JP4750499B2 - イオン性液体並びにそれを用いた抗菌剤及び抗菌性繊維 - Google Patents

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Description

本発明は、イオン性液体並びにそれを用いた抗菌剤及び抗菌性繊維に関する。更に詳しくは、本発明は、その化学構造中にハロゲンを含まないイオン性液体、並びにそれを用いた抗菌剤及び抗菌性繊維に関する。
従来から1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)クロリドとAlClを混合することによりいわゆるイオン性液体、すなわちイオン結晶が融解した状態の液体が生成することは知られており、このようなイオン性液体は従来の有機溶媒系とは異なる難揮発性、難燃性というユニークな特性を持っている。さらに、近年、AlCl アニオンの代わりに含フッ素アニオン(例えば、N(CFSO 、CFSO 、BF 、PF )を用いることにより、より耐水性が高く、取り扱いの容易なイオン性液体が得られることが提案されている(Bonhote,P.et al.,Inorg.Chem.,35,p.1168〜1178(1996)(非特許文献1)参照)。
このような従来のイオン性液体を構成するカチオンとしては、EMIに代表されるアルキルイミダゾリウムカチオン、アルキルピリジニウムカチオン、アルキルアンモニウムカチオン、アルキルホスフォニウムカチオン等が一般的であるが、イオン性液体を構成するアニオンとしては、上記のAlCl アニオンや含フッ素アニオンといったハロゲン含有アニオンを使用せざるを得ない場合が多かった。すなわち、系の融点を下げるためには、ハロゲンの強い電子吸引効果により負電荷を非局在化することで局所的なイオン結合を弱めるためにハロゲン含有アニオンを使用する必要があるということがいわば当業者の技術常識であった。
一方、イオン性液体はその難揮発性の性質により媒体の環境への拡散を最小限に止めることができるため、環境低負荷型のいわゆるグリーン溶媒として高い関心を集めている。しかし、イオン性液体を環境に配慮した真のグリーン溶媒として扱うためには、ハロゲンを含まないイオンを用いたハロゲンフリーのイオン性液体の作製が不可欠である。そのため、このような観点から、硝酸アニオンや酢酸アニオンのような非ハロゲン系アニオンを用いてイオン性液体を作製した例が報告されている(大野弘幸監修「イオン性液体」株式会社シー・エム・シー出版、p.169〜171、2003年2月1日発行(非特許文献2)参照)。また、別の例として、テトラオクチルアンモニウムカチオンが2,4,6−トリニトロフェノラートアニオンと室温で融解可能な塩を形成すること及びその製法が報告されている(H.Katano et al.,ANALYTICAL SCIENCES,Vol.19,No.5,p.651〜652,2003年5月10日発行(非特許文献3)参照)。
しかしながら、非特許文献2に記載のように硝酸アニオンや酢酸アニオンといった非ハロゲン系アニオンを用いてハロゲンフリーのイオン性液体を得ようとした場合にあっては、用いるカチオンを1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)カチオン以外のものとした場合に得られるイオン性液体の融点が高くなってしまうという問題があった。一方、融点が比較的低く室温で液体である非特許文献3に記載されているイオン性液体の報告例もあるが、EMI以外のカチオンを利用したハロゲンフリーのイオン性液体を見出すためには、無限といっても過言ではない有機イオンの組み合わせの中から多くのカチオンとアニオンとを組み合わせて検討する必要があり、EMI以外のカチオンを用いたハロゲンフリーのイオン性液体であって融点が十分に低いものは未だ十分に見出されていなかった。
一方、市場に流通している各種日用品等の製品には、消費者の衛生嗜好の関心の高さや弱毒性各種細菌の発現といった理由から、抗菌加工を施して製品に抗菌性を付与させることにより、より安全で衛生的な製品を使用しようという需要が高まっている。このような情勢の中、抗菌剤としては各種タイプの化合物が汎用されており、例えば、特開平1−266277号公報(特許文献1)には塩素系芳香族化合物が、特公昭62−60509号公報(特許文献2)にはポリヘキサメチレンビグアニド塩酸塩が開示されている。
しかしながら、従来の抗菌剤はその抗菌性が必ずしも十分なものとは限らず、また、優れた抗菌性を有する抗菌剤であっても、揮発・散逸し易いものは安全性の点で問題があり、優れた抗菌性と共に安全性が十分に高い抗菌剤の開発が求められていた。
特開平1−266277号公報 特公昭62−60509号公報 Bonhote,p.et al.,Inorg.Chem.,35,p.1168〜1178(1996) 大野弘幸監修「イオン性液体」株式会社シーエムシー出版、P.169〜171、2003年2月1日発行 H.Katano et al.,ANALYTICAL SCIENCES,Vol.19,No.5,p.651〜652,2003年5月10発行
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、アルキルイミダゾリウムカチオン以外のカチオンを用いて、難揮発性、難燃性という特性は維持しつつ、ハロゲンフリーでかつ融点が十分に低く、室温で液体であるイオン性液体、繊維製品に優れた抗菌性を付与できると共に難揮発性でかつ難燃性で安全性が十分に高い抗菌剤、並びに優れた抗菌性を有している抗菌性繊維を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アニオン部分として特定のリン酸ジアルキルエステルアニオン、カチオン部位として特定のベンジルジメチルアルキルアンモニウムカチオンを有する塩構造の化合物を用いることにより、ハロゲンフリーでかつ融点が十分に低いイオン性液体が得られるだけでなく、驚くべきことに優れた抗菌性を有していると共に、難揮発性でかつ難燃性で安全性が十分に高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のイオン性液体は、下記一般式(1):
Figure 0004750499
(式中、R及びR2−エチルヘキシル基を表す。)
で表されるアニオンと、下記一般式(2):
Figure 0004750499
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Aはアルコキシ基、アルキル基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
で表されるカチオンとからなることを特徴とするものである。
本発明の抗菌剤は、下記一般式(1):
Figure 0004750499
(式中、R及びR2−エチルヘキシル基を表す。)
で表されるアニオンと、下記一般式(2):
Figure 0004750499
(式中、Rは炭素数8〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Aはアルコキシ基、アルキル基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
で表されるカチオンとからなるイオン性液体を含有することを特徴とするものである。
さらに、本発明の抗菌性繊維は、繊維と、前記繊維に担持されている前記本発明の抗菌剤とを備えること特徴とするものである。
なお、本発明のイオン性液体は、アニオンの負電荷が局在化しているにもかかわらず融点が十分に低く室温において液体である。その具体的理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のイオン性液体においてはアニオン、カチオンともに分子量が大きいため、1分子(塩)当たりのイオン結合の強さが、分子量が大きい分だけ見かけ上低減する。そのことが、アニオンの負電荷が局在化しているにもかかわらず室温で液状であることの理由の1つと本発明者らは推察する。また、本発明のイオン性液体におけるアニオンは、2本の長鎖アルキル基の構造を持っているため、立体化学的に結晶構造を非常にとりにくくなっている。このことも、本発明のイオン性液体が室温で液状を示すことの要因の1つであると本発明者らは推察する。
本発明によれば、アルキルイミダゾリウムカチオン以外のカチオンを用いて、難揮発性、難燃性という特性は維持しつつ、ハロゲンフリーでかつ融点が十分に低く、室温で液体であるイオン性液体、繊維製品に優れた抗菌性を付与できると共に難揮発性でかつ難燃性で安全性が十分に高い抗菌剤、並びに優れた抗菌性を有している抗菌性繊維を提供することが可能となる。
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
先ず、本発明のイオン性液体について説明する。すなわち、本発明のイオン性液体は、下記一般式(1):
Figure 0004750499
で表されるアニオンと、下記一般式(2):
Figure 0004750499
で表されるカチオンとからなるものである。
前記一般式(1)で表されるアニオンは、リン酸ジアルキルエステルアニオンである。また、前記一般式(1)においては、R及びRは、同一でも異なってもいてもよく、それぞれ炭素数6〜10の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表している。このようなアルキル基(R及びR)としては、例えば、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、オクチル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルヘプチル基、3−エチルヘキシル基、ノニル基、1−エチルヘプチル基、2−エチルヘプチル基、3−メチルオクチル基、3−エチルヘプチル基、デシル基、2−エチルオクチル基が挙げられる。R及びRのうちの少なくとも一方が炭素数5以下のアルキル基の場合は得られる化合物融点が室温(25℃)以上となり、他方、炭素数11以上のアルキル基の場合は得られる化合物の粘度が非常に高くなり実用的ではなくなる。
さらに、これらのアルキル基(R及びR)の中でも、得られる化合物の融点がより十分に低くなるという観点から、炭素数8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、例えば、オクチル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルヘプチル基、3−エチルヘキシル基がより好ましく、2−エチルヘキシル基が特に好ましい。
前記一般式(2)で表されるカチオンは、ベンジルジメチルアルキルアンモニウムカチオンである。また、前記一般式(2)においては、Rは炭素数8〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表している。このようなアルキル(R)としては、例えば、オクチル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、2−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルヘプチル基、3−エチルヘキシル基、ノニル基、1−エチルヘプチル基、2−エチルヘプチル基、3−メチルオクチル基、3−エチルヘプチル基、デシル基、2−エチルオクチル基、ウンデシル基、ドデシル基、3−エチルデシル基、トリデシル基、2−エチルウンデシル基、テトラデシル基、2−ブチルデシル基が挙げられる。Rが炭素数7以下のアルキル基の場合は得られる化合物の融点が室温(25℃)以上となり、他方、炭素数15以上のアルキル基の場合も得られる化合物の融点が室温(25℃)以上となるだけでなく、粘度が非常に高くなり実用的ではなくなる。
また、これらのアルキル基(R)の中でも、得られる化合物の融点がより十分に低くなるという観点から、炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、ドデシル基、3−エチルデシル基が特に好ましい。
さらに、前記一般式(2)においては、Aは置換基を有しても良いフェニル基を表している。Aで表されるフェニル基は、同式においてフェニル基に結合している基(−CH−N(CH)以外の置換基を有してもよく、その場合の置換基の数は特に制限されない。このような置換基としては、例えば、メトキシ基等のアルコキシ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、ヒドロキシ基が挙げられる。
このような本発明のイオン性液体はハロゲンフリーであり、しかも融点が十分に低いという優れた特性を示しており、その融点は25℃以下程度であることが望ましい。また、本発明のイオン性液体は揮発しにくく(難揮発性)かつ引火しにくい(難燃性)というイオン性液体本来の特性も有しており、それ以外の特性は特に制限されないが、粘度が5000mPa・s以下(E型粘度計、標準ローター使用、20〜100rpm、25℃)であることが低粘度溶媒として工業的取扱の容易性、効率性という観点から好ましい。
本発明のイオン性液体の製造方法としては特に限定されないが、例えば、前記一般式(1)で表されるリン酸ジアルキルエステル又はそのアルカリ金属塩と、前記一般式(2)で表されるベンジルジメチルアルキルアンモニウムのハロゲン化物とを、水と有機溶媒との混合溶媒中でイオン交換反応せしめることにより製造することができる。なお、前記アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩等が挙げられ、また、前記ハロゲン化物としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物等が挙げられる。ここで用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドンが挙げられる。また、水と有機溶媒との混合比率は特に制限されないが、水:極性溶媒の比率(体積比)が1:0.5〜1:2であることが好ましい。
また、前記一般式(1)で表されるリン酸ジアルキルエステル又はそのアルカリ金属塩と、前記一般式(2)で表されるベンジルジメチルアルキルアンモニウムのハロゲン化物との混合比率は、前者:後者の比率(モル比)が1:0.8〜1:1.2であることが好ましく、1:1(等モル)程度であることが特に好ましい。更に、水と有機溶媒との混合溶媒中における、前記一般式(1)で表されるリン酸ジアルキルエステル又はそのアルカリ金属塩と、前記一般式(2)で表されるベンジルジメチルアルキルアンモニウムのハロゲン化物との濃度は特に制限されないが、一般的には各化合物の濃度が0.1〜2mol/リットル程度であることが好ましい。
前記一般式(1)で表されるリン酸ジアルキルエステルのアルカリ金属塩と、前記一般式(2)で表されるベンジルジメチルアルキルアンモニウムのハロゲン化物とを前記混合溶媒中に溶解せしめて混合すればイオン交換反応が進行し、混合溶媒(反応液)中に目的とする本発明のイオン性液体とハロゲン化金属塩が生成する。或いは、前記一般式(1)で表されるリン酸ジアルキルエステルと、前記一般式(2)で表されるベンジルジメチルアルキルアンモニウムのハロゲン化物とを前記混合溶媒中に溶解せしめて混合し、アルカリ金属を塩基とするアルカリ水溶液を添加していくことで、混合溶媒(反応液)中に目的とする本発明のイオン性液体とハロゲン化金属塩が生成する。
その反応条件は特に制限されないが、一般的に反応温度は室温以上かつ溶媒還流温度以下の温度であり、反応時間は30分〜14日程度であることが好ましい。また、反応させる際の圧力としては常圧下(大気圧下)でも加圧下でもよく、反応溶液を撹拌下に維持しても静置してもよい。
そして、反応終了後、目的とする化合物が生成した反応液から有機溶媒及び水を除去することにより、本発明のイオン性液体を得ることができる。その際、イオン性液体は有機溶媒に優先的に溶解して水には溶解しないことから、有機極性溶媒が除去されるに従って、前記反応液は油相(目的物)と水相とに分離する。また、ハロゲン化金属塩及び未反応の原料化合物は水に優先的に溶解することから、前記反応液から水相を除去することによって、ハロゲン化金属塩及び未反応の原料化合物も水とともに除去され、本発明のイオン性液体が得られることとなる。なお、前記反応液から有機溶媒及び水を除去する方法は特に限定されず、例えば、反応液から先ず有機溶媒を揮発させて除去した後に水を分離除去する方法、或いは、反応液から先ず水相を分離除去した後に有機溶媒を揮発させて除去する方法が採用される。また、より純度の高い化合物を得るために、必要に応じて精製工程、乾燥工程〔例えば、減圧下(約40mmHg以下)、80〜100℃で数時間減圧乾燥〕を更に実施しても良い。なお、このような精製工程としては、例えば、純水により洗浄を行い精製する工程や、更にジクロロエタン等の溶媒にて希釈することにより洗浄効率を上げて精製する工程が挙げられる。
次に、本発明の抗菌剤について説明する。すなわち、本発明の抗菌剤は、下記一般式(1):
Figure 0004750499
で表されるアニオンと、下記一般式(2):
Figure 0004750499
で表されるカチオンとからなるイオン性液体を含有するものである。
そして、このような抗菌剤においては、得られる化合物の融点がより十分に低くなるという観点から、前記一般式(1)中のR及びRが、炭素数8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であることが好ましく、2−エチルヘキシル基であることが特に好ましい。
本発明の抗菌剤としては、前述したイオン性液体を有効成分として含有していればよく、前述したイオン性液体そのものを抗菌剤として用いたものであっても、或いは前述したイオン性液体と共に後述する溶媒や賦形剤を含有するものであってもよい。すなわち、本発明の抗菌剤は、前述したイオン性液体を有機溶媒により希釈したもの、或いは前述したイオン性液体を通常用いられる賦形剤を用いて製剤化したものであってもよい。前述したイオン性液体を希釈して使用する場合に用いられる有機溶媒としては特に制限されず、安全性・価格・残留性などを考慮して適宜溶媒を選択できるが、好ましい溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ジエチルエーテルが挙げられる。また、前述したイオン性液体を製剤化する際に用いられる賦形剤としては制限されず、抗菌剤の投与形態等に応じて、固体又は液体状態の製剤を形成するときに通常用いられる処方成分が適宜採用される。さらに、製剤化する際に用いられる手法としても特に制限されず、練り込み、スプレー、コーティング等の表面加工といった手法が適宜採用される。また、固体状態の製剤としては、前述したイオン性液体を分散・固化させたものが挙げられる。
本発明の抗菌剤における前述したイオン性液体の含有量としては、抗菌剤全体質量に対して0.01〜100質量%であることが好ましく、0.1〜40質量%であることがより好ましく、1〜30質量%であることが特に好ましい。
以上説明した本発明の抗菌剤は種々の分野で適用可能であり、本発明の抗菌剤を使用することにより優れた抗菌性を有する各種抗菌性製品を得ることができる。すなわち、例えば、衣料等の繊維製品、椅子・カーテン・ベッド等の家具類、フィルター等の産業資材、包装材料等のフィルム状の加工製品、プラスチック樹脂の加工製品に本発明の抗菌剤を適用することにより、例えば、家庭用品、トイレタリー、家電・事務用品、医療等の様々な分野における抗菌性を付与した製品を供給することが可能となる。
次いで、本発明の抗菌性繊維について説明する。すなわち、本発明の抗菌性繊維は、繊維と、前記繊維に担持されている前記本発明の抗菌剤とを備えること特徴とするものである。
本発明の抗菌剤を担持する繊維製品の素材としては特に限定されないが、例えば、綿、絹、ウール等の天然繊維;レーヨン等の再生繊維;アセテート等の半合成繊維;ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維;これらの繊維2種類以上からなる複合繊維を挙げることができる。また、繊維製品の構造としても特に限定されないが、例えば、糸、織物、編物、不織布、組物を挙げることができる。さらに、本発明の抗菌剤を繊維製品に担持させるための処理方法としても特に限定されないが、例えば、パディング、浸漬、噴霧(スプレー)、コーティング等の手法を挙げることができる。また、繊維製品を処理する段階についても特に限定されないが、紡糸、紡績加工以降の工程で処理することが好ましい。
本発明の抗菌性繊維は、製品用途により必要とされる抗菌性や洗濯耐久性に応じて、本発明の抗菌剤を繊維製品に適量担持(例えば、付着や吸尽)させることにより得ることができる。また、繊維製品新機能評価協議会が規定する洗濯条件(例えば、80℃の洗濯温度で50回洗濯しても抗菌性を維持するような条件)や、高い洗濯耐久性が要求される場合や、洗濯耐久性が得られにくい繊維素材を使用する場合には、本発明の抗菌剤の繊維素材への吸着性を向上させるため、さらに合成樹脂、架橋剤等を併用することもできる。このような合成樹脂としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、オキサゾリン系、シリコーン系の合成樹脂等を挙げることができ、要求される洗濯耐久性等に応じて適量を使用することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例における抗菌性の評価は、以下に説明する評価方法に従って行った。
<抗菌性の評価>
各実施例及び比較例において得られた加工布(抗菌加工試料)について、JIS L 1902(2002)「繊維製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」に記載された方法に準じ、定量試験の菌液吸収法にて評価した。
供試菌:黄色ブドウ球菌(Staphylococus aureus ATCC 6538P)
培養試験:37℃×18時間
生菌数測定法:混釈平板培養法。
そして、抗菌性の評価基準は、社団法人繊維評価技術協議会(繊技協)規定の基準に準じ、以下のようにした。すなわち、標準布の37℃で18時間培養試験後の生菌数の常用対数値から、抗菌加工試料の37℃で18時間培養試験後の生菌数の常用対数値を引いた値を静菌活性値として、静菌活性値が2.2以上の場合には効果があると判定した。
(実施例1)
ビス(2−エチルヘキシル)リン酸0.2mol(64.4g)と塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム・2水和物0.2mol(80.8g)とを容量500mLのビーカーの中で攪拌混合し、1M NaCO水溶液200mLを攪拌しながら少量ずつ添加した。得られた混合溶液(反応液)を大気中にて室温で7日間放置したところ、この反応液は水相と油相とに分離した。反応終了後、分液ロートを用いて水相を除去した。次いで、精製操作として得られた油相を、1M NaCO水溶液100mLを添加して水洗した後、水相を除去し、さらに、蒸留水100mLを添加して水洗した後、水相を除去した。この精製操作を3回行った後、得られた油相に対して減圧下(約40mmHg)、90℃で4時間減圧乾燥処理を施し、液状化合物を得た。得られた液状化合物の収率は82%であった。
得られた液状化合物のH−NMR分析を行ったところ、そのNMRスペクトルは以下の通り:
δ(ppm)=7.59(2H、d)、7.46(3H、m)、4.80(2H、s)、3.73(4H、m)、3.30(2H、m)、3.23(6H、s)、1.78(2H、m)、1.26(40H、m)、0.87(15H、m)
であり、得られた液状化合物は本発明のイオン性液体であるベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム−ビス(2−エチルヘキシル)リン酸であることが確認された。
また、得られたイオン性液体〔ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウム−ビス(2−エチルヘキシル)リン酸〕の融点は−45℃、粘度は3100mPa・s(E型粘度計、標準ローター使用、20rpm、25℃)であった。
更に、得られたイオン性液体は、前記減圧乾燥処理の際に、揮発・散逸することがなく、またTG(熱減量)を測定した際にも208℃まで、重量の減少が認められなかったことから、難揮発性であり、それ故に難燃性であることが確認された。
(実施例2)
塩化ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムの代わりに臭化ベンジルジメチルドデシルアンモニウム0.2mol(76.9g)を用いた以外は実施例1と同様にして液状化合物を得た。得られた液状化合物の収率は80%であった。
得られた液状化合物のH−NMR分析を行ったところ、そのNMRスペクトルは以下の通り:
δ(ppm)=7.58(2H、d)、7.46(3H、m)、4.76(2H、s)、3.74(4H、m)、3.26(2H、m)、3.23(6H、s)、1.80(2H、m)、1.26(38H、m)、0.87(15H、m)
であり、得られた液状化合物は本発明のイオン性液体であるベンジルジメチルドデシルアンモニウム−ビス(2−エチルヘキシル)リン酸であることが確認された。
また、得られたイオン性液体〔ベンジルジメチルドデシルアンモニウム−ビス(2−エチルヘキシル)リン酸〕の融点は−40℃、粘度は2510mPa・s(E型粘度計、標準ローター使用、20rpm、25℃)であった。
更に、得られたイオン性液体は、前記減圧乾燥処理の際に、揮発・散逸することがなく、またTG(熱減量)を測定した際にも205℃まで、重量の減少が認められなかったことから、難揮発性であり、それ故に難燃性であることが確認された。
(実施例3)
実施例1で得られた液状化合物を抗菌剤として用いて、その15質量%メタノール溶液に調製し、その溶液を用いてポリエステルポンジ白布に4%o.w.f.(on weight of fiber)の条件でスプレー処理を行った。その後、120℃にて2分間乾燥し、抗菌性ポリエステルポンジ白布を得た。得られた抗菌性ポリエステルポンジ白布について抗菌性を評価したところ、静菌活性値(黄色ぶどう球菌)は基準値2.2を超え4.0より大きい値であった。
(実施例4)
実施例1で得られた液状化合物の代わりに、実施例2で得られた液状化合物を抗菌剤として用いた以外は、実施例3と同様にして、抗菌性ポリエステルポンジ白布を得た。得られた抗菌性ポリエステルポンジ白布について抗菌性を評価したところ、静菌活性値(黄色ぶどう球菌)は基準値2.2を超え4.0より大きい値であった。
(実施例5)
実施例1で得られた液状化合物を抗菌剤として用いて、その15質量%メタノール溶液に調製し、その溶液を用いて綿ブロード白布に4%o.w.f.の条件でスプレー処理を行った。その後、120℃にて2分間乾燥し、抗菌性綿ブロード白布を得た。得られた抗菌性綿ブロード白布について抗菌性を評価したところ、静菌活性値(黄色ぶどう球菌)は基準値2.2を超え4.0より大きい値であった。
(実施例6)
実施例1で得られた液状化合物の代わりに、実施例2で得られた液状化合物を抗菌剤として用いた以外は、実施例5と同様にして、抗菌性綿ブロード白布を得た。得られた抗菌性綿ブロード白布について抗菌性を評価したところ、静菌活性値(黄色ぶどう球菌)は基準値2.2を超え4.0より大きい値であった。
(比較例1)
実施例1で得られた液状化合物を用いず、メタノールのみでポリエステルポンジ白布をスプレー処理し、比較のためのポリエステルポンジ白布を得た。得られたポリエステルポンジ白布について抗菌性を評価したところ、静菌活性値(黄色ぶどう球菌)は2.2より小さく、1.1の値を示した。
(比較例2)
実施例1で得られた液状化合物を用いず、メタノールのみで綿ブロード白布をスプレー処理し、比較のための綿ブロード白布を得た。得られた綿ブロード白布について抗菌性を評価したところ、静菌活性値(黄色ぶどう球菌)は2.2より小さく、1未満の値であった。
以上の実施例及び比較例で得られた結果から明らかな通り、実施例1〜2で得られた本発明のイオン性液体は、融点が十分に低く、室温で液状を維持されており、難揮発性であり、それ故に難燃性であることが確認された。また、実施例3〜6で得られた本発明の抗菌剤を付与した本発明の抗菌性繊維(繊維白布)における黄色ぶどう球菌に対する静菌活性値は、最低有効値2.2を遙かに超えた高い活性を示した。一方、本発明の抗菌剤を付与しなかった比較例1〜2で得られた繊維製品における黄色ぶどう球菌に対する静菌活性値は、最低有効値に達しない遙かに低い数値を示した。従って、本発明の抗菌剤は繊維製品に優れた抗菌性を付与できることが確認された。
以上説明したように、本発明のイオン性液体は、アルキルイミダゾリウムカチオン以外のカチオンを用いており、かつハロゲンフリーであるにも拘わらず、難揮発性、難燃性という従来の有機溶媒系とは異なるユニークな特性は維持しつつ、融点が十分に低く、室温で液状を維持できるものである。従って、本発明のイオン性液体は、反応溶媒や抽出溶媒として有用であり、しかもハロゲンフリーであるため環境低負荷型のいわゆるグリーン溶媒として非常に有用である。
また、本発明の抗菌剤は、繊維製品に優れた抗菌性を付与できると共に難揮発性でかつ難燃性で安全性が十分に高く、しかもハロゲンフリーでかつ融点が十分に低いため、環境に対する負荷が小さく工業的な取扱も容易な抗菌剤として非常に有用である。従って、本発明の抗菌剤及びそれを用いた抗菌性繊維は、家庭用品、トイレタリー、家電・事務用品、医療等の様々な分野における各種抗菌性製品に関する技術として非常に有用である。

Claims (3)

  1. 下記一般式(1):
    Figure 0004750499
    (式中、R及びRは2−エチルヘキシル基を表す。)
    で表されるアニオンと、下記一般式(2):
    Figure 0004750499
    (式中、Rは炭素数8〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Aはアルコキシ基、アルキル基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
    で表されるカチオンとからなることを特徴とするイオン性液体。
  2. 下記一般式(1):
    Figure 0004750499
    (式中、R及びRは2−エチルヘキシル基を表す。)
    で表されるアニオンと、下記一般式(2):
    Figure 0004750499
    (式中、Rは炭素数8〜14の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を表し、Aはアルコキシ基、アルキル基及びヒドロキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有していてもよいフェニル基を表す。)
    で表されるカチオンとからなるイオン性液体を含有することを特徴とする抗菌剤。
  3. 繊維と、前記繊維に担持されている請求項2に記載の抗菌剤とを備えることを特徴とする抗菌性繊維。
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