本発明は、垂直磁気記録方式HDD(ハードディスクドライブ)等に搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法及び製造システムに関する。
近年、情報化社会の高度化に伴って種々の情報処理装置が提案されており、また、これら情報処理装置において使用される情報記録装置が提案されている。そして、このような情報記録装置においては、装置構成の小型化や、高性能化のために、情報記録容量の大量化、記録密度の高密度化が求められている。
このような情報記録装置として、HDD(ハードディスクドライブ)に代表される磁気ディスクを記録媒体として使用する磁気記録装置においては、例えば、2.5インチ径の磁気ディスクにおいて、1枚あたり30GB(ギガバイト)を超える情報記録容量が求められるようになってきている。
磁気ディスクにおける情報記録容量の向上を図るためには、磁気ディスクと、この磁気ディスクに対して情報信号の記録再生を行う磁気ヘッドとの双方の高性能化が必要である。磁気ディスクにおいて、前述の要求に応えるためには、1平方インチあたり60ギガビット(60Gbit/inch2)を超える情報記録面密度を実現することが必要である。
ところで、従来の磁気記録装置においては、磁気ディスクとして、いわゆる面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式)の磁気記録層を備えたものが使用されている。この面内磁気記録方式においては、磁気記録層における磁化方向は、磁気ディスクの主面に略々平行な方向となる。このような面内磁気記録方式においては、記録層における結晶粒を小さくすることによって1平方インチあたり60ギガビットのような高記録面密度で情報記録を行おうとしても、隣接する結晶粒間の反磁界の影響が大きくなり、良好な記録が行えない虞れがある。また、記録層における結晶粒を小さくするには、記録層を薄くしなければならないので、熱磁気余効による熱揺らぎ障害が発生し易くなるという問題がある。熱揺らぎ障害が顕著になると、記録磁化が時間経過とともに減衰し、ついには記録された情報を正常に再生することができなくなってしまう。
そのため、近年、磁気ディスクにおいては、垂直磁気記録方式を採用することが提案されている。垂直磁気記録方式においては、記録面密度を高くしても、熱揺らぎ障害に対する耐性を高く維持することができる。すなわち、垂直磁気記録方式は、高記録面密度の情報記録を達成するのに好ましい記録再生方式である。
磁気ディスクにおいて、垂直磁気記録方式を採用するためには、記録層の構成について、面内磁気記録方式を採用した磁気ディスクに対して大幅な変更が必要である。すなわち、垂直磁気記録方式を採用した垂直磁気記録媒体である磁気ディスク(以下、「垂直磁気記録ディスク」という。)においては、硬磁性層である記録層の磁化容易軸を、磁気ディスクの主面に対する垂直方向(法線方向)に配向させる必要がある。
また、垂直磁気記録ディスクにおいては、特許文献1に記載されているように、ディスク基板上に軟磁性体や強磁性微結晶からなる軟磁性層を備え、この軟磁性層上に硬磁性体からなる記録層を備える、いわゆる二層型垂直磁気記録ディスクが好ましいと考えられる。これは、このような二層型垂直磁気記録ディスクにあっては、磁気記録時において、磁気ヘッド、記録層及び軟磁性層間に、好適な磁気回路を形成することができ、鏡像効果に基づき、軟磁性層が磁気記録を補助する作用を得ることができるからである。
特許文献1には、垂直磁気記録ディスクとして、非磁性材料からなるディスク基板上に強磁性微結晶からなる軟磁性層を形成し、この軟磁性層上にニッケル(Ni)を主成分としジルコニウム(Zr)を含有する非磁性のアモルファス(非晶質)合金からなる非磁性下地層(中間層)を形成し、この非磁性下地層上に記録層である磁性層を形成したものが記載されている。
ところで、前述のように、ディスク基板上に軟磁性層及び非磁性下地層を形成し、この非磁性下地層上に磁性層を形成するようにした垂直磁気記録ディスクにおいては、軟磁性層、非磁性下地層及び磁性層を、一つの真空チャンバにおいて続けて成膜することは困難である。
また、成膜された直後の軟磁性層は高温となっているので、この軟磁性層上に非磁性下地層、または、磁性層を成膜する前に、軟磁性層を冷却する必要がある。このとき、軟磁性層は、好ましくは、100°C以下、さらに望ましくは、50°C以下とすることが好ましい。この場合、軟磁性層と磁性層とでは、層の厚さが大きく異なり、成膜に要する時間が大きく異なることも考慮すると、これら各層を一つの真空チャンバにおいて続けて成膜するようにすると、設備を無駄なく稼働させることが困難となる。
そこで、このような垂直磁気記録ディスクの製造工程においては、軟磁性層が成膜された後、この軟磁性層を大気曝露して、冷却することが望ましい。
しかしながら、成膜された後の軟磁性層を大気曝露させると、この軟磁性層が高温となっていることから、軟磁性層の表層部分が酸化などの劣化を生じ易い。また、この大気曝露により、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着する虞れもある。
軟磁性層の表層部に酸化層が形成された状態のままで、この軟磁性層上に非磁性下地層、または、磁性層を成膜して磁気ディスクを構成すると、酸化層の厚さに応じて、スペーシングロスが生ずることとなり、記録再生特性が劣化してしまう。
また、軟磁性層の表層部が酸化層となっていると、この軟磁性層の表面粗さが劣化し、磁性層における磁化容易軸の配向が乱れることとなり、記録再生特性が劣化することとなる。
そこで、本発明は、上述の実情に鑑みて提案されるものであって、その目的は、従来の磁気記録媒体の製造に比して大幅な開発コスト、設備コストや製造コストの増大を招来することなく、基板と記録層との間に軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体であって、優れた垂直配向性を有する記録層を備えた垂直磁気記録媒体を提供することによって、磁気記録媒体における高記録面密度化に資することにある。
前述の課題を解決し、前記目的を達成するため、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法は、以下のいずれかの構成を有するものである。
〔構成1〕
非磁性材料からなる基板上に軟磁性層が形成され、この軟磁性層よりも上層に垂直磁気記録層が形成された垂直磁気記録媒体の製造方法であって、軟磁性層を形成し、この軟磁性層の表面部を酸素を含む雰囲気に接触させることにより軟磁性層を冷却させた後に、この軟磁性層の表面部をエッチング処理することにより前記軟磁性層の表面部に形成されている変質層を除去し、軟磁性層よりも上層に垂直磁気記録層を形成することを特徴とするものである。
〔構成2〕
非磁性材料からなる基板上に軟磁性層が形成され、この軟磁性層よりも上層に垂直磁気記録層が形成された垂直磁気記録媒体の製造方法であって、第1の減圧チャンバにより基板上に軟磁性層を形成する第1の工程と、第1の工程により形成された軟磁性層の表面部を酸素を含む雰囲気に接触させることにより前記軟磁性層を冷却させる第2の工程と、第2の減圧チャンバにより第2の工程を経た軟磁性層の表面部をエッチング処理することにより前記軟磁性層の表面部に形成されている変質層を除去する第3の工程と、第3の減圧チャンバにより第3の工程を経た軟磁性層上に垂直磁気記録層を形成する第4の工程とを有することを特徴とするものである。
〔構成3〕
構成1、または、構成2を有する垂直磁気記録媒体の製造方法において、軟磁性層は、コバルト、または、鉄を含む軟磁性材料からなることを特徴とするものである。
また、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造システムは、以下の構成を有するものである。
〔構成4〕
非磁性材料からなる基板上に軟磁性層が形成されこの軟磁性層よりも上層に垂直磁気記録層が形成された垂直磁気記録媒体を製造する製造システムであって、複数の減圧チャンバを有しこれら第1の減圧チャンバにより、基板上に軟磁性層を形成する第1の製造ブロックと、第1のブロックにおいて形成された軟磁性層の表面部を酸素を含む雰囲気に接触させることにより前記軟磁性層を冷却させる第2の製造ブロックと、少なくとも一の第2の減圧チャンバを有しこの第2の減圧チャンバにより軟磁性層の表面部をエッチング処理することにより前記軟磁性層の表面部に形成されている変質層を除去する第3の製造ブロックと、少なくとも一の第3の減圧チャンバを有しこの第3の減圧チャンバにより第3の製造ブロックにおいて表面部をエッチング処理された軟磁性層上に垂直磁気記録層を形成する第4の製造ブロックとを備えたことを特徴とするものである。
構成1を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、軟磁性層を形成した後に、この軟磁性層の表面部をエッチング処理し、軟磁性層よりも上層に垂直磁気記録層を形成するので、軟磁性層の表層部が酸化層となっていたとしても、また、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着していたとしても、これら酸化層やコンタミネーションは、軟磁性層の表面部がエッチング処理されることによって除去され、この軟磁性層上に優れた垂直配向性を有する記録層を形成することができ、また、スペーシングロスの増大が防止された垂直磁気記録媒体を製造することができる。
また、構成1を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、軟磁性層を形成した後、エッチング処理の前に、軟磁性層の表面部を、雰囲気に接触させるので、成膜後の軟磁性層を迅速に冷却することができ、また、軟磁性層の表層部が酸化層となったり、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着しても、これら酸化層やコンタミネーションは、軟磁性層の表面部がエッチング処理されることによって除去される。
さらに、構成1を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、雰囲気は、酸素を含む雰囲気であるので、この雰囲気として大気を使用することができ、製造が容易である。
また、構成1を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、酸素を含む雰囲気に接触させることにより、軟磁性層を冷却するので、成膜後の軟磁性層を迅速に冷却することができ、また、軟磁性層の表層部が酸化層となったり、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着しても、これら酸化層やコンタミネーションは、軟磁性層の表面部がエッチング処理されることによって除去される。
そして、構成1を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、エッチング処理により、軟磁性層の表面部に形成されている変質層を除去した後に、この軟磁性層よりも上層の層を形成するので、軟磁性層の表層部が酸化層となっていたとしても、また、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着していたとしても、これら酸化層やコンタミネーションは、軟磁性層の表面部がエッチング処理されることによって除去され、この軟磁性層上に優れた垂直配向性を有する記録層を形成することができ、また、スペーシングロスの増大が防止された垂直磁気記録媒体を製造することができる。
構成2を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、非磁性材料からなる基板上に軟磁性層が形成されこの軟磁性層よりも上層に垂直磁気記録層が形成された垂直磁気記録媒体の製造方法であって、第1の減圧チャンバにより基板上に軟磁性層を形成する第1の工程と、第1の工程により形成された軟磁性層の表面部を酸素を含む雰囲気に接触させることにより前記軟磁性層を冷却させる第2の工程と、第2の減圧チャンバにより第2の工程を経た軟磁性層の表面部をエッチング処理することにより前記軟磁性層の表面部に形成されている変質層を除去する第3の工程と、第3の減圧チャンバにより第3の工程を経た軟磁性層上に垂直磁気記録層を形成する第4の工程とを有するので、第2の工程において軟磁性層の表層部が酸化層となっていたとしても、また、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着していたとしても、第3の工程において酸化層やコンタミネーションが除去され、第4の工程において優れた垂直配向性を有する記録層を形成することができ、スペーシングロスの増大が防止された垂直磁気記録媒体を製造することができる。
また、構成2を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、第2の工程における雰囲気は、酸素を含む雰囲気であるので、雰囲気として大気を使用することができ、第2の工程を容易に行うことができる。
構成2を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、第2の工程において、軟磁性層の表面部を雰囲気に接触させることにより、軟磁性層を冷却するので、この第2の工程において軟磁性層を迅速に冷却することができ、また、軟磁性層の表層部が酸化層となったり、軟磁性層の表面部にコンタミネーションが付着しても、第3の工程において酸化層やコンタミネーションが除去される。
構成3を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、構成1、または、構成2を有する垂直磁気記録媒体の製造方法において、軟磁性層は、コバルト、または、鉄を含む軟磁性材料からなるので、良好に鏡像効果が得られる垂直磁気記録媒体を製造することができる。
すなわち、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、従来の磁気記録媒体の製造に比して大幅な開発コストや製造コストの増大を招来することなく、基板と記録層との間に軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体であって、優れた垂直配向性を有する記録層を備えた垂直磁気記録媒体を提供することができるものである。
そして、構成4を有する本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造システムにおいては、第1の製造ブロックにおいて基板上に形成された軟磁性層は、第2の製造ブロックにおいて表面部を酸素を含む雰囲気に接触されて迅速に冷却され、第3の製造ブロックにおいて表面部をエッチング処理されて表層部の酸化層や表面部のコンタミネーションを除去され、第4の製造ブロックにおいて上層に優れた垂直配向性を有する記録層が形成される。
すなわち、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造システムにおいては、従来の磁気記録媒体の製造に比して大幅な設備コストの増大を招来することなく、基板と記録層との間に軟磁性層を有する垂直磁気記録媒体であって、優れた垂直配向性を有する記録層を備えた垂直磁気記録媒体を提供することができるものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る垂直磁気記録媒体は、例えば、HDD(ハードディスクドライブ)等に搭載される垂直磁気ディスクとして構成され、垂直磁気記録方式によって高密度の情報信号記録及び再生を行うことができる記録媒体である。垂直磁気ディスクとして構成された本発明に係る垂直磁気記録媒体は、例えば、1.0インチ(inch)型、1.8インチ型、2.5インチ型、3.5インチ型などの所定の径を有する垂直磁気ディスクとして作製される。
〔垂直磁気記録媒体の構成〕
図1は、本発明に係る垂直磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
この垂直磁気記録媒体は、図1に示すように、非磁性材料からなる基板1上に、付着層2を介して軟磁性層3が形成(成膜)され、この軟磁性層3上に、下地層4を介して、硬磁性膜である垂直磁気記録層5が形成(成膜)されて構成されている。この垂直磁気記録層5は、情報信号を垂直磁気記録するための層であり、垂直磁気記録方式に対応した磁気記録層である。さらに、垂直磁気記録層5上には、保護層6、潤滑層7が形成されている。
基板1としては、アモルファスを含むガラスからなるガラス基板を好ましく使用することができる。ガラス基板は、表面を平滑な鏡面に研磨することができるからである。また、ガラス基板には、耐熱性に優れるという利点もある。さらに、ガラス基板は、アモルファスであるので、この基板1上に成膜される層の結晶性、あるいは、非結晶性を均一なものとすることができるという利点がある。
この基板1をなすガラス材料としては、アルミノシリケートガラスを化学強化した化学強化ガラスが好ましい。すなわち、この基板1の表層には、化学強化による圧縮応力層が形成されていることが望ましい。
付着層2は、軟磁性層3を基板1上に付着させるために、必要に応じて設けられる層である。この付着層2をなす材料は、軟磁性層3の付着性を促進する材料であれば特に限定されない。例えば、六方最密充填(hcp)結晶構造、あるいは非結晶の金属層とすることができる。
軟磁性層3は、軟磁気特性を示す磁性体(軟磁性体)の層である。この軟磁性層3をなす材料としては、例えば、アモルファス軟磁性体を用いることができる。なお、ここでいうアモルファスとは、完全な非結晶状態のみを指すものではなく、微結晶(ナノクリスタルとも言う)を含有している状態であってもよい。この軟磁性層3は磁気ヘッドと協働して、垂直磁気記録層5に対して情報信号を記録する作用を発揮する。すなわち、この軟磁性層3は、磁気ヘッドにより生じる記録磁場に対して鏡像効果を生じさせることにより、垂直磁気記録層5に対する磁気記録を促進させるものである。
この軟磁性層3は、好ましい軟磁気特性を備える材料からなることが望ましく、例えば、コバルト(Co)系軟磁性材料、または、フェライト(Fe)系軟磁性材料からなることが望ましい。これらの軟磁性体は、軟磁性層3の作用効果を好適に実現することができるので、垂直磁気記録媒体の軟磁性層をなす材料として好ましいからである。
このような軟磁性層3の材料としては、コバルト−タンタル(Co−Ta)系合金、コバルト−ジルコニウム(Co−Zr)系合金などのコバルト(Co)系軟磁性材料が好適であるが、その他に、フェライト−タンタル(Fe−Ta)系合金などのフェライト(Fe)系軟磁性材料も用いることができる。この軟磁性層3の膜厚は、例えば、200nm程度である。
なお、コバルト(Co)系軟磁性材料やフェライト(Fe)系軟磁性材料は、耐食性が低く、例えば酸化などにより、表層部の変質が生じ易いという問題がある。しかし、本発明においては、後述するように、垂直磁気記録層5の成膜前に、予め軟磁性層3の表面部をドライエッチング処理を行うことにより変質層を除去するので、成膜された軟磁性層3の作用効果を最大限に発揮させることができる。
そして、軟磁性層3上に形成された下地層4は、垂直磁気記録層5の結晶を均一にするとともに、この垂直磁気記録層5の結晶が垂直配向することを促進する作用を備えた層である。ここで言う垂直配向とは、垂直磁気記録層5の結晶が基板1の主表面に対して垂直方向に配向することを指す。
この下地層4の材料としては、垂直磁気記録層5の結晶に対する前記の作用を備えるものであれば特に限定されないが、例えば、アモルファスの非磁性金属材料、あるいは、六方最密充填(hcp)結晶構造の非磁性金属材料を、単層として、または、積層させて用いることができる。下地層4の材料としてアモルファスの非磁性金属を選択した場合、垂直磁気記録層5の結晶性を均一なものとすることができるという利点が好適に得られる。なお、ここでいうアモルファスとは、完全な非結晶状態のみを指すものではなく、徴結晶(ナノクリスタルとも言う)を含有した状態であってもよい。この下地層4の膜厚は、例えば、10nm程度である。
下地層4上に形成された垂直磁気記録層5は、硬磁気特性を示す強磁性の硬磁性体からなる層である。この垂直磁気記録層5は、垂直磁気記録方式に対応した磁性層であるので、記録されるビット各々の磁化は、垂直方向に配向される。
垂直磁気記録層5の材料としては、例えば、コバルト−白金(Co−Pt)系合金のような、六方最密充填(hcp)結晶構造を含む強磁性体が好ましい。また、この垂直磁気記録層5は、クロム(Cr)や二酸化珪素(SiO2)等の非磁性材料を含有させることにより、グラニュラー磁性層として形成してもよい。この垂直磁気記録層5は、膜厚が15nm程度であり、エピタキシャル成長(ヘテロエピタキシャル成長)によって形成される。
この垂直磁気記録層5に対して磁気記録を行う場合には、垂直磁気記録媒体の上を浮上飛行する磁気ヘッドが情報信号を記録するための磁場を発生させ、垂直磁気記録層5に磁気記録を行っていく。本発明に係る垂直磁気記録媒体においては、この垂直磁気記録層5の下層に軟磁性層3が形成されている。磁気ヘッドが垂直磁気記録層5に磁気記録を行うとき、鏡像効果により、対向する軟磁性層3にも磁化が生じ、磁気ヘッドから垂直磁気記録層5を経て軟磁性層3に亘る磁気回路が形成される。このように軟磁性層3に生じた鏡像の磁化が、垂直磁気記録層5に対する垂直磁気記録を促進する。
したがてって、この垂直磁気記録媒体においては、垂直磁気記録層5と軟磁性層3との距離(スペーシング)は可能な限り小さくする必要がある。垂直磁気記録層5と軟磁性層3との距離が大きいと、軟磁性層3による垂直磁気記録層5に対する垂直磁気記録を促進する作用が減じられてしまうからである。
垂直磁気記録層5上に形成された保護層6は、垂直磁気記録層5を保護するための層であり、例えば、アモルファス炭素層を用いることができる。この保護層6の膜厚は、5nm程度である。
保護層6上に形成された潤滑層7は、垂直磁気記録媒体と、その主表面上を浮上飛行して磁気記録を行う磁気ヘッドとの間に潤滑性を持たせるための層であり、パーフロロポリエーテル(PFPE)化合物を含む層とすることができる。この潤滑層7の膜厚は、1nm程度である。
〔垂直磁気記録媒体の製造方法〕
次に、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法について説明する。
本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、真空チャンバを用いて、基板1上に、付着層2、軟磁性層3、下地層4、垂直磁気記録層5、保護層6及び潤滑層7を順次形成(成膜)してゆく。そして、軟磁性層3の成膜後には、これら基板1、付着層2及び軟磁性層3を雰囲気に接触させ、または、雰囲気中で保持することが好ましい。
このように、軟磁性膜3を雰囲気に接触させることや、雰囲気中で保持することの利点としては、様々なものが考えられるが、例えば、軟磁性層3を含む層の冷却処理としての利点が挙げられる。すなわち、軟磁性層3を含む層を、例えば、空気、アルゴン、ヘリウム、窒素等の雰囲気(ガス)に曝すことにより、軟磁性層3を含む層を迅速に冷却することできる。
また、軟磁性層3が成膜され、垂直磁気記録層5が成膜されていない軟磁性層3付きの基板1を、雰囲気(例えば、空気、アルゴン、または、窒素などの保管用雰囲気)内で保管することにより、軟磁性層3の成膜までの工程のスパンと、下地層4の成膜以降の垂直磁気記録層5の成膜を含む工程のスパンとを整合させることができる。すなわち、軟磁性層3と垂直磁気記録層5とでは、層の厚さが大きく異なり、成膜に要する時間が大きく異なるので、これら各層を一つの真空チャンバにおいて続けて成膜するようにすると、設備を無駄なく稼働させることが困難となるからである。
ところで、軟磁性層3をなす軟磁性体は、表層部が変質しやすい材料である。特に、表層部が酸化し易いという特徴がある。したがって、軟磁性層3の最表面は、軟磁気特性を失い易いという問題がある。すなわち、軟磁性層3は、例えば、表面部に雰囲気のガスが吸着したり、微小なコンタミネーションが付着することにより、最表面における軟磁性特性を失い易い。なお、このような雰囲気ガスの吸着や、微小コンタミネーションの付着などは、軟磁性層3を成膜する真空チャンバの内の減圧環境でも生ずる場合がある。
このように軟磁性層3の表層部が変質(例えば、酸化)してしまうと、変質部分は所望の軟磁性特性を備えないので、この変質層の膜厚分だけ、軟磁性層3と垂直磁気記録層5との距離(スペーシング)が拡大してしまうという問題が生ずる。前述したように、垂直磁気記録媒体においては、軟磁性層3と垂直磁気記録届5との距離(スぺ−シング)を可能な限り狭隘とすることが好ましい。
また、軟磁性層3の表層部が変質することにより、軟磁性層3の表面粗さが増大してしまうという問題も生ずる。軟磁性層3の表面粗さが大きくなってしまうと、基板1の表面を平滑な鏡面状としたとしても、垂直磁気記録媒体の表面粗さが所望の粗さに比べて粗くなってしまうという問題が生ずる。
このような軟磁性層3の表層部の変質は、特に、垂直磁気記録層5を成膜する前に、軟磁性層3を含む膜を雰囲気に接触させた場合、あるいは、雰囲気中で保持した場合に生じ易い。
そこで、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法においては、軟磁性層3を形成(成膜)した後であって、垂直磁気記録層5を形成(成膜)する前に、軟磁性層3の表面部に対してドライエッチング処理を行うこととしている。すなわち、この垂直磁気記録媒体の製造方法においては、軟磁性層3を雰囲気に接触させる工程、または、雰囲気中で保持する工程の後に、軟磁性層3の表層部に形成された変質層をドライエッチング処理によって除去し、その後に、垂直磁気記録層5までの各層を成膜する。
そして、この製造方法においては、少なくとも、軟磁性層3の表面部をドライエッチング処理してこの軟磁性層3の表層部に形成された変質層を除去する工程から、垂直磁気記録層5を成膜する工程までの間は、真空引きされた減圧環境に置くことが好ましい。
軟磁性層3の表面部に対するドライエッチング処理としては、逆スパッタリング法や、イオン照射法が挙げられる。例えば、アルゴンイオンを軟磁性層3の最表面部に衝突させることにより、変質層を簡便に除去することができる。このようなイオン照射法は、垂直磁気記録層5等を成膜するスパッタリング成膜装置とほぼ同様の装置によって行うことができるからである。
なお、軟磁性層3の表層部に形成される変質層の厚さは、通常、10nm以下である。したがって、軟磁性層3の表層部の除去量(除去厚)は、1nm乃至10nmとすることが好ましい。
このように、本発明においては、垂直磁気記録層5を成膜する前に、予め、軟磁性層3の表層部に形成された変質層を除去するので、前述したような問題が生ずる虞れがない。したがって、本発明においては、記録特性に優れ、表面の平滑な垂直磁気記録媒体を製造することができる。
すなわち、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法は、以下の第1乃至第4の工程を有するものである。
第1の工程では、第1の減圧チャンバにより、基板1上に、軟磁性層3を形成(成膜)する。この軟磁性層3の形成に先立ち、必要に応じて、付着層2を形成する。
第2の工程では、第1の工程により形成された軟磁性層3の表面部を雰囲気に接触させ、または、雰囲気中で保持する。
第3の工程では、第2の減圧チャンバにより、第2の工程を経た軟磁性層3の表面部をエッチング処理し、軟磁性層3の表層部の変質層を除去し、また、表面部のコンタミネーションを除去する。
第4の工程では、第3の減圧チャンバにより、第3の工程を経た軟磁性層3上に垂直磁気記録層5を形成(成膜)する。このとき、この垂直磁気記録層5の形成に先立ち、下地層4を形成する。
また、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造システムは、以下の第1乃至第4の製造ブロックを備えることにより、前述の本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法を効率的に実施できるように構成されたものである。
すなわち、この垂直磁気記録媒体の製造システムの第1の製造ブロックは、複数の減圧チャンバを有し、これら第1の減圧チャンバにより、基板1上に軟磁性層3を形成(成膜)する。この軟磁性層3の形成に先立ち、必要に応じて、付着層2が形成される。
第2の製造ブロックは、第1のブロックにおいて形成された軟磁性層3の表面部を雰囲気に接触させ、または、雰囲気中で保持する。
第3の製造ブロックは、少なくとも一の第2の減圧チャンバを有し、この第2の減圧チャンバにより、軟磁性層3の表面部をエッチング処理し、軟磁性層3の表層部の変質層を除去し、また、表面部のコンタミネーションを除去する。
第4の製造ブロックは、少なくとも一の第3の減圧チャンバを有し、この第3の減圧チャンバにより、第3の製造ブロックにおいて表面部をエッチング処理された軟磁性層3上に垂直磁気記録層5を形成(成膜)する。このとき、この垂直磁気記録層5の形成に先立ち、下地層4を形成する。
この製造システムにおいては、各製造ブロックにおける減圧チェンバの処理能力の合計の比率は、各製造ブロックにおいて減圧チェンバを用いて行われる工程の長さ(スパン)にの比率に略々比例した比率となっている。したがって、この製造システムにおいては、各製造ブロックにおいて一つの真空チャンバについての工程スパンが異なっても、製造ブロックごとでは、略々等しいスパンで工程が終了されるので、整備が効率よく使用される。
例えば、第1の製造ブロックにおける軟磁性層3の成膜について、第4の製造ブロックにおける下地層4及び垂直磁気記録層5の成膜の10倍程度のスパンを要する場合には、第1の製造ブロックの真空チャンバの数は、第4の製造ブロックの真空チャンバの数の10倍程度とすることが望ましい。
以下、本発明の実施例について、比較例を挙げつつ、詳細に説明する。
この実施例1においては、まず、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスにより円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。このガラスディスクに対し、研削、鏡面研磨、化学強化処理を順次施し、化学強化ガラスからなり表面が平滑な非磁性のガラスディスクである基板1を得た。
この基板1の主表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM)によって測定したところ、Rmaxが5.88nm、Raが0.55nmの鏡面状の平滑な表面であった。なお、Rmax及びRaの表記は、日本工業規格(JISB0601)にしたがっている。
このようにして得られた基板1上に、真空引きを行なったスパッタリング成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、図1に示すように、付着層2及び軟磁性層3を順次成膜した。スパッタリング成膜装置内の真空度は、1×10−7Torr程度、あるいは、それ以下の圧力まで減圧された環境とした。
付着層2は、膜厚20nmのチタン(Ti)層となるように成膜した。具体的には、この付着層2は、チタン(Ti)ターゲットを用いて成膜した。この付着層2の結晶構造は、六方最密充填(hcp)結晶構造である。
軟磁性層3は、膜厚200nmのアモルファス(非晶質)のコバルト−タンタル−ジルコニウム(Co−Ta−Zr)軟磁性体(Co:88at%、Ta:7at%、Zr:5at%、)層となるように、コバルト−タンタル−ジルコニウム合金ターゲットを用いて成膜した。
軟磁性層3の成膜直後は、スパッタリング成膜の影響により、軟磁性層3付きの基板1の表面温度は、室温を越える温度、具体的には、150°Cに昇温していた。
以上のようにして、軟磁性層3を合む層が形成された基板1を、成膜装置から取り出し、雰囲気(大気)に接触させ、冷却処理を行った。この冷却処理後の基板1の温度は、室温(この実施例においては、20°C)であった。
なお、この雰囲気は、フィルタ等によって清浄化されたクリーンルームの雰囲気である。この雰囲気の清浄度は、日本工業規格(JISB9920)において、クラス6と同等、あるいは、それ以上に清浄な雰囲気であった。また、この雰囲気の清浄度は、米国連邦規格(Fed−Std−209D)において、クラス1000と同等、あるいは、それ以上に清浄な雰囲気であった。
以上のようにして、軟磁性層3付きの基板1を製造した。得られた軟磁性層3付きの基板1の表面粗さを前記と同様に原子間力顕微鏡(AFM)によって測定したところ、Rmaxが7.53nm、Raが0.70nmであった。
軟磁性層3の表層部には、変質層(酸化膜)が形成されていた。この変質層は、昇温されていた軟磁性層3付きの基板1を雰囲気に曝して冷却する間に、軟磁性層3の最表面への雰囲気ガスの吸着や、微量のコンタミネーションの付着によって形成されたものと考えられる。この実施例においては、変質層の厚さは、約5nmであった。
軟磁性層3の最表面に、コンタミネーションの層やガス吸着層、酸化層等からなる変質層が形成されたために、鏡面研磨された基板1の表面粗さに比ぺて、軟磁性層3の表面粗さが増大したと考えられる。
この軟磁性層3付きの基板1について、振動試料型磁化測定装置(VSM)によって磁気特性を測定したところ、保磁力(Hc)は、2エルステッド(oersted)、飽和磁束密度は、950emu/ccであり、好適な軟磁性特性を示していた。
以上のようにして得られた軟磁性層3付きの基板1を、前述の冷却工程を行った雰囲気と同様の清浄な雰囲気中に保管した。
次に、この軟磁性層3付きの基板1を用いて、垂直磁気ディスクの製造を行った。
まず、真空引きを行ったスパッタリング成膜装置の減圧チャンバ内に、軟磁性層3付きの基板1を搬入し、ドライエッチング法により、軟磁性層3の表面除去処理を行った。この表面除去処理により、軟磁性層3の表層部に形成された変質層を除去した。この表面除去処理時における除去量(除去厚)は、5nmとした。
引き続き、真空引きを行ったスパッタリング成膜装置により、DCマグネ卜ロンスパッタリング法にて、下地層4、垂直磁気記録層5及び保護層6を順次成膜した。
なお、前記のドライエッチング法による表面除去処理工程を含め、保護層6の成膜までは、成膜装置内の真空度は、1×10−7Torr程度、あるいは、それ以下の圧力まで減圧された環境とした。
下地層4は、非磁性アモルファスのニッケル−タンタル(Ni−Ta)(Ni:45at%、Ta:55at%)の合金層となるように、ニッケル−タンタル合金ターゲットを用いて成膜した。膜厚は10nmである。
垂直磁気記録層5は、コバルト−クロム−白金−二酸化珪素(Co−Cr−Pt−(SiO2))系合金((Co:74at%、Cr:10at%、Pt:16at%):90mol%−SiO2:10mol%)からなる硬磁性体のターゲットを用いて、膜厚15nmの六方最密充填(hcp)結晶構造からなる膜として成膜した。なお、この垂直磁気記録層5をなす材料は、磁性粒子の周囲に非磁性酸化物の粒界が形成されたグラニュラー構造となっている。
本実施例においては、垂直磁気記録層5をグラニュラ構造の磁気記録層としている。グラニュラ構造の垂直磁気記録層5を用いる場合においては、本発明のように、垂直磁気記録層5の成膜前に、軟磁性層3付きの基板1を十分に冷却し、その表面温度を室温近傍の温度、あるいは、室温以下の温度としておくことが好ましい。例えば、100°Cを超えるような高温の表面にグラニュラ構造の垂直磁気記録層5を成膜すると、所望の磁気特性、電磁変換特性が得られない場合があるからである。
次に、アルゴン(Ar)に水素を30%含有させた混合ガスを用いて、カーボンターゲットをスパッタリングすることにより、膜厚5nmの水素化カーボン(水素化炭素)からなる保護層6を形成した。この保護層6は、水素化カーボンからなることで、充分な膜硬度を有し、磁気ヘッドからの衝撃に対して垂直磁気記録層5を防護することができる。
そして、保護層6まで成膜された基板1をスパッタリング成膜装置から取り出し、保護層6上に、ディップコート法により、パーフロロポリエーテル(PFPE)からなる潤滑層7を形成した。この潤滑層7の膜厚は1nmである。
以上の製造工程により、垂直磁気ディスクとしての垂直磁気記録媒体が製造された。
得られた垂直磁気ディスクの垂直磁気記録層5の結晶配向性をX線回折法によって分析したところ、基板1の主表面に対して垂直方向に配向していた。
また、この垂直磁気ディスクの表面粗さを前記と同様に測定したところ、Rmaxが6.02nm、Raが0.59nmであった。軟磁性層3の表層部に形成されていた変質層を除去しているので、垂直磁気ディスクの表面粗さは、基板1の表面粗さと略々同等の平滑な鏡面状態であった。
この垂直磁気ディスクの磁気特性を振動試料型磁化測定装置(VSM)で評価したところ、保磁力(Hc)は、4500エルステッド、角形比(残留磁束密度(Br)/飽和磁束密度(Bs))は、0.99、磁化反転核生成磁界(Hn)は、−1500エルステッドという、好適な磁気特性が確認された。か
なお、磁気ディスクの保磁力(Hc)及び角形比(Br/Bs)は、数値が高ければ高いほど好ましく、磁化反転核生成磁界は、0未満のなるべく小さい値であるほど好ましい。
垂直磁気ディスクの電磁変換特性を測定したところ、S/N比は23.8dBであり、記録密度が100Gbit/inch2以上の磁気ディスクとして、好適な結果が得られた。
なお、電磁変換特性は、以下のようにして測定した。すなわち、R/Wアナライザ(GUZIK)と、記録側にSPT素子、再生側にGMR素子を備える垂直磁気記録方式用磁気ヘッドとを用いて、780kfciの記録密度で測定した。このとき、磁気ヘッドの浮上量は、10nmであった。
〔比較例1〕
次に、比較例1の垂直磁気ディスクを製造した。この比較例1においては、軟磁性層3の表面部に対するドライエッチング処理を行わなかった。すなわち、軟磁性層3の表層部に変質層(酸化層)が形成されたままの状態で、この変質層を除去せずに、引き続いて、下地層4、垂直磁気記録層5、保護層6及び潤滑層7を順次成膜した。この点以外は、実施例1と同様に製造した。
得られた垂直磁気ディスクについて、実施例1と同様に測定したところ、保磁力(Hc)は、4000エルステッド、角形比(残留磁束密度(Br)/飽和磁束密度(Bs))は、0.92、磁化反転核生成磁界(Hn)は、−900エルステッドであった。すなわち、実施例1に比較して、比較例1の垂直磁気ディスクでは、保磁力、角形比、磁化反転核生成磁界がそれぞれ悪化している。また、電磁変換特性について、実施例1と同様に測定したところ、S/N比は、22.1dBであり、実施例1に比較して悪化していた。
この比較例1で得られた垂直磁気ディスクの表面粗さを前記と同様に測定したところ、Rmaxが7.61nm、Raが0.71nmであった。軟磁性層3の表層部に形成された変質層が除去されていないので、実施例1の垂直磁気ディスクの表面粗さに比較すると、表面粗さが増大している。磁気ヘッドの浮上量が、例えば、10nm、あるいは、それ以下である場合、垂直磁気ディスクの主表面の表面粗さRmaxは、少なくとも7nm以下とする必要がある。実施例1に比較して、比較例1では、Rmaxが1.6nm程度も粗く、磁気ヘッドの低グライドハイト化が阻害される虞れがある。
この比較例1においては、軟磁性層3の表層部の軟磁性特性が劣化したこと、また、軟磁性層3の表層部に酸化層を含む変質層が形成されていることにより、垂直磁気記録層5の結晶性及び配向性に乱れが生じ、垂直磁気記録ディスクの特性が劣化したと考えられる。
また、この比較例1の垂直磁気ディスクにおいては、軟磁性層3と垂直磁気記録層5との間に酸化層を含む変質層が存在していることにより、スペーシングロスが生じ、垂直磁気記録ディスクの特性が劣化したと考えられる。
さらに、この比較例1の垂直磁気ディスクにおいては、磁気ヘッドの低グライドハイ卜化が阻害される虞れがあることがわかった。
この実施例2では、基板1として、主表面にテクスチャが形成されたものを用いた。テクスチャは、基板1をなすガラスの主表面に直接形成されており、軟磁性層3に磁気異方性を付与する作用を有する。このテクスチャにより、軟磁性層3の磁化困難軸が、磁気ヘッドの浮上飛行方向、すなわち、ディスク円周方向に配向される。
すなわち、この実施例2においては、まず、ディスクの周方向に沿う円周状の筋溝を基板1の主表面に形成した。このテクスチャの形成は、基板1をテープ式枚葉テクスチャ装置に装填し、ダイヤモンドスラリを用いて、テープテクスチャを施すことにより行った。
このようにテクスチャが形成された基板1の主表面の表面粗さを、実施例1と同様に測定したところ、Rmaxは5.76nm、Raは0.49nmであり、鏡面状の平滑な表面であった。また、主表面には、微細なテクスチャが形成されていることを確認した。
この基板1上に、前述の実施例1と同様にして、軟磁性層3の成膜、軟磁性層3の表面のドライエッチング処理、垂直磁気記録層5の成膜等を順次実施し、実施例1と同様の垂直磁気ディスクを製造した。
なお、軟磁性層3の成膜後に、振動試料型磁化測定装置(VSM)で基板1の磁気特性を測定したところ、磁化困難軸がディスクの円周方向となっていることが確認された。
この実施例2で得られた垂直磁気ディスクについて、磁気特性、電磁変換特性を測定したところ、保磁力、角形比、磁化反転核生成磁界等の磁気特性は、実施例1の垂直磁気ディスク同等であったが、S/N比が24.1dBとなり、実施例1に比較して向上したことが確認された。
以上、実施例及び比較例を挙げて本発明について具体的に説明したが、軟磁性層3の成膜から垂直磁気記録層5の成膜の間について、例えば、軟磁性層3付きの基板1を雰囲気に接触させない場合や、この基板1を真空引きされた減圧環境下に保持する場合にあっても、本発明を適用し、軟磁性層3の表面部をエッチング処理することが好ましい。これは、減圧環境下といえども、残留雰囲気や残留大気、微量なコンタミネーションが存在するので、軟磁性層3の表層部の変質が全く生じないということはないからである。
したがって、如何なる垂直磁気ディスクの製造プロセスにおいても、垂直磁気記録層5が成膜される前に、予め、軟磁性層3の表層部を除去し、その後に、垂直磁気記録層5を成膜するという点で、本発明は有用である。
本発明に係る垂直磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
符号の説明
1 基板
3 軟磁性層
4 下地層
5 垂直磁気記録層