本発明の実施態様について、以下に説明する。ただし、本発明はここに挙げる態様に限定されるものではない。
次に、本発明に係わるフィルム製造設備について説明する。図1は、本実施形態に用いるフィルム製造設備10の概略図である。
フィルム製造設備10は、流延室12と渡り部13とテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
流延室12には、フィードブロック20と、流延ダイ22と、支持体である流延ドラム23と、冷媒供給装置24と、剥取ローラ25と、凝縮器(コンデンサ)26と、回収装置27と、温調装置28が備えられている。また、流延ダイ22には、減圧チャンバ30が取り付けられている。さらに、流延室12の内部には、介在膜形成装置32と、静電印加電極34と、酸素濃度計35とが備えられている。
流延室12は、温調装置28により内部温度が常時、所定の温度範囲となるように調整されている。また、本実施形態では、リボン状のドープの流れ(流延ビード)を形成しながら流延ダイ22より表面を冷却した流延ドラム23の上にドープを流延し、冷却させることによりゲル状の流延膜40を形成する。
上記のように、流延ドラム23の表面を冷却するために、流延ドラム23の内部には、冷媒供給装置24から供給される冷却溶媒(冷媒)の流路(図示しない)が形成されている。そして、この流路の中に、冷媒供給装置24から所定の温度に調整した冷媒を送り込み、循環または通過させることで、流延ドラム23の表面を所定の温度範囲となるように調整する。なお、流延ドラム23の表面温度は、−40〜30℃となるようにすることが好ましい。これにより、ドープを効率よく冷却させてゲル状の流延膜40を形成することができる。また、流延ドラム23には、駆動装置(図示しない)が取り付けられており、この駆動装置により回転数が制御されながら連続して走行している。
流延ドラム23は、その表面を所定の温度範囲になるよう調整することができる形態であれば特に限定されるものではないので、その幅や、材質等も限定されないが、所望の幅の流延膜40を形成するために、ドープの流延幅に対して1.1〜2.0倍程度の幅を有するものが好ましい。そして、その材質は、耐腐食性等の観点からステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するSUS316製であることがより好ましい。なお、平面性に優れる流延膜40を形成させるために、できる限り表面が研磨されたものが好ましい。
流延膜40は、自己支持性を有するまで乾燥させる。ただし、流延膜40の乾燥が進行すると、流延室12の内部には、流延膜40から蒸発してなる揮発溶媒が浮遊する。そこで、本実施形態では、凝縮器26により、この揮発溶媒を凝縮液化した後、さらに、回収装置27で回収してから、再生装置(図示しない)により再生してドープ調製用溶媒とする。これにより、原料コストの低減化を行うことができる。
次に、流延ダイ22について説明する。流延ダイ22は、流延するドープの幅を略均一に保持するために、コートハンガー型のものを用いることが好ましい。その幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルム43の幅に対して、1.1〜2.0倍程度のものを用いることが好ましく、その表面は研磨されて凹凸が低減されているものを用いることが好ましい。また、その材質は、耐腐食性等の観点から析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましいが、ジクロロメタンやメタノール、水の混合用液に3ヶ月浸漬させても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いることが好ましいが、耐腐食性の観点からは、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものも好ましく用いることができる。なお、熱ダメージを抑制するために、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下である素材を用いることが好ましい。
また、流延ダイ22は、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して作製することが好ましい。これにより、流延ダイ22の内部にドープを円滑かつ一様に流すことができるので、スジ等の発生を抑制しながら流延膜40を形成することが可能となる。加えて、ドープの流延口となるスリットのクリアランスは、自動調整により0.5〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いることが好ましい。その他にも、流延ダイ22のリップ先端の接液部の角部分において、Rがスリット全幅に亘り50μm以下のものを用いることが好ましく、流延ダイ22の内部の剪断速度は、1〜5000(1/秒)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
また、流延ダイ22には、その内部の温度を所定の範囲で保持することができるように温調機(図示しない)を取り付けることが好ましい。この温調機により、所定の温度範囲で略一定となるようにドープの温度が調整される。
また、流延ダイ22の幅方向に、所定の間隔で厚み調整ボルト(ヒートボルト)とこのヒートボルトによる自動厚み調整機構とを取り付けて、あらかじめ設定されるプログラムによりヒートボルトを制御することにより、ドープを流延ダイ22に送液する際に使用するポンプ(図示しない)の送液量を調整しながら製膜を行うことが好ましい。このとき、フィルム製造設備10内に厚み計(例えば、赤外線厚み計)を設けて、このプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行ってもよい。なお、流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向での厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
流延ダイ22のリップ先端には、耐摩耗性の向上等を目的として、硬化膜が形成されていることが好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、セラミックスコーティングやハードクロムめっき、窒化処理等が挙げられる。ただし、硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削加工が可能であり、低気孔率、かつ脆性および耐腐食性に優れるとともに、流延ダイ22に対しては密着性に優れるが、一方で流延するドープに対しては密着性に劣るものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)やAl2 O3 、TiN、Cr2 O3 等が挙げられるが、中でも、WCを用いることが好ましい。なお、WCのコーティングは、溶射法で行うことができる。
また、スリット端に溶媒供給装置(図示しない)を取り付けて、流延するドープを可溶化させる溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部とアセトン13質量部とn−ブタノール0.5質量部との混合溶媒)を流延ビードの両端部およびスリットと外気との両気液界面に供給することが好ましい。これにより、流延ダイ22のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止することができる。可溶化溶媒の供給量は、特に限定されるものではないが、スリット端部の片側ごとに、0.1〜1.0mL/分の範囲で供給すると、流延膜40の内部への異物の混入を防止することができるので好ましい。なお、可溶化溶媒を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いることが好ましい。
渡り部13は、複数のローラと乾燥装置44とを備えている。渡り部13では、流延膜40を流延ドラム23から剥ぎ取ることで形成される湿潤フィルム41を、各ローラで支持しながら搬送する間に、乾燥装置44から湿潤フィルム41に対して所定の温度に調整した乾燥風を吹きつける。これにより、湿潤フィルム41の乾燥が促進される。
渡り部13の下流に位置するテンタ14は、予めレールにしたがい走行するチェーンと加熱装置(ともに図示しない)とを備えている。チェーンには、複数のピンが取り付けられている。さらに、本実施形態のテンタ14の内部は、複数の区画に分けられている。このとき、各区画の温度は、上記の加熱装置により異なる温度に調整されている。これにより、湿潤フィルム41を搬送する間に、異なる温度で段階的に乾燥することができるので、急激に溶媒が揮発することにより湿潤フィルム41が収縮することがない。そして、テンタ14では、湿潤フィルム41の両側端部を各ピンに突き刺した後、チェーンの走行に伴い湿潤フィルム41を搬送する間に、上記の加熱装置により湿潤フィルム41の乾燥を促進させてフィルム43とする。また、本実施形態では、レールの幅を変更することで、テンタ14の内部を搬送する湿潤フィルム41の幅方向に延伸および緩和させる張力を付与する。これにより、湿潤フィルム41の分子配向を制御して、所望のレタデーション値を有するフィルム43を得ることができる。
なお、湿潤フィルム41を幅方向に延伸または緩和させる処理は、渡り部13でも行なうことができる。このとき、渡り部13およびテンタ14では、湿潤フィルム41の流延方向および幅方向の少なくとも1方向を、延伸前の幅に対して0.5〜300%の割合で延伸させることが好ましい。また、渡り部13あるいはテンタ14で湿潤フィルム41に張力を付与している間は、乾燥温度を略一定に保持することが好ましい。これにより、乾燥温度の違いにより延伸程度に差が生じるのを防止することができる。
なお、本実施形態では、テンタ14として、複数のピンを有するピン型テンタを示したが、特に限定されるものではない。例えば、ピンの代わりにクリップ等の把持手段を複数取り付けたチェーンを有するクリップ型テンタを使用することもできる。この場合、湿潤フィルム41の両側端部をクリップで把持した後、チェーンの走行に伴い搬送する間に、湿潤フィルム41の乾燥を促進させる。ただし、本実施形態のように、表面温度が低温に調整された流延ドラム23の上にドープを流延して、ゲル状の膜を流延膜として形成させる場合、流延膜は自己支持性を有していても、ゲル状であるために非常に不安定である。したがって、クリップでは把持しにくいので、優れた搬送安定性で湿潤フィルムを搬送するには、ピン型テンタを使用する方が好ましい。
テンタ14の下流には、クラッシャ50を有する耳切装置51が設けられている。耳切装置51では、送り込まれたフィルム43の両側端部を切断する。これにより、テンタ14で生じたフィルムの両側端部におけるピンの突き刺しキズ等を除去することができるので、平面性に優れるフィルム43を得ることが可能となる。なお、この切断されたフィルム43の両側端部は、クラッシャ50に送り込まれ、チップとして粉砕される。
乾燥室15は、複数のローラ53と吸着回収装置54とを備えている。また、乾燥室15の内部は、温度調整装置(図示しない)により温度が所定の範囲で調整されている。乾燥室15では、送り込まれたフィルム43を各ローラ53で支持しながら搬送する間に、乾燥を十分に促進させる。乾燥室15の下流に位置する冷却室16では、乾燥したフィルム43の温度が略室温となるまで徐々に冷却する。これにより、急激な温度変化によりフィルム43の表面にしわやつれが発生するのを抑制することができるので、平面性に優れるフィルム製品を得ることが可能となる。
また、本実施形態では、冷却室16の下流に、強制除電装置(除電バー)56とナーリング付与ローラ57とを設けている。これにより、フィルム43の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)となるように調整することができ、さらには、ナーリングを付与することで、優れたしわ伸ばし効果を得ることができる。巻取室17は、巻取ローラ58とプレスローラ59とを備えている。これにより、略室温とされたフィルム43にプレスローラ59で適度の押し圧を加えてしわを伸ばしながら、巻取ローラ58で巻き取って、平面性に優れるロール状のフィルム製品を得ることができる。
なお、耳切装置51と乾燥室15との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて、フィルム43を予備乾燥すると、乾燥室15においてフィルム43の膜面温度が急激に上昇することによる形状変化を抑制することができる等の効果を得ることができるので好ましい。
次に、本発明の特徴部分について説明する。本発明では、ポリマーフィルムを製造する際に、酸素濃度を10vol%未満とした状態で、流延ビードと支持体との間に静電印加し、流延ビードを支持体の上に密着させるための密着手段を用いることを特徴とする。この密着手段としては減圧手段を用い、流延ビードの後方を減圧することが好ましく、その他にも、密着手段としてエアナイフを用い、エアナイフを流延ビードが支持体の上に到達する地点よりも下流側に設けることが好ましく、密着手段として介在膜形成手段を用い、支持体と流延膜との間に介在膜形成液を供給することにより、支持体と流延膜とを繋ぐ介在膜を形成させることが好ましい。なお、介在膜形成液を調製する際には、少なくともドープに含まれる溶媒を用いることが好ましい。そこで、本実施形態では、図1に示すように、流延ビードの近傍に静電印加電極34を設けるとともに、密着手段として、減圧チャンバ30と介在膜形成装置32とを用いている。
図1に示すように、静電印加電極34は静電印加制御装置36に接続されている。また、静電印加制御装置36は、コントローラ37に接続されており、このコントローラ37により、静電印加の起動/停止が制御される。静電印加を起動する際には、静電印加電極34を介し、流延ビード62と流延ドラム23との間に静電印加し、図2に示すように、流延ビード62を流延ドラム23に密着させる。
流延室12の内部は、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス、または不活性ガスと空気とを混合した混合ガスを供給することにより、酸素濃度が所定の値となるように調整される。また、酸素濃度計35により、流延室12の内部の酸素濃度を測定する。そして、酸素濃度計35により測定された酸素濃度測定値は、コントローラ37に送られる。コントローラ37では、この酸素濃度測定値に基づき、流延室12の内部の酸素濃度が10vol%未満となるように、例えば、流延室12の内部に供給する窒素ガスの流入量を調節し、常に、流延室12の内部の酸素濃度を10vol%未満に保持する。このように流延室12の内部の酸素濃度を10vol%未満に保持することにより、流延室12の内部で静電印加を行なっても、流延室12の内部に浮遊する揮発溶媒による火災や爆発を防止することができる。そして、何らかの原因で酸素濃度が10vol%以上となったときには、アラームを発するとともに、その測定値をコントローラ37に送り、静電印加制御装置36を制御して、静電印加を停止させる。
介在膜形成装置32は、介在膜形成液64を貯留するタンク(図示しない)と、この液の流路32aと供給口32bとを有している。そして、供給口32aから適量の介在膜形成液64を流延ビード62の支持体面側の全幅域に沿わせるように供給する。この介在膜形成液64は、流延ドラム23の上に到達すると、液膜である介在膜65となる。これにより、流延ドラム23と流延ビード62との間にエア巻き込み現象が発生するのを防止することができるので、結果として、平面性や透明性に優れる流延膜40を形成することが可能となる。なお、介在膜形成液64はドープ60に含まれる溶媒を含むので、時間の経過に伴い、介在膜65は流延膜40に拡散する。これにより、流延ドラム23と流延膜40との密着性が高くなりすぎることがない。したがって、流延ドラム23から、小さな剥取応力により容易に流延膜40を剥ぎ取ることができる(剥取性の向上)ので、作業時間の短縮、すなわち製造時間の高速化をもたらし、さらには、エネルギーコスト低減による製造コストの低減化を行なうことができる。
減圧チャンバ30は、その内部温度を所定の範囲で保持することができるジャケット(図示しない)を備えている。そして、ドープ60が流延される間、流延ビード62の後方を、所定の減圧度範囲となるように減圧する。この減圧度は、(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10Pa)以下の範囲とすることが好ましい。これにより、流延ビード62の周辺の風の流れを低減することで、流延ビード62に対するエア巻き込み現象の発生を防止し、さらには、適度に流延ビード62を後方に引っ張ることができるので、より安定した形状の流延ビード62を形成することが可能となる。なお、減圧チャンバ30の内部温度は、特に限定されるものではないが、流延膜40の乾燥を促進させるために、使用する溶媒の凝縮点以上にすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望の状態に保つため、流延ダイ22のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けて、エッジ吸引風量を、1〜100L/分の範囲として吸引することが好ましい。
以上のように、本実施形態では、ドープ60を流延ドラム23の上に流延する際、流延室12の内部の酸素濃度を10vol%未満とした状態で、静電印加電極34により流延ドラム23と流延ビード62との間に静電印加し、さらに、減圧チャンバ30により流延ビード62の後方を減圧すると同時に、流延ビード62の支持体面側の全幅域に対して介在膜形成液64を供給する。これにより、火災や爆発の危険性を低減しながら、安定した流延ビード62を形成することができるほか、流延ドラム23と流延ビード62との密着性を高めることができる。なお、減圧チャンバ30で流延ビード62の後方を減圧するので、より安定した流延ビード62を形成することができるため、結果として、製膜速度を高速化しても、しわやつれがない非常に面状に優れる流延膜40を得ることが可能となる。
なお、介在膜形成液64は、流延ビード62の全幅域になるように供給しても良いし、流延ビード62の両側端部にのみ供給しても良い。本実施形態では、流延ビード62の全幅域となるように介在膜形成液64を供給しているが、この場合、両側端部にのみ供給する場合に比べて、エア巻き込み現象の防止および剥取性に関して優れた値を得ることができるので好ましい。
なお、本実施形態では、流延ビード62に沿わせるよう介在膜形成液64を供給したが、その供給方法は、本形態に限定されるものではない。例えば、流延ビード62が流延ドラム23の上に到達する点よりも上流側に、介在膜形成液を供給する装置(例えば、流延ダイ)を設け、介在膜形成液を流延ドラム23の上に流延することで介在膜を形成しても良い。
また、本実施形態では、流延ビードと支持体とを密着させる密着手段として減圧チャンバおよび介在膜形成装置を用いる形態を示したが、図3に示すように、流延ビード62が流延ドラム23に到達する点よりも下流側に設けたエアナイフ38を、密着手段として用いることもできる。そして、静電印加電極34を用いて静電印加を付与しながら、流延ビード62の反支持体面側に向かってエアを吹き付けることにより、安定した流延ビード62を形成しながら、流延ドラム23と流延ビード62との密着性を高めて流延膜40を形成することができる。
次に、上記のフィルム製造設備10によりフィルム43を製造する手順について説明する。先ず、ドープ製造設備11により予め製造しておいたドープ60を、送液ラインL1を介して流延室12内にあるフィードブロック20に適量送り込む。
そして、フィードブロック20からドープ60を流延ダイ22に送り込んでから、図2に示すように、ドープ60を流延口22aより流延ビード62を形成させながら流延ドラム23の上に流延する。このとき、流延室12の内部の酸素濃度を10vol%未満とした状態で、静電印加電極34を起動させて、流延ドラム23と流延ビード62との間に静電印加する。また、減圧チャンバ30により、流延ビード62の後方を減圧するとともに、介在膜形成装置32から、適量の介在膜形成液64を流延ビード62の支持体面側の全幅域に沿わせるように供給する。そして、流延ビード62を流延ドラム23の上にしっかりと密着させて、エア巻き込み現象の発生を防止しながら流延ドラム23の上に流延膜40を短時間のうちに形成する。
流延するドープ60の温度は、−10〜55℃となるように調整することが好ましく、さらに、ドープ60の流延量は、乾燥した後のポリマーフィルムの膜厚が20〜500μmの範囲内で略一定の値となるように調整することが好ましい。これにより、所定の温度に調整された流延ドラム23の上で短時間のうちに、ドープ60を冷却ゲル化させて流延膜40を形成することができる。なお、形成する流延膜40の膜厚は、乾燥した後のポリマーフィルムの膜厚が20〜150μmの範囲を満たすように調整することが好ましく、特に好ましくは、乾燥後のポリマーフィルムの膜厚が25〜100μmの範囲を満たすようにすることである。
流延ドラム23の内部に形成されている流路に、冷媒供給装置24より所定の温度に調整した冷媒を供給することで、その表面温度を、−40〜30℃の範囲になるよう調整する。これにより、流延ドラム23の上に流延されたドープ60は冷却されてゲル状の流延膜40が形成される。なお、流延ドラム23の速度変動は3%以下とし、流延ダイ22の直下での流延ドラム23は、安定した流延ビード62や平面性に優れる流延膜40を形成させるために、その上下方向の位置変動を500μm以下となるように調整する。また、温調装置28により、流延室12の内部温度は−10〜57℃の範囲で略一定に調整する。流延室12の内部に浮遊する揮発溶媒は、コンデンサ36により凝縮液化した後、回収装置27で回収し、さらに再生装置(図示しない)で再生させてドープ調製用溶媒として再利用する。
次に、流延膜40を流延ドラム23から剥ぎ取って湿潤フィルム41を形成する。なお、形成直後の湿潤フィルム41の残留溶媒量は、固形分基準で10〜200質量%となるようにする。続けて、湿潤フィルム41を、剥取ローラ25を介して渡り部13に送り込む。渡り部13では、湿潤フィルム41を複数のローラで支持しながら搬送する間に、乾燥装置44から所望の温度に調整した乾燥風を吹き付けて乾燥を促進する。なお、乾燥装置44から供給する乾燥風の温度は、20〜250℃で略一定とすることが好ましい。ただし、乾燥装置44から供給する乾燥風の温度は、ドープ60に使用するポリマーや添加剤等の原料種、または製造速度等を考慮し、上記の範囲内で任意に決定すればよい。
なお、渡り部13では、配される複数のローラのうち、下流側すなわち渡り部13の出口付近に配されるローラの回転速度を、上流側(すなわち渡り部13の入口側)に配されるローラの回転速度よりも速くすることが好ましい。これにより、渡り部13を搬送する湿潤フィルム41に対して、適度の張力を付与し、しわやつれ等を発生させることなく搬送することができる。加えて、高残留溶媒量の湿潤フィルム41に張力を付与することで、レタデーション値を制御しやすい。
渡り部13の下流に位置するテンタ14に、湿潤フィルム41を送り込む。テンタ14では、無端で走行するチェーンに取り付けられた複数のピンに湿潤フィルム41の両側端部を突き刺して固定した後、チェーンの走行に伴い搬送する。このとき、加熱装置(図示しない)により湿潤フィルム41を加熱することで、乾燥を促進させてフィルム43とする。なお、テンタ14の内部では、搬送する湿潤フィルム41を幅方向に延伸させることで、形成するフィルム43のレタデーション値を所望の値に調整することが好ましい。
フィルム43を耳切装置51に送り込み、その両側端部を切断する。なお、フィルム43の両側端部を切断する本処理は省略することもできるが、流延室12から巻取室17までのいずれかで行うことが好ましい。本実施形態のように、テンタ14の下流側に耳切装置51を設けて切断処理を行うと、ピン等のキズが付いたフィルム43の両側端部を切断除去することができるので、平面性に優れるフィルム43を得ることが可能となる。
続けて、フィルム43を乾燥室15に送り込み、多数のローラ53で支持しながら搬送する間に乾燥を十分に促進させる。乾燥室15の内部温度は、特に限定されるものではないが、フィルム43の膜温度が60〜145℃となるように調整すると、フィルム43を構成するポリマーの熱ダメージを抑制しながらも、溶媒を効果的に揮発させることができるので好ましい。また、本実施形態では、乾燥室15の内部に浮遊するフィルム43から蒸発した揮発溶媒を含むガスを、吸着回収装置54により回収した後、溶媒成分を除去してから、再度、乾燥室15に乾燥風として送風する。これにより、エネルギーコストを削減することができるので、製造コストの低減を図ることが可能となる。
乾燥が完了したフィルム43を冷却室16に送り込み、略室温となるまで冷却する。なお、乾燥室15と冷却室16との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム43を調湿した後、冷却室16に送り込むようにすると、フィルム43の表面に対して優れたしわ伸ばし効果を得ることができるので好ましい。
フィルム43を強制除電装置56に送り込み、その帯電圧を所定の範囲(例えば、−3〜+3kV)となるように調整する。なお、図1では、強制除電装置56の設置箇所を、冷却室16の下流側とする形態を示しているが、この位置に限定されるものではない。そして、ナーリング付与ローラ57により、フィルム43の両側端部に対してエンボス加工を施し、ナーリングを付与する。
最後に、巻取室17において、プレスローラ59により巻き取り時の張力を調整しながら、フィルム43を巻取ローラ58に巻き取り、ロール状のフィルム製品を作製する。巻取り時の張力は、巻取開始時から終了時までの間で徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取るフィルム43は、搬送方向に少なくとも100m以上とすることが好ましく、幅方向が1400〜1800mmであることが好ましい。ただし、本発明は、1800mmより大きい場合にも効果を得ることができる。
なお、完成したフィルム43の厚みは、20〜500μmであることが好ましい。より好ましくは、厚みが30〜300μmであり、特に好ましくは、35〜200μmである。ただし、本発明は、完成したフィルム43の膜厚に、特に限定されるものではない。すなわち、膜厚が、15〜100μmであるような薄いフィルム43を製造する際にも本発明の効果を得ることができる。
なお、本発明における残留溶媒量とは、対象となるフィルム(流延膜や湿潤フィルムも含まれる)の主溶媒の残留溶媒量である。ただし、対象となるフィルム中に多種の溶媒が存在する場合には、もっとも含有量の多い溶媒を主溶媒とみなす。この残留溶媒量は乾量基準でのものであり、サンプリング時におけるフィルム重量をx、そのサンプリングフィルムを完全に乾燥した後の重量をyとするとき{(x−y)/y}×100で算出される値である。
本発明において、ドープを調製する際に使用する各種原料について説明する。
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(a)〜(c)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(a)〜(c)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90質量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(a) 2.5≦A+B≦3.0
(b) 0≦A≦3.0
(c) 0≦B≦2.9
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでもよいが、リンター綿から得られたものが好ましい。
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステル等が挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等が挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基等がより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
本発明において、ドープを調製する際に使用する溶媒には、セルロースアシレートを溶解することができる化合物を用いることが好ましい。この溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)等が挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
ただし、溶媒としては疎水性のものが好ましく、この疎水性溶媒としてはジクロロメタンがもっとも好ましい。上記のハロゲン化炭化水素においては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。また、セルロースアシレートの溶解性や、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、さらには、フィルムの機械強度、光学特性等の観点から、ジクロロメタンに炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないしは、数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましい。なお、本発明の介在膜形成液は、ここに示すドープ調製用溶媒を用いて調製することが好ましい。
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。なお、これらのエーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよいし、エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も有機溶媒として用いることができる。また、有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。そして、2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合には、その炭素原子数が、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
なお、微粒子は、二酸化ケイ素誘導体を用いる。この二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素であり、三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。このように微粒子として二酸化ケイ素誘導体であり、さらにはその表面がアルキル化処理されたものを使用すると、アルキル化処理という疎水化処理が施されているために、溶媒に対しての分散性がよい。したがって、微粒子同士の凝集を抑制してフィルムを製造することができるので、面状欠陥が少なく、かつ透明性に優れるフィルムを製造することが可能となる。
なお、アルキル化処理された微粒子の表面に導入されるアルキル基は、炭素数が1〜20とする。より好ましくは、導入されるアルキル基の炭素数が、1〜12であり、特に好ましくは、炭素数が1〜8である。このようなアルキル基が導入された微粒子では、微粒子同士の凝集をより抑制し、かつ分散性を向上させることができる。上記のように表面に炭素数が1〜20のアルキル基を有する微粒子は、例えば、二酸化ケイ素の微粒子をオクチルシランで処理することにより得ることができる。また、表面にオクチル基を有する二酸化ケイ素誘導体の一例としては、アエロジルR805(日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、本発明では、これも好ましく用いることができる。
ドープの固形分に対する微粒子の含有量は、0.2%以下となるようにする。なお、微粒子の含有量は、ドープを調製する際に、上記の範囲を満たすように使用する溶剤に対する微粒子の添加量を決定して調整する。このように含有量を制御しながら微粒子を添加して調製したドープでは、微粒子の凝集による異物の発生を抑制することができるので、優れた透明性を有する等の光学特性を示すフィルムを製造することが可能となる。また、上記の微粒子は、平均粒径が1.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは、0.4〜0.8μmである。
本発明に係わるドープの調製方法について説明する。図4は、本実施形態に用いるドープ製造設備11の概略図である。
ドープ製造設備11は、第1タンク70と、第2タンク71と、ホッパ72と、溶解タンク73と、加熱装置75と、温調装置76と、第1濾過装置78と第2濾過装置79と、ストックタンク80とを有する。この他にも、フラッシュ装置83と、回収装置84と再生装置85と、第3濾過装置87とを有する。また、各装置や部材は、耐食性や耐熱性に優れる等の利点からステンレス製の配管により接続されている。そして、各配管の適当な箇所には、ポンプP1〜P5およびバルブV1が取り付けられている。なお、ポンプおよびバルブは、必要に応じて設置数および配置箇所等を変更することができるものである。したがって、本形態に限定されるものではない。
第1タンク70には、ドープ60の溶媒となる溶剤が貯留されており、第2タンク71には、ドープ60に使用する所定の添加剤や微粒子を含む液が貯留されている。また、ホッパ72には、フィルムの主原料であるポリマーとしてTACが貯留されている。
溶解タンク73は、その外面を包み込むようにして設けられたジャケット90と、モータ91により回転する第1攪拌機92と、モータ93により回転する第2攪拌機94とを有する。この第1攪拌機92は、アンカー翼が備えられたものであることが好ましく、第2攪拌機94は、ディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。溶解タンク73の内部温度は、ジャケット90の内部を流れる伝熱媒体の温度を調整することにより制御され、その好ましい温度範囲は、−10〜55℃である。溶解タンク73では、第1攪拌機92および第2攪拌機94を適宜選択して回転させることにより、溶解タンク73の内部に送り込まれた溶剤やTACおよび添加剤液等を混合して混合液95を調製する。
加熱装置75は、温調制御が可能なジャケット付き配管を用いることが好ましい。これにより、混合液95を加熱して、固形分の溶解を促進させることができる。なお、加熱装置75により混合液95を加熱する際の温度は、混合液95に含まれる各種原料が熱ダメージを受けないようにするため、0〜97℃であることが好ましい。したがって、本発明における加熱装置75での加熱とは、室温以上の温度に混合液95を加熱するという意味ではなく、溶解タンク73から送られてきた混合液95の温度を上昇させると言う意味である。例えば、送られてきた混合液95の温度が−7℃であるときには、0℃にする場合等が挙げられる。また、加熱装置75には、混合液95を加圧するための加圧手段が備えられていることが好ましい。これにより、混合液95を加圧することで、溶剤に対するTACの溶解度をより高めることができる。
なお、加熱装置75による加熱溶解に代えて、膨潤液である混合液95を冷却することにより溶解を促進させる冷却溶解法を適用することもできる。このとき、周知のように、混合液95を−100〜−10℃に冷却させればよい。上記の加熱溶解法および冷却溶解法を、各原料の性状等に応じて適宜選択して実施することにより、混合液95の溶解性を制御することができる。
温調装置76は、混合液95を略室温とする装置である。温調装置76により、混合液95を略室温とすることで、溶剤にTACが溶解したポリマー溶液99を得ることができる。なお、ここでは、温調装置76を出た後の液をポリマー溶液と称するが、加熱装置75を出た時点で既に、溶剤にTACが溶解している場合も多いため、本発明では、溶剤にポリマーが溶解した液をポリマー溶液99と称する。
第1濾過装置78および第2濾過装置79は、所望の平均孔径のフィルタを備える濾過装置である。フィルタの平均孔径は、ポリマー溶液99中の小さな異物をも除去することができるように、100μm以下であることが好ましい。なお、第3濾過装置87は、これらと同じ濾過装置を使用すればよい。ただし、フィルタの平均孔径が小さすぎる場合には、濾過に要する時間が長くなるため、ドープ調製に要する時間も長くなってしまう。一方で、フィルタの平均孔径が大きすぎる場合には、小さいサイズの異物を除去することができない。そのため、フィルタの平均孔径は、特に限定されるものではないが、製造時間等を考慮しながら、適宜選択することが好ましい。第1濾過装置78では、送り込まれたポリマー溶液99を濾過することで、異物の除去を行なう。このとき、濾過流量は、50L/時以上とすることが好ましい。これにより、濾過に長時間を費やさずに作業を進めることができる。そして、異物を除去したポリマー溶液99は、ストックタンク80へ送り込む。
ストックタンク80は、その外面を包み込むジャケット96と、モータ97により回転する攪拌機98とを有する。ストックタンク80では、溶解タンク73と同様に、所定の温度に調整した伝熱媒体をジャケット96の内部に流すことで、その内部温度を適宜調整する。また、攪拌機98を常時回転させることにより、異物の凝集を抑制しながらポリマー溶液99を均一な状態で貯留している。なお、ストックタンク80は、送液ラインL1を介してフィルム製造設備10と接続されている。ストックタンク80で均一に保持されたポリマー溶液99は、必要に応じて、適宜送液ラインL1に送り込まれる。このとき、送液ラインL1に送り出す流量は、ポンプP5により調整され、第3濾過装置87により濾過した後、ドープ60としてフィルム製造設備10に送られる。
ただし、上記のように、混合液95を作ってからポリマー溶液99を調製する方法では、作るべきポリマー溶液99の濃度が高いほど、調製に要する時間が長くなるため、製造コストの増大を引き起こす等の問題が生じる。そこで、このような問題を回避するためには、目的とする濃度よりも低濃度のポリマー溶液99を調製した後、所望の濃度となるように濃縮させることが好ましい。この方法としては、先ず、上述の手順により、所望の濃度よりも低濃度のポリマー溶液99を調製する。そして、このポリマー溶液99を第1濾過装置78で濾過した後、バルブV2を介してフラッシュ装置83に送り込み、そこでポリマー溶液99に含まれる溶媒の一部を蒸発させる。これにより、ポリマー溶液99を濃縮して所望の濃度に調整することができる。なお、蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮液化した後、回収装置84により回収してから、さらに再生装置85で再生する。この再生した溶媒を、混合液95を調整する際に使用すると、原料コストを削減できる等の効果を得ることが可能となる。
濃縮したポリマー溶液99を、ポンプP3によりフラッシュ装置83から抜き出した後、第2濾過装置79に送り込み濾過すること異物を除去する。そして、ストックタンク33に送り込んで攪拌機98を回転させて常時攪拌しながら貯留する。また、ポリマー溶液99をフラッシュ装置83から抜き出す際には、ポリマー溶液99の中に発生した気泡を抜くため、泡抜き処理を施すことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の方法を適用することができ、例えば、超音波照射法が挙げられる。なお、第2濾過装置79で濾過する際のポリマー溶液99の温度は、0〜200℃であることが好ましい。
次に、このドープ製造設備10を用いたドープ製造方法を説明する。
先ず、第1タンク70から、ポンプP1により流量を調整しながら溶解タンク73に所定量の溶剤を送り込む。このとき、溶解タンク73へは、第2タンク71から、ポンプP2により流量を調整しながら添加剤溶液を送り込み、さらに、ホッパ72から、所望量のTACを送り込む。なお、第2タンク71には、添加剤および微粒子を、予め所定の溶剤に溶解させた溶液状態あるいは、分散させた分散状態の添加剤溶液が貯留されている。この添加剤や微粒子を溶解または分散させる溶剤は、通常、第1タンク70に貯留されているものと同一であることが好ましいが、添加剤の種類に応じて適宜代えることができる。
各種材料を溶解タンク73に送り込んだ後、溶解タンク73の内部温度を、ジャケット90の内部を流れる伝熱媒体の温度を調整することで、−10〜55℃になるように調整しながら、第1攪拌機92および第2攪拌機94を適宜選択し回転させて、各種材料を混合させた混合液95を調製する。
調製した混合液95を、ポンプP3により加熱装置75に送り込み、膨潤状態の混合液95における固形分の溶解を促進させる。本実施形態では、加熱装置75として、温調制御が可能なジャケットと加圧機能とを有する配管を用い、その加熱温度を0〜97℃となるように調整しながら加圧して、溶剤に対する固形分の溶解度を高める。
混合液95を、温調装置76で略室温とすることで、溶剤にポリマーが溶解したポリマー溶液99を得る。次に、ポリマー溶液99を、平均孔径が100μm以下のフィルタを備える第1濾過装置78に通過させて異物を除去した後、バルブV1の開閉によりフラッシュ装置85にポリマー溶液99を送り込んでから、所望の濃度になるまで濃縮する。続けて、濃縮したポリマー溶液99を、ポンプP4によりフラッシュ装置83から抜き出して第2濾過装置79に送り込んだ後、濾過することで、さらに異物を除去する。なお、第1濾過装置78および第2濾過装置79における濾過流量は、50L/時以上となるように調整する。そして、異物を除去した所望の濃度のポリマー溶液99をストックタンク80に送り込み、ここに貯留する。
ストックタンク80では、ジャケット96に流す伝熱媒体の温度制御により温度を調整しながら、攪拌機98を常時回転させて、ポリマー溶液99を均一な状態に保持する。そして、必要に応じて、適宜適量のポリマー溶液99を、送液ラインL1に送り込み、ポンプP5により第3濾過装置87に送り込んで濾過することでドープ60とした後、このドープ60をフィルム製造設備10に送り込む。
なお、本実施形態では、予め添加剤を溶剤に混合させた添加剤溶液を使用する形態を示したが、添加剤が固体の場合には、第2タンク71の代わりにホッパ等を用いて、溶解タンク73に送り込んでもよい。さらに、複数種類の添加剤を添加する場合には、予め、各添加剤を溶剤に溶解させた溶液を調製しておき、それを第2タンク71から溶解タンク73へと送液してもよいし、各添加剤を含有した溶液の種類に応じて複数のタンクを用意し、各タンクと溶解タンク73とを送液ラインにより接続してから、溶解タンク73へと送液してもよい。また、添加剤が常温で液体の場合には、溶剤を使用せずに溶解タンク73に送り込むこともできる。
本実施形態では、溶解タンク73に送液するドープ原料の順番を、溶媒、TAC、添加剤の順としたが、この順番に限定されるものではない。例えば、TAC、溶媒、添加剤の順でもよい。また、添加剤は、溶解タンク73の中で各ドープ原料と混合する必要はなく、分子量が小さく揮発しやすい添加剤を使用する場合等は、加熱処理を行なった後の工程で添加する等、その種類や性質等を考慮して、適宜混合させればよい。
ドープ60を調製する際のポリマーとしてトリアセチルセルロース(TAC)を使用する場合、ポリマー溶液99中のTAC濃度は、5〜40質量%であることが好ましい。より好ましくは、TAC濃度が15〜30質量%であり、特に好ましくは、17〜25質量%である。また、添加剤(主に可塑剤)の濃度は、ポリマー溶液99中の固形分全体に対して、1〜20質量%とすることが好ましい。このようなTACフィルムを製造する溶液製膜法での流延用ドープの製造方法(例えば、素材、原料、添加剤の溶解方法および添加方法、濾過方法、脱泡等)は、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レタデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤等の添加剤についても、同じく、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
本実施形態では、1種類のドープを用いた単層流延により単層のフィルムを製造する形態を示したが、本発明は特に限定されるものではなく、基層およびその両面に表層を有する複層構造のフィルムを製造することもできる。この場合には、基層や、表層を形成するためのドープを複数種類あらかじめ調製してから、これらの複数種類のドープを共流延することにより流延膜を形成させればよい。この共流延の形式は、所望の層構造となるように流路が形成されたフィードブロックや流延ダイに2種類以上のドープを供給してから、同時に積層共流延させる形態でもよいし、表層用のドープと基層用のドープとを供給する流延ダイそれぞれ設けて、これらの流延用ドープを、走行する支持体の上に、逐次に積層共流延させる形態でもよい。また、これらの両共流延を組み合わせてもよい。
同時積層共流延を行う際には、上記のようにフィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープで包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合に、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
表層用ドープの粘度(Pa・s)は、40Pa・s以下となるように調整することが好ましい。これにより、内側に位置する基層よりも表層が早く乾燥されるので、基層を保護する効果を得ることができる。そして、表層で保護された基層の内部は、徐々に乾燥が促進されるので溶媒の発泡が抑制される。そのため、平面性に優れ、さらには発泡等の欠陥が低減された流延膜40を形成することができる。ただし、表層用ドープの粘度が40Pa・sよりも大きいと、高粘度のために、流延膜40の表面に凹凸ムラが生じやすく、かつ流延速度の遅延により、製造時間が延長される等の問題が生じるので好ましくない。
流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフィルムの性能およびそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
[表面処理]
このセルロースアシレートフィルムにおいては、少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。そして、この表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
セルロースアシレートフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていてもよい。
さらに、セルロースアシレートフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、および光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m2 含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m2 含有することが好ましい。また、機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m2 含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m2 含有することが好ましい。なお、セルロースアシレートフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
本発明により得られるフィルムの用途について説明する。本発明により得られるフィルムは、高レタデーション値を有し、透明性に優れている。そのため、特に、偏光板保護フィルムとして有用である。なお、このフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報(例えば、[1088]段落から[1265]段落)には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることができる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフィルムについての記載や、適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載も、本発明に適用させることができる。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1に示すドープ製造設備10により、下記の原料を混合してドープ60を調製した。なお、本実施例では、ドープ60の調製に使用する溶剤として、主溶媒となるジクロロメタンにメタノールと1−ブタノールとを混合した混合溶媒を使用した。
[ドープ原料]
セルローストリアセテート(置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100質量部
ジクロロメタン 320重量部
メタノール 83重量部
1−ブタノール 3重量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6重量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8重量部
UV剤a:2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.7重量部
UV剤b:2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール 0.3重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
本実施例で使用したセルローストリアセテート(TAC)は、綿から採取したセルロースを原料として合成されたもの(以下、綿原料TACと称する)であり、残存酢酸量が、0.1質量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppm、さらに、遊離酢酸の含まれる割合が40ppm、硫酸イオンの含まれる割合が15ppmであった。また、6位のアシル置換度は0.91であり、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基が置換されたアセチル基であった。そして、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8質量%であり、その重量平均分子量Xと数平均分子量Yとの比であるX/Yは、2.5であった。なお、得られたTACのイエローインデックスは、1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%、DSCにより測定したTg(ガラス転移温度)は160℃、結晶化発熱量は6.4J/gであった。
ドープ調製時では、先ず、容量が4000Lであるステンレス製の溶解タンク73に、第1タンク70から混合溶媒を供給し、ホッパ72からフレーク状のTAC粉末を徐々に供給した。次に、アンカー翼を有する第1攪拌機92を周速1m/秒とし、ディゾルバータイプの第2攪拌機94を周速5m/秒で30分間攪拌させて、TAC粉末を混合溶媒中に分散させた。なお、分散開始時の温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。また、溶解タンク72には、レタデーション制御剤であるN−N−ジ−m−トルイル−N−P−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンを溶解タンク73に供給した。このとき、フィルムとしたときに、その全質量に対して4.0質量%となるようにレタデーション制御剤の添加量を調整した。
次に、ポンプP2により量を調整しながら、第2タンク71から、予め調製しておいた添加剤溶液を溶解タンク73内の液量が2000kgとなるように溶解タンク73に送り込んだ。そして、第1攪拌機92および第2攪拌機94を回転させて添加剤溶液の分散を行なった後、第1攪拌機92の周速を0.5m/秒と切り替えて、さらに100分間攪拌することにより混合液95を得た。なお、混合液95の調製中には、溶解タンク73に窒素ガスを送り込み、0.12MPaになるように加圧した。また、溶解タンク73の内部の酸素濃度を2vol%未満として、防爆上問題のない状態を保った。この混合液95に含まれる水分の割合は、0.3質量%であった。
加温加圧機能を有する加熱装置75を使用した。そして、溶解タンク73から、ポンプP3により流量を調整しながら混合液95を加熱装置75に送り込み、混合液95を50℃まで加熱した後、さらに、2MPaの加圧下で90℃まで加熱して、TACや添加剤を溶媒中に完全に溶解させたポリマー溶液99を製造した。なお、加熱装置75による加熱時間は15分であった。続けて、ポリマー溶液99を温調装置76に送り込み、36℃まで温度を下げた後、公称孔径8μmのフィルタを有する第1濾過装置78を通過させてポリマー溶液99の異物を除去した。この第1濾過装置78での1次側圧力は1.5MPaとし、2次側圧力は1.2MPaとした。また、高温に晒されるフィルタや各装置を接続する配管などは、ハステロイ(商品名)合金製のものを使用した。
濃縮前のポリマー溶液99を、80℃で常圧としたフラッシュ装置83に送り込み、フラッシュ蒸発させることで所望の濃度に濃縮した。フラッシュ後のポリマー溶液99の固形分濃度は22.5質量%であった。このとき、濃縮により蒸発した溶媒は、回収装置84で回収した後、再生装置85で再生した。そして、再生した溶媒を、第1タンク70に送り、ドープ調製用溶媒として再利用した。回収装置84や再生装置85では、蒸留や脱水処理を行った。なお、フラッシュ装置83のフラッシュタンク(図示しない)には、攪拌軸にアンカー翼を備えた攪拌機(図示しない)を設け、周速を0.5m/秒としてフラッシュしたポリマー溶液99を攪拌することで脱泡処理を行った。フラッシュタンク内のポリマー溶液99の温度は、25℃であり、タンク内におけるポリマー溶液99の平均滞留時間は50分であった。また、濃縮後のポリマー溶液99を採取して25℃における剪断粘度を測定したところ、剪断速度10(秒−1)で450Pa・sであった。
濃縮後のポリマー溶液99に弱超音波を照射して脱法処理を行った後、ポンプP4により、1.5MPaに加圧した状態の第2濾過装置79に送り込み、濾過することで異物の除去を行なった。なお、第2濾過装置79では、最初、公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させてから、公称孔径10μmの焼結繊維フィルタを通過させる二段階濾過を行なった。このとき、それぞれの1次側圧力は、1.5MPa,1.2MPaであり、2次側圧力は、1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後のポリマー溶液99を、容量が2000Lのステンレス製のストックタンク80に送液し、ここに貯留した。ストックタンク80では、中心軸にアンカー翼を備えた攪拌機98により、周速0.3m/秒で常時攪拌することでポリマー溶液99を均一に保持し、さらには、ジャケット90の内部に伝熱媒体を流し、その温度を調整することで、ストックタンク80の内部に貯留するポリマー溶液99の温度が36℃となるように調整した。
ストックタンク80から適量のポリマー溶液99を送液ラインL1に送り込み、第3濾過装置87で濾過することで得られるドープ60とフィルム製造設備10(図1参照)とを用いてフィルム43を製造した。先ず、ドープ60をフィードブロック20に送り込んだ後、続けて、流延ダイ22に送り込んだ。流延ダイ22には、幅が1.8mであるスリットと内部温度を調整することができるジャケット(図示しない)とを有する形態を用いた。流延ダイ22はジャケット(図示しない)に伝熱媒体を送り込むことで、流延するドープ60の温度が36℃となるように常時、その内部温度を調整した。なお、製膜時には、フィードブロック20、流延ダイ22および各配管を、すべて36℃に保温した。
また、流延ダイ22はコートハンガータイプであり、厚み調整ボルト(ヒートボルト)が20mmピッチに設けられ、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。ヒートボルトはあらかじめ設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フィルム製造設備40の内部に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は表層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下となるように調整した。
そして、図2に示すように、流延ダイ22の流延口22aから流延ビード62を形成しながらドープ60を流延ドラム23の上に流延した。なお、流延ドラム23は、流延室12の内部であり、流延ダイ22の直下に設け、駆動装置(図示しない)により回転数が制御されるSUS316製のものを用いた。また、ドープ60の流量は、フィルム43の厚みが80μmとなるように調整した。
また、流延ドラム23は、冷媒供給装置24から流延ドラム23の内部に形成された伝熱媒体流路に所定の温度に調整した伝熱媒体を送液した後、これを循環または通過させることにより、その表面温度が−7℃となるように調整した。そして、流延室12の内部温度は、温調装置28により35℃となるように調整した。さらに、流延室12の内部に浮遊する揮発溶媒を、凝縮器(コンデンサ)26により凝縮液化した後、この液化溶媒を回収装置27により回収してから、再生装置(図示しない)で再生した。なお、この再生溶媒は、ドープ調製用溶媒として再利用した。
次に、流延膜40を流延ドラム23から剥ぎ取って湿潤フィルム41を形成した。このとき、剥取張力を1×102 N/m2 とし、剥取不良を抑制するために流延ドラム23の速度に対して、剥取速度(剥取ローラドロー)を100.1〜110%の範囲で調整した。なお、剥ぎ取った湿潤フィルム41の表面温度は15℃であった。
続けて、湿潤フィルム41を、剥取ローラ25を介して渡り部13に送り込んだ。渡り部13では、湿潤フィルム41を複数のローラで支持しながら搬送する間に、乾燥装置44から40℃に調整した乾燥風を送り出して湿潤フィルム41の乾燥を促進した。なお、渡り部13では、湿潤フィルム41を搬送する間に、搬送方向に対して約30Nの張力を付与して、湿潤フィルム41を搬送方向に延伸させる一軸延伸を行った。
次に、乾燥が進行した湿潤フィルム41をテンタ14に送り込んだ。テンタ14は、チェーンの走行により無端で走行する複数のピンと加熱装置(ともに図示しない)とを備えるピン型テンタを使用した。そして、各ピンを湿潤フィルム41の両側端部に突き刺して固定した後、チェーンの走行に伴い搬送する間に湿潤フィルム41の乾燥を促進させてフィルム43とした。なお、テンタ14では、上記のチェーンが備えられたレールの間隔を調整することにより、湿潤フィルム41を幅方向に延伸させた。また、テンタ14の内部を、複数に区画し、この区画において乾燥装置(図示しない)による乾燥風の温度を変更することにより、異なる乾燥温度で段階的に湿潤フィルム41を乾燥した。
テンタ出口から30秒以内に耳切装置51を設けて、フィルム43の両側端部から内側に向かって50mmmの位置で切断した。なお、耳切装置51は、NT型カッタを備える形態を使用した。また、切断した両側端部(耳)は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ50に風送し、平均80mm2 程度のチップに粉砕した。そして、本実施例では、このチップをTAC粉末とともにドープ調製用原料として再利用した。
本実施例では、耳切装置51と乾燥室15との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて、100℃の乾燥風を供給することにより乾燥室15で高温乾燥する前にフィルム43を予備加熱した。そして、残留溶媒量が5重量%となったフィルム43を乾燥室15に送り込んだ。
乾燥室15の内部には、送風機(図示しない)を設けて、この送風機により温調した乾燥風を給気することで、フィルム43の膜面温度を140±40℃の範囲となるように調整した。そして、フィルム43の搬送張力を100N/mとしながら複数のローラ53で支持し搬送する間に、フィルム43の残留溶媒量が最終的に1重量%になるまで約10分間乾燥した。なお、乾燥室15では、吸着剤が活性炭であり、脱着剤が乾燥窒素である吸着回収装置54により、内部に浮遊する溶媒ガスを回収した後、溶媒ガスに含まれる水分量が0.3質量%以下になるまで水分を除去してから、ドープ調製用溶媒として再利用した。
また、乾燥室15と冷却室16との間に調湿室(図示しない)を設けて、フィルム43を調湿することによりカール等の矯正を行った。なお、調湿室では、温度50℃,露点20℃の空気を給気した後、続けて、フィルム43に対して直接、90℃,湿度70%の空気をあてた。
調湿後のフィルム43を、冷却室16に送り込み、30℃以下になるまで冷却した。そして、強制除電装置(除電バー)56により、フィルム43の帯電圧が、常時−3〜+3kVの範囲となるように調整した後、ナーリング付与ローラ57によりフィルム43の両側端部にナーリングの付与を行った。なお、ナーリングはフィルム43の片側からエンボス加工を行うことにより付与した。このとき、ナーリングを付与する幅は10mmであり、凹凸の高さがフィルム43の平均厚みよりも平均して12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を調整した。
最後に、巻取室17の内部に設置されている巻取ローラ58(φ169mm)により、巻き始め張力を300N/mとし、巻き終わりを200N/mとなるように調整しながらフィルム43を巻き取って、幅が1340mmであり、ナーリングを付与した内側の幅が1313mmであるフィルム43のロール状製品を得た。巻き取り時のフィルム43の温度は23℃であり、含水量が1.0重量%、残留溶媒量が1重量%であった。また、巻取室17の内部は、室内温度28℃,湿度70%に保持するとともに、イオン風除電装置(図示しない)を設けて、フィルム43の帯電圧が−1.5〜+1.5kVとなるように調整した。さらに巻き取り時には、巻きズレの変動幅(オシレート幅)を±5mmとし、巻取ローラ58に対する巻きズレ周期を400m、巻取ローラ58に対するプレスローラ59の押し圧を50N/mに設定した。なお、フィルム製造設備10では、全工程を通して、流延膜40や湿潤フィルム41およびフィルム43の平均乾燥速度を20重量%/分とした。
実施例1では、図2に示すように、ドープ60を流延ドラム23に流延する際、流延室12の内部に窒素ガスを供給して、その内部の酸素濃度を10vol%未満としながら、静電印加電極34の電圧を10kVとして流延ドラム23と流延ビード62との間に静電印加した。また、流延バンド23と流延ビード62とを密着させる密着手段として、減圧チャンバ30と介在膜形成装置32を用いて、流延ビード62の後方が−400Paとなるように減圧するとともに、流延ビード62の支持体面側の全幅域に沿わせるように介在膜形成液64を供給した。なお、介在膜形成液64はジクロロメタンを使用し、介在膜65の厚みが5μmとなるように流量を調整した。減圧チャンバ30は、流延ビード62の前後および後部にラビリンスパッキン(図示しない)を設け、さらに、その両端に開口部を設けたものであり、かつ流延ビード62の両側端部の乱れを調整するためのエッジ吸引装置(図示しない)が取り付けられているものを用いた。
また、酸素濃度計35から送られる酸素濃度測定値に基づき、コントローラ37により流延室12の内部の酸素濃度を保持しながら、製膜速度を徐々に高速化させた。そして、この流延時における、流延ビード62と流延ドラム23との間におけるエア巻き込み現象の発生を目視により観察した。その結果、製膜速度を110m/分としたときに、初めてエア巻き込み現象の発生を確認した。なお、以下において、ドープ60の流延時における減圧チャンバ30による減圧度や、酸素濃度、静電印加電圧等を流延条件と称して説明を行う。