従来、例えば電子写真方式を利用して転写材(紙、OHTシート、光沢フィルム等)上に画像を形成する、プリンタ(例えば、レーザービームプリンタ、LEDプリンタ等)、複写機、ファクシミリ装置等の画像形成装置が広く用いられている。
電子写真方式の画像形成装置では、一般に円筒型の電子写真感光体(感光ドラム)とされる像担持体上に静電像(潜像)を形成し、この静電像を現像剤としての樹脂等から成るトナー粒子により現像する。そして、トナー粒子による画像(トナー像)は、静電的な力を利用して紙等の転写材上に転写される。その後、トナー像は、定着装置にて加えられる熱と圧力により転写材上に溶融固着(定着)され出力画像とされる。近年、電子写真方式の画像形成装置では、カラー対応、高速化等の高機能化が進んでいる。
カラー画像形成装置などの複数種類のトナー像を重ね合わせることにより転写材上に画像を形成する画像形成装置には、像担持体上に逐次に形成されるトナー像を、その都度、転写部において転写材担持体上に担持された転写材上に転写し、転写材上で複数種類のトナー像を重ね合わせる方式(直接転写方式)がある。従来、転写材担持体には、複数のローラに張架されて無端移動するベルト、即ち、搬送ベルトが広く用いられている。又、複数種類のトナーを用いる画像形成装置としては、カラー対応、高速化等の点で優れているタンデム型の画像形成装置が広く用いられている。
タンデム型の画像形成装置では、像担持体としての例えば円筒型の電子写真感光体(感光ドラム)と、感光ドラム上にトナーを供給する現像手段としての現像器等と、を備えた複数の像形成ユニットが搬送ベルトの搬送方向に沿って直列に配置される。各像形成ユニットの感光ドラム上には、それぞれ異なる種類のトナー(例えば、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックの各色のトナー)によりトナー像が形成される。そして、各像形成ユニットの感光ドラムから、搬送ベルト上の転写材にトナー像が順次に重ね合わせて転写される。搬送ベルトを介して感光ドラムに対向する位置には転写ローラなどとされる転写手段が配置され、各感光ドラムと搬送ベルトが接触する転写部(転写ニップ)が形成されている。そして、この転写ローラにトナーの正規の帯電極性とは逆極性の転写バイアスが印加されることにより各転写ニップにおいて感光ドラムから転写材上にトナー像が転写される。
その後、転写材は、搬送ベルトから分離され、定着装置によってその上にトナー像が溶融固着された後、装置外に排出される。一方、転写材に転写されずに感光ドラム上に残留したトナー(転写残トナー)は、クリーニングブレード等の清掃部材を備える清掃手段により感光ドラム上から除去される。
以下、上記像形成ユニットと、それに対応する各転写手段及び該転写手段により形成される各転写部を含む部分を像形成ステーションという。
ところで、上述のような搬送ベルトを採用した画像形成装置において、特に高温多湿環境下にて転写材への画像形成を行う場合に、転写材の搬送方向において画像の後端部や先端部にて転写不良による画像抜けが発生することがあった。発明者らの調査によれば、この現象には、像形成ステーション間の転写電流のやり取り(干渉)が関与していることが判明した。次に、この現象(主に画像の後端部分の転写不良)の発生原理について、図10及び図11を参照して定性的に説明する。
図10及び図11は、複数の像形成ステーションとして、第1、第2、第3、第4の像形成ステーションを有するタンデム型の画像形成装置における、下流側の第3の像形成ステーションSy及び第4の像形成ステーションSk付近の転写電流のやり取りを模式的に示す。特に、図10は、転写材Pが、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyと、第4の像形成ステーションSkの転写ニップNkの双方に存在する状態を示し、図11は、転写材Pの搬送方向後端が第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyを抜けた後の状態を示している。又、ここでは、便宜上、先ず、転写バイアスを定電流制御する系について説明する。
図10及び図11中、第4の像形成ステーションSkの転写バイアス電源15kからの出力電流の合計をI4tot、第4の像形成ステーションSkの感光ドラム1kへ流れる転写電流(転写能力に直接寄与する電流)をI4trとする。同様に、第3の像形成ステーションSyの転写バイアス電源15yからの出力電流の合計をI3tot、第3の像形成ステーションSyの感光ドラム1yへ流れる転写電流をI3trとする。又、像形成ステーション間で流れる電流(以下「ステーション間干渉電流」、或いは単に「干渉電流」という。)について、第4の像形成ステーションSkから第3の像形成ステーションSyに流れるステーション間干渉電流をI4int3、逆に第3の像形成ステーションSyから第4の像形成ステーションSkに流れるステーション間干渉電流をI3int4とする。更に、搬送ベルト11の駆動ローラ12へ流れ込む転写電流をIr(ここでは、第3の像形成ステーションからの電流Ir3と第4の像形成ステーションからの電流Ir4とを足したもの)とする。
先ず、図10に示すように転写材Pが第3、第4の像形成ステーションSy、Skの転写ニップNy、Nkの双方に存在する状況では、第4の像形成ステーションSkにおいて直接転写能に寄与する転写電流I4trは、図示の通り、およそ以下の式で決定される。
I4tr=I4tot+I3int4−I4int3−Ir4 ・・・(1)
ここで、第4の像形成ステーションSkでの転写を助けている第3の像形成ステーションSyからの干渉電流I3int4は、次の式で表される。
I3int4=I3tot−I3tr−Ir3 ・・・(2)
又、第4の像形成ステーションSkから駆動ローラ12に流れる電流は、下記式の関係にある。
Ir4=Ir−Ir3 ・・・(3)
ここで、転写バイアスが定電流制御(即ち、I4totとI3totが一定)されていると仮定した場合、転写材Pの搬送方向後端部が第3の像形成ステーションSyを抜けた図11に示す状態では、上記関係が次のように変化する。
図11に示す状態では、第3の像形成ステーションSyにおいて、転写ニップNyに転写材Pが存在しないため、転写ローラ5yと感光ドラム1yとの間のインピーダンスが低下し、感光ドラム1yへ流れ込む転写電流I3trが急に増加する。それに伴い、第3の像形成ステーションSyから第4の像形成ステーションSkに流れ込むステーション間干渉電流I3int4が減少する(上記式(2)参照)。つまり、第4の像形成ステーションSkでの転写を助けていたステーション間干渉電流が減少する。
又、駆動ローラ12へ流れ込む電流に着目すれば、転写材Pの搬送方向後端が第3の像形成ステーションの転写ニップNyを抜けるため、第3の像形成ステーションSyから転写材Pを介して駆動ローラ12へ流れ込む電流が無くなる分、第3の像形成ステーションから駆動ローラ12に流れる電流Ir3が減少し、その結果、第4の像形成ステーションから駆動ローラ12に流れる電流Ir4が増加する(上記式(3)参照)。
以上のことから、第4の像形成ステーションSkにおける転写電流I4trの値が減少し(上記式(1)参照)、転写不良が発生し易くなる。特に、搬送ベルト11や転写材Pの電気抵抗値が低下する高温高湿環境においては、ステーション間干渉電流の寄与割合が大きく、このような問題が発生し易い。
ここで、図11における第3の像形成ステーションSyのように、転写材Pが通過した像形成ステーションにて転写バイアスを印加し続けると、感光ドラム1へ転写バイアスが過度に流れ、感光ドラムの光導電層での過剰な通電履歴に起因するゴーストが次の形成時画像に発生し、問題となることがある。そのため、転写材Pの搬送方向後端が通過した像形成ステーションでは、次の転写材Pが来るまで、所謂、紙間において転写手段に印加するバイアスをOFFするか、又はその出力値の絶対値を低下させる対策が採用されることが多い。
ところが、第3の像形成ステーションSyにおいて紙間に転写ローラ5yに印加するバイアスの絶対値を低下させると、上記式(2)において第3の像形成ステーションSyの転写バイアス出力I3totが減少することから、第3の像形成ステーションSyから第4の像形成ステーションSkに流れる干渉電流I3int4が更に減少する。一方、第4の像形成ステーションSkから第3の像形成ステーションSyの感光ドラム1yや出力の低下した転写ローラ5yへ流れ込む干渉電流I4int3が増加する。その結果、第4の像形成ステーションSkの転写電流I4trが更に低下し(上記式(1)参照)、転写不良がより発生し易い状況となる。
これまでは便宜上転写バイアスを定電流制御する系について説明した。より一般的な定電圧制御を行う系では、感光ドラムと転写バイアス電源との間の電位差が一定である一方、出力電流(I4tot、I3tot)は可変である点で異なっている。この場合、第4の像形成ステーションSkにおける転写電流I4trは、転写ローラ、搬送ベルト、転写材等のインピーダンス、及び、搬送ベルトや転写材と感光ドラムとの間のインピーダンスから見積もることができる。その結果によれば、転写材Pの搬送方向後端が第3の像形成ステーションSyを通過した後、更には紙間において転写ローラ5yに印加するバイアスの絶対値を低下させた後に、第4の像形成ステーションSkにおける転写電流I4trが不足する傾向は、上述した定電流制御の場合と同じである。
以上、第3、第4の像形成ステーションSy、Skに着目して、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyを転写材Pの搬送方向後端が抜けた際の第4の像形成ステーションSkにおいて発生する転写不良現象について説明してきた。しかし、例えば本例のように第1〜第4の4個の像形成ステーションを有する画像形成装置であれば、ステーション間干渉電流が関係していることから、第2の像形成ステーションと第3の像形成ステーションとの間など、他の像形成ステーション間についても同様に起こり得る現象である。
つまり、第2、第3の像形成ステーションに着目した場合、転写材の搬送方向後端が第2の像形成ステーションを抜けた場合、第3の像形成ステーションへの干渉電流が変化するものの、第4の像形成ステーションからの干渉電流には変化が無く、第3の像形成ステーションでの転写不良のレベルは若干軽くなる。
又、第1、第2の像形成ステーションに着目した場合には、転写材の搬送方向後端の転写不良については、下流の第3、第4の像形成ステーションからの転写干渉電流の助けがあることから、より軽減される。
ここで、特許文献1は、タンデム型の画像形成装置において、最下流側の作像プロセス部における転写効率の低下を避けるために、最下流側の作像プロセスより下流に配置された定着ガイドへの電流のリークによる転写電圧の低下を補償する方法を開示する。斯かる先行技術は、転写部間での干渉電流については考慮していない。
特開2001−183889号公報
以下、本発明に係る画像形成装置を図面に則して更に詳しく説明する。
実施例1
[画像形成装置の全体構成及び動作]
先ず、図1を参照して本実施例の画像形成装置の全体構成及び動作について説明する。図1は、本実施例の画像形成装置100の要部概略断面を示す。本実施例の画像形成装置100は、画像形成装置本体(装置本体)に通信可能に接続されたパーソナルコンピュータ、原稿読み取り装置、デジタルカメラなどの外部機器からの画像情報信号に応じて、電子写真方式を利用してのフルカラー画像を転写材に形成することのできる、タンデム型のフルカラーレーザービームプリンタである。
画像形成装置100は、複数の画像形成部として、それぞれマゼンダ、シアン、イエロー、ブラックの各色のトナー像を形成するための像形成ステーションである第1、第2、第3、第4の像形成ステーションSm、Sc、Sy、Skを独立して有する。転写材Pは、転写材担持体としての搬送ベルト(転写材担持ベルト、静電搬送ベルト)11により担持搬送され、各々の像形成ステーションを順次通過する。例えば、フルカラー画像の形成時には、転写材Pが各像形成ステーションを通過する度に、各色トナー像が転写材P上に重ねて転写される。これにより、転写材P上にフルカラー画像が形成される。
尚、以下更に詳しく説明するが、本実施例では、各像形成ステーションの基本的構成及び動作は、現像剤の種類が異なることを除いて実質的に同一である。従って、以下、特に区別を要しない場合は、いずれかの色用に設けられた要素であることを示すために符号に与えた添え字m、c、y、kは省略して総括的に説明する。
像形成ステーションSには、像担持体として回転可能なドラム型の電子写真感光体、即ち、感光ドラム1が設けられている。感光ドラム1の外周に沿って、感光ドラム1を帯電させる帯電手段としての帯電ローラ2、感光ドラム1に形成された静電像を現像する現像手段としての現像器4、感光ドラム1上のトナーを除去する清掃手段としてのクリーナ6が配置されている。更に、各像形成ステーションSには、感光ドラム1に画像情報に応じて変調されたレーザーを照射し得るように、露光手段(画像書き込み装置)としてのレーザー露光光学系(レーザースキャナー)3が設けられている。
現像器4は、トナーを収容する現像剤収納容器(容器)41と、この容器41内のトナーを担持搬送して感光ドラム1に供給する現像剤担持体(現像ローラ)42とを有する。本実施例では、現像器41内には現像剤として負帯電性のトナーが収納されている。そして、現像バイアス出力手段としての現像バイアス電源(図示せず)から現像ローラ42に現像バイアスが印加されることで、現像ローラ42と感光ドラム1との対向部(現像領域)において、現像ローラ42上のトナーが感光ドラム1上に転移し、静電像はトナーとして可視化される。
クリーナ6は、感光ドラム1に当接する清掃部材としてのクリーニングブレード61と、クリーニングブレード61によって感光ドラム1上から除去されたトナーなどを収容する廃トナー容器62と、を有する。
各像形成ステーションSの感光ドラム1に対向するように、搬送ベルト11が配置されている。搬送ベルト11は、複数のローラとして駆動ローラ12と従動ローラ13との2個のローラにより張架されている。搬送ベルト11は、駆動ローラ12に駆動力が伝達されることで、図中矢印で示す方向に周回移動(回転)する。各像形成ステーションSは、搬送ベルト11の移動方向に沿って一列に配置されている。
又、各像形成ステーションSには、搬送ベルト11の内周面側に、転写手段としての転写ローラ5が配置されている。転写ローラ5は、搬送ベルト11を感光ドラム1に向けて押圧し、感光ドラム1と搬送ベルト11とが接触する転写部(転写ニップ)Nを形成している。各転写ローラ5m、5c、5y、5kには、転写バイアス出力手段としての転写バイアス電源15m、15c、15y、15kが接続されており、それぞれ独立してバイアスを印加することが可能となっている。
例えば、フルカラー画像形成動作時には、先ず、マゼンタ用の像形成ユニットである第1の像形成ステーションSmにおいて、図中矢印方向に表面速度180mm/sにて回転駆動される感光ドラム1が、帯電ローラ2によって−500Vに一様に帯電される。この時、帯電ローラ2には、帯電バイアス出力手段としての帯電バイアス電源(図示せず)から帯電バイアスが印加される。次いで、レーザー露光光学系3による走査光で、感光ドラム1の表面にマゼンダ画像に対応する静電像(潜像)が形成される。走査光による露光により形成された画像部の電位はおよそ−200Vである。一方、現像ローラ42上には負の極性に帯電されたマゼンダトナーが一定量供給されており、又現像ローラ42には現像バイアスが印加されている。この状態で現像バイアスを帯電電位と露光部電位の間の適切な値に設定することで、感光ドラム1上の潜像に選択的にトナーを付着させ、静電像を現像することができる。
このようにして感光ドラム1上に形成されたマゼンダトナー像は、搬送ベルト11に吸着保持され、感光ドラム1と同じ速度で搬送されてくる転写材P上へ静電的に転写される。この時、転写ローラ5には、詳しくは後述するように、転写バイアス出力手段としての転写バイアス電源15により出力された、トナーの正規の帯電極性(本実施例では負極性)とは逆極性の転写バイアスが印加される。
尚、転写材P上に転写されずに感光ドラム1上に残留したトナーは、クリーニングブレード61により掻き取られ、廃トナー容器62へ回収される。
以上の工程がシアン、イエロー、ブラックの各像形成ステーションである第2、第3、第4の像形成ステーションSc、Sy、Skでも同様に行われ、転写材P上にフルカラートナー像が形成される。
その後、転写材Pは、搬送ベルト11から分離されて、定着手段としての定着装置9へと搬送される。そして、定着装置9によりトナー像は転写材P上に溶融固着され、装置の出力画像となる。転写材Pは、その後装置外に排出される。
本実施例では、感光ドラム1、帯電ローラ2、レーザー露光光学系3、現像器4により、感光ドラム1上にトナー像を形成する像形成手段(像形成ユニット)が構成される。そして、各像形成ユニットと、それに対応する転写ローラ5及び該転写ローラ5によって形成される各転写ニップNを含む部分が各像形成ステーションSである。本実施例では、各像形成ステーションS、即ち、各像形成ステーションSにおける転写ニップNは、70mmの間隔で並列配置されている。本実施例の画像形成装置100は、使用可能な転写材Pの少なくとも1種において、転写材Pの搬送方向の長さが、各像形成ステーションSの転写ニップN間の間隔より短くなる。
搬送ベルト11としては、長期使用によるベルトの伸びや変形が発生しにくく、かつ裂けにくい樹脂材料を、電気抵抗を調整することで用いることができる。本実施例では、カーボン粒子の分散により体積抵抗率1.0×108Ωcm程度に電気抵抗が調整された、厚さ70μm、周長600mmのポリイミド樹脂製単層ベルトを用いた。搬送ベルト11の材料としては、この他、例えば、PVdF(ポリ弗化ビニリデン樹脂)、ETFE(四弗化エチレン−エチレン共重合樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネートなどの樹脂フィルムを用いることができる。或いは、搬送ベルト11として、厚さ0.5〜2mm程度の、例えばEPDMなどとされるゴムの基層の上に、例えばウレタンゴムにPTFEなどのフッ素樹脂を分散したものを被覆した2層ベルト等を用いることもできる。又、ベルト材料の電気抵抗の調整方法としては、イオン導電物質の分散による方法を用いても良い。
又、本実施例では、転写ローラ5としては、体積抵抗率1.0×108Ωcmに電気抵抗が調整された、直径12mmのヒドリンゴムローラを用いた。転写ローラ11は、搬送ベルト11と感光ドラム1との接触部である転写ニップNに総圧2.94[N]の圧力がかかるように搬送ベルト11の背面(転写材Pを担持する面とは反対側の面)に当接している。
搬送ベルト11への転写材Pの吸着は、従動ローラ13に対向する位置で搬送ベルト11に当接する、吸着部材としての吸着ローラ8により補助される。つまり、図示しない給紙機構から供給された紙等の転写材Pは、搬送ベルト11への導入時に、吸着ローラ8と搬送ベルト11との接触部(吸着ニップ)Dを通過する。本実施例では、吸着ローラ8には、吸着バイアス出力手段としての吸着バイアス電源14から、転写材Pを搬送ベルト11に吸着させるための吸着バイアスとして、+1000Vのバイアスが印加される。このバイアスによる電界と電荷供給により、転写材Pと搬送ベルト11の静電分極が促進され、転写材Pが搬送ベルト11に吸着される。
吸着ローラ8としては、EPDMゴムに抵抗調整のためにカーボンブラックを分散させた、直径12mmのソリッドゴムローラを用いた。吸着ローラ11は、芯金に吸着用の高圧バイアスを印加できるようになっている。吸着ローラ11の電気抵抗値は、幅1cmの金属箔をローラ外周に巻き付け、芯金との間に500Vの電圧を印加した時の電気抵抗値が1×106Ωになるように調整されている。
[転写バイアス制御]
次に、本実施例において最も特徴的な転写バイアスの制御方法について説明する。
本実施例では、転写材Pが隣接する像形成ステーションSの転写ニップNにある時と無い時とで、転写バイアスの値を変化させる。より具体的には、転写材Pの搬送方向において、転写材Pの後端が隣接する上流側の像形成ステーションSの転写ニップNを抜けた後の転写バイアスの絶対値を大きくする。又、本実施例では、この転写バイアスの変化量は、更に、環境情報に応じて可変制御される。以下更に詳しく説明する。
本実施例では、第3の像形成ステーションSy及び第4の像形成ステーションSkの各々において、転写材Pが隣接する上流側の像形成ステーションSの転写ニップN、即ち、それぞれ第2の像形成ステーションScの転写ニップNc、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyにある時と、転写材Pの後端がその転写ニップNc、Nyを通過し、その転写ニップNc、Nyに転写材Pが存在しない時とで転写バイアスの値を変化させる。
又、本実施例では、装置本体に少なくとも湿度情報を含む環境情報を検知するための環境検知手段として温湿度センサが設けられており、装置の設置環境の温度と湿度とが検知可能となっている。そして、上述のようにして変化させられる第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスの変化量は、温湿度センサ21の検知結果に応じて決定される。特に、本実施例では、転写バイアスの変化量は、装置環境の絶対水分量がある一の値の時と他の一の値である時とで異なる構成とされる。
図2に示すように、本実施例では、転写バイアスの制御は、画像形成装置100の動作を統括的に制御する制御手段としてのコントローラ部20が行う。コントローラ部20にはバイアス変更手段としてのドライバ回路22が接続されている。又、コントローラ部20には、温湿度センサ21が接続されている。コントローラ部20は、所定タイミングで温湿度センサ21の出力を読み込み、装置環境の絶対水分量を算出する。そして、コントローラ部20は、ドライバ回路22を制御して、以下詳しく説明するようにして決定した値のバイアスを転写バイアス電源15から出力させる。
尚、本実施例では、転写バイアス電源15は、定電圧制御されたバイアスを出力する。従って、コントローラ部20は、第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスの電圧値を決定する。又、本実施例では、コントローラ部20は、第1、第2の像形成ステーションSm、Scについては、それぞれドライバ回路22を制御して、予め決められた所定の転写バイアス(電圧値)が転写バイアス電源15から出力されるようにする。
本実施例では、通常環境での第1、第2、第3、第4の像形成ステーションSm、Sc、Sy、Skにおける転写バイアスの基準設定値は、それぞれ+1100V、+1200V、+1300V、+1400Vである。又、高温多湿環境下での第1、第2、第3、第4の像形成ステーションにおける転写バイアスの基準設定値は、それぞれ+700V、+750V、+800V、+850Vである。そして、コントローラ部20は、第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスの値を決定するにあたり、上記基準設定値からの変化量を決定する。
図3をも参照して、より具体的に説明する。転写材Pへの画像形成開始時には、次の手順に従う第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスの制御が行われる。
ステップ1:先ず、コントローラ部20は、温湿度センサ21から温度と湿度の情報を得、その値から環境の絶対水分量を計算する。
ステップ2:コントローラ部20は、絶対水分量から、予め準備された換算テーブル(変換テーブル)を参照することによって、それぞれ上流側の第2、第3の像形成ステーションSc、Syの転写ニップNc、Nyを転写材Pの後端が抜けた際の転写バイアスの変化量であるバイアス加算値を、第3、第4の像形成ステーションSy、Skの各々について決定する。
ステップ3:コントローラ部20は、転写材Pの後端が第2の像形成ステーションScの転写ニップNcを通過した後の第3の像形成ステーションSyにおける転写バイアスの絶対値、及び、転写材Pの搬送方向後端が第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyを通過した後の第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアスの絶対値を、ステップ2で決定したバイアス加算値分上昇させるべく、制御信号を出力する。
上述の換算テーブルは、下記表1に示すように、絶対水分量に対し、必要なバイアス加算値が、第3の像形成ステーションSyと第4の像形成ステーションSkとの双方について予め関係付けられて設定されたものである。斯かる換算テーブルは、コントローラ部20に接続されるか又は内蔵された記憶手段の所定の記憶領域(換算テーブル記憶部)23に予め記憶されている。
例えば通常環境の代表として温度湿度が24℃/55%RHである場合と、高温高湿環境の代表として温度湿度が30℃/80%RHである場合とのそれぞれにおける転写バイアスの制御方法について更に説明する。
通常環境である温度湿度24℃/55%RHに対応する絶対水分量10(g/m3)では、表1に示す換算テーブルから、第3、第4の像形成ステーションSy、Skのそれぞれについてのバイアス加算値として30V、80Vが選択される。通常環境では、隣接する上流側の像形成ステーションSc、Syの転写ニップNc、Nyに転写材Pがある時の第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスは、それぞれ基準設定値の+1300V、+1400Vである。これに対して、転写材Pの後端が隣接する上流側の像形成ステ−ションSc、Syの転写ニップNc、Nyを通過した後は、第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスは、それぞれ上記基準設定値に上述のバイアス加算値を加算した+1330V、+1480Vに変更される。
又、高温多湿環境である温度湿度30℃/80%RHに相当する絶対水分量23(g/m3)では、表1に示す換算テーブルから、第3、第4の像形成ステーションSy、Skのそれぞれについてのバイアス加算値として100V、210Vが選択される。高温高湿度環境では、隣接する転写材Pの上流側の像形成ステーションSc、Syの転写ニップNc、Nyに転写材Pがある時の第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスは、それぞれ基準設定値の+800V、+850Vである。これに対して、転写材Pの後端が隣接する上流側の像形成ステ−ションSc、Syの転写ニップNc、Nyを通過した後は、第3、第4の像形成ステーションSy、Skにおける転写バイアスは、それぞれ基準設定値に上述のバイアス加算値を加算した+900V、+1060Vに変更される。
尚、表1に示すような絶対水分量とバイアス加算値との関係は、バイアス不足による転写不良と、バイアス過多による再転写が共に発生しない最適領域値を実機を用いた実験等により求めることにより、設定することができる。但し、表1に示すバイアス加算値は一具体例であって、本発明をその値に限定することを意図するものではない。
又、絶対水分量の増加と共にバイアス加算値を増加させているのは、次の理由からである。つまり、高温多湿環境になるほど、搬送ベルト11や転写材Pの電気抵抗値が低下する。このため、転写バイアスに対するステーション間干渉電流の影響が大きくなり、転写材Pの後端が上流側の像形成ステーションSを抜けた後における転写電流の減少が深刻になる。表1に示すように、絶対水分量の増加と共にバイアス加算値を増加させることにより、環境によって変わる転写電流の不足量に応じて、転写バイアスを強めることができる。その結果、不足した転写電流を補充することができる。表1に示すように、本実施例では、絶対水分量が少ない場合には、バイアス加算値がゼロとされ、上流側の像形成ステーションSの転写ニップNでの転写材Pの有無に拘わらず転写バイアス値が変更されない場合がある。
更に、第3の像形成ステーションSyのバイアス加算値が第4の像形成ステーションSkのそれより少ないのは、第3の像形成ステーションSyにおける転写工程では常に第4の像形成ステーションSkからの干渉電流による転写電流の補助を受けているため、転写材Pの後端が上流の第2の像形成ステーションScを抜けた後の転写電流不足が若干軽減されるためである。
次に、転写バイアスを変化(上昇)させるタイミングについて更に説明する。転写バイアス値を変化させる際には、バイアスが安定するまでに数10〜数100ms程度の緩和時間を要する。そのため、転写材Pの後端部が隣接する上流側の像形成ステーションSの転写ニップ(転写位置)Nを抜けてから転写バイアスを上昇させたのでは、転写バイアスの上昇に要する時間分だけ転写電流が不足し、転写不良が発生する可能性がある。そのため、本実施例では、転写材Pが上流側の像形成ステーションSの転写ニップNを抜ける300ms前に転写バイアスを上昇させ、転写材Pの後端が上流の像形成ステーションSの転写ニップNを抜けた時点ではすでに転写バイアスが所望の値まで上昇しているようにした。
以上、本実施例によれば、転写材Pが隣接する像形成ステーションSの転写ニップNにある時と無い時で転写バイアスの値を変化させることで、ステーション間干渉電流の変化に応じた適正な転写電流を印加できるようになり、転写不良の発生を防止することができる。より具体的には、転写材Pが隣接する上流側の像形成ステーションSを抜けた後の転写バイアス出力を強めることで、隣接する像形成ステーションSからのステーション間干渉電流の減少分を補充することができ、転写不良の発生を防止することができる。又、温湿度センサ21により検知される温湿度情報に基づいて最適なバイアス加算値を求めることで、転写材Pの搬送方向後端における転写不良が特に発生し易い高温多湿環境で、その転写不良の防止効果を高めることができる。
尚、本実施例では、表1に示すような換算テーブルを参照して絶対水分量に対するバイアス加算値を選択したが、絶対水分量などの環境情報の閾値を単数又は複数設け、検知された環境情報と該閾値とを比較することにより、例えば、通常環境と高温高湿環境というように、閾値を境として(閾値以上である場合と未満である場合、或いは所定の範囲内である場合と範囲外である場合など)、いくつかの環境で転写バイアスを変更するようにしてもよい。
又、上述のように、環境情報をも考慮することによって、より効果的に転写不良を防止することができ、極めて有利であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、環境情報によらずに、転写材Pが隣接する上流側の像形成ステーションSの転写ニップNにある時と無い時とで転写バイアスを変更するようにすることもできる。
参考例
次に、本発明の参考例について説明する。本参考例の画像形成装置の基本構成及び動作は実施例1のものと同じである。従って、実施例1の画像形成装置100と実質的に同一又は相当する機能、構成を有する要素には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
本参考例では、転写材Pが転写ニップNを通過した後、或いは転写材Pが転写ニップNに来るのを待ち受けている間(又は、連続画像形成時において搬送ベルト11上の転写材Pと転写材Pとの間の領域が転写ニップNを通過している間)である、所謂、紙間のタイミングに、その像形成ステーションSにおいて画像転写時よりも絶対値が小さいバイアス(弱いバイアス)が転写バイアス電源15から出力される。言い換えれば、画像形成動作時にて、転写ニップNに転写材Pが存在しない像形成ステーションSにおいては、転写バイアス電源15は、感光ドラム1から転写材Pにトナー像を転写する時の転写バイアスの絶対値よりも小さいバイアス(以下「紙間バイアス」という。)を出力する。尚、搬送ベルト11上の転写材Pの画像形成領域が転写ニップNを通過している時以外、即ち、転写材P上の画像形成領域が転写ニップNに存在する時以外であれば、転写材Pが転写ニップNにある時に、転写バイアス電源15の出力するバイアスを画像転写時のバイアスから紙間バイアスへと変更してもよい。
そして、本参考例では、隣接する像形成ステーションSにおいて転写バイアス電源15から画像転写時のバイアスが出力されている時と、紙間バイアスが出力されている時とで、転写バイアスの値を変化させる。更に、本参考例では、実施例1と同様に、上述のようにして変化させられる転写バイアスの変化量は、温湿度センサ21の検知結果に応じて決定される。
代表例として、高温多湿環境下における第4の像形成ステーションSkに着目して更に説明する。図4は、本参考例における転写バイアス制御の手順を示す。
ステップ1:先ず、コントローラ部20は、温湿度センサ21から温度と湿度の情報を得、その値から環境の絶対水分量を計算する。
ステップ2:コントローラ部20は、絶対水分量から、予め準備された換算テーブルを参照することによって、上流側の第3の像形成ステーションSyにおいて紙間バイアスが出力されている際の第4の像形成ステーションSmにおける転写バイアスの変化量であるバイアス加算値を決定する。
ステップ3:コントローラ部20は、第3の像形成ステーションSyにおいて転写バイアス電源15yが紙間バイアスを出力されている時に、第4の像形成ステーションSkの転写バイアスの絶対値を、ステップ2で決定したバイアス加算値分上昇させるべく、制御信号を出力する。
より具体的には、隣接する第3の像形成ステーションSyにおいて転写バイアス電源15yから高温高湿環境下での画像転写時のバイアスである+800Vの転写バイアスが出力されている場合、第4の像形成ステーションSkでは、転写バイアス電源15kから高温高湿環境下での画像転写時のバイアス値である+850Vの転写バイアスが出力される。一方、第3の像形成ステーションSyにおいて転写バイアス電源15yから出力されるバイアスが紙間バイアスである+200Vに変更された場合、第4の像形成ステーションSkでは、転写バイアス電源15kから出力されるバイアスの絶対値は、画像転写時の転写バイアスの絶対値に、換算テーブルを参照して選択されたバイアス加算値である210Vを加算した1060Vに変更される。
同様に、第1の像形成ステーションSmについては隣接する第2の像形成ステーションSc、第2の像形成ステーションScについては隣接する第1、第3の像形成ステーションSm、Sy、第3の像形成ステーションSyについては隣接する第2、第4の像形成ステーションSc、Skにおいて転写バイアス電源15から画像転写時のバイアスが出力されている時と紙間バイアスが出力されている時とで、転写バイアスを変更する。
本参考例における制御態様は、実施例1にて説明した図2に示すものと同様である。転写バイアスの変化量は、実施例1における表1と同様に、絶対水分量に対して、隣接する像形成ステーションSにおいて紙間バイアスが出力されている時のバイアス加算値が関係付けられた換算テーブルとして予め設定されている。この換算テーブルは、コントローラ部20に接続されるか又は内蔵された記憶手段の所定の記憶領域(換算テーブル記憶部)23に予め記憶されている。
以上、本参考例によれば、隣接する像形成ステーションSにおいて画像転写時のバイアスよりも絶対値の小さい紙間バイアスが出力されることにより、転写電流が低下して転写不良を起こしやすい状況となった場合でも、実施例1と同様に、その転写不良の発生を防止することができる。
尚、上述のように、環境情報をも考慮することによって、より効果的に転写不良を防止することができ、極めて有利であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、環境情報によらずに、隣接する像形成ステーションSにおいて画像転写時の転写バイアスが出力されている時と、紙間バイアスが出力されている時とで転写バイアスを変更するようにすることもできる。
実施例2
本実施例では、バイアスの変更動作の変形例について説明する。
本実施例では、実施例1と同様に、転写材Pが隣接する上流側の像形成ステーションSの転写ニップNにある時と、転写材Pの後端がその転写ニップNを抜け、その転写ニップNに転写材Pが存在しない時とで転写バイアスの値を変化させる。そして、本実施例では、この転写バイアスを変化させる際に、バイアス値を一度に変えず、数段階に分けて徐々に変える。
ここでは、代表例として、高温多湿環境下における第4の像形成ステーションSkの転写バイアスを、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyに転写材Pがある時と無い時とで変える場合について更に具体的に説明する。
図5(a)は、本実施例における第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアスの変化を模式的に示したものである。比較のために、図5(b)に、実施例1における転写バイアスの変化を模式的に示す。尚、本実施例では、転写バイアス電源15は、画像転写時以外には紙間バイアスを出力しているものとする。
図中T0は紙間バイアスV0から画像転写時のバイアスV1(850V)に移行するタイミングを示しており、更にT1は隣接する上流側の第3の像形成ステーションSyの転写ニップNを転写材Pの後端が抜けたタイミングを示している。実施例1の場合、図5(b)に示すように、ほぼタイミングT1にて、転写バイアスが一度に変更されてV2(1060V)に高められる。
このように、第4の像形成ステーションSkの画像形成中に一度に転写バイアスを変化させた場合、転写条件の急激な変化により、画像に微小な横筋が発生することが懸念される。又、転写材Pの微小な搬送ばらつきや、転写材P自体の長さのばらつきにより、転写材Pが第3の像形成ステーションSyの転写ニップNを実際に抜けるタイミングが、バイアスの切り替えタイミングと若干前後する場合がある。このような場合には、一瞬、転写バイアスが強すぎて、所謂、再転写(帯電極性が反転したトナーや帯電電荷量が小さいトナーが感光ドラム1側に戻る現象)や突き抜け(転写電流が転写材Pを突き抜けて感光ドラム1に流れることによる転写不良)が悪化したり、転写バイアスが弱すぎて転写不良が発生したりすることが懸念される。
そこで、図5(a)に示すように、転写バイアスを、タイミングT1の所定時間前から、所定変化量ごとに転写バイアスを段階的に変化させる。本実施例では、タイミングT1の100ms手前から、50msごとに転写バイアスを段階的に上昇させ、タイミングT1の100ms後に所望のバイアス値V2に移行するよう転写バイアスを制御した。つまり、図示の通り、本実施例では5段階に分けてバイアス値を上げることになり、V2とV1のバイアス差分である250Vを5等分した50Vを1段階のバイアスの上昇分とした。
これにより、転写バイアスが一度に急激に変化することがないので、横筋等の画像不良の発生を防止できる。又、誤差範囲で転写材Pが第3の像形成ステーションSyを抜けるタイミングが若干前後したとしても、その時点(タイミングT1付近)ではV1とV2のバイアスの中間的なバイアスが印加されているため、転写バイアスの強すぎ又は弱すぎによる問題の双方が軽減され、画像不良として発生し難くすることができる。
以上、本実施例によれば、転写バイアスを段階的に変えることにより、実施例1と同様の効果を得ることができると共に、更に転写バイアスを急激に変更することにより発生することが懸念される不具合をも防止することができる。
実施例3
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例の画像形成装置の基本構成及び動作は実施例1のものと同じである。従って、実施例1の画像形成装置100と実質的に同一又は相当する機能、構成を有する要素には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
本実施例では、転写バイアスの変化量は、搬送ベルト11の電気抵抗値情報に応じて可変制御される。より詳細には、本実施例では、画像形成前の準備動作時である前回転時において、搬送ベルト11に対してバイアスを印加し、その時の搬送ベルト11の電気抵抗を検知し、その結果に応じて実施例1で説明したバイアス加算値を決定する。
ここでは、代表例として、第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアス値を、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyに転写材Pがある時と無い時とで変える場合について説明する。
図6に示すように、本実施例では、転写バイアス電源15は、定電圧制御されたバイアスを出力する定電圧バイアス出力部15aと、定電流制御されたバイアスを出力する定電流バイアス出力部15bとを有する。そして、コントローラ部20がドライバ回路22を介して制御することにより、転写バイアス電源15は、画像転写時のバイアス(更には紙間バイアス)としては定電圧制御されたバイアスを出力し、詳しくは後述する搬送ベルト11の電気抵抗の検知動作時には定電流制御されたバイアスを出力する。更に、転写バイアス電源15には、転写バイアス電源15が定電流制御されたバイアスを出力している際の電圧出力値を検知する検知手段としての電圧検知回路24が接続されている。電圧検知回路24はコントローラ20に接続されており、コントローラ部20は、所定タイミングで、電圧検知回路24の出力を読み込む。そして、コントローラ部20は、ドライバ回路22を制御して、以下詳しく説明するようにして決定した値のバイアスを転写バイアス電源15から出力させる。
図7をも参照して、本実施例における転写バイアス制御の手順についてより具体的に説明する。
ステップ1:先ず、コントローラ部20は、画像形成前の前回転時(この時、少なくとも各像形成ステーションSにおける感光ドラム1と、搬送ベルト11とが回転する。)に、第4の像形成ステーションSkにおいて転写バイアス電源15から7μAの定電流バイアスを出力させる。そして、電圧検知回路24によってその時の印加電圧値(電圧出力値)を検知する。この電圧値は、搬送ベルト11の電気抵抗値を含む系のインピーダンスを反映した値となっている。
ステップ2:コントローラ部20は、ステップ1にて得られた印加電圧値から、下記表2に示すような予め用意された印加電圧値とバイアス加算値とが関係付けられた換算テーブル参照することによって、第4の像形成ステーションSkについてのバイアス加算値を決定する。
ステップ3:コントローラ部20は、転写材Pの後端が第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyを通過した後の、第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアスの絶対値を、ステップ2で決定したバイアス加算値分上昇させるべく、制御信号を出力する。
表2において印加電圧が低いことは、搬送ベルト11の電気抵抗値が低いことに対応する。従って、その場合、搬送ベルト11を介したステーション間干渉電流の影響が大きくなるため、バイアス加算値の値は大きくされる。
以上、本実施例によれば、搬送ベルト11の電気抵抗に関する情報が得られることで、周囲環境、製造上の特性のばらつき、使用による経時変化などにより搬送ベルト11の電気抵抗値が変動したとしても、より最適なバイアス加算値を設定することができ、転写不良の発生をより効果的に防止することができる。
尚、本実施例では、搬送ベルト11の電気抵抗値の検知結果に基づいてバイアス加算値を決定したが、上述の各実施例にて説明したような環境検知結果や他の検知情報に基づいて決定されたバイアス加算値を、搬送ベルト11の電気抵抗値の検知結果に基づいて補正し、微調整することで、より最適なバイアス加算値を得ることもできる。
又、ここでは代表的に、第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアス値を、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyに転写材Pがある時と無い時とで変更する場合について説明したが、実施例1、2にて用いた環境情報に替えて又は加えて、本実施例にて説明した搬送ベルト11の電気抵抗値情報を利用することができる。
又、本実施例では、定電流制御されたバイアスを印加することで搬送ベルト11の電気抵抗を検知したが、定電圧制御されたバイアスを印加することで搬送ベルト11の電気抵抗を検知してもよい。この場合、転写バイアス電源15には、転写バイアス電源15が定電圧制御されたバイアスを出力している際の電流出力値を検知する検知手段として電流検知回路が接続され、その検知結果がコントローラ20へと出力される。即ち、画像形成装置100は、転写ニップNに転写材Pが無い状態で転写バイアス電源15が定電流制御されたバイアスを出力する際の出力電圧値又は定電圧制御されたバイアスを出力する際の出力電流値を検知する検知手段を有し、検知手段の検知結果が前回の画像形成時と異なる場合に、転写バイアスの変化量が異なる。尚、当然、転写バイアス電源15が定電圧制御されたバイアス又は定電流制御されたバイアスのいずれかのみを出力する場合、転写バイアス電源15はそれぞれ定電圧バイアス出力部又は定電流バイアス出力部のいずれかを有していればよい。
更に、搬送ベルト11の電気抵抗を検知するためには、複数の像形成ステーションSのうちいずれかの像形成ステーションSにおいて、転写バイアス電源15から搬送ベルト11に対して検知用のバイアスを印加すればよいが、当然、転写バイアス値を変更すべき像形成ステーションの全てにおいて搬送ベルト11の電気抵抗を検知し、その検知結果に応じてそれぞれの転写バイアス値を変更するようにしてもよい。
実施例4
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例の画像形成装置の基本構成及び動作は実施例1のものと同じである。従って、実施例1の画像形成装置100と実質的に同一又は相当する機能、構成を有する要素には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
本実施例では、転写バイアスの変化量は、転写材Pの電気抵抗値情報に応じて可変制御される。より詳細には、本実施例では、第1の像形成ステーションSmよりも転写材Pの搬送方向上流において、転写材Pを挟持して搬送する挟持部材と、挟持部材に対しバイアスを出力する検知バイアス出力手段と、検知バイアス出力手段が定電流制御されたバイアスを出力する際の出力電圧値又は定電圧制御されたバイアスを出力する際の出力電流値を検知する検知手段と、を有する。そして、この挟持部材を介して検知バイアス出力手段から転写材Pにバイアスを印加することで、転写材Pの電気抵抗を検知し、その結果に応じて実施例1で説明したバイアス加算値を決定する。
更に説明すると、検知バイアス出力手段は、挟持部材に転写材Pが挟持されていない状態で第1の検知バイアスを出力し、挟持部材に転写材が挟持された状態で第2の検知バイアスを出力し、第1の検知バイアスが出力されている時の検知手段の検知結果と、第2の検知バイアスが出力されている時の検知手段の検知結果との差から転写材Pの電気抵抗値に関する情報を得る。特に、本実施例では、挟持部材としては、第1の像形成ステーションSmより上流において転写材Pに接触してバイアスを印加可能な部材である吸着ローラ8と、その対向部材としての従動ローラ13とを用いる。即ち、本実施例では、挟持部材は、搬送ベルト11の転写材Pを担持する面に接触する吸着部材としての吸着ローラ8と、吸着ローラ8との対向位置において搬送ベルト11の転写材Pを担持する面とは反対側の面に接触する対向部材としての従動ローラ13と、を有して成り、検知バイアス出力手段としての吸着バイアス電源14は、吸着ローラ8に対してバイアスを出力する。本実施例では、従動ローラ13は接地されている。これにより、吸着ニップDに転写材Pが無い時とある時の電気抵抗差から転写材Pの電気抵抗を検知し、その結果に応じてバイアス加算値を選択することができる。換言すれば、前記検知結果の差が前回の画像形成時の検知結果の差と異なる場合に転写バイアスの変更量が異なる。
ここでは、代表例として、第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアス値を、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyに転写材Pがある時と無い時とで変更する場合について説明する。
図8に示すように、本実施例では、吸着バイアス電源14は、定電圧制御されたバイアスを出力する定電圧バイアス出力部14aと、定電流制御されたバイアスを出力する定電流バイアス出力部14bとを有する。そして、コントローラ部20がバイアス変更手段としてのドライバ回路25を介して制御することにより、吸着バイアス電源14は、転写材Pを搬送ベルト11に吸着させる吸着バイアスとしては定電圧制御されたバイアスを出力し、詳しくは後述する転写材Pの電気抵抗の検知動作時には定電流制御されたバイアスを出力する。更に、吸着バイアス電源14には、吸着バイアス電源14が定電流制御されたバイアスを出力している際の電圧出力値を検知する検知手段としての電圧検知回路26が接続されている。電圧検知回路26は、コントローラ20に接続されており、コントローラ部20は、所定タイミングで、電圧検知回路26の出力を読み込む。そして、コントローラ部20は、ドライバ回路22を制御して、以下詳しく説明するようにして決定した値のバイアスを転写バイアス電源15から出力させる。
図9をも参照して、本実施例における転写バイアス制御の手順についてより具体的に説明する。
ステップ1:先ず、コントローラ部20は、画像形成前の前回転時(この時、少なくとも各像形成ステーションSにおける感光ドラム1と、搬送ベルト11とが回転する。)に、吸着ニップDに転写材Pが無い状態で、吸着バイアス電源14から吸着ローラ8に7μAの定電流バイアスを出力させる。そして、電圧検知回路26によってその時の印加電圧値(電圧出力値)Vaを検知する。この電圧値は搬送ベルト11と吸着ローラ8の電気抵抗値を反映した値となっている。
ステップ2:コントローラ部20は、画像形成直前の転写材Pが吸着ニップDを通過する際に、吸着バイアス電源14から吸着ローラ8に7μAの定電流バイアスを出力させる。そして、電圧検知回路26によってそのときの印加電圧Vbを検知する。この電圧値は、吸着ローラ8、搬送ベルト11に加え、転写材Pの電気抵抗も反映した値となっている。
ステップ3:コントローラ部20は、ステップ2、3にて得られた電圧値Va、Vbの差、Vb−Va(より詳細には、電圧値Va、Vbの絶対値の差|Vb|−|Va|)を算出する。この電圧値の差の値は転写材Pの電気抵抗値を反映した電圧値である。
ステップ4:コントローラ部20は、ステップ3にて得られたVb−Vaの値から、下記表3に示すような予め用意された印加電圧値の差とバイアス加算値とが関係付けられた換算テーブルを参照することによって、第4の像形成ステーションSkについてのバイアス加算値を決定する。
ステップ5:コントローラ部20は、転写材Pの後端が第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyを通過した後の第4の像形成ステーションSkの転写バイアスの絶対値を、ステップ4で決定したバイアス加算値分上昇させるべく、制御信号を出力する。
表3においてVb−Vaの値が低いことは、転写材Pの電気抵抗値が低いことに対応する。従って、その場合、転写材Pを介したステーション間干渉電流の影響が大きくなるため、バイアス加算値の値は大きくされる。
以上、本実施例によれば、転写材Pの電気抵抗に関する情報が得られることで、周囲環境、紙種、紙のロットによる特性のばらつきなどにより、紙等の転写材Pの電気抵抗値が変動したとしても、より最適なバイアス加算値を設定することができ、転写不良の発生を防止することができる。
尚、本実施例では、転写材Pの電気抵抗値の検知結果に基づいてバイアス加算値を決定したが、上述の各実施例にて説明したような環境検知結果や他の検知情報に基ついて決定されたバイアス加算値を、転写材Pの電気抵抗の検知結果に基づいて補正し、微調整することで、より最適なバイアス加算値を得ることもできる。
又、ここでは代表的に、第4の像形成ステーションSkにおける転写バイアス値を、第3の像形成ステーションSyの転写ニップNyに転写材Pがある時と無い時とで変更する場合について説明したが、実施例1、2にて用いた環境情報に替えて又は加えて、本実施例にて説明した転写材Pの電気抵抗値情報を利用することができる。
又、本実施例では、定電流制御されたバイアスを印加することで転写材Pの電気抵抗を検知したが、定電圧制御されたバイアスを印加することで転写材Pの電気抵抗を検知してもよい。この場合、吸着バイアス電源14などとされる検知バイアス出力手段には、それが定電圧制御されたバイアスを出力している際の電流出力値を検知する検知手段として電流検知回路が接続され、その検知結果がコントローラ20へと出力される。尚、当然、これら検知バイアス出力手段が定電圧制御されたバイアス又は定電流制御されたバイアスのいずれかのみを出力する場合、転写バイアス電源15はそれぞれ定電圧バイアス出力部又は定電流バイアス出力部のいずれかを有していればよい。
又、本実施例では、吸着ローラ8にバイアスを印加して転写材Pの電気抵抗を検知するものとして説明したが、反対に対向部材としての従動ローラ13にバイアスを印加し、吸着ローラ8を接地して、転写材Pの電気抵抗を検知するようにしてもよい。この場合、バイアスが従動ローラ13に印加されることを除いて、その他の制御方法は本実施例と同様である。
以上、本発明を具体的な実施例に則して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。例えば、上記各実施例では、転写バイアスは定電圧制御されるものとして説明したが、定電流制御されるものであってもよい。又、上記各実施例ではトナーは負帯電性であるものとして説明したが、トナーは正帯電性であってもよい。この場合、転写ローラ5に印加されるバイアスの極性は、トナーの正規の帯電極性とは反対極性である負極性となる。