JP4690058B2 - 樹脂成形用金型 - Google Patents

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Description

本発明は微細パターンを形成するための樹脂成形用金型に関する。
ノート型PCや携帯電話などに使用されているTFT型やDSTN型などの液晶表示パネルには、表示面に対して光を均一に照射する面型照明装置(バックライト等)が用いられている。この面型照明装置には、所定の凹凸パターン(以下、光学パターンということがある)が形成された導光板やプリズムシート等が組み込まれているが、近年、液晶表示パネルに対する薄型化、高輝度化の要望はますます高まっており、導光板やプリズムシートについても薄型化だけでなく、片面または両面に形成する光学パターン(海島型凹凸溝や、凹凸が直線状に連続して形成されている山谷型溝など)の微細化、高精度化なども要求されている。
例えば導光板の製造方法としては、金型モールドキャビティ内にアクリル樹脂などの樹脂を注入して成形する射出成形方法が一般的である。この際、光学パターンも樹脂に転写されるが、転写方法としては(1)金型機内にキャビティを構成する金型を配置し、該金型の成形面(樹脂接触面)に光学部品用凹凸パターンを形成して樹脂に転写する方法や、(2)光学部品用凹凸パターンを形成したスタンパー(レプリカ板)をキャビティ内に配設して転写する方法などが知られている。
このような金型を用いる樹脂成形では、熱や摩耗に対する耐久性に優れた金属系硬質材料が母材として用いられ、ダイアモンドバイトなどの工作器具によって該母材に直接光学パターンを形成している。しかし光学パターンが微細化且つ緻密化してくるにつれて、パターン形成面は清掃に伴う擦り傷や、異物混入による損傷を受け易くなり、こうした使用に伴って光学パターンが損耗し易いため、該擦り傷等によって導光板に転写される光学パターンの精度が低下するという問題が生じる。このように導光板の光学パターン精度が低下すると、輝度斑とか異常発光現象の発生など、製品品質低下に直結する。
そこで、上記問題を解決すべく成形面の表面の硬度を高める技術が各種提案されており、例えば金型の表面にダイアモンド状膜[以下、DLC(Diamond Like Carbon)ということがある]を形成して硬度を高める技術が提案されている(特許文献1)。
またパターン形成の容易化のため、母材である金型を直接切削するのに代えて、予め母材上に被膜を形成し切削加工性を向上する技術が提案されている。例えば基材表面にNiめっき層やCuめっき層を形成して該めっき層に光学パターンを切削加工する技術がある。
特許第2826827号
近年、導光板やプリズムシート等の光学部品に形成する光学パターンの高精度化に対する要望はますます高まっており、それに伴って光学パターンの加工精度には更なる向上が求められている。
このような微細加工における金型内の樹脂の流動性や成形面の転写性を上げようとする場合、金型内の末端部分においても成形温度を維持する必要があり、このため高い温度を選択しなければならない。一方、成形温度を高くすると被成形材料が金型の成形面と接触する初期段階で温度が高くなり過ぎ、黄変やシルバー現象を誘発して成形条件を逸脱するおそれがある。例えば、アクリル樹脂で270〜280℃、ポリカーボネート樹脂で300〜320℃というのが通常採用されている樹脂温度である。このような高温では、樹脂から発生する揮発性ガスの発生量が多くなるので、金型の微細形状部やエアーベント箇所に汚れが溜まりやすくなり成形品に光沢不良が発生する。
また、成形中は充填工程中の時間経過とともに樹脂温度に変化が生じているために、充填初期のゲート近辺と充填末期の成形品末端部(反ゲート側)に温度差が生じる。このため、樹脂の流動性が変化し微細加工部の均一な転写性に劣るという問題が生じる。特に、従来使用されている耐摩耗性の高いDLC膜を成形面とする金型では、十分な微細加工が得られないことが明らかとなった。
本発明は上記課題を解決するものであり、断熱性が高く、金型キャビティへの充填初期及び充填末期おいても所定温度を維持でき、樹脂の流動性に優れ、成形面の転写性に優れた金型を提供することを目的とする。
本発明は、金型成形面の母材側には無電解めっき層が形成され、前記金型成形面の成形面側にはアモルファス炭化珪素膜からなる表面層が形成されており、前記アモルファス炭化珪素膜中のSi含有量が60重量%以上であることを特徴とする樹脂成形用金型である。
本発明では前記無電解めっき層がNiとPを含む無電解めっき層であることが好ましい。
また本発明では、前記無電解めっき層の厚さが50〜200μmであること、前記アモルファス膜の厚さが0.05〜20μmであることが望ましい。
本発明の樹脂成形用金型は、金型成形面の母材側には無電解めっき層が形成されることにより金型の微細加工性に優れるとともに、金型成形面の成形面側にはSi含有量が60重量%以上であるアモルファス炭化珪素膜からなる表面層が形成されることにより断熱性に優れ、金型キャビティへの充填初期から充填末期までの温度差を低減することができ、それによって微細加工においても樹脂の流動性に優れ、微細な成形面を高精度で転写できる。
本発明は金型成形面の母材上に無電解めっき層が形成され、成形面側には後記するアモルファス炭化珪素膜からなる表面層を設けてなることに要旨を有する。
この様な構成を有する金型において、金型母材上の無電解めっき層に微細加工用パターンを形成し、その表面に所定のSi含有量を有するアモルファス炭化珪素膜を形成すれば、樹脂接触面である表面のアモルファス炭化珪素膜が断熱性に優れるためキャビティへの充填初期の温度を高温としなくても充填末期での温度低下が抑制され、金型内の微細なパターンにおいても樹脂の流動性が良好で、高精度な加工が得られる。
本発明の金型は、熱可塑性樹脂や反応硬化型樹脂などの樹脂を用いる部材、例えば光学部品を射出成形する際に微細な光学パターンを該樹脂表面に転写するためのモールド部材(例えばスタンパ等)や、前記樹脂を用いて光学部品を押圧成形する際に光学パターンを該樹脂表面に転写するためのロール部材(例えばエンボスロール等)にも適用できる。
以下、本発明の金型を例示して説明するが、本発明は下記例に限定されず、本発明の作用効果を阻害しない範囲で適宜構成等に変更を加えることもできる。
図2は金型(図1)内に配設する金型のキャビティ側(成形面側)の表面4の一部拡大断面図であって、該金型の母材1はFe系合金からなり、且つ該母材上に無電解めっき層2、成形面の表面にはアモルファス炭化珪素膜3が順に形成されている。
金型の母材1は、Fe系合金(主成分の70重量%以上がFe)であることが好ましい。Fe系合金は、金型に要求される硬度、耐熱性、耐久性、価格、及び金型自体の加工容易性を兼ね備えているからである。Fe系合金には合金成分としてCr、Ni,Mo、Cuなどが30重量%未満の範囲で含まれていてもよい(尚、この範囲の成分として不可避不純物も含まれる)。Fe以外の合金成分が30重量%以上になると、硬度不十分で耐久性が低下したり、形状安定性が低下し、あるいは硬質化しすぎて成形不良になるなど、実用にそぐわなくなる。尚、形状安定性や耐久性を維持する観点から、母材の硬度はHv300以上(JIS記載のビッカース硬さ試験による)であることが好ましく、より好ましくはHv500以上である。また硬度が高すぎると金型自体の加工性が低下することからHv700以下が好ましく、より好ましくはHv600以下である。Fe系合金の中でもステンレス鋼は上記特性を兼ね備えているので望ましく、例えばSUS420J2、13Cr系Moステンレス鋼等は耐久性等に優れているばかりでなく、加工容易性にも優れているので、実用的である。
無電解めっき層2は、ダイアモンドバイトなどの成形パターン形成用加工工具による切削加工性に優れており、Fe系合金基材に直接パターンを形成する場合よりも微細パターンを高精度で形成できる。
本発明において無電解メッキ層2とアモルファス炭化珪素膜3の間にはアモルファス炭化珪素膜3の耐剥離性を高めるために中間層を形成しても良い。このような中間層としては、例えば4A族元素、5A族元素、6A族元素、鉄族元素、Alまたはこれらの炭化物、窒化物、炭窒化物の少なくとも1種を含むアモルファス膜からなる層を挙げることができる。ただし、無電解めっき層2自体がFe系合金母材1とアモルファス炭化珪素膜3の双方に対しても優れた親和性(結合力)を有しているので、製造を考慮すればFe系合金母材1上に無電解めっき層2及びアモルファス炭化珪素膜3を積層形成することが好ましい。
即ち、無電解めっき層2はアモルファス炭化珪素膜3に比べて硬度が低いため、ダイアモンドバイト等による切削加工が容易であり、また無電解めっき層2は、Fe系合金よりも切削加工時の耐チッピング性に優れているため、微細パターンを高精度で形成できる。しかも無電解めっき層2はアモルファス炭化珪素膜3よりも成膜速度が速く、短時間でパターン形成に適した膜厚にできるので生産性にも優れている。
また本発明者らの検討の結果、無電解めっき層2はFe系合金基材1、及びアモルファス炭化珪素膜3のいずれに対しても優れた親和性を有しているので、成形面の表面にあるアモルファス炭化珪素膜3の極めて優れた耐剥離性を長期間維持し得るものとなる。尚、無電解めっき層は、Co、Ni、Cu、In、Sn、Ag、Auなど所望の金属単独、或いは任意の金属を組み合せて無電解めっきされた層(膜)である。これらの中でも上記無電解めっき層の効果をより高める上で好ましいのはNiを含む無電解めっき層であり、更に好ましくはNiとPを含む無電解めっき層であり、最も好ましくは実質的にNiとPからなる層(Ni−P層ということがある)である。ここで「実質的」とは無電解めっき層に、C,S,N,Pbなどが不純物として微量(特異な作用効果を発しない程度)含まれていてもよい意味である。またNiとPを含む無電解めっき層の場合、他の含有成分としてはCo,Cu,Sn,W,Zn,Mo,Pd,Fe,Tiなどが例示される。
微細なパターンを高精度で無電解めっき層2に形成するには、加工工具を用いたパターン形成時の工具損耗が少ないことが望ましく、無電解めっき層の硬度はHv300〜700が好ましく、より好ましくはHv400〜600である。またパターン形成時の無電解めっき層のチッピングを防ぎつつ、高精度でパターンを形成するには、無電解めっき層が結晶質であることが望ましい。この結晶状態はラマン分光法やX線回折法によって確認できる。
無電解めっき層の成分比率は特に限定されず、所望の効果が得られる様に適宜変更すればよい。例えばNi−P層の場合、収縮や引張り応力の影響の少ない安定しためっき層を得るには、Pの含有量は0.1〜15重量%が好ましく、より好ましくは5〜10重量%である。
この無電解めっき層の膜厚は、微細パターンを形成し得る膜厚であれば特に限定されないが、通常、20〜500μmが好ましく、より好ましくは50〜200μmである。膜厚が薄すぎると、パターン形成時に溝部分が基材に達してしまう。一方、膜厚を厚くし過ぎると成膜に時間を要し、生産性が低下することがあるので好ましくない。
無電解めっき層は、公知の無電解めっき法によって形成することができ、金属塩、還元剤、錯化剤、pH調整剤、安定剤などのめっき浴の成分や処理温度、時間などの処理条件は所望の無電解めっき層が形成できる様に適宜調節すればよい。
次に、本発明では上記のような無電解めっき層2上に中間層を介してあるいは介さずに所定のアモルファス炭化珪素膜3が形成される。本発明のアモルファス炭化珪素膜3は膜中のSi含有量が60重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは60重量%以上、70重量%以下である。
このような高いSi含有量とすることにより従来のDLC膜を成形面とする金型では得られなかった優れた断熱性を付与することができ、キャビティへの充填初期の温度を高温にする必要がなく、また充填中の温度差を低減できるため、樹脂の流動性に優れ、高精度な転写が可能となる。さらに、成形温度を低下することができるため、冷却工程における冷却時間を短くすることができ、成形工程全体のサイクルタイムを短縮化することもできる。なお、本発明のSi含有量はEPMA(電子線マイクロアナリシス,照射源:電子線,加速電圧:10kV)による定量分析値である。
本発明でアモルファス炭化珪素膜中のSi含有量を高めることにより断熱性が付与できるのは、アモルファス構造をとることで格子熱伝導が抑えられ、さらに炭素に原子量の異なるSi原子をアモルファス状態で混入させることで炭素の格子配列がさらに乱され、熱伝導作用を一層妨げることが可能となり、それによって熱伝導度を下げることができるためである。
一方、余りにアモルファス炭化珪素膜中のSi含有量が高くなりすぎると、炭素の格子熱伝導はさらに妨げられることとなるが、Si原子同士の格子熱伝導効果が現れはじめ、熱伝導率を上げる傾向となる。
本発明のアモルファス炭化珪素膜は実質的にSi及びCからなるアモルファス膜であり、高精度でパターンの転写を行なうためアモルファス膜も平滑であることが望ましいが、不純物含有量が多くなるとアモルファス膜成形時の熱応力によって均一な成膜が得られ難くなることがある。したがって不純物は可及的に少ないことが推奨され、均一な膜が得られる様に不純物量を減少させることが望ましい。
なお、アモルファス膜としたのは熱伝導度の改善の他に非晶質の方が結晶質よりも無電解めっき層との親和性が高いからである。アモルファス膜であるか否かはTEM観察あるいはX線回折法によって確認できる。
これまでにも炭化珪素膜を用いた精密成形金型の事例が見受けられる(たとえば、特開平11−937など)。これらは金型表面を速やかに昇温させる事を目的に熱伝導の高い膜を作成していることから、炭化珪素であっても結晶性の高い膜を対象としているものであり、アモルファス化による低い熱伝導を利用する本発明とは全く異なった炭化珪素の形態である。さらに効果を得るためには樹脂温度を金型表面に伝導させる必要があり、充填中に樹脂の熱が奪われ充填中の樹脂温度の均一性及び金型温度の均一性が犠牲になる。一方、本発明では充填中の樹脂と直接接触する界面に断熱性を与えていることから、充填中の樹脂の温度低下が生じにくく、金型温度分布も均一となるためキャビティの末端まで均一な充填が可能である。
本発明のアモルファス炭化珪素膜の膜厚は特に限定されないが、膜厚が薄すぎると十分な断熱性効果が得られない傾向がある。一方、膜厚が厚くなり過ぎると成膜に時間がかかるため生産性や表面平滑性も低下する傾向にある。さらに金型表面の形状部の精度が高い場合、膜厚が厚いと形状精度を維持できない。上記の観点から膜厚は、0.05〜20μmが好ましく、より好ましくは0.1〜10μmである。
本発明のアモルファス炭化珪素膜は、例えばスパッタ法、CVD法、イオンプレーティング法などによって成膜し、成膜時に基板温度を制御し、低めに設定すればアモルファス膜とできる。尚、具体的な温度条件は成膜原料等に応じて適宜調節すればよい。例えば平滑な膜を形成するには、イオン化蒸着法、プラズマCVD法、アークイオンプレーティング法等を採用できるが、成膜に際しては300℃以下の温度条件とすればよい。
本発明ではSi含有量を高めるため、上記製法において例えばイオン化蒸着法では、モノシラン(SiH4)ガスとアセチレン(C22)の混合ガスを用い、マスフローコントローラで所定の比率の流量に調整し成膜を行うことにより、Si含有量の高いアモルファス炭化珪素膜を得ることができる。
上記イオン化蒸着法でアモルファス炭化珪素膜を形成する場合のSi源としては、例えばモノシラン、ジシラン、テトラメチルシラン、ジメチルシランなどを用いることができ、これらの中でもモノシラン、テトラメチルシランが好ましい。C源としては、メタン、アセチレン、プロパン、ブタン、ベンゼンなどを用いることができ、これらの中でもアセチレン、ベンゼンが好ましい。
本発明の金型に用いられる成形パターンの形状については特に限定されず、例えば凹凸が直線状に一方の辺から対向する辺に向って間断なく連続して形成されている山谷型溝[図3(1)]や凹凸が一方の辺から対向する辺に向って非連続状態で形成されている海島型溝[図3(2)]などいずれであってもよく、用途に応じた形状にすればよい。例えば山谷型溝はV字状パターン[図3(3)]、ノコギリ状パターン[図3(4)]などであってもよい。また該光学部品用凹凸パターンのサイズも適宜変更すればよいが、上記構成を有する本発明では、例えば10〜180μm程度(溝幅及び溝深さ)のパターンが好適である。
この様な微細なパターンを形成するには、ダイアモンドバイトやダイアモンドコンパックスバイトなどのダイアモンド系切削加工工具を用いることが望ましいが特に限定されない。また上記本発明の金型を上側(図1中5)および/または下側(6)に使用することによって、導光板など樹脂製光学部品の片面または両面に光学部品用凹凸パターンを形成できる。例えば図1に示す様な導光板製造用金型の場合、可動金型5と固定金型6それぞれを本発明の金型で構成し、当該金型によって形成される成形キャビティ7に軟化点よりも高い温度に加熱して溶融させた光学部品用樹脂を加圧装入した後、冷却して樹脂を固化してから離型すれば、高精度且つ均一な光学パターンを有する光学部品を得ることができる。
尚、光学用樹脂としては特に限定されず、熱可塑性を有し、且つ透明性を有する樹脂であればよく、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂などが例示される。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は下記実施例に限定sれる趣旨ではない。
実験例1
母材としてFe系合金(ウッデホルム社製:STAVAX,硬度Hv:500)を用い、成形面の断熱性を測定するためスパイラル形状の金型(スパイラルフロー金型:キャビティ溝形状は肉厚1mm,幅10mmでアルキメデスの渦巻き状)に下記に示す方法に従って各試料を作成した。
試料1
<無電解めっき層(Ni−P層)の形成>
無電解めっき層は上記のスパイラル状の型を80〜90℃に制御しためっき浴(めっき浴成分:硫酸ニッケル、次亜りん酸ナトリウム)に浸漬し、膜厚150μmのNi−P層(組成Ni:P=9:1)を形成した。該Ni−P層の硬度はHv500であった。
<アモルファス炭化珪素膜の形成>
上記のようにして得られた無電解めっき層を形成した金型を用い、真空成膜室内にセットしてアルゴンガスを導入し、10-3Torrで放電を行なって表面を30分間ボンバードした。続いて真空成膜室内のアルゴンガスを排気してからモノシラン(SiH4)及びアセチレン(C22)を導入し、厚み1.0μmのアモルファス炭化珪素膜を形成した。Si含有量の制御は、モノシランとアセチレンのガス組成比をマスフローコントローラーを用いて調整する事により行なった。Siの含有量を増量させる為、ガス流量比を調整し、モノシラン:アセチレンを25:1に調整した。
上記のようにして得られた金型表面をX線回折により分析したところ、非晶質であることが確認された。またEPMAによりSi含有量を測定したところ60重量%であった。
試料2
試料1の金型の作製において、アモルファス炭化珪素膜形成時にモノシラン:アセチレンの流量比を50:1に調整した以外は、試料1と同様にして金型を作製した。
上記のようにして得られた金型表面をX線回折により分析したところ、非晶質であることが確認された。またEPMAによりSi含有量を測定したところ81重量%であった。
試料3
試料1の金型の作製において、無電解めっき層のみを形成した金型とした以外は、試料1と同様にして金型を作製した。
試料4
試料1の金型の作製において、アモルファス炭化珪素膜形成時にテトラメチルシラン及びベンゼンの混合ガスを用い、ガス流量比を調整し、テトラメチルシラン:ベンゼンを10:1に調整した以外は、試料1と同様にして金型を作製した。
上記のようにして得られた金型表面をX線回折により分析したところ、非晶質であることが確認された。またEPMAによりSi含有量を測定したところ47重量%であった。
試料5
試料1の金型の作製において、アモルファス炭化珪素膜の代わりに、以下のDLC膜を形成した以外は、試料1と同様にして金型を作製した。
<DLC膜の作製>
試料1と同様に無電解めっき層を形成した金型を用い、真空成膜室に配置し、該真空成膜室にアルゴンガスを導入し、10-3Torrでアーク放電を行なって表面を30分間ボンバードした。続いて真空成膜室内のアルゴンガスを排気してからベンゼンガス(C66)を導入し、ガス圧を10-3Torrとした。基盤電圧1.5kv、基盤電流50mA、フィラメント電圧14v、フィラメント電流30A、アノード電圧50v、アノード電流0.6A、リフレクタ電圧50v、リフレクタ電流6mA、基盤温度160℃として膜厚1.0μmの炭素質硬質膜を形成した。
上記のようにして得られた金型表面をX線回折により分析したところ、非晶質であることが確認された。なお該炭素質硬質膜の硬度はHv2000であった。
以上のようにして作製した各金型試料のスパイラルフロー試験を以下により評価を行った。
[スパイラルフロー試験]
成形機として日本製鋼所社製J180ELIII−UPSを用い、各金型をセットし、金型温度80℃、射出圧力175MPa、射出率770cc/sの条件でポリカーボネート(出光石油化学社製:タフロンLC1500)及びシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン社製:ゼオノア1060R)を用いてそれぞれ成形を行ない、流れて成形された成形品の長さを測定し、流動性の指標として評価した。ポリカーボネートの場合をスパイラルフロー長(a)、シクロポレフィンポリマーの場合をスパイラルフロー長(b)として示す。なお、試料3ついてはさらに金型温度90℃で射出成形を行った場合の結果を併記した。
実験例2
実験例1の試料1〜2及び4〜5の作製において、金型の代わりに予め熱伝導度が分っているガラス基板を用い、実験例1と同様にしてガラス基板上に各被膜1μmを形成した。このようにして形成した各試料を以下により評価を行った。
[熱伝導度]
光交流法熱定数測定装置(アルバック理工社製)により、ガラス基板上に得た被膜に波長680nm、出力50mWのレーザーを照射し熱電対で温度拡散を測定した。同一の測定を3回行ない、ガラス基板の熱伝導率を計算により除外する事で被膜の平均の熱伝導度(Wm-1-1)を求めた。
これらの結果を表1に示す。
Figure 0004690058
本発明による流動性改善の実用上の効果について流動長及び転写性の向上の他にサイクルタイムの改善、成形品の品質向上が挙げられる。試料3での成形時の金型温度の違いによる流動長と試料1あるいは試料2との流動長との対比から、本発明のアモルファス炭化珪素膜を表面に施した場合、試料3の金型試料の金型温度を10℃以上変化させた場合に相当する流動長向上の効果が得られている。このことから、流動性と転写性の確保を維持しながら金型温度を10℃以上下げることが出来るため、充填完了後の冷却工程の時間が短縮され成形工程全体のサイクルタイムの短縮が可能となる。さらに樹脂温度10℃以下の低減効果があるので、樹脂の黄変現象が改善して製品の輝度向上が可能となる。
本発明の金型構造を示す概略断面図である。 本発明の金型成形面の一部拡大断面図である。 光学部品用凹凸パターン代表例を示す図である。
符号の説明
1 金型(可動金型5および/または固定金型6に相当)
2 無電解めっき層
3 アモルファス膜
4 成形面
5 可動金型
6 固定金型
7 成形キャビティ


Claims (7)

  1. 金型成形面の母材側には無電解めっき層が、前記母材表面に形成され、
    前記金型成形面の成形面側にはアモルファス炭化珪素膜からなる表面層が、前記無電解めっき層表面に形成されており、
    前記アモルファス炭化珪素膜中のSi含有量が60重量%以上であり、
    前記無電解めっき層がNiとPとを含む無電解めっき層であることを特徴とする樹脂成形用金型。
  2. 前記アモルファス炭化珪素膜中のSi含有量が70重量%以下である請求項1に記載の樹脂成形用金型。
  3. 前記アモルファス炭化珪素膜からなる表面層の厚さが0.05〜20μmである請求項1または2に記載の樹脂成形用金型。
  4. 前記無電解めっき層が、実質的にNiとPからなる層である請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成形用金型。
  5. 前記無電解めっき層のPの含有量が、0.1〜15重量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成形用金型。
  6. 前記母材が、Fe系合金である請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形用金型。
  7. 前記母材の硬度Hvが、300以上700以下である請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形用金型。
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