JP4711013B2 - 経鼻投与用医薬組成物 - Google Patents
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Description
本発明は、親水性生理活性物質をその活性を保持した状態で鼻腔より血中に移行させるための医薬組成物に関する。
近年、これまで主流を占めていた低分子で疎水性の薬物に加えて、ペプチドや核酸などの親水性生理活性物質が臨床現場に登場し、医薬品として使用されて顕著な治療効果を示している。しかしながら今のところその投与方法はほとんどの場合、注射剤に限られている。これは親水性物質が、既存の薬物と異なり粘膜の上皮細胞層を通過することが出来ないことが理由である。上皮細胞層は、体外の異物が生体内に進入しないために細胞同士が密に結びついており、親水性を持つ物質はほとんど通過することはできず、一般的に用いられている薬物の投与方法である経口投与では体内に作用させることができない。
薬剤の注射による投与は、特に治療が頻回、長期にわたる場合には患者および医師にとって大きな負担であり、このような親水性生理活性物質を注射以外の方法で投与可能にするための様々な方法が検討されてきた。
一般的な薬物の投与方法として広く用いられている経口投与において、親水性生理活性物質を吸収させる技術は多数の試みが存在する。特に、経口投与時の主要な吸収部位である腸管上皮細胞層の透過性を向上させるために、界面活性物質や上皮細胞付着物質、細胞透過ペプチドなどを用いる試みがなされている。
細胞透過ペプチドは細胞膜を破壊せずに細胞外から細胞内へと移行する性質をもつペプチドの総称である。有名なものとしてはアルギニンがつらなったオリゴアルギニン、HIV−1ウイルスのペプチドTat(特許文献1)、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を持つペネトラチン(特許文献2、3)など、様々な種類が知られている。これらは単純な塩基性を特徴とするもの、疎水性ドメインを有するもの、ペプチドの一次構造あるいは二次構造の両親媒性を特徴とするもの、メカニズムが明確ではないものなど様々である。これらのペプチドは、自身の細胞内移行性に加えて、自身をビークルとして連結した遺伝子等を細胞内部に送達する用途に関する研究が盛んに行われている。
さらに、この特性を用い上皮細胞層透過を促進し、経口投与時の吸収促進を目指す検討も行われている(特許文献4、5)。しかし、これらの検討に用いられている細胞透過ペプチドの吸収促進効果は、洗浄した腸管による評価などに基づいており、実際の経口投与時の効果は明らかではない。また、胃における消化分解、食物摂取による消化管内環境の変化のため、安定した吸収を実現させることは難しく、親水性生理活性物質の経口投与は実用化には至っていない。
経口投与以外での吸収を実現させる方法として、鼻腔の粘膜層を利用する投与方法も考案されている。鼻腔粘膜と消化管粘膜には粘膜層を構成する細胞種類の相違や、個々の細胞の特性の違いがあり、また管腔内に存在する分解酵素の種類、量など種々の違いがあるため、経鼻吸収の促進には、消化管吸収促進とは異なる技術が求められる。
鼻腔粘膜は投与が容易であり、また鼻腔粘膜の下には血管、リンパ管が発達しており薬物の吸収には適した特性を有している。さらに、鼻腔より吸収された薬物は、吸収された後、直接体循環に移行するため、肝臓による初回通過効果を回避することが出来ると考えられ、消化管や肝臓で代謝されやすい薬物の投与部位として有効と考えられる。しかし、他の吸収部位と同様に親水性生理活性物質の鼻腔粘膜透過性は低く、また、吸収部位の面積も小さいため、鼻腔からの親水性生理活性物質吸収を実現させるためには吸収促進技術が必要である。
これまで複数の製薬メーカーにより界面活性剤を吸収促進剤として利用した経鼻製剤で臨床試験を行った例があるが、いずれも鼻粘膜への刺激性が強く断念する結果に終わっている。また、界面活性剤を用いない方法としては、研究段階においてペプチドを用いた吸収促進が試みられており、特許文献6には薬物に直接、ペプチドを連結させることで経鼻吸収性を促進させる試みが開示されている。しかしながら、この技術は薬物への化学修飾を必要とするため、必然的に薬物の薬理活性の低下や、体内動態の変化、生産コストの上昇、投与薬物の抗原性などの多くの解決すべき課題を有している。
また、ペネトラチンまたはその改変体による経鼻吸収促進の可能性に関して特許文献2または3で言及されているが、これは透過させる薬物とペネトラチン改変体の共有結合を必要とするため、親水性生理活性物質とペネトラチンまたはその改変体が共有結合していない本発明とは異なる技術である。さらに、細胞透過ペプチドを用いた鼻腔吸収促進の実現には、細胞外部から細胞内部への移行に加え、細胞からの離脱が効率よく起こることが必要であることが知られており、また、鼻腔粘膜吸収においては、鼻腔粘膜組織に存在する種々分解酵素によるペプチドの分解され易さなど、細胞透過性とは異なる様々な要因が吸収性に影響するため、細胞透過ペプチドが鼻腔粘膜透過性を有するかどうかについてはモデル動物等を使用した実験により確認される必要があることは当業者の技術常識であるが、特許文献2または3にはペネトラチンまたはその改変体の鼻腔粘膜透過性に関しての実験的証明は開示されていないため、当業者にとって特許文献2または3からペネトラチンまたはその改変体が鼻腔粘膜透過性を有することを類推することは容易ではない。
また、鼻腔吸収促進物質として薬物と共有結合されていないオリゴアルギニンを薬物と同時に投与する試み(特許文献7)もあるが、高濃度のオリゴアルギニンを必要とし、また蛍光標識デキストランという単一のモデル薬物のみでしかその効果が実証されておらず、ペプチド性の親水性生理活性物質の透過性については不明である。
このように、親水性生理活性物質を高い効率で経鼻吸収させる実用性の高い技術は未だ見出されていなかった。
特開平10−33186号公報
特表2002−530059号公報
特表2002−519392号公報
特開2006−257074号公報
特開2008−7448号公報
WO2004/037859号
特開平10−95738号公報
本発明の課題は、経鼻投与した親水性生理活性物質を血中に移行させる医薬組成物を提供することにある。
上記課題を克服するために、本発明者は通常の条件では経粘膜からの血中移行性の低い親水性生理活性物質に対して、その吸収効率を向上させる手段を検討した結果、インスリンと(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド、(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチド(ただし、C末端がアミド化されたペプチドを除く)または(c)(a)もしくは(b)の逆配列で表されるアミノ酸配列からなり、鼻腔粘膜透過性を有するペプチド(ただし、C末端がアミド化されたペプチドを除く)を含有する医薬組成物が有効であり、経鼻投与において高効率でのインスリンの血中移行を実現出来ることを見いだした。すなわち、本発明は、以下のような構成を有する。
(1)インスリンと下記(a)〜(c)のいずれかのペプチド(ただし、C末端がアミド化されたペプチドを除く。)を含有する経鼻投与用医薬組成物。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチド。
(c)(a)または(b)の逆配列で表されるアミノ酸配列からなり、鼻腔粘膜透過性を有するペプチド。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチド。
(c)(a)または(b)の逆配列で表されるアミノ酸配列からなり、鼻腔粘膜透過性を有するペプチド。
(2)前記(a)〜(c)のいずれかのペプチドの全アミノ酸配列がL体である、請求項1に記載の経鼻投与用医薬組成物。
(3)前記(b)のペプチドが、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個の塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸に置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチドである、(1)または(2)に記載の経鼻投与用医薬組成物。
(4)前記(b)のペプチドが、配列番号3〜6のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、(1)〜(3)のいずれかに記載の経鼻投与用医薬組成物。
(5)前記(c)のペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、(1)〜(4)のいずれかに記載の経鼻投与用医薬組成物。
(6)前記(a)〜(c)のいずれかのペプチドを0.2〜2.0mMの濃度で含有する、(1)〜(5)のいずれかに記載の経鼻投与用医薬組成物。
本発明により、経鼻投与したインスリンの血中移行が可能となり、従来の注射による投与法に比べ、簡便で患者に優しい薬物治療が可能となる。
本発明は、インスリンを鼻腔から血中に移行させる医薬組成物であって、薬効成分としてインスリンと鼻腔粘膜透過性を有する特定のペプチドを、それらが共有結合で連結されずにそれぞれ独立した状態で配合してなる経鼻投与用医薬組成物に関する。
また、本発明におけるペプチドとは、アミノ酸がペプチド結合により連結された構造を持つものを示す。ペプチドのうち分子量の大きいものは一般的にタンパク質と呼称されるが、本明細書ではこれらのタンパク質も含めて分子量により制限されずペプチドと表す。また、タンパク質に糖鎖が結合した糖タンパク質や、ポリエチレングリコール(PEG)化などの化学的な修飾を行った誘導体についても、本発明におけるペプチドに含まれるものとする。
以下、本発明の経鼻投与用医薬組成物の詳細について説明する。
本発明においてインスリンとともに含まれる配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、一般にペネトラチンと呼ばれるペプチドである。ペネトラチンはショウジョウバエのアンテナペディアと呼ばれるペプチドのDNA結合部位から見いだされた細胞透過性を有するペプチドであるが、本発明者はペネトラチン(ただし、C末端がアミド化されたものを除く。)とインスリンを併せて経鼻投与した場合、ペネトラチンの優れた鼻腔粘膜透過性によりインスリンが生体内で高い比率で血中移行することを新規に見出し、本発明を完成させたものである。
本発明において用いられる配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドは、1つまたは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されている場合も、ペプチド全体として本発明で必要とする鼻腔粘膜透過性を有す範囲内での相違であれば許容される(ただし、C末端がアミド化されたものを除く。)。例えば、ペプチドの内の塩基性アミノ酸が別の1つまたは数個の塩基性アミノ酸に置き換わる場合、親水性アミノ酸が別の1つまたは複数の親水性アミノ酸に置き換わる場合、疎水性アミノ酸が1つまたは複数の疎水性アミノ酸に置き換わる場合はペプチド全体の特性は変化しないため、問題なく許容される。特に配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1つまたは数個の塩基性アミノ酸が置換または付加される場合は好ましく許容される。なお、上記アミノ酸の欠失、置換もしくは付加は少ない方が好ましく、好ましくは1〜5個のアミノ酸、より好ましくは1〜3個のアミノ酸、さらに好ましくは1個のアミノ酸である。ここで、本発明において疎水性アミノ酸とは、ロイシン、イソロイシン、トリプトファン、フェニルアラニン、バリン、アラニンからなる群から選ばれるアミノ酸を表し、親水性アミノ酸とは、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンからなる群から選ばれるアミノ酸を表す。また、塩基性アミノ酸とは、リジン、アルギニン、ヒスチジンからなる群から選ばれるアミノ酸を表す。配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチドの好ましい例としては、配列番号3〜6のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
また、本発明においてインスリンとともに含まれるペプチドは、有効な経鼻粘膜透過性を示す配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドまたは上記配列番号1で表されるアミノ酸配列の一部が欠失、置換もしくは付加されたペプチドの逆配列で表されるペプチドであっても、ペプチド全体として本発明で必要とする鼻腔粘膜透過性を有す範囲内での相違であれば許容される(ただし、C末端がアミド化されたものを除く。)。ここで、逆配列で表されるペプチドとは、構成するアミノ酸の並びが逆であることを示し、例を挙げるとN末端からC末端に向けてのアミノ酸配列の並びがアルギニン、グルタミン、イソロイシン、リシンである時、その逆ペプチドはN末端からC末端に向けてのアミノ酸配列の並びがリシン、イソロイシン、グルタミン、アルギニンであるペプチドを言う。好ましい例として、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの逆配列で表されるペプチド(配列番号2)が挙げられる。
本発明においてインスリンとともに含まれるペプチドを構成するアミノ酸は、天然に存在するアミノ酸である立体配置がL体であるアミノ酸の他に、天然のアミノ酸の構造を一部改変した誘導体など非天然のアミノ酸も使用されうる。例えば、立体配置がD体のアミノ酸は、蛋白分解酵素による分解を受けにくいことから有効に使用されうるため、該ペプチドのアミノ酸配列のうち、一部がD体であってもよいし、全体がD体であってもよいが、本発明においては全アミノ酸配列がL体であることが好ましい。
本発明においてインスリンとともに含まれるペプチドは、通常のペプチド合成の方法を用いて調製することが可能であり、例えば、大腸菌などの微生物、動物細胞、昆虫細胞などに該ペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子を導入して発現させて作製することも可能である。また、天然に存在する該ペプチドのアミノ酸配列を有するタンパク質を分解処理して得ることもできる。たとえば配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドはショウジョウバエのアンテナペディアタンパクの一部分の配列と同一の配列であり、天然の当該タンパクより分解酵素処理を経て作製することも可能である。
本発明においてインスリンとともに含まれるペプチドは、1種類であっても複数種類含まれてもよいが、1種類であることが好ましい。また、その濃度としては特に限定はないが、実施例に示されるように0.2〜2mMであることが好ましく、0.5〜2mMの濃度においてはインスリンの顕著な鼻腔透過が確認されるためより好ましい。なお、本発明でいうペプチドの濃度は、鼻腔内に投与する時の濃度を表しており、本発明の医薬組成物が溶液状であればその溶液中での濃度を、固体状であれば1回の投与分の組成物を1回の鼻腔内投与量の目安である40μlの溶液で復元したときの濃度をいう。
本発明で使用されるインスリンは、天然の物質であっても、その配列の構造の一部を改変した誘導体であっても構わない。また、ポリエチレングリコール(PEG)化などの化学的な修飾を行った誘導体であっても構わない。
本発明でいうインスリンの経鼻吸収とは、鼻腔に投与したインスリンが、鼻腔より血液中に移行することを示す。その結果は、インスリンの血中濃度の上昇または薬理活性の発現が確認されることで確認できる。インスリンの血中濃度は、免疫学的測定法など当業者に通常用いられる方法で測定することができ、薬理活性は、投与した動物の血中グルコース濃度を指標に測定することが可能である。
吸収促進が起きているかどうかは、鼻腔に薬効成分であるインスリンのみを投与した場合の投与薬物量に対する血中への薬物移行量の比率と、本発明の医薬組成物を投与した場合の投与薬物量に対する血中への薬物移行量の比率を比較し、後者が高いことで確認することで確認出来る。実際の医薬品として十分な機能を発揮するためには、AUC(血中濃度−時間曲線下面積)の値として、同量のインスリンを注射投与した時のAUCを100%とした時の比率を示すバイオアベイラビリティの値が10%以上を示す医薬組成物が好ましく、20%以上であることがより好ましい。
本発明の経鼻投与用医薬組成物は、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。このような担体および添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などが挙げられる。
本発明の経鼻投与用医薬組成物は、溶液、固体、粉末状などの種々の形態で使用されうるが、安定性及び取扱いの容易さから、例えば、凍結乾燥等の方法で、固形状あるいは粉末状にした形態が好ましい。
本発明の経鼻投与用医薬組成物を、動物(ヒトを含む)に投与する方法には、特にその具体的形態に制限はない。例えば、乾燥状態のものあるいは溶液状のものをそのまま投与したり、あるいは賦形剤とともにカプセルに充填して投与したり、さらには乾燥状態のものを水に一旦溶解分散させてから投与したりすることができる。
本発明の経鼻投与用医薬組成物を生体に投与する際の投与量や投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、症状の重篤度によって適宜選択されうるが、含有するインスリンの重量として通常成人1日あたり0.0001〜50mg、好ましくは0.001〜20mgの範囲で投与されうる。
実施例1:インスリンの経鼻投与
<方法>
インスリン(WAKO社)粉末を1.5mlチューブ(エッペンドルフ社)に一定量計りとり、0.1N、HClに溶解した後、同量の0.1N、NaOHを加えインスリン溶液を作製した。
<方法>
インスリン(WAKO社)粉末を1.5mlチューブ(エッペンドルフ社)に一定量計りとり、0.1N、HClに溶解した後、同量の0.1N、NaOHを加えインスリン溶液を作製した。
全アミノ酸配列がL体あるいはD体のペネトラチン(配列番号1、シグマジェノシス社委託合成)またはオリゴアルギニン(配列番号7、シグマジェノシス社委託合成)をPBSに溶解し、前述のインスリン溶液と合わせ、それぞれの投与実験においてインスリン(10IU/kg)、それぞれのペプチド0.5mMの40μl混合溶液を調製した。
24時間絶食した体重約200gのSD系雄性ラットにペントバルビタール50mg/kgを腹腔内注射することにより麻酔した後、頸部を切開し気管を露出した。ポリエチレンチューブ(INTRAMEDIC PE205,Clay Adams)を気管に挿入し、次に食道を一部切開し同径のチューブを食道の切開部から後鼻孔へむけて慎重に組織に傷をつけぬよう挿入した。後鼻孔へ挿入するチューブの先端を予め脱脂綿と接着剤で密栓した。薬液の漏れを防ぐために口腔に開いている上顎部の鼻口蓋管を合成接着剤(第一三共株式会社製“アロンアルファA”)で閉じた。そして、調製したインスリン、ペプチド混合液またはインスリンのみを投与前および投与後5、10、15、30、60、120、180、240分後に頸静脈より0.25mlを採血し、遠心分離により血漿を分離させ、血漿中インスリン濃度をEIAキット(レビス社)により測定した。生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)はインスリン皮下投与時との比較により算出した。
<結果>
投与後の血中インスリン濃度推移を図1に、血中グルコース濃度推移を図2に示す。インスリンのみを経鼻投与したラットでは血中のインスリン濃度上昇はほとんど確認出来ないのに対し、インスリンと共にペネトラチンまたはオリゴアルギニンを投与したラットでは投与直後よりインスリンの血中移行が認められ、最大血中濃度はL−ペネトラチンが最も高く、ついでD−ペネトラチン、D−オリゴアルギニン、L−オリゴアルギニンとなった(図1)。またインスリンの血中移行に伴う薬理活性である血糖値の低下も認められ、血中のインスリン濃度に対応する血糖値低下が確認された(図2)。
投与後の血中インスリン濃度推移を図1に、血中グルコース濃度推移を図2に示す。インスリンのみを経鼻投与したラットでは血中のインスリン濃度上昇はほとんど確認出来ないのに対し、インスリンと共にペネトラチンまたはオリゴアルギニンを投与したラットでは投与直後よりインスリンの血中移行が認められ、最大血中濃度はL−ペネトラチンが最も高く、ついでD−ペネトラチン、D−オリゴアルギニン、L−オリゴアルギニンとなった(図1)。またインスリンの血中移行に伴う薬理活性である血糖値の低下も認められ、血中のインスリン濃度に対応する血糖値低下が確認された(図2)。
バイオアベイラビリティはインスリンのみを投与したラットが0.8%だったのに対し、インスリンとL体またはD体のオリゴアルギニンを同時に投与した場合、L体でバイオアベイラビリティ(BA)が1.1%、D体で2.0%となり、インスリンとペネトラチンを同時に投与した場合、D体でBAは3.4%、L体で7.1%となり(図3)、ペネトラチンはオリゴアルギニンと比較し、高いインスリン吸収促進効果を示した。
実施例2:インスリンの経鼻投与、ペプチド濃度依存性
<方法>
実施例1と同様の方法を用い、実施例1で最も効率の良い吸収促進効果が認められたL体のペネトラチン(配列番号1)について、投与溶液に含まれる濃度として0.2mM、0.5mM、1mM、2mMに変更し、同様の評価を行った。
<方法>
実施例1と同様の方法を用い、実施例1で最も効率の良い吸収促進効果が認められたL体のペネトラチン(配列番号1)について、投与溶液に含まれる濃度として0.2mM、0.5mM、1mM、2mMに変更し、同様の評価を行った。
<結果>
インスリン単独を投与した場合のバイオアベイラビリティが1.7%なのに対し、L体のペネトラチンを0.2mM、0.5mM、1mM、2mMで投与した場合のバイオアベイラビリティはそれぞれ15.1%、17.9%、28.4%、50.7%となり、ペネトラチンの濃度依存的にインスリンの吸収効率が向上した(図4)。
インスリン単独を投与した場合のバイオアベイラビリティが1.7%なのに対し、L体のペネトラチンを0.2mM、0.5mM、1mM、2mMで投与した場合のバイオアベイラビリティはそれぞれ15.1%、17.9%、28.4%、50.7%となり、ペネトラチンの濃度依存的にインスリンの吸収効率が向上した(図4)。
参考例1:蛍光標識デキストランの経鼻投与
<方法>
蛍光標識デキストランであるFD−4(モルキュラープローブ社)をPBSで希釈し4mg/ml溶液とした。この溶液を40μl用い、実施例1と同じ手法を用いて評価を行った。血液中のFD濃度は蛍光光度法にて定量した。バイオアベイラビリティは同量のFD−4を静脈内投与した場合との比較により算出した。
<方法>
蛍光標識デキストランであるFD−4(モルキュラープローブ社)をPBSで希釈し4mg/ml溶液とした。この溶液を40μl用い、実施例1と同じ手法を用いて評価を行った。血液中のFD濃度は蛍光光度法にて定量した。バイオアベイラビリティは同量のFD−4を静脈内投与した場合との比較により算出した。
<結果>
FD−4単独を投与したラットのバイオアベイラビリティは4.9%、L体のペネトラチン17%、D体のペネトラチンを用いた場合は36%となった。またL体またはD体のオリゴアルギニンを投与したラットのバイオアベイラビリティはそれぞれ、12.4%、12.4%となり、オリゴアルギニンに比較し、ペネトラチンが高い吸収促進効果を示した(図5)。
FD−4単独を投与したラットのバイオアベイラビリティは4.9%、L体のペネトラチン17%、D体のペネトラチンを用いた場合は36%となった。またL体またはD体のオリゴアルギニンを投与したラットのバイオアベイラビリティはそれぞれ、12.4%、12.4%となり、オリゴアルギニンに比較し、ペネトラチンが高い吸収促進効果を示した(図5)。
参考例2:インターフェロンβの経鼻投与
<方法>
氷冷下、ヒト天然型インターフェロンβ(東レ株式会社製“フエロン”)にTween20添加PBSを1ml加え、6,000,000IU/mlとし、この溶液を100μl分取し、Tween20添加PBSを566μl加え900,000IU/ml溶液とした。D体およびL体のペネトラチン(配列番号1)をそれぞれ終濃度0.5mMまたは2mMになるように秤量しインターフェロンβ溶液40μlを添加して溶解し、インターフェロンβおよびペネトラチン混合溶液とし、実施例1と同じ手法を用いて評価を行った。インターフェロンβの濃度は株式会社鎌倉テクノサイエンス製“ヒトインターフェロンβELISAキット”により測定し、バイオアベイラビリティは同量のインターフェロンβを静脈内投与した場合との血漿中濃度の比較により算出した。
<方法>
氷冷下、ヒト天然型インターフェロンβ(東レ株式会社製“フエロン”)にTween20添加PBSを1ml加え、6,000,000IU/mlとし、この溶液を100μl分取し、Tween20添加PBSを566μl加え900,000IU/ml溶液とした。D体およびL体のペネトラチン(配列番号1)をそれぞれ終濃度0.5mMまたは2mMになるように秤量しインターフェロンβ溶液40μlを添加して溶解し、インターフェロンβおよびペネトラチン混合溶液とし、実施例1と同じ手法を用いて評価を行った。インターフェロンβの濃度は株式会社鎌倉テクノサイエンス製“ヒトインターフェロンβELISAキット”により測定し、バイオアベイラビリティは同量のインターフェロンβを静脈内投与した場合との血漿中濃度の比較により算出した。
<結果>
インターフェロンβと共にペネトラチンを添加することにより血中へのインターフェロンβ移行が認められた。バイオアベイラビリティは0.5mMのL体で6.1%、0.5mMのD体で11.0%、2mMのD体で22.0%であった(図6)。
インターフェロンβと共にペネトラチンを添加することにより血中へのインターフェロンβ移行が認められた。バイオアベイラビリティは0.5mMのL体で6.1%、0.5mMのD体で11.0%、2mMのD体で22.0%であった(図6)。
実施例5:インスリンの経鼻投与
<方法>
インスリン(WAKO社)粉末を1.5mlチューブ(エッペンドルフ社)に一定量計りとり、0.1N、HClに溶解した後、同量の0.1N、NaOHを加えインスリン溶液を作製した。
<方法>
インスリン(WAKO社)粉末を1.5mlチューブ(エッペンドルフ社)に一定量計りとり、0.1N、HClに溶解した後、同量の0.1N、NaOHを加えインスリン溶液を作製した。
全アミノ酸配列がL体のペプチド(配列番号1〜6、シグマジェノシス社委託合成)をPBSに溶解し、前述のインスリン溶液と合わせ、それぞれの投与実験においてインスリン(1IU/kg)、それぞれのペプチド0.5mMの40μl混合溶液を調製し、実施例1と同様の方法にて評価を行った。
<結果>
投与後の血中グルコース濃度推移を図7に血中インスリン濃度推移を図8に、評価結果より得られた各種パラメーターを表1に示す。インスリンのみを経鼻投与したラットでは血中のインスリン濃度上昇はほとんど確認出来ないのに対し、インスリンと共に配列番号1〜6のペプチドをそれぞれ投与することで、投与直後より血中へのインスリン移行が見られ、それに伴い、血中グルコース濃度の低下が確認された。血中インスリン濃度推移から算出したバイオアベイラビリティ(BA)はインスリンのみを投与したラットが2.3%だったのに対し、配列番号1〜6のペプチドでは4.4〜20.1%となった。また、血中グルコース濃度推移より算出した薬学的利用性(PA)はインスリンのみを投与した場合、4.7%であったのが、配列番号1〜6のペプチドでは15.7%〜37.5%となった。
投与後の血中グルコース濃度推移を図7に血中インスリン濃度推移を図8に、評価結果より得られた各種パラメーターを表1に示す。インスリンのみを経鼻投与したラットでは血中のインスリン濃度上昇はほとんど確認出来ないのに対し、インスリンと共に配列番号1〜6のペプチドをそれぞれ投与することで、投与直後より血中へのインスリン移行が見られ、それに伴い、血中グルコース濃度の低下が確認された。血中インスリン濃度推移から算出したバイオアベイラビリティ(BA)はインスリンのみを投与したラットが2.3%だったのに対し、配列番号1〜6のペプチドでは4.4〜20.1%となった。また、血中グルコース濃度推移より算出した薬学的利用性(PA)はインスリンのみを投与した場合、4.7%であったのが、配列番号1〜6のペプチドでは15.7%〜37.5%となった。
本発明により、これまで注射剤として投与されてきたインスリンを経鼻投与することが可能となり、患者の苦痛、不便を大幅に改善する薬剤を提供することができる。これらの注射剤が患者に与える苦痛や通院の不便を改善することは医療現場における患者本位の医療を実現するだけではなく、これまでの製剤の概念を根底から変え、画期的製剤の創製につながる。
Claims (6)
- インスリンと下記(a)〜(c)のいずれかのペプチド(ただし、C末端がアミド化されたペプチドを除く。)を含有する経鼻投与用医薬組成物。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチド。
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチド。
(c)(a)または(b)の逆配列で表されるアミノ酸配列からなり、鼻腔粘膜透過性を有するペプチド。 - 前記(a)〜(c)のいずれかのペプチドの全アミノ酸配列がL体である、請求項1に記載の経鼻投与用医薬組成物。
- 前記(b)のペプチドが、配列番号1で表されるアミノ酸配列のうち、1もしくは数個の塩基性アミノ酸が別の塩基性アミノ酸に置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ鼻腔粘膜透過性を有するペプチドである、請求項1または2に記載の経鼻投与用医薬組成物。
- 前記(b)のペプチドが、配列番号3〜6のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1〜3のいずれかに記載の経鼻投与用医薬組成物。
- 前記(c)のペプチドが、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1〜4のいずれかに記載の経鼻投与用医薬組成物。
- 前記(a)〜(c)のいずれかのペプチドを0.2〜2.0mMの濃度で含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の経鼻投与用医薬組成物。
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