以下に、本発明の筒形圧電アクチュエータ並びに筒形圧電アクチュエータアレイ及び製造方法について、実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
本発明に係る筒形圧電アクチュエータ、及び、それを基板の一の面に配設した筒形圧電アクチュエータアレイは、単に圧電と称しているが、電界によって誘起される歪みを利用するアクチュエータを広く指すのであって、印加電界に概ね比例した歪み量を発生する圧電効果を利用するという狭義の意味での圧電アクチュエータに限定されるものではなく、印加電界の二乗に概ね比例した歪み量を発生する電歪効果、強誘電体材料全般にみられる分極反転、反強誘電体材料にみられる反強誘電相−強誘電相転移、等の現象を利用するアクチュエータも含まれる。従って、本発明に係る筒形圧電アクチュエータには、PVDF等の圧電効果を有する高分子材料からなるアクチュエータも含まれるが、本発明に係る筒形圧電アクチュエータにおいて、より好ましいものは材料強度面に優れるセラミックアクチュエータである。分極にかかる処理が行われるか否かについては、本発明に係る筒形圧電アクチュエータを構成する圧電材料、その他材料の性質に基づいて適宜決定される。
尚、本発明は、2つの筒形圧電アクチュエータアレイを提供するが、本明細書において、単に筒形圧電アクチュエータアレイと記すときは、第1及び第2の筒形圧電アクチュエータアレイの両方を指すものとする。又、本明細書において筒形圧電アクチュエータ及び筒形圧電アクチュエータアレイの説明にあたり、上、下と表現することがあるが、この上、下は基板の面と垂直な方向であって駆動体からみて基板側を下(方向)とする相対的な上、下を意味し、例えば下(方向)とは重力方向を意味するわけではない。以下、図面を参酌しながら本発明について詳細に説明する。
(1)筒形圧電アクチュエータ
先ず、本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータについて説明する。図1は、第1の筒形圧電アクチュエータの一実施形態を示す斜視図であり、図2は、図1におけるAA断面図である。図示される筒形圧電アクチュエータ1は、筒形を呈し中空部3を有する駆動体4が備わり、その駆動体4が、交互に積層された、例えば4層の圧電層14と、駆動電極である内部電極層18,19と、を有する、積層型の圧電アクチュエータである。そして、駆動体4の内面と外面とに一対の外部電極28,29を有し、内部電極層18,19が駆動体4の内面と外面とに一層おきに露出して、内部電極層18が外部電極28と、内部電極層19が外部電極29と、それぞれ接続されている。
内部電極層18,19が駆動体4の内面と外面とに一層おきに露出していることから、その複数の内部電極層18又は内部電極層19をそれぞれに接続し一括して配線することが容易である。又、内面に外部電極29、外面に外部電極28が形成され、一対の外部電極28,29が駆動体4の内面と外面とに分離されているため、短絡を起こし難く、歩留まりの向上が図れる。更に、駆動体4が中空部3を有する筒形を呈するものであるため、静電容量が小さくなり消費電力が抑えられ放熱性に優れるといったメリットを享受出来る上に、変形し易くなるので内部電極層18,19が重ならない部分に起因する応力が緩和される。
駆動体は、筒形であればよく図示されるような円筒形に限定されず、角筒形その他でもよいが、応力集中による破壊を防止する等の観点から、駆動体4の如き円筒形は好ましい形状である。筒形と称しているが、これは、中空部を作り出す連続した壁(圧電層が相当する)で仕切られた2つの面(内面及び外面)を有する形状を意味し、図2に示す圧電層14の幅W2と中空部3の径Dとの長さの比は限定されず、より薄壁の筒形でもより厚壁の筒形でもよい。又、筒形の頂部は開放していてもよいし、閉じている構造であってもよい。頂部が閉じている構造の場合には、外観上は柱体形状であるが、内部に中空部を有する構造となる。
筒形の駆動体の内面とは中空部に対する面を指し、外面とは端面を除く駆動体の外側の面を指す。又、筒形圧電アクチュエータは駆動体が備わり、と記すことがあるが、図1,2に示される限りにおいて筒形圧電アクチュエータ1は駆動体4そのものを指し、実際には、筒形圧電アクチュエータ1には、上記したように図示しない端子電極や配線その他付帯部分が備わる。
筒形圧電アクチュエータ1は、圧電縦効果により駆動する圧電アクチュエータである。圧電層14は、例えば図中P1方向に分極されており、外部電極28,29に更に接続された図示しない電極端子に電源を接続し、外部電極28,29を介して、駆動電極である内部電極層18,19間に、内部電極層18側を負、内部電極層19側を正にして、電圧を印加することにより、E1方向の電界が形成される。即ち、筒形圧電アクチュエータ1は、分極が互いに反対方向の圧電層14が内部電極層18,19を挟んで積層され、各々の圧電層14においては、分極と駆動電界とが、同一方向になっている。その結果、圧電層14には電界誘起歪みが発現し、その縦効果による変位に基づき、駆動体4がS1方向に伸縮する。従来のユニモルフやバイモルフのような屈曲変位ではなく、電界誘起歪みを直接利用した伸縮変位であるため、発生力は大きく、且つ、応答速度も高い。
更に、圧電層の分極電界と駆動電界とが、同一方向であることから、製造工程において、仮の分極用電極を作製し電界をかける必要がなく、スループットの向上が図れる。又、分極処理に関わりなく、キュリー温度以上の高い温度での加熱を伴う製造プロセスを適用することが可能である。従って、例えば回路基板に固定・結線する際に、はんだリフロー等によるはんだ付けや、熱硬化型接着が実施可能であり、アクチュエータを適用した製品の製造工程を含め、スループットの向上がいっそう図られ、製造コストの低減が導かれる。そして、高い電界強度で駆動しても、分極状態が変化してしまうことがなく、むしろ、より好ましい分極状態となり得て、安定して高い歪み量を得ることが出来る。従って、よりコンパクトにすることが出来、好ましい。
筒形圧電アクチュエータ1では、圧電層14の1層あたりの厚さを、好ましくは100μm以下、より好ましくは10〜80μmとすることによって、より低電圧で駆動出来るようにすることが可能である。
筒形圧電アクチュエータ1は、駆動体4が圧電層14と内部電極層18,19とが焼成一体化されており、焼成後に接合したものではない。即ち、接着剤等が介在しない構造をなすので、初期的な駆動体4の寸法精度が高いことは勿論のこと、介在物の劣化という現象が生じ得ず、長期間にわたって高い寸法精度、圧電特性が維持出来る。
次に、本発明に係る第2の筒形圧電アクチュエータアレイに配設される第2の筒形圧電アクチュエータについて説明する。図21は、第2の筒形圧電アクチュエータの一実施形態を示す断面図であり、既に説明した第1の筒形圧電アクチュエータの図2に相当する図である。図示される筒形圧電アクチュエータ8は、図1に示される第1の筒形圧電アクチュエータである筒形圧電アクチュエータ1と同様に、筒形を呈し中空部3を有する駆動体4が備わり、その駆動体4が、積層された例えば4層の圧電層14を有する圧電アクチュエータである。そして、図21に示されるように、駆動体4の内面と外面とに、駆動電極である一対の外部電極28,29を有する。
筒形圧電アクチュエータ8は、筒形圧電アクチュエータ1と同様に、内面に外部電極29、外面に外部電極28が形成され、一対の外部電極28,29が駆動体4の内面と外面とに分離されているため、短絡を起こし難く、歩留まりの向上が図れる。
駆動体は、筒形であればよく円筒形に限定されず、角筒形その他でもよいが、応力集中による破壊を防止する等の観点から、円筒形は好ましい形状である。その他筒形の駆動体にかかる要件は、上記した第1の筒形圧電アクチュエータである筒形圧電アクチュエータ1についての記載に準ずるので、再述は避ける。
筒形圧電アクチュエータ8は、圧電横効果により駆動する圧電アクチュエータである。圧電層14は、例えば図中P2方向に分極されており、外部電極28,29に更に接続された図示しない電極端子に電源を接続し、駆動電極である外部電極28,29間に、外部電極28側を負、外部電極29側を正にして、電圧を印加することにより、E2方向の電界が形成される。即ち、筒形圧電アクチュエータ8では、圧電層14において、分極と駆動電界とが、同一方向になっている。その結果、圧電層14には電界誘起歪みが発現し、その横効果による変位に基づき、駆動体4がS2方向に伸縮する。従来のユニモルフやバイモルフのような屈曲変位ではなく、電界誘起歪みを直接利用した伸縮変位であるため、発生力は大きく、且つ、応答速度も高い。
圧電層の分極電界と駆動電界とが同一方向であることに基づく優位性は、上記した第1の筒形圧電アクチュエータである筒形圧電アクチュエータ1についての記載に準じて、筒形圧電アクチュエータ8も有している。
又、筒形圧電アクチュエータ8は、駆動体4を構成する例えば4層の圧電層14が焼成一体化されており、焼成後に接合したものではない。即ち、接着剤等が介在しない構造をなすので、初期的な駆動体4の寸法精度が高いことは勿論のこと、介在物の劣化という現象が生じ得ず、長期間にわたって高い寸法精度、圧電特性が維持出来る。
以上、図1及び図2に示される筒形圧電アクチュエータ1及び図21に示される筒形圧電アクチュエータ8について説明したが、これを含む本発明に係る筒形圧電アクチュエータ、及び、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイに配設される筒形圧電アクチュエータにおいては、駆動体のうち圧電層からなる部分(外部電極を除いた駆動体)の面の輪郭度が、概ね8μm以下であることが好ましく、又、駆動体のうち圧電層の面の凹凸量が、概ね10μm以下であることが好ましく、更には、駆動体のうち圧電層の面の表面粗さRtが、概ね10μm以下であることが好ましい。これらのうち、少なくとも何れか1つの条件に適うアクチュエータであれば、変位を起こす駆動体の圧電層の面(外部電極を形成する前の面)が平滑であるといえるので、変位発生時に電界集中や応力集中が生じ難く、安定した動作を実現することが出来る。このようなアクチュエータは、後述する本発明に係る製造方法のうち好ましい手段である打抜同時積層法を行うことにより、作製することが可能である。
尚、面の輪郭度は、日本工業規格B0621「幾何偏差の定義及び表示」に示されている。面の輪郭とは機能上定められた形状をもつように指定した表面であって、面の輪郭度とは理論的に正確な寸法によって定められた幾何学的輪郭からの面の輪郭の狂いの大きさをいう。表面粗さとは、JIS B0601”表面粗さ−定義及び表示”による表面粗さを指し、表面粗さRtとは、測定表面における最高点と最低点との差にて定義される最大高さRmaxと同義である。
又、本発明に係る筒形圧電アクチュエータ、及び、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイに配設される筒形圧電アクチュエータにおいては、駆動体の幅W1と高さHとの比(図2及び図21を参照)が、概ね1:10〜1:100であることが好ましく、幅W1は概ね10mm以下であることが好ましい。尚、本明細書において、駆動体の幅W1と高さHとの比(高さH/幅W1)をアスペクト比という(駆動前駆体も準じる)。アスペクト比が10〜100であるとは、幅W1と高さHとの比が1:10〜1:100であることを意味する。本発明に係る筒形圧電アクチュエータにおいては、より好ましくは、アスペクト比が20〜100であり、幅W1は2mm以下である。少なくとも何れか1つの条件に適うアクチュエータであれば、更に好ましくは2つの条件がともに適うアクチュエータ、即ち小さく背の高いアクチュエータであれば、より高出力化を図ることが容易であるとともに、高密度化が図れ、よりコンパクトなアクチュエータを実現することが出来る。
更に、本発明に係る筒形圧電アクチュエータ、及び、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイに配設される筒形圧電アクチュエータにおいては、駆動体の軸線の真直度が30μm以下であることが好ましい。駆動時において作用点のズレが生じ難いからである。又、折れ、割れ等の破損が生じ難いからである。更に、基板の一の面に2以上の筒形圧電アクチュエータを配設して筒形圧電アクチュエータアレイを構成した場合において、あるいはアレイ状にせず独立した筒形圧電アクチュエータを並べる場合において、隣接する筒形圧電アクチュエータどうしの間隔が、筒形圧電アクチュエータ自体の何れの部分においても概ね一定に保たれるので、駆動体のアスペクト比が100乃至それに近い筒形圧電アクチュエータであっても、例えば接触して互いに駆動動作を妨げ合うことがなく、より高密度に配設することが可能である。
(2)筒形圧電アクチュエータアレイ
次に、筒形圧電アクチュエータアレイについて説明する。先ず、第1の筒形圧電アクチュエータアレイについて説明する。本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータアレイは、基板の一の面に、上記した特徴を備える本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータが1つ以上配設されたものである。図3は、第1の筒形圧電アクチュエータアレイの一実施形態を示す斜視図であり、図4(a)は、図3におけるBB断面図であり、図4(b)は、図3における背面図である。図示される筒形圧電アクチュエータアレイ201は、基板2の上面に、圧電層14を6層(実質的に変位を生じる圧電層14は4層)有する本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータである筒形圧電アクチュエータ21が、16体、配設されており、基板2の中を貫通するとともに基板2の上面において個々の筒形圧電アクチュエータ21の駆動体4の内面側、即ち中空部3側、に現れるスルーホール22を有し、個々の筒形圧電アクチュエータ21の駆動体4の内面の外部電極29が、スルーホール22によって基板2の下面とつながり導通されている。スルーホール22の径は中空部3の径と異なっていてもよく、又、スルーホール22の代わりにビアホールを採用してもよい。より好ましい態様は、図4に示されるような中空部3の径と概ね同じ径を有するスルーホール22である。
筒形圧電アクチュエータアレイ201は、個々の筒形圧電アクチュエータ21が、既に説明したように、駆動体4の内面に外部電極29、外面に外部電極28が形成され、一対の外部電極28,29が駆動体4の内面と外面とに分離されているため、個々の筒形圧電アクチュエータ21は短絡を起こし難い。そして、筒形圧電アクチュエータアレイ201では、個々の筒形圧電アクチュエータ21の駆動体4の外面に形成された外部電極28が、基板2の上面を介して、全ての筒形圧電アクチュエータ21で導通し、共通電極になっている。
即ち、筒形圧電アクチュエータアレイ201全体において、一対の外部電極28,29が、完全に分離されているので、筒形圧電アクチュエータアレイ201として短絡を起こし難く、後に電界をかけるための電源接続作業が容易であり、製造工程に起因する歩留まりの低下を招来しない。又、個々の筒形圧電アクチュエータ21の駆動体4の外面の外部電極28が隣接する他の筒形圧電アクチュエータ21と同じ外部電極28であって導通しているため、隣接する筒形圧電アクチュエータ21どうしを極近づけて配置しても短絡という問題が生じ難い。従って、一定面積あたりに、より多くの筒形圧電アクチュエータを備える筒形圧電アクチュエータアレイを得ることが出来、よりコンパクト化が図れる。尚、個々の筒形圧電アクチュエータ21の駆動体4の内面に形成された外部電極29は、図4(b)に示すように、スルーホール22を介し基板2の下面で、個別配線30且つ個別電極32とすることにより、個々の筒形圧電アクチュエータ21を独立して駆動させることが可能である。また、個別配線30をアクチュエータアレイの中に内層し、個別電極32をアレイ側面部に形成することもできる。
特に、個々の筒形圧電アクチュエータ21が、それぞれの駆動体4のうち圧電層14からなる部分の面の輪郭度が良好な場合には、より高密度な配設が可能である。例えば、一の筒形圧電アクチュエータ21(駆動体4)と隣接する他の筒形圧電アクチュエータ21(駆動体4)との距離(駆動体間隔という)を概ね1mm以下とすることが出来、又、駆動体間隔と、個々の筒形圧電アクチュエータ21の駆動体の幅W1と、の比が概ね1:20〜1:1000となるように配設することが可能である。
以上、本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータが複数配設された筒形圧電アクチュエータアレイ201を例示して、本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータアレイについて説明した。尚、本発明に係る第2の筒形圧電アクチュエータアレイは、配設される筒形圧電アクチュエータが、内部電極層が存在せず外部電極を駆動電極とする、既に説明した第2の筒形圧電アクチュエータであり、その配設数が2つ以上であることを必須条件とする他は、上記した本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータと同様の特徴を備える。しかしながら、配設される第2の筒形圧電アクチュエータが、圧電横効果により駆動するものであることから、本発明に係る第2の筒形圧電アクチュエータアレイは、以下の点において第1の筒形圧電アクチュエータアレイとは異なる。
本発明に係る第2の筒形圧電アクチュエータアレイに配設される第2の筒形圧電アクチュエータは、内部電極層が駆動電極となる第1の筒形圧電アクチュエータに対し、内部電極層を有さず外部電極が駆動電極になるものであり、上記した発明が解決しようとする課題に挙げた目的を達成する圧電アクチュエータではない。この第2の筒形圧電アクチュエータを配設した第2の筒形圧電アクチュエータアレイは、以下に示す圧電横効果により駆動する圧電アクチュエータにかかる課題を解決するものである。
一般に、圧電横効果により駆動する圧電アクチュエータは、柱状乃至壁状の圧電体の外面に一対の外部電極が形成されてなるものである。このような圧電アクチュエータは、発生変位の量がその圧電体の高さに依存するものであるため、充分な変位を得ようとすると背(圧電体の高さ)の高い圧電アクチュエータにする必要がある。一方、圧電横効果により駆動する複数の圧電アクチュエータが基板の上に二次元に配設されたアクチュエータアレイの提供が求められている。
しかしながら、背の高い圧電アクチュエータほど、例えば製造過程における焼成前の取扱困難性や焼成時に生じる応力に起因して変形や曲がりが生じ易く、圧電アクチュエータの頂面側(アクチュエータアレイの基板とは反対側の先端側)の位置ずれが大きくなり易い。そのため、背の高い複数の圧電アクチュエータを高密度で基板の上に配設したアクチュエータアレイでは、外部電極の接触等で短絡が生じてしまう。従って、圧電横効果により駆動する圧電アクチュエータであり且つ発生変位量の大きなものを、基板の上に高密度で配設したアクチュエータアレイの提供は、実現が困難であった。
本発明に係る第2の筒形圧電アクチュエータアレイに配設される第2の筒形圧電アクチュエータは、第1の筒形圧電アクチュエータと共通する特徴を有し、駆動体が内面と外面とを有する筒形を呈するとともにその内面と外面とに一対の外部電極を有し、その一対の外部電極が駆動体の内面と外面とに分離されているため、第1の筒形圧電アクチュエータと同様に、短絡を起こし難い。そして、複数の第2の筒形圧電アクチュエータを基板の上に配設した第2の筒形圧電アクチュエータアレイでも、個々の筒形圧電アクチュエータの駆動体の外面に形成された外部電極が、基板の上面を介して、全ての筒形圧電アクチュエータで導通し、共通電極になり、筒形圧電アクチュエータアレイ全体において、一対の外部電極が完全に分離されるので、隣接する筒形圧電アクチュエータどうしを極近づけて配置しても短絡という問題が生じ難い。従って、発生変位量を大きくするために必然的に背が高くなる第2の筒形圧電アクチュエータを、一定面積あたりに、より多く配設することが可能である。
(3)適用例
次に、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイについて、適用例を掲げて、図面を参酌しながら、説明する。本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイは、例えば、光通信網に用いられ光信号の経路を規定する光スイッチや、可変光減衰器(VOA)、液体吐出用ディスペンサ、リニアドライブ機構、特許文献2にかかるフォーカスユニットその他を含む各種レンズアクチュエータ、圧電駆動ステージ等として利用することが可能である。ここでは、光スイッチ、可変光減衰器(VOA)、リニアドライブ機構、液体吐出用ディスペンサ、圧電駆動ステージについて図面に基づき具体的に説明する。
[1]光スイッチ
先ず、光スイッチについて説明する。図6は、本発明に係る筒形圧電アクチュエータの適用例である光スイッチの一実施形態を示す斜視図であり、図7は、図6におけるCC断面を表す図である。この光スイッチは本発明に係る筒形圧電アクチュエータの適用例であるが、光スイッチ自体は、2001年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ大会予稿集P182で公表されているものである。
図6,7に示される光スイッチ290は、光導波路部材177に互いに交差するように形成された複数の光導波路コア部177a〜177dを有する光伝達部281と、その複数の光導波路コア部177a〜177dが交差した4つの交差部(光路変更部298a〜298dとよぶ)と対をなしてアクチュエータ292が配設されたアクチュエータ部291を有する。アクチュエータ292が本発明に係る筒形圧電アクチュエータで構成され、アクチュエータ部291が本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイに相当する。そして、光路変更部298a〜298dには切込みが形成されている。
光スイッチ290では、アクチュエータ292が駆動して伸縮し光路変更部298a〜298dの切込みを変形させ又元に戻し、光導波路コア部177a〜177dを光学的に連続乃至不連続な状態にすることにより、光導波路コア部177a〜177dに導入された光223を、光路変更部298a〜298dにおいて通過乃至反射させ、光信号の経路を規定する。
より具体的には、図7に示される状態において、光スイッチ290は、光路変更部298aにおけるアクチュエータ部291のアクチュエータ292が非作動状態であり、光導波路コア部177aへの作用はない。従って、光路変更部298aの切込みは閉じ、光学的に光導波路コア部177aは連続な状態を維持している。このとき、導入された光223は、光路変更部298aを直進する。他方、光路変更部298bにおけるアクチュエータ部291のアクチュエータ292は作動状態であり、変位並びに応力を光導波路コア部177aに作用させ、光路変更部298bの切込みを開いている。即ち、光路変更部298bにおいて光導波路コア部177aは光学的に不連続となり、導入された光223は、光路変更部298bで全反射し、光導波路コア部177bへ伝送される。
光スイッチ290では、クロストークを小さくするために、光路変更部298a〜298dの切込みを、より大きく開かせることが重要である。そのためには、アクチュエータ292に大変位が要求される。又、光路変更部298a〜298dが、光学的不連続状態と連続状態とを、良好に再現し得ることが重要である。そのためには、比較的、高ヤング率な材料を光導波路部材177の材料として適用し、光路変更部298a〜298dの切込みの復元動作が有利に行われるようにすることが好ましい。従って、高ヤング率な材料を歪ませるためには、アクチュエータ292として大きな発生力が要求される。更に、通常、光導波路コア部177a〜177dは、高精度且つ高集積なパターン形成が可能なフォトリソグラフィー法によって形成されるため、アクチュエータ292が高い位置精度で高密度に配設されることが必要である。
本発明に係る筒形圧電アクチュエータは、既に記した如く、発生力、変位量ともに大きくすることが可能であるので、光スイッチ290のアクチュエータ292として好適であり、又、短絡のおそれがなく筒形圧電アクチュエータを高密度に配設し得る本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイは、光スイッチ290のアクチュエータ部291として好適である。
[2]可変光減衰器(VOA)
波長多重光(WDM)通信の普及に伴い、各波長ごとに光信号の強度を調整するための可変光減衰器(VOA)の必要が生じている。そのような用途において、本発明の筒型圧電アクチュエータアレイを適用することで、図10に示すような多数の光ファイバの光信号強度を個別に調整できる集積化可変光減衰器アレイ150が実現できる。
上記集積化可変光減衰器アレイ150とは、一方の光ファイバ101の端部を光ファイバアレイ120で固定し、他方の光ファイバ102の端部を筒形圧電アクチュエータアレイ130で固定し、光ファイバ101,102のコアが同軸になるように密接させた一対の光ファイバ101,102を、筒形圧電アクチュエータアレイ130で他方の光ファイバ101の端部に応力を付与して、双方の光ファイバ101,102との間にギャップを生じさせることにより、各光ファイバ101,102に入射された特定の波長における信号光強度の減衰量を制御するものである。
ここで、図8に可変光減衰器の動作原理を示す。光ファイバの一部を分割しそのギャップ108を調整することによって、透過光の一部を減衰する(図8では光ファイバは分離しているが、光の伝播するコア部分に外力によってギャップ108を生じる構造であればよく、例えば、図9に示すように、対面する光ファイバの位置ずれ防ぐため、外周に伸縮性のある被覆110を設ける等の方法も望ましい)。ギャップ108は空気層であってもよいが、所定の屈折率を有する液体を充填することも望ましい。光の減衰量を精密に制御するためには微小な変位量制御が可能な筒形圧電アクチュエータアレイ130を使用することが望ましい。
[3]リニアドライブ機構
圧電素子の伸縮を駆動源とするリニアドライブ機構は、例えば、圧電素子の伸縮を駆動源とするリニアドライブ機構の例が記載されている(特許第3100055号公報参照)。これ以外にも、圧電体の急速変形と移動体の慣性力を利用した駆動機構(いわゆるインパクト駆動)を利用したリニアドライブ機構が多数知られている。
しかしながら、このような原理に基づくリニアドライブ機構を、アレイ状に高密度に集積化することは困難であった。その理由は、個別に作製されたリニアドライブ機構をアレイ状に集積化して組み立てることは製造技術面およびコスト的に現実的ではなく、また小型化にも限界があった。
ここで、圧電体の伸縮動作を利用したリニアドライブ機構について簡単に説明する。図11に示すように、本発明の筒型圧電アクチュエータ21に移動体40(例えば、シャフト)が挿入され、且つシャフト(移動体)40が筒(駆動体)4の上端付近で摩擦によって保持されており、筒(駆動体)4の下端付近ではシャフト(移動体)40が傾かないようにガイド穴41が設けられている。
図11(左)では、筒型圧電アクチュエータ1は伸びた状態で、シャフト(移動体)40は摩擦にて保持されている。図11(中)で筒型圧電アクチュエータ21を「ゆっくり」と縮ませると移動体40は静止摩擦力で保持されたままシャフト(移動体)40のみを引き下げることができる。図11(右)で、筒型圧電アクチュエータ1を「急速に」もとに戻すと、シャフト(移動体)40の慣性力が摩擦力に打ち勝つことにより、シャフト(移動体)40は筒型圧電アクチュエータ21に対して相対的に移動する。この一連の動作を繰り返すことにより、シャフト(移動体)40を連続的に直線運動させることが可能となる.図11は、移動体40が下方に移動する場合について示しているが、上方へに移動する場合は筒型圧電アクチュエータの「ゆっくり」と「急速に」の動作を逆にすることにより、同様に行うことができる。
本発明のリニアドライブ機構は、例えば個々の筒型圧電アクチュエータに移動体(例えば、シャフト)を挿入し、筒型圧電アクチュエータの伸縮運動を駆動源として移動体を直線運動させることにより、圧電アクチュエータの変位量に比べはるかに大きなストロークが可能な図12に示すようなアレイ型リニアドライブ装置202が可能となる。
圧電体の伸縮変位を直接利用する従来の圧電アクチュエータにおいては、変位量は伸縮方向の圧電素子長さの約0.1%程度(例えば素子長さ10mmの場合、10ミクロン程度の変位量)であり、このような個別の圧電アクチュエータをアレイ状に集積化したデバイスにおいては、組み立て精度等の観点から、個々のアクチュエータのストローク量は100ミクロン程度までが限界であった。
それに対し、本適用例のように圧電体の微小な伸縮動作を駆動源として移動体(例えばシャフト)の直線運動に変換する方式を採用することにより、きわめて大きなストロークが可能なリニアドライブ機構が可能となる。図12に示すように、このようなリニアドライブ機構42を、例えば、アレイ状に集積化したアレイ型リニアドライブ装置202を実現するのに際して、本発明の筒型圧電アクチュエータアレイ201(図3参照)を好適に用いることができる。
このようなアレイ型リニアドライブ装置は、触覚(点字)ディスプレイ装置に好適に用いることができるとともに、例えば、マイクロミラー、マイクロプリズム、マイクロレンズ等、WDM(波長多重伝送)光通信等に好適な微小光学部品と組み合わせることにより、集積型可動光学デバイスを実現可能である。これによって、従来の圧電体の伸縮変位のみを利用して駆動した場合に比べて、はるかに大きなストロークで微小光学部品を駆動する集積型可動光学デバイスが可能となる。図13に、上記集積型可動光学デバイスの一例として、マトリックス型可動マイクロミラーアレイ203を示す。
[4]液体吐出用ディスペンサ
まず、本発明の液体吐出用ディスペンサに用いる筒形圧電アクチュエータアレイは、図14に示すように、アクチュエータ21内部に液体吐出用のキャビティ(中空部)3を設け、圧電駆動に伴う内部体積の変動により液体の吐出を行うものである。図14に示すように、本発明の筒形圧電アクチュエータアレイ300は、駆動体4のキャビティ(中空部)3の配線部側(図14の下側)にオリフィス52が配設されていることが好ましい。尚、オリフィス52は、アクチュエータアレイの製造時にシート打抜き形状を変更することでアレイ内部に実装できる。
また、本発明の筒形圧電アクチュエータアレイは、図14に示すように、駆動体4の中空部3の先端部に液体吐出用ノズル54が配設されていることが好ましい。このとき、液体吐出用ノズルは、アクチュエータアレイの製造時にシートを打抜いたものを積層し、アクチュエータと同一材料で構成することもでき、また焼成後、異種材料で作製したノズルプレートを接合することによっても構成することができる。
尚、図14に示したものは縦効果型素子であるが、横効果型素子でも適用可能である。アクチュエータ内で体積変動が発生した際に、その圧力がオリフィス側へ逃げずノズル側へ逃げる事で液体吐出が効率的に可能となる.そのためノズル径をオリフィス径より大きく設計したり、ノズル及びオリフィスの断面形状にテーパーを付けたりすることが有効である。具体的には、オリフィス径はノズル径に対し50〜90%の大きさであることが望ましい。
このとき、上記液体吐出用ディスペンサ310の配線方法は、図15に示す通りである。各アクチュエータ21を個別に駆動させるためには独立に配線を形成する必要がある。このため、筒型圧電アクチュエータアレイ300を構成するものを、駆動部・配線部と2つに分けるとアクチュエータ21内側の外部電極34はアクチュエータ1を貫通する孔を通じて配線部内で独立信号線として引きまわし、アレイ300側面部へ回すことができる(図4(b)参照)。共通電極となるアクチュエータ21外側の外部電極28はGNDに接地することで、アクチュエータ21の独立駆動が可能となる。アクチュエータ21内部の貫通孔はアレイ300裏面に独立して通じており、この孔から液体供給が可能である。このとき、内側、外側の外部電極間に電圧を加え駆動するアクチュエータであるため、アクチュエータ外の部分で活性部が生れることでクロストークの原因となることがある。このため配線設計の際には、不要な活性部を作製しないように考慮する必要がある(図示せず)。
ここで、上記外部電極は、焼成後、メッキ、スパッタ、蒸着、CVD、ディッピング、スプレー塗布、スクリーン印刷等の手法で形成することができる。内・外の外部電極の分離は、成膜時にマスキングを行ったり、成膜後、研削等により不必要な部分を取り除くことで行っても良い。
また、吐出する液体によっては、アクチュエータ内部の電極を腐食する可能性があるため、内面及び外面に対し保護膜を形成しても良い。保護膜としては酸化物(SiO2・TiO2・Al2O3、HfO2、MgO、Nb2O5、Ta2O5、ZrO2等)又は窒化物(Si3N4、AlN等)のようなセラミックスを成膜しても良いし、高分子材料のような有機物(ポリイミド等)を成膜しても良い。
更に、上記液体吐出用ディスペンサは、図15に示すように、圧電セラミックスからなるキャビティの体積変動により液体吐出を行うデバイスであるが、本発明の筒形圧電アクチュエータアレイ300を用いることにより、慣性力を利用した液体吐出デバイスにも好適に用いることができるとともに、従来の慣性力を利用した液体吐出デバイス(例えば、特開2001−228162号公報、特開2001−235400号公報、特開2002−116205号公報を参照)と比較して、低コストで高集積アレイ吐出デバイスを実現できる可能性がある。尚、慣性力を用いた液体吐出デバイスの利点としては、多種多様の液体に対しアクチュエータを交換せずに対応できることから、DNAチップ等のバイオ関連で好適に用いられる。
[5]圧電駆動ステージ
本発明の筒形圧電アクチュエータアレイの応用例としては、圧電アクチュエータを用いた微小駆動ステージが考えられる。これは、例えば、走査型プローブ顕微鏡(SPM)等の部品として一般に使用されているものである。SPMの圧電駆動ステージには筒型圧電素子を使用しているが、これは筒内側の外部電極を共通電極とし、筒外側の外部電極を4方向に分割された形状とすることで、ステージ駆動を可能にしている。
従来のSPMに用いられる圧電ステージは、例えば、外面電極を分割した圧電筒型アクチュエータを用いたステージについて記載されている(特公平3−208246号公報参照)。これに対し、本発明で提案するアクチュエータの構造は、以下に示す通りである。
本発明の圧電駆動ステージに用いる筒形圧電アクチュエータは、例えば、図16(b)及び図16(c)に示すように、内面と外面とを有する筒形の駆動体4が備わり、駆動体4は、少なくとも積層された複数の圧電層14で構成されるとともに、内面と外面とに一対の外部電極28,29を有し、圧電横効果により駆動する内部に中空部3を有するもの(図21参照)であって、中空部3が、駆動体4の中心軸をずらして配設されたものである。尚、中空部3の形状は、特に限定されることはないが、図16(b)に示すような円形状や図16(c)に示すような四角形状を有していることが好ましい。
尚、通常の筒形圧電アクチュエータは、例えば、図16(a)に示すように、円形の中心に貫通孔があるもので、円筒部の厚みは円周方向でいずれの場所においても同じであり、電極間に加えられる電界が均一であるため、アクチュエータ1の駆動方向は垂直方向となる(図16(a)右図矢印参照)。
また、本発明の圧電駆動ステージに用いる横効果型筒形圧電アクチュエータは、例えば、図16(b)に示すように、円形の中心に貫通孔があるもので、貫通孔の中心位置をずらしている場合を考えると、中心がずれていることで、円筒部の厚みは不均一となる。これにより、アクチュエータに加えられる電圧が一定であっても、アクチュエータに加えられる電界は不均一なものとなり、電界強度の高い部分はより大きく変位し、逆に低い部分は変位が押さえられることから、駆動方向が垂直方向からゆがむ(屈曲変位する)ことになる(図16(b)右図参照)。
以上のことから、本発明の圧電駆動ステージの主な特徴は、図16(a)に示す筒形圧電アクチュエータのように、垂直駆動ではなく、図16(b)(c)に示す筒形圧電アクチュエータのように、屈曲駆動させることにより、例えば、図17に示すように、図16(b)に示す偏心型のアクチュエータ60がそれぞれ所定の配置されたアクチュエータアレイを作製することにより、アクチュエータ60の屈曲駆動によりアレイ上の物体700を搬送できる圧電駆動ステージ400を提供することができる。
次に、本発明の圧電駆動ステージに用いる横効果型筒形圧電アクチュエータについて更に詳細に説明する。横効果型筒形圧電アクチュエータでは、駆動部の変位は収縮する方向にあるため、電界強度の高い部分はより大きく縮み、電界強度の低い部分は小さく縮むことから屈曲駆動が生じる(図16(b)(c)右図参照)。このように屈曲駆動する筒形圧電アクチュエータをマトリックス状に配列された筒形圧電アクチュエータアレイ(図17及び図19参照)を作製することで、アレイ上の物体を搬送することができる。
実際に、本発明の圧電駆動ステージ(図17参照)を駆動する場合、図18(b)に示すように、全ての筒形圧電アクチュエータ60に電圧を印加した状態(屈曲した状態)を基本に考える。図18(b)に示す状態(屈曲した状態)から物体を搬送したい方向の筒形圧電アクチュエータ60の電界を開放すると、図18(c)に示すように、筒形圧電アクチュエータ60は、垂直状態へ戻ろうとするため、この際に物体700を所望の方向(図18(c)の矢印参照)へ搬送することができる。この動作を繰り返し行うことで、物体を搬送し続けることができる。尚、図18(a)は、全ての筒形圧電アクチュエータ60に電圧を印加しない状態を示す。
このとき、本発明の圧電駆動ステージは、それぞれの筒形圧電アクチュエータの駆動する印加電圧の波形を制御することにより、物体の搬送を非常に滑らかで高精度に行うことができる。
尚、図17に示す圧電駆動ステージは、筒形圧電アクチュエータ60の中空部3のオフセットが1軸方向(アクチュエータとしては+方向駆動と−方向駆動の2種類)になっており、搬送できる方向も対応する方向のみ搬送することができる(但し、1軸方向で往復させることは可能)。このため、全ての方向に物体を搬送するには、例えば、図19(筒形圧電アクチュエータアレイの上面図)に示すように、もう1軸増やして筒形圧電アクチュエータ60をアレイ化すれば良い。
また、本発明の圧電駆動ステージに用いる筒形圧電アクチュエータの別の例は、図20に示すように、内面と外面とを有する筒形の駆動体4が備わり、駆動体4は、少なくとも交互に積層された複数の圧電層14と複数の内部電極層18,19とで構成されるとともに、内面と外面とに一対の外部電極28,29を有し、複数の内部電極層18,19が略一層おきに内面又は外面に露出して、一対の外部電極28,29のうち内面又は外面の何れかの外部電極と接続されている圧電縦効果により駆動する内部に中空部3を有するものであって、駆動体4の通常部位64の内部電極18,19の間隔よりも所定部位66の内部電極18,19の間隔を広く取ることにより、図20に示すアクチュエータ70に屈曲動作をさせることができる。この効果を利用し、図20に示すアクチュエータ70がそれぞれ所定の配置されたアクチュエータアレイを作製することにより、アクチュエータの屈曲駆動によりアレイ上の物体を搬送できる圧電駆動ステージ(図示せず)を提供することができる。
尚、本発明の圧電駆動ステージ(アクチュエータアレイ)の作製は、通常、グリーンシート積層プロセス(図23参照)で行っているが、フォトリソグラフィプロセスを利用することで、より微細なアクチュエータアレイを作製することができる。例えば、強誘電体ナノチューブがCVDにより作製できることが知られており、Si基板上に強誘電体ナノチューブを作製することで積層プロセスに比して遥かに狭ピッチのアレイ化が実現できる。
また、本発明の圧電駆動ステージ(アクチュエータアレイ)は、強誘電体薄膜形成装置(LSMCD)を用いた強誘電体ナノチューブ(直径800nm、厚さ<100nm)をSi基板上に約1.5μmの間隔で周期的に配列することができる成膜法で作製することができる(F.D.Morrison,M.Alexe,T.Tatsuta,O.Tsuji and J.F.Scott,Abst.,The 10thEuropian Meeting on Ferroelectricity,Cambridge UK August 3rd−8th,2003参照)。
(4)筒形圧電アクチュエータアレイの製造方法
次に、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイの製造方法について説明する。本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイは、この製造方法によってのみ得られるものではないが、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイの製造方法は、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイを得るに好ましい手段である。又、筒形圧電アクチュエータアレイを作製後に、機械加工等により個々の筒形圧電アクチュエータに分けることが出来る。こうすると多数の筒形圧電アクチュエータを一度に製造出来るので、より低廉なアクチュエータとすることが出来る。
本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイの製造方法は、基板と、その基板の一の面に1つ以上配設された圧電アクチュエータと、を有し、圧電アクチュエータが、内面と外面とを有する筒形の駆動体を備え、その駆動体が、少なくとも積層された複数の圧電層で構成される圧電アクチュエータアレイを製造する方法であり、グリーンシート積層法を用いる方法である。製造にあたっては、付帯的手段として、抜孔の形成に打抜加工を利用することが好ましい。
本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイの製造方法の概略工程の一例を、図22(a)〜図22(f)に示す。作製対象は、図3及び図4(a)(b)に示した第1の筒形圧電アクチュエータアレイ201である。尚、図22(c)、図22(d)は後に内部電極層となる導体膜のパターンを表す図であり、工程は図22(a)、図22(b)、図22(e)、図22(f)の流れで示される。
以下、製造工程について説明する。先ず、圧電材料を主成分とする所定枚数の圧電層用のセラミックグリーンシート616を用意する(第1の工程)。セラミックグリーンシート(以下、単にシートともいう)は、従来知られたセラミックス製造方法により作製出来る。例えば、圧電材料粉末を用意し、これにバインダ、溶剤、分散剤、可塑剤等を望む組成に調合してスラリーを作製し、これを脱泡処理後、ドクターブレード法、リバースロールコーター法等のシート成形法によって、セラミックグリーンシートを形成することが可能である(図22(a)参照)。又、後に基板となるセラミックグリーンシート602を、別途用意する(次の第2の工程による加工を施したものを図22(b)に示す)。このシート602はシート616と同じ成分で作製してもよく、圧電材料を含まない別の成分で作製してもよい。
そして、例えばパンチとダイによる打抜加工法を用いて、シート602に後にスルーホールとなる貫通孔643を開け、シート616に加工を施して、所定形状のシート614,615を得る(図22(b)参照、第2の工程)。図5(a)にシート614,615を部分拡大した平面図を表す。シート614,615は、作製しようとする筒形圧電アクチュエータアレイ201(図3、図22(f)参照)の筒形を呈する複数の駆動体の断面形に相当する複数の環状部612、及び、環状部612から張り出すとともに複数の環状部612間を接続する梁613、を有する形状になるように、シート616に抜孔617を形成したものである。抜孔617はシート616を貫通した孔であり、シート614,615の積層後に、作製しようとする筒形圧電アクチュエータアレイ201の、個々の筒形圧電アクチュエータにおける筒形の駆動体の中空部、及び、隣接する筒形圧電アクチュエータ間の空間を形成する孔である。梁613は最終的に不要となるが、環状部612をこの段階で分離させると取扱不便であり、後の焼成工程において変形や曲がりを生じ易くなるため、寸法精度を向上させるためには、出来るだけ製造工程の終わりの方で除去することが望ましい。 又、説明の都合上、理解し易くするために図から省いているが、通常、実際にはシート614,615には、シート616の外形に等しい枠が残り、この枠とその内側の環状部612を接続する梁613が設けられる。従って、通常、枠を有するシート614,615を積層した、次に説明するセラミックグリーン積層体210は、外見上、概ね直方体を呈することになる。
次に、複数の環状部612と梁613とを有する形状になった複数のシート614,615を交互に積層し、好ましくは後に基板となるシート602と合わせて圧着して、積層梁623を伴う複数の駆動前駆体624が形成されたセラミックグリーン積層体210を得る(第3の工程、図22(e)参照)。駆動前駆体とは、駆動体の1つ前の段階にあるものを意味し、これを焼成すると駆動体が得られる。駆動前駆体624は、図22(e)に示されるように、積層梁623を伴うことを除けば、図3、図22(f)に示される駆動体4と同様に、中空部を有する筒形を呈し、内面(中空部に対する面)と外面とを有する。
尚、内部電極層の形成のために、第3の工程の前に、シート614,615に、図22(c)、図22(d)で示されるパターンの導体膜618,619を、スクリーン印刷等の手法により、それぞれ形成しておくことが好ましい。その導体膜618,619の形成は、シート614,615に対して行ってもよいが、先にシート616に対して導体膜618,619を形成し、後で抜孔を形成してもよい。導体膜(電極)の材料としては、室温で固体であって、導電性の金属が採用され、例えば、アルミニウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、銀、スズ、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、又は鉛等の金属単体又はこれら2種類以上からなる合金、例えば、銀−白金、白金−パラジウムなどを1種単独で又は2種類以上を組み合わせたものを用いることが好ましい。又、これらの材料と、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、ガラス、又は圧電材料等とを含有するサーメットであってもよい。これらの材料の選定にあたっては、圧電材料の種類に応じて選択することが好ましい。
又、外部電極の形成のために、第3の工程の後で、セラミックグリーン積層体210の表面全体に、導体膜を形成しておくことが好ましい。表面全体には、先の工程でシート602に形成した後にスルーホールとなる貫通孔643に相当する部分、及び、複数の環状部612が積層されてなる筒形を呈する駆動前駆体の中空部に対する面(内面)に相当する部分が含まれる。こうすると、この段階では正極用、負極用の一対の外部電極として別々に形成する必要がなく、浸漬法等で容易に導体膜を形成出来る。そして、後に行う焼成で導体膜が電極(外部電極)になるので電極形成のための別途の焼成が不要である。
次に、セラミックグリーン積層体210を焼成一体化して、積層梁を伴う複数の駆動体が形成された焼成積層体を得る(図示しない第4の工程)。その後、図示しないが、シート602が焼成された部分(基板に相当する部分)の側面、及び、駆動体の頂面、に対し研磨、研削等を施し、当該部分の外部電極を取り除く。この作業により、外部電極は、その取り除いた部分で絶縁される2つの外部電極に分かれ、正極用、負極用の一対の外部電極となる。即ち、基板の上面と駆動体の外面とを導通する一の外部電極と、基板のスルーホールを通じて基板の下面と駆動体の内面とを導通する他の外部電極と、からなる一対の外部電極を得ることが出来る。更に、基板の底面電極も除去して駆動体の内面を導通する外部電極を個別に分離することで、個々の駆動体に独立して電圧印加することが可能となる。
そして、積層梁を切除し、個割になった複数の駆動体4を得る(第5の工程)。積層梁の切除手段は、ワイヤーソー加工法その他各種の機械加工を採用出来る。その後、必要に応じて分極処理を行えば、筒形圧電アクチュエータアレイ201が得られる(図22(f)参照)。
尚、上記製造方法は、駆動体が円筒形を呈する筒形圧電アクチュエータアレイ201(図3,4参照)を作製する方法であるが、積層するシート(上記製造方法におけるシート614,615相当のシート)の形状を変更することによって、同じ筒形であるが別の形状の駆動体を有する筒形圧電アクチュエータアレイを作製することが出来る。例えば、積層するシートを、図5(b)に表した形状に加工すれば、得られる筒形圧電アクチュエータアレイは、駆動体が角筒形を呈するものになる。
又、上記製造方法は、本発明に係る第1の筒形圧電アクチュエータアレイである筒形圧電アクチュエータアレイ201を作製する方法であるが、本発明に係る筒形圧電アクチュエータアレイの製造方法は、本発明に係る第2の筒形圧電アクチュエータアレイを作製出来る方法である。第2の筒形圧電アクチュエータアレイを作製するには、例えば、上記説明中、第3の工程の前に、積層前のシートに所定パターンの導体膜を設けないで内部電極層を形成せず、圧電層の分極の方向を所定の方向として分極処理を行えばよい。
ところで、上記説明では、シート616を加工してシート614,615を得た後に、シート614,615を交互に積層し、セラミックグリーン積層体210を得る工程として記載しているが、セラミックグリーン積層体210を得るに際し、シート616に抜孔617を形成しながら(孔を開けながら)積層すること、即ち打抜同時積層、が可能である。以下に、図面を参照して説明する。
図23(a)〜図23(e)は、打抜同時積層法の具体的工程を示す図である。打抜同時積層法は、周囲にシートの積層操作をするストリッパ11を配置したパンチ10とダイ12からなる金型を用いて行われる。尚、この打抜同時積層法は、特開2002−160195号公報に開示されている手段である。
図23(a)は、ダイ12上に最初のシート616(シート616aとよぶ)を載せた打ち抜き前の状態を示している。そして、図23(b)で、パンチ10及びストリッパ11を下降させて、シート616aを打ち抜き、抜孔(図示しない抜孔617)を形成している(工程A)。
次に、2枚目のシート616(シート616bとよぶ)の打ち抜き準備に入るが、このとき図23(c)に示すように、最初のシート616aは、ストリッパ11に密着させて上方に移動させてダイ12から離す(工程B)。ストリッパ11にシートを密着させる方法は、例えば、シートに仮の接着剤を塗布してもよいが、シートの外枠(加工しない部分)が充分に確保出来る場合にはストリッパ11に吸引孔を形成して真空吸引すること等でも実施出来る。
次いで、2枚目のシート616bの打ち抜き準備に入るために、ダイ12からパンチ10及びストリッパ11を引き上げるが、この引き上げている途中は、パンチ10の先端部を、一緒に引き上げた最初のシート616aの抜孔の中まで戻さないことが望ましく、又、止める際には、一緒に引き上げた最初のシート616aの最下部より僅かに引き込んだところで止めることが肝要である(工程C)。パンチ10を最初のシート616aの抜孔の中まで戻したり、完全にストリッパ11の中へ格納してしまうと、シートは軟質であるため形成した抜孔が変形してしまい、後に抜孔の形成されたシートを積層して得られるセラミックグリーン積層体において、駆動前駆体の内面及び外面の平坦性が低下し、最終的に得られる筒形圧電アクチュエータアレイにおいて個々の筒形圧電アクチュエータの駆動体の面の輪郭度が大きくなるので、好ましくない。
図23(d)は、2枚目のシート616bの打ち抜き工程を示す図である。最初のシート616aをストリッパ11に密着させることで、ダイ12上に、2枚目のシート616bを容易に載置出来る。そして、シート616bを、図23(b)の工程に準じて打ち抜き、同時に最初のシート616aに重ね合わせる(工程D)。
そして、図23(c)、図23(d)の工程を繰り返して、打ち抜かれた最初のシート616aと2枚目のシート616bとを重ね合わせてストリッパ11により引き上げ(工程E)、3枚目のシートの打ち抜き準備に入る。図示しないが、このときも一緒に引き上げたシートの最下部より僅かに引き込んだところで止めることが肝要である(工程F)。その後、工程Dから工程Fを繰り返して必要積層数のシートの打抜及び積層を繰り返す。
上記工程によって、抜孔がなかったシート616には既に抜孔(図示しない抜孔617)が形成され且つ積層されてセラミックグリーン積層体を構成する。そして、シートの保持を解除することにより、このセラミックグリーン積層体がストリッパ11から引き離される。図23(e)は、説明の都合上、仮に3枚の積層で打抜を終了した状態を示している。ストリッパ11とセラミックグリーン積層体との引き離しは、例えば、図示するように、ストリッパ11下面に設けた引離治具17で確実に行うことが出来る。
尚、セラミックグリーン積層体は、後に基板となるシートを除き、後に内部電極層になる導体膜の形状が異なる2種類のシートが交互に積層されてなるものである。従って、打抜同時積層法によりセラミックグリーン積層体を得る場合には、積層するシート616の概ね半数ずつに、予めそれぞれ所定形状の導体膜を形成しておくことが必要である。概ね半数のシート616には図22(c)でシート614の導体膜として示される導体膜619を形成し、残りの概ね半数のシート616には図22(d)でシート615の導体膜として示される導体膜618を形成し、それらを交互に打ち抜き、積層する。
1,8,21…筒形圧電アクチュエータ、2…基板、3…中空部、4…駆動体、10…パンチ、11…ストリッパ、12…ダイ、14…圧電層、17…引離治具、18,19…内部電極層、22…スルーホール、28,29…外部電極、30…個別配線、32…個別電極、34…外部電極、40…移動体(シャフト)、41…ガイド穴、42…リニアドライブ機構、44…マイクロミラー、50…キャピラリ、52…オリフィス、54…液体吐出用ノズル(ノズル)、60…筒形圧電アクチュエータ(円形偏心型)、62…筒形圧電アクチュエータ(角形偏心型)、64…通常部位、66…所定部位、70…筒形圧電アクチュエータ(屈曲動作型)、101,102…光ファイバ、108…ギャップ、110…外周に伸縮性のある被覆、120…光ファイバアレイ、130…筒形圧電アクチュエータアレイ、150…集積化可変光減衰器アレイ、177…光導波路部材、177a〜177d…光導波路コア部、201…筒形圧電アクチュエータアレイ、202…アレイ型リニアドライブ装置、203…マトリックス型可動マイクロミラーアレイ、210…セラミックグリーン積層体、223…光、281…光伝達部、290…光スイッチ、291…アクチュエータ部、292…アクチュエータ、298a,298b,298c,298d…光路変更部、300…筒形圧電アクチュエータアレイ(アレイ)、302…容器(液体供給アダプタ)、310…液体吐出用ディスペンサ、400…圧電駆動ステージ、602,614,615,616,616a,616b…セラミックグリーンシート、612…環状部、613…梁、617…抜孔、618,619…導体膜、623…積層梁、624…駆動前駆体、643…貫通孔、700…物体。