以下、この発明のIII族窒化物半導体の加工方法、III族窒化物半導体発光素子の製造方法、III族窒化物半導体レーザ素子の製造方法を図示の実施の形態により詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1Aはこの発明の第1実施形態のIII族窒化物半導体の加工方法に用いられる大気圧プラズマ加工処理装置の模式図であり、図1Bは図1Aに示す大気圧プラズマ加工処理装置の一部を示す模式的な斜視図である。
この大気圧プラズマ加工処理装置は、図1Aに示すように、III族窒化物半導体をプラズマ加工処理する反応場となる内部空間が設けられた反応容器1を有している。この反応容器1は、その内部空間に反応容器1の底面に対して水平に設けられた基板ステージ4と、この基板ステージ4の上方に、回転軸3が基板ステージ4に対して平行になるように設けられた円筒型回転電極2とを有している。
上記円筒型回転電極2の回転軸3に、反応容器1の外部に設けられた高周波電源7を、回転軸3の回転を阻害することなく接続している。そして、基板ステージ4を反応容器1の外部において接地している。また、基板ステージ4の内部に、基板ステージ4上に載置される円柱形状のIII族窒化物半導体6を加熱するためのヒータ5を内蔵している。
また、基板ステージ4は、図1Aの矢印Aで示すように、円筒型回転電極2の回転軸3に対して略直角にかつ水平方向に走査可能になっている。また、基板ステージ4は、上下方向にも移動可能になっている。そして、基板ステージ4が上下方向に移動することにより、上方の円筒型回転電極2との距離を適宜変更することができる。また、基板ステージ4には、基板ステージ4上に載置されるIII族窒化物半導体6を吸着固定するための真空チャック(図示せず)を設けており、基板ステージ4の移動によって、プラズマ加工処理中のIII族窒化物半導体6が載置位置からずれないように、真空チャックによりIII族窒化物半導体6を基板ステージ4に固定している。
さらに、反応容器1の一方の側部に、塩素含有ガスを導入するためのガス導入ライン8を設けており、このガス導入ライン8を、ガスを供給するガスボンベ等(図示せず)に接続している。反応容器1の他方の側部に、反応容器1内のガスを排出するためのガス排気ライン9を設けている。ガス排気ライン9を、反応器1の外部にガス(図示せず)を吸引するためのポンプ(図示せず)に接続している。
このような構成の大気圧プラズマ加工処理装置を用いて、III族窒化物半導体6の表面をプラズマ加工処理する方法の一例について以下に説明する。
まず、反応容器1の内部のガスをガス排気ライン9によって十分に排気した後、ガス導入ライン8から塩素含有ガスを反応容器1の内部に導入する。
ここで、反応容器1の内部の圧力を、大気圧または大気圧近傍の圧力としている。そして、塩素含有ガスを反応容器1の内部に導入した後には、所定の条件を設定する。すなわち、円筒型回転電極2の回転周速度、円筒型回転電極2と基板ステージ4上に載置されたIII族窒化物半導体6との間の距離、基板ステージ4の走査方向および走査速度、III族窒化物半導体6を加熱するヒータ5の温度等を設定する。
そして、反応容器1の外部に設けられた高周波電源7からの高周波電力を、回転軸3を介して円筒型回転電極2に印加する。この高周波電力が円筒型回転電極2に印加されることにより、円筒型回転電極2と基板ステージ4との間に電場が生じる。
上記円筒型回転電極2と基板ステージ4との間に形成された電場は、円筒型回転電極2の表面(母線に沿った領域)とIII族窒化物半導体6の表面(上側平面)との間に供給された塩素含有ガスを分解および励起して、円筒型回転電極2とIII族窒化物半導体6の表面との間にプラズマ13を形成する。このプラズマ13がIII族窒化物半導体6の表面に接触し、プラズマ13によって生成した塩素活性種がIII族窒化物半導体6の表面のIII族原子に作用してIII族塩化物が生成される。そして、生成されたIII族塩化物が気相中に気化して拡散することによって、III族窒化物半導体6の加工が進展する。
また、円筒型回転電極2は、図1Bに示すように高速回転していることから、円筒型回転電極2の表面と塩素含有ガスとの間の粘性によって、塩素含有ガスが回転する円筒型回転電極2の表面とともに移動して、円筒型回転電極2表面の回転方向の上流側からプラズマ13に均一に供給される。その結果、大気圧下でプラズマ13による加工処理を行う場合であっても、III族窒化物半導体6の加工処理を高速化できる。また、加工のときに生成されたIII族塩化物を、プラズマ13から円筒型回転電極2表面の回転方向の下流側の外部へ効果的に排出することができるので、III族窒化物半導体6の加工品質を向上させることができる。
さらに、III族窒化物半導体6が載置された基板ステージ4を所定の走査方向に所定の速度で走査させることによって、円筒型回転電極2をIII族窒化物半導体6の表面に対して平行な方向に相対的に移動させながら、プラズマ13をIII族窒化物半導体6と接触させることもできる。このように、円筒型回転電極2をIII族窒化物半導体6の表面に対して平行方向に相対的に移動させることによって、III族窒化物半導体6の表面が大きい場合でもIII族窒化物半導体6の表面全体を加工することができる。
なお、円筒型回転電極2をIII族窒化物半導体6の表面に対して相対的に移動させる方法としては、上記のようにIII族窒化物半導体6のみを移動させてもよく、III族窒化物半導体6を固定した状態で円筒型回転電極2のみを移動させてもよい。また、III族窒化物半導体6と円筒型回転電極2の双方を移動させて、円筒型回転電極2をIII族窒化物半導体6の表面に対して相対的に移動させてもよい。
また、円筒型回転電極2とIII族窒化物半導体6の表面との間の距離を略一定とした状態で、円筒型回転電極2をIII族窒化物半導体6の表面に対して平行な方向に相対的に移動させることが好ましい。この場合には、III族窒化物半導体6の表面の加工ばらつきを低減することができる。
なお、この発明において用いられる塩素含有ガスは、塩素ガスと希ガスとの混合ガスが好ましく、希ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスまたはキセノンガスのいずれか1種または複数種を用いることができる。
また、この第1実施形態において反応容器1の内部の圧力は特に大気圧において最もその効果を発揮するものであるが、この発明においては100Torr〜2気圧を好適な圧力範囲とし、適用可能な圧力範囲としては例えば10Torr〜5気圧が挙げられる。
また、この第1実施形態においてIII族窒化物半導体として、GaN、AlN、InNの他に、AlGaNやAlGaInN等の3元混晶や4元混晶も含まれる。
(第1実施例)
次に、図1Aに示す大気圧プラズマ加工処理装置を用いた第1実施例について説明する。この第1実施例では、単結晶GaN基板の加工量と基板加熱温度について検討した。
図1Aに示す大気圧プラズマ加工処理装置の反応容器1の内部に0.1体積%の塩素ガスと99.9体積%のヘリウムガスとからなる混合ガスを導入し、反応容器1の内部の圧力を1気圧とした。円筒型回転電極2とIII族窒化物半導体の一例としての単結晶GaN基板との間の距離を400μmに設定し、円筒型回転電極2の回転周速度を0.84m/sに設定した。
そして、反応容器1の外部に設けられた高周波電源7から高周波電力を電力密度3000W/cm3で回転軸3を介して円筒型回転電極2に印加することによって、円筒型回転電極2と単結晶GaN基板との間にプラズマ13を形成した。そして、ヒータ5により150℃に加熱された単結晶GaN基板の表面にプラズマ13を1分間接触させることによって、単結晶GaN基板を加工した。同様に、190℃、250℃、340℃に加熱した場合も実施した。
図2は、第1実施例における単結晶GaN基板の加工量と加熱温度との関係を示している。図2に示すように、150℃、190℃の場合は、他に比べて加工量が非常に小さい。これは、Ga塩化物の沸点が200℃であるため、生成したGa塩化物が完全には気化せず基板表面に残存し、加工を阻害しているためと考えられる。250℃に加熱した場合と、340℃に加熱した場合とを比較すると、加工量に大きな差がなく、250℃の加熱によって、生成したGa塩化物が十分に気化している。
このことを裏付けるために、250℃に加熱して加工した単結晶GaN基板の加工後の表面をエネルギー分散型X線分析装置(EDAX:Energy Dispersive Analysis of X-ray)により組成分析を行った結果を図3A,図3Bに示している。図3A,図3Bにおいて、横軸はX線エネルギー[keV]を表し、縦軸は強度[任意目盛]を表している。
図3Aからは、GaのピークとNのピークによりGa,Nの存在を確認することができる。また、図3Bは、図3Aの点線で囲む領域を拡大したもので、Clが存在すればピークが観察されるエネルギー領域を拡大したものである。図3Bにおいて、ピークが観察されず、Clは検出されなかった。また、この組成分析において、加工前後でGaとNの組成比に変化がないことも確認できた。
さらに、カソードルミネッセンス(CL)法にて、加工前後のバンド端発光強度を比較した測定結果を図4に示している。図4において、横軸は波長[nm]を表し、縦軸はバンド端発光強度[任意目盛]を表し、点線がエッチング前のバンド端発光強度を示し、実線がエッチング後のバンド端発光強度を示している。
図4から明らかなように、波長364nmのバンド端発光強度が、加工後は大きく増加していた。表面全域において同様の傾向であり、ダメージのない精度の高い加工表面が実現できた。
(第2実施例)
次に、図1Aに示す大気圧プラズマ加工処理装置を用いた第2実施例について説明する。この第2実施例では、単結晶GaN基板の加工量と加工時間について検討した。
図1Aに示す大気圧プラズマ加工処理装置の反応容器1の内部に0.1体積%の塩素ガスと99.9体積%のヘリウムガスとからなる混合ガスを導入し、反応容器1の内部の圧力を1気圧とした。円筒型回転電極2とIII族窒化物半導体の一例としての単結晶GaN基板との間の距離を400μmに設定し、円筒型回転電極2の回転周速度を0.84m/sに設定した。
そして、反応容器1の外部に設けられた高周波電源7から高周波電力を電力密度3000W/cm3で回転軸3を介して円筒型回転電極2に印加することによって、円筒型回転電極2と単結晶GaN基板との間にプラズマ13を形成した。そして、ヒータ5により250℃に加熱された単結晶GaN基板の表面にプラズマ13を60秒間接触させることによって、単結晶GaN基板を加工した。同様に、10秒、30秒、300秒の場合も実施した。
図5に、第2実施例における単結晶GaN基板の加工量と加工時間との関係を示す。図3に示すように、例えば加工時間が60秒の場合の加工速度は約1300nm/minであり、高速加工が実現できており、実用的な加工速度である。なお、加工時間が長くなるに従って加工速度が減少することに関しては、加工中は反応容器1を完全に密閉し、ガスの供給・排気を行っていないので、塩素濃度が減少したためであると考えられる。
以上の第1,第2実施例に示したように、ダメージのない高精度な加工が高速で可能である。なお、上記実施の形態および第1,第2実施例はすべての点で例示であって制限的なものではなく、この発明の範囲は、上記実施の形態および第1,第2実施例の説明だけではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
また、上記第1,第2実施例では、III族窒化物半導体として単結晶GaN基板の加工を行い、III族塩化物としてGa塩化物の沸点200℃以上に単結晶GaN基板を加熱したが、III族窒化物半導体がGaN以外の例えばAlNやInNの場合は、それぞれのIII族塩化物の沸点温度以上にIII族窒化物半導体を加熱する。また、III族窒化物半導体が例えばAlGaNやAlGaInN等の3元混晶や4元混晶の場合は、複数のIII族元素の塩化物のうち、最も高いIII族塩化物の沸点温度以上にIII族窒化物半導体を加熱する。
次に、この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法の第2実施形態について説明する前に、その背景について詳細を説明する。
GaN、AlN、InNおよびそれらの混晶に代表されるIII族窒化物半導体材料により、紫外から可視領域で発振する半導体レーザ素子が試作されている。この半導体レーザ素子の基板には、GaN基板が用いられることが多く、各研究機関において精力的に研究されている。ただし、現在のところ半導体レーザ素子の寿命は十分ではなく、更なる長寿命化が必要とされる。この半導体レーザ素子の寿命は、GaN基板にもともと存在する欠陥(結晶の規則性を乱す空孔、格子間原子、転位等)の密度に強く依存することが知られている。しかし、長寿命化に効果があると言われる欠陥密度が低い基板は得られにくく、欠陥密度の低減に向けて盛んに研究がなされている。
一例として、GaN基板の製造に、次の方法を用いることが、「Applied Physics Letter. Vol.73 No.6 (1998) pp.832-834」に報告されている。すなわち、サファイア基板上にGaN層を成長し、そのGaN層上に0.1μmの膜厚の周期的なストライプ状の開口部をもつSiO2マスクパターンを形成し、再びMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長)法により、20μm厚のGaN層を形成して、ウェハーを得る。これは、ELOG(Epitaxially Lateral Over Grown)と呼ばれる技術であり、ラテラル成長の利用により、欠陥を低減する手法である。
さらに、HVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy)により200μm厚のGaN層を形成し、下地であるサファイア基板を除去することで150μm厚のGaN基板を製造する。次に、得られたGaN基板の表面を平坦に研磨する。この様にして得られた基板では、欠陥密度が106cm-2以下と低いことが知られている。
しかし、上記の方法で得られた基板のように低欠陥な基板上に、III族窒化物半導体膜をMOCVD等の成長方法で成長して半導体レーザ素子を作製した場合においても、実用化に十分な寿命が得られないことが分かった。この原因に対して鋭意研究を重ねた結果、III族窒化物半導体膜に内包される歪みおよびクラックが半導体レーザ素子の劣化および歩留まりに大きな影響を与えていることが判明した。例え、III族窒化物半導体膜とホモエピタキシャルとなるGaN基板を用いたとしても、成長されるIII族窒化物半導体膜には、GaNと格子定数や熱膨張係数が異なるInGaN、AlGaNなどの層が含まれる。これらGaNとは異なる層の存在により、活性層のInGaNなどは圧縮応力を受けることになる。膜内部に内包されるこれらの歪みのために、半導体レーザ素子の劣化が加速されることが分かった。
また、III族窒化物半導体膜にクラックが多数発生し、歩留まりが悪くなるという問題があるが、クラックの発生にも膜内部に内包される歪みが大きく影響している。
この点を詳細に説明する。III族窒化物半導体膜からなるレーザ構造をIII族窒化物半導体基板上にエピタキシャル成長した場合、クラックが多数(例えば、1mm幅内に数本以上)発生し、所要の特性のデバイスが得られる歩留まりが極めて低くなるという問題がある。得られたデバイス内にクラックが発生していると、レーザ発振が得られない。または、レーザ発振が起こるにしても、そのデバイスの寿命が極めて短く、とても実用に耐えられるものではない。このようなクラックの発生は、Alを含む層を設けたデバイス構造において顕著であって、III族窒化物系半導体レーザ素子においては通常このような層が存在するので、クラックの発生を低減することは非常に重要であった。
このようなクラックの発生を低減するために、特開2005−64469号公報では、次のような技術が開示されている。
少なくとも表面がIII族窒化物半導体である基板と、基板の表面上に積層されストライプ状のレーザ光導波路構造を有するIII族窒化物半導体膜より成るIII族窒化物半導体レーザ素子において、基板の表面が、欠陥密度が106cm-2以下の低欠陥領域と凹部とを有し、III族窒化物半導体膜のレーザ光導波路構造が、基板の表面の凹部から外れた低欠陥領域の上方に位置する構成とする。
上記のように、基板表面に凹部を形成することにより、III族窒化物半導体膜を成長させるとき、基板の凹部上については様々な方向から成長が進んで成長の会合部に欠陥が生じる一方で、凹部以外の部位では規則正しく成長が進行して、欠陥を伴う成長の会合が抑えられる。また、凹部から外れた低欠陥領域の上方は、基板の欠陥に由来する欠陥が少ない上、新たに生じる欠陥も抑えられることになり、歪みが生じ難い。III族窒化物半導体膜のレーザ光導波路構造が、このように歪みのない部位に存在することで、長寿命の素子となる。また、例えクラックが発生したとしても、その位置はレーザ光導波路構造から離れた位置に限られるため、歩留まりも向上する。
しかし、上記特開2005−64469号公報では、III族窒化物半導体基板表面に凹部を形成するとき、図14に示すような次の工程を必要としていた。
まず、III族窒化物半導体基板としてのGaN基板上にSiO2等を膜厚1μmでスパッタ蒸着を行う(ステップS1)。その後、一般的なフォトリソグラフィ工程により、レジストで [1−100]方向にストライプのウィンドウを形成する(ステップS2,S3)。その後、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合高周波プラズマ)またはRIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)により、SiO2およびIII族窒化物半導体基板をエッチングする(ステップS4)。その後、HFなどのエッチャントによりSiO2を除去する(ステップS5)。以上の工程を経て、III族窒化物半導体基板表面にストライプ状に凹部を形成している。
このように、上記特開2005−64469号公報では、III族窒化物半導体基板表面に凹部を形成するために、複数の工程が必要であり、大きなコストと時間を要していた。
この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法は、欠陥密度が低い基板を用いたIII族窒化物半導体レーザ素子等のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、III族窒化物半導体膜に内包される歪みが少なく、長寿命のものを、より簡便にかつ高い歩留まりで提供する。
以下、この発明の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、結晶の面や方位を示す指数が負の場合、絶対値の上に横線を付して表記するのが結晶学の決まりであるが、本明細書では、そのような表記ができないため、絶対値の前に負号「−」を付して負の指数を表す。
〔第2実施形態〕
この第2実施形態のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法におけるIII族窒化物半導体基板は、基板全面において、ほぼ106cm-2以下の低欠陥密度の基板とする。なお、低欠陥密度の基板とは、基板面内全域において低欠陥領域が存在する基板だけでなく、基板面内の一部に低欠陥密度の領域を含む基板をさす。低欠陥領域はどのように分布してもよいが、低欠陥領域を含むように半導体レーザ素子のレーザストライプを作りこむ必要がある。
次に、上記基板表面に対して、ストライプ状に凹部を形成する。
ここで、この第2実施形態においては、大気圧または大気圧近傍の圧力下でプラズマを生成して、上記凹部を形成する。以下、図6、図7を参照にしてこの発明のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法について説明する。
この第2実施形態で使用する大気圧プラズマ加工処理装置は、図6に示すように、反応容器101と、電極102と、電力供給部材103,104と、高周波電源105と、基板ヒータ107と、XYステージ108と、ベローズ109と、昇降機構110と、絶縁部材111と、プロセスガスのガス供給部112と、流量制御装置113と、ガスボンベ114と、排気ポンプ115と、整合器116とを主に有している。
図6に示すように、高周波電源105から出力された高周波電力は、整合器116と、絶縁部材111により電気的に接地されていない電力供給部材103,104を介して反応容器101内の電極102に供給される。また、プロセスガスについては、ガスボンベ114から流量制御装置113とガス供給部112を介して反応容器101内に供給される。ここでプロセスガスとは、プラズマの生成・維持を促進するヘリウムやアルゴンなどの希ガスや実際にエッチングなどの加工に寄与する塩素ガスなどのことを示す。
基板ヒータ107およびXYステージ108は金属材料から成り、接地された状態になっている。電極102と基板ヒータ107との間に高周波電圧を印加することにより、両者の間の空間に電界が形成され、ガス供給部112から供給されたプロセスガスを励起して、プラズマ117を生成する。被処理体である基板106は図示しない搬送部により、基板ヒータ107上に載置され、プラズマ117内で生成されたラジカルなどの反応種により加工される。このとき、基板106の温度が、使用するハロゲンガスと基板106との化合物の沸点以上となるように、基板ヒータ107により基板106を加熱しておく。加工に使用されたガスや余剰のガスは排気ポンプ115により装置外に排気される。
このように構成された大気圧プラズマ加工処理装置において、プラズマプロセスを次のようにして行う。なお、この第2実施形態では、ハロゲンガスとして塩素ガスを用い、被処理体の基板として窒化ガリウム基板を用いて、基板表面をエッチング加工する処理を例として説明する。
まず、基板106を基板ヒータ107の所定の位置に載置した後、反応容器101内が排気ポンプ115により真空排気される。一度、反応容器101内を真空排気することにより、加工処理を行うときの反応容器101内の状況の再現性を向上させることができ、プラズマプロセスを安定して行うことができる。
次に、プロセスガスの供給を行う。ガスボンベ114から供給されたプロセスガスは、流量制御装置113により所定の混合比に設定された状態で、ガス供給部112により反応容器101内に大気圧近傍の圧力になるまで導入される。
所定の圧力までプロセスガスが供給された後、基板106表面と電極102の間隔が所定の値になるまで、昇降機構110により電極102を下降させる。なお、昇降機構110はベローズ109を介して反応容器101外に設置されている。
基板106表面と電極102の間隔を設定した後、高周波電源105より整合器116および電力供給部材103,104を介して、高周波電力を電極102に供給する。それにより、電極102と基板106の間に電界が形成され、供給されたプラズマプロセスガスを励起して、プラズマ117を生成する。プラズマ117を生成した後、XYステージ108が水平方向に移動し、基板106表面に対して加工を行う。加工量については、XYステージ108の搬送スピード、搬送回数により制御することができる。
この第2実施形態においては、先端を鋭利な形状とした0.3mmφのグラファイトから成る電極を電極102に使用した。供給する高周波の周波数を150MHz、投入電力を60W、基板106表面と電極2の間隔を0.5mmと設定し、He=98%、Cl2=2%の条件下でプラズマを生成した。基板温度は、ガリウムと塩素の化合物であるGaCl3の沸点以上となる230℃と設定した。XYステージ108の搬送スピードを2mm/min、搬送回数を1回と設定し、図7に示すように電極102に対して基板106を相対的に移動させる。このような条件で加工を行った結果、基板106表面上にフォトリソグラフィ工程を経て作成した場合とほぼ同形状のストライプ状の凹部を形成することができた。このように、基板106を移動させてストライプ状の凹部を形成する方法を用いると、プラズマの生成条件を変更することなく、基板106の搬送速度や搬送回数を変更するだけで、加工量を制御することができる。なお、図中の矢印R1は基板106の搬送方向を示している。
以上のように、この発明によるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を用いることにより、従来の製造方法と比べて、複数の工程を必要とせず、より簡便に基板表面上に凹部を形成することができる。
また、この発明を用いることにより、以下のような効果も得ることができる。
この発明によるIII族窒化物半導体発光素子の製造方法においては、大気圧近傍の圧力下でプラズマを生成する。大気圧近傍の圧力下でのプラズマ中のイオンの平均自由行程は0.1μm程度であり、また、高周波の周波数が150MHzであれば通常イオンはプラズマ中でほぼ静止しているか、振動してプラズマ中の分子と原子と衝突しているため、イオンは基板106表面には達することがなく、物理的な衝突は起きない。また、電気的に中性なラジカル(塩素活性種)は基板106表面に達するが、基板106と化学的な反応のみを起こす。よって、基板表面に対する物理的な損傷を抑制することができる。
また、従来例のように、SiO2膜を基板表面に形成する必要がないので、III族窒化物半導体発光素子に対する異種材料の混入を防ぐことができる。また、ストライプ状の凹部を形成するために、SiO2およびGaN基板をエッチングするとき、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)を用いた場合、基板に対してイオンの衝突が発生するので、物理的な損傷が発生する恐れがある。これに対して、この発明を用いた場合は、上記のように基板に対する物理的な損傷を抑制することができる。また、従来のように工程数が多い場合、使用する装置の数が増加し、各々の装置の経時的な変化が発生すると、プロセスの再現性が低下する可能性があった。しかし、この発明を用いた場合、1工程のみの加工プロセスなので、再現性良く行うことができる。
ここで、電極については、上記第2実施形態で示すような材質・形状のものと限らない。図8(a),図8(b)に示す電極140A,130Bのような先端の形状が針状でないものや、球状のものでもよい。また、グラファイト製ではなく、図8(c)に示す電極140Cのように、金属製の電極部材131の基板と対向する面に誘電体部材132を配置した構成の電極や、図8(d) に示す電極140Dのように、金属製の電極部材131の表面に誘電体被覆部材133を溶射などの方法で形成した電極を用いても良い。ここで、図6,図8に示すような棒状の電極は、天地方向を回転軸とした回転機構(図示せず)を用いて、回転させた状態で用いても良い。電極を回転させた状態でエッチングを行うことにより、電極先端の形状が直接加工形状に反映することがなくなり、より対称な形状の凹部を形成することができる。
また、図9(a)は断面5角形の角柱形状の電極140A、図9(b)は、図9(a)に示す断面5角形の角柱形状の電極140Aの下端の稜線を平らにした断面6角形の角柱形状の電極140B、図9(c)は断面5角形の柱形状の電極140C、図9(d)は円柱形状の電極140Dを示している。
図9(a)に示す電極140Aのようなある一方の端面の面積が小さく鋭利な形状となっている板状のものでも良い。このような形状のものを用いた場合は、基板を搬送することなくストライプ状の凹部を形成することができる。また、端面の形状については図9(b)〜図9(d)に示す電極140B〜140Dのようなものでも良く、図8(c),図8(d)と同様に金属製の電極部材の表面に誘電体を設置、または被覆したものでも良い。また、図6,図8に示すような棒状の電極が複数並列に配置された櫛歯状の電極や、図9に示すような板状の電極が複数並列に配置された電極としても良く、棒状の電極と板状の電極が複数組み合わされたものなどでも良い。
なお、この第2実施形態において、ヘリウムガスと塩素ガスとの混合ガスを使用したが、必ずしもこれに限らない。ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスまたはキセノンガスのいずれか1種または複数種を用いることができる。
また、この第2実施形態において、反応容器である反応容器101の内部の圧力は、特に大気圧において最もその効果を発揮するものであるが、100Torr〜2気圧を好適な圧力範囲とし、適用可能な圧力範囲としては例えば10Torr〜5気圧が挙げられる。
また、この第2実施形態においてIII族窒化物半導体基板としてGaNを用いたが、AlNやInNでも適用することができる。
次に、この第2実施形態のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法により、表面にストライプ状の凹部を形成した基板を用いてIII族窒化物半導体発光素子を形成した場合の効果について説明する。
図10(a)に、この第2実施形態のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を用いて得られた基板を示す。150はGaN基板、151は表面平坦部、152は大気圧プラズマでエッチングした領域である。以下、GaN基板150のうち、エッチングによって除去されて凹部となった部分152を、掘り込み領域と呼ぶ。掘り込み領域の作製は、低欠陥領域を含むGaN基板上に、一度GaN、InGaN、AlGaN、InAlGaN等の薄膜を成長し、その後に行っても構わない。つまり、一度成長を行い、次に掘り込み領域を形成して、III族窒化物半導体膜を成長した場合であっても、この発明に含まれる。
このGaN基板150上に、図11に示すIII族窒化物半導体膜を成長させて、図10(b)に示すような第2実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子を得る。図10(b)は、半導体レーザ素子の断面図であり、光出射方向から見た図である。
ここで、150はn型GaN基板であり、この基板150中には低欠陥領域が存在している。
図11に示すIII族窒化物半導体膜は、n型GaN層(1.0μm)160上にn型Al0.062Ga0.938N第一クラッド層(1.5μm)161、n型Al0.1Ga0.9N第二クラッド層(0.2μm)162、n型Al0.062Ga0.938N第三クラッド層(0.1μm)163、n型GaNガイド層(0.1μm)164、InGaN/GaN−3MQW活性層(InGaN/GaN=4nm/8nm)165、p型Al0.3Ga0.7N蒸発防止層(20nm)166、p型GaNガイド層(0.05μm)167、p型Al0.062Ga0.938Nクラッド層(0.5μm)168、p型GaNコンタクト層169(0.1μm)が順番に積層されている。
この図11のIII族窒化物半導体膜と同じ構成のIII族窒化物半導体膜(エピタキシャル成長層)153が基板150上に形成されている。また、III族窒化物半導体膜153上面には、レーザ光導波路構造であるレーザストライプ154が作製されている。このレーザストライプ154は、基板150に含まれる低欠陥領域上に位置するように形成される必要がある。この第2実施形態で用いている基板は、基板全面で低欠陥領域であるため、どこにレーザストライプを形成してもよいが、掘り込み領域上には、レーザストライプを形成してはいけない。その理由に関しては後述する。
III族窒化物半導体膜153の上面には、電流狭窄を目的とした電流狭窄用SiO2膜155が形成されており、その電流狭窄用SiO2膜155の上面にはp型電極156が形成されている。また、基板50下面には、n型電極157が形成されている。III族窒化物半導体膜153のうちの掘り込み領域152上に位置する部位の上面は、掘り込み領域152の影響を受けて凹部となっている。
上記掘り込み領域152上の部位の上面が凹部となるか否かは、III族窒化物半導体膜の厚さによる。なお、III族窒化物半導体膜の厚さが大きくなると、掘り込み領域152上の部位の上面の平坦性が上がるが、この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法においては、掘り込み領域の上部が凹部となっているか平坦であるかは問題ではない。
図10(b)において、レーザストライプ154の中央部と掘り込み領域152の端との距離をdで表すとき、d=40μmとした。この第2実施形態では、全面においてクラックが全くない窒化物半導体膜153が得られた。
そして、ウェハーを分割してIII族窒化物半導体レーザ素子とするには、一般の素子化プロセスを採用することができる。この素子化プロセスについては説明を省略する。チップ分割後のIII族窒化物半導体レーザ素子内には、クラックは認められなかった。そのため、III族窒化物半導体レーザ素子の発振特性が安定し、この第2実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の所定の発振特性(光出力が30mWの時の駆動電流Iopが70mA以下である。)が得られる歩留まりは90%を超えた。
このようにして素子化されたIII族窒化物半導体レーザ素子の寿命試験を、APC(Automatic Power Control)駆動で60℃、出力30mWの条件下で行った。寿命試験における各素子の発光波長は405±5nmであった。各ウェハーから、所定の初期特性を満足した素子を無作為に50素子取り出し、III族窒化物半導体レーザ素子の寿命が3000時間を越えた数を歩留まりとして調べた。このとき、この第2実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の歩留まりは85%を超えた。
ここで、掘り込み領域上部に、レーザストライプを形成してはいけない理由について説明する。
III族窒化物半導体膜のエピタキシャル成長工程において、掘り込み領域上部は、掘り込まれていない両脇部分から横方向に膜の成長が起こり、掘り込み領域の凹部に流れ込みが生じる。このとき両脇から押されるため、掘り込み領域上部は、掘り込まれていない領域に比べ大きな歪みを内包することになると考えられる。また、掘り込み領域は両側が壁になっているために、両側に広がろうとする成長を壁によって妨げられて歪みを内包することになる。掘り込み領域の成長は複雑で、色々な方向からの成長(掘り込み領域の底面からの通常の成長、掘り込み領域の側面からの成長、掘り込まれていない領域からの流れ込み成長など)が起こるため、歪み量が掘り込み領域内でも異なるばかりでなく、歪む方向も場所によって異なってくるため、再現性に乏しく安定しない。このことが歩留まりを落とす原因であると考えられる。
また、色々な方向からの成長が起こるため、各成長の会合部には、転位や欠陥等が多く発生する。したがって、掘り込み領域上にレーザストライプを作製すると、この転位や欠陥等により劣化が促進されることになって、長寿命化ができない。
一方、掘り込まれていない領域は、III族窒化物半導体膜のエピタキシャル成長に際して掘り込み領域に流れ込むため、歪みを外側に解放することができる。この歪みの解放がクラックの発生を抑えると同時に、掘り込まれていない領域の歪みを解放する。この歪みの解放は非常に再現性良く安定して生じる。また、掘り込み領域上とは異なり、色々な方向からの成長がないため、転位、欠陥等も少なく良好な結晶性の膜となる。これらの理由で、掘り込まれていない領域上にレーザストライプを作製すると、III族窒化物半導体レーザ素子の信頼性が向上し、寿命特性も向上したものと考えられる。
この第2実施形態では、掘り込み領域152を作製し、掘り込み領域152の上部以外の表面平坦部151にレーザストライプ154を作りこむことにより、LD素子特性の信頼性を格段に向上させ、クラックの発生を抑え、歩留まりを飛躍的に改善することができた。
ここで、III族窒化物半導体レーザ素子のレーザストライプ154は、掘り込み領域152の影響によるばらつき(歪みと平坦性)を抑えるために、掘り込み領域152からある程度の距離、最低でも5μm以上離す必要がある(30μm以上離したほうが望ましい)。掘り込み領域152から5μm未満の位置では、基板からの欠陥の伝搬を横方向成長によって抑制するような効果は得られない。
この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法において、基板に設ける掘り込み領域152は、いわゆるラテラル(横方向)成長技術(例えばELOG技術など)の効果により、基板から結晶成長膜に伸びる欠陥の密度を低減する目的で基板に溝を設ける技術とは、全く異なっている。欠陥密度を低減する目的の場合、横方向成長による効果を得るために、溝の間隔は、通常形成させられる層の膜厚程度以下であり、最大限の間隔を広げたとしても、その3倍程度以下である。この構造では、上記に示したような溝に平行な方向に層厚が均一になるという領域が得がたいため、レーザストライプを形成したときに、ストライプ方向に変化した均一でない膜厚分布になってしまい好ましくない。
一方、この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法における掘り込み領域152は、このような基板から結晶成長膜に伸びる欠陥の密度を低減する目的で設けられたものではなく、レーザストライプ位置における平坦度をある程度保持し、かつ、クラックを有効に防止する目的で設けるものである。その間隔は、半導体レーザ素子の幅程度のオーダであって、最小限で、50μm程度になる。好ましくは100μm以上離したほうが良い。
ここで、掘り込み領域のパターンとしては、図12(a)に示すように、2本の掘り込み領域172がある間隔で並んでいる場合であっても良いし、図12(b)〜図12(d)に示すように、掘り込み領域172の本数が2本以上であっても、また異なる周期が、混在していてもよく、また、1本と2本の掘り込み領域172のパターンが混在しているなど、様々な場合が考えられるが、表面平坦部171と掘り込み領域172との周期が、III族窒化物半導体レーザ素子の幅程度のオーダである50μm以上あればよい。
また、掘り込み領域の方向に関して、図10において[1−100]方向に平行に掘り込み領域を形成しているが、例えば[11−20]方向に平行に掘り込み領域を形成しても良いし、この発明の効果は基本的に掘り込む方向には依存しないため、どの方向に形成してもよい。
また、使用する基板には、欠陥密度の高い領域があっても良いが、エピタキシャル成長するときに、表面モフォロジーの悪化を引き起こすことがあるため、無い方が好ましい。
さらに、ここでは半導体レーザ素子に関して詳細に記述したが、この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体発光素子の製造方法は、これに限定したものではなく、発光ダイオード(LED(Light Emitting Diode))、FET(Field Effect Transistor)などの電子デバイスを、この第2実施形態で示した基板上に作製した場合においても、上述した内容と同様の議論により、III族窒化物半導体膜に内包される歪みおよびクラックを大幅に低減して、歩留まりを向上させることができる。LEDなどでは、膜に内包される歪みにより、発光パターンにムラを生じる、発光強度の低下など問題が指摘されている。
このようなデバイスの場合、図13A,図13Bに示すように、掘り込み領域181を、ストライプ状に作成し、網目状に縦横に掘り込んでも良い。図13A,図13Bにおいて、182はn型GaN基板、183はp型電極、184はn型電極、185はIII族窒化物半導体膜である。図13A,図13Bのような構造でLEDを作成した場合においても、III族窒化物半導体膜に内包される歪みを低減し、発光パターンのムラを抑え、クラックを0本に抑え込むことができた。
また、半導体レーザ素子と同様、掘り込まれていない領域上に発光ダイオード(LED)などの電子デバイスを作製することが、信頼性が向上し、寿命特性も向上することから好ましい。
次に、この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法およびそれを用いて製造されたIII族窒化物半導体レーザ素子の第3実施形態について説明する前に、その背景について詳細を説明する。
GaN、AlN、InNおよびそれらの混晶に代表される半導体材料から成るIII−V族化合物半導体は、高温等の過酷な環境下での動作が可能であるため、トランジスタ等の電子デバイスへの応用も期待されており、特に青色より短波長の光を発する半導体レーザ素子は光記録ディスク用の光源として期待されており、今後も光出力のさらなる増大が期待されている。
このような半導体レーザ素子において、光出力が増大するにつれて問題となるのが、レーザ共振器端面に発生する損傷である。この損傷は、一般的な光学素子でも起こる現象であるが、半導体レーザ素子の場合では、特にCOD(Catastrophic Optical Damage:光学損傷)と呼ばれ、GaAsあるいはInP系の赤外・赤色レーザにおいても観測されている現象である。この損傷は、光出力端面がレーザ光を吸収して局所的に温度が上昇し、溶融するために生じる損傷であり、ファブリペロー共振器の端面が損傷により反射鏡の役目を果たさなくなるため、レーザ発振が止まってしまうという、半導体レーザ素子にとっては致命的な損傷である。
これまで、GaAsやInP系の素子において、このCODを防止する方法として、ファブリペロー共振器の両端面をイオン注入法やバンドギャップを広げることによって、光吸収を低減する方法が採られていた。このバンドギャップを広げた領域は窓領域と呼ばれ、窓領域以外の領域、つまり発光が起こる領域を活性領域と呼ぶ。
一方、特開平7−94830号公報では、両端面あるいは活性層の両端をケミカルエッチングによりエッチングすることにより、共振器端面の界面準位を低減して、界面再結合による発熱を防止する方法が提案されている。
また、特開2004−260058号公報では、劈開もしくは誘導結合プラズマエッチングにより形成されたIII族窒化物半導体素子の少なくとも一方の端面に低エネルギーのイオンビームエッチングを行い、劈開もしくはエッチングの際に形成される端面のマイクロクラックを除去するという技術が開示されている。
しかし、特開平7−94830号公報は、GaAs系半導体やInP系半導体で形成された赤外から赤色までの発光素子に適用したものである。III族窒化物半導体を用いた発光素子は、フォトンエネルギーの高い短波長のレーザ光を出射するため、端面損傷(COD)がGaAs系あるいはInP系半導体以上に発生しやすいと考えられるが、III族窒化物半導体においては特有の強固な結晶構造あるいは構成元素の強固な結合から化学的な手法によるエッチングは困難である。反応性イオンエッチング等の低圧雰囲気下でのドライエッチングの手法は可能であるが、通常の方法でレーザ共振器の両端面にそれを行うと平坦性が損なわれるため、そのままでは半導体レーザ素子としては使用不可能である。
併せて、III族窒化物半導体を用いた半導体レーザ素子では、強固でしかも、六方晶系の結晶構造を持つという理由から、劈開による共振器端面の形成がGaAsやInP系といった正方晶系の半導体を用いた発光素子と比較して大変困難である。そのために、劈開後の端面にも多くの微細な結晶欠陥(マイクロクラック)が存在し、これも端面損傷(COD)を引き起こす原因の一つであると考えられる。
また、特開2004−260058号公報では、III族窒化物半導体を用いた発光素子の端面に対する処理技術として、イオンビームエッチング法はプラズマ中で発生したイオンを電圧で加速させ、イオンを被処理物表面に衝突させて加工を行う方法が開示されている。この方法では、加速電圧を十分に低くしたとしても、その加工の機構から物理的なダメージが基板表面に発生すると考えられる。
この発明のIII族窒化物半導体の加工方法を用いたIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法は、容易に高出力で長寿命なIII族窒化物半導体レーザ素子を提供する。
以下、この発明の第3実施形態について図面を参照しながら説明する。
〔第3実施形態〕
第3実施形態においては、大気圧または大気圧近傍の圧力下でプラズマを形成し、そのプラズマをIII族窒化物半導体レーザ素子の共振器端面に接触させて処理を行う。
使用する大気圧プラズマ加工処理装置は、第2実施形態に示す装置と同様であり、電極102として、図9(c)に示す形状のグラファイトから成る電極を用いた。その他の装置構成は第2実施形態と同一であり、また、プロセスの手順も同じである。
次に、この第3実施形態における被処理体について、図15,図16を参照にして説明する。
図15は第3実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法によって製造されるIII族窒化物半導体レーザ素子の構成を示す断面図であり、光出射方向から見た図である。230はGaN基板であり、そのGaN基板230上には、図16に示すIII族窒化物半導体膜と同じ構成のIII族窒化物半導体膜(エピタキシャル成長層)231が形成されている。また、III族窒化物半導体膜231上面には、レーザ光導波路構造であるレーザストライプ232が作製されている。III族窒化物半導体膜231の上面には電流狭窄用SiO2233が形成されており、その電流狭窄用SiO2233上面にはp型電極234が形成されている。また、GaN基板230下面には、n型電極235が形成されている。
次に、III族窒化物半導体膜(エピタキシャル成長層)の構造について図16を用いて説明する。図16に示すように、n型GaN層(1.0μm)240上にn型Al0.062Ga0.938N第一クラッド層(1.5μm)241、n型Al0.1Ga0.9N第二クラッド層(0.2μm)242、n型Al0.062Ga0.938N第三クラッド層(0.1μm)243、n型GaNガイド層(0.1μm)244、InGaN/GaN−3MQW活性層(InGaN/GaN=4nm/8nm)245、p型Al0.3Ga0.7N蒸発防止層(20nm)246、p型GaNガイド層(0.05μm)247、p型Al0.062Ga0.938Nクラッド層(0.5μm)248、p型GaNコンタクト層249(0.1μm)が順番に積層されている。
このような構造を有するIII族窒化物半導体膜231、レーザストライプ232、電流狭窄用SiO2233、p型電極234、n型電極235は、直径1インチのGaN基板全面に対して形成される。
ここで、GaN基板全面に対して、上記の構造を形成した物体を積層体250と呼ぶことにする。
図17はこの第3実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法を工程順に示した構造断面図である。図17に示す積層体250に対して、GaN結晶の[1−100]方向と平行にストライプを形成するためと、所望の共振器長となるようGaN結晶の[1−100]方向と垂直な方向に共振器端面を形成するために、レジストパターン251を形成する(図17(a))。レジストを塗布した積層体250上にGaN結晶の[1−100]方向と平行な方向と垂直な方向にストライプが切ってある。レーザ共振器に沿った間隔は100〜500μmとし、レーザ共振器長を決める共振器端面に沿った間隔は600〜800μmとした。なお、ここで述べている使用基板、窒化物系半導体の構成および膜厚、レジストパターンの間隔、共振器長、その他積層体250の構成は一例であり、この発明の適用範囲を限定するものではない。
その後、低圧雰囲気下で行うICPプラズマエッチング装置を用いてn型GaN層240(図16に示す)までエッチングを行うことにより、溝252を形成する。この工程により積層体250は、レーザ共振器部分のみが格子状に残った状態となる(図17(b))。
次にIII族窒化物半導体が部分的にエッチングされた箇所である溝252に対して、レーザ出射面と平行にサファイア基板をスクライブすることによりスクライブ溝253を形成し(図17(c))、破線254に沿ってバー状に分割する(図17(d))。このバー状に分割された積層体をバー状積層体255と呼ぶことにする。
ここで、上記第3実施形態では、積層体250をバー状に分割する方法として、ICPプラズマエッチング法を用いた方法を示したが、必ずしもこれに限らない。高い異方性エッチングが可能であり、被処理体である共振器端面に対してダメージを与えることが抑制でき、かつ端面表面の形状が滑らかであれば、マイクロ波を利用した方式など、その他の方式のプラズマエッチング装置を用いてもよい。また、劈開により積層体250をバー状に分割して、端面を形成してもよい。
分割されたバー状積層体255は、洗浄された後、図18に示すように共振器端面が上向きになるような状態で、複数を一度にホルダー261に配置する。このホルダー261上にバー状積層体255が配置されたものが被処理体206であり、大気圧プラズマ加工処理装置に搬入される。
この大気圧プラズマ加工処理装置により、ICPプラズマエッチングや劈開により形成された端面に対して大気圧プラズマプロセスを行い、端面作成時に生じるマイクロクラックなどの欠陥を除去する。
この第3実施形態においては、図9(c)に示すような形態の電極で、形成されるプラズマの幅が7cmとなる電極を使用した。供給する高周波の周波数を150MHz、投入電力を150W、被処理体206表面と電極部102の下面の間隔を0.5mmと設定し、He=99%、Cl2=1%の条件下でプラズマを生成した。基板温度は、ガリウムと塩素の化合物であるGaCl3の沸点以上となる230℃と設定した。そして、XYステージ108の搬送スピードを20mm/min、搬送回数を5回と設定し、図18に示すようにプラズマ225に対して、図中の矢印R2の方向に被処理体206を相対的に移動させた。
この第3実施形態の大気圧プラズマ加工処理装置を用いることにより、以下に示す効果を得ることができる。
この第3実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法においては、大気圧近傍の圧力下でプラズマを生成する。大気圧近傍の圧力下でのプラズマ中のイオンの平均自由行程は0.1μm程度であり、また、高周波の周波数が150MHzであれば通常イオンはプラズマ中でほぼ静止しているか、振動してプラズマ中の分子と原子と衝突しているため、イオンは被処理体206表面には達することがなく、物理的な衝突は起きない。また、電気的に中性なラジカル(塩素活性種)は被処理体206表面に達するが、被処理体206と化学的な反応のみを起こす。よって、被処理体206表面に対する物理的な損傷を抑制することができる。
また、この第3実施形態の大気圧プラズマ加工処理装置を用いることにより、プラズマの生成条件を変更することなく、被処理体206の搬送速度や搬送回数を変更するだけで、加工量を制御することができる。
以上の処理を行ったバー状積層体255の端面表面に誘電体膜(図示せず)を形成した後、個々の素子に分割して、III族窒化物半導体レーザ素子が完成する。
このようにして素子化されたIII族窒化物半導体レーザ素子の寿命試験を、APC(Automatic Power Control)駆動で60℃、出力30mWの条件下で行った。寿命試験における各素子の発光波長は405±5nmであった。各ウェハーから、所定の初期特性を満足した素子を無作為に50素子取り出し、半導体レーザ素子の寿命を測定した結果、大気圧プラズマプロセスを行った素子の寿命は、上記プロセスを行っていない素子の寿命の1.5倍となることが確認され、端面損傷(COD)に強いIII族窒化物半導体レーザ素子を得ることができた。
なお、この第3実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法おいて、プロセスガスとしてヘリウムガスと塩素ガスとの混合ガスを使用したが、必ずしもこれに限らない。ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガスまたはキセノンガスのいずれか1種または複数種を用いることができる。但し、水素原子が含まれていないガスを使用することとする。水素原子が含まれていると、半導体レーザ素子の端面にプラズマ処理をしたときに、水素原子が活性層に侵入して、結晶性を低下させる可能性がある。また、活性層の周囲の化合物半導体層に水素原子が拡散すると、水素パッシベーションが行われ、化合物半導体層が高抵抗化し、素子性能を劣化する可能性がある。以上の理由により、水素原子が含まれていないガスを使用することとする。
また、この第3実施形態のIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法において、反応容器101の内部の圧力は特に大気圧において最もその効果を発揮するものであるが、100Torr〜2気圧を好適な圧力範囲とし、適用可能な圧力範囲としては例えば10Torr〜5気圧が挙げられる。
また、この発明のIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法では、基板に窒化ガリウム基板を用いた例を挙げているが、この発明は共振器端面の処理に関するものであり、基板にサファイア基板などを用いた場合においても、同様の効果が得られる。また、横方向選択成長を用いて低転位密度のIII族窒化物半導体結晶を成長させることにより得た半導体レーザ素子においても、同様の効果が得られる。
また、レーザ光出射端面付近に不純物を拡散することによりバンドギャップを大きくするいわゆる窓効果と、この発明のレーザ共振器端面に対する大気圧プラズマプロセスとを組み合わせた場合においても、この発明は同様の効果が得られる。
また、これらの発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。また、説明に使用した図面は一部分を誇張して表現したものであり、図面内の寸法、寸法比率および位置関係は必ずしも正しいものではない。
以上のように、この発明によるIII族窒化物半導体レーザ素子の製造方法を用いることにより、レーザ光出射端面近傍に生じるマイクロクラックなどの結晶欠陥の除去を行い、端面損傷を抑制することができ、従来のIII族窒化物半導体レーザ素子と比べて、寿命と光出力を向上した素子を得ることを可能とする。