JP4093679B2 - 重合開始剤系及びそれを用いた重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の金属錯体とラジカル開始剤とで構成される重合開始剤系、それを用いて得られた重合体及び重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
重合体の物理化学的性質(機械的強度、流動性、耐熱性、他の樹脂との相溶性など)は、重合体の一次構造(例えば、分子量、分子量分布、共重合体の構造、末端基の構造など)に大きく影響される。そのため、所望の特性を有する重合体を得るには、一次構造を制御するのが有効である。この一次構造を制御する方法として、リビング重合などが実施されている。リビング重合は、末端構造を制御できるとともに、ブロック共重合が可能であり、分子量分布の狭い高分子を得るのに有用であり、通常、イオン重合(アニオン重合、カチオン重合など、特にアニオン重合)が利用されている。しかし、重合系における不純物(水、酸素など)、溶媒などの影響を受け易く、また高純度のモノマー、不活性雰囲気及び低温での重合が必要となるなど、操作が難しい上に、煩雑化し、また経済的にも不利であるため、工業化が困難である。
【0003】
一方、不純物や溶媒の影響を受けにくい重合法として、ラジカル重合が挙げられる。ラジカル重合は、これら不純物の影響を受けにくいため、操作が簡便となり、また種々のモノマーに適用でき、さらに種々の重合法(塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など)が利用できるため、実験室レベルでもまた工業的にも広く採用されている。しかし、ラジカル重合では、連鎖移動反応や停止反応が起こるため、末端構造を制御することが難しく、分子量分布が広くなる傾向にある。また、通常の方法ではブロック共重合体を製造するのが困難である。
【0004】
最近、ラジカル重合であっても、分子量を制御し、分子量分布が狭い重合体を得る方法、例えば、ラジカル重合をリビング的に進行させる方法(リビングラジカル重合法)が見出されており、一次構造を制御することが可能となりつつある。
【0005】
Makromol. Chem., Rapid Commun., 3, 127 (1982)において、大津らはイニファーター重合を提案している。しかし、この方法では分子量分布の狭い重合体を得るのが困難である。
【0006】
Macromolecules, 26, 2987 (1993)及びWO94/11412では、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシ(TEMPO)のような安定なラジカルを用いる方法により、分子量分布の狭いポリスチレンが得られることが記載されている。しかし、これらの方法では、条件により着色が生じたり、また経済的にも不利である。
【0007】
Macromolecules, 28, 1721 (1995)、特開平8−41117号公報、J. Am. Chem. Soc.,117, 5614 (1995)、Macromolecules, 28, 7901 (1995)及びWO96/30421では、遷移金属錯体を用いる方法により、メタクリル酸メチルやスチレンについてリビングラジカル重合が達成されており、分子量分布の狭い重合体が得られることが記載されている。しかし、これらの方法では、開始剤や遷移金属錯体がハロゲン元素を含むため、ポリマーにもハロゲン元素が導入され、このハロゲン元素の脱離によりポリマーの物性が低下したり、焼却時に有害物質が発生したりする虞がある。また、J. Am. Chem. Soc., 117, 5614 (1995)、Macromolecules, 28, 7901 (1995)及びWO96/30421では、金属錯体の配位子としてビピリジンが用いられているが、錯体の溶解性が悪く、使用する溶媒が限定されたり、また、溶解性を向上するにはジノニルビピリジンなどの特殊なビピリジンなどを使用する必要がある。
【0008】
Macromolecules, 28, 7572 (1995)、Macromolecules, 30, 7692 (1997)及びMacromolecules, 31, 545 (1998)では、AIBNと金属ハロゲン化物及び配位子の存在下で、ビニル系単量体を重合させることが開示されている。しかし、これらの方法では、ポリマー中にハロゲン元素が導入される。
【0009】
特開平8−245710号公報には、ラジカル開始剤と3価のルテニウム化合物とルイス酸などのモノマー活性化剤との存在下でビニル系単量体を重合させることが開示されている。この文献では、ラジカル重合反応がリビング的に進行し、得られる重合体の分子量及び分子量分布を制御できることが記載されている。しかし、この方法でも、ポリマー中にハロゲン元素が導入される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、ラジカル重合であっても、重合をリビング的に進行できる新規な重合開始剤系、それを用いて得られる重合体及び重合体の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、ハロゲン元素を含まず、重合体の分子量、分子量分布などの一次構造を制御できる重合開始剤系、それを用いて得られる重合体及び重合体の製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討の結果、特定の金属錯体とラジカル重合開始剤とで重合開始剤系を構成すると、ビニル系単量体をリビング的にラジカル重合でき、重合体の分子量及び分子量分布を制御できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記式(1A)及び/又は(2A)
【0014】
【化3】
【0015】
(式中、Y 1 〜Y 3 は、同一又は異なって、酸素原子、窒素原子又は炭素原子を示し、Mは遷移金属元素を示し、R 1 又はR 2a 及びR 2b は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R 1 、R 2a 又はR 2b はn,p又はqによって異なっていてもよく、一緒になって不飽和又は飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成してもよい。kは2〜8の整数、n、p及びqは独立して1〜3の整数を示す。)
で表わされる金属錯体(A)とラジカル開始剤(B)とで重合開始剤系を構成する。前記金属錯体(A)において、金属元素Mは周期表7〜11族遷移金属元素であってもよい。ラジカル開始剤(B)としては、アゾ化合物、有機過酸化物、無機過酸化物などが使用できる。金属錯体(A)とラジカル開始剤(B)との割合は、前者/後者=0.1/1〜10/1(モル比)程度である。
【0016】
本発明には、前記重合開始剤系の存在下、ビニル系単量体などを重合して得られた重合体及び重合体の製造方法も含まれる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の重合開始剤系は、下記式(1)で表わされ、かつジチオ化合物を配位子とする金属錯体(A)とラジカル開始剤(B)とで構成されており、ビニル系単量体をリビング重合させるのに有用である。
【0018】
【化4】
【0019】
(式中、Aは炭素又はリン原子を示し、Mは遷移金属元素を示し、Xは酸素原子又は窒素原子を含んでいてもよい有機基を示す。kは2〜8の整数、mは1又は2を示す。)
前記金属錯体(A)において、遷移金属の種類は特に制限されず、周期表3〜11族金属が使用でき、例えば、周期表4族金属(チタンTi,ジルコニウムZrなど)、周期表5族金属(バナジウムV,ニオブNbなど)、周期表6族金属(クロムCr,モリブデンMo,タングステンWなど)、周期表7族金属(マンガンMn,テクネチウムTc,レニウムReなど)、周期表8族金属(鉄Fe,ルテニウムRuなど)、周期表9族金属(コバルトCo,ロジウムRhなど)、周期表10族金属(ニッケルNi,パラジウムPd,白金Ptなど)、周期表11族金属(銅Cu,銀Ag,金Auなど)などが好ましい。特に好ましい遷移金属は、周期表7族金属(Mnなど)、周期表8族金属(Fe,Ruなど)、周期表9族金属(Co,Rhなど)、周期表10族金属(Ni,Pdなど)、周期表11族金属(Cuなど)などであり、中でもMn,Fe,Co,Ni,Cu,Ru,Rh,Pdなどが好ましい。前記金属の価数は特に制限されず、2〜8程度、好ましくは2〜6(例えば、2〜4)程度である。
【0020】
前記式(1)において、Xで表わされる有機基(アルキル、アルケニル、シクロアルキル、アリール、置換アリール、アラルキル基など)は、窒素原子や酸素原子を含んでいてもよく、この窒素原子又は酸素原子は前記式(1)のAに直接結合していてもよい。また、有機基Xは種々の置換基を有していてもよい。
【0021】
金属錯体(A)としては、下記式(1A)及び/又は(2A)で表わされる錯体を使用するのが好ましい。
【0022】
【化5】
【0023】
(式中、Y1〜Y3は、同一又は異なって、酸素原子、窒素原子又は炭素原子を示し、R1又はR2a及びR2bは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。R1、R2a又はR2bはn,p又はqによって異なっていてもよく、一緒になって不飽和又は飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成してもよい。n、p及びqは独立して1〜3の整数を示す。kは前記に同じ。)
前記式(1A)及び(2A)において、R1、R2a、及びR2bで表わされるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル基などのC1-12アルキル基(特にC1-6アルキル基)など;シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル基などのC4-8シクロアルキル基など;アルケニル基としては、アリル、ビニル基などのC2-10アルケニル基;アリール基としては、フェニル、トリル、ナフチル基などのC6-12アリール基など;アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル基などのC7-14アラルキル基などが例示できる。
【0024】
R1、R2a、又はR2bは、Y1〜Y3によって(n、p又はqによって)、それぞれ複数個存在する場合があり、式(1A)においては、R1同士が隣接するY1と共に環を形成してもよい。前記環には、飽和炭化水素環(シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン環などの飽和C4-8炭化水素環など)、不飽和炭化水素環(シクロペンテン、シクロヘキセン環などの不飽和C5-8炭化水素環など)、芳香族炭化水素環(ベンゼン、ナフタレンなどの芳香族C6-12炭化水素環など)、窒素、酸素及びイオウから選択された少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素環(ピロール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ピペリジン環などのヘテロ原子として窒素原子を含む5〜8員複素環、フランなどのヘテロ原子として酸素原子を含む5〜8員複素環など)などが含まれる。
【0025】
好ましい金属錯体(A)には、例えば、下記式(ia)〜(ic)及び(iia)で表わされる錯体などが挙げられる。
【0026】
【化6】
【0027】
(式中、R1a〜R1f、並びにR2a及びR2bは、同一又は異なって、水素原子、C1-6アルキル基、C4-8シクロアルキル基、C6-12アリール基、及びC7-14アラルキル基から選択された少なくとも1つを示し、R1b及びR1cは一緒になって飽和又は不飽和炭化水素環、複素環、芳香族炭化水素環などを形成してもよく、R1d〜R1fのうち少なくとも2つは一緒になって飽和又は不飽和炭化水素環、複素環、芳香族炭化水素環を形成してもよい。M及びkは前記に同じ。)
前記式(1)、(1A)及び(2A)、並びに(ia)〜(ic)及び(iia)において、金属Mに配位する配位子のジチオ化合物は、一種又は二種以上組み合わせて使用できる。特に好ましいジチオ化合物は式(ib)で表わされるジチオカルバメート又は(iia)で表わされるジチオホスフェートである。
【0028】
ジチオカルバメートとしては、例えば、N−メチル−ジチオカルバメート、N−エチルジチオカルバメートなどのN−アルキルジチオカルバメート(特にN−C1-10アルキルジチオカルバメートなど)など;N,N−ジメチルジチオカルバメート、N,N−ジエチルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−プロピルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−プロピルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−ブチルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−ブチルジチオカルバメート、N,N−ジ−s−ブチルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−アミルジチオカルバメート、N,N−ジ−i−アミルジチオカルバメート、N,N−ジ−n−ヘキシルジチオカルバメート、N−メチル−N−i−プロピルジチオカルバメートなどのN,N−ジアルキルジチオカルバメート(特に、N,N−ジC1-12アルキルジチオカルバメート)など;N−フェニルジチオカルバメートなどのN−アリールカルバメート(N−C6-12アリールカルバメートなど)など;N−メチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−エチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−n−プロピル−N−フェニルジチオカルバメート、N−n−ブチル−N−フェニルジチオカルバメート、N−i−アミル−N−フェニルジチオカルバメートなどのN−アルキル−N−アリールジチオカルバメート(特にN−C1-10アルキル−N−C6-12アリールジチオカルバメートなど)など;N−シクロヘキシルカルバメートなどのN−シクロアルキルジチオカルバメート(N−C4-8シクロアルキルジチオカルバメートなど)など;N,N−ジシクロペンチルジチオカルバメート、N,N−ジシクロヘキシルジチオカルバメートなどのN,N−ジシクロアルキルジチオカルバメート(特にN,N−ジC4-8シクロアルキルジチオカルバメートなど)など;N−アリルジチオカルバメートなどのN−アルケニルジチオカルバメート(N−C2-10アルケニルジチオカルバメート)など;N,N−ジアリルジチオカルバメートなどのN,N−ジアルケニルジチオカルバメート(特にN,N−ジC2-8アルケニルジチオカルバメートなど)など;N−ベンジルジチオカルバメートなどのN−アラルキルジチオカルバメート(特にN−C7-10アラルキルジチオカルバメートなど)など;N,N−ジベンジルジチオカルバメートなどのN,N−ジアラルキルジチオカルバメート(特にN,N−ジC7-14アラルキルジチオカルバメートなど)など;N−メチル−N−ベンジルジチオカルバメート、N−エチル−N−ベンジルカルバメートなどのN−アルキル−N−アラルキルジチオカルバメート(特にN−C1-8アルキル−N−C7-10アラルキルジチオカルバメートなど)など;ピロリジルジチオカルバメート、ピペリジルジチオカルバメート、モルフォリニルジチオカルバメートなどの複素環式ジチオカルバメートなどが例示できる。
【0029】
ジチオホスフェートとしては、O−メチルジチオホスフェート、O−エチルジチオホスフェートなどのO−アルキルジチオホスフェート(特にO−C1-12アルキルジチオホスフェートなど)など;O,O’−ジメチルジチオホスフェート、O,O’−ジエチルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−プロピルジチオホスフェート、O,O’−ジ−i−プロピルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−ブチルジチオホスフェート、O,O’−ジ−i−ブチルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−ヘキシルジチオホスフェート、O,O’−ジ−n−デシルジチオホスフェートなどのO,O’−ジC1-16アルキルジチオホスフェート(特にO,O’−ジC1-12アルキルジチオホスフェートなど)など;O−シクロヘキシルジチオホスフェートなどのO−シクロアルキルジチオホスフェート(O−C5-8シクロアルキルジチオホスフェートなど)など;O,O’−ジシクロヘキシルジチオホスフェートなどのO,O’−ジシクロアルキルジチオホスフェート(特にO,O’−ジC5-8シクロアルキルジチオホスフェート);O−フェニルジチオホスフェートなどのO−アリールジチオホスフェート(特にO−C6-12アリールジチオホスフェートなど)など;O,O’−ジフェニルジチオホスフェート、O,O’−ジ−o−トリルジチオホスフェートなどのO,O’−ジアリールジチオホスフェート(O,O’−ジC6-12アリールジチオホスフェート)などが例示できる。
【0030】
このようなジチオユニットを有する配位子は一種又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
好ましい配位子は、ジチオカルバメート類であり、特に、N,N−ジメチルジチオカルバメート、N,N−ジエチルジチオカルバメートなどのN,N−ジC1-6アルキルジチオカルバメート、N,N−ジベンジルジチオカルバメートなどのN,N−ジC7-10アラルキルジチオカルバメート、ピペリジルジチオカルバメートなどの複素環式ジチオカルバメート(ヘテロ原子として窒素原子を含む5〜6員の複素環式ジチオカルバメート)などである。
【0032】
上記式において、配位数kは、金属錯体の中心金属Mの価数(酸化数)に対応しており、2〜8の整数、好ましくは2〜6(例えば、2〜4)程度の整数である。
【0033】
前記のような金属錯体は、一種又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
本発明の重合開始剤系を構成するラジカル開始剤(B)の種類は、特に制限されず、慣用のラジカル開始剤(ラジカル発生剤)、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物、無機過酸化物などが使用できる。
【0035】
アゾ化合物としては、アゾビスニトリル[例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類;2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類;2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類;1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリルなどの1,1’−アゾビス−1−アルカンニトリル類、特に1,1’−アゾビス−1−シクロアルカンニトリル類(例えば、1,1’−アゾビス−1−C5-8シクロアルカンニトリル);4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾビスシアノカルボン酸など]、アゾニトリル[2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリルなどのアゾブチロニトリル類;2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾバレロニトリル類など]、アゾビスアルカン[例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)などの2,2’−アゾビスC3-10アルカンなど]、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートなどが挙げられる。
【0036】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどのパーオキシケタール類、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキサイド類、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシカーボネート類、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類などが挙げられる。
【0037】
無機過酸化物としては、例えば、過酸化水素、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)などが例示できる。
【0038】
なお、レドックス重合開始剤としては、過硫酸塩又は過酸化物と還元剤との組み合わせ、例えば、過酸化水素−第一鉄塩系、ベンゾイルパーオキサイド−ジメチルアニリン系、又はセリウム(IV)塩−アルコール系などの組み合わせが挙げられる。
【0039】
ラジカル開始剤は、ポリマーにハロゲンが含有されるのを避ける点から、非ハロゲン系のラジカル開始剤が好ましい。ラジカル開始剤としては、通常、アゾ化合物(AIBNなど)、パーオキサイド類が使用される。特にアゾ化合物が好ましい。
【0040】
このようなラジカル開始剤は、一種又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0041】
ラジカル開始剤からラジカルを発生させるのに、例えば、熱、光、放射線、酸化還元反応などが採用できる。これらのラジカル発生手段は単独で適用してもよく、二種以上組み合わせて適用してもよい。
【0042】
金属錯体とラジカル開始剤との割合は、金属錯体(A)/ラジカル開始剤(B)=0.1/1〜10/1(モル比)程度の広い範囲から選択でき、通常、0.25/1〜4/1(モル比)、好ましくは0.25/1〜3.5/1(例えば0.25/1〜3/1)(モル比)、特に0.25/1〜2/1(モル比)程度である。モル比が0.1より小さいと分子量分布が広くなり、10より大きいと重合速度が遅くなる虞がある。
【0043】
本発明では、前記のような遷移金属化合物とラジカル開始剤とを含む重合開始剤系の存在下で、少なくとも一種のビニル系単量体を重合させると、分子量分布が狭く、分子量の制御された重合体を得ることができる。
【0044】
前記ビニル系単量体としては、前記重合開始剤系により重合可能であれば特に制限されず、種々の重合性ビニル単量体、例えば、芳香族ビニル単量体、複素環式ビニル単量体(N−ビニルピロリドンなど)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体、α,β−不飽和ニトリル、カルボン酸ビニルエステル、共役ジエン系単量体、オレフィン系単量体、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデンなどが使用できる。
【0045】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、アルキルスチレン(例えば、o−,m−及びp−メチルスチレンなどのビニルトルエン類、2,4−ジメチルスチレンなどのビニルキシレン類、p−エチルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなど)、α−アルキルスチレン(例えば、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなど)、アルコキシスチレン(例えば、o−,m−及びp−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレンなど)、ハロスチレン(例えば、o−,m−及びp−クロロスチレン、p−ブロモスチレンなど)、スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩などが例示できる。好ましいスチレン系単量体には、スチレン、ビニルトルエンなどが含まれ、特にスチレンが好ましい。
【0046】
α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体には、例えば、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和カルボン酸アミド、α,β−不飽和カルボン酸イミドなどが含まれる。
【0047】
α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸などのモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの多価カルボン酸又はそれらの酸無水物(例えば、無水マレイン酸など)などが例示できる。
【0048】
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、前記例示のα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステル(特にC1-20アルキルエステルなど)などが使用でき、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸C1-14アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸C4-10シクロアルキルエステル、又はこれらの(メタ)アクリル酸エステルに対応するマレイン酸モノ又はジアルキルエステル、フマル酸モノ又はジアルキルエステル、イタコン酸モノ又はジアルキルエステルなどが挙げられる。また、前記アルキルエステル類はヒドロキシル基、グリシジル基、アミノ基又はN−アルキルアミノ基などの置換基を有していてもよく、置換基含有エステルとしては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシC2-10アルキル(メタ)アクリレートなど)、グリシジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどが例示できる。
【0049】
α,β−不飽和カルボン酸アミドとしては、(メタ)アクリルアミド、又はそれらの誘導体(例えば、N−メチル(メタ)アクリルアミドなど、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなど)、あるいはこれらに対応するフマル酸アミド(フマルアミド、フマルアミド酸又はそれらの誘導体など)などが例示できる。
【0050】
α,β−不飽和カルボン酸イミドとしては、例えば、マレイミド又はその誘導体(例えば、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど)などが含まれる。
【0051】
α,β−不飽和ニトリルには、(メタ)アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物などが含まれる。
【0052】
カルボン酸ビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどのC1-10カルボン酸ビニルエステル(特にC1-6カルボン酸ビニルエステル)などが例示できる。
【0053】
共役ジエン系単量体としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ネオプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、ピペリエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、フェニル−1,3−ブタジエンなどのC4-16ジエン(好ましくはC4-10ジエンなど)などが例示できる。
【0054】
オレフィン系単量体としては、エチレン、プロピレン、ブテン(イソブテンなど)などのC2-10アルケン(好ましくはC2-6アルケンなど)などが例示できる。
【0055】
ハロゲン化ビニルとしては、フッ化ビニル、塩化ビニル、臭化ビニルなど、また、ハロゲン化ビニリデンとしては、フッ化ビニリデン、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどが例示できる。
【0056】
ポリマーへのハロゲンの導入を避けるには、非ハロゲン系単量体を使用するのが好ましい。好ましいビニル系単量体はスチレン系単量体及び(メタ)アクリル系単量体((メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(特にメタクリル酸メチル、アクリル酸C2-10アルキルエステルなど)、(メタ)アクリロニトリルなど)などである。
【0057】
前記ビニル系単量体は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。二種以上を併用する場合、例えば、▲1▼複数の単量体を同時に添加して使用するとランダム共重合体が得られ、▲2▼単量体を逐次的に添加する方法、例えば、第1の単量体の重合が完結した後、第2の単量体を添加して重合を完結させ、さらに第3の単量体を添加するというように単量体を逐次的に添加するとブロック共重合体が得られ、▲3▼複数の単量体の組成比を経時的に変化させるとグラジエント共重合体が得られる。
【0058】
重合体の分子量は、ビニル系単量体とラジカル開始剤との割合により決定できる。従って、ビニル系単量体とラジカル開始剤との割合を変化させることにより、分子量を制御でき、所望の分子量を有する重合体を得ることができる。
【0059】
ビニル系単量体と前記重合開始剤系との割合は、例えば、ビニル系単量体/ラジカル開始剤(B)=5/1〜10000/1(モル比)程度の範囲から選択でき、通常5/1〜5000/1(モル比)程度である。
【0060】
重合体の分子量は、数平均分子量(Mn)が1,000〜500,000、好ましくは1,500〜100,000程度であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.05〜2、好ましくは1.05〜1.9(例えば、1.05〜1.7)程度である。
【0061】
ビニル系単量体の重合方法は、特に制限されず、慣用の重合法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状−懸濁重合などが採用できる。
【0062】
溶液重合を行う場合、溶媒としては、特に制限されず、慣用の溶媒、例えば、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、脂肪族炭化水素(ヘキサン、オクタンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン(1,4−ジオキサンなど)、テトラヒドロフランなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)などが使用できる。特にトルエン、エチルベンゼン、ベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミドなどが好ましい。このような溶媒は単独又は二種以上混合して使用できる。
【0063】
重合は、ビニル単量体の種類に応じて、常圧又は加圧下で行うことができる。
【0064】
重合温度は、重合法の種類、重合開始剤系の構成、重合速度などに応じて、例えば、0〜200℃程度の広い範囲から選択でき、通常、50〜200℃、好ましくは60〜160℃(例えば、80〜140℃)程度の範囲から選択できる。
【0065】
重合は、通常、窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下、例えば、不活性ガスの流通下などで重合を行ってよい。
【0066】
重合体は、例えば、重合反応の後、必要により、溶媒で希釈し、貧溶媒中で析出させたり、単量体や溶媒などの揮発性成分を除去することにより分離精製してもよい。
【0067】
本発明の重合開始剤系は、種々のビニル系単量体に適用でき、また、上記のように、分子量分布が狭く、分子量の制御された重合体を製造することができるため、得られた重合体は、ビニル単量体の種類、重合体の構造などに応じて、種々の用途(例えば、フィルム成形、射出成形などの成形用樹脂、塗料などのコーティング用樹脂、相溶化剤、熱可塑性エラストマーなど)に利用できる。
【0068】
【発明の効果】
本発明では、特定の金属錯体とラジカル開始剤を組み合わせたハロゲン元素を含まない重合開始剤系を用いると、種々のビニル系単量体をリビング的にラジカル重合させることができる。そのため、重合体の分子量や分子量分布などの一次構造を制御することができ、分子量分布の狭い重合体を得ることができる。
【0069】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
なお、以下の実施例及び比較例における操作は、特に断りのない限り、乾燥窒素雰囲気下で行い、試薬類は容器から注射器により採取して反応系に添加した。また、単量体及び溶媒は、乾燥剤の存在下で蒸留精製し、乾燥窒素を吹き込むことにより脱酸素してから使用した。
【0071】
実施例及び比較例で得られた重合体の重合率と分子量は、下記方法により測定した。
(重合率)
重合反応で得られた反応溶液に残存する単量体をガスクロマトグラフィー(GC,(株)島津製作所製,カラム:PEG6000)を用いて内部標準法(内部標準試薬:テトラヒドロナフタレン)により定量し、単量体の減少量を重合体への転化率(重合率)として算出した。
(分子量)
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC,日本分光(株)製)を用いて下記条件で測定した。
【0072】
カラム :Shodex K−805L,3本直列
溶媒 :クロロホルム
カラム温度:40℃
検出器 :示差屈折率計(RI)
流速 :1mL/分
実施例1
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄70.1mg(0.14mmol,20mmol/L)をアルゴン雰囲気下でシュレンク反応管に精秤し、そこへスチレン1.6mL(14mmol,2.0mol/L)、テトラヒドロナフタレン0.33mL、トルエン4.44mL、AIBNトルエン溶液(濃度0.25mol/L)0.56mL(0.14mmol,20mmol/L)を添加して、十分攪拌した。混合溶液を1mLずつ試験管に封管した後、120℃に加温して重合を開始させた。
【0073】
反応時間が9時間及び48時間経過した時点で、重合反応系を−78℃に冷却することにより重合反応を停止させた。重合率は9時間経過後で30%、48時間経過後で70%であった。
【0074】
重合液をトルエンで希釈した後、吸着剤により金属錯体成分などを除去し、さらに単量体及び溶媒などを蒸発させて重合体を得た。得られたポリスチレンの分子量及び分子量分布は、9時間経過後でMn=2600、Mw/Mn=1.23、48時間経過後でMn=5100、Mw/Mn=1.17であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0075】
実施例2
重合温度を140℃、反応時間を4時間及び30時間とする以外は実施例1と同様に重合を行った。4時間経過後、重合率は40%、Mn=3000、Mw/Mn=1.22であり、30時間経過後、重合率は80%、Mn=6000、Mw/Mn=1.26であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0076】
実施例3
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄を30.5mg(0.07mmol、10mmol/L)使用し、反応時間を8時間及び50時間とする以外は実施例1と同様に行った。8時間経過後、重合率は40%、Mn=3400、Mw/Mn=1.57であり、50時間経過後、重合率は68%、Mn=5800、Mw/Mn=1.49であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0077】
実施例4
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄を105.1mg(0.21mmol、30mmol/L)使用し、反応時間を24時間及び100時間とする以外は実施例1と同様に行った。24時間経過後、重合率は30%、Mn=2000、Mw/Mn=1.17であり、100時間経過後、重合率は59%、Mn=3400、Mw/Mn=1.17であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0078】
実施例5
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄70.1mg(0.14mmol,20mmol/L)をアルゴン雰囲気下でシュレンク反応管に精秤し、そこへスチレン4.81mL(42mmol,6.0mol/L)、テトラヒドロナフタレン1mL、トルエン0.56mL、AIBNトルエン溶液(濃度0.25mol/L)0.56mL(0.14mmol,20mmol/L)を添加して、十分攪拌した。混合溶液を1mLずつ試験管に封管した後、120℃に加温して重合を開始させた。
【0079】
反応時間が8時間及び100時間経過した時点で、重合反応系を−78℃に冷却することにより重合反応を停止させた。重合の結果は実施例1と同様に評価した。8時間経過後、重合率は44%、Mn=9300、Mw/Mn=1.38であり、100時間経過後、重合率は89%、Mn=20,500、Mw/Mn=1.31であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0080】
実施例6
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄を35.0mg(0.07mmol、10mmol/L)、0.25mol/LのAIBNトルエン溶液0.28mL(0.07mmol、10mmol/L)を使用し、反応時間を24時間及び100時間とする以外は実施例5と同様に行った。24時間経過後、重合率は54%、Mn=21600、Mw/Mn=1.31であり、100時間経過後、重合率は85%、Mn=31200、Mw/Mn=1.30であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0081】
実施例7
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)銅50.4mg(0.14mmol,20mmol/L)をアルゴン雰囲気下でシュレンク反応管に精秤し、そこへスチレン1.6mL(14mmol,2.0mol/L)、テトラヒドロナフタレン0.33mL、トルエン4.46mL、AIBNトルエン溶液(濃度0.25mol/L)0.56mL(0.14mmol,20mmol/L)を添加して、十分攪拌した。混合溶液を1mLずつ試験管に封管した後、120℃に加温して重合を開始させた。
【0082】
反応時間が3時間及び30時間経過した時点で、重合反応系を−78℃に冷却することにより重合反応を停止させた。重合の結果は実施例1と同様に評価した。3時間経過後、重合率は34%、Mn=4700、Mw/Mn=1.87であり、30時間経過後、重合率は79%、Mn=7900、Mw/Mn=1.60であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0083】
実施例8
重合温度を140℃、反応時間を3.5及び30時間とする以外は実施例4と同様に重合を行った。3.5時間経過後、重合率は28%、Mn=3300、Mw/Mn=1.58であり、30時間経過後、重合率は89%、Mn=6600、Mw/Mn=1.56であった。得られたポリスチレンはいずれも、GPC曲線が単峰性であった。
【0084】
実施例9
トリス(N,N−ジベンジルジチオカルバメート)鉄122.2mg(0.14mmol,20mmol/L)をアルゴン雰囲気下でシュレンク反応管に精秤し、そこへスチレン1.60mL(14mmol,2.0mol/L)、オクタン0.27mL、トルエン4.45mL、AIBNトルエン溶液(濃度0.25mol/L)0.56mL(0.14mmol、20mmol/L)を添加して十分攪拌した。混合溶液を1mLずつ試験管に封管した後、120℃に加温して重合を開始させた。
【0085】
反応時間が24時間及び252時間を経過した時点で、重合反応系を−78℃に冷却することにより重合反応を停止させた。スチレンの重合率の測定を行ったところ、24時間経過後の重合率は44%、252時間経過後の重合率は72%であった。
【0086】
重合液をトルエンで希釈した後、吸着剤により金属錯体成分などを除去し、単量体や溶媒などの揮発分を蒸発させることにより重合体を得た。得られたポリスチレンの分子量を測定したところ、24時間経過後のポリスチレンのMnは3400、Mw/Mnは1.14で、252時間経過後のポリスチレンのMnは5200、Mw/Mnは1.23であり、これらのGPC曲線は単峰性であった。
【0087】
実施例10
実施例9において、重合温度を100℃にし、重合の停止時間を100時間および407時間にした以外は、実施例9と同様に重合反応を行い、その結果を分析した。100時間経過後の重合率は49%、Mnは3300、Mw/Mnは1.11であり、407時間経過後の重合率は71%、Mnは5000、Mw/Mnは1.12であり、これらのGPC曲線は単峰性であった。
【0088】
実施例11
実施例9において、スチレン4.81mL(42mmol、6.0mol/L)、オクタン0.80mL、トルエン0.71mLにし、重合の停止時間を8時間および69時間にした以外は、実施例9と同様に重合反応を行い、その結果を分析した。8時間経過後の重合率は38%、Mnは9300、Mw/Mnは1.18で、69時間経過後の重合率は76%、Mnは17400、Mw/Mnは1.23であり、これらのGPC曲線は単峰性であった。
【0089】
実施例12
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄70.1mg(0.14mmol,20mmol/L)をアルゴン雰囲気下でシュレンク反応管に精秤し、そこへメタクリル酸メチル1.50mL(14mmol,2.0mol/L)、オクタン0.25mL、N,N−ジメチルホルムアミド4.62mL、AIBNのN,N−ジメチルホルムアミド溶液(濃度0.25mol/L)0.56mL(0.14mmol、20mmol/L)を添加して十分攪拌した。混合溶液を1mLずつ試験管に封管した後、80℃に加温して重合を開始させた。
【0090】
反応時間が4時間及び30時間を経過した時点で、重合反応系を−78℃に冷却することにより重合反応を停止させた。メタクリル酸メチルの重合率の測定を行ったところ、4時間経過後の重合率は57%で、30時間経過後の重合率は94%であった。
【0091】
重合液をトルエンで希釈した後、吸着剤により金属錯体成分などを除去し、単量体や溶媒などの揮発分を蒸発させることにより重合体を得た。得られたポリメタクリル酸メチルの分子量を測定したところ、4時間経過後のポリメタクリル酸メチルのMnは4200、Mw/Mnは1.77で、30時間経過後のポリメタクリル酸メチルのMnは7200、Mw/Mnは1.46であり、これらのGPC曲線は単峰性であった。
【0092】
比較例1
トリス(N,N−ジエチルジチオカルバメート)鉄を添加せず、トルエンの添加量を4.51mL、反応時間を30時間とする以外は実施例1と同様に行った。30時間経過後、重合率は74%、Mn=11300、Mw/Mn=4.09であった。また得られたポリスチレンは、GPC曲線が二峰性であった。
【0093】
比較例2
AIBNを添加せず、トルエンの添加量を5.02mL、反応時間を50時間とする以外は実施例7と同様に行った。50時間経過しても重合体は得られなかった。
【0094】
実施例及び比較例から明らかなように、実施例では、重合率が増加するに従って、重合体の数平均分子量が増加し、重合がリビング的に進行していることが判る。また、重合率の増加に伴って、分子量分布が、比較例1に比べて顕著に狭くなっている。さらに、金属錯体を添加しない比較例1では分子量分布曲線が二峰性を示したのに対し、実施例ではいずれの場合も単峰性のピークを示した。ラジカル開始剤を添加しない比較例2では重合反応が進行せず、ラジカル開始剤の存在が必須であることが判る。
Claims (9)
- リビング重合のための重合開始剤系であって、下記式(1A)及び/又は(2A)
で表わされる金属錯体(A)とラジカル開始剤(B)とで構成されている重合開始剤系。 - 金属錯体(A)が、周期表7〜11族遷移金属の錯体である請求項1記載の重合開始剤系。
- 金属錯体(A)が、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムから選択された少なくとも一種の金属の錯体である請求項1記載の重合開剤系。
- R1a〜R1f及びR2a及びR2bが、同一又は異なって、C1−6アルキル基、C4−8シクロアルキル基、C6−12アリール基、及びC7−14アラルキル基から選択された少なくとも1種である請求項4記載の重合開始剤系。
- 金属錯体(A)が、ジチオカルバメート錯体である請求項1又は4記載の重合開始剤系。
- ラジカル開始剤(B)が、アゾ化合物、有機過酸化物及び無機過酸化物から選択された少なくとも一種である請求項1又は4記載の重合開始剤系。
- 金属錯体(A)とラジカル開始剤(B)との割合が、前者/後者=0.1/1〜10/1(モル比)である請求項1又は4記載の重合開始剤系。
- 請求項1又は4記載の重合開始剤系の存在下、ビニル系単量体を重合させる重合体の製造方法。
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