単一の坩堝とし、
前記複数の誘導コイルは、前記坩堝の側周囲で上下方向に配列し、
前記交流電源として、前記被溶解金属の溶解時に使用する高周波電源と、被溶解金属の脱ガス時に使用する単相交流の低周波電源とを用い、
被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイルを上記高周波電源に直列に接続し、
被溶解金属の脱ガス時には、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルを接続すると共に、他の誘導コイルには所定の静電容量のコンデンサを接続することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差が生じるようにしたことを特徴とする誘導溶解炉。 - 請求項1に記載の誘導溶解炉において、
被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイル及び上記高周波電源を直列に接続して被溶解金属を溶解し、
溶解した被溶解金属の脱ガス時は、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルのみを接続すると共に、他の誘導コイルを短絡することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差を生じるようにしたことを特徴とする誘導溶解方法。 - 請求項2に記載の誘導溶解炉において、
被溶解金属の溶解時は、上記複数の誘導コイル及び上記高周波電源を直列に接続して被溶解金属を溶解し、
溶解した被溶解金属の脱ガス時は、前記低周波電源に上記複数の誘導コイルの内の一部の誘導コイルを接続すると共に、他の誘導コイルには所定の静電容量のコンデンサを接続することにより、上記一部の誘導コイルと上記他の誘導コイルとの夫々に流れる交流電流の間に所定の位相差を生じるようにしたことを特徴とする誘導溶解方法。
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