JP4748390B2 - 回転体締結構造及びこれを用いた鉄道車両用輪軸 - Google Patents

回転体締結構造及びこれを用いた鉄道車両用輪軸 Download PDF

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Description

本発明は、ボルト、ナット及び皿ばねを用いた回転体の締結構造であって、例えば、鉄道車両用ブレーキディスクと車輪との締結に用いた場合に於いても、ボルトの疲労信頼性に優れ、長期間の使用に耐え得る締結構造及びこれを用いた鉄道車両用輪軸に関する。
従来より、鉄道車両、自動車及び自動二輪車等の陸上輸送機械の制動装置として、ブロックブレーキ、ドラムブレーキ、ディスクブレーキなどが使用されている。特に近年では、車両の高速化や大型化に伴い、ディスクブレーキが多用されるようになってきている。
ディスクブレーキとは、ブレーキディスクとブレーキライニングとの摩擦によって制動力を得る装置である。より具体的に説明すれば、ディスクブレーキは、通常、ボルトによって車軸又は車輪に取り付けたドーナツ形の円盤状ディスクの摺動面に、ブレーキライニングを押し付けて制動力を得ることにより、車軸又は車輪の回転を制動して車両の速度を制御する装置である。この摺動面を有する円盤状ディスクをブレーキディスクと称する。
上記ブレーキディスクの中で、鉄道車両用ブレーキディスクには、側ディスクと軸マウントディスクとが存在する。側ディスクとは、車輪の側面に締結されるブレーキディスクのことであり、軸マウントディスクとは、例えば図17に示すような車軸13にディスク体14を介して締結されるブレーキディスクのことである。以下、側ディスク及び軸マウントディスクのことをブレーキディスクと総称する。
図2は、従来型の鉄道車両用ブレーキディスク(側ディスク)の形状を示し、図2(a)はブレーキディスクの1/4を示す平面図であり、図2(b)は図2(a)のA−A断面を示す断面図である。図2に示すように、ブレーキディスク1は、一般に、片側に摺動面2aを備えた摺動部2と、車輪等にブレーキディスク1を締結するための締結孔3aを備えた締結部3とから構成されている。
図3は、従来型の鉄道車両用ブレーキディスク(側ディスク)が車輪に取り付けられた状態を模式的に示す断面図である。図3に示すように、一対のブレーキディスク1は、締結部材であるボルト5とナット7とによって車輪4の両側面に締結され、車輪4と一体的に回転するように取付けられている。
そして、各ブレーキディスク1の摺動面2aに対向する位置には、摺動面2aの法線方向に移動可能なブレーキライニング6がそれぞれ取り付けられている。車両を停止させるために制動するときには、ブレーキライニング6がブレーキディスク1側に移動して車輪4の両側面から強く狭圧する。この際に生じる摩擦力によって、車輪4を介して車軸の回転を制動して車両を停止させる。
ところで、例えば、新幹線等の高速鉄道車両では、ブレーキディスクの回転速度や慣性力が非常に大きいため、制動中のブレーキディスクの温度上昇が著しく大きくなる。このため、ブレーキディスクに熱変形が生じたり、これに伴って締結部材であるボルトに著大な応力が作用する等の問題が生じている。
上記のようなブレーキディスクの熱変形を抑制する技術として、例えば、特許文献1に記載のように、摺動部で車輪と締結するブレーキディスクが提案されている。図4は、特許文献1に開示されたブレーキディスクの代表的な形態について、車輪との締結状態を示す断面図である。図4に示すように、このブレーキディスク1は、摺動部2に設けたボルト孔2bにボルト5を挿入することで車輪4と締結される。これによって、ブレーキディスク1が軸方向(図4の紙面上下方向)に変形しようとするのをボルト5によって抑えることができ、従来型のブレーキディスクに比べて熱変形を低減することが可能となる。
しかしながら、特許文献1に記載の締結方法では、ブレーキディスク1の熱膨張が直接ボルト5へ負荷されるため、1回のブレーキ作動によって発生するボルト5の応力変動は、従来型のブレーキディスクに比べむしろ大きくなる。このため、ボルト5の疲労破壊の危険性が増加するという問題がある。
ここで、締結部材であるボルトに発生する応力を低減し、疲労破壊に対する安全性を確保する技術として、皿ばねを用いた構造が用いられることが多い。その効果は、被締結物が変形しても、皿ばねがその変形分を吸収するため、ボルトに作用する動的な荷重が大きくならないことにある。
そして、ブレーキディスクの締結構造においても、例えば特許文献2、3に示すような皿ばねを用いた締結構造が提案されている。
特許文献2に記載の技術は、特にアルミ基複合材からなるブレーキディスクを使用するにあたり、アルミ基複合材のクリープ変形しやすい特性や高熱膨張率という欠点を補うものであり、上記欠点に起因するブレーキディスクと車輪とのずれやブレーキディスクのボルト孔周縁部の割れ・変形・陥没といった問題点を解決することを目的としている。具体的には、図5に示すように、ブレーキディスクのボルト孔を、内周側に開放した切欠形状とし、ボルト及びナットとブレーキディスクとの間に皿ばねを挿入した構成とすることで、ブレーキディスクの熱膨張に起因したボルト孔周縁部の割れ・変形・陥没を抑止している。
特許文献3に記載の技術も、特許文献2に記載の技術と同様に、特にアルミ基複合材からなるブレーキディスクを使用するにあたり、アルミ基複合材のクリープ変形しやすい特性や高熱膨張率という欠点を補うものであり、上記欠点に起因するブレーキディスクと車輪とのずれやブレーキディスクのボルト孔周縁部の割れ・変形・陥没といった問題点を解決することを目的としている。具体的には、図6に示すように、ブレーキディスクと車輪のボルト孔に筒状部材を挿入し、ボルト及びナットとブレーキディスクとの間に皿ばねを挿入した構成とすることで、ブレーキディスクの熱膨張に起因したボルト孔周縁部の割れ・変形・陥没を抑止している。
上記特許文献2及び3に記載の技術では、皿ばねを使用する目的が、ボルトの軸力の安定とボルト孔周縁部の割れ・変形・陥没を抑止することにあるが、当然ながら上述したようなボルトに作用する動的荷重の低減に効果があると考えられる。そして、動的荷重の低減に伴って、疲労破壊に対する安全性の確保にもある程度の効果が得られると予測される。
特開2001−311441号公報 特開平10−115336号公報 特開平10−167067号公報
前述したように、近年の車両の高速化に伴うブレーキ負荷の増大により、ブレーキディスクと車輪との締結に用いられるボルトの疲労損傷が問題となっており、ボルトを含むブレーキディスク締結構造の疲労信頼性を向上させることが課題となっている。
ここで、ブレーキディスク締結用ボルトの疲労信頼性を向上させるには、ボルトのねじ部(後述する図7の符号5cで示す部位)、幹部(図7の符号5aで示す部位)、首下部(図7の符号5dで示す部位)といった各部位についての疲労強度を総合的に検討しなければならない。上述した皿ばねを用いた締結構造は、ボルトに作用する動的荷重を低減できるため、ボルトのねじ部、幹部、首下部の全てにある程度の効果が発揮されるものと考えられる。ただし、ナット及び首下部と被締結物(ブレーキディスクのボルト孔周縁若しくは皿ばね)との接触状況が、皿ばねを用いない場合と異なるため、ねじ底R部や首下R部の応力集中が変化し、動的荷重が同じであっても疲労特性が変化する可能性がある。
このため、本発明の発明者らは疲労試験を行い、皿ばねを用いた場合及び用いない場合のボルトの疲労特性を評価した。図7は、疲労試験の状況を模式的に示す図であり、図7(a)はボルト単体(皿ばね未使用)での疲労試験の状況を、図7(b)は皿ばね付き(皿ばね使用)での疲労試験の状況を示す。図7(a)及び(b)に示すボルト5及びナット7としては、M18、ピッチ1.5mmのねじ形状のものを用いた。そして、図7(b)に示す皿ばね付きの疲労試験では、外径34mm、内径19mm、自由高さ4.65mm、板厚4mmの皿ばね9を3枚重ねにして、ボルト5の首下部5dと断面コの字型治具10aとの間、及び、ナット7の座面7aと断面コの字型治具10aとの間にそれぞれ挿入した。なお、皿ばね9は、前述した特許文献2、3と同様に、皿ばね9の凸面9dが首下部5d及びナット7の座面7a側に向くように配置した。疲労試験の条件としては、最小荷重を20kNとし、最大荷重を60kN又は70kNとする繰返し荷重を5〜10Hzの周波数で負荷させる条件を用いた。
表1に上記の疲労試験の結果を示す。表1に示すように、ボルト5に破断が生じた全ての条件について、ねじ部5cで破断していることが分かる。これは、首下部5dよりねじ部5cの方が最弱部位となっており、ボルト5の疲労信頼性を向上させるには、ねじ部5cの疲労特性を向上させる必要があることを意味している。図8に、表1に示した破断までの繰返し数(すなわち疲労寿命)を荷重条件毎に比較して示す。図8に示すように、同一荷重条件で比較すると、皿ばね付の方が短寿命となることが分かる。
Figure 0004748390
以上に説明した通り、特許文献2、3に開示されているように締結構造に皿ばねを用いることにより、動的荷重低減の効果は得られるものの、その低減量から期待されるほどボルトの疲労特性、すなわち締結構造の疲労信頼性は向上しないと結論付けられる。
本発明は、斯かる従来技術の問題点を解決するべくなされたものであり、ボルト、ナット及び皿ばねを用いた回転体の締結構造であって、例えば、鉄道車両用ブレーキディスクと車輪との締結に用いた場合に於いても、ボルトの疲労信頼性に優れ、長期間の使用に耐え得る締結構造及びこれを用いた鉄道車両用輪軸を提供することを課題とする。
前記課題を解決するべく、本発明の発明者らは、回転体の締結構造の内、鉄道車両用ブレーキディスクと車輪との締結構造に関して、ボルトへの軸力負荷を想定した数値解析及びボルトの疲労試験を実施して研究を重ねた結果、下記(A)〜(D)の知見を得た。
(A)ブレーキディスクの締結構造として皿ばねを用いた場合、被締結物であるブレーキディスクが変形しても、皿ばねがその変形分を吸収するため、ボルトに作用する動的荷重が大きくならず、ボルトの疲労信頼性が向上することが期待される。しかしながら、前述のように、疲労試験を行い同じ荷重条件で比較すると、皿ばねの凸面がナットの座面側となるように挿入した場合、ボルト単体で試験した場合に比べて短寿命となる。この結果が得られるのは、ナットと被締結物(ブレーキディスクのボルト孔周縁若しくは皿ばね)との接触状況が、皿ばねの有無で異なり、皿ばね付の方がボルトのねじ底R部での応力集中が大きくなるとの数値解析結果によって説明される。
(B)ボルトのねじ底R部での応力集中を低減するには、ナットのねじ部の剛性を低減し、ボルトのねじ部の変形を拘束しないようにすれば良い。
(C)ブレーキディスクのボルト孔周縁とナットとの間に挿入する皿ばねを、一般的な使用態様とは逆向き、すなわち皿ばねの凹面がナットの座面側に向くように挿入すると、上記(B)で述べたように、ねじ底R部での応力集中を低減でき、なお且つ上記(A)で述べた皿ばねによる動的荷重の低減効果も持続する。なお、皿ばねを用いた締結構造において、皿ばねの凸面がナットの座面側に向くように、すなわち皿ばねの凹面が被締結物側に向くように挿入されるのが一般的である。その理由は、通常ナットの座面と皿ばねとの接触面より被締結物と皿ばねとの接触面の方が大きいため、皿ばねの凹面が被締結物側に向くように挿入すると、皿ばねの外径を大きくとれ、皿ばねのばね性を有効に利用しやすいためである。
(D)ブレーキディスクのボルト孔周縁とボルト頭部との間に挿入する皿ばねについては、一般的な使用態様と同様に、皿ばねの凸面がボルトの首下部側に向くように挿入すると、首下R部での応力集中を低減することができる。
本発明は、上記発明者らが見出した新しい知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、第1の回転体及び第2の回転体にそれぞれ形成された貫通孔に挿通されるボルトと、前記ボルトのねじ部に螺合するナットと、前記ナットと前記第1又は第2の回転体との間に介挿される第1の皿ばねとを備え、前記第1及び第2の回転体が一体的に回転し得るように、前記第1の回転体と前記第2の回転体とを締結する締結構造であって、前記第1の回転体を挟んでその両側に前記第2の回転体が締結され、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが締結された状態において、前記第1の皿ばねは、該第1の皿ばねの凹面が前記ナット側に向くように介挿されており、前記第1の回転体が、鉄道車両用車輪又は車軸の側面に締結されるディスク体であり、前記第2の回転体が、前記車輪又は前記ディスク体の側面に締結されるブレーキディスクであることを特徴とする回転体締結構造を提供するものである。
斯かる発明によれば、ナットと螺合するボルトのねじ底R部での応力集中を低減することができ、ひいてはボルトの疲労信頼性が向上して、長期間の使用に耐え得る回転体の締結構造が提供可能である。
なお、本発明において、「第1の皿ばねの凹面がナット側に向くように介挿されている」とは、複数の皿ばねを重ねて介挿する場合、必ずしも全ての皿ばねの凹面がナット側に向くように介挿されることを意味するものではなく、少なくとも最もナット側に位置する皿ばねの凹面がナット側に向くように介挿されることを意味する。
なお、上記のように、第1の皿ばねの凹面がナット側に向くように第1の皿ばねを介挿する構成は、ナット及び第1の皿ばねが第1又は第2の回転体に形成された座ぐり穴内に配置される場合に特に有効である。ナット及び第1の皿ばねが座ぐり穴内に配置される場合には、座ぐり穴の穴径よりも大きな外径の皿ばねを用いることができないため、皿ばねの剛性を下げてボルトに作用する動的荷重を低減することが困難となるからである。
好ましくは、前記回転体締結構造は、前記ボルトの頭部と前記第2の回転体との間に介挿される第2の皿ばねを備え、前記第1の回転体と前記第2の回転体とが締結された状態において、前記第2の皿ばねは、該第2の皿ばねの凸面が前記ボルトの頭部側に向くように介挿される。
斯かる好ましい構成によれば、ボルトの首下R部での応力集中も低減することができ、ひいてはボルトの疲労信頼性がより一層向上して、より長期間の使用に耐え得る回転体の締結構造が提供可能である。
なお、上記好ましい構成において、「第2の皿ばねの凸面がボルトの頭部側に向くように介挿されている」とは、複数の皿ばねを重ねて介挿する場合、必ずしも全ての皿ばねの凸面がボルトの頭部側に向くように介挿されることを意味するものではなく、少なくとも最もボルトの頭部側に位置する皿ばねの凸面がボルトの頭部側に向くように介挿されることを意味する。
第1の皿ばねの凹面がナット側に向くように第1の皿ばねを介挿する構成は、前述したのと同様に、ナット及び第1の皿ばねが第2の回転体であるブレーキディスクに形成された座ぐり穴内に配置される場合に特に有効である。
そして、上記のようにブレーキディスク(ブレーキディスクの摺動部)に座ぐり穴を形成すれば、ブレーキディスクを、その摺動部(制動時にブレーキライニングが押し付けられる摺動面を有する部位)に於いて前記車輪又は前記ディスク体に締結させることが可能である。
なお、本発明は、前記回転体締結構造を用いて、車輪又はディスク体にブレーキディスクが締結されていることを特徴とする鉄道車両用輪軸としても提供される。
本発明に係る回転体締結構造によれば、ナットと螺合するボルトのねじ底R部での応力集中を低減することができ、ひいてはボルトの疲労信頼性が向上して、長期間の使用に耐え得るため、高速鉄道車両に用いられるブレーキディスクと車輪との締結等に好適に用いることが可能である。
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明に係る回転体締結構造の一実施形態について、ブレーキディスクと車輪との締結構造を例に挙げて説明する。
まず最初に、本発明の発明者らが前述の(A)〜(D)の知見を得るために実施した数値解析の内容について、より具体的に説明する。
(A)皿ばね挿入時のボルトのねじ底R部での応力集中(発生応力)について
本発明の発明者らは、前述した疲労試験で皿ばね付の方が短寿命となる理由を明らかにするため、図9に示すモデルを用いて有限要素法(FEM)による数値解析を行った。図9(a)はボルト単体(皿ばね未使用)での有限要素分割モデルを、図9(b)は皿ばね付き(皿ばね使用)での有限要素分割モデルを示す。図9に示すモデルでは、実際に疲労試験したものと同寸法のボルト5のねじ部5c、ナット7及び皿ばね9をモデル化し、軸力として20kNを作用させた状態におけるボルト5のねじ底の最大主応力のピーク値を求めた。表2に上記数値解析の結果得られた最大主応力のピーク値を、皿ばねの有無で比較して示す。
Figure 0004748390
表2に示すように、皿ばね付の方がボルト単体よりも発生する応力が大きいことが分かる。以上の結果より、皿ばね付の方がボルト単体よりも疲労試験で短寿命なのは、ナットと被締結物(ブレーキディスクのボルト孔周縁若しくは皿ばね)との接触状況が、皿ばねの有無で異なり、皿ばね付の方がボルトのねじ底R部での応力集中が大きくなるためであるといえる。
(B)ボルトのねじ底R部での応力集中低減方法について
図10に、上記数値解析によって得られたナットの変形図(変形倍率100倍)を示す。図10(a)はボルト単体(皿ばね未使用)でのナットの変形図を、図10(b)は皿ばね付き(皿ばね使用)でのナットの変形図を示す。図10に示すように、皿ばね付の方がボルト単体よりもナットの変形量が少ないことが分かる。すなわち、ナットの軸方向(図10の紙面左右方向)の変形量は、ボルト単体の場合をL1(変形前の軸方向長さはL0)、皿ばね付きの場合をL2とすると、L1>L2であり、ナットの半径方向(図10の紙面上下方向)の変形量は、ボルト単体の場合をH1、皿ばね付きの場合をH2とすると、H1>H2となっている。これは、皿ばね付の場合には、ボルト単体の場合に比べて、ナットの軸方向の変形を拘束する位置、すなわちナットの座面と被締結物(ブレーキディスクのボルト孔周縁若しくは皿ばね)との接触位置が内周側(図10の紙面下側)にあるため、ナットの軸方向及び半径方向への変形が拘束されているためであると考えられる。そして、ナットが変形し難いと、ねじ部でナットと接触するボルトの変形も拘束され、ナットの座面から一山目のねじに於いて負担する荷重が大きくなったため、皿ばね付の方がボルト単体に比べてねじ底R部での応力集中が大きくなったものと考えられる。以上の結果からして、逆にねじ底R部での応力集中を低減するには、ナットのねじ部の剛性を低減し、ボルトのねじ部の変形を拘束しないようにすれば良いとの結論を得た。
(C)皿ばねを逆向きに挿入することによるねじ底R部での応力集中低減効果について
本発明の発明者らは、上記(B)の検討において、ナットの座面と被締結物との接触位置が内周側にあると、ボルトのねじ底R部での応力集中が大きくなるとの結果を得たので、ナットの座面と被締結物との接触位置がより外周側となり、なお且つ皿ばね挿入による動的荷重低減効果も持続する構造について種々検討を重ねた結果、図11に示すように、皿ばね9を一般的な使用態様とは逆向きに挿入することに想到した。すなわち、皿ばね9を逆向きに挿入するということは、皿ばね9の凹面9cがナット7側に向くように配置することである。斯かる態様の効果を確認するため、上記(A)と同様に、図12に示すモデルを用いてFEMによる数値解析を行った。表3に上記数値解析の結果得られたボルト5のねじ底の最大主応力のピーク値を示す。
Figure 0004748390
表3に示すように、皿ばねを逆向きに挿入することによって、ボルトのねじ底R部の発生応力が大幅に低減されることが分かる。以上の結果より、皿ばねを逆向き、すなわち皿ばねの凹面がナット側に向くように挿入することで、ボルトのねじ底R部での応力集中を低減できるとの結論を得た。
(D)ボルト頭部と被締結物との間に挿入する皿ばねの向きについて
本発明の本発明者らは、ボルト頭部と被締結物との間に挿入する皿ばねの向きについて検討するため、図13に示すモデルを用いてFEMによる数値解析を行った。図13(a)は皿ばねの凸面9dがボルト5の首下部5d側に向くように挿入した場合の有限要素分割モデルを、図13(b)は皿ばねの凹面9cがボルト5の首下部5d側に向くように挿入した場合の有限要素分割モデルを示す。図13に示すモデルでは、ボルト5に軸力として20kNを作用させた状態における首下R部の最大主応力のピーク値を評価した。表4に上記数値解析の結果得られた最大主応力のピーク値を示す。
Figure 0004748390
表4に示すように、皿ばねの凸面が首下部側に向くように挿入する場合(表4に示す「皿ばね付き」)の方が、皿ばねの凹面が首下部側に向くように挿入する場合(表4に示す「逆向皿ばね付き」)よりも、低応力となることが分かる。これは、首下部では、ねじ部と異なり、ボルトの首下部と幹部とが一体化されているため、接触位置を外周側にずらして首下部の剛性を低減しても応力低減効果が得られず、逆に接触位置で受ける反力に起因した曲げモーメントが増大することにより、首下R部に生ずる応力が増大することが原因であると考えられる。
次に、本発明の発明者らが前述の(A)〜(D)の知見を得るために実施したボルトの疲労試験の内容について、より具体的に説明する。
図14は、上記疲労試験の状況を模式的に示す図である。図14に示す疲労試験においては、ナット7側に挿入した皿ばね9aを、前述した図7(b)に示す疲労試験とは逆向き、すなわち皿ばね9aの凹面9cがナット7側に向くように挿入した。また、ボルト5の首下部5d側に挿入した皿ばね9bを、前述した図7(b)に示す疲労試験と同様、皿ばね9bの凸面9dが首下部5d側を向くように挿入した。それ以外のボルト5、ナット7及び皿ばね9の形状並びに疲労試験条件は、全て図7を参照して説明した疲労試験と同じである。すなわち、ボルト5及びナット7としては、M18、ピッチ1.5mmのねじ形状のものを用い、皿ばね9としては、外径34mm、内径19mm、自由高さ4.65mm、板厚4mmのものを3枚重ねにして用い、疲労試験の条件としては、最小荷重を20kN、最大荷重を60kN又は70kNとする繰返し荷重を5〜10Hzの周波数で負荷させる条件を用いた。なお、ボルト5は、低合金鋼の圧延材を冷間鍛造して熱処理した後、機械加工し、ねじ部を転造して作製した。ナット7は、炭素鋼の圧延材を熱処理し、機械加工して作製した。皿ばね9は、ばね鋼の圧延材を機械加工し、熱処理して作製した。
表5に上記の疲労試験の結果を示す。また、図15に、表5に示した破断までの繰返し数(すなわち疲労寿命)を荷重条件毎に、図8に示す結果と比較して示す。図15に示すように、ナット側の皿ばねを逆向きに挿入した場合(図15に示す「逆向皿ばね付」)には、皿ばね付きやボルト単体の場合よりも長寿命となることが分かる。この結果は、前述した表3に示す数値解析結果で得られた逆向きに皿ばねを挿入することによる応力集中低減効果を裏付けるものである。以上の結果より、皿ばねを逆向き、すなわち皿ばねの凹面がナット側に向くように挿入することで、ボルトの疲労特性を向上させる効果があるとの結論を得た。
Figure 0004748390
以上の検討結果に基づき、本実施形態に係る回転体締結構造は、図1に示すような構成を有するものとされている。すなわち、本実施形態に係る回転体締結構造は、第1の回転体(本実施形態では車輪)4及び第2の回転体(本実施形態ではブレーキディスク)1にそれぞれ形成された貫通孔(ボルト孔)2b、4aに挿通されるボルト5と、ボルト5のねじ部5cに螺合するナット7と、ナット7と第1又は第2の回転体(本実施形態では第2の回転体であるブレーキディスク1)との間に介挿される第1の皿ばね9aとを備え、第1及び第2の回転体1、4が一体的に回転し得るように、第1の回転体4と第2の回転体1とを締結する構造である。そして、第1の皿ばね9aは、該第1の皿ばね9aの凹面9cがナット7側に向くように介挿されていることを特徴としている。
図1に示す回転体締結構造は、前述した特許文献1に開示された構造(図4参照)と同様に、ブレーキディスク1の摺動面2a中央にボルト孔2bを設け、ボルト5及びナット7によって、ブレーキディスク1と車輪4とを締結する構造において、本発明に係る回転体締結構造を適用した例である。図1に示す例では、ナット7及び第1の皿ばね9aが座ぐり穴2c内に配置されている。斯かる構成では、座ぐり穴2cの穴径よりも大きな外径の皿ばね9を用いることができないため、皿ばね9の剛性を下げてボルト5に作用する動的荷重を低減することは困難である。従って、本発明の特徴部分である第1の皿ばね9aの凹面9cがナット7側に向くように介挿されている構成は、図1に示す例のようにナット7及び第1の皿ばね9aが座ぐり穴2c内に配置される場合に、ボルト5の疲労信頼性を向上させるのに特に有効である。
なお、本発明に係る回転体締結構造は、図16に示すように、従来型(図3参照)の摺動面2aの内周側でボルト5によって車輪4に締結するブレーキディスク1の締結構造にも適用可能である。
本発明に係る回転体締結構造は、本実施形態で例示したブレーキディスク1と車輪4との締結に限るものではなく、ボルト5及びナット7を用いて種々の回転体を締結する際のボルト5の疲労信頼性向上に効果があり、特にナット7が座ぐり穴2c内に配置されることにより、使用可能な皿ばね9の外径が制約される場合に有効であると考えられる。
また、本実施形態では、第1の皿ばね9aを同じ向きに3枚重ねて挿入した構成について説明したが、必ずしも全ての皿ばね9aを同じ向きに挿入する必要はない。最もナット7側に位置する(ナット7と接触する)皿ばね9aの凹面9cがナット側に向くように挿入されている限りにおいて、皿ばね9aの枚数や、ナット7と直接接触しない皿ばね9aの向きに関わらず、前述したのと同様の効果が得られる。
本実施形態に係る締結構造は、好ましい構成として、ボルト5の頭部5bと第1又は第2の回転体(本実施形態では第2の回転体であるブレーキディスク1)との間に介挿される第2の皿ばね9bを備え、第2の皿ばね9bは、該第2の皿ばね9bの凸面9dがボルト5の頭部5b側に向くように介挿されている。斯かる好ましい構成により、ボルト5の首下R部での応力集中も低減することができ、ひいてはボルト5の疲労信頼性をより一層向上させることが可能である。ただし、第2の皿ばね9bの凸面9dがボルト5の頭部5b側に向くように挿入することは、前述した表1に示すように、疲労試験による破断部位が全てねじ部であったことから必須の構成ではない。なお、第2の皿ばね9bについても必ずしも全ての皿ばね9bを同じ向きに挿入する必要はない。最もボルト5の頭部5b側に位置する(ボルト5の首下部5dと接触する)皿ばね9bの凸面9dがボルト5の頭部5b側に向くように挿入されている限りにおいて、皿ばね9bの枚数や、ボルト5の首下部5dと直接接触しない皿ばね9bの向きに関わらず、前述したのと同様の効果が得られる。
なお、本実施形態では、ねじ部にテーパがついていないナット7を対象としたが、テーパの付いたナットに対しても同様の効果が得られることを、FEMによる数値解析で確認済みである。
図1は、本発明に係る回転体締結構造を適用したブレーキディスクと車輪との締結状態を模式的に示す断面図である。 図2は、従来型の鉄道車両用ブレーキディスク(側ディスク)の形状を示す。 図3は、従来型の鉄道車両用ブレーキディスク(側ディスク)が車輪に取り付けられた状態を模式的に示す断面図である。 図4は、特許文献1に開示されたブレーキディスクと車輪との締結状態を示す断面図である。 図5は、特許文献2に開示されたブレーキディスクの締結構造を示す図である。 図6は、特許文献3に開示されたブレーキディスクと車輪との締結状態を示す断面図である。 図7は、疲労試験の状況を模式的に示す図である。 図8は、図7に示す疲労試験の結果を示すグラフである。 図9は、数値解析に用いた有限要素分割モデルを示す図である。 図10は、図9に示すモデルを用いた数値解析によって得られたナットの変形図である。 図11は、本発明に係る回転体締結構造を模式的に示す断面図である。 図12は、本発明に係る回転体締結構造の数値解析に用いた有限要素分割モデルを示す図である。 図13は、本発明に係る回転体締結構造の数値解析に用いた他の有限要素分割モデルを示す図である。 図14は、本発明に係る回転体締結構造のボルトの疲労試験の状況を模式的に示す図である。 図15は、図14に示す疲労試験の結果を示すグラフである。 図16は、本発明に係る回転体締結構造を適用したブレーキディスクと車輪との締結状態の他の例を模式的に示す断面図である。 図17は、従来の軸マウントディスクの一例を示す図である。
符号の説明
1・・・ブレーキディスク(第2の回転体)
2・・・ブレーキディスクの摺動部
2a・・・ブレーキディスクの摺動面
2b・・・摺動部で締結するブレーキディスクのボルト孔(貫通孔)
2c・・・摺動部で締結するブレーキディスクの座ぐり穴
3・・・ブレーキディスクの締結部
3a・・・ブレーキディスクのボルト孔
4・・・車輪(第1の回転体)
4a・・・車輪のボルト孔(貫通孔)
5・・・ボルト
5a・・・ボルト幹部
5b・・・ボルト頭部
5c・・・ボルトねじ部
5d・・・ボルト首下部
6・・・ブレーキライニング
7・・・ナット
7a・・・ナットの座面
8・・・平座金
9・・・皿ばね
9a・・・第1の皿ばね
9b・・・第2の皿ばね
9c・・・皿ばねの凹面
9d・・・皿ばねの凸面
10・・・疲労試験治具
10a・・・疲労試験用コの字型治具
10b・・・疲労試験用ピン治具

Claims (5)

  1. 第1の回転体及び第2の回転体にそれぞれ形成された貫通孔に挿通されるボルトと、
    前記ボルトのねじ部に螺合するナットと、
    前記ナットと前記第1又は第2の回転体との間に介挿される第1の皿ばねとを備え、
    前記第1及び第2の回転体が一体的に回転し得るように、前記第1の回転体と前記第2の回転体とを締結する締結構造であって、
    前記第1の回転体を挟んでその両側に前記第2の回転体が締結され、
    前記第1の回転体と前記第2の回転体とが締結された状態において、前記第1の皿ばねは、該第1の皿ばねの凹面が前記ナット側に向くように介挿されており、
    前記第1の回転体が、鉄道車両用車輪又は車軸の側面に締結されるディスク体であり、
    前記第2の回転体が、前記車輪又は前記ディスク体の側面に締結されるブレーキディスクであることを特徴とする回転体締結構造。
  2. 前記ボルトの頭部と前記第2の回転体との間に介挿される第2の皿ばねを備え、
    前記第1の回転体と前記第2の回転体とが締結された状態において、前記第2の皿ばねは、該第2の皿ばねの凸面が前記ボルトの頭部側に向くように介挿されていることを特徴とする請求項1に記載の回転体締結構造。
  3. 前記ナット及び前記第1の皿ばねは、前記第2の回転体であるブレーキディスクに形成された座ぐり穴内に配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転体締結構造。
  4. 前記ブレーキディスクは、その摺動部に於いて前記車輪又は前記ディスク体に締結されることを特徴とする請求項に記載の回転体締結構造。
  5. 請求項1から4の何れかに記載の回転体締結構造を用いて、車輪又はディスク体にブレーキディスクが締結されていることを特徴とする鉄道車両用輪軸。
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