JP4717225B2 - 新規酸性プロテアーゼ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、タンパク質分子中のペプチド結合鎖に作用して低分子のペプチドを容易に製造することができ、例えば、生理活性ペプチドとしての利用の如き医薬品分野、飲食品分野、その他のプロテアーゼ利用分野において有用な酸性プロテアーゼに関し、更に詳しくは、イカ肝臓由来の新規酸性プロテアーゼに関する。
【0002】
【従来の技術】
プロテアーゼはタンパク質、ペプチド中のペプチド結合を加水分解する一群の酵素であり、これまで微生物由来、動植物由来の種々の酵素が開発され、飲食品分野、医薬品分野、その他の分野で有効に利用されてきた。例えば、飲食品分野においては呈味の改善、物性の改善等に利用され、また、医薬品分野においては生理活性ペプチドの生産、生体の生理作用の制御等に利用されている。
【0003】
プロテアーゼはその作用により、タンパク質のC末端、もしくはN末端のペプチド結合から順に作用してアミノ酸を1個ずつ切り離していくエキソ型ペプチダーゼと、タンパク質分子内部のペプチド結合鎖に作用して低分子のペプチドを生産するエンド型ペプチダーゼの2つに分類され、動物の筋肉中等に存在するカテプシン系の酵素群の中で、カテプシンB、L、HおよびDはこのエンド型ペプチダーゼに属する。
【0004】
イカの筋肉および肝臓中に存在するカテプシン系の酵素についてはこれまで種々の検討がなされ、例えば、イカ肝臓中に存在するカテプシンBの精製およびその性質(Agric.Biol.Chem.,40(6),1159−1165(1976))、イカ外套膜中に存在するカテプシンD様のプロテアーゼの精製(Comp.Biochem.Physiol.,68B(3),389−395(1981)、同,70B(4),791−794(1981)、同,75B(3),409−414(1983))、イカ消化腺中のカテプシンDの精製およびその性質(J.Sci.Food Agric.,39,85−94(1987))、イカ塩辛熟成中の組織の軟化に及ぼすカテプシンの影響(日本水産学会誌,59(9),1625−1629(1993))などが報告されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述した如き、食品工業および医薬品分野等で利用できる生理活性ペプチドを安全かつ効率よく得ることができる、新規な酸性プロテアーゼの開発が望まれている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは先に、イカ肝臓より得られる新規酸性カルボキシペプチダーゼおよび該酸性カルボキシペプチダーゼを用いた蛋白質加水分解物の呈味改善方法について提案した(特許第2901207号公報、特開平7−115913号公報参照)。さらに鋭意研究を重ねた結果、イカ肝臓中に上記酸性カルボキシペプチダーゼ以外に新規な酸性のエンド型プロテアーゼが存在し、該酸性プロテアーゼが生理活性ペプチドとしての利用の如き医薬品分野、飲食品分野、その他のプロテアーゼ利用分野において有用であることを見いだし本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明は、次の理化学的性質を有する新規な酸性プロテアーゼを提供するものである。
(1)酵素作用:タンパク質分子内部のペプチド結合鎖に作用して、低分子のペプチドを生産するエンド型プロテアーゼである。
(2)基質特異性:酸性条件下において乳カゼイン、ヘモグロビン、牛血清アルブミンおよび糖蛋白質である卵白アルブミンを良く分解する。また、カテプシンDの特異的基質の1つであるMOCAc-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2(J. Biochem.,125(6),1137−1143(1999))をPhe- -Pheの間で切断し、蛍光強度を増加させる。さらにb-セクレターゼの特異的基質の1つであるMOCAc-Ser-Glu-Val-Asn-Leu-Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-Lys(Dnp)-Arg-Arg-NH2(J. Biochem.,126(1),235−242(1999))を分解し、蛍光強度を増加させる。
カイネティクパラメーター(kcat/Km)は、基質のP1位が疎水性のアミノ酸である場合が高い値を示す。
(3)至適pH:カゼインを基質としたときの至適pHが2.4であり、ヘモグロビンを基質としたときの至適pHが3.0である。また、MOCAc-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2を基質とした場合、至適pHは3.0であり、pH6.0においても約50%の活性を示す。
(4)安定pH範囲:pH2〜6のpH域で安定である(基質としてヘモグロビンを用いて測定)。
(5)至適温度:30℃である(基質としてカゼインを用いて測定)。
(6)安定温度範囲:20〜50℃の温度範囲で安定である(基質としてカゼインを用いて測定)。
(7)55℃、10分の加熱でほぼ完全に失活する(基質としてカゼインを用いて測定)。
(8)阻害剤:ペプスタチン(Pepstatin)Aにより完全に阻害され、1,2−エポキシ−3−(p−ニトロフェノキシ)−プロパン(EPNP)およびジアゾアセチル−DL−ノルロイシンメチルエステル(DAN)により約50%の活性が阻害される。
(9)相対分子質量:36.5キロダルトン(kDa)である(SDS−PAGEによる)。
(10)等電点:8.30である(等電点電気泳動による)。
(11)N末端アミノ酸配列:A-P-T-P-E-P-L-S-N-Y-L-D-A-Q-Y-Y-G-V-I-S-I-G-T-P-A-Q-N-F-K-V-V-F-Dで示され、各種カテプシンDと高い相同性を有する。例えば、ミバエ(Drosophila melanogaster)のカテプシンDとは84%、ヒトのカテプシンDとは63%の相同性がある。 以下、本発明の酵素の製法、理化学的性質等について、更に詳細に説明する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明により提供される新規酸性プロテアーゼはイカ類の肝臓から採取することができ、採取することのできるイカ類としては、例えば、アカイカ、スルメイカ、マイカ、アオリイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、コウイカ、ヒナイカ、ミミイカ、ホタルイカ、ドスイカ、ダイオウイカ、ソデイカ等の各種のイカ類を挙げることができるが、殊に、肝臓重量が大きく、また水揚げ量が多いスルメイカ、アカイカ及びマイカが好適である。これらのイカ類の肝臓は、生鮮品、冷凍品及び塩蔵品のいずれも利用することができる。
【0009】
これらのイカ類の肝臓から酸性プロテアーゼを分離採取する方法としては、例えば、生鮮イカまたは冷凍イカの肝臓を分別し、これを磨砕処理した後、磨砕物1重量部に対して通常約3〜約20重量部、好ましくは約5〜約10重量部の水もしくはpH約3〜6の緩衝液を加えて攪拌抽出し、好ましくは抽出液を再度pH約3〜4に調整した後、得られる抽出水層部を遠心分離し、脂肪を分離除去し、更にこの水層部をケイソウ土、セルロースなどの濾過助剤を用いて濾過し、清澄な粗酵素液を得る方法を例示することができる。得られる粗酵素液は、場合により、凍結濃縮、減圧濃縮、限外濾過などの適宜な濃縮手段を用いて、該酵素の活性低下をきたさない温度、例えば、約50℃以下の温度で濃縮することにより粗酵素液濃縮物とすることができる。この濃縮物はそのまま粗酵素として利用することができるが、更に望ましくは該濃縮物を直接あるいはデキストリン類などの適当なバインダーを添加した後、真空乾燥、凍結乾燥等によって乾燥粉末化することが保存上有利である。
【0010】
さらに、該濃縮物は、硫安アンモニウム塩析、陽イオン交換樹脂、例えば、Resource S、S Sepharose(ファルマシアバイテク社製)など、あるいは疎水性カラム、例えば、Phenyl Sepharose 6FF(ファルマシアバイテク社製)などで分離・溶出し、この溶出液について、例えば、Superose 12、Superdex 75(ファルマシアバイテク社製)などのゲル濾過カラムを用いて活性画分を分取し、単一成分として分離精製することができる。
【0011】
本発明のイカ肝臓由来の新規な酸性プロテアーゼは、タンパク質分子内のペプチド結合鎖に作用して低分子のペプチドを生産するエンド型プロテアーゼであり、イカ肝臓から初めて見いだされた新規な酵素である。
【0012】
以下、本発明の酸性プロテアーゼの酵素学的性質について説明する。
【0013】
(1)酵素作用
タンパク質分子内部のペプチド結合鎖に作用して、低分子のペプチドを生産するエンド型プロテアーゼである。
【0014】
牛血清アルブミンを該酸性プロテアーゼにて作用した結果、図1に示すように低分子のペプチドに分解した。また、糖蛋白質である卵白アルブミンに作用した結果、低分子化していることが確認された。さらにアミロイドb-タンパク質(1〜42)残基に該酸性プロテアーゼを作用した結果、図2のHPLCクロマトグラムが示すように3本のペプチド鎖に分解した。
【0015】
(2)基質特異性
酸性条件下において乳カゼイン、ヘモグロビン、牛血清アルブミンおよび糖蛋白質である卵白アルブミンを良く分解した。また、カテプシンDの特異的基質の1つであるMOCAc-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Lys(Dnp)-D-Arg-NH21mgをDMSO570mlに溶解し、1mMの基質溶液とし、Buffer980mlに上記保存液を加え、酵素活性を蛍光強度の増加(Ex=328nm、Em=398nm)により測定した。その結果、MOCAc-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2をPhe- -Pheの間で切断し、蛍光強度を増加させた。さらにb-セクレターゼの特異的基質の1つであるMOCAc-Ser-Glu-Val-Asn-Leu-Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-Lys(Dnp)-Arg-Arg-NH2を分解し、蛍光強度を増加させた。カイネティクパラメーター(kcat/Km)は、基質のP1位が疎水性のアミノ酸である場合が高い値を示した。
【0016】
(3)至適pH
本発明の酸性プロテアーゼを基質としてヘモグロビンおよびカゼインを用い、pHはそれぞれの基質について2種類の緩衝液にてpH1〜3.5の範囲で測定を行い相対活性を求めた。その結果を図3に示すが、基質としてカゼインを用いたときの至適pHは2.4であり、基質としてヘモグロビンを用いたときの至適pHは3.0であった。この至適pHより本発明の酸性プロテアーゼはカテプシンDに属する酵素であることが推測された。
【0017】
(4)安定pH範囲
本発明の酸性プロテアーゼを基質としてヘモグロビンを用い、pHは5種類の緩衝液にてpH1〜9の範囲での安定性を調べた。その結果を図4に示すが、本発明の酸性プロテアーゼはpH2〜6の範囲で約80%の活性を維持し、pH7においても50%以上の活性を示した。
【0018】
(5)至適温度
本発明の酸性プロテアーゼを基質としてカゼインを用い(pH2.4)、至適温度の測定を行った。その結果を図5に示すが、基質としてカゼインを用いたときの至適温度は30℃であった。
【0019】
(6)安定温度範囲
本発明の酸性プロテアーゼを基質としてカゼインを用い(pH2.4)、10〜70℃で10分および30分での残存活性を測定した。その結果を図6に示すが、10分の反応では20〜50℃まで約80%の活性を示したが、30分の反応では50℃で50%以下の残存活性であった。
【0020】
(7)温度による失活の条件
上記図6の結果より、本発明の酸性プロテアーゼの失活は55℃、10分の加熱で行えることがわかった。
【0021】
(8)阻害剤
本発明の酸性プロテアーゼについて表1に示す18種類のプロテアーゼ阻害剤の影響を調べた。反応条件は基質としてヘモグロビン溶液を用い、pH3.0、5℃にて24時間(EPNPおよびDANは48時間)反応し、プロテアーゼ阻害剤を添加していないものの酵素活性との比較を行った。その結果を下記表1に示す。
【0022】
【表1】
表1:阻害剤の影響
【0023】
*コントロールは阻害剤を添加しないときの酵素活性で、表中の活性はこのコントロールを100としたときの相対活性で示す。
【0024】
**各略記号の意味は次のとおりである。
EPNP:1,2−エポキシ−3−(p−ニトロフェノキシ)−プロパン
DAN:ジアゾアセチル−DL−ノルロイシンメチルエステル
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
EGTA:エチレングリコール−ビス−b−アミノエチルエーテル
E−64:L-3-トランスカルボキシラン-2-カルボニル-L-ロイシル-アグマチン
NEM:N−エチルマレイミド
PCMB:パラクロロマーキュリー安息香酸
PMSF:フェニルメタンスルフォニルフルオライド
APMSF:4−(アミヂノフェニル)メタンスルフォニルフルオライド
TLCK:トシルリジルクロロメタン
ZPCK:ベンジロキシカルボニルフェニルアラニルクロロメタン
TPCK:トシルフェニルアラニルクロロメタン
この結果より、本発明の酸性プロテアーゼはペプスタチンAにより完全に阻害され、EPNPおよびDANにより半分以下の活性が阻害されたことから、本発明の酸性プロテアーゼは活性中心にアスパラギン酸残基を有するアスパルティックプロテアーゼであることがわかる。また、他のプロテアーゼ阻害剤によってはほとんど阻害を受けなかった。さらに、ペプスタチンAの濃度の変化による阻害活性の影響(反応時間:30分)について測定した結果を図7に示し、EPNPおよびDANによる本発明の酸性プロテアーゼの阻害を経時的に測定した結果を図8に示すが、30分の反応ではペプスタチンAの濃度が1mM以上で完全に酵素活性が阻害され、EPNPおよびDANによる阻害は72時間までの測定で経時的に阻害されてくる傾向が確認された。図8の結果から、EPNPと比較してDANによる阻害がつよいことから本発明の酸性プロテアーゼはカテプシンDであると予測される。
【0025】
(9)相対分子質量
本発明の酸性プロテアーゼの相対分子質量を非連続のドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドスクラブゲル電気泳動法(SDS−PAGE)(Nature227,680,1970)により求めたところ、図9に示した如く36.4kDaであった。
【0026】
(10)等電点
等電点電気泳動により等電点を測定したところ本発明の酸性プロテアーゼの等電点は図10に明らかな如く、8.30であった。
【0027】
(11)N末端アミノ酸解析
本発明の酸性プロテアーゼのN末端アミノ酸配列をプロテインシークエンサーにより解析し、その結果を図11に示す。図11に示す33残基のアミノ酸配列が確認され、この33残基の分子量は約4.2kDaとなり、全分子の約1/8.7である。このアミノ酸配列を用いて、BLASTによるホモロジー検索を試みた結果、本酵素のN末端アミノ酸配列は各種のカテプシンDと非常に高い相同性をもつことが確認された。例えば、ミバエ(Drosophila melanogaster)のカテプシンDとは84%、ヒトのカテプシンDとは63%の相同性がある。この結果より、本発明の酸性プロテアーゼはカテプシンDに属することが確認された。
【0028】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
【0029】
【実施例】
実施例1
30℃のイオン交換水4200gに生のスルメイカ肝臓(北海道産)600gを添加し、pH4.0に調整して充分にかき混ぜた後、30℃で2時間静置した。次にデカント分離により水層部を得た。この水層部をセライト濾過し、抽出液3750gを得た。この抽出液のpH3.0における0.6%ミルクカゼイン溶液を基質とする酵素活性を測定した結果、2.56(nkat/ml)であった(以下、この抽出液を「酸性プロテアーゼ1」と称する)。
【0030】
実施例2
実施例1で得られた酸性プロテアーゼ1の3750gを限外濾過により濃縮し、濃縮液687gを得た。この濃縮液の酵素活性を測定した結果、13.1(nkat/ml)であった(以下、この抽出液を「酸性プロテアーゼ2」と称する)。
【0031】
実施例3
実施例2で得られた酸性プロテアーゼ2の687gに硫酸アンモニウム120.9gを加え、かき混ぜて溶解した後、4℃で 15時間静置した。次いで、遠心分離により不溶物を除き分離液802gを得た。この分離液に硫酸アンモニウム257.7gを加えて溶解し、4℃で15時間静置して塩析処理をおこない析出物35.7gを得た。この析出物をpH4.0の20mM酢酸緩衝液45gに溶解し、得られた溶液を透析チューブ(Union Carbide corp.)を用いて同じ緩衝液で透析処理して脱塩したその結果、酵素液122.4gを得た。この酵素液の酵素活性を測定した結果、64.9(nkat/ml)であった。
【0032】
実施例4
30℃のイオン交換水3.0Kgに冷凍アカイカ肝臓(ニュージーランド産)600gを添加し、pH4.0に調整して充分にかき混ぜた後、30℃で2時間静置した。次にデカント分離により水層部を採取し、ケイソウ土濾過して濾液 2800gを得た。この濾液を減圧下に濃縮して濃縮液900Kgを得た。この濃縮液の酵素活性は7.2(nkat/ml)であった。
【0033】
【発明の効果】
本発明のイカ肝臓由来の酸性プロテアーゼは、酸性域でカゼイン、ヘモグロビンコラーゲンなどのタンパク質、ペプチドを選択的に分解する基質特異性を有し、ペプチドを容易に製造することができ、例えば、生理活性ペプチドとしての利用の如き医薬品分野、飲食品分野、その他のプロテアーゼ利用分野において有用である。
【配列表】
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明酵素の酵素作用を示す図である。
【図2】本発明酵素の酵素作用を示す図である。
【図3】本発明酵素の至適pHを示す図である。
【図4】本発明酵素の安定pH範囲を示す図である。
【図5】本発明酵素の至適温度を示す図である。
【図6】本発明酵素の安定温度範囲を示す図である。
【図7】本発明酵素のペプスタチンAによる阻害作用を示す図である。
【図8】本発明酵素のEPNPおよびDANによる阻害作用を示す図である。
【図9】本発明酵素のSDS−PAGEを示す図である。
【図10】本発明酵素の等電点電気泳動を示す図である。
【図11】本発明酵素のN末端アミノ酸配列を示す図である。
Claims (1)
- 次の理化学的性質を有する、カテプシンDに属する酸性プロテアーゼ。
(1)酵素作用: タンパク質分子内部のペプチド結合鎖に作用して、低分子のペプチドを生産するエンド型プロテアーゼである。
(2) 基質特異性: 酸性条件下において乳カゼイン、ヘモグロビン、牛血清アルブミンおよび糖蛋白質である卵白アルブミンを良く分解する。また、カテプシンDの特異的基質の1つであるMOCAc-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe-Arg-Leu-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2を Phe- -Pheの間で切断し、蛍光強度を増加させる。さらにb-セクレターゼの特異的基質の1つであるMOCAc-Ser-Glu-Val-Asn-Leu- Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-Lys(Dnp)-Arg-Arg-NH2を分解し、蛍光強度を増加させる。カイネティクパラメー ター(kcat/Km)は、基質のP1位が疎水性のアミノ酸である場合が高い値を示す。
(3)至適pH: カゼインを基質としたときの至適pHが 2.4であり、ヘモグロビンを基質としたときの至適pHが3.0である。また、MOCAc-Gly-Lys-Pro-Ile-Leu-Phe-Phe- Arg-Leu-Lys(Dnp)-D-Arg-NH2を基質とした場合、至適pHは3.0であり、pH6.0においても約50%の活性を示す。
(4)安定pH範囲: pH2〜6のpH域で安定である(基質としてヘモグロビンを用いて測定)。
(5)至適温度: 30℃である(基質としてカゼインを用いて測定)。
(6)安定温度範囲: 20〜50℃の温度範囲で安定である(基質としてカゼインを用いて測定)。
(7)55℃、10分の加熱でほぼ完全に失活する(基質としてカゼインを用いて測定)。
(8)阻害剤: ペプスタチン(Pepstatin)Aにより完全に阻害され、1,2−エポキシ−3−(p−ニトロフェノキシ)−プロパン(EPNP)およびジアゾアセチル−DL−ノルロイシンメチルエステル(DAN)により約50%の活性が阻害される。
(9)相対分子質量: 36.5キロダルトン(kDa)である(SDS−PAGEによる)。
(10)等電点: 8.30である(等電点電気泳動による)。
(11)N 末端アミノ酸配列: A-P-T-P-E-P-L-S-N-Y-L-D-A-Q-Y-Y-G-V-I-S-I-G-T-P-A-Q-N-F-K-V-V- F-Dで示され、ミバエ(Drosophila melanogaster)のカテプシンDとは84%、ヒトのカテプシンDとは63%の相同性がある。
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