以下、本発明によるガス燃料エンジンの各実施形態について図面を参照しながら説明する。各実施形態に係るガス燃料エンジンは、燃焼室に酸素ガスと単原子ガスからなる作動ガスであるアルゴンガスとを供給するとともに、これらのガスを圧縮させることにより高圧となったガス中に燃料としての水素ガスを噴射することにより水素を拡散燃焼させる4サイクルエンジンである。更に、各実施形態に係るガス燃料エンジンは、燃焼室から排出された排ガス中の作動ガスを燃焼室に循環通路(循環経路)を通して循環(再供給)させる作動ガス循環型多気筒水素エンジン(水素ガス燃料エンジン)である。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るエンジンを含むシステムの概略図である。このシステムは、水素ガス燃料エンジン10、水素供給部40、酸素供給部50、作動ガス循環通路部60、筒内圧低減部70及び電気制御装置80を備えている。なお、図1は、エンジン10の特定気筒の断面と、同特定気筒に接続された吸気ポート及び排気ポートの断面と、を示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
エンジン10は、シリンダヘッド部が形成するシリンダヘッド11と、シリンダブロック部が形成するシリンダ12と、シリンダ12内において往復運動するピストン13と、クランク軸14と、ピストン13とクランク軸14とを連結しピストン13の往復運動をクランク軸14の回転運動に変換するためのコネクティングロッド15と、シリンダブロックに連接されたオイルパン16とを備えるピストン往復動型エンジンである。ピストン13の側面にはピストンリング13aが配設されている。
シリンダヘッド11、シリンダ12及びオイルパン16から形成される空間は、ピストン13により、ピストン13の頂面側の燃焼室21と、クランク軸14を収容するクランクケース22と、に区画されている。
シリンダヘッド11には、燃焼室21に連通した吸気ポート31と、燃焼室21に連通した排気ポート32と、が形成されている。
吸気ポート31には吸気ポート31を開閉するための吸気弁33が配設されている。シリンダヘッド11には、吸気弁駆動機構(吸気弁アクチュエータ)33aが配設されている。吸気弁駆動機構33aは、駆動信号に応答して吸気弁33を開閉駆動し、これにより吸気ポート31を開閉するようになっている。
排気ポート32には排気ポート32を開閉するための排気弁34が配設されている。シリンダヘッド11には、排気弁駆動機構(排気弁アクチュエータ)34aが配設されている。排気弁駆動機構34aは、駆動信号に応答して排気弁34を開閉駆動し、これにより排気ポート32を開閉するようになっている。
更に、シリンダヘッド11には、水素(水素ガス)を燃焼室21内(筒内)に直接噴射する水素噴射弁35が配設されている。
水素供給部40は、水素タンク(水素ガスタンク、水素ボンベ)41、水素ガス通路42、水素ガス圧レギュレータ43、水素ガス流量計44及びサージタンク45を備えている。
水素タンク41は燃料としての水素ガスを高圧状態にて貯蔵するガス燃料貯蔵タンクである。水素ガス通路42は、水素タンク41と水素噴射弁35とを連通する通路(管)である。水素ガス通路42には、水素タンク41から水素噴射弁35に向かう順に水素ガス圧レギュレータ43、水素ガス流量計44及びサージタンク45が介装されている。
水素ガス圧レギュレータ43は、周知のプレッシャレギュレータである。水素ガス圧レギュレータ43は、水素タンク41内の水素ガスの圧力を減少させ、水素ガス圧レギュレータ43よりも下流(サージタンク45側)における水素ガス通路42内の圧力を設定圧力以下の圧力に調整するようになっている。なお、水素ガス圧レギュレータ43を省略してもよい。
水素ガス流量計44は、水素ガス通路42を流れる水素ガスの量(水素ガス流量)を計測し、同水素ガス流量を表す信号FH2を発生するようになっている。サージタンク45は、水素ガス噴射時に水素ガス通路42内に発生する脈動を低減するようになっている。
酸素供給部50は、酸素タンク(酸素ガスタンク、酸素ボンベ)51、酸素ガス通路52、酸素ガス圧レギュレータ53、酸素ガス流量計54及び酸素ガスミキサ55を備えている。
酸素タンク51は酸素ガスを所定の圧力にて貯蔵するタンクである。酸素ガス通路52は、酸素タンク51と酸素ガスミキサ55とを連通する通路(管)である。酸素ガス通路52には、酸素タンク51から酸素ガスミキサ55に向かう順に酸素ガス圧レギュレータ53及び酸素ガス流量計54が介装されている。
酸素ガス圧レギュレータ53は、周知の調整圧可変型プレッシャレギュレータである。即ち、酸素ガス圧レギュレータ53は、酸素ガス圧レギュレータ53よりも下流(酸素ガスミキサ55側)における酸素ガス通路52内の圧力を指示信号に応じた目標調整圧力RO2tgtに調整できるようになっている。換言すると、酸素ガス圧レギュレータ53は、指示信号に応答して酸素ガス通路52を流れる酸素ガス量を制御することができるようになっている。
酸素ガス流量計54は、酸素ガス通路52を流れる酸素ガスの量(酸素ガス流量)を計測し、同酸素ガス流量FO2を表す信号を発生するようになっている。酸素ガスミキサ55は、後述する作動ガス循環通路部60の第3通路63に介装されている。酸素ガスミキサ55は、酸素ガス通路52を介して供給された酸素と、第3通路63を介して入口部に供給されるガス(主として作動ガス、即ち、アルゴンガス)とを混合し、その混合したガスを出口部から排出するようになっている。
作動ガス循環通路部60は、第1〜3通路(第1〜第3経路、第1〜第3流路形成管)61〜63、凝縮器64及びアルゴンガス流量計65を備えている。
第1通路61は、排気ポート32と凝縮器64の入口部とを接続している。第2通路62は凝縮器64の出口部とアルゴンガス流量計65の入口部とを接続している。第3通路63は、アルゴンガス流量計65の出口部と吸気ポート31とを接続している。第3通路63には酸素ガスミキサ55が介装されている。
凝縮器64は、燃焼室21から排出された排ガスを第1通路61及び凝縮器64の入口部を経由して導入するようになっている。凝縮器64は、入口部から導入した排ガスを冷却水Wにより冷却することにより、排ガスに含まれる水蒸気を凝縮液化するようになっている。これにより、凝縮器64は、排ガスに含まれる水蒸気を非凝縮ガスと分離して水となし、その水を外部に排出するようになっている。更に、凝縮器64は、前記分離した非凝縮ガスをその出口部から第2通路62に供給するようになっている。
アルゴンガス流量計65は、第2通路62及び第3通路63を流れるアルゴンガスの量(アルゴンガス流量)を計測し、同アルゴンガス流量FArを表す信号を発生するようになっている。
筒内圧低減部70は、吸気絞り弁71及び吸気絞り弁アクチュエータ72を備えている。
吸気絞り弁71は、吸気ポート31に回動可能に支持されている。吸気絞り弁アクチュエータ72は、駆動信号に応答して吸気絞り弁71の開度を変更し、吸気ポート31の通路断面積(開口面積)を変更するようになっている。なお、吸気絞り弁71は、吸気ポート31に接続された吸気通路(吸気管)を形成する第3通路63に備えられていてもよい。
電気制御装置80は、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子装置である。電気制御装置80には、水素ガス流量計44、酸素ガス流量計54、アルゴンガス流量計65、アクセルペダル操作量センサ81、エンジン回転速度センサ82、酸素濃度センサ83、水素濃度センサ84、筒内圧センサ85、サージタンク圧力センサ86及び水素タンク内圧力センサ87が接続されている。電気制御装置80は、これらから各測定信号(検出信号)を入力するようになっている。
アクセルペダル操作量センサ81は、アクセルペダルAPの操作量を検出し、同アクセルペダルAPの操作量を表す信号Accpを出力するようになっている。エンジン回転速度センサ82は、クランク軸14の回転速度に基づいてエンジン回転速度を表す信号NEとクランク角度を表す信号とを発生するようになっている。
酸素濃度センサ83及び水素濃度センサ84は、第2通路62に配設されている。酸素濃度センサ83は、配設部位(第2通路62)を流れるガスの酸素濃度を検出し、酸素濃度を表す信号Voxを発生するようになっている。水素濃度センサ84は、配設部位(第2通路62)を流れるガスの水素濃度を検出し、水素濃度を表す信号VH2を発生するようになっている。
筒内圧センサ85は、燃焼室21内の(ガスの)圧力を検出し、その圧力(筒内圧)を表す信号Pcyを発生するようになっている。
サージタンク圧力センサ86は、サージタンク45内の水素ガスの圧力を検出し、サージタンク内の圧力(サージタンク圧力)Psgを表す信号を発生するようになっている。
水素タンク内圧力センサ87は、水素タンク41と水素ガス圧レギュレータ43との間の水素ガス通路42に配設されている。水素タンク内圧力センサ87は、水素タンク41内の水素ガスの圧力(水素タンク内圧力)を検出し、検出した水素タンク内圧力PH2を表す信号を発生するようになっている。
更に、電気制御装置80は、各気筒の水素噴射弁35、酸素ガス圧レギュレータ53、吸気絞り弁アクチュエータ72、吸気弁駆動機構33a及び排気弁駆動機構34aと接続されていて、これらに指示信号又は駆動信号を送出するようになっている。電気制御装置80は、アクセルペダル操作量Accp(負荷)とエンジン回転速度NEとに基づいて定まる吸気弁開弁タイミングIO及び吸気弁閉弁タイミングICにて吸気弁33をそれぞれ開弁及び閉弁させるように、吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出するようになっている。電気制御装置80は、アクセルペダル操作量Accp(負荷)とエンジン回転速度NEとに基づいて定まる排気弁開弁タイミングEO及び排気弁閉弁タイミングECにて排気弁34をそれぞれ開弁及び閉弁させるように、吸気弁駆動機構34aに駆動信号を送出するようになっている。
次に、上記のように構成された水素ガス燃料エンジン10を含むシステムの作動について図2乃至図4を参照しながら説明する。
電気制御装置80のCPUは、エンジン10のクランク角度が所定のクランク角度(例えば、各気筒の圧縮上死点前9度)に一致する毎に図2にフローチャートにより示した噴射制御ルーチンを実行するようになっている。従って、エンジン10のクランク角度が前記所定のクランク角度に一致すると、CPUはこのルーチンの処理をステップ200から開始してステップ205に進み、要求水素量SH2を現時点にて検出されているアクセルペダル操作量Accp(負荷)及び現時点にて検出されているエンジン回転速度NEと関数f1とに基づいて求める。関数f1は、アクセルペダル操作量Accp及びエンジン回転速度NEにより定まる運転要求トルクに応じた要求水素量SH2を求めるための予め定められた関数(例えば、ルックアップテーブル)である。
次いで、CPUはステップ210に進み、上記要求水素量SH2、現時点で検出されているサージタンク圧力Psg、現時点で検出されている筒内圧Pcy及び現時点で検出されているエンジン回転速度NEと、予め定められた関数f2(例えば、ルックアップテーブル)と、に基づいて要求水素量SH2を水素噴射弁35の開弁時間である水素噴射時間TAUに変換する。そして、CPUはステップ215に進んで水素噴射時間TAUの時間だけ圧縮上死点前9度のクランク角度となっている気筒の水素噴射弁35を開弁する駆動信号を水素噴射弁35に送出し、ステップ295に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、要求されたトルクを発生するのに必要な量の水素が燃焼室21内に供給され、拡散燃焼によって燃焼させられる。
なお、CPUは、現時点にて検出されているアクセルペダル操作量Accp(負荷)及び現時点にて検出されているエンジン回転速度NE等に基づいて、水素ガス噴射タイミング(ガス燃料噴射タイミング)を決定し、その水素ガス噴射タイミングにて水素ガスを噴射させてもよい。いずれにしても、水素ガス噴射タイミングは、圧縮上死点近傍のタイミングであって、拡散燃焼が安定的に行われるタイミングに設定される。
更に、CPUは、所定時間の経過毎に図3にフローチャートにより示したレギュレータ制御ルーチンを実行するようになっている。従って、CPUは、所定のタイミングになるとこのルーチンの処理をステップ300から開始してステップ305に進み、現時点における要求水素量SH2の単位時間あたりの平均値SH2aveを算出する。この算出は、前述した図2のステップ205により求められる各気筒に対する要求水素量SH2の総てを単位時間に渡って積算することにより行われる。次いで、CPUはステップ310に進んで上記のようにして求められた平均値SH2aveと予め定められた関数f3(例えば、ルックアップテーブル)とに基づいて目標酸素ガス流量FO2tgtを求める。
前述したように、エンジン10は水素を燃料として燃焼させる。従って、水素の燃焼により水のみを生成するためには、水素2モルに対して酸素1モルを供給する必要がある。このため、関数f3は、平均値SH2aveにより表される水素のモル数の半分のモル数の酸素(実際には、同半分のモル数の酸素量に相当に大きい余裕量を加えた量の酸素)が燃焼室21に供給されるように、目標酸素ガス流量FO2tgtを決定するようになっている。
次いで、CPUはステップ315に進み、現時点にて検出されている酸素ガス流量FO2が上記目標酸素ガス流量FO2tgt以上であるか否かを判定する。そして、CPUは、現時点にて検出されている酸素ガス流量FO2が上記目標酸素ガス流量FO2tgt以上であると判定したとき、ステップ320に進んで酸素ガス圧レギュレータ53の目標調整圧力RO2tgtを正の一定値aだけ減少させる。これにより、酸素ガスミキサ55に供給される酸素ガス量が減少する。
一方、CPUは、ステップ315にて現時点にて検出されている酸素ガス流量FO2が上記目標酸素ガス流量FO2tgtより小さいと判定したとき、ステップ325に進んで酸素ガス圧レギュレータ53の目標調整圧力RO2tgtを正の一定値bだけ増大させる。これにより、酸素ガスミキサ55に供給される酸素ガス量が増大する。以上により、必要十分な量の酸素が酸素ガスミキサ55を介して燃焼室21に供給される。次いで、CPUはステップ395に進み、本ルーチンを一旦終了する。以上により、適量の水素ガス及び酸素ガスが燃焼室21に供給される。
更に、CPUは、所定時間の経過毎に図4にフローチャートにより示した吸気絞り弁制御ルーチンを実行するようになっている。先ず、ガス燃料貯蔵タンクである水素タンク41に十分な水素が貯蔵されていて、水素タンク41内の水素ガスの圧力(水素タンク内圧力)が十分に高いと仮定して説明する。
CPUは、所定のタイミングになると図4に示したルーチンの処理をステップ400から開始し、ステップ405に進んで現時点が特定気筒の上死点前10度(水素噴射弁35から水素ガスが噴射される直前であって、特定気筒の圧縮上死点前の所定クランク角度)であるか否かを判定する。現時点が特定気筒の上死点前10度でなければ、CPUはステップ405にて「No」と判定して直接ステップ495に進み、本ルーチンを一旦終了する。
一方、現時点が特定気筒の上死点前10度であると、CPUはステップ405にて「Yes」と判定してステップ410に進み、筒内圧センサ85から筒内圧Pcyを取得する。次いで、CPUはステップ415にて、水素タンク内圧力センサ87から水素タンク内圧力PH2を取得し、ステップ420に進んで水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力(要求噴射圧力)よりも大きいか否かを判定する。即ち、CPUはステップ420にて、水素タンク内圧力PH2が適正な噴射を行うための圧力より大きい圧力であるか否かを判定する。
前述の仮定に従えば、水素タンク41内の水素ガスの圧力は十分に高いから、水素タンク内圧力PH2は筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きい。従って、CPUはステップ420にて「Yes」と判定してステップ425に進み、吸気絞り弁目標開度Chtgtを最大値(全開開度)に設定する。次いで、CPUはステップ430に進み、吸気絞り弁71の開度が吸気絞り弁目標開度Chtgt(この場合、最大値)となるように吸気絞り弁アクチュエータ72に駆動信号を送出し、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上のように、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きいとき、吸気絞り弁71の開度は最大値となるので、燃焼室21には所定の量のアルゴンガス(循環ガス)及び酸素ガスが供給される。
次に、このような運転が繰り返されることにより、水素タンク41内の水素ガスが消費され、水素タンク41内に残存する水素の量が少なくなった場合、即ち、水素タンク41内の水素ガスの圧力(水素タンク内圧力)PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となったと仮定して説明する。
この場合、CPUはステップ405乃至ステップ415に続くステップ420にて「No」と判定してステップ435に進み、吸気絞り弁目標開度Chtgtを、ステップ415にて取得した水素タンク内圧力PH2からステップ410にて取得した筒内圧Pcyを減じた値(水素タンク内圧力PH2と筒内圧Pcyとの圧力差=PH2−Pcy)と関数fとに基づいて決定する。関数fは、図4に示したように、圧力差(PH2−Pcy、但しPH2−Pcy>0である。)に対して単調増加する関数である。即ち、吸気絞り弁目標開度Chtgtは関数fによって圧力差(PH2−Pcy)が小さくなるほど(水素タンク内圧力PH2が小さくなるほど)小さい値に設定される。換言すると、水素タンク内圧力PH2が小さくなるほど吸気ポート31の通路断面積が小さくなるように(絞り量が大きくなるように)、吸気絞り弁目標開度Chtgtが求められる。
その後、CPUはステップ430に進み、吸気絞り弁71の開度が吸気絞り弁目標開度Chtgtとなるように吸気絞り弁アクチュエータ72に駆動信号を送出し、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、吸気ポート31の通路断面積が小さくなるから、燃焼室21には一回の吸気行程において、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きい場合よりも少ない量のアルゴンガス(循環ガス)及び酸素ガスが吸入される。従って、圧縮行程の開始タイミング(吸気弁33の閉弁タイミング)において燃焼室21内に存在しているガスの量が低減せしめられるので、圧縮上死点(或いは、圧縮上死点近傍のクランク角度であって水素ガスの噴射タイミング直前の時点)における燃焼室21内の圧力(以下、便宜上「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」とも称呼する。)が低下する。従って、水素タンク内圧力PH2が要求噴射圧より低下した場合にも、水素噴射弁35から燃焼室21内に水素ガスを噴射することができる。
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係るエンジンは、水素タンク41内の圧力が所定値(燃焼室21に所定の噴射タイミングにて水素ガスを噴射するために必要な水素ガスの圧力)以下になった場合、噴射タイミング筒内圧を低減することができる。この結果、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係るエンジンは、上記第1実施形態に係るエンジンの筒内圧低減部70を備える代わりに、筒内圧低減部の機能を「吸気弁閉弁タイミングを変更すること」により達成している点のみにおいて、第1実施形態に係るエンジンと相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。
図5は、この第2実施形態のエンジンにおける吸気弁開弁タイミングと吸気弁閉弁タイミングを示した図である。図5に示したように、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力(要求噴射圧力)よりも大きいとき、このエンジンの電気制御装置80は、吸気弁開弁タイミングIOPHにて吸気弁33を開弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出するとともに吸気弁閉弁タイミングICPHにて吸気弁33を閉弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出する。
吸気弁開弁タイミングIOPHは、クランク角が吸気上死点(排気上死点)TDCよりクランク角度θa(0<θa<45度)だけ進角した角度になった時点である。吸気弁閉弁タイミングICPHは、クランク角が吸気下死点BDCよりクランク角度θb(0<θb<45度)だけ遅角した角度になった時点である。従って、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力より大きい場合、吸気弁33が開弁している期間IVopen(PH2大)のクランク角度θopenは、θa+180度+θbである。
これに対し、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となったとき、このエンジンの電気制御装置80は、吸気弁開弁タイミングIOPLにて吸気弁33を開弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出するとともに吸気弁閉弁タイミングICPLにて吸気弁33を閉弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出する。
吸気弁開弁タイミングIOPLは、クランク角が吸気上死点(排気上死点)TDCよりクランク角度θa’(0<θa’<90度)だけ遅角した角度になった時点である。吸気弁開弁タイミングIOPLと吸気弁開弁タイミングIOPHとのクランク角度差は、クランク角度θd(θd=θa+θa’)である。吸気弁閉弁タイミングICPLは、クランク角が吸気下死点BDCよりクランク角度θb’(0<θb<θb’<90度)だけ遅角した角度になった時点である。吸気弁閉弁タイミングICPLと吸気弁閉弁タイミングICPHとのクランク角度差は、クランク角度θd(θd=θb’−θb=θa+θa’)に設定されている。従って、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力(要求噴射圧力)以下となった場合においても、吸気弁33が開弁している期間IVopen(PH2小)のクランク角度θopenは、θa+180度+θbである。
次に、第2実施形態の実際の作動について説明する。第2実施形態のCPUは、図4に示したルーチンに代え、図6に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。なお、図6に示したステップにおいて図4に示したステップと同一のステップには同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
CPUは、所定のタイミングにてステップ600からステップ405に進み、現時点が特定気筒の上死点前10度(水素噴射弁35から水素ガスが噴射される直前であって、特定気筒の圧縮上死点前の所定クランク角度)であるか否かを判定する。現時点が特定気筒の上死点前10度でなければ、CPUはステップ405にて「No」と判定して直接ステップ695に進み、本ルーチンを一旦終了する。
一方、現時点が特定気筒の上死点前10度であると、CPUはステップ405にて「Yes」と判定してステップ410及びステップ415の処理を行い、ステップ420に進んで水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力(要求噴射圧力)よりも大きいか否かを判定する。即ち、CPUはステップ420にて、水素タンク内圧力PH2が適正な噴射を行うための圧力より大きい圧力であるか否かを判定する。
そして、水素タンク41内の水素ガスの圧力が十分に高く、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きい場合、CPUはステップ610に進んで吸気弁閉弁タイミングICを上記吸気弁閉弁タイミングICPHに設定する。次いでCPUはステップ615に進み、吸気弁開弁タイミングIOを吸気弁閉弁タイミングICPHから上記クランク角度θopen(=θa+180度+θb)だけ進角したタイミング(即ち、上記吸気弁開弁タイミングIOPH)に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPUは図示しない吸気弁・排気弁開閉ルーチンを所定時間の経過毎に実行するようになっている。そして、CPUが吸気弁・排気弁開閉ルーチンを実行することにより、クランク角が吸気弁開弁タイミングIO(=IOPH)に一致したとき吸気弁33が開弁させられ、クランク角が吸気弁閉弁タイミングIC(=ICPH)に一致したとき吸気弁33が閉弁させられる。
これに対し、水素タンク41内の水素ガスの圧力が低下し、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、CPUはステップ420に進んだとき同ステップ420にて「No」と判定してステップ620に進み、吸気弁閉弁タイミングICを上記吸気弁閉弁タイミングICPLに設定する。
より具体的には、CPUは、遅角量θdをステップ415にて取得した水素タンク内圧力PH2からステップ410にて取得した筒内圧Pcyを減じた値(水素タンク内圧力PH2と筒内圧Pcyとの圧力差=PH2−Pcy)と関数gとに基づいて決定する。関数gは、図6に示したように、圧力差(PH2−Pcy、但しPH2−Pcy>0である。)に対して単調減少する関数である。そして、CPUは、吸気弁閉弁タイミングICPLを、吸気弁閉弁タイミングICPHに遅角量θdを加えたタイミング(遅角させたタイミング)に設定し、その吸気弁閉弁タイミングICPLを吸気弁閉弁タイミングICに代入する。換言すると、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに近づくほど、吸気弁閉弁タイミングICが吸気効率が最大近傍となる吸気弁閉弁タイミングICPHよりも圧縮上死点側に変更される。
次いで、CPUはステップ625に進み、吸気弁開弁タイミングIOを吸気弁閉弁タイミングICPLからクランク角度θopen(=θa+180度+θb)だけ進角したタイミング(即ち、上記吸気弁開弁タイミングIOPL)に設定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。これにより、CPUが図示しない吸気弁・排気弁開閉ルーチンを実行することにより、クランク角が吸気弁開弁タイミングIOPLに一致したとき吸気弁33が開弁させられ、クランク角が吸気弁閉弁タイミングICPLに一致したとき吸気弁33が閉弁させられる。
以上のように、本実施形態のエンジンにおいては、タンクガス圧が小さいときにはタンクガス圧が大きいときよりも、吸気弁の閉弁タイミングICが吸気下死点から圧縮上死点までの間においてクランク角度θdだけ遅角させられる。この結果、吸気弁33が開弁している期間において燃焼室21内に吸入される作動ガス及び酸素ガスの量が減少する。
換言すると、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、圧縮行程の開始タイミング(吸気弁33の閉弁タイミング)において燃焼室21内に存在しているガスの量が低減せしめられる。これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」が低下する。従って、水素タンク内圧力PH2が低下した場合にも、水素噴射弁35から燃焼室21内に水素ガスを噴射することができる。この結果、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。
加えて、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに近づくほど(換言すると、水素タンク内圧力PH2が小さくなるほど)、吸気弁閉弁タイミングの遅角量θd(即ち、θb’)を大きくし、これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」をより低減させている。従って、必要以上に「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」が低下しないので、エンジンの熱効率が大きく低下することを回避することもできる。
なお、本実施形態においては、水素タンク内圧力PH2の大きさに拘らず、吸気弁33が開弁している期間のクランク角度θopenは変化しない。即ち、IVopen(PH2小)=IVopen(PH2大)である。従って、上記のような吸気弁駆動機構33aではなく、周知の可変バルブタイミング機構(吸気弁が開弁している作用角θopenが一定で、吸気弁開弁タイミング(従って、吸気弁閉弁タイミング)を変化させる機構)を用いることもできる。
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係るエンジンは、吸気弁開弁タイミング及び吸気弁閉弁タイミングを上記第2実施形態に係るエンジンの吸気弁開弁タイミング及び吸気弁閉弁タイミングとは異なるタイミングに設定した点のみにおいて、第2実施形態に係るエンジンと相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。
図7は、この第3実施形態のガス燃料エンジンにおける吸気弁開弁タイミングと吸気弁閉弁タイミングを示した図である。図7に示したように、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力(要求噴射圧力)よりも大きいとき、このエンジンの電気制御装置80は、吸気弁開弁タイミングIOPHにて吸気弁33を開弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出するとともに吸気弁閉弁タイミングICPHにて吸気弁33を閉弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出する。
吸気弁開弁タイミングIOPHは、クランク角が吸気上死点(排気上死点)TDCよりクランク角度θe(0<θe<90度)だけ進角した角度になった時点である。吸気弁閉弁タイミングICPHは、クランク角が吸気下死点BDCよりクランク角度θf(0<θf<90度)だけ遅角した角度になった時点である。
これに対し、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となったとき、このエンジンの電気制御装置80は、吸気弁開弁タイミングIOPLにて吸気弁33を開弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出するとともに吸気弁閉弁タイミングICPLosにて吸気弁33を閉弁するように吸気弁駆動機構33aに駆動信号を送出する。
吸気弁開弁タイミングIOPLは、吸気弁開弁タイミングIOPHと同一のタイミングである。吸気弁閉弁タイミングICPLosは、クランク角が吸気下死点BDCよりクランク角度θg(0<θf<θg<110度、好ましくは、90度<θg<110度)だけ遅角した角度になった時点である。吸気弁閉弁タイミングICPLosと吸気弁閉弁タイミングICPHとのクランク角度差は、クランク角度θi(θi=θg−θf)に設定されている。
以上のように、本実施形態のエンジンにおいては、タンクガス圧が小さいときにはタンクガス圧が大きいときよりも、吸気弁の閉弁タイミングが吸気下死点から圧縮上死点までの間においてクランク角度θi(θi=θg−θf)だけ遅角させられる。
この結果、吸気弁33が開弁している期間において燃焼室21内に吸入される作動ガス及び酸素ガスの量が減少する。即ち、圧縮行程の開始タイミング(吸気弁33の閉弁タイミング)において燃焼室21内に存在しているガスの量が低減せしめられる。これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」が低下する。従って、水素タンク内圧力PH2が低下した場合にも、水素噴射弁35から燃焼室21内に水素ガスを噴射することができる。この結果、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。
なお、本例においても、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに近づくほど(換言すると、水素タンク内圧力PH2が小さくなるほど)、吸気弁閉弁タイミングの遅角量θi(即ち、θg)を大きくし、これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」をより低減させてもよい。
更に、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となったとき、図7に示したように、吸気弁閉弁タイミングを吸気弁閉弁タイミングICPLhyに設定してもよい。吸気弁閉弁タイミングICPLhyは、吸気下死点からクランク角度θgだけ進角したタイミングである。このように吸気弁閉弁タイミングを変更した場合であっても、吸気弁33が開弁している期間において燃焼室21内に吸入される作動ガス及び酸素ガスの量が(吸気弁閉弁タイミングを吸気弁閉弁タイミングICPLosに設定した場合と同程度だけ)減少するから、圧縮行程の開始タイミング(吸気弁33の閉弁タイミング)において燃焼室21内に存在しているガスの量が低減せしめられる。
<第4実施形態>
本発明の第4実施形態に係るエンジンは、上記第1実施形態に係るエンジンの筒内圧低減部70を、図8に示した筒内圧低減部90に置換した点のみにおいて、第1実施形態の水素エンジンと相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。
ここでは、説明の便宜上、第2通路62は、通路62a、通路62b及び通路62cからなっているとして説明する。通路62aは、凝縮器64の出口部と後述する分岐点PBとを接続している。通路62bは、分岐点PBと後述する合流点PGとを接続している。通路62cは、合流点PGとアルゴンガス流量計65の入口部とを接続している。図8において、吸気弁駆動機構33a及び排気弁駆動機構34aは、図示が省略されている。
筒内圧低減部90は、蓄圧タンク91、上流側通路(蓄圧用の第1通路)92、下流側通路(導入用の第2通路)93、コンプレッサ(昇圧手段、ポンプ)94、逆止弁95及び切換弁(導入バルブ)96を備えている。
上流側通路92は、第2通路62と蓄圧タンク91の入口部とを接続している。上流側通路92が第2通路62から分岐する点である分岐点PBは、通路62aと62bとの接続点でもある。
下流側通路93は、蓄圧タンク91の出口部と第2通路62の分岐点PBよりも循環ガスの流れにおいて下流側の位置の合流点PGとを接続している。下流側通路93が第2通路62に合流する合流点PGは、通路62bと62cとの接続点でもある。
コンプレッサ94は上流側通路92に介装されている。コンプレッサ94は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて第2通路62を流れる還流ガスを加圧して蓄圧タンク91側に送出するようになっている。逆止弁95は、上流側通路92であってコンプレッサ94と蓄圧タンク91の入口部との間に介装されている。逆止弁95は、コンプレッサ94の出口部から蓄圧タンク91の入口部へ向うガスの通流を許容し、これと反対向きのガスの通流を遮断するようになっている。
切換弁96は、下流側通路93に介装されている。切換弁96は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて下流側通路93を連通及び遮断の何れかの状態に維持するようになっている。
次に、上記のように構成された第4実施形態の作動について説明する。第4実施形態のCPUは、図2及び図3に示したルーチンに加え、図9及び図10に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。図9は循環ガスの量を減少させる蓄圧制御を開始するためのルーチンであり、図10は蓄圧制御を終了するためのルーチンである。なお、図9に示したステップにおいて図4に示したステップと同一のステップには同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
CPUは、所定のタイミングにて図9のステップ900から処理を開始すると、ステップ905にて蓄圧制御実行フラグXCKの値が「0」であるか否かを判定する。蓄圧制御実行フラグXCKの値は、コンプレッサ94が作動中であるときに「1」に設定され、その他の場合に「0」に設定される。
いま、コンプレッサ94が作動中でないために蓄圧制御実行フラグXCKの値が「0」であり、且つ、現時点が特定気筒の上死点前10度(水素噴射弁35から水素ガスが噴射される直前であって、特定気筒の圧縮上死点前の所定クランク角度)であるとして説明を続ける。この場合、CPUは、ステップ905にて「Yes」と判定するとともにステップ405にても「Yes」と判定し、ステップ410及びステップ415の処理を実行する。
次いで、CPUはステップ420に進み、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きいか否かを判定する。このとき、水素タンク41内の水素ガスの圧力が十分に高く、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きければ、CPUはステップ420からステップ910に進んで切換弁96を開くことにより下流側通路93を連通し、続くステップ915にてコンプレッサ94の作動を停止する。その後、CPUはステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きい場合、コンプレッサ94の作動が停止されるので、蓄圧タンク91に循環ガスが貯蔵されることはない。更に、蓄圧タンク91と第2通路62とが連通されるため、蓄圧タンク91内の圧力が第2通路62内の圧力よりも高ければ、蓄圧タンク91内に貯蔵されている循環ガスが第2通路62に合流点PGを介して供給される。
一方、CPUがステップ420に進んだとき、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下であると、CPUはステップ420からステップ920に進み、コンプレッサ94の駆動時間TCを決定する。
より具体的には、CPUは、コンプレッサ駆動時間TCを、ステップ415にて取得した水素タンク内圧力PH2からステップ410にて取得した筒内圧Pcyを減じた値(水素タンク内圧力PH2と筒内圧Pcyとの圧力差=PH2−Pcy)と関数hとに基づいて決定する。関数hは、図9に示したように、圧力差(PH2−Pcy、但しPH2−Pcy>0である。)に対して単調減少する関数である。即ち、コンプレッサ駆動時間TCは関数hによって圧力差(PH2−Pcy)が小さくなるほど(水素タンク内圧力PH2が小さくなるほど)長い時間に設定される。
その後、CPUはステップ925に進んで切換弁96を閉じることによって下流側通路93を遮断し、続くステップ930にてコンプレッサ94を作動させる。その後、CPUはステップ935にて蓄圧制御実行フラグXCKに「1」を代入し、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、コンプレッサ94が作動させられ且つ下流側通路93が遮断されるため、蓄圧タンク91に第2通路62を流れる循環ガスが上流側通路92を通して貯蔵される。
なお、CPUが次に本ルーチンを実行するとき、蓄圧制御実行フラグXCKの値は先のステップ935にて「1」に設定されているので、CPUはステップ905からステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。また、CPUがステップ405に進んだとき、現時点が特定気筒の上死点前10度でなければ、CPUはステップ405からステップ995に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、CPUは所定のタイミングにてステップ1000から図10に示したルーチンの処理を開始し、ステップ1005に進んで蓄圧制御実行フラグXCKの値が「1」であるか否かを判定する。このとき、先のステップ935にて蓄圧制御実行フラグXCKの値が「1」に設定されていれば、CPUはステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1010に進み、蓄圧制御実行フラグXCKの値が「0」から「1」へと変化した後、先のステップ920にて決定したコンプレッサ駆動時間TCが経過したか否かを判定する。
そして、コンプレッサ駆動時間TCが経過していなければ、CPUはステップ1010からステップ1095に直接進み本ルーチンを一旦終了する。これに対し、コンプレッサ駆動時間TCが経過していると、CPUはステップ1010からステップ1015に進んでコンプレッサ94の作動を停止する。その後、CPUはステップ1020にて蓄圧制御実行フラグXCKの値を「0」に設定し、ステップ1095に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、コンプレッサ94がコンプレッサ駆動時間TCだけ駆動させられるとともにコンプレッサ94が駆動されている間は下流側通路93(蓄圧タンク91の出口部と合流点PGとの接続)が遮断される。その結果、蓄圧タンク91に第2通路62を流れる循環ガスが貯蔵され、第2通路62及び第3通路63を通る循環ガスの量が低下する。この結果、一回の吸気行程により燃焼室21内に吸入されるガスの量が減少するので、圧縮行程開始タイミングにおいて燃焼室21内に存在するガスの量を低減することができる。
これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」が低下する。従って、水素タンク内圧力PH2が低下した場合にも、水素噴射弁35から燃焼室21内に水素ガスを噴射することができる。この結果、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。
更に、水素ガスが水素タンク41に補充されることにより水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力より大きくなった場合、図9のステップ910が実行される。その結果、蓄圧タンク91内に貯蔵されていた循環ガスが第2通路62に合流点PGを介して戻される。従って、貴重な作動ガスであるアルゴンガスを無駄に消費することを回避することができる。なお、蓄圧タンク91内に循環ガスが貯蔵されることにより、ステップ420にて「Yes」と判定されるようになる場合にも、ステップ910が実行されるが、これにより、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となれば、再びコンプレッサ94が作動させられ、蓄圧タンク91内に循環ガスが貯蔵される。
<第5実施形態>
本発明の第5実施形態に係るエンジンは、上記第4実施形態に係るエンジンの筒内圧低減部90を、図11に示した筒内圧低減部100に置換した点のみにおいて、同第4実施形態のエンジンと相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。図11においても、吸気弁駆動機構33a及び排気弁駆動機構34aは、図示が省略されている。
筒内圧低減部100は、蓄圧タンク101、上流側通路102、下流側通路103、切換弁(導入バルブ)104、逆止弁105及び循環通路絞り弁(絞り手段)106を備えている。
蓄圧タンク101は蓄圧タンク91と同様に循環ガスを蓄圧(貯蔵)するようになっている。上流側通路102は、通路62aと通路62bとの接続点である合流点PGと、蓄圧タンク101の出口部と、を接続している。下流側通路103は、通路62bと通路62cの接続点である分岐点PBと、蓄圧タンク101の入口部と、を接続している。本実施形態において、分岐点PBは合流点PGよりも循環ガスの流れにおいて下流側に位置している。
切換弁104は上流側通路102に介装されている。切換弁104は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて上流側通路102を連通及び遮断の何れかの状態に維持するようになっている。逆止弁105は、下流側通路103に介装されている。逆止弁105は、分岐点PBから蓄圧タンク101の入口部へ向うガスの通流を許容し、これと反対向きのガスの通流を遮断するようになっている。
循環通路絞り弁106は、通路62cに介装されている。循環通路絞り弁106の配設位置は、循環ガスの流れにおいて分岐点PBより僅かに下流側である。換言すると、蓄圧タンク101は、循環通路絞り弁106よりも循環ガスの流れの上流側において第2循環通路62に下流側通路103を介して連通せしめられている。循環通路絞り弁106は、電気制御装置80からの駆動信号に応答して第2通路62(通路62c、循環通路)の通路断面積(開口面積)を変更するようになっている。
次に、上記のように構成された第5実施形態の作動について説明する。第5実施形態のCPUは、図9及び図10に示したルーチンに代え、図12及び図13に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。図12は循環ガスの量を減少させる蓄圧制御を開始するためのルーチンであり、図13は蓄圧制御を終了するためのルーチンである。なお、図12に示したステップにおいて図4及び図9に示したステップと同一のステップには同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
CPUは、所定のタイミングにて図12のステップ1200から処理を開始すると、ステップ905にて蓄圧制御実行フラグXCKの値が「0」であるか否かを判定する。この実施形態において、蓄圧制御実行フラグXCKの値は、循環通路絞り弁106が第2通路62の通路断面積を減少させることによって蓄圧タンク101へ循環ガスが蓄圧・貯蔵されている最中であるときに「1」に設定され、その他の場合に「0」に設定される。
いま、循環通路絞り弁106が第2通路62の通路断面積を減少させていないために蓄圧制御実行フラグXCKの値が「0」であり、且つ、現時点が特定気筒の上死点前10度(水素噴射弁35から水素ガスが噴射される直前であって、特定気筒の圧縮上死点前の所定クランク角度)であるとして説明を続ける。この場合、CPUは、ステップ905にて「Yes」と判定するとともにステップ405にても「Yes」と判定し、続くステップ410及びステップ415の処理を実行する。
次いで、CPUはステップ420に進み、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きいか否かを判定する。このとき、水素タンク41内の水素ガスの圧力が十分に高く、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きければ、CPUはステップ1205に進んで循環通路絞り弁106が第2通路62の通路断面積を最大とするように(循環通路絞り弁106の開度が最大となるように)循環通路絞り弁106を制御する。次いで、CPUはステップ1210に進み、切換弁104を開くことによって上流側通路102を連通し、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このように、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力よりも大きい場合、循環通路絞り弁106の開度が全開となる。従って、循環通路絞り弁106の上流における循環通路(分岐点PB)の圧力は増大しないから、蓄圧タンク101に循環ガスが貯蔵されることはない。更に、蓄圧タンク101が上流側通路102を介して合流点PGにて第2通路62と連通されるため、蓄圧タンク101内の圧力が第2通路62内の圧力よりも高ければ、蓄圧タンク101内に貯蔵されている循環ガスが第2通路62に合流点PGを介して供給される。
一方、CPUがステップ420に進んだとき、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下であると、CPUはステップ420からステップ1220に進み、循環通路絞り弁106の目標開度Vextgtを決定する。
より具体的には、CPUは、目標開度Vextgtを、ステップ415にて取得した水素タンク内圧力PH2からステップ410にて取得した筒内圧Pcyを減じた値(水素タンク内圧力PH2と筒内圧Pcyとの圧力差=PH2−Pcy)と関数jとに基づいて決定する。関数jは、図12に示したように、圧力差(PH2−Pcy、但しPH2−Pcy>0である。)に対して単調増加する関数である。即ち、目標開度Vextgtは関数jによって圧力差(PH2−Pcy)が小さくなるほど小さい開度に設定される。換言すると、水素タンク内圧力PH2が小さくなるほど、第2通路62の通路断面積が小さくなるように、目標開度Vextgtが決定される。
その後、CPUはステップ1225に進んで循環通路絞り弁106の開度が目標開度Vextgtとなるように循環通路絞り弁106を駆動し、ステップ1230に進んで切換弁104を閉じることにより上流側通路102を遮断する。次いで、CPUはステップ935にて蓄圧制御実行フラグXCKに「1」を代入し、ステップ1295に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、循環通路絞り弁106により第2通路62の通路断面積が減少させられる。従って、循環通路絞り弁106よりも上流側の循環通路(第2通路62)内の圧力はエンジンの排気圧力により高くなるので、その圧力によって蓄圧タンク101内に循環ガスが貯蔵される。従って、高価なコンプレッサを使用することなく、蓄圧タンク101に循環ガスを貯蔵することができる。
なお、CPUが次に本ルーチンを実行するとき、蓄圧制御実行フラグXCKの値は先のステップ935にて「1」に設定されているので、CPUはステップ905からステップ1295に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。また、CPUがステップ405に進んだとき、現時点が特定気筒の上死点前10度でなければ、CPUはステップ405からステップ1295に直接進んで本ルーチンを一旦終了する。
一方、CPUは所定のタイミングにてステップ1300から図13に示したルーチンの処理を開始し、ステップ1005に進んで蓄圧制御実行フラグXCKの値が「1」であるか否かを判定する。このとき、先のステップ935にて蓄圧制御実行フラグXCKの値が「1」に設定されていれば、CPUはステップ1005にて「Yes」と判定してステップ1310に進み、蓄圧制御実行フラグXCKの値が「0」から「1」へと変化した後、一定の循環ガス貯蔵時間TSが経過したか否かを判定する。
そして、循環ガス貯蔵時間TSが経過していなければ、CPUはステップ1310からステップ1395に直接進み本ルーチンを一旦終了する。これに対し、循環ガス貯蔵時間TSが経過していると、CPUはステップ1315に進んで循環通路絞り弁106が第2通路62の通路断面積を最大とするように循環通路絞り弁106を制御する。その後、CPUはステップ1020に進んで蓄圧制御実行フラグXCKに「0」を代入し、ステップ1395に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、循環ガス貯蔵時間TSの間、蓄圧タンク101に第2通路62を流れる循環ガスが貯蔵され、第2通路62及び第3通路62を通る循環ガスの量が低下する。この結果、圧縮行程開始タイミングにおいて燃焼室21内に存在するガスの量が減少するので、一回の吸気行程により燃焼室21内に吸入されるガスの量(即ち、圧縮行程開始タイミングにおける燃焼室内存在ガス量)を低減することができる。
これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」が低下する。従って、水素タンク内圧力PH2が低下した場合にも、水素噴射弁35から燃焼室21内に水素ガスを噴射することができる。この結果、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。なお、本実施形態において、循環ガス貯蔵時間TSは一定の時間であったが、第4実施形態のコンプレッサ駆動時間TCのように、圧力差(PH2−Pcy>0)が小さくなるほど長い時間に設定されてもよい。
更に、水素ガスが水素タンク41に補充されることにより水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力より大きくなった場合、図12のステップ1205及びステップ1210が実行される。その結果、蓄圧タンク101内に貯蔵されていた循環ガスが第2通路62に合流点PGを介して戻される。従って、貴重な作動ガスであるアルゴンガスを無駄に消費することを回避することができる。なお、蓄圧タンク101内に循環ガスが貯蔵されることにより、ステップ420にて「Yes」と判定されるようになる場合にも、ステップ1205及びステップ1210が実行されるが、これにより、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となれば、ステップ1220乃至ステップ935の処理が行われ、蓄圧タンク101内に循環ガスが貯蔵される。
<第6実施形態>
本発明の第6実施形態に係るエンジンは、上記第1実施形態に係るエンジンの筒内圧低減部70に代えて、図14に示したように、加圧貯蔵部110を備えている点のみにおいて、同第1実施形態の水素エンジンと相違している。従って、以下、係る相違点を中心として説明する。図14においても、吸気弁駆動機構33a及び排気弁駆動機構34aは、図示が省略されている。
ここでは、説明の便宜上、水素ガス通路42は、通路42a、通路42b、通路42c及び通路42dからなっているとして説明する。通路42aは、水素タンク41とサージタンク45の入口部とを接続している。通路42bは、サージタンク45の出口部と分岐点PBとを接続している。通路42cは、分岐点PBと合流点PGとを接続している。通路42dは合流点PGと水素噴射弁35とを連通している。
加圧貯蔵部110は、上流側通路111、下流側通路112、加圧サージタンク113、加圧サージタンク圧力センサ114、加圧ポンプ(コンプレッサ、昇圧手段)115及び切換弁116を備えている。
上流側通路111の一端は通路42bと通路42cとの接続部である分岐点PBにて水素ガス通路42に接続され、上流側通路111の他端は加圧サージタンク113の入口部に接続されている。下流側通路112の一端は加圧サージタンク113の出口部に接続され、下流側通路112の他端は通路42cと通路42dとの接続部である合流点PGにて水素ガス通路42に接続されている。
加圧サージタンク113は、加圧ポンプ115によって加圧された水素ガスを貯蔵するとともに、貯蔵した水素ガスを水素噴射弁35に供給するようになっている。
加圧サージタンク圧力センサ114は、加圧サージタンク113に配設されている。加圧サージタンク圧力センサ114は、加圧サージタンク113内の水素ガスの圧力(加圧サージタンク内圧力)を検出し、検出した加圧サージタンク内圧力Psg2を表す信号を発生するようになっている。
加圧ポンプ115は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて作動し、水素タンク41から供給される水素ガスを加圧して加圧サージタンク113に送出するようになっている。
切換弁116は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて通路42cを連通及び遮断の何れかの状態に維持するようになっている。
次に、上記のように構成された第6実施形態の作動について説明する。第6実施形態のCPUは、図3に示したルーチンに加えて、図15に示したルーチン及び図16に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。図15は、水素タンク内圧力PH2が小さくなった場合に水素タンク41から供給される水素ガスを加圧して加圧サージタンク113に貯蔵するとともに、加圧サージタンク113から水素ガスを水素噴射弁35に供給するためのルーチンである。図16は、噴射制御を実行するためのルーチンである。なお、図16に示したステップにおいて図2に示したステップと同一のステップには同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
CPUは、所定のタイミングにてステップ1500からステップ1505に進み、現時点において所定の水素噴射タイミングにて水素ガスを燃焼室21内に噴射するのに必要な圧力、即ち、必要噴射圧Preqを取得する。この必要噴射圧Preqは、特定気筒のクランク角が上死点前10度(水素噴射弁35から水素ガスが噴射される直前であって、特定気筒の圧縮上死点前の所定クランク角度)となったときの筒内圧Pcyに基づいて求められる。ここでは、必要噴射圧Preqは、上死点前10度の筒内圧Pcyに正の所定値αを加えた値に設定される。
次いで、CPUは、ステップ1510にて水素タンク内圧力センサ87から水素タンク内圧力PH2を取得し、ステップ1515に進んで水素タンク内圧力PH2が必要噴射圧Preqに所定のマージン圧力Mgin1を加えた圧力(要求噴射圧)よりも大きいか否かを判定する。即ち、CPUはステップ1515にて、水素タンク内圧力PH2が適正な噴射を行うための圧力より大きい圧力であるか否かを判定する。
そして、水素タンク41内に水素ガスが十分に残存していて、水素タンク内圧力PH2が要求噴射圧(Preq+Mgin1)よりも大きい場合、CPUはステップ1520に進んで加圧ポンプ115の作動を停止する。次いで、CPUはステップ1525に進み、切換弁116を開いて通路42cを連通させ、ステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、加圧ポンプ115は停止し、且つ、通路42cが連通するから、水素ガスが水素タンク41から水素ガス通路42(通路42a〜通路42d)を通して水素噴射弁35に供給される。そして、後述する図16に示したルーチンが実行されることにより、所定の燃料噴射タイミングにて、水素タンク41に貯蔵されている水素ガスが水素タンク(ガス燃料貯蔵タンク)41に貯蔵された水素ガス(ガス燃料)の圧力により燃焼室21に噴射される。
その後、水素タンク41内の水素ガスが消費され、水素タンク内圧力PH2が要求噴射圧(Preq+Mgin1)以下となると、CPUはステップ1500乃至1510に続くステップ1515に進んだとき同ステップ1515にて「No」と判定してステップ1530に進み、加圧サージタンク圧力センサ114から加圧サージタンク内圧力Psg2を取得する。次いで、CPUはステップ1535に進み、取得した加圧サージタンク内圧力Psg2が必要噴射圧Preqに所定のマージン圧力Mgin2を加えた圧力である安定噴射圧(Preq+Mgin2)より小さいか否かを判定する。なお、Mgin2はMgin1よりも大きいので、安定噴射圧は要求噴射圧よりも大きい。但し、Mgin2はMgin1と同じ大きさであってもよい。
このとき、加圧サージタンク内圧力Psg2が安定噴射圧(Preq+Mgin2)より小さければ、CPUはステップ1535からステップ1540に進んで加圧ポンプ115を作動させる。一方、加圧サージタンク内圧力Psg2が安定噴射圧(Preq+Mgin2)以上であれば、CPUはステップ1535からステップ1545に進んで加圧ポンプ115の作動を停止する。次いで、CPUはステップ1550に進み、切換弁116を閉じて通路42cを遮断し、ステップ1595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
以上により、加圧サージタンク内圧力Psg2が安定噴射圧(Preq+Mgin2)より小さいと、加圧ポンプ115が作動を開始し、且つ、通路42cが遮断される。従って、水素タンク41から供給される水素ガスは、分岐点PBから上流側通路111へと導かれ、加圧ポンプ115によって加圧されて加圧サージタンク113内に貯蔵される。同時に、加圧サージタンク113内の水素ガスは、下流側通路112及び合流点PGを経由して水素噴射弁35に供給される。そして、後述する図16に示したルーチンが実行されることにより、所定の燃料噴射タイミングにて、加圧サージタンク(加圧貯蔵部)113に貯蔵された水素ガスの圧力により加圧サージタンク113に貯蔵された水素ガスが燃焼室21に噴射される。
その後、水素タンク41に水素ガスが充填されない限り(即ち、水素タンク内圧力PH2が要求噴射圧(Preq+Mgin1)よりも大きくならない限り)、上記ステップ1530乃至ステップ1550の作動が繰り返し実行される。
また、水素タンク41に水素ガスが充填され、水素タンク内圧力PH2が要求噴射圧(Preq+Mgin1)よりも大きくなると、CPUはステップ1500乃至ステップ1525の処理を実行する。これにより、加圧ポンプ115が作動されることはなくなり、且つ、切換弁116によって通路42cが連通される。この結果、所定の燃料噴射タイミングにて、水素タンク41に貯蔵されている水素ガスが水素タンク41に貯蔵された水素ガスの圧力により燃焼室21に噴射されるようになる。
また、前述したように、CPUはエンジン10のクランク角度が所定のクランク角度に一致する毎に図16に示したルーチンの処理をステップ1600から開始し、ステップ1600〜ステップ1640にて以下の処理を行う。これにより、水素ガスの噴射圧力が変化しても、常に適量の水素ガスが噴射される。
ステップ1605:CPUは上述した図2のステップ205と同様、要求水素量SH2を現時点にて検出されているアクセルペダル操作量Accp(負荷)及び現時点にて検出されているエンジン回転速度NEと関数f1とに基づいて求める。
ステップ1610:CPUは切換弁116が開いているか否かを判定する。CPUは、切換弁116が開弁しているとステップ1620に進み、閉弁しているとステップ1630に進む。
ステップ1620:CPUは、噴射圧Pinjに、サージタンク圧力センサ86が検出しているサージタンク圧力Psgを代入する。
ステップ1630:CPUは、噴射圧Pinjに、加圧サージタンク圧力センサ114が検出している加圧サージタンク内圧力Psg2を代入する。
ステップ1635:CPUは、上記要求水素量SH2、上記噴射圧Pinj、現時点で検出されている筒内圧Pcy及び現時点で検出されているエンジン回転速度NEと、予め定められた関数f4(例えば、ルックアップテーブル)と、に基づいて要求水素量SH2を水素噴射弁35の開弁時間である水素噴射時間TAUに変換する。
ステップ1640:水素噴射時間TAUの時間だけクランク角度が上記所定クランク角となっている気筒の水素噴射弁35を開弁する駆動信号をその水素噴射弁35に送出する。
以上、説明したように、本実施形態に係るエンジンによれば、ガス燃料貯蔵タンク(水素タンク41)のガス燃料(水素ガス)の圧力(タンクガス圧)が大きい場合、ガス燃料貯蔵タンクに貯蔵されたガス燃料の圧力により同ガス燃料が燃焼室21に噴射される。一方、タンクガス圧が小さい場合、ガス燃料貯蔵タンクに貯蔵されたガス燃料が加圧された状態にて加圧貯蔵部(加圧サージタンク113)に貯蔵されるとともに、加圧貯蔵部に貯蔵されたガス燃料の圧力により同ガス燃料が燃焼室21に噴射される。この結果、ガス燃料貯蔵タンク内のガス燃料の残量が少なくなった場合であっても、ガス燃料を圧縮上死点近傍にて高圧となっている燃焼室内に噴射することができる。従って、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。
<第7実施形態>
本発明の第7実施形態に係るエンジンは、図17に示したように、上記第2実施形態に係るエンジンに更に吸気加熱手段120を付加した点において、同第2実施形態のエンジンと相違している。従って、本実施形態に係るエンジンは、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた要求圧力以下となった場合、吸気弁の閉弁タイミングICを吸気下死点から圧縮上死点までの間において遅角させるようになっている。以下、第7実施形態と第2実施形態のエンジンとの相違点を中心として説明する。
なお、この実施形態に係るエンジンにおいて、第3通路63は、通路63a及び通路63bに分割されている。また、このエンジンは、燃焼室21内の温度(筒内温度)Tcを測定する筒内温度センサ88を備えている。電気制御装置80は、筒内温度センサ88から筒内温度Tcを取得できるようになっている。
吸気加熱手段120は、図17に示したように、吸気加熱部121、上流側通路122、下流側通路123、吸気加熱制御弁124及び吸気加熱用ポンプ125を含んでいる。
吸気加熱部121は、吸気通路121a及び排気通路121bを備えている。吸気通路121a及び排気通路121bは、それぞれの内部を通過するガス同士が互いに熱交換をすることができるように構成されている。
吸気通路121aの一端は通路63aの一端に接続されている。通路63aの他端はアルゴンガス流量計65の出口部に接続されている。
吸気通路121aの他端は通路63bの一端に接続されている。通路63bの他端は吸気ポート31に接続されている。これにより、吸気通路121aには、酸素ガスミキサ55を通して供給される作動ガス及び酸素ガス(便宜上、「吸入ガス」と称呼する。)が通過する。
排気通路121bの一端は上流側通路122の一端に接続されている。上流側通路122の他端は分岐点PBにて第1通路61に接続されている。
排気通路121bの他端は下流側通路123の一端に接続されている。下流側通路123の他端は分岐点PBよりも循環ガス(排ガス)の流れにおいて下流側の合流点PGにて第1通路61に接続されている。下流側通路123には、吸気加熱部121から合流点PGに向け順に吸気加熱制御弁124及び吸気加熱用ポンプ125が介装されている。
吸気加熱制御弁124は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて下流側通路123を連通及び遮断の何れかの状態に維持するようになっている。
吸気加熱用ポンプ125は、電気制御装置80からの駆動信号に基づいて作動し、吸気加熱制御弁124を通して供給されるガスを合流点PGを通して第1通路61に送出するようになっている。
以上の構成により、吸気加熱制御弁124によって下流側通路123が連通され且つ吸気加熱用ポンプ125が作動(駆動)されると、第1通路61を流れる高温の排ガスが分岐点PB及び上流側通路122を経由して排気通路121bの入口部に供給され、その排ガスは排気通路121bを通過した後に排気通路121bの出口部から吸気加熱制御弁124及び吸気加熱用ポンプ125を経由して合流点PGにて第1通路61(従って、凝縮器64)に供給される。このとき、排気通路121bを流れる高温の排ガスは、吸気通路121aを流れる吸入ガスを加熱する。
次に、上記のように構成された第7実施形態の作動について説明する。第7実施形態のCPUは、第2実施形態と同様に作動するのみでなく、図18に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。図18は吸気加熱を実行するためのルーチンである。
CPUは、所定のタイミングになると図18に示したルーチンの処理をステップ1800から開始し、ステップ1805に進んで現時点が特定気筒の上死点前10度(水素噴射弁35から水素ガスが噴射される直前であって、特定気筒の圧縮上死点前の所定クランク角度)であるか否かを判定する。現時点が特定気筒の上死点前10度でなければ、CPUはステップ1805にて「No」と判定して直接ステップ1895に進み、本ルーチンを一旦終了する。
一方、現時点が特定気筒の上死点前10度であると、CPUはステップ1805にて「Yes」と判定してステップ1810に進み、筒内温度センサ88から筒内温度Tcを取得する。次いで、CPUはステップ1815にて、筒内温度Tcが拡散燃焼可能(又は自着火燃焼可能)な温度Tcth以上か否かを判定する。
このとき、筒内温度Tcが拡散燃焼可能な温度Tcth以上であれば、CPUはステップ1815にて「Yes」と判定してステップ1820に進み、吸気加熱制御弁124を閉じて下流側通路123を遮断する。次いで、CPUはステップ1825に進み、吸気加熱用ポンプ125の作動を停止し、ステップ1895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これに対し、CPUがステップ1815の処理を実行する時点において、筒内温度Tcが拡散燃焼可能な温度Tcthよりも小さければ、CPUはステップ1815にて「No」と判定してステップ1830に進み、吸気加熱制御弁124を開いて下流側通路123を連通する。次いで、CPUはステップ1835に進み、吸気加熱用ポンプ125を作動させ、ステップ1895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
これにより、燃焼室21から排出された高温の排ガスは、分岐点PBから上流側通路122、排気通路121b、下流側通路123、吸気加熱制御弁124及び吸気加熱用ポンプ125を経由して合流点PGへと流れる。従って、吸気加熱部121において、吸気通路121a内を流れる吸入ガスが排気通路121bを流れる高温の排ガスにより加熱される。この結果、水素ガスの噴射タイミング直前の時点における燃焼室21内のガスの温度(以下、「圧縮端近傍筒内温度」又は「噴射タイミング筒内温度」とも言う。)が、拡散燃焼を安定して発生させるのに十分な高さに上昇せしめられる。
以上、説明したように、本実施形態に係るエンジンは、水素タンク41内の水素ガスの圧力が低下し、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力以下となった場合、吸気弁閉弁タイミングを水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた圧力より大きい場合の吸気弁閉弁タイミングよりも遅角し、吸気弁33が開弁している期間において燃焼室21内に吸入される作動ガス及び酸素ガスの量を減少させ、これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させる。従って、水素タンク内圧力PH2が低下した場合にも、水素噴射弁35から燃焼室21内に水素ガスを噴射することができる。
更に、本実施形態は、吸気弁閉弁時期を遅角することにより燃焼室21内に吸入される作動ガス及び酸素ガスの量を減少させ、これにより、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させた場合、「圧縮端近傍筒内温度」又は「噴射タイミング筒内温度」も低下して拡散燃焼(又は自着火燃焼)が安定してできなくなる恐れがあるから、吸気加熱部121にて吸気加熱を行って「圧縮端近傍筒内温度」又は「噴射タイミング筒内温度」を十分に上昇させる。その結果、燃焼が不安定になることを回避しながら、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。
なお、本実施形態において、筒内温度Tcは筒内温度センサ88から取得しているが、アルゴンガス流量計65により取得されるアルゴンガス流量FArとエンジン回転速度センサ82により取得されるエンジン回転速度NE等に基づいて筒内温度Tcを推定してもよい。また、本実施形態においては、吸気弁33の閉弁時期を変更(遅角)することにより「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させているが、上述した他の手法を用いて「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させる実施形態のエンジンにも適用することができる。この点は、以下に述べる第8乃至第10実施形態においても同様に適用される事項である。
なお、吸気加熱制御弁124及び吸気加熱用ポンプ125を除去し、その代わりに分岐点PBに三方弁を配置してもよい。この三方弁は、一つの入口部と二つの出口部とを備えるものである。一つの入口部は第1通路61を介して排気ポート32と接続される。二つの出口部の一つは第1通路61を介して凝縮器64の入口部と接続される。二つの出口部の他の一つは上流側通路122を介して排気通路121bに接続される。そしで、電気制御装置80は、上記と同様な条件において、吸気加熱が必要であるとき、三方弁に駆動信号を送り、三方弁の入口部を上流側通路122に接続されている出口部と連通させる。また、電気制御装置80は、吸気加熱が必要でないとき、三方弁に駆動信号を送り、三方弁の入口部を凝縮器64の入口部と接続されている出口部と連通させる。このような構成により、吸気加熱用ポンプ125が削除できるので、エンジンをより廉価に提供することができる。
<第8実施形態>
本発明の第8実施形態に係るエンジンは、図19に示したように、上記第7実施形態に係るエンジンが備える吸気加熱手段120を吸気加熱手段130に置換した点においてのみ、同第7実施形態のエンジンと相違している。従って、本実施形態に係るエンジンは、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた要求圧力以下となった場合、吸気弁の閉弁タイミングICを吸気下死点から圧縮上死点までの間において遅角させるようになっている。以下、第8実施形態のエンジンと第7実施形態のエンジンとの相違点を中心として説明する。なお、この第8実施形態に係るエンジンにおいて、第1通路61は、通路61a及び通路61bに分割されている。また、第3通路は、通路63a及び通路63bに分割されている。
吸気加熱手段130は、図19に示したように、吸気加熱部131、上流側通路132、下流側通路133及び第3通路63上の分岐点PBにて第3通路63に配設された吸気加熱用三方弁(通路切換手段)134を含んでいる。
吸気加熱部131は、吸気加熱部121と同様な構成を備えている。即ち、吸気加熱部131は、吸気通路131a及び排気通路131bを備えている。吸気通路131a及び排気通路131bは、それぞれの内部を通過するガス同士が互いに熱交換をすることができるように構成されている。
吸気通路131aの一端は上流側通路132の一端と接続されている。上流側通路132の他端は吸気加熱用三方弁134の後述する二つの出口部のうちの一つの出口部と接続されている。
吸気通路131aの他端は下流側通路133の一端と接続されている。下流側通路133の他端は合流点PGにて第3通路63の通路63bと接続されている。合流点PGは、分岐点PBより吸入ガスの流れにおいて下流側に位置している。通路63bの一端は吸気加熱用三方弁134の二つの出口部のうちの他の一つと接続され、通路63bの他端は吸気ポート31と接続されている。
排気通路131bの一端は通路61aの一端と接続されている。通路61aの他端は排気ポート32と接続されている。
排気通路131bの他端は通路61bの一端と接続されている。通路61bの他端は凝縮器64の入口部と接続されている。これにより、排気通路131bには、燃焼室21から排出された排ガスが常に通過する。
吸気加熱用三方弁134は、一つの入口部と二つの出口部とを有している。吸気加熱用三方弁134は、電気制御装置80からの駆動信号に応答して一つの入口部と二つの出口部の何れか一つとを連通するようになっている。吸気加熱用三方弁134の入口部は通路63aの一端と接続されている。通路63aの他端はアルゴンガス流量計65の出口部に接続されている。
次に、上記のように構成された第8実施形態の作動について説明する。第8実施形態のCPUは、図18に代わる図20に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。なお、図20に示したステップにおいて図18に示したステップと同一のステップには同一の符号を付している。
この図20のルーチンによれば、ステップ1815にて筒内温度Tcが拡散燃焼可能な温度Tcth以上であると判定される場合、CPUはステップ1815にて「Yes」と判定してステップ2010に進み、吸気加熱用三方弁134の入口部が通路63bに接続されている吸気加熱用三方弁134の出口部の一つと連通する第1状態となるように、吸気加熱用三方弁134を切り換える。これにより、酸素ガスミキサ55の出口部から送出された吸入ガスは吸気加熱部131を通過することなく、通路63a、吸気加熱用三方弁134、通路63b及び吸気ポート31を経由して燃焼室21に直接吸入される。即ち、吸気加熱は行われない。
これに対し、ステップ1815にて筒内温度Tcが拡散燃焼可能な温度Tcthより小さいと判定される場合、CPUはステップ1815にて「No」と判定してステップ2020に進み、吸気加熱用三方弁134の入口部が上流側通路132に接続されている吸気加熱用三方弁134の出口部の一つと連通する第2状態となるように、吸気加熱用三方弁134を切り換える。これにより、酸素ガスミキサ55の出口部から送出された吸入ガスは通路63a、吸気加熱用三方弁134、上流側通路132、吸気通路131a、下流側通路133、合流点PG、通路63b及び吸気ポート31を経由して燃焼室21に吸入される。即ち、吸入ガスは、吸気加熱部131を通過するので、吸気加熱が行われ、その温度が上昇する。
この実施形態によれば、第7実施形態と同様、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させながらも、吸気加熱により「圧縮端近傍筒内温度」又は「噴射タイミング筒内温度」を低下させないようにすることができる。従って、燃焼が不安定になることを回避しながら、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。加えて、第7実施形態のように、吸気加熱用ポンプ125を必要としないので、より廉価なエンジンを提供することができる。
<第9実施形態>
本発明の第9実施形態に係るエンジンは、図21に示したように、上記第7実施形態に係るエンジンが備える吸気加熱手段120を電気式吸気加熱手段140に置換した点においてのみ、同第7実施形態のエンジンと相違している。従って、本実施形態に係るエンジンは、水素タンク内圧力PH2が筒内圧Pcyに所定のマージン圧力Mginを加えた要求圧力以下となった場合、吸気弁の閉弁タイミングICを吸気下死点から圧縮上死点までの間において遅角させるようになっている。以下、第9実施形態のエンジンと第7実施形態のエンジンとの相違点を中心として説明する。
電気式吸気加熱手段140は、第3通路63の吸気ポート31近傍位置に配設されている。電気式吸気加熱手段140は、図21の1−1線に沿った平面にて第3通路63を切断した断面図である図22に示したように、第3通路63を構成する管63−1内に埋設された複数のヒータ線(ニクロム線等の発熱体、以下、「吸気用加熱ヒータ」と称呼する。)141を備えている。複数の吸気用加熱ヒータ141は、電気制御装置80に接続されていて、電気制御装置80よって通電されたとき発熱し、管63−1内を通過する吸入ガスを加熱するようになっている。
次に、上記のように構成された第9実施形態の作動について説明する。第9実施形態のCPUは、図18に代わる図23に示したルーチンを所定時間が経過する毎に実行するようになっている。なお、図23に示したステップにおいて図18に示したステップと同一のステップには同一の符号を付している。
この図23のルーチンによれば、ステップ1815にて筒内温度Tcが拡散燃焼可能な温度Tcth以上であると判定される場合、CPUはステップ1815にて「Yes」と判定してステップ2310に進み、吸気用加熱ヒータ141を非通電状態とする。即ち、吸気加熱は行わない。
これに対し、ステップ1815にて筒内温度Tcが拡散燃焼可能な温度Tcthより小さいと判定される場合、CPUはステップ1815にて「No」と判定してステップ2320に進み、吸気用加熱ヒータ141を通電状態とする。これにより、吸気加熱が行われ、吸入ガスの温度が上昇する。
この実施形態によれば、第7実施形態と同様、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させながらも、吸気加熱により「圧縮端近傍筒内温度」又は「噴射タイミング筒内温度」を低下させないようにすることができる。従って、燃焼が不安定になることを回避しながら、水素タンク41内に残存する水素ガスを十分に使い果たすことができるので、エンジン10を搭載した車両の航続距離を増大することができる。
なお、電気式吸気加熱手段140を、図21の1−1線に沿った平面にて切断した断面図である図24に示した電気式吸気加熱手段150に変更してもよい。この電気式吸気加熱手段150は、吸気用加熱ヒータ151を複数備えている。吸気用加熱ヒータ151のそれぞれの一端は、管63−1の中心部Cenにおいて互いに接続されている。吸気用加熱ヒータ151のそれぞれの他端は、管63−1の壁に到達し、その壁に埋設された導線152により接続されている。電気制御装置80は、導線152と中心部Cenとの間に所定の電圧を印加することにより、各吸気用加熱ヒータ151を通電して発熱させる。
以上、説明したように、本発明の各実施形態に係るガス燃料エンジン(水素ガスエンジン)は、ガス燃料貯蔵タンク内のガス燃料の残量が少なくなり、タンクガス圧が小さくなった場合でも、水素ガスを所望のタイミングにて確実に燃焼室21内に噴射することができる。従って、水素タンク41内に残存する水素ガスを従来よりも多く使用することができるので、このエンジンを搭載した車両の航続距離を増大することができる。また、水素ガスの噴射タイミングを進角する必要もないので、正常な燃焼によりエンジンを運転することができる。
更に、吸気加熱手段を備えた実施形態に係るエンジンにおいては、「圧縮端近傍筒内圧」又は「噴射タイミング筒内圧」を低下させつつも、「圧縮端近傍筒内温度」又は「噴射タイミング筒内温度」を低下させないようにすることができる。従って、燃焼が不安定になることを回避することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記各実施形態に係るエンジンは水素を拡散燃焼させていたが、水素ガスを燃焼室21内に噴射する形式のエンジンであれば、自着火燃焼運転又は燃焼室21に配設された点火プラグからの火花による火炎伝播燃焼運転を行うエンジンにも本発明を適用することができる。また、例えば、第1実施形態の吸気弁閉弁タイミングの変更制御と、第2実施形態の吸気通路断面積の変更制御と、を併せて採用する等、各実施形態の筒内圧低減部を二つ以上組み合わせて使用することもできる。
更に、上記各実施形態においては、作動ガスとしてアルゴンガスが使用されていたが、アルゴン以外の高い比熱比を有する不活性ガス(例えば、He等のアルゴン以外の単原子ガス)であってもよい。また、本発明において、タンクガス圧が大きい場合(筒内圧が低減されていない場合)の燃料噴射タイミングとタンクガス圧が小さい場合(筒内圧が低減される場合)の燃料噴射タイミングとは、互いに一致していてもよく、燃焼が安定して行われる範囲内において互いに相違していてもよい。
また、上記各実施形態においては、ステップ420及びステップ1515等において使用される要求噴射圧(例えば、Pcy+Mgin)は、特定気筒のクランク角が上死点前10度であるときの筒内圧Pcyに基づいて求められていたが、一定の固定値であってもよい。
10…水素ガス燃料エンジン、21…燃焼室、31…吸気ポート、32…排気ポート、33…吸気弁、33a…吸気弁駆動機構、34…排気弁、34a…吸気弁駆動機構、35…水素噴射弁、40…水素供給部、41…水素タンク、45…サージタンク、50…酸素供給部、51…酸素タンク、55…酸素ガスミキサ、60…作動ガス循環通路部、61…第1通路、62…第2通路、63…第3通路、64…凝縮器、70…筒内圧低減部、71…吸気絞り弁、72…吸気絞り弁アクチュエータ、80…電気制御装置、85…筒内圧センサ、86…サージタンク圧力センサ、87…水素タンク内圧力センサ、88…筒内温度センサ、90…筒内圧低減部、91…蓄圧タンク、94…コンプレッサ、100…筒内圧低減部、103…循環通路絞り弁、110…加圧貯蔵部、113…加圧サージタンク、114…加圧サージタンク圧力センサ、115…加圧ポンプ、120…吸気加熱手段、121…吸気加熱部、124…吸気加熱制御弁、125…吸気加熱用ポンプ、130…吸気加熱手段、131…吸気加熱部、134…吸気加熱用三方弁、140…電気式吸気加熱手段、141…吸気用加熱ヒータ、150…電気式吸気加熱手段、151…吸気用加熱ヒータ。