以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1に本発明に係る通信システムの概略構成を示す。この通信システム100は、携帯型の信号発信装置110と、防災管理センターや警察署等に設けられた集中管理装置130と、信号発信装置110から無線発信される信号を受信し、その信号を集中管理装置130へ送信する複数の信号中継装置120を備えている。
図2に信号発信装置110の概略断面図を示す。信号発信装置110は、発電ユニット10と、発電ユニット10で生じた電力を利用して所定の信号を無線送信する無線送信ユニット12と、発電ユニット10を動作させるための作動機構14と、発電ユニット10と無線送信ユニット12を収容するケース16から構成されている。
発電ユニット10は、屈曲変位型の圧電素子22と、圧電素子22を保持する保持部材24と、圧電素子22の屈曲を制御するためのバネ26と、圧電素子22に取り付けられた永久磁石28とを有し、これら圧電素子22、保持部材24、バネ26、永久磁石28が防水ケース30に収容された構造となっている。
ここでは、圧電素子22とバネ26と永久磁石28は連結棒32を介して連結されている構造を示しているが、バネ26と永久磁石28は直接に圧電素子22の表裏面に取り付けられていてもよい。
屈曲変位型の圧電素子22とは、具体的には、バイモルフ素子およびユニモルフ素子である。公知の通り、バイモルフ素子は矩形の補強板(金属薄板(シム板)や樹脂板)の両面に圧電板が貼り付けられた構造を有しており、ユニモルフ素子は矩形の補強板の片面に圧電板が貼り付けられた構造を有している。圧電素子22としては圧電板単体からなるモノモルフ素子を用いることもできるが、耐久性の観点でバイモルフ素子やユニモルフ素子に劣る。
図2では、圧電素子22の主面は紙面と直交している。圧電素子22の両端には円柱状の支持部材34が取り付けられており、保持部材24にはこの支持部材34を層通させるための孔部が形成されており、保持部材24は防水ケース30の内部に固定されている。このような支持部材34を用いることで、圧電素子22が屈曲した際に圧電素子22の両端で屈折が生じ難くなり、圧電素子22の寿命を延ばすことができる。
作動機構14は、永久磁石28との間に引力を生ずる材料からなる磁気作用体36と、磁気作用体36を保持する板バネ38と、ケース16に装着された状態で磁気作用体36を永久磁石28から遠ざけ、ケース16から離脱させた状態で磁気作用体36を永久磁石28側へ近付けるように板バネ38を支持する楔状の支持部材(以下この支持部材を「楔部材40」と記す)と、楔部材40がケース16に挿通された状態ではケース16内に収容され、楔部材40がケース16から引き抜かれた状態ではその先端がケース16の外部に露出するように、磁気作用体36に連結されたL字型の棒部材42を有している。
作動機構14による発電ユニット10の動作形態について、磁気作用体36が鉄塊であるとして、以下に説明する。図3に作動機構14の動作形態とこれに対応する発電ユニット10の動作形態を示す。
信号発信装置110の未使用状態は先に示した図2の通りである。図2に示す状態では、発電ユニット10に設けられた永久磁石28と磁気作用体36との間に作用する引力よりも、バネ26が圧電素子22をバネ26側へ屈曲させた状態に保持するようにバネ26が縮む力の方が強い状態となっている。この状態では、バネ26は、無負荷状態と比較すると伸びた状態にあり、縮もうとする力が圧電素子22の中央部をバネ26側に引きつけている。
図2に示す状態において、圧電素子22の屈曲状態は、所謂、双安定状態に保持されている。また、板バネ38は楔部材40によって、板バネ38の固定点と楔部材40との接点の間に負荷が掛かって撓んだ状態にある。
信号発信装置110の携帯者は、自分に危害が加えられそうになったり事故や事件を目撃したりしたときに、楔部材40をケース16から引き抜く。すると、板バネ38を拘束していた力がなくなるために、板バネ38は本来の状態である図3左図の状態へと遷移し、これにより磁気作用体36が防水ケース30側へ移動する。
こうして永久磁石28と磁気作用体36との間に作用する引力(磁力)が強くなり、その力がバネ26が圧電素子22を引っ張る力よりも大きくなる。バネ26のバネ定数と永久磁石28と磁気作用体36との間に作用する引力とは、このような関係となるように予め設定されている。
そのため、永久磁石28は磁気作用体36側へと移動する。このとき圧電素子22の屈曲状態は永久磁石28側に凸の状態となるように反転し、その際に圧電素子22が発電する。圧電素子22の屈曲変位は、屈曲している向きが反転する双安定状態間の変位であり、変位が急峻に生じることで、大きな電力を発生させることができる。
図2,3に示されるように、防水ケース30において永久磁石28と磁気作用体36との間に位置する壁部は、構造上の強度を保つことができる限りにおいて、薄くすることが好ましい。これにより圧電素子22の変位を大きく取りながら、防水ケース30自体を薄く構成することができる。防水ケース30は永久磁石28による磁化を受けない材料、例えば、樹脂やアルミニウム等が好適に用いられる。ケース16にも同様の材質からなるケースを用いることが好ましい。
楔部材40を引き抜いたときに発信される信号のみが信号中継装置120を通して集中管理装置130へ届くだけでよい場合やその状況から引き抜くことしかできない事態もあり得るが、信号発信装置110ではその後も手動で信号発信を行うことができる構造となっている。
すなわち、磁気作用体36が防水ケース30側へ移動すると、図3左図に示されるように、棒部材42の先端がケース16の外側に突出する。そこで、信号発信装置110の携帯者は、図3右図に示されるように、この棒部材42の突出部分をケース16内に押し込む。これにより、楔部材40が抜かれた状態ではあっても、磁気作用体36を永久磁石28から離間させることができる。これにより永久磁石28と磁気作用体36との間に作用する引力がバネ26の縮み力よりも小さくなって、再び、圧電素子22の屈曲状態はバネ26側に凸の状態に戻り、このとき圧電素子22が発電する。
棒部材42の突出部分をケース16内に押し込む力を除去すれば、板バネ38の復元力により信号発信装置110の状態は図3左図の状態へ戻る。信号発信装置110の携帯者は、状況に応じて、棒部材42の突出部分の押圧/解除を繰り返すことで、圧電素子22を発電させることができる。
このように信号発信装置110は、電池を内蔵しない無電源構造なので、使用時にすでに電池容量がなくなっていたり、使用により電池切れを起こしたりということがなく、必要なときにいつでも動作させることができる利点があり、特に長時間にわたって動作させる必要がある場合に好適である。また、楔部材40がケース16に挿入されている状態では、発電ユニット10を動作させることができないので、誤作動の発生を防止することができる。
上記説明は、永久磁石28と磁気作用体36との間に引力が作用する構成を前提としているが、これと同様に引力を利用する構成としては、磁気作用体36としても永久磁石を用い、これら2個の永久磁石間に引力が作用するようにS極とN極を配置すればよい。逆に、永久磁石28の代わりに鉄塊等の強磁性材料を用い、磁気作用体36として永久磁石を用いてもよいことはいうまでもない。
これに対して、磁気作用体36として永久磁石を用い、永久磁石28との間に斥力が作用するようにS極とN極を配置した構成としてもよい。その構成を有する信号発信装置の概略構造を図4に示す。
この信号発信装置110Aでは、図4左図に示されるように、楔部材40がケース16に挿入された状態において、圧電素子22は永久磁石28側に凸な屈曲状態に保持されている。このとき、バネ26は図4左図の状態において無負荷時よりも縮められた状態にある。つまり、バネ26は伸びようとして圧電素子22の中心部を永久磁石28側へ押している状態にある。
楔部材40をケース16から抜くと、図4右図に示されるように、磁気作用体36たる永久磁石が発電ユニット10に設けられた永久磁石28へ接近する。すると、これら2つの永久磁石間に作用する斥力が大きくなり、この斥力がバネ26を圧縮させて、圧電素子22の屈曲状態をバネ26側に凸となるように反転させる。
図4右図の状態では、棒部材42の先端がケース16の外側に突出するので、その部分をケース16内に押し込めば、圧電素子22の屈曲状態を図4左図に示される状態(但し、楔部材40は引き抜かれている)に戻すことができ、その押圧力を除去すれば、図4右図の状態とすることができる。
このようにして発電ユニット10に設けられた圧電素子22で発生した電力を利用して、無線送信ユニット12を動作させる。図5に無線送信ユニット12の概略構成を示す。圧電素子22で発生した電気は、ブリッジ整流回路44によって整流された後に平滑回路46へ送られて、そこでブリッジ整流回路44の出力する脈流は直流に近い状態に平滑化される。この直流電圧はDC−DCコンバータ回路48によって、制御回路50、RF回路52を動作させるために必要な電圧に調節され、これらに出力される(図5のVout→Vin)。
また、圧電素子22で発生したアナログ電圧信号はA/D変換回路54へ入力され、そこでデジタル信号に変換されて制御回路50へ送られる。A/D変換回路54の駆動電力もDC−DCコンバータ回路48から供給される。制御回路50はこのデジタル信号に信号発信装置110を特定するためのID情報を付加し、この信号はRF回路52により無線信号に変調され、発信される。なお、この信号発信装置110を特定するためのID情報とは、数多くの信号発信装置を識別するための識別番号が挙げられる。
このようにして、信号発信装置110から発信された無線信号(電波)は、信号中継装置120に受信される。複数の信号中継装置120の設置形態は、例えば、携帯電話の送受信アンテナが生活圏内をほぼ網羅するように設置されているのに準ずる。すなわち、複数の信号中継装置120は、児童の登下校時の安全を確保するための目的であればその登下校ルートを網羅するように、一般防犯を目的とするならば人の通常の生活圏内に、ある場所である信号発信装置110から発信された電波を少なくとも1台の信号中継装置120が受信することができるように、その受信可能エリア120Aを相互に一定範囲で重複させて、設置される。信号中継装置120は、電柱や街灯、家屋、ビル等に取り付けることができる。
複数の信号中継装置120はそれぞれ、受信した信号にその信号中継装置ごとに割り当てられたID情報を付与した新たな信号を作って、その信号を集中管理装置130へ送信する。信号中継装置120の無線受信・送信のための回路動作のための電源は、一般の電力供給網を構成する電線から取り出すことができる。信号中継装置120から集中管理装置130への信号送信は、無線通信によるものであってもよいし、有線通信によるものであってもよい。
信号中継装置120が設置されている場所とそのID情報ならびに個々の信号中継装置120の受信可能エリア120Aとを関係付けるデータベース140が予め作成されており、このデータベース140は集中管理装置130の一部を構成している。このデータベース140には信号発信装置110のID情報とその携帯者に関する情報が含まれる。
集中管理装置130は、ある信号中継装置120から信号を受信すると、その信号に含まれる信号発信装置110のID情報、信号中継装置120のID情報、その信号中継装置120の受信可能エリア120A、データベース140から、どの地域範囲においてどの携帯者から信号が発信されたかを検出する。集中管理装置130はさらに、この検出情報を速やかに巡回中の警察車両(パトカー)等へ自動送信する構成とすることもできる。
次に信号発信装置110の変形例について説明する。図6に信号発信装置110Bの概略構造を示す。信号発信装置110Bでは、磁気作用体36には、棒部材42に代えてボタン部材58が取り付けられている。また、図6左図に示されるように、楔部材40がケース16に挿入されている状態で、磁気作用体36は防水ケース30に近接するように、板バネ38は拘束されている。
磁気作用体36と永久磁石28との間には、これらが接近したときに引力が作用するものとする。とすると、永久磁石28は磁気作用体36側へ引き寄せられて、圧電素子22が永久磁石28側に凸な状態に屈曲し、維持される。このとき、バネ26には引張力が掛かり、無負荷時に比べると、伸びた状態にある。しかし、バネ26の復元力は永久磁石28と磁気作用体36の間に作用している引力よりも弱いものとなっている。
楔部材40をケース16から引き抜くと、磁気作用体36が板バネ38の復元力によってボタン部材58がケース16から突出するように、防水ケース30から離れる。これにしたがって、磁気作用体36と永久磁石28との間の引力が弱まり、この引力がバネ26の復元力よりも小さくなるとバネ26が縮んで、圧電素子22は永久磁石28側に凸となるように屈曲反転する。この状態においてもバネ26は、無負荷時と比較すると、引張力が掛かって僅かに伸びた状態にある。
なお、信号発信装置110Bを、磁気作用体36と永久磁石28との間にはこれらが接近したときに斥力が作用するものとすると、楔部材40がケース16に挿入された状態では、バネ26は無負荷時と比較すると圧縮された状態にあり、圧電素子22はバネ26側に凸な屈曲状態に保持される。
そして、楔部材40をケース16から引き抜くと、磁気作用体36が板バネ38の復元力によってボタン部材58がケース16から突出するように動く。これにしたがって、磁気作用体36と永久磁石28との間の斥力が弱まり、この斥力がバネ26の復元力よりも小さくなるとバネ26が伸びて圧電素子22が永久磁石28側に凸となるように屈曲が反転する。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、発電ユニットとして、圧電素子22の屈曲状態を制御するためのバネとしてはコイル状のバネ(所謂、弦巻バネ)を用いた形態を示したが、バネとして板バネを用いることもでき、板バネを用いることで、圧電ユニットを薄く構成することができるという利点がある。
また、1個の発電ユニットに設けられる圧電素子は1枚に限定されることなく、例えば、その厚み方向に複数の圧電素子を一定の隙間を設けて平行に配置した構成としてもよく、一度に複数の圧電素子を屈曲させることで、より大きな電力を得ることができる。
圧電素子の保持方法はその両端を回動自在に保持する方法に限定されるものではない。図7に圧電素子60の両端を不動に固定した形態を示す。なお、図7では、防水ケースや磁気作用体等の図示を省略している。
圧電素子60は補強板62の長手方向半分の領域において長手方向に2分割(全体で4分割)された圧電板64を備えている。圧電素子60は、補強板62の長さ方向半分がそれぞれ略S字型となるように、圧電素子60の長さ方向に一定の力が加えられた状態で、ボルト66により保持部材68に固定される。なお、圧電板64に示される「±」は圧電板の分極の向きを示している。また、圧電板64の表裏面には電極膜が形成されているが、これは図示していない。補強板62は金属シム材であるとして、各電極の結線を示している。
このような圧電素子60を用いた場合、圧電素子60の中央部を押圧してその屈曲状態を下に凸となるように変化させたときに、個々の圧電板64で発生する電気を相殺させることなく取り出すことができるので、高い効率で大きな電力を取り出すことができる利点がある。図7に示した圧電素子60は、複数をその両端および中央で一定厚さのスペーサを介してボルト締め等することにより並列配列することもでき、これによりさらに大きな電力を発生させることができる。
なお、圧電素子60をS字型に屈曲させるために圧電素子60に加える力を、直線方向から微妙にずらすことによって、双安定の片方の状態(例えば、図7に示すように上に凸となっている状態)を常に安定な状態とすることができる。このような圧電素子60の保持形態によれば、バネ28を設けなくてもよいので、構造を簡単にすることができる。
信号発信装置110等は、公知の防犯ブザーと併用する構成としてもよい。つまり、信号発信装置110等の楔部材40を防犯ブザーの作動スイッチとしても用いる。信号発信装置110等と防犯ブザーとは別の場所に所持する。これにより、信号発信装置110等の楔部材40を引き抜くと、信号中継装置120へ送信するための無線信号が発信されると同時に、防犯ブザーが作動して大音量の警告音を発する。防犯ブザーは電池により動作する。そのため電池切れすると、動作しなくなるが、集中管理装置130へ信号を送信は、信号発信装置110の作動機構14を操作することにより行うことができる。
人間どうしのトラブルの場合、信号発信装置110等と防犯ブザーとを別の場所に所持することで、相手に防犯ブザーは認識されても、信号発信装置110の認識を遅らせて、継続的に信号送信を行うことができる。
10…発電ユニット、12…無線送信ユニット、14…作動機構、16…ケース、22…圧電素子、24…保持部材、26…バネ、28…永久磁石、30…防水ケース、32…連結棒、34…支持部材、36…磁気作用体、38…板バネ、40…楔部材、42…棒部材、44…ブリッジ整流回路、46…平滑回路、48…DC−DCコンバータ回路、50…制御回路、52…RF回路、54…A/D変換回路、58…ボタン部材、60…圧電素子、62…補強板、64…圧電板、66…ボルト、68…保持部材、100…通信システム、110・110A・110B…信号発信装置、120…信号中継装置、120A…受信可能エリア、130…集中管理装置、140…データベース。