JP4694994B2 - 医療器具の洗浄評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、医療器具の簡易な洗浄評価方法に関する。
病院、検査センター、滅菌代行業などの医療関係機関では、使用済みの大量の医療器具を洗浄、滅菌し、再使用が繰り返されている。これらの医療機関において、医療器具の洗浄方法としては、感染からの安全性、経済性の面から、手洗浄に代わって機械洗浄が主流となり、例えば、病院では、中央材料室にジェットウォッシャーを設置して集中的に洗浄、滅菌が行なわれている。そして、機械洗浄による洗浄が適切な条件で行なわれれば、洗浄後の医療器具について清浄度が問題になることは通常ない。そこで、昨今、機械洗浄による洗浄システムが正常に機能しているか否かを管理する重要性が増している。
従来から、洗浄された医療器具の清浄度の管理方法としては、基板上に蛋白質系擬似汚れを塗布した洗浄評価用インジケータを、被洗浄物である医療器具と一緒にバスケットに入れて洗浄し、前記擬似汚れの残量を肉眼で判定する間接法がある。該間接法としては、PEREG GmbH社製の「TOSI洗浄評価インジケーター」(非特許文献1参照)とアルバート・ブラウン社製の「STFロードチェック」(非特許文献2参照)がある。前者は、擬似汚れのスポットを1個ステンレス基板上に塗布したものであり、洗浄後に前記スポットが完全に溶解除去されたときに清浄度が合格と判定される。また、後者は、擬似汚れを複雑な模様でプラスチックフィルム上に印刷したものであり、洗浄後に前記模様が完全に溶解除去されたときに清浄度が合格と判定される。
株式会社ニチオンのカタログ,TOSI洗浄評価インジケーター アルバート・ブラウン社のカタログ,STFロードチェック
しかしながら、上記2つのインジケータを用いた場合、前記スポットまたは模様が不完全に溶解除去された中程度の清浄度・洗浄レベルをデータとして記録に残すことができず、管理上中程度の洗浄レベルを記録に残す場合、洗浄後のインジケータそのものを保存せざるを得ない。また、この種のインジケータを用いて医療器具の洗浄を行なう場合、洗浄の評価結果にばらつきが生じず、精度良く管理できることが望ましい。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、医療器具を機械洗浄した場合に、洗浄不良の有無を精度よく評価することができる洗浄評価方法を提供することを目的とする。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 基板上に溶解速度が異なる複数の擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを、保持台と、該保持台の後端から垂設された把持部を備えたホルダーに装着して医療器具とともに機械洗浄するにあたり、前記インジケータの基板両面のうち、擬似汚れが形成された面を前記ホルダーの保持台に向けて内向きにするとともに、他方の面をむき出しにし、かつ擬似汚れと前記ホルダーの保持台との間を1.5〜4mm離間した状態で前記インジケータを前記ホルダーに装着して前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて洗浄評価を記録し、次いで得られた洗浄評価をあらかじめ設定した基準値と比較することで洗浄不良の有無を判断することを特徴とする、医療器具の洗浄評価方法、
〔2〕 機械洗浄を超音波洗浄機またはウォッシャーディスインフェクターを用いて行なうことを特徴とする、前記〔1〕記載の医療器具の洗浄評価方法
本発明に係る医療器具の洗浄評価方法によれば、基板上に溶解速度が異なる複数の擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを、保持台を備えたホルダーに装着して医療器具とともに機械洗浄するにあたり、前記インジケータの基板両面のうち、擬似汚れが形成された面を内向きにし、かつ擬似汚れと前記ホルダーの保持台との間を1.5〜4mm離間した状態で前記インジケータを前記ホルダーに装着して前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて洗浄評価を記録し、次いで得られた洗浄評価をあらかじめ設定した基準値と比較することで洗浄不良の有無を判断するので、洗浄不良の有無を迅速に精度よく評価することができる
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、基板上に溶解速度が異なる複数の擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを、保持台を備えたホルダーに装着して医療器具とともに機械洗浄するにあたり、前記インジケータの基板両面のうち、擬似汚れが形成された面を内向きにし、かつ擬似汚れと前記ホルダーの保持台との間を1.5〜4mm離間した状態で前記インジケータを前記ホルダーに装着して前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて洗浄評価を記録し、次いで得られた洗浄評価をあらかじめ設定した基準値と比較することで洗浄不良の有無を判断する。
本発明に使用する洗浄評価用インジケータ(以下、「インジケータ」と略す場合がある)は、基板上に擬似汚れが形成されたものである。基板の材質は、pH11〜12で60〜95℃のアルカリ性水溶液中に耐え得る耐アルカリ性を有するとともに、93℃の熱水や120℃の熱風に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えば、金属では、鉄、アルミニウム、鋼、真鍮、ステンレス鋼等が挙げられ、プラスチックでは、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネ―ト、ポリメタアクリル、ABS、FRP樹脂等が挙げられる。基板の形状についても特に限定されないが、小スペースでも使用することができる点で、通常、方形の薄板状に形成されたもの、または該薄板を丸めた筒体が好ましく、具体的には、縦横ともに100mm以下の方形で、厚みが5mm以下の薄板、または該薄板を丸めた筒体で、直径10mm以下、長さは300mm以下のものが好ましい。
「擬似汚れ」とは、使用済みの医療器具(例えば、手術装置、深さのある容器、麻酔付属品、ガラス製品など)に付着している汚れを想定した成分からなる塗膜であり、前記基板上に汚れ成分を塗布した後、該汚れ成分に凝固剤を作用させて形成されたものである。
「汚れ成分」とは、動物類または植物類由来の蛋白質成分、または該成分に物理的若しくは化学的処理を施して得られる変性成分をいい、より具体的には、血液、骨、皮、腱その他の器官・組織に係る成分、または該成分に物理的若しくは化学的処理を施して得られる変性成分をいう。汚れ成分として具体的に使用し得るものとしては、例えば、血液、血清、繊維素(フィブリン)除去血液、抗凝固剤添加血液、膠(にかわ)、ゼラチン、コラーゲン、ムチン、卵、卵白、アルブミン、セモリナプディング、オートミール、ポテトフレークなどをそのままで、または必要に応じて水などを添加して希釈した液状物が挙げられ、上述した各種の汚れ成分は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
該汚れ成分には、必要に応じて、例えば、脂質成分、粘度調整剤、接着性付与剤、防腐剤または着色剤などを適宜配合することができる。また、上述した汚れ成分のうち、血液関連成分を用いる場合、該血液関連成分を含む塗剤を長期間保存してインジケータの製造に供することができる点で、繊維素除去血液が好適である。
基板上に形成される汚れ成分の形状は特に限定されず、基板全体に形成してもよいし、直線、曲線、丸、三角、四角などの単純な形状、またはこれらを組み合わせた複雑な形状(模様)を形成してもよい。また、該汚れ成分の厚みも任意であり、洗浄方式や洗浄条件などに応じて適宜設定することができる。
汚れ成分を基板上に形成するには、例えば、基板をトルエン、アルコールなどの溶剤を用いて脱脂・乾燥し、次いで得られた基板上に上述した汚れ成分を所定の形状および厚みになるように塗布し、続いて塗布された汚れ成分を60℃以下、さらに好ましくは室温で乾燥させる方法などが挙げられる。該汚れ成分の塗布方法は特に限定されず、例えば、手書き、刷毛塗り、スクリーン印刷などの機械印刷など公知の方法を採用することができる。
「凝固剤」とは、基板上に形成された汚れ成分に作用すると、該汚れ成分を架橋ないし変性させて、全体として固体状の塗膜を形成するものをいう。凝固剤としては、蛋白質中のアミノ酸側鎖間を架橋する化合物であれば特に限定されず、例えば、アミノ基相互間を架橋する化合物としては、アルキルジイミテート(ビスイミドエスエル類)、アシルアジド類、ジイソシアネート類、ジアルデヒド類、シランカップリング剤などがある。また、アミノ基とチオール基間を架橋する化合物、チオール基相互間を架橋する化合物、カルボキシル基相互間を架橋する化合物なども使用できる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
また、上記とは異なる凝固剤として、蛋白質中のアミノ酸側鎖(例えば、アミノ基、チオール基またはカルボキシル基)に共有結合で付加反応する化合物も使用することができ、例えば、アルキルイミド類、イソシアネート類、アルデヒド類などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
上述した凝固剤のうち、取扱い性に優れ価格的にも安価である点で、蛋白質中のアミノ基相互間を架橋するアルデヒド類がさらに好ましく、例えば、グルタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドが挙げられる。
上述した凝固剤は、溶剤に溶解した凝固剤液として使用される。そして、該凝固剤を基板上に形成された汚れ成分に作用させる方法は特に限定されないが、例えば、前記凝固剤液を前記汚れ成分の上から刷毛塗りなどで塗布し、次いで全体として固体状の塗膜が形成されるまで乾燥する方法、または前記汚れ成分が形成された基板を凝固剤液中に浸漬し、次いで該基板を凝固剤液から引き上げて、全体として固体状の塗膜が形成されるまで乾燥する方法、内部に凝固剤液を収容した可撓性のチューブ容器と、該容器の先端にある開口口部に螺合され、凸曲面をなす先端中心部に小孔が開口形成されるとともに、該小孔の周囲を布材で被覆してなる塗布部が形成されたキャップ部とから構成される塗布容器を使用して、容器を押圧することで凝固剤液を、前記小孔を介して押出して汚れ成分に塗布し、次いで全体として固体状の塗膜が形成されるまで乾燥する方法(スタンプ方式)などが挙げられる。
本発明に使用する洗浄評価用インジケータは、基板上に溶解速度が異なる複数の擬似汚れが形成されている。「溶解速度が異なる」とは、実際の洗浄条件下で、共存する複数の擬似汚れの溶解速度が互いに異なることをいう。複数ある擬似汚れのそれぞれの溶解速度や溶解速度差は、洗浄機の種類、洗浄条件などに応じて適宜設定しうるものであり特に限定されない。例えば、ある特定の洗浄条件下で、溶解速度の速い擬似汚れは完全に消失するが、溶解速度の遅い擬似汚れは消失せず残るか若しくほぼ消失する程度に設定することができる。また、ある特定の洗浄条件下で、溶解速度の遅い擬似汚れが、洗浄剤の有無により、消失の程度に明確に差が生じるように設定することができる。
擬似汚れの溶解速度は、凝固剤の処理濃度、処理時間、処理温度、その後の乾燥温度または乾燥時間を変えることにより容易に制御することができる。具体的には、まず、凝固剤の処理濃度が高くなるほど、処理時間が長くなるほど、または処理温度が高くなるほど、得られる擬似汚れの溶解速度は遅くなる。例えばオルトフタルアルデヒドの場合、前記処理液濃度は特に限定されず、通常、0.005〜20.0重量%、好ましくは0.1〜12.0重量%の範囲で適宜設定される。また、凝固処理後の乾燥温度が高くなるほど、得られる擬似汚れの溶解速度は遅くなる。前記乾燥温度は特に限定されるものではないが、通常、室温(25℃)〜120℃の範囲で適宜設定される。さらに、凝固処理後の乾燥時間が長くなるほど、得られる擬似汚れの溶解速度は遅くなる。前記乾燥時間についても特に限定されず、通常、0.1〜24時間、好ましくは1〜12時間の範囲で適宜設定される。
本発明では、インジケータは、保持台を備えたホルダーに装着した状態で医療器具とともにバスケット内に入れて機械洗浄される。具体的には、前記インジケータの基板両面のうち、擬似汚れが形成された面を内向きにして、かつ擬似汚れと前記ホルダーの保持台との間を1.5〜4mm離間した状態で前記インジケータを前記ホルダーに装着して前記インジケータを医療器具とともに洗浄する。インジケータを上記の状態でホルダーに装着して医療器具とともに洗浄することにより、洗浄不良の有無を精度よく評価することができる。
ホルダーは、インジケータを保持するための保持台と、該保持台上に形成されたインジケータ装着部材とを備え、該装着部材が、インジケータを内向きに装着したときに擬似汚れとホルダーの保持台との間を1.5〜4mm離間した状態で装着し得る構造であれば特に限定されない。また、本発明に用いるホルダーは、鉄、ステンレス鋼どの金属製、または耐熱、耐アルカリ性のプラスチック製などとすることが好ましく、通常10〜200g、好ましくは20〜100gの範囲の重量とすることが好ましい。かかるホルダーにインジケータを装着すれば、洗浄に際し、バスケット内の任意の所にインジケータを置くことができるとともに、ホルダーが洗浄中に移動することなく、正確な洗浄評価を行なうことができる。
本発明において機械洗浄は、ある一定の洗浄条件を任意に設定し得る機械的手段を備えたものであれば特に限定されず、例えば、超音波洗浄やウォッシャーディスインフェクターを用いた噴射・加熱式洗浄などを例示することができる。そして、本発明では、前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて洗浄評価を記録する。これは、洗浄後に前記複数の擬似汚れの有無を観察したときに、擬似汚れが全て残存した弱い洗浄レベルと、擬似汚れが全て消失した強い洗浄レベルという2つの両極端の洗浄レベルに加えて、擬似汚れが少なくとも1つ残存した中程度の洗浄レベルを評価項目に加えて洗浄評価を行なうことを意味する。なお、本発明において「観察」には、目視観察の他、分析機械を用いた観察も含まれる。
本発明では、上記で得られた洗浄評価をあらかじめ設定した基準値と比較することで洗浄不良の有無を判断する。ここで、「基準値」とは、実際に使用する洗浄条件でインジケータを洗浄した後に、基板上の擬似汚れの有無を観察して洗浄レベルを評価した値をいい、通常5回以上洗浄を繰り返して基準値を設定することが好ましい。なお、基準値を設定する際には、実際の洗浄条件と同一条件となるように、洗浄機、洗浄工程およびインジケータの設置場所・方向などを固定して行なうようにする。
そして、洗浄評価が基準値と同等以上の場合、洗浄不良が認められないと判断し、従前と同一条件で医療器具の洗浄を行なう。一方、洗浄評価が基準値を下回った場合、洗浄不良が認められると判断する。かかる場合、洗浄システムが正常に機能していないことを意味するので、洗浄条件にかかわる種々の条件が適性に行なわれていたかチェックする。チェック事項としては、洗浄機のプログラム設定(洗浄時間、温度、洗浄剤濃度)が正確に入力されていたか、ウォッシャーディスインフェクターのプロペラ異常またはシャワー圧の低下はないか、超音波の出力低下はないか、洗浄剤は投入されているか、洗浄剤の劣化はないかなどが挙げられる。
以上説明した医療器具の洗浄評価方法によれば、洗浄後の医療器具について中程度の洗浄レベルであっても、それぞれの洗浄レベルに数値付けを行なうようにすれば、数値データとして洗浄評価の傾向を記録に残すことができ、これにより洗浄評価が低下しはじめた時期を簡易に特定することができる。そして、洗浄評価が低下しはじめた時点から基準値に達するまでに洗浄システムの不具合を見直すようにすれば、常にいい状態で医療器具を洗浄することができる。
以下では、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明で使用するインジケータの一実施形態を示す外観斜視図である。インジケータ11は、長方形の薄板状の基板21上に長手方向に沿って大、中、小と大きさの異なる円形の擬似汚れ33,32,31が形成されている。該擬似汚れは、溶解速度の速い順およびスポットの小さい順に31,32,33とされている。かかるインジケータ11を用いれば、洗浄後に前記複数の擬似汚れの有無を観察したときに、(1)全ての擬似汚れが消失したとき、(2)擬似汚れ33のみが残ったとき、(3)擬似汚れ32と33が残ったとき、(4)全ての擬似汚れが残ったときというように、洗浄レベルを4段階に分けて各レベルに応じて、例えば、0〜3の数字付けを行なうようにすれば、中程度の洗浄レベルを2つの評価(上記の場合、(2)と(3)に相当する洗浄レベル)に分けて数値データとして細かく記録することができる。
図2は、インジケータ11に適したホルダーの一実施形態を示す外観斜視図である。ホルダー41は、インジケータ11と略同一サイズの板状の保持台42と、該保持台42の後端から垂設された把持部47を備え、側面視でL字状とされている。保持台42の上面には、その前端縁と後端縁に沿って凸状のスペーサー部材43,44が略平行に凸設されており、スペーサー部材43,44の上面には、インジケータ11を水平方向に着脱し得る可撓性の挟持部45,46が形成されている。使用にあたっては、図3に示すように、擬似汚れ31,32,33が形成された面を内向きにしてインジケータ11を挟持部45,46に装着する。このとき、擬似汚れ31,32,33と保持台42との間には1.5〜4mmの隙間が設けられている(図4参照)。このようにインジケータ11をホルダー41に装着すれば、バスケット内の任意の所にインジケータ11を置くことができるとともに、ホルダー41が洗浄中に移動することなく、正確な洗浄評価を行なうことが可能となる。また、洗浄後に把持部47を摘んで引き上げることにより、バスケット内から安全に簡易にインジケータ11を取り出すことができる。
以上本発明について詳細に説明したが、本発明は図示例の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、図1には、3つの擬似汚れが基板上に形成されているが、溶解速度の異なる擬似汚れが複数形成されていれば、該擬似汚れに加えて、凝固剤で処理しない汚れ成分が含まれていてもよい。したがって、溶解速度の異なる擬似汚れが基板上に最低2つ形成されていれば、該擬似汚れに加えて、凝固剤で処理しない汚れ成分が含まれていてもよい。
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの試験例などによりなんら限定されるものではない。
1.インジケータの作製例1
下記基板上に、大(直径10mm)、中(直径8mm)、小(直径6mm)の小円が一列に沿って形成されたスクリーン版を置き、それぞれの小円の枠内に下記汚れ成分を手塗りで塗布することで、図1と同じように基板の長手方向に沿って大、中、小の円形の汚れ成分を形成し、その後室温にて1時間乾燥させた。そして、オルトフタルアルデヒド(OPA)をエタノールに溶解した凝固剤液を下記濃度にしたがって調製し、前述したスタンプ方式で大、中、小の汚れ成分に前記凝固剤液を塗布した。室温で1時間風乾した後、100℃で1時間熱処理を行なうことにより基板上に擬似汚れが形成されたインジケータを作製した。以下の説明では、形成された擬似汚れを、その大きさに応じてそれぞれ「大マーカー」、「中マーカー」、「小マーカー」という。
(基板)
縦76mm、横27mm、および厚み0.4mmからなるステンレス(SUS304)基板の表面をトルエンで拭いて脱脂・乾燥したものを使用した。
(汚れ成分)
繊維素を除去したヒツジ血液100ml、アルブミン100mlおよびブタの胃粘液2gを500mlのフラスコに入れ、室温で十分攪拌したものを汚れ成分とした。
(凝固剤)
オルトフタルアルデヒド(OPA)をエタノールに溶解し、汚れ成分(大)に対しては10%(w/v)、汚れ成分(中)に対しては5%(w/v)、汚れ成分(小)に対しては2%(w/v)としたものを凝固剤液とした。
2.洗浄試験1(ホルダー保持台とマーカーとの好適な距離の検討)
前記「1.インジケータの作製例1」で作製したインジケータの基板両面のうち、マーカーが形成された面を内向きにして下記ホルダーに装着してバスケットに入れ、2種類のウォッシャーディスインフェクター(WD)について表1および表2に示す洗浄条件(ともに手術用器具の洗浄プログラム)で洗浄し、洗浄後における大、中、小のマーカーの有無を以下に示す4段階のレベルで目視観察して、ホルダー保持台とマーカーとの好適な距離を検討した。結果を表3に示す。
(WD洗浄機)
・卓上型WD洗浄機(DEKO−25,サクラ精機社製)
・中型WD洗浄機(MJ−700,シャープマニファクチャリングシステム社製)
表1と表2に上記WD洗浄機の洗浄プログラムを示した。
Figure 0004694994
Figure 0004694994
(洗浄剤)
上記洗浄試験において用いた洗剤は次のとおりである。
・メディポールEX1〔無泡性酵素系洗浄剤〕(M−EX1,イヌイメデイックス社製)
・メディポールZT〔無泡性界面活性剤非含有アルカリ系洗浄剤〕(M−ZT,イヌイメデイックス社製)
(ホルダー)
図2と同じ側面視L字状で、縦76mm,横30mmの保持台と、縦38mm,横30mmの把持部を備え、保持台上面の前端縁と後端縁に図2と同じように、幅6mm、厚み0mm、1mm、1.5mm、2mm、3mm、4mmまたは5mmの凸状のスペーサー部材が略平行に凸設され、スペーサー部材の上面には図2と同形状で幅6mmの挟持用の挟持部(板ばね)が形成されたステンレス(SUS304)製のホルダーを作製した。
(擬似汚れの溶解速度)
全てのマーカーが消えていたとき・・・・・0
大マーカーのみ残ったとき・・・・・・1
大マーカーと中マーカーが残ったとき・・・・・2
全てのマーカーが残ったとき・・・・・・3
Figure 0004694994
表3中、ホルダー保持台とマーカーとの距離(0〜5mm)は、ホルダーの挟持部の厚みを0mmとして算出している。表3から、洗浄機の種類および洗浄剤の種類にかかわらず、ホルダー保持台とマーカーとの距離が1.5〜4mmの範囲では1〜2の評価結果を示したが、該距離が1mm以下のときはゲル状のマーカーがホルダーに張り付いて評価ができず、該距離が5mmのときは、評価結果が0になり、洗浄剤を使用しないときと同じ結果になるので、ともにインジケータとして好ましくないといえる。したがって、ホルダー保持台とマーカーとの距離は1.5〜4mmが好ましいことが分かった。
3.洗浄試験2(インジケータの装着向きの検討)
前記「1.インジケータの作製例1」で作製したインジケータ、および前記「2.洗浄試験1」で作製したホルダーのうち、スペーサー部材の厚みが2mmのホルダーを使用し、前記インジケータの基板両面のうち、マーカー形成面を外向き又は内向きにして前記ホルダーに装着した以外は、前記「2.洗浄試験1」と同様に洗浄試験を行なった。結果を表4に示す。
Figure 0004694994
表4は洗浄試験を10回行なった結果をまとめたものである。表4から、マーカー形成面を内向きにしてホルダーに装着した場合、洗浄回数にかかわらず、常に1の評価結果を示した。これに対して、マーカー形成面を外向きにしてホルダーに装着した場合、洗浄回数によって評価結果にバラツキが認められた。これらの結果から、前者の方法によれば、洗浄不良の有無について精度よく評価することができるといえる。
4.洗浄試験3
前記「1.インジケータの作製例1」で作製したインジケータ、および前記「2.洗浄試験1」で作製したホルダーのうち、スペーサー部材の厚みが2mmのホルダーを使用し、前記インジケータの基板両面のうち、マーカー形成面を外向き又は内向きにして前記ホルダーに装着したものを表5に示す条件で洗浄した。結果を表5に示す。なお、表5に示す超音波洗浄機はMU−624(シャープマニファクチャリングシステムズ社製)であり、洗浄剤M−Fは低泡性界面活性剤含有アルカリ系洗浄剤(イヌイメデイックス社製)である。
Figure 0004694994
表5から、超音波洗浄した場合でも、洗浄剤の有無で評価結果に有意差がでることが確認された。また、一般器具用の洗浄プログラムでWD洗浄した場合、マーカー形成面を内向きにしてホルダーに装着すると、1の評価結果が得られ、洗浄剤を使用しないときと比べて有意差が認められた。これに対し、マーカー形成面を外向きにしてホルダーに装着すると、評価結果が0となり、洗浄剤を使用しないときと同じ結果になった。したがって、前者の方法によれば、幅広い洗浄条件に対してインジケータとして好適に使用できることが分かった。
5.洗浄試験4
インジケータの大、中、小のマーカーを形成するときに、凝固剤濃度がそれぞれ0.75%(w/v)、0.50%(w/v)、0.20%(w/v)の凝固剤液を使用した以外は「前記4.洗浄試験3」と同様に洗浄試験を行なった。結果を表6に示す。
Figure 0004694994
表6から、マーカー形成面を内向きにしてホルダーに装着した場合でも、ほとんどの洗浄条件で評価結果が0になり、洗浄剤を使用しないときと同じ結果になった。これは本試験による洗浄条件では、凝固剤濃度が低すぎたためマーカーの溶解速度が速すぎたことによるものと考えられる。
6.溶解速度の参考データ
表7および表8に示す凝固剤濃度、凝固剤処理後の乾燥温度、乾燥時間でインジケータを作製した以外は、表5および表6と同様の条件で洗浄試験を行なった。なお、本試験で用いたインジケータは、同一条件で形成された大、中、小マーカーを備えるものである。
Figure 0004694994
Figure 0004694994
本発明に係る医療器具の洗浄評価方法に使用するインジケータの一実施形態を示す外観斜視図である。 図1のインジケータ11に適したホルダーの一実施形態を示す外観斜視図である。 図1のインジケータ11を図2のホルダー41に装着した状態を示す外観斜視図である。 図3の左側面図である。
符号の説明
11 インジケータ
21 基板
31,32,33 擬似汚れ
41 ホルダー
42 保持台
43,44 スペーサー部材
45,46 挟持部
47 把持部

Claims (2)

  1. 基板上に溶解速度が異なる複数の擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを、保持台と、該保持台の後端から垂設された把持部を備えたホルダーに装着して医療器具とともに機械洗浄するにあたり、
    前記インジケータの基板両面のうち、擬似汚れが形成された面を前記ホルダーの保持台に向けて内向きにするとともに、他方の面をむき出しにし、かつ擬似汚れと前記ホルダーの保持台との間を1.5〜4mm離間した状態で前記インジケータを前記ホルダーに装着して前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、
    洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて洗浄評価を記録し、次いで得られた洗浄評価をあらかじめ設定した基準値と比較することで洗浄不良の有無を判断することを特徴とする、医療器具の洗浄評価方法。
  2. 機械洗浄を超音波洗浄機またはウォッシャーディスインフェクターを用いて行なうことを特徴とする、請求項1記載の医療器具の洗浄評価方法。
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