JP4663499B2 - 樹脂積層体及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、セル内に重合硬化性メタクリル系樹脂原料とフィラーとを注入し、これを重合硬化させて得られる浴槽等の積層体及びその製造法に関する。
合成樹脂製成形体としてメタクリル樹脂製浴槽を例にとって説明すると、従来はメタクリル樹脂シートを加熱軟化させたのち、真空成形によって所望の浴槽形状に成形させ、裏張りの補強材としてガラス繊維とともに不飽和ポリエステル樹脂をスプレーガンで吹き付け、またはハンドレイアップ法によってかかる補強材の層を形成し、この層を脱泡させながら平滑にし、その後硬化させることにより製造されている。しかしながらこの方法ではガラス繊維を使用するため、後加工がしにくいことや廃棄方法が限定されている問題があった。このため、真空成形した熱可塑性樹脂成形品と型の間にフィラーを含有した樹脂を充填し重合硬化し一体化させる技術が開示されている(特許文献1参照。)。
特開平5−237854号公報
しかしながら、特許文献1に記載の積層物の製造法は、強度に対する検討が十分なされていなかった。本発明の目的は、この問題点を解決することにある。
本発明の要旨は、熱可塑性樹脂成形品と、メタクリル系重合硬化物との樹脂積層体であって、該メタクリル系重合硬化物が、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物0.1質量%〜10質量%と、少なくとも1つの水酸基を有する共重合可能な化合物0.1質量%〜30質量%を含む重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部と、体積平均粒子径が1μm〜50μmの無機系粒子フィラー100質量部〜300質量部との混合液の重合硬化物である樹脂積層体にある。
また本発明の要旨は、あらかじめ所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品を、該熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって、該雄型との反対側に雌型を配置することによってセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該雌型の注入口から該セル内に、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物0.1質量%〜10質量%と、少なくとも1つの水酸基を有する共重合可能な化合物0.1質量%〜30質量%を含む重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部と、体積平均粒子径が1μm〜50μmの無機系粒子フィラー100質量部〜300質量部との混合液を流し込み、これを重合硬化させた後に雄型と雌型とから離型させる樹脂積層体の製造方法にある。
本発明によって、後加工性が良く、十分な強度持ち、安定した品質の樹脂積層体を得ることができる。
以下発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂積層体は、熱可塑性樹脂成形品と、補強層となるメタクリル系重合硬化物との樹脂積層体である。
本発明で使用する熱可塑性樹脂成形品は、熱可塑性樹脂板を熱成形により所定の形状に成形したものが好ましい。熱可塑性樹脂板としては特に限定されないが、例えば、メタクリル樹脂板、ポリスチレン板、ABS樹脂板またはこれらの積層板などが挙げられる。熱可塑性樹脂板を所定の形状に成形する成形方法としては、例えば、真空成形、圧空成形、プレス成形等が挙げられる。真空ないし圧空成形には、プラグ等による補助成形も行うことができる。
熱可塑性樹脂板の板厚は、特に制限されないが、成形品の板厚が最も薄いところで0.3mm以上、望ましくは0.8mm以上とするのが良い。板厚が厚いと補強用のメタクリル系重合硬化物中に残存する未反応の原料化合物によるクラック発生や、重合硬化性メタクリル系樹脂原料の硬化時の発熱による変形や注入時による変形等が生じにくい。また必要に応じて、熱可塑性樹脂板に印刷を施したり、フィルムをラミネートすることもでき、さらにゲルコート樹脂による柄付けも可能である。
樹脂積層体が浴槽である場合には、特に、特公平6−70098号公報に開示されているメタクリル樹脂板が、熱成形加工性および耐溶剤性に優れているので好ましい。即ち、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチル60質量%以上とアクリル酸エステル40質量%以下との単量体混合物を重合開始剤の存在下で重合させてメタクリル樹脂板を製造するにあたり、あらかじめ単量体100質量部に対して0.01〜20質量部の連鎖移動剤を添加してシラップを製造し、次いでその得られたシラップ100質量部に対して0.02〜1.0質量部の架橋剤を添加して鋳型中で注型重合させることによって得られるメタクリル樹脂板を使用することが好ましい。
本発明における所定の形状とは、例えば浴槽、洗面ボウル、シンク、シャワートレイ、洗面カウンター等の形状が挙げられる。
本発明で使用する型としては、特に限定されないが、成形加工性の観点から、次のようなものが好ましい。本発明で使用する熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型および、その熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって雄型との反対側に配置される雌型の構成としては、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などを用いたFRPの型、FRPとレジンコンクリートなどの積層体からなる型、Ni電鋳の型(FRPの表面にニッケルをコートしたもの)、アルミ合金などの金属の型、さらにこれらをリブ構造により補強したものなどが挙げられる。セル内に充満させた重合硬化性メタクリル系樹脂原料とフィラーとの混合液は重合硬化後、該硬化物を雌型から離型されるため、重合硬化性メタクリル系樹脂原料が接する雌型の面に離型剤を塗布したり、またはテフロン(登録商標)などの材料をラミネートしたりすることが好ましい。雄型は押さえ具であるので、熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状とし、熱可塑性樹脂成形品を変形させないように保持させるとよい。
本発明における熱可塑性樹脂成形品と雌型によって構成されるセルの間隔は、重合硬化性メタクリル系樹脂原料をふくむ混合液がセル内に完全充填された時に、所望の補強層の厚みになっていればよく、混合液注入時のセル間隔が所望の積層体の補強層の厚みと一致している必要はない。すなわち、注入時の重合硬化性メタクリル系樹脂原料の流動抵抗を少なくするために、注入時のセル間隔は、所望の積層体の補強層の厚み+1〜10mmとしてもよい。また注入開始直後から充填完了までのセル間隔は、雄型と雌型の型締め圧力を徐々に上げ、一定以上の圧力を加えないように制御し、セル内の樹脂圧力の極端な上昇を抑えることが望ましい。このようにして形成される補強層の厚みは2〜20mmが好ましい。機械的強度の観点から2mm以上とすることが好ましく、加工性、取扱性の観点から20mm以下とすることが好ましい。積層体が浴槽である場合は、補強層の厚みは5〜15mmの範囲であることがより好ましい。特に浴槽の底部においては、十分な強度を得るために6mm以上であることがさらに好ましい。
また、熱可塑性樹脂成形品と雌型によって構成されるセルの周辺部は、パッキン等によりシールして、注入された重合硬化性樹脂原料がセル外に漏れないようにする。
本発明において、補強層となるメタクリル系重合硬化物は重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーとを含む混合液を重合硬化して得られる。
本発明で使用される重合硬化性メタクリル系樹脂原料はメタクリル酸アルキルエステルを50〜99.7質量%含む。メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし併用することもできる。中でも、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
本発明で使用される少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等が上げられ、単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物の添加量は重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量%中0.1質量%〜10質量%である。0.1質量%未満であると硬化性が不十分なものとなり、10質量%を超えるとクラックが入りやすくなる。
少なくとも1つの水酸基を有する共重合可能な化合物としては(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸エチル−α−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3フェノキシプロピル、パラ−ビニルフェノールなどが挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。なお、本発明において(メタ)アクリルとはアクリルまたはメタクリルをあらわす。
少なくとも1つの水酸基を有する共重合可能な化合物の添加量は重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量%中0.1質量%〜30質量%である。0.1質量%未満であると硬化性に劣り、30質量%を超えると耐水性が悪化する。
無機系粒子フィラーとしては、体積平均粒子径が1μm〜50μmの無機系粒子であることが必要であり、例えば水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、シリカなどが挙げられるが、加工性の点で水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムが好ましい。無機系粒子フィラーの体積平均粒子径が1μm未満であると、重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーとの混合液が型に流し込みにくい粘度となり、50μmを超えると注入してから硬化までの間に無機系粒子フィラーの沈降が起こりやすくなる。
無機系粒子フィラーの添加量は重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部当たり100質量部〜300質量部であることが必要であり、100質量部未満であると硬化時の発熱が高くなり、強度も不十分となり、300質量部を超えると重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーとの混合液が型に流し込みにくい粘度となる。
熱可塑性樹脂成形品とメタクリル系重合硬化物との界面の密着性を向上させたい場合、アクリル酸とメタクリル酸のうちの少なくとも1種を、重合硬化性メタクリル系樹脂原料中に0.1質量%〜10質量%加えることが好ましい。0.1質量%以上であると熱可塑性樹脂成形品との密着性に優れ、10質量%以下であると重合硬化物が機械的強度に優れる。特に、無機系粒子フィラーの粒子径が小さく、添加量が多いときには、熱可塑性樹脂成形品とメタクリル系重合硬化物との界面の密着性が低下しやすいため有効である。
重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーとの混合液はフィラーの沈降、セルへの流し込みやすさの点から、適当な粘度に調整することが望ましい。粘度の調整方法としては、体積平均粒子径の異なる複数種類のフィラーを適当な割合で組み合わせる方法や、重合硬化性メタクリル系樹脂原料にメタクリル酸アルキル系重合体を添加する方法、あるいはメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体の一部を重合させたシラップを添加する方法などが挙げられるが、これらの中ではメタクリル酸アルキル系重合体を添加する方法が作業性、品質安定性の点で好ましい。この場合、重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部中には、粘度調整用のメタクリル酸アルキル系重合体を含むものとする。
混合液を重合硬化させるための硬化剤としてはラジカル重合開始剤が使用できる。このラジカル重合開始剤としては特に限定されるものではないが、公知の有機過酸化物、アゾ化合物が使用でき、所望する硬化速度、硬化温度により適宜選択すればよい。具体的にはベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、サクシニックパーオキシド等のジアシルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルマレイン酸ヘミパーエステル等のパーオキシエステル、t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシジカーボネート、メチルケトンパーオキシド等のケトンパーオキシドで代表される有機過酸化物、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物などが例示される。
ラジカル重合開始剤は、単独で用いても、又は2種以上を混合して用いても良い。また、ラジカル重合開始剤の配合量は、所望する硬化速度、硬化温度、硬化体の機械的強度等によって決定すれば良く、特に限定されるものではないが、重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部に対し、0.1〜3質量部が好適である。
更に、上記ラジカル重合開始剤とともに、重合促進剤及び/又は重合促進助剤を添加しても良い。重合促進剤としては、具体的にはラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、2−エチルヘキシルメルカプタン、グリコールジメルカプトアセテート、グリコールジメルカプトプロピオネート等のメルカプタン類、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素等のチオ尿素類、トリメチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト等の亜リン酸エステル類等が例示される。重合促進助剤としては、具体的には鉄、銅、コバルト、ニッケル、スズ、アルミニウム、アンチモンから選ばれた金属のナフテン酸のような有機酸の塩、これらの金属のアセチルアセトン、フェニルアセチルアセトン等の有機金属錯体、これらの金属のアリル化合物等が例示される。
また、必要に応じて前記混合液中の化合物が有するイソシアネート基と水酸基の架橋反応を促進させるため、例えばジ−n−ブチルすずジラウレート、テトラメチルブタンジアミン、1,4ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、ジメチル2塩化すず、トリメチルすずヒドロキシド、塩化第2すず、テトラ−n−ブチルすず、塩化第1すず、ナフテン酸コバルト、トリエチルアミン等の触媒を使用することもできる。
本発明で使用される混合液には、必要に応じて連鎖移動剤、着色剤、安定剤、粘度調整剤、離型剤、帯電防止剤、抗菌剤等の添加剤を配合する事もできる。
本発明において、熱可塑性樹脂成形品と、メタクリル系重合硬化物との樹脂積層体の製造方法としては、以下のような方法が好ましい。
あらかじめ所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品を、該熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって、該雄型との反対側に雌型を配置することによってセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該雌型の注入口から該セル内に、前記混合液を流し込み、これを重合硬化させた後に雄型と雌型とから離型させることにより樹脂積層体が得られる。
また、本発明においては、前記混合液を流し込みセル内で硬化する際、熱可塑性樹脂成形品に接する位置における混合液の発熱ピーク温度を、70〜130℃の範囲にすることが好ましい。ピーク温度が70℃以上であるとセル内での硬化が促進されやすく、脱型後に樹脂積層体が大きな変形を起こしにくい。また、130℃以下であると、熱可塑性樹脂成形品に変形を及ぼしたりしにくく、硬化後の残留内部歪みも少ないために、脱型後、樹脂積層体にクラックを引き起こしにくい。
発熱温度をこの範囲内に調節する方法としては、型(雄型、雌型)に温調機能をつけ、初期においては、暖め、重合硬化性メタクリル系樹脂原料の重合発熱が大きくなった場合には冷却を行なう方法や、使用する硬化剤の含有量を増減させる方法、あるいは連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。
以下、本発明の好適な例のうち、特に浴槽を製造する場合について、説明する。
1)無機系粒子フィラーの体積平均粒子径の測定方法
日機装株式会社製、レーザー回折散乱式マイクロトラック粒子径分布測定装置 9320HRA(X−100)を用い、体積平均粒子径を測定した。
2)混合液粘度
重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーとの混合液が、23℃でセルに流し込める粘度のものを○、流し込めないものを×とした。
3)無機系粒子フィラー沈降
硬化した積層体断面を観察し、無機系粒子フィラーの沈降が認められないものを○、無機系粒子フィラーの沈降が認められるものを×とした。
4)外観
硬化した樹脂積層体に異常が見られないものを○とし、反りが見られるもの、クラックが見られるものを×とした。
5)曲げ試験
JIS K7171に準拠して測定し、曲げ弾性率と曲げ強度を求めた。サンプルは、厚さ5mmのメタクリル樹脂板と平型との間に、後述の実施例、比較例に記載の重合硬化性メタクリル系樹脂原料を流し込み、重合硬化させて厚さ4mmの重合硬化物を有する樹脂積層体を作製し、幅10mm、長さ100mmに切り出したものを使用した。
6)剥離試験
樹脂積層体界面の密着性を以下のようにして評価した。サンプルは、前記曲げ試験と同様にして樹脂積層体を作製し、幅15mm、長さは70mmに切り出したものを使用した。メタクリル樹脂板とメタクリル系重合硬化物の界面にカッターの刃(品番:BL−150P エヌティー株式会社製)を当て、上から手で押さえ剥離させた。抵抗なく界面で剥離した場合は×、抵抗はあったが容易に剥離した場合が△、抵抗があり剥離が困難だった場合は○、抵抗があり基材が破壊し剥離不能の場合は◎とした。
[実施例1]
本実施例においては、以下の通り、熱可塑性樹脂成形品としてメタクリル樹脂板の成形品を用いた浴槽を製造した。
まず、熱可塑性樹脂成形品1として、厚さ5mmのメタクリル樹脂板(アクリライト(登録商標)PX―200、三菱レイヨン(株)製)を熱成形により浴槽形状に成形したものを用意した。その形状は、図1にあるような腰掛け部及び肘掛け部を有する、浴槽としては複雑な形状のものとした。雄型2としては、熱可塑性樹脂成形品1の内表面形状とほぼ同形状であって、エポキシ樹脂からなるFRP製のものを用いた。
図2(A)に示すように、雄型2に熱可塑性樹脂成形品1を被せ、アルミ合金製の雌型3を、熱可塑性樹脂成形品1の底面(図では上面)に対し約11mm間隔を空けて被せた。なお、雄型、雌型共に、型内部に温水循環用の配管を埋め込んで温調した。次に、熱可塑性樹脂成形品1と雌型3の周囲を、弾性体のシールパッキン4によりシールして、適当な型締め機を利用して上下から加圧し、図2(B)に示すように、密閉したセル6を形成した。雌型3に設けた混合液の注入口5は直径8mmで図2(B)のように配置した密閉セル6において、雄型2と雌型3の間隔を型締め機により狭めつつ、注入口5より重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーとの混合液7をプランジャーポンプを用いて注入した。その際の型の温度設定は、雄型80℃、雌型60℃に設定した。
重合硬化性メタクリル系樹脂原料として、メタクリル酸メチル88.7質量部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート0.3質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1質量部、懸濁重合法により製造した重量平均分子量4万のポリメタクリル酸メチル10質量部を混合して、これにフィラーとして、体積平均粒子径が3μmの水酸化アルミニウムを250質量部添加して混合した後、ジ−n−ブチルすずジラウレート0.05質量部、t−ヘキシルパーオキシピバレート0.6質量部を添加して混合し、減圧脱泡した。
この注入に伴い、図2(C)に示すように、セル内の重合硬化性メタクリル系樹脂原料と無機系粒子フィラーの混合液7の未充填部の空気は排気口8より排気した。
セル内に充填した混合液は型からの加熱により昇温し重合硬化した。その際の発熱ピークは温度測定位置9にて熱伝対を用いて実測したところ、110℃であった。その後脱型して、樹脂製の浴槽を得た。この浴槽は、複雑な形状であるにもかかわらず、セル内に未充填領域を残すことなく充填しておりエアー溜りなど無く外観は良好であり、反りなどの変形も小さい浴槽となった。また、従来のガラス繊維を使用した補強層ではないため、浴槽下部における脚の取り付け部の面出しや、補修部分の研磨などの後加工が容易であった。
メタクリル樹脂板部分を下面にして前述のサンプルの曲げ試験を実施したところ、曲げ弾性率は10.5GPa、曲げ強度は91MPaと良好な値を示した。
[実施例2〜4、比較例1〜2]
メタクリル酸メチル、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの添加量を表1、表2のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4、および比較例1〜2の積層体を得た。実施例2〜4の積層体外観は良好であり、反りなどの変形も小さい浴槽となったが、比較例1の積層体は、重合硬化が不十分であり、脱型後に反りが発生した。また、比較例2の積層体はクラックが発生した。
また、実施例1と同様に浴槽底面を切り出して曲げ試験を実施したところ、実施例2〜4の積層体は表3のとおり、曲げ弾性率、曲げ強度とも良好な値を示したが、比較例1は表4のとおり、曲げ弾性率が不十分な値であった。一方、比較例2はクラックのために良好なサンプルを得ることができなかったので、曲げ試験ができなかった。
[実施例5]
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートに代えてヘキサメチレンジイソシアネートを用いて、この添加量及びメタクリル酸メチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの添加量を表1のようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例5の積層体を得た。積層体外観は良好であり、反りなどの変形も小さい浴槽となった。
また、実施例1と同様に浴槽底面を切り出して曲げ試験を実施したところ、表3のとおり、曲げ弾性率は10.0GPa、曲げ強度は90MPaと良好な値を示した。
[実施例6〜7、比較例3〜4]
メタクリル酸メチルと懸濁重合法により製造した重量平均分子量4万のポリメタクリル酸メチル、および水酸化アルミニウムの添加量を表1、表2のようにした以外は、実施例2と同様にして、実施例6〜7、および比較例3の積層体を得た。表3、表4のとおり、実施例6〜7、および比較例3の積層体外観は良好であり、反りなどの変形も小さい浴槽となったが、比較例4は重合硬化性樹脂原料とフィラーの混合液の粘度が高すぎて、セルに注ぎ込むことができなかった。
また、実施例1と同様に浴槽底面を切り出して曲げ試験を実施したところ、実施例6〜7の積層体は表3のとおり、曲げ弾性率、曲げ強度とも良好な値を示したが、比較例3の積層体は表4のとおり、曲げ弾性率が4.9GPaと不十分な値であった。
[実施例8〜9、比較例5〜6]
メタクリル酸メチルと懸濁重合法により製造した重量平均分子量4万のポリメタクリル酸メチルの添加量、および水酸化アルミニウムの体積平均粒子径を表1、表2のとおりとした以外は実施例2と同様にして、実施例8〜9、および比較例5〜6の積層体を得た。実施例8〜9の積層体外観は良好であり、反りなどの変形も小さい浴槽となったが、比較例5は重合硬化性樹脂原料とフィラーの混合液の粘度が高すぎて、セルに注ぎ込むことができなかった。また、比較例6は硬化時にフィラーが沈降し、均一な重合硬化物(バックアップ層)を有する積層体を得ることができなかった。また、実施例1と同様に浴槽底面を切り出して曲げ試験を実施したところ、実施例8〜9の積層体は表3のとおり、曲げ弾性率、曲げ強度とも良好な値を示した。
[実施例10]
フィラーとして体積平均粒子径が2μmの炭酸カルシウムを250質量部添加した以外は実施例7と同様にして実施例10の積層体を得た。積層体外観は良好であり、反りなどの変形も小さい浴槽となった。浴槽下部における脚の取り付け部の面出しや、補修部分の研磨などの後加工も容易であった。
また、実施例1と同様に浴槽底面を切り出して曲げ試験を実施したところ、表3のとおり、曲げ弾性率は10.0GPa、曲げ強度は71MPaと良好な値を示した。
[比較例7〜8]
メタクリル酸メチル、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチルの添加量を表2のようにした以外は、実施例1と同様にして、比較例7〜8の積層体を得た。いずれの積層体も、重合硬化が不十分であり、脱型後に反りが発生した。
また、実施例1と同様に浴槽底面を切り出して曲げ試験を実施したところ、いずれの積層体も表4のとおり、曲げ弾性率が不十分な値となった。
[実施例11〜12]
メタクリル酸メチル、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、およびメタクリル酸の添加量を表1のようにした以外は、実施例2と同様にして、実施例11〜12の積層体を得た。表3のとおり、積層体外観は良好であり、熱可塑性樹脂成型品と重合硬化性メタクリル系樹脂との界面に良好な密着力が得られた。
Figure 0004663499
略号の説明
MMA:メタクリル酸メチル
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル
MAA:メタクリル酸
PMMA:ポリメタクリル酸メチル 重量平均分子量4万
DBTDL:ジ−n−ブチルすずジラウレート
Figure 0004663499
Figure 0004663499
Figure 0004663499
本発明の製造方法によって得られた積層体は、生産性、品質安定性および後加工性が良好であり、十分な強度を持ち、浴槽、洗面ボウルなどの各種用途に好適である。
熱可塑性樹脂成形品の一例を示す概略図である。 本発明の製法の一例における各工程を示す断面図である。
符号の説明
1 熱可塑性樹脂成形品
2 雄型
3 雌型
4 シールパッキン
5 混合液の注入口
6 セル
7 混合液
8 エアー抜き
9 発熱ピーク測定位置

Claims (3)

  1. 熱可塑性樹脂成形品と、メタクリル系重合硬化物との樹脂積層体であって、該メタクリル系重合硬化物が、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物0.1質量%〜10質量%と、少なくとも1つの水酸基を有する共重合可能な化合物0.1質量%〜30質量%を含む重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部と、体積平均粒子径が1μm〜50μmの無機系粒子フィラー100質量部〜300質量部との混合液の重合硬化物である樹脂積層体。
  2. あらかじめ所定の形状に成形された熱可塑性樹脂成形品を、該熱可塑性樹脂成形品とほぼ同形状の雄型に被せ、該熱可塑性樹脂成形品と所定の間隔をもって、該雄型との反対側に雌型を配置することによってセルを形成し、該熱可塑性樹脂成形品の周辺部と該雌型の周辺部とをシールして型締めを行った状態で、該雌型の注入口から該セル内に、少なくとも2つのイソシアネート基を有する化合物0.1質量%〜10質量%と、少なくとも1つの水酸基を有する共重合可能な化合物0.1質量%〜30質量%を含む重合硬化性メタクリル系樹脂原料100質量部と、体積平均粒子径が1μm〜50μmの無機系粒子フィラー100質量部〜300質量部との混合液を流し込み、これを重合硬化させた後に雄型と雌型とから離型させる樹脂積層体の製造方法。
  3. 重合硬化性メタクリル系樹脂原料にアクリル酸とメタクリル酸のうちの少なくとも1種を0.1質量%〜10質量%含む請求項2記載の樹脂積層体の製造方法。
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