JP4655127B2 - オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、かかる薄鋼板の製造工程中、特に冷間圧延後の焼鈍−酸洗工程において、鋼板表面に一定幅で光沢の異なる部分が発生し、見た目が光沢むらとなる場合があり、品質上重大な問題となっていた。
例えば、特許文献1には、特定のモールドパウダーを用い、かつ鋳造速度を制御することによって、モールド内における凝固シェルの冷却速度のばらつきを低減させる方法が提案されている。
また、同文献中には、冷間圧延−焼鈍後の再結晶粒の成長を阻害するデルタフェライトの残存量を低減するために、Ni量を増加させる方法が開示され、さらに熱間圧延温度の上昇や加熱炉時間の延長が有効である旨が記載されている。
しかしながら、上記の方法はコストの上昇を招くので望ましくない。
ステンレス鋼では、加熱炉を出た後の鋼板表面にヘゲと呼ばれる線状の欠陥が発生し易いが、かかるヘゲの発生は熱間圧延温度や加熱時間と関係があると言われており、この点では、上に述べた対策はこのような欠陥の是正には逆効果になる場合がある。
従って、光沢むらは勿論のこと、製鋼−熱間圧延間で発生するヘゲ欠陥を併せて低減することができる方法の開発が望まれていた。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.脱炭精錬炉にて脱炭精錬ついで還元精錬後、二次精錬設備にて還元脱酸処理を施し、該二次精錬の前または後に硫黄または硫黄含有物質を添加することにより、溶鋼中の硫黄含有量〔S〕と溶存酸素量〔O〕f の比を下記式の範囲に調整したオーステナイト系ステンレス溶鋼を、連続鋳造によって鋳片とすることを特徴とする、オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法。
記
1.5 ≦〔S〕/〔O〕f ≦ 4.0
〔S〕:単位mass%
〔O〕f :単位mass%
記
1.5 ≦〔S〕/〔O〕f ≦ 4.0
〔S〕:単位mass%
〔O〕f :単位mass%
さて、発明者らは、まず、光沢むらが発生する原因について調査した。その結果、光沢むらは、スケール残りが原因で生じる場合もあるが、大半は鋼板の結晶粒径が不均一となることが、その発生原因であることを突き止めた。
その結果、連続鋳造時における鋳片の局所的な冷却速度の不均一により鋳片表面における酸化物の個数や粒径が異なること、さらにはメタル相に固溶する酸素や硫黄の濃度に差異が生じるため、次の熱間圧延時に現れる表面近傍での酸化物−硫化物系複合介在物の成長が異なることが、結晶粒径が不均一となる原因であることが解明された。
その際、連続鋳造鋳片における冷却速度が大きい部位では固溶S量が多いだけでなく、表面にある酸化物の数、換言すれば熱間圧延前のスラブの再加熱時に生じる析出物の核生成サイトの数が多いので、加熱保持後の複合介在物(酸化物+CuS, MnS)の粒径は小さく、その数も多い。
その結果、これらの介在物がその後の熱延・焼鈍後のステンレス鋼の結晶粒のピニングサイトとして有効に働き、結果としてステンレス鋼の結晶粒径が小さくなる。
従って、結晶粒径は比較的大きくなる。
このように、連続鋳造鋳片の冷却過程における冷却速度の差に起因して、結晶粒径の不均一、ひいては光沢むらが発生するわけである。
すなわち、鋼中のSを高めることにより再加熱時の硫化物 (CuS, MnS) を析出し易くし、ステンレス鋼の結晶粒径を全体に小さくすることを試みた。この試みにより、全体の結晶粒径が細かくなり、連続鋳造における冷却速度に局所的な違いがあってもそれによるステンレス鋼の結晶粒径の違いが目立たなくなるものと予想した。
同図に示したとおり、〔S〕と〔O〕f の比〔S〕/〔O〕f を 1.5以上に制御すると、光沢むらを効果的に抑制できることが判明した。
また、この条件下では、図3に示すように、連続鋳造鋳片の部位の違いによる冷却速度の大、小に関係なしに、微細な複合介在物が形成され、その結果、結晶粒径が全体に8〜10μm と細かくなることが確認された。
この原因は、Sが必要以上に含有されると粒界にSが偏析し易くなるためと考えられる。
従って、〔S〕と〔O〕f の比は 1.5以上、4.0 以下の範囲に制御することが重要である。
表1は、通常の2次精錬で規定される精錬スラグ組成( CaO:52.6%、SiO2:31.6%、 Al2O3:5.3 %、 MgO:10.5%)における、1504℃での溶鋼中Si濃度と〔O〕f との関係を示したものであるが、〔%Si〕が0.10%未満になると〔O〕f が急激に増加することが判る。
従って、この場合には、下式(1) に示す計算式で求めた値を使えば良い。
なお、本発明において調査した〔O〕f と〔Si〕の関係は、連続鋳造のタンディッシュにおいて測定した温度から計算した値である。
従って、〔Si〕≧0.10%、〔O〕f ≦50 ppmとすることが望ましい。
図4に、ヘゲの発生率と酸化物含有量との関係について調べた結果を示すが、同図から明らかなように、ヘゲの発生を抑制するには、酸化物含有量を酸素濃度換算で〔O〕≦60 ppmとなるまで低減する必要がある。
ここで、酸化物含有量の酸素換算値は、全酸素化学分析値から上で述べた固溶酸素濃度を除いた値であり、酸化物として溶鉄中に存在する酸素を示す。このような酸化物として存在する酸素濃度値を低下するためには、二次精錬において溶鋼中に脱酸元素を投入するだけでなく、同時にスラグの還元処理を行うことが重要である。
なお、酸化物として存在する酸素すなわち〔O〕oxide と〔O〕f との関係は次のとおりである。
〔O〕oxide =〔O〕total −〔O〕f
ここに、〔O〕f はタンディッシュにおいて測定した温度における固溶酸素量である。また、〔O〕total は分析によって得られる鋼中の全酸素である。
さて、一般に、ステンレス鋼を溶製する際には、転炉あるいはAOD炉において酸化精錬を行う。その後、合金鉄の添加等の成分調整を行ったのち、鋳造される。
本発明の特長は、転炉における酸化精錬(脱炭精錬)、および引き続き行われる還元精錬に加えて、二次精錬処理を行う点にある。
さらに、この際、肝要な点の第一は、二次精錬において還元処理を行い、該溶鋼中の酸化物を酸素濃度換算で好ましくは 60ppm以下になるまでスラグとメタルの還元処理を行う点にある。これにより、加熱炉を出た後にヘゲ欠陥の発生を低減することができる。
というのは、ΔTが20℃未満では、低温による鋳込み時のパウダーやスラグ等の巻き込みによる欠陥が増加し、一方ΔTが70℃を超えると、鋳造速度が制約されるだけでなく、ブレークアウトの発生率が増加するからである。
従って、鋳造時のタンディッシュにおける温度がΔT=20〜70℃となるように二次精錬終了時の温度を制御する。
具体的には、例えば二次精錬終了から連続鋳造までの経過予定時間と、この間の溶鋼の温度降下速度(過去の実績値に基づいて推定)から、溶鋼温度の降下量を推定し、この量と上記ΔTを凝固温度に加えたものを二次精錬の終了目標温度とする。
なお、二次精錬終了後と鋳造時とでは、溶鋼中の〔S〕が変化する可能性はあるが、以下に述べるような通常の二次精錬操業ではほとんど変化しない。
このように、〔O〕f は、VODのスラグを分析し、(1) 式からaSiO2を計算することによって求めることができる。なお、操業条件が決まっていれば、スラグの計算塩基度から簡易にaSiO2を推定することも可能である。
転炉におけるスラグの塩基度( CaO/SiO2)をどの程度に設定するかによって、還元処理中の溶鋼中S濃度は変化するが、いずれにせよこの還元処理で低下する。通常、転炉の耐火物の溶損を小さくするため、塩基度は 2.0以上とする。従って、Sは転炉出鋼後に通常 0.005%以下程度まで低下する。
この還元時にスラグの塩基度をどの程度に設定するかは、耐火物が塩基性であることと、スラグへの酸化物の吸収能を高める観点から、高めに設定した方が望ましいが、一方でスラグ中のアルミナからのアルミの還元が生じるので、通常は1.3 〜2.2 程度に設定する。この際、上記の還元処理を十分行うと、溶鋼中のSは 0.003%程度まで低下する。
ここに、処理後にSを調整する方がSについては正確に制御できるが、処理後にSを投入すると添加方法によってはCaS等の欠陥原因が生じるため、処理前に二次精錬の脱S分を見込んで調整する方法を採ることもあり得る。肝要な点は、鋳造時点で固溶S濃度と固溶Oの比を所定の範囲に納めることである。
還元処理が終了した時点で直ちに出鋼し、取鍋でNi量等を事前に投入した後、VODにて脱炭処理を行った。上吹きランスからO2ガスを25〜35 Nm3/min供給し〔%C〕=0.04〜0.06%となるまで脱炭した。脱炭終了時の判断は、主として排ガス中のCO, CO2 発生量を見て行い、サンプルを採取した。上吹きO2ガスの吹き付けを終了した後、Fe−Siを投入して還元を開始した。脱酸・還元処理は主として全酸素濃度〔O〕total が充分に低下するまで行ったが、底吹きガス量が 600 Nl/min 程度であれば15〜25分程度の撹拌時間を要する。〔O〕total は40〜70ppm であった。また、脱酸、還元処理後の温度は1500〜1590℃であった。
というのは(CaO/SiO2)<1.3 では、耐火物の溶損が大きくなると共に、SiO2の活量が高くなるので平衡する〔O〕f が高くなり、結果的にはスラグの酸化度が高くなり、一方、(CaO/SiO2)>2.2 ではSiO2の活量が低くなるため、次式
3Si+2(Al2O3) =4Al+3(SiO2)
の反応が進行して、Alが微量鋼中に存在し、その後の再酸化によりノズル詰まりを生じ、製鋼過程でのトラブルとなるからである。
この時、〔S〕の挙動については、転炉出鋼時に〔S〕=0.003 〜0.006 %であり、VOD脱O処理時に〔S〕=0.003 〜0.005 %であった。
そこで、VODによる脱O処理終了後にFeSワイヤを用いてS量を増加した。FeS添加後の〔S〕=0.006 〜0.012 %、平均 0.009%であり、〔O〕total =50〜80 ppm、〔O〕f =30〜50 ppmであり、〔S〕/〔O〕f を 2.0から 3.8の範囲に納めた。
その他の成分については〔%C〕=0.04〜0.06%、〔%Si〕=0.25〜0.35%、〔Mn〕=1.0 〜1.1 %、〔P〕=0.028 〜0.035 %、〔Cr〕=18.10 〜18.20 %、〔Ni〕=8.1 〜8.3 %、〔N〕=350 〜500 ppm であった。
この際のタンディッシュにおける成分は、〔%Si〕=0.24〜0.35%、〔S〕=0.006 〜0.012 %、〔O〕total =40〜70 ppm、〔O〕f =20〜40 ppmであり、〔S〕/〔O〕f =1.5 〜4.0 の範囲に納めるべく、鋳造温度に従って〔S〕を制御した。
その他の成分はVODにおける成分と変わりなかった。
熱間圧延後、焼なまし(1050〜1150℃, 30〜60秒)、酸洗−焼鈍し、さらに冷間圧延を施した後、焼鈍(1100℃)−酸洗処理を行った。
なお、鋳片の分析結果では、〔O〕total =30〜60 ppmとなった以外、他の成分はタンディッシュにおける分析結果と同じであった。
また、比較のため、二次精錬処理時にFeS添加を行わない連鋳片を用い、同様にして、ステンレス鋼板を製造した。
2 VOD
Claims (4)
- 脱炭精錬炉にて脱炭精錬ついで還元精錬後、二次精錬設備にて還元脱酸処理を施し、該二次精錬の前または後に硫黄または硫黄含有物質を添加することにより、溶鋼中の硫黄含有量〔S〕と溶存酸素量〔O〕f の比を下記式の範囲に調整したオーステナイト系ステンレス溶鋼を、連続鋳造によって鋳片とすることを特徴とする、オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法。
記
1.5 ≦〔S〕/〔O〕f ≦ 4.0
〔S〕:単位mass%
〔O〕f :単位mass% - 脱炭精錬炉にて脱炭精錬ついで還元精錬後、二次精錬設備にて還元脱酸処理を施し、該二次精錬の前または後に硫黄または硫黄含有物質を添加することにより、溶鋼中の硫黄含有量〔S〕と予め設定した鋳造温度における脱酸平衡から推定される鋳造時の溶存酸素量〔O〕f の比が下記式の範囲になるように成分を調整したオーステナイト系ステンレス溶鋼を、連続鋳造によって鋳片とすることを特徴とする、オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法。
記
1.5 ≦〔S〕/〔O〕f ≦ 4.0
〔S〕:単位mass%
〔O〕f :単位mass% - 請求項1または2において、溶鋼中の硫黄含有量〔S〕を 0.005mass%以上、0.015 mass%以下とすることを特徴とする、オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法。
- 請求項1,2または3において、溶鋼中の酸化物の量を、酸素濃度換算で60 ppm以下とすることを特徴とする、オーステナイト系ステンレス鋼鋳片の製造方法。
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