JP4677862B2 - 炭素繊維の製造方法およびその装置 - Google Patents

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Description

本発明は、特に引張強度、引張弾性率に優れ、圧縮強度、および圧縮弾性率にも優れた炭素繊維の製造方法に関するものである。
炭素繊維は、その優れた力学特性および電気特性からさまざまな用途に利用されている。近年では、従来のゴルフクラブや釣竿などのスポーツ用途、航空機用途に加え、自動車部材、CNGタンク、建造物の耐震補強、船舶部材などいわゆる一般産業用途への展開が進み、それに伴い、求められる力学特性のレベルも高まっている。例えば航空機用途では、軽量化のため構造部材の多くが炭素繊維強化プラスチックに置き換えられつつあり、圧縮強度と圧縮弾性率が高いレベルで両立した炭素繊維が求められている。
炭素繊維は、工業的には、通常、ポリアクリロニトリルなどの前駆体繊維を200〜300℃の空気中で熱処理する耐炎化工程、さらに不活性雰囲気中最高温度600〜800℃で予備炭化工程、不活性雰囲気中最高温度1000〜3000℃で炭化する炭化工程を経て製造される。一般に、炭化工程での最高温度を高くするほど、得られる炭素繊維において、引張弾性率の上昇に伴い、圧縮弾性率も高くできる。しかし、圧縮強度は、炭化工程での最高温度1200℃付近で極大となり、それ以上では高温にするに従って低下する傾向が見られ、特に1700℃以上の領域になると炭素結晶が再配列する影響を受け、著しい低下が見られる。これに対して、炭化工程での最高温度を低くして引張弾性率を高める技術については、これまでいくつかの提案がなされている。
例えば、特許文献1では、乾湿式紡糸法により得られ、π(400)で示される繊維のX線配向度が91%以上のポリアクリロニトリル系前駆体繊維を0.2g/dtex以上の一定張力下200〜300℃の温度で加熱、安定化させた後、300〜900℃の温度の不活性雰囲気中で一定張力下に加熱して予備炭化した後、さらに1000〜1500℃の不活性雰囲気中で一定張力下に加熱し、炭化を完結せしめる炭素繊維の製造技術が開示されている。しかし、本文献のように張力下に耐炎化、予備炭化、炭化処理をせしめただけでは延伸に限界があり、高配向は達成できないという問題がある。
また、特許文献2では、アクリロニトリル系繊維を約230〜350℃の酸素含有雰囲気中で加熱して酸素含有量が約5〜8重量%の不完全酸化繊維を形成せしめ、ついで不活性雰囲気中で炭化可能な繊維に転換せしめた後少なくとも1000℃の不活性雰囲気で加熱して炭化乃至黒鉛化する炭素繊維の製造方法が記載されている。本文献の方法に従うことにより、炭化収率は向上するが、性能向上のため不活性雰囲気中処理における張力を高める、すなわち延伸倍率を高めようとすると糸切れが多発し、プリプレグ等の高次加工に耐えられる炭素繊維を得ることができないと言う問題があった。
また、特許文献3では、ポリアクリロニトリル繊維をラビリンスシールと称する矩形もしくは環状の小口径を有するシールノズルを加圧スチームの供給部前後に何本か継ぎ合わせてなる加圧スチーム延伸機を使用して延伸する方法が示されているが、1糸条毎に金属製チューブが必要であり、また高圧スチームが必要なことから最良の方法と言えないという問題があった。
特開昭62−117818号公報 特開昭58−174630号公報 特開平05−044132号公報
本発明の目的は、前記した従来の技術における問題点を解決し、プロセス性を損なうことなく、引張強度、引張弾性率および圧縮強度に優れたポリアクリロニトリル系炭素繊維を製造する方法を提供することにある。
かかる本発明の目的を達成するために、本発明は次の構成を有する。
すなわち、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、空気中200〜300℃で熱処理する耐炎化工程、不活性雰囲気中最高温度600〜800℃で熱処理する予備炭化工程、さらに不活性雰囲気中最高温度1000〜3000℃で熱処理する炭化工程を順次経て炭素繊維に転換する炭素繊維の製造方法であって、前記耐炎化工程の途中または耐炎化工程以降予備炭化工程に至るまでの間において、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中で繊維を処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法である。かかる常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中の処理温度は200℃〜500℃であることが好ましく、またその際の延伸比が1.0〜3.0であることが好ましい。
また、本発明においては、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中での処理は、耐炎化工程と予備炭化工程との間で行うことが好ましい。さらに、本発明において、常圧過熱水蒸気による処理は、繊維を通過させるための熱処理室と、繊維を加熱するために熱処理室内に設けられた常圧過熱水蒸気発生ノズルとを有する熱処理炉により行われることが好ましい。
本発明によれば、生産性、プロセス性を損なうことなく、焼成工程での高延伸を実現でき、それにより引張強度、引張弾性率、圧縮強度、および圧縮弾性率に優れた炭素繊維を低コストで製造できる。また、得られる炭素繊維の前駆体繊維からの炭化収率も高いため、生産性も向上する。

本発明者らは、アクリル繊維から炭素繊維にいたる工程の途中でポリアクリロニトリル系繊維、その耐炎化途中糸、耐炎化繊維に常圧過熱水蒸気を含んだ雰囲気で熱処理することにより、炭化収率を向上させながら、高延伸で焼成することができ、炭素結晶の配向度が十分高く、かつ結晶サイズが十分微細な圧縮強度の高い炭素繊維を製造できることを見出した。特に、200℃を越える過熱水蒸気を用いて処理する場合には、環化反応と可塑化による延伸を両立でき、その結果、高い結晶配向性と高炭化収率が両立できるのである。常圧過熱水蒸気を含んだ雰囲気で熱処理することにより、かかる効果が生じるメカニズムは定かではないが、常圧過熱蒸気中の水分子が耐炎化途中糸や耐炎化繊維中のポリマーの分子間に浸透し、分子間の拘束力を減少させ延伸しやすくなるものと考えられ、さらに、その雰囲気が例えば200℃以上という高温であるために、固体である耐炎化途中糸や耐炎化繊維を構成する分子の分子運動が活発になり、未閉環部分の環化反応が促進されるためと考えられる。
本発明では、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、空気中200〜300℃で熱処理する耐炎化工程、不活性雰囲気中最高温度600〜800℃で熱処理する予備炭化工程、さらに不活性雰囲気中最高温度1000〜3000℃で熱処理する炭化工程を順次経て炭素繊維に転換する。
本発明で用いるポリアクリロニトリル系前駆体繊維は、アクリル系重合体で構成されている。アクリル系重合体は、アクリロニトリル100%でも良いが、耐炎化効率の面からはアクリロニトリルと共重合成分との共重合体とすることが好ましい。共重合成分としては、いわゆる耐炎化促進成分として、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が好ましく用いられる。共重合体における共重合成分の量は、合計で0〜10モル%が好ましく、0.1〜5モル%がより好ましく、0.2〜2モル%がより好ましい。アクリル系重合体を重合する方法としては特に限定されないが、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。ポリアクリロニトリル計前駆体繊維は、アクリル系重合体が有機、無機の溶媒に溶解した紡糸原液を、湿式、乾湿式などの紡糸法により紡糸して製造されるのが一般的である。口金から紡出された凝固糸は単数もしくは複数の水浴中で水洗、延伸され水膨潤状態の繊維を得る。水膨潤状態の繊維に油剤を付与し、乾燥した後、加圧スチーム中もしくは乾熱下で延伸された後、巻き取って前駆体繊維とする。前駆体繊維の単繊維繊度は0.5〜1.5dtexが好ましい。単繊維繊度が小さすぎると、口金吐出部が不安定になって凝固時に糸切れが発生しやすく、焼成工程で巻き付きが発生したり、得られる炭素繊維の毛羽品位が低下する問題が生じる場合がある一方で、大きすぎると、耐炎化において内外構造差が発生し、予備炭化工程で糸切れが発生しやすくなったり、得られる炭素繊維の弾性率が低くなったりする問題が生じる場合がある。好ましくは0.6dtex〜1.3dtex、さらに好ましくは0.7〜1.1dtexとする。
本発明で用いるポリアクリロニトリル系前駆体繊維は、そのフィラメント数が1000〜30000であるのが好ましい。フィラメント数が少なすぎると、生産性が低下する一方で、多すぎると、耐炎化時の糸束内の酸素透過性が悪化するため、予備炭化時の糸切れが発生しやすくなることがある。
本発明において、常圧過熱水蒸気で処理する工程は、耐炎化工程の途中、たとえば耐炎化工程を兼ねていてもよいし、耐炎化工程以降予備炭化工程に至るまでの間で行っても良いが、中でも耐炎化工程以降予備炭化工程に至るまでの間で行うことが好ましい。本発明において、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気での処理とは、過熱水蒸気単独、もしくは他の気体との混合でもいずれでも良い。混合する気体の種類もいずれを問わないが、安全性、取り扱い性を考えると空気、もしくは窒素などが好ましく用いられる。本発明において常圧過熱水蒸気とは、常圧で100℃以上の温度を持つ水蒸気のことをいう。過熱水蒸気を発生させる方法はいずれを問わないが、ボイラーなどで生成させた100℃の飽和蒸気をバーナー、電気ヒーター、誘導過熱などによりさらに高温に過熱させることにより得ることができる。このような雰囲気下において処理の温度、時間、延伸率は適宜選択する事ができる。
本発明において、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気下での処理は、入出口にスリットを有する熱処理炉中で常圧加熱水蒸気を含んだガスを、繊維に吹き付けることにより達成できる。過熱水蒸気の吹き付け方向はいずれを問わないが、糸条の進行方向に対して垂直な方向たとえば糸条が水平方向に進行する場合は糸条の上下方向に配置することが好ましい。常圧過熱水蒸気を吹き付ける方法としては例えば、炉内に複数のノズルを均等に配置し、該ノズルより等量の常圧過熱水蒸気を均等に吹き付ける方法が好ましく用いられる。吹き付ける常圧過熱水蒸気の風速は、0.1〜5m/sec、好ましくは0.5〜2m/secとするのが良い。吹き付ける常圧過熱水蒸気の風速が小さすぎると、繊維束内部への常圧過熱水蒸気の進入が不十分となり処理のムラが発生することがあり、大きすぎると、繊維がばたついて毛羽や糸切れが発生しやすくなる。また、炉内の気流を一定にするために、気体を吹き付けるノズルと気体を吸引するノズルの両方を配置することが好ましい。
耐炎化工程は空気中で行われ、その処理の程度は温度、時間を適宜選択することにより達成できるが、温度は200℃〜300℃、好ましくは220〜280℃、より好ましくは230〜270℃とする。耐炎化工程における処理時間は、好ましくは10〜120分、より好ましくは20〜100分、さらに好ましくは30〜70分とする。耐炎化処理により得られる耐炎化繊維の比重が、好ましくは1.2〜1.5、より好ましくは1.25〜1.45、さらに好ましくは1.28〜1.42になるまで熱処理することが好ましい。耐炎化繊維の比重が小さすぎると耐炎化処理が不十分で、閉環および酸化構造が未発達のため、続く過熱水蒸気処理時間を長時間にしなければならないだけでなく、耐熱性が不十分となり、過熱水蒸気処理工程で毛羽や糸切れが発生するなどの問題が生じることがある一方で、耐炎化繊維の比重が大きすぎると、酸化が過多となり、炭素繊維の物性が低下することがある。耐炎化繊維の比重は後述する方法で求めることができる。
耐炎化工程においては、延伸比0.8〜1.3、好ましくは0.9〜1.2、より好ましくは0.95〜1.1として繊維を延伸するのが好ましい。かかる延伸比が小さすぎると、炭素結晶の配向が不十分となり、弾性率が発現しにくい一方で、大きすぎると耐炎化工程において毛羽や糸切れが発生することがある。本発明において、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中での処理を、耐炎化工程の途中で行う場合には、耐炎化工程で用いる耐炎化炉の中に、常圧過熱水蒸気を送り込めば良い。
本発明において、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中での処理を、耐炎化工程以降予備炭化工程に至るまでの間で行う場合には、その雰囲気温度は、好ましくは200℃〜500℃、より好ましくは、250℃〜400℃、さらに好ましくは、280℃〜350℃とする。かかる雰囲気温度が低すぎると、反応が不十分となり、物性の向上が望めない一方で、高すぎると、水蒸気により耐炎化繊維の一部が酸化分解いわゆる賦活を受けるため、ボイドが発生し、炭素繊維の引張強度などの物性を低下させたり、炭化収率が低くなるという問題が生じる場合がある。また、常圧過熱水蒸気処理に際しては、延伸比を、好ましくは、1.0〜3.0、より好ましくは、1.1〜2.5、さらに好ましくは、1.2〜2.0とする。かかる延伸比が小さすぎると、炭素結晶の配向が不十分になり、弾性率が低下することがあり、一方大きすぎると、毛羽や糸切れが発生し、物性が低下することがある。ここで、延伸比とは、処理後の糸条走行速度を処理前の糸条走行速度で割ったものをいい、処理の前後に糸条搬送用ドライブステーションを配置し、その速度比を制御することにより決定できる。
常圧過熱水蒸気を含んだ雰囲気中の処理時間は、好ましくは10秒以上、より好ましくは30秒以上、さらに好ましくは1分以上とする。処理時間が短すぎると処理が不十分となる。処理時間の上限は特にはないが、時間が長くなるにつれ、設備が大型化するため20分以下とするのが妥当である。
常圧過熱水蒸気を含む雰囲気で処理された繊維は引き続いて、予備炭化工程で処理される。予備炭化処理は不活性雰囲気下最高温度600〜800℃、好ましくは650〜750℃で処理される。不活性雰囲気とは窒素、アルゴン、ネオンなどの雰囲気を示すが、経済的観点から窒素が好ましい。予備炭化処理の最高温度が低すぎると、炭化工程で発生する分解ガス量が大きくなり、炭素繊維のボイドが多くなり、逆に高すぎると、炭素構造変化に伴う窒素ガスの排出が開始されるため、炉の排気系統が複雑になる。予備炭化工程における延伸比は0.9〜1.3、好ましくは1.0〜1.2とするのが良い。この工程での延伸比が低すぎると、炭素結晶の配向が不十分となり引張弾性率等の物性が十分発現しにくい一方で、高すぎると、毛羽が発生し品位が悪化したり、糸切れにより工程通過性が悪化する問題が生じることがある。また、予備炭化工程における200℃〜400℃の温度領域の滞留時間は1〜3分であることが好ましく、400〜500℃の温度領域では昇温速度を100〜500℃/分、好ましくは20〜150℃/分とするのが良い。
予備炭化処理された繊維は、引き続いて不活性雰囲気下最高温度1000〜3000℃で炭化処理される。ここで不活性雰囲気とは予備炭化処理と同様、窒素、アルゴン、ネオンなどの雰囲気を示すが、経済的観点から窒素が好ましい。炭化処理の最高温度が低すぎると、炭素構造の発達が不十分であるため、引張強度等、十分な物性が発現しない一方で、高すぎると炭化処理設備に用いる発熱体の寿命が極端に低くなるため、安定して連続生産できない問題がある。本発明の目的である高い引張強度、圧縮強度を両立させる面からいえば、炭化処理の最高温度は1200〜1800℃が好ましく、1300〜1600℃がより好ましい。
本発明において、炭化工程を通過して得た炭素繊維は、その表面改質のため、電解処理することができる。電解処理に用いる電解液には、硫酸、硝酸、塩酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムといったアルカリ又はそれらの塩を水溶液として使用することができる。ここで、電解処理に要する電気量は、適用する炭素繊維の炭化度に応じて適宜選択することができる。
かかる電解処理により、得られる複合材料において炭素繊維とマトリックスとの接着性が適正化でき、接着が強すぎることによる複合材料のブリトルな破壊や、繊維方向の引張強度が低下する問題や、繊維方向における引張強度は高いものの、樹脂との接着性に劣り、非繊維方向における強度特性が発現しないといった問題が解消され、得られる複合材料において、繊維方向と非繊維方向の両方向にバランスのとれた強度特性が発現されるようになる。
かかる電解処理の後、得られる炭素繊維に集束性を付与するため、サイジング処理をすることもできる。サイジング剤には、使用する樹脂の種類に応じて、樹脂との相溶性の良いサイジング剤を適宜選択することができる。
本発明により得られる炭素繊維は、引張強度および引張弾性率が高い、すなわち高伸度であり、また、相対的に低い焼成温度で高い引張弾性率が得られるため、圧縮強度も高いレベルを発現することができる。従って、プリプレグとしてオートクレーブ成形したり、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形したり、フィラメントワインディングで成形したりして、航空機部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿、ゴルフシャフトなどのスポーツ部材として、好適に用いることができる。
本発明を、実施例を用いて、より具体的に説明する。なお、実施例で用いた各種物性値の測定方法は以下に記載の方法によるものである。
<耐炎化繊維比重>
JIS R7601(1986)記載の方法に従って求める。試薬としてエタノールを精製せずに用い、1.0〜1.5gの繊維を採取し、120℃で2時間絶乾する。絶乾質量A(g)を測定した後、比重既知(比重ρ)のエタノールに含浸し、エタノール中の繊維質量B(g)を測定し、次式、繊維比重=(A×ρ)/(A−B)により繊維比重を求める。なお、本実施例では、エタノールとして、和光純薬社製特級を用いた。
<炭素網面(002)面の結晶配向度π002>
X線回折法にて下記条件にて測定する002回折線より求めた。
A.測定試料の作製
被測定炭素繊維から、長さ4cmの試験片を切り出し、金型とコロジオン・アルコール溶液を用いて固め、角柱形状とし測定試料とした。
B.測定条件
X線源:CuKα(Niフィルター使用)
出力 :40kV、20mA
C.結晶配向度(π002)の測定
上述した透過法を用い結晶ピークを円周方向にスキャンして得られる強度分布の半値幅から次式を用いて計算して求めた。
π=(180−H)/180
但し、
H:見かけの半値幅(deg)
なお、本実施例ではX線回折装置として(株)理学電機社製、4036A型(管球)を使用して、透過法により測定した。
<炭素繊維の引張強度及び引張弾性率>
JIS R7601(1986)「樹脂含浸ストランド試験法」に従って求める。ここで、測定する炭素繊維の樹脂含浸ストランドは、ユニオンカーバイド(株)製、”BAKELITE(登録商標)”ERL4221(100重量部)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(3重量部)/アセトン(4重量部)を、炭素繊維に含浸させ、130℃、30分で硬化させて作製した。また、ストランドの測定本数は6本とし、各測定結果の平均値を、その炭素繊維の引張強度、引張弾性率とした。
<プリプレグの作製およびコンポジット圧縮強度の測定>
次に示す原料樹脂を混合し、30分攪拌して樹脂組成物を得た。
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂
(エピコート(登録商標)1001、ジャパン エポキシ レジン(株)製)
30重量%
ビスフェノールAジグリシジルエーテル樹脂
(エピコ−ト(登録商標)828、ジャパン エポキシ レジン(株)製)
30重量%
フェノールノボラックポリグリシジルエーテル樹脂
(エピクロン(登録商標)−N740、大日本インキ化学工業(株)製)
27重量%
ポリビニルホルマール樹脂
(ビニレック(登録商標)K、チッソ(株)製、登録商標)
5重量%
ジシアンジアミド
(DICY7、ジャパン エポキシ レジン(株)製) 4重量%
3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア
(DCMU−99、保土ヶ谷化学(株)製、硬化剤) 4重量%
次に、前記樹脂組成物をシリコーンを塗布した離型紙にコーティングして得られた樹脂フィルムを、円周約2.7mである60〜70℃に温調した鋼製ドラムに巻き付けた。
この上にクリールから巻きだした炭素繊維をトラバースを介して配列する。更にその上から、前記樹脂フィルムで再度覆い、ロールで回転しながら加圧し、樹脂を繊維束内に含浸せしめ、幅300mm、長さ2.7mの一方向プリプレグを作製した。ここで、プリプレグの繊維目付はドラムの回転数とトラバースの送り速度を変化させることによって、190〜200g/mに調整した。
上記プリプレグについて、繊維方向を一方向に引き揃えて積層し、温度130℃、加圧0.3MPaで2時間硬化させ、厚さが1mmの積層板(繊維強化複合材料)を成形した。
かかる積層板から、厚さ1±0.1mm、幅12.7±0.13mm、長さ80±0.013mm、ゲージ部の長さ5±0.13mmの試験片を切り出した。尚、試験片の両端(両端から各37.5mmづつ)は補強板を接着剤等で固着させてゲージ部長さ5±0.13mmとした。
ASTM D695(1996)に準拠し、歪み速度1.27mm/分の条件で、試験片数n=6について測定し、得られた圧縮強度を繊維体積分率60%に換算して、その平均値を繊維強化複合材料の圧縮強度とした。

<炭化収率> 耐炎化処理に至る前の乾燥処理したポリアクリロニトリル系前駆体繊維の1m当たりの重量Ag/mを測定する。一方、サイジング剤を付与していない炭素繊維1m当たりの重量B(g/m)を測定する。焼成工程(耐炎化工程から炭化工程までの総称)における最後の搬送ローラーの糸速度を焼成工程の最初の搬送ローラーの速度で除することにより焼成工程トータルの延伸比Cを求める。炭化収率は下記式により求める。
炭化収率(%)=A×100/(B×C)
[実施例1]
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体をジメチルスルホキシドを溶媒とする溶液重合法により重合し、濃度22重量%、極限粘度1.5の紡糸原液を得た。得られた紡糸原液を40℃として、単孔の直径0.15mm、孔数4000の紡糸口金を用いて一旦空気中に吐出し、約4mmの距離の空間を通過させた後、3℃にコントロールした35重量%ジメチルスルホキシド水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸により凝固させた。得られた凝固糸を水洗したのち延伸し、さらにシリコーン油剤浴中を通過させ、得られた乾燥糸を、0.5MPa−Gの加圧スチーム中で延伸することにより、製糸全延伸倍率を14倍とし、単繊維繊度1.0dtex、単繊維本数24000本のポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維を、250℃の空気中で延伸比1.00で延伸しながら耐炎化処理時間70分で耐炎化し、比重1.38の耐炎化繊維を得た後、この耐炎化繊維を有効幅1m、高さ0.5m、有効長さ5mの常圧過熱水蒸気を噴射する炉に導入した。この炉内の上面には長さ方向にピッチ200mm、幅方向に100mmのピッチで孔径5mmの吹き出しノズルが150個装着されており、該ノズルより所定温度の常圧過熱水蒸気を進行する耐炎化繊維に対し垂直方向に噴射した。常圧過熱水蒸気の吹き出しノズル直下の温度を300℃とし、滞留時間が5分間になるように糸速を調整し処理を行い、処理前にくらべ1.5倍に延伸した。さらに、この常圧過熱水蒸気雰囲気で処理された耐炎化繊維を、最高温度700℃の不活性雰囲気中、延伸比1.0で延伸しながら予備炭化した。この予備炭化糸を最高温度1500℃で張力5kgで炭化することにより炭化糸を得た。引き続いて濃度0.1モル/lの硫酸水溶液を電解液として電解表面処理し、水洗、150℃で乾燥処理したのち、サイジング剤を付与し、毛羽の少ない良好な品位の炭素繊維を得た。
得られた炭素繊維は、炭素網面の結晶配向度π002が88%、ストランド引張強度が7.3GPa、引張弾性率が390GPa、コンポジット圧縮強度が1.8GPa、炭化収率が55%であった。
[比較例1]
実施例1と同様にして得られた耐炎化繊維を、常圧過熱水蒸気雰囲気で処理せずに、最高温度700℃の不活性雰囲気中200〜400℃での滞留時間を2分、400〜500℃における昇温速度を150℃/分になるように調整し、延伸比1.5で延伸しながら予備炭化しようとしたが、糸切れが多発したため、延伸比1.1で予備炭化せざるを得なかった。この予備炭化糸を最高温度1500℃で張力5kgで炭化することにより炭化糸を得た。引き続いて濃度0.1モル/lの硫酸水溶液を電解液として電解表面処理し、水洗、150℃で乾燥処理したのち、サイジング剤を付与し、炭素繊維を得た。
得られた炭素繊維は、ストランド引張強度が6.0GPa、引張弾性率が305GPa、コンポジット圧縮強度が1.7GPa、炭化収率が49%であった。
[実施例2]
常圧過熱水蒸気を噴射する炉における温度を、600℃に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維は、結晶配向度が84%引張強度が4.5GPa、引張弾性率が370GPa、コンポジット圧縮強度が1.5GPa、炭化収率が52%であった。
[実施例3]
常圧過熱水蒸気の吹き出しノズル直下の温度を300℃から100℃に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得ようとしたが、常圧過熱水蒸気を噴射する炉において少し毛羽が発生したため、そこでの延伸比も1.1と変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維は、結晶配向度が86%、引張強度が6.1Pa、引張弾性率が330GPa、コンポジット圧縮強度が1.5GPa、炭化収率が50%であった。
[実施例4]
常圧過熱水蒸気を噴射する炉における延伸比を1.5倍から4.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維は、結晶配向度が90%、引張強度が6.5Pa、引張弾性率が430GPa、コンポジット圧縮強度が1.7GPa、炭化収率が54%であった。また、得られた炭素繊維は毛羽がやや多く品位は低下していた。
[実施例5]
耐炎化処理における耐炎化処理時間を70分から10分に変更し、常圧過熱水蒸気を噴射する炉における滞留時間を5分から20分に変更した以外は、実施例1と同様にして炭素繊維を得た。常圧過熱水蒸気を噴射する炉に導入する前の耐炎化繊維の比重は1.19であった。得られた炭素繊維は、結晶配向度が89%、引張強度が6.6Pa、引張弾性率が380GPa、コンポジット圧縮強度が1.7GPa、炭化収率が50%であった。また、得られた炭素繊維は毛羽がやや多く品位は低下していた。

Claims (4)

  1. ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、空気中200〜300℃で熱処理する耐炎化工程、不活性雰囲気中最高温度600〜800℃で熱処理する予備炭化工程、さらに不活性雰囲気中最高温度1000〜3000℃で熱処理する炭化工程を順次経て炭素繊維に転換する炭素繊維の製造方法であって、前記耐炎化工程の途中または耐炎化工程以降予備炭化工程に至るまでの間において、常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中で繊維を処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
  2. 常圧過熱水蒸気を含む雰囲気は、その温度が200℃〜500℃である請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
  3. 常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中で処理する際に、繊維を延伸比1.0〜3.0に延伸する請求項2に記載の炭素繊維の製造方法。
  4. 常圧過熱水蒸気を含む雰囲気中での処理を、耐炎化工程と予備炭化工程との間で行う請求項3に記載の炭素繊維の製造方法
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