以下に本発明の実施の形態を実施例に基づき具体的に説明する。
以下の実施例あるいは図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(実施例1)
図1に本発明の実施例1のプロセス図を示す。図2は従来例のプロセス図である。
図2に示すように、従来の方法では、媒体超臨界化工程1において媒体である水を超臨界状態とする。混合工程2においてこの超臨界状態の水へ、硫酸塩を含む有機廃棄物を加える。得られた混合物を超臨界分解工程6において、水の臨界点を超える高温高圧下で酸化剤と共に所定時間保持する。硫酸塩を含む有機廃棄物は、超臨界状態の水中で酸化分解される。
生成した分解ガスと分解液、および有機廃棄物に含まれていた硫酸塩などの無機物(酸化物など)は、回収工程5に送られ、有害物を回収され、固化等の処理を受ける。
これに対して、実施例1の方法では、媒体超臨界化工程1において媒体である水を超臨界状態とする。混合工程2においてこの超臨界状態の水へ、硫酸塩を含む有機廃棄物を加える。
なお、超臨界状態とした媒体と有機廃棄物を混合する代わりに、まず媒体と有機廃棄物を混合してから、混合物を加温加熱して媒体を超臨界状態としてもよい。
得られた混合物を低分子量化工程3において、酸化剤なしで超臨界状態の水中に所定時間保持し、硫酸塩を含む有機廃棄物に含まれる有機物の全部または大部分を低分子量化する。
次いで、酸化工程4においては、低分子量化工程で生成した生成物を酸化剤と混合し、亜臨界状態で所定の時間保持する。
生成した分解ガスと分解液、および有機廃棄物に含まれていた硫酸塩などの無機物(イオン)は、回収工程5に送られ、有害物を回収され、固化等の処理を受ける。
従来の方法では、有機廃棄物に含まれる有機物を効率良く酸化分解することができるが、有機廃棄物中に無機物が含まれている場合には、超臨界状態では亜臨界状態と比較して無機物が酸化物などを形成して析出しやすかった。
鉛を例にとり説明する。図3は、超臨界、亜臨界条件での酸化鉛の溶解度を示すグラフである(化学工学会第63回年会、東北大学工学部、陶他「亜臨界、超臨界水中における金属酸化物の溶解度測定」)。374℃以上の超臨界領域での酸化鉛の溶解度は小さく、450℃では、0.5x10-3 mol/kgとなる。しかし、亜臨界領域では溶解度が上昇し、0.5x10-2mol/kgと、約10倍になる。溶解度は酸素が共存すると更に小さくなる傾向がある。
したがって、無機添加物や有機金属塩添加物を含む有機廃棄物を、従来のように酸化剤の存在下で超臨界状態で処理すると、無機添加物や有機金属塩添加物等に含まれる無機物が酸化物として析出する。
本実施例においては、低分子量化工程においては酸化剤が存在しないため、有機廃棄物に含まれていた硫酸塩などの無機物は酸化されず、したがって、無機酸化物等の析出を防ぐことができる。
その後に、亜臨界状態で酸化剤を加えて酸化することで、有機物を効率良く分解することができる。
有機物を酸化剤と混合して酸化する前に、水と混合して超臨界状態で反応させると、有機物内に存在する結合エネルギーの小さい結合が選択的に熱分解または加水分解され、高分子量の有機物を低分子量化できる。次に、低分子量化された有機物に酸化剤を添加して亜臨界状態で反応させれば、有機物の分子量が小さいため酸素と反応する速度が速く、短時間で酸化することできる。
したがって、有機廃棄物を超臨界状態で所定の時間反応させた後に、亜臨界状態で所定の時間保持することで、有機廃棄物を効果的に分解でき、かつ無機物の析出を防ぐこともできる。
実施例1においては、酸化剤として過酸化水素を使用したが、特にこれに限定されるものではない。酸素、空気、もしくはオゾン、または酸素、空気、過酸化水素、オゾンの2種以上等を、使用することができる。
有機物は一般的にラジカルと反応して分解する。特に有機物に対して活性なラジカルはヒドロキシラジカル(・OH:以下OHラジカル)である。OHラジカルは25℃の酸性溶液中ではI式のような酸化還元電位をもちオゾンよりも強力な酸化剤である。
OH・+H+ +e- →H2 O 2.85V.vs. NHE …Iそのため、有機物を効果的に分解するにはOHラジカルの生成が大きな鍵となる。
超臨界水中で水と酸素は反応し、II式に示すようなOHラジカルとヒドロペルオキシラジカル(・OOH)を生成する。
H2 O+O2 →HO2 ・+OH・ …II
Baulchらは500℃におけるII式の反応速度定数を10-10.5 mol/s と大変遅いと報告している(酸素0.00631mol 水6.31mol )。さらに、ヒドロペルオキシラジカルはIII 式のように反応して過酸化水素と酸素を生成しさらにIV式のように分解してOHラジカルを生成する。
HO2 ・+HO2 ・→H2 O2 +O2 …III
H2 O2 →2OH・ …IV
一般的にラジカル同士の反応は速く、過酸化水素の分解反応は100℃以上の温度で容易におこるため、III 、IV式の反応速度は速いと考えられる。
超臨界水中で酸素を用いて有機物を分解する場合、II式の反応が律速になるため、過酸化水素を添加して直接OHラジカルを生成させると、効果的に有機物の分解反応を起こすことができる。
以下に、実施例1の方法によりポリエチレンを分解した結果を示す。
硫酸セリウムが2mg付着したポリエチレン10mgと水2mlを、反応器(5.6ml)に加え、400℃、30MPaで30分反応させた。
反応後、常温常圧に戻して測定すると、最初に固体として存在したポリエチレンの99%以上が熱分解して、C=1〜30のアルカン類とアルケン類となり、気体または液体中に存在していた。
続いて、過酸化水素0.3gと水1.6g(全体で3.6gになるように)を加え、350℃、30MPaで60分保持した。反応後、常温常圧に戻し、気体及び液体中の有機体炭素量を測定すると、99%以上の有機物が酸化されて分解していた。
反応後、常温常圧に戻し、分解液を濾過し、濾液中のセリウムをICP(Inductively Coupled Plasma Spectroscopy) で測定した。また、ろ紙を酸で溶解して同様にICPでセリウムを測定したところ、沈殿物がないことが確認された。したがって、セリウムはすべてイオンの形で存在し、酸化物として沈殿していないことが解った。
比較のために、従来のように、酸化剤の存在下にポリエチレンを超臨界水中で分解した。
硫酸セリウムが2mg付着したポリエチレン10mg、水2ml、過酸化水素0.3gを、反応器(5.6ml)に加え、400℃、30MPaで30分反応させた。
その結果、99%以上のポリエチレンが酸化・分解され、二酸化炭素と水を生成した。セリウムの半分は酸化物として沈殿した。
以上より、実施例1の方法によれば、無機物を析出させることなく、有機廃棄物を効率良く分解できることが解った。
(実施例2)
実施例2の方法では、図2に示す従来の媒体超臨界化工程1において、水1kgに対し水素イオンが10-4モル以上となるよう無機酸を加えたものを超臨界状態とし、その後の工程で超臨界媒体として使用する。
Smith らは硝酸廃液中の金属元素が高温高圧下でV式に示すように加水分解し、その後VI式に示すように熱分解し最終的に酸化物になると報告している。
また、V式で生成した硝酸が熱分解して酸素を発生するため、酸化物が形成されやすくなる。
M(NO3 )n +nH2 O → M(OH)n +nHNO3 …V
M(OH)n → MOm …VI
こうした加水分解を防ぐには、酸を添加してV式の平衡を左に移動させる必要がある。
水中の水素イオン濃度は、水のイオン積と密接な関係をもつ。図4に温度および圧力を変化させた場合の水のイオン積の変化を示す。
例えば、圧力が25MPaでは、水のイオン積は300℃付近で最も大きく10-11(mol/kg)2 となる。そのため酸などが共存しない場合の超臨界水中の水素イオン濃度は、3.3×10-6 mol/kgとなる。また、374℃以上の超臨界水の条件では水のイオン積は10-11(mol/kg)2 より小さくなり、特に600℃では、10-24(mol/kg)2 となる。そのため600℃での水素イオン濃度は、10-12 mol/kgと、300℃に比べて極端に小さくなる。
従来、超臨界水を用いて有機物を分解する場合には、高温でかつ比較的低圧な条件(例えば600℃、25MPa)を用いることが多かった。したがって、無機物を含む有機物に水のみを加えて高温で反応させると、反応器中の水素イオン濃度が極端に小さくなり、V式の平衡を右に移動させ、無機物が酸化物として析出した。
超臨界水中のイオン濃度を増加させるためには、イオン積を増加させる必要がある。図4に示すように、イオン積は圧力の上昇に伴って増加する傾向があるが、実用上使用できる圧力は50MPa以下と考えられる。
例えば350℃、50MPaでは、イオン積は10-12(mol/kg)2 となり、常温常圧でのイオン積10-14(mol/kg)2 に比べて100倍大きい値となるが、水素イオン濃度は10-6mol/kg程度である。このように、温度と圧力を選択することでは、超臨界水中の水素イオン濃度を極端に増加させられないため、本実施例においては、超臨界水中に酸を添加することによって、水素イオン濃度を調整し、無機物の析出を防ぐこととした。
本実施例の方法により、超臨界水中に酸を添加して、無機物が析出しない条件を検討した。
水の水素イオン濃度が、10-4mol/kgとなるように、5×10-5 モルの硫酸を添加し媒体とした。
得られた媒体と硝酸セリウム(セリウムとして1mg)を混合し、400℃、25MPaで30分反応させた。反応後、常温常圧に戻し、分解液を濾過し、濾液中のセリウムをICPで測定した。また、ろ紙を酸で溶解して同様にICPでセリウムを測定し、沈殿物の有無を確認した。結果を表1に示す。
また、従来例として、硫酸を加えず水のみを媒体として使用した結果と、硫酸を水1kgに対し5×10-6 モル、即ち水素イオン濃度にして10-5 mol/kgを添加した媒体を使用した結果とを併せて記す。
表1から明らかなように、従来例でセリウムは100%が酸化セリウムとして沈殿したのに対し、5×10-5モルの硫酸を添加すると、沈殿率は0%となり、セリウムの全量が溶解した状態で液中に残存した。また、5×10-6モルの硫酸を添加した場合は、70%のセリウムが沈殿した。
以上より、水素イオン濃度として10
-4mol/kgとなるように酸を添加すると、セリウムが沈殿しないことがわかった。
無機物は酸素が存在すると酸化されて酸化物となる。そこで、本実施例の方法において、媒体中に酸化剤が存在する場合に、無機物を析出させることなく有機物を分解できる条件を調べた。
図5に硝酸セリウム(セリウムとしてlmg)に水、硫酸および酸化剤を添加し、400℃、30MPaで30分反応させた結果を示す。
硫酸は水1kgに対し、5×10-3モル添加した。ICPで測定したところ、セリウムは酸化剤添加量の増加に伴って沈殿した。特に酸化剤を化学量論量(セリウムが二酸化セリウムになると仮定)の600倍(過酸化水素を0.3g)添加すると97%のセリウムが沈殿した。
したがって、酸化剤が存在する場合は、酸化剤添加量の増加に伴って、酸の添加量を増加させる必要があることがわかった。
表2に硝酸セリウム(セリウムとしてlmg)に酸化剤を化学量論量の4倍添加し、400℃、30MPaで30分反応させた結果を示す。水に対して硫酸を5×10-2mol/kg添加するとセリウムの沈殿率は0%になった。
したがって、酸化剤の存在下では水1kgに対して硫酸を5×10
-2mol(水素イオン濃度にして、10
-1モル/kg)添加する必要があることがわかった。
以上により、酸化剤が存在する場合は、媒体1kgに水素イオン濃度にして10-1モルの酸を添加すると、無機物を析出させることなく有機物を分解できることがわかった。
さらに、本実施例の方法において、有機物廃棄物に硝酸塩以外の無機酸が含まれている場合を検討した。
セリウムの硝酸塩、硫酸塩、塩化物、リン酸塩および酸化物(それぞれセリウムとしては1mg)のそれぞれに、酸化剤を化学量論量の4倍添加したものを処理対象とした。水に対して硫酸を5×10-2mol/kg添加したものを媒体として、それぞれの処理対象を400℃、30MPaで30分反応させた。表3に結果を示す。
硝酸塩、硫酸塩、塩化物およびリン酸塩の場合には、ICPで測定したところ、水中にイオンとして存在するセリウムの量が100%となり、セリウムの沈殿率は0%となった。また、最初に固体で存在していた酸化物の50%が液中に溶解しており、酸化物でも少量であれば液中に回収できることがわかった。
以上より、本実施例の方法によれば、硝酸塩だけでなく、硫酸塩、塩化物、リン酸塩や酸化物が含まれていても無機物を析出させることなく有機物を分解できることがわかった。
例えば、プルトニウムの酸化物を含む有機廃棄物を処理する場合は、液中にプルトニウムをイオンとして回収できるため、プルトニウムで汚染された有機廃棄物(例えば、ウエス、グローブ)を非α廃棄物(α線を放出しない元素のみを含む廃棄物)とすることができ、処分コストを低減することができ好ましい。
さらに、本実施例の方法において、媒体の水素イオン濃度を調整するための無機酸として、硫酸、塩酸を使用して、無機物を析出させることなく有機廃棄物の処理ができるかどうかを検討した。
硝酸セリウム(セリウムとしてlmg)に酸化剤を化学量論量の4倍添加し、水1kgに対して硫酸5×10-2molを添加したもの、塩酸1×10-1molを添加したもの、硝酸1×10-1molを添加したものを媒体として、それぞれ400℃、30MPaで30分反応させた結果を表4に示す。
ICPで測定したところ、硫酸、塩酸ではセリウムの沈殿は見られなかったが、硝酸を添加すると100%のセリウムが沈殿した。硝酸は高温では熱分解するため、水素イオン濃度が水1kgに対し10-4グラムイオン以下となり、無機物の溶解度が下がり沈殿したものと考えられた。
以上より、硫酸や塩酸を無機酸として用いれば、無機物を析出させることなく有機廃棄物を分解できることが解った。
(実施例3)
図6に本実施例の廃棄物処理装置の概略を示す。
本実施例の廃棄物処理装置は、有機廃棄物を水の超臨界状態で処理するための反応器7と、反応器7に有機廃棄物を投入するための有機廃棄物供給装置8と、反応器7に媒体である水を供給するための水供給装置9と、反応器7で生成した低分子量有機物を酸化し、さらに分解するための酸化反応器10と、酸化反応器10に酸化剤を供給するための酸化剤供給装置11と、酸化反応器10からの生成物を回収するための回収装置12からなる。
回収装置12は気液分離器15、気体処理装置16、液体処理装置17を有する。
液体処理装置17は液体スラッジを乾燥する乾燥器18と固化する固化器19を有する。
本実施例においては、反応器7と酸化反応器10を別に設け、パイプ等で両者を結び、反応器7で生成した生成物を酸化反応器10に送るように構成したが、1つの容器を邪魔板等で2室に分けた構造としてもよい。また、圧力や温度を適当に調整すれば、1つの容器を反応器7と酸化反応器10として使用することもできる。
処理対象としては特に限定されない。樹脂等を含む有機廃棄物、放射線物質で汚染された有機廃棄物等、様々な有機廃棄物を処理することができる。
砂、砂利等の不溶性の夾雑物をふくむ有機廃棄物や、無機添加剤や有機金属塩添加剤を含む樹脂等の有機廃棄物を処理する場合には、超臨界状態で有機物を低分子量化してから、亜臨界状態で酸化・分解を行っても、無機物の析出を充分に防げないことがある。
こうした場合には、一度に処理する有機廃棄物の量を少なくすることが望ましい。また、図7に示すように反応器7の下部に分離器20を設けて、超臨界状態で析出した無機物を、重力や慣性を利用して除去してもよい。そうすれば、亜臨界状態での無機物の析出を防げる。
分離器20は、図7に示すように、反応器7の内部に設けてもよいし、反応器7と酸化反応器10との間に別に設けてもよい。
本実施例では、超臨界媒体として水を使用したが、特にこれに限定されるものではなく、二酸化炭素、各種炭化水素、あるいはこれらの混合物を使用してもよい。
図8は、水と炭化水素類との混合物の臨界点を示す臨界曲線である。水の臨界点は、374℃、22MPaであるが、図8において、例えば水−べンゼン系では、2成分を特定の割合で混合することにより、臨界点を300℃以下にまで下げることができる。したがって、水、二酸化炭素、炭化水素の混合物を媒体として用いれば、超臨界状態を維持しつつ、より低温、低圧のマイルドな条件で有機廃棄物を処理することが可能となる。図中、a:水ーベンゼン、b:ベンゼンー重水、c:水ートルエン、d:水ーoーキシレン、e:水ー1,2,5- トリメチルベンゼン、f:水ーシクロベンゼン、g:水ーエタン、h:水ーnーブタン、i:水ーナフタレン、j:水ービフェニルである。本実施例では酸化剤として、過酸化水素を使用しているが、特にこれに限定されるものではなく、酸素、空気、もしくはオゾン、または、酸素、空気、過酸化水素、もしくはオゾンの2種以上を混合したものでもよい。
過酸化水素を使用すると、効率よく有機物を分解できるので好ましい。
また、有機物を完全に分解するためには、添加する過酸化水素の量は、有機物が、二酸化炭素や水に分解されるのに必要な量の1倍以上添加することが望ましい。好ましくは、1.2倍〜10倍添加する。
本装置を用いて、実際に有機廃棄物を処理する場合には、水供給装置9により、反応器7に媒体としての水を供給する。反応器7で超臨界状態とされた水に、有機廃棄物供給装置8で、有機廃棄物を供給し、超臨界水と混合し超臨界状態に所定時間保持する。
有機廃棄物は、反応器7において、媒体である水の超臨界状態で低分子量化される。生成物を酸化反応器10に移し、酸化剤を添加して亜臨界状態で酸化する。
酸化反応器10で生じた生成物は回収装置12に送られ、気液分離器15で気体と液体に分けられ、それぞれ気体処理装置16と液体処理装置17に送られ有害物質が回収される。
分解により生成した固相または液相は、乾燥器18で乾燥された後に固化器19において固化剤を混入され、ドラム缶などの処分容器内で固化され、安定な固化体となる。これにより、貯蔵、処分の際の安全性が確保でき、また管理が容易になる。固化剤としては、例えば、セメントミルクが好ましく用いられる。
有機廃棄物供給装置8と、水供給装置9と、酸化剤供給装置11を設けたことにより、有機廃棄物、水、酸化剤を反応器7や酸化反応器11へ連続的に供給でき、また、回収装置12により、連続的に生成物を取出せる。したがって、有機廃棄物を連続的に処理することができる。
以上のように、本実施例の廃棄物処理装置によれば、超臨界状態を利用して有機廃棄物を処理するにあたって、従来法で問題となっている無機物の析出を防げる。
したがって、無機物の析出に起因する反応器の閉塞などのトラブルを回避でき、装置のランニングコスト、メンテナンスコストを低減できる。また、無機物が放射性物質である場合は、作業員の被ばく低減についての効果も期待できる。
また、過酸化水素を酸化剤として添加することで、OHラジカルを短時間に生成させることができるため、短時間に大量の有機物を分解処埋できる。
無機塩を酸化物とすることなくイオン状で回収し、さらに始めから酸化物として存在していた無機物も少量であれば、液体中に回収できるため、有機廃棄物を均質・均一な廃棄体にすることができる。
(実施例4)
図9に本実施例の廃棄物処理装置の概略を示す。
実施例4の廃棄物処理装置は、有機廃棄物を水の超臨界状態で処理するための反応器7と、反応器7に有機廃棄物を投入するための有機廃棄物供給装置8と、反応器7に媒体である水を供給するための水供給装置9と、反応器7内の水の水素イオン濃度を測定するpH メータ21と、反応器7に酸を供給するための酸供給装置22と、pH メータ21の計測値に基づいて酸供給装置22を制御して計算量の酸を反応器7に供給させるためのコントローラ23と、反応器7からの生成物を回収するための回収装置12からなる。
回収装置12は気液分離器15、気体処理装置16、液体処理装置17を有する。
液体処理装置17は、液体スラッジを乾燥するための乾燥器18と固化するための固化器19を有する。
酸供給装置22から供給する酸としては、媒体である水中で電離する無機酸を使用するが、例えば、硝酸のように、高熱で熱分解する酸は使用に適さない。好ましくは硫酸や塩酸が用いられる。
実施例2で述べたように、有機廃棄物の分解に際して、水の水素イオン濃度10-4モル/kg以上にすれば、超臨界状態での無機物の析出を押さえることができる。
しかし、有機廃棄物の種類によっては、分解生成物により水の水素イオン濃度が影響を受けるため考慮が必要である。
例えば、ポリエチレンやポリ塩化ビニルからなるポリ容器を、水の存在下で温度374℃以上、圧力22.1MPa以上で反応させると、ポリエチレンは加水分解してアルコールや有機酸などを生成するが、ボリ塩化ビニルはアルコールや有機酸の他に塩酸を生成する。ポリ塩化ビニル中の塩素量は56wt%であり、水1kgに対し0.006gのポリ塩化ビニルを添加すれば、反応器中の水素イオン濃度は10-4モル/kgとなる。
したがって、ポリ塩化ビニルを水1kgに対し0.006g以上添加する場合には酸の添加は不要である。しかし、ポリエチレンは酸を生成しないため、水1kg当たり水素イオン濃度が10-4モルとなるように酸を添加する必要がある。
また、酸を生成しないポリエチレンと酸を生成するポリ塩化ビニルが混合した廃棄物を分解する場合には、混合比を調べ有機物より生成する酸の量を把握する必要がある。
そこで本実施例においては、pHメータ21で、反応器7中の水素イオン濃度をリアルタイムで測定し、その測定値に基づいて、コントローラ23で、水1kg当たり水素イオン濃度が10-4 モルとなるような酸の量を計算し、算出された量の酸を反応器7に供給するように酸供給装置26を制御する。
こうした構成により、有機廃棄物の種類に関わらず、反応器内の水素イオン濃度を最適の状態に維持することができる。
また、処理対象に応じて、最適量の酸を供給することで、供給する酸の量を大幅に減少することが可能となる。
さらに、下記の理由から、従来例に比べてコンパクトな気液分離器15を用いることが可能になる。
二酸化炭素はVII 式に示すように水に溶けて炭酸となり、さらに水中で炭酸はVIII、IX式に示すようなイオンに解離する。
CO2 + H2 O→H2 CO3 …VII
H2 CO3 → H+ + HCO3 - …VIII
HCO3 - → H+ + CO3 2- …IX
VII 、VIII、IX式の平衡を左に動かし二酸化炭素と水を分離するには、液中の水素イオン濃度を増加させる必要がある。VIII式の酸解離定数は20℃で10-3.6(mol/l )と報告されている。水素イオン濃度を変化させた場合の[HCO3 -]/[H2 CO3 ]比を表5に示す。
H2 CO3 は気相中の二酸化炭素と平衡にあるため、液中に溶解するHCO3 - の割合がH2 CO3 に比べて多いと、水と二酸化炭素の分離が困難になる。従来法では液中の水素イオン濃度が10-7 モル/kg程度であったため液中のH2CO3 の割合が少なく二酸化炭素を分離するには、多量の空気と接触させる必要があり、気液分離器としては比較的大きな物が必要であった。
しかし、本発明では水素イオン濃度を、10
-4グラムイオン/kg以上にしているため、従来例に比べてコンパクトな気液分離器を使用でき、設備コストを低減できる。また、空気を添加する必要がなく気体処理ラインの処理量を減少させ、設備コストやランニングコストの低減が図れる。
なお、本実施例においては、pH メータ21で、反応器7中の水素イオン濃度を直接測定しているが、実際には反応器内は高温・高圧であり、pHメータの設置が難しいこともある。
処理対象である廃棄物の種類や量等から、水に加える酸の量を算出し、水に必要量の酸を混合してから反応器7に供給してもよい。直接反応器内の媒体の水素イオンを測定しなくても、水素イオン濃度を制御することができるため、pHメータを設置する必要がなく好ましい。
以上のように、本実施例の有機廃棄物分解装置においては、無機酸の供給量を、有機廃棄物の種類に応じて調整することにより、水素イオン濃度を無機物の析出を防ぐのに最適な状態に制御し、多種多様の有機物が混合した廃棄物でも容易に処理できる。
また、装置内の有機廃棄物水中の無機酸の量を、水素イオン換算で水1kgに対し10-4モル以上にすることにより、大掛りな設備投資なしに、無機物の析出を効果的に防げる。また、気液分離器もコンパクト化できる。
無機塩を酸化物にすることなくイオン状で回収し、さらに始めから酸化物として存在していた無機物も少量であれば液体中に回収できるため、有機廃棄物を均質・均一な廃棄体にすることができる。
(実施例5)
図10に本実施例の廃棄物処理装置の概略を示す。
本実施例の廃棄物処理装置は、実施例4の廃棄物処理装置において、反応器7に酸化剤を供給するための酸化剤供給装置11を設けたものである。
本実施例の廃棄物処理装置においては、反応器7において、まず水の超臨界状態で有機物を低分子量化してから、反応器7内の圧力と温度を下げて、亜臨界状態で、低分子化された有機物の酸化・分解を行う。
反応器7中の水素イオン濃度は、pHメータ21の測定値に基づいて、コントローラ23で酸供給装置22を制御して、水1kg当たり水素イオン濃度が10-4モルとなるように調整しておく。
有機廃棄物としては、夾雑物や、無機添加剤や有機金属塩添加剤を多量に含まないものが好ましい。もし、有機廃棄物がこうした無機添加剤等を多量に含む場合には、処理する有機廃棄物の量を少なくする、あるいは、析出物の分離装置を設けて、超臨界状態における処理の後に、析出した無機物を除去してから亜臨界状態における処理を行えばよい。
以上のように、本実施例の有機廃棄物分解装置においては、超臨界状態で有機物を低分子量化してから、亜臨界状態で酸化分解を行うことで、無機物の析出を防ぐことができる。
超臨界状態における処理と亜臨界状態における処理を同一の反応器で行えるため、装置のコストを抑えられ、操作も簡単である。
また、水1kg当たり水素イオン濃度が10-4モルとなるように調整することで、さらに効果的に無機物の析出を防ぐことができる。
無機酸の供給量を、有機廃棄物の種類や量、使用する酸化剤の量等に応じて調整することにより、水素イオン濃度を最適な状態に制御し、多種多様の有機物が混合した廃棄物でも容易に処理できる。
したがって、無機物の析出に起因する反応器の閉塞などのトラブルを回避でき、装置のランニングコスト、メンテナンスコストを低減できる。また、無機物が放射性物質である場合は、作業員の被ばく低減についての効果も期待できる。
また、酸化剤を添加することで、短時間に大量の有機物を分解処埋できる。
無機塩を酸化物にすることなくイオン状で回収し、さらに始めから酸化物として存在していた無機物も少量であれば液体中に回収できるため、有機廃棄物を均質・均一な廃棄体にすることができる。
(実施例6)
図11に本実施例の廃棄物処理装置の概略を示す。
本実施例の廃棄物処理装置は、有機廃棄物供給装置8の代わりに、反応器7に無機廃棄物を供給するための無機廃棄物供給装置24を設け、気体処理装置16にアンモニア処理装置25を備え、液体処理装置17にα核種回収装置26を備えた以外は、実施例5の廃棄物処理装置と同様の構成を有する。α核種回収装置26は、凝集沈殿装置と液体中の固形成分を分離する分離器からなる。
無機廃棄物供給装置24を設けずに、有機廃棄物供給装置8で無機廃棄物も供給するようにしてもよい。同一の装置で有機廃棄物も無機廃棄物も両方処理できるため、コストの点からも好ましい。
処理対象としては、無機物のみを含む廃棄物が好ましく、例えば、α廃棄物を含む固化体を処理することもできる。しかし、これに限られるものではなく、有機物を含む廃棄物を対象としてもよい。
本装置を用いて、実際にα核種のような放射性物質や硝酸塩を含む無機廃棄物を処理する場合には、水供給装置9により、反応器7に媒体としての水を供給する。反応器7で超臨界状態とされた水に、無機廃棄物供給装置24で、無機廃棄物を供給し、超臨界水と混合し超臨界状態に所定時間保持する。
反応器7中の水素イオン濃度は、pH メータ21の測定値に基づいて、コントローラ23で酸供給装置22を制御して水に硫酸を加え、水1kg当たり水素イオン濃度が10-4モルとなるように調整しておく。
無機廃棄物は、反応器7において、酸化剤の存在下に、媒体である水の超臨界状態で酸化分解される。
本実施例では、水1kg当たり水素イオン濃度が10-4 モルとなるように調整されているため、放射性物質(例えば、プルトニウム等のα核種)を析出させることなく、液体中に回収することができる。無機廃棄物中に含まれる硝酸や硝酸塩も析出することなく分解され、アンモニアとして気体中に回収される。
生じた生成物は回収装置12に送られ気液分離器15で気体と液体に分けられ、それぞれ気体処理装置16と液体処理装置17に送られる。
アンモニア含有気体は、アンモニア処理装置25において、白金触媒存在下で310℃以上に加熱され、アンモニアが窒素となる。
プルトニウム等のα核種を含む液体は、α核種回収装置26の凝集沈殿装置において、バリウムを添加され、難溶性の硫酸バリウムを生成する。III 価とIV価のα核種は、硫酸バリウムと共沈する。V 価とVI価のα核種は、還元剤でIII 価とIV価に還元されて硫酸バリウムと共沈する。セシウム、ストロンチウム等が含まれるときには、ゼオライト、フェロシアン化コバルト、チタン酸などの吸着剤に吸着させ沈殿させる。
また、液体がアンモニアを含む場合には、水酸化ナトリウムを添加して液体のpHを9とした後に、アンモニアを気相に追い出して液体中から除去することも可能である。
沈殿したα核種を含む硫酸バリウム塩を分離器で分離して回収し、ガラス固化体とする。セメント固化体としてもよい。
また、バリウム以外に鉄を添加してpHを4以上とし、生成した水酸化鉄にα核種を共沈させ、水酸化鉄をセメント固化体にして処分することもできる。ランタンのリン酸塩と共沈させてもよい。
α核種を除去された液体は、乾燥器18で乾燥された後に、固化器19において固化剤と混合され、ドラム缶などの処分容器内で固化させられ、非α廃棄物の固化体となる。固化剤としては、例えば、セメントミルクが好ましく用いられる。
以上のように、本実施例の廃棄物処理装置においては、超臨界状態の媒体の水素イオン濃度を水1kg当たりが10-4モルに調整することで、放射性物質や硝酸塩等の無機物の析出を防ぐことができる。したがって、無機物の析出に起因する反応器の閉塞などのトラブルを回避でき、装置のランニングコスト、メンテナンスコストを低減できるのみならず、作業員の被ばく低減についての効果も期待できる。
本実施例によれば、硝酸イオンは分解して大部分窒素になるため、超臨界処理後のα廃棄物の固化体は硝酸塩を含まない。したがって、固化体を還元性雰囲気の地中に埋設してもアンモニアが生じることがなく、固化体中からのプルトニウム等の放射性物質の溶出を防げる。
また、α核種を除去した液体とスラッジを固化させた固化体は、非α廃棄物であるから、浅地層処分可能で廃棄処分が容易となる。その分、深地層処分する廃棄物を減容でき、処分コストの低減につながる。
例えば、通常の方法で得られた放射性廃棄物の固化体からプルトニウム等のα核種を回収してガラス固化体とすれば、α廃棄物の量を大幅に減らすことができる。
本実施例では、α核種を沈殿させ分離回収するように構成したが、α核種のみでなく、液相に溶解している金属などの無機イオンを凝集させ沈殿処理するように構成してもよい。
また、実施例3または4の処理装置に、こうした無機イオンを凝集させ沈殿させる装置を設けてもよい。
(実施例7)
本実施例の廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、有機廃棄物供給装置8、水供給装置9、酸化剤供給装置11のそれぞれに、加熱器および加圧器を設け、回収装置12に、減圧器と冷却器を設けたものである。
実施例4や実施例5の廃棄物処理装置において、有機廃棄物供給装置8、水供給装置9、酸化剤供給装置11、酸供給装置22に同様な加熱器と加圧器を設け、回収装置12に、同様な減圧器と冷却器を設けてもよい。
実施例6の廃棄物処理装置において、無機廃棄物供給装置24、水供給装置9、酸化剤供給装置11、酸供給装置22に同様な加熱器と加圧器を設け、回収装置12に、同様な減圧器と冷却器を設けてもよい。
加熱器は、それぞれ有機廃棄物、媒体、酸化剤を加熱し、加圧器は、それぞれ有機廃棄物、媒体、酸化剤を加圧する。こうした構成により、有機廃棄物、水、および酸化剤を、反応器7に連続的に供給し、かつ反応温度および反応圧力を低下させることなく有機廃棄物を連続処理できる。
酸化反応器10で生じた分解生成物は回収装置12に送られ、減圧器と冷却器で減圧され冷却される。こうした構成により、生成物である流体を連続的に酸化反応器10から抜き出し、また、続いて行われる気液分離器15での流体の気液分離を効果的に行うことができる。
有機物に酸素を添加して分解すると炭素は二酸化炭素に、水素は水になる。超臨界水の条件では、媒体液である水と分解により生成した二酸化炭素は任意に混合し分離が難しい。しかし、分解により生成した流体を減圧し温度を下げ常温常圧にすると、水と二酸化炭素の大部分を分離することができる。
このように、本実施例によれば、バッチ処理に比べて処理速度が速くランニングコストを大幅に低減することが可能となる。また、気液分離器15での気液分離を効果的に行うことができる。
(実施例8)
本実施例の廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、反応器7に温度センサおよび圧力センサを設けたものである。
実施例4、5、6または7の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
図12に水の状態図を示す。水の状態は温度と圧力によって決まるため、反応器7内が超臨界状態あるいは亜臨界状態であるかどうかは、反応器内の温度および圧力を監視することにより把握することができる。
温度センサおよび圧力センサで反応器7内の温度と圧力をモニターすることで、反応器7内の媒体が超臨界状態であるかどうかを、正確に把握し、最適の状態で廃棄物を処理することができる。
反応器7のみでなく、酸化反応器10にも同様の温度センサと圧力センサを設け、酸化反応器10内が亜臨界状態であるかどうかを把握することが好ましい。
また、実施例7の廃棄物処理装置のように、加熱器や加圧器を有する装置では、加熱あるいは加圧された廃棄物、媒体等の温度と圧力を、反応器内へ供給する前に測定するようにしてもよい。反応器内温度や圧力を直接測定しなくても、反応器内の状態を把握することができるため好ましい。
(実施例9)
実施例9の廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、反応器7および有機廃棄物供給装置8の少なくとも一部を、グローブボックス内に設置するものである。
実施例4、5、6,7、または8の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
放射性物質や有害物質で汚染されている有機廃棄物を処理する場合は、放射性物質や有害物質が外部に漏れ出さないような処置を講じる必要がある。実施例3における廃棄物処理装置は、大部分を閉鎖した系の中で処理するが、有機廃棄物供給装置8の一部は有機廃棄物を受け入れるため開放系となる。そのため、放射性物質や有害物質で汚染されている有機廃棄物を処理する場合は、開放系となる有機廃棄物供給装置8を何らかの覆い部材内に設置して、汚染の拡大を防止する必要がある。こうした覆い部材としては、フードやグローブボックス等を使用できる。
また、グローブボックスやフード等の覆い部材を防爆仕様にすることが望ましい。有機廃棄物の分解により、爆発の危険性のある揮発性有機物が生成したり、あるいは、有機廃棄物に爆発の危険性のある揮発性有機物が付着しているような場合でも処理が可能となるからである。
本実施例によれば、処理装置の一部をグローブボックス内に設置するため、装置全体をこうした覆い部材内に設置する場合に比べて、設備規模をコンパクトにすることができる。
(実施例10)
本実施例は、実施例3の廃棄物処理装置において、媒体である水に中性塩を添加するための中性塩供給装置を設けたものである。
実施例4、5、7、8、または9の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
一般的に難溶性の塩Mn Lm の溶解度積Ksは活量を用いてX 式のように表わされる。
Mm+ + Ln- → Mn Lm ,Ks=a1m ・a2n …X
al :Mm+の活量 a2 :Ln-の活量活量aは活量係数γと濃度Cを用いてXI式のように表される。
a=γ・C …XI温度と圧力が一定の場合、活量aが一定となり、Ksは一定の値を持つ。希薄溶液ではγ=1となり活量aと濃度Cは一致する。しかし、イオン強度が増加するとγ<1となりその結果濃度Cが増加し、溶液中に溶解するMm+とLn-が増加して溶解度が増加する傾向がある。
したがって、中性塩を添加すると難溶性の塩の溶解度が増加して、沈殿を抑制することができる。
こうした中性塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムが好ましく用いられる。
本実施例によれば、中性塩を添加することにより、無機物の析出をさらに効果的に抑制することができる。
(実施例11)
本実施例に係る廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、反応器7の内容物に放射線を照射する放射線照射装置を備えたものである。
実施例4、5、7、8、9、または10の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
放射線照射装置の代わりに、紫外線を照射する紫外線照射装置を使用してもよい。
水に放射線を照射するとXII 式に示すようにOHラジカルを生成する。
H2 O→H十OH・ …XII
OHラジカルはI式に示すように強力な酸化剤となるため、酸化剤が存在しなくても有機物を分解することができる。
また、酸化剤の存在下で紫外線および放射線を照射すればこの反応をさらに加速させることができる。例えば、酸素は放射線を照射するとラジカルを生成し最終的に過酸化水素を生成する。過酸化水素は放射線の存在下でXIII式のように反応してOHラジカルを生成し、有機物を分解することができる。
H2 O2 +hν→2OH・ …XIII
オゾンはXIIII 式に示すように紫外線と反応して過酸化水素を生成する。さらに過酸化水素は紫外線とXIII式のように反応してOHラジカルを生成する。
O3 +H2 O+hν → H2 O2 十 O2 …XIIII
さらにXV式に示すようにXII 式で生成した水素原子は酸素と反応してヒドロペルオキシラジカルを生成し、さらにXVI 式のようにオゾンと反応してOHラジカルを生成する。
H 十 O2 →HO2 ・ …XV
O3 +HO2 ・→OH・+2O2 …XVI
したがって、放射線を照射することによりOHラジカルを効率的に生成することができ有機物の分解がより効率的に行える。
なお、放射性物質を含んだ廃棄物を処理する場合は、放射線を外部から照射することなしに容易に放射線場を作ることができるため、放射線照射装置を備えなくても上述の効果が得られる。
(実施例12)
本実施例の廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、気体処理装置16が気体中の固形分や有害成分を除去するフィルタと水中に有害成分を回収するスクラバーを備えたものである。
実施例4、5、6、7、8、9、10、または11の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
例えば、再処理工場から発生する放射性物質で汚染されている廃棄物を処理すると、テクネチウムやルテニウムといった揮発性の元素が気相中に移行する。
ルテニウムは四酸化ルテニウムとして気相中に移行するが、有機物が存在すると還元されて二酸化ルテニウムとなる。二酸化ルテニウムは常温では固体であるため、回体成分を除去するフィルターで除去できる。
また、テクネチウムは七酸化二テクネチウムや過テクネチウム酸となって気相中に移行するが、XVII、XVIII 式に示すように水と接触すると水中にイオンの形態で溶解する。
Tc2 O7 (g)+H2 O→2HTcO4 (g) …XVII
HTcO4 (g)→TcO4 - +H+ …XVIII
そのため、スクラバーを設置すると液中にテクネチウムを回収することが可能である。
テクネチウムなどの元素をより効率的に回収するためには、スクラバ−には水の他に水酸化ナトリウムを含むアルカリ溶液や還元剤を含む水を用いることが好ましい。
テクネチウムは水と接触すると、XVII、XVIII 式に示すように陰イオンの形態で溶解する。この陰イオンは、ナトリウムイオンと反応して塩を作るため、テクネチウムを塩の形で溶液中に回収できる。
HTcO4 +NaOH→NaTcO4 +H2 O …XVIIII
また、テクネチウムは還元剤が存在すると還元されて過テクネチウム酸(VII価)から二酸化テクネチウム(IV価)になる。常温常圧の水に対する二酸化テクネチウムの溶解度は小さいため、テクネテウムは水中に固体の形で回収される。
以上より、本実施例によれば、飛沫同伴で気相中に移行する固体や揮発性の有害な元素を除去でき、放射性物質で汚染されている廃棄物でも安全に処理できる。
(実施例13)
実施例13に係る廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、液体処理装置17が、液体を攪拌するための攪拌装置と液体を採取して分析する採取・分析装置を備えるものである。
実施例4、5、6、7、8、9、10、11、または12の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
気液分離器15から液体処理装置17に送られた液体を、攪拌装置で攪拌すると、液相は均一化される。均一化された液体の一部を、採取・分析装置で採取して分折すれば、液相全体の組成がわかり、固化器19において、貯蔵、処分に最適な固化手段が選定できる。また、固化処理後の固化体の内容物が明らかとなるので、貯蔵、処分時の管理が容易になる。
たとえ、液体に懸濁固形物が含まれていても、攪拌装置で攪拌すれば均一化でき、固化器19において固化処理しやすくなる。
採取・分析装置を設けないと、固化体の内容物が不明であるため管理上なんらかの手段で内容物を測定する必要がある。しかし、固化体の内容物の測定は、代表サンプルの採取が困難であるため、精度が悪く、廃棄物管理上問題である。
(実施例14)
本実施例に係る廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、液体処理装置17に、液体中に含まれる酸、アルカリを中和処理する中和処理装置を備えたものである。
実施例4、5、7、8、9、10、11、12、または13の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
例えば、テクネチウムが含まれる放射性固体廃棄物を処理する場合、テクネチウムは七酸化二テクネチウムとなって、気相中に移行する。
しかし、酸化反応器10から分解生成物を回収装置12に回収後、中和処理装置で水酸化ナトリウムのようなアルカリを加えると、XVIIII式に示すように、気液分離後の液体中に微量に残存しているテクネチウムを、液相中に安定化することができる。
このように、本実施例によれば、液体中に含まれる放射性物質などの有害物質が安定化し、固化器において固化処理しやすくなる。
(実施例15)
実施例15に係る廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、液体処理装置17に、液相を冷却するための冷却器を設けたものである。
実施例4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
放射性廃棄物を処理する場合、液体処理装置17内の放射性物質からの発熱で、冷却なしでは、液が沸騰し、放射性物質の汚染が拡大する恐れがある。冷却器で液体を冷却すれば、こうした危険を回避し、放射性物質を液相中に安定に保持することが可能となる。
(実施例16)
本実施例に係る廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、液体処理装置17に、イオン交換塔を設けたものである。
実施例4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
例えば、再処理工場から発生する放射性物質で汚染されている廃棄物を処理すると、テクネチウムやルテニウムといった揮発性の元素が気相中に移行するが、その一部は液相中に残存し、テクネチウムは過テクネチウム酸として、ルテニウムは塩化物イオンや硝酸イオンの錯体として溶液中に存在する。
過テクネチウム酸は陰イオンであるため、陰イオン交換樹脂脂で除去でき、ルテニウムは陽イオンであるため、陽イオン交換樹脂で除去できる。
以上のように、本実施例によれば、分解生成物の溶液中に含まれる放射性物質のような有害なイオン成分を除去できるため、残った溶液を系外に放出でき、廃棄物の処分コストを低減できる。
また、こうして液体中の有害なイオン成分を取り除く結果、液体処理ラインから固化器に供給される廃液は、液相と固相が、均一、均質となっている。この廃液に固化剤を混入するだけで、均一、均質な固化体を形成でき、シンプルなプロセスで貯蔵、処分のための安定な固化体とすることができる。
(実施例17)
本実施例に係る廃棄物処理装置は、実施例3の廃棄物処理装置において、液体処理装置17に、液体を抽出剤と接触させ、水中の有害な無機イオンを抽出剤に回収するための抽出回収装置を設けたものである。
実施例4、5、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16の廃棄物処理装置において同様の構成としてもよい。
例えば、再処理工場から発生する放射性廃棄物中には、ウラン、プルトニウムなどの核燃料物質が含まれている。これらの元素を含んだ有機廃棄物をそのまま固化するとα廃棄物となり、固化体の処分コストが増加する。そのため廃棄物中からこれらの元素を除去する必要がある。
抽出剤としては、リン酸トリブチル(以下TBP)など中性有機リン化合物や、ジヘキシルリン酸(HDEHP)などの酸性有機リン化合物を使用することができる。
図13に30vol %のTBP−硝酸系のアクチノイド元素の分配係数を示す。硝酸濃度3mol/リットルではウラン、プルトニウム、ネプツニウムの分配係数は10以上、トリウムの分配係数は3以上となった。
抽出回収装置により、液体処理装置に回収される液体の酸濃度を3mol /リットルに調整してから、TBPと接触させると、TBP中にプルトニウムなどのアクチノイド元素を回収できる。さらに、プルトニウムなどのアクチノイド元素を含んだTBPに希酸を接触させると、希酸中にプルトニウムなどのアクチノイド元素を回収できる。
図14にHDEHPを用いたアクチノイド元素の分配係数を示す。硝酸濃度が10-1mol /リットル以下でもプルトニウム、ウラン、アメリシウムの分配係数が100以上となり、HDEHP中に回収できる。また、HDEHPにヒドラジンなどの還元剤を含んだ1mol /リットル程度の酸を接触させると、プルトニウムやウランのVI価が還元されて III価となり酸中に回収される。
HDEHPを使用すれば、酸濃度を10-1 mol /リットル程度でアクチノイド元素が回収できるため、TBPなど中性有機リン化合物を使用する場合と比べて、分離回収器に添加する酸の量を減じることができ、ランニングコストを低減することができる。
上述のTBPやHDEHP等の抽出剤の希釈剤として、超臨界二酸化炭素を用いることが好ましい。使用済みの有機溶媒の量を減じることができ二次廃棄物処理コストを大幅に低減できるからである。
常温常圧でのTBPの比重は水と同じlg/ml程度であり、TBPに希釈剤としてノルマルドデカンを添加すると有機相と水相とを容易に分離できる。プルトニウムなどの放射性物質を、TBPで回収すると、使用後のTBPやノルマルドデカンは放射性を帯びるため、放射性有機廃棄物として処理する必要が生じる。
一般的にTBPが30vol %、ノルマルドデカンが70vol %の割合で混合するため、ノルマルドデカンの処理量はTBPの2倍以上となる。そのため、ノルマルドデカンを処理する必要がなければ、処理コストは3分の1にまで減少する。
二酸化炭素は31℃、7.4MPa以上の条件で超臨界状態となり有機物と任意に混合するため、TBPを超臨界状態の二酸化炭素と接触すると、分解液中からプルトニウムなどのアクニチノイド元素をTBP中に回収できる。使用後に常温常圧にすると、二酸化炭素は気体となりTBPと容易に分離できるため、二酸化炭素の処理は不要となる。
したがって、超臨界状態の二酸化炭素を希釈剤として用いると、処理コストを大幅に削減することができる。
以上のように、本実施例によれば、液体中の有害な無機イオンを抽出剤に回収し、固化体の処分コストを減少させることができる。
また、こうして液体中の有害な無機イオンを取り除く結果、液体処理装置から固化器に供給される廃液は、液相と固相が、均一、均質となっている。この廃液に固化剤を混入するだけで、均一、均質な固化体を形成でき、シンプルなプロセスで貯蔵、処分のための安定な固化体とすることができる。
1…媒体超臨界化工程、2…混合工程、3…低分子量化工程、4…酸化工程、5…回収工程、6…超臨界分解工程、7…反応器、8…有機廃棄物供給装置、9水供給装置、10…酸化反応器、11…酸化剤供給装置、12…回収装置、15…気液分離器、16…気体処理装置、17…液体処理装置、18…乾燥器、19…固化器、20…分離器、21…pHメータ、22…酸供給装置、23…コントローラ、24…無機廃棄物供給装置、25…アンモニア処理装置、26…α核種回収装置