JP4702900B2 - Fe基合金製クリップおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は被加熱部材を固定保持するFe基合金製クリップおよびその製造方法に関する。
例えば、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと記す)等の画像表示装置を製造する場合、第1の硝子板と第2の硝子板とを重ね合わせて加熱・封止する工程がある。この時に、重ね合わせた前記第1の硝子板と第2の硝子板(被加熱部材)とを固定保持するために、重ね合わさる方向に押さえ付けるために挟み型のクリップが用いられる。
このクリップは、例えば特許文献1、2に提案されるように、インコネル(R)718合金、X−750合金及びNi−Cr合金等のNi基の耐熱合金が使用される。しかしながら、Ni基の耐熱合金製のクリップは、多量のNiを含有するため非常に高価なものとなり、また、クリップの形状とする冷間での高精度な加工が容易ではない。
そこで、本願出願人は、MoとWの1種または2種を含み、金属組織中に分散した平均粒径100nm以下の金属間化合物粒子を有するFe基合金製であって、高価なNi基合金製のクリップと同等以上の特性を有した安価なクリップを特許文献3に提案した。
特開2004−55488号公報(〔0014〕欄参照) 特開平11−190311号公報(〔0010〕欄参照) 特開2006−242320号公報
本願出願人が提案した上述のFe基合金製のクリップは、耐熱性に優れ、弾性力も高く、クリップに求められる諸特性を十分に満足するものである。しかしながら、被加熱部材の固定保持を繰り返すうちにクリップの表面が発錆し、被加熱部材の表面に錆が付着して表面品位を損ねることがあった。
本発明の目的は、高温で繰り返し使用しても発錆し難い、耐食性(防錆性)に優れたFe基合金製クリップおよびその製造方法を提供することである。
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、質量%でC:0.01〜0.10%、Ni:20.0〜35.0%、Cr:10.0〜20.0%、Mo:0.05〜5.0%、V:0.10〜1.0%、Al:0.05〜3.0%、Ti:1.5〜4.0%、B:0.001〜0.010%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、残部はFeおよび不可避的不純物よりなるFe基合金でなるクリップであって、該クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上であるFe基合金製クリップである。
本発明のクリップは、例えば、上述したFe基合金でなる金属板をクリップ形状に塑性加工した後の熱処理において、少なくとも450℃以上の温度域における雰囲気を非酸化性かつ非窒化性とする、製造方法を適用して得ることができる。
望ましくは、前記熱処理における少なくとも450℃以上の温度域において、水素ガス、希ガス、若しくは水素ガスおよび希ガスを熱処理炉内に導入することである。
また、望ましくは、前記熱処理は600〜800℃に加熱する時効工程を含み、該時効工程の最終冷却において、450℃以下の温度域で前記熱処理炉内に冷却媒体となる窒素ガスを導入することである。
本発明のFe基合金製クリップは、安価なFe基合金でなり、防錆性(耐食性)が優れているため、高温で繰り返し使用しても発錆し難く、これを用いて固定保持する被加熱部材の表面品質を維持でき、PDP等の硝子を固定保持して製造される画像表示装置の品質安定化に効果を奏するものである。
上述したように、本発明の重要な特徴は、クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上であるようにしたことにある。Cr含有量が母相の80%以上であることは、すなわち、Cr含有量が母相の20%未満となる著しいCr欠乏域を有さないことを意味する。
上述したCrを多く含むFe基合金製の従来のクリップでは、金属板などをクリップ形状に形成後、クリップ力源となるバネ性を付与するために時効処理が施される。この時効処理を経ると、クリップの表面側にはCrを多く含む化合物がCr濃化域として生成され、これにより該Cr濃化域に続く表面から少なくとも深さ1μmまでの層において、Cr含有量が母相の80%未満となるようなCr量が著しく低下したCr欠乏域が生成されていた。このようなCr欠乏域を有するクリップだからこそ、高温で繰り返して使用するうちにクリップの表面側のCr濃化域が摩滅することによって上述したCr欠乏域がクリップの表面に曝露され、曝露したCr欠乏域が発錆の起点となってクリップに錆を生じさせていた。
それ故に、本発明のクリップは、クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上であるものとし、上述した著しくCr量が低下したCr欠乏域を有さないものとする。よって、従来のFe基合金製クリップに存在していたようなCr欠乏域を有さない、本発明のFe基合金製クリップは、発錆の起点となる著しくCr量が低下したCr欠乏域の如くの金属組織を有さないので、高温で繰り返して使用するうちにクリップの表面が摩滅したとしても発錆することはない。なお、Cr含有量を規定するにおいて、クリップの表面から少なくとも深さ0.1μmからとしたのは、Cr量を測定するにおいて、表面から深さ0.1μm未満では正確な測定値が得られないからである。一方、上限値として深さ1μmとしたのは、クリップ表面の磨耗量を鑑みると深さ1μmを越えて磨耗する可能性が小さいからである。
本発明のFe基合金製クリップにつき、具体例を挙げて図を用いて説明する。
図1は、本発明のFe基合金製クリップの一例を模式的に示す模式図である。クリップ1は、Fe基合金でなる金属板からなり、底辺部2と、該底辺部の両端から延びた第一の側面部3と第二の側面部4とを有することができる。そして、前記第一の側面部3と第二の側面部4とは弾性力によって互いが近接し、例えばPDPを製造する場合、被加熱部材である硝子板を挟み固定保持することができる。また、クリップ1においては、第一の側面部3と第二の側面部4の先端付近に、前記硝子板との接触面積を増やすようにクランプ部5を形成することもできる。
本発明のFe基合金製クリップは、上述したようにFe基合金でなる。該Fe基合金は、質量%でC:0.01〜0.10%、Ni:20.0〜35.0%、Cr:10.0〜20.0%、Mo:0.05〜5.0%、V:0.10〜1.0%、Al:0.05〜3.0%、Ti:1.5〜4.0%、B:0.001〜0.010%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる
本発明においては、各添加元素を適量添加し、残部をFeにて成分調整する合金をFe基合金といい、以下の範囲で各化学組成を規定した理由は以下の通りである。なお、特に記載のない限り質量%として記す。
本発明では、C:0.01〜0.10%とする。C(炭素)は、TiおよびVとMC型炭化物を生成し、結晶粒を微細化することで常温および高温での強度を向上させる効果を有するため、少量添加する必要がある。しかし、0.10%を超えて添加すると粗大なMC型炭化物を生じて延性を低下させたり、時効硬化に必要なTi量を減少させる。よって、Cを0.10%以下とした。また、上述したCの欠点をさらに考慮すれば、C:0.01〜0.08%とすることが好ましい。
また、本発明では、Ni:20.0〜35.0%とする。NI(ニッケル)は、合金の基地のオーステナイト相を安定化するのに必須の元素である。また、時効析出相であるγ’相の構成元素でもあるので、常温および高温強度を高める重要な元素である。Niが20.0%未満であるとき、オーステナイト相が不安定となるだけでなく、γ’相の析出が不十分となり、常温および高温強度が低下するため、Niの下限を20%とした。一方、Niが35.0%を超えると、クリップの形状とする冷間での高精度な加工が難しくなったり、本発明のクリップの特性のより一層の向上効果が得られ難いだけでなく、価格が大幅に高くなることから、Niの上限を35.0%とした。Niの好ましい範囲は、価格と特性のバランスから考慮すると、より高温での強度を得ようとするのであれば20.0〜30.0%の範囲が好ましく、25.0〜30.0%の範囲であっても良い。また、強度を向上させることができる範囲として、30.0〜35%の範囲で有っても良い。
本発明では、Cr(クロム)を適量添加することで得られる作用効果は重要であり、Cr:10.0〜20.0%とする。Crは、本発明のクリップの耐酸化性を維持するのに必要な元素である。Crが10.0%未満であるとき、本発明のクリップに必要な耐酸化性が得られない。一方、Crが20.0%を超えると、合金の基地のオーステナイト相が不安定となり、長時間使用中にα’相やσ相などの有害脆化相を生成してクリップの強度や延性を低下させる。よって、Crを10.0〜20.0%とした。また、Moを例えば3.0%以上含む場合は、Crの上限を17.0%以下としても良く、さらには15.0%以下であっても良い。
また、本発明では、Mo:0.05〜5.0%とする。Mo(モリブデン)は、本発明のクリップに用いるFe基合金においては、オーステナイト相に固溶強化して常温および高温強度を高めるのに有効な元素である。特に、クリップの使用中に、転位との相互作用によって高温での変形を抑制する作用をもたらすため、必要かつ重要な元素である。Moが0.05%未満であるときは高温強度向上効果が低下する。一方、Moが5.0%を超えると、Laves相等の脆化相が生成する恐れがある。よって、Moを0.05〜5.0%とした。なお、クリップに必要とされる強度に応じて、他の添加元素とのバランスで上記範囲内の好ましい添加量の範囲を選択できる。例えば、Tiを例えば3.0%以下で含む場合は、Moは1.0〜2.0%が好ましい。また、Tiを例えば3.0%を超えて含む場合は、Moは0.05%〜1.0%が好ましい。
また、本発明では、V:0.10〜1.0%とする。V(バナジウム)は、CとMC型炭化物を生成することでオーステナイト結晶粒を微細化し、常温および高温での強度を向上させる効果を有するため添加する。Vが0.10%未満では強度向上効果が小さく、一方、Vが1.0%を超えると粗大な炭化物を形成して延性を低下させたり、高温で不安定な酸化被膜を形成して耐酸化性を害する可能性がある。よって、Vを0.10〜1.0%とした。また、上述したVの欠点をさらに考慮すれば、V:0.10〜0.50%とすることが好ましい。
また、本発明では、Al:0.05〜3.0%とする。Al(アルミニウム)は、時効析出する金属間化合物であるγ’相の主要な構成元素の一つであり、常温および高温強度を高めるのに必要な元素である。γ’相を析出させて強化に寄与するには、0.05%以上の添加が必要であり、一方、3.0%を超えて添加すると熱間加工性が低下する。よって、Alを0.05〜3.0%とした。なお、Alは他のγ’相を構成する主要元素であるTi量との兼ね合いで、上記範囲内の好ましい範囲を適宜選択することができる。
また、本発明では、Ti:1.5〜4.0%とする。Ti(チタン)は、時効析出する金属間化合物であるγ’相の主要な構成元素の一つであり、常温および高温強度を高めるのに必要な元素である。γ’相を析出させて強化に寄与するには、1.5%以上の添加が必要であり、一方、4.0%を超えて添加すると高温加熱時に粗大な金属間化合物であるη(イータ)相が生成しやすくなり、高温での強度や延性が低下する。よって、Tiを1.5〜4.0%とした。なお、Tiは他のγ’相を構成する主要元素であるAl量との兼ね合いで、上記範囲内の好ましい範囲を適宜選択することができる。
そして、上述したAl量およびTi量の好ましい組合せは、適宜選択することができ、その一つは、Al:0.05〜0.35%およびTi:1.5〜2.5%であり、また、Al:0.70〜2.0%およびTi:2.5〜4.0%である。
また、本発明では、B:0.001〜0.010%とする。B(ボロン)は、少量添加するとTiとともに粒界強化作用を呈し、高温での強度と延性を高めるのに有効な元素である。Bが0.001%未満のときは上述の粒界強化作用を得難く、一方、Bが0.010%を超えると加熱時の初期溶融温度が低下して熱間加工性が低下することがある。よって、Bを0.001〜0.010%とした。
また、本発明では、SiとMnをSi:1.0%以下およびMn:2.0%以下に制限した。Si(珪素)およびMn(マンガン)は、本発明のクリップに用いる合金においては脱酸元素として添加されが、過度の添加は高温強度を低下させる恐れがある。よって、Siを1.0%以下、および、Mnを2.0%以下に制限した。より好ましくは、Siを0.5%以下とし、Mnを1.5%以下とすることである。
本発明におけるFe基合金は、上述した添加元素以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。Fe(鉄)は、本発明のクリップ用の安価な合金を得るために、基地を構成するオーステナイト相の安価な主要元素として必要である。また、該Fe基合金はFeを基地としてなる合金であることから、上述した添加元素以外の残部は実質的にFeでなるといえるが、残部には不純物が不可避的に含まれてしまう。例えば、P(燐)やS(硫黄)は、本発明のクリップ用の合金においては不純物元素であり、含まれないか、または、できる限り少ない方が好ましく、添加はしないが、原料等から混入する場合がある。混入した場合、Pは0.04%以下、Sは0.03%以下であれば、本発明のクリップの特性にほとんど有害な影響を与えることはなく、実質的な影響は少ないため、含まれてもよい。
本発明のFe基合金製クリップは、例えば、上述したFe基合金でなる金属板をクリップ形状に塑性加工した後の熱処理において、少なくとも450℃以上の温度域における雰囲気を非酸化性かつ非窒化性とする、製造方法を適用して得ることができる。これにより、クリップ形状の表面近傍におけるCrの活性を抑え、Crが表面近傍に引き寄せられて濃化する挙動を抑制することができる。
また、上述の製造方法では、前記熱処理における少なくとも450℃以上の温度域において、水素ガス、希ガス、若しくは水素ガスおよび希ガスを熱処理炉内に導入することが望ましい。これにより、少なくとも450℃以上の温度域における雰囲気を簡易に非酸化性かつ非窒化性とすることができる。希ガスとは、He、Ne、Ar等の同族元素からなるガスをいう。また、前記熱処理は600〜800℃に加熱する時効工程を含み、該時効工程の最終冷却において、450℃以下の温度域で前記熱処理炉内に冷却媒体となる窒素ガスを前記熱処理炉内に導入することが望ましい。これにより、自然冷却よりも冷却時間を短縮できて生産効率や製造コストの向上に寄与できる。より望ましくは、熱処理炉内の温度を200℃以下とした後に冷却媒体を導入することであり、該温度であれば冷却中のクリップは、実質的にCrの活性による影響を受けることがない。
水素ガスや希ガスでなる冷却媒体は、冷却中にクリップの表面に多量のCrを含む化合物層を形成することがないので著しくCr量が低下したCr欠乏域が生成されることがない。また、窒素ガスは、高温下ではクリップの表面近傍にCrを引き寄せて濃化させるように作用するが、熱処理炉内の温度が450℃以下であれば、冷却中にクリップの表面近傍にCr濃化域が生成されないので著しくCr量が低下したCr欠乏域が生成されることはない。そして、窒素ガスは、水素ガスや希ガスに比べ、安価で環境負荷が少ないので好適である。
よって、上述した本発明の製造方法で得た本発明のFe基合金製クリップは、該クリップの表面近傍へのCrの濃化が抑制されるが故に、従来はCr濃化域に続いて生成されていたCr量が著しく低下したCr欠乏域が生成されないので、該クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上を有することができる。すなわち、母相の20%未満となるCr欠乏域を有することがない。
本発明のFe基合金製クリップを製造するにおいて、例えば、上述した時効工程を含むことにより、クリップ用の合金の金属組織中に平均粒径100nm以下の金属間化合物粒子を分散させることができ、クリップの常温および高温強度を高めることができる。ここで用いる時効処理は、例えば900〜1100℃で固溶化処理の後に、600〜800℃で時効処理を施す製造方法であって良い。あるいは、前記固溶化処理の後に、700〜800℃で1段目の時効処理を施し、この後に600〜700℃で2段目の時効処理を施す製造方法であって良い。時効処理はクリップ形状に加工した後に行うが、固溶化処理はクリップ形状への加工前後のいずれで施しても良い。また、熱処理雰囲気は厚い酸化膜が形成されない程度の低酸素雰囲気が望ましい。また、クリップ形状への加工は塑性加工によるが、加工手段は冷間加工、温間加工等、必要に応じて適宜選択することができる。
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。
図1に示す形状を有するクリップ1(板厚0.8mm、クランプ幅60mm、奥行50mm)は、表1に示すそれぞれの化学成分を有する予め固溶化処理を施したFe基合金でなる金属板を用いて製作した。具体的には、プレス加工によってクリップ形状を成形後、得られた成形体に対して時効処理を施すことによって得た。この時効処理は、熱処理炉内の雰囲気を非酸化性かつ非窒化性にするため水素ガスを導入し、少なくとも450℃以上の温度域では確実に熱処理炉内の雰囲気を非酸化性かつ非窒化性とし、同時に0.01〜0.20kPa程度の減圧状態を維持して加熱後に最終冷却を行った。図2に上述したヒートパターンを模式的に示す。なお、図2に示すように時効工程の最終冷却では、熱処理炉内の温度を630℃から降下し、200℃に達した状態から窒素ガスでなる冷却媒体を熱処理炉内に導入して常温まで冷却した。なお、本発明の実施例がNo.1〜No.10であり、比較例がNo.11〜No.13である。
また、本発明のFe基合金製クリップ(以下、本発明クリップという)No.1〜10の作用効果を比較検証するため、上述した本発明クリップと同じ寸法形状を有するFe基合金製クリップ(以下、従来クリップという)No.11〜13を併せて製造した。なお、従来クリップの製造においては、本発明クリップと同じ化学成分を有して同条件で固溶化処理が施された金属板を用いたが、クリップ形状とした成形体に施す時効処理の条件を相違させた。具体的には、従来クリップは、図3に示すヒートパターンで加熱および冷却し、時効工程の最終冷却において熱処理炉内が630℃の温度である状態から窒素ガスでなる冷却媒体を熱処理炉内に導入し、常温まで冷却して得たものである。
次に、上述した製造方法で得た本発明クリップおよび従来クリップを用いて塩水噴霧試験(JIS−Z2371)を実施し、本発明クリップの防錆性能(耐食性)を評価した。なお、塩水噴霧試験は、容器中に静置した被試験体に対し、温度35℃とした5%塩化ナトリウム水溶液を噴霧しながら20時間放置する条件で実施した。
本発明クリップおよび従来クリップに対して上述の塩水噴霧試験を実施後、目視によって発錆の有無を確認した。発錆有無を表1に示す。塩水噴霧試験の結果、従来クリップNo.11〜13においてはクリップ表面のほぼ全面に発錆が認められたが、本発明クリップNo.1〜10においてはクリップ表面に発錆は認められなかった。
次に、上述の塩水噴霧試験後の本発明クリップNo.1および従来クリップNo.11を用い、クリップの表層から深さ方向に向かって化学成分の分布状態をGD−OES(堀場製作所製JY5000RF)によって測定した。GD−OES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry)とはグロー放電発光表面分析装置であり、予め指定した元素の含有量を測定する試料の表層から深さ方向に向かって順次分析する機器である。アルゴン雰囲気下において、陰極に置いた試料と陽極との間に高周波電圧を印加してグロー放電させると、このグロー放電によってアルゴンがイオン化され、加速しながら試料に衝突する。この衝突によって試料の表面がスパッタリングされ、これにより励起された原子の発光スペクトルを計測することで元素の種類および含有量を測定することができる。なお、試料の表面からおよそ0.05μm程度の極表層ではスパッタリングが不安定であって、測定値の信頼性は著しく低下する。しかしながら、スパッタリングが安定となる表面から0.05μmを超えてくると測定値の信頼性は十分なものとなる。
本発明クリップのGD−OESによって得られたCr含有量の測定値を図4に示す。以下、Cr含有量は特に記載しない限り質量%で示す。
図4において、本発明クリップの母相のCr含有量(表1に示す14.75%)の80%(11.80%)相当値を直線cで示す。この直線cに対し、本発明クリップの表層から深さ方向に向かって順次分析したCr含有量を示す曲線aは、試料の表面からの深さ0.1μmから1.0μmまで、常に直線cすなわち母相のCr含有量の80%相当値を超える19%から17%で推移していることが確認できた。なお、試料の表面から0.1μm未満の領域においても測定値を示しているが、上述したように表面から0.05μm程度の領域では測定自体が不安定であって信頼性が十分ではない故に、正確なCr含有量ではないと推定される。これは図5に示す従来クリップの場合も同様である。
一方、従来クリップのGD−OESによって得られたCr含有量の測定値を図5に示す。
図5において、従来クリップの母相のCr含有量(表1に示す14.70%)の80%(11.76%)相当値を図4と同様に直線cで示す。この直線cに対し、従来クリップの表層から深さ方向に向かって順次分析したCr含有量を示す曲線bは、試料の表面からの深さ0.05μmから0.13μm辺りまで多量のCrが存在し、つまり、Cr濃化域が生成されていることが確認できた。そして、生成されたCr濃化域に続いて直線cに達しないCr量が低いCr欠乏域が存在し、深さ1μmに到るまでにCr含有量が母相のCr含有量の80%に到らない領域が認められた。特に、表面から深さ0.15μmから0.45μmまでにはCr含有量が母相の70%に満たないCr量が8〜10%程度の著しく低下した領域が確認できた。
以上より、上述したように塩水噴霧試験によってクリップ全面に発錆した従来クリップの場合、該クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量が母相のCr含有量の80%に到らない金属組織を有することによって発錆してしまったと考えられる。
一方、上述したように塩水噴霧試験によっても発錆することがなかった本発明クリップの場合、曲線aにおける深さ0.1μm以上のCr含有量の変化傾向をもってすれば、試料の表面においてCr含有量の急激な減少を生じるといった結論には到底ならないと考えられるので、該クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上である金属組織を有することによって発錆し難くなったと考えられる。
よって、本発明のFe基合金製クリップは、上述したFe基合金でなるクリップであって、該クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上であることによって発錆し難く、優れた耐食性(防錆性)を有するクリップであることが確認できた。
本発明の一例を示す構成図である。 本発明の製造方法における時効処理の一例を示す模式図である。 従来の製造方法における時効処理の一例を示す模式図である。 本発明クリップを試料としたGD−OES測定結果を示す模式図である 従来クリップを試料としたGD−OES測定結果を示す模式図である
符号の説明
1.クリップ、2.底辺部、3.第一の側面部、4.第二の側面部、5.クランプ部
a.本発明クリップのCr含有量を示す曲線、
b.従来クリップのCr含有量を示す曲線、
c.母相の80%相当のCr含有量を示す直線

Claims (4)

  1. 質量%でC:0.01〜0.10%、Ni:20.0〜35.0%、Cr:10.0〜20.0%、Mo:0.05〜5.0%、V:0.10〜1.0%、Al:0.05〜3.0%、Ti:1.5〜4.0%、B:0.001〜0.010%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、残部はFeおよび不可避的不純物よりなるFe基合金でなるクリップであって、該クリップの表面の少なくとも深さ0.1μmから1μmのCr含有量質量%で母相のCr含有量の80%以上であることを特徴とするFe基合金製クリップ。
  2. 請求項1に記載のFe基合金でなる金属板をクリップ形状に塑性加工した後の熱処理において、少なくとも450℃以上の温度域における雰囲気を非酸化性かつ非窒化性とすることを特徴とするFe基合金製クリップの製造方法。
  3. 前記熱処理における少なくとも450℃以上の温度域において、水素ガス、希ガス、若しくは水素ガスおよび希ガスを熱処理炉内に導入することを特徴とする請求項2に記載のFe基合金製クリップの製造方法。
  4. 前記熱処理は600〜800℃に加熱する時効工程を含み、該時効工程の最終冷却において、450℃以下の温度域で前記熱処理炉内に冷却媒体となる窒素ガスを導入することを特徴とする請求項2または3に記載のFe基合金製クリップの製造方法。
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