以下に、本発明による結束引締め具の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1,2は結束引締め具の全体図、図3,4は内部構造を示す分解図、図5,6は押出し機構の作用を示す要部の側面図、図7は揺動レバーを外した状態での内部構造を示す分解図、図8〜10は引締め機構及び結束圧制限手段の作用を示す側面図、図11は切断機構の構造を示す作用図、図12〜14は結束引締め作業を示す要部の斜視図、図15〜17は結束バンドの構造を示す図、図18,19はヘッド部の保持部を示す図、図21はワンウェイクラッチの構造を示す分解斜視図、図22〜24は結束引締め具の別使用状態を示す側面図である。また、図25〜図31は、実施例2の押出し機構に関する種々の図である。
〔実施例1〕
結束引締め具Aは、図1〜図3に示すように、結束バンドV(図15参等照)のヘッド部2を保持する先端保持部5と、この先端保持部(保持部の一例)5に保持されているヘッド部2に挿通されるバンド部1を手指の操作力によって強制的に引張り自在な引締め機構(引締め部の一例)aと、この引締め機構aを手指操作するための操作具bと、これら先端保持部5、引締め機構a、及び操作具bを支持する工具ボディ6とを有するとともに、工具ボディ6の基端側に外装支持されるバンドホルダ(リール支持部)14、バンド部1を設定長さ分先端保持部5から突出させるための押出し機構(バンド突出手段の一例)c、及び、引締められたバンド部1を切断する切断機構d等を有して構成されている。また、この結束引締め具Aは、結束バンドVの引締め力を設定する結束圧制限手段eと、引締めによる結束圧が設定値に達すると切断機構dを作動させる連係機構fとが装備されている。
最初に、結束引締め具Aを用いた結束作業の概略について簡単に説明する。まず、先端保持部5にヘッド部2が保持され、かつ、そのヘッド部2からバンド部1が設定長さ突出されている状態の結束引締め具Aを、てハーネススタンド11(図2参照)を介して支持基板10の上方位置に横臥配置されているワイヤーハーネスWを結束すべく、結束予定ハーネス箇所nに斜め上方から接近させる。そして、結束用治具Jの付近において、突出しているバンド部1をワイヤーハーネスWの向こう側を通してバンド部先端1tをヘッド部2に差し込んで係合させ、バンド部1を結束予定ハーネス箇所nにおいてループ状とする(図12参照)。
次いで、工具ボディ6先端から突出している突片8が、結束用治具Jの設定箇所9に位置するように結束引締め具Aの位置を微調整し、それから揺動式の操作レバー18を握り込んで引締め位置H(図9参照)まで揺動させる操作を一又は複数回繰り返し、結束予定ハーネス箇所nが所定の結束圧で結束されるようにバンド部1を引締める(図13参照)。所定の結束圧に達したら、引締め位置H以上の揺動レバーの握り込みが可能となり、切断位置S(図10参照)まで握り込むことにより、ヘッド部2から工具ボディ6の内部において上方に(結束対象存在側と反対側の方向に)突出しているバンド部1が切断機構dによって切断されるので、その後に結束引締め具Aを退避移動させる(図14参照)。
それから、次のヘッド部2を先端保持部5にセットするとともに押出し機構cを操作して、先端保持部に5に保持されているヘッド部2から設定長さのバンド部1が突出している元の状態(図6参照)に戻すのであり、これが一連の(ワンサイクルの)結束引締め作業である。この結束引締め具Aを用いた手動による結束作業が、ワイヤーハーネスWの多数の箇所について繰り返し行なわれる。次に、各部の構造等について説明する。
合成樹脂材等から形成される工具ボディ6は、図1〜3等に示すように、左右の半割ボディ6L,6Rを合せて成るものであり、先端保持部5におけるヘッド部2を挿入して保持するための凹入孔部56(図18,19参照)の向き(図1の矢印イ方向)が、即ち先端保持部5に保持されるヘッド部2のバンド挿通孔105(図16,17参照)の向きが、工具ボディ6のうちの引締め機構a及び操作具bを含むボディ本体6Aにおける手指で把持される握り部6aの長手方向(図1の矢印ロ方向)に対して偏向されるように、具体的には90度異なるように、工具ボディ6のうちの先端保持部5を含むボディ先端部6bをボディ本体6Aに対して屈曲させてある。つまり、押出し機構cにおけるハウジング30の前端部程度まで直線的に伸びる形状のボディ本体6Aに対して、その先のボディ先端部6bが適宜の角度(図1では約40度)が付くように下向きに曲げられており、握り部6aの長手方向の向きと同じ向き(図1ではほぼ水平)となる先端底壁部6cに先端保持部5が形成されている。
先端保持部5は、図6,7,18,19に示すように、合成樹脂製のヘッドホルダ55を、その外面部55aが先端底壁部6cと同一面となる状態でボディ先端部6bの内部にボルト止め装着する構造を有して構成されている。より正確には、後述するヘッド部2の支柱部107及び/又は係合片108が極軽く圧入される程度の嵌め合い状態となるように、ヘッドホルダ55に形成された凹入孔部56を意味している。このヘッドホルダ55の上側には、バンド部1を挿通するとともに、後述する切断機構dのカッター刃15をスライド移動自在に支持するための構造部12が構成される。
図1〜3に示すように、ボディ本体6Aの基端部には、長尺状のバンド部1がリール部材13に巻回装備されて成るバンドボビン7を回動自在に支持する略円筒籠状のバンドホルダ14が装備されている。バンドホルダ14は、工具ボディ6の基端部に枢支連結される基端半割部14Aと、この基端半割部14Aに対して支点P回りで揺動開閉自在に連結される先端半割部14Bとから構成されており、リール部材13から巻き解されるバンド部1を排出するための出口孔14Cを有している。また、ボディ先端部6bの先端縦壁部6dには、これから水平方向でより先端側に向けて突出する金属製の突片8が取付けられている。
図3、図7、図11等に示すように、ボディ先端部6bには、スライド移動するカッター刃15、及び中間支点Z回りに天秤揺動自在なL字アーム16を有する切断機構dが先端保持部5の直上に配置されている。また、図3,4,7に示すように、工具ボディ6としての前後中間には、主支点X回りに回転自在な複合回転体17、及び主支点Xで天秤揺動自在な操作レバー18が装備されるとともに、複合回転体17の下方基端側に設けられた下方支点Yを中心に揺動自在な揺動アーム19が枢支されている。また、工具ボディ6の内部には、操作レバー18のレバー基端部18Aの内側部分を介してバンドホルダ14から送られてくるバンド部1を、先端保持部5に導き案内するためのガイド通路20が形成されている。
ここで、本結束引締め具Aに用いられる結束バンドVについて説明すると、図15〜図17に示すように、一対のバンド部1,1が背中合わせ状態で挿通及び係止可能なヘッド部2と、このヘッド部2とは独立した部品であるバンド部1とから成る。ヘッド部2は、バンド部1を係止及び維持する係止部3と、自動車の車体部品である鋼板製のパネル板102に挿入して係止支持自在なクランプ部4とから構成されている。バンド部1は必要な長さ分だけで済むので、バンド部1とヘッド部2とが一体形成されている普及型結束バンドに比べて、結束引締め後のバンド切断に伴う余剰バンド部が生ぜず、バンド部1の歩留まりが良く、コストダウンが可能となる利点を有している。
図15、図16は、結束バンドVを用いてワイヤーハーネスWを結束してパネル板102に係止させた状態を示している。つまり、多数本の電線rの群で成るワイヤーハーネスWをバンド部1で囲繞して引締めた状態でヘッド部2に係止固定するとともに、そのワイヤーハーネスWを伴った結束バンドVは、ヘッド部2のクランプ部4によってパネル板102に係止固定される構造となっている。
バンド部1は、図15、図16示すように、ナイロン、ポリプロピレン等の可撓性を有する合成樹脂材製のバンド部材104の表裏の何れか一方の面に、凹入形成された谷部104aと山部104bとが交互に、かつ、連続形成されて成る係止部104Kが連続形成された構造のものである。このバンド部1は、図1に示すように、例えば、回転リール13に長尺状のバンド部1を巻き付けて成るバンドボビン7から巻き解して供給されてくるものを適宜の長さに切断して用いる。
ヘッド部2は、図15〜図17に示すように、バンド部1を挿通するためのバンド挿通孔105を備えた状態でパネル板102に形成された長円形状の取付孔103の周囲部分に被さる支え部106と、この支え部106から突設されて取付孔103に挿入される支柱部107と、この支柱部107の下端部両脇の夫々に片持ち支持された状態で支え部106に向けて延出され、かつ、上端部の外側に取付孔103の周囲部分102aに係合可能な係合段部109が形成される一対の係合片108,108とを有して、ナイロン、ポリプロピレン等の可撓性を有する合成樹脂材から構成されている。そして、支柱部107が取付孔103に差し込まれることにより、一対の係合片108,108が取付孔103の内周面103n(又は角縁部)との摺接によって内方に弾性揺動変形して、係合段部109がパネル板102の取付孔周囲部分102aに係合されて、一対の係合片108,108と支え部106とでパネル板102が挟持される止着状態がもたらされるように構成されている。
支え部106は、取付孔103の形状に合わせて平面視で長円形を呈するお碗を伏せたような形状に形成されており、支柱部107の上端部に連続される厚肉の中央領域106Aと、その周囲に形成されるスカート部106Bとから成る。そして、クランプ部4を構成する主要部分である左右一対の係合片108,108との間に取付孔103の周囲部分102aを付勢挟持すべく、上下方向(バンド挿通孔105の挿通方向)に弾性変位可能に形成されるとともに、平面視における支え部106の中央領域106Aは、その周りの部位よりも厚みの厚い厚肉部に設定されている。
支柱部107は、平面視(底面視)の形状が略矩形のバンド挿通孔105が上下に貫通する筒状の部分であり、バンド部材104の両端部104t,104tが背中合わせ状態で挿通するバンド挿通孔105の内部には、各端部104t,104tの谷部104aに係合するための一対の第二係合片111,111が下内向き突出し、かつ、前後に対向配置される状態で片持ち支持されている。第二係合片111は、上部の厚肉支柱部分107Aと下部の薄肉支柱部分107Bとの境目において厚肉支柱部分107Aに連続するような状態で一体形成されており、内側に二箇所の係合山部111a、及び係合谷部111bが形成されている。
係合片108は、図15、図17に示すように、支柱部107の下端部の左右から斜め上方に突出する片持ち支持状態で一対形成されており、下端部の付根部108aを中心して左右に揺動変形可能であるとともに、上端部の外側には第1〜第3段部109A〜109Cで成る係合段部109が形成されている。各段部109A〜109Cは、いずれも縦壁109tと横壁109yとを有する隅角状の部分で成り、各縦壁109tは、取付孔103の形状に合わせた円弧状の平面視形状を呈する曲面に形成されている。
引締め機構aは、図3,4,7〜10に示すように、バンド部1の係止部104Kに咬合する歯車部21aが外周に形成されたテンションギヤ(回転体の一例)21と、これの両側に配される一対のラチェットギヤ22,22等から成る複合回転体17、これらラチェットギヤ22のそれぞれに噛合い自在な爪部23aを先端に有した二股状のラチェット爪23、下方支点Yを有する前述の揺動アーム19、揺動アーム19の先端部とラチェット爪23の基端部とを連結する連結リンク24、前端部が揺動アーム19に枢支連結される作動リンク25、この作動リンク25に結束圧制限手段eを介して連動される操作レバー18等を有して構成されている。揺動アーム19、連結リンク24、及び作動リンク25のそれぞれは、いずれも左右一対の第1〜第3板リンク19a,24a,25aから構成されている。作動リンク25の基端部は、連結ピン26を介して操作レバー18の長孔18aに枢支連結されている。
引締め機構aは一方向クラッチCrを有している。一方向クラッチCrは、基本的にはラチェット爪23とラチェットギヤ22とで構成されている。詳述すると、ラチェットギヤ22の歯部22Aは、矢印ハ(図4参照)方向には緩やかに傾斜する傾斜面22aと、矢印ニ(図4参照)方向にはほぼ垂直に切り立った停止面22bとを有する非対称形状のものに形成されており、傾斜面22aと停止面22bとで挟まれる谷部22Bにラチェット爪23先端の爪部23aが嵌り込むように構成されている。
そして、ラチェット爪23の基端側部分23Aは、主支点X回りに回動自在に枢支される支持アーム43に枢支連結されており、基端側部分23Aは主支点Xを中心とする半径上で移動可能に支持されている。また、図5に示すように、揺動アーム19と連結リンク24とを枢支連結するための段付き枢支ピン53に嵌装される捩りバネ54により、外力が作用しない限りはラチェットギヤ22に咬合するように、連結リンク24との枢支軸心p4を中心として矢印ホ(図4参照)方向に揺動付勢されている。捩りバネ54は、両端が揺動アーム19の各第3リンク板19aに係合され、かつ、中央部が基端側部分23Aから突設される受ピン23bに引掛け係合されている。
次に、一方向クラッチCrの作用を説明すると、操作レバー18が、その基端側18Aが上昇する方向に揺動されて、作動リンク25、揺動アーム19、連結リンク24を介してラチェット爪23がレバー先端部18B側(図4における紙面左側)に向けて動く場合は、その爪部23aがラチェットギヤ22の谷部22Bにより食い込もうとする動きになって歯部22Aを(停止面22bを)押し、ラチェットギヤ22は矢印ハ方向に回転移動する。つまりラチェット爪23とラチェットギヤ22とが一体的に動くクラッチ入り状態になる。そして、操作レバー18が下降揺動されてラチェット爪23がバンドホルダ14側(図4における紙面右側)に向けて動く場合は、爪部23aが傾斜面22aに乗り上がって滑って移動することになり、ラチェット爪23はバンドホルダ14側に移動されるが、ラチェットギヤ22は回動しない。つまり、ラチェット爪23だけが移動されるクラッチ切り状態になる。
以上の構造により、操作レバー18を上昇揺動すれば、作動リンク25が揺動アーム19及び連結リンク24を介してラチェット爪23を押し、爪部23aがラチェットギヤ22に咬合していることからテンションギヤ21が矢印ハ方向に回動移動され、その歯車部21aに咬合しているバンド部1が手前側に引っ張られることになり、それによってワイヤーハーネスWにおける結束予定箇所nが引締められる。バンド部1を引張る引締め作動に関する操作レバー18の揺動範囲は、工具ボディ6の停止端6tに操作レバー18が当接して止まる待機位置T(図1参照)から、この待機位置Tにある操作レバー18を握り部6aを握る手指で共握りすると、作動リンク25基端部を操作レバー18のに枢支連結すべくその長孔18aに貫通する連結ピン26の左右端部が、工具ボディ6の内部の左右それぞれにネジ止めされている板材製のストッパー金具27の底面に当接する位置、即ち引締め位置H(図9参照)に至る迄の間である。
操作具bは、図1,3に示すように、主支点Xで枢支される操作レバー18を、そのレバー基端部18Aが握り部6aの下方に位置する状態に配備するとともに、レバー先端部18Bに引っ張り作用する戻しバネ28を設けて構成されており、自由状態においては、レバー基端部18Aの底壁29が工具ボディ6の停止端6tに当接する待機位置Tに自己復帰されている。またレバー先端部18Bは、その先端に支承されているピン・ローラ18bを用いて切断機構dを作動させる部材として機能する部分である。尚、操作レバー18のレバー基端部18Aには、内部確認用の覗き長孔18dが左右一対形成されている。
押出し機構cは、図1〜図6に示すように、工具ボディ6の外表面にネジ止めされるハウジング30、このハウジング30に収容されるラックギヤ31、主支点Xで回転自在な操作ギヤ(歯車の一例)32、操作ギヤ32のボス部32aに嵌装されるロック解除プレート(解除部材の一例)33、操作ギヤ32にワンウェイクラッチ34(図21参照)を介して連動される複合回転体17、及び複合回転体17に内装される状態のワンウェイクラッチ34等からスライド式のものに構成されている。ハウジング30は、長尺部材であるラックギヤ31を前後スライド移動自在に収容するとともに、操作ギヤ32とロック解除プレート33とを覆うものであり、ラックギヤ31を手指でスライド操作するための摘み(操作具の一例)39を外部突出させるための長尺切欠き30aが形成されている。尚、40は、ラックギヤ31の不測の移動を規制するストッパ機能を発揮するとともに、手指によるラックギヤ31のスライド操作時に軽く摩擦抵抗を付与して節度感を出すための板バネである。
ワンウェイクラッチ34は、図21に示すように、複合回転体17の内部空間17Sに第1軸心p1で枢支されるクラッチ爪35と、内部空間17S内において主支点Xで回転自在となるように一対の円形カバー板36,36に枢支されるクラッチギヤ37と、クラッチ爪35を内径側に押圧付勢する捩りバネ38等から構成されている。各カバー板36は、内部空間17Sを覆う蓋となるように複合回転体17の左右にネジ止めされる。操作ギヤ33とクラッチギヤ37とは、これら両者に亘って内嵌されるキー軸41(図4参照)によって一体回転状態に連動連結されている。
さて、この押出し機構cは、摘み39を手指で掴んで先端側にスライド操作することにより、テンションギヤ21の下方に引き込まれているバンド部1を設定量押出す機能を有している。その詳細な動作状況は次のようである。即ち、戻り位置m(図1参照)にある摘み39を掴んで前方にスライドし始めると、まず、ラックギヤ31の内側に一体形成され、かつ、先端に先下がり状のアプローチ曲面31aを有する作用段部31Aにロック解除プレート33が乗り上がって工具ボディ6に対して垂直方向に移動し、その先端部33aがラチェット爪23先端に横突設されている受ピン23bを上方に押し上げ、爪部23aとラチェットギヤ22との咬合が解除され、複合回転体17が矢印ニ方向に回転可能な状態がもたらされる(図5参照)。
ラチェット爪23が持上げ揺動されたとほぼ同時に、ラックギヤ31の歯部31bと操作ギヤ32の歯部32bとが咬合し始めて、複合回転体17の矢印二方向への回転が開始され、それによってテンションギヤ21に咬合されているバンド部1が強制的に押出される。そして、図6に示すように、摘み39が長尺切欠き30aの最前端に位置する押出し位置kまでラックギヤ31がスライド操作されことによりバンド部1が押出され、先端保持部5に保持されているヘッド部2から設定量突出する状態が得られる。その後、押出し位置kにある摘み39を手前側にスライド操作してラックギヤ31を戻り位置mに戻すのであるが、この戻りスライド移動のときにはワンウェイクラッチ34の機能により、操作ギヤ32及びクラッチギヤ37が空回りすることになって複合回転体17は戻り回転せず、従って、押出されたバンド部1が引戻し操作されることがない。
つまり押出し機構cは、テンションギヤ21のバンド引き込み方向の回転を可能とすべく一方向クラッチCrの作動を解除自在な解除機構oと、摘み39の手指操作によってテンションギヤ21をバンド引き込み方向に回転させるための伝動機構sとを設けるとともに、バンド突出手段cは、摘み39の操作に伴って解除機構oが作動してからテンションギヤ21にバンド引き込み方向の回動力が伝達されるように、解除機構oと伝動機構sとを連係するものに構成されている。
このように、引締め機構aのための部品であるテンションギヤ21に一方向クラッチCrを装備することにより、引締め機構aの作動時とは逆方向に回転することになる押出し機構cのための部品(押出し用回転体)に兼用できる合理的で経済的な構成が可能になるとともに、バンド部1の係止部104Kとテンションギヤ21とが常時噛合う構成にできるため、テンションギヤ21との咬合不完全等によって山部104bが潰れるといった係止部104Kの損傷おそれが生じないという利点がある。例えば、前述の特許文献1に開示されたものでは、レバー握り時にはバンド部に咬合して引張り、レバー握り解除時にはバンド部との咬合も解除される構造であるため、扇形部のギヤ部との咬合及び離脱との切換り時にバンド部が押し引き操作されてバンド部の係止部が潰れる可能性があり、その後のヘッド部との係合が不安定になるおそれがある。これに対して、バンド部1とテンションギヤ21との常時噛合い構造を採る本発明の結束引締め具では、そのようなおそれが生じず、バンド部とヘッド部との確実な係合状態を実現して、結束バンドの良好な信頼性を維持できる利点が得られる。
伝動機構sは、テンションギヤ21にバンド引き込み方向の回動力のみを伝達するように構成されたワンウェイクラッチ34を介して連動される操作ギヤ32と、手指によるスライド操作用の摘み39が装備され、かつ、操作ギヤ32に咬合するラック31と、ラック31のスライド移動開始に伴ってロック解除プレート33を上方(咬合離脱方向)に押出すようにラック31に形成される作用部31aと、を有して構成されている。解除機構oは、テンションギヤ21と一体回転するラチェットギヤ22に咬合及び離脱が自在なラチェット爪23を咬合離脱方向に強制移動可能なロック解除プレート33を、伝動機構sの作動開始、即ちラック31のスライド移動開始に伴って咬合離脱方向に動かす状態に設けることによって構成されている。
切断機構dは、図3,7,11,18に示すように、基本的には、合成樹脂材等によって形成されている先端保持部5に前後スライド移動自在に支持されるカッター刃15と、カッター刃15に凹凸係合する先端部16aを有するL字アーム16とから構成されている。カッター刃15は、先端の刃部15aと、先端部16aを通すための操作孔15bとが形成されたステンレス鋼板製のものであり、先端保持部5の凹入孔部(ヘッド部2を収容する部分)56(図19参照)に臨むガイド通路20を横切り移動自在に配置されており、L字アーム16がセット位置gにあるときは、カッター刃15は待機位置にある。そして、L字アーム16が動作位置qに揺動移動するとカッター刃15が前進移動し、バンド部1をヘッド部2から直ぐ手前の箇所で切断するように構成されている。
L字アーム16は、ガイド通路20を形成するレールガイド42を跨ぐべく、支点Zを含む中間部分が左右のアーム部16A,16Bとに枝分かれする二股状に形成された部品であり、工具ボディ6に支点Zでもって枢支されている。レールガイド42は、左右一対の半割り部材42A,42Bによって形成されてボディ先端部6bにネジ止めされる独立した部品であり、内部にはガイド通路20に続く湾曲した部分ガイド路42Rが形成されている。左右のアーム部16A,16Bは、工具ボディ6の内面とレールガイド42との間のスペースにおいて揺動移動自在に構成されている。
カッター刃15をスライド移動自在に支持するための構造部12は、図18に示すように、バンド部1を挿通させるための挿通孔57a、及びL字アーム16の先端部16aを受入れるための長孔57bとが形成される金属材製のカッターホルダ57と、ヘッドホルダ55上に載置される滑り板58と、L字アーム16の先端部16aとの干渉を避けるべくヘッドホルダ55において下方に凹入形成される逃し溝55Nとから構成されている。ヘッドホルダ55とカッターホルダ57とはボディ先端部6bに側方からネジ止めされている。つまり、カッター刃15は、滑り板58とカッターホルダ57との上下間に形成される空位幹部において前後スライド移動自在に装備されており、L字アーム16の揺動移動に伴って前又は後にスライド移動される。
滑り板58には、バンド部挿通用の挿通孔58aと、先端部16aを通すための操作孔58bとが形成されている。滑り板58の一対のガイド片58g,58g付きの挿通孔58aは、バンド部1を1本のみ通すことを許容する程度の大きさに形成されており、結束対象に巻回されてヘッド部2に再挿通されてくるバンド部先端1tを受け止めてそれ以上工具ボディ6の内部に進まないようにするバンド部ストッパーとしても機能するものに構成されている。従って、ヘッド部2に再挿通されたバンド部1は、カッター刃15に至る手前で止まり、カッター刃15で切断されるバンド部1は1本で済むようになっている。
切断機構dは、引締め位置Hにある操作レバー18がさらに握り揺動されて切断位置S(図10参照)に揺動操作されることにより、図11に示すように、レバー先端のピン・ローラ18bがL字アーム16の基端部を押下げ、それによってL字アーム16が矢印ヘ方向(図11参照)に揺動移動してカッター刃15が前進スライド移動されることで作動する。カッター刃15が前進方向にスライド移動することにより、ガイド通路20の先端から出てカッターホルダ57及び滑り板58を通ってヘッドホルダ55に供給されているバンド部1を切断することができる。そして、切断機構dの作動は、後述する結束圧制限手段eによって規定される設定結束圧に到達して、バンド部1の引締めが終了することに伴って自動的に行なわれる状態に構成されている。
結束圧制限手段eは、バンド部1の引締めによる結束圧(引締め圧)が設定値に達したら、引締め機構aがそれ以上実質的に作動しないようにしながら操作レバー18の引締め位置Hからのさらなる上昇揺動を許容させる機能(バンド部1を切断する機能)を発揮する機構であり、図3、図7〜10、図20に示すように、操作レバー18のレバー基端部18Aの内部空間に構成されている。断面上向きコ字状のレバー基端部18Aの底壁29の上面には、ステンレス薄板製の滑り板44を介して断面形状が下向きコ字状でアルミ合金製のスライダ45がボルト止めされており、そのスライダを跨ぐように平面視が略コ字形状で板金製の緊張アジャスタ46が前後にスライド移動可能に配されている。緊張アジャスタ46は、これの基端壁46aとレバー基端部18Aの基端側に形成されている折返し壁18cとを前後に貫通するボルト47とダブルナット48、及びコイルバネ49により、操作レバー18に対して手前(後)側、即ちバンドホルダ14側に向けて押圧付勢されている。
緊張アジャスタ46の前端部には、左右向きの第3軸心p3で三角板51が枢支連結されており、この三角板51は、第3軸心p3の直上に位置する左右向きの第2軸心p2において操作レバー18のレバー基端部18Aに枢支されている。三角板51の上辺51Aには、作動リンク25の連結ピン26に外嵌されるローラ50を嵌め込んで押すための略半円状の凹入部51aが形成されており、通常はその凹入部51aにローラ50が落し込み配置された状態に維持されている。コイルバネ49の弾性により、基端壁46aが折返し壁18cに当接する状態に緊張アジャスタ46が復帰付勢されており、通常は、連結ピン26が長孔18aの前端に位置し、かつ、ローラ50が凹入部51aに嵌り込む状態になっている(図7,8参照)。
つまり、結束圧制限手段eは、初期応力が付与された状態のコイルバネ49を介して操作レバー18と一方向クラッチCrとを連動するとともに、バンド部1の緊張力が設定値以下であるときには、操作レバー18の一方向クラッチCrに対する操作力が初期応力よりも小になってコイルバネ49が変位せず、操作レバー18による操作力が一方向クラッチCrに伝達される伝動状態が維持され、かつ、バンド部1の緊張力が設定値を上回るときには、操作レバー18の一方向クラッチCrに対する操作力が初期応力よりも大になってコイルバネ49が変位し、操作レバー18による操作力が一方向クラッチCrに伝達されない伝動断絶状態に切換わるものに構成されているものでもある。
結束圧制限手段eの作用について説明する。結束圧が設定値以下の範囲では、操作レバー18の待機位置T(図1参照)から引締め位置H(図9参照)への揺動操作においては、操作レバー18と一体的に揺動する三角板51がその凹入部51aに嵌り込んでいるローラ50を介して作動リンク25を押すことになり、それによって引締め機構aが作動してバンド部1の引締めが行なわれる。操作レバー18の引締め位置Hから待機位置Tへの戻り揺動時には、一方向クラッチCrが非作動状態となって複合回転体17は動かず、揺動アーム19や作動リンク25等で成るリンク部が戻り移動する。
操作レバー18の1回又は複数回の上昇揺動操作により、結束圧(引締め圧)が設定値に到達すると、例として、図8に示すように上昇揺動操作の途中の位置(待機位置Tと引締め位置Hとの中間位置)において結束圧が設定値に到達すると、ローラ50を介して作動リンク25が三角板51を第2軸心p2を中心として下方に押し戻す反力が、コイルバネ49が緊張アジャスタ46を押付けることによって第2軸心p2を中心として三角板51を上方に持上げ揺動させようとする付勢力に勝る状態になる(それ迄は付勢力が反力に勝っている)。
引き続き操作レバー18が上昇揺動されると、長孔18aに嵌合している連結ピン26は下方には移動できないので、結果として三角板51が第2軸心p2を中心として下方に揺動移動して、相対的に凹入部51aからローラ50が抜け出た状態となり、それによって連結ピン26は長孔18aにおける手前側端(バンドホルダ14側)に自由に移動し得る状態になる。すると、強く引締められているバンド部1の緊張力によって複合回転体17が矢印ニ方向(図4参照)に戻し回動されるようになり、それによって連結ピン26のレバー基端部18Aの長孔18a内の最手前側に後進移動するようになる。
上辺51Aがローラ50に接触しながらの連結ピン26の前記後進移動に伴い、連結ピン26の両端部とストッパー金具27とは当接しない位置関係になるので、それによって初めて操作レバー18を引締め位置Hよりさらに上昇揺動させることが可能となる。従って、図10に示すように、握り部6aと共握りされる操作レバー18を握り締める操作を続けることにより、操作レバー18が引締め位置Hを越えて上昇揺動させることができ、それによって操作レバー18先端のピン・ローラ18bがL字アーム16基端部を押下げて切断機構dを作動させ、バンド部1が切断されるのである。このとき、コイルバネ49は少し圧縮された状態になり、それによって基端壁46aは折返し壁18cから前方に少し離れた位置関係となる。操作レバー18が結束圧が設定値に到達する揺動操作位置(例:図8の位置)から切断位置Sに上昇揺動操作される間は、作動リンク25の押し込みが為されず引き締め機構aは空作動するような状態となって、設定結束圧が維持された状態でバンド部1が切断されることとなる。
つまり、図1や図9に示すように、操作レバー18の待機位置Tから始まり引締め位置Hで終わる第1揺動範囲L1(待機位置Tと引締め位置Hとの間の揺動領域L1)での握り込み揺動によって引締め機構aが作動され、かつ、第1揺動範囲L1の終端である引締め位置Hから始まり切断位置Sで終わる第2揺動範囲L2(引締め位置Hと切断位置Sとの間の揺動領域L2)での握り込み揺動によって切断機構dが作動される状態に、引締め機構aと操作レバー18と切断機構dとが連係されている。従って、切断機構dは、操作具bの引締め機構aを作動させるための操作(操作レバー18の第1揺動範囲L1での揺動操作)とは別の操作(操作レバー18の第2揺動範囲L2での揺動操作)によって作動される状態に構成されている。
結束圧制限手段eは、引締め機構aの作動によって増加する結束圧とコイルバネ49とのバランス変化によって自動的に作動するように構成されているので、作業者は操作レバー18の握り部6aとの共握り状態における握り込みによる揺動操作を1回又は複数回行なうだけで、バンド部1の設定結束圧への引締め作業とバンド部1の切断作業との双方がひとりでに行なわれる便利なものとなっている。
また、ダブルナット48を操作してコイルバネ49の設定長さを変更して初期応力を調節することにより、結束圧の増減調節が任意に行なえるように構成されており、これによって結束圧制限手段eは、結束圧の設定値を調節及び維持する設定値可変機構iを有している。設定値可変機構iは、ボルト47とダブルナット48とから構成されている。ダブルナット48は、緊張アジャスタ46の左右側壁に形成されたガイド長孔46bに左右両端部48aが差し込まれてのガイド機能付きのガイドナット48A(図20参照)と、一般的な六角ナット48Bとから成るものであり、結束圧調節機構eを機能させる上での主要な構成要素になっている。
要するに、操作レバー18の長孔18a、作動リンク25、連結ピン26、三角板51等により、操作具bに加えられた操作力を引締め機構aに伝達すべくこれら操作具bと引締め機構aとを連動連結する伝動状態と、操作具bに加えられた操作力が引締め機構aに伝達されないように操作具bと引締め機構aとの連動を断絶する伝動断絶状態との切換えが可能な操作力伝達機構hが構成されているのである。そして、結束圧制限手段eは、バンド部1の緊張力が設定値に達するまでは操作力伝達機構hが伝動状態に維持され、かつ、バンド部1の緊張力が設定値に達すると操作力伝達機構hが伝動断絶状態に切換えられるものに構成されている、と定義することができる。
本結束引締め具Aにおいては、操作レバー18の第1揺動範囲L1における1又は複数回の握り込みによって結束圧検出手段eが検出作動するに伴って、操作レバー18の第2揺動範囲L2への握り込みが許容される許容機構jが設けられている。許容機構jは、三角板51、作動アーム25、連結ピン26、レバー基端部18Aの長孔18a等によって、即ち、前述した操作力伝達機構hによって構成されていると言える。
ところで、結束圧が設定値に到達して操作レバー18が引締め位置Hよりさらに上昇揺動できる状態、即ち連結ピン26がレバー基端部18Aの長孔18aの前端から後端に移動する状態においては、強く引締められているバンド部1の弾性反力によってテンションギヤ21が(複合回転体17が)矢印ニ方向(図4参照)に連れ回り回動することがあるが、それによって得られる効果がある。たとえば、バンド部を引締め続けながら切断される構造となっている結束引締め具においては、設定結束圧の状態では、バンド部1が強く引張られて若干伸びた状態になっていて、その係止部104K(山部104b)とヘッド部2の第二係合片111との係合が不確実になっていることがある。そうなると、その状態でヘッド部2間近の位置でバンド部1が切断されると、本来なら第二係合片111と係合するはずの係止部104Kは係合せず、その次の係止部104Kが係合して余剰バンド部1が極端に少なくなるとか、場合によっては係合不能となるおそれがある。
それに対して、本発明による結束引締め具Aでは、連結ピン26がレバー基端部18Aの長孔18aの前端から後端に移動する間は、即ちバンド部1が切断される直前の一瞬の間は複合回転体17が自由に回動でき得るる状態になるので、前述のように複合回転体17が引締め方向と反対方向に少し回動してバンド部1の過剰な緊張を緩和して、設定結束圧は維持しながらバンド部1の係止部104Kとヘッド部2の第二係合片111とが正規に係合している状態でバンド部を切断することができる。その結果、バンド部1とヘッド部2とがしっかりと正規に係合された設定結束圧で安定した結束状態を実現しながら、バンド部1をヘッド部2の間近の位置で不都合無く切断することができるのである。
また、結束圧が設定値になると連結ピン26が長孔18aの前端から後端に移動するので、その連結ピン26の動きを見ることにより、結束圧が設定値になったことを目視によって知ることが可能である。この作用は、例えば、連係機構fが無く、結束圧が設定値になると自動的に切断機構dが作動する構成を持たない場合(切断操作が他に存在するような場合)に特に有効であり、結束圧が設定値に到達したにも拘らずに揺動レバーを握り操作し続ける無駄が省けて好都合である。
ところで、リール支持部13から操作レバー18のレバー基端部18Aを通って工具ボディ6内部に導かれるバンド部1は、滑り板44で蓋をされた状態のスライダ45の溝部(バンド経路の一例)45aを潜り抜け、かつ、テンションギヤ21の下部を跨ぐ状態で揺動アーム19の支点Y部分の内側に配備されるガイド部材52に導かれる。そして、テンションギヤ21の下部に咬合されてからガイド通路20に通されるように経路が形成されている。スライダ45には、溝部45aから出るバンド部1をガイド部材52の溝部52aに誘導するための湾曲舌片45zが突出形成されている。また、ガイド部材52の上向き二股状の上部に形成される溝部52aは、テンションギヤ21の歯車部21aに係止部104Kが咬合する状態で巻付けられるようにバンド部1を導入する役割を有している。
連係機構fは、図8〜10に示すように、ピン・ローラ18bがL字アーム16の基端部16bに当接し始める位置関係、即ち、操作レバー18とL字アーム16との配置関係によって構成されている。具体的には、操作レバー18が引締め位置Hを越えて上昇揺動されることでカッター刃15が動き出すように、操作レバー18及びL字アーム16の形状、寸法を設定することによって構成されている。つまり連係機構fは、結束圧制限手段eが作動し、かつ、操作具bが引き続き操作されるに伴って切断機構dが作動するように、操作具bと結束圧制限手段eと切断機構dとを連動連係するものであると定義することができる。
以上のように構成されている結束引締め具Aによる結束作業手順について説明する。まず、図1,9に示すように、先端保持部5の凹入孔部56にヘッド2の支柱部107側部分を挿入して保持させた状態で、摘み39を掴んで前方にスライド操作し、設定長さのバンド部1をヘッド部2から押出す(図6参照)。このとき摘み39は押出し位置kからすぐに戻り位置mに戻しておく。そして、図12に示すように、その状態で先端保持部5を結束予定対象となるハーネス部分nに近付けるとともに、突出しているバンド部1をその結束予定ハーネス部分nに巻付けてから、バンド先端部1tをヘッド部2のバンド挿通孔105に再挿入する。
それから、図13に示すように、工具ボディ6先端の突片8を結束用治具Jの設定箇所9に当て付けて位置決めしてから、待機位置Tにある操作レバー18を共握りによって引締め位置Hに上昇揺動して、工具ボディ6内部に存在するバンド部1を引張って引締める操作を1回又は複数回繰り返し、結束予定ハーネス箇所nを所定の結束圧となるように引締める。この操作レバー18の上昇揺動操作によって結束圧が設定値になると、前述のように操作レバー18の引締め位置Hより更なる上昇揺動が可能となり、それによってバンド部1が切断される。バンド部1が切断されたら、図14に示すように、結束引締具A全体を持上げることにより、結束用治具Jの揺動式ストッパ60が押されて退避揺動し、迂回させることなく結束引締め具Aを結束用治具Jから抜き出し移動させることができる。このようにして、1サイクルの結束引締め具を用いた作業が完了する。
工具ボディ6を、その先端部6bをボディ本体6Aに対して下方に屈曲させてある形状に起因して次のような利点がある。図1,2は、作業台91に搭載される支持基板10にハーネススタンド11を介して横臥配設されているワイヤーハーネスWを多数箇所で結束する場合を示している。詳しくは、前後中間に配されているハーネス部分w2を結束バンドVで結束する場合である。結束引締め具Aは、その握り部6aを手指で握って支持されており、先端部6bが下方に曲げられて先端保持部5が握り部6aに対して下方に離れ、かつ、ヘッド部2を挿入して保持するための凹入孔部56の向きが握り部6aに対して90度異なる下向きに設定されているので、ボディ本体6Aは手前のハーネス部分を跨いで干渉することなく上方に離れて位置するようになり、工具ボディ6が全体としてほぼ水平となる姿勢で、換言すれば手首や腕に無理の掛からない楽な姿勢で結束引き締め作業が行なえるようになっている。
また、本結束引締め具Aにおけるバンド部1の引締め及び切断の結束操作は、工具ボディ6を支持すべく握り部6aを握る手指によって共握りされる操作レバー18によって行なわれるから、要するに、片腕のみの操作で、しかも操作レバー18を1回又は複数回握り込み操作するという握り部6aを握ったままの状態で行なえるから、両手を使うとか手指の握り位置の変更を伴うといった面倒な或いは煩わしい操作が不要になり、簡単で便利に操作できる利点がある。
加えて、結束引締め具Aの使い方には、次のような使い方が可能である。図22に示すように、ボディ先端部6bが下となる状態でボディ本体6Aが上下向きで、かつ、先端保持部5が手前側(作業者側)に向く縦向き姿勢で工具ボディ6を握って結束作業する使い方である(第1別使用法)。この第1別使用法は、図22に示すように、結束対象となるハーネス部分nの向こう側において横にクランプ部4を向けた状態で結束するような場合や、或いは結束対象となるハーネス部分nの手前近傍と上方との2箇所に別のハーネス部分が存在していて、向こう側からしか結束作業できないような状況において有効である。
図23に示すように、ボディ先端部6bが下となる状態でボディ本体6Aが上下向きで、かつ、先端保持部5が向う側(反作業者側)に向く縦向き姿勢で工具ボディ6を握って結束作業する使い方である(第2別使用法)。この第2別使用法は、図23に示すように、結束対象ハーネス部分nの手前側において横にクランプ部4を向けた状態で結束するような場合や、或いは結束対象ハーネス部分nの向う側近傍と上方との2箇所に別のハーネス部分が存在していて、手前側からしか結束作業できないような状況において有効である。
図24に示すように、ボディ本体6Aが横向きで、かつ、先端保持部5が上向きとなる横向き姿勢で工具ボディ6を握って結束作業する使い方である(第3別使用法)。この第3別使用法は、図24に示すように、結束対象ハーネス部分nの下側において下にクランプ部4を向けた状態で結束するような場合や、或いは結束対象ハーネス部分nの向う側及び手前側の双方の近傍と上方との3箇所に別のハーネス部分が存在していて、下方側からしか結束作業できないような状況において有効である。
つまり、先端保持部5を有するボディ先端部6bの曲げ形成に伴うボディ本体6Aに対する変位量(図24における符号D)は比較的少ない目の寸法に設定されており、工具ボディ6全体としての上下方向寸法は小さいものであるから、支持基板10上において横臥配設されているワイヤーハーネスWの結束において、上述のように、前後上下のどの方向(四方向)からも結束引締め具Aを位置させての引締め及び結束作業が可能であり、使い勝ってが向上する使い易く、汎用性にも富むものとなっている。また、本結束引締め具は、前述の四方向の使用形態に限られるものではなく、斜め上から、或いは斜め下からの姿勢で使用することも自在であり、360度のあらゆる角度の姿勢で無理なく用いることができる利点を有している。
〔実施例2〕
押出し機構(バンド突出手段)cは、図25〜図28に示す構造としても良い。即ち、実施例2による押出し機構cは、実施例1の押出し機構cと解除機構oと伝動機構sの具体構造が異なっているものであり、操作形態もスライド操作式から揺動操作式に変更されている。まず、解除機構oは、ロック解除プレート33を押上げる部材が異なる以外は実施例1による解除機構oと同じであり、異なる部分について説明する。前記「押上げる部材」は、主支点Xの下方に設けた第5軸心p5で揺動自在に支持される押出しレバー(操作具の一例)39であり、この押出しレバー39を手前側から前方に約90度揺動操作することにより、先端保持部5からバンド部1を所定量突出させることができる。
伝動機構sは、テンションギヤ21に中間ギヤ65を介して咬合する操作ギヤ(歯車の一例)61と、この操作ギヤ61にバンド引き込み方向の回動力のみを伝達するように構成されたワンウェイクラッチ62を介して連動される揺動操作自在な押出しレバー39と、この押出しレバー39の揺動開始に伴ってロック解除プレート33を上方(咬合離脱方向)に押出すように押出しレバー39に形成されるアプローチ曲面(作用部の一例)39aと、を有して構成されている。押出しレバー39の揺動角度領域(約90度)は、この押出しレバー39に当接する始端側ストッパ63と終端側ストッパ64とによって規定されている。
中間ギヤ65及びこれと咬合する操作ギヤ61とは左半割ボディ6Lによって、又はこれとハウジング66とによって回転自在に支持されており、中間ギヤ65は複合回転体17と一体回転する支軸67に形成されたピニオンギヤ67aに咬合されている。従って、操作ギヤ61を回転操作すれば、その回転速度を増速しながら複合回転体17を、即ちテンションギヤ21を回転させることができる。押出しレバー39は、第5軸心p5で回転自在に支持される操作ギヤ61を跨ぐ二股状のものに形成されており、内側のレバー部39Rの基端部には、ロック解除プレート33に当接可能な略扇形の作用片39Aが形成され、その始端側に前述のアプローチ曲面39aが形成されている。また、この押出しレバー39にワンウェイクラッチ62が構成されている。
ワンウェイクラッチ62の構造を説明すると、図28に示すように、押出しレバー39の先端部には操作ノブ39Bが支承されるとともにボルト68を螺着するための突片39bが一体形成され、かつ、内外のレバー部39R,39Lの間にはラチェット爪69が第6軸心p6で揺動自在に支持されている。ラチェット爪69は、押出しレバー39と共に始端側ストッパ63に当接する基端作用部69a、操作ギヤ61に咬合自在な先端爪部69b、及び戻しコイルバネ70を受けるべく先端側に形成されたバネ受け部69cを有した天秤揺動自在な部材に形成されている。突片39bに螺装されたボルト68とに跨って外嵌装備される戻しコイルバネ70により、ラチェット爪69は先端爪部69bが操作ギヤ61に咬合する方向に押圧付勢されている。
つまり、押出しレバー39を前方に押出し操作して矢印ヘ方向(図30参照)に揺動させる場合には、第6軸心p6との位置関係によるセルフロック作用によってチェット爪69が操作ギヤ61に咬合し続けるので、操作ギヤ61を、即ちテンションギヤ21をバンド送り出し方向(矢印ニ方向:図4参照)に回転させることができる。反対に押出しレバー39を戻り位置mに戻すべく引き戻し操作して矢印ト方向(図31参照)に揺動させる場合には、ラチェット爪69が操作ギヤ61から抜け出し移動するので、操作ギヤ61は回動せず押出しレバー39のみが揺動移動するように、ワンウェイクラッチ62が機能するのである。尚、71は、ラチェット爪23の受ピン23bとの干渉を回避するために工具ボディ6(正確には左半割ボディ6L)に形成された逃し孔である(図2等参照)。
次に、実施例2による押出し機構cの作用について説明する。図26に示すように、押出しレバー39が、左半割ボディ6Lにボルト止めされる三角ブロック状の始端側ストッパ63に当接しての戻り位置mにあるときには、ラチェット爪69の基端作用部69aも始端側ストッパ63に当接し、それによって先端爪部69bが操作ギヤ61との咬合が離脱した状態にある。押出しレバー39の押出し位置kに向けての揺動を開始すると、図29に示すように、基端作用部69aが始端側ストッパ63から離れる迄は、即ち、切換り位置kr迄は先端爪部69bの操作ギヤ61からの離脱状態、つまりはワンウェイクラッチ62の非作動状態が維持され、操作ギヤ61は回転せず、押出しレバー39のみが若干角度揺動移動される。この間に作用片39Aがロック解除プレート33を、その下端面にアプローチ曲面39aから当接して押上げるので、一方向クラッチCrが伝動断絶状態に切換えられる。
押出しレバー39が切換り位置krを過ぎると先端爪部69bが操作ギヤ61に咬合されてワンウェイクラッチ62が伝動状態(ON)となり、操作ギヤ61が押出しレバー39と一体で回転して複合回転体17を矢印ニ方向(図4参照)に回転させ、バンド部1を押出し移動させる。そして図30に示すように、押出しレバー39がハウジング66の端面で成る終端側ストッパ64に当接する押出し位置k迄操作されると、先端保持部5からバンド部1が所定長さ突出される状態が得られる。バンド部1が所定量突出されたら、押出し位置kにある押出しレバー39を戻り位置mに復帰揺動操作するが、図31に示すように、この戻し操作時はワンウェイクラッチ62が伝動断絶状態(OFF)に切換わるので、操作ギヤ61は動かず押出しレバー39のみが戻り位置mに揺動操作されることとなる。
つまり、図29に示すように、押出しレバー39の戻り位置mと切換り位置krとの間のリリース角θにおける押出し側の揺動操作により、ラチェット爪69と操作ギヤ61との咬合及び咬合解除によるワンウェイクラッチ62のONとOFFとの切換え、即ち解除機構oのONとOFFとの切換えが行なわれ、切換り位置krと押出し位置kとの間の実動角αにおける押出し位置kに向う揺動操作により、伝動機構sがONになってテンションギヤ21がバンド送り出し方向に回転してバンド部1が送り出される。そして、押出しレバー39の実動角α及びリリース角θにおける戻り位置mに向う引き戻し側の揺動操作により、ワンウェイクラッチ62がOFFとなって伝動機構sがOFFになり、操作ギヤ61は回転せず、押出しレバー39のみが揺動移動されるのである。
この揺動操作式の押出し機構cにおいては、一対のストッパ63,64の位置変更、或いは操作ギヤ61とピニオン67aとのギヤ比変更等の手段により、押出しレバー39の1回の揺動操作に対するバンド部1の先端保持部5からの突出量を変更設定することが可能である。また引締め部aは、手指でバンド部1を直接引張る人為操作式のものでも良く、その場合には、バンド部1を引張るための操作用空間が引締め部aに相当する。