JP4694380B2 - 薄膜音叉型屈曲振動子及び電気信号処理素子 - Google Patents

薄膜音叉型屈曲振動子及び電気信号処理素子 Download PDF

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Description

本発明は、マイコン等の基準周波数信号発生用途の振動子において、成膜法により製造された薄膜音叉型屈曲振動子に関するものである。更には、本願はこれを用いた電気信号処理素子に関するものである。
従来の音叉型屈曲振動子として水晶振動子があった。オートクレープ等により育成された水晶単結晶を薄く切り出し、リソグラフィと水晶特有の異方性エッチングにより、音叉の形状を作成し、その両面に電極を配置し、接着剤でステムに固定することにより、製造している。
さて、振動子は、Q値が高いこと、製造コストが低いことが重要である。水晶音叉型屈曲振動子の場合、固有振動周波数を所望の周波数(通常32.7kHz)と一致させる必要がある。水晶の異方性エッチングや電極形成時のプロセス変動により固有振動周波数はばらつく。振動子の一部をレーザーなどによりエッチングすることにより周波数トリミングを行ない、所望の振動周波数を得ている。このトリミングはプロセスコストが高い。製造バラツキに対して電気特性が鈍感な振動子が要求されている。
周波数トリミングとして、外部電気回路を用いた電気的トリミングがある。プロセスコストを抑えられるため、レーザートリミングより優れている。しかし、外部電気回路による周波数修正幅は、振動子の帯域幅に比例する。水晶音叉型屈曲振動子では、帯域幅が0.2%程度であり、プロセス変動より小さいため、電気的トリミングのみでは、プロセス変動を吸収できない。そのため、レーザーによる周波数トリミングを用いざるを得ない。
システムの小型化、LSIの動作速度の高速化に伴い、振動子の小型化と高周波化が要求されている。小型化、高周波化により、一層、プロセス変動が固有振動周波数の変動に与える影響は大きくなる。
以上のことから、振動子にはシステムを小型化すること、固有振動周波数が高いこと、Q値が高いこと、さらに帯域幅が広いこと、プロセス変動に対して電気特性のバラツキが小さいこと、低コストであることが重要である。
上述した従来の水晶音叉型屈曲振動子には、以下の問題点がある。
これまでの代表的な製造方法が、水晶は上述の方法であるため、小型化に限界がある。又、固有振動周波数を高くすると、小型に作成する必要があり、上述工程での製造は困難である。更に、帯域幅が狭く、且つ固有振動周波数のプロセス変動が大きい。
本発明の主たる目的は、これらの課題を解決し、小型で且つプロセスに対して固有振動周波数のバラツキの小さい振動子を提供することにある。更に、本発明の別な側面からは、帯域幅が広い振動子の提供をも可能にする。
本発明の更に別な目的は、構造が簡単で、高い固有振動周波数が得られる振動子を提供することにある。
上記主たる目的を達成するための本発明の振動子は、下部電極があり、その上に圧電薄膜が形成され、その上に上部電極が形成され、圧電薄膜が音叉型にパターニングされた屈曲振動子であることを特徴とする。
この目的を達成するための本発明の振動子は、上記構造に加えて、電極は振動子の根元から2/3の範囲以下であることを特徴とする。
水晶音叉型屈曲振動子では、音叉の表裏方向に構造を対称にすることにより、高Qを維持している。しかし、薄膜で音叉型屈曲振動子を実現する場合、薄膜特有の問題がある。圧電薄膜エッチングで側面にテーパーが生じるため、対称性が崩れている。水晶はバルク材料から加工し、セラミックス振動子は焼結で形成するため、このテーパー量は、薄膜振動子と比較すると、非常に小さい。更に、薄膜振動子では、下部電極上に薄膜振動子を成膜し、その上に上部電極を成膜する。このため、下部電極は、その厚さ分振動子に埋め込まれた構造となる。これら2点の対称性の崩れに関する問題は、水晶振動子、セラミックス振動子とは異なる薄膜音叉型屈曲振動子特有の問題であり、帯域幅の減少、Q値の劣化を引き起こす難点がある。
この難点に対して、本発明の振動子の一つの形態は、上記構造に加えて、下部電極を中間電位としたことを特徴とする。
更に、上記付加的な目的を達成するために、振動部の先端近傍の側面に切れ目を入れる、又は振動部の側面に凹部或いは凸部あるいはその組み合わせを形成されることが望ましい。
尚、圧電薄膜振動子としてリング型、又は、センサー型振動子が報告されている。しかし、プロセス変動に対して電気特性のバラツキが大きく、更に、リング振動子は帯域幅が狭くプロセストリミングが避けられないため、LSIとの集積化は困難になる。水晶とは異なり、薄膜をパターニングする場合、必ず側面にテーパーが生じ、帯域幅とQ値の劣化が生じるのみならず、テーパー角のバラツキに起因する電気特性の劣化が発生する。この為、一層LSIとの集積化は困難になる。
以下に本発明の主な形態を、まとめて列挙すれば、次の通りである。
(1)本発明の代表的な形態は、音叉型形状であり且つ複数の振動部を有する圧電体膜と、圧電体膜の第一の面に形成された第一の金属電極と、前記圧電体膜における、前記圧電体膜の第一の面と反対側の第二の面に形成された第二の金属電極とを有する音叉型屈曲振動子であって、前記音叉型屈曲振動子は、少なくとも表面の一部を絶縁膜で覆われた非金属基板に、少なくても一点で固定されており、前記圧電体膜と前記第一の金属電極と前記第二の金属電極は、成膜法で形成された薄膜であり、前記圧電体膜の第一の面と前記第二の面は前記非金属基板の表面と平行であり、前記第一の金属電極は、前記圧電体膜上に成膜されており、前記圧電体膜は、前記第二の金属電極を覆って成膜されていることを特徴とする薄膜音叉型屈曲振動子である。
(2)本発明の別な形態は、音叉型形状の前記圧電体膜は、少なくとも振動部、支持部、及び台座部を有し、前記第一の金属電極と前記第二の金属電極は、少なくとも前記台座部の一部と前記振動部の一部上に形成されており、且つ前記振動部の上に形成された前記第一及び第二の金属電極は、前記振動部の根元から2/3の位置より根元側に配置されていることを特徴とするに前項(1)に記載の薄膜音叉型屈曲振動子である。
(3)前記第一の金属電極が、複数の電極膜で構成されており、前記第二の金属電極が単一の電極膜で構成されていることを特徴とする前項(2)に記載の薄膜音叉型屈曲振動子である。
(4)前記複数の振動部の少なくとも一者は、その側面に凹部を有する第1の形態、その側面に凸部を有する第2の形態及び前記振動部の前記第一の面と前記第二の面との間に貫通する穴を有する第3の形態の群から選ばれた少なくとも一者を有することを特徴とする前項(2)又は(3)に記載の薄膜音叉型屈曲振動子である。
(5)前記複数の振動部の全てが、前記振動部に対する第1、第2及び第3の形態の少なくとも二者を有することを特徴とする前項(4)に記載の薄膜音叉型屈曲振動子である。
本発明の係る振動子を用いて、下記のごとき電気信号処理素子を提供することが出来る。
(6)前項(1)に記載の薄膜音叉型屈曲振動子と、半導体基板に少なくとも一つの電子的能動素子とを、少なくとも有し、前記薄膜音叉型屈曲振動子が固定されている前記非金属基板と、前記半導体基板とが、同一の台に固定されていることを特徴とする電気信号処理素子。
(7)前記電気信号処理素子は、前記非金属基板に、前記薄膜音叉型屈曲振動子が複数固定されていても良い。
(8)前記電気信号処理素子は、前記薄膜音叉型屈曲振動子が、前記電子的能動素子が少なくても一つ形成されている半導体基板を、前記非金属基板として、固定されていても良い。
本発明の一つの観点によれば、薄膜圧電体を用いて、周波数バラツキの小さい振動子を提供することが出来る。
本発明の別な観点によれば、薄膜圧電体を用いた小型振動子を提供し、もって電子的能動素子との集積化を容易ならしめることが出来る。
本発明の更に別な観点によれば、薄膜圧電体を用いた小型振動子と電子的能動素子とを集積化した集積回路装置を、製造偏差を小さくして提供することが出来る。
以下、本発明に係る薄膜音叉型屈曲振動子を図面に示した幾つかの実施形態を参照して、詳細に説明する。
図1は本発明に係る第一の実施形態の斜視図である。図2、図3は、各々第一の実施形態に関する振動子の上面図及び下面図である。シリコン基板2上に、シリコン基板2の表面と平行に振動子1が設置されている。振動子1は音叉形状をしている。図2及び図3を参酌すれば理解されるように、より具体的には、本振動子1は、2本の振動部1−1(幅30μm、長さ50μm)と、その振動部を励振する励振部1−2と、振動部1−1と励振部1−2に蓄えられる振動エネルギーを支持部1−4と隔離するための台座部1−3と、振動子1を物理的にシリコン基板2に固定する支持部1−4から構成されている。ここで、励振部1−2は、前記振動部1−1及び前記台座部1−3の一部に重複して形成され、励振部となされている。
更に、支持部1−4には配線3が施されており、振動子1の電極とシリコン基板上のポート4−1、4−2との間を電気的に接続している(図1を参酌)。図1では、シリコン基板2上にCMOSインバータを用いた発振器(後述の図17を参酌)が形成されているが、他の電気パーツとしてトランジスタ、インダクタ、コンデンサ、抵抗、FETなどのスイッチ、及び各種端子が配線3により、互いに電気的に接続されている場合もある。
励振部1−2の表面(シリコン基板に対抗する面の反対側の面)には2種類の電位の金属薄膜電極5−1−1、5−1−2が、薄膜プロセスにより形成されている。励振部1−2の裏面(シリコン基板と対抗する面)にも2種類の電位の金属薄膜電極5−2−1、5−2−2が薄膜プロセスにより形成されている。励振部1−2の下部電極5−2−1、5−2−2は上部電極とほぼ同じ形状である。しかし、これらが接続されるポートは、上部電極と異なる。第1のポート4−1と第2のポート4−2との間に交流電圧が印加された場合、励振部1−2の内側(音叉の又部)と外側では、振動子1の内部を縦断する電界の向きが逆になる。
これまで、音叉型屈曲振動子を構成する材料に水晶を用いた例、セラミックス焼結体を用いた例は報告されている。しかし、シリコン基板上に水晶やセラミックス焼結体を安価な成膜プロセスで形成することは困難である。この為、従来シリコン基板上に振動子を作成する場合、別途作成した水晶やセラミックス振動子をシリコン基板上に接着させる必要があった。又、振動子の両面に電極を形成するため、高価な両面パターニングが必要であった。その為、安価な製造方法による新しい振動子が望まれていた。
本発明の第一の実施形態では、振動子の主な構成材料として、窒素化アルミニウムの薄膜や酸化亜鉛の薄膜に代表されるc軸に配向した圧電材料の薄膜を用いている。図4Aより図4Gにその製造方法を示す。絶縁膜6を有するシリコン基板2を準備する。絶縁膜6は、基板がシリコンの場合、二酸化珪素膜が好適である。この場合、シリコン基板2には、最終デバイスの目的に応じたトランジスタ、インダクタ、コンデンサ、抵抗、FETなどのスイッチ、及び各種端子が予め形成されている(図4A)。初めに、必要な配線3が形成される(図4B)。次いで、犠牲層7が形成される。この犠牲層7上に下部電極5−2を形成し(図4D)、圧電薄膜8が形成される(図4E)。尚、犠牲膜7は、基板がシリコンの場合、例えば、PSG膜が好適である。更に、この上部に上部電極5−1を形成し(図4F)、最後に、犠牲層7を除去する。こうして、振動子1がシリコン基板2上に形成される。犠牲層7、下部電極5−2、圧電薄膜8、上部電極5−1は、塗布法、スパッタ法、CVD法、蒸着法に代表される成膜手段により、形成される。
本発明の代表例では、振動子1の主な構成材料として、c軸配向圧電薄膜を用いている為、両面パターニングが不必要でとなる。従って、安価な成膜プロセスでシリコン基板上に振動子を形成することが出来る。更に、窒素化アルミニウム薄膜や酸化亜鉛薄膜に代表されるc軸配向圧電薄膜は、屈曲に機能する圧電定数d31が水晶より大きいため、水晶より帯域幅の広い振動子を得ることが出来る。尚、前記d31は、3方向(圧電膜のC軸結晶軸=厚さ方向)に電圧をかけた場合の1方向(3方向と垂直方向=面内方向)の変形量(=伸びる量)を表わす圧電定数である。ここでは、「厚さ方向の電界をもちいて、屈曲振動をどのくらい励振することができるか」を示す材料定数の代表例として例示した。又、水晶振動子に代表される従来の振動子では、レーザーに代表される周波数トリミングを行える。従って、プロセスによるバラツキを補正する為の周波数合わせの為に帯域幅を広くする必要がなかった。一方、シリコン基板上に振動子を作成する場合、大型のウェハを用いたバッチ処理で製造する為、素子ごとのレーザートリミングはコストアップのため使えず、電気的な周波数トリミングで周波数を合わせる必要がある。この為、水晶振動子とは異なり、シリコン基板上の振動子では、帯域幅が広いことが必須の条件である。本例のごとく、窒素化アルミニウム薄膜や酸化亜鉛薄膜に代表されるc軸に配向した圧電薄膜を用いることで、低コストにシリコン基板上に振動子を、好都合に作成することが可能となる。
図4では省略したが、振動子1の表面に、誘電体膜を形成することにより、振動子の長期信頼性、短期信頼性を向上させることが出来る。特に誘電体膜として、弾性率が逆温度特性である酸化珪素を用いると、振動周波数の温度安定性を向上させることができ、短期信頼性が著しく向上する。図4Hにこの例の断面図を例示する。図4Gと同一部位は同じ符号を用いた。符合30が本例の誘電体膜である。
図5Bに、本例の励振部の断面図を示す。この断面図は図2のA−A線に沿った断面図である。一方、図5Aは、本例と比較の為に示した従来の代表例での励振部の断面図である。従来の例では、単結晶水晶20の両面に、各々上部電極5−1−1、5−1−2及び下部電極5−2−1、5−2−2を成膜により電極を形成している。この為、水晶20の断面形状は理想系である長方形をしていた。一方、本発明の薄膜振動子の例では、基板上に下部電極5−2−1、5−2−2の上に圧電薄膜8を形成するため、圧電体の断面形状は変形する。そして、この上部に上部電極5−1−1、5−1−2が形成される。
次に、図6に、図1〜図3に例示した構造に対して考慮すべき点を示す。振動子1を小型高周波化した場合、下部電極を薄くする必要がある。しかし、電気抵抗によるQ値の劣化を防ぐため、余り薄くすることは出来ない。図1〜図3に例示した構造の場合、下部電極の膜厚に相当する厚さの突起が圧電薄膜の表面に生じる。これは、前記図5Bをもって例示した所である。屈曲振動子では、圧電薄膜の面内方向の伸縮を用いて振動部を振動させる。突起の部分は、面内方向の伸縮は振動に対して機能しない。その結果、下部電極の膜厚に比例して、振動効率が下がるという留意点がある。図6はこの状態を例示するものである。横軸は下部電極の厚さ、縦軸は励振効率の劣化率を相対値で示す。現実のデバイスでの膜厚は、薄膜金属では表面の酸化と表皮効果による抵抗の増加を避けるため、100nm〜300nm程度に厚くする。その結果、励振効率が半減する。帯域幅は励振効率に比例するため、帯域幅が半減する。十分留意すべき点である。
次に、圧電体の加工精度に伴う振動周波数のズレに関係を考察する。
現在主流である0.35μmCMOSプロセスでの加工精度は、70nm程度である。図11に圧電体の太り量と振動周波数のズレ量との関係を示す。点線の特性が従来型の振動子の特性例、実線の特性が、本発明の例の特性である。従来型の振動子では、圧電体が1nm太ると発振周波数は28ppmシフトした。プロセス精度が70nm程度であるため、結局1960ppm(=28ppm/nm×70nm)程度の周波数バラツキが発生する。本発明の構成では、図11に例示するように、プロセスばらつきに起因して、発振周波数は420ppm(=6ppm/nm×70nm)程度の周波数バラツキに抑えることができる。
一方、基準信号発生器の発振器は、プロセスに起因する周波数ばらつき以上に発振周波数を可変できる必要がある。後述する図17の代表的なコルピッツ型発振器の場合、発振周波数fは、振動子の静電容量Co、振動子の帯域幅Δ、振動子の直列共振周波数fs、直列接続する可変容量の容量値Cv、及び容量素子12とトランジスタで決まるベースインピーダンスの複素成分Imag(Zosc)との間に、次式の関係がある。
Figure 0004694380
具体的な例としてマイコン用基準周波数発生器(基準周波数14MHz)を考える。14MHzの標準振動子は、静電容量C=5.0pF、Imag(ZOSC)=128オーム@14.000MHzに設定される。代表的な可変容量(例えば日立製作所製HVC375(1/(2ΠfCv)=612〜995オーム(1〜2.5V、@14.000MHz))を用いた場合、発振周波数可変幅を580ppm以上(プロセスばらつき420ppm、可変容量ばらつき160ppm)とするには、帯域幅Δを、Δ>0.6%にする必要がある。こうした側面を考慮し、前述した帯域幅の減少の観点を考慮する必要がある。
図7に、本発明に関する第一の実施形態の、より望ましい形態を例示する為の特性例を示す。縦軸は帯域幅の向上率(%)(尚、発振周波数を基準にした帯域幅の百分率で示した)、横軸は、振動部において、励振部の占める割合を長さの比率で表わしている。本実施形態では、この比率を2/3以下としている。このことにより、2つの効果が現れる。つまり、図7に示すように、振動部の先端まで金属でパターニングした場合より、帯域幅が0.6%以上に向上している。これは振動部の先端部には振動に伴う応力があまり発生しないことによる。更に、周波数バラツキに最も敏感な振動部の先端近傍の材料を圧電薄膜のみにしたことにより、本構造では屈曲振動であるため、圧電薄膜の膜厚、金属膜の膜厚、パターニングバラツキが周波数に与える影響を小さくすることが出来、バラツキ低減を小さくすることが出来る。
図8と図9に本発明第一の実施形態の、更に望ましい形態を示す。図8は振動子の上面図、図9はそのA−A線での断面図である。図8、9での符号はこれまでの図2及び図5Bと同じ符号を用いた。尚、符号5−2は、下部電極である。この例では、振動子の下部電極5−2は、上部電極5−1のいずれとも接続されていない。図の下部電極5−2は浮き電極の形態を示しているが、接地されていてもよい。
一方、図2、3に示す従来の振動子では、5−1−1と5−2−1がポート4−1に、5−1−2と5−2−2がポート4−2に接続されていた。一方、本発明第一の実施形態では5−1−1がポート4−1に、5−1−2がポート4−2に接続されている。5−2は、5−1−1と5−1−2との中間の電位になる。このため、本発明第一の実施形態下部電極を単一電極にしたにもかかわらず、図2、3に示す従来の振動子と電界を同じ方向にすることができる。
上部電極5−1が図9の断面図に示すように、図4に示す安価なプロセスで、圧電薄膜の形状を長方形にすることができ、図6に示す励振効率の劣化を防ぐことが出来る。更に、浮き電極5−2は、電気的に鏡面として機能するため、擬似的に、浮き電極上方に存在する圧電薄膜と電極の像が浮き電極下方に存在することと等価になる。その結果上下方向の電気的対称性が成り立ち、帯域幅の減少を防止する効果もある。さらに同じ理由で圧電薄膜の側面のテーパーに起因する上下対称性の崩れの影響も低減する。
図10に本発明第二の実施形態の、別な望ましい形態を示す。振動部の先端の側面に凹部9を形成し、振動部先端の輪郭(側面)の長さを大きくしている。本実施形態は、圧電薄膜に窒素化アルミニウムスパッタ膜を用い、塩素系ガス(BCl)によるドライエッチング技術を用いてパターニングした。エッチング時間から換算される窒素化アルミニウムの側面エッチング量と振動子の振動周波数の関係を図11に示す。凹部9の深さは15μmである。本例の形態では、窒素化アルミニウムのパターニングにおけるエッチングバラツキに起因する振動子の振動周波数バラツキを1/5程度に低減できる効果がある。
図12に、本発明第三の実施形態の形態を示す。振動部における、先端の側面の凹部9を複数形成し、振動部先端の輪郭(側面)の長さをさらに大きくしている。振動子の振動周波数の変化率の、凹部の深さ依存性を、図13に示す。横軸が、凹部の深さhで、この値は、エッチング時間から換算される窒素化アルミニウムの側面エッチング量から算定される。縦軸は振動周波数のズレ量の相対値である。図13に見られるように、凹部の深さを調整することによって、振動周波数の変化を無くすことが出来る。
本発明のこの観点により、窒素化アルミニウムのパターニングにおけるエッチングバラツキに起因する振動子の振動周波数バラツキをほぼゼロにすることができ、量産時の歩留り向上、及びレーザートリミング工程を省略することが出来、大幅に低コスト化できる効果がある。
音叉型屈曲振動子の振動周波数は、振動部の幅に依存する屈曲時の振動部の復元力と、振動部の慣性モーメントできまる。振動部の先端に凹部9を設けることにより、エッチングに対する慣性モーメントの感度を高めることが出来る。その結果、本発明では、エッチングにおける復元力の変化と慣性質量の変化が打ち消しあい、振動周波数のバラツキをほぼゼロにすることができている。図12では、先端部に凹部9を形成しているが、振動部の輪郭(側面)の長さを大きくすることにより、同様な効果を得ることが出来る。図14から図16にこうした各種変形例を示す。図14に、先端近傍に凸部10を設けた本発明の第四の実施形態、図15に、先端近傍に凸部10と凹部9を設けた本発明の第五の実施形態、図16に先端近傍に穴11を設けた本発明の第五の実施形態を例示する。又、先端からずれた場所に凹部等を設ける構造でもよい。しかし、先端部に近い場所の方が慣性モーメントに与える影響が大きく、また凹部構造の方が、プロセス制御が容易でスプリアス共振が発生し難い。
図17と図18に、本発明の第六と第七の実施形態として、薄膜音叉型屈曲振動子の適用例を示す。これらに共通して用いることが出来るモジュール断面図を図19に示す。例えば、発振回路は、薄膜音叉型屈曲振動子1、コンデンサ12、抵抗13、インダクタ21の機能を有する受動部品と、能動部品と構成されている。符号14は接地を示す。振動子1を除く受動部品と、能動部品は、例えば、図19に示すように、LSIチップ16−2に集積化されている。LSIチップ16−2には、図17、図18で示す発振回路の他に、信号処理機能が繰り込まれている。薄膜音叉型屈曲振動子1は、振動部分に空間を有する中空構造17が施されている。LSIチップ16−2と振動子チップ16−1は台座31を介して物理的に結合している。更に、LSIチップ16−2と振動子チップ16−1は図17又は図18の等価回路を例示するように電気的に接続されている。尚、符号15−1は電源端子、符号15−2は出力端子である。本例によると、振動子1はシリコンチップ上に形成されているため、LSIチップと同一の台上に実装でき、モジュールを小型化することが出来る。更に、トランジスタと振動子との間の配線を短くすることが出来るため、不要な寄生成分を排除できることに加え、配線損失に起因する雑音を低減することが出来る。
図20に、本発明の第八の実施形態として、帯域通過型周波数フィルタの等価回路の例を示す。薄膜音叉型屈曲振動子1を直列腕及び並列腕に接続することにより、帯域通過型周波数フィルタが実現できる。符号15−2は出力端子である。各薄膜振動子は同一のシリコン基板上に形成されている。振動子間の配線抵抗は、フィルタの損失劣化を引き起こす。本例によると、同一のシリコン基板上に振動子を形成することにより、振動子間の距離を著しく縮めることが出来るため、低損失なフィルタを実現することが出来る。さらに振動周波数のばらつきの少ない振動子を用いているため、複数の振動子を集積したことによる良品率の相乗劣化現象を著しく低減することが出来る。
図21に、本発明の振動子と他の電子部材とを集積化する際の基板上での配置例を示す平面図を示す。本図は各要素部材の配置例のみを示すものである。シリコン基板2上に電気パーツとしてトランジスタ31、インダクタ21、コンデンサ12、抵抗素子13、FETなどのスイッチ32、及び各種端子が振動子1と共に集積化されている。それぞれの電気パーツは金属膜等の配線で結線されている。このシリコンチップは、パッシベーションを施し、インターポーザを介して、または直接に他の回路基板に実装される。本例によると、振動子と電気パーツは同一のシリコンチップ上に形成されているため、従来外付けに必要であった振動子を必要とせず、システムを小型化することが出来る。更に、トランジスタと振動子との間の配線を短くすることが出来るため、不要な寄生成分を排除できることに加え、配線損失に起因する雑音を低減することが出来る。さらに振動周波数のばらつきの少ない振動子を用いているため、振動子と他の電気パーツを集積したことによる良品率の相乗劣化現象を著しく低減することが出来る。
以上詳細に説明したように、本発明による振動子を用いることにより、小型のシステム、固有振動周波数の高く、高Q値で、更に広帯域で、プロセス変動に対して電気特性のバラツキの小さくレーザートリミングを省略できる低コストな振動子を提供することができる。即ち、本発明によれば、応力が集中する場所に電極が存在し、振幅の大きい場所には単一材料による構造体で構成したことにより、かつ弾性ばね係数と慣性質量の膜厚依存性が打ち消される構造になる。その結果、膜厚/寸法制御が困難な薄膜でも、周波数バラツキの小さい振動子を製造することが可能になる。従って、本発明によれば、小型の振動子を集積したLSIを低価格に提供することが出来る。更に、振動部の先端近傍に切れ目または側面に凹凸を設置することにより、弾性ばね係数と慣性質量のエッチング量/テーパー量依存性が打ち消される構造になる。その結果、本発明の一つの観点では、高精度な振動子を集積化したLSIを安価に提供できる効果がある。加えて、エッチング量の制御の困難な小型薄膜振動子が安定して製造できるため、製造偏差を抑えることができ、一層安価で周波数の高い薄膜振動子を集積化したLSIを提供する効果がある。
図1は、本発明に第一の実施形態を説明するための斜視図である。 図2は、本発明の第一の実施形態の振動子の上面図である。 図3は、発明の第一の実施形態の振動子の下面図である。 図4Aは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図BAは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図4Cは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図4Dは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図4Eは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図4Fは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図4Gは、本発明の第一の実施形態を製造工程順に示した振動子の断面図である。 図4Hは、本発明の別な実施形態の断面図である。 図5Aは、従来の代表的な水晶振動子の振動部の模式的な断面図である。 図5Bは、本発明に関する図2のA−A線に沿った振動部の断面図である。 図6は、振動子の下部電極の厚さと励振効率劣化率との関係例を示す図である。 図7は、振動部の電極における励振部の電極の割合と、帯域幅との関係例を示す図である。 図8は、本発明第一の実施形態のより望ましい形態を例示する振動子の断面図である。 図9は、図8のA−A線に沿った振動子の断面図である。 図10は、本発明第二の実施形態の別な例を示す振動子の断面図である。 図11は、振動子における圧電体の太り量と振動周波数のズレ量との関係例を示す図である。 図12は、本発明第二の実施形態の別な例を示す振動子の断面図である。 図13は、振動子の凹部の深さと振動周波数のズレ量との関係例を示す図である。 図14は、本発明第三の実施形態を示す振動子の断面図である。 図15は、本発明第四の実施形態を示す振動子の断面図である。 図16は、本発明第五の実施形態を示す振動子の断面図である。 図17は、本発明の振動子の適用例を例示する等価回路図である。 図18は、本発明の振動子の別な適用例を例示する等価回路図である。 図19は、本発明の振動子の実装状態を例示する断面図である。 図20は、本発明の振動子の更に別な適用例を例示する等価回路図である。 図21は、本発明の振動子と他の電子部材とを集積化する際の基板上での配置例を示す平面図である。
符号の説明
1…薄膜音叉型屈曲振動子、1−1…振動部、1−2…励振部、1−3…台座部、1−4…支持部、2…シリコン基板、3…配線、4−1…ポート1、4−2…ポート2、5−1…上部電極、5−1−1…ポート1に接続された上部電極、5−1−2…ポート2に接続された上部電極、5−2…下部電極、5−2−1…ポート1に接続された下部電極、5−2−2…ポート2に接続された下部電極、6…絶縁膜、7…犠牲層、8…圧電薄膜、9…凹部、10…凸部、11…穴、11…CMOS増幅器、12…容量素子、12−2…可変容量素子、13…抵抗素子、14…接地、15−1…電源端子、15−2…出力端子、15−3…入力端子、16−1…薄膜音叉型屈曲振動子が形成されたチップ、16−2…LSIチップ、17…空間、18…保護膜、19…台、20…単結晶の水晶、21…インダクタ、30…誘電体膜、31…台座

Claims (11)

  1. 音叉型形状であり且つ複数の振動部を有する圧電体膜と、
    圧電体膜の第一の面に形成された第一の金属電極と、
    前記圧電体膜における、前記圧電体膜の第一の面と反対側の第二の面に形成された第二の金属電極とを有する音叉型屈曲振動子であって、
    前記音叉型屈曲振動子は、少なくとも表面の一部を絶縁膜で覆われた非金属基板に、少なくても一点で固定されており、
    前記圧電体膜と前記第一の金属電極と前記第二の金属電極は、成膜法で形成された薄膜であり、
    前記圧電体膜の第一の面と前記第二の面は前記非金属基板の表面と平行であり、
    前記第一の金属電極は、前記圧電体膜上に成膜されており、
    前記圧電体膜は、前記第二の金属電極を覆って成膜されていることを特徴とする薄膜音叉型屈曲振動子。
  2. 音叉型形状の前記圧電体膜は、少なくとも振動部、支持部、及び台座部を有し、
    前記第一の金属電極と前記第二の金属電極は、少なくとも前記台座部の一部と前記振動部の一部上に形成されており、且つ前記振動部の上に形成された前記第一及び第二の金属電極は、前記振動部の根元から2/3の位置より根元側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜音叉型屈曲振動子。
  3. 前記第一の金属電極が、複数の電極膜で構成されており、前記第二の金属電極が単一の電極膜で構成されていることを特徴とする請求項2に記載の薄膜音叉型屈曲振動子。
  4. 前記複数の振動部の少なくとも一者は、その側面に凹部を有する第1の形態、その側面に凸部を有する第2の形態及び前記振動部の前記第一の面と前記第二の面との間に貫通する穴を有する第3の形態の群から選ばれた少なくとも一者を有することを特徴とする請求項2及び請求項3のいずれかに記載の薄膜音叉型屈曲振動子。
  5. 前記複数の振動部の全てが、前記振動部に対する第1、第2及び第3の形態の少なくとも二者を有することを特徴とする請求項4に記載の薄膜音叉型屈曲振動子。
  6. 請求項1に記載の薄膜音叉型屈曲振動子と、半導体基板に少なくとも一つの電子的能動素子とを、少なくとも有し、前記薄膜音叉型屈曲振動子が固定されている前記非金属基板と、前記半導体基板とが、同一の台に固定されていることを特徴とする電気信号処理素子。
  7. 前記非金属基板に、請求項1に記載の薄膜音叉型屈曲振動子が複数固定されていることを特徴とする請求項6に記載の電気信号処理素子。
  8. 前記薄膜音叉型屈曲振動子が、前記電子的能動素子が少なくても一つ形成されている半導体基板を、前記非金属基板として、固定されていることを特徴とする請求項6に記載の電気信号処理素子。
  9. 前記薄膜音叉型屈曲振動子が、前記請求項2に記載の薄膜音叉型屈曲振動子であることを特徴とする請求項6に記載の電気信号処理素子。
  10. 前記薄膜音叉型屈曲振動子が、前記請求項2に記載の薄膜音叉型屈曲振動子であることを特徴とする請求項6に記載の電気信号処理素子。
  11. 前記薄膜音叉型屈曲振動子が、前記請求項2に記載の薄膜音叉型屈曲振動子であることを特徴とする請求項6に記載の電気信号処理素子。
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