JP4652526B2 - 絶縁電線 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気・電子機器の内部配線に使用される絶縁電線に関するものであり、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない絶縁電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器の内部配線に使用される絶縁電線には、難燃性、引張特性、耐熱性など種々の特性が要求されており、その被覆材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンド、および、これらの架橋体が主として使用されていた。
近年、このような被覆材料を用いた絶縁電線を適切な処理をせずに廃棄した場合におこる種々の問題が議論されている。
例えば、埋立廃棄した場合には、被覆材料に配合されている可塑剤や重金属安定剤が溶出するという問題がおこり、焼却廃棄した場合には、多量の腐食性ガスが発生するという問題がおこる。
このため、有害な重金属や腐食性のハロゲン系ガスなどの発生がないノンハロゲン難燃材料を被覆した電線の検討がおこなわれている。
ノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない樹脂、難燃剤から構成されており、このような被覆材料としては、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体などのエチレン系共重合体の樹脂に、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水和物の難燃剤を多量に配合した材料や、それらに難燃助剤として赤リン、シリコーンなどを配合した材料が使用されている。
【0003】
電気・電子機器の内部配線に使用される絶縁電線に要求される難燃性、引張特性、耐熱性などの規格については、ULやJISなどで規定されており、特に、難燃性に関しては、ほとんどの絶縁電線について、ULの Vertical Flame Test (VW−1) や、JISの 傾斜試験(60゜傾斜)が要求されている。
【0004】
これまで、ノンハロゲン難燃材料でVW−1を合格させようとした場合、ベース樹脂となるエチレン系共重合体100質量部に対して難燃剤となる金属水和物を200質量部以上配合しても合格しなかったり、合格しても引張特性が著しく低下するという問題があった。
この問題を解決する方法としては、金属水和物の配合量を減少させ、(例えば、エチレン系共重合体100質量部に対して金属水和物120質量部程度)、赤リンを配合する方法がある。
しかしながら、現行の電子・電気機器の配線は、その種類や接続部を区別することを目的として、絶縁電線の表面に印刷をおこなったものや、数種類の色に着色されたものが使用されているため、難燃性と引張特性を両立させるため、赤リンを配合した材料は、赤リンの発色のため、印刷や着色が不可能となる問題がある。
【0005】
また、赤リンを配合しない方法として、特公平3−48947号などにはシリコーンを使用した組成物の例が、特公平6−68928号などにはエチレン・アクリルエラストマを使用した組成物の例が開示されているが、前者は成形加工性、引張特性に、後者は成形加工性、電気特性に問題がある。
特公平3−48947号は、熱可塑性プラスチック(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン三元共重合体、ポリフェニレンオキシド−ポリスチレン混合物、アクリル系重合体)、第IIA族金属塩、シリコーン樹脂から構成される難燃性組成物が例示されており、シリコーンの好ましい例として、ポリジメチルシロキサンがあげられている。
【0006】
このジメチルポリシロキサンは、ポリオレフィンとの相溶性が低く、ポリオレフィンの表面にブリードする性質があることから、絶縁電線を製造する場合に、押出吐出量が変動し、安定した外径の絶縁電線の製造が困難になったり、出来上がった絶縁電線の表面がべたつくという問題が発生する。
また、組成物中における分散状態が変化するため、引張特性に経時変化がみられる場合がある。
【0007】
特公平6−68928号は、エチレン・アクリルエラストマ、無機難燃剤(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)から構成される難燃性組成物が例示されている。
エチレン・アクリルエラストマに無機難燃剤(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)を配合した組成物は、押出負荷が高く、ポリ塩化ビニルコンパウンドやポリオレフィンコンパウンドを被覆する押出成形機での絶縁電線の製造が難しいという問題がある。
また、エチレン・アクリルエラストマに無機難燃剤(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)を配合した組成物は、絶縁抵抗が低いという問題がある。
アクリル酸エステルの含有量が高いエチレン・アクリルエラストマは、それ自身絶縁抵抗が低く、無機難燃剤が多量に配合されている組成物は、吸湿、吸水後において、さらに絶縁抵抗が低下する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これらの問題を解決し、電子・電気機器の内部配線に使用され、優れた難燃性、引張特性、耐熱性および電気特性を有し、かつ、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない絶縁電線を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、
(1)エチレン・アクリル酸エステル共重合体(a)および/またはエチレン・酢酸ビニル共重合体(b)20〜80質量%、アクリルゴム(c)10〜40質量%、およびアクリル酸変性ポリオレフィン(d)10〜40質量%を含有し、さらには必要に応じ、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体で変性されたポリエチレン(e)20質量%以下および/またはスチレンブロック共重合体(f)20質量%以下を含有する樹脂混合物100質量部に対して、シランカップリング剤で表面処理された金属水和物(g)150〜250質量部含有する組成物の架橋体で導体が被覆されていることを特徴とする絶縁電線、
(2)前記エチレン・アクリル酸エステル共重合体(a)が、その構成成分として、アクリル酸メチルを含有することを特徴とする(1)項記載の絶縁電線、
及び
(3)前記シランカップリング剤で表面処理された金属水和物(g)における金属水和物が、水酸化マグネシウムであることを特徴とする(1)または(2)項記載の絶縁電線
を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明において導体を被覆し、絶縁体を形成するのに用いられる組成物に含まれる各成分について説明する。
【0011】
エチレン・アクリル酸エステル共重合体(a)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(b)
本発明に用いられる(a)成分、(b)成分としては、例えば、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・アクリル酸ブチル共重合体(EBA)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)などがあげられる。
これらの中でも、アクリルゴムとの相溶性の点から、エチレン・アクリル酸メチル共重合体や酢酸ビニル成分含有量が高いエチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。
このようなものとしては、エチレン・アクリル酸メチル共重合体として「レクスパール」(商品名、日本ポリオレフィン社製)、「BORFLEX」(商品名、BOREALIS社製)、エチレン・酢酸ビニル共重合体として「エバフレックス」(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)などが市販されている。
【0012】
本発明においては、エチレン・アクリル酸エステル共重合体としてアクリル酸エステル成分の含有量が20質量%以上のものが好ましく、エチレン・酢酸ビニル共重合体として酢酸ビニル成分の含有量が20質量%以上のものが好ましい。
アクリル酸エステル成分もしくは酢酸ビニル成分の含有量が少なすぎると、無機難燃剤である金属水和物の多量配合ができず、UL、JISで規定する難燃試験に合格することが難しくなる場合がある。
また、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体は、アクリル酸エステル成分、酢酸ビニル成分の含有量が少なくとも一方について20質量%以上のものを、2種以上を組み合わせて使用することも好ましい。
【0013】
アクリルゴム(c)
アクリルゴムは単量体成分としてはアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと各種官能基を有する単量体を少量共重合させて得られるゴム弾性体であり、共重合させる単量体としては、2−クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等を適宜使用することができる。具体的には、Nipol AR(商品名、日本ゼオン社製)、JSR AR(商品名、JSR社製)等を使用することができる。
特に単量体成分としてはアクリル酸メチルを使用するのが好ましく、その場合には、エチレンとの2元共重合体や、これにさらにカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素をモノマーとして共重合させた3元共重合体を特に好適に使用することができる。具体的には、2元共重合体の場合にはベイマックDやベイマックDLSを、3元共重合体の場合にはベイマックG、ベイマックHG、ベイマックLS、ベイマックGLS(商品名、いずれも三井・デュポンポリケミカル社製)を使用することができる。
【0014】
これらのアクリルゴムを配合することにより、皮むきの際にひげ状に被覆材を伸ばすこと(絶縁残渣の発生)なく皮むき性が良好になる。またアクリルゴムの配合により著しく難燃性が向上する。エチレン系共重合体にアクリルゴムを併用することにより、難燃性を保ちつつ、比較的高い絶縁特性を有することが可能になる。
【0015】
またアクリルゴムとして、エチレン、カルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素およびアクリル酸アルキルとの3元系共重合体アクリルゴムを使用することにより難燃性が向上するため、加えた方が好ましい。配合量としては3元系アクリルゴムをベース樹脂中3質量%以上加えた方が好ましく、さらに好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上加えた方が好ましい。またこの3元系アクリルゴムは押し出し負荷を上げる傾向があるので、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下に抑えた方がよい。
さらにエチレンとアクリル酸アルキルとの2元系アクリルゴムと併用することにより、燃焼時に内部に発泡層が生じ、表面に3元系アクリルゴムによると思われる炭化層が形成されるため、難燃性はさらに向上する。エチレンとアクリル酸アルキルとの2元系アクリルゴムの配合量はベース樹脂中、0〜57質量%とされる。2元系アクリルゴムと3元系アクリルゴムを併用した際の難燃効果は、特にチューブ状の成形体の場合や、絶縁電線において肉厚が0.5mm以上の絶縁・シース層に使用した場合に大きな効果を有するため、好ましくはベース樹脂中、2〜50質量%、さらに好ましくは3〜45質量%、さらに好ましくは5〜40質量%とされる。
さらにエチレンとアクリル酸アルキルとカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素との3元系共重合体アクリルゴムを使用することにより強度が強固となり、力学的強度が向上するとともに、さらに架橋構造が密になることから、水に浸漬した際や高温多湿下に放置された際の絶縁抵抗の低下を抑えることが可能となる。
【0016】
本発明に用いられる(c)成分のアクリルゴムは、エチレン、アクリル酸メチル、カルボキシル化合物からなる三元系ポリマー、または、エチレン、アクリル酸メチルからなる二元系ポリマーが好ましく、このようなものとしては、前記の「ベイマック」(商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)が市販されている。
「ベイマック」の中でも、難燃性の点から、アクリル酸メチル成分の含有量が高いグレードが好ましい。
本発明においては、これら、三元系ポリマー、二元系ポリマーを単独もしくは組み合わせて使用することが可能である。
アクリルゴムは、これをエチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸変性ポリオレフィン、金属水和物からなる組成物に添加することにより、難燃性を向上させることが可能となる。
さらに、組成物を被覆した絶縁電線の端末加工性、詳しくは、被覆を除去し、導体を露出させる工程において、絶縁残渣の発生を低減することが可能になる。
【0017】
アクリル酸変性ポリオレフィン(d)
本発明に用いられる(d)成分のアクリル酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンにアクリル酸をグラフトしたものである。
ポリオレフィンとしては、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、線型低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、プロピレンホモポリマ(H−PP)、エチレン・プロピレンブロック共重合体(B−PP)、エチレン・プロピレンランダム共重合体(R−PP)などが用いられる。
ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンとアクリル酸を有機パーオキサイドの存在下に溶融、混練することにより行うことができる。また、アクリル酸変性ポリオレフィンとして、「POLYBOND」(商品名、UNIROYAL CHEMICALS社製)が市販されており、本発明に用いることができる。
アクリル酸変性ポリオレフィンは、これをエチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム、金属水和物からなる組成物に添加することにより、絶縁抵抗を向上させる効果がある。
【0018】
なお、上記成分(a)、(b)、(d)はそれぞれMFR(メルトフローレート)が0.1〜10g/10分のものを用いることが好ましい。なお、本発明におけるMFRの値は、JIS K7210に従い、一般に用いられている各材料に適した条件で行ったものである。
【0019】
不飽和カルボン酸もしくはその誘導体で変性されたポリエチレン(e)
不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリエチレン樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。本発明において成分(e)とは、これらの樹脂を不飽和カルボン酸やその誘導体(以下、これらを合わせて不飽和カルボン酸等という)で変性した樹脂のことである。変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。ポリエチレンの変性は、例えば、ポリエチレンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量は通常0.1〜7質量%程度である。
この不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリエチレン樹脂を加えることにより、得られる樹脂組成物の引張特性をさらに改善する効果がある。このポリエチレン樹脂を不飽和カルボン酸等で変性したものは、金属水和物による機械特性の低下を緩和する効果や電線の白化を防ぐ効果もある。
なお、アクリル酸変性ポリエチレンは上記(e)成分には含まれない。
【0020】
スチレンブロック共重合体(f)
本発明における成分(f)は、ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体又はこれを水素添加して得られるもの、あるいはこれらの混合物であり、例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−Aなどの構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物共重合体、あるいはこれらの水素添加されたもの等を挙げることができる。上記(水添)ブロック共重合体(以下、(水添)ブロック共重合体とは、ブロック共重合体及び/又は水添ブロック共重合体を意味する)は、ビニル芳香族化合物を好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは20〜50質量%含む。
ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックAは好ましくは、ビニル芳香族化合物のみから成るか、または50質量%より多い、好ましくは70質量%以上のビニル芳香族化合物と(水素添加された)共役ジエン化合物(以下、(水素添加された)共役ジエン化合物とは、共役ジエン化合物及び/又は水素添加された共役ジエン化合物を意味する)との共重合体ブロックである。(水素添加された)共役ジエン化合物をの構成成分の主体とする重合体ブロックBは好ましくは、(水素添加された)共役ジエン化合物のみから成るか、または50質量%より多い、好ましくは70質量%以上の(水素添加された)共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックである。これらのビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックA、(水素添加された)共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBのそれぞれにおいて、分子鎖中のビニル芳香族化合物または(水素添加された)共役ジエン化合物由来の繰り返し単位の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加または減少するもの)、一部ブロック状またはこれらの任意の組合わせでなっていてもよい。ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックAあるいは(水素添加された)共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBが2個以上ある場合には、それぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0021】
(水添)ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどのうちから1種または2種以上が選択でき、中でもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどのうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合わせが好ましい。
共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBにおけるミクロ構造は任意に選ぶことができる。例えばポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が20〜50%、特に25〜45%であるものが好ましく、ブタジエンに基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。ポリイソプレンブロックにおいては、該イソプレン化合物の70〜100質量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつ、該イソプレン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
【0022】
上記構造を有する本発明に用いる(水添)ブロック共重合体の重量平均分子量は好ましくは5,000〜1,500,000、より好ましくは10,000〜550,000、さらに好ましくは100,000〜550,000、特に好ましくは100,000〜400,000の範囲である。分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn))は好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2以下である。(水添)ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状、あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0023】
これらの(水添)ブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒またはチーグラー型触媒を用い、不活性溶媒中にてブロック重合させて得ることができる。また、例えば、上記方法により得られたブロック共重合体に、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下にて水素添加することにより水添ブロック共重合体が得られる。
上記(水添)ブロック共重合体の具体例としては、SBS(スチレン・ブタジエンブロックコポリマー)、SIS(スチレン・イソプレンブロックコポリマー)、SEBS(水素化SBS)、SEPS(水素化SIS)等を挙げることができる。本発明において、特に好ましい(水添)ブロック共重合体は、スチレンをその構成成分の主体とする重合体ブロックAと、イソプレンをその構成成分の主体としかつイソプレンの70〜100質量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつ、該イソプレンに基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたところの重合体ブロックBとからなる重量平均分子量が50,000〜550,000の水添ブロック共重合体である。さらに好ましくは、イソプレンの90〜100重量%が1,4−ミクロ構造を有する上記水添ブロック共重合体である。
スチレンブロック共重合体を加えることにより、得られる樹脂組成物の電気特性や引張特性などをさらに改善することができる。
【0024】
シランカップリング剤で表面処理された金属水和物(g)
本発明においてはシランカップリング剤で表面処理した金属水和物を用いることで、金属水和物を多量に配合するにもかかわらず、良好な引張特性を有する絶縁電線を得ることが可能になる。
金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、オルト珪酸アルミニウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する金属化合物があげられ、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの金属水和物のうち、その脱水・質量減少温度が、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、アクリルゴムとほぼ一致している水酸化マグネシウムが、組成物の難燃性を向上させる点から好ましい。
【0025】
また、上記金属水和物の表面処理に用いられるシランカップリング剤は、通常使用されるものを特に制限なく用いることができるが、アミノ基、メタクリル基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基などの有機官能基を有するシランカップリング剤が好ましく、引張特性を向上させる点から、ビニル基を有するシランカップリング剤がさらに好ましい。
このようなものとしては、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどがあげられる。
【0026】
本発明において、シランカップリング剤で表面処理された金属水和物としては、あらかじめシランカップリング剤で表面処理された金属水和物を組成物に配合してもよいし、未処理の金属水和物とともにシランカップリング剤を配合し、その場で表面処理を行ってもよい。
このときのシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.1〜2.0質量%が好ましい。
あらかじめシランカップリング剤で表面処理された金属水和物としては、例えば、キスマ5LH、キスマ5PH(いずれも商品名、協和化学製)を用いることができる。
【0027】
次に、本発明において導体を被覆し、絶縁体を形成するのに用いられる組成物に含まれる各成分の割合について説明する。
【0028】
○エチレン・アクリル酸エステル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体
エチレン・アクリル酸エステル共重合体(a)および/またはエチレン・酢酸ビニル共重合体(b)の割合は、樹脂混合物100質量部中において、20〜80質量%であり、好ましくは30〜60質量%である。
【0029】
○アクリルゴム
アクリルゴム(c)の割合は、樹脂混合物100質量部中において、10〜40質量%であり、好ましくは20〜30質量%である。
アクリルゴムの割合が40質量%を越える場合は、組成物の流動性が低下するため、押出成形加工が困難になるという問題が発生する。
一方、アクリルゴムの割合が10質量%より少ない場合は、組成物を被覆した絶縁電線の端末加工性が低下するため、好ましくない。
【0030】
○アクリル酸変性ポリオレフィン
アクリル酸変性ポリオレフィン(d)の割合は、樹脂混合物100質量部中において、10〜40質量%であり、好ましくは20〜30質量%である。
アクリル酸変性ポリオレフィンの割合が40質量%を越える場合は、組成物を被覆した絶縁電線の難燃性や引張特性が低下するため、好ましくない。
一方、アクリル酸変性ポリオレフィンの割合が10質量%より少ない場合は、組成物の絶縁抵抗を向上させる効果が小さい。
【0031】
○不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリエチレン
不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリエチレン(e)の割合は、樹脂混合物100質量部中において、0〜20質量%であり、好ましくは0〜15質量%である。
20質量%を越える配合では、樹脂組成物の引張強度を向上させる反面、引張伸びを低下させる場合がある。
○スチレンブロック共重合体
スチレンブロック共重合体(f)の割合は、樹脂混合物100質量部中において、0〜20質量%であり、好ましくは0〜15質量%である。
20質量%を越える配合では、樹脂組成物の難燃性を低下させる場合があるため好ましくない。
【0032】
○シランカップリング剤で表面処理された金属水和物
シランカップリング剤で表面処理された金属水和物(g)の割合は、樹脂混合物100質量部に対して、150〜250質量部であり、好ましくは、160〜240質量部、より好ましくは180〜220質量部である。
金属水和物の割合が、150質量部より少ないと、十分な難燃性が得られず、ULやJISで規定されているVW−1や60゜傾斜などの難燃試験に合格することが難しい。
一方、金属水和物の割合が250質量部をこえると、引張特性が低下するため、好ましくない。
【0033】
本発明で用いる組成物には、絶縁電線、ケーブルなどにおいて、一般的に使用されている各種の樹脂やゴム(例えば、エチレンプロピレンゴム)、さらに、添加剤(酸化防止剤、金属不活性剤、紫外線吸収剤、分散剤、架橋助剤、架橋剤、顔料など)を本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ適宜配合することができる。
【0034】
本発明の絶縁電線は、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常用いられる混練装置で溶融混練した上記(a)〜(g)の成分を含む組成物を、通常の電線製造用押出成形機を用いて導体周囲に押出被覆し、その後、その被覆層を架橋することにより製造することができる。
架橋の方法は特に制限はなく、化学架橋法でも電子線架橋法でもおこなうことができるが、生産性の点から、電子線照射による架橋法が好ましい。
本発明の絶縁電線の製造において電子線照射で架橋する場合、電子線の線量は5〜25Mradが好ましく、組成物にメタクリレート系化合物(例えば、トリメチロールプロパントリアクリレートなど)、アリル系化合物(例えば、トリアリルシアヌレートなど)、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合することも可能である。
本発明の絶縁電線の導体径や導体の材質などは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。
絶縁体(被覆層)の厚さも特に制限はなく、通常のものと同様でよい。
また、上記した被覆用組成物で形成した絶縁体と導体の間に中間層を設けるなど、被覆層が多層構造のものであってもよい。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中、組成を示す部は特に断らない限り質量部を示す。
実施例1〜3 比較例1〜3
まず、表1に示す割合で各成分を室温にてドライブレンドし、バンバリーミキサーを用いて溶融混練して、絶縁体形成用の各組成物を得た。
次に、汎用の電線製造用押出成形機を使用して、得られた組成物を導体径0.48mmφの錫メッキ軟銅線(構成7本/0.16mmφ)上に、厚み0.42mmで押出被覆して、未架橋の絶縁電線を製造し、さらに、この絶縁電線に10Mradの電子線照射を行った。
【0036】
なお、表1に示す各成分として、以下のものを使用した。
(01)エチレン・アクリル酸メチル共重合体
BORFLEX OE5625 (商品名、BOREALIS社製)
アクリル酸メチル成分含有量 25質量%
MFR 0.4g/10分
(02)エチレン・酢酸ビニル共重合体
エバフレックス 40LX (商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)
酢酸ビニル成分含有量 41質量%
MFR 2.0g/10分
(03)アクリルゴム
ベイマック DLS (商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)
2元系ポリマー
【0037】
(04)アクリルゴム
ベイマック GLS (商品名、三井・デュポンポリケミカル社製)
3元系ポリマー
(05)アクリル酸変性ポリエチレン
POLYBOND 1009 (商品名、UNIROYAL CHEMICALS社製)
MFR 6.0g/10分
(06)メタロセンポリエチレン
ユメリット 0540F (商品名、宇部興産社製)
MFR 4.0g/10分
【0038】
(07)無水マレイン酸変性ポリエチレン
アドテックス L6101M (商品名、日本ポリオレフィン社製)
MFR 1.0g/10分
(08)スチレンブロック共重合体
セプトン 2007 (商品名、クラレ社製)
スチレン・エチレンプロピレン・スチレン共重合体
MFR 2.4g/10分 (試験温度230℃、試験荷重21.18N(2.16kgf))
(09)エチレン・アクリル酸共重合体
ノバテック A201M (商品名、日本ポリケム社製)
MFR 7.0g/10分
【0039】
(10)ビニルシラン処理水酸化マグネシウム
キスマ 5PH (商品名、協和化学社製)
(11)酸化防止剤
イルガノックス 1010 (商品名、チバガイギー社製)
ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
(12)酸化防止剤
ノクラック MB (商品名、大内新興化学社製)
2−メルカプトベンツイミダゾール
(13)ステアリン酸亜鉛
(14)架橋助剤
NKエステルAPG200 (商品名、新中村化学社製)
トリプロピレングリコールジアクリレート
【0040】
得られた絶縁電線について、以下の試験を行い、結果を表1に示した。
【0041】
1)引張強度、引張伸び
得られた絶縁電線の絶縁体の引張強度(MPa)、引張伸び(%)を、標線25mm、引張速度500mm/分で測定した。
引張強度10.3MPa以上、引張伸び100%以上のものが要求される性能である。
【0042】
2)耐熱性
158℃×7日後の絶縁体の引張強度と引張伸びを測定し、引張強度残率70%以上、かつ引張伸び残率65%以上を満足するものが要求される性能である。
(UL125℃の加熱老化試験)
【0043】
3)難燃性
ULの垂直難燃試験(VW−1)をおこない、合格したものが要求される性能である。
【0044】
4)電気特性
20℃の水中に絶縁電線50mを1時間または24時間浸漬し、導体と清水の間に500Vの直流電圧を1分間加え、絶縁抵抗を測定し、1km当たりに換算した。換算値が100MΩ・km以上のものが要求される性能である。(JISC3005の絶縁抵抗試験)
【0045】
【表1】
Figure 0004652526
【0046】
表1の結果から、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、アクリルゴム、アクリル酸変性ポリエチレン、ビニルシラン処理水酸化マグネシウムを用いた実施例1、2の絶縁電線は、いずれも、引張特性、耐熱性、難燃性、電気特性が良好であり、特に電気特性に優れることがわかる。
実施例2より、本発明の絶縁電線に用いる組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で適当な樹脂(例えばメタロセンポリエチレン)を配合できることがわかる。
【0047】
一方、アクリル酸変性ポリエチレンの代わりに、無水マレイン酸変性ポリエチレンやエチレン・アクリル酸共重合体を用いた比較例1、2の絶縁電線は、難燃性や電気特性に問題があることがわかる。
【0048】
実施例3、比較例3は、共に、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリルゴム、アクリル酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン、スチレンブロック共重合体、ビニルシラン処理水酸化マグネシウムを用いた例であり、アクリル酸変性ポリエチレンの配合量によって、絶縁抵抗の値が変化することがわかる。すなわち、アクリル酸変性ポリエチレンの配合量が本発明に規定する範囲外である比較例3の電線に比べ、実施例3に示す本発明の絶縁電線は、電気特性が良好であることがわかる。
【0049】
【発明の効果】
本発明の絶縁電線は、優れた難燃性、引張特性、耐熱性および電気特性を有し、かつ、重金属やハロゲン系化合物を用いていないため、埋立、焼却などの廃棄時において、重金属化合物の溶出や、多量の煙、腐食性ガスの発生がない。以上より、本発明の絶縁電線は電気・電子機器の内部配線として好適である。

Claims (3)

  1. エチレン・アクリル酸エステル共重合体(a)および/またはエチレン・酢酸ビニル共重合体(b)20〜80質量%、アクリルゴム(c)10〜40質量%、およびアクリル酸変性ポリオレフィン(d)10〜40質量%を含有し、さらには必要に応じ、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体で変性されたポリエチレン(e)20質量%以下および/またはスチレンブロック共重合体(f)20質量%以下を含有する樹脂混合物100質量部に対して、シランカップリング剤で表面処理された金属水和物(g)150〜250質量部含有する組成物の架橋体で導体が被覆されていることを特徴とする絶縁電線。
  2. 前記エチレン・アクリル酸エステル共重合体(a)が、その構成成分として、アクリル酸メチルを含有することを特徴とする請求項1記載の絶縁電線。
  3. 前記シランカップリング剤で表面処理された金属水和物(g)における金属水和物が、水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1または2記載の絶縁電線。
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