JP4679703B2 - 複合系重合開始剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、重合体の分子鎖末端に官能基を導入するために好適な複合系重合開始剤、前記複合系重合開始剤を用いた、分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
重合体の物理化学的性質(機械的強度、流動性、耐熱性、他の樹脂との相溶性など)は、重合体の一次構造(分子量、分子量分布、共重合体の構造、末端基の構造など)に大きく影響されるため、所望の物理化学的性質を有する重合体を得るには、重合体の一次構造を制御することが重要となり、例えば、重合体の末端に官能基を導入することで、それ自体又はそれを他の単量体や重合体と反応させることにより、重合体の高性能化、高機能化を図る試みがなされている。
【0003】
分子量を制御しつつ分子量分布の狭い重合体の末端に官能基を導入する方法として、通常、イオン重合(アニオン重合、カチオン重合など、特にアニオン重合)などのリビング重合が利用されている。しかし、イオン重合は、利用できるモノマーの種類が限定されたり、重合系における不純物(水、酸素など)、溶媒などの影響を受け易く、高純度のモノマーの使用、不活性雰囲気及び低温での重合が必要になるなど、操作が難しい上に煩雑化し、経済的にも不利である。
【0004】
また、不純物や溶媒の影響を受けにくい重合法として、ラジカル重合が利用されており、ラジカル重合を使用することで、操作が簡便となり、種々のモノマーにも適用でき、更に種々の重合法(塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など)が利用できるため、実験室レベルでも、工業的にも広く採用されている。しかし、ラジカル重合では、連鎖移動反応や停止反応が起こるため、末端構造を制御することが難しく、分子量分布が広くなる傾向にある。
【0005】
また、ラジカル重合であっても、分子量を制御し、分子量分布が狭い重合体を得る方法として、例えば、ラジカル重合をリビング的に進行させる方法(リビングラジカル重合法)が見出されており、一次構造を制御することが可能となりつつある。
【0006】
このリビングラジカル重合法として、Macromolecules,26,2987(1993)及びWO94/11412では、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)のような安定なラジカルを用いる方法が提案され、Macromolecules,28,1721(1995)、特開平8−41117号公報、J.Am.Chem.Soc.,117,5614(1995)、Macromolecules,28,7901(1995)及びWO96/30421では、遷移金属錯体を用いる方法が提案されている。
【0007】
Macromolecules,28,2993(1995)には、安定なラジカルを用いる方法として、スチレンとTEMPOの付加体で、官能基を有するものを用いて重合することにより、重合体の末端に水酸基又はアミノ基を導入できることが記載されている。しかし、この方法では付加体を合成する必要があること、アミノ基の導入の際には保護基が必要であることなど、操作が煩雑である。
【0008】
ACS Symp.Ser.,704,16(1998)には、遷移金属錯体を用いる方法として、官能基を有する有機ハロゲン化合物を開始剤とし、ハロゲン化銅及びピピリジン誘導体を組み合わせて重合することにより、重合体の末端に種々の官能基を導入できることが記載されている。しかし、この方法では、開始剤や遷移金属錯体がハロゲン元素を含むため、ポリマー中にもハロゲン元素が導入され、このハロゲン元素の脱離によりポリマーの物性が低下したり、焼却時に有害物質が発生したりする虞がある。
【0009】
特開2000−119307号公報には、金属錯体とラジカル開始剤とで構成される重合開始剤系が開示されているが、前記ラジカル開始剤は官能基を有しておらず、この重合開始剤系を用いて得られた重合体の末端には官能基は導入されていない。
【0010】
本発明の目的は、ハロゲンを含まない複合系重合開始剤、及び前記複合系重合開始剤を用いた、ラジカル重合であっても重合をリビング的に進行させる、分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討の結果、特定の金属錯体と分子内に官能基を有するラジカル重合開始剤とを含み、ハロゲンを含まない重合開始剤系を用い、ビニル系単量体をリビング的にラジカル重合することにより、分子鎖末端に官能基を有し、しかも分子量と分子量分布が制御された重合体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、(A)下記一般式(1):
【0013】
【化4】
【0014】
(式中、Aは炭素又はリン原子を示し、Xは酸素原子又は窒素原子を含んでいてもよい有機基を示し、Mは遷移金属元素を示す。kは2〜8の整数、mは1又は2を示す。)
で表される金属錯体と、(B)分子内に官能基を有するラジカル重合開始剤とを含む複合系重合開始剤を提供する。
【0015】
更に本発明は、上記の複合系重合開始剤の存在下で(C)ビニル系単量体を重合させる、分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法を提供する。
【0016】
なお、本発明でいう「分子鎖末端」とは、重合体の主鎖の一方の末端である。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の複合系重合開始剤は、上記のとおり、ハロゲンを含まない(A)金属錯体と(B)ラジカル開始剤とを含有するものであり、本発明の目的を損なわない範囲内で、他の重合触媒を併用することができる。
【0018】
本発明で用いる(A)金属錯体は、上記一般式(I)で表されるものであり、式中のXで示される有機基は、窒素や酸素を含んでいてもよく、これらの有機基が窒素原子や酸素原子を含むときは一般式(I)のAに直接結合していてもよい。
【0019】
一般式(1)中のk(Mの価数に対応する)は、2〜8の整数であり、2〜6の整数が好ましく、2〜4の整数がより好ましい。
【0020】
一般式(1)中のMで示される遷移金属元素は特に制限されないが、長周期型周期表3〜11族金属が好ましく、4族金属(Ti、Zrなど)、5族金属(V、Nbなど)、6族金属(Cr、Mo、Wなど)、7族金属(Mn、Tc、Reなど)、8族金属(Fe、Ruなど)、9族金属(Co、Rhなど)、10族金属(Ni、Pd、Ptなど)、11族金属(Cu、Ag、Auなど)などがより好ましく、これらの中でも7族金属(Mnなど)、8族金属(Fe、Ruなど)、9族金属(Co、Rhなど)、10族金属(Ni、Pdなど)、11族金属(Cuなど)が更に好ましく、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Rh、Pdなどが特に好ましい。
【0021】
(A)の金属錯体としては、下記一般式(1A)及び/又は(2A)で表わされる錯体が好ましい。
【0022】
【化5】
【0023】
〔式中、Y1、Y2、Y3は、同一又は異なっていてもよく、酸素原子、窒素原子又は炭素原子を示し、R1、R2a及びR2bは、同一又は異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R1、R2a又はR2bは、複数存在する場合はそれぞれ異なっていてもよく、一緒になって不飽和又は飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成してもよい。n、p及びqはそれぞれ1〜3の整数を示す。M及びkは一般式(1)と同じである。〕
一般式(1A)及び(2A)において、R1、R2a、及びR2bで表わされるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル基などのC1〜C12アルキル基(特にC1〜C6アルキル基)など;シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル基などのC4〜C8シクロアルキル基など;アルケニル基としては、アリル、ビニル基などのC2〜C10アルケニル基;アリール基としては、フェニル、トリル、ナフチル基などのC6〜C12アリール基など;アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル基などのC7〜C14アラルキル基などを挙げることができる。
【0024】
R1、R2a、又はR2bは、異なってそれぞれ複数個存在する場合があり、一般式(1A)においては、R1同士が隣接するY1と共に環を形成してもよい。前記環には、飽和炭化水素環(シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン環などの飽和C4〜C8炭化水素環など)、不飽和炭化水素環(シクロペンテン、シクロヘキセン環などの不飽和C5〜C8炭化水素環など)、芳香族炭化水素環(ベンゼン、ナフタレンなどの芳香族C6〜C12炭化水素環など)、窒素、酸素及びイオウから選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素環(ピロール、ピロリジン、ピペラジン、ピペリジン環などのヘテロ原子として窒素原子を含む5〜8員複素環、フランなどのヘテロ原子として酸素原子を含む5〜8員複素環など)などが含まれる。
【0025】
(A)金属錯体としては、下記一般式(1a)〜(1c)、(2a)で表されるものがより好ましい。
【0026】
【化6】
【0027】
〔式中、R1a〜R1f、R2a及びR2bは、同一又は異なっていてもよく、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基又はアラルキル基を示し、R1b及びR1cは一緒になって環を形成してもよい。M及びkは一般式(1)と同じである。〕
一般式(1a)〜(1c)、(2a)中、R1a〜R1f及びR2a及びR2bが、C1〜C6アルキル基、C4〜C8シクロアルキル基、C6〜C12アリール基及びC7〜C14アラルキル基から選択された1又は2以上であるものが好ましい。
【0028】
(A)金属錯体は、一般式(1)、(1A)、(2A)、(1a)〜(1c)、(2a)中のMに配位する配位子のジチオ化合物として、1又は2以上のものを選択することができるが、一般式(1b)で表されるジチオカルバメート又は(2a)で表されるジチオホスフェートが好ましい。
【0029】
ジチオカルバメートとしては、N−メチル−ジチオカルバメート、N−エチルジチオカルバメートなどのN−アルキルジチオカルバメート(特にN−C1〜C10アルキルジチオカルバメートなど)など;N,N−ジメチルジチオカルバメート、N,N−ジエチルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−プロピルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−プロピルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−ブチルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−ブチルジチオカルバメート、N,N−ジ−s−ブチルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−アミルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−アミルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−ヘキシルジチオカルバメート、N−メチル−N−i−プロピルジチオカルバメートなどのN,N−ジアルキルジチオカルバメート(特に、N,N−ジC1〜C12アルキルジチオカルバメート)など;N−フェニルジチオカルバメートなどのN−アリールカルバメート(N−C6〜C12アリールカルバメートなど)など;N−メチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−エチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−n−プロピル−N−フェニルジチオカルバメート、N−n−ブチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−i−アミル−N−フェニルジチオカルバメートなどのN−アルキル−N−アリールジチオカルバメート(特にN−C1〜C10アルキル−N−C6〜C12アリールジチオカルバメートなど)など;N−シクロヘキシルカルバメートなどのN−シクロアルキルジチオカルバメート(N−C4〜C8シクロアルキルジチオカルバメートなど)など;N,N−ジシクロペンチルジチオカルバメート、N,N−ジシクロヘキシルジチオカルバメートなどのN,N−ジシクロアルキルジチオカルバメート(特にN,N−ジC4〜C8シクロアルキルジチオカルバメートなど)など;N−アリルジチオカルバメートなどのN−アルケニルジチオカルバメート(N−C2〜C10アルケニルジチオカルバメート)など;N,N−ジアリルジチオカルバメートなどのN,N−ジアルケニルジチオカルバメート(特にN,N−ジC2〜C8アルケニルジチオカルバメートなど)など;N−ベンジルジチオカルバメートなどのN−アラルキルジチオカルバメート(特にN−C7〜C10アラルキルジチオカルバメートなど)など;N,N−ジベンジルジチオカルバメートなどのN,N−ジアラルキルジチオカルバメート(特にN,N−ジC7〜C14アラルキルジチオカルバメートなど)など;N−メチル−N−ベンジルジチオカルバメート、N−エチル−N−ベンジルカルバメートなどのN−アルキル−N−アラルキルジチオカルバメート(特にN−C1〜C8アルキル−N−C7〜C10アラルキルジチオカルバメートなど)など;ピロリジルジチオカルバメート、ピペリジルジチオカルバメート、モルフォリニルジチオカルバメートなどの複素環式ジチオカルバメートなどを挙げることができる。
【0030】
ジチオホスフェートとしては、O−メチルジチオホスフェート、O−エチルジチオホスフェートなどのO−アルキルジチオホスフェート(特にO−C1〜C12アルキルジチオホスフェートなど)など;O,O’−ジメチルジチオホスフェート、O,O’−ジエチルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−プロピルジチオホスフェート、O,O’−ジ−i−プロピルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−ブチルジチオホスフェート、O,O’−ジ−i−ブチルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−ヘキシルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−デシルジチオホスフェートなどのO,O’−ジC1〜C16アルキルジチオホスフェート(特にO,O’−ジC1〜C12アルキルジチオホスフェートなど)など;O−シクロヘキシルジチオホスフェートなどのO−シクロアルキルジチオホスフェート(O−C5〜C8シクロアルキルジチオホスフェートなど)など;O,O’−ジシクロヘキシルジチオホスフェートなどのO,O’−ジシクロアルキルジチオホスフェート(特にO,O’−ジC5〜C8シクロアルキルジチオホスフェート);O−フェニルジチオホスフェートなどのO−アリールジチオホスフェート(特にO−C6〜C12アリールジチオホスフェートなど)など;O,O’−ジフェニルジチオホスフェート、O,O’−ジ−o−トリルジチオホスフェートなどのO,O’−ジアリールジチオホスフェート(特にO,O’−ジC6〜C12アリールジチオホスフェート)などが例示できる。
【0031】
好ましいジチオ化合物子はジチオカルバメート類であり、特にN,N−ジメチルジチオカルバメート、N,N−ジエチルジチオカルバメートなどのN,N−ジC1〜C6アルキルジチオカルバメート、N,N−ジベンジルジチオカルバメートなどのN,N−ジC7〜C10アラルキルジチオカルバメート、ピペリジルジチオカルバメートなどの複素環式ジチオカルバメート(ヘテロ原子として窒素原子を含む5〜6員の複素環式ジチオカルバメート)などが好ましい。
【0032】
本発明で用いる(B)ラジカル重合開始剤は、分子内に官能基を有するものであり、この官能基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基及びアルケニル基から選択された1又は2以上が好ましく、ヒドロキシル基又はカルボキシル基がより好ましい。
【0033】
(B)ラジカル重合開始剤は、分子内に官能基を有するアゾ化合物及び有機過酸化物から選択された1又は2以上のものが好ましい。
【0034】
分子内に官能基を有するアゾ化合物としては、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−{1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル}プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[N−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]ジヒドロクロリドなどのヒロドキシル基を有するもの、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]などのカルボキシル基を有するもの、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]ジヒドロクロリドなどのアルケニル基を有するもの、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)2水和物、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミドオキシム)などを挙げることができる。
【0035】
上記の(B)ラジカル重合開始剤の中でも、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]が好ましく、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]がより好ましい。他に分子内に官能基を有する有機過酸化物を用いることもできる。
【0036】
本発明の複合系重合開始剤において、(A)金属錯体と(B)ラジカル重合開始剤との割合(A)/(B)(モル比)は、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.25〜4、更に好ましくは0.25〜3.5、特に好ましくは0.25〜3、最も好ましくは0.25〜2である。(A)/(B)が0.1以上であると、分子量分布を狭くすることができ、10以下であると、重合速度を適度に維持できる。
【0037】
本発明の重合体の製造方法は、上記した複合系重合開始剤の存在下で(C)ビニル系単量体を重合させるものである。
【0038】
(C)ビニル系単量体としては、芳香族ビニル単量体、複素環式ビニル単量体(N−ビニルピロリドンなど)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体、α,β−不飽和ニトリル、カルボン酸ビニルエステル、共役ジエン系単量体、オレフィン系単量体、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0039】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、アルキルスチレン(o−、m−及びp−メチルスチレンなどのビニルトルエン類、2,4−ジメチルスチレンなどのビニルキシレン類、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、α−アルキルスチレン(α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなど)、アルコキシスチレン(o−、m−及びp−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレンなど)、ハロスチレン(o−、m−及びp−クロロスチレン、p−ブロモスチレンなど)、スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩などを挙げることができる。これらの中でもスチレン、ビニルトルエンが好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0040】
α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和カルボン酸アミド、α,β−不飽和カルボン酸イミドなどを挙げることができる。
【0041】
α,β−不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの多価カルボン酸又はそれらの酸無水物(無水マレイン酸など)などを挙げることができる。
【0042】
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、前記例示のα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステル(特にC1〜C20アルキルエステルなど)などが使用でき、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸C1〜C14アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C4〜C10シクロアルキルエステル又はこれらの(メタ)アクリル酸エステルに対応するマレイン酸モノ又はジアルキルエステル、フマル酸モノ又はジアルキルエステル、イタコン酸モノ又はジアルキルエステルなどを挙げることができる。また、前記アルキルエステル類は、ヒドロキシル基、グリシジル基、アミノ基又はN−アルキルアミノ基などの置換基を有していてもよく、置換基含有エステルとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート〔ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2〜C10アルキル(メタ)アクリレートなど〕、グリシジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0043】
α,β−不飽和カルボン酸アミドとしては、(メタ)アクリルアミド又はそれらの誘導体〔N−メチル(メタ)アクリルアミドなど、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなど〕、あるいはこれらに対応するフマル酸アミド(フマルアミド、フマルアミド酸又はそれらの誘導体など)などを挙げることができる。
【0044】
α,β−不飽和カルボン酸イミドとしては、マレイミド又はその誘導体(例えば、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど)などを挙げることができる。
【0045】
α,β−不飽和ニトリルとしては、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物などを挙げることができる。
【0046】
カルボン酸ビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのC1〜C10カルボン酸ビニルエステル(特にC1〜C6カルボン酸ビニルエステル)などを挙げることができる。
【0047】
共役ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ネオプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエンなどのC4〜C16ジエン(好ましくはC4〜C10ジエンなど)などを挙げることができる。
【0048】
オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、ブテン(イソブテンなど)などのC2〜C10アルケン(好ましくはC2〜C6アルケンなど)などを挙げることができる。
【0049】
ハロゲン化ビニルとしては、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニルなどを挙げることができ、ハロゲン化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどを挙げることができる。
【0050】
(C)ビニル系単量体としては、重合体中にハロゲン原子が導入されることを避けるため、非ハロゲン系単量体を使用することが好ましく、スチレン系単量体、(メタ)アクリル系単量体〔(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(特にメタクリル酸メチル、アクリル酸C2〜C10アルキルエステルなど)、(メタ)アクリロニトリルなど〕などを挙げることができる。また、(C)ビニル系単量体として、(B)ラジカル重合開始剤に含まれる官能基と反応しうる単量体を使用しないことが望ましい。
【0051】
(C)ビニル系単量体は、1又は2以上組み合わせて使用できるが、2以上を併用する場合は、目的とする重合体の一次構造に応じて、使用方法などを適宜選択できる。即ち、▲1▼複数の単量体を同時に添加して使用するとランダム共重合体が得られ、▲2▼単量体を逐次的に添加する方法、例えば、第1の単量体の重合が完結した後、第2の単量体を添加して重合を完結させ、更に第3の単量体を添加するというように単量体を逐次的に添加するとブロック共重合体が得られ、▲3▼複数の単量体の組成比を経時的に変化させるとグラジエント共重合体が得られる。
【0052】
本発明の製造方法において、重合方法は特に制限されず、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状−懸濁重合などを適用することができる。
【0053】
溶液重合を行う場合、溶媒としては、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、脂肪族炭化水素(ヘキサン、オクタンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類〔ジオキサン(1,4−ジオキサンなど)、テトラヒドロフランなど〕、エステル類(酢酸エチルなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが使用できる。特にトルエン、エチルベンゼン、ベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどが好ましい。このような溶媒は1又は2以上を混合して使用できる。
【0054】
重合は、ビニル単量体の種類に応じて、常圧又は加圧下で行うことができる。重合温度は、重合法の種類、複合系重合開始剤の構成、重合速度などに応じて、0〜200℃程度の広い範囲から選択でき、好ましくは50〜200℃、より好ましくは60〜160℃、更に好ましくは80〜140℃である。
【0055】
重合は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下、例えば、不活性ガスの流通下で行ってよい。重合時には、(B)ラジカル開始剤からラジカルを発生させるため、熱、光、放射線などのラジカル発生手段を適用する。
【0056】
重合反応終了後、必要により、溶媒で希釈し、貧溶媒中で析出させたり、単量体や溶媒などの揮発性成分を除去することにより分離精製してもよい。
【0057】
本発明の製造方法を適用することにより、分子量(数平均分子量;Mn)が制御され、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)から求められる分子量分布(Mw/Mn)が狭い範囲にある重合体を得ることができる。即ち、本発明の製造法で得られた重合体は、数平均分子量(Mn)が、好ましくは1,000〜500,000、より好ましくは1,500〜200,000、更に好ましくは2,000〜100,000で、Mw/Mnが、好ましくは1.05〜2.0、より好ましくは1.05〜1.9、更に好ましくは1.05〜1.7である。
【0058】
重合体の数平均分子量は、所望の重合率において、(C)ビニル系単量体と(B)ラジカル開始剤との割合により決定できるため、(C)ビニル系単量体と(B)ラジカル開始剤との割合を変化させることにより、数平均分子量を所望範囲に制御できる。上記した分子量範囲の重合体を得るためには、(C)ビニル系単量体と(B)ラジカル開始剤との割合(C)/(B)(モル比)は、好ましくは5〜10,000、より好ましくは5〜5,000、更に好ましくは10〜5,000である。
【0059】
本発明の製造方法により得られた重合体は、分子鎖末端に官能基を有するため、その官能基を更に次の反応や重合に利用することができる。例えば、分子鎖末端に官能基を有する重合体をマクロ開始剤として更に別の重合を行うと、ブロック共重合体を得ることができる。また、重合体に含有する官能基と反応することができる官能基を有する重合体と反応させることにより、ブロック共重合体やグラフト共重合体を得ることができる。
【0060】
更に、本発明の製造方法により得られた重合体は、分子鎖末端に官能基を有すると共に、分子量が制御され、かつ分子量分布が狭い範囲に制御されている。そのため、得られた重合体は、単独で又は更に他の単量体や重合体と反応させて所望の一次構造にすることによって、より高性能化及び高機能化を達成することができ、種々の用途、例えば、フィルム成形、射出成形などの成形用樹脂、塗料などのコーティング用樹脂、相溶化剤、熱可塑性エラストマーなどに利用できる。
【0061】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における操作においては、試薬類は容器から注射器により採取して反応系に添加した。また、単量体及び溶媒は、乾燥剤の存在下で蒸留精製し、乾燥窒素を吹き込むことにより脱酸素してから使用した。
【0062】
実施例で得られた重合体の重合率、分子量及び官能基導入率は、下記方法により測定した。
(重合率)
重合反応で得られた反応溶液に残存する単量体をガスクロマトグラフィー(GC、(株)島津製作所製、カラム:PEG1500)を用いて内部標準法(内部標準試薬:オクタン)により定量し、単量体の減少量を重合体への転化率(重合率)として算出した。
(分子量)
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、日本分光(株)製)を用いて下記条件で測定した
カラム :Shodex K−805L,3本直列
溶媒 :クロロホルム
カラム温度:40℃
検出器 :示差屈折率計(RI)
流速 :1ml/分
(官能基導入率)
得られた重合体のGPC測定から求めたMnと1H−NMR測定から求めたMnを比較することにより算出した。重合体の主鎖1本に官能基1個が導入された場合には、官能基導入率は1となる。
【0063】
実施例1
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄105.1mg(0.21mmol)をアルゴン雰囲気下でシュレンク反応管に精秤し、そこへスチレン4.81ml(42mmol)、オクタン0.80ml、1,4−ジオキサン0.23ml、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]の1,4−ジオキサン溶液(濃度0.20mol/L)1.05ml(0.21mmol)を添加して、十分攪拌した。混合溶液を試験管に封管した後、120℃に加温して重合を開始させた。反応時間が100時間経過した時点で、重合反応系を−78℃に冷却することにより重合反応を停止させた。重合率は72%であった。
【0064】
重合溶液中から吸着剤により金属錯体成分などを除去し、更に単量体及び溶媒などを蒸発させて重合体を得た。得られたポリスチレンの分子量及び分子量分布は、Mn=10,500、Mw/Mn=1.44であり、GPC曲線は単峰性であった。官能基導入率は1であり、水酸基が重合体の末端にほぼ100%導入された。
【0065】
実施例2
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄35.0mg(0.07mmol)、1,4−ジオキサン1.00ml、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]の1,4−ジオキサン溶液(濃度0.20mol/L)0.35ml(0.07mmol)使用し、反応時間を72時間とする以外は実施例1と同様に重合を行った。72時間後、重合率は79%であった。得られたポリスチレンの分子量及び分子量分布は、Mn=32,600、Mw/Mn=1.44であり、GPC曲線は単峰性であった。官能基導入率は1であり、水酸基が重合体の末端にほぼ100%導入された。
【0066】
実施例3
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄21.0mg(0.04mmol)、1,4−ジオキサン1.16ml、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−{2−(1−ヒドロキシブチル)}プロピオンアミド]の1,4−ジオキサン溶液(濃度0.20mol/L)0.21ml(0.04mmol)使用し、反応時間を52時間とする以外は実施例1と同様に重合を行った。52時間後、重合率は84%であった。得られたポリスチレンの分子量及び分子量分布は、Mn=50,100、Mw/Mn=1.49であり、GPC曲線は単峰性であった。官能基導入率は1であり、水酸基が重合体の末端にほぼ100%導入された。
【0067】
以上の実施例1〜3の結果から分かるように、特定の金属錯体と官能基としてのヒドロキシル基を有するラジカル開始剤を組み合わせた複合系重合開始剤を用いると、ポリスチレンの末端に定量的にヒドロキシル基を導入することができた。また、所望の分子量範囲でかつ分子量分布の狭いポリスチレンを得ることができた。
【0068】
【発明の効果】
本発明のハロゲンを含まない複合系重合開始剤を用いることにより、分子鎖末端に官能基を有する重合体を得ることができ、しかも狭い分子量分布を保ったまま分子量を所望範囲に制御でき、ハロゲンを導入することなく重合体を得ることができる。
Claims (13)
- (A)下記一般式(1A)及び/又は(2A):
で表される金属錯体と、
(B)分子内にヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基及びアルケニル基から選択された1又は2以上の官能基を有するラジカル重合開始剤とを含む複合系重合開始剤。 - 一般式中、R1a〜R1f、R2a及びR2bが、C1〜C6アルキル基、C4〜C8シクロアルキル基、C6〜C12アリール基及びC7〜C14アラルキル基から選択された1又は2以上である請求項2記載の複合系重合開始剤。
- 一般式(1A)、(2A)、(1a)〜(1c)、(2a)中のMが、長周期型周期表7〜11族の遷移金属である請求項1〜3のいずれか1記載の複合系重合開始剤。
- 一般式(1A)、(2A)、(1a)〜(1c)、(2a)中のMが、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択された1又は2以上の金属である請求項1〜4のいずれか1記載の複合系重合開始剤。
- (A)金属錯体が、ジチオカルバメート錯体である請求項1〜5のいずれか1記載の複合系重合開始剤。
- (B)ラジカル重合開始剤の官能基が、ヒドロキシル基又はカルボキシル基である請求項1〜6のいずれか1記載の複合系重合開始剤。
- (B)ラジカル重合開始剤が、アゾ化合物及び有機過酸化物から選択された1又は2以上である請求項1〜7のいずれか1記載の複合系重合開始剤。
- (A)金属錯体と(B)ラジカル重合開始剤との割合(A)/(B)(モル比)が0.1〜10である請求項1〜8のいずれか1記載の複合系重合開始剤。
- 請求項1〜9のいずれか1記載の複合系重合開始剤の存在下で(C)ビニル系単量体を重合させる、分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法。
- (C)ビニル系単量体が、スチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体から選択された1又は2以上である請求項10記載の分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法。
- (C)ビニル系単量体と(B)ラジカル開始剤との割合(C)/(B)(モル比)が、5〜10,000である請求項10又は11記載の分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法。
- 重合体が、数平均分子量(Mn)が1,000〜500,000で、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量から求められる分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜2.0である請求項10〜12のいずれか1記載の分子鎖末端に官能基を有する重合体の製造方法。
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