以下、図面を参照して、本発明にかかる紙幣識別装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態にかかる紙幣識別装置の一構成例を模式的に示すブロック図である。図1に示すように、この実施の形態にかかる紙幣識別装置1は、識別対象の紙幣Mを搬送する搬送部2と、搬送部2の入力端に挿入された紙幣Mを検知する紙幣検知部3と、搬送部2による紙幣Mの単位搬送量を検出するタコジェネレータ4と、紙幣Mに光を照射して紙幣Mの透過光量を検出する透過光量センサ5とを有する。また、紙幣識別装置1は、透過光量センサ5によって生成された光量検出信号を増幅する増幅部6と、増幅部6によって増幅された光量検出信号をデジタル変換するA/D変換部7とを有する。さらに、紙幣識別装置1は、金種別の透過光量基準データおよび紙幣識別処理に用いられる金種別閾値データ等を入力する入力部8と、入力部8によって入力された各種データを保存する記憶部9と、紙幣識別処理の結果等を出力する出力部10と、紙幣識別装置1の各構成部を制御するとともに紙幣Mの金種および真偽等を識別する制御部11とを有する。
搬送部2は、識別対象の紙幣Mを搬送する搬送手段として機能する。具体的には、搬送部2は、紙幣の挿入口Eから搬送路2aに挿入された紙幣Mを搬送路2aに沿って搬送する。このような搬送部2は、搬送路2a内の紙幣Mを搬送する無端状の搬送ベルト2bと、搬送ベルト2bによる紙幣Mの搬送力を生成する複数の搬送ローラ2cと、かかる搬送ローラ2cを駆動する駆動部2dとを有する。
搬送ベルト2bは、挿入口Eから搬送路2a内に挿入された紙幣Mを搬送路2aに沿って搬送する。この場合、紙幣Mは、図1に示す搬入方向(紙幣識別装置1内に搬入される方向)または排出方向(紙幣識別装置1から排出される方向)に搬送される。複数の搬送ローラ2cは、かかる紙幣Mの搬送方向(すなわち搬入方向または排出方向)に搬送ベルト2bを循環移動させるとともに、かかる搬送ベルト2bによる紙幣Mの搬送力を生成する。駆動部2dは、制御部11の制御に基づいて、かかる搬送ローラ2cを駆動する。
紙幣検知部3は、例えば赤外光の発光部と受光部とを用いて実現され、挿入口Eから搬送路2a内に挿入された紙幣Mを検知する。具体的には、紙幣検知部3は、搬送路2aの入力端である挿入口Eの近傍に配置され、制御部11の制御に基づいて赤外光を照射し、かかる赤外光の照射領域内に侵入した紙幣Mを検知する。この場合、紙幣検知部3は、かかる紙幣Mを検知した旨を示す検知結果信号を制御部11に送信する。
タコジェネレータ4は、搬送部2による紙幣Mの単位搬送量を検出する搬送量検出手段として機能する。具体的には、タコジェネレータ4は、例えば搬送ローラ2cに配置され、搬送ローラ2cによる搬送ベルト2bの単位循環移動量、すなわち搬送ベルト2bによる紙幣Mの単位搬送量を検出し、かかる紙幣Mの単位搬送量を検出した旨を制御部11の光量演算部11a(後述する)に通知する。この場合、タコジェネレータ4は、紙幣Mの所定の搬送量を検出する毎に、制御部11にパルス信号を送信する。かかるタコジェネレータ4によって2つのパルス信号が出力される間に搬送部2によって搬送された紙幣Mの所定の搬送量が、紙幣Mの単位搬送量になる。なお、かかる紙幣Mの単位搬送量は、紙幣Mをその搬送方向に複数分割して形成される紙幣Mの各分割領域(ゾーン)の幅に相当する。
透過光量センサ5は、透過型光センサを用いて実現され、紙幣Mの搬送方向に沿って紙幣Mに光を照射し、この紙幣Mを透過した光の透過光量を検出する光量検出手段として機能する。具体的には、透過光量センサ5は、紙幣Mの搬送路2aを間に挟んで対向配置される一対の発光部5aと受光部5bとを有する。
発光部5aは、所定の光を発光するLED等の発光素子と所定の駆動回路とを用いて実現される。発光部5aは、搬送路2aに沿って搬送される識別対象の紙幣Mに対し、かかる紙幣Mの搬送方向(例えば図1に示す搬入方向)に沿って所定の光を照射する。この場合、発光部5aは、かかる紙幣Mの搬送方向に沿って紙幣Mに設定される所定の走査ラインLに沿って光を照射する。すなわち、紙幣Mは、搬送部2によって搬送されつつ、かかる走査ラインLに沿って発光部5aからの光を順次透過する。このような走査ラインLは、発光部5aからの光を透過する紙幣Mの光透過ラインであり、紙幣Mをその搬送方向に分割して形成される紙幣Mの全分割領域をこの搬送方向に沿って通過するように設定される。なお、発光部5aによって発光される光は、赤外光、紫外光、および可視光のいずれであってもよい。
受光部5bは、フォトダイオードまたはCCD等の受光素子と所定の駆動回路とを用いて実現され、上述した紙幣Mを透過した光を受光し、この受光した光を光電変換して紙幣Mの透過光量を検出する受光手段として機能する。具体的には、受光部5bは、搬送路2aを挟んで発光部5bに対向するように配置され、かかる発光部5bによって発光された光を受光する。このような受光部5bは、搬送路2aに沿って搬送される紙幣Mを透過した光(すなわち発光部5bからの光)を走査ラインLに沿って受光し、受光した光を光電変換して光量検出信号S1を生成する。この光量検出部S1は、走査ラインLに沿って紙幣Mを透過した光の透過光量として検出した電圧値を示すアナログ信号である。かかる受光部5bによって生成された光量検出信号S1は、増幅部6に入力される。
増幅部6は、受光部5bから光量検出信号S1を受信し、受信した光量検出信号S1を増幅する。かかる増幅部6によって増幅された光量検出信号S1は、A/D変換部7に入力される。A/D変換部7は、増幅部6によって増幅された光量検出信号S1をデジタル変換する。具体的には、A/D変換部7は、増幅部6によって入力された光量検出信号S1を所定間隔でデジタル変換し、かかる光量検出信号S1をデジタル化したA/D変換信号S2を出力する。このA/D変換信号S2は、微小時間当たりに光量検出信号S1によって示される電圧値であるA/D変換値を示すデジタル信号であって、上述した走査ラインLに沿って紙幣Mを分割した場合の紙幣Mの微小領域を透過した光の透過光量(すなわち単位透過光量)を示す。かかるA/D変換部7によって生成されたA/D変換信号S2は、時系列に沿って制御部11に順次入力される。
入力部8は、識別対象の紙幣Mの真偽および金種等を識別するために用いられる各種閾値および透過光量基準データ等を制御部11に入力する。記憶部9は、かかる入力部8によって入力された各種データ等を保存する。例えば、記憶部9は、紙幣の金種別に予め設定された光量基準データ9aと金種別閾値データ9bとを保存する。
なお、光量基準データ9aは、識別対象の紙幣Mの透過光量に対して比較される透過光量基準データであり、紙幣の金種別および挿入方向別にそれぞれ設定した各紙幣の基準透過光量を含むものである。かかる紙幣の金種別および挿入方向別の各基準透過光量は、例えば、金種別および挿入方向別に収集した数百枚分の各紙幣の透過光量データを金種別および挿入方向別にそれぞれ平均化したものである。また、金種別閾値データ9bは、金種別および挿入方向別に区分される各紙幣を識別する紙幣識別処理に用いられる各閾値を含むものである。
出力部10は、識別対象の紙幣Mの識別結果を出力する。このような出力部10は、液晶等のディスプレイまたはLEDを有し、かかる紙幣Mの識別結果を画面表示または可視光の出力(例えば発光パターンまたは発光色)によって示すものであってもよいし、プリンタ等を有し、かかる紙幣Mの識別結果をプリント出力するものであってもよい。
制御部11は、所定の演算処理やプログラムを実行するCPUと、予め各種演算パラメータやプログラムが書き込まれたROMと、演算処理過程の数値や演算パラメータ等を一時的に保存するRAMとを用いて実現される。制御部11は、搬送部2の駆動部2d、紙幣検知部3、タコジェネレータ4、発光部5a、受光部5b、記憶部9、および出力部10の各駆動を制御する。また、制御部11は、紙幣検知部3、受光部5b、増幅部6、A/D変換部7、および入力部8に対し、各種信号の送受信または各種データ等の入出力を制御する。
また、制御部11は、光量基準データ9aに含まれる基準透過光量または金種別閾値データ9bに含まれる閾値を記憶部9から必要に応じて読み出し、識別対象の紙幣Mの真偽および金種等を識別する紙幣識別処理を行う。このような制御部11は、紙幣Mの透過光量等の演算処理手段である光量演算部11aと、紙幣Mの識別処理手段である紙幣識別部11bとを有する。
光量演算部11aは、上述したA/D変換部7によって順次入力されるA/D変換信号S2をもとに、紙幣Mの各ゾーン(すなわち紙幣Mの搬送方向に複数分割される紙幣Mの各分割領域)の透過光量を算出する。また、光量演算部11aは、かかる紙幣Mのゾーン毎に、この紙幣Mの透過光量と光量基準データ9aに含まれる基準透過光量との差(すなわち透過光量差)を算出する。光量演算部11aは、かかる紙幣Mの全ゾーンの透過光量差を積算し、かかる紙幣Mの全ゾーンにおける透過光量差の合計値である総透過光量差を算出する。かかる光量演算部11aは、このような演算処理を紙幣の金種別および挿入方向別に順次行う。
紙幣識別部11bは、かかる光量演算部11aによって算出された紙幣Mの総透過光量差をもとに、この紙幣Mの真偽および金種等を識別する紙幣識別処理を行う。この場合、紙幣識別部11bは、かかる紙幣Mの総透過光量差と金種別閾値データ9bに含まれる各閾値とを順次比較し、かかる比較処理の結果をもとに、この紙幣Mの真偽と金種と挿入方向とを識別する。具体的には、紙幣識別部11bは、かかる紙幣Mの総透過光量差が金種別閾値データ9bのうちのいずれかの閾値以下である場合、この閾値に特定される金種および挿入方向の紙幣Mであると識別する。一方、紙幣識別部11bは、金種別閾値データ9bのうちのいずれの閾値に比しても紙幣Mの総透過光量差が大きい場合、この閾値に特定される金種および挿入方向のうちの少なくとも一つが異なる紙幣Mであると識別し、または、この紙幣Mが偽の紙幣であると識別する。
つぎに、紙幣の金種別および挿入方向別に光量基準データ9aに含まれる基準透過光量について説明する。図2は、光量基準データ9aに含まれる基準透過光量の一例を示す模式図である。図3は、紙幣識別装置1の搬送路2aに挿入される紙幣の挿入方向を説明するための模式図である。なお、以下では、真の紙幣MTの一例として日本の千円札を挙げて基準透過光量および紙幣の挿入方向について説明する。
図2に示すように、日本の千円札に例示される真の紙幣MTは、挿入方向A1に沿って紙幣識別装置1の搬送路2a内に挿入される場合、その正向きの表面に向かって左側から長手方向(すなわち紙幣の搬送方向)に例えば16等分に分割される。かかる紙幣MTの各ゾーンZ1〜Z16の幅は、上述した紙幣の単位搬送量に相当し、例えば10mm以下である。この場合、かかる紙幣MTの光透過ラインである走査ラインLは、紙幣MTの搬送方向に沿ってゾーンZ1〜Z16を順次通過するように設定される。
このように紙幣MTに設定した走査ラインLに沿って紙幣MTに光を照射し、かかる走査ラインLに沿って紙幣MTを透過した光の透過光量をゾーン毎に検出する。具体的には、かかる紙幣MTのゾーンZ1〜Z16の各透過光量を検出する。このようなゾーン毎の各透過光量を例えば数百枚の紙幣MTについて同様に検出し、かかる数百枚分の紙幣MTの透過光量をゾーン毎に平均化する。
このようにして、例えばプロファイルB2によって示される紙幣MTの基準透過光量データを取得できる。かかるプロファイルB2は、図2に示すように、挿入方向A1に沿って搬送路2a内に挿入される千円札(挿入方向A1の千円札)のゾーン番号nに対応して基準透過光量K1〜K16を示す。かかる基準透過光量K1〜K16は、挿入方向A1の千円札のゾーンZ1〜Z16の各基準透過光量である。
ここで、紙幣MTの走査ラインLは、紙幣識別装置1の搬送路2a内に紙幣MTを挿入する場合の紙幣MTの挿入方向に対応して、紙幣MTに対する相対的な方向および位置を変化させる。図3に示すように、紙幣面の表裏別に異なる紙幣MTの4種類の挿入方向として、例えば、正向きの表面に向かって左側から搬送路2a内に挿入する挿入方向A1と、正向きの表面に向かって右側から搬送路2a内に挿入する挿入方向A2と、正向きの裏面に向かって左側から搬送路2a内に挿入する挿入方向A3と、正向きの裏面に向かって右側から搬送路2a内に挿入する挿入方向A3とが挙げられる。紙幣MTの走査ラインLは、かかる紙幣MTの挿入方向A1〜A4に対応して紙幣MTに対する相対的な方向および位置が異なるものである。このことは、識別対象の紙幣Mに設定される走査ラインLについても同様である。すなわち、識別対象の紙幣Mの走査ラインLは、かかる紙幣Mの挿入方向A1〜A4に対応して紙幣Mに対する相対的な方向および位置が異なる。
したがって、かかる紙幣MTの各ゾーンの基準透過光量として、上述した挿入方向A1の紙幣MTの基準透過光量K1〜K16の他に、挿入方向A2〜A4の各紙幣MTのゾーン毎の基準透過光量を取得する。かかる挿入方向A2〜A4の各紙幣MTのゾーン毎の基準透過光量は、上述した基準透過光量K1〜K16と略同様の方法によって取得できる。かかる挿入方向A1〜A4の各紙幣MTのゾーン毎の基準透過光量は、例えば千円札に関する基準データとして光量基準データ9aに含まれ、かかる光量基準データ9aの一つとして制御部11に保持管理される。
なお、かかる光量基準データ9aに含まれる基準透過光量は、上述したように千円札を例示して説明したが、これに限らず、所望の紙幣に関するものであってもよい。例えば、紙幣識別装置1が日本の紙幣(日本銀行券)を識別するものである場合、かかる光量基準データ9aは、挿入方向A1〜A4の新旧千円札のゾーン毎の基準透過光量と、挿入方向A1〜A4の二千円札のゾーン毎の基準透過光量と、挿入方向A1〜A4の新旧五千円札のゾーン毎の基準透過光量と、挿入方向A1〜A4の新旧一万円札のゾーン毎の基準透過光量とを含むものであればよい。かかる日本の紙幣に関する各基準透過光量は、上述した紙幣MT(例えば千円札)の場合と同様に取得することができ、例えば、紙幣の挿入方向別(上述した4種類の挿入方向A1〜A4)および金種別(新旧一万円札、新旧五千円札、二千円札、および新旧千円札の合計7種類)に28種類になる。
つぎに、紙幣の金種別および4種類の挿入方向別に金種別閾値データ9bに含まれる金種別閾値について説明する。図4は、紙幣の4種類の挿入方向別および金種別に設定される金種別閾値を説明するための模式図である。なお、以下では、識別対象の紙幣Mの一例として日本の千円札を挙げて金種別閾値の設定について説明する。
金種別閾値データ9bには、上述したように、紙幣の金種別(例えば新旧一万円札、新旧五千円札、二千円札、および新旧千円札)および挿入方向別(例えば挿入方向A1〜A4)に設定される紙幣識別処理の複数の閾値、すなわち複数の金種別閾値が含まれる。この場合、複数の金種別閾値は、制御部11によって紙幣の金種別および挿入方向別に保持管理される。かかる金種別閾値は、上述した光量基準データ9aに含まれる金種別および挿入方向別の各ゾーンの基準透過光量と紙幣Mの各ゾーンの透過光量とを用いて算出される総透過光量差△Xに対する閾値である。
なお、この総透過光量差△Xは、紙幣の金種別および挿入方向別に光量演算部11aによって算出される紙幣Mの各ゾーンの透過光量差の合計値であり、識別対象の紙幣Mの各ゾーンの透過光量Dnと基準透過光量Knとを用いて次式(1)によって表される。
△X=|D1−K1|+|D2−K2|+|D3−K3|+…+|Dn−Kn|・・・(1)
ここで、かかる総透過光量差△Xは、紙幣識別装置1に挿入された紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせと基準透過光量Knによって特定される紙幣の金種および挿入方向の組み合わせとが一致する場合、零値近傍の低値になる。これに対し、かかる総透過光量差△Xは、この紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせと基準透過光量Knによって特定される紙幣の金種および挿入方向の組み合わせが一致しない場合、または、この紙幣Mが偽の紙幣である場合、金種および挿入方向が一致する場合に比して著しく大きな値になる。
すなわち、図4の曲線C1に示すように、総透過光量差△Xに対する紙幣Mの度数分布は、基準透過光量Knによって特定される金種および挿入方向の組み合わせと紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせとが一致する場合、総透過光量差△Xの零近傍の低値側に偏る。これに対し、基準透過光量Knによって特定される金種および挿入方向の組み合わせと紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせとが一致しない場合、または、紙幣Mが偽の紙幣である場合、総透過光量差△Xに対する紙幣Mの度数分布は、図4の曲線C2に示すように、上述した曲線C1に示される度数分布に比して高値側に偏る。
具体的には、紙幣Mが例えば挿入方向A1の千円札(真券)であり、上述した図2のプロファイルB2に示される千円札の基準透過光量K1〜K16を用いて総透過光量差△Xを算出した場合、かかる総透過光量差△Xに対する紙幣Mの度数分布は、図4の曲線C1に示すように低値側に偏る。これに対し、かかるプロファイルB2に示される千円札の基準透過光量K1〜K16を用いた場合であって、紙幣Mが挿入方向A1の千円札(真券)以外、すなわち、挿入方向が異なる千円札、一万円札等の金種が異なる紙幣、または偽の紙幣(例えば偽の千円札)であれば、かかる総透過光量差△Xに対する紙幣Mの度数分布は、図4の曲線C2に示すように高値側に偏る。
この場合、挿入方向A1の千円札(真券)の金種別閾値Th1は、図4に示すように、曲線C1によって示される紙幣Mの度数分布と曲線C2によって示される紙幣Mの度数分布との間、すなわち、曲線C1の度数分布範囲に対応する総透過光量差以上であって曲線C2の度数分布範囲に対応する総透過光量差未満である範囲内に設定すればよい。このように金種別閾値Th1を設定した場合、紙幣Mの総透過光量差△Xがこの金種別閾値Th1以下であれば、この紙幣Mは、この金種別閾値Th1によって特定される挿入方向A1の千円札である。一方、紙幣Mの総透過光量差△Xがこの金種別閾値Th1に比して大きい場合、この紙幣Mは、この金種別閾値Th1によって特定される挿入方向および金種の組み合わせに一致しない紙幣、または偽の紙幣である。
このような総透過光量差△Xに対する金種別閾値は、他の挿入方向および金種の紙幣についても、上述した挿入方向A1の千円札(真券)の金種別閾値Th1の場合と同様に、総透過光量差に対する紙幣の度数分布を用いて設定することができる。このように紙幣の挿入方向別および金種別に設定された複数の金種別閾値は、上述した金種別閾値データ9bとして制御部11に保持管理される。この場合、かかる複数の金種別閾値は、上述したと基準透過光量と同様に、例えば紙幣の挿入方向別(上述した4種類の挿入方向A1〜A4)および金種別(新旧一万円札、新旧五千円札、二千円札、および新旧千円札の合計7種類)に28種類になる。
つぎに、識別対象の紙幣Mの金種、真偽、および挿入方向を識別する制御部11の動作について説明する。図5は、挿入口Eから挿入された紙幣Mを識別するための処理手順を例示するフローチャートである。図5に示すように、制御部11は、まず、挿入口Eから搬送路2a内に紙幣Mが挿入されたか否かを判断する(ステップS101)。
具体的には、制御部11は、挿入口Eから搬送路2a内に挿入された紙幣Mを検知するように紙幣検知部3を制御する。挿入口Eから搬送路2a内に紙幣Mが挿入された場合、紙幣検知部3は、この挿入された紙幣Mを検知し、かかる紙幣Mの検知結果信号を制御部11に送信する。制御部11は、かかる紙幣Mの検知結果信号を受信した場合、かかる紙幣Mの挿入を検知し(ステップS101,Yes)、挿入口Eから搬送路2a内に紙幣Mが挿入されたと判断する。
その後、制御部11は、この挿入された紙幣Mを搬入するように搬送部2を制御する(ステップS102)。この場合、搬送部2の駆動部2dは、制御部11の制御に基づいて、この紙幣Mを搬送路2aに沿って搬入方向(図1を参照)に搬送するように搬送ローラ2bを循環移動させる。
一方、制御部11は、かかる紙幣Mの検知結果信号を受信しなければ、かかる紙幣Mの挿入を検知せず(ステップS101,No)、挿入口Eから搬送路2a内に紙幣Mが挿入されていないと判断する。この場合、制御部11は、かかる紙幣Mの検知結果信号を受信するまでステップS101を繰り返す。
つぎに、制御部11は、搬送路2aに沿って搬入方向に搬送される紙幣Mが透過光量センサ5に到達したか否かを判断する(ステップS103)。具体的には、紙幣Mは、搬送部2によって搬送されつつ、透過光量センサ5内に搬入される。制御部11は、かかる透過光量5の発光部5aおよび受光部5bを制御する。この場合、発光部5aは、受光部5bの受光領域に向けて所定の光を発光し、受光部5bは、かかる発光部5aからの光を受光するとともに、この受光した光の光量を検出する。かかる受光部5bによって検出された光量は、かかる発光部5aから直接受光した光を光電変換して生成される光量検出信号によって制御部11に通知される。ここで、紙幣Mが発光部5aからの光の照射領域に到達した場合、受光部5bは、発光部5aから直接受光した光の光量に代えて、この紙幣Mを透過した光の透過光量を検出する。制御部11は、かかる受光部5bの光量検出の変化に対応して光量検出信号の電圧値が変化(低下)した旨を確認する。これに基づいて、制御部11は、紙幣Mが透過光量センサ5に到達したと判断する(ステップS103,Yes)。
一方、制御部11は、紙幣Mが発光部5aからの光の照射領域に到達していなければ、かかる光量検出信号の電圧値の変化を確認できない。この場合、制御部11は、紙幣Mが透過光量センサ5に到達していないと判断し(ステップS103,No)、このステップS103を繰り返す。
紙幣Mが透過光量センサ5に到達した場合、制御部11は、上述した単位搬送量の紙幣Mの搬送毎にパルス信号を出力するようにタコジェネレータ4を制御する。タコジェネレータ4は、制御部11の制御に基づいて、紙幣Mの単位搬送量を検出し、この単位搬送量を検出した旨を示すパルス信号を制御部11に送信する。制御部11は、かかるタコジェネレータ4からのパルス信号と上述したA/D変換信号S2とをもとに、この紙幣の各ゾーンの透過光量を取得する透過光量取得処理を行う(ステップS104)。
制御部11は、この紙幣Mの全ゾーンの透過光量を取得完了した場合、この紙幣Mの搬送を一時的に停止するように搬送部2を制御する(ステップS105)。この場合、搬送部2の駆動部2dは、搬送ローラ2cの駆動を停止して、この紙幣Mを搬送路2a内に一時停止させる。
このように紙幣Mを搬送路2a内に一時停止させている間に、制御部11は、この紙幣Mの総透過光量差△Xを金種別および挿入方向別に算出する総光量差演算処理を行う(ステップS106)。そして、制御部11は、このステップS106において算出した紙幣Mの総透過光量差△Xをもとに紙幣Mの金種、挿入方向、および真偽を識別する紙幣識別処理を行う(ステップS107)。
このステップS107の紙幣識別処理において、制御部11は、この紙幣Mの金種および挿入方向を確定できた場合、この紙幣Mをこの金種および挿入方向の紙幣(真券)に確定する。制御部11は、このように紙幣Mを真の紙幣に確定した場合(ステップS108,Yes)、この紙幣Mを受け入れる(ステップS109)。この場合、制御部11は、この紙幣Mの搬入を再開するように搬送部2を制御する。搬送部2は、かかる制御部11の制御に基づいて、搬送路2aに沿って搬入方向にこの紙幣Mを搬送し、例えば自動販売機等の金庫にこの紙幣Mを搬入する。
その後、制御部11は、この紙幣Mの金額を出力するように出力部10を制御する(ステップS110)。この場合、出力部110は、上述したステップS107の紙幣識別処理の結果として、この紙幣Mの金額を表示出力またはプリント出力する。ユーザは、かかる出力部110による表示出力またはプリント出力を視認することによって、挿入口Eから挿入した紙幣Mが真券である旨と紙幣Mの金額とを知ることができる。
一方、制御部11は、上述したステップS107の紙幣識別処理によって紙幣Mを真の紙幣に確定できなかった場合(ステップS108,No)、この紙幣Mに対する紙幣識別処理が全ての金種および挿入方向について処理完了していれば(ステップS111,Yes)、この紙幣Mを偽の紙幣であると識別し、この紙幣Mを返却する(ステップS113)。この場合、制御部11は、この紙幣Mを挿入口Eから排出するように搬送部2を制御する。搬送部2は、かかる制御部11の制御に基づいて、搬送路2aに沿って排出方向(図1を参照)にこの紙幣Mを搬送し、挿入口Eからこの紙幣Mを排出する。
なお、制御部11は、この紙幣Mに対する紙幣識別処理が全ての金種および挿入方向について未だ完了していなければ(ステップS111,No)、この紙幣Mに対する比較データを変更する(ステップS112)。具体的には、この比較データは、上述したステップS106の総光量差演算処理に用いられる各ゾーンの基準透過光量および上述したステップS107の紙幣識別処理に用いられる金種別閾値である。制御部11は、かかる総光量差演算処理を行う際に光量基準データ9aの中から読み出す基準透過光量を他の金種および挿入方向の基準透過光量に変更する。これに対応して、制御部11は、かかる紙幣識別処理を行う際に金種別閾値データ9bの中から読み出す金種別閾値を、この変更した基準透過光量に特定される金種および挿入方向の金種別閾値に変更する。その後、制御部11は、上述したステップS106に戻り、このステップS106以降の処理手順を繰り返す。
つぎに、上述したステップS104の透過光量取得処理について説明する。図6は、透過光量取得処理を達成するまでの処理手順を例示するフローチャートである。制御部11は、上述したように、タコジェネレータ4からのパルス信号とA/D変換部からの7からのA/D変換信号S2とをもとに紙幣Mの各ゾーンZn(n=1,2,3,・・・)の透過光量を取得する。
すなわち、図6に示すように、制御部11は、紙幣Mに形成される各ゾーンZnをそれぞれ特定するゾーン番号nを初期化する(ステップS201)。具体的には、制御部11は、上述したステップS103において紙幣Mが透過光量センサ5に到達したと判断した場合、かかるゾーン番号nを初期化する。この場合、光量演算部11aは、紙幣Mを搬送方向に分割した複数のゾーンのうちの1番目のゾーンZ1(すなわち紙幣Mの挿入方向の先頭ゾーン)を特定するゾーン番号n(=1)に初期化する。
その後、制御部11は、A/D変換部7からのA/D変換信号S2をもとに、紙幣Mの現ゾーン番号nのゾーンZnにおける単位透過光量を順次取得する(ステップS202)。この場合、光量演算部11aは、かかるA/D変換信号S2をもとに、かかる単位透過光量に対応する電圧値であるA/D変換値を抽出し、抽出したA/D変換値をもとに現ゾーン番号nのゾーンZnにおける単位透過光量を算出する。
制御部11は、かかる光量演算部11aの演算処理によって単位透過光量を取得した場合、紙幣Mが1つのゾーン分だけ搬送完了したか否かを判断する(ステップS203)。具体的には、タコジェネレータ4は、上述したように、紙幣Mの1ゾーン分の搬送量に相当する単位搬送量を検出した場合、その都度、かかる単位搬送量を検出した旨を示すパルス信号を制御部11に送信する。制御部11は、かかるタコジェネレータ4からのパルス信号を受信していなければ、紙幣Mの1ゾーン分の搬送が未だ完了していないと判断し(ステップS203,No)、上述したステップS202に戻り、このステップS202以降の処理手順を繰り返す。
このように、制御部11は、紙幣Mの1ゾーン分の搬送が完了するまで上述したステップS202,203を繰り返す。この場合、光量演算部11aは、紙幣Mの1ゾーン分の搬送が完了する(すなわち紙幣Mが単位搬送量だけ搬送される)までに順次入力されたA/D変換信号S2をもとに、現ゾーン番号nのゾーンZnにおける単位透過光量を順次算出する。制御部11は、この紙幣Mの1ゾーン分の搬送が完了するまでに光量演算部11aによって順次算出された複数の単位透過光量、すなわち、紙幣Mの現ゾーン番号nのゾーンZnにおける複数の単位透過光量を取得する。
その後、制御部11は、タコジェネレータ4から上述したパルス信号を受信した場合、かかるタコジェネレータ4からのパルス信号の変化(例えばパルス信号の立ち上がりまたは立下り)をもとに、1ゾーン分の紙幣Mの搬送を完了したと判断する(ステップS203,Yes)。この場合、制御部11は、上述したステップS202,203を繰り返すことによって取得した複数の単位透過光量をもとに、紙幣Mの1ゾーン分の透過光量を取得する(ステップS204)。
具体的には、光量演算部11aは、上述したタコジェネレータ4からのパルス信号によって、この紙幣Mの単位搬送量を検出した旨が通知される。光量演算部11aは、かかるパルス信号によってこの単位搬送量を検出した旨が通知されるまでの間に順次算出した複数の単位透過光量を平均化し、紙幣Mの現ゾーン番号nのゾーンZnにおける透過光量として、かかる複数の単位透過光量の平均値である透過光量Dnを算出する。このようにして、制御部11は、紙幣Mの1ゾーン分の透過光量である透過光量Dnを取得し、得られた透過光量Dnを記憶部9に保存する。
つぎに、制御部11は、かかる紙幣Mのゾーン番号nを更新する(ステップS205)。この場合、光量演算部11aは、紙幣Mの現ゾーン番号nをインクリメント処理することによって、この紙幣Mの現ゾーン番号nを後続のゾーンを特定するゾーン番号に更新する。
その後、制御部11は、紙幣Mの全ゾーンZ1,Z2,…,Znの透過光量を取得完了したか否かを判断する(ステップS206)。具体的には、制御部11は、上述したステップS205において更新したゾーン番号nが紙幣Mのゾーン数量以下である場合、紙幣Mの全ゾーンZ1,Z2,…,Znの透過光量を未だ取得完了していないと判断し(ステップS206,No)、上述したステップS202に戻り、このステップS202以降の処理手順を繰り返す。
このように、制御部11は、紙幣Mの全ゾーンの透過光量を取得完了するまで上述したステップS202〜206を繰り返す。この場合、光量演算部11aは、紙幣Mのゾーン毎に透過光量を順次算出し、この紙幣Mの全ゾーンZ1,Z2,…,Znの透過光量D1,D2,…,Dnを算出完了する。制御部11は、かかる光量演算部11aによって算出された透過光量D1,D2,…,Dnを取得し、得られた透過光量D1,D2,…,Dnを記憶部9に保存する。
その後、制御部11は、上述したステップS205において更新したゾーン番号nが紙幣Mのゾーン数量を超えた場合、紙幣Mの全ゾーンZ1,Z2,…,Znの透過光量を取得完了したと判断し(ステップS206,Yes)、紙幣Mに対する透過光量取得処理を完了し、上述したステップS105に進む。
つぎに、上述したステップS106の総光量差演算処理について説明する。図7は、金種別および挿入方向別に区別される複数種類の基準透過光量のうちの一種類について総光量差演算処理を達成するまでの処理手順を例示するフローチャートである。制御部11は、上述した透過光量取得処理によって取得した紙幣Mの各ゾーンの透過光量D1〜Dnと光量基準データ9aに含まれる金種別および挿入方向別の基準透過光量とを用い、かかる紙幣Mの総透過光量差△Xを算出する。
すなわち、図7に示すように、制御部11は、光量基準データ9aに含まれる金種別および挿入方向別の基準透過光量と紙幣Mの各ゾーンの透過光量とを記憶部9から読み出し、この紙幣Mのゾーン毎に透過光量差を算出する(ステップS301)。この場合、光量演算部11aは、光量基準データ9aに含まれる金種別および挿入方向別の複数種類の基準透過光量のうちの一種類と紙幣Mの各ゾーンの透過光量との差(すなわち透過光量差)を紙幣Mのゾーン毎に算出する。
ここで、かかる一種類の基準透過光量とは、上述した4種類の挿入方向A1〜A4のいずれか一つと複数種類の金種(例えば新旧一万円札、新旧5千円札、二千円札、および新旧千円札の合計7種類の金種)のいずれか一つとによって特定される真の紙幣の各ゾーンの基準透過光量である。言い換えれば、かかる一種類の基準透過光量によって紙幣の金種および挿入方向が特定される。光量演算部11aは、かかる一種類の基準透過光量と紙幣Mの全ゾーンZ1〜Znの透過光量D1〜Dnとをゾーン毎にそれぞれ減算し、かかるゾーン毎の各差の絶対値を紙幣Mの各ゾーンの透過光量差として算出する。
つぎに、制御部11は、かかる光量演算部11aによって算出された紙幣Mの各ゾーンの透過光量差を紙幣Mの全ゾーンZ1〜Znについて合計し(ステップS302)、総透過光量差△Xを取得する。この場合、光量演算部11aは、上述した式(1)に示すように紙幣Mの各ゾーンの透過光量差を全ゾーンZ1〜Znについて積算し、この紙幣Mの総透過光量差△Xを算出する。
かかる総透過光量差△Xは、紙幣の金種別および挿入方向別に光量演算部11aによって算出される値であり、上述したステップS301において用いられた一種類の基準透過光量によって特定される紙幣の金種および挿入方向の組み合わせに対応する。例えば、ステップS301における一種類の基準透過光量が挿入方向A1の新千円札の基準透過光量である場合、ステップS302において算出された総透過光量差△Xは、かかる一種類の基準透過光量によって特定される金種(新千円札)および挿入方向A1に対応する。
その後、制御部11は、上述したステップS302において光量演算部11aに算出された紙幣Mの総透過光量差△Xを記憶部9に保存する(ステップS303)。このようなステップS301〜S302の処理手順によって、制御部11は、紙幣Mに対する総光量差演算処理を上述した一種類の基準透過光量について達成する。
つぎに、上述したステップS107の紙幣識別処理について説明する。図8は、金種別および挿入方向別に区別される複数の金種別閾値のうちの一つについて紙幣識別処理を達成するまでの処理手順を例示するフローチャートである。制御部11は、上述した総光量差演算処理によって算出された紙幣Mの総透過光量差△Xと金種別閾値データ9bに含まれる金種別および挿入方向別の閾値(すなわち金種別閾値)とを用い、かかる紙幣Mの金種、挿入方向、および真偽を識別する。
すなわち、図8に示すように、制御部11は、金種別閾値データ9bに含まれる複数の金種別閾値のうちの一つと上述した紙幣Mの総透過光量差△Xとを記憶部9から読み出し、かかる金種別閾値と総透過光量差△Xとを比較する(ステップS401)。この場合、紙幣識別部11bは、金種別閾値データ9bに含まれる複数の金種別閾値の中から、この紙幣Mの総透過光量差△Xに対応する金種および挿入方向と同一の金種および挿入方向を特定する金種別閾値を選択し、この選択した金種別閾値と紙幣Mの総透過光量差△Xとを比較する。なお、かかる紙幣識別部11bによって選択された金種別閾値は、上述したステップS301において光量基準データ9aの中から選択された一種類の基準透過光量と同一の金種および挿入方向を特定する。
その後、制御部11は、この総透過光量差△Xがこの金種別閾値以下であれば(ステップS402,Yes)、この金種別閾値によって特定される金種および挿入方向を紙幣Mの金種および挿入方向に確定し(ステップS403)、上述したステップS108に進む。この場合、紙幣識別部11bは、上述したステップS401において選択した金種別閾値と紙幣Mの総透過光量差△Xとの比較結果として、この総透過光量差△Xがこの金種別閾値以下である旨を取得する。かかる紙幣識別部11bは、この金種別閾値によって特定される金種および挿入方向の組み合わせが紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせに一致すると判断し、この紙幣Mを真の紙幣であると識別するとともに、かかる金種別閾値と同一の金種および挿入方向の紙幣Mであると識別する。このことに基づいて、紙幣識別部11bは、かかる金種別閾値によって特定される金種および挿入方向を紙幣Mの金種および挿入方向に確定する。
一方、制御部11は、この総透過光量差△Xがこの金種別閾値に比して大きい場合(ステップS402,No)、この紙幣Mの金種および挿入方向に未確定にし(ステップS404)、上述したステップS108に進む。この場合、紙幣識別部11bは、上述したステップS401において選択した金種別閾値と紙幣Mの総透過光量差△Xとの比較結果として、この総透過光量差△Xがこの金種別閾値に比して大きい値である旨を取得する。かかる紙幣識別部11bは、この金種別閾値によって特定される金種および挿入方向の組み合わせと紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせとが一致しないと判断する。
ここで、この金種別閾値と金種および挿入方向の組み合わせが一致しない紙幣Mは、上述した金種別閾値データ9bに含まれる他の金種別閾値によって特定される金種および挿入方向の紙幣または偽の紙幣である。この場合、紙幣識別部11bは、かかる一つの金種別閾値と総透過光量差△Xとの比較結果のみに基づいて紙幣Mの金種および挿入方向を確定することができない。したがって、紙幣識別部11bは、かかる一つの金種別閾値に比して総透過光量差△が大きい場合の紙幣Mについて、その金種および挿入方向を未確定にする。
かかる紙幣識別部11bは、制御部11が上述したステップS106〜S112を繰り返した場合、金種別閾値データ9bに含まれる複数の金種別閾値のそれぞれと紙幣Mの総透過光量差△Xとを順次比較する。紙幣識別部11bは、紙幣Mの総透過光量差△Xが複数の金種別閾値のいずれか一つの金種別閾値以下である場合、この紙幣Mを真の紙幣であると識別するとともに、この金種別閾値に特定される金種および挿入方向の紙幣Mであると識別する。これに対し、紙幣識別部11bは、全ての金種別閾値と紙幣Mの透過光量差△Xとをそれぞれ比較しても紙幣Mを真の紙幣に確定できずに紙幣識別処理を完了した場合、すなわち、紙幣Mの総透過光量差△Xが全ての金種別閾値に比して大きい場合、この紙幣Mを偽の紙幣であると識別する。
つぎに、識別対象の紙幣Mの一例として日本銀行券のうちの新千円札を挙げて、紙幣Mの金種および真偽等を識別する制御部11の動作を具体的に説明する。図9は、識別対象の紙幣Mに一致する金種および挿入方向の基準透過光量を用いて総透過光量差△Xを得る制御部11の動作を説明するための模式図である。図10は、識別対象の紙幣Mと異なる金種または挿入方向の基準透過光量を用いて総透過光量差△Xを得る制御部11の動作を説明するための模式図である。
識別対象の紙幣M(例えば新千円札)は、紙幣識別装置1の挿入口Eから上述した挿入方向A1に沿って搬送路2a内に挿入される。この状態において、この紙幣Mは、挿入方向A1に順次搬送される挿入方向A1の新千円札になる。また、この紙幣Mは、上述したように搬送部2によって搬送されつつ、例えば図9に示すように、その搬送方向(すなわち挿入方向A1)に16のゾーンZ1〜Z16に分割され、かかるゾーンZ1〜Z16を搬送方向に沿って通過するように走査ラインLが設定される。このような紙幣MのゾーンZ1〜Z16の各幅は、搬送部2による紙幣Mの単位搬送量に相当し、例えば、10mm以下であることが望ましい。
かかる紙幣MのゾーンZ1〜Z16は、走査ラインLに沿ってゾーン番号n順に順次、上述した発光部5aからの光を透過する。制御部11は、かかる紙幣MのゾーンZ1〜Z16の各透過光量D1〜D16を取得する。具体的には、光量演算部11aは、上述したタコジェネレータ4からのパルス信号とA/D変換信号S2とをもとに、この紙幣MのゾーンZ1〜Z16の各透過光量D1〜D16をゾーン毎にそれぞれ算出する。かかる光量演算部11aによって算出された透過光量D1〜D16は、例えば図9に示すように、走査ラインL上の各ゾーン(すなわちゾーン番号n)に対して透過光量のプロファイルB1を形成する。
制御部11は、このように取得した紙幣Mの各ゾーンの透過光量D1〜D16と光量基準データ9aに含まれる基準透過光量をと用いて紙幣Mの総透過光量差△Xを算出する。具体的には、光量演算部11aは、光量基準データ9aに含まれる複数種類の基準透過光量の中から、例えば挿入方向A1の新千円札に対応する基準透過光量を選択する。光量演算部11aは、選択した基準透過光量と紙幣Mの透過光量との差(すなわち透過光量差)をゾーンZ1〜Z16のそれぞれについて算出する。そして、光量演算部11aは、このように算出した紙幣Mの各ゾーンの透過光量差を全ゾーンZ1〜Z16について積算し、この紙幣Mの総透過光量差△Xを算出する。
なお、かかる挿入方向A1の新千円札に対応する基準透過光量として、例えば図9に示すように、プロファイルB2によって示される基準透過光量K1〜K16が用いられる。かかるプロファイルB2の基準透過光量K1〜K16は、例えば紙幣の挿入方向A1と金種(新千円札)とを特定するものであって、この紙幣Mの各ゾーンの透過光量D1〜D16にそれぞれ対応する基準データである。この場合、かかる紙幣Mの総透過光量差△Xは、次式(2)によって表される。
△X=|D1−K1|+|D2−K2|+…+|D16−K16| ・・・(2)
ここで、識別対象の紙幣Mが挿入方向A1の新千円札である場合、この紙幣Mの各ゾーンの透過光量D1〜D16を示すプロファイルB1は、図9に示すように、この挿入方向A1の新千円札に対応する基準透過光量K1〜K16を示すプロファイルB2に近い形状(パターン)のものになる。この場合、かかる紙幣Mの総透過光量差△Xは、例えば零値近傍の低い値であり、この挿入方向A1の新千円札に対応する金種別閾値Th1以下になる。
制御部11は、かかる紙幣Mの総透過光量差△Xをもとに、この紙幣Mの金種、挿入方向、および真偽を識別する。具体的には、紙幣識別部11bは、金種別閾値データ9bに含まれる金種別および挿入方向別の複数の金種別閾値の中から、かかる基準透過光量K1〜K16と同一の金種(新千円札)および挿入方向(挿入方向A1)に対応する金種別閾値Th1を選択する。かかる金種別閾値Th1は、紙幣の挿入方向を挿入方向A1に特定するとともに金種を新千円札に特定する。紙幣識別部11bは、かかる金種別閾値Th1と紙幣Mの総透過光量差△Xとを比較し、この総透過光量差△Xがこの金種別閾値Th1以下である旨の比較結果に基づいて、この紙幣Mを真券であって挿入方向A1の新千円札であると識別する。
一方、光量演算部11aによって選択された基準透過光量K1〜K16に対応する金種および挿入方向の組み合わせが識別対象の紙幣Mに一致しない場合、かかる基準透過光量K1〜K16を示す透過光量のプロファイルB3は、例えば図10に示すように、この紙幣Mに関する透過光量のプロファイルB1に近似する部分が殆ど無い異なる形状(パターン)のものになる。なお、かかるプロファイルB3の基準透過光量K1〜K16によって特定される紙幣の金種および挿入方向の組み合わせは、この紙幣Mの金種および挿入方向の組み合わせ(挿入方向A1の新千円札)以外のものであり、例えば、挿入方向A1〜A4の旧千円札、挿入方向A2〜A4の新千円札、挿入方向A1〜A4の二千円札、挿入方向A1〜A4の新旧五千円札、挿入方向A1〜A4の新旧一万円札等である。
ここで、かかるプロファイルB3の基準透過光量K1〜K16と紙幣Mの各ゾーンの透過光量D1〜D16とをゾーン毎に比較した場合、例えばカラーコピーやスキャナ等の高性能化に起因して、かかるゾーン毎の透過光量差に僅少なものが含まれる虞がある。この場合、紙幣Mのゾーン毎に透過光量差と閾値とを比較し、かかる透過光量差の比較結果をもとに紙幣の真偽および金種等を識別することは困難である。
これに対し、本発明の実施の形態にかかる紙幣識別装置1では、光量演算部11aが、上述した式(2)に示すように、かかるプロファイルB3の基準透過光量K1〜K16と紙幣Mの各ゾーンの透過光量D1〜D16との透過光量差をゾーン毎に算出し、算出した各透過光量差を紙幣Mの全ゾーンについて積算して紙幣Mの総透過光量差△Xを算出する。このように各ゾーンの僅少な透過光量差を積算することによって、光量演算部11aは、紙幣の金種および挿入方向の組み合わせ別または真偽別に異なる各紙幣の相違点(例えば透過光量差)を強調することができる。
紙幣識別部11bは、かかる光量演算部11aの演算処理によって強調された紙幣の相違点、すなわち紙幣Mの総透過光量差△Xと金種別閾値Th2とを比較する。紙幣識別部11bは、この総透過光量差△Xがこの金種別閾値Th2に比して大きい旨の比較結果に基づいて、この金種別閾値Th2に特定される金種および挿入方向の組み合わせ以外の金種および挿入方向の紙幣Mであると識別し、または、この紙幣Mを偽の紙幣であると識別する。この場合、かかる紙幣識別部11bによって金種別閾値データ9bの中から選択される金種別閾値Th2は、挿入方向A1の新千円札に対応する金種別閾値Th1と異なるものであり、上述したプロファイルB3の基準透過光量K1〜K16と同一の金種および挿入方向の組み合わせを特定する。
つぎに、本発明の実施の形態にかかる紙幣識別装置1の一応用例を説明する。図11は、本発明の実施の形態にかかる紙幣識別装置が組み込まれた自動販売機の一構成例を模式的に示すブロック図である。なお、図11において、紙幣識別装置1の全構成部のうちの搬送部2、透過光量センサ5、出力部10、制御部11、および挿入口Eが図示され、紙幣識別装置1のその他の構成部は省略されている。
図11に示すように、この自動販売機100は、上述した紙幣識別装置1と、商品群を収納する商品収納部101と、かかる商品群の中から所望の商品を選択指定するためのボタン群102と、ボタン群102によって指定された商品を商品収納部101から取出口103に搬送する販売駆動部104と、商品の代金である紙幣を収納する金庫105と、自動販売機100の各構成部を制御する自販機制御部106とを有する。
かかる自動販売機100に組み込まれた紙幣識別装置1は、挿入口Eから挿入された紙幣Mを金庫105に向けて搬送するとともに、この紙幣Mの金種および真偽等を識別する。かかる紙幣識別装置1は、この紙幣Mを真の紙幣であると識別した場合、この紙幣Mを金庫105に搬入し、この紙幣Mを偽の紙幣であると識別した場合、この紙幣Mを挿入口Eから排出(返却)する。
具体的には、紙幣Mは、自動販売機100の紙幣投入口に該当する挿入口Eから投入(挿入)される。かかる挿入口Eから挿入された紙幣Mは、搬送部2によって搬送されつつ、透過光量センサ5によって各ゾーンの透過光量が検出される。制御部11は、上述したように、かかる紙幣Mの各ゾーンの透過光量を用いて紙幣Mの総透過光量差△Xを算出し、この総透過光量差△Xをもとに紙幣Mの金種および真偽等を識別する。
制御部11は、この紙幣Mが真である旨とその金種とを識別した場合、この紙幣Mの金種を自販機制御部106に通知するとともに、この紙幣Mの識別結果を出力部10に表示させる。自販機制御部106は、かかる紙幣Mの金種を示す旨の通知を受けた場合、ボタン群102を所定の入力受付状態(例えば紙幣Mの金額内の商品を選択指定できる状態)にするとともに、金庫105内への紙幣Mの搬入を一時停止するように制御部11に対して指示する。
その後、ボタン群102の中から所望の商品の選択ボタンが押された場合、この選択ボタンによって選択された商品の指定情報が自販機制御部106に入力される。この場合、自販機制御部106は、かかる商品の指定情報に基づいて販売駆動部104を制御する。販売駆動部104は、かかる自販機制御部106の制御に基づいて所定の商品販売動作を行うものである。具体的には、販売駆動部104は、かかる商品の指定情報によって指定される商品を商品収納部101から取り出し、取り出した商品を取出口103から搬出する。
自販機制御部106は、かかる販売駆動部104の商品販売動作が完了した場合、この紙幣Mを金庫105に搬入するように制御部11に指示する。制御部11は、かかる自販機制御部106からの指示に基づいて、この紙幣Mを金庫に搬入するように搬送部2を制御する。このようにして、この紙幣Mは、商品の代金として金庫105に収納される。
一方、制御部11は、この紙幣Mを偽の紙幣であると識別した場合、この紙幣Mが偽である旨を自販機制御部106に通知するとともに、この紙幣M(偽であると識別された紙幣)を挿入口Eから排出するように搬送部2を制御する。この場合、この偽であると識別された紙幣Mは、搬送部2によって挿入口Eから排出(返却)される。自販機制御部106は、この紙幣Mが偽である旨の通知を受けた場合、ボタン群102を所定の入力禁止状態(例えば商品を選択指定できない状態)にする。このようにして、自販機制御部106は、投入された紙幣Mが偽である場合に商品の販売動作を禁止する。
なお、本発明の実施の形態では、紙幣Mの総透過光量差△Xと比較する金種別閾値を紙幣の金種別および挿入方向別に複数設定していたが、これに限らず、識別対象の紙幣の金種および挿入方向の全組み合わせに共通する一つの閾値(共通閾値)を設定し、この閾値と総透過光量差△Xとを比較してもよい。
この場合、例えば図4に例示した総透過光量差△Xに対する紙幣の度数分布において、低値側に偏った紙幣の度数分布(例えば図4の曲線C1)に対応する総透過光量差以上という条件と、高値側に偏った紙幣の度数分布(例えば図4の曲線C2)に対応する総透過光量差未満という条件とを、紙幣の金種および挿入方向の全組み合わせに共通して満足する範囲内に、かかる共通閾値を設定すればよい。紙幣識別部11bは、かかる共通閾値と紙幣Mの総透過光量差△Xとを比較し、総透過光量差△Xが共通閾値以下である場合、この紙幣Mを基準透過光量に特定される金種および挿入方向の真券であると識別し、総透過光量差△Xが共通閾値に比して大きい場合、この紙幣Mを基準透過光量に特定される金種および挿入方向の組み合わせ以外の紙幣であると識別し、またはこの紙幣Mを偽の紙幣であると識別すればよい。
また、本発明の実施の形態では、識別対象の紙幣Mの一例として日本銀行券を挙げていたが、これに限らず、識別対象の紙幣Mは、ドル紙幣またはユーロ紙幣等の1以上の所望の国の紙幣であってもよい。この場合、1以上の所望の国の紙幣について上述した基準透過光量および金種別閾値をそれぞれ設定すればよい。
さらに、本発明の実施の形態では、上述した紙幣識別装置1を自動販売機に適用した一例を示したが、これに限らず、かかる紙幣識別装置1は、両替機または遊戯装置等の紙幣を投入する各種装置に適用することも可能である。
また、本発明の実施の形態では、搬送方向に分割される紙幣Mの各ゾーンの幅を10mm以下にしていたが、これに限らず、紙幣Mの各ゾーンの幅は、10mm以下であることが望ましいが、紙幣Mを搬送方向に複数分割可能な幅であれば、所望のものであってもよい。また、かかる紙幣Mのゾーン数量は、上述した16ゾーンに限らず、複数であればよいが、16ゾーン以上であることが望ましい。このように紙幣Mをより多くのゾーンに分割することによって、紙幣の金種および挿入方向の組み合わせ別または真偽別に区別される各紙幣の相違点(例えば透過光量差)をより顕著化できるからである。この結果、紙幣Mをより容易に且つ高精度に識別することができる。
以上、説明したように、本発明の実施の形態では、識別対象の紙幣の各ゾーンの透過光量と金種別および挿入方向別の基準透過光量との差(透過光量差)を紙幣のゾーン毎に算出し、かかる透過光量差を紙幣の全ゾーンについて積算した総透過光量差を算出し、この総透過光量差をもとに、この紙幣の金種、挿入方向、および真偽を識別するように構成した。このため、紙幣の各ゾーンの透過光量差に僅少なものが含まれる場合であっても、紙幣の金種および挿入方向の組み合わせ別または真偽別に区別される各紙幣の相違点(例えば透過光量差)を紙幣識別処理に十分な程度に強調することができる。この結果、識別対象の紙幣に対して光透過ラインである走査ラインを容易に設定することができ、多金種の紙幣の金種および真偽等を容易に識別できる紙幣識別装置を実現することができる。