JP2014224093A - ファージディスプレイ法による花粉症アレルギーの減感作療法ワクチン - Google Patents

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Abstract

【課題】新規な花粉症に対するワクチンを提供する。
【解決手段】花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを有効成分として含む花粉症の予防又は治療用ワクチン。
【選択図】図7

Description

本発明は、例えば花粉症の原因である花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したリコンビナントファージを含む花粉症の予防又は治療用ワクチンに関する。
スギ(Cryptomeria Japonica: CJ)花粉症は、日本において最も多いアレルギー病の一つであり、IgE抗体が関与する一型アレルギーである。スギ花粉は20μm〜40μmほどの大きさを有し、鼻や目の粘膜に付着するとくしゃみ等の症状を引き起こし、気管支まで吸入されると喘息の症状が現れる。
スギ花粉のアレルゲンとしては、Cry j 1、Cry j 2及びCry j 3タンパク質の3種類が同定されており、花粉アレルギーの治療法として、花粉により惹起されるIgEと拮抗するIgGを生産させる減感作療法が知られている。しかしながら、花粉をそのまま花粉アレルギーの治療に使用することは、アレルギーの原因となる花粉特異的IgE抗体を再び産生させる危険性を避けることができない。
一方、1985年にG. Smithにより繊維状ファージの表面にランダムペプチドの提示が可能であることが報告された(非特許文献1)。提示には、一般的にコートタンパク質g3pが用いられているが、コートタンパク質g8pを用いたファージディスプレイ法も報告されている(非特許文献2)。
本願発明者は、アルツハイマー病の原因物質であるAβの構造を模倣したペプチドをファージのコートタンパク質g3p上に提示したペプチドファージをマウスに免疫すると、アジュバント無しで、且つ、ファージに最大5コピーしか提示されていないにもかかわらず、当該ペプチドに対する抗体が初期免疫後迅速に誘導されることを証明した(非特許文献3及び4)。さらに、その抗体誘導は、自然免疫のMyd88依存的免疫応答によるIgG抗体であり、この反応には免疫学的記憶が成立しており2次免疫応答ではさらに強い免疫応答が誘導されることを証明した(非特許文献3及び5)。
本願発明者は、マウスでのスギ花粉の鼻腔内感作を行ったことを報告している(非特許文献6)。また、Tamura Y.らはマウスでスギ花粉症を誘導する、スギ花粉アレルゲンCry j 1のIgE抗体エピトープを同定した(非特許文献7)。さらにTakagi K.らはヒトのスギ花粉特異的IgE抗体のエピトープを報告した(非特許文献8)。
Smith GP., Science, 1985年, Vol. 228, pp. 1315-1317 Kneissel S., et al., J Mol Biol, 1999年, Vol. 228, pp. 21-28 Hashiguchi S., et al., BBRC, 2010年, Vol. 402, pp. 19-22 Yamaguchi Y., et al., 14th International Congress of Immunology, Kobe, Japan, 2010年8月, pp. 22-27 Tanaka K., et al., J. Neuro Immunology, 2011年, Vol. 236, pp. 27-38 Hirai T., et al., Microbiol. Immunol., 2000年, Vol. 44, No. 4, pp. 259-266 Tamura Y., et al., Int. Arch. Allergy Immunol., 2000年, Vol. 123, pp. 228-235 Takagi, K., et al., Biol. Pharm. Bull., 2005年, Vol. 28, pp. 1496-1499
上述のように、従来において、花粉アレルギーの治療法は完全に確立しておらず、新規な治療法を開発するニーズがある。
そこで、本発明は、新規な花粉症に対するワクチンを提供することを目的とする。
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージをワクチンとして投与することで、花粉アレルゲンに特異的なIgG抗体を誘導でき、当該IgG抗体が花粉症を惹起するIgE抗体の活性を拮抗的に阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを有効成分として含む花粉症の予防又は治療用ワクチン。
(2)花粉アレルゲンがCry j 1、Cry j 2及びCry j 3タンパク質から成る群より選択されるスギ花粉アレルゲンである、(1)記載のワクチン。
(3)Cry j 1タンパク質特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドが、Asn Gly Asn Ala Thr Pro Gln Leu Thr Lys Asn Ala(配列番号1)で示されるアミノ酸配列、Asn Gly Gly Pro Cys Val Phe Ile Lys Arg Val Ser(配列番号2)で示されるアミノ酸配列、及びVal His Pro Gln Asp Gly Asp Ala(配列番号3)で示されるアミノ酸配列から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドである、(2)記載のワクチン。
(4)花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドがコートタンパク質g8p又はg3p中に挿入されて又はコートタンパク質g8p又はg3pに連結してファージ表面上に提示される、(1)〜(3)のいずれか1記載のワクチン。
本発明によれば、花粉症の予防又は治療に使用することができる、花粉症に対するワクチンを低コストで提供することができる。
プラスミドベクターpGEX-g8pへのCry j 1特異的IgE抗体エピトープ遺伝子の導入を示す模式図である。 プラスミドベクターpGEX-g8pへのCry j 1特異的IgE抗体エピトープ遺伝子の挿入方法を示す模式図である。 ファージにおけるCry j 1特異的IgE抗体エピトープの提示率を示す電気泳動写真である。 高提示率ファージと野生型ファージの電子顕微鏡写真である。 ファージと抗M13抗体との結合活性を示すグラフである。 Cry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージのワクチン活性の評価を示す図である。Aは、ファージミドベクターの構築の模式図を示す。Bは、マウスの免疫スケジュールを示す。Cは、マウスへのCry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージの経口投与による抗Cry j 1 IgG抗体の産生を示すグラフである。 Cry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージのワクチン活性の評価を示す図である。Aは、マウスの免疫スケジュールを示す。Bは、マウスへのCry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージの経口投与及びスギ花粉抽出液の腹腔投与後の抗Cry j 1 IgG抗体の産生を示すグラフである。Cは、マウスへのCry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージの経口投与によるスギ花粉症の症状の緩和を示すグラフである。
本発明に係るワクチンは、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを有効成分として含む花粉症の予防又は治療用ワクチンである。本発明に係るワクチンを、ヒトを含む動物に投与することで、花粉アレルゲンに特異的なIgG抗体を誘導し、当該IgG抗体が花粉症を惹起するIgE抗体の活性を拮抗的に阻害する(減感作)ことで、花粉症を予防又は治療することができる。換言すれば、本発明に係るワクチンを、花粉症アレルギーの減感作療法ワクチンと言うこともできる。
ここで、花粉症としては、例えばスギ(Cryptomeria Japonica: CJ)花粉症が挙げられる。花粉アレルゲンとしては、例えばCry j 1、Cry j 2及びCry j 3タンパク質から成る群より選択されるスギ花粉アレルゲンが挙げられ、好ましくはCry j 1タンパク質である。
本発明において、ファージに提示すべき花粉アレルゲン由来ペプチドは、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドである。花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープは、花粉アレルギーを発症した動物が産生する花粉特異的IgE抗体が結合するアミノ酸配列を合成ペプチドライブラリとの反応性を調べる事により同定することができる。例えば、Cry j 1タンパク質特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドとしては、ヒトではAsn Gly Asn Ala Thr Pro Gln Leu Thr Lys Asn Ala(配列番号1)で示されるアミノ酸配列を含む(又は該アミノ酸配列から成る)ペプチド及びAsn Gly Gly Pro Cys Val Phe Ile Lys Arg Val Ser(配列番号2)で示されるアミノ酸配列を含む(又は該アミノ酸配列から成る)ペプチド(非特許文献8)、並びにマウスではVal His Pro Gln Asp Gly Asp Ala(配列番号3)で示されるアミノ酸配列を含む(又は該アミノ酸配列から成る)ペプチドが挙げられる。配列番号1に示されるアミノ酸配列は、Cry j 1タンパク質(353アミノ酸長)における第331番目〜第342番目のアミノ酸配列に相当する。配列番号2に示されるアミノ酸配列は、Cry j 1タンパク質における第103番目〜第114番目のアミノ酸配列に相当する。配列番号3に示されるアミノ酸配列は、Cry j 1タンパク質における第145番目〜第152番目のアミノ酸配列に相当する。
また、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドのアミノ酸長としては、例えば6〜100アミノ酸長、好ましくは6〜20アミノ酸長、特に好ましくは8〜10アミノ酸長が挙げられる。例えば、Cry j 1タンパク質特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドとして、配列番号3で示されるアミノ酸配列から成るペプチド(8アミノ酸長)に加えて、配列番号4で示されるアミノ酸配列(Cry j 1タンパク質における第141番目〜第160番目のアミノ酸配列に相当)から成るペプチド(20アミノ酸長)又は配列番号3で示されるアミノ酸配列を含むその部分ペプチドも使用することができる。
一方、本発明において、ファージとしては、例えばM13ファージが挙げられる。
本発明における花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示するファージは、以下のように作製することできる。
先ず、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドをコードする遺伝子DNAをファージベクター又はファージミドベクター又はプラスミドベクターに挿入する。ファージベクターは、ファージゲノムを改良してベクター化したものであり、1つのベクター内にファージの全ゲノムを含み、単独でファージを形成することが可能である。一方、ファージミドベクターは、ファージへのパッケージングシグナルを含むプラスミドベクターであり、ヘルパーファージの重感染によってのみファージを形成できる。ファージベクターとしては、例えばM13ファージ由来のM13KE等が挙げられる。ファージミドベクターとしては、例えばpCANTAB5E等が挙げられる。
具体的には、ファージベクター又はファージミドベクター又はプラスミドベクター中のコートタンパク質(g3p、g8p等)をコードする遺伝子中にあるいは当該遺伝子の5’末端又は3’末端に連結するように、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドをコードする遺伝子を挿入する。このように、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドをコードする遺伝子をファージベクター又はファージミドベクター又はプラスミドベクターに挿入することで、当該ペプチドがコートタンパク質中に挿入された形態で又はコートタンパク質との融合タンパク質としてファージの表面上に提示されることとなる。ファージミドベクターやプラスミドベクターを用いる場合は、大腸菌に遺伝子導入後、ヘルパーファージを重感染させて、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープが組み込まれたコートタンパク質(g3p、g8p)を提示するファージ(ヘルパーファージ由来の野生型のコートタンパク質(g3p、g8p)もファージの構成成分に含まれてくるのでハイブリッドファージと呼ぶ)を大腸菌の培養上清から単離精製する。
本発明では、特に、1匹のファージ当たり約3,000分子存在するコートタンパク質g8p中に挿入された形態で、又はコートタンパク質g8pのN末端に連結した融合タンパク質の形態で、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドがファージ表面上に提示されるように、当該ペプチドをコードする遺伝子をファージベクター又はファージミドベクターに挿入する。コートタンパク質g8p中に挿入された形態で、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドをファージ表面上に提示する場合には、コートタンパク質g8pのN末端から3又は4番目の位置に花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドをコードする遺伝子を挿入することが好ましい。さらに、ベクター側の挿入部位のC末端又はN末端の1アミノ酸を挿入エピトープのN末端またはC末端アミノ酸と同一になるように改変し、実質的に挿入エピトープペプチドの長さを短くするのが好ましい。
次いで、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドをコードする遺伝子を含有するファージベクター又はファージミドベクター又はプラスミドベクターを大腸菌(例えば、TG-1株)に形質転換する。形質転換方法としては、特に限定されないが、例えばエレクトロポレーション法等が挙げられる。ファージミドベクター又はプラスミドベクターの場合には、さらにヘルパーファージを形質転換体に重感染させる。ヘルパーファージは、ファージミドベクター又はプラスミドベクターに含まれるコートタンパク質以外の他のファージ構成タンパク質を供給する。ヘルパーファージとしては、例えばM13KO7等が挙げられる。
形質転換体の培養、ヘルパーファージの感染等の方法は、常法に従い行うことができる(Perham, N., et al., Simultaneous display of different peptides on the surface of filamentous bacteriophage, Nucleic Acids Research, 25: 915-916, 1997)。
形質転換体の培養後、常法に従い培養上清から花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを単離又は精製する(Yoshihara, T., et al., Immunoreactivity of phage library-derived human single-chain antibodies to amyloid beta conformers in vitro, J. Biochem. 143: 475-486, 2008)。単離又は精製方法として、例えば常法により、培養上清から花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを、CsCl2を用いた超遠心により精製し、リン酸緩衝液(PBS)1mlに溶解する。混在する大腸菌由来のエンドトキシンを除去するため、Triton X-114を終濃度1%で添加し4℃/30min、37℃/30 minインキュベーションし、15000 cpm、10分間、37℃で遠心する。2層に別れた分離液の上層を回収し、このTritonX-114の洗浄操作を6回繰り返し、PBSで透析することで、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを得ることができる(Aida Y., et al., J. Immunol. Method, 132: 191-195, 1990)。
単離又は精製したファージを、本発明に係るワクチンにおける有効成分として使用する。
本発明に係るワクチンには、薬学的に許容される担体、賦形剤等を含有してもよい。さらに、本発明に係るワクチンはアジュバント(例えば水酸化アルミニウムアジュバント(Alum)等)を含有してもよいが、本発明におけるファージは、アジュバント無しで花粉アレルゲンに対するIgG抗体を誘導することができるので、アジュバントを特段含有する必要はない。
また、本発明に係るワクチンの投与経路としては、例えば経口、皮下、舌下等が挙げられるが、経口投与が好ましい。
経口投与のための剤形としては、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。また、舌下投与のための剤形としては、例えば錠剤が挙げられる。かかる剤形は、自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体又は賦形剤を含有するものである。例えば錠剤用の担体又は賦形剤としては、ラクトース、マルトース、ショ糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
皮下投与のための剤形としては、例えば、注射剤、湿布剤、経皮吸収剤等が挙げられる。溶液製剤は、自体公知の方法、例えば、ワクチン成分を通常、注射剤に用いられる無菌の水溶液に溶解した状態で調製されうる。固体製剤は、自体公知の方法、例えば、ワクチン成分にマンニトール、トレハロース、ソルビトール、ラクトース、グルコース等を賦形剤として加え、そのまま凍結乾燥することにより調製されうる。更にこれを粉体化して用いることもできる。また、これら粉体をポリ乳酸やグリコール酸等と混合し固体化して用いることもできる。ゲル化剤は、自体公知の方法、例えば、ワクチン成分をグリセリン、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等の増粘剤や多糖に溶解した状態で調製されうる。
いずれの製剤においても、分散剤あるいは吸収促進剤としてワクチン成分の活性を損なわない範囲でアルコール、糖アルコール、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等を添加することができる。また、微量金属や有機酸塩も必要に応じて加えることができる。
本発明に係るワクチンは、患者の年齢、体重、花粉症の程度等により異なるが、例えばヒトへの経口投与量として、花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを3〜100μg/100μl、好ましくは10〜30μg/100μlで含有する。さらに、本発明に係るワクチンの投与回数としては、例えば経口投与で2〜3週間間隔で2回が挙げられる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例では、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドをコートタンパク質g8pに提示させたファージミドベクターの構築と、マウスにおけるCry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージによる免疫応答の誘導及び当該ファージの減感作療法ワクチンとしての可能性についての検討を行った。
〔実施例1〕Cry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージの作製
1.材料と方法
1)Cry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドをg8pに提示させるためのベクターの構築
i) Cry j 1特異的IgE抗体エピトープ遺伝子断片の設計と合成
Cry j 1特異的IgE抗体エピトープ(VHPQDGDA:配列番号3)の遺伝子断片を設計し、この遺伝子断片をMBL(医学生物学研究所:Nagoya)で合成し、購入した。
ii) ベクターの設計
以前、Perhamらはプラスミドベクターを用いた発現系を利用して高抗原提示率のファージを作製したことを報告した(Malik P., et al., J. Mol. Biol., 1996年, Vol. 260, pp. 9-21)。この方法に準じて、新たなプラスミドベクター(pGEX-g8p)を作製した。
iii) 作製したプラスミドベクターを、SacII、BamHI(Takara Bio. 大津)を用いた制限酵素処理に供した。制限酵素処理後、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープ遺伝子断片とIn-fusion kit (Clonotech)を用いてのライゲーション反応を行った。
2)ファージの作製
構築したベクターを大腸菌TG-1 recOに形質転換し、得られた形質転換体にヘルパーファージであるM13KO7をMOI = 10で重感染させた。その後、形質転換体を100μg/mlアンピシリンと200μg/mlカナマイシンを含む2TY(2TYAK)培地で12時間培養し、得られた細胞上清から、ファージを精製した。
3)SDS-PAGE
作製したファージを、15%ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動に供した。SDS-PAGE後、Silver Stain II Kit(Wako)を使用し、銀染色を行った。
4)電子顕微鏡
作製したファージを、電子顕微鏡を用いて撮影した。
5)ELISA法
作製したファージを、ELISA法を用いて検出した。96穴プレートに、作製したファージを1011 virionでコートし、ビオチン化した抗M13抗体(希釈倍率1:2000)を加えた。10%Tween20/PBSで洗浄後、アルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG一次抗体 (希釈倍率1:2000)を加え、p-ニトロフェニルリン酸ナトリウムを含む基質溶液と反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。
2.結果
1)プラスミドベクターpGEX-g8pへのCry j 1特異的IgE抗体エピトープ遺伝子の導入
図1に示すプラスミドベクターを用いてファージを作製した。以前にコートタンパク質g8p提示においてアミノ酸数が少ない方がファージ発現において効率が良いことが報告されたため、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープである8アミノ酸は図2に示す方法でベクターに挿入された。図2において、Cryj1-7/1#1クローンは、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープの挿入位置に対してN末端側のコートタンパク質g8pのアミノ酸が1個欠失しており;Cryj1-7/1#2クローンは、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープの挿入位置に対してC末端側のコートタンパク質g8pのアミノ酸が1個欠失しており;Cryj1-6/2クローンは、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープの挿入位置に対してN末端側のコートタンパク質g8pのアミノ酸が1個欠失し、且つC末端側のコートタンパク質g8pのアミノ酸が1個欠失している。
2)Cry j 1特異的IgE抗体エピトープの提示率
図2に示す方法で挿入した4種類のベクターを用いて大腸菌TG-1 rec Oに遺伝子導入し、ヘルパーファージM13KO7を重感染させてハイブリッドファージを作製し、SDS-PAGEによりg8p分子を分離しそのN末アミノ酸配列を決定し、挿入エピトープが組み込まれているg8pとヘルパーファージ由来の野生型g8p分子の割合を算定し、ハイブリッドファージ1匹あたりのCry j 1特異的IgE抗体エピトープの提示率を換算した。その結果Cryj1-6/2ファージの場合、SDS-PAGE解析では1匹のファージの有するg8p分子の85%に、又はN末端アミノ酸配列解析では少なくとも1匹のファージの1350分子にCry j 1特異的IgE抗体エピトープが提示されていることがわかった(図3)。
3)g8pにCry j 1特異的IgE抗体エピトープを提示するCryj1-6/2ファージの形態
ファージのg8p分子へのペプチド提示はファージの形態に影響するのではないかと考えられたため、電子顕微鏡とELISA法によりファージの形態を調べた。g8pにCry j 1特異的IgE抗体エピトープを提示するファージは野生型ファージと同様に繊維状を保っており(図
4)、抗M13抗体で検出されるエピトープを保っていることがわかった(図5)。
〔実施例2〕Cry j 1特異的IgE抗体エピトープペプチドを提示したファージのワクチン活性の評価1
本実験では、ファージミドベクターpCANTAB5Eに組み込まれているg3p遺伝子部分を制限酵素Hind IIIとNot Iで切断し取り除き、その部分にCry j 1特異的IgE抗体エピトープがg8pのN末端に接続するように構築したDNA断片を組み込んでCry j 1-g8p-pCANTAB5Eと呼ぶファージミドベクターを作製した。当該ファージミドベクターを使用し、作製したハイブリッドファージ(以下、「Cry j 1-g8p-ファージ」と称する)をワクチン活性の評価実験に用いた。
1.材料と方法
1)ファージミドベクターの構築
図6Aにファージミドベクターの構築の模式図を示す。
Tanaka, K., et al., (2011) J. Neuroimmunol., 236, 27-38に記載のように、Cry j 1特異的IgE抗体エピトープ(VHPQDGDA:配列番号3)の遺伝子断片を、ファージミドベクターpCANTAB5Eのg8p遺伝子の5’末端に挿入し、新たなファージDNAベクター(Cry j 1-g8p-pCANTAB5E)を作製した。
2)ファージの作製
構築したベクターを大腸菌TG-1 recOに形質転換し、得られた形質転換体にヘルパーファージであるM13KO7をMOI = 10で重感染させた。その後、形質転換体を100μg/mlアンピシリンと200μg/mlカナマイシンを含む2TY(2TYAK)培地で12時間培養し、得られた細胞上清から、ファージ(Cry j 1-g8p-ファージ)を精製した。
3)マウス
日本クレア社から購入したBalb/cマウスを使用した。
4)マウスの免疫
図6Bにマウスの免疫スケジュールを示す。
マウスに、PBSに溶解したCry j 1-g8p-ファージ若しくは野生型(WT)ファージ(1x1012virions(v)/100μl)を経口投与(day 0、26)した。
5)血清中のIgGの測定
二度目のCry j 1-g8p-ファージ経口投与から14日後(day40)のマウスの血清中に含まれるCry j 1に特異的なIgGを評価した。ELISAプレートを、PBSで希釈した200ngの精製Cry j 1を用いて4℃で一晩コーティングした。次いで、当該プレートを、ブロッキングバッファー(PBS, 1%BSA)を用いて室温で2時間ブロッキング処理に供した。ブロッキング後、ブロッキングバッファーで1:50に希釈したマウスの血清を1ウェル当たり40μl加え、4℃で2時間静置した。2時間の静置後、プレートをPBST(PBS; 0.05%Tween 20)で3回洗浄し、結合したIgG2a抗体を、アルカリフォスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG2a抗体を加え、p-ニトロフェニルリン酸ナトリウムを含む基質溶液と反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。
2.結果
1)Cry j 1-g8p-ファージがファージ表面にCry j 1特異的IgE抗体エピトープを提示している証明実験
この構築法で作製されたCry j 1-g8p-ファージの提示率はSDS-PAGEの分離パターンのイメージ解析から2%以下と評価されたが、このファージを免疫して得られた抗血清が花粉抗原Cry j 1に強い特異的抗体反応を示した事より、エピトープの低い提示率にもかかわらず、このエピトープに特異的な免疫応答を誘導している事を証明した。
2)Cry j 1-g8p-ファージが誘導する抗Cry j 1 IgG免疫応答
Cry j 1-g8p-ファージを経口投与した結果、Cry j 1に対するIgG抗体が誘導された(図6C)。
〔実施例3〕Cry j 1-g8p-ファージのワクチン活性の評価2
1.材料と方法
1)マウス
日本クレア社から購入したBalb/cマウスを使用した。
2)マウスの免疫
図7Aにマウスの免疫スケジュールを示す。
マウスに、PBSに溶解したCry j 1-g8p-ファージ若しくは野生型(WT)ファージ又はPBSを経口投与(day 0、26)した後、スギ花粉抽出液(150μg/100μl)をAlum(2mg/100μl)と共に腹腔投与し(day54、87、109、147)、精製されたCry j 1(300ng/5μl、HAYASHIBARA BIOCHEMICAL LABORATORIES, INC.)の経鼻投与(day163, 167, 170)によるチャレンジ試験を行った。
3)血清中のIgGの測定
三度目の感作から14日後(day123)のマウスの血清中に含まれるCry j 1に特異的なIgGを評価するため、96穴イムノプレートにCry j 1を20ng/wellコートし、マウスの血清(1000倍希釈)を加えた。その後、アルカリフォスファターゼ標識一次抗体を加え、p-ニトロフェニルリン酸ナトリウムを含む基質溶液と反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。
4)スギ花粉症発作(くしゃみ)の観察
上記のCry j 1-g8p-ファージ経口投与(減感作)、スギ花粉抽出液の腹腔投与(感作)及びCry j 1の経鼻投与によるチャレンジ試験後のマウスについて、惹起された症状(スギ花粉症発作(くしゃみ))をビデオカメラで撮影し、その観察を行った。
2.結果
1)抗Cry j 1 IgGの誘導
スギ花粉抽出液による三度目の感作から、14日後のマウスの血清中に含まれるCry j 1に特異的なIgGを評価した。その結果、図7Bに見られるように、Cry j 1-g8p-ファージを免疫したマウスの血清ではCry j 1に結合するIgGが誘導されていた。一方、WTファージ又はPBSを免疫したマウスでは、Cry j 1に結合するIgGが誘導されていなかった。
2)スギ花粉症の症状の緩和
Cry j 1-g8p-ファージ(1×1013v/100μl、1×1012v/100μl、1×1011v/100μl)、WTファージ(1×1012v/100μl)又はPBS100μlの経口投与後、スギ花粉抽出液(150μg/100μl)をAlum(2mg/100μl)と共に腹腔投与したBalb/cマウスに、スギ花粉の抗原であるCry j 1(300 ng/5μl)を経鼻投与し、5分間のくしゃみの回数のカウントを行った。その結果、図7Cに見られるように、Cry j 1-g8p-ファージで前処理されたマウスでは、Cry j 1-g8p-ファージの前処理量に依存的に、統計学的に有意(**: p<0.05)に花粉症の症状の緩和が認められた。
3.考察
Cry j 1-g8p-ファージを経口投与した結果、Cry j 1に対するIgG抗体が誘導され、当該抗Cry j 1 IgG抗体がスギ花粉(Cry j 1)に特異的なIgEによる好塩基球や肥満細胞の感作の段階を阻害して、アレルギーの発作の症状の緩和(減感作)に働いている可能性を示した。

Claims (4)

  1. 花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドを表面上に提示したファージを有効成分として含む花粉症の予防又は治療用ワクチン。
  2. 花粉アレルゲンがCry j 1、Cry j 2及びCry j 3タンパク質から成る群より選択されるスギ花粉アレルゲンである、請求項1記載のワクチン。
  3. Cry j 1タンパク質特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドが、Asn Gly Asn Ala Thr Pro Gln Leu Thr Lys Asn Ala(配列番号1)で示されるアミノ酸配列、Asn Gly Gly Pro Cys Val Phe Ile Lys Arg Val Ser(配列番号2)で示されるアミノ酸配列、及びVal His Pro Gln Asp Gly Asp Ala(配列番号3)で示されるアミノ酸配列から成る群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドである、請求項2記載のワクチン。
  4. 花粉アレルゲン特異的IgE抗体エピトープ含有ペプチドがコートタンパク質g8p又はg3p中に挿入されて又はコートタンパク質g8p又はg3pに連結してファージ表面上に提示される、請求項1〜3のいずれか1項記載のワクチン。
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泊大介 外3名: "スギ花粉アレルギーの脱感作療法をめざしたM13ファージワクチンの設計", 第85回日本生化学会大会 プログラム・講演要旨集, vol. Vol.85th, JPN6017034804, 2012, JP, pages 7 - 1 *

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