JP4760262B2 - パイル編織物 - Google Patents
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Description
すなわち、パイル部が平均単繊維繊度0.001dtex以上1.1dtex以下の合成繊維からなるパイル編織物であって、該パイル編織物中に自己乳化型ポリウレタンをパイル編織物重量に対して5重量%以上50重量%以下含有してなり、該ポリウレタンがガラス転移温度−80℃以上0℃未満のカーボネート系ポリウレタンであり、かつ、該ポリウレタンが分子内に架橋構造を有し、該架橋構造がシロキサン結合であり、さらに、該ポリウレタンの、温度80℃、時間30分で乾燥した厚み50μmの乾式フィルムを100℃の沸騰した水に1時間浸漬し、浸漬前後の縦横の収縮率を平均した値である熱水収縮率が0.1%以上5%以下であることを特徴とするパイル編織物である。
具体的にはパイル密度は、250本/cm2以上1500本/cm2以下であることが好ましい。本発明のパイル編織物の製造に使用する自己乳化型ポリウレタンは水中に分散してエマルジョンとなる、いわゆる水系ポリウレタンである。水系ポリウレタンを用いることで、環境への負荷が小さくなり、また、パイル編織物中への有機溶剤の残留も少ないことから、肌と直接接するような用途においても安全に適用することができる。
また、水系ポリウレタンは、有機溶剤に溶解させるポリウレタン、いわゆる溶剤系ポリウレタンと異なり、パイル編織物に含浸して乾燥した場合に、ポリウレタンがパイル編織物表面に移行するマイグレーション現象が顕著に発現する。本発明のパイル編織物では、表面品位を維持するためにパイル部が立毛した状態で、その根元部分をポリウレタンが固定していることが好ましいことから、例えば後述するような製造方法を適用する場合に、ポリウレタンはマイグレーション現象によって主にパイル部の根元を固定するようになり、より高品位の表面外観を得ることができる。
ここで言う水系ポリウレタンとは、ポリウレタンエマルジョンの分散媒が水であるものを言うが、N,N−ジメチルホルムアミドやアセトン、N−メチルピロリドンといった水溶性有機溶媒を、水系ポリウレタン液に対して0重量%以上50重量%以下含有していてもよい。なお、水系ポリウレタンは、通常、水に分散した状態で取り扱われ、メーカーからもこの状態で入手できるが、これは一旦乾燥すると再度水に分散させることが不可能となるためである。
また、本発明のパイル編織物の製造に使用される自己乳化型ポリウレタンとは、界面活性剤等の外部乳化剤を含有しない自己乳化型のポリウレタンである。界面活性剤等の外部乳化剤を含有する強制乳化型のポリウレタンを用いた場合、得られたパイル編織物は乳化剤に起因するベトツキ等が発生するため、洗浄工程が必須となり、加工工程が増加してコストアップに繋がる。
ここで言う自己乳化型ポリウレタンとは、界面活性剤等の外部乳化剤を用いなくても単独で水分散できるポリウレタン、または水溶性のポリウレタンのことであり、ポリウレタン分子構造内に親水性の、いわゆる内部乳化剤を有する。
内部乳化剤は、4級アミン塩等のカチオン系、ポリエチレングリコール等のノニオン系、スルホン酸塩、カルボン酸塩等のアニオン系のいずれでもよいが、カチオン系内部乳化剤は、黄変等の耐光性に劣るため、ノニオン系、またはアニオン系であることが好ましい。
本発明のパイル編織物に使用するポリウレタンは、内部乳化剤以外にポリオール、ポリイソシアネート、鎖伸長剤を適宜反応させた構造を有するものを用いることができる。
また、ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系が挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族系が好ましい。
また、鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、メチレンビスアニリン等のアミン系、エチレングリコール等のジオール系、さらにはポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを用いることができる。
本発明において、自己乳化型ポリウレタンは単独で用いても複数種を併用してもよく、また、他のポリマー等を併用してもよい。
他のポリマーとしては、例えば、アクリル系やシリコーン系等の水分散性や水溶性のポリマーが挙げられる。
本発明のパイル編織物に用いる自己乳化型ポリウレタンのガラス転移温度は−80℃以上0℃未満であることが必要である。ガラス転移点はポリウレタンの柔軟性に影響し、より低い程柔軟になるので、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−10℃以下である。ただ、低すぎると液状になるので、好ましくは−70℃以上、より好ましくは−50℃以上、さらに好ましくは−30℃以上である。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定装置を用い、窒素雰囲気下、一定の窒素流量下で測定したDSCカーブより、算出した値をいう。
本発明のパイル編織物に用いる自己乳化型ポリウレタンは繊維の極細化工程で使用する有機溶剤やアルカリ性水溶液等による劣化、染色時の熱軟化による脱落等の問題が発生する可能性があることから、耐溶剤性、耐アルカリ加水分解性、耐熱性を向上するために分子構造内に架橋構造を形成していることが好ましい。
ポリウレタン分子構造内に架橋構造を形成するために、ポリウレタン分子中に予めシラノール等の自己架橋可能な反応性基を有していてもよく、また、ポリウレタンにカルボジイミド基やオキサゾリン基等の官能基を有する物質、メラミン樹脂、エポキシ樹脂等の架橋剤が添加してあってもよい。中でも、ポリウレタン分子中に予め自己架橋可能な反応性基を有する場合が、ポリウレタンを含浸して得られるシート状物の風合いが硬化しにくいことから好ましく、反応性基はシラノール基であることが好ましい。ポリウレタン分子中にシラノール基を有することで、製膜時に自己架橋してシロキサン結合を形成し、耐溶剤性、耐アルカリ加水分解性、耐熱性が飛躍的に向上する。
また、ポリウレタン分子構造内に架橋構造を形成することで、パイル編織物に適度な反発感を付与することができる。
ポリウレタンに対する架橋構造の含有量は、ポリウレタン重量に対して0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましい。なお、架橋構造の含有量はポリウレタンのNMRやIR等による測定において、架橋構造に起因するピークとポリウレタン構造に起因するピークを比較することで、算出できる。
本発明のパイル編織物の製造方法の例としては、二重接結構造の編織物を基材として用い、(1)熱収縮工程、(2)ポリウレタン付与工程、(3)半裁工程、(4)繊維極細化工程、(5)染色・仕上げ工程、を順不同で組み合わせて得られるものであるが、(1)(2)(3)(4)(5)の順に加工することが好ましい。
海成分を溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの場合は、トルエンやトリクロロエチレン等の有機溶剤、海成分が共重合ポリエステル、ポリ乳酸の場合は、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液を用いることができ、溶剤中に海島型複合繊維を浸漬し、窄液を行うことによって除去することができる。
また、海成分の溶解性向上や剥離・分割性向上のために、アルカリ水溶液処理の前にpH3以下の酸性水溶液で予め処理してもよい。
染色温度は高すぎるとポリウレタンが劣化する場合があり、逆に低すぎると繊維への染着が不十分となるため、繊維の種類により変更するのがよく、一般に80℃以上150℃以下が好ましく、110℃以上130℃以下がより好ましい。
本発明のパイル編織物は、家具、椅子、壁装や、自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する内装材として好適に用いることができる。
[評価方法]
(1)外観品位
得られたパイル編織物の表面品位は、健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を目視で判別を行い、最も多かった評価を外観品位とした。
○:繊維の分散状態は非常に良好で、ヒビのような地割れは見られない。
△:繊維の分散状態は良好であるが、ヒビのような地割れが少し見られる。
×:繊維の分散状態が不良で、ヒビのような地割れが見られる。
得られたパイル編織物の風合いは、健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を触感で判別を行い、最も多かった評価を風合いとした。
○:非常に柔軟であり、かつ適度な反発感がある。
△:柔軟であるが、反発感がない。
×:硬い。
パイル立毛部分を走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに100本選び、繊維径を測定して、全て真円と仮定して繊維を構成するポリマーの密度とから、繊度の平均値を計算することで算出した。
示差走査熱量測定装置(RDC220(セイコー・インスツルメンツ))を用い、窒素雰囲気下、窒素流量20mL/分とし、ポリウレタン乾式フィルム5mgを秤量して測定したDSCカーブより、算出した。
ポリウレタンの乾式フィルムを100℃の沸騰した水に1時間浸漬し、浸漬前後の縦横の収縮率を平均した値とした。
ポリウレタンのNMRやIR等による測定において、架橋構造に起因するピークとポリウレタン構造に起因するピークの面積や強度を比較することで、架橋構造部分の含有量を算出した。例えば、架橋構造がシラノール系架橋剤に由来するシロキサン結合の場合は、シロキサン結合に起因するピークとウレタン結合に起因するピークの比較、架橋構造がオキサゾリン系架橋剤に由来するアミドエステル結合の場合は、アミドエステル結合に起因するピークとウレタン結合に起因するピークを比較することで、含有量を算出できる。
実施例、比較例で用いたポリウレタン水分散液は下記の通りである。なお、ポリウレタン水分散液の濃度はいずれも10重量%として用いた。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:ヘキサメチレンジイソシアネート
ポリオール :ポリ(3−メチルペンタンカーボネート)
内部乳化剤 :ジメチロールプロピオン酸トリエチルアミン塩
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :シラノール基を有するジアミン化合物
B.フィルム物性等
ガラス転移点=−13℃
熱水収縮率=1.3%
架橋構造含有量=0.1重量%。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
ポリオール :ポリ(3−メチルペンタンカーボネート)
内部乳化剤 :ジメチロールプロピオン酸トリエチルアミン塩
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :シラノール基を有するジアミン化合物
B.フィルム物性等
ガラス転移点=−12℃
熱水収縮率=0.8%
架橋構造含有量=0.4重量%。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:イソホロンジイソシアネート
ポリオール :ポリ(2,4−ジエチルペンタンカーボネート)
内部乳化剤 :ジメチロールプロピオン酸トリエチルアミン塩
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし
外部架橋剤としてエポクロスWS−700((株)日本触媒製商品名:オキサゾリン系架橋剤)を添加
B.フィルム物性等
ガラス転移点=−14℃
熱水収縮率=0.3%
架橋構造含有量=0.5重量%。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:ヘキサメチレンジイソシアネート
ポリオール :ポリ(3−メチルペンタンカーボネート)
内部乳化剤 :ポリエチレングリコール構造を有するジオール
鎖伸長剤 :エチレングリコール
内部架橋剤 :なし
B.フィルム物性等
ガラス転移点=−26℃
熱水収縮率=8.6%
架橋構造含有量=0重量%。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:イソホロンジイソシアネート
ポリオール :ポリ(2,4−ジエチルペンタンカーボネート)
内部乳化剤 :ジメチロールプロピオン酸トリエチルアミン塩
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし
B.フィルム物性等
ガラス転移点=−20℃
熱水収縮率=3.3%
架橋構造含有量=0重量%。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
ポリオール :ポリ(2−メチルテトラメチレングリコール)
内部乳化剤 :ポリエチレングリコール構造を有するジオール
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし
B.フィルム物性等
ガラス転移点=−44℃
熱水収縮率=8.2%
架橋構造含有量=0重量%。
A.ポリウレタン組成
ポリイソシアネート:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
ポリオール :ポリヘキサメチレンカーボネート
内部乳化剤 :ジメチロールプロピオン酸トリエチルアミン塩
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし
B.フィルム物性等
ガラス転移点=7℃
熱水収縮率=0.4%
架橋構造含有量=0重量%。
各実施例・比較例で用いた化学物質の略号の意味は以下の通りである。
PET:ポリエチレンテレフタレート
PBT:ポリブチレンテレフタレート
PLA:ポリ乳酸
Ny6:6−ナイロン
[実施例1]
海成分がナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエステルで、島成分がPETからなる海/島=80/20、島本数8本の繊度90dtex36フィラメントの海島型複合繊維をパイル部とし、PETの90dtex36フィラメント加工糸をグランドとしてダブルラッセル編機で釜間4mmの条件で編成し、基材となる目付551g/m2の二重接結構造の編織物を得た。
ポリウレタン水分散液IIを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行い、本発明のパイル編織物を得た。ポリウレタン含有量は編織物重量に対して28重量%であった。
ポリウレタン水分散液を用いない以外は、実施例1と同様に処理を行い、パイル編織物を得た。海成分除去後の平均単繊維繊度は0.25dtexであった。
ポリウレタン水分散液VIを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行い、パイル編織物を得た。ポリウレタン含有量は編織物重量に対して30重量%であった。
繊維の極細化を行わなかった以外は、実施例1と同様に処理を行い、パイル編織物を得た。平均単繊維繊度は2.5dtexであった。また、ポリウレタン含有量は編織物重量に対して14重量%であった。
ポリウレタン水分散液VIIを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行い、パイル編織物を得た。ポリウレタン含有量は編織物重量に対して13重量%であった。
Claims (1)
- パイル部が平均単繊維繊度0.001dtex以上1.1dtex以下の合成繊維からなるパイル編織物であって、該パイル編織物中に自己乳化型ポリウレタンをパイル編織物重量に対して5重量%以上50重量%以下含有してなり、該ポリウレタンがガラス転移温度−80℃以上0℃未満のカーボネート系ポリウレタンであり、かつ、該ポリウレタンが分子内に架橋構造を有し、該架橋構造がシロキサン結合であり、さらに、該ポリウレタンの、温度80℃、時間30分で乾燥した厚み50μmの乾式フィルムを100℃の沸騰した水に1時間浸漬し、浸漬前後の縦横の収縮率を平均した値である熱水収縮率が0.1%以上5%以下であることを特徴とするパイル編織物。
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