JP4691495B2 - コロナウイルススパイクs1融合蛋白及びその発現ベクター - Google Patents

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Description

本発明は、コロナウイルスエンベロープのスパイク蛋白にウイルス由来の特定のペプチドを付加した融合蛋白及び当該融合蛋白を発現させるための発現ベクターに関する。より詳細には、コロナウイルススパイク蛋白S1のC末側にウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチド、好ましくはニューカッスル病ウイルス(NDV)F蛋白のトランスメンブレン領域のペプチドを付加した融合蛋白、コロナウイルススパイク蛋白S1のC末側にスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドを付加した融合蛋白、当該融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクター、及び当該発現ベクターをコロナウイルスワクチンの主成分として使用する方法に関する。
鶏伝染性気管支炎ウイルス(以下、「IBV」と称することもある)はコロナウイルス科に属する1本鎖のRNAをゲノムとして有するウイルスで、エンベロープを保有する。エンベロープ上には、スパイク蛋白と呼ばれる膜蛋白が存在するが、本蛋白は、S1及びS2と呼ばれる二つのサブユニットで構成されており、この構造は、コロナウイルスに共通している。ウイルス複製時には、スパイク蛋白は、一本のプレカーサー蛋白として合成された後、サブユニットS1及びS2に切断される。この切断は、ウイルスの感染性獲得に必要である。それぞれのサブユニットは、異なる性状を有する。N末側のS1は細胞への吸着、中和抗体の誘導及びウイルスの血清型を決定する機能を有する。一方、C末側のS2は、主としてS1をウイルスエンベロープに固定する役目を担う(非特許文献1、4、5、6)。
鶏が自然宿主であるIBVは、伝播力が非常に強いために養鶏産業を営むほとんどの国々で発生・蔓延している。感染鶏の鼻汁、涙、口腔粘液、糞便に多量のウイルスが含まれており、これらが感染源になる。ウイルス抗原は変異しやすく、多数の抗原性の異なるウイルス株が存在するため鶏群は繰り返し感染を受ける。症状としては、呼吸器症状、産卵率の低下や異常卵の産出などの産卵障害、腎炎、下痢などが認められる。幼齢なものほど症状が激しく、死亡率も高い。また、マイコプラズマや大腸菌などとの合併症による発育障害や、幼雛期の感染で多数の無産卵鶏が出現するなど経済的な被害が大きい。血清型と病型の間には明らかな関係は認められていない。組織学的には、気管、腎臓、卵管等の上皮細胞が変性破壊される。
鶏伝染性気管支炎(以下、「IB」と称することもある)の発生をコントロールするために、養鶏場において種々の生ワクチン及び不活化ワクチンが使用されているが、生ワクチンは、病原性復帰による病原性獲得や野外のウイルスとの組換えによる新たな流行株出現の引き金となるなど、その使用においては問題点も少なくない。このような現象は他のコロナウイルス科に属するウイルスにおいても同様に起こり得ることであり、コロナウイルス感染症に対する従来型のワクチンは、上記の問題を内包しているといえる。
近年、このような課題を克服するために、遺伝的により安定なDNAウイルスをベクターとする組換え生ワクチンの研究が行なわれている。例えば、Johnsonらは、アデノウイルスプロモータの下流にIBVのS1サブユニット遺伝子を結合させた発現カセットをアデノウイルスゲノムに挿入した組換え生ワクチンを作出し、これを鶏に免疫した後、IBVの強毒株で攻撃し、そのワクチンとしての効果を調べた。その結果、ある程度の防御効果は認められるものの、S1に対する特異抗体は、アデノウイルスに対する抗体価に比べ、非常に低いものであったことを報告しており、また中和抗体の誘導については言及されていない(非特許文献1参照)。
Wangらは、ポックスウイルスゲノムにS1サブユニット遺伝子を組み込んだ組換え生ワクチンを作出し、鶏における免疫効果を調べた。彼等の報告によると、この組換え生ワクチンを免疫された鶏では、臨床症状、回収された攻撃ウイルス量及び組織の損傷が非免疫群に比べて軽減されたが、やはりワクチンによる中和抗体の誘導は認められていない(非特許文献3)。
目的遺伝子をプラスミドなどの発現ベクターに組み込んだDNAワクチンの研究も行われている。例えば、Kapczynskiらは、サイトメガロウイルスプロモーターの下流にIBVのS1サブユニットをコードする遺伝子を結合した発現ベクターを作製し、これを鶏に投与し、DNAワクチンとしての効果を調べた。DNAワクチンは、ウイルスベクターと異なり体内では増殖しないことから、安全性の点からより有望なワクチンの形態であるといえる。DNAワクチンを単独で免疫後、強毒ウイルスで攻撃した場合には、ワクチンを大量投与された鶏にのみに臨床症状がなく、攻撃ウイルスも再回収されなかったが、この場合もワクチンによる中和抗体の惹起は認められていない(非特許文献2)。
このようにエンベロープを構成するスパイク蛋白の一部、すなわち、S1サブユニットをコードする遺伝子のみを組み込んだウイルスベクターワクチン又はDNAワクチンを免疫することにより一応の成果は得られるものの、従来の方法では、有効な中和抗体の誘導がなされていない。野外の条件下でワクチンを用いる場合、実験室に比べて有効性が低下することは経験的によく知られており、より効果的且つ十分な免疫効果を上げるために更なる改良が望まれる。そのためには、細胞性免疫だけでなく、液性免疫を十分に惹起させることが重要である。IBVに関していえば、より高い中和抗体価や細胞性免疫を獲得するには、IBVのエンベロープの構成要素であるS1及びS2の両サブユニットを発現させることが好ましいと考えられる。しかしながら、これらを一本のSプレカーサー蛋白として発現させるには、サイズが大き過ぎ、効率的ではない。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来のようにコロナウイルススパイク蛋白S1を単独で発現させるのではなく、当該スパイク蛋白S1のC末側に特定のペプチドを付加させ、融合蛋白(以下、「コロナスパイクS1融合蛋白」と称することもある)とすることによって、当該融合蛋白がコロナウイルスに対する高い中和抗体を惹起することができることを見出した。当該融合蛋白は、当該融合蛋白をコードする遺伝子を発現ベクターに組み込み、当該発現ベクターから当該融合蛋白を発現させることによって得ることができる。本発明に従い、コロナスパイクS1融合蛋白又はコロナスパイクS1融合蛋白をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターのいずれかを宿主に投与することにより、コロナウイルスに対する中和抗体を効率的に惹起することができる。従って、かかるコロナスパイクS1融合蛋白又はコロナスパイクS1融合蛋白をコードする遺伝子を組み込んだ発現ベクターは、目的コロナウイルスに対するワクチン抗原として使用することができる。
具体的には、本発明は、以下に示す、コロナスパイクS1融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターを提供するものである。
1.コロナウイルスのスパイク蛋白S1のC末側にウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチドを付加した融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクター。
2.前記ペプチドが、鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)のスパイク蛋白又はニューカッスル病ウイルス(以下、「NDV」と称することもある)のF蛋白のいずれかのトランスメンブレン領域のペプチドである、上記1記載の発現ベクター。
3.前記ペプチドをコードする塩基配列が、それぞれ配列番号1の3200〜3418番目又は配列番号3記載の配列である、上記2記載の発現ベクター。
4.コロナウイルスのスパイク蛋白S1のC末側にスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドを付加した融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクター。
5.前記ペプチドをコードする塩基配列が配列番号1の第1568〜1636番目記載の配列である、上記4記載の発現ベクター。
6.発現ベクターが、プラスミド又はウイルスベクターである上記1ないし5の何れか一項記載の発現ベクター。
7.前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、ポックスウイルス及びマレック病ウイルスからなる群より選ばれることを特徴とする上記6記載の発現ベクター。
8.前記コロナウイルスがIBVである上記1ないし7の何れか一項記載の発現ベクター。
本発明はさらに、以下に示す、コロナスパイクS1融合蛋白を提供する。
9.コロナウイルスのスパイク蛋白S1のC末側にウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチドを付加した融合蛋白。
10.前記ペプチドが、鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)のスパイク蛋白又はニューカッスル病ウイルス(NDV)のF蛋白のいずれかのトランスメンブレン領域のペプチドである、上記9記載の融合蛋白。
11.前記ペプチドが、それぞれ配列番号1の3200〜3418番目又は配列番号3記載の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を有する、上記10記載の融合蛋白。
12.コロナウイルスのスパイク蛋白S1のC末側にスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドを付加した融合蛋白。
13.前記ペプチドが、配列番号1の第1568〜1636番目記載の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を有する、上記12記載の融合蛋白。
14.前記コロナウイルスがIBVである上記9ないし13の何れか一項記載の融合蛋白。
また、本発明は、上記発現ベクターをコロナウイルスワクチンの主成分として使用する方法を提供するものである。更に、本発明は、上記の発現ベクターの何れかにより形質転換した宿主から得られる組換えコロナスパイクS1融合蛋白、及び当該コロナスパイクS1融合蛋白をコロナウイルスワクチンの主成分として使用する方法を包含する。
本発明によれば、IBVスパイク蛋白S1のC末側に、ウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチド又はIBVスパイクS2蛋白のN末側領域のペプチドを付加した新規な融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターが提供される。当該発現ベクターは、宿主に免疫されたときにIBVスパイク蛋白S1単独ではみられない高レベルの中和抗体を惹起する。従って、本発明の発現ベクターを用いることにより、IBVスパイク蛋白S1の免疫原性を高める方法が提供される。
本発明の発現ベクターで動物細胞を形質転換することにより、当該動物細胞にIBVスパイクS1融合蛋白を生産させることができる。また、本発現ベクター中のIBVスパイクS1融合蛋白遺伝子を他の発現ベクターに組み込むことにより、種々の宿主(例えば、細菌、昆虫細胞、酵母など)にIBVスパイクS1融合蛋白を生産させることができる。得られるIBVスパイクS1融合蛋白は、高い中和活性を誘導することができる抗原として使用される。
本発明は、IBVに限らず、他のコロナウイルスのスパイク蛋白S1に適用することができ、スパイク蛋白の免疫原性を高める方法として使用することができる。
図1は、pCAGnTM23Sの構築手順を示す。
図2−1は、pCAGG-LgAs-S1の構築手順を示す。
図2−2は、pCAGG-LgAs-S1の構築手順(続き)を示す。
図3−1は、pCAGG-LgAs-S1Ftmの構築手順を示す。
図3−2は、pCAGG-LgAs-S1Ftmの構築手順(続き)を示す。
図4は、pCAGG-LgAs-S1(1)の構築手順を示す。
図5は、pKA4BPの構築手順を示す。
図6は、pKA4BP-LgAsS1の構築手順を示す。
図7は、pKA4BP-LgAsS1Ftmの構築手順を示す。
本発明は、コロナウイルスのスパイク蛋白S1のC末側に、ウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチド又はIBVスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドを付加することにより得られる新規なコロナスパイクS1融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターにより特徴付けられる。
本発明に使用されるコロナウイルスとしては、例えば、ヒト呼吸器コロナウイルス(HcoV)、重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARSCoV)、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス(TGEV)、ブタ呼吸器コロナウイルス(PRCoV)、イヌコロナウイルス(CcoV)、ネココロナウイルス(FECoV)、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)、ブタ流行性下痢ウイルス(PEDV)、ウシコロナウイルス(BcoV)、ウマコロナウイルス(EcoV)、ニワトリ伝染性気管支炎ウイルス(IBV)及びシチメンチョウコロナウイルス(TcoV)等が挙げられるが、好ましくは、IBVである。
IBVは以下の方法により調製される。まず、発育鶏卵又はIBVが増殖可能な動物細胞を用いてIBVを増殖させる。動物細胞を用いる場合は、自然宿主である鶏の細胞を用いるのが好ましい。このような細胞として、ニワトリ腎などの細胞が挙げられる。これらの細胞を用いたウイルスの増殖には、通常用いられる細胞培養方法及びウイルスの増殖方法が取られる。好ましい態様では、IBV-TM株を10〜12日齢発育鶏卵に接種し、1〜5日間、35℃〜38℃で孵卵後、腔液を回収する。粗遠心後、15〜25%シュークロースをクッションとした超遠心を行い(25〜35k、1〜2時間)、ウイルスを含有する沈渣を回収する。また、発育鶏卵を用いてウイルス液を調製することも可能である(Lukert P.D. “Infectious bronchitis. In: Isolation and Identification of Avian Pathogens. 2nd Edition” S. B. Hitchnerら、1980, pp70-72)。
IBVスパイク蛋白をコードする遺伝子は、発育鶏卵腔液をそのまま、あるいは腔液を超遠心により濃縮した沈渣からウイルスRNAを抽出/精製し、これを鋳型としてRT-PCRによりスパイク蛋白遺伝子を増幅させ、単一遺伝子としてベクターにクローニングすることにより調製される。本発明において使用されるRT-PCRのプライマーは、5’側が配列表の配列番号5記載のオリゴヌクレオチド、3’側が配列表の配列番号6記載のオリゴヌクレオチドである。当該RT-PCRにより、IBVスパイク蛋白S1及びS2をコードする遺伝子配列を含む約3.5kbの核酸断片が増幅される。増幅された断片を適当なクローニングベクターに挿入した後、大腸菌に導入する。大腸菌コロニーの中からIBVスパイク蛋白S1及びS2をコードする遺伝子を有するクローンを選択する。当該クローンの選択は、マーカー遺伝子の有無、標識したIBVスパイク蛋白S1をコードする遺伝子断片又は合成ヌクレオチドをプローブとするハイブリダイゼーション、目的遺伝子の塩基配列が明らかにされている場合は、適当な制限酵素による遺伝子切断パターン等によって行われる。
上記のRNAの抽出には、市販のCatrimox(宝酒造)、TRIzol試薬(インビトロジェン社)、ISOGEN(ニッポンジーン社)、StrataPrep Total RNA Purification Kit(東洋紡)等の試薬、RT-PCRには、one step RNA PCR kit(宝酒造)など市販のキット、遺伝子のクローニングには、pCR2.1(インビトロジェン社)など市販のクローニングベクターが使用される。それぞれの工程における操作は、各キットに添付の方法に従えばよい。好ましい態様においては、RNAの抽出/精製にはCatrimoxを用い、RT-PCRにはone step RNA PCR kitが使用される。PCR反応は、50℃-30分、94℃-2分の加熱後、94℃-30秒、52℃-30秒、72℃-5分のサイクルを30回繰り返すことにより行われる。また、目的遺伝子のクローニングには、pCR2.1プラスミドが使用される。こうして得られるIBVスパイク蛋白S1をコードする遺伝子の塩基配列は、DNAシークエンサー(例えば、アプライド・バイオシステムズ337型)により決定することができる。
一方、IBVスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドをコードする遺伝子断片は以下の方法により取得できる。IBVスパイク蛋白S2のトランスメンブレン領域をコードする遺伝子断片は、RT-PCRのプライマーとして、配列表の配列番号16記載のオリゴヌクレオチド(5’側)及び配列表の配列番号17記載のオリゴヌクレオチド(3’側)を用い、上記と同様の方法により取得できる。
また、ニューカッスル病ウイルスF蛋白遺伝子(NDV-F)のトランスメンブレン領域をコードする遺伝子断片は、以下の方法により取得できる。すなわち、Ishidaらの方法に従ってNDV-F遺伝子をクローニングし、これを鋳型として目的遺伝子を増幅し、単一の遺伝子断片としてクローニングすることにより達成される(Ishida N.ら、“Sequence of 2,617 nucleotides from the 3' end of Newcastle disease virus genome RNA and the predicted amino acid sequence of viral NP protein” Nucleic Acids Res., 1986, 14: p.6551-64)。このとき使用されるPCRのプライマーは、5’側が配列表の配列番号13記載のオリゴヌクレオチド、3’側が配列表の配列番号14記載のオリゴヌクレオチドである。
上記二者以外のウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域を用いる場合は、目的とする蛋白のアミノ酸配列を、遺伝子解析ソフト、例えばGENETYX(株式会社ゼネティックス)あるいはSOSUI(http://sosui.proteome.bio.tuat.ac.jp/
sosuiframe0.html)等によって解析することで、トランスメンブレン領域を推定し、クローニングすることが可能である。
こうして得られるウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチドをコードする遺伝子断片が、IBVスパイク蛋白S1のC末側に付加されるように、当該IBVスパイク蛋白S1をコードする遺伝子断片の3’側に連結される形でプラスミドやウイルスベクターなどの発現カセットに組み込まれる。当該操作は、Sambrookらが述べている一般的な遺伝子組換え技術(Sambrook J.ら、“Molecular Cloning, A Laboratory Manual Second Edition” Cold Spring Harbor Laboratory Press, N.Y., 1989)に従って又は当該技術に基づき開発された種々の遺伝子操作キットを用いて行われる。
IBVスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドを得るときは、このペプチド部分だけでなく、IBVスパイク蛋白S1にS2のN末側領域のペプチドが付加した融合蛋白をコードする遺伝子として得る。具体的には、スパイク蛋白S1をクローニングしたときと同様に、IBV RNAを鋳型としたRT-PCRにより遺伝子増幅を行い、単一の遺伝子断片としてクローニングすることにより行われる。RT-PCRのプライマーとして、5’側が配列番号9記載のオリゴヌクレオチド、3’側が配列表の配列番号15記載のオリゴヌクレオチドが使用される。このとき得られるIBVスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドをコードする遺伝子断片は、配列表の配列番号4記載の塩基配列を有する。
本発明のIBVスパイク蛋白S1とウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチド又はスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドとを有する融合蛋白を発現させる場合は、IBVのS1が本来有する分泌シグナルに代えて、MDV1-gA、鶏IgH重鎖、VSV-gGなどの分泌シグナルを用いることで、より効果的に発現させることも可能である。発現に使用されるプロモーターとしては、β-アクチン系のプロモーターを始めとする強力なプロモーター、例えば、SV40後期、サイトメガロウイルスIEプロモーター、ニワトリβ-アクチンプロモーターなどが挙げられる。好ましくは、ニワトリβ-アクチンプロモーター及びサイトメガロウイルスエンハンサーとのハイブリッドプロモーター(CAG等)である。膜上型の発現を行う場合は、生体内において発現制御が可能なマレック病ウイルスのgBプロモーター(特公平8−322559)等当該ウイルス由来のプロモーターを使用するのが好ましい。
かくして得られる発現カセットをニワトリに直接投与することにより、IBVスパイク蛋白S1及びウイルス膜蛋白のトランスメンブレン領域のペプチド又はスパイク蛋白S2のN末側領域のペプチドを含有する融合蛋白(以下、「組換えIBVスパイクS1融合蛋白」と称することもある)の免疫原性を調べることができる。
また、外来遺伝子を発現させるためのプロモーターとしてマレック病ウイルスのgB蛋白遺伝子プロモーターを使用することにより、以下の効果が期待される。すなわち、gBプロモーターの下流に上記の組換えIBVスパイクS1融合蛋白遺伝子を結合した発現カセットを挿入されたMDVベクターを使用した場合、MDVに対する高い抗体価が惹起されると同時に、IBVに対して中和抗体を誘導することが可能である。
さらに、本発現カセット中のIBVスパイクS1融合蛋白遺伝子を他の発現ベクターに組み込むことにより、種々の宿主(例えば、細菌、昆虫細胞、酵母など)にIBVスパイクS1融合蛋白を生産させることができる。
これらの宿主が生産する組換えIBVスパイクS1融合蛋白の精製は、蛋白質化学において通常使用される方法、例えば、塩析法、限外ろ過法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を適宜選択して行うことができる。
以下、本発明を、実施例を以ってより詳細に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。
IBV TM株スパイク蛋白遺伝子のクローニング
IBウイルスTM株を11日齢発育鶏卵に接種し、3日間37℃で孵卵後、腔液を回収した。粗遠心後、20%シュークロースをクッションとした超遠心を行い(30k、1時間)、沈渣からCatrimox(宝酒造)を用いてウイルスRNAを調製した。これを鋳型とし、one step RNA PCR kit(宝酒造)を用いてRT-PCRを行い、スパイク蛋白遺伝子を増幅した。増幅には以下のプライマーペアーを用い、反応は、50℃-30分、94℃-2分の後、94℃-30秒、52℃-30秒、72℃-5分のサイクルを30回繰り返した。5’側:CAAATTATTGGTCAGAGATGTTGG(配列番号5)
3’側:GAATCATTAAACAGACTTTTAGGTCT(配列番号6)
増幅された断片をpCR2.1(Invitrogen)にTAクローニングし、クローニングサイトの外側に存在するBamHIおよびEcoRVで切断後、スパイク蛋白S1及びS2遺伝子を含む約3.5kbpの断片を切り出し、平滑末端処理を行った。この断片を、HindIIIで切断後平滑末端処理したpCAGn-mcs-polyA(WO97/46583)に挿入し、pCAGn-TM23Sを構築した(図1)。
S1発現プラスミドpCAGG-LgAs-S1の構築
pCAGn-TM23Sを鋳型とし、シグナル配列を含まないスパイクの配列をPCRにより増幅した(配列番号1)。用いたプライマーペアーは、5’側にはKpnIサイト、3’側にはXbaIサイトを付加した下記の配列を有する。増幅には宝酒造のLA-Taqを用い、PCR反応液の調整はLA-Taq添付の説明書に従った。反応温度及び時間は98℃-40秒、56℃-10分のサイクルを20回繰り返した。なお、以降のPCRは、全て宝酒造のLA-taqを用いて同様に行った。
5’側:GGGGTACCTATTCTTTATGATAATGGTAGTTACG(下線部はKpnIサイト)(配列番号7)
3’側:GCTCTAGATTAAGTTACCACATCATTATCAAATGTCG(下線部はXbaIサイト)(配列番号8)
増幅した断片をKpnIで切断後、平滑末端処理し、次にXbaIで切断し、スパイク蛋白遺伝子断片を得た。一方、MDV1の糖蛋白A(以下、「gA」と称することもある)のリーダー/シグナル配列を含む領域(約330bp)を、KpnIあるいはXbaIサイトを付加したプライマーで増幅した(配列番号2)。プライマーの配列は以下に示す。反応温度及び時間は94℃-1分、57℃-1分、72℃-1分のサイクルを20回繰り返した。
5’側:GGGGTACCTACATATCTTCCCTCATGCTCACGC(下線部はKpnIサイト)(配列番号9)
3’側:GCTCTAGAGGGCGTTTTATGAGTGTCGTTCGCA(下線部はXbaIサイト)(配列番号10)
同断片をKpnIおよびXbaIで切断後、KpnIおよびXbaIで切断したpUC119に挿入した(pUC119LgAs)。同プラスミドをgAのリーダー/シグナル配列の直後に存在するEcoT14Iサイトで切断後、平滑末端処理し、次にXbaIで切断することによりシグナル配列より下流のgAのORF部分が除去された3.3kbpの断片を回収し、同部位に上記のスパイク蛋白遺伝子断片を挿入し、pUC119LgAsTM23Sを得た。
このプラスミドを鋳型とし、gAのリーダー/シグナル配列が付加されたS1部分(1.6kbp)を、KpnIあるいはXbaIサイトを付加した下記のプライマーで増幅し、KpnI及びXbaIで切断後平滑末端化し、同じく平滑末端化したpUC-CAGGSのSalIサイトにS1が発現する向きで挿入し、pCAGG-LgAs-S1を構築した(図2-1、2-2)。増幅には以下のプライマーペアーを用いた。反応温度及び時間は、94℃-1分、60℃-5分のサイクルを20回繰り返した。
5’側:GGGGTACCTACATATCTTCCCTCATGCTCACGC (下線部はKpnIサイト)(配列番号9)
3’側:GCTCTAGATTAGCTTCCATTAGTTAACTTAATATAAAACTG(下線部はXbaIサイト、XbaIサイトの5’側に続くTTAは終止コドン)(配列番号11)
トランスメンブレン領域付加型S1発現プラスミドpCAGG-LgAs-S1Ftmの構築
pUC119-LgAsTM23Sを鋳型とし、gAのリーダー/シグナル配列が付加されたS1部分(1.6kbp)を、KpnIあるいはBssHIIサイトを付加した下記のプライマーで増幅し、pCR2.1にTAクローニングした(pCR2.1LgAsS1)。増幅の反応温度及び時間は、94℃-1分、60℃-5分のサイクルを20回繰り返した。
5’側:GGGGTACCTACATATCTTCCCTCATGCTCACGC (下線部はKpnIサイト)(配列番号9)
3’側:TTGGCGCGCCAGCTGCGCTTCCATTAGTTAACTT(下線部はBssHIIサイト)(配列番号12)
このプラスミドをBssHIIで切断し、gAのリーダー/シグナル配列及びS1の配列を含む3.4kbpの断片を切り出した。次に、プラスミドXLIII10H(Sato H.ら、“Molecular cloning and nucleotide sequence of P, M and F genes of Newcastle disease virus avirulent strain D26” Virus Research, 1987, 7: p.241-255)を鋳型としてニューカッスル病ウイルスF蛋白遺伝子(NDV-F)のトランスメンブレン領域をPCRによりクローニングしたが、その際、5’末端にはBssHIIサイトを、3’末端には終止コドンとSpeIサイトを付加し、pCR2.1にTAクローニングした(クローニングした配列を配列番号3に示した)。増幅には以下のプライマーペアーを用いた。反応温度及び時間は94℃-1分、60℃-5分のサイクルを20回繰り返した。
5’側:TTGGCGCGCTTATTACCTATATCTTTTTAACTGTC(下線部はBssHIIサイト)(配列番号13)
3’側:GACTAGTTCACATTTTTGTAGTGGCCCTCATCTGG (下線部はSpeIサイト、SpeIサイトの5’側に続くTCAは終止コドン)(配列番号14)
このプラスミドをBssHIIで切断することでトランスメンブレン領域を含む2.3kbpの断片を切り出し、これと上記のS1を含む3.4kbpの断片と結合させた(pCR2.1LgAsS1Ftm)。このpCR2.1LgAsS1FtmをKpnI及びSpeIで切断し、gAのリーダー/シグナル配列、S1及びNDV-Fのトランスメンブレン領域を含む約1.8kbp断片を回収後、平滑末端処理を行い、SalI切断後平滑末端化したpUC-CAGGSに、S1が発現する向きで挿入し、pCAGG-LgAs-S1Ftmを構築した(図3-1,3-2)。
S2N末端付加型S1発現プラスミドpCAGG-S1(1)の構築
リーダー配列からシグナル配列までをgA由来のものに置換したスパイク蛋白S1及びS2のN末側領域のペプチドをコードする塩基配列(配列番号4)までを、pUC119-LgAsTM23を鋳型とするPCRにより増幅した。その際、5’側プライマーにはKpnIサイトを、3’側プライマーには終止コドン及びHindIIIサイトをつけて増幅した。用いたプライマーの配列を以下に示す。反応温度及び時間は94℃-1分、54℃-1分、72℃-3分のサイクルを20回繰り返した。
5’側:GGGGTACCTACATATCTTCCCTCATGCTCACGC (下線部はKpnIサイト)(配列番号9)
3’側:CCCAAGCTTTTAACCATCAGGTTCAATGCAATACC(下線部はHindIIIサイト、HindIIIサイトの5’側に続くTTAは終止コドン)(配列番号15)
同断片をKpnIおよびHindIII切断後平滑末端処理を行い、SalI切断後平滑末端化したpUC-CAGGSに、S1が発現する向きで挿入したpCAGG-LgAs-S1(1)を構築した(図4)。
各S1発現プラスミドの免疫試験
実施例2、3及び4で得られた発現プラスミドを、1群5羽からなる2.5週齢のSPF鶏(化学及血清療法研究所で維持)に免疫し、DNAワクチンとしての評価を行った。まず鶏をネンブタールにより麻酔し、右足下腿部の皮膚を切開後、筋肉内にTEバッファーで1μg/μlの濃度に調製したプラスミド液45μlを注射した。エレクトロポーレーター(EDIT-TYPE CUY21、BEX Co., LTD)を用い、注射部位を挟むように針型の電極を刺し、40Vで0.07-0.12Aの電流を0.5秒間、0.5秒間隔で10回流すことでプラスミドの導入を行った。2週間後、左足に、同様の方法でプラスミドを投与した。2回目の投与から2週間後に採血を行い、IBV-TM株に対する中和抗体価を血清希釈法により測定した。
その結果、pCAGG-S1群では5羽中1羽しか抗体が陽転しなかったのに対し、pCAGG-S1(1)群では4例、pCAGG-S1Ftm群では5例全例が陽転した。なお、コントロール群のpUC-CAGGS投与群及び非投与群(−)では抗体の上昇は認められなかった。
Figure 0004691495
S1を発現する組換え体ウイルスの構築
組換え体ウイルスの作出は、ウイルス感染細胞にインサーションプラスミドをエレクトロポーレーション法により導入することで行った。このとき用いるインサーションプラスミドpKA4BP-LgAsS1は、以下の手順で作製した。
MDV1 DNAをEcoRIで切断した際に得られる2.8kbの断片(A4断片)(特許3428666)をpUC119のEcoRIサイトにクローニングした(pKA4)。次に、市販されている動物細胞用発現プラスミドpSVLをBsaBI及びXhoIで消化後平滑末端処理して得られた0.3kの断片(転写終結因子)を、SacIサイトを潰したpKA4のBalIサイトに挿入した。このプラスミドをXbaIで消化後平滑末端化したものに、平滑末端処理を行ったMDV1-gBプロモーターP断片(特開平8-322559(特願平7-160106))を挿入した(pKA4BP)(図5)。
実施例2記載のpCAGG-LgAs-S1を構築する過程で構築した、pUC119LgAsTM23Sを鋳型とし、gAのリーダー/シグナル配列が付加されたS1部分(1.6kbp)を、KpnIあるいはXbaIサイトを付加した下記のプライマーで増幅し、KpnI及びXbaIで切断後平滑末端化し、同じく平滑末端化したpKA4BPのSacIサイトにS1が発現する向きで挿入し、pKA4BP-LgAsS1を構築した(図6)。増幅には以下のプライマーペアーを用いた。反応温度及び時間は、94℃-1分、60℃-5分のサイクルを20回繰り返した。
5’側:GGGGTACCTACATATCTTCCCTCATGCTCACGC (下線部はKpnIサイト)(配列番号9)
3’側:GCTCTAGATTAGCTTCCATTAGTTAACTTAATATAAAACTG(下線部はXbaIサイト)(配列番号11)
構築したインサーションプラスミドpKA4BP-LgAsS1を制限酵素EcoRIにより消化し、線状化した。それを親株感染細胞と共にジーンパルサー用キュベット内で混合後、ジーンパルサー(BioRad社)を用いてパルスを加え、インサーションプラスミドを感染細胞に導入した。組換え体ウイルスの作出の詳細は、特開平8-322559(特願平7-160106)に記載されている。MDV1感染細胞にインサーションプラスミドを導入後、同感染細胞を、96 well で培養後、翌日CEFを6万〜8万個/wellの濃度添加培養し、1週間後にPCRにより組換え体ウイルスの有無をスクリーニングした。PCR陽性のwellから細胞を回収し、希釈してCEF細胞とともに再び96 wellで培養した。PCRによるスクリーニングと上記クローニング作業を、組換え体ウイルスが純化されるまで繰り返し、MDV1-S1の構築を行った。
S1Ftmを発現する組換え体ウイルスの構築
実施例3のpCAGG-LgAs-S1Ftmを構築する過程で構築した、pCR2.1LgAsS1FtmをKpnI及びSpeIで切断し、gAのリーダー/シグナル配列、S1及びNDV-Fのトランスメンブレン領域を含む約1.8kbp断片を回収後、平滑末端処理を行い、SacI切断後平滑末端化したpKA4BPにS1が発現する向きで挿入し、pKA4BP-LgAsS1Ftmを構築した(図7)。同プラスミドを用い、実施例6に記載の方法で組換え体ウイルスを作出した。
S1あるいはS1Ftm発現組換え体ウイルスの免疫試験
実施例6及び7で得られた組換え体ウイルスを、1群5羽からなる1日齢のSPF鶏(化学及血清療法研究所で維持)の頚部皮下に1万PFU免疫した。その後経時的に採血し、IBV TM株に対する中和抗体価を調べることで評価を行った。
表2に示すように、MDV1/S1群では中和抗体の誘導が確認されなかったのに対し、MDV1/Ftm群では5例全例が陽転した。また、Ftm群では、一度の免疫により、少なくとも20週に亘り中和抗体が持続することが確認された。
Figure 0004691495
本発明の方法により得られる新規な組換えIBVスパイクS1融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターは、スパイク蛋白S1をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクターで免疫した場合に比べてより高い免疫効果を示すので、従来のスパイク蛋白S1のみを発現させるように構築されたDNAワクチンやウイルスベクターワクチンを凌ぐ有効なワクチンとなることが期待される。また、本発明の発現ベクターで形質転換した動物細胞から調製される組換えIBVスパイクS1融合蛋白は、疫学やワクチン効果を調べる際に多用されるELISA、WBなどの抗原抗体検出システムの構築材料として使用することができる。

Claims (7)

  1. 鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)のスパイク蛋白S1のC末側に配列番号1の第1568〜1636番目記載の配列によってコードされるアミノ酸配列からなるペプチドを付加した融合蛋白をコードする遺伝子が組み込まれた発現ベクター
  2. 発現ベクターが、プラスミド又はウイルスベクターである請求項1記載の発現ベクター。
  3. 前記ウイルスベクターが、アデノウイルス、ポックスウイルス及びマレック病ウイルスからなる群より選ばれることを特徴とする請求項記載の発現ベクター
  4. 鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)のスパイク蛋白S1のC末側に配列番号1の第1568〜1636番目記載の配列からなるペプチドを付加した融合蛋白
  5. 鶏伝染性気管支炎ウイルス(IBV)のスパイク蛋白S1のC末側に配列番号1の第1568〜1636番目記載の配列によってコードされるアミノ酸配列からなるペプチドを付加した融合蛋白をコードする遺伝子。
  6. 請求項1ないしの何れか一項記載の発現ベクター又は請求項4に記載の融合蛋白又は請求項5に記載の遺伝子によって発現された融合蛋白を、コロナウイルスワクチンの主成分として使用する方法。
  7. 前記コロナウイルスがIBVである、請求項6に記載の方法。
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