JP4671547B2 - キャップレス筆記具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、キャップレスの筆記具に関し、特に、乾燥防止機構を有するキャップレス筆記具に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、水性や油性のマーキングペン、水性ボールペンや万年筆などの筆記具においては、筆記部の先端のインキが乾燥して筆記できなくなることを防止するために、先端部を密閉するためのキャップを備えるものが一般に用いられている。
また、上記のようにキャップを備えた筆記具の場合には、頻繁に使用する際に、使用するたびにキャップを着脱する必要があり面倒であることから、別体のキャップを不要とした、いわゆるキャップレスの筆記具が数多く提案されている。
【0003】
しかしながら、キャップレスの筆記具の場合、別体のキャップの代わりに狭い筆記体内部に先端部を密閉するための密閉機構を構成する必要があり、従来の方式によると密閉機構が複雑となり、構成部品の部品点数が多くなることで、組立て作業が複雑となり、さらに、生産コストが高くなるという問題点があった。
【0004】
そこで、筆記部先端を密閉する方法として、実開昭49−32731号公報(以下、従来例1と称する。)に開示されているように、筆記具の軸筒内部の先端部に中央から外側に向かい切り込みを入れた弁板を組み込み、その切り込み部分より筆記部先端を突出するようにした方式や、実開昭49−107421号公報(以下、従来例2と称する。)に開示されているように、筆記具の軸筒内部の基端部及び先端部にパッキンを設けて軸筒内部を密閉するとともに、先端部の対向当接させたパッキンの当接部より筆記部先端を突出するようにした方式や、実開昭63−23084号公報(以下、従来例3と称する。)に開示されているように、キャップ本体の前方に開口部を有する弾性自閉体を設けて、軸筒先端部のペン先部を突出するようにしたものが提案されている。
【0005】
また、その他の方法として、特開平1−281999号公報(以下、従来例4と称する。)に開示されているように、筆記具の軸筒内部の先端部に形成され、筆記部のペン先部が収容されるシール室の先端側を開閉自在とするシール手段を備え、該ペン先部が先端部より突出する時に、シール室の先端側を開放するようにした方式や、実開昭58−89394号公報(以下、従来例5と称する。)に開示されているように、筆記具の軸筒内の先端部配置される先軸先端部にペン先部を密閉する密閉部材が密嵌固定されて、先軸の動作に伴い密嵌部材の先端部が開閉するようにした方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、前記従来例1、2、3のような方式によると、ペン先が突出するシール部にはすでに開口部が形成されているため密閉性に課題がある。また、従来例4のような方式によると、シール室やシール開閉機構など構造が複雑になるという課題があり、同様に、従来例5のような方式においても、別部品でシール室を構成して開口機構を設けるなど構造が複雑になるという課題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の課題に鑑み、これを解消しようとするものであり、簡単な構成で軸筒内部の先端部の密閉状態を確実にして、乾燥防止機構に優れたキャップレス筆記具を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、キャップレス筆記具に係り、軸筒内に筆記具用インキが充填された筆記体を配置して、該軸筒の先端開口より筆記体のペン先部が出入自在に構成されるキャップレス筆記具において、前記軸筒の先端開口に、ゴム材または弾性樹脂材で形成されるインナーキャップを備え、前記インナーキャップの材質を特定物性のものを用いることにより、上記目的のキャップレス筆記具が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明のキャップレス筆記具は、次の(1)〜(4)に存する。
(1) 軸筒内に筆記具用インキが充填された筆記体を配置して、該軸筒の先端開口より筆記体のペン先部が出入自在に構成されると共に、前記軸筒の先端開口に、ゴム材または弾性樹脂材で形成されるインナーキャップを備え、該インナーキャップは、軸筒軸心方向に沿ったペン先部出側に、ペン先部が出入自在となるスリットが形成されると共に前記先端開口を閉塞する閉塞部を備えたキャップレス筆記具であって、前記インナーキャップは、筆記具用インキに含有されるインキ溶剤に対して気体透過性の低い材質からなり、かつ、JIS K 6262−1997で規定される圧縮永久歪み率が20%以下の材質からなることを特徴とするキャップレス筆記具。
(2) 前記インナーキャップは、下記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下となる材質を用いることを特徴とする上記(1)記載のキャップレス筆記具。
〔試験方法〕
直径45mm×高さ100mmの有底筒状ガラス製瓶にプロピレングリコールモノメチルエーテルを100g入れ、ガラス製瓶の開口部口元に厚さ2mmのシート状のゴム材を配置し、中心部に直径25mmの貫通孔を設けた金属製蓋で密封固定し、25℃、1週間経過後の溶剤の重量変化をインキ溶剤のシート材質からの透過量として行った。
(3) 前記インナーキャップは、スリットを閉じるように閉塞部に力が掛かった状態で軸筒内に装着されてなることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のキャップレス筆記具。
(4) 前記インナーキャップのスリットが十字状に形成されていることを特徴とする上記(1)〜(3)の何れか一つに記載のキャップレス筆記具。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図3は発明を実施する形態の一例であって、図中、図と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
図1は本発明の実施形態に係るキャップレス筆記具の全体の構成を示す断面図、図2は前記キャップレス筆記具の使用時の状態を示す断面図、図3の(a)は図1のA−A断面矢視図、(b)は本実施形態に係るインナーキャップの装着前の状態を示す(a)のB−B断面矢視図、(c)は前記インナーキャップの装着時の状態を示す(a)のB−B断面矢視図である。
【0010】
本実施形態に係るキャップレス筆記具1は、図1に示すように、軸筒2内に筆記具用インキが充填された筆記体5を配置して、該軸筒2の先端部3に形成された開口部4より筆記体5のペン芯となるペン先部6を突出自在に構成したものである。
前記筆記体5は、軸筒2内の前側の内周に沿って配置されたコイルスプリング7によって後部方向に付勢されるとともに、軸筒2内後部に設けられるストッパ10により後方で保持されている。また、筆記体5の後端部11には、ペン先部6を突出させるための押し部14が、軸筒後端部12より突出自在に設けられている。
この筆記体5内には、筆記具用インキを吸蔵した中綿などのインキ吸蔵体が収容されており、該インキ吸蔵体の先端部側にペン先部6の後部が接しており、これにより、インキ吸蔵体のインキをペン先部に供給する構成となっている。なお、本実施形態では、中綿式のものであるが、コレクター構造を有するインキタンクを備える直液式の筆記体5であってもよいものである。
【0011】
前記筆記体5の後部には、ストッパ係止部15が軸心方向に沿って後方に向かい広いクサビ状に、かつ軸心方向に向かい突出形成されている。前記ストッパ係止部15の後端には、軸心方向に略垂直に係止部15aが形成され、前記ストッパ10には、前記係止部15aと対向してノッチ10aが形成されている。
前記筆記体5は、その後端部11を前方に向かい、コイルスプリング7のばね力に勝って先端側へ押圧すると、ペン先部6が先端の開口部4より突出するようにされている。
【0012】
前記軸筒2内の先端部3には、図1、図3の(a)〜(c)に示すように、先端方向にドーム状に突出形成された閉塞部21を有するインナーキャップ20が設けられている。前記閉塞部21の基部22の一部位22aより、該閉塞部21のほぼ中央部23を通り、軸心方向を中心に対向する部位22bに亘り、平面視で略直線状に外形に沿ってスリット25が形成されている。
【0013】
前記インナーキャップ20は、前記インナーキャップは、筆記具用インキに含有されるインキ溶剤に対して気体透過性の低い材質からなり、かつ、JIS K6262−1997で規定される圧縮永久歪み率が20%以下の材質から形成され、ドーム状の閉塞部21の基部22の外周端部に、三角形状断面を有するペン先側のシール部を兼ねた前側取付部27が外周に沿って円周に亘りに連続的に先端方向に向かい突出形成されている。
また、前記基部22の後端面28には、前側取付部27よりも内側で小径の矩形断面を有する後側のシール部を兼ねた後側取付部29が円周方向全周に亘りに連続的に軸筒内側方向に向かい突出形成されている。
【0014】
前記前側取付部27は、図3の(b)に示すように、インナーキャップ20が軸筒2内に装着されていない状態で、先端部27aが軸筒軸心に沿った方向に対してやや外側に傾斜した形状に形成されている。また、後側取付部29は、その先端部29a軸筒軸心に沿った方向に対してやや内側に傾斜した形状に形成され、前記スリット25は僅かな隙間を有している。
【0015】
前記インナーキャップ20の後方には、該インナーキャップ20を軸筒2の先端部3内側に取付けるためのインナーキャップホルダ30が配置されている。
前記インナーキャップホルダ30は、リング状に形成され、その円周方向の外周面を前記先端部3の内壁部に嵌合するとともに、前記インナーキャップ20の前側取付部27を軸筒2の先端部3の内側へ取付けることで、インナーキャップ20を軸筒2内部に装着するようにしている。
【0016】
また、インナーキャップホルダ30の前記インナーキャップ20の後側取付部29と対向する部位には、前記後側取付部29が嵌め込まれる後側取付溝31がリング状で略平行に凹んだ形状で形成されている。その後側取付溝31の外形は、前記後側取付部29の先端部29aの外形よりも大きくされ、前記後側取付部29を外側に広げた状態で該後側取付溝31に嵌め込むように構成されている。
【0017】
前記軸筒2の先端部3の内側には、図1に示すように、インナーキャップ20の前側取付部27と対向する部位に、インナーキャップ取付け部3aが段付き形成され、前側取付部27が嵌め合わされる前側取付溝3bが軸心方向に沿って略平行に形成されている。その前側取付溝3bの外形は、前側取付部27の先端部27aの外形よりも小さくされ、前側取付部27を内側に向かい縮めた状態で前側取付溝3bに嵌め込むように構成されている。
【0018】
本発明において筆記体5に充填される筆記具用インキとしては、キャップレス筆記具の用途、すなわち、水性又は油性マーキングペン等の用途に応じて、その配合組成は変動するものである。
本発明に用いることができる筆記具用インキ成分としては、少なくとも着色剤、溶剤、樹脂、その他筆記具用添加剤等を用いることができる。
着色剤としては、油溶性染料及び顔料等が挙げられ、油溶性染料としては、有機溶剤に可溶な一般の油溶性染料であればほとんど使用可能である。
例えば、染料としては、オラゾールエロー2GLN、オラゾールレッド3GL、オラゾールブルー2GLN、ネオンザポンブルーFLE、スピリットブラックSP、パリファストレッド1308、オイルブルーBA、オイルエロー185、オイルレッドTR71、オイルブラックS、Victoria Blue、Rhodamine 6JHSA、Flex Yellow 105等、また、顔料としては、特に限定されることなく、例えば、アゾ系顔料、縮合ポリアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、金属錯塩顔料、チオインジゴ顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等の有機顔料及びカーボンブラック、酸化チタン等の無機顔料が挙げられ、更に、表面を樹脂コーティングで加工した加工顔料、例えば、マイクロリスAタイプ各種、ASブラック、ASブルー、IKレッド等も使用することができる。これらの染料及び/又は顔料は、単独又は2種以上混合して使用することもでき、その使用量は着色剤の種類や他のインキ成分により異なるが、インキ全量に対して、1〜30重量%、好ましくは、2〜15重量%が望ましい。
【0019】
用いることができる溶剤としては、例えば、エチルアルコ−ル、プロピルアルコ−ル、イソプロピルアルコ−ル等の低級アルコールや、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の低級脂肪族ケトンや、酢酸エチル、酢酸ブチル等の低級脂肪酸の低級アルコールエステルや、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素やグリコールのアルキルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル等が挙げられ、好ましくは、安全性等の点から、エチルアルコ−ル、プロピルアルコ−ル、イソプロピルアルコ−ル等の低級アルコール、グリコールのアルキルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテルの使用が望ましい。
これらの特性を有する溶剤は、夫々単独で又は2種以上混合して使用することが可能であり、その使用量は、インキ全量に対して、50〜90重量%、好ましくは、70〜85重量%が望ましい。
【0020】
樹脂は、溶剤に可溶な樹脂であり、被膜形成剤、被塗布面への付着剤、インキの粘度調整剤、更に、着色剤の分散剤として使用するものであり、従来より使用されている各種の天然樹脂、合成樹脂が使用でき、例えば、ロジン、エステルガム、マレイン酸変成ロジン、フェノール変成ロジン等のロジン系樹脂、エチルセルローズ、ニトロセルローズ等のセルローズ系樹脂、ポリビニルブチラール、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂、石油系樹脂、ケトン系樹脂、アクリル系樹脂、アルデヒドと尿素の縮合物、マレイン酸樹脂等が挙げられ、これらは単独又は2種以上混合して使用することが可能であり、その使用量は、インキ全量に対して、0.1〜30重量%、好ましくは、1〜20重量%が望ましい。
その他の筆記具用添加剤としては、例えば、アニオン系、ノニオン系、カチオン系などの界面活性剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤、潤滑剤、pH調製剤などが挙げられる。
【0021】
本発明におけるインナーキャップ20は、第1要件として、上述の如く、筆記具用インキに含有されるインキ溶剤に対して気体透過性の低い材質から構成、具体的には、上述のプロピルアルコ−ル、イソプロピルアルコ−ル等の低級アルコールや、芳香族炭化水素、低級脂肪族ケトン、低級アルコールエステル、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、グリコールエーテル等に対して気体透過性の低い材質から構成されている。
これらのインキ溶剤に対して気体透過性の低い材質としては、好ましくは、下記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下、更に好ましくは、0.05g以下となる材質を用いることが望ましい。
〔試験方法〕
図4(a)〜(d)に示すように、直径45mm×高さ100mmの有底筒状ガラス製瓶40にプロピレングリコールモノメチルエーテル50を100g入れ、ガラス製瓶40の開口部41口元に厚さ2mmのシート状のゴム材60を配置し、中心部に直径25mmの貫通孔71を設けたブリキ製の金属製蓋70で密封固定し、25℃、1週間経過後の溶剤の重量変化をインキ溶剤のシート材質からの透過量として行った。
なお、上記試験方法において用いたインキ溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルを用いたが、エチルアルコ−ル、プロピルアルコ−ル、イソプロピルアルコ−ル等の低級アルコール、グリコールのアルキルアルコール、その他のグリコールエーテルなどの溶剤を用いたものであっても、これらの溶剤蒸気の透過量が0.1g以下、更に好ましくは、0.05g以下となる材質を用いることが望ましい。
【0022】
上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1gを越える材質からなるものであると、ペン先部がドライアップしてしまうことがあり、インナーキャップとしての乾燥防止機能を発揮しなくなり、好ましくない。
更に、本発明では、第2要件として、上記インナーキャップ20が、JIS K 6262−1997で規定される圧縮永久歪み率が20%以下、好ましくは、10%以下、更に好ましくは、8%以下のゴム材または弾性樹脂材で形成されていることが必要である。
このインナーキャップ20は、▲1▼上記インキ溶剤に対して気体透過性の低い材質から構成されること、好ましくは、上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下の材質から構成され、かつ、▲2▼圧縮永久歪み率が20%以下となるゴム材または弾性樹脂材からなる材質を用いたものとすることにより、初めて、本発明の目的の効果、すなわち、軸筒内部の先端部のスリットの密閉状態が経時的に完全なものとなり、ペン先部がドライアップすることがなく、インナーキャップとしての乾燥防止機能を発揮することとなる。
なお、上記▲1▼及び▲2▼の両方の要件を充足しないインナーキャップでは、上記本発明の目的の効果を発揮しないこととなる。
【0023】
本発明において、インナーキャップ20は、上記インキ溶剤に対して気体透過性の低い材質から構成され、好ましくは、上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下の材質から構成され、かつ、圧縮永久歪み率が20%以下となるゴム材または弾性樹脂材からなる材質であれば、特に限定されず、例えば、これらの要件を充足するエチレンプロピレンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム(FKM)、クロロスルホン化ゴポリエチレンゴム(CSM)、エピクロロヒドリンゴム、多硫化ゴム、オレフィン系熱可塑性エラストマー、その他上記各ゴム同士のブレンド品、上記各ゴムと樹脂材とのブレンド品などが挙げられ、更に好ましくは、上記▲1▼及び▲2▼の要件を充足するEPDM、IIR、CR、FKM、オレフィン系熱可塑性エラストマーが望ましい。
なお、本発明では、例えば、ゴム種が同じEPDM、IIRなどであっても、そのゴム配合剤種(補強性充填剤、軟化剤、架橋剤、老化防止剤等の種類)及びその各配合量の相違により、インキ溶剤に対して気体透過性の低い材質、例えば、上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下となるもの、または、当該溶剤蒸気の透過量が0.1gを越えるもの、更に、圧縮永久歪み率が20%以下となるもの、または、20%を越えるものが製造されるものとなるので、インキ溶剤に対して気体透過性の低い材質、好ましくは、上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下となり、かつ、圧縮永久歪み率が20%以下等となる材質のもの(ゴム組成物又は軟質樹脂剤組成物)を調製し、本発明となるインナーキャツプに加工して用いることとなる。
【0024】
本発明のインナーキャップ20は、好ましくは、更に、JIS K 6253−1997で規定されるデュロメータ硬さを20〜90、JIS K 6251−1993で規定される引張強さ(TB)を4〜50MPa、及び切断時伸び(EB)を50〜600%となるゴム材または弾性樹脂材からなる材質となるものが望ましく、更に好ましくは、デュロメータ硬さ30〜80とし、引張強さ10〜40MPa及び切断時伸び60〜300%とすることが望ましい。
インナーキャップ20のデュロメータ硬さを20〜90、引張強さを4〜50MPa及び切断時伸びを50〜600%とすることにより、更に、簡単な構成で軸筒内部の先端部の密閉状態を更に確実にしてペン先部のドライアップを更に確実に防止して優れたキャップレス機能を有するキャップレス筆記具が提供されることとなる。
【0025】
次に、本実施形態に係るキャップレス筆記具の作動を説明する。
まず、キャップレス筆記具1を使用しない場合、図1に示すように、軸筒2の内部に筆記体5とともにペン先部6も収容されている。
【0026】
前記キャップレス筆記具1を使用する場合、図2に示すように、軸筒2を握り、筆記体5の後端部に形成された押し部14をコイルスプリング7のばね力に勝って先端方向へ押し込む。
図1から図2に示すように、筆記体5が軸筒2内部に入り込むとともに、該筆記体5の後端部11に形成されたストッパ係止部15が先端方向に移動する。そして、ストッパ10を通過して該ストッパ10端部のノッチ10aとストッパ係止部15の係止部15aと対向する位置まで移動する。この時、前記押し部14は軸筒後端部12の端部に配置している。
【0027】
ペン先部6は、インナーキャップ20の閉塞部21のスリット25を押し開き、軸筒2の先端部3の開口部4より突出した状態となっている。
この状態で、前記押し部14を開放すると、コイルスプリング7のばね力により筆記体5は後方に押し戻されるが、前記ノッチ10aに係止部15aが止められるため、前記筆記体5が後方から突出することはない。したがって、開口部4よりペン先部6が突出した状態で保持される。
【0028】
次に、ペン先部6を収容する場合は、ストッパ10の側面を押し込むことで、ノッチ10aと係止部15aとを容易に外すことができ、コイルスプリング7のばね力により筆記体5を後方に移動して、ペン先部6を軸筒2内部に収容することができる。
【0029】
この時、インナーキャップ20において、スリット25からペン先部6が軸筒2内に退避すると、インナーキャップ20は、上述の如く、インキ溶剤に対して気体透過性の低い材質から構成されるもの、好ましくは、上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1gを以下の材質、更に好ましくは、圧縮永久歪み率が20%以下のゴム材または弾性樹脂材で形成されたものであるので、この弾性力と閉塞部21の外側から内側に作用する力によってインナーキャップに形成されたスリット25は隙間が密着した状態となる。したがって、キャップレス筆記具1を使用しない状態では、スリット25及びインナーキャップ自体からのインキに含まれる溶剤など揮発物質の揮発及び透過を最小限に止めることができる。
【0030】
このように構成される本実施形態によるキャップレス筆記具1によれば、インナーキャップ20を軸筒内に保持するにインナーキャップホルダ30を設けたことで、容易にインナーキャップ20を軸筒2内に取付けることができる。
さらに、前記インナーキャップ20に、前側取付部27および後側取付部29を形成したので軸筒2内部の密閉状態を確実にすることができる。
【0031】
また、本実施形態によれは、前記インナーキャップホルダ30のインナーキャップ20を取付けるための後側取付溝31の形状を、前記インナーキャップ20の後側取付部29の先端部29aの外形よりも大きく構成し、先端部29aが外側に開くように後側取付溝31に嵌め込むようにしたので、後側取付部29が外側に広げられることにより、後側取付部29から連続して形成される閉塞部21に外周側から中央部の方向に圧する力が作用するため、すなわち、前記閉塞部21の略中央部に形成されるスリット25の隙間を閉じる方向に力が作用するので、閉塞部21を形成するゴム材または弾性樹脂材の弾性による復元力を加えて、さらに密着性を高めることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、インナーキャップ20に軸筒2内に嵌め込まれる前側取付部27を突出形成し、軸筒2の先端部3内側にインナーキャップ20の前側取付部27が嵌め込まれる前側取付溝3bを形成し、該前側取付部27の先端部27aが外周方向内側に向うようにしたので、閉塞部21の外周側よりスリット25に向かい力が作用し、すなわち、前記閉塞部21の略中央部に形成されるスリット25の開口を閉じる方向に力が作用するので、さらに密着性を高めることができる。
【0033】
更に、本実施形態によれは、インナーキャップ20の閉塞部21を、先端開口に向かいドーム状に突出形成したので、該閉塞部21の剛性を高くでき、スリット25を閉じる方向に力が作用した場合に確実にスリット25を密着させることができる。
【0034】
本発明は、軸筒内に筆記具用インキを充填された筆記体を配置して、該軸筒の先端開口より筆記体のペン先部が出入自在に構成されると共に、前記軸筒の先端開口に、ゴム材または弾性樹脂材で形成されるインナーキャップを備え、このインナーキャップは、軸筒軸心方向に沿ったペン先部出側に、ペン先部が出入自在のスリットが形成されると共に前記先端開口を閉塞する閉塞部を備えると共に、該インナーキャップをインキ溶剤に対して気体透過性の低い材質から構成されるもの、好ましくは、上記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下の材質であって、かつ、JIS K 6262−1993で規定される圧縮永久歪み率が20%以下の材質からなることを要旨とするので、この以外の構成は特に限定されるものではなく、好ましくは、上記実施形態の構造となるキャップレス筆記具が望ましいものである。
【0035】
本発明のキャップレス筆記具では、図1の状態で、横向き配置で35℃で2週間経過後において、インキ溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルや、エチルアルコ−ル、プロピルアルコ−ル、イソプロピルアルコ−ル等の低級アルコール、グリコールのアルキルアルコール、その他のグリコールエーテルなどの溶剤を用いた場合にも、インナーキャップのシール機能に優れ、問題なく筆記することができる乾燥防止機構に優れたキャップレス筆記具とすることができるものとなる。
なお、上記実施形態では、インナーキャップ20の閉塞部21の形状をドーム状としているが、本発明は、閉塞部の形状に限定されるものではなく、例えば、平面状としたものや凹状に凹んだ形状としたもの、あるいは円錐状、多角錐状としたものであっても良い。
【0036】
また、上記実施形態では、インナーキャップ20の閉塞部21の中央部を通るスリット25を1箇所に形成しているが、本発明は、スリットの形状や数に限定されるものではなく、スリットを複数形成したものであっても良く、例えば、閉塞部21の中央部より放射状に3本形成して略三菱状にしたものや、4本形成して十字状に形成したもの、あるいは6本形成したものであってもよく、好ましくは、密閉状態を確実にする点から上記実施形態のスリット25を1箇所に形成したもの、4本形成して十字状に形成したものが望ましい。なお、十字状であればその長さは同じであっても異なってもいてもよい。
【0037】
また、上記実施形態では、インナーキャップ20の取付部である前側取付部27、後側取付部29を、連続的にリング状に形成しているが、本発明は、インナーキャップ20の取付部の形状に限定されるものではなく、例えば、閉塞部に形成されたスリットの形状によって、スリットを閉じるような力が有効に作用するように、取付部を部分的に構成したものや取付部を分割したものを連続的に構成したものであっても良い。
【0038】
更に、上記実施形態では、インナーキャップ20の取付部の形状を、前側取付部27の先端部を外側に広く構成し、後側取付部29の先端部29aを内側に狭く構成するようにしているが、本発明においては、閉塞部21に形成されたスリットを閉じるように力が作用するように構成したものであれば、インナーキャップ20の取付部の形状や構成に限定されるものではなく、例えば、前側取付部27の先端部を内側に狭く構成したものや、後側取付部29の先端部29aを外側に広く構成したもの、あるいは、取付部を軸心に沿った向きに略平行に構成したものであっても良い。すなわち、閉塞部の外周部を変形させることによりスリットを閉じるようにしたものであれば、取付部や閉塞部周りの形状や構成を限定するものではない。
【0039】
また、本発明のキャップレス筆記具は、上述した説明や図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、筆記具用インキを塗布液とし、筆記体を塗布具本体とした塗布具であってもよいものである。
【0040】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例により、更に詳しく説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔実施例1〜2及び比較例1〜4〕
下記表1に示すゴム材質(EPDM,IIR,NBR,Q)、特性(硬さ、引張強さ、伸び、圧縮永久歪み率、インキ溶剤透過量)を有する各ゴム材質をインナーキャップ20の材料として使用した。
【0042】
使用した各ゴム材質の特性試験は、デュロメータ硬さについては、JIS K6253−1997の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法(デュロメータ硬さ試験方法)に準拠し、引張強さ(TB)及び切断時伸び(EB)については、JIS K 6251−1993の加硫ゴムの引張試験方法(試験片形状:ダンベル状3号形)に準拠し、圧縮永久歪みについては、JIS K 6262−1997の加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの永久ひずみ試験方法(試験片形状:大型試験片、試験温度:100±1℃、試験時間:168時間、試験片を圧縮する割合25%)に準拠して測定した。
また、溶剤透過量は、上述の試験方法により試験した。
【0043】
この各ゴム材質をインナーキャップ20の材料として使用、成型加工し、インナーキャップの特性値が異なる(インナーキャップの構造、形状、厚み等は同じ)各キャップレス筆記具(図1〜図3のキャップレス筆記具)を作製した。なお、スリット長さ9mmである。
得られた各キャップレス筆記具について、下記方法により、インナーキャップのシール性能、経時耐久性及び経時耐久性後のシール機能について評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0044】
〔インナーキャップのシール性能の評価方法〕
インナーキャップ20を図1の状態で筆記体5に装着し、筆記体内に下記配合組成のインキ5mlを充填し、横向き配置で、35℃、2週間放置後の筆記具の筆記性を下記評価基準で評価した。なお、筆記体内のインキ吸蔵体は、長さ70mm、直径13.5mm、PET製であり、ペン先部となるペン芯は、長さ35mm、直径4mm、アクリル製のものを用いた。
評価基準:
〇:35℃、2週間放置後でも問題なく筆記できた。
×:35℃、2週間放置後には筆記できなくなった。
【0045】
配合組成:(配合単位:質量%)
プロピレングリコールモノメチルエーテル 84.0
ラロパールA−101 12.0
〔アルデヒドと尿素の縮合物、BASF社製〕
Victoria Blue BSA 3.0
〔染料、ゼネカ社製〕
Rhordamin 6JHSA 1.0
〔染料、ゼネカ社製〕
【0046】
〔経時耐久性の評価方法〕
下記表1に示すゴム物性を有する各ゴム材質で成型を行った図3に示すインナーキャップ20を図1の状態で筆記体に装着した。ただし、筆記体5はインキが充填されていない状態である。
次いで、筆記体5を図2に示すように、インナーキャップ部材20をペン芯となるペン先部6が貫通し、スリット25を広げた状態にし、50℃で、3日間放置した。
3日後にペン芯6を戻した(図1の状態)時のスリット25の隙間の戻りの程度を下記評価基準により、目視で評価した。
評価基準:
〇:スリット溝(25)の隙間がほとんど元の状態に戻っている。
×:スリット溝(25)の隙間がかなり開いている。
【0047】
〔経時耐久性試験後のシール性の評価方法〕
上記ゴム戻り性試験後のインナーキャップ20を図1の状態で筆記体5に装着し、筆記体内に上記配合組成のインキ5mlを充填し、35℃、1カ月放置後のペン芯の筆記性を下記評価基準により、評価した。なお、筆記体内のインキ吸蔵体及びペン先部となるペン芯は、上記のものと同じものを用いた。
評価基準:
〇:問題なく筆記できる。
△:筆記は行うことができるが筆記描線がかなり掠れる。
×:ペン先が完全にドライアップし筆記できない。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲となる実施例1〜2は、インナーキャップの気密性は十分に保たれ、35℃、2週間放置しても筆記は問題なく筆記することができた。これに対して、本発明の範囲外となる比較例1〜4では、インナーキャップの気密性が十分でないため、インキ溶剤がゴム等を透過し揮発したため、35℃、2週間放置後には筆記できないものとなった。
個別的にみると、実施例1〜2は、溶剤透過量が低い材質からなり、かつ圧縮永久歪み率が20%以下で形成されたインナーキャップを用いた筆記具では、50℃で3日間押し広げられた状態で放置する経時耐久性試験後もスリットが広がったままになることはなく確実に閉塞し、経時耐久性試験後のインナーキャップを使用しての35℃、2週間後の筆記性は何等問題なく筆記することができた。
これに対して、比較例1及び2では、溶剤透過量が低い材質で形成されたものであっても圧縮永久歪みが20%を越えるインナーキャップを用いた筆記具では、50℃で3日間押し広げられた状態で放置する経時耐久性試験後ではスリットは広がり、経時耐久性試験後のインナーキャップを使用しての35℃、2週間後の筆記性はかなり掠れることとなり、好ましくないことが判った。
また、比較例3の圧縮永久歪み率が20%を越え、溶剤透過量が高い材質で形成されたインナーキャップを用いた筆記具は、経時耐久性試験後でのスリットは広がったままとなり、経時耐久性試験後のインナーキャップを使用しての35℃、2週間後では筆記することができなかった。更に、比較例4の圧縮永久歪み率が20%以下の材質であっても溶剤透過量が高い材質で形成されたインナーキャップを用いた筆記具では、経時耐久性試験後でのスリットの広がりはなかったが、インナーキャップの気密性が十分でないため、インキ溶剤がゴムを透過し揮発してしまうため、35℃、2週間放置後には筆記することができなかった。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な構成で軸筒内部の先端部を密閉し、しかも、筆記具用インキに含有されるインキ溶剤の透過量も低いので、ペン先部の密閉状態を確実にすることができ、長期保存性に優れたキャップレス筆記具が提供される。
また、スリットを閉じるように閉塞部に力が掛かった状態で軸筒内に装着すれば、スリットを常に閉じる方向に力が掛かかることとなり、ペン先突出部の密着性を更に高めることができるので、軸筒内のペン先部近傍の密閉状態を確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るキャップレス筆記具の全体の構成を示す断面図である。
【図2】前記キャップレス筆記具の使用時の状態を示す断面図である。
【図3】(a)は本実施形態に係るインナーキャップの平面視を示す図1のA−A断面矢視図、(b)は前記インナーキャップの装着前の状態を示す(a)のB−B断面矢視図、(c)は前記インナーキャップの装着時の状態を示す(a)のB−B断面矢視図である。
【図4】(a)〜(d)は、本発明の試験方法を説明するための斜視図態様の説明図である。
【符号の説明】
1 キャップレス筆記具
2 軸筒
3 先端部
3a インナーキャップ取付部
3b 前側取付溝
4 開口部
5 筆記体
6 ペン先部
20 インナーキャップ
21 閉塞部
25 スリット
27 前側取付部
29 後側シール部
27a 先端部
29 後側取付部
29a 先端部
30 インナーキャップホルダ
31 後側取付溝
Claims (3)
- 軸筒内に筆記具用インキが充填された筆記体を配置して、該軸筒の先端開口より筆記体のペン先部が出入自在に構成されると共に、前記軸筒の先端開口に、ゴム材または弾性樹脂材で形成されるインナーキャップを備え、該インナーキャップは、軸筒軸心方向に沿ったペン先部出側に、ペン先部が出入自在となるスリットが形成されると共に前記先端開口を閉塞する閉塞部を備えたキャップレス筆記具であって、前記インナーキャップは、筆記具用インキにインキ全量に対して70〜85重量%含有される低級アルコール又はグリコールエーテルを含むインキ溶剤に対して気体透過性の低い材質からなり、かつ、JIS K6262−1997で規定される圧縮永久歪み率が20%以下の材質とJIS K 6253−1997で規定されるデュロメータ硬さを30〜80、JIS K 6251−1993で規定される引張強さ(TB)を10〜40MPa、及び切断時伸び(EB)を60〜300%である材質からなり、さらに前記インナーキャップは、下記試験方法による溶剤蒸気の透過量が0.1g以下となる材質を用いることを特徴とするキャップレス筆記具。
〔試験方法〕
直径45mm×高さ100mmの有底筒状ガラス製瓶にプロピレングリコールモノメチルエーテルを100g入れ、ガラス製瓶の開口部口元に厚さ2mmのシート状のゴム材を配置し、中心部に直径25mmの貫通孔を設けた金属製蓋で密封固定し、25℃、1週間経過後の溶剤の重量変化をインキ溶剤のシート材質からの透過量として行った。 - 前記インナーキャップは、スリットを閉じるように閉塞部に力が掛かった状態で軸筒内に装着されてなることを特徴とする請求項1記載のキャップレス筆記具。
- 前記インナーキャップのスリットが十字状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャップレス筆記具。
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