JP4691742B2 - 燃料電池用ガスセパレータおよび燃料電池、並びに燃料電池用ガスセパレータの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池用ガスセパレータおよび燃料電池、並びに燃料電池用ガスセパレータの製造方法に関し、詳しくは、単セルを複数積層して構成する燃料電池において、隣接する単セル間に設けられ、隣接する部材との間で燃料ガス流路および酸化ガス流路を形成すると共に、燃料ガスと酸化ガスとを隔てる燃料電池用ガスセパレータ、および該ガスセパレータを用いた燃料電池、並びに該燃料電池用ガスセパレータの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
燃料電池用ガスセパレータは、複数の単セルが積層された燃料電池スタックを構成する部材であって、充分なガス不透過性を備えることによって、隣り合う単セルのそれぞれに供給される燃料ガスおよび酸化ガスが混じり合うのを防いでいる。従来、このような燃料電池用ガスセパレータは、充分な導電性を有する炭素材料あるいは金属材料を用いて製造されてきた。一般に、金属材料は強度に優れているため、炭素材料を用いる場合に比べてより薄いガスセパレータを製造することが可能であり、ガスセパレータを薄くすることによって、燃料電池全体を小型化することが可能となる。
【0003】
また、燃料電池用ガスセパレータは、通常はその表面に所定の形状の凹凸構造を有し、この凹凸構造によって、燃料電池内で隣接する部材との間で、上記した燃料ガスおよび酸化ガスの流路を形成する。このような凹凸構造を有するガスセパレータを、金属材料によって製造する方法として、金属板をプレス成形する方法が提案されている(例えば、特開平7−161365号公報等)。このような製造方法によれば、プレス成形という簡便な方法によって燃料電池用ガスセパレータを製造することができるため、製造工程を簡素化・短期化して生産性を向上させ、製造コストの上昇を抑えることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金属板をプレス成形することによって、所定の形状の凹凸構造を有するセパレータを製造する場合には、細かい凹凸構造を、充分な精度で形成することが非常に困難であるという問題を生じる。また、プレス成形を行なう場合には、凹凸構造が形成される領域において、金属板の「曲げ」や「延ばし」が行なわれるため、薄い金属板を用いると、金属板の両面に形成される凹凸構造の形状が互いに制約を受けることになり、凹凸構造を設計する際の自由度が損なわれてしまう。ガスセパレータ上の凹凸構造は、燃料電池内で燃料ガスや酸化ガスの流路を形成するものであるが、このようなガス流路の形状を改良することによって、ガスの利用率を向上させることができる。このようにしてガスの利用率を向上させることで、燃料電池性能を向上させる効果が期待できるが、凹凸構造の設計の自由度が抑えられることにより、このような改良が困難となるおそれがある。プレス成形を行なう際の設計の自由度を確保するためには、用いる金属板を厚くして、両面の凹凸構造の形状が影響を受けにくくするという方法も考えられるが、このようにガスセパレータを厚くすることは、燃料電池全体の大型化を引き起こすため採用し難い。
【0005】
本発明の燃料電池用ガスセパレータおよび燃料電池、並びに燃料電池用ガスセパレータの製造方法は、こうした問題を解決し、金属板をプレスする工程を伴うことなく、凹凸形状に関する充分な設計の自由度を保持しながら、ガス流路を形成するための凹凸形状を金属製の薄板上に形成することを目的としてなされ、次の構成を採った。
【0006】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の燃料電池用ガスセパレータは、
電解質層および電極を含む部材と共に積層されて燃料電池を構成し、該燃料電池内では、表面に形成された凹凸形状によって、隣接する部材との間でガスの流路を形成する燃料電池用ガスセパレータであって、
導電性を有する板状部材からなる基板部と、
該基板部上に、導電性を有する物質としての溶融金属を直接盛りつけ固着してなるメッシュ状の凸部によって、前記凹凸形状を形成する凹凸形状形成部と
を備えることを要旨とする。
【0007】
以上のように構成された本発明の燃料電池用ガスセパレータは、導電性を有する板状部材からなる基板部と、該基板部上に、導電性を有する物質を直接盛りつけ固着してなる凸部によって、前記凹凸形状を形成する凹凸形状形成部とを備え、電解質層および電極を含む部材と共に積層されて燃料電池を構成する。この燃料電池内では、前記凸部が形成する凹凸形状によって、燃料電池用ガスセパレータと、これに隣接する部材との間でガスの流路が形成される。
【0008】
本発明の燃料電池用ガスセパレータの製造方法は、
電解質層および電極を含む部材と共に積層されて燃料電池を構成し、燃料電池内では、表面に形成された凹凸形状によって、隣接する部材との間でガスの流路を形成する燃料電池用ガスセパレータの製造方法であって、
(a)導電性を有する板状部材からなる基板部を用意する工程と、
(b)溶融した導電性物質としての溶融金属を所定のノズルを介して送り出し、前記基板部上に、前記導電性物質をメッシュ状に直接盛りつけて固着し、前記凹凸形状を形成する工程と
を備えることを要旨とする。
【0009】
このような本発明の燃料電池用ガスセパレータおよび燃料電池用ガスセパレータの製造方法によれば、ガスセパレータ表面に設けられ、燃料電池内でガスの流路を形成するための凹凸形状を、溶融した導電性物質を基板部上に盛りつけることにより形成するため、ガスセパレータ表面に設ける上記凹凸形状の設計の自由度を、充分に確保することができる。すなわち、上記凹凸形状をプレス成形により形成する場合のように、ガスセパレータの一方の面に形成する凹凸形状が、他方の面に形成する凹凸形状に影響を与えることがない。したがって、上記凹凸形状のデザインを自由に改良することができ、燃料電池内部のガスの流路を通過するガスの拡散性を向上させて、燃料電池の性能を高めることが可能となる。
【0010】
また、溶融した導電性物質を盛りつけることにより上記凹凸形状を形成するため、プレス成形によって上記凹凸形状を形成する場合に比べて、ガスセパレータを薄型化することができる。すなわち、プレス成形のための厚みを上記基板部に用意しておく必要がないため、上記基板部を充分に薄型化することができ、これによって、燃料電池全体を小型化することができる。ここで、基板部として金属板を用いるならば、基板部を薄型化しても充分な強度を確保することができる。
【0014】
以上のように構成された燃料電池用ガスセパレータによれば、セパレータ全体を軽量化することができるため、燃料電池全体を軽量化することができる。従って、燃料電池を、電気自動車の駆動用電源のように、移動用電源として用いる場合には特に有利となる。
【0018】
本発明の燃料電池は、ガスの供給を受け、電気化学反応によって起電力を得る燃料電池であって、
請求項1ないし3いずれか記載の燃料電池用ガスセパレータを備えることを要旨とする。
【0019】
このような燃料電池によれば、本発明の燃料電池用ガスセパレータを用いることで、このガスセパレータとこれに隣接する部材との間で形成されるガス流路の形状の設計の自由度が充分に確保されるため、上記ガス流路の形状の改良を行ない、燃料電池におけるガス利用率の向上を図ることが容易となる。また、用いるガスセパレータが、基板部上に溶融導電性物質を盛りつけてなるため、金属板をプレス成形してなるガスセパレータを用いる場合に比べて、より薄いガスセパレータを用いて燃料電池を構成することができ、これによって燃料電池全体を小型化することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以上説明した本発明の構成・作用を一層明らかにするために、以下本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。実施例の説明に先立って、本願発明に関連する他の態様について説明する。図1は、本願発明に関連する第1の他の態様である燃料電池を構成するセパレータ30の断面の様子を模式的に表わす説明図、図2は、同じくセパレータ30の構成を表わす平面図である。なお、図1は、図2に示したセパレータ30のA−A断面の一部分(セパレータ30の周辺部付近)の様子を表わす。
【0021】
本願発明に関連する第1の他の態様のセパレータ30は、金属板からなる基板部22と、この基板部22表面に形成され、溶融導電性物質からなる流路形成部24とを備えており、その表面にはカーボンからなる被覆層26が形成されている。また、セパレータ30を構成する基板部22には、その周辺部、すなわち四辺の近傍のそれぞれにおいて、基板部22をその厚み方向に貫通する4つの孔部が形成されている。この4つの孔部は、セパレータ30において、酸化ガス孔40,41および、燃料ガス孔42,43を形成する(図2参照)。また、基板部22の両面のそれぞれでは、その表面に段差が設けられており、この段差によって凹部が形成されている。すなわち、一方の面(図2に示した面)には凹部45が、もう一方の面には凹部46(図1参照)が形成されている。凹部45は、セパレータ30の一方の面上で酸化ガス孔40と41とを連通させる凹構造であり、凹部46は、セパレータ30の他方の面上で燃料ガス孔42と43とを連通させる凹構造である。流路形成部24は、セパレータ30が備えるそれぞれの凹部45,46上において、規則的に配置された凸状構造として形成されている。被覆層26は、セパレータ30の両方の面において、流路形成部24を含めて、基板部22の表面全体を覆って形成されている。
【0022】
基板部22を構成する金属板としては、ステンレス板を用いた。また、流路形成部24を形成する溶融導電性物質としても、ステンレスを用いた。セパレータ30は、ステンレスのような所定の金属を、ヒータによってこれが溶融する温度にまで加熱し、この溶融した金属を、金属板からなる基板部22上に盛りつけて、流路形成部24を形成してなることを特徴としている。図3は、このセパレータ30の製造工程を表わすフローチャートである。以下に、図3に基づいて、セパレータ30の製造方法について説明する。
【0023】
セパレータ30を製造するにはまず、基板部22を形成するための金属板を用意する(ステップS100)。次に、この金属板を加工して基板部22を形成する(ステップS110)。ここでは、上記金属板を打ち抜いて、酸化ガス孔40,41および燃料ガス孔42,43に相当する孔部を形成すると共に、上記金属板をプレス加工して、凹部45,46に相当する構造を形成した。
【0024】
次に、この基板部22のそれぞれの面上に、流路形成部24を形成する(ステップS120)。流路形成部24を設けるには、上記流路形成部24を形成するための金属が溶融する所定の温度(合金の種類によって異なるが、上記したようにステンレスを用いる場合には1000℃程度)にまで加熱可能なヒータと、ヒータによって溶融させた金属を吐出するノズルとを備えた金属盛りつけ装置を用いる。このヒータによって、上記金属を加熱して溶融させると共に、上記ノズルより、予め定めた所定量の溶融金属を吐出させて、基板部22上に溶融金属を盛りつける。図4に、このような金属盛りつけ装置50の構成の概略を示す。この金属盛りつけ装置50が備えるヒータ52には、半円筒形の溝54が所定の間隔で設けられており、この溝54の先端部は、それぞれノズル56となっている。流路形成部24を形成する際には、それぞれの上記溝54に対して所定量の金属が供給され、この金属が溝54内でヒータ52の熱によって溶融され、それぞれのノズル56から、基板部22上の所定の位置に吐出されて盛りつけられる。
【0025】
盛りつけられた溶融金属は、基板部22上で冷却されると共に基板部22上に接着されて、流路形成部24が形成される。ここでは、上記ヒータ52に設けられた溝54に、流路形成部24を形成するための金属を所定量送り込むことによって、上記ノズルから所定量の溶融金属を吐出させて盛りつけ、予め定めた形状の流路形成部24を形成している。このような、ヒータおよびノズルを備える装置を用いて溶融金属を盛りつける動作は、電子回路の自動はんだ付け工程に用いられる周知の技術を用いることができる。
【0026】
ここで、流路形成部24を設けるためのこのような装置が、セパレータ30の一方の面上に形成されるすべての流路形成部24のそれぞれに対応するノズルを備えることとすれば、セパレータ30の一方の面上に設けられるすべての流路形成部24を、一度に形成することができる。あるいは、流路形成部24が、図2に示すように、前後左右に所定の間隔を置いて規則的に配置されている場合には、上記した流路形成部24を設けるための装置は、セパレータ30の一方の面上に形成される流路形成部24のうちの一列分に相当するノズルを備えることとしてもよい。このような場合には、これらのノズルによって溶融金属を基板部22上に盛りつけながら、これらのノズルと基板部22との相対的な位置を所定の間隔で順次ずらすことによって、流路形成部24を形成することができる。
【0027】
上記したように流路形成部24を基板部22の両面に形成すると、次に、流路形成部24を設けた基板部22の表面に、カーボンからなる被覆層26を形成し(ステップS130)、セパレータ30を完成する。被覆層26の形成は、流路形成部24を設けた基板部22の両面に、カーボン粉末を吹き付けることによって行なった。
【0028】
このようなセパレータ30を用いて、本願発明に関連する第1の他の態様としての燃料電池は構成される。この燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、構成単位である単セルを複数積層したスタック構造を有している。図5は、本願発明に関連する第1の他の態様としての燃料電池が備える単セル28の構成を表わす分解斜視図、図6は、単セル28を積層したスタック構造14の外観を表わす斜視図である。以下に、図5および図6に基づいて、本願発明に関連する第1の他の態様としての燃料電池の構成について説明する。
【0029】
単セル28は、電解質膜31と、この電解質膜31を両側から挟持してサンドイッチ構造を形成するアノード32およびカソード33(図示せず)と、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟持する既述したセパレータ30とによって構成されている(図5参照)。ここで、電解質膜31は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本願発明に関連する第1の他の態様としての燃料電池では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電解質膜31の表面には、触媒としての白金または白金と他の金属からなる合金が塗布されている。アノード32およびカソード33は、ガス拡散電極であり、共に炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスにより形成されている。あるいは、このアノード32およびカソード33を、炭素繊維からなるカーボンペーパまたはカーボンフエルトにより形成する構成、または、発泡金属を用いて形成する構成も好適である。
【0030】
図5に示すように電解質膜31,アノード32,カソード33およびセパレータ30を積層して単セル28を形成するときには、セパレータ30上に形成された流路形成部24と凹部45,46は、隣接するガス拡散電極との間でガス流路を形成する。すなわち、凹部45と凹部45上に設けられた流路形成部24とは、隣接するカソード33の表面との間に単セル内酸化ガス流路を形成し、凹部46と凹部46上に設けられた流路形成部24とは、隣接するアノード32の表面との間に単セル内燃料ガス流路を形成する。
【0031】
また、単セル28を積層してスタック構造14を組み立てたときには、各セパレータ30が備える酸化ガス孔40,41および燃料ガス孔42,43は、それぞれ、スタック構造14内部をその積層方向に貫通する酸化ガス供給マニホールド,酸化ガス排出マニホールド,燃料ガス供給マニホールド,燃料ガス排出マニホールドを形成する。スタック構造14内に形成されたこれらガス流路内でのガスの流れについては、後に説明する。
【0032】
以上説明した各部材を備えるスタック構造14を組み立てるときには、セパレータ30、アノード32、電解質膜31、カソード33、セパレータ30の順序で順次重ね合わせる。さらに、その両端に集電板36,37、絶縁板38,39、エンドプレート80,85を順次配置して図6に示すスタック構造14を完成する。
【0033】
集電板36,37は緻密質カーボンや銅板などガス不透過な導電性部材によって形成され、絶縁板38,39はゴムや樹脂等の絶縁性部材によって形成され、エンドプレート80,85は剛性を備えた鋼等の金属によって形成されている。また、集電板36,37にはそれぞれ出力端子36A,37Aが設けられており、スタック構造14によって構成される燃料電池で生じた起電力を出力可能となっている。なお、集電板36,絶縁板38およびエンドプレート80には、スタック構造14を構成したときに、セパレータ30が備える酸化ガス孔40,41、燃料ガス孔42,43と対応する位置に、これらの孔部と重なってガス流路を形成可能となる4つの孔構造がそれぞれ設けられている。例えば、エンドプレート80には、酸化ガス孔40,41、燃料ガス孔42,43のそれぞれに対応して、孔部81〜84が設けられている(図6参照)。
【0034】
スタック構造14からなる燃料電池を動作させるときには、エンドプレート80が備える孔部83と図示しない燃料ガス供給装置とが接続され、水素リッチな燃料ガスが燃料電池内部に供給される。同様に、燃料電池を動作させるときには、孔部81と図示しない酸化ガス供給装置とが接続され、酸素を含有する酸化ガス(空気)が燃料電池内部に供給される。ここで、燃料ガス供給装置と酸化ガス供給装置は、それぞれのガスに対して所定量の加湿および加圧を行なって燃料電池に供給する装置である。また、燃料電池を動作させるときには、孔部84と図示しない燃料ガス排出装置とが接続されると共に、孔部82と図示しない酸化ガス排出装置とが接続され、これらの装置によって、燃料ガスおよび酸化ガスが燃料電池外に排出される。
【0035】
スタック構造14を構成するときの各部材の積層順序は既述した通りであるが、電解質膜31の周辺部には、セパレータ30と接する領域において所定のシール部材が設けられる(図示せず)。このシール部材は、各単セル内部から燃料ガスおよび酸化ガスが漏れ出すのを防ぐと共に、スタック構造14内において燃料ガスと酸化ガスとが混合してしまうのを防止する役割を果たす。
【0036】
以上説明した各部材からなるスタック構造14は、その積層方向に所定の押圧力がかかった状態で保持され、燃料電池が完成する。スタック構造14を押圧する構成については、本発明の要部とは関わらないため図示は省略した。スタック構造14を押圧しながら保持するには、スタック構造14をボルトとナットを用いて締め付ける構成としても良いし、あるいは所定の形状のスタック収納部材を用意して、このスタック収納部材の内部にスタック構造14を収納した上でスタック収納部材の両端部を折り曲げて、スタック構造14に押圧力を作用させる構成としても良い。
【0037】
また、図2では記載しなかったが、セパレータ30は、酸化ガスが通過するガスマニホールドを形成するための酸化ガス孔40,41、および、燃料ガスが通過するガスマニホールドを形成するための燃料ガス孔42,43の他に、冷却水が通過する冷却水マニホールドを形成するための孔部も備えている。燃料電池で進行する電気化学反応では、燃料電池に供給される燃料中の化学エネルギが電気エネルギに変換されるが、化学エネルギから電気エネルギへの変換は完全に行なわれるわけではなく、電気エネルギに変換されなかった残りのエネルギは熱として放出される。このように、燃料電池は発電と共に発熱を続けるため、燃料電池の運転温度を望ましい範囲内とするために、通常は燃料電池内に冷却水の流路を設け、燃料電池内に冷却水を通過させることによって余分な熱を取り除いている。燃料電池内部をその積層方向に貫通して設けられる冷却水マニホールドを形成するための孔部は、セパレータ30を製造する際に、金属板を打ち抜いて酸化ガス孔40,41、燃料ガス孔42,43と同時に形成される(図3ステップS110参照)。
【0038】
次に、以上のような構成を備えた燃料電池における燃料ガスおよび酸化ガスの流れの様子を説明する。既述した燃料ガス供給装置から供給された燃料ガスは、セパレータ30が備える燃料ガス孔42が形成する燃料ガス供給マニホールドを介して、各単セル28に分配される。各単セル28に分配された燃料ガスは、凹部46および流路形成部24と、アノード32とによって形成される単セル内燃料ガス流路を通過しつつ、ガス拡散電極であるアノード32を介して、電解質膜31に塗布された触媒上で進行する電気化学反応に供される。このとき、単セル内燃料ガス流路を通過する燃料ガスは、流路形成部24の側面に衝突することによって効果的に拡散され、これによって充分量の燃料ガス(水素)が上記触媒にまで到達する。単セル内燃料ガス流路を通過した燃料ガスは、燃料ガス孔43が形成する燃料ガス排出マニホールドに集合して、燃料ガス排出装置に排出される。
【0039】
また、酸化ガス供給装置から供給された酸化ガスは、セパレータ30が備える酸化ガス孔40が形成する酸化ガス供給マニホールドを介して、各単セル28に分配される。各単セル28に分配された酸化ガスは、凹部45および流路形成部24と、カソード33とによって形成される単セル内酸化ガス流路を通過しつつ、ガス拡散電極であるカソード33を介して、電解質膜31に塗布された触媒上で進行する電気化学反応に供される。ここでも、単セル内酸化ガス流路を通過する酸化ガスは、流路形成部24の側面に衝突することによって、効果的に拡散される。単セル内酸化ガス流路を通過した酸化ガスは、酸化ガス孔41が形成する酸化ガス排出マニホールドに集合して、酸化ガス排出装置に排出される。
【0040】
以上のように構成された本願発明に関連する第1の他の態様としてのセパレータ30およびセパレータ30の製造方法によれば、セパレータ30上に設けられ、単セル内ガス流路を形成するための凸構造である流路形成部24は、基板部22上に溶融金属を盛りつけることによって形成するため、セパレータ30の両面のそれぞれに形成される流路形成部の形状が互いに制約を受けることがなく、流路形成部の設計に関する自由度を充分に確保することができる。流路形成部の設計に関わる自由度が増すことによって、流路形成部の形状および配置を効果的に改良して、単セル内ガス流路から電解質膜方向へのガスの拡散性を向上させ、セパレータ30を備える燃料電池におけるガスの利用率を向上させることが可能となる。
【0041】
また、セパレータ30の製造方法によれば、ヒータおよびノズルを備えた金属盛りつけ装置を用いて溶融金属を盛りつけることによって、流路形成部24を形成するため、従来知られるセパレータの製造方法、例えば、金属板や炭素材料をプレス成形する方法や、機械加工による削り出しなどの方法に比べて容易に、また充分な精度で、細かい流路形成部24を形成することができる。すなわち、ヒータで加熱して溶融した金属を盛りつけて、基板部22上に流路形成部24を固着させるという簡素な製造工程でセパレータを製造することができる。また、金属板をプレス成形する場合のように、金属の曲げや延ばしを考慮する必要がないため、基板部22を形成するために充分に薄い金属板を用いることができ、燃料電池全体を小型化することができる。
【0042】
上記した本願発明に関連する第1の他の態様では、基板部22を構成する金属板も、流路形成部24を形成するために用いる溶融金属も、共にステンレスを用いたが、異なる材料を用いて基板部22および流路形成部24を形成することとしてもよい。基板部22を構成する金属板は、充分な導電性および強度と、所定の耐食性を有していれば他の材料によって形成することとしてもよく、流路形成部24を形成する溶融金属としては、充分な導電性および所定の耐食性を有していれば他の材料を用いることとしても良い。ここで、流路形成部24を形成する金属としては、既述した金属盛りつけ装置が備えるヒータを用いて加熱して溶融させることができる金属であればよい。また、基板部22を構成する金属板は、溶融した上記金属を盛りつける際に、この溶融した金属の温度に耐える材料で形成されていればよい。特に、基板部22と流路形成部24とを同じ材料によって形成すれば、両者の間の接触抵抗を低減することができ、このようなセパレータ30を用いて構成した燃料電池の内部抵抗を抑えることができる。
【0043】
上記セパレータ30は、その表面に、カーボンからなる被覆層26を形成しているため、非常に優れた耐食性を実現することができる。カーボンは、導電性、耐食性共に非常に優れており、セパレータ30を被覆する材料として優れている。特に、上記燃料電池では、セパレータ30に隣接して配設するガス拡散電極(アノード32およびカソード33)もカーボンによって形成されているため、両者の間の接触抵抗が小さくなるという効果も得られる。さらに、セパレータ30とガス拡散電極との接触部が共にカーボンからなることによって、カーボンと金属とを接触させる場合のように部分的に電池を形成してしまうおそれがなく、燃料電池の使用中にセパレータ表面の耐食性が低下してしまうおそれもない。
【0044】
ここで、セパレータ30の耐食性および燃料電池の内部抵抗が、充分に許容範囲となるならば、上記被覆層26を、他の材料、例えば、チタンやニッケルなど耐食性に優れた金属によって形成することとしてもよい。あるいは、基板部22や流路形成部24を、上記したように充分に耐食性に優れた材料で形成することとすれば、被覆層26は設けないこととしても良い。なお、流路形成部24を形成する金属として、既述したステンレスやチタン、ニッケルを含む合金を用いることとすれば、ある程度の耐食性を実現することができると共に、合金化のために用いる金属によっては、上記ステンレスやチタン、ニッケルよりも低い温度で金属を溶融させて、盛りつけの動作を行なうことが可能となる。
【0045】
さらに、基板部22は、金属以外の部材によって形成することとしても良く、溶融金属を盛りつけることによりその表面に溶融金属を充分な強度で接着することができればよい。あるいは、溶融金属との間で充分な接着性を確保するために、溶融金属を盛りつけるのに先立って、基板部22の表面にさらに所定の表面処理を施すこととしても良い。また、流路形成部24も、充分な導電性を有すると共に、基板部22上に充分な強度で接着可能であり、充分な耐食性を確保することができるならば、金属以外の溶融導電性物質によって形成することとしても良い。基板部22あるいは流路形成部24を形成する金属以外の材料としては、例えば導電性樹脂を用いることができ、この中から上記した条件に適合するものを選択すればよい。
【0046】
上記した本願発明に関連する第1の他の態様では、金属板を加工して凹部45,46などの構造を有する基板部22を形成する際に、プレス成形を行なうこととしたが、基板部22の凹凸形状を、他の方法によって形成することとしても良い。例えば、鋳造や鍛造などによって基板部22を形成することとしてもよい。
【0047】
また、基板部22において、対向する燃料ガス孔あるいは酸化ガス孔を連通させる流路を形成するために、凹部45,46のような凹部を形成する代わりに、溶融金属の盛りつけにより形成した凸構造を形成することとしてもよい。このような構成の一例を、セパレータ130として図7に示す。なお、図7に示したセパレータ130は、既述したセパレータ30と同様の燃料電池に用いられるセパレータであり、セパレータ30と共通する構成については同じ部材番号を付して詳しい説明は省略する。
【0048】
セパレータ130は、流路形成部24と同様に溶融金属を盛りつけることによって、セパレータ30において凹部45,46が形成される境界となる位置と対応する位置に、凸構造である流路形成部128を設けて、この凸構造によって、対向する燃料ガス孔あるいは酸化ガス孔の間でガスを導き、単セル内ガス流路を形成している。なお、図7では、セパレータ130の一方の面側だけを示しており、酸化ガス孔40,41を連通させるガス流路を形成する流路形成部128が表わされているが、セパレータ130の裏面にも、燃料ガス孔42,43を連通させるガス流路を形成する同様の凸構造である流路形成部128が設けられている。
【0049】
このような流路形成部128は、既述した流路形成部24と同様に、ヒータおよびノズルを備える金属盛りつけ装置を用いて、平板上の基板部122上に溶融金属を盛りつけることによって形成することができる。このような構成とすることによって、金属板をプレス成形する工程をなくすことができるため、製造工程を簡素化することができる。さらに、凹部を形成するためのプレス成形も不要となるため、より薄い金属板を用いてセパレータ30を形成することができ、燃料電池全体をさらに小型化することが可能となる。
【0050】
また、溶融金属を盛りつけた凸構造によって、上記した単セル内ガス流路を通過するガスを拡散させるための流路形成部24や、単セル内ガス流路を形成する領域を規定する流路形成部128を形成するほかに、単セル内ガス流路の形状を規定するための凸構造を形成することとしても良い。この場合には、縦横に走る線状に溶融金属の盛りつけを行なうことにより、任意の形状の単セル内ガス流路を形成することができる。このようなセパレータの一例を、セパレータ230として図8に示す。なお、セパレータ230において、セパレータ30およびセパレータ130と共通する部分には同じ部材番号を付して詳しい説明は省略する。
【0051】
図8は、セパレータ230の構成を表わす平面図である。セパレータ230は、既述したセパレータと同様に、単セル内ガス流路を通過するガスを攪拌するための流路形成部24を備えるほかに、これと同様に溶融金属を盛りつけて形成した流路形成部228を備えている。流路形成部228は、セパレータ230上において折れ曲がった流路を形成しており、セパレータ230を用いて形成した燃料電池では、それぞれの単セルに分配された酸化ガスは、この流路形成部228が形成する折れ曲がった形状の流路を通過し、酸化ガス孔240が形成する酸化ガス供給マニホールドから、酸化ガス孔241が形成する酸化ガス排出マニホールドへ導かれる。なお、図8ではセパレータ230の一方の面だけを示したが、他方の面にも同様の流路形成部228が設けられている。他方の面の流路形成部228は、燃料ガス孔242と243とを連通させ、単セル内で燃料ガスを折れ曲がった経路で導く単セル内燃料ガス流路を形成する。このように、基板部222上に溶融金属を盛りつけることにより、ガスを攪拌するための凸構造を形成する以外に、単セル内ガス流路の形状を任意に設けることができる。
【0052】
なお、図7に示したセパレータ130および図8に示したセパレータ230では記載を省略したが、これらのセパレータのように、溶融金属を盛りつけた凸構造によって単セル内ガス流路の形状を規定する場合には、さらに、酸化ガス孔および燃料ガス孔の周辺にも、溶融金属を盛りつけた凸構造を設けることとすればよい。このように、酸化ガス孔および燃料ガス孔の周辺にも、溶融金属を盛りつけた凸構造を形成するならば、基板部をプレス成形して凹凸を形成することなしに、この凸構造によって、セパレータとこれに隣接する部材との間のガスシール性を充分に確保するための構造を設けることが可能となる。
【0053】
上記したように、基板部上に溶融金属を盛りつけて、種々の形状の流路形成部を設けるときには、用いる溶融金属の種類に応じて、盛りつけに用いるノズルの形状およびノズルが備えるヒータの形状を定めることが望ましい。また、金属を溶融させる際のヒータの温度を調節することで、盛りつけの際の溶融金属の粘性を調節することができる。図9は、盛りつけられた金属の形状を表わす断面模式図である。すなわち、基板部上に溶融金属の盛りつけを行なうと、盛りつけられた金属は、底面側に比べて頭頂部の方が細く尖るという形状を呈するが(図9(A)参照)、ヒータの温度を下げて溶融金属の粘性を増すことによって、盛りつけられた金属の頭頂部が底面側に比べて細く尖った形状になるのを抑えることができる(図9(B)参照)。溶融金属の粘性を高めて、盛りつけた金属の形状をこのように変えると、溶融金属によって形成される流路形成部と、セパレータに隣接する部材(ガス拡散電極)との接触面積を増し、セパレータとこれに隣接する部材との間の接触抵抗を低減することができる。
【0054】
また、溶融金属を基板部上に盛りつけた後で、盛りつけた溶融金属の頭頂部を機械的に削り取り、流路形成部の頭頂部を機械的に平らに形成することとしてもよい。このようにすることによって、流路形成部の頭頂部を充分に平坦化して、隣接する部材との間の接触面積を充分に確保することができる。また、頭頂部を削る工程を加えることにより、各流路形成部の高さを揃えることができる。盛りつけの際の溶融金属の粘性を調節し、所定量の溶融金属を盛りつけることで、充分な精度で、均一な高さの流路形成部を形成することが可能であるが、上記したように、さらに機械加工を加えて、流路形成部の高さの均一性の精度を高めることとしてもよい。
【0055】
基板部上に溶融金属を盛りつけて流路形成部を形成する際に、溶融金属をメッシュ状となるように盛りつける構成も好適である。このような構成を実施例として以下に示す。図10は、実施例のセパレータ330の表面に形成された流路形成部324の様子を表わす説明図である。なお、図10では、基板部322上に流路形成部324が形成された領域のみを表わしているが、このセパレータ330は、セパレータ30と同様に、酸化ガス孔40,41、燃料ガス孔42,43を備えており、流路形成部24と同様にこれらの孔を連通させる凹部45,46上に、図10に示した流路形成部324が形成されている。
【0056】
セパレータ330では、図10に示すように、溶融金属がメッシュ状となるように盛りつけることによって流路形成部424を形成している。このような流路形成部324は、溶融金属が充分な粘性を示すように金属盛りつけ装置のヒータの温度を調節した上で、金属盛りつけ装置が備えるノズルを波形に上下させながら移動させつつ、溶融金属を吐出させることによって、基板部322上に形成する。なお、図10では記載を省略しているが、流路形成部424において、既述した本願発明に関連する第1の他の態様の流路形成部と同様に、被覆層をその表面に設けることとすれば、流路形成部424の耐食性を向上させることができる。
【0057】
以上のように構成された実施例のセパレータ330によれば、既述したセパレータ30と同様の効果に加えて、さらに以下のような効果を奏する。すなわち、流路形成部324がメッシュ状に形成されており、流路形成部424の内部に所定の空隙が設けられているため、セパレータ330全体をより軽量化することができる。したがって、このようなセパレータ330を用いることで、燃料電池全体をより軽量化することができる。燃料電池を軽量化できることは、燃料電池を、電気自動車の駆動用電源として車載する場合のように、重量に制限のある移動用電源として用いる場合には特に有利となる。なお、メッシュ状に形成される流路形成部324の形状は、図10に示した形状に限るものではない。既述した金属盛りつけ装置が備えるノズルから、溶融金属を吐出させて盛りつけることによって形成可能な形状であればよく、内部に所定の空隙を設けることで、上記した効果を得ることができる。
【0058】
なお、上記実施例では、溶融金属を盛りつける際のノズルの動作と溶融金属の粘性とを調節することによって、流路形成部324をメッシュ状に形成することとしたが、溶融金属の盛りつけに先立って、まず基板部上に所定の充填材を盛りつけ、この充填材の上に溶融金属を盛りつけた後に、充填材を除去することによって、内部に所定の空隙を有する流路形成部を形成することとしてもよい。図11は、このようなセパレータ430の製造工程を表わす説明図である。
【0059】
セパレータ430を製造するには、まず、セパレータ30における基板部22と同様の基板部422を用意し、この基板部422上に、充填部421を形成する(図11(A)参照)。この充填部421は、既述した実施例における溶融金属の盛りつけの動作と同様の動作によって、基板部422上に樹脂を盛りつけたものである。なお、ここで用いる樹脂は、後述する流路形成部424の盛りつけの動作の際の溶融金属の温度に対する耐熱性を有し、さらに、流路形成部424を形成した後にこの充填部421を除去する操作が可能なものである。
【0060】
基板部422上に充填部421を形成すると、次に、既述した実施例と同様に溶融金属を盛りつけることによって、それぞれの充填部421上に、流路形成部424を形成する(図11(B)参照)。流路形成部424を形成すると、充填部421を除去する処理を行なって、セパレータ430を完成する(図11(C)参照)。ここで、充填部421の除去は、充填部421を構成する樹脂の種類に応じた溶剤を用いて、充填部421を構成する樹脂を溶解させるという化学処理によって行なうこととすればよい。
【0061】
また、上記したセパレータ430では、充填部421は、流路形成部424の形成後に除去することとしたが、この充填部を導電性材料によって形成するならば、充填部の除去は行なわないこととしてもよい。例えば、充填部421を導電性樹脂によって形成し、この導電性樹脂の導電性がセパレータの構成材料として充分であれば、充填部421を設けたままセパレータ430を完成させることとしてもよい。このような場合にも、流路形成部424の内部が、流路形成部424を構成する金属よりも軽量な樹脂によって形成されるため、セパレータ430全体をより軽量化することができる。このように、セパレータ430において、充填部421を除去する場合も除去しない場合も、実施例のセパレータ330と同様に、セパレータを軽量化することによる所定の効果を得ることができる。なお、流路形成部424の表面に、セパレータ30における被覆層26と同様の被覆層を設ければ、セパレータの耐食性をさらに向上させることができる。
【0062】
さらに、セパレータを軽量化する構成として、流路形成部を多孔質の金属によって形成することとしてもよい。このような構成を本願発明に関連する第2の他の態様として以下に説明する。本願発明に関連する第2の他の態様のセパレータ530の構成を、図12に表わす。セパレータ530は、セパレータ30と同様に、基板部22と同様の基板部522上に、溶融金属を盛りつけることによって流路形成部524を形成しているが、ここでは、第1の他の態様とは異なり、流路形成部524を多孔質の金属によって形成する。流路形成部524を多孔質にするために、第2の他の態様では、予め、流路形成部524を形成するための金属に、第2の成分を混合している。金属に混合する第2の成分は、流路形成部524を形成する金属と共にこの金属が溶融する第1の温度に昇温すると、上記金属と充分に均一に混合可能であって、さらに第1の温度よりも高い第2の温度に上昇させることによって、上記金属中に分散した状態で蒸発させる(あるいは分解して気化させる)ことができるものである。したがって、上記第2の成分と上記溶融金属とが混合された状態で、この第2の成分が蒸発する温度に昇温して溶融金属を基板部上に盛りつけることによって、内部に多数の気泡が形成された状態で溶融金属を盛りつけることができ、これによって、多孔質な流路形成部524を形成することができる。
【0063】
以上のように形成されたセパレータ530によれば、既述した実施例と同様に、溶融金属を盛りつけることによって流路形成部を形成するため、流路形成部の形状の設計の自由度が確保されると共に、セパレータを薄型化できるという効果と、流路形成部が多孔質であることによって、実施例と同様にセパレータが軽量化できるという効果の他に、さらに以下のような効果を奏する。すなわち、流路形成部524が多孔質であることによって、この多孔質の流路形成部によって、単セル内ガス流路で生じた生成水を吸収したり、吸収した生成水をガス中に蒸発させて単セル内ガス流路を通過するガスの湿度を調節したりすることが可能となる。ここで、燃料電池内で生じる生成水およびガスにおける湿度調節について説明する。燃料電池は、アノード側に水素を含有する燃料ガスの供給を受け、カソード側に酸素を含有する酸化ガスの供給を受けて、電気化学反応によって起電力を得るが、以下に、この電気化学反応を示す。
【0064】
H2 → 2H++2e- …(1)
(1/2)O2+2H++2e- → H2O …(2)
H2+(1/2)O2 → H2O …(3)
【0065】
(1)式はアノードにおける反応、(2)式はカソードにおける反応を表わし、燃料電池全体では(3)式に示す反応が進行する。このように、電気化学反応が進行する際には、カソード側において水が生じる。カソード側で生じた水は、単セル内酸化ガス流路を通過する酸化ガス中に蒸発するが、燃料電池内を通過する酸化ガスの温度が部分的に低下したときなどは、酸化ガスの飽和蒸気圧が低下して生成水が凝縮することがある。このように凝縮した生成水が、単セル内酸化ガス流路に滞留すると、ガスの流路を塞ぎ、電気化学反応が円滑に進行するのを妨げてしまうおそれがある。本願発明に関連する第2の他の態様のように、流路形成部524を多孔質とすれば、単セル内酸化ガス流路内で生成水が凝縮しても、これを多孔質の流路形成部524によって吸収することができ、凝縮した生成水がガス流路を塞いでしまうのを防止することができる。
【0066】
このような効果は、単セル内酸化ガス流路だけでなく、単セル内燃料ガス流路においても得ることができる。上記したように、電気化学反応によって生成水が生じるのはカソード側だけであるが、アノード側に供給する燃料ガスは、電解質膜の乾燥を防ぐ目的で、通常は加湿を行なっている。このように加湿を行なった上で燃料ガスを供給することにより、単セル内燃料ガス流路においても、凝縮水が生じるおそれがあるが、流路形成部524を多孔質とすることによって、生じた凝縮水を吸収することができ、凝縮水によって燃料ガスの流れが妨げられるのを防止することができる。
【0067】
さらに、多孔質の流路形成部524は、吸収した凝縮水をガス中に蒸発させることによって、単セル内ガス流路を通過するガスの湿度が充分となるように調節するという機能を実現することが可能である。燃料電池では、各電極に供給されるガス流量が多いときには、アノード側はもとより、生成水が生じるカソード側においても、ガスによって電解質膜から水分が持ち去られることがあり、電解質膜が乾いて電池性能が低下してしまうのを防ぐために、単セル内ガス流路を通過するガスは充分な湿度を有していることが望ましい。本願発明に関連する第2の他の態様では、ガス流路中に生じた余分な凝縮水が流路形成部524に吸収されており、この吸収された凝縮水は、燃料電池内の温度に応じた飽和蒸気圧までは、単セル内ガス流路を通過するガス中に蒸発してゆく。したがって、流路形成部524を多孔質として、生じた凝縮水をこの流路形成部524に吸収させることによって、単セル内ガス流路を通過する燃料ガスおよび酸化ガスの湿度を、常に、飽和蒸気圧に近い状態に保ち、電解質膜が乾燥してしまうのを防ぐことができる。このように、流路形成部524を多孔質にする場合には、流路形成部524を形成するときに溶融金属に混合する既述した第2の成分の種類や量などを調節して、溶融金属内に形成される気泡の大きさや量を適当に調節することで、単セル内ガス流路中の凝縮水の吸収や、ガスの湿度の調節を良好に行なうことが可能となる。
【0068】
なお、既述した実施例および本願発明に関連する他の態様では、流路形成部はセパレータの両面に形成することとしたが、スタック構造端部に配設するセパレータでは、その一方の面にのみ流路形成部を設けることとしてもよい。また、セパレータにおいて、その一方の面上には、上記した燃料ガスまたは酸化ガスの通過する単セル内ガス流路を形成する流路形成部を設けることとし、他方の面上には、既述した冷却水の流路を形成するための凹凸構造を形成することとしてもよい。このような場合にも、溶融金属を盛りつけて流路形成部を設けることによる所定の効果を得ることができる。
【0069】
また、上記した実施例のセパレータは、固体高分子型燃料電池を構成するために用いたが、異なる種類の燃料電池を構成するために用いることとしてもよい。燃料電池の動作条件下で安定な材料によってセパレータが構成されていれば、既述した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0070】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる様態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明に関連する第1の他の態様であるセパレータ30の断面の様子を模式的に表わす説明図である。
【図2】 セパレータ30の構成を表わす平面図である。
【図3】 セパレータ30の製造工程を表わすフローチャートである。
【図4】 金属盛りつけ装置の構成を表わす説明図である。
【図5】 単セル28の構成を表わす分解斜視図である。
【図6】 単セル28を積層したスタック構造14の外観を表わす斜視図である。
【図7】 セパレータ130の構成を表わす平面図である。
【図8】 セパレータ230の構成を表わす平面図である。
【図9】 基板部上に盛りつけられた金属の様子を表わす断面模式図である。
【図10】 セパレータ330の表面に形成された流路形成部324の様子を表わす説明図である。
【図11】 セパレータ430の製造工程を表わす説明図である。
【図12】 セパレータ530の構成を表わす説明図である。
【符号の説明】
14…スタック構造
22,122,222,322,422,522…基板部
24,324,424,524…流路形成部
26…被覆層
28…単セル
30,130,230,330,430,530…セパレータ
31…電解質膜
32…アノード
33…カソード
36,37…集電板
36A,37A…出力端子
38,39…絶縁板
40,41…酸化ガス孔
42,43…燃料ガス孔
45,46…凹部
50…金属盛りつけ装置
52…ヒータ
54…溝
56…ノズル
80,85…エンドプレート
81〜84…孔部
128,228…流路形成部
240,241…酸化ガス孔
242,243…燃料ガス孔
421…充填部
Claims (5)
- 電解質層および電極を含む部材と共に積層されて燃料電池を構成し、該燃料電池内では、表面に形成された凹凸形状によって、隣接する部材との間でガスの流路を形成する燃料電池用ガスセパレータであって、
導電性を有する板状部材からなる基板部と、
該基板部上に、導電性を有する物質としての溶融金属を直接盛りつけ固着してなるメッシュ状の凸部によって、前記凹凸形状を形成する凹凸形状形成部と
を備えることを特徴とする燃料電池用ガスセパレータ。 - 請求項1記載の燃料電池用ガスセパレータであって、
前記基板部は、金属によって形成されている
燃料電池用ガスセパレータ。 - 請求項1または2記載の燃料電池用ガスセパレータであって、
前記メッシュ状の凸部は、内部に空隙を有すると共に互いに離間して設けられた複数の凸部によって構成されている
燃料電池用ガスセパレータ。 - ガスの供給を受け、電気化学反応によって起電力を得る燃料電池であって、
請求項1ないし3いずれか記載の燃料電池用ガスセパレータを備える
燃料電池。 - 電解質層および電極を含む部材と共に積層されて燃料電池を構成し、燃料電池内では、表面に形成された凹凸形状によって、隣接する部材との間でガスの流路を形成する燃料電池用ガスセパレータの製造方法であって、
(a)導電性を有する板状部材からなる基板部を用意する工程と、
(b)溶融した導電性物質としての溶融金属を所定のノズルを介して送り出し、前記基板部上に、前記導電性物質をメッシュ状に直接盛りつけて固着し、前記凹凸形状を形成する工程と
を備える燃料電池用ガスセパレータの製造方法。
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