JP4697693B2 - 極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、極厚鋼の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法に係わり、さらに詳しくは、低温靱性が良好な溶接金属が得られるとともに、溶接作業性が良好である極厚鋼の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般にエレクトロガスアーク溶接は、立向で板厚を一挙に溶接するため溶接能率が高いことから、軟鋼、490MPa級高張力鋼、620MPa級高張力鋼等を用いる船舶や石油備蓄タンク、橋梁等の製作に多用されている。また、最近では、大型コンテナ船のシャーストレーキ部およびハッチコーミング部や、橋梁の橋桁部等において、板厚が50mm以上の厚鋼板が多用されている。
【0003】
このような大型構造物の厚鋼板をエレクトロガスアーク溶接する場合、1電極による1パス溶接では溶接速度が極端に低下することと、通常の1コイル約20kgの巻き重量のエレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いて長尺溶接を行う場合には、溶接ワイヤ量が足りないため溶接を一時中断して新しい溶接ワイヤに取り替えたり、その溶接の継ぎ目を補修しなければならない等の溶接効率を低下させるという問題があった。
【0004】
これらの問題を解消し、溶接能率が向上できるエレクトロガスアーク溶接方法としては、例えば、特開平8−187579号公報等で開示されている開先内に2本の溶接電極を板厚方向に並べて挿入して、両電極を揺動しながら被溶接材を溶接する2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法およびその装置が提案されている。
【0005】
特開平8−187579号公報等で知られている従来の2電極立向エレクトロガスアーク溶接では、被溶接材の表側に摺動銅当金を、裏側に固定式裏当材を用いるが、通常、両方の溶接電極ともフラックス入りワイヤを用いて溶接するため、特に固定式裏当材側の溶接電極のワイヤから生成されるスラグは、隣設する摺動銅板側の溶接電極のワイヤのアーク力によってせき止められて摺動銅板側から逃がすことができなくなる。このため、溶接プール上の溶融スラグは、摺動銅板側の溶接電極のワイヤと裏当材側の溶接電極のワイヤのそれぞれから発生したアーク間(溶接電極ワイヤ間スラグ)、および裏当材側の溶接電極のワイヤから発生したアークと固定式裏当材との間(固定式裏当材側スラグ)に溜まりやすくなる。
【0006】
そして、これらの滞留したスラグ量が過剰になると、溶接中にスラグ跳ねが多発し、2本の溶接電極にスラグが付着し、その結果、ワイヤ送給が不安定になり、健全な溶接金属が得られなかったり、特に固定式裏当材側の溶接電極へのスラグ付着量が多くなると、開先との接触による溶接中断等の作業効率の低下が生じる。また、溶接プール上に溜まるスラグ量が多くなると、2本の溶接電極のワイヤから発生するアーク熱が溶接金属や開先面に十分に伝わらず、融合不良や裏波ビード外観の劣化が発生したり、溶接金属中の酸素量が極端に低下し焼き入れ性が過剰となり、溶接金属の強度の上昇や溶接金属の衝撃性能の低下等の問題が生ずる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み、厚鋼板を溶接する際に、良好な低温靱性および良好な溶接作業性が得られる2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、特に摺動銅板側の溶接電極用フラックス入りワイヤの成分組成を規定することにより溶接作業性および溶接金属の低温靱性を向上させることを特徴とし、その発明の要旨とするところは、以下の通りである。
【0009】
(1)極厚の被溶接材の一方の面に摺動銅当金を、他方の面に固定式裏当材をそれぞれ当てて、その開先内に2本の溶接電極を板厚方向に並べて挿入してCO 2 をシールドガスとして被溶接材を溶接する極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法において、前記摺動銅当金側の溶接電極に、ワイヤ全量に対して質量%で、
金属弗化物をF換算で:0.1〜0.8%、
金属弗化物を含むスラグ生成剤:0.66〜1%、
C :0.03〜0.12%、
Si:0.2〜0.9%、
Mn:0.9〜2.8%、
Mo:0.1〜0.6%、
Ti:0.02〜0.4%、
B :0.002〜0.012%
を含有するフラックス入りワイヤを用い、前記固定式裏当材側の溶接電極に、ソリッドワイヤを用いることを特徴とする極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法。
(2)前記摺動銅板側の溶接電極に用いるフラックス入りワイヤ中に、ワイヤ全量に対して質量%で、さらに、Ni:0.5〜4%を含有することを特徴とする(1)に記載の極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
一般に2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法は、従来の1電極1パス溶接方法に比べて、溶接速度を飛躍的に速くすることができる。図1は2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法を説明する模式図であって、図中5、6はそれぞれの溶接電極のワイヤ、2は摺動銅当金、8は固定式裏当材、9は溶融池、10は溶接金属である。固定式裏当材8としては耐火材粉末を固めた固形フラックスバッキング材の上にガラステープを1枚または数枚重ねたものが通常使用される。また、シールドガスはCO2 で摺動銅当金にまたはこれに隣接して設けた図示しないノズルにより開先内に吹き込まれる。
【0011】
本発明者らの実験等による検討の結果、従来の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法では、溶接時に主に溶接電極のワイヤから発生するスラグが溶融プール上に溜まり、摺動銅当金側スラグ1は、摺動銅当金2側からスラグ逃がし11の溝を通じて逃がすことができるが、溶接電極ワイヤ間スラグ3や固定式裏当材側スラグ4は溜まりやすく、そのスラグによって以下のような問題が生ずることが判った。
【0012】
(1)上記固定式裏当材側スラグ4は、主に固定式裏当材側電極ワイヤ6と固定式裏当材8から発生するが、そのスラグの滞留量が過剰になると、溶接時にスラグが跳ね上がり、特に、固定式裏当材側電極ワイヤ6にスラグが付着し、ワイヤ送給が不安定になり、健全な溶接金属が得られないばかりか、被溶接材の開先面と接触しやすくなり溶接が不可能となることがある。
(2)上記(1)の問題を解決するための手段として、固定式裏当材側の溶接電極として、フラックス入りワイヤに比べてスラグ生成量が非常に少ないソリッドワイヤを用い、摺動銅当金側の溶接電極として、既存の1電極エレクトロガスアーク溶接用フラックス入りワイヤを用いることにより、ある程度は改善できる。しかし実際の溶接施工では、開先加工精度のばらつきによりその断面積が常に一定ではなく、開先断面積が大きい方向へばらつくと、溶接時に溶融プール上に滞留するスラグが過剰となり、スラグ跳ねが発生する。
(3)また、スラグが過剰に溶融プール上に溜まると、溶融金属の脱酸作用が過剰に促進され、溶接金属が過剰な焼き入れ組織となり、健全な溶接金属特性が得られない。
【0013】
本発明者らは、上記の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法を用いる場合の問題点を解決するために、溶接に用いる溶接電極のワイヤについて鋭意検討した。その結果、摺動銅当金側の溶接電極にスラグ生成剤および合金剤を規制したフラックス入りワイヤを用い、固定式裏当材側の溶接電極にソリッドワイヤを用いることにより、開先加工精度のばらつきにより開先断面積が増加した場合でも、安定して、良好な溶接作業性および良好な低温靱性を有する溶接金属が得られることが判った。
【0014】
本発明の詳細について以下に説明する。
本発明は、被溶接材の一方の面に摺動銅当金を、他方の面に固定式裏当材をそれぞれ当てて、被溶接材で形成される開先内に2本の溶接電極を板厚方向に並べて挿入して極厚の被溶接材を溶接する2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法であり、摺動銅当金側の溶接電極に以下のスラグ生成剤および合金剤を規制したフラックス入りワイヤを用い、固定式裏当材側の溶接電極にソリッドワイヤを用いる。また、この場合、それぞれの溶接電極は、溶接時に揺動を行って開先壁への溶け込みの均一化を図っても良い。
【0015】
本発明では、摺動銅板側の溶接電極のワイヤとして用いるフラックス入りワイヤの成分組成をワイヤ全量に対して質量%で、以下の通りに規定した。
金属弗化物:
金属弗化物は、溶接金属中の酸素量を効果的に低減するために有効であるが、0.1%未満の含有量ではその効果が充分発揮できず、良好な低温靱性が得られない。一方、その含有量が0.8%を超えると、極度に酸素量が低減し焼き入れ性が過剰となるため、溶接金属の強度の上昇や、それに伴う衝撃値の低下が発生し、また溶融スラグの融点が低下し溶接金属を保持できなくなりメタル垂れが生じる。したがって、本発明では、金属弗化物の含有量をF換算で0.1%〜0.8%とする。金属弗化物としてはCaF2 、NaFなどがある。
【0016】
金属弗化物を含むスラグ生成剤:
本発明では、溶融プール中のスラグ量を決定する金属弗化物を含むスラグ生成剤の含有量を0.66〜1%と規定する。0.66%未満になるとスラグのホールド性が劣化し、メタル垂れが発生する。また1%を越えると溶融プール中のスラグ発生量が過剰になり、スラグ跳ねを引き起こす。スラグ生成剤の成分としてはSiO2 、ZrO2 、Na2 Oなどがある。
【0017】
C、Si、Mnの元素は、主に溶融金属の脱酸剤として作用する成分であり、以下のようにその含有量を規定する。
C:
溶接電極のワイヤ中のC含有量が0.03%未満では脱酸不足となり、溶接金属中に非金属介在物が残留し、溶接金属の靱性が劣化する。一方、C含有量が0.12%を越える場合には、溶接金属の強度が過大となるうえに、凝固割れが発生しやすくなる。したがって、C含有量を0.03〜0.12%とした。
【0018】
Si:
溶接電極のワイヤ中のSi含有量が0.2%未満では脱酸不足となり、溶接金属中に非金属介在物が残留し、溶接金属の靱性が劣化する。一方、Si含有量が0.9%を越える場合には、溶接金属の強度が過大となるとともに、スパッタの発生が多くなる等、溶接作業性が劣化する。したがって、 Si含有量を0.2 〜0.9%とした。
【0019】
Mn:
Mnは、C、Siと同様に脱酸剤として作用するとともに、Siとのバランスによりスラグの流動性に影響を与える。Mn含有量が0.9%未満では、脱酸不足となり、溶接金属中に非金属介在物が残留し、溶接金属の靱性が劣化するとともに、スラグの流動性が劣化しスラグ跳ねが発生する。一方、Mn含有量が2.8%を越える場合には、溶接強度が過大となり、良好な低温靱性が得られない。したがって、 Mn含有量を0.9〜2.8%とした。
【0020】
Mo:
Moは、溶接金属の焼き入れ性を高める効果があり、エレクトロガスアーク溶接のような大入熱溶接において、溶接金属の強度を確保するために添加する。ワイヤ中のMo含有量が0.1%未満では、そのような効果が得られず、逆に0.6%を越えて添加すると溶接金属の強度が過大となるとともに、炭化物の析出による靱性劣化を引き起こす。したがって、 Mo含有量を0.1〜0.6%とし た。
【0021】
Ti:
Tiは、強脱酸剤として作用するとともに、溶接金属組織におけるフェライトの生成核を形成し、結晶粒微細化の効果を示す。ワイヤ中のTi含有量が0.02%未満では、結晶粒微細化による靱性向上効果が認められず、また逆にその含有量が0.4%を越えると、溶着金属の強度が過大となり靱性が劣化する。したがって、Ti含有量を0.02〜0.4%とした。
【0022】
B:
Bは初析フェライトを微細化するとともに、2電極エレクトロガスアーク溶接金属において、特に最終凝固部に形成される粒状晶部の靱性向上に作用する。ワイヤ中のB含有量が0.002%未満では、結晶粒微細化および靱性向上効果が得られず、その含有量が0.012%を越えると溶接割れが発生しやすくなる。したがって、B含有量の範囲を0.002〜0.012とした。
【0023】
以上が本発明の基本成分であるが、Niを0.5〜4%の範囲で添加することによって、固溶強化により低温域まで安定した靱性の得られる溶接継手とすることが可能であるため、本発明では特に大入熱溶接において、良好な低温靱性確保が必要な場合などにNiを0.5〜4%の範囲で添加する。Ni含有量が0.5%以下では固溶強化の効果が得られず、またその含有量が4%越えると溶接割れが発生する。
【0024】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
表1に示す成分の異なるフラックス入りワイヤNo.1〜14を試作し、これらのワイヤを摺動銅当金側の溶接電極に用い、表2および3に示す開先形状および溶接条件にて、表4に示す成分および板厚の鋼板をそれぞれ1パスでの2電極立向エレクトロガスアーク溶接を行った。その際の固定式裏当材側の溶接電極に用いるソリッドワイヤはJIS Z 3325 YGL1−4G該当ワイヤを使用した。その試験結果として、表5に試験No.1からNo.14の条件で溶接した際の溶接作業性および溶接金属の機械的性質の評価結果を示した。なお、溶接金属の機械的性質については、溶接金属の強度:560〜660MPa、−40℃での衝撃値が50J以上を合格とした。
【0025】
【表1】
【0026】
【表2】
【0027】
【表3】
【0028】
【表4】
【0029】
【表5】
【0030】
表5の本発明例であるNo.1〜3は、いずれも良好な溶接作業性および溶接金属の機械的性質が得られた。
【0031】
比較例であるNo.4はCが低くまたMoも低く、焼き入れ性が不足し、溶接金属強度および衝撃値が低下した。
比較例であるNo.5はスラグ生成剤が少ないため、溶接中にメタル垂れが発生し、ビード外観が劣化した。またSiが高いため溶接金属の強度が上昇し、金属弗化物のF換算量が低いため溶接金属中の酸素量が高くなり、溶接金属の衝撃値が低くなった。
比較例であるNo.6は、Mnが高いため、溶接金属の強度の上昇を招き、Bが低いため、組織の微細化が図れず溶接金属の衝撃性能が劣化した。
【0032】
比較例であるNo.7は、Tiが高いため溶接金属の強度が高くなり、溶接金属の衝撃性能が劣化した。
比較例であるNo.8は、スラグ生成剤が多いためスラグ跳ねが、特にギャップ15mmで多発した。またCが高いため溶接後割れが発生し、溶接金属の機械的性質を測定できなかった。
比較例であるNo.9は、Mnが低いためスラグの流動性が劣化し、スラグ跳ねが発生した。またBが高いため、溶接後割れが発生したので溶接金属の機械的性質を測定できなかった。
【0033】
比較例であるNo.10は、Moが高いため溶接金属の強度が上昇し、靱性が劣化した。
比較例であるNo.11は、金属弗化物のF換算量が多いため、メタル垂れが発生しビード外観の劣化、および溶接金属中の酸素量が極端に低下し、焼き入れ過剰となり、溶接金属の強度の上昇、溶接金属の衝撃値が劣化した。
比較例であるNo.12は、スラグ生成剤が多く、スラグ跳ねが多発した。またNiが高いため、溶接後割れが発生したため、溶接金属の機械的性質を測定できなかった。
【0034】
【発明の効果】
本発明によれば極厚の鋼板の2電極立向エレクトロガスアーク溶接において、特定の成分のフラックス入りワイヤを摺動銅当金側に、ソリッドワイヤを固定式裏当材側に使用した2電極としたので、良好な溶接作業性と良好な溶接金属の機械的性質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明ワイヤを用いる溶接方法の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
1 摺動銅当金側スラグ
2 摺動銅当金
3 溶接電極ワイヤ間スラグ
4 固定式裏当材側スラグ
5 摺動銅当金側溶接電極ワイヤ
6 裏当材側溶接電極ワイヤ
8 固定式裏当材
9 溶融池
10 溶接金属
11 スラグ逃がし
Claims (2)
- 極厚の被溶接材の一方の面に摺動銅当金を、他方の面に固定式裏当材をそれぞれ当てて、その開先内に2本の溶接電極を板厚方向に並べて挿入してCO 2 をシールドガスとして被溶接材を溶接する極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法において、前記摺動銅当金側の溶接電極に、ワイヤ全量に対して質量%で、
金属弗化物をF換算で:0.1〜0.8%、
金属弗化物を含むスラグ生成剤:0.66〜1%、
C :0.03〜0.12%、
Si:0.2〜0.9%、
Mn:0.9〜2.8%、
Mo:0.1〜0.6%、
Ti:0.02〜0.4%、
B :0.002〜0.012%
を含有するフラックス入りワイヤを用い、前記固定式裏当材側の溶接電極に、ソリッドワイヤを用いることを特徴とする極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法。 - 前記摺動銅板側の溶接電極に用いるフラックス入りワイヤ中に、ワイヤ全量に対して質量%で、さらに、Ni:0.5〜4%を含有することを特徴とする請求項1に記載の極厚鋼材の2電極立向エレクトロガスアーク溶接方法。
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