本発明は、磁気ディスクの読み取りヘッドや磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)などに利用可能な磁気抵抗効果素子及びその製造方法に関する。
読み取りヘッドやMRAMに応用が考えられている磁気抵抗効果素子として、TMR(トンネル磁気抵抗)効果素子がある。このTMR効果素子は、二つの磁性層の間に絶縁層が挟まれた構造を有するものであり、二つの磁性層の磁化の方向が平行の時はトンネル電流の抵抗値が小さくなり、互いに反平行の時はトンネル電流の抵抗値が大きくなるものである。なお、TMR効果素子の磁化状態は、TMR効果素子に感知電流を流して、その抵抗値の変化をモニターすることにより、読み取ることが可能である。
磁気抵抗効果素子では、トンネル電流を通過させる絶縁層に酸化膜が一般に用いられる。この酸化膜の作製方法としては、短時間で高障壁の酸化絶縁膜を作製可能なことから、磁性層上にまず金属膜を成膜し、その金属膜をプラズマ酸化により酸化膜にするという方法が一般に用いられる。高障壁の酸化絶縁膜を用いると、一般に高MR比が得られる。しかし、プラズマ酸化は、高エネルギー酸素を試料にぶつけて酸化する方法のため、酸化速度が速く、非磁性層が薄い場合には非磁性層下部の磁性層を酸化せずに非磁性層だけを再現性良く酸化するのが困難である。例えば、磁性層が酸化された場合、磁性層の結晶構造が乱れることにより磁気抵抗効果が小さくなる。また、非磁性層が酸化不十分の場合、非磁性層の未酸化部でスピンが散乱され磁気抵抗効果が小さくなる。このように、プラズマ酸化は非磁性層がある程度厚い場合には高いMR比(磁気抵抗変化率)を実現できることもあるが、非磁性層が薄い場合には高いMR比を実現できる再現性に乏しいという問題がある。
非磁性層が薄い場合に高いMR比を実現するための技術として、特許文献1及び特許文献2に記載された技術が知られている。特許文献1には、下磁性層及び上磁性層と、下磁性層と上磁性層との間に形成されたバリア膜とを有するTMR効果素子において、下磁性層を形成した後にその酸化処理をし、その後Al膜を酸化したバリア膜を形成し、その後に熱処理をすることにより、下磁性層からバリア膜に酸素を供給し、下磁性層とバリア膜との界面に未酸化のAlが残留しないバリア膜を形成するという技術が開示されている。
特許文献2には、TMR効果素子の絶縁膜を作製するための方法ではないが、素子を加熱した状態で酸素気体を素子側面から注入する方法、または酸素イオンを素子側面から注入する方法によって、非磁性層及び非磁性層を挟む上下の磁性層を酸化する技術が開示されている。
特開2000−196165号公報
特開2002−176211号公報
しかしながら、特許文献1のように、下磁性層における下磁性層とバリア層との界面を酸化し、下磁性層の酸素をバリア層に拡散させる場合、予め酸化処理した下磁性層の酸素がバリア層に移動しきれず、下磁性層に残ることがある。このように、磁性層に酸素が残ると前記磁性層の結晶構造が変化し、磁気抵抗効果が減少する一因となる。そのため、特許文献1の技術においても、特性のばらつきが小さく再現性のよいTMR効果素子を得ることができない。
また、特許文献2のように、加熱した状態で酸素気体を注入するという方法でTMR効果素子の絶縁層を作製しようとすると、酸化すべき非磁性層の厚さが数nmと非常に薄いため、注入する酸素気体を非磁性層部分に絞って注入することは困難である。そのため、上下の磁性層にも酸素が供給されて上下の磁性層が酸化されてしまうことがある。磁性層が酸化されると、特許文献1の場合と同様、磁性層の結晶構造が変化し磁気抵抗効果が減少する一因となる。そのため、特許文献2の技術においても、特性のばらつきが小さく再現性のよいTMR効果素子を得ることができない。
一方、TMR素子とは別に、高いMR比が得られる素子として、弾道磁気抵抗(BMR:Ballistic magneto-resistance)効果素子が提案されている。BMR素子は、伝導電子が弾道的な伝導をする磁性体からなる原子サイズオーダーの電流路、具体的には径が30nm以下の微小電流チャネル(微小接点)を有している。BMR素子は、微小電流チャネルを伝導電子が通過する際に弾道的な伝導特性を示し、その結果として高いMR比が得られる。かかるBMR効果素子においても、特性のばらつきが小さく再現性のよいものが望まれている。
そこで、本発明の目的は、特性のばらつきが小さく再現性のよい磁気抵抗効果素子及びその製造方法を提供することである。
課題を解決するための手段及び効果
本発明の磁気抵抗効果素子は、一又は積層された複数の磁性層からなる第1の磁性層群と、一又は積層された複数の磁性層からなる第2の磁性層群と、前記第1の磁性層群と前記第2の磁性層群とに挟まれつつこれら2つの磁性層群の両方と接触した、一又は積層された複数の非磁性層からなりかつ酸化物層を含む非磁性層群と、前記非磁性層群に接しかつ前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群に接触しない一又は積層された複数の第1の接触層からなる第1の接触層群と、前記第1の磁性層群又は前記第2の磁性層群に接しかつ前記第1の接触層群に接する一又は積層された複数の第2の接触層からなる、酸素を飽和状態で含有している第2の接触層群とを備えている。前記第1の接触層群が、前記第1の磁性層群、前記非磁性層群及び前記第2の磁性層群の積層方向と垂直な方向に対し交差する前記非磁性層群の端面に接している。そして、(a)前記第1の接触層に関する構成元素それぞれの酸化還元電位と組成比とを掛けたものの和が、前記非磁性層群のうち当該第1の接触層に接する前記非磁性層に関する前記和よりも大きい。さらに、(b)前記非磁性層群のうち前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群の少なくともいずれか一方に接する前記非磁性層に関する前記和が、前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群のうち当該非磁性層に接する前記磁性層に関する前記和よりも小さい。また、(c)前記第2の接触層に関する前記和が、前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群のうち当該第2の接触層に接する前記磁性層に関する前記和よりも小さく、(d)前記第1の接触層群のうち前記第2の接触層に接する前記第1の接触層に関する前記和が、前記第2の接触層群のうち前記第1の接触層に接する前記第2の接触層に関する前記和よりも大きい。
本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法は、一又は積層された複数の磁性層からなる第1の磁性層群を形成する工程と、前記第1の磁性層群上に、一又は積層された複数の非磁性層からなりかつ酸化物層を含む非磁性層群を形成する工程と、前記非磁性層群上に、一又は積層された複数の磁性層からなる第2の磁性層群を形成する工程と、前記非磁性層群に接しかつ前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群に接触しない一又は積層された複数の酸素含有層からなる酸素含有層群を形成する工程と、前記第1の磁性層群又は前記第2の磁性層群に接しかつ前記酸素含有層群に接する一又は積層された複数の接触層からなる、酸素を飽和状態で含有している接触層群を形成する工程と、接触層群を形成する工程後に、前記非磁性層の構成元素が前記酸素含有層中の酸素と結合することによって前記非磁性層の構成元素が酸化されるように熱処理を施す工程とを備えている。前記酸素含有層群を形成する工程において、前記酸素含有層群を、前記第1の磁性層群、前記非磁性層群及び前記第2の磁性層群の積層方向と垂直な方向に対し交差する前記非磁性層群の端面に接触させる。そして、(a)前記酸素含有層に関する構成元素それぞれの酸化還元電位と組成比とを掛けたものの和が、前記非磁性層群のうち当該酸素含有層に接する前記非磁性層に関する前記和よりも大きい。さらに、(b)前記非磁性層群のうち前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群の少なくともいずれか一方に接する前記非磁性層に関する前記和が、前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群のうち当該非磁性層に接する前記磁性層に関する前記和よりも小さい。また、(c)前記接触層に関する前記和が、前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群のうち当該接触層に接する前記磁性層に関する前記和よりも小さく、(d)前記酸素含有層群のうち前記接触層に接する前記酸素含有層に関する前記和が、前記接触層群のうち前記酸素含有層に接する前記接触層に関する前記和よりも大きい。
本発明によると、磁気抵抗効果素子の製造過程において第1の接触層となる酸素含有層から酸素を供給することによって非磁性層を酸化させることが可能である。そのため、特許文献1及び特許文献2の場合とは異なり、第1の磁性層及び/又は第2の磁性層に酸素が残留することがない。また、プラズマ酸化のように高エネルギーの酸素プラズマを非磁性層に衝突させず、熱拡散により穏やかに酸化するので、酸化の制御が容易である。したがって、特性のばらつきが小さく再現性のよい磁気抵抗効果素子及びその製造方法を提供できる。
ところで、特許文献1のように、酸化した磁性層上に金属であるAlを成膜した場合、Alが島状成長し磁化方向が一様にならず、表面荒れが大きくなる。このような表面荒れが大きいAlを酸化して絶縁層を形成しても、表面荒れは改善されず荒れたままである。MR素子において絶縁層の表面荒れが大きいと磁気抵抗効果が減少してしまう。これに対して、本発明では、特許文献1の場合とは異なり、酸化されていない第1の磁性層上に非磁性層を形成することができるので、非磁性層の表面荒れを小さくすることができる。したがって、実用上十分なMR比を有する磁気抵抗効果素子が得られる。
なお、本発明の磁気抵抗効果素子において、その製造過程において非磁性層に酸素を供給する酸素含有層であった第1の接触層は、酸素を含有していても、含有していなくてもどちらでもよい。
本発明の磁気抵抗効果素子においては、前記第1の接触層群が、前記第1の磁性層群、前記非磁性層群及び前記第2の磁性層群の積層方向と垂直な方向に対し交差する前記非磁性層群の端面に接している。また、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法においては、前記酸素含有層群を形成する工程において、前記酸素含有層群を、前記第1の磁性層群、前記非磁性層群及び前記第2の磁性層群の積層方向と垂直な方向に対し交差する前記非磁性層群の端面に接触させる。これによると、磁気抵抗効果素子の製造過程において非磁性層を一様に酸化させやすくなり、さらに大きな磁気抵抗効果が得られる。
本発明の磁気抵抗効果素子は、前記第1の磁性層群又は前記第2の磁性層群に接しかつ前記第1の接触層群に接する一又は積層された複数の第2の接触層からなる第2の接触層群をさらに備えている。また、本発明の磁気抵抗効果素子の製造方法においては、前記熱処理を施す工程の前に、前記第1の磁性層群又は前記第2の磁性層群に接しかつ前記酸素含有層群に接する一又は積層された複数の接触層からなる接触層群を形成する工程をさらに備えている。このとき、前記第2の接触層(接触層)に関する前記和が、前記第1の磁性層群及び前記第2の磁性層群のうち当該第2の接触層(接触層)に接する前記磁性層に関する前記和よりも小さい。これによると、酸素が第1の接触層群から第1及び第2の磁性層群に移動するのを第2の接触層群が防ぐので、第1の接触層群の酸化還元電位を第1及び第2の磁性層群よりも小さくする必要がなくなる。したがって、非磁性層群を酸化させやすい酸化還元電位の大きな第1の接触層群を用いることができる。
本発明の磁気抵抗効果素子及び製造方法においては、前記第1の接触層群(酸素含有層群)のうち前記第2の接触層(接触層)に接する前記第1の接触層に関する前記和が、前記第2の接触層群のうち前記第1の接触層に接する前記第2の接触層に関する前記和よりも大きく、かつ、前記第2の接触層群が酸素を含有している。このとき、前記第2の接触層群(接触層群)が、酸素を飽和状態で含有している。これによると、酸化還元電位の大小関係が第1の接触層群>第2の接触層群となっているために、第1の接触層群から非磁性層群だけでなく、第2の接触層群へも酸素が移動する可能性があるが、第2の接触層群に酸素が飽和状態で含有されているので、第2の接触層への酸素の移動が抑止又は防止される。また、非磁性層群から第2の接触層群への酸素の移動も抑止又は防止される。
<第1参考形態>
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態及び参考形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。図1は、本発明の第1参考形態に係るトンネル磁気抵抗(TMR)効果素子を示す断面図である。なお、以下では便宜のため、図を示した紙面に対し、上下方向を積層方向、左右方向を幅方向として表現することがある。
本参考形態のTMR効果素子10において、基板11の上に、下部電極層12が形成されている。また、この下部電極層12の上には、磁化固定層13、下部磁性層14が順に形成されている。さらに、図1における下部磁性層14の上の中央付近には、下部磁性層14に比べて、積層方向に平行な平面である端面同士の幅が狭い非磁性層15が形成されている。非磁性層15は、絶縁性の金属酸化物層である。この非磁性層15の上には、積層方向に平行な方向の端面同士の幅が非磁性層15と同一の上部磁性層16が形成されている。そして、接触層17a、17bが、TMR効果素子10における各層の積層方向に平行な非磁性層15及び上部磁性層16の端面に接するように、下部磁性層14の上に形成されている。また、上部磁性層16及び接触層17a、17bの基板11と反対側の面上には、上部電極層18が形成されている。
基板11の積層側の面は、平坦面となっている。基板11としては、例えば、Si基板や、酸化処理したSi基板、Al2O3(アルミナ)基板、MgO基板などを用いることができる。
下部電極層12及び上部電極層18は、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ta、Ni、Fe等の導電性金属又はこれらの合金からなる層である。なお、下部電極層12及び上部電極層18は複合層でも単一層でもよく、図1には、下部電極層12を複合層(例えば、Ta、Cu、Ta、NiFe、Cuの層が、この順に積層されたもの)、上部電極層18を単一層としているものが示されている。
磁化固定層13は、MnIrやMnPtに代表される反強磁性体からなる層である。
下部磁性層14及び上部磁性層16は、Ni、Fe、Co等の少なくとも一種を含む金属又は合金からなる層である。
非磁性層15は、Mg、Al等の非磁性金属を酸化したもの、又は、Mg、Al等の少なくとも一種を含む非磁性体合金を酸化したものからなる層である。なお、合金には平滑な表面を有する傾向があるので、非磁性層15を合金で形成すると、表面粗さが低減する。この合金の例としては、Al1-XMgXが挙げられる。
接触層17a、17bは、Mn、Zn、Cr等のいずれかを酸化したもの、又は、Mn、Zn、Cr等の少なくとも一種を含む合金を酸化したものからなる層である。上記合金の具体例としては、Zn1-XCrXが挙げられる。接触層17a、17bの材料としては、非磁性層15の酸化前の非磁性金属よりも酸化されにくく、かつ下部磁性層14及び上部磁性層16よりも酸化されやすいものが選択されている。接触層17a、17bの材料は、後述する他の層との比較における酸化されやすさの条件を満たせば、導電体、半導体、絶縁体等のいずれであってもよい。
材料の酸化されにくさは、その材料の構成元素(金属)それぞれの酸化還元電位と組成比とを掛けたものの和を用いて数値的に表すことができる。具体的には、例えば、元素Aと元素Bとからなる合金ABを考えた場合、元素Aの酸化還元電位をEA、その組成比をnA、元素Bの酸化還元電位をEB、その組成比をnBとすると、合金ABの酸化されにくさはEAB=EA・nB+EB・nBで表すことができる。以下、本明細書において、この式で定義される酸化されにくさを表す量を「実質上の酸化還元電位」と称することとする。ただし、対象となる金属元素又は合金が酸化された状態であっても、実質上の酸化還元電位を算出する上で、酸素の組成比はゼロとして計算される。
元素の酸化還元電位はイオン化傾向が高いほど小さい。代表的な金属のイオン化傾向には、Mg>Al>Mn>Zn>Cr>Fe>Cd>Ni>Coという大小関係がある。したがって、これら金属の酸化還元電位は上記不等式と逆の大小関係を有することになり、イオン化傾向が高い元素を多く含む材料ほど、実質上の酸化還元電位が小さくなる。このように、実質上の酸化還元電位を用いると材料の酸化されやすさを簡単に判断できるため、各層の材料を容易に選択することができる。また、例えば接触層17a、17bで用いることが可能な合金の具体例として挙げたZn1-XCrXに関しては、ZnとCrとの組成比を変更することで実質上の酸化還元電位を容易に所望の値に調整できる。
本参考形態のTMR効果素子10において、接触層17a、17b、非磁性層15、下部磁性層14及び上部磁性層16に関する実質上の酸化還元電位の大小関係は、以下の不等式で表される。
(下部磁性層14及び上部磁性層16)>(接触層17a、17b)>(非磁性層15)
この不等式を満たすように、本参考形態のTMR効果素子10では、例えば、非磁性金属であるMgとAlを下部磁性層14及び上部磁性層16の材料に、MnとZnとCrを接触層17a、17bの材料に、CdとNiとCoを非磁性層15の材料に用いることができる。
このような構造を有するTMR効果素子10によると、その製造過程において酸素含有層である接触層17a、17b(図5(j)参照)から酸素を供給することによって非磁性層15を酸化させることが可能である。そのため、下部磁性層14及び上部磁性層16が酸化された状態とならない。また、酸化されていない下部磁性層14上に非磁性層15を形成することができるので、非磁性層15の表面荒れを小さくすることができる。したがって、プラズマ酸化のように高エネルギーの酸素プラズマを非磁性層に衝突させず、熱拡散により穏やかに酸化するので、酸化の制御が容易になり、実用上十分なMR比を有し、かつ、特性のばらつきが小さく再現性のよい磁気抵抗効果素子10を提供できる。
本参考形態において、下部磁性層14が本発明の第1の磁性層群を構成しており、上部磁性層16が本発明の第2の磁性層群を構成しており、非磁性層15が本発明の非磁性層群を構成しており、接触層17a、17bが本発明の第1の接触層群を構成している。
次に、TMR効果素子10の動作について説明する。このTMR効果素子10では、下部電極層12及び上部電極層18の間に電圧が印加されると、磁化固定層13、下部磁性層14、非磁性層15、上部磁性層16を結ぶ線上に電流が流れる。つまり、非磁性層15中を各層の積層方向にトンネル電流が流れる。ここで、外部磁場をTMR効果素子10に印加すると、互いに磁化反転する磁界の大きさが異なる下部磁性層14の磁化方向と上部磁性層16の磁化方向とを互いに平行または反平行の状態に変化させることができる。このとき、下部磁性層14と上部磁性層16との磁化方向が平行か反平行かによって非磁性層15を通過する電子の確率が変化し、素子抵抗が変化する。すなわち、トンネル磁気抵抗効果が生じることとなる。
本参考形態のTMR効果素子10は、下部磁性層14および上部磁性層16がほとんど酸化されていないものである。したがって、感知電流が、結晶構造の乱れていない下部磁性層14及び上部磁性層16を有するトンネル接合部を通過することが可能となる。その結果、十数%と実用上十分なMR比を有し、かつ、特性のばらつきが小さく再現性のよいTMR効果素子10を実現できる。
<第2参考形態>
次に、本発明の第2参考形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。図2は、本発明の第2参考形態に係るTMR効果素子を示す断面図である。なお、本参考形態において第1参考形態と同様の部分はその符号の10の位の数字を”1”から”2”に入れ換えて表されており、かかる同様の部分の説明が省略されることがある。
本参考形態のTMR効果素子20において、基板21の上に、下部電極層22が形成されている。この下部電極層22の上の中央付近には、下部電極層22に比べて、積層方向に平行な方向の端面同士の幅が狭い、磁化固定層23、下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26が同幅で順に形成されている。また、絶縁層29a、29bが、TMR効果素子20における各層の積層方向に平行な磁化固定層23及び下部磁性層24の端面に接するように形成されている。そして、接触層27a、27bが、TMR効果素子20における各層の積層方向に平行な非磁性層25及び上部磁性層26の端面に接するように、絶縁層29a、29bの上に形成されている。また、上部磁性層26及び接触層27a、27bの基板11と反対側の面上に、上部電極層28が形成されている。
絶縁層29a、29bは、スパッタリングによって形成されたSiO2やAlOX等からなる。
本参考形態のTMR効果素子20において、接触層27a、27b、非磁性層25、下部磁性層24及び上部磁性層26に関する実質上の酸化還元電位の大小関係は、以下の不等式で表される。
(下部磁性層24及び上部磁性層26)>(接触層27a、27b)>(非磁性層25)
したがって、本参考形態によるTMR効果素子20も、第1参考形態によるTMR素子10と同様に、大きな磁気抵抗効果を示す。
なお、本参考形態において、下部磁性層24が本発明の第1の磁性層群を構成しており、上部磁性層26が本発明の第2の磁性層群を構成しており、非磁性層25が本発明の非磁性層群を構成しており、接触層27a、27bが本発明の第1の接触層群を構成している。
このTMR効果素子20では、下部電極層22及び上部電極層28の間に電圧が印加されると、磁化固定層23、下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26を結ぶ線上に電流が流れる。ここで、この電流の流れについてさらに詳しく述べると、絶縁層29a、29bは隣接する下部磁性層24または上部磁性層26よりも高抵抗なので、下部磁性層24から絶縁層29a、29bを通過して接触層27a、27bへ流れる電流は減少し、下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26を通過する磁気抵抗効果を示す電流が増加することとなる。なお、下部磁性層24から接触層27a、27bを通過する電流はほとんど磁気抵抗効果を示さず、下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26を通過する電流が磁気抵抗効果を示す。
上記構成のTMR効果素子20によると、接触層27a、27bの積層方向に垂直な面に接する絶縁層29a、29bを形成しているので、電流は接触層27a、27bを通過しにくくなり、非磁性層25を通過するように制御することが可能となり、磁気抵抗効果を示す電流量を増加させることができる。その結果、非磁性層25中を高出力のトンネル電流が各層の積層方向に流れる。したがって、TMR効果素子20は、第1参考形態のTMR効果素子10と同様の効果を奏する上、第1参考形態のTMR効果素子10よりもMR比が高いという効果をも奏する。
<実施形態>
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。図3は、本発明の実施形態に係るTMR効果素子を示す断面図である。なお、本実施形態において第1参考形態と同様の部分はその符号の10の位の数字を”1”から”4”に入れ換えて表されており、かかる同様の部分の説明が省略されることがある。
本実施形態のTMR効果素子40は、第1参考形態のTMR効果素子10の下部磁性層14、非磁性層15、上部磁性層16、及び接触層17a、17bに代えて、それぞれが複合層からなる下部磁性層群44、非磁性層群45、上部磁性層群46、及び接触層群47a、47bが形成されたものである。これらの層はスパッタリングなどによって形成される。
下部磁性層群44及び上部磁性層群46としては、例えば、(1)CoFe/NiFeからなるもの、(2)CoFe/Ru(ルテニウム)/CoFeからなる複合層が挙げられる。磁性層がこれらの構成を有する場合には、反磁界の影響を低減でき、単磁区を保持することができる。なお、図3においては、下部磁性層群44が上記(2)の複合層、上部磁性層群46が上記(1)の複合層(これら各層を図3において符号46a、46bで示す)として示されている。
非磁性層群45としては、例えば、AlOX/TaOX(これら各層を図3において符号45a、45bで示す)からなるものが挙げられる。このように、下部磁性層群44と上部磁性層群46との間に挟まれつつこれら2つの磁性層群44、46の両方と接触した非磁性層群45を複数の酸化物層からなるようにすると、膜積層方向に非対称の障壁となるので、バイアス依存性(電圧が印加されると磁気抵抗比が低下する現象)が解消される。
接触層群47aは上部接触層47a1と中間接触層47a2と下部接触層47a3とで構成され、接触層群47bは上部接触層47b1と中間接触層47b2と下部接触層47b3とで構成されている。上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3は、ZnOで構成されており、中間接触層47a2、47b2は、Feより酸化されやすい材料の酸化物からなる層(例えばPbOx)で構成されている。上部接触層47a1、47b1は、磁性層46a、46b及び非磁性層45aと接触しており、中間接触層47a2、47b2は、非磁性層45a、45bと接触しており、下部接触層47a3、47b3は、磁性層44及び非磁性層45bと接触している。なお、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3は、十分又は飽和する程度に酸素を含有している。
上部接触層47a1、47b1、下部接触層47a3、47b3、中間接触層47a2、47b2、非磁性層群45、下部磁性層群44及び上部磁性層群46に関する実質上の酸化還元電位の大小関係は、以下の不等式で表される。
(中間接触層47a2、47b2)>(上部接触層47a1、47b1、下部接触層47a3、47b3)
(磁性層46a、46b及び非磁性層45a)>(上部接触層47a1、47b1)
(中間接触層47a2、47b2)>(非磁性層群45の各層45a、45b)
(下部磁性層群44において非磁性層群45に接する(つまり最も上にある)磁性層)>(非磁性層群45において下部磁性層群44に接する(つまり最も下にある)層45b)
また、下部接触層47a3、47b3と、非磁性層45b及び下部磁性層群44とに関する実質上の酸化還元電位の大小関係は、以下の不等式で表される。
(下部磁性層群44の各層及び非磁性層45b)>(下部接触層47a3、47b3)
ここで、上述の各層間における酸素の移動について説明すると、以下のようになる。上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3から磁性層44、46へは酸素は移動せず、非磁性層45から磁性層群44、46へも酸素は移動しない。また、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3に含有される酸素が十分でないときは、中間接触層47a2、47b2から、非磁性層45と上部接触層47a1、47b1と下部接触層47a3、47b3とに酸素が移動する可能性があるが、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3が酸素を十分又は飽和する程度に含有しているので、中間接触層47a2、47b2から上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3へはほとんど酸素が移動することがない。なお、中間接触層47a2、47b2から非磁性層45へは酸素が移動する。また、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3に含有される酸素が十分でないときは、酸化還元電位の関係にしたがって、非磁性層45から上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3へ酸素が移動する可能性はあるが、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3に含まれる酸素量を十分又は飽和させておくことで、非磁性層45から上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3への酸素の移動を抑えることができる。
本実施形態によれば、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3が、酸素を中間接触層47a2、47b2から下部磁性層群44及び上部磁性層群46に移動させないので、中間接触層47a2、47b2の酸化還元電位を上部磁性層群46や下部磁性層群44よりも小さくする必要がなくなる。その結果として、中間接触層47a2、47b2には、非磁性層45を酸化させやすい酸化還元電位の大きい材料を用いることができる。このとき、酸化還元電位の大小関係が、(中間接触層47a2、47b2)>(上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3)となり、中間接触層47a2、47b2から非磁性層45だけでなく、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3へも酸素が移動する可能性がある。しかし、本実施形態では、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3が酸素を十分又は飽和状態で含有しているので、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3へ酸素が移動することがない。また、非磁性層45から上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3へも酸素が移動しない。
このように、下部磁性層群44、非磁性層群45、上部磁性層群46及び接触層群47a、47bを所定の条件を満たした複合層とすれば、第1参考形態のTMR効果素子10と同様の効果を得ることができるだけでなく、上述した各層の特性を有するTMR素子40を提供できる。
なお、第2参考形態のTMR効果素子20の下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26及び接触層27a、27bに代えて、下部磁性層群44、非磁性層群45、上部磁性層群46及び接触層群47a、47bをそれぞれ形成しても、TMR効果素子を形成できる。このときも、実施形態と同様に、各層間における酸化の傾向を考慮した材料の選択を行うことで、実施形態のTMR効果素子40と同様の効果を得ることができるだけでなく、第2参考形態のTMR効果素子20と同様の効果をも奏するTMR効果素子を提供できる。
<第3参考形態>
次に、本発明の第3参考形態に係る磁気抵抗効果素子について説明する。図4は、本発明の第3参考形態に係るBMR効果素子を示す断面図である。なお、本参考形態において第1参考形態と同様の部分はその符号の10の位の数字を”1”から”5”に入れ換えて表されており、かかる同様の部分の説明が省略されることがある。
本参考形態のBMR効果素子50は、金属酸化層である絶縁性の高い非磁性層55に囲まれ且つ上下2つの磁性層54、56を接続する酸化されていない導電性の高い非磁性の微小電流路62が形成されている点において、第1参考形態のTMR効果素子10と相違している。
微小電流路62は、非磁性層55の中心部付近に積層方向に形成され、積層方向に垂直な方向の断面が直径1nm以上30nm以下の範囲にある、非磁性層55と同じ非磁性導電体からなる微小の電流チャネルである。BMR効果素子50を製造するには、上述する実施例1において、各層の積層後、非磁性層55の周辺部のみを熱処理によって酸化させ、中心部が酸化されないように、熱処理時間を制御すればよい。非磁性層55の酸化された部分(金属酸化物)は高抵抗となり、酸化されていない部分は低抵抗の微小電流路62となって電流が流れることになる。
以下にBMR効果素子について説明する。電極間に電子の波長程度の幅(数nm)の接合部を持つ素子では、電極間の磁化の向きに応じて抵抗が大きく変化することが知られている。大きな抵抗変化を示す理由は、電子の波長程度の幅のチャンネルを電子が伝導するというバリスティック伝導により説明されている。このように微小の電流チャネルを持つ磁気抵抗効果素子はBMR効果素子と呼ばれ、大きなMR比を示す素子として注目されている。
ここで、金属中の伝導電子の波長は1nm程度であり、BMR効果を利用して無限大のMR比を得るには、原理的に1nm以下の幅を有する接合部が必要である。しかし、幅が1nmよりも大きくなっても30nm以下であればBMR効果は弱くはなるものの働いており、例えば、10nmの幅で数100%と十分大きなMR比を得ることが可能である。よって、微小電流路62の積層方向に垂直な方向の断面は、直径1nm以上10nm以下の円形範囲に設定することが好ましい。
上述のような構成とすることにより、実用上十分なMR比を有し、かつ、特性のばらつきが小さく再現性のよいBMR効果素子50を提供できる。
なお、本参考形態において、微小電流路62は一層の導電層からなるが、微小電流路62が積層された複数の導電層(導電層群)から構成されていてもよい。
第2参考形態のTMR素子20の非磁性層25に代えて、第3参考形態と同様の微小電流路62及び非磁性層55を形成することによっても、BMR効果素子を形成できる。この場合、接触層57a、57bの積層方向に垂直な面に接する絶縁層が形成されているので、電流は接触層57a、57bを通過しにくくなり、より確実に微小電流路62を通過するようになる。したがって、磁気抵抗効果を示す電流量を増加する。その結果、微小電流路62中を各層の積層方向に高出力の電流が流れる。したがって、この場合のBMR効果素子は、第3参考形態のBMR効果素子と同様の効果を奏する上、第3参考形態のBMR効果素子50よりもMR比が高いという効果をも奏する。
(参考例1)
本発明に係る磁気抵抗効果素子の特性を評価するために、以下の製造方法に従って第1参考形態のTMR効果素子10を作製した。図5(a)〜図5(j)は、第1参考形態に係る磁気抵抗効果素子の製造工程を順に描いた断面図である。
TMR効果素子10を作製するには、まず、基板11上に、Ta、Cu、Ta、NiFe、Cuの積層構造からなる下部電極層12を形成する(図5(a)参照)。この下部電極層12は、まず、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力60W(DC電源)の条件で、スパッタによりTaを5nm成膜する。次に、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力150W(DC電源)の条件でスパッタによりCuを50nm成膜する。続いて、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力60W(DC電源)の条件で、スパッタによりTaを5nm成膜する。次に、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力150W(DC電源)の条件でスパッタによりNiFeを2nm成膜する。続いて、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力150W(DC電源)の条件でスパッタによりCuを5nm成膜する。このTa(5nm)/NiFe(5nm)/Cu(2nm)層は上面に成膜される層の配向調整層として働く。なお、配向調整層とは、ある方向の結晶成長を促進し、かつ、表面粗さを低減するという効果を有する層である。
次に、下部電極層12の上に、磁化固定層13としてMnPtを、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力200W(RF電源)の条件でスパッタにより成膜する(図5(b)参照)。このMnPtはこの上に成膜される膜(下部磁性層14)の磁化を一方向に固定するものである。
続いて、磁化固定層13の上に、下部磁性層14としてCoFeを、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力200W(RF電源)の条件でスパッタにより成膜する(図5(c)参照)。なお、CoFeの実質上の酸化還元電位は、ECoFe=ECo・nCo+EFe・nFe=0.5×(−0.28)+0.5×(−0.447)=−0.3635(V)と算出される。
次に、下部磁性層14の上に、酸化されていない非磁性層19としてAlを、Ar流量100sccm、スパッタ圧1.3Pa、電力200W(RF電源)の条件でスパッタにより151.3nm成膜する(図5(d)参照)。なお、Alの酸化還元電位は、−1.662Vである。
続いて、非磁性層19の上に、上部磁性層16としてCoFeを、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力200W(RF電源)の条件でスパッタにより5nm成膜する(図5(e)参照)。
次に、レジストを上部磁性層16上に塗布し感光させ面積1μm2のレジストマスク20を形成する(図5(f)参照)。そして、下部磁性層14の上面までイオンミリングする。このとき、レジストマスク20によって、レジストマスク20下部の上部磁性層16及び非磁性層19は保護され、除去されない(図5(g)参照)。
続いて、レジストマスク20及び下部磁性層14上に、Ar流量100sccm、スパッタ圧1.3Pa、電力200W(RF電源)の条件で、酸素含有層である接触層17a、17b、17cとして、ZnOを7nm成膜する(図5(h)参照)。なお、Znの酸化還元電位は、−0.762Vである。
ここで、下部磁性層14(CoFe)、上部磁性層16(CoFe)、非磁性層19(Al)、接触層17a、17b、17c(ZnO中のZn)に関する実質上の酸化還元電位の大小関係を整理しておくと、(下部磁性層14、上部磁性層16)>(接触層17a、17b、17c)>(非磁性層19)となっている。
次に、レジストマスク20上の余分な接触層17cと共にレジストマスク20を除去する(図5(i)参照)。
続いて、上部磁性層16及び接触層17a、17bの上に、上部電極層18としてCuを、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力150W(DC電源)の条件でスパッタにより50nm成膜する。
次に、500Oeの磁場中、250度の温度で3時間、真空度10-3Paで磁場中アニールする。このとき、反強磁性層である磁化固定層13と下部磁性層14に交換結合が生じると同時に接触層17a、17bから非磁性層19中に酸素が拡散し(接触層17a、17bの含有する酸素が減少する)、Alからなる非磁性層19が酸化され、絶縁性金属酸化物(AlO)層である酸化された非磁性層15となる(図5(j)参照)。通常、磁化固定層13と下部磁性層14との間に交換結合を生じさせるための磁場中アニールと、非磁性層19の酸化とは別の工程で行われるが、本参考例のように酸素含有層である接触層17a、17bを設けることにより交換結合を生じさせる工程と非磁性層19の酸化の工程とを同時に行うことができる。なお、熱処理温度としては、温度が低すぎると酸素拡散が起こらないので100℃以上が望ましく、温度が高すぎると磁化固定層13と下部磁性層14との交換結合が失われるので300℃以下が望ましい。
上記のようにして作製したTMR素子を参考例1の試料とした。
本参考例のような接触層17a、17bからの酸素拡散で酸化を行う方法では、非磁性層19、下部磁性層14、上部磁性層16、接触層17a、17bそれぞれの酸素への親和力の差を利用して酸化することにより、下部磁性層14や上部磁性層16まで酸化してしまったり、非磁性層19に未酸化部分が残存してしまったりするといった問題を防ぐことが可能となる。
公知技術のように非磁性層19をプラズマ酸化で酸化させると、酸化された非磁性層15上に上部磁性層16を積層することになる。一般に酸化物の上に金属又は合金を積層すると、金属又は合金が酸化物上一様に積層されず島状成長することとなる。島状成長した金属又は合金の磁化方向は一様になりにくいので、磁気効果素子の特性が劣化してしまい、磁気抵抗効果素子としては不都合(低MR比の原因となる)である。また、非磁性層19をプラズマ酸化させるのではなく、酸化物の絶縁材料をスパッタ等して非磁性層15を形成してもよいが、金属又は合金である下部磁性層14上に酸化物を成膜すると、酸化物の層が一様に積層されず島状に成長してしまうことが多い。このように島状成長した場合には、酸化物である非磁性層15の表面粗さが大きくなってしまい、低MR比の原因になってしまう。これに対し、本参考例のように、非磁性層19の酸化を接触層17a、17bからの酸素拡散で行う方法は、非磁性層19を金属のままとして、その上に金属である上部磁性層16を積層した後、非磁性層19のみを容易かつ確実に酸化する方法であるので、上記のような不都合はなく、非磁性層19上に均一に上部磁性層16が積層しやすく、磁気抵抗効果素子として有利である。
また、接触層17a、17bからの酸素拡散によって下部磁性層14及び上部磁性層16が酸化されにくいため、これらの磁性層の結晶構造が変化しない。その結果として、下部磁性層14及び上部磁性層16の磁気秩序を保持できるので、高い出力が得られるTMR素子10を製造することができる。
さらに、接触層17a、17bが積層方向に平行な非磁性層15の端面に接しているために、TMR素子10の製造過程において非磁性層15を一様に酸化させやすくなり、さらに大きな磁気抵抗効果が得られる。
なお、第1参考形態のTMR素子10では、実質上の酸化還元電位の大小関係として(下部磁性層14及び上部磁性層16)>(接触層17a、17b)が成り立っているとしているが、この関係は必ずしも成り立っている必要はない。ただし、この関係が成り立っていることで、TMR素子10の製造過程において接触層17a、17bを起源とした酸素が下部磁性層14及び上部磁性層16に取り込まれて下部磁性層14及び上部磁性層16が酸化されるのをより効果的に防止することができる。
(参考例2)
次に、参考例2について説明する。以下の製造方法に従って第2参考形態のTMR素子20を作製した。図6(a)〜図6(e)は、本発明の参考例2に係るTMR素子の製造工程を途中から順に描いた断面図である。
TMR効果素子20の製造工程は、途中まで第1参考形態の製造工程における図5(a)〜図5(g)の工程と同様であるため、これらの説明は省略する。
第1参考形態の製造工程における図5(a)〜図5(g)の工程の後、さらに下部電極層22の上面までイオンミリングする(図6(a)参照)。
そして、レジストマスク30及び下部電極層22の上に、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力200W(RF電源)の条件で、絶縁層29a、29b、29cとしてSiO2を20nm成膜する(図6(b)参照)。
続いて、絶縁層29a、29b、29cの上に、Ar流量100sccm、スパッタ圧1.3Pa、電力200W(RF電源)の条件で、酸素含有層である接触層27a、27b、27cとしてZnOを、7nm成膜する(図6(c)参照)。
ここで、下部磁性層24(CoFe)、上部磁性層26(CoFe)、酸化されていない非磁性層31(Al)、接触層27a、27b、27c(ZnO中のZn)に関する実質上の酸化還元電位の大小関係を整理しておくと、参考例1と同様に、(下部磁性層24、上部磁性層26)>(接触層27a、27b、27c)>(非磁性層31)となっている。
次に、レジストマスク30上の余分な接触層27c及び絶縁層29cと共にレジストマスク30を除去する(図6(d)参照)。
続いて、上部磁性層26及び接触層27a、27bの上に、上部電極層28としてCuを、Ar流量100sccm、スパッタ圧0.7Pa、電力150W(DC電源)の条件でスパッタにより50nm成膜する。
次に、500Oeの磁場中、250度の温度で3時間、真空度10-3Paで磁場中アニールする。このとき、反強磁性層である磁化固定層23と下部磁性層24に交換結合が生じると同時に接触層27a、27bから非磁性層31中に酸素が拡散し(接触層27a、27bの含有する酸素が減少する)、Alからなる非磁性層31が酸化されて金属酸化物(AlO)層である酸化された非磁性層25となる(図6(e)参照)。通常、磁化固定層23と下部磁性層24との間に交換結合を生じさせるための磁場中アニールと、非磁性層31の酸化とは別の工程で行われるが、本参考例のように酸素含有層である接触層27a、27bを設けることにより交換結合を生じさせる工程と非磁性層31の酸化の工程とを同時に行うことができる。なお、熱処理温度としては、温度が低すぎると酸素拡散が起こらないので100℃以上が望ましく、温度が高すぎると磁化固定層23と下部磁性層24との交換結合が失われるので300℃以下が望ましい。
上記のようにして作製したTMR素子を参考例2の試料とした。
本参考例の方法によると、参考例1の方法と同様の効果を奏する。
また、感知電流について考えると、絶縁層29a、29bは隣接する下部磁性層24または上部磁性層26よりも高抵抗なので、下部磁性層24から絶縁層29a、29bを通過して接触層27a、27bへ流れる感知電流は減少し、下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26を通過する磁気抵抗効果を示す感知電流を増加させることが可能となる。下部磁性層24から接触層27a、27bを通過する感知電流はほとんど磁気抵抗効果を示さず、下部磁性層24、非磁性層25、上部磁性層26を通過する感知電流が磁気抵抗効果を示す。このように、接触層27a、27bの積層方向に垂直な面に接する絶縁層29a、29bを形成することにより、感知電流が接触層27a、27bを通過しにくくなり、確実に非磁性層25を通過するようにすることが可能となり、磁気抵抗効果を示す感知電流量を増加することができる。したがって、本参考例によると、上記のような高い出力が得られるTMR素子20を製造することができる。
(比較例1)
下部磁性層までは参考例1の製造工程(図5(c)までの工程)と同様に作製し、その後大気中に1時間放置することにより下部磁性層表面を酸化した。その後、参考例1と同様の条件で下部磁性層上にAlを成膜し、その後大気中に10時間放置することによりAlを自然酸化した。続いて、酸化Alの上にCoFe、Cuを順に成膜し、参考例1と同様の条件で磁場中アニールを行った。このようにして作製したTMR素子を比較例1の試料とした。
(比較例2)
上部磁性層までは参考例1の製造工程(図5(e)までの工程)と同様に作製し、その上に上部電極層を参考例2と同様の条件で作製した。その後Alを250度、酸素2.7×104Pa下で100時間酸化した。続いて、参考例1と同様の条件で磁場中アニールを行った。このようにして作製したTMR素子を比較例2の試料とした。
(比較例3及び4)
金属層をプラズマ酸化で酸化することによって金属酸化層を形成した素子を以下のように作製した。Al(非磁性層)の成膜までは参考例1の製造工程(図5(d)までの工程)と同様に作製し、その後AlをAr流量100sccm、O2流量20sccm、スパッタ圧1.3Pa、電力40Wの条件で30秒プラズマ酸化した。その後参考例1と同様の条件でCoFe、Cuを順に成膜し、同様の条件で磁場中アニールを行った。このようにしてTMR素子を複数作製し、そのうちの2つを比較例3及び4の試料とした。
次に、参考例1、2及び比較例1〜4の試料についての素子特性評価を行った。この評価には、下記式(1)で表されるSimmonsの式を用いた。
J=(e/2πhs2)[(Φ-eV/2)exp[-4πs/h(2m)1/2(Φ+eV/2)1/2
-(Φ+eV/2)exp[-4πs/h(2m)1/2(Φ-eV/2)1/2]] (1)
ここで、Jは電流密度、eは電気素量、hはプランク定数、mは電子の質量、Vは印加電圧、Φは障壁高さ、sは障壁厚さである。なお、障壁高さΦ及び障壁厚さsの求め方は、以下の通りである。まず、上記式(1)の曲線と測定された各試料のJ−V曲線とをフィッティングし、上記式(1)の曲線と測定された各試料のJ−V曲線との差が最小になる障壁高さΦ及び障壁厚さsの値を選択する。これらの値が、求める障壁高さΦ及び障壁厚さsである。また、各試料について、MR比の測定も行った。これらの評価結果を表1に示す。
表1より、参考例1のTMR素子の障壁厚さは1.3nmであり、酸化Al(非磁性層15)の厚さ1.3nmと同程度であることがわかる。これは実質上の酸化還元電位が非磁性層15より大きく、下部磁性層14及び上部磁性層16より小さい接触層17a、17b(Znを酸化したもの)からの熱拡散により酸素を非磁性層15に供給した結果、下部磁性層14及び上部磁性層16には酸素が拡散せず、非磁性層15にのみ酸素を拡散させることができたためであると考えられる。また、MR比は、実用するのに十分な値を示した。しかも、参考例1のTMR素子を複数作製したが、いずれも同様な特性を示し(表1に示した参考例1の別例として、障壁高さφ1.3eV、障壁厚さ1.3nm、MR比16.3%のものが挙げられる)、下部磁性層14及び上部磁性層16を酸化させずに非磁性層15を再現性よく酸化させることができることがわかった。
参考例2のTMR素子は、参考例1のTMR素子よりもMR比が上昇していることから、絶縁層29a、29bを挿入することにより、磁気抵抗効果を示す電流を増加させた効果があったと考えられる。この実施例においても、TMR素子を複数作製したが、いずれも同様な特性を示し、下部磁性層24及び上部磁性層26を酸化せずに非磁性層25を再現性よく酸化させることができることがわかった。
比較例1のTMR素子は、MR比は0.2%とかなり低い値となった。これは、下磁性層の酸素が非磁性層(トンネル磁気効果を得るのに用いられる障壁層)に移動しきれずに下磁性層中に酸素が残存しているためであると考えられる。
比較例2のTMR素子は、磁気抵抗効果を示さなかった。これは非磁性層を完全に酸化したときに、上下の磁性層も酸化してしまったためだと考えられる。
比較例3のTMR素子は障壁高さが0.35eVと低く、比較例4のTMR素子は障壁高さが1.7eVと高くなった。また、比較例4のTMR素子のMR比は20.0%と高い値を示したものの、比較例3のTMR素子のMR比は2.5%と低い値であった。比較例3と比較例4とは、障壁厚さにおいても異なった値が観察された。同一条件で作製したにもかかわらず、このようにばらついた結果になったのは、プラズマ酸化は酸化速度が速いため、その制御が容易でないので、非磁性層下部の磁性層を酸化してしまわずに非磁性層だけを再現性よく酸化するのが困難であるためだと考えられる。
これらの結果から、本発明にかかる参考例1、2のTMR素子は、プラズマ酸化法による程高くはないがヘッドとして利用するには十分な十数%程のMR比を有し、かつ、特性のばらつきが小さいものであることがわかった。
なお、本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で設計変更できるものであり、上記実施形態や実施例に限定されるものではない。例えば、第1参考形態において、接触層17a、17bに関する実質上の酸化還元電位が、下部磁性層14及び上部磁性層16に関する実質上の酸化還元電位よりも大きくてもよい。また、接触層17a、17bが非磁性層15の端面以外に接触していてもよい。
第2参考形態において、絶縁層29a、29bが下部磁性層24と接触していなくてもよい。また、接触層27a、27bが下部磁性層24と接触していてもよい。ただし、接触層27a、27bを介した電流の流れを効果的に低減するためには、第2参考形態の構造が最も適している。
実施形態において、上部接触層47a1、47b1、下部接触層47a3、47b3と、非磁性層45との実質上の酸化還元電位の大小関係が、(非磁性層45)<(上部接触層47a1、47b1、下部接触層47a3、47b3)の関係を満たすものであってもよい。このとき、実質上の酸化還元電位の大小関係から明らかなように、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3が酸素を含有していなくても、実施形態と同様に、上部接触層47a1、47b1及び下部接触層47a3、47b3に酸素が移動しないという効果が得られる。
また、第1参考形態および第2参考形態のMR効果素子において、下部磁性層14、24の磁化を固定する磁化固定層13、23を形成せずに、その代わりとして、上部磁性層16、26の磁化を固定するための固定層として、上部磁性層16と上部電極層18との間、上部磁性層26と上部電極層28との間において、MnIr、MnPt等のMn系合金等からなる反強磁性層がそれぞれ形成されていてもよい。
さらに、接触層には非磁性層を酸化した後に酸素が残っていても無くなっていてもよい。また、非磁性層と上部磁性層とは、それぞれ断面が台形、つまり積層方向に垂直な方向に対して傾いた端面を有していてもよい。
本発明の製造方法の変形例として、以下のものが挙げられる。参考例1および2の製造工程において、接触層を形成するのにスパッタにより金属を成膜した後、その金属を公知の方法、例えば自然酸化法またはプラズマ酸化法等で酸化させてもよい。また、接触層は、酸素雰囲気中で金属または酸化物をスパッタすることにより形成されてもよい。
本発明の第1参考形態に係るTMR素子を示す断面図である。
本発明の第2参考形態に係るTMR素子を示す断面図である。
本発明の実施形態に係るTMR素子を示す断面図である。
本発明の第3参考形態に係るBMR素子を示す断面図である。
本発明の参考例1のTMR素子の製造方法を示す断面図であって、第1の製造工程を示す断面図である。
図5(a)に示す下部電極層の上に磁化固定層を形成した状態を示す断面図である。
図5(b)に示す磁化固定層の上に下部磁性層を形成した状態を示す断面図である。
図5(c)に示す下部磁性層の上に非磁性層を形成した状態を示す断面図である。
図5(d)に示す非磁性層の上に上部磁性層を形成した状態を示す断面図である。
図5(e)に示す上部磁性層の上にレジストマスクを形成した状態を示す断面図である。
図5(f)に示す上部磁性層及びレジストマスクの上からイオンミリングを行って、上部磁性層及び非磁性層の一部を除去した状態を示す断面図である。
図5(g)に示すレジストマスク及び下部磁性層の上に酸化抑制層を形成した状態を示す断面図である。
図5(h)に示すレジストマスク上の酸化抑制層及びレジストマスクを除去した状態を示す断面図である。
図5(i)に示す酸化抑制層及び上部磁性層の上に上部電極層を形成し、熱処理した状態を示す断面図である。
図5(g)に示す状態からさらにイオンミリングを行って、下部磁性層及び磁化固定層の一部を除去した状態を示す断面図である。
図6(a)に示す下部電極層及びレジストマスクの上に絶縁層を形成した状態を示す断面図である。
図6(b)に示す絶縁層の上に酸化抑制層を形成した状態を示す断面図である。
図6(c)に示す、レジストマスク上の絶縁層及び酸化抑制層と、レジストマスクとを除去した状態を示す断面図である。
図6(d)に示す酸化抑制層及び上部磁性層の上に上部電極層を形成し、熱処理した状態を示す断面図である。
符号の説明
10、20、40 TMR効果素子
11、21、41、51 基板
12、22、42、52 下部電極層
13、23、43、53 磁化固定層
14、24、44、54 下部磁性層
15、25、45、55 非磁性層
16、26、46、56 上部磁性層
17a、17b、17c、27a、27b、27c、47a、47b、57a、57b 接触層
18、28、48、58 上部電極層
19、31 酸化されていない非磁性層
20、30 レジストマスク
29a、29b、29c 絶縁層
50 BMR効果素子