本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
<1.本発明にかかるペプチド>
本発明にかかるペプチドは、既述の通り、スギ花粉アレルゲン(例えば、Cry j 1 、Cry j 2等)のIgEエピトープのうち、高次構造IgEエピトープを含有することを特徴とするものである。
ここで「IgEエピトープ」は、「B細胞エピトープ」または単に「エピトープ(抗原決定基)」とも呼ばれ、IgE抗体が認識するアレルゲン(抗原)上の部位を意味する。特に本発明にかかるペプチドに含まれる「高次構造IgEエピトープ」は、「シーケンシャルIgEエピトープ」、すなわちスギ花粉アレルゲンのアミノ酸配列中にそのアミノ酸配列があり、かつスギ花粉アレルゲン特異IgE抗体と結合することが可能なものとは異なるタイプのエピトープである。
図6(a)にシーケンシャルIgEエピトープを、図6(b)にコンフォーメーショナルIgEエピトープを示す模式図を示す。シーケンシャルIgEエピトープは、アレルゲンのアミノ酸配列(1次配列)を抗体が認識するものであり、当該エピトープのアミノ酸配列はアレルゲンのアミノ酸配列(1次構造)上の存在する。一方、高次構造IgEエピトープは、アレルゲンが立体構造(高次構造)をとることによってはじめて出現するエピトープである。したがって、「高次構造IgEエピトープ」とは、アレルゲンのエピトープのうち、そのアミノ酸配列がアレルゲンタンパク質のアミノ酸配列上に存在するIgEエピトープを除くもの(すなわち「シーケンシャルIgEエピトープ」)ということもできる。
上述の通り、かかる高次構造IgEエピトープは、アレルゲンが立体構造をとることによって始めて出現するエピトープであるため、アレルゲンのアミノ酸配列(1次構造)の情報から解析および同定することは非常に困難である。本発明者らは、あらゆる組み合わせのペプチドを提示するファージを用いて、かかる高次構造IgEエピトープの解析を行なうこととした。上記あらゆる組み合わせのペプチドを提示するファージおよびそのファージライブラリーとしては、特に限定されるものではなく、公知のファージディスプレイ法の原理を用いてM13ファージの先端表面にファージのg3p(gene 3 protein)との融合タンパク質としてペプチドを提示させるようにしたものを使用すればよい。このようなあらゆる組み合わせのペプチドを提示するファージライブラリーキットが既に市販されており、たとえばPh.D.12TMPhage Display Peptide Library Kit (BioLabs Inc.製)が利用可能である。当該Ph.D.12TMPhage Display Peptide Library Kit (BioLabs Inc.製)は、任意の12アミノ酸からなるペプチドをファージ表面に提示するものである。
本発明者らは、スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体と結合可能なファージの選抜をまず行なった。かかるファージが提示するペプチド中には、少なくともエピトープの存在が予想される。次に本発明者らは、スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体と結合可能なファージが提示するペプチドのアミノ酸配列が、スギ花粉アレルゲンのアミノ酸配列中に存在するか否かを検討した。スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体と結合可能なペプチドのアミノ酸配列が、スギ花粉アレルゲンのアミノ酸配列中に存在しないものであれば、当該ペプチドは高次構造IgEエピトープを含むペプチド、すなわち本発明にかかるペプチドである判断できる。本発明にかかるペプチドは上記手法により、発見したものである。
なお本発明にかかるにかかるペプチドは、上記手法により発見されたものに限られず、その他任意のペプチドを化学合成等で調製したものと、スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体との結合性、および当該ペプチドのアミノ酸配列を指標に見出したものであってもよい。
本発明の説明において「スギ花粉アレルゲン」とは、スギ花粉症の原因となるアレルゲン(抗原)であれば特に限定されるものではなく、例えば、主要抗原として公知のCry j 1 、Cry j 2、およびその他の抗原としてCry j 3, CJP-6, CJP-4等が挙げられる。なお、Cry j 3 については[ Futamura N, Mukai Y, Sakaguchi M, Yasueda H, Inouye S, et al. Biosci Biotechnol Biochem 2002;66:2495-2500.]、CJP-6 については[Kawamoto S, Fujimura T, Nishida M, Tanaka T, Aki T et al; Cli Exp Allergy 2002;32:1064-1070.]、CJP-4については[ Fujimura T, Shigeta S, Suwa T, Kawamoto S, Aki T et al. Clin Exp Allergy 2005 inpress.]に記載されている。上記スギ花粉アレルゲンのアミノ酸配列は、既に公開されているアミノ酸配列情報を利用すればよい。例えば、Cry j 1のアミノ酸配列は、DNA Data Bank of Japan(DDBJ:http://www.ddbj.nig.ac.jp)に、アクセッション番号 D34639、Cry j 2のアミノ酸配列はアクセッション番号 D37765として公開されている。なお、上記Cry j 1のアミノ酸配列を配列番号1に示した。またその他、Cry j 1 のアミノ酸配列はいくつか報告されており、例えばSwiss-Prot(http://kr.expasy.org/cgi-bin/get-sprot-entry?P18632)に公開されている。またNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?CMD=search&DB=protein)上に、アクセッション番号 JC2124、JC2123、およびP18632として公開されている。
また「スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体」とは、スギ花粉症患者血清IgE抗体、スギ花粉症患者由来B細胞(B cell)上のIgE抗体、およびスギ花粉症患者由来肥満細胞上のIgE抗体を意味する。なお「スギ花粉症患者」とは、スギ花粉アレルゲンに感作され、スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体を体内で産生するヒトのことを意味し、スギ花粉症を発症したか否かは特に問わない。またスギ花粉症を発症している場合であっては、その症状の程度については問わない。
本発明にかかるペプチドとしては、例えば、スギ花粉主要アレルゲンCry j 1 から見出したペプチド(「ペプチド26−2」、「ペプチド26−3」、「ペプチドS95−1」、「ペプチドB07−8」および「ペプチドB07−9」)が挙げられる。当該ペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、およびペプチドB07−9は既述のPh.D.12TMPhage Display Peptide Library Kit (BioLabs Inc.製)を利用して見出したものであり、簡単には、以下のようにした。
まず、あらゆる12アミノ酸からなるペプチドを提示するM13ファージからなるファージライブラリーに対して、抗Cry j 1モノクローナル抗体(商品名:Ab-Cry j 1, Monoclonal Antibody (clone 026 ),発売元:生化学工業株式会社,以下「Cry j 1モノクローナル抗体026」と称する))を用いて合計6回Panningを行なった。6回目のPanningで得られたファージから任意に選択したファージの中からCry j 1モノクローナル抗体026との結合性が高いファージをELISA(Enzyme-Linked Immuno-Sorbent Assay)を用いて検討を行ない、確かな結合性を示した「ペプチド26−2」および「ペプチド26−3」を提示するファージを選抜した(当該ファージをそれぞれ「ファージ26−2」および「ファージ26−3」という)。ファージ26−2、およびファージ26−3についてELISA inhibition を用いてさらに検討したところ、ファージ26−2の方がファージ26−3よりもCry j 1モノクローナル抗体026に対する結合性(反応性)が高いということが分かった。ファージ26−2が提示するペプチド26−2のアミノ酸配列を検討した結果、HLPPSYYLSRNN(配列番号2)であった。またペプチド26−3のアミノ酸配列はHPDFDLNRSLMD(配列番号3)であった。
また本発明者らが作製したCry j 1モノクローナル抗体S95(Sakaguchi M, Hashimoto M, Nigi H, Yasueda H, Takahashi Y, Watanabe M, Nagoya T, Taniguchi Y, Kurimoto M, Inouye S., Immunology. 1997 Jun;91(2):161-6. “Epitope specificity of IgE antibodies to a major allergen (Cry j 1) of Japanese cedar pollen in sera of humans and monkeys with pollinosis.”参照)をPanningに用い、上記と同様の操作を行なってペプチドS95−1を発見した。ペプチドS95−1のアミノ酸配列は、TYSPFHSFTSIP(配列番号8)であった。
さらに本発明者らが作製したCry j 1モノクローナル抗体B07(Sakaguchi M, Hashimoto M, Nigi H, Yasueda H, Takahashi Y, Watanabe M, Nagoya T, Taniguchi Y, Kurimoto M, Inouye S., Immunology. 1997 Jun;91(2):161-6. “Epitope specificity of IgE antibodies to a major allergen (Cry j 1) of Japanese cedar pollen in sera of humans and monkeys with pollinosis.”参照)をPanningに用い、上記と同様の操作を行なってペプチドB07−8、ペプチドB07−9を発見した。ペプチドB07−8のアミノ酸配列はNEYQAPPHWTKK(配列番号9)であり、ペプチドB07−9のアミノ酸配列はLPRYSFPVQAPV(配列番号10)であった。
上記ペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、およびペプチドB07−9を公知のペプチド合成装置を用いて化学合成した。化学合成により入手したペプチド26−2とCry j 1モノクローナル抗体026との結合性をELISA inhibition を用いて確認した上で、スギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性を同方法にて確認した。その結果、ペプチド26−2は、スギ花粉症患者血清IgE抗体と結合するということが分かった。配列番号2に示されるペプチド26−2のアミノ酸配列は、Cry j 1 のアミノ酸配列上(配列番号1)には存在せず、当該ペプチド26−2は高次構造IgEエピトープを含むペプチドであるということが分かった。配列番号2に示されるペプチド26−2のアミノ酸配列が、Cry j 1 のアミノ酸配列上(配列番号1)には存在するかどうかの検討は、公知のソフトウエアを用いることによって容易に検討することができる。上記ペプチド26−2の選抜、Cry j 1モノクローナル抗体026との結合性の検討、およびスギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性については、後述する実施例においてより具体的に説示する。
また化学合成により入手したペプチドS95−1と抗Cry j 1モノクローナル抗体S95との結合性をELISA inhibition を用いて確認した上で、スギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性をELISA法にて確認した。その結果、ペプチドS95−1は、スギ花粉症患者血清IgE抗体と強く結合するということが分かった。配列番号8に示されるペプチドS95−1のアミノ酸配列は、Cry j 1 のアミノ酸配列上(配列番号1)には存在せず、当該ペプチドS95−1は高次構造IgEエピトープを含むペプチドであるということが分かった。配列番号8に示されるペプチドS95−1のアミノ酸配列が、Cry j 1 のアミノ酸配列上(配列番号1)には存在するかどうかの検討は、公知のソフトウエアを用いることによって容易に検討することができる。上記ペプチドS95−1の選抜、Cry j 1モノクローナル抗体S−95との結合性の検討、およびスギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性については、後述する実施例においてより具体的に説示する。
また化学合成により入手したペプチドB07−9と抗Cry j 1モノクローナル抗体B07との結合性をELISA inhibition を用いて確認した上で、スギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性をELISA法にて確認した。その結果、ペプチドB07−9は、スギ花粉症患者血清IgE抗体と結合するということが分かった。配列番号10に示されるペプチドB07−9のアミノ酸配列は、Cry j 1 のアミノ酸配列上(配列番号1)には存在せず、当該ペプチドB07−9は高次構造IgEエピトープを含むペプチドであるということが分かった。配列番号10に示されるペプチドB07−9のアミノ酸配列が、Cry j 1 のアミノ酸配列上(配列番号1)には存在するかどうかの検討は、公知のソフトウエアを用いることによって容易に検討することができる。上記ペプチドB07−9の選抜、Cry j 1モノクローナル抗体B07との結合性の検討、およびスギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性については、後述する実施例においてより具体的に説示する。
また、ペプチド26−3、ペプチドB07−8についても同様に検討を行なえば、スギ花粉症患者血清IgE抗体と結合するということが確認できる。さらにそのアミノ酸配列情報(ペプチド26−3:配列番号3、ペプチドB07−8:配列番号9)から、ペプチド26−3およびペプチドB07−8も高次構造IgEエピトープを含むペプチドであるということが確認できる。
なお本発明にかかるペプチドは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド26−2、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチド26−3、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるペプチドS95−1、配列番号9に示されるアミノ酸配列からなるペプチドB07−8、および配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるペプチドB07−9のみに限定されるものではなく、配列番号2、3、8、9または10に示されるそれぞれのアミノ酸の一部がスギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性(結合性)を有する限りにおいて、置換、欠失したペプチドであっても、また任意のアミノ酸が付加されたペプチドであってもよい。
また本発明にかかるペプチドは、上記ペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、およびペプチドB07−9に限られるものではなく、上記同様の方法を用いて見出したCry j 1 の高次構造IgEエピトープを含有する他のペプチドをも含む。また上記Panningの際にCry j 2に対する抗体(モノクローナル抗体)、Cry j 3に対する抗体(モノクローナル抗体)、CJP-6に対する抗体(モノクローナル抗体)、およびCJP-4に対する抗体(モノクローナル抗体)を用いることによって、それぞれCry j 2、Cry j 3、CJP-6 および CJP-4の高次構造IgEエピトープを含むペプチドを取得することができる。よって、上記Cry j 2、Cry j 3、CJP-6、およびCJP-4の高次構造IgEエピトープを含むペプチドも本発明にかかるペプチドである。
なお上記Ph.D.12TM Phage Display Peptide Library Kit (BioLabs Inc.製)を用いて見出した本発明にかかるペプチドは、12アミノ酸からなるものであるが、本発明のペプチドはこれに限定されるものではない。本発明のペプチドは、少なくとも高次構造IgEエピトープを含有するものであればよい。したがって、高次構造IgEエピトープのみからなるペプチドであっても、高次構造IgEエピトープにエピトープ構造に影響を及ぼさないアミノ酸(例えば、グリシン、リジン等)がN末端側、C末端側に付加されたペプチドでも、本発明のペプチドに包含される。
高次構造IgEエピトープのアミノ酸配列を特定する方法としては、例えば本発明にかかるペプチド(例えばペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、およびペプチドB07−9等)から任意のペプチド断片を調製し、スギ花粉アレルゲン特異IgE抗体と結合する必須のアミノ酸領域を絞り込むという方法が挙げられる。
なお、本発明にかかるペプチドには1価のIgEエピトープを含有していることが好ましい。ここで「1価のIgEエピトープ」とは、IgE抗体と結合するIgEエピトープが1つ含まれるということを意味する。これに対して多価のIgEエピトープとは、IgE抗体と結合するIgEエピトープが複数含まれるということを意味する。1価のIgEエピトープを含有する本発明にかかるペプチドを、スギ花粉症治療薬、スギ花粉症改善薬等に利用することによって、肥満細胞または好塩基球上のIgE分子と1価のIgEエピトープとが結合し、天然型アレルゲン分子の多価エピトープによるIgE分子架橋の形成を阻害することができ、ヒスタミン等の化学メディエーターの放出を抑制することができる。
<2.本発明にかかるペプチドの調製方法、および本発明にかかるポリヌクレオチド>
ところで、本発明にかかるペプチドは、「固相法」または「液相法」として知られる斯界において慣用のペプチド合成法により調製することができる。例えば、社団法人日本生化学会編「新生化学実験講座」、第1巻、「タンパク質VI」、第3〜44頁、1992年、東京化学同人発行などにはペプチド合成の詳細が記載されている。また、該ペプチドは、マルチペプチドシンセサイザー(シンフォニー、プロテインテクノロジー社製)を用い、Fmoc (9-fluorenyl methyloxycarbonyl)固相合成法にて同装置のプロトコールに従って合成することができる。すなわち、合成する各ペプチドのC末端に相当するアミノ酸が導入されているFmoc-L-アミノ酸Wang樹脂(またはCl-Trt樹脂)を上記ペプチド合成装置の反応容器にセットし、デプロテクション溶液を用いてFmocを除く。さらにC末端から2番目のアミノ酸に相当するアミノ酸溶液とアクチベーター溶液を反応せしめ、反応後再びFmoc基のデプロテクションを行ない、同様の操作を繰り返すことにより、目的とするペプチドを合成することができる。
本発明にかかるペプチドは化学合成により調製されたものに限定されず、組換えDNA技術により調製したものであってもよく、例えば、上記ペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、またはペプチドB07−9をコードするポリヌクレオチド(DNA)を調製し、これを自立増殖可能なベクターに挿入したものを大腸菌、枯草菌、放線菌、酵母等の宿主に導入して形質転換体とし、その培養物から本発明にかかるペプチドを取得してもよい。
上記ポリヌクレオチドの塩基配列は、本発明にかかるペプチド(例えば、上記ペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、またはペプチドB07−9)をコードするポリヌクレオチドであれば特に限定されるものではない。本発明にかかるペプチドのアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するポリヌクレオチドは全て上記ポリヌクレオチドに含まれる。アミノ酸配列に対応する塩基配列は、公知のコドン表により容易に理解できる。なお、本発明にかかるペプチドをコードするポリヌクレオチドを「本発明にかかるポリヌクレオチド」と称する。本発明にかかるポリヌクレオチドは、本発明にかかるペプチドの大量調製に利用可能である。
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。
本発明にかかるポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、またはそれは、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
所望の塩基配列を有するポリヌクレオチド(DNA)を調製する方法としては、例えば、該所望のDNAの部分配列ヌクレオチドであって、両端がオーバーラップするようなセンスおよびアンチセンスヌクレオチドを化学合成し、次いでポリメラーゼ連鎖反応[Saiki, R. K. et al (1988) Science 239, 487-491参照]等のDNAポリメラーゼ反応やリガーゼ反応を利用することにより、それら部分配列が連結したものを得る方法等が挙げられる。また公知のDNAシンセサイザーを用いる方法により、化学合成したものであってもよい。
上記のごとくして得られる本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードするポヌクレオチド(DNA)を好適なベクターに組み込むことにより、原核生物または真核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらのベクターに適当なプロモーターおよび形質転換にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞において該DNAを発現させることができる。
原核細胞の宿主としては、例えば大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)等が挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質発現させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコン、すなわち複製起点および調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させればよい。またベクターは形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を持つものが望ましい。
例えば大腸菌としてはE.coli K12株、JM109株等がよく用いられ、ベクターとしては一般にpBR322やpUC系のプラスミドがよく用いられるが、これらに限定されず、公知の各種の菌株およびベクターがいずれも利用できる。
プロモーターとしては、大腸菌においてはトリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、バクテリオファージ由来のラムダ(λ)PLプロモーター、ポリペプチド鎖伸長因子Tu(tufB)プロモーター、lacUV5プロモーター等が挙げられ、いずれのプロモーターも本発明のペプチドの産生に使用することができる。
枯草菌としては、例えば207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228[Ohmura, K., et al. (1984) J. Biochem. 95, 87-93 参照]等が用いられるが、これに限定されるものではない。枯草菌用プロモーターとしては、枯草菌のα−アミラーゼ遺伝子の調節配列がよく用いられ、さらに必要によりα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
宿主細胞として大腸菌を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、pBR322複製起点を有し、大腸菌において自律増殖が可能であり、さらに転写プロモーター、翻訳開始シグナルを備えたものを用いることができる。該発現ベクターはカルシウム−クロライド法[Mandel, M. and Higa, A. (1970) J. Mol. Biol. 53, 154参照]、Hanahanの方法[Hanahan, D. and Meselson, M. (1980) Gene 10, 63 参照]および電気パルス穿孔法[Neumann, E., et al. (1982)EMBO J. 1, 841-845 参照]等により大腸菌に取り込ませることができ、かくして所望のベクターがトランスフェクトされた細胞を得ることができる。
真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞[Gluzman, Y. (1981) Cell23, 175-182 参照]やチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株[Urlaub, G. and Chasin, L. A. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4216-4220参照]、ヒトナマルバ細胞、ハムスターBHK細胞等がよく用いられるが、これらに限定されない。
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現させようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終結配列等を有するものを使用でき、これはさらに必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr[Subramani, S., et al. (1981) Mol. Cell. Biol. 1, 854-864参照]等を例示できるが、これに限定されない。
また真核微生物としては酵母が一般によく用いられており、その中でもサッカロミセス属酵母、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)が好ましい。該酵母等の真核生物の発現ベクターとしては、例えばアルコール脱水素酵素遺伝子のプロモーター[Bennetzen, J. L. and Hall, B. D. (1982) J. Biol. Chem. 257, 3018-3025 参照]や酸性ホスファターゼ遺伝子のプロモーター[Miyanohara, A., et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 1-5参照]等を好ましく利用できる。
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自立増殖が可能であり、さらに転写プロモーター、転写集結シグナルおよびRNAスプライス部位を備えたものを用いることができる。該発現ベクターはDEAE−デキストラン法[Luthman, H. and Magnusson, G. (1983) Nucleic Acids Res. 11, 1295-1308 参照]、リン酸カルシウム−DNA共沈澱法[Graham, F. L. and van der Ed, A. J.(1973) Virology 52, 456-457 参照]および電気パルス穿孔法[Neumann, E., et al. (1982) EMBO J. 1, 841-845 参照]等によりCOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共にG418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo[Sambrook, J., et al. (1989) "Molecular Cloning: A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY参照]やpSV2neo[Southern, P. J. and Berg, P. (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1, 327-341 参照]等をコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより本発明のペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
上記で得られる所望の形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内または細胞外に本発明にかかるペプチドが生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば、大腸菌であればトリプトン−イースト培地(バクトトリプトン1.6%、イーストエキストラクト1.0%、塩化ナトリウム 0.5%(pH7.0))やペプトン培地(ディフコ社製)等を使用できる。また、上記COS細胞であればRPMI1640培地やダルベッコ修正イーグル培地(DMEM)等の培地に必要に応じウシ胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したものを使用できる。
上記により、形質転換体の細胞内または細胞外に生産される本発明にかかるペプチドは、該ペプチドの物理的性質や化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離・精製することができる。かかる方法としては、具体的には例えば通常のタンパク質沈澱剤による処理、限外ろ過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せ等を例示できる。
外来遺伝子を大腸菌等に導入して大量発現させた場合、産生されたペプチドが、封入体と呼ばれる水に不溶の集塊を形成することがある。そのような場合、グアニジンイソチオシアネート等の強力な変性剤を用いて該ペプチドを変性させることにより該ペプチドを可溶化することができる。
さらに、本発明にかかるペプチドは、かくして得られるペプチドに糖質やポリエチレングリコールを付加して得られる複合体としての形態、さらには、ペプチドをアセチル化、アミド化および/または多官能試薬により架橋重合させて得られる誘導体またはホモ若しくはヘテロ重合体としての形態であってもよい。そのような本発明にかかるペプチドの複合体、誘導体または重合体の製造にあたっては、糖質等の付加、アセチル化、アミド化および/または架橋重合は、本発明にかかるペプチド中のスギ花粉アレルゲン由来の高次構造IgEエピトープの機能を損なわないよう、前記した本発明にかかるペプチドのN末端および/またはC末端の付加的ペプチドにおいて行われることが好ましいが、これに限定されない。
本発明にかかるペプチドの複合体としては、例えばN末端のアミノ基にポリエチレングリコール、モノメトキシポリエチレングリコール、デキストラン、さらには、プルラン、エルシナンなどのマルトトリオースを反復単位とする多糖類を付加したもの等、本発明の技術分野における当業者に周知の方法で合成できるものを挙げることができ、これらは例えば社団法人日本生化学会編「新生化学実験講座」第1巻「タンパク質IV」第236〜252頁(1991年、東京化学同人発行)等の記載に従って製造することができる。
また、本発明にかかるペプチドの誘導体としては、例えばN末端をアセチル化したもの、C末端をアミド化したもの等、本発明の技術分野における当業者に周知の方法で合成できるものを挙げることができる。かかる誘導体は、例えば上記「新生化学実験講座」第1巻「タンパク質IV」第18〜20頁および同第9巻「ホルモンI」第290〜298頁(いずれも1991年、東京化学同人発行)等の記載に従って製造することができる。
さらに、本発明にかかるペプチドの重合体としては、本発明にかかる1種または2種以上のペプチドの重合体が挙げられ、例えばジスクシンイミジルスベレート等の二価性架橋試薬により本発明のペプチド2分子を重合したもの等、本発明の技術分野における当業者に周知の方法で合成できるものを挙げることができる。かかる重合体の調製は、例えば上記「新生化学実験講座」第1巻「タンパク質IV」第207〜226頁の記載に従って行なうことができる。
例えば、プロテアーゼで特異的に切断可能なアミノ酸配列を含むリンカーペプチドを介して、本発明にかかるペプチド(ペプチド26−2、ペプチド26−3、ペプチドS95−1、ペプチドB07−8、またはペプチドB07−9等)より選ばれる単一または異なるペプチドが複数個連結しているような重合体を、大腸菌等の宿主に組換え体として生産させてから、該プロテアーゼで該重合体を消化することにより、本発明にかかるペプチドを得ることもできる。その際、該重合体は本発明にかかるペプチドの一つが重合したホモ重合体または複数種の本発明にかかるペプチドが重合したヘテロ重合体のいずれでもよいが、単一のペプチドを大量に生産させることを目的とする場合には、ホモ重合体が選択される。またプロテアーゼは、特定のアミノ酸配列を認識して切断するものであれば、公知のものをいずれも使用することができるが、好適にはトリプシン、カテプシンB、カテプシンD、カテプシンE等である
<3.本発明にかかる抗体>
本発明にかかる抗体は、上記本発明にかかるペプチドと結合するものである。本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、特に限定しない限り、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体、抗イディオタイプ抗体およびヒト化抗体が挙げられるがこれらに限定されない。本発明にかかる抗体は、本発明にかかるペプチドを発現する生物材料(ファージ含む)、本発明にかかるペプチドを精製、調製する際に利用可能である。例えば、本発明にかかる抗体を固定化し、公知のアフィニティークロマトグラフィーを行なうことによって、本発明にかかるペプチドを含むクルードな溶液から、当該ペプチドを容易に精製することができる。上記アフィニティークロマトグラフィーに用いる担体、抗体の固定化方法、アフィニティークロマトグラフィーの運転条件等は、公知の情報を適宜選択の上、採用することが可能である。
「抗体」は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製することができる。
ペプチド抗体は、当該分野に周知の方法によって作製される。例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910−914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347−2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。一般には、動物は遊離ペプチドで免疫化され得る;しかし、抗ペプチド抗体力価はペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含むペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得、一方、他のペプチドは、グルタルアルデヒドのようなより一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。ウサギ、ラット、およびマウスのような動物は、遊離またはキャリア−カップリングペプチドのいずれかで、例えば、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質およびFreundのアジュバントを含むエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により免疫化される。いくつかの追加免疫注射が、例えば、固体表面に吸着された遊離ペプチドを使用してELISA法により検出され得る有用な力価の抗ペプチド抗体を提供するために、例えば、約2週間の間隔で必要とされ得る。免疫化動物からの血清における抗ペプチド抗体の力価は、抗ペプチド抗体の選択により、例えば、当該分野で周知の方法による固体支持体上のペプチドへの吸着および選択された抗体の溶出により増加され得る。
本明細書中で使用される場合、用語「ペプチドと特異的に結合する抗体」は、本発明にかかるペプチドに特異的に結合し得る完全な抗体分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメント)を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)2フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ない(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983)(本明細書中に参考として援用される))。従って、これらのフラグメントが好ましい。
さらに、本発明にかかるのペプチドに結合し得るさらなる抗体が、抗イディオタイプ抗体の使用を通じて2工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原であるという事実を使用し、従って、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従って、本発明にかかるペプチドと特異的に結合する抗体は、動物(好ましくは、マウス)を免疫するために使用される。次いで、このような動物の脾細胞はハイブリドーマ細胞を産生するために使用され、そしてハイブリドーマ細胞は、本発明にかかるペプチドと特異的に結合する抗体に結合する能力が、本発明にかかるペプチドによってブロックされ得る抗体を産生するクローンを同定するためにスクリーニングされる。このような抗体は、本発明にかかるペプチドと特異的に結合する抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、そしてさらなる本発明にかかるペプチドと特異的に結合する抗体の形成を誘導するために動物を免疫するために使用され得る。
FabおよびF(ab’)2ならびに本発明にかかる抗体の他のフラグメントは、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることが、明らかである。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)2フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生される。あるいは、本発明にかかるペプチドに結合するフラグメントは、組換えDNA技術の適用または合成化学によって産生され得る。
このように、本発明にかかる抗体は、少なくとも、本発明にかかるペプチドを認識する抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)2フラグメント)を備えていればよいといえる。すなわち、本発明にかかるペプチドを認識する抗体フラグメントと、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
つまり、本発明の目的は、本発明にかかるペプチドを認識する抗体を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
<4.本発明にかかる薬学的組成物>
本発明にかかるペプチド(その複合体、その誘導体を含む)を有効成分として含む本発明にかかる薬学的組成物(スギ花粉症治療薬またはスギ花粉改善薬)は、スギ花粉症に罹患した患者に投与すると、スギ花粉症を治療または改善することができる。IgEエピトープ、特に1価のIgEエピトープは、アレルギー反応の抑制に有効であることが知られており、アレルギー治療薬、改善薬としての利用が期待されている。1価のIgEエピトープによるアレルギー反応の抑制は、肥満細胞または好塩基球上のIgE分子と1価のIgEエピトープとが結合し、天然型アレルゲン分子の多価エピトープによるIgE分子架橋の形成を阻害することによるものであると考えられている。一方、本発明の薬学的組成物(スギ花粉症治療薬、スギ花粉症改善薬)をスギ花粉が飛散しはじめる前に健常な個体や潜在的なスギ花粉症の個体に投与するときには、スギ花粉症に対して顕著な予防効果を発揮するとともに、発症時のアレルギー症状の寛解に著効を発揮する。
また本発明にかかる薬学的組成物は、上記本発明にかかる抗体を含有するものであってもよい。本発明にかかる抗体は、スギ花粉アレルゲンのIgEエピトープを含むペプチドに対する抗体であり、スギ花粉アレルゲンのIgEエピトープと特異的に結合する。したがって、本発明にかかる抗体を含有する薬学的組成物を、スギ花粉症患者に投与すれば、本発明にかかる抗体が、体内に侵入したスギ花粉アレルゲンの高次構造IgEエピトープをトラップし、肥満細胞または好塩基球上のIgE分子架橋形成を阻害することができ、スギ花粉症の症状を改善することができる。
本発明にかかる薬学的組成物についてさらに詳しく説明すると、本発明にかかる薬学的組成物は通常、本発明にかかるペプチドまたは抗体を0.01%(w/w)〜100%(w/w)、好ましくは0.05%(w/w)〜50%(w/w)、さらに好ましくは0.5%(w/w)〜5.0%(w/w)含んでなる。本発明にかかる薬学的組成物は、当該ペプチドまたは抗体単独の形態はもとより、それ以外に生理的に許容される、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、グルコース、シュークロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、マンニトール、プルランなどの担体、賦形剤、免疫助成剤、安定剤、さらには必要に応じてステロイドホルモンやクロモグリク酸ナトリウムなどの抗炎症剤や抗ヒスタミン剤、抗ロイコトリエン剤、抗タキキニン剤を含む1種または2種以上の他の薬剤と組み合わせた組成物としての形態を包含する。さらに、本発明の薬学的組成物は、投薬単位形態の薬剤をも包含し、その投薬単位形態の薬剤とは、本発明にかかるペプチドまたは抗体を、例えば、1日当たりの用量またはその整数倍(4倍まで)またはその約数(1/40まで)に相当する量を含有し、投与に適する物理的に分離した一体の剤形にある薬剤を意味する。このような投薬単位形態の薬剤としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、口腔剤、シロップ剤、乳剤、軟膏剤、硬膏剤、パップ剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、注射剤などが挙げられる。
本発明の薬学的組成物は、スギ花粉症の治療、改善または予防を目的に、経口、経皮、点鼻、点眼または注射投与される。ヒトにおける投薬量は、投与の目的や方法、症状によっても異なるが、通常、対象者の症状や投与後の経過を観察しながら、成人1日当たり0.01mg〜1000mg、好ましくは1mg〜10mgを目安に、毎日1回〜毎月1回の頻度で、約1〜6ヶ月間、通常、用量を増やしながら反復投与される。
<本発明にかかるスギ花粉症の診断キット>
本発明にかかるスギ花粉症の診断キットには、本発明にかかるペプチドを含むことを特徴としている。本発明にかかるペプチドと被験者の血清との結合性(反応性)をELISA法等で検討することによって、被験者血清中にスギ花粉アレルゲンに対するIgE抗体を有しているか否かを判断することができ、被験者がスギ花粉症である(スギ花粉症を発症しているかは問わない)か否かを診断することができる。
なお本発明にかかるスギ花粉症の診断キットに含まれる本発明にかかるペプチドは、一種類に限定されるものではなく、複数種類のペプチドを包含することが好ましい。換言すれば、スギ花粉アレルゲンのIgEエピトープを含む複数のペプチドが、本発明にかかる診断キットに含まれていることが好ましい。また、単一のアレルゲンのIgEエピトープを含むペプチドに限定されるものでなく、種々のアレルゲンに対するIgEエピトープを含むペプチドがそれぞれ含まれていることが好ましい。
本発明にかかるスギ花粉症の診断キットに、複数の本発明にかかるペプチドが含まれていることによって、被験者(スギ花粉症患者)のアレルギー反応の原因となるスギ花粉アレルゲンをさらに詳細に特定することが可能となる。
なお、本発明かかるスギ花粉症の診断キットには、本発明にかかるペプチドの他、公知のIgEエピトープを含むペプチド、公知のアレルゲンタンパク質が含まれていてもよい。被験者のアレルギー反応の原因となるアレルゲンの特定を、さらに詳細に行なうことができる。
また、本名発明にかかるスギ花粉症の診断キットには、ELISA法を行なうために必要な試薬(2次抗体、発色試薬等)、プレート(96ウェルプレート等)等が含まれていてもよい。またウエスタンブロット法を行なうために必要なメンブレン、電気泳動用ゲル、電気泳動装置、ブロッティング装置、ブロッティング用試薬等が含まれていてもよい。上記構成が含まれることによって、スギ花粉症の診断をさらに簡便に行なうことができる。
また本発明にかかるスギ花粉症診断キットは、本発明にかかるペプチドが基板上に固定化されている検出器具が含まれている態様であってもよい。当該実施態様にかかる検出器具は、いわゆるプロテインチップである。
本明細書中で使用される場合、用語「基板」は、目的物(例えば、ペプチドまたはタンパク質等)を担持することのできる物質が意図され、用語「支持体」と交換可能に使用される。好ましい基板(支持体)としては、ビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ)、固相(例えば、ガラスチューブ、試薬ストリップ、ポリスチレン製のマイクロタイタープレートまたはアミノ基結合型のマイクロタイタープレート)などが挙げられるが、これらに限定されない。目的物をこれらの基板に固定化する方法は、当業者に周知であり、例えば、Nature 357:519−520(1992)(本明細書中に参考として援用される)に記載される。
本実施態様にかかる検出器具に用いる基板の材質としては、ペプチドを安定して固定化することができるものであればよい。上記した基板以外には、例えば、ポリカーボネートやプラスティックなどの合成樹脂、ガラス等を挙げることができるが、これらに限定されない。基板の形態も特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状等の基板を好適に用いることができる。
上記の方法以外のペプチドを基板上に固定化する方法としては、例えば、ニトロセルロース膜やPDVF膜にポリペプチドや抗体をドットブロットの要領でスポットする物理吸着法、または、ポリペプチドや抗体の変性を軽減するために、スライドガラス上にポリアクリルアミドのパッドを接合して、これにペプチドをスポットする方法が挙げられる。さらに、ペプチドを基板表面に吸着させるだけでなく、強固に結合させるため、アルデヒド修飾ガラスを利用した方法(G.MacBeath,S.L.Schreiber,Science,289,1760(2000))を用いることもできる。また、基板上でのペプチドの配向を揃えて固定化する方法としては、オリゴヒスチジンタグを介して、ニッケル錯体で表面修飾した基板へ固定化する方法(H.Zhu,M.Bilgin,R.Bangham,D.Hall,A.Casamayor,P.Bertone,N.Lan,R.Jansen,S.Bidlingmaier,T.Houfek,T.Mitchell,P.Miller,R.A.Dean,M.Gerstein,M.Snyder,Science,293,2101(2001))を用いることができる。
このように、本発明にかかかるスギ花粉診断キットには、少なくとも、本発明にかかるペプチドが含まれていればよいといえる。そのほかにスギ花粉症の診断に必要な構成を備える場合も、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
<本発明にかかるスギ花粉症の診断方法>
本発明にかかるスギ花粉症の診断方法は、本発明にかかるペプチドと被験者の血清と反応させる工程(反応工程)を含むことを特徴としている。本発明にかかるペプチドと被験者の血清との結合性(反応性)をELISA法等で検討することによって、被験者血清中にスギ花粉アレルゲンに対するIgE抗体を有しているか否かを判断することができ、被験者がスギ花粉症である(スギ花粉症を発症しているかは問わない)か否かを診断することができる。
当該反応工程を行なう方法は特に限定されるものではなく、例えばELISA法、RIA法、ウエスタンブロット法、ドットブロット法等公知の方法を適宜選択の上、適用可能である。例えば、ELISA法を採用する場合場合は、マイクロタイタープレート上に本発明にかかるペプチドを固定し、被験者の血清をアプライして反応させればよい。なお被験者の血清は、適当な濃度になるように緩衝液(リン酸緩衝液等)で希釈して使用することが好ましい。血清の濃度が高すぎると本発明にかかるペプチドと非特異的に結合するからである。ペプチドの固定量、血清の反応温度、反応時間等の反応条件については、適宜検討の上、設定すればよい。なお、被験者の血清と反応させるのは、本発明にかかるペプチドに限定されるものではなく、その他のIgEエピトープを含むペプチドや、その他公知のアレルゲンタンパク質等と反応させてもよい。したがって、上記マイクロタイタープレート上に固定する物質は、本発明にかかるペプチドのみならず、その他のIgEエピトープを含むペプチドや、その他公知のアレルゲンタンパク質等であってもよい。
また本発明にかかるスギ花粉症の診断方法には、本発明にかかるペプチドと患者血清中に含まれるIgE抗体との結合を検出する検出工程が含まれていることが好ましい。本発明にかかるペプチドに結合した患者血清中に含まれるIgE抗体に、ペルオキシダーゼ、ガラクトシダーゼ等で標識した2次抗体(抗ヒト抗体)を結合させ、さらに標識した酵素によって発色する基質を加え発色させることによって、本発明にかかるペプチドと患者血清中に含まれるIgE抗体との結合を容易かつ定量的に検出することができ、被験者がスギ花粉症か否かを判断することができる。なお検出工程は、放射性同位体標識した2次抗体を用いても良く、また検出感度を向上させるべく2次抗体に対する抗体(3次抗体)を用いてもよい。なお検出には、適宜市販の抗体、および検出用試薬を適宜選択の上、利用すればよい。
上記反応工程、検出工程には、当該工程に必要な操作(例えば、未反応の血清抗体等を反応系から除去する洗浄操作、マイクロタータープレートと抗体との非特異的な結合を防止するブロッキング操作等)が含まれていてもよい。また本発明にかかるスギ花粉症の診断方法には、患者から採血する工程、採血した血液から遠心分離により血清を調製する血清調製工程等が含まれていてもよい。なお、ELISA法の具体的な方法については、実施例の記載を適宜援用することが可能である。
以下添付した図面に沿って実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
〔実施例1:Cry j 1 のIgEエピトープを提示するファージの検索〕
(方法)
あらゆる12アミノ酸からなるペプチドを提示するM13ファージからなるファージライブラリー(Ph.D.12TM Phage Display Peptide Library Kit (BioLabs Inc.製))に対して、抗Cry j 1モノクローナル抗体であるCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)、Cry j 1モノクローナル抗体S95(Sakaguchi M, Hashimoto M, Nigi H, Yasueda H, Takahashi Y, Watanabe M, Nagoya T, Taniguchi Y, Kurimoto M, Inouye S., Immunology. 1997 Jun;91(2):161-6. “Epitope specificity of IgE antibodies to a major allergen (Cry j 1) of Japanese cedar pollen in sera of humans and monkeys with pollinosis.”参照)、Cry j 1モノクローナル抗体B07(Sakaguchi M, Hashimoto M, Nigi H, Yasueda H, Takahashi Y, Watanabe M, Nagoya T, Taniguchi Y, Kurimoto M, Inouye S., Immunology. 1997 Jun;91(2):161-6. “Epitope specificity of IgE antibodies to a major allergen (Cry j 1) of Japanese cedar pollen in sera of humans and monkeys with pollinosis.”参照)をそれぞれ用いて合計6回Panningを行なった。なお上記Cry j 1モノクローナル抗体S95およびCry j 1モノクローナル抗体B07は、独立行政法人 理化学研究所 坂口雅彦氏から享受した。
具体的には、0.1M NaHCO3 (pH 8.6)でCry j 1モノクローナル抗体を10μg / mlになるように希釈し、96ウェルマイクロタイタープレート(以下「96ウェルプレート」という)の各ウェルに150μlずつ加え4℃で一晩放置した。
E.coli ER2738を10mlのLB培地に植菌し、37℃で振盪培養を行なった。E.coli ER2738が増殖している間に、プレートにコートしたCry j 1モノクローナル抗体026をウェルから取り除き、blocking buffer (BSA 5mg/ml, 0.02% NaN3 / 0.1M NaHCO3-pH 8.6 )でウェルを満たし、4℃で1時間インキュベートを行なった。
その後ウェル内のblocking bufferを取り除き、TBST(50mM Tris-HCl pH7.5, 150mM NaCl+0.1% [v/v] Tween-20)で6回洗浄した。次にTBSTで希釈した4×1010のファージライブラリーを、ウェルに加え、室温で1時間振盪した。このウェルをTBSTで10回洗浄し、0.2M Glycine-HCl( pH2.2 ), 1mg/ml BSA を100μl加え、10分間振盪した。溶出したファージを、1M Tris-HCl (pH 9.1) 15μlで中和した。このファージ溶出液を、General M13 Methods (Stain Maintenance)でtiterした。残りのファージ溶出液を、20mlのER2738-LB培地に加え、37℃で4.5時間振盪した。培地を遠心分離(10000rpm, 10mim, 4℃)を行ない、遠心上清の1/6 volumeのPEG/NaCl ( 20% (w/v) polyethylenglycolo-8000, 2.5M NaCl )を加え、4℃で一晩放置した。
その後、遠心分離(10000rpm, 10mim, 4℃)を行ない、遠心上清を取り除き、1mlのTBS(50mM Tris-HCl pH7.5, 150mM NaCl)にペレットを懸濁し、遠心(10000rpm, 5mim, 4℃)を行なった。このとき得られた遠心上清に対し、1/6 volumeのPEG/NaClを加え1時間インキュベートを行なった。次に、遠心分離(10000rpm, 10mim, 4℃)を行なった後、遠心上清を取り除き、ペレットをTBS, 0.02% NaN3で懸濁し、さらに遠心分離(10000rpm, 1mim, 4℃)を行なった。この遠心上清をファージ増幅液とし、上記工程を6回繰り返した。なお、特記しない限り、Ph.D.12TM Phage Display Peptide Library Kit (BioLabs Inc.製)のマニュアルに準じた。
6回目のPanningで得られたファージ群から任意に10個のファージを選択し、そのファージの塩基配列を決定し、その塩基配列情報から当該ファージが提示するペプチドのアミノ酸配列を決定した。
(結果)
Cry j 1モノクローナル抗体026を用いたPanningにより選択されたファージが提示するペプチドのアミノ酸配列を図1に示した。また右端の分数は(例えば「(6/10)」)、10個のファージのうち、同一のアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージがいくつあったかを示すものである。例えば「6/10」と表示していれば、10個のファージのうち6個が同一のアミノ酸配列からなるペプチドを提示したということを示す。換言すれば、10個のファージのうち6個が同一のファージであったことを意味する。
図1によれば、異なるアミノ酸配列からなるペプチドを提示する5種類のファージを取得したということが分かった。ファージ26−1は、ATKKATSTYATK(配列番号4)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド26−1)を提示するファージであった。またファージ26−2;ファージ26−6;ファージ26−7;ファージ26−8;ファージ26−9およびファージ26−10は、HLPPSYYLSRNN(配列番号2)のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、同じアミノ酸配列を有するペプチドを「ペプチド26−2」という)を提示するファージであった。またファージ26−3は、HPDFDLNRSLMD(配列番号3)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド26−3)を提示するファージであった。またファージ26−4は、APTFDMNPLRTR(配列番号5)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド26−4)を提示するファージであった。またファージ26−5は、YARTPNRDFTPG(配列番号6)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチド26−5)を提示するファージであった。
Cry j 1モノクローナル抗体S95を用いたPanningにより選択されたファージが提示するペプチドのアミノ酸配列を図7に示した。図の見方は、図1と同様である。図7によれば、異なるアミノ酸配列からなるペプチドを提示する3種類のファージを取得したということが分かった。ファージS95−1;ファージS95−2;ファージS95−3;ファージS95−4;ファージS95−5;ファージS95−7;ファージS95−8およびファージS95−10は、TYSPFHSFTSIP(配列番号8)のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、同じアミノ酸配列を有するペプチドを「ペプチドS95−1」という)を提示するファージであった。またファージS95−6は、HQYQRDHGPQKS(配列番号11)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドS95−6)を提示するファージであった。またファージS95−9は、KMHTASLSHPLM(配列番号12)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドS95−9)を提示するファージであった。
Cry j 1モノクローナル抗体B07を用いたPanningにより選択されたファージが提示するペプチドのアミノ酸配列を図8に示した。図の見方は、図1および7と同様である。図8によれば、異なるアミノ酸配列からなるペプチドを提示する5種類のファージを取得したということが分かった。ファージB07−1;ファージB07−2;ファージB07−5;ファージB07−6;ファージB07−7およびファージB07−10は、QGPHWWRLEGDP(配列番号13)のアミノ酸配列からなるペプチド(以下、同じアミノ酸配列を有するペプチドを「ペプチドB07−1」という)を提示するファージであった。またファージB07−3は、ISPPQHPPHWFR(配列番号14)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドB07−3)を提示するファージであった。またファージB07−4は、QAPHWWYTAPML(配列番号15)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドS95−9)を提示するファージであった。またファージB07−8は、NEYQAPPHWTKK(配列番号16)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドB07−8)を提示するファージであった。またファージB07−9は、LPRYSFPVQAPV(配列番号17)のアミノ酸配列からなるペプチド(ペプチドB07−9)を提示するファージであった。
〔実施例2:各ファージと抗Cry j 1モノクローナル抗体との結合性〕
(方法)
各ファージ(ファージ26−1〜26−5;ファージS95−1;ファージS95−6;ファージS95−9;ファージB07−1;ファージB07−3;ファージB07−4;ファージB07−8;ファージB07−9およびランダムファージ)を、1×109個/wellとなるように96ウェルプレートにコートした。抗Cry j 1モノクローナル抗体であるCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)を用いたELISA法により、ファージ26−1〜26−5とCry j 1モノクローナル抗体026との結合性を検討した。抗Cry j 1モノクローナル抗体であるCry j 1モノクローナル抗体S95を用いたELISA法により、ファージ95−1;ファージS95−6;ファージS95−9とCry j 1モノクローナル抗体S95との結合性を検討した。抗Cry j 1モノクローナル抗体であるCry j 1モノクローナル抗体B07を用いたELISA法により、ファージB07−1;ファージB07−3;ファージB07−4;ファージB07−8;ファージB07−9とCry j 1モノクローナル抗体B07との結合性を検討した。なお、ランダムファージとは、上記実施例1において選抜されなかったファージであり、陰性対照として用いたものである。
96ウェルプレートに、Bicarbonate buffer(100mM NaHCO3pH9.2〜9.5)で希釈した各ファージ(ファージ26−1〜26−5;ファージS95−1;ファージS95−6;ファージS95−9;ファージB07−1;ファージB07−3;ファージB07−4;ファージB07−8;ファージB07−9;およびランダムファージ)溶液を、ファージが1×109個/wellとなるようにウェルにアプライし2時間静置した。次にWashing buffer(Na2HPO4・12H2O 43g, NaH2PO43.6g, NaCl 263g, Tween20 15ml / 3L 蒸留水)でプレートを3回洗浄後、Blocking buffer 300μl をアプライし、4℃で一晩静置した。
次にプレートを3回洗浄後、Blocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBST)で500倍希釈したCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)50μlをそれぞれウェルにアプライし、3時間静置した。次にプレートを3回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したBiotin-labeled anti-mouse IgG1(入手先:A Becton Dickinson co.) 50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。
次にプレートを6回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidin(入手先:Roche, Mannheim, Germany)を50μlアプライし、室温で1時間静置した。その後プレートを6回洗浄し、AttophosTMsubstrate buffer (プロメガ株式会社製)50μl をウェルにアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。蛍光強度をCytoTMFluorII(日本パーセプティブ株式会社製)で測定した。
(結果)
ファージ26−1〜26−5についての結果を図2に示した。横軸は各ファージを示し、縦軸はELISA法における蛍光強度を示す。図2の結果より、実施例1において選抜したファージのうち、ファージ26−2および26−3のみが、Cry j 1モノクローナル抗体026と結合するということが分かった。
またファージS95−1、ファージS95−6およびファージS95−9についての結果を図9に示した。横軸は各ファージを示し、縦軸はELISA法における蛍光強度を示す。図9の結果より、実施例1において選抜したファージのうち、ファージS95−1のみが、Cry j 1モノクローナル抗体S95と結合するということが分かった。
またファージB07−1、ファージB07−3、ファージB07−4、ファージB07−8およびファージB07−9についての結果を図10に示した。横軸は各ファージを示し、縦軸はELISA法における蛍光強度を示す。図10の結果より、実施例1において選抜したファージのうち、ファージB07−8およびB07−9のみが、Cry j 1モノクローナル抗体B07と結合するということが分かった。
なお図2、9、10において「*」を付した結果は、陰性対照であるランダムファージの結果に対して危険率5%未満(P<0.05)において有意差があったことを示すものである。
〔実施例3:ファージ26−2、26-3の抗Cry j 1モノクローナル抗体との結合性〕
(方法)
1.0μg/mlとなるようにCry j 1 (発売元:生化学工業株式会社)を96ウェルプレートにコートし、Cry j 1 に対するCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)の結合を、ファージ26−2または26−3を用いて阻害した(ELISA inhibition)。陰性対照として、ランダムファージを用いた。具体的には、以下のようにして行なった。
ファージ26−2、26−3およびランダムファージを、それぞれ9.5×1011個/50μlとなるようにBlocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBST)で、5倍ずつ段階希釈を行なった。希釈したそれぞれのファージ溶液50μlと、500倍希釈したCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)50μlとを混合し、4℃で一晩プレインキュベートを行なった。
96ウェルプレートに、Bicarbonate buffer(100mM NaHCO3pH9.2〜9.5)で1μg/mlとなるように、希釈したスギ花粉主要抗原Cry j 1(発売元:生化学工業株式会社)50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次にWashing buffer(Na2HPO4・12H2O 43g, NaH2PO43.6g, NaCl 263g, Tween20 15ml / 3L 蒸留水)で96ウェルプレートを3回洗浄後、Blocking buffer 300μl をアプライし、4℃で一晩静置した。
次にプレートを3回洗浄後、プレインキュベートしていたサンプル50μlをそれぞれウェルにアプライし、3時間静置した。次に96ウェルプレートを3回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したBiotin-labeled anti-mouse IgG1(入手先:A Becton Dickinson co.) 50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。PBSTの組成は、「NaCl 4g, Na2HPO4・12H2O 0.1g , KCl 1.45g, KH2PO4 1g ,Tween20 15ml / 500ml蒸留水」である(以下同じ)。
次に96ウェルプレートを6回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidin(入手先:Roche, Mannheim, Germany)を50μlアプライし、室温で1時間静置した。その後96ウェルプレートを6回洗浄し、AttophosTMsubstrate buffer (プロメガ株式会社製)50μl をウェルにアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。蛍光強度をCytoTMFluorII(日本パーセプティブ株式会社製)で測定した。
(結果)
結果を図3に示した。丸のシンボルはファージ26−2の結果を示し、三角のシンボルはファージ26−3の結果を示し、ひし形のシンボルはランダムファージの結果を示した。図3の結果によれば、ファージ26−3よりもファージ26−2の方が強い阻害を示すということがわかった。よって、Cry j 1モノクローナル抗体026に対する特異性は、ファージ26−2の方が高いということが分かった。
〔実施例4:ペプチド26−2と抗Cry j 1モノクローナル抗体との結合性〕
(方法)
ファージ26−2が提示するペプチド(ペプチド26−2:HLPPSYYLSRNN;配列番号2)、およびコントロールペプチド(TTTRFSQDMAWW;配列番号7)を化学合成により調製し、以下の試験に用いた。
1.0μg/mlとなるようにCry j 1 (発売元:生化学工業株式会社)を96ウェルプレートにコートし、Cry j 1 に対するCry j 1モノクローナル抗体026の結合を、ペプチド26−2を用いて阻害した(ELISA inhibition)。陰性対照として、上記コントロールペプチドを用いた。具体的には、以下のようにした。
ペプチド26−2およびコントロールペプチドを、それぞれ1.0mg/mlとなるようにBlocking buffer(3%スキムミルク,1%BSA入りPBST)で5倍希釈を行なった。希釈したそれぞれのペプチド溶液50μlと、1000倍希釈したCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)50μlとを混合し、4℃で一晩プレインキュベートした。
96ウェルプレートに、Bicarbonate buffer(100mM NaHCO3pH9.2〜9.5)で1μg/mlとなるように、希釈したスギ花粉主要抗原Cry j 1(発売元:生化学工業株式会社)50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次にWashing buffer(Na2HPO4・12H2O 43g, NaH2PO43.6g, NaCl 263g, Tween20 15ml / 3L 蒸留水)でプレートを3回洗浄後、Blocking buffer 300μl をアプライし、4℃で一晩静置した。
次に96ウェルプレートを3回洗浄後、プレインキュベートしていたサンプル50μlをそれぞれウェルにアプライし、3時間静置した。次に96ウェルプレートを3回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したBiotin-labeled anti-mouse IgG1(入手先:A Becton Dickinson co.) 50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次に96ウェルプレートを6回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidin(入手先:Roche, Mannheim, Germany)を50μlアプライし、室温で1時間静置した。その後96ウェルプレートを6回洗浄し、AttophosTMsubstrate buffer (プロメガ株式会社製)50μl をウェルにアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。蛍光強度をCytoTMFluorII(日本パーセプティブ株式会社製)で測定した。
(結果)
結果を図4に示した。丸のシンボルはペプチド26−2の結果を示し、四角のシンボルはコントロールペプチドの結果を示した。図4の結果より、ペプチド26−2の濃度を増加するに連れて阻害率が増加し、最終的には100%の阻害を示すということが分かった。したがって、ペプチド26−2はエピトープ構造を有しているということが分かった。
〔実施例5:ペプチド26−2、ペプチドS95−1、ペプチドB07−1、ペプチドB07−9と抗Cry j 1モノクローナル抗体との結合性〕
ペプチド26−2(1mg/ml)およびCry j 1(100μg/ml)を、Blocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBST)で5倍ずつ段階希釈した溶液50μlと、5000倍希釈したCry j 1モノクローナル抗体026(発売元:生化学工業株式会社)50μlとをそれぞれ混合し、4℃で一晩プレインキュベートした。
またペプチドS95−1(1mg/ml)およびCry j 1(100μg/ml)を、Blocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBST)で5倍ずつ段階希釈した溶液50μlと、2500倍希釈したCry j 1モノクローナル抗体S95 50μlとをそれぞれ混合し、4℃で一晩プレインキュベートした。
またペプチドB07−1、ペプチドB07−9(1mg/ml)およびCry j 1(100μg/ml)を、Blocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBST)で5倍ずつ段階希釈した溶液50μlと、5000倍希釈したCry j 1モノクローナル抗体B07 50μlとをそれぞれ混合し、4℃で一晩プレインキュベートした。
96ウェルプレートにBicarbonate buffer(100mM NaHCO3pH9.2〜9.5)で1μg/mlとなるように、希釈したスギ花粉主要抗原Cry j 1(発売元:生化学工業株式会社)50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次にWashing buffer(Na2HPO4・12H2O 43g, NaH2PO43.6g, NaCl 263g, Tween20 15ml / 3L 蒸留水)で96ウェルプレートを3回洗浄後、Blocking buffer 300μl をアプライし、4℃で一晩静置した。
次に96ウェルプレートを3回洗浄後、プレインキュベートしていたサンプル50μlをそれぞれウェルにアプライし、3時間静置した。次に96ウェルプレートを3回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したBiotin-labeled anti-mouse IgG1(入手先:A Becton Dickinson co.) 50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次に96ウェルプレートを6回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidin(入手先:Roche, Mannheim, Germany)を50μlアプライし、室温で1時間静置した。その後96ウェルプレートを6回洗浄し、AttophosTMsubstrate buffer (プロメガ株式会社製)50μl をウェルにアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。蛍光強度をCytoTMFluorII(日本パーセプティブ株式会社製)で測定した。
なお陰性対照として、9アミノ酸からなるBradykinin(RPPGFSPFR:配列番号18)を用いた。
(結果)
図11にペプチド26−2の結果を示した。同図中、四角のシンボルはCry j 1に対するモノクローナル抗体の結合をペプチド26−2で阻害をかけた場合の結果を示し、ひし形のシンボルはポジティブコントロールとしてCry j 1で阻害をかけた場合の結果を示し、三角のシンボルはBradykininで阻害をかけた場合の結果を示す。図12の結果より、ペプチド26−2はCry j 1に対する抗体の結合を完全に阻害することができるということが分かった。またペプチド26−2のアミノ酸配列と、Cry j 1のアミノ酸配列とを比較したところ、相同性のある部分がなかったことから、このペプチドはCry j 1モノクローナル抗体026に対するコンフォーメーショナルなエピトープであることが示唆された。
また図12にペプチドS95−1の結果を示した。同図中、四角のシンボルはCry j 1に対するモノクローナル抗体の結合をペプチドS95−1で阻害をかけた場合の結果を示し、ひし形のシンボルはポジティブコントロールとしてCry j 1で阻害をかけた場合の結果を示し、三角のシンボルはBradykininで阻害をかけた場合の結果を示す。図12の結果より、ペプチドS95−1はCry j 1に対する抗体の結合を完全に阻害することができるということが分かった。またペプチドS95−1のアミノ酸配列と、Cry j 1のアミノ酸配列とを比較したところ、相同性のある部分がないことから、このペプチドはCry j 1モノクローナル抗体S95に対するコンフォーメーショナルなエピトープであることが示唆された。
また図13にペプチドB07−1およびB07−9の結果を示した。同図中、四角のシンボルはCry j 1に対するモノクローナル抗体の結合をペプチドB07−9で阻害をかけた場合の結果を示し、丸のシンボルはCry j 1に対するモノクローナル抗体の結合をペプチドB07−1で阻害をかけた場合の結果を示し、ひし形のシンボルはポジティブコントロールとしてCry j 1で阻害をかけた場合の結果を示し、三角のシンボルはBradykininで阻害をかけた場合の結果を示す。図13の結果より、ペプチドB07−9はCry j 1に対する抗体の結合を完全に阻害することができるということが分かった。またペプチドB07−9のアミノ酸配列とCry j 1のアミノ酸配列とを比較したところ、相同性のある部分がないことから、このペプチドはCry j 1モノクローナル抗体B07に対するコンフォーメーショナルなエピトープであることが示唆された。
〔実施例6:ペプチド26−2とスギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性〕
(材料)
スギ花粉症患者(患者A〜P)血清は、たかのはし中央病院耳鼻咽喉科(広島市)より入手し、以下の試験に用いた。なお上記スギ花粉症患者(患者A〜P)は、15歳から70歳(男女問わず)で、スギ花粉アレルゲンに対するラスト値4以上を示す患者である。
(方法)
1.0μg/mlとなるようにCry j 1 (生化学工業株式会社)を96ウェルプレートにコートし、Cry j 1 に対するスギ花粉症患者血清IgE抗体の結合を、ペプチド26−2(3.125μg)、Cry j 1 (0.250μg)を用いて阻害した(ELISA inhibition)。
ペプチド26−2(3.125μg)およびCry j 1(0.250μg)を、Blocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBST)に溶解させた溶液50μlと、20倍希釈した患者血清50μlとを混合し、4℃で一晩プレインキュベートした。
96ウェルマイクロタイタープレートに、Bicarbonate buffer(100mM NaHCO3 pH9.2〜9.5)で1μg/mlとなるように、希釈したスギ花粉主要抗原Cry j 1(発売元:生化学工業株式会社)50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次にWashing buffer(Na2HPO4・12H2O 43g, NaH2PO43.6g, NaCl 263g, Tween20 15ml / 3L 蒸留水)で96ウェルプレートを3回洗浄後、Blocking buffer 300μl をアプライし、4℃で一晩静置した。
次に96ウェルプレートを3回洗浄後、プレインキュベートしていたサンプル50μlをそれぞれウェルにアプライし、4時間静置した。次に96ウェルプレートを3回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したBiotin-labeled anti-human IgE(入手先:ε chain-specific, Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA) 50μlをウェルにアプライし、2時間静置した。次に96ウェルプレートを6回洗浄後、PBST(3%スキムミルク+1%BSA入り)で1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidin(入手先:Roche, Mannheim, Germany)を50μlアプライし、室温で1時間静置した。その後96ウェルプレートを6回洗浄し、AttophosTMsubstrate buffer (プロメガ株式会社製)50μl をウェルにアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。蛍光強度をCytoTMFluorII(日本パーセプティブ株式会社製)で測定した。
(結果)
結果を図5に示した。横軸に各スギ花粉症患者を示し、縦軸に蛍光強度をユニット(U)で示した。なお1U=100蛍光強度である。同図中白抜きの棒グラフはCry j 1 をコートしなかった場合の結果を示し、黒塗りの棒グラフはCry j 1に対するスギ花粉症患者血清IgEの結合をCry j 1で阻害した場合の結果を示し、斜線の棒グラフはCry j 1に対するスギ花粉症患者血清IgEの結合をペプチド26−2で阻害した場合の結果を示した。
図5の結果より、ペプチド26−2(3.125μg)は、Cry j 1 (0.250μg)を用いた場合と同様に、Cry j 1 に対するスギ花粉症患者血清IgE抗体の結合を阻害するということが分かった。したがって、ペプチド26−2には、Cry j 1 のIgEエピトープが含まれているということが分かった。
さらに、ペプチド26−2のアミノ酸配列(配列番号2)は、Cry j 1のアミノ酸配列(配列番号1)上に存在しないものであった。したがって、ペプチド26−2にはCry j 1 の高次構造IgEエピトープが含まれているということが分かった。
〔実施例7:ペプチド26−2、ペプチドS95−1、B07−9とスギ花粉症患者血清IgE抗体との結合性〕
(牛血清アルブミンと各種ペプチドとのカップリング)
各種ペプチドを96ウェルプレート上に固定化すべく、牛血清アルブミン(BSA)とカップリングさせることとした。
(A法)まず45mg/mlのBSA溶液30μlと0.1M リン酸水素二水素ナトリウム(pH6.2)200μlとを混合した。50mg/mlのSulfo-NHS(PIERCE社製)溶液20μl添加して混合した。さらに50mg/mlのEDC(PIERCE社製)を20μl添加して混合し、室温で20分間インキュベートした。続いて10mg/mlの各ペプチド溶液50μlと50mM MES(pH 6.0)1000μlとを混合した溶液を添加して、室温で2時間インキュベートした。反応物にPBS-TN(PBS, 0.02% Tween20, 0.05% sodium azide, pH7.4 )を加えながら、Microcon YM-3(MILLIPORE社製)を用いて限外ろ過を行なった。
(B法)まず10mg/mlのペプチド溶液100μlと0.1M リン酸水素二水素ナトリウム(pH6.2)600μlとを混合した。100mg/mlのSulfo-NHS(PIERCE社製)溶液70μlを添加して混合した。さらに50mg/mlのEDC(PIERCE社製)を70μl混合して混合し、室温で20分間インキュベートした。続いて45mg/mlのBSA溶液200μlと50mM MES(pH 6.0)3000μlとを混合した溶液を追加して室温で2時間インキュベートした。反応物にPBS-TN(PBS, 0.02% Tween20, 0.05% sodium azide, pH7.4 )を加えながら、Microcon YM-3(MILLIPORE社製)を用いて限外ろ過を行なった。
(BSAとカップリングした各種ペプチドと患者血清IgEとの結合性)
BSAとカップリングさせたペプチド(ペプチド26−2、ペプチドS95−1、ペプチドB07−9)と2倍濃度のBicarbonate buffer(100mM NaHCO3 pH9.2〜9.5)とを1:1で混合し、96ウェルプレートのウェルにアプライし、室温で2時間静置した。
Washing buffer(Na2HPO4・12H2O 43g, NaH2PO4 3.6g, NaCl 263g, Tween20 15ml / 3L 蒸留水)で96ウェルプレートを3回洗浄後、Blocking buffer(3%スキムミルク, 1%BSA / PBS)を300μlアプライし、4℃で一晩静置した。
96ウェルプレートを3回洗浄後、(3%スキムミルク+1%BSA)/PBST(NaCl 4g, Na2HPO4・12H2O 0.1g , KCl 1.45g, KH2PO41g ,Tween20 15ml / 500ml蒸留水)でスギ花粉症患者血清(患者A〜T)を10倍希釈し、1時間インキュベートしたものを、ウェルに50μlにアプライし、4時間静置した。
96ウェルプレートを3回洗浄後、(3%スキムミルク+1%BSA / PBSTで1000倍希釈したBiotin-labeled anti-human IgE(入手先:ε chain-specific, Vector Laboratories, Burlingame, CA, USA)をウェルに50μlアプライし、2.5時間静置した。
96ウェルプレートを4回洗浄後、(3%スキムミルク+1%BSA) / PBSTで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識streptavidin(入手先:Roche, Mannheim, Germany)を50μlアプライし、室温で1.5時間静置した。
96ウェルプレートを5回洗浄後、AttophosTM substrate buffer(プロメガ株式会社製)をwellに50μlアプライし、遮光の状態で発色するまで放置した。蛍光強度をCyto FluorII(日本パーセプティブ株式会社製)で測定した。なお陰性対照として、前出のBradykininを用いた。
なおスギ花粉症患者(患者A〜T)血清は、たかのはし中央病院耳鼻咽喉科(広島市)より入手し、以下の試験に用いた。なお上記スギ花粉症患者(患者A〜T)は、15歳から70歳(男女問わず)で、スギ花粉アレルゲンに対するラスト値4以上を示す患者である。
(結果)
結果を図14に示した。横軸に各スギ花粉症患者を示し、縦軸に蛍光強度をユニット(U)で示した。なお1U=100蛍光強度である。また同図中、白抜きの棒グラフはペプチド26−2に対する各スギ花粉症患者血清IgEの結合度を示す結果であり、黒塗りの棒グラフはペプチドS95−1に対する各スギ花粉症患者血清IgEの結合度を示す結果であり、斜線の棒グラフはペプチドB07−9に対する各スギ花粉症患者血清のIgE結合を示す結果であり、縦しまの棒グラフは陰性対照であるBradykininに対する各スギ花粉症患者血清IgEの結合度を示す結果である。なお同図において「*」を付した結果は、陰性対照であるBradykininの結果に対して危険率5%未満(P<0.05)において有意差があったことを示すものである。
図14の結果より、ペプチドS95−1は、スギ花粉症患者の20人中4人の血清IgEと確かな結合活性を有するということが分かった。よってペプチドS95−1はIgEエピトープであることが明らかとなった。