JP4709194B2 - レーザ加工用ガラス - Google Patents

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Description

本発明は、レーザ光照射によるガラスのレーザ加工に関し、特にレーザ加工に適したガラスの組成に関する。
光通信等に用いる光学部品やディスプレイ装置に組み込むマイクロレンズなど、ガラス基板に微細加工を施した部材は広い分野で用いられている。このようなガラス基板に微細加工を施す方法としては、従来、フッ酸等のエッチング液を用いたウェットエッチング(化学エッチング)、あるいは反応性イオンエッチング等のドライエッチング(物理エッチング)によるのが一般的であった。
しかしながら、ウェットエッチングにはエッチング液の組成管理と廃液処理の問題がある。またドライエッチングには真空設備等が必要であり、またフォトリソグラフィー技術によってパターンマスク等を形成するなど複雑な工程を必要とし効率的でないという問題点がある。
他方、レーザ光を材料に照射し、加熱、溶融、蒸発、アブレーションなどの物理的変化を起こし、その変化を利用する直接加工技術も進展している。レーザ光は極めて小さなスポットに絞ることができるので、微細加工に適している。完全な物理的加工であるのでウェットエッチングのような問題はなく、また空気中での加工、レーザ光の走査による加工が可能であるので、従来のドライエッチングのような問題点もない。
レーザ技術の発展により、レーザパルス幅の短縮化、短波長化が実現され、ポリイミド等の有機物や金属の加工においてはマイクロメートルオーダでの加工が可能となっている。 しかしながら、ガラスは脆性材料であるため、加工時にクラックが発生しやすい。そのためガラス材料に関しては微細加工にレーザ加工を用いることは容易でなかった。
例えば、特開平11−217237号公報には、このような問題を解決するため、ガラスに銀をイオン交換で導入することにより、レーザの加工しきい値を低減させ、クラックの発生しにくいガラスを提供する技術が開示されている。
しかしながら、多くのアルカリ金属を含むガラスでは、銀イオン交換によって銀イオンを内部に導入できるものの、銀イオンはガラス表面近傍で還元され、ガラス内部への拡散が阻害されるという現象が生じる。このため有効なレーザ加工領域がガラス表面近傍に限られ、ガラス板に貫通孔を開けるなどガラス内部に及ぶ加工は依然として困難である。また、イオン交換速度が遅く、安定にガラス内部までイオンを到達させることが困難であるという問題もあった。
上記課題を解決するために、本発明ではイオン交換せずに溶融時にガラス中に導入でき、且つ、加工しきい値を低くするような元素を含んだレーザ加工用ガラスを提供することを目的とする。
本発明の、吸収したレーザ光エネルギーによるアブレーションあるいは蒸発を利用するレーザ加工に用いるレーザ加工用ガラスは、実質的に以下の酸化物からなる組成を有することを特徴とする。
モル%で表示して、
20≦SiO2+B23≦50(ただし、10≦B23≦50)、
25≦TiO2≦40、
10≦Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO≦40
本発明のレーザ加工用ガラスは、実質的に以下の酸化物からなる組成を有していてもよい。
モル%で表示して、
20≦SiO2+B23≦50(ただし、10≦B23≦50)、
25≦TiO2≦40、
10≦Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O≦40
また、実質的に以下の酸化物からなる組成を有していてもよい。
モル%で表示して、
20≦SiO2+B23≦50(ただし、10≦B23≦50)、
25≦TiO2≦40、
10≦Li2O+Na2O+K2O≦40
上記の組成のガラスにおいては、レーザ光を吸収した際にガラスの構造の変化若しくは吸収率の変化が生じ、アブレーションあるいは蒸発が生じる。この現象を利用すればガラスの特定部分を除去する加工を施すことができ、加工に必要なエネルギーが少ない低加工しきい値ガラスが得られる。また、本発明のレーザ加工用ガラスは、ガラス表面近傍の加工にとどまらず、ガラス板に貫通孔を開けるなどガラス内部に及ぶ加工も容易に行うことができる。
本発明の目的は、ガラスのレーザ加工性の改善にあり、その本質はより低いエネルギーによる加工が、ガラス表面から内部にわたって行えることにある。このようなレーザ加工性を評価する指標として、ガラス表面および内部における加工しきい値を用いた。
加工しきい値は図2に示す光学系を用いて測定した。レーザ光源10としてはNd: YAGレーザの第3高調波(波長:355nm)および第4高調波(波長:266nm)の紫外光を用いた。このレーザ光源の繰り返し周波数は20Hzで、パルス幅は5〜8nsとした。レーザ光は焦点距離100mmのレンズ(図示しない)で集光し、試料ステージ20上の試料ホルダー30に固定したガラス試料40に照射した。照射時間は照射シャッタ50で制御し、2秒とした。
レーザ光のエネルギーは照射シャッタを閉じた状態で、パワーメータをレーザ光の光路に入れて測定した。このエネルギーを種々変えて試料を照射し、アブレーションが起こる限界のエネルギーを求め、加工しきい値とした。
なお、レーザ光源12は高エネルギービームを発生するので、安全確保のため、遠隔操作可能とし、レーザ光源12への電源・冷却水供給装置14をリモートコントローラ16により操作する。特に図示していないが、レーザ光源12自身もシャッタを内蔵し、これも遠隔操作が可能である。また試料20を透過したレーザ光はビームダンパ18で吸収する。
レーザ加工用ガラスは所定の原料を混合し、電気炉内で溶融後、徐冷することによって作製した。得られたガラスブロックを一般的な方法で切断研磨し、板状で表面が平滑な実験用レーザ加工用ガラス試料を準備した。以下、本発明を用いた実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例]
本発明のレーザ加工用ガラスの実施例1〜11、参照例1〜7の組成を表1に示す。参照例1〜4、実施例1は、中間酸化物の量を変化させた組成である。参照例5、実施例2〜3は、実施例1の組成のうちTiO2の量を変えずに網目形成酸化物を変化させた例である。実施例4,5は、実施例1の組成のうちTiO2の量を変えずに修飾酸化物の添加量を変化させた例である。参照例6,7は網目形成酸化物のSiO2と中間酸化物のTiO2の量を大きく変えた組成である。実施例6〜11は、実施例1の組成のうちTiO2の量を変えずに修飾酸化物の種類を変化させた例である。
各成分の組成範囲は単位をモル%として次の範囲にある。
網目形成酸化物(SiO2、B23):20.0〜50.0
ただし、B23を10.0〜50.0モル%含有している。
中間酸化物(TiO2):25.0〜40.0
修飾酸化物(Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO):10.0〜40.0
本発明のレーザ加工ガラスは微量の不純物を除いて、実質的に上記の組成物のみからなる。また、TiO2、B23を除いて上記組成範囲を満たす限り、各成分は含有されなくてもよい。
上記の組成のガラスにおいては、ガラスの網目形成酸化物であるSiO2またはB23を20〜79モル%含むことによってガラスとしての骨格を維持することができる。修飾酸化物であるLiO2、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、またはBaOは、ガラスの網目構造を一部破壊するので、高温での粘性を弱めることや粘性の温度傾斜を緩くするために用いる成分である。5〜60モル%の添加範囲であればガラスを作製することができる。Al23またはTiO2は中間酸化物であり、網目形成酸化物であるSiO2またはB23と、修飾酸化物であるLiO2、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、またはBaOのバランスに応じて、網目酸化物としても修飾酸化物としてもガラス中で存在することができる。特に中間酸化物のTiO2は後述のようにレーザ加工しきい値を下げるために必須の成分である。
上記の組成に溶融したレーザ加工用ガラス試料に照射エネルギーを変えながら波長266nmのレーザ光を照射した。この結果得られた表面加工しきい値を表2に示す。次にレーザ光の波長を355nmにして同様の実験を行った。その結果得られた表面加工しきい値を表3に示す。
なお、波長266nmのレーザ光照射時のパワーメータで測定可能な最小パワーは15mWであり、その値以下の優劣は比較できなかった。また、波長355nmのレーザ光照射時においては、レーザの安定性の問題により100mW以下を精密に測定できなかった。
中間酸化物の量を変化させた参照例1〜4、実施例1では、図1に示すように、TiO2の量が増えるほど、加工しきい値が低くなっており、実施例1(TiO2:25モル%)では測定限界まで加工しきい値が低下している。実施例1の組成のうちTiO2の量を変えずに網目形成酸化物を変化させた参照例5、実施例2〜3では、網目形成酸化物であるSiO2とB23の割合を変化させても、しきい値は測定限界以下で変わらない。実施例1の組成のうちTiO2の量を変えずに修飾酸化物の添加量を変化させた実施例4,5では、修飾酸化物であるNa2Oの量を変化させても、しきい値は測定限界以下で変わらなかった。網目形成酸化物のSiO2と中間酸化物のTiO2の量を大きく変えた参照例6,7組成では、これらの組成でも加工しきい値は、比較例1、2よりも低く、Ti添加の効果がはたらいている。実施例1の組成のうちTiO2の量を変えずに修飾酸化物の種類を変化させた実施例6〜11では、修飾酸化物の種類を変化させても、しきい値は測定限界以下で変わらなかった。
[比較例1]
表4に示す組成(モル%)で原料を調合しガラス試料を作製した。このガラス試料は、実施例1〜5と良く似た組成であるが、実施例と同様に加工しきい値を求めると、レーザ光の波長が266nmの時の最大パワー1100mW、レーザ光の波長が355nmの時の最大パワー2100mWのどちらにおいても、アブレーション若しくは蒸発を起こさず、試料に変化はなかった。
[比較例2]
比較例として表5に示す組成(モル%)の材料を用いた。これは通常の窓ガラスなどに用いられる、いわゆるソーダライムガラスである。実施例と同様に加工しきい値を求めると、レーザ光の波長が266nmの時の最大パワー1100mW、レーザ光の波長が355nmの時の最大パワー2100mWのどちらにおいても、アブレーション若しくは蒸発を起こさず、試料に変化はなかった。
Figure 0004709194
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以上より、酸化物ガラス中にチタンを添加することにより、紫外光におけるレーザ加工しきい値は顕著に減少することがわかる。またチタンの添加量が増大するほど加工しきい値は減少する。しかし網目形成酸化物や修飾酸化物の組成にはほとんど依存しない。なお、上記ではチタンはその酸化物の形態で表現しているが、その効果はチタンが原子、コロイドまたはイオンの形態であっても同様である。
チタンはガラスの溶融時に添加できるので、添加量の制御は容易であり、したがってレーザ加工しきい値を制御しやすい。また溶融時の添加であるため、チタンはガラス中の濃度が均一である。このため、レーザ加工しきい値は被加工ガラス体中で一定であり、ガラス内部に及ぶ加工、例えば貫通孔の形成等が容易に行える。
本発明により、加工に必要なエネルギーが少ない、低加工しきい値ガラスが得られる。さらに溶融によってチタンをガラス中に導入することができるので、チタンの添加量を変えて加工しきい値を制御しやすく、また、均一な加工性を有する材料を得ることができる。
本発明のレーザ加工用ガラスの加工特性を示す図である。 レーザ加工しきい値測定用光学系を示す模式図である。
符号の説明
10 レーザ光
12 レーザ光線
20 ガラス試料
22 試料ホルダ
24 試料ステージ
30 照射シャッタ
40 パワーメータ

Claims (3)

  1. 吸収したレーザ光エネルギーによるアブレーションあるいは蒸発を利用するレーザ加工に用いるレーザ加工用ガラスにおいて、
    実質的に以下の酸化物からなる組成を有することを特徴とするレーザ加工用ガラス。
    モル%で表示して、
    20≦SiO2+B23≦50(ただし、10≦B23≦50)、
    25≦TiO2≦40、
    10≦Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O+MgO+CaO+SrO+BaO≦40
  2. 前記組成が、実質的に以下の酸化物からなる、請求項1に記載のレーザ加工用ガラス。
    モル%で表示して、
    20≦SiO2+B23≦50(ただし、10≦B23≦50)、
    25≦TiO2≦40、
    10≦Li2O+Na2O+K2O+Rb2O+Cs2O≦40
  3. 前記組成が、実質的に以下の酸化物からなる、請求項1に記載のレーザ加工用ガラス。
    モル%で表示して、
    20≦SiO2+B23≦50(ただし、10≦B23≦50)、
    25≦TiO2≦40、
    10≦Li2O+Na2O+K2O≦40
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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