以下、本発明による液体容器ホルダを備えた液体噴射装置の一実施形態として、カートリッジ装着部を備えたインクジェット式記録装置について図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット式記録装置100のカートリッジ装着部(液体容器ホルダ)101にインクカートリッジ1が装着された状態を示した斜視図である。この例においては6つのカートリッジ装着部101がインクジェット式記録装置100に設けられており、各カートリッジ装着部101はインクジェット式記録装置100の前面に開口している。また、6つのカートリッジ装着部101は同一水平面内に並置されており、6つのインクカートリッジ1は平置きして並置される。
インクカートリッジ1から供給されたインクは、図示を省略したインクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)から記録紙等の被処理物に向けて滴状にて吐出される。
図2乃至図4は、インクカートリッジ1の外観形状を示した図であり、インクカートリッジ1は略直方体状の容器本体2を有し、この容器本体2の前面にはインクジェット式記録装置100に供給されるインクを送出するインク供給口3が形成されている。
また、容器本体2の前面には、容器本体2の内部のインクを加圧してインク供給口3から送出するための加圧流体を容器本体2の内部に導入する加圧流体導入口4が形成されている。
さらに、容器本体2の前面には、カートリッジ装着部101に設けられた一対の位置決め突起部が挿入される一対の位置決め孔5a、5bが形成されている。一対の位置決め孔5a、5bの周囲には、カートリッジ装着部101の装置側位置決め面に当接されてインクカートリッジ1の挿入方向の位置決めを行うカートリッジ側位置決め面24a、24bが形成されている。一対の位置決め孔5a、5b及び一対のカートリッジ側位置決め面24a、24bは、カートリッジ側位置決め構造(容器側位置決め構造)を構成している。
また、前面を含む容器本体2の一隅部、つまりインク供給口3に関してカートリッジ側固定構造7と反対側の隅部には、誤装着防止構造6が設けられている。この誤装着防止構造6は、インクカートリッジ1をインクジェット式記録装置100に装着する際に、所定の位置に所定のインク種のインクカートリッジ1が正しく装着されるようにするために、正しいインク種のインクカートリッジ以外は装着できないようにする形状が付与されたものである。
また、容器本体2の裏面(底面)には、容器本体2の前面に隣接して、誤装着防止構造6が設けられた隅部とは反対側の隅部に、カートリッジ側固定構造(容器側固定構造)7が設けられている。このカートリッジ側固定構造7は、インクカートリッジ1が液体容器ホルダ101に装着された状態において、インクカートリッジ1の引抜き方向における移動を解除可能に規制するものである。
なお、本例においては容器本体2の裏面にカートリッジ側固定構造7を設けているが、カートリッジ側固定構造7の形成位置は容器本体2の裏面に限られず、例えば容器本体2の上面に配置することもできる。
また、カートリッジ側固定構造7に近い側の容器本体2の一方の側面には、インクの種類、残量等の情報を記憶させるIC(半導体記憶素子)を搭載した回路基板8bが設けられており、この回路基板8bの表面にはICと電気的に接続されていると共に、記録装置本体の装置側接点と接触する電極(カートリッジ側電極)8aを備え、記憶装置8を構成している。記憶装置8は、カートリッジ側固定構造7と共に、容器本体2全体のうちのインク供給口3に近い位置に配置されている。なお、本例においては回路基板8b上に記憶素子と電極8aが形成されているが、記憶素子と電極8aとをFPC上に形成して両者を容器本体2の異なる位置に配置することもできる。
図5は、インクカートリッジ1の分解斜視図であり、容器本体2は、上面が開口したケース本体2Aと、このケース本体2Aの上面開口を封止する蓋部材2Bとから成っている。図6は、インクカートリッジ1からその蓋部材2Bを外した状態を示している。
図5及び図6から分かるように、容器本体2の内部には、インクが充填された可撓性のインク収容部(説明のため破線で図示)を有するインク袋9が収納される。このインク袋9には、その内部のインクを外部に送出するためのポート部10が設けられている。このポート部10の内側端部には、逆止弁11を内部に配置して蓋12が取り付けられている。一方、ポート部10の外側端部には、バネ13で付勢されたバネ座14を内部に配置してシール供給蓋15が取り付けられている。
ケース本体2Aのインク袋9を収容した領域の外周を囲むように形成された溶着部26には、フィルム25が熱溶着によって固定されて内部を密閉空間としている。この密閉空間は、加圧流体導入口4から導入された加圧流体(本実施形態では加圧空気)が外部に漏れることなく密閉され、加圧流体によってインク袋9のインク収容部を押圧して外部にインクを供給可能に構成されている。さらに、蓋部材2Bは、フィルム25を覆うように蓋部材2Bに形成された係合突起27によりケース本体2Aに固定され、前記フィルム25の保護と加圧時におけるフィルム25の無用な膨張の防止をしている。
図7及び図8は、インクジェット式記録装置100のカートリッジ装着部101にインクカートリッジ1を装着した状態を示しており、カートリッジ装着部101には、インクカートリッジ1の前面部が接続されるスライダー部材(並進可動部材)102が設けられている。このスライダー部材102は、インクカートリッジ1の挿抜方向にスライド可能に設けられており、インクカートリッジ1の挿入方向Xに対向する方向(引抜き方向Y)に向かって弾発手段によって付勢されている。弾発手段によって付勢されたスライダー部材102は、当該弾発手段と共に、インクカートリッジ1に対して、その装着時の挿入方向Xに対向する引抜き方向Yへの付勢力を付与する付勢手段を構成している。
図9及び図10は、インクカートリッジ1が装着されていない状態のカートリッジ装着部101を示している。スライダー部材102のインクカートリッジ前面に対向する面には、一対の位置決め突起部103a、103bが設けられており、各位置決め突起部103a、103bの各基部には、各肩部によって装置側位置決め面104a、104bが設けられている。一対の位置決め突起部103a、103b及び一対の装置側位置決め面104a、104bは、スライダー部材102のカートリッジ接続面にて装置側位置決め構造を構成している。
そして、スライダー部材102にインクカートリッジ1が接続される際に、インクカートリッジ1の前面の一対の位置決め孔5a、5bに一対の位置決め突起部103a、103bが挿入され、一対のカートリッジ側位置決め面24a、24bと一対の装置側位置決め面104a、104bとが当接する。
一対の位置決め孔5a、5b、一対の位置決め突起部103a、103b、一対のカートリッジ側位置決め面24a、24b、及び一対の装置側位置決め面104a、104bのうち、一方の位置決め孔5a、一方の位置決め突起部103a、一方のカートリッジ側位置決め面24a、及び一方の装置側位置決め面104aが、スライダー部材102に対してインクカートリッジ1をより正確に位置決めする機能を有している。とりわけ、インクカートリッジ1の挿入方向における位置決めは、カートリッジ側位置決め面24a及び装置側位置決め面104aによって正確に行われる。
図4(b)から分かるように、正確な位置決めに利用される位置決め孔5a及びカートリッジ側位置決め面24aは、電極8aを含む記憶装置8の近傍に配置されている。このように記憶装置8の近傍には、位置決め孔5a及びカートリッジ側位置決め面24a、並びにカートリッジ側固定構造7が配置されている。
また、位置決め孔5aに挿入された位置決め突起部103aとカートリッジ側固定構造7とが容器本体2の厚さ方向において重なり合うように、位置決め孔5a及びカートリッジ側固定構造7が配置されている。
インクカートリッジ1がカートリッジ装着部101に装着される際には、位置決め孔5a、位置決め突起部103a、カートリッジ側位置決め面24a、及び装置側位置決め面103aによって、スライダー部材102に対してインクカートリッジ1が正確に位置決めされると共に、容器本体2の案内溝16の係止部18に、装置側固定構造107の係止ピン112が挿入かつ保持される。
さらに、図9及び図10に示したように、スライダー部材102のインクカートリッジ前面に対向する面には、インクカートリッジ1の加圧流体導入口4に接続される加圧流体ポート105が設けられている。
また、図9及び図10に示したように、スライダー部材102の前面の一端部には、記憶装置8の電極8aに接続される装置側接点113が配置される接点用突出部114が設けられている。接点用突出部114は、一対の位置決め突起部103a、103b及び一対の装置側位置決め面104a、104bのうち、一方の位置決め突起部103a及び一方の装置側位置決め面104aの側に配置されている。そして、装置側接点113は、これら一方の位置決め突起部103a及び一方の装置側位置決め面104aに近接して配置されている。
また、カートリッジ装着部101には、インクカートリッジ1のインク供給口3に挿入されるインク供給針106が固定して配置されている。
また、図9及び図10に示したように、スライダー部材102の背面側には可撓性の電気ケーブル118の一端が接続されている。この電気ケーブル118の他端は、制御部を含む記録装置本体に接続されている。
図11(a)に示したように、カートリッジ装着部101にインクカートリッジ1が装着されていない状態、即ちスライダー部材102が押し込まれていない状態においては、インク供給針106の先端部がインク吸収材116の内部に位置している。なお、インク供給針106の先端部には、インク供給針106の内部からインクを流出させるためのインク流通孔106a(図12参照)が形成されている。
そして、図11(b)に示したように、カートリッジ装着部101にインクカートリッジ1が装着されてスライダー部材102が押し込まれることにより、インク供給針106の先端部がインク供給針挿通孔117の前面から突出し、インクカートリッジ1のインク供給口3に挿通される。
図12及び図13は、カートリッジ装着部101からスライダー部材102を取り外した状態を示している。カートリッジ装着部101の内部にはインク供給針106が固設されており、上述したように、インクカートリッジ1がスライダー部材102と共に押し込まれることにより、インクカートリッジ1のインク供給口3にインク供給針106が挿入される。
また、カートリッジ装着部101の内部には、インクカートリッジ1のカートリッジ側固定構造7と協働してインクカートリッジ1の引抜き方向における移動を解除可能に規制する装置側固定構造107が設けられている。
装置側固定構造107は回動レバー部材108を備えており、この回動レバー部材108はその基端部を中心として回動可能となるように支持プレート(支持部材)119に支持されており、バネ部材109によって一方の回転方向(図12中の反時計回り方向)に付勢されている。支持プレート119は、カートリッジ装着部101の構造部材の一部を構成している。
図14に示したように回動レバー部材108は、細長のレバー本体110と、このレバー本体110の先端部に設けられた略円柱状のピン取付部111と、このピン取付部111の頂面に設けられた、ピン取付部111よりも小径の略円柱状の係止ピン112とを備えている。
図15及び図16に示したように、回動レバー部材108を回動可能に支持する支持プレート119には、回動レバー部材108の回動範囲に対応する部分に、扇形凹部120と、これに連続して形成された扇形孔121とが形成されている。扇形孔121は、回動レバー部材108の回動軸心122に関して、扇形凹部120よりも半径方向外方に位置している。また、扇形孔121は、回動レバー部材108の回動軸心122に関して、扇形凹部120よりも大きな角度範囲で形成されている。また、扇形孔121は、回動方向の一方の側において扇形凹部120と縁部同士が整合している。
なお、本実施形態においては、図15に示したように、複数のカートリッジ装着部101を構成する構造部材が一体に形成されてカートリッジ装着部組立体が構成されている。
図17(a),(b),(c)は、それぞれ、インクカートリッジ1のカートリッジ装着部101への固定状態、インクカートリッジ1をカートリッジ装着部101から解放した後の状態、及びインクカートリッジ1をカートリッジ装着部101に固定する直前の状態を示している。また、図18(a),(b),(c)は、それぞれ、図17(a),(b),(c)に対応する回動レバー部材108の位置を説明するための図である。
図18(a)から分かるように、インクカートリッジ1がカートリッジ装着部101に装着された状態(固定状態)においては、回動レバー部材108は、扇形凹部120のレバー回動方向内側の縁部123(図16)に対向する位置にある。つまり、この固定状態においては、回動レバー部材108の幅方向の一部は扇形凹部121の上方に位置しており、他の一部は支持プレート119上に位置している。
そして、インクカートリッジ1の固定状態においては、支持プレート119上に位置している回動レバー部材108の幅方向の一部が、支持プレート119に近接し又は当接されている。回動レバー部材108に近接し又は当接されている部分の支持プレート119は、回動レバー部材119の回動軸心方向(上下方向)への変位を規制する変位規制部124を構成している。この変位規制部124は、回動レバー部材108の係止ピン112の形成部分であるレバー先端部125よりも回動軸心122側の部分の回動レバー部材108に近接し又は当接されている。
また、インクカートリッジ1が装着状態にある場合において、回動レバー部材108のレバー先端部125に対応する部分の支持プレート119には、上述した扇形孔121の一部が位置おり、この部分の扇形孔121は、インクカートリッジ1が強制的に引き抜かれた場合に、回動レバー部材108のレバー先端部125が下方に変位可能とするための緊急時退避空間126を構成している。
また、図18(b)から分かるように、装着状態にあるインクカートリッジ1の固定を解除して取り出す際には、回動レバー部材108は、扇形凹部120と、扇形孔121全体のうちの扇形凹部120に対応する部分127との上方に位置している。
そして、扇形凹部120と、扇形孔121全体のうちの扇形凹部120に対応する部分127とによって、インクカートリッジ1を取り出す際に、深さが徐々に浅くなる案内溝16の底面を係止ピン112が摺動することにより変位した回動レバー部材108の先端側の部分が没入するレバー退避空間128が構成されている。このレバー退避空間128は、支持プレート119に凹部及び孔を形成することによって構成されているので、レバー退避空間128を設けることに伴ってカートリッジ装着部101の上下方向の厚みを増大させる必要がなく、ひいては、インクジェット式記録装置100の上下方向の厚みの増大を防止することができる。
図19及び図20に示したようにカートリッジ側固定構造7は、係止ピン112が挿入される矩形断面の案内溝16から構成されている。高精度の位置決めに利用される位置決め孔5a及びカートリッジ側位置決め面24aの近傍のカートリッジ裏面隅部には凹部17が形成されており、この凹部17の底面に案内溝16が刻設されている。案内溝16の底面は、記憶装置8が配置された容器本体2の側面と垂直を成している。
そして、カートリッジ装着部101へのインクカートリッジ1の着脱操作に際して、装置側固定構造107の回動レバー部材108の係止ピン112が、カートリッジ側固定構造7の案内溝16によって案内される。
案内溝16は、インクカートリッジ1がカートリッジ装着部101に装着された状態において係止ピン112が係合されてインクカートリッジ1の引抜き方向への移動を規制する係止部18を含んでいる。
また、案内溝16は、インクカートリッジ1がカートリッジ装着部101に挿入される際に係止ピン112を案内する入口側案内部19と、カートリッジ装着部101に挿入されたインクカートリッジ1が引抜き方向へ押し返される際に係止ピン112を係止部18に導く中間案内部20と、カートリッジ装着部101からインクカートリッジ1を取り出す際に、インクカートリッジ1を挿入方向へ押し込むことにより係止部18から外れた係止ピン112を、案内溝16の出口に案内する出口側案内部21と、を備えている。
案内溝16の入口側案内部19の主要部分(直線部分)は、インクカートリッジ1の挿入・引抜き方向に対して約30°〜約50°を成して延設されている。また、入口側案内部19の終端部は、突起状壁部19dによって湾曲形状が付与されている。
また、案内溝16の入口部16aには、入口部傾斜面22が形成されている。この入口部傾斜面22は、カートリッジ装着部101に対するインクカートリッジ1の挿入動作に伴って相対移動する係止ピン112の移動方向に沿って溝深さ徐々にが浅くなるように傾斜している。
入口部傾斜面22の幅は、係止部18を含み略同一幅にて形成された案内溝16の主要部分における溝幅よりも大きく設定されている。また、入口部傾斜面22の幅は、係止ピン112が取り付けられたピン取付部111の径よりも大きく設定されている。一方、案内溝16の主要部分における溝幅は、ピン取付部111の径よりも小さく設定されている。
さらに、入口部傾斜面22と係止部18との間の入口側案内部19には、カートリッジ装着部101へのインクカートリッジ1の挿入動作に伴って相対移動する係止ピン112の移動方向に沿って案内溝16が深くなるように傾斜した深溝形成用傾斜面19aが形成されている。この深溝形成用傾斜面19aと入口部傾斜面22との間には平坦部19bが形成されている。また、深溝形成用傾斜面19aに続いて平坦部19cが形成されている。
入口部傾斜面22によって形成された最も浅い部分の案内溝16の深さ、即ち平坦部19bの部分の溝深さは、係止ピン112の長さよりも小さい。また、深溝形成用傾斜面19aによって形成された最も深い部分の案内溝16の深さ、即ち平坦部19cの溝深さは、係止ピン112の長さよりも大きい。
さらに、案内溝16の中間案内部20は、カートリッジ装着部101に対してインクカートリッジ1が十分に深く挿入された時点で係止部18の方向に移動する係止ピン112を、係止部18の手前で暫定的に停止させる暫定停止用側壁部20aを含む。
また、案内溝16の係止部18は、カートリッジ装着部101に十分に深く挿入されたインクカートリッジ1が引抜き方向へ押し返された際に暫定停止用側壁20aから解放されて係止部18に移動する係止ピン112を、所定の係止位置で受け止めて停止させる最終停止用側壁部18aを含む。
また、出口側案内部21の始端部には湾曲側壁部21aが形成されており、この湾曲側壁部21aに続いて直線状の傾斜面21bが形成され、さらにそれに続いて直線上の平坦部21cが形成されている。
また、案内溝16の出口部16bは入口部16aに接続されており、これにより案内溝16は全体としてループを成している。入口部16aと出口部16bとの接続部においては、出口部16bの溝の深さが入口部16aの溝の深さよりも浅く、これにより接続部において段差23(図20(b))が形成されている。この段差23は、インクカートリッジ1がカートリッジ装着部101に挿入される際に係止ピン112が平坦部21Cに進入するのを防止する。
次に、図21及び図22を参照して、インクカートリッジ1の着脱操作時における案内溝16内での係止ピン112の動作について説明する。なお、図21中の矢印Zは、バネ部材109による回動レバー部材108の付勢方向を示している。また、図22は、インクカートリッジ1の着脱操作時における係止ピン112の回動軸心方向(上下方向)の位置の変化を示しており、図22中の符号A〜Jで示した係止ピン112の位置が、図21中の符号A〜Jで示した係止ピン112の位置に対応している。
まず、カートリッジ装着部101にインクカートリッジ1を挿入し、インクカートリッジ1のがスライダー部材102に接続された後、スライダー部材102の付勢力に抗してインクカートリッジ1を挿入方向Xにさらに押し込むと、回動レバー部材108の係止ピン112が案内溝16の入口部16aに挿入される(図21及び図22の中の位置A)。
案内溝16の入口部16aには入口部傾斜面22が形成されているので、係止ピン112はこの入口部傾斜面22上を摺動しながら、溝深さ方向と反対の方向に変位する。これにより、回動レバー部材108若しくは回動レバー部材108を支持する部材が弾性的に変形し、案内溝16の底面の方向に向けて係止ピン112を付勢する力が生じる。
なお、係止ピン112の先端が入口部傾斜面22に最初に接触した時点では、ピン取付部111の頂面は案内溝16の縁部のレベルよりも落ち込んだ位置にあり、係止ピン112が入口部傾斜面22上を移動する過程で、ピン取付部111の頂面が案内溝16の縁部のレベルを越えるように溝深さが変化している。
そして、入口部傾斜面22を通過して平坦部19bに係止ピン112が乗り上げた時点(図21及び図22の中の位置B)では、係止ピン112のみが案内溝16中に挿入された状態にあり、ピン取付部111は案内溝16の外側に位置している。これは、平坦部19bの部分における案内溝16の深さが、係止ピン112の長さよりも小さく設定されているためである。
このように案内溝16の入口部16aに入口部傾斜面22を設けることにより、案内溝16の入口部16aに係止ピン112が挿入される際に、係止ピン112がインクカートリッジ1の前面に引っ掛かることを防止することが可能であり、案内溝16の入口部16aへの係止ピン112の挿入を円滑且つ確実に行うことができる。
また、入口部傾斜面22を形成すると共にこれに続く平坦部19bの部分の溝深さを係止ピン112の長さよりも小さく設定したので、本例のように案内溝16の入口部16aの幅を大きく設定してこれに続く溝の幅を狭くした場合でも、ピン取付部111が案内溝16の狭幅部に挟まってしまうことがない。そして、案内溝16の入口部16aの幅を大きく設定することにより、係止ピン112を案内溝16内に確実に挿入させることができる。
インクカートリッジ1が挿入方向Xにさらに押し込まれると、係止ピン112は平坦部19bを通過し、深溝形成用傾斜面19a上を摺動しながら、溝深さ方向に変位する(図21及び図22の中の位置C)。
そして、深溝形成用傾斜面19aを通過して係止ピン112が平坦部19cの位置に来た時点(図21及び図22の中の位置D)では、ピン取付部111の頂面の周縁部が案内溝16の縁部に係合し且つこの縁部に対して押圧されている。これは、係止ピン112が入口部傾斜面22を通過する際に回動レバー部材108等に生じた弾性変形がこの時点でもまだ残っているためである。このようにピン取付部111の頂面の周縁部を案内溝16の縁部に係合させることによって、案内溝16の縁部を含む面(凹部17の底面)に回動レバー部材108が接触して係止ピン112が案内溝16から外れてしまうことを防止できる。
また、係止ピン112が平坦部19cの位置に来た時点(図21及び図22の中の位置D)では、係止ピン112の先端部は案内溝16の底面から浮いた状態にある。これは、平坦部19cにおける溝深さが、係止ピン112の長さよりも大きく設定されていることによる。
インクカートリッジ1がさらに挿入方向Xに押し込まれ、入口側案内部19の終端部に位置する突起状壁部19dの先端近傍位置(図21及び図22の中の位置E)を係止ピン112が越えると、バネ部材109の付勢力によって矢印Zの方向へ係止ピン112が移動する。そして、係止ピン112は暫定停止用側壁部20aに衝突して止まり(図21及び図22の中の位置F)、このときにクリック音が生じる。このクリック音によりユーザーは、インクカートリッジ1が十分に深く挿入されたことを確認することができる。
次に、ユーザーによる挿入方向Xへのインクカートリッジ1の押圧が解除されると、スライダー部材102の付勢力によってインクカートリッジ1が引抜き方向Yに僅かに押し返される。これにより、暫定停止用側壁部20aにおける係止ピン112の係合が解除され、バネ部材109の付勢力によって矢印Zの方向へ係止ピン112が移動する。そして、係止ピン112は最終停止用側壁部18aに衝突して係止位置(図21及び図22の中の位置G)で止まり、このときにクリック音が生じる。このクリック音によりユーザーは、インクカートリッジ1がカートリッジ装着部101に固定されたことを確認することができる。
ここで、案内溝16の係止部18における溝の深さは、入口側案内部19の平坦部19cと同様に係止ピン112の長さよりも大きく設定されている。また、係止ピン112が入口部傾斜面22を通過する際に生じた回動レバー部材108等の弾性変形によって、案内溝16の底面の方向に向けて係止ピン112が付勢されている。
このため、係止部18で所定の係止位置に固定されている係止ピン112は、その全長が案内溝16の内部に入り込んでおり、ピン取付部111の頂面の周縁部が案内溝16の縁部に係合した状態にある。これにより、案内溝16の側壁との係合により係止ピン112に加えられる力によって係止ピン112(特にその基部)がクリープを起こすことを防止できる。つまり、案内溝16に対して係止ピン112が浅く引っ掛かっている状態の場合には、係止ピン112の基部に加えられる力が、いわゆる梃子の原理によって大きくなってしまうが、本例においては上述のように係止ピン112がその全長にわたって案内溝16に引っ掛かっているので、係止ピン112のクリープを防止することができる。
また、案内溝16に対して係止ピン112が十分に深く引っ掛かっていることにより、係止ピン112が案内溝16から外れてしまうようなこともない。なおこの効果は、係止部18のみに限られず、案内溝16内を係止ピン112が相対移動している最中においても、ピン取付部111の頂面の周縁部が案内溝16の縁部を摺動している場合に発揮される。
また、係止ピン112はバネ部材109によってインクカートリッジ1の一側面の方向に向かって付勢されおり、該一側面には記憶装置8の電極8aが設けられている。このため、バネ部材109の付勢力は、係止ピン112及び最終停止用側壁部18aを介して、記憶装置8の電極8aを装置側接点113(図9,図10)の方向に押し付けるように作用し、これにより、記憶装置8の電極8aと装置側接点113との接続状態を良好に維持することができる。
次に、カートリッジ装着部101からインクカートリッジ1を取り出す際には、ユーザーによってインクカートリッジ1が挿入方向Xに僅かに押し込まれる。すると、最終停止用側壁部18aにおける係止ピン112の係合が解除され、バネ部材109の付勢力によって矢印Zの方向へ係止ピン112が移動する。そして、係止ピン112は、案内溝16の出口側案内部21の湾曲側壁部21aに衝突して暫定的に停止し(図21及び図22の中の位置H)、このときにクリック音が生じる。このクリック音によりユーザーは、カートリッジ装着部101に対するインクカートリッジ1の固定が解除されたことを確認することができる。
続いて、ユーザによる挿入方向Xへのインクカートリッジ1の押圧が解除され、引抜き方向Yへインクカートリッジ1が移動すると、係止ピン112は出口側案内部21の直線上の傾斜面21bに沿って移動する(図21及び図22の中の位置I)。このとき、傾斜面21bの途中から係止ピン112の先端が傾斜面21bに接触し、溝深さ方向と反対の方向に係止ピン112が変位する。傾斜面21bを通過した係止ピン112は、平坦部21cを通り(図21及び図22の中の位置J)、案内溝16の出口部16bを通過する。
次に、インクカートリッジ1をカートリッジ装着部101に装着する際の、インク供給針106等へのインクカートリッジ1の接続過程について説明する。
インクカートリッジ1をカートリッジ装着部101に挿入すると、まず初めに、インクカートリッジ1の位置決め孔5a、5bに、スライダー部材102の位置決め突起部103a、103bが挿入される。また、インクカートリッジ1の加圧流体導入口4にスライダー部材102の加圧流体ポート105が接続される。さらに、記憶装置8の電極8aと装置側接点113とが接続されて両者が導通する。
記憶装置8の電極8aと装置側接点113とが接続された時点では、まだインク供給針106はインクカートリッジ1のインク供給口3に挿通されていない。従って、この時点で記憶装置8からデータを読み取り、正しいインクカートリッジ1が挿入されたか否かを判定することによって、間違ったインクカートリッジ1が挿入された場合には、インク供給針106が当該間違ったインクカートリッジ1のインク供給口3に挿通される前に正しいインクカートリッジ1に交換することができる。これにより、装置本体のインク流路に間違ったインクが流れ込んでしまうことを確実に防止することができる。また、間違って挿入されたインクカートリッジ1のインク供給口3がシール等で封止されている場合には、当該シール等を不必要に破ってしまうことを回避することができる。
そして、インクカートリッジ1がスライダー部材102に接続された後、スライダー部材102の付勢力に抗してインクカートリッジ1を挿入方向Xにさらに押し込むことにより、インク供給針106がインクカートリッジ1のインク供給口3に挿通される。
次に、インクカートリッジ1をカートリッジ装着部101から取り出す際の、インク供給針106等からのインクカートリッジ1の切り離し過程について説明する。
上述したようにインクカートリッジ1を挿入方向Xに押し込むことによって、カートリッジ側固定構造7及び装置側固定構造107によるインクカートリッジ1の固定が解除され、インクカートリッジ1の引抜き方向Yへの移動が可能となる。固定が解除されたインクカートリッジ1は、最初はスライダー部材102と共に引抜き方向Yに移動し、この移動によりインク供給針106がインクカートリッジ1のインク供給口3から抜ける。
このようにしてインク供給針106がインク供給口3から抜けた時点では、記憶装置8の電極8aと装置側接点113との接続が維持されているので、装置本体と記憶装置8との間のデータの授受が可能である。このようにインクカートリッジ1の固定が解除された後も、インクカートリッジ1の記憶装置8と装置本体との間でデータの授受が可能であり、データの読み取りミスを防止することができる。
インクカートリッジ1をさらに引抜き方向Yに移動させると、スライダー部材102が所定の停止位置で移動不能となる。ここからさらにインクカートリッジ1を引抜き方向Yに移動させることにより、インクカートリッジ1の加圧流体導入口4から加圧流体ポート105が分離されると共に、インクカートリッジ1の位置決め孔5a、5bから位置決め突起部103a、103bが抜ける。また、記憶装置8の電極8aと装置側接点113とが切り離される。
図23(a)は、インクカートリッジ固定時の状態を示した図17(a)におけるI−I線断面図であり、図23(b)はその底面図を係止ピン112の位置と共に示しており、これらの図は、図21及び図22における位置Gに対応している。
図23(c)は、インクカートリッジ解放後の状態を示した図17におけるII−II線断面図であり、図23(d)はその底面図を係止ピン112の位置と共に示している。
図24(a)は、インクカートリッジ1の解放途中の状態を示した、係止ピン112の位置における縦断面図であり、図24(b)はその底面図を係止ピン112の位置と共に示しており、これらの図は、図21及び図22における位置Jに対応している。
図24(c)は、インクカートリッジ1が固定される直前の状態を示した図17(c)におけるIII−III線断面図であり、図24(d)はその底面図を係止ピン112の位置と共に示しており、これらの図は、図21及び図22における位置Fに対応している。
図22及び図24(a)から分かるように、案内溝16の底面を摺動する係止ピン112が最も押し下げられる位置は、インクカートリッジ1の解放段階の終盤における位置Jである。
そして、本実施形態においては、装着状態にあるインクカートリッジ1の固定を解除して取り出す際には、回動レバー部材108は、扇形凹部120と、扇形孔121の扇形凹部120に対応する部分127とで構成されたレバー退避空間128の上方に位置している(図18(b)の状態)。このため、インクカートリッジ1を取り出す際に押し下げられた回動レバー部材108は、そのレバー先端部125を含む先端側の部分がレバー退避空間128の内部に没入し、インクカートリッジ1の引抜き操作を円滑に行うことができる。
また、本実施形態においては、インクカートリッジ1が装着状態にある場合には、回動レバー部材119の回動軸心方向(上下方向)への変位が変位規制部124によって規制されている(図18(a)及び図23(a)の状態)。このため、インクカートリッジ1等に衝撃が加えられた場合でも、回動レバー部材119が案内溝16から外れてしまうことがない。
さらに、インクカートリッジ1の装着状態において変位規制部124に近接し又は当接されているのは回動レバー部材119の幅方向における一部のみであるので、固定状態を解除するためにインクカートリッジ1を押し込んだ際に、図21中の位置Gにある係止ピン112が位置Hへと円滑且つ確実に移動することが確保される。
また、本実施形態においては、インクカートリッジ1の装着状態においては、レバー先端部125の下方に緊急時退避空間126が位置している(図18(a)及び図23(a)の状態)。このため、装着状態にあるインクカートリッジ1が、通常の操作によらずに強制的に引き抜かれた場合でも、回動レバー部材119の可撓性によりレバー先端部125が緊急時退避空間126内に没入し、これにより、係止ピン112の折損を防止することができる。
上述したように本実施形態においては、インクジェット式記録装置100の上下方向の厚みの増大をもたらすことなく且つ新たな部品を追加することなく、回動レバー部材119の円滑な動作を確保することができ、装着状態にあるインクカートリッジ1の固定が誤って解除されてしまうことを防止することが可能であり、しかも、装着状態にあるインクカートリッジ1をユーザーが無理矢理に引き抜いてしまった場合でも、回動レバー部材119の係止ピン112の折損を防止することができる。
また、本実施形態によるその他の効果としては、一対の位置決め突起部103a、103b及び一対の装置側位置決め面104a、104bから成る装置側位置決め構造をスライダー部材102のカートリッジ接続面に設けたので、スライダー部材102に対してインクカートリッジ1を高い位置決め精度の下で接続することができる。
また、より高精度の位置決め機能を果たす、一方の位置決め突起部103a及び一方の装置側位置決め面104aに近接して装置側接点113を配置したので、インクカートリッジ1の記憶装置8の電極8aとカートリッジ装着部101の装置側接点113とを確実に接続することができる。
また、バネ部材109の付勢力が、係止ピン112及び最終停止用側壁部18aを介して、記憶装置8の電極8aをカートリッジ装着部101の装置側接点113の方向に押し付けるように作用するので、装置側接点113に対する記憶装置8の電極8aの接続をより一層確実なものとすることができる。
また、本実施形態によるインクジェット式記録装置100によれば、スライダー部材102の、インク供給針106が挿通される部分にインク吸収材116を設け、スライダー部材102がカートリッジ非装着時位置(初期位置)にある場合には、インク供給針106のインク流通孔106aの周囲を筒状のインク吸収材116で包囲するようにしたので、インクカートリッジ1のインク供給口3にインク供給針106が挿通されるとき、並びにインク供給口3からインク供給針106が引き抜かれるときに、インク供給針106の先端部のインク流通孔106aから漏洩したインクをインク吸収材116で受け止めて吸収することができると共に、インクカートリッジ1の非装着状態(図11(a))においても、インク供給針106のインク流通孔106aから漏出したインクをインク吸収材116で受け止めて吸収することができる。またインク吸収材116は、スライダ部材102のインクカートリッジ1に対向する面に開放されていることにより、インクカートリッジ1のカートリッジ装着部101への着脱を繰り返すことでインク供給口3周囲に付着、蓄積したインクを吸収することが可能になる。
特に、本実施形態によるインクジェット式記録装置においては、インクカートリッジ1の挿抜動作に際してのインク吸収材116の動きが並進移動であるため、インクカートリッジ1を取り出す場合、インクカートリッジ1のインク供給口3からインク供給針106が完全に抜けきる時点では、既にインク供給針106のインク流通孔106aの周囲がインク吸収材116によって包囲されている。このため、インクカートリッジ1を取り出す際にインク流通孔106aから漏洩したインクを、インク吸収材116によって確実に受け止めて吸収することができる。
また、インク吸収材116を配置したスライダー部材102は、インクカートリッジ1をインクジェット式記録装置100に着脱自在に装着するために本来的に必要な部材であって、インク吸収材116の移動性を確保するために新たに設けられた専用の部材ではない。このようにインク吸収材116の移動性を確保するための専用の部材を必要としないので、装置構造の複雑化や装置の大型化をもたらすことなく、インク漏洩の問題に適切に対処することができる。
また、インク吸収材116はスライダー部材102の内部に配置されているので、インク吸収材116を配置するための専用のスペースを別途確保する必要がなく、装置の大型化をもたらすことなくインク吸収材116を組み込むことができる。
また、本例のインクカートリッジ1は、インクジェット式記録装置100のカートリッジ装着部101に対して容易且つ確実に装着することができる。
特に、本例のインクカートリッジ1においては、案内溝16の入口部16aに形成する入口部傾斜面22の幅を大きく取ることができるので、案内溝16に対する係止ピン112の挿入を確実に行うことができる。係止ピン112を含む回動レバー部材108は、その機能上、インクカートリッジ1の挿抜方向X、Yに直交する方向Zに揺動するように設計されるため、係止ピン112の初期位置(インクカートリッジ未装着状態での位置)にバラツキが生じる可能性があるが、入口部傾斜面22の幅を大きく取ることでこのようなバラツキを許容することができる。
また、本例のインクカートリッジ1においては、インクカートリッジ1をカートリッジ装着部101に挿入するという一つの動作(ワンプッシュ動作)のみで装着操作を完了することが可能であり、一方、カートリッジ装着部101からインクカートリッジ1を取り出す際には、インクカートリッジ1を僅かに押し込むという簡単な動作のみでインクカートリッジ1の固定状態を解除することができる。このように本例においてはインクカートリッジ1の着脱操作を極めて容易に行うことができる。
また、本例のインクカートリッジ1においては、案内溝16が、カートリッジ表面に形成された凹部17の底面に形成されているので、案内溝16に係止ピン112を挿入した状態において、カートリッジ表面からの回動レバー部材108の突出量を小さくし又はゼロにすることが可能である。このため、カートリッジ装着部101の厚みを小さくすることが可能であり、ひいてはインクジェット式記録装置100全体を薄くすることができる。特に、図1に示したインクジェット式記録装置100のように複数のインクカートリッジ1を平置きして並置する形式の装置の場合、装置全体の薄型化が重要であるから、カートリッジ装着部101の厚みを小さくできる本例のインクカートリッジ1は極めて有効である。