以下、本発明の実施形態に係る錠装置について図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
(実施形態の構成)
図1及び図2には本発明の第1の実施形態に係る錠装置が示されており、図3には本発明の実施形態に係る錠装置に適用されるキーの一例が示されている。なお、図中、符号Sは装置の軸心を示しており、この軸心Sに沿った方向を装置の軸方向として以下の説明を行う。本実施形態に係る錠装置10は、自動車におけるドア、トランクフード、グローブボックスの蓋体等の開閉部材を施錠状態又は解錠状態とするためのロック機構の一部として設けられており、操作者がキー12によりロック機構を施錠状態から解錠状態に操作するために用いられる。
図1に示されるように、錠装置10には、装置の外殻部として角筒状のケース部材14が設けられている。このケース部材14は軸方向へ細長く形成され、周壁部の軸直角方向に沿った断面形状が高さ方向(矢印H方向)を長手とする略長方形とされている。ケース部材14には、軸方向に沿った先端側(図1(A)で、左側)の開口を閉止するように蓋部16が形成されている。蓋部16には、中央部にキー12が挿通可能とされた開口部18が形成されている。ケース部材14には、その後端部における下端側に軸方向に沿って延出するプレート状のレバーガイド20が一体的に形成されている。
本実施形態に係る錠装置10は、ケース部材14がロック機構を収納したドア、車体等に配置される。このとき、ケース部材14は、開口部18が収納体の外部へ面するようにドア、車体等に固定される。
錠装置10は、ケース部材14の内部に配置される角筒状のスリーブ部材22を備えている。スリーブ部材22は軸方向へ細長く形成され、周壁部の軸直角方向に沿った断面形状が高さ方向を長手とする略長方形とされている。スリーブ部材22はケース部材14の内部に挿入されており、ケース部材14により軸方向に沿って摺動可能に支持されている。ここで、スリーブ部材22は、図1(A)に示される待機位置と図2(A)に示される作動位置との間で摺動可能とされている。スリーブ部材22は、待機位置にある状態では先端面を蓋部16の内側へ当接させており、この待機位置から所定の作動ストロークD(図2(A)参照)だけ後方へスライドすると作動位置に達する
スリーブ部材22には、内部に軸方向へ貫通する空間であるプランジャ収納室24が形成されている。またスリーブ部材22には、外周面における軸方向中間部に段差部26が形成され、この段差部26を介して先端側にスリーブ本体28が形成されると共に、後端側にスプリング保持部30が形成されている。スリーブ本体28は、その外周面がケース部材14の内周面に接するようにケース部材14の内部に摺動可能に嵌挿されており、またスプリング保持部30は、高さ方向(図1の矢印H方向)及び幅方向(図1の矢印W方向)に沿った寸法がスリーブ本体28よりも小さくなっており、その外周側には略矩形状に屈曲された巻線部を有するがコイルスプリング32が嵌挿されている。
図1(A)に示されるように、スリーブ部材22には、後端側の開口を閉止するように蓋部34が形成されている。この蓋部34の中央部には、軸方向へ貫通するロッドガイド穴36が形成されている。またスリーブ部材22には、蓋部34の下端部から軸方向に沿って後端側へ延出するスライドレバー38が一体的に形成されている。スライドレバー38は、その下端面をケース部材14におけるレバーガイド20の上端面に摺動可能に当接させている。
錠装置10には、ケース部材14内周面における後端部とスプリング保持部30の外周面との間に座受部材40が配置されている。座受部材40は細長い角柱状に形成されており、その外周面がケース部材14内周面に周方向へ延在するように固着されると共に、内周面をスプリング保持部30の外周面に摺動可能となるように当接させている。錠装置10では、コイルスプリング32がスリーブ部材22の段差部26と座受部材40との間に介装されて圧縮状態とされる。これにより、コイルスプリング32は、常にスリーブ部材22を作動位置(図1(A)参照)側に付勢する。
図1に示されるように、錠装置10は、スリーブ部材22のプランジャ収納室24内に配置されるプランジャ部材42を備えている。プランジャ部材42は軸方向へ細長い略角柱状に形成されている。プランジャ部材42には、軸方向に沿った先端側にプランジャ収納室24内に嵌挿されるプランジャ本体44が設けられると共に、このプランジャ本体44の後端面中央部からプランジャロッド46が軸方向へ突出するように形成されている。プランジャ本体44は、プランジャ部材42のプランジャ収納室24内に摺動可能に嵌挿されており、プランジャ部材42を介してケース部材14により所定の待機位置(図1(A)参照)と作動位置(図2(B))との間で移動可能に支持されている。
プランジャ部材42は、待機位置にある状態では先端面を蓋部16の内側へ当接させており、この待機位置から所定の作動ストロークD(図2(B)参照)だけ後方へ移動すると作動位置に達する。錠装置10では、前述したように、スリーブ部材22もケース部材14により待機位置と作動位置との間で移動可能に支持されている。
図1(A)に示されるように、プランジャ部材42は、ロッドガイド穴36を通してプランジャロッド46の後端側をスリーブ部材22の外側へ突出させている。プランジャロッド46のロッドガイド穴36から突出した部分は、その下端面をスリーブ部材22におけるスライドレバー38の上端面に摺動可能に当接させている。プランジャ本体44には、中心部に軸方向に沿って延在するキー挿入穴48が形成されている。キー挿入穴48はプランジャ本体44の先端面から後端部まで延在しており、図1(B)に示されるように、その断面形状が装置の高さ方向に沿って細長いスリット状とされている。このキー挿入穴48の断面形状は、本実施形態に係る錠装置10の規格に対応するキー12(図3参照)の形状に対応するものになっており、このキー挿入穴48内にはキー12が挿入及び抜脱可能となっている。
図3に示されるように、キー12は細長いプレート状に形成されており、例えば、金属、樹脂、紙、これらの複合材料等を素材として製造されている。キー12には、先端部に基端側から先端側へ向って肉厚がスロープ状に薄くなる挿入ガイド部50が形成されている。キー12は、長手直角方向に沿った一方及び他方の端面がそれぞれ上側係合端52及び下側係合端54とされると共に、厚さ方向に沿った片側の側面が係合面56とされている。キー12は、操作者により上側係合端52が装置高さ方向に沿って上側を向くような姿勢とされつつ、キー挿入穴48内へ挿入される。
キー12の上側係合端52及び下側係合端54には、キー12の長手方向(装置の軸方向)に沿ってそれぞれ異なる5箇所の係合位置PE1〜PE5が設定されており、これらの係合位置PE1〜PE5には、それぞれ選択的にV字状に窪んだ被係合部58が形成され、あるいは上側係合端52及び下側係合端54に対する形状的な加工を行わないことにより平面状の被係合部60が設けられる。
一方、係合面56には、キー12の長手方向に沿ってそれぞれ異なる5箇所の基準位置L1〜L5が設定されると共に、キー12の長手直角方向に沿ってそれぞれ異なる3箇所の基準位置S1〜S3が設定されている。係合面56には、基準位置L1〜L5と基準位置S1〜S3とが交差する位置がそれぞれ係合位置とされ、これらの係合位置には、それぞれ選択的に厚さ方向へ貫通する円穴状からなる被係合部62が形成され、あるいは係合面56に対する形状的な加工を行わないことにより平面状の被係合部64が設けられる。
キー12は、本実施形態に係る錠装置10の規格に適合するものであれば、キー挿入穴48内へ挿入及び抜脱可能であるが、キー12としては、後述する錠装置10におけるキー判定機構の設定に応じて、係合位置PEに正しく被係合部58、60が形成され、かつ係合面56における係合位置に正しく被係合部62、64が形成されたもの(以下、これを「正規キー12R」という。)と、正規キー12Rとは形状が一致しないものが存在する。なお、正規キー12Rとは形状が一致しないキー12、及びキー12の代わりにキー挿入穴48内へ挿入可能のドライバ等のキー代替物を包括して「不正キー12I」という。
図1に示されるように、スリーブ部材22には、その頂板部66、底板部68及び片側の側板部70にそれぞれ軸直角方向へ貫通する円形の外周ピン穴72が形成されている。頂板部66には、キー12における係合位置PE1〜PE5から選択された少なくとも1箇所に対応する部位(本実施形態では、PE2及びPE5に対応する部位)に外周ピン穴72が配置されており、底板部68にも、キー12における係合位置PE1〜PE5から選択された少なくとも1箇所に対応する部位(本実施形態では、PE1及びPE4に対応する部位)に外周ピン穴72が配置されている。また側板部70には、キー12における15箇所の係合位置から選択された少なくとも1箇所に対応する部位(本実施形態では、L4及びS2に対応する係合位置)に外周ピン穴72が配置されている。
なお、本実施形態では、錠装置10に関する説明を簡単にするため、スリーブ部材22に合計で5個の外周ピン穴72のみが設けられている場合について説明するが、頂板部66及び底板部68には、全ての係合位置PE1〜PE5にそれぞれ対応するように最大4個の外周ピン穴72を配置でき、また側板部70には、基準位置L1〜L5にそれぞれ対応するように最大5個の外周ピン穴72を配置できる。
図1に示されるように、プランジャ部材42には、頂板部74、底板部76及び片側の側板部78にそれぞれ軸直角方向へ貫通する円形の内周ピン穴80が形成されている。頂板部74及び底板部76には、それぞれ複数個(本実施形態では、2個)の内周ピン穴80が設けられており、側板部78には、1個の内周ピン穴80が設けられている。複数の内周ピン穴80は、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にある状態で、外周側の開口端がスリーブ部材22における複数の外周ピン穴72の内周側の開口端とそれぞれ一致する。ここで、外周ピン穴72の内径と内周ピン穴80の内径とは等しいものになっている。また内周ピン穴80の内周側は、プランジャ部材42のキー挿入穴48内へ面して開口している。
スリーブ部材22の外周ピン穴72内には外周ピン82が摺動可能に挿入されている。外周ピン82は、太さが全長に亘って略一定の円柱状に形成されており、その長さが外周ピン穴72の軸直角方向に沿った長さと略一致するか、短くなっている。外周ピン82は、ケース部材14の内周面により外周側への移動が制限され、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にある状態では、内周側への移動が、後述する内周ピン穴80内に挿入された内周ピン88により制限される。
外周ピン82には、外周側の端面(後端面)に円形凹状のホルダ穴(図示省略)が形成されており、このホルダ穴内にはコイルスプリング86が収納されている。このコイルスプリング86は、ホルダ穴の底面部とケース部材14の内周面との間で圧縮状態とされており、外周ピン穴72を常に内周側へ付勢している。
錠装置10では、プランジャ部材42の内周ピン穴80内に内周ピン88が摺動可能に挿入されている。内周ピン88は、後端側が太さ一定の円柱状に形成されると共に、先端部に円錐状のキー係合部90が形成されている。内周ピン穴88の長さは、内周ピン穴80の軸直角方向に沿った長さと略一致するか、長くなっている。図1に示されるように、内周ピン88は、外周側の端部(後端部)が外周ピン穴72内へ挿脱可能とされると共に、キー係合部90がキー挿入穴48内へ挿脱可能とされている。
内周ピン88は、図1に示されるように、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にあるときには、その外周側の端面(後端面)を外周ピン82の先端面に当接させ、外周ピン82の内周側への移動を制限する。
プランジャ部材42における頂板部74に配置された内周ピン88は、キー挿入穴48に正規キー12を含むキー12が挿入されると、キー係合部90をキー12における上側係合端52に設けられた被係合部58、60に係合させる。プランジャ部材42における底板部76に配置された内周ピン88は、キー挿入穴48に正規キー12を含むキー12が挿入されると、キー係合部90をキー12における下側係合端54に設けられた被係合部58、60に係合させる。
このとき、内周ピン88は、キー係合部90を凹溝状の被係合部58に係合する場合には、キー係合部90を被係合部58内へ挿入し、キー係合部90を平面状の被係合部60に係合する場合には、キー係合部90の先端部を被係合部60へ当接させることにより、装置の高さ方向(軸直角方向)に沿って被係合部58、60にそれぞれ対応する位置へ位置決めされる。
プランジャ部材42における側板部78に配置された内周ピン88は、キー挿入穴48に正規キー12を含むキー12が挿入されると、キー係合部90をキー12における係合面56に設けられた被係合部62、64に係合させる。このとき、内周ピン88は、キー係合部90を円穴状の被係合部62に係合する場合には、キー係合部90を被係合部62内へ挿入し、キー係合部90を平面状の被係合部64に係合する場合には、キー係合部90の先端部を被係合部64へ当接させることにより、装置の幅方向(軸直角方向)に沿って被係合部62、64にそれぞれ対応する位置へ位置決めされる。
なお、図1(A)及び図2(A)には、プランジャ部材42におけるキー挿入穴48内に正規キー12Rと形状が一致しないキー12が挿入されている場合が示され、図2(B)には、プランジャ部材42におけるキー挿入穴48内に正規キー12Rが挿入されている場合が示されている。
錠装置10では、キー挿入穴48にキー12が挿入されると、内周ピン88がキー係合部90をキー12における被係合部58、60及び被係合部62、64の何れかに係合させると共に、係合した被係合部58、60、62、64に対応する位置へ軸直角方向に沿って位置決めされる。このとき、キー挿入穴48内に挿入されているキー12が正規キー12Rである場合には、全ての内周ピン88は、その後端面を外周ピン穴72と内周ピン穴80との境界上に位置させると共に、外周ピン82の先端面を外周ピン穴72と内周ピン穴80との境界上に位置させる。これにより、プランジャ部材42は、軸方向に沿ってスリーブ部材22とは連結されない状態となり、図2(B)に示されるように、スリーブ部材22を待機位置に残したまま、作動位置まで移動可能になる。
またキー挿入穴48内に挿入されているキー12が正規キー12Rとは形状が異なるものである場合には、図1(A)に示されるように、複数個の内周ピン88の少なくとも1個は、その後端面を外周ピン穴72と内周ピン穴80との境界に対して内周側及び外周側の何れか位置させると共に、外周ピン82の先端面を外周ピン穴72と内周ピン穴80との境界に対して内周側及び外周側の何れか位置させる。これにより、プランジャ部材42は、外周ピン82及び内周ピン88の一方によりスリーブ部材22と軸方向に沿って連結された状態となり、図2(A)に示されるように、スリーブ部材22と常に一体となって待機位置と作動位置との間を移動する。
本実施形態に係る錠装置10では、スリーブ部材22の外周ピン穴72、プランジャ部材42の内周ピン穴80、外周ピン穴72内へ挿入された外周ピン82、この外周ピン82を内周側へ付勢したコイルスプリング86及び、内周ピン穴80内に挿入された内周ピン88により本発明に係るキー判定機構が構成されている。
図1(A)に示されるように、錠装置10は、スライドレバー38の先端部に連結されると共に、プランジャロッド46の先端部に連結された作動レバー92を備えている。作動レバー92は細長いプレート状に形成されており、長手方向に沿って略V字状に屈曲している。作動レバー92には、その基端部(図1では、下端部)にレバー長手方向へ細長い長円状の連結穴94が形成されている。またスライドレバー38の先端部には、装置の幅方向を軸方向とする円柱状の連結軸96が設けられており、この連結軸96は、作動レバー92の連結穴94内に相対的に回動可能に挿入されると共に、連結穴94の長手方向に沿って連結穴94内で移動可能となる。これにより、作動レバー92は、その基端部が連結軸96を介してスライドレバー38の先端部に揺動可能に連結される。
プランジャロッド46の先端部には、装置の幅方向を軸方向とする円柱状の押圧軸98が設けられており、この押圧軸98は、作動レバー92における長手方向に沿った中央付近を貫通し、作動レバー92に相対的に回動可能に連結されている。また作動レバー92の先端側は、プランジャロッド46の先端部から軸方向に沿って後方へ延出している。作動レバー92の先端部には、円筒状の軸受部材118が取り付けられると共に、この軸受部材118を介して細長い丸棒状の連結ロッド100の上端部が相対的に回動可能に連結されている。連結ロッド100は、装置の高さ方向に沿って延在しており、下端部がロック機構の本体部(図示省略)に連結されている。作動レバー92は、スライドレバー38の連結軸96を中心として所定の施錠位置(図1(A)参照)と解錠位置(図2(B)参照)との間で揺動可能とされている。
錠装置10では、図1(A)に示されるように、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にあると、作動レバー92が施錠位置に保持されるように、連結軸96及び押圧軸98の軸方向に沿った位置がそれぞれ設定されている。
錠装置10は、図2(B)に示されるように、スリーブ部材22が待機位置にある状態で、プランジャ部材42のみが待機位置から作動位置まで移動すると、押圧軸98が連結軸96に対して軸方向に沿って後方へ移動すると共に、押圧軸98を介してプランジャ部材42から軸方向に沿った押圧力が作動レバー92に作用する。これにより、作動レバー92は、連結軸96を中心として施錠位置から解錠位置側へ揺動し、プランジャ部材42が作動位置に達すると、解錠位置まで揺動する。
作動レバー92は、施錠位置から解錠位置へ揺動すると、連結ロッド100を下方へ移動させつつ、連結ロッド100を介してロック機構の本体部に装置の高さ方向に沿った押圧力(操作力)を伝達する。この操作力を受けたロック機構の本体部は施錠状態から解錠状態に状態が変化し、ロック機構により施錠されていたドア、トランクフード、グローブボックスの蓋体等の開閉部材が開放可能になる。
またロック機構の本体部は、開放された開閉部材が再び閉鎖されると、連結ロッド100を介して作動レバー92に押圧力(復帰力)を伝達し、解錠位置にある作動レバー92を施錠位置側へ付勢する。このロック機構の本体部からの付勢力により、解錠位置にある作動レバー92が施錠位置に復帰すると共に、作動位置にあるプランジャ部材42が待機位置に復帰する。
また錠装置10では、図2(A)に示されるように、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が一体となって待機位置から作動位置まで移動すると、押圧軸98と連結軸96との軸方向に沿った相対的な位置関係が変化しないことから、作動レバー92が施錠位置に保たれる。従って、ロック機構の本体部は、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が一体となって待機位置から作動位置まで移動しても、施錠状態に維持されて解錠状態とならない。この状態で、操作者がキー12(この場合、正規キー12Rとは形状が異なるキー)への押圧を止めると、作動位置にあるスリーブ部材22及びプランジャ部材42が、コイルスプリング32の復元力により待機位置に復帰する。
図1に示されるように、錠装置10には、プランジャ本体44の外周面における上端部及び下端部にそれぞれ凹状の内周係止穴102が形成されると共に、ケース部材14の内周面における上端部及び下端部にそれぞれ凹状の外周係止穴104が形成されている。ここで、内周係止穴102は、軸方向に沿ってプランジャ本体44における内周ピン穴80の後端側に配置されており、外周係止穴104は、プランジャ部材42が待機位置にあるときに、装置の軸方向及び幅方向に沿って内周係止穴102と同一位置に位置する。
錠装置10には、スリーブ部材22に軸直角方向に沿って貫通するよう格納穴106が形成されている。格納穴106は、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にあると、軸方向及び幅方向に沿って外周係止穴104及び内周係止穴102と同一位置に位置する。外周係止穴104、内周係止穴102及び格納穴106は、軸方向に沿った断面形状が一致している。
図6に示されるように、錠装置10には、格納穴106内に略角柱状の係止バー108が軸直角方向に沿って摺動可能に格納されると共に、外周係止穴104内に付勢板110及びスプリング112からなる付勢部材が挿入されている。係止バー108は、外周側の端面(後端面)が軸方向と平行な平面とされると共に、先端面が軸方向に沿った後端から先端へ向って外周側へ傾斜した平面状のカム面116とされている。
係止バー108は、スリーブ部材22が待機位置にあると、後端面をプレート状の付勢板110の先端面に圧接させつつ、後端部が外周係止穴104内へ挿脱可能になり、またスリーブ部材22及びプランジャ部材42が軸方向に沿って同一位置にあると、先端部を内周係止穴102内に挿脱可能に挿入して、内周係止穴102の底面部へ圧接させている。付勢板110は外周係止穴104内に摺動可能に挿入されており、スプリング112は、付勢板110の後端面と外周係止穴104の底面部との間に圧縮状態となるように配置されている。
錠装置10では、キー挿入穴48に正規キー12が挿入されて、プランジャ部材42が待機位置から作動位置側へ移動開始すると、係止バー108のカム面116がプランジャ部材42の外周面から軸直角方向に沿った押圧力を受けることにより、スプリング112の付勢力に抗して係止バー108が外周側へ押し出される。これにより、図2(B)に示されるように、係止バー108の後端部は外周係止穴104内に挿入される。このとき、係止バー108は、外周係止穴104と格納穴106との境界を跨ぐように延在するので、スリーブ部材22を待機位置に拘束する。また、作動位置側へ移動したプランジャ部材42が待機位置に復帰すると、係止バー108は、スプリング112の付勢力により内周側へ移動し、先端部を内周係止穴102内へ挿入する。
また錠装置10では、キー挿入穴48に正規キー12とは形状が異なるキー12が挿入されて、外周ピン82又は内周ピン88によりスリーブ部材22及びプランジャ部材42が連結されると、格納穴106及び内周係止穴102内に保持されつつ、スリーブ部材22及びプランジャ部材42と一体となって軸方向へ移動する。
(実施形態の作用)
次に、本実施形態に係る錠装置10の作用について説明する。
錠装置10では、操作者によりキー挿入穴48に正規キー12Rが挿入され、正規キー12Rを介してプランジャ部材42が作動位置側へ押圧されると、係止バー108によりスリーブ部材22が拘束されつつ、プランジャ部材42のみが待機位置から作動位置側へ移動開始する。このプランジャ部材42の作動位置側への移動に連動し、施錠位置にある作動レバー92が解錠位置側へ揺動し、プランジャ部材42が作動位置に達すると、作動レバー92が解錠位置まで揺動して、施錠状態にあったロック機構の本体部を解錠状態とする。これにより、ロック機構により施錠されていた開閉部材が解錠され、開閉部材が開放可能になる。この後、開放された開閉部材が再び閉鎖されると、連結ロッド100を介してロック機構の本体部から作動レバー92に復帰力が伝達されることにより、解錠位置にある作動レバー92が施錠位置に復帰すると共に、作動位置にあるプランジャ部材42が待機位置に復帰する。
また錠装置10では、操作者によりキー挿入穴48に正規キー12R以外のキー12及びキー代替物からなる不正キー12Iが挿入されると、外周ピン82又は内周ピン88によりスリーブ部材22とプランジャ部材42とが連結される。これにより、不正キー12Iを介してプランジャ部材42が作動位置側へ押圧されると、プランジャ部材42及びスリーブ部材22が一体となって待機位置から作動位置側へ移動開始する。錠装置10では、プランジャ部材42及びスリーブ部材22が一体となってから作動位置に達しても、施錠位置にある作動レバー92が揺動しないので、ロック機構の本体部が施錠状態のままに維持される。この後、操作者が不正キー12Iへの押圧を止めると、ロック機構の本体部からの復帰力及びコイルスプリング32の復元力によりプランジャ部材42及びスリーブ部材22が待機位置に復帰する。
従って、本実施形態に係る錠装置10では、操作者がキー挿入穴48にキー12を挿入し、このキー12を装置の軸方向に沿って押圧することにより、キー12が正規キー12Rの場合には、ロック機構の本体部を解錠状態とし、又はキー12が不正キー12Iである場合には、ロック機構の本体部を施錠状態のままに維持できるので、キーをキー挿入穴内へ挿入した後、キーを回転させることにより被操作機構に対する操作が行われる回転式の錠装置と比較し、操作者によるキー操作時にキー12によりトルクを伝達する必要がなく、キー12には軸方向に沿った荷重のみが基本的に作用するので、キー12に要求される捩り方向に沿った機械的な強度を十分に小さいものにできる。
この結果、本実施形態に係る錠装置10によれば、キー12を必ずしも鉄、ステンレス等の高強度の材料により製造する必要がなくなり、例えば、プラスチック、防水処理が施された紙、アルミ合金、マグネシウム合金等の従来の成形素材として使用が難しかった低強度の素材によりキー12を製造でき、またキー12の肉厚も従来のものと比較して大幅に薄くしても変形等の問題が生じない。
また錠装置10では、ドライバ等を含む不正キー12Iをキー挿入穴48へ挿入し、この不正キー12Iを軸方向に沿って装置の後端側へ押圧しても、プランジャ部材42及びスリーブ部材22が一体となって待機位置から作動位置へ移動するだけで、ロック機構の本体部が解錠状態にならず、しかもケース部材14、スリーブ部材22及びプランジャ部材42や、これらに配置された外周ピン82、内周ピン88、係止バー108等にも無理な力が作用しないので、これらの構成部品の破損が防止される。またキー挿入穴48内にキー12が挿入されない状態では、外周ピン82又は内周ピン88によりプランジャ部材42及びスリーブ部材22が連結されていることから、この状態で、プランジャ部材42を押圧して待機位置から作動位置へ移動させても、作動レバー92が施錠位置から揺動せず、ロック機構の本体部が施錠状態に維持される。
また錠装置10では、スリーブ部材22の連結軸96及びプランジャ部材42の押圧軸98が待機位置に位置すると、作動レバー92が施錠位置に保持され、スリーブ部材28の連結軸96が待機位置に拘束されつつ、プランジャ部材42の押圧軸98が待機位置から作動位置側へ移動すると、作動レバー92が押圧軸98からの押圧力を受けて連結軸96を中心として解錠位置側へ揺動し、押圧軸98が作動位置に達すると、解錠位置まで揺動する。
これにより、操作者がキー挿入穴48に挿入された正規キー12Rを介してプランジャ部材42を押圧して、プランジャ部材42を作動位置まで移動させれば、作動レバー92を確実に施錠位置から解錠位置まで揺動させ、ロック機構の本体部を解錠状態にできる。
また操作者がキー挿入穴48に正規キー12R以外のキー12及びキー代替物からなる不正キー12Iが挿入し、この不正キー12Iを介してプランジャ部材42を押圧しても、施錠位置にある作動レバー92が解錠位置側へ揺動しないので、ロック機構の本体部を確実に施錠状態のままに維持できる。このとき、作動レバー92には操作者が不正キー12Iに無理な力を作用させても、このような操作者からの力が伝達されないので、不正キー12Iが挿入された際にも作動レバー92が破損することを確実に防止できる。
また本実施形態に係る錠装置10では、キー挿入穴48に正規キー12Rが挿入されると、内周ピン88が先端部を正規キー12における被係合部58、60、62、64に係合させて、内周ピン88の後端面及び外周ピン82の先端面を外周ピン穴72と内周ピン穴80との境界上に位置させることにより、正規キー12Rからの押圧力によりプランジャ部材42のみを待機位置から作動位置へ移動させることできる。
また錠装置10では、キー挿入穴48に正規キー12Rと形状と一致しないキー12が挿入されると、内周ピン88が先端部をキーにおける被係合部58、60、62、64に係合させて、内周ピン88の後端面及び外周ピン82の先端面を外周ピン穴と内周ピンとの境界に対して内周側及び外周側の何れかに位置させることにより、外周ピン82及び内周ピン88の何れかが外周係止穴104と内周係止穴102との境界を跨ぐように延在するので、プランジャ部材42とスリーブ部材22とが互いに連結され、キー12からの押圧力によりプランジャ部材42及びスリーブ部材22を一体として待機位置から作動位置へ移動させることできる。
また錠装置10では、キー挿入穴48に正規キー12Rが挿入されて、プランジャ部材42が待機位置から作動位置側へ移動開始すると、係止バー108が、プランジャ部材42の外周面からの押圧力により後端部をスプリング112の付勢力に抗して外周係止穴104内へ挿入し、スリーブ部材22を待機位置に拘束することにより、プランジャ部材42が待機位置から作動位置へ移動する際に、スリーブ部材22を確実に待機位置に保持できるので、例えば、プランジャ部材42からの摩擦力等によりスリーブ部材22が待機位置から作動位置側へ移動することを防止でき、作動レバー92を施錠位置から解錠位置へ確実に揺動させることができる。
[第2の実施形態]
(実施形態の構成)
図4及び図5には、本発明の第2の実施形態に係る錠装置が示されている。なお、本実施形態に係る錠装置120では、第1の実施形態に係る錠装置10と同一の部分については同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係る錠装置120は、スリーブ部材22の格納穴106内に格納された係止バー122、ケース部材14の内周面に形成された外周係止穴124及びプランジャ部材42に形成された内周係止穴126を除く、他の部分の構成が基本的に第1の実施形態に係る錠装置10と同一とされている。
図4に示されるように、錠装置120には、プランジャ本体44の外周面における上端部及び下端部にそれぞれ凹状の内周係止穴126が形成されると共に、ケース部材14の内周面における上端部及び下端部にそれぞれ凹状の外周係止穴124が形成されている。ここで、内周係止穴126は、軸方向に沿ってプランジャ本体44における内周ピン穴80の後端側に配置されており、外周係止穴124は、プランジャ部材42が待機位置にあるときに、装置の軸方向及び幅方向に沿って内周係止穴102と同一位置に位置する。
内周係止穴126及び外周係止穴124は、軸方向に沿った断面形状がそれぞれ矩形状とされている。図6(A)に示されるように、外周係止穴124は、外周側の底面部が装置の軸方向に沿って後端側から先端側へ向って外周側へ傾斜した傾斜面128により形成されている。また内周係止穴126は、内周側の底面部が外周係止穴124の傾斜面128と同一方向へ傾斜するが、軸方向に対する傾斜角が傾斜面128よりも小さい傾斜面130により形成されている。
スリーブ部材22の格納穴106は、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にあると、軸方向及び幅方向に沿って外周係止穴124及び内周係止穴126と同一位置に位置する。格納穴106は、軸方向に沿った断面形状が外周係止穴104及び内周係止穴102における開口端の形状と一致している。
格納穴106内には、全体として略角柱状に形成された係止バー122が軸直角方向に沿って摺動可能に格納されている。係止バー122には、図6に示されるように、外周側に外周係止片132が設けられると共に、内周側に内周係止片134が設けられ、これらの外周係止片132と内周係止片134との間にコイルスプリング136が圧縮状態となるように介装されている。
外周係止片132は軸直角方向を厚さ方向とする肉厚プレート状に形成されており、内周側における軸方向に沿った断面形状が格納穴106の断面形状と対応する矩形状とされている。外周係止片132には、内周側の端面中央部に円形凹状の座受部138が形成されており、この座受部138内には、コイルスプリング136の外周側の端部が挿入されている。また外周係止片132の外周側の端面は、外周係止穴124の傾斜面128と平行な平面からなるカム面142とされている。外周係止片132は、格納穴106内に摺動可能に挿入されると共に、外周側の端部が外周係止穴124内へ挿脱可能とされている。
内周係止片134も、外周係止片132と同様に、軸直角方向を厚さ方向とする肉厚プレート状に形成されており、外周側における軸方向に沿った断面形状が格納穴106の断面形状と対応する矩形状とされている。内周係止片134には、外周側の端面中央部に円形凹状の座受部140が形成されており、この座受部140内には、コイルスプリング136の内周側の端部が挿入されている。また内周係止片134の内周側の端面は、内周係止穴126の傾斜面130と平行な平面からなるカム面144とされている。内周係止片134は、格納穴106内に摺動可能に挿入されると共に、内周側の端部が内周係止穴126内へ挿脱可能とされている。
係止バー122は、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置にあると、外周係止片132を外周係止穴124内へ挿脱可能に挿入すると共に、内周係止片134を内周係止穴126内に挿脱可能に挿入する。このとき、外周係止片132は、コイルスプリング136の付勢力によりカム面142を傾斜面128へ圧接させ、内周係止片134は、コイルスプリング136の付勢力によりカム面144を傾斜面130へ圧接させる。
錠装置120では、キー挿入穴48に正規キー12Rが挿入されて、プランジャ部材42が待機位置から作動位置側へ移動開始すると、内周係止片134のカム面144にプランジャ部材42の外周面から押圧力が作用すると共に、外周係止片132のカム面142にケース部材14の内周面から押圧力が作用する。このとき、カム面144の軸方向に対する傾斜角度がカム面142よりも小さいことから、プランジャ部材42の外周面からカム面144に作用する押圧力が、ケース部材14の内周面からカム面144に作用する押圧力よりも大きくなる。
従って、錠装置120では、キー挿入穴48に正規キー12Rが挿入されて、プランジャ部材42が待機位置から作動位置側へ移動開始すると、図6(C)に示されるように、外周係止片132が外周係止穴124内に挿入されたままになるが、プランジャ部材42の外周面からの押圧力により内周係止片134が内周係止穴126内から抜け出る。これにより、錠装置120では、図5(B)に示されるように、係止バー122の外周係止片132によりスリーブ部材22が待機位置に拘束されつつ、正規キー12Rからの押圧力によりプランジャ部材42のみが待機位置から作動位置まで確実に移動する。また、作動位置側へ移動したプランジャ部材42が待機位置に復帰すると、係止バー122は、コイルスプリング136の付勢力により内周係止片134を内周係止穴126内に挿入する。
また錠装置120では、キー挿入穴48に正規キー12Rとは形状が異なるキー12が挿入されて、外周ピン82又は内周ピン88によりスリーブ部材22及びプランジャ部材42が連結されつつ、プランジャ部材42が待機位置から作動位置側へ移動開始すると、図6(B)に示されるように、外周係止片132のカム面142にケース部材14の内周面から押圧力が作用し、この押圧力により外周係止片132が外周係止穴124内から抜け出る。これにより、錠装置120では、図5(A)に示されるように、係止バー122が内周係止穴126及び格納穴106内に保持されつつ、スリーブ部材22及びプランジャ部材42が一体となって待機位置から作動位置まで移動する。また、作動位置側へ移動したスリーブ部材22及びプランジャ部材42が待機位置に復帰すると、係止バー122は、コイルスプリング136の付勢力により外周係止穴124を外周係止穴124内に挿入する。
(実施形態の作用)
次に、本実施形態に係る錠装置120の作用について説明する。
本実施形態に係る錠装置120でも、第1の実施形態に係る錠装置10と同様に、操作者がキー挿入穴48にキー12を挿入し、このキー12を装置の軸方向に沿って押圧することにより、キー12が正規キー12Rの場合には、ロック機構の本体部を解錠状態とし、又はキー12が不正キー12Iである場合には、ロック機構の本体部を施錠状態のままに維持できるので、キーをキー挿入穴内へ挿入した後、キーを回転させることにより被操作機構に対する操作が行われる回転式の錠装置と比較し、操作者によるキー操作時にキー12によりトルクを伝達する必要がなく、キー12には軸方向に沿った荷重のみが作用するので、キー12に要求される捩り方向に沿った機械的な強度を十分に小さいものにできる。
また錠装置10では、キー挿入穴48に正規キー12Rが挿入されて、プランジャ部材42が待機位置から作動位置側へ移動開始すると、係止バー122がスリーブ部材22を待機位置に拘束することにより、プランジャ部材42が待機位置から作動位置へ移動する際に、スリーブ部材22を確実に待機位置に保持できるので、例えば、プランジャ部材42からの摩擦力等によりスリーブ部材22が待機位置から作動位置側へ移動することを防止でき、作動レバー92を施錠位置から解錠位置へ確実に揺動させることができる。
なお、以上の本実施形態に係る説明では、錠装置10、120を、開閉部材を施錠又は解錠するためのロック機構に適用した場合を説明したが、本実施形態に係る錠装置10、120は、正規キー12Rの操作により動作状態が変化(非動作状態及び作動状態の一方から他方に変化)する機構(被操作機構)であれば、どのような被操作機構へも適用可能である。
また錠装置10,120では、スリーブ部材22の連結軸96を作動レバー92に相対的に回動可能に連結すると共に、プランジャ部材42の押圧軸98を作動レバー92に相対的に回動可能に連結したが、プランジャ部材42の押圧軸98については、作動レバー92に回動可能に連結することなく、作動レバー92の軸方向に沿って先端側の端面に圧接させるだけでも良い。このように押圧軸98を作動レバー92に圧接させれば、押圧軸98を介してプランジャ部材42からの押圧力が作動レバー92へ伝達され、プランジャ部材42の作動位置側への移動に従って作動レバー92を解錠位置側へ揺動させることができる。また、この場合には、連結軸96を作動レバー92の長手方向に沿った移動を許容する必要がなくなるので、作動レバー92における連結穴94は連結軸96の外径に対応する内径を有する丸穴とすれば良い。